<十五夜満月>今宵、秋桜の丘で月を詠む


<オープニング>


 秋風にそよぐコスモスの丘を照らすのは、見事にまんまるなお月さま。
 そう――今宵は、6年ぶりの十五夜満月。
「わぁっ、すごーい!」
「そうだろう? すげー穴場だろ!」
 道すがらコンビ二で調達した月見団子片手に、恋人へと得意顔をする男は。
 雰囲気に任せ、ふとおもむろに隣にいる彼女の手を取って。
 月に見守られながらこう口を開く。
「なんかさ、一句詠みたくなるような雰囲気だよなー」
「一句? 詠めるの?」
「ああ、任せとけ! えーっとな……『月の下 これからふたりで なにしよう』、なんてどうだ?」
「やだ、なにそれ、えっち。全然風流じゃないし」
「じゃあ、おまえも詠んでみろよ」
「えっ? んーっとね……『お月さま お団子みたいで 美味しそう』とか?」
「なんだよ、食い物かよ。おまえだって風流じゃないじゃないか」
 そう月の下で、くすくすと笑いあう恋人達。
 そして……ふいに。
 目を閉じたふたりの距離が、完全になくなろうとした――その時だった。
『……あき、のこ……え』
 秋風に乗って聞こえたのは、声。
「えっ」
「だ、誰かいるのかっ?」
 顔を赤らめて咄嗟に離れた恋人達は、驚いたように周囲を見回すも。
 ここには今、やはり自分達の姿だけしかなく。
 いくら見回しても、月の丘に咲くコスモス畑しか見えない。
 気のせいだったのだろうか、と。
 首を傾げつつ、もう一度恋人達が先程の仕切りなおしをしようとした刹那。
『あきの、こえ……いずこに……行きけむ……十五夜の、君……』
 今度は、はっきりと。
 先程と同じ女の声が秋桜の丘に響いたと思った、瞬間。
「う、うわああぁっ!!」
「な、何……きゃあっ!?」
 十五夜満月の下咲いたのは――鮮烈な、赤き血飛沫の華であった。

「皆様、お集まりいただきありがとうございますわ。運命予報、始めますの」
 水無瀬・詩杏(中学生運命予報士・bn0212)はそうペコリとお辞儀し、視えたものを語り始める。
「あるコスモスが咲く丘に、地縛霊の存在が確認されましたの。まだ被害は出てはおりませんが、このまま放置すれば、深夜この場にやって来る恋人さん達が犠牲となってしまいますわ」
 場所は、誰もいない穴場な、秋桜咲く丘にある広い草原。一般人に危害が加わるその前にゴーストの群れを退治して欲しい。
「そしてゴーストの出現条件ですが。お月見を楽しみながら、その場にいる皆様が一句ずつ、月にまつわる俳句を詠むことですの。詠んだ方のみ、地縛霊の特殊空間へ入れますわ」
「ふむ、月にまつわる俳句、か」
 集まった能力者のひとり、墨枝・宗司郎(高校生書道使い・bn0314)の言葉に頷く詩杏。
「ええ。今夜はちょうど十五夜、しかも6年ぶりの満月だそうですの。ですので、皆様で楽し気にお月見をしつつ、お月見した最後に一句ずつ詠んでいけば大丈夫かと」
 俳句とはいっても、月を題材とした五・七・五形式のものでさえあれば。
 特に作法や趣きや内容などは、一切関係ないという。
 ただ、一句詠まない人がいれば、その人はゴーストの特殊空間には入れないということのようだ。
 だからあまり深く考えず、心のままに。
 折角なので、十五夜満月を楽しみつつ、一句詠んでみて欲しい。
「それから皆様が一句詠み終わった後に現れるゴーストは、全部で3体ですの」
 まずは、鮮やかな着物姿の女の地縛霊が1体――便宜上、『待宵』としておこう。
 待宵は、手にした薙刀を大きく振り回し、近くにいる者全てに攻撃を仕掛けてくるのだという。また繰り出される一閃は強烈で、直線状に衝撃波を生んで。ダメージと同時に、マヒも伴うかもしれない。
 そしてさらに、ウサギのリビングデッドが2体。
 少しぴょこぴょこと動きは素早いが。攻撃手段は引っ掻きや体当たり程度しかなく、戦闘能力は高くはないという。大きさは、普通のウサギより気持ち大きい程度である。
「戦闘場所となる地縛霊の特殊空間は、現実と同じようなとても広い秋桜咲く丘の上で、障害物になるようなものはありませんわ。月が綺麗に出ておりますので、月明かりで視界的にも戦闘に支障はないかと。予報視したカップルさんたちは真夜中遅くにやってくるため、暗くなり次第すぐ現場へ向かえば鉢合わせることもなく、穴場な場所ですので他の一般人もおりませんの」

 そこまで説明を終えた後、詩杏は少しだけ、表情を和らげる。
「先程も申しましたが、今宵は6年ぶりの十五夜満月ですの。ゴーストの特殊空間の侵入条件もありますし、折角ですので、戦闘の前にお月見を楽しまれるのもいいのではないでしょうか」
「秋桜咲く草原で、十五夜を眺めながら月を詠む宴、か。黄泉還りを滅することが第一だが、皆で月見というのも悪くないな」
「右京さんがお月見用のお団子などをご用意されるようなので、宗司郎さんもお裾分けして貰えばいいのではと。勿論、散らかしたままにさえしなければ、何か他に買って持ち込んでも大丈夫ですし、一般人はおりませんので使役さんもご一緒に楽しめるかと」
「折角の機会を十分楽しんで、そして黄泉還りもしっかりと滅さなければな」
 そう瞳を細める宗司郎に、詩杏も、ええ、と頷いてから。
「それではゴースト退治、どうぞよろしくお願いいたしますの」
 能力者の皆へと、改めて深々と頭を下げたのであった。

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参加者
ユリア・ガーランド(天上の蒼・b03877)
加賀・功貴(パシクル・b28520)
フィル・プルーフ(響葬曲・b43146)
ファルチェ・ライプニッツ(終わらないお茶会・b46189)
夜科・涼子(蒼穹の乙女・b55281)
王・明花(翠風白華・b61997)
四宮・菊里(軍星・b65501)
小空・睡蓮(ラクシュミーの花弁・b79291)
藤屋・凛(藤猫・b80293)

NPC:墨枝・宗司郎(高校生書道使い・bn0314)




<リプレイ>

●中秋玩月
 今宵の玉兎は、一片の欠けさえも無い美しい満月。
 そんな見事な弧を描く望月の下、ささやかに催されるのは。
 月光の薄化粧仄かな秋桜がさわりと揺れて彩る、十五夜の宴。
 
「よい月を見る事が出来そうですね」
 秋桜の丘からふと宵空を仰いで。
 蒼天を思わせる双眸を細めたユリア・ガーランド(天上の蒼・b03877)に、王・明花(翠風白華・b61997)も頷く。
「天気も良くて。秋桜も綺麗、いい場所ですね」
 今宵の十五夜は、絶好の観月日和。
「リラ、月が綺麗ね」
 フィル・プルーフ(響葬曲・b43146)も真蜘蛛童・爆のリラと共に、月の輝く空を見上げる。
「満月は年に何度もありますのに。どうして……こんなにも特別なものと思えるのでしょう」
 朔から望を経てまた朔に戻る行程を、もう気が遠くなる程に幾度も繰り返しているというのに。
 再び今宵、望と成った月は、観る者をやはりまた魅了する。
 いや……ほんの少しだけ。今宵の満月は、特別。
「6年ぶりの十五夜の満月かぁ……」
 ファルチェ・ライプニッツ(終わらないお茶会・b46189)はそう呟き、まんまるお月様を瞳に映した。
 十五夜のお月見は今までに何度かした事があるが。
 満月の下でというのは、初めて。
(「なのですっごく楽しみですの。だから、思いっきり楽しんじゃいますの♪」)
 そして視線を宴の席へと戻し、笑む。
 加賀・功貴(パシクル・b28520)の敷いた大判の敷物に並ぶは、定番の月見団子や月餅をはじめ、カステラやロールケーキ等の充実した菓子類。
 それに。
「お前ホント好きだよな」
 誰かさんご所望の秋の味覚こと、焼栗も忘れずに。
 そんな功貴の言葉に、にこにこと笑み返す四宮・菊里(軍星・b65501)は。
「折角ですし秋の味覚も一緒に楽しんでみたかったのです」
 ふと手を休め、頂きますと、気が置けぬ先輩へと諸手を合わせた後。
「月夜が凄く絵になっていますよね……墨枝さんもおひとつ如何ですか?」
 十五夜の月見を楽しんでいる墨枝・宗司郎(高校生書道使い・bn0314)へと差し出した。
「有難う、いただこうか」
 秋の味覚に欠かせぬ功貴の焼き栗と。今にも月夜に跳ねていきそうな、兎風に剥いた林檎を。
 そして、まるで目の前に輝く満月のように。
 絵本で見たカステラがまん丸で美味しそうだったから、と。
「ママと一緒にサツマイモのカステラ作ったの。混ぜるのを手伝ったんだよ」
 持参したお手製のサツマイモカステラを振舞うのは、小空・睡蓮(ラクシュミーの花弁・b79291)。
「そのまんまだと手が汚れちゃうから串団子にしてもらったんだ」
 実は一足先に味見してみたのだけれども。
 その時美味しかったから、みんなで食べればもっと美味しくなるよね、と。
 藤屋・凛(藤猫・b80293)も、作って貰った串団子を並べつつ。ひとつ、宗司郎へとお裾分け。
 それからふと、礼を言って串団子を受け取った彼の傍に並ぶそれらを見つめ、呟いた。
「でも、宗司郎お兄ちゃんのお友達が作ったお団子も美味しそうなの……」
 宗司郎が持参したのは、桃・薄緑・白色をした、定番の三色団子。
 可愛らしい兎さんのカタチをした、某人の力作である。
 宗司郎は、沢山こしらえて貰ったので遠慮なく食べてくれと、兎さん月見団子を皆に振舞って。
「食べるのがもったいない位に可愛くて美味しいですね。赤い方らしいお団子です」
 良く知った某友人の相変わらずの料理の腕前にくすりと笑みつつ。ユリアは、口に広がる優しい甘さに数度頷く。
 そして、わくわくしながらもひとつ、桃色兎さん団子を摘んだ菊里のその隣で。
「こんな可愛らしい力作だと勿体無くて中々食べる勇気がっ」
 手の平にちょこんと乗った円らな瞳の兎さんと、じーっと見つめ合う功貴。
「ふふ、実は兎さんお月見団子、とっても楽しみだったんです……♪ 食べてしまうのがもったいない……」
 フィルも、可愛らしい兎さん団子とお見合いしつつも。
「……ってリラ、躊躇なく食べたのね」
 ぷすりと刺して早速もぐもぐ食し、美味しいと体をふりふり揺らすリラの様子に。
 わたくしもいただきます♪ と笑んで、フィルもぱくり。
 皆と開く月夜のお茶会は、紅茶とクッキーで楽しむのもとても素敵だけれど。
「今日は十五夜ですからやっぱりこっちですよね♪」
 ファルチェも、和の趣き漂う兎さん月見団子へと手を伸ばして。
「空気が澄んで、綺麗な月が浮かんだ夜には、とても穏やかな気持ちになれますね」
 夜科・涼子(蒼穹の乙女・b55281)も月見団子を手に。
 月には兎がいるという伝説を思い返しつつ、満月を愛でる。
 まだ日中は残暑が厳しいが。日が落ちると、澄んだ空気が涼をもたらし始める。
 そしてこの季節が好きなのは、自分がこの長月の生まれであるからだろうか、と。
 偶然にも同じ月に誕生日を迎える仲間達を見回し、涼子は青の瞳をそっと細めた。
 ささやかな月下の祝宴。
 お誕生日のお祝い感謝でした&お誕生日の方おめでとうございます、と。
 自らも誕生日を迎えたばかりの明花は、お気に入りの店のものだという栗ロールケーキを皆へと切り分けて。同じ9月が誕生月である菊里やフィルへと差し出した。
 それから全員にケーキが行き届いたことを確認した後。
 明花は宗司郎へと、こんなお願いを。
「墨枝さんお茶淹れるの得意そうかなって。飲んでみたいです」
 宗司郎は明花から茶葉を受け取りつつ、茶は嗜む程度だが良いだろうかと、そう微笑んでから。
 手際良く、沸き立ての湯をまずは急須へ、それを湯呑みへと交互に数度入れた後、湯冷ましへと移して。茶葉を入れた急須にその湯冷ましを投入し、程良く蒸された茶を人数分の湯呑みへと注いでいく。
 刹那秋風に乗るは、耳触りの良い音とほわり繊細で芳醇な茶の香り。
 宗司郎は全員にまず可愛らしい兎さん団子の茶菓子を出した後、淹れた茶を皆へと振舞った。
「美味しいお茶は、お団子の味が更に引立ちます」
 明花は彼の淹れた茶をじっくりと味わい笑みながら、ユリアへと持参した月餅を茶菓子にと渡して。
「にがい〜」
 濃厚で締まった茶の苦味にダウンした睡蓮に、すっきりとしたグリーンティーを差し出すフィル。
「そーいや昔の人は水面や杯に月映して楽しんだりもしてたらしーな」
 そうふと、功貴が目を落とした湯呑みの中に揺れ映る月は。
 ゆらり水鏡に輝く――見事な十五夜満月。 
 そしておもむろに涼子も、宗司郎へと持参していた色紙を渡した。何か一筆、と添えて。
 そんな申し出に、お安い御用だと。
 さらりとはしった彼の筆がしたためるは――『清風明月』。
 気持ちの良い清らかな秋風と明るく澄んだ月の美しい趣、風雅な遊び。
 シンプルに、今の月の宴を文字で表したのだった。
「墨枝先輩、京都の月も素敵って聞くけど、ここの月も素敵でしょ?」
 そんな達筆な書を眺め、微笑む睡蓮。
「それにしても本当に綺麗な月ですの。周りに咲いている秋桜も綺麗ですし、こんなに素敵な場所でお月見できるなんて来てよかったですの」
「十五夜満月、本当に良い月です。眩しい位輝いて真ん丸で心が澄むような」
 秋桜揺れる丘で。皆で愛でる、十五夜満月。
 だが……この場に在るのは、秋桜と月と能力者達だけではない。
 そろそろ――心行くまで楽しんだ満月の宴も、たけなわの頃。

●月詠の宴
 十五夜の宴を締めくくるのは、月を詠む十の俳句。
「夏過ぎて 夜に浮かぶ月 涼しきを運ぶ」
 折角なので自分の名前から漢字を使ってみました、と。そう一句詠んだ涼子に続いて。
 寸時悩んだファルチェも、俳人になったかの様な風流な気分を味わいながらこう月を詠む。
「秋桜を 優しく照らす 秋の月」
 俳句はしっかり勉強済み。えっと……ごーしちご、だよねと、一生懸命指折り数える凛は。
「まんまるの うさぎもはねる 秋の月」
 お月様がまんまるだと、広くてうさぎさんも嬉しいよね、と。
 月の兎を見上げながらも、上手にできたかな……とそわそわ。 
 そんな凛に大きく頷き優しく微笑んでから。
「ともにいくと 月に誓いし 運命(さだめ)のみち」
 自らも月詠む宗司郎。
 未知なる運命の道を、友と共に征き生くと。そう、満ちた月へと誓う。
 睡蓮も両手で文字を数えていきながら。
「手を繋ぎ 母子で歩く 月散歩」
 ママにおねだりして、一緒に手を繋いでパパを駅まで迎えに行くその道すがら。
 見上げたお月様を思い詠った、そんな一句を。
 そして、でもパパに夜歩ダメって怒られちゃう、としょぼんとする睡蓮の頭をそっと撫でてあげた後。
「見上げれば 優しく淡く 月光る」
 ユリアも、ちょっと綺麗すぎたでしょうかと照れつつも、月の句をしたためて。
「名月の 下で輝く 秋桜よ」
 明花も、夜をかけた、そんな一句を。
「秋桜と 皆の笑み咲く 月の宴」
 この清んだ月下に花開くのは血の華ではなく、人の笑顔であって欲しいと。
 菊里の願いが紡がれれば。
「月明かり 照らすは皆の 先行きを」
 誕生日を迎える者も多い仲間達の、先良い1年を月明かりに願う功貴。
 そして、リラや皆をそっと見回した後。
「欠け満ちて かくもあれかし 月の環に」
 フィルの最後の一句が、月の環の様に結ばれたこの縁を詠う。
 縁を紡いで輪になった皆と、また月明かりの下でこうして会えると素敵だと。
 そう、笑んでから。
「きっと、待ち人はわたくし達ではないのでしょうけれど……お迎えに上がりましょう」
 ふいに巻き起こった一陣の風に、ざわりと騒ぎ始めた月下の秋桜を踏みしめる。
『あきのこえ……いずこに、行きけむ……十五夜の君……』
 そして十一番目の句を詠む存在が現れたその時。
 月の宴は、終わりを告げる。

●満月葬送
 はらり涙落つる待宵の瞳に光は在らず、もう恋しい十五夜満月を映すことすら叶わない。
 振るう薙刀は秋桜の花弁を天へと舞わせ、赤き血の華を咲かせんと妖しく閃く。
 だが美しい十五夜満月の下、咲かせるに相応しきはその様なものではない。
「せっかくの月見が台無しです。お帰りいただきましょう」
 月夜に描かれし魔法陣の恩恵を受けたユリアの蒼き雷弾が、時空を歪め地縛霊へと撃ち出されると同時に。跳ねるように天翔けるは、明花のスピードスケッチで成された兎のSD。
「お月見団子を血で汚して粗末にするなんて……! レン、許せない! 兎さんが悪いしちゃめーなの!」
 何となくちょっと違う気もするが。睡蓮も二人と同時に、兎リビングデッドを捉えんと地を蹴る。
 そして、今宵輝く満月も霞むほど華麗に。
「満月も素敵ですけど、三日月だって負けませんの。私の三日月、とくとご覧あれですの♪」
 ファルチェの魔法陣の輝きを宿したクレセントファングが、三日月の弧を見事に描き敵を打って。
 月下に結ばれるは、誓いの赤い糸。
「死がふたりを分かつまで……何度でも紡ぎましょう」
 前へと送り出したリラの傷を癒すフィル。
 刹那、待宵と兎へと同時に叩きつけられるは、それぞれ異なる輝きを宿す強烈な衝撃。
「無粋――なのはお互い様だぜ。この夜に血の華咲かすなんざ、許さねーよ」
 赤き華をこれ以上は咲かせぬと。
 秋桜の花弁を舞わせながら踏み込んだ功貴の牽制の一撃が叩き込まれ、待宵の薙刀を封じれば。
「……哀しいばかりの待宵は、終わりにしましょう」
 少し心は痛むが、手加減はしない。そう妖気を解き放った菊里の金色九尾が幾重にも衝撃を連ね、兎1体を月へと送り還す。
(「凛、初めてのお仕事なの! みんなに負けないくらい、頑張るよ」)
 ちょっと怖いけれども。一人じゃないから大丈夫だよね、と。
 初依頼に臨んで意気込む凛も、もう1体の兎へと目を向けて。
「……ちょっとうさぎさんがかわいそうだけど、このままもダメだもんね」
 ぐっと狙いを定め、宗司郎と共に戦文字を星月夜の空へと成した。
 現世に何の未練があるかは定かではないが。
 残り1体の兎が能力者達の手によって天に召されたのも構わずに、待宵は鋭さを取り戻した薙刀を一心に振り下ろす。
 だが血の華が咲き痺れるような衝撃を生んだのも、ほんの一瞬だけ。
 十五夜満月の見守る中、舞われた涼子の神聖なる舞が仲間達の傷を癒し、血の香りと身体の痺れを浄化する。
 待人が来なかったのでしょうか、と。
 明花は、兎を全て滅し終え、さめざめと涙する待宵へと視線を向けながらも。
「すっぱり忘れて天国でやり直して下さい。こんなに良い月なんですから」
 ユリアや睡蓮の動きと呼吸を合わせ、照る月に輝くスピードスケッチの一撃を飛ばして。
 ファルチェの三日月が再び閃く中、フィルも同時に美しく月に輝くエンゲージリングを掲げる。
「待てど届かぬ人ならば、迎えに行きませんか……?」
 刹那、突き立てられたリラの猛毒の牙と降り注ぐ漆黒の弾丸に、堪らず身を捩る待宵。
 十五夜の月はそれでも尚静かに、ただ天に輝くばかり。
 ……でも。
「今日ならば、月にも手が届きそうですよ」
 十五夜を待つ宵の君へ、月への葬送を。
「俳句もだけど、『葬』って文字もお勉強してきたんだからね!」
「汝に手向けるは『葬』の一文字。滅せよ、黄泉還り!」
 放たれ重なる、二つの『葬』。
 凛と宗司郎の戦文字が、より待宵の鮮やかな着物の袖を大きく振り乱れさせて。
「……さぁ、旅立つには良い夜だ。あんたを繋ぎ止める哀しい鎖、今断ってみせよう」
「貴方が在るべき場所へと向える様に――解放して、差し上げましょう」
 功貴と菊里の放った一撃が、在るべき場所へ還れるようにと。
 繋ぐ未練の鎖ごと、彼女の身体を打ち貫いたのだった。

●月の導
 静かな仲秋の宵が戻った秋桜の丘で。
「ちょっと疲れちゃったけど、お月様とっても綺麗だね」
「折角の十五夜の満月ですもの、思う存分楽しまないと損ですの」
 無事に初依頼を終えた凛はもう一度満月を見上げて。ファルチェやフィルも笑んで頷く。
 月には魔力があると聞くけれども。今宵の月は――魅入られるほどに美しい、十五夜満月。
「こんなに美しい月夜ですから……うふふ」
 何かが迷い出てきても仕方ないのかもしれません、そんなことを思いつつも。
 涼子は、その魂の安らぎを祈りながら、鎮魂の舞を捧げる。
 そして離れて暮らす両親を思い、涙ぐんだ睡蓮の小さな両手をふいに包んだのは。
「ふに……ユリアねね、明花ねね……」
 ユリアと明花の、手の温もり。
 月の宴も……これで、お開きの時間。
 ――願わくは、この月明かりが彼女の導とならん事を。
 そう功貴は、月見団子や秋の味覚を少し、片付け終えた秋桜の丘に最後に供えて。
 その隣で、菊里も十五夜満月浮かぶ宵空を仰ぎ見る。
 どうかあの方が迷わず天へと辿り着けます様に――と。

 6年ぶりの十五夜満月は、待つものがいなくなっても変わらずに。
 秋桜の丘を、ただ静かに照らし続ける。
 あともう少しだけ……今宵の空に。
 兎も跳ねる月への道を、そっと架けるかように。


マスター:志稲愛海 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:9人
作成日:2011/09/21
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