蘇る獣拳! ダンディベア


<オープニング>


 少女が、癖毛のひどい長い銀髪を揺らしながら穴を掘る。
「るー……」
 気だるげな声と共に掘り続ける少女――抗体ゴースト・ルールーの肩が不意に叩かれる。そして、ルールーは小首を傾げて背後を見上げた。
 そこにいたのは熊人間である。熊の頭に鍛え上げられた鋼のような人の肉体、そしてその両拳には無骨なガントレッドに包まれていた。
『…………』
「るー」
 言葉もなく、ルールーがうなずく。どうやら、もう掘らなくていいから――そう告げた……気がしないでもない。
「るるー」
 そのルールーの声に、今度は獣人がうなずいた。そして、踵を返すと地面を強く踏み締め歩き出す。
 その拳に、力がこもる――その眼光とあいまって、見る者に強い決意を感じさせた。

「……今度は熊が復活よ」
 放課後の武道場。八重垣・巴(高校生運命予報士・bn0282)は表情を曇らせ言い捨てた。
「知っている人も多いと思うけど、抗体ゴーストルールーが関係しているわ」
 その山自体、奥まで人が行く事は少ないが、中腹辺りまでには山仕事で登るご老人も多い。このままでは、そのご老人が犠牲になってしまうだろう。
「あなた達には――ここね、ここで待ち伏せて対処して」
 巴がサインペンで丸をするのは、山の一角だ。戦場としては木がいくらかの障害物になる程度だ、その点を注意するだけでいいだろう。
「この熊の獣人なんだけど、前回と同じくその両の拳で攻撃して来るわ。一直線に遠距離まで届く繰り出した拳による衝撃波、遠距離の広範囲を吹き飛ばす気合い、回復と同時に防御力を大きく上昇させる三戦立ちのような構え――衝撃波の方には『追撃』が、気合いには強力な『気絶』の効果があるわ。サイズこそ縮んでいるものの、全体的に強くなっている上に、特に攻撃力が大幅に上昇しているわ、注意して」
 敵はこの獣人一体とルールーのみ。ルールー自体の戦闘能力は高くないので警戒すべきは獣人のみだが――この獣人一体でも、充分な脅威だ。
「敵の数こそ少ないけど、その戦闘能力は侮れないわ。油断すれば返り討ちもあるから、注意してね――大丈夫、あなた達なら出来るって私は信じているわ」
 じゃあ、頑張ってね、と巴は信頼の笑みと共に能力者達を見送った。

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参加者
鴬生・聖雪(春宵に舞う鈴蘭・b20155)
渕埼・寅靖(人虎・b20320)
流茶野・影郎(覆面忍者ルチャ影・b23085)
ユエ・レイン(白の翼と銀の尾と・b27417)
鷹崎・ユリ(あたしのエモノが火を噴くぜ・b42036)
阿頼耶・読魅(黄泉津大姫・b49524)
ナギ・ミサキ(大地に荒ぶる獅咬の拳・b55892)
萱森・各務(遊鬼士・b56350)
ヴィラン・アークソード(昇竜魂絆・b70542)
天狐・玉藻(狐火の遊女・b73770)



<リプレイ>


「ルール―め。今度は熊の妖獣を復活させおったか。まったく、クマったものじゃ」
 阿頼耶・読魅(黄泉津大姫・b49524)の憤懣やるかたない、と言う表情の言葉にその場にいた全員の視線が集中した。
「さて、傷が痛む故、さっさと退治して家に帰るのじゃ」
 しれっと言う読魅に、鴬生・聖雪(春宵に舞う鈴蘭・b20155)が柔らかい笑みと共に言う。
「死者を蘇らせるとは実に不愉快です。例えその力が増したとしても逆に私には再び修羅に飲み込まれる怒りと嘆きに見えていっそ哀れに思えます、今一度安らかにお眠り頂く為にも私なりの戦いを致しましょう」
「やれやれ……一度滅ぼしたゴーストを無理矢理復活させるとは、無粋な輩もいたものだ」
 ヴィラン・アークソード(昇竜魂絆・b70542)がそう溜め息をついた瞬間だ――ヴィランの鋭い視線が森の奥へと向けられた。
 そこにた一体の獣人がいた。鍛え上げられた鋼のごとき人間の肉体。そして、熊の頭を持つそれは、能力者達に気付くとその足を止める。
「……るー」
 その後ろでははねた長い髪を揺らし、獣人にぶつかる直前で何とか立ち止まったルールーの姿がある――そのゴースト達の姿に渕埼・寅靖(人虎・b20320)が腰を落とし構えた。
「覚えているか」
 その短い言葉に、返答などあるはずがない。同じ想いのある流茶野・影郎(覆面忍者ルチャ影・b23085)も小さく苦笑した。
「おいおい、覚えているわけないだろう熊……おや?」
 影郎が言葉の途中で目を丸くする――答えの代わりに獣人がそのガントレッドに包まれた両の拳を握り締め、ゆっくりと身構えたからだ。
 殺気――いや、闘気か? そこに込められた戦意に、かつて妖獣と戦った者の中に懐かしさすらこみ上げる。
「寅靖から話は聞いちゃいたが、まさかあたしも実物と対峙できるとはな……とは言え、ちっと前とは違うか……」
「ルールー……話に聞いてはいたが、厄介な存在だな。だが、こうして蘇った以上今一度眠らせてやる……俺達の拳でな」
 鷹崎・ユリ(あたしのエモノが火を噴くぜ・b42036)がスパナを構え、ナギ・ミサキ(大地に荒ぶる獅咬の拳・b55892)がそのリボルバーガントレッドの拳を獣人と同じように握り締める――理屈ではない、感じる気配が有無も言わせず意識を戦闘へと切り替えさせた。
「やれやれ。ケダモノ相手では妾の色気も通じぬのぅ……しかも獣臭くてかなわぬのじゃ。早く倒して美味い料理でも食べたいものじゃな」
「私も天輪宗に所属する僧侶のひとり。現世に迷い出た哀れな魂を黄泉へと導くのも務め。眠りを妨げられ、無理やり目覚めさせられた哀れな霊たちをふたたび黄泉へと導いてみせますわ!」
 天狐・玉藻(狐火の遊女・b73770)が口の端に笑みを浮かべ言い捨て、萱森・各務(遊鬼士・b56350)が決意を込めて言い放つ。
『――――』
 それに、獣人はその人差し指で指招きした。言葉はいらぬ、ただかかって来い――その鋭い眼光と合わせて、そう語りかけたかのように。
「……背中と拳でしか語れないタイプと、「る」でしか語れないタイプで、よく会話できるって不思議だったんだけど……」
 ユエ・レイン(白の翼と銀の尾と・b27417)は、今納得する。視線が、拳が、背中が――千言万語に勝る一見が存在するのだ、と。
 獣人――否、帰って来たダンディベアとの死闘の幕がここに上がった。


 身構えるダンディベアとスコップを振り上げたルールーに、能力者達はすばやく陣形を整えていく。
 前衛に寅靖と影郎、ユリ、ナギ、中衛に各務とヴィラン、ユエの使役ゴーストであるモーラットヒーローのモルモ、後衛に聖雪とユエ、読魅、玉藻、ジュン、鋭司といった布陣だ。
「ちゃっちゃと消えてもらうぜ」
「集え雪の精。妾の小さき百鬼夜行ども、妾を守るのじゃ!」
 地面を蹴り駆け出したユリがルールーへと迫り、後衛で玉藻がその身に雪をまとう。スコップを構えユリを迎え撃つルールーだが、その反応は遅い。ユリの左右からのスパナがスコップごとルールーを殴りつけた。
「拳の語り合いは前衛のお兄ちゃん達にお任せしておくんだよー」
「ああ、任された」
 ユエが魔弾の射手の魔法陣を描く中、寅靖がダンディベアとの間合いを詰める。虎紋覚醒――その身に虎の縞模様を刻みながら寅靖は互いの間合いで身構えた。
「御仏よ。癒しの奇跡を……」
「成長したルチャリブレを見せよう」
 各務がその蟲笛へと白燐奏甲を施し、影郎が寅靖の横へと並ぶ。一体の熊と二人の虎が静かに相対した。
「はは、あれは……」
 聖雪が白燐蟲を蟲笛に宿しながら笑う――その相対はまさに武の道にいる者の相対だ。一挙一投足が攻防に繋がる視察戦――幼い頃に習った剣と舞にも通じるものがある。
 それを見て、ナギはあえてルールーへと駆け込む――それに加わるには、まずは倒さなくてはいけない相手がいるのだ。
「何の目的があるか知らんが、やっていい事じゃない……覚悟するんだな」
 振りかぶった青龍の力が宿るナギの拳がルールーへと放たれた。その一撃に、ルールーの体がくの字に折れる。フラフラと既にふらつくルールーを視界の隅に収めながらヴィランがその手からタイマンチェーンをダンディベアへと繰り出した。
『――――』
「……ッ……」
 だが、ダンディベアはそれをわずかな手首の返しで逃れる。ジャラン、とタイマンチェーンが砕け散る中、読魅は木の影にコソコソと身を隠した。
「行くのじゃ皆の者! 相手はたった二体ぞよ!」
 読魅の言葉を否定するようにダンディベアが動いた。放たれるのはガントレッドに包まれた鉄塊のごとき拳――その一撃を寅靖は左手で受け止めるように防ぎ。
「くっ――!?」
 その左手が大きく弾かれ、胸元へと拳が突き刺さった。防御など物ともしない、まさに理想のような一撃必倒――正拳突きだ。
 お前達の敵は一体だ――まるでそう言い切るかのような剛拳に、周囲を空気が凍りつく。
「――すぐに行く、待ってろ」
 ルールーのスコップをスパナで叩いて逸らしながらユリが低く言い捨てた。武道に関しては素人だが、ケンカに関しては得意分野だ――だからこそ、理屈ではなく肌で感じる。こいつは危険だ――彼女の勝負勘が、本能が、そう警鐘を鳴らしていた。
 ダンディベアが再び身構える――それに能力者達も弾けたように動き出した。


 ――森の中を、いくつもの激突音が響き渡っていく。
「――ッ!」
 低く踏み込んだ寅靖の紅蓮撃がダンディベアのガントレッドと激突し、火花を散らす。その寅靖の頭上を跳躍した影郎が飛び越え、その右足を振り抜いた。
「やはり強くなってるな」
 それを胸元を浅く切り裂くだけですませたダンディベアに影郎が着地と同時に言い捨てる。そして、左右から挟むようにユリとナギが踏み込んだ。
「悪いが狩りが本業でな」
「こっちにもいるのを忘れるなよ!」
 独自の狩猟体勢から繰り出されるユリの紅蓮撃のスパナが、斜め下からの回し蹴りから浴びせ蹴りへとつなげるナギの龍尾脚が、同時にダンディベアへと放たれる。
 それをダンディベアは一歩前へと踏み込み、片方の手でユリの手首を抑えもう片方の拳でナギの膝をこずきその軌道を逸らした。
 そこへ金色の狐の尾が降り注ぎ、凜とした呪言が紡がれる――玉藻と各務だ。
「敵を貫け、我が九尾よ!」
「不動明王の力を借りて……、魔を滅せん!」
 ダンディベアが顔の前でガントレッドを十字に組む――ギギギギギギギギイン! と玉藻の天妖九尾穿が火花を散らし、各務の呪詛呪言を無言の気合いで振り払った。
『ガ、アアアアアアアアアアアアッ!!』
「――オ、オオオオオオオオオオオオオッ!」
 気合いがそのまま衝撃となり、前衛を巻き込んだ。だが、前衛は一人として倒れない――小揺るぎさえしない。
「確かに以前の気合とは違う! だが……僕達がこれで終わるわけがない」
「骨を何本折り砕かれようと――魂までは折らせてやれんな」
 かつて受けたもの以上の攻撃でも影郎と寅靖の心は折れない。そして、初見であろうとナギもまた折れる訳にはいかなかった。
「何度攻撃を受けても倒れるわけにはいかない。この背中の『獅』の字にかけて!」
 そこにジャラン! と一本の鎖が放たれる。ヴィランのタイマンチェーンが幾重にもダンディベアの右腕へと巻きつき、力強く引かれた。
「悪いが……しばらく俺の相手をしてもらおうか」
「モルモ、お願い」
「もきゅ!」
 そして、重ねるようにユエの蒼の魔弾が放たれ、モルモがナギの傷口をペロペロと舐めて回復させる。ダンディベアの拳が蒼い雷を砕くのを見ながら、聖雪が祖霊降臨でユリを回復させた。
 強い――聖雪はそう心の底から認める。認めるからこそ、相手の強さを否定する想いがこみ上げてくるのだ。
「──舐めてはるんやったら、困りますなぁ。拳振り翳して暴れるだけが修羅の道やおまへんえ? ……命を支えるんも護るんも、ずっとずっと命がけなんどす!」
「そうじゃ、回復は任せておけ。うん」
 木の影に身を隠しながら天の文字を描き回復を飛ばし、読魅が言った。
 それ等を視線だけで見やり、ダンディベアが笑った――気がした。実際にはその表情は一切動いていない。だが、確かにそこに笑みを見た気がしたのだ。
 面白い、と。ならばこそ見せてみろ、と。言葉よりも雄弁に、その漢立ちが語っていた。
 ――能力者とダンディベアの戦いは、足を止めての乱打戦となっていた。
 漢の正拳突きと漢の気合い、という攻撃手段を陣形で最小限度の被害に抑えた能力者達は聖雪や読魅、ジュン、鋭司といった豊富な回復陣に支えられ攻撃を重ねていく。だが、ダンディベアも一歩も退かない。漢立ちで大幅に上昇した防御によって、能力者達の攻撃を数々を受け止め、耐え凌いでいく。
 それに加え、互いの技と技、意地と意地のぶつかり合いとなった。死線への迷わぬ踏み込み、攻防の技、そして込めるべき魂――そのどれもを惜しむ余裕はない。強敵なのだ――あらゆる意味で。
「ぶち抜く!!」
「御崎流・咬牙の構え……お前の拳に俺も全力で応えよう!」
 力任せに薙ぎ払うユリのスパナによる紅蓮撃と右手を上に、左手を下に構えたナギの龍撃砲奥が放たれた。ギィンッ!! とスパナが火花と火の粉を散らし、衝撃波がダンディベアの両腕を軋ませる。その威力に、ダンディベアの動きが一瞬だけ止まる――そこへ、玉藻の天妖九尾穿が各務の呪詛呪言が繰り出された。
「ハヤニエのように、串刺しになるが良いのじゃ!」
「この時を待っていました。不動金縛り法ッ!」
 ザンッ! と狐の尾がその肩口へ突き刺さり、各務の呪詛がダンディベアの体から自由を奪う。動きの鈍くなったダンディベアへとユエがそのマジックロッドを突き出した。
「そこよ!」
 ドンッ! と放たれた時空すら歪める蒼い雷とモルモのVキャリバーがダンディベアの脇腹を撃ち抜き、切り裂いた。その連撃に、初めてダンディベアの巨体が揺らいだ――構えが解けたのだ。
「こっちはあんさんより怖い戦争の修羅場を潜り抜けて来たんや!!」
「決めるがよい!」
 聖雪の祖霊降臨が寅靖を、読魅の戦文字「天」が影郎を回復する――そして、二人が同時に動いた。
「――――」
 寅靖の左手が、ダンディベアの顔の前に突き出される。それは一瞬の目隠しだ――左手を引き戻す動きで寅靖が渾身の紅蓮撃をその胸元へと叩き込み――。
「僕はルチャドール、この拳、この技は戦い忘れた人々の刃なのだから!」
 木をコーナーに見立て、それを足場に真横へと回り込んだ影郎がその右足を振り抜いた。
「……今だ!」
 影郎の言葉に応えるように、一つの人影がそこに飛び込んだ――ヴィランだ。
「貴様の魂、あるべき場所に還してやろう……さらばだ」
 ピキリ、とダンディベアを撫でるように触れたヴィランのさよならの指先がその身を白く蝕んでいく。
「――ッ!?」
 その中で、ダンディベアが動いた。それにヴィランは身構えるが――それ以上、動かなかった。
 その拳は力なく、ヴィランの胸元へ届いただけだ。触れた瞬間、糸が切れたようにダンディベアが崩れ落ちた。
 表情はない。その目も、力なく閉じられていた。だから、その最後まで力強く握られた拳だけが、彼等へと語りかけた……気がした。


「押忍!」
 消えた獣人へとナギがゆっくりと一礼する。そこに込められたのは、武人への敬意だった。
「御仏よ。彼らの魂を導きたまえ……」
 冥福を祈りお経をあげる各務の後ろで、寅靖とヴィランも黙祷を捧げ一礼する。かつてのあの戦いのように、確かにあの拳から受け取ったものがある――それをしっかりと胸へと刻んだ。
「らーめん食べたい」
「……いや、なんでここでラーメンなんだよ」
 思わずこぼした影郎の呟きに、ユリがツッコミを入れる。上がる笑い声に、玉藻が鈴音のような笑い声を漏らすと仲間達へ言った。
「秋の味覚もそろそろじゃ。帰りに近くで食事でもしてゆかぬかえ? せっかく遠出してきたのじゃ、楽しまねばそんであろう?」
 その玉藻の提案に、賛同の声がいくつも上がる。生きる、という事は食べると言う事だ――武の本質が生きるためならば、それも正しい欲求の形なのだろう。
 こうして、十二人の能力者達はその山を後にした。武とは受け継がれ繋がっていくもの――確かに、あの獣人の拳も彼等の武へ受け継がれる事だろう……。


マスター:波多野志郎 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2011/09/23
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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