<リプレイ>
● 神奈川県西部。 ひなびたという表現が似合う、こじんまりとした温泉街の一角に、よく言えば隠れ家的な……有り体に言えばやや閑古鳥が鳴く小さな温泉宿があった。 かつて銀誓館学園の能力者数名が、この宿に出没する地縛霊を退治した事があったのだが、今回、それが抗体ゴーストの手によって復活させられたと言うからさあ大変。 能力者達は再び、近い将来に起るであろう悲劇を未然に防ぐため、この地に赴いたのであった。
一行は旅館に到着すると、休む間もなく早速露天風呂へ。 静寂に包まれる宿に宿泊客が居るかどうかは不明だが、早い内に片付けておくに越したことは無い。 「さて……温泉をゆっくり堪能する前に、不埒な抗体地縛霊をちゃっちゃと片付けましょうか」 脱衣所で着替えながら言うのは、柳生・狼華(雪羅・b62835)。 今回依頼に参加したのは女性ばかりだが、変態地縛霊に備えてエレガントな黒の水着を纏う。 「温泉温泉! リリィ初めて入るのだ♪」 一方で、初めての温泉入浴にテンションを上げているリリィ・ナイアーラトテップ(必殺魔法の料理にゃんこ・b68781)。 水鉄砲にアヒルに、大量の玩具を抱えており、地縛霊の存在自体を忘れていそうだが―― 「……何か忘れてる気がする」 そこは能力者、現場に到着すれば自ずと使命を思い出すもの。 「あ、浮き輪!」 かと思いきや、そんな事も無かった。 「地縛霊とかいうのと戦うのは初めてだけど、こういうのなんだ……ゴーストって、変態が多いのね」 こちらは今回が地縛霊との初戦となる夜明・藍(朔・b82596)。 初っぱなからとんだ地縛霊と対する事になってしまったのは不運というしかなく、やや極端な認識にならないか心配である。 「ルールーももうちょっと復活させるゴースト考えて欲しいんだよ」 柳谷・凪(お気楽極楽あーぱー猫娘・b69015)は敢えて藍の言葉を否定する事もなく、うんうんと頷きながら相づちを打つ。 「このような低俗なゴーストが出るとは、世の中はすっかり様変わりしたものですね。欲望に忠実に……そういうのは嫌いではありませんが」 タオルを纏いつつ、事も無げに言うのは永海・刃月(欠けた月・b82678)。 年齢よりも遥かに達観した彼女にとっては、不埒な地縛霊の欲望も、人の業として見られるのだろうか。嫌悪感よりも余裕を感じさせる物言いだ。 「破廉恥な!! 成敗致す! 復活させたるーるーと同じく、二度と蘇らぬ様徹底的に殲滅してくれよう!」 「えぇ。乙女の珠の肌を覗き、見つかると開き直って迫ってくるとは……そんな不届き者の所には、雪漢女リリカルせつな見参! 乙女の敵は、死あるのみよ!」 対照的に、嫌悪感を露わにしているのが氷丈槍・漸白(ホワイトアウト・b82992)と早乙女・刹那(雪漢女リリカルせつな・b82165)。 女の敵とも言える覗き魔に対しては、ごくごく自然な反応と言えるだろう。 「それにしても、わざわざ女湯を覗かなくても、混浴のある所に行けば目的は達成できるではありませんか? 混浴は男女とも裸で入るものだと教わりましたわ」 と、こちらももっともらしい意見を口にするホムラ・キャラウェイ(赤い処刑マシーン・b74566)。 確かに今回の地縛霊は、男性が混じって居ると出現しなかったり、若い女性オンリーでないと出現しなかったり、何かと注文がある様子。 単に女性の入浴姿を見たいと言うより、覗きという行為に特別な思い入れがあるのだろう。 「よし、これならば邪魔が入る事もあるまい。行くとしようか!」 漸白は「本日貸切」の札がかかっているのを確認すると、一同を振り返る。 いざ戦いのときだ。
● 「広いお風呂って良いね、のびのびできて……」 「あぁぁー……極楽なーのーだー……む、年寄り臭い?」 大きく伸びをしながら、しばし露天風呂を満喫する藍とリリィ。 この旅館では唯一の売りと言って良い露天風呂は、さすがに立派な造り。能力者たちが一斉に入っても全く狭さを感じさせない。 「……覗かれる心配は無い筈なのに、この言い様の無い不安感は一体何なんだろう……?」 他方、水着を身に着けているにも関わらず、きょろきょろと周囲を見回して落ち着かない様子の狼華。 変質者が現れると解っていて、リラックスしろというのも難しい話だが……。 ――がさがさっ。 そんな能力者たちの警戒心に反応してか、怪しげな物音。 見れば、薄暗い草陰の間から、邪悪な2つの眼光がこちらを覗いているではないか。 「……出たな変態っ!!」 待ってましたとばかりに立ち上がり、身構える狼華。 「……フヒッ……バレちゃったかぁ……ピチピチの女の子がたくさんだぁ……」 悪びれる様子もなく、姿を現す中年男。薄ら笑いを浮かべながら、一同を見回す。 「2回死んでまた蘇らんでいいっ!! 今度こそ私がキッチリ地獄に送り返してやるっ!!」 ――バッ! 問答無用とばかりに、狼華の瞳から放たれる呪の力。 「っ……なんだよぉ……痛いじゃないか……見るくらい良いだろぉ? 減るもんじゃなしにぃ」 直撃を受けたはずの男だが、薄笑いを消す事は無く、じりじりとこちらへ近づいてくる。 「どうせ復活するんでしょ? じゃあ減るものでもなし、サクっと消えなさい」 藍が言うか早いか、赤い月の光が降り注ぐ。 「ん〜、なかなか出て来ないからのぼせちゃう所だったよ」 「さっさと倒して温泉楽しむんだよ〜」 その間にも、イグニッションを済ませ臨戦態勢を取る一同。 見れば、スコップを手にした少女のゴースト――変態地縛霊を復活させた張本人も姿を現している。 「あれあれ……どうして隠すんだい? 温泉は裸で入るものだろう……?」 イグニッションにより詠唱兵器で身を包んだ少女達。変態男はダメージを物ともせずに、そんな事をのたまっている。 「破廉恥な奴め、成敗してくれる!」 男のへばりつくような視線に、若干の寒気を覚える漸白。 すぐさま雪の鎧を纏って肌の露出を抑える。 「そんなに乙女の肌が見たいなら……リリカルせつなパンプアップよ!」 逆に、虎紋覚醒によって体内の気を覚醒させた刹那は、水着に覆われたその肉体美を惜しげもなく晒す。 「覗く位ならあたしの肉体美を見なさい! ボディビルポージング基本7種+α! まずはフロントダブルバイセップスッ!」 それどころか、そのマッスルを思い切りアピールし始めたではないか。 「い、いや……少しは隠したり、恥ずかしがってくれないと萌えないっていうか……まぁ、ナイスバルクではあるが……」 これにはさすがの変態男も気圧されている。見せろと言ったり見せるなと言ったり、注文の多い変態だ。 「これから毎日ランプを付けようぜ」 そんなやり取りが成されている間にも、ホムラは持参したライトを点灯。 湯煙の中、いささか尋常とは言いづらい戦いが始まった。
● 「グヘヘ……お嬢ちゃん、良い身体してるねぇ……」 「き、気持ち悪い目で見ないでよ、なんだか色々減ったじゃない!」 心身共にダメージを受けた藍だったが、すかさず極月煌光で反撃に転じる。 「フヒッ……」 もっとも、藍が示した嫌悪の表情も言葉も、男にとってはご褒美らしい。 「どすけべ地縛霊。リリィが成敗してやるのだっ!」 くるくると舞って、仲間の(主に精神的な)傷を癒やすリリィ。 「おぉっと!?」 「「?!」」 そればかりか、回転の勢いで身体に巻いていたタオルがはだけるお約束のハプニングまでも。 鉄壁の湯気バリア発動である。 「どこを見てる、死ね死ね死ね死ねぇ!!」 「お姉ちゃん、援護するんだよー!」 さて、変態男がリリィに気を取られてる隙に、狼華と凪のコンビネーションアタック。 無数の弾幕が降り注ぐ中、黒炎を帯びた七天七刀が男に振り下ろされる。 ――ザンッ! 「ぐはぁぁっ!! ……ひ、人が気を取られている隙に後ろからなんて……」 「よそ見をしている暇はないぞ、次はサイドチェストッ! バックダブルバイセップスッ!」 男が体勢を立て直す暇も与えず、次々とポージングを繰り出す刹那。 足下からのライティングや湯煙も、彼女のステージを彩る特殊効果に思えてくる。 「……」 コメントを失う変態男に、吹き荒れる吹雪。 「一気にいきますわ、刃月さま」 「うふふ……不埒な欲望共々、凍りつくといい……」 これを好機とみたホムラ、刃月が一気に攻勢に出る。 「ぐふぅっ! お、おイタが過ぎるんじゃないか……お嬢ちゃん達……おじさんを怒らせるとどうなるか……」 クロストリガーに月煌絶零が、男の体力を大きく削る。 しかし、男は多少フラつきながらもまだ倒れない。 「温泉で暴れるとどうなるか……教えてあげるよ!」 ――シャッ! 男の手から放たれる無数の何か。それらは、泡を曳きながら地面を滑走してゆく。 「きゃっ?!」 「うにゃー!?」 極度に滑りやすくなった地面に足を取られ、思わず尻餅をつく面々。リリィに至っては勢い余って湯船に転落してしまう。 「ヒャハハー! 良い格好だよ、皆」 「……何よもう!」 慌てて足を閉じながら、怒りを露わにする藍。 「お姉ちゃん大丈夫?」 「えぇ……」 凪の手を借りて立ち上がる狼華。 「これで君たちも解っただろう……僕はこっそり見てるだけで良いから、服を脱いでもう一度お風呂に……あれ?」 勝ち誇った表情で言う地縛霊だったが、能力者達の殺気に満ちた視線が浴びせられている事に気づく。 「覗き見をする破廉恥な奴の末路を教えてやろう……」 「……え?」 耳元で囁かれる言葉、振り向きかけた瞬間―― 「『死』だ」 ――フッ。 漸白の吐息が、男の顔面に浴びせられる。 「ギャアァァァ!!」 凍て付く氷の吐息に、悲鳴を上げてのたうち回る地縛霊。 「今よ!」 怒りを篭めた藍の極月煌光が、間をおかず男を焼く。 「この斬撃で終らせるのだ!」 「変態撲滅斬っ!!」 ――ドシュッ! 狼華の零落白夜と凪の七天七刀が、同時に男の身体を貫く。 「み、見せてくれたって……ぐふっ!」 「成敗!!」 男の禍々しい思念が霧散し、散ってゆく。 「やっと消えてくれたのだ……皆、怪我は無い?」 湯船から這い上がったリリィが、赦しの舞で皆の傷を癒やす。 「さあお嬢さん、お戯れはこれまでですよ」 「……るー?!」 存在感0のまま、退散しようとしていたルールーを呼び止める刃月。 「貴方には散々苦労をかけるわね……」 ――がしっ。 アイスガントレットでルールーの頭をわしづかみにする刹那。 変態ゴーストを復活させてしまった報いか、ルールーはボコボコに葬られたのだった。
● 「こうして見る分には、月も綺麗ね……」 空に浮かぶ月を見上げ、呟く藍。 (「あの変態も、女の子が見たいなら遠くから眺めるだけにしておけば良かったのに」) ふとそんな事も考える。 覗きはれっきとした犯罪だが、開き直って出てこられるのに比べればマシとも思える。 「はぁ……、紅葉を眺めながら温泉に浸かるなんて、本当に最高ですね……」 そんな覗きの脅威も去り、のんびりと湯に浸かる狼華。 ――むにゅ。 「っ?!」 「お姉ちゃんと一緒に温泉入るの久しぶりなのだ〜♪」 背後に回りこんだ凪が、やや大胆なスキンシップ。 「やっぱりお姉ちゃんと温泉来たら一度はやらないとね」 変態地縛霊でなくても、様子が見たくなってしまいそうな展開ではある。 (「ふむむ、周りはみんなお姉さんばかり。胸も大きい人が多いのだ……」) 周囲を見回して、複雑な表情のリリィ。 「リリィもいつかはあれぐらいには……まだ小4だし望みはある! はず、なのだ……」 「なんの望みです?」 「えっ、いや……それにしてもるーるー、なんでよりによってあんなの掘り起こしちゃったのだ」 ホムラの問いかけに、言葉を濁すリリィ。 「うむ。我が肌を見せるのは、殿方では『我が君』のみにしたいものだな」 「へぇ? 氷丈槍さんはそう言う人が居るの?」 「ま、まだ居らぬわ」 刹那の問いかけに、赤面しつつ答える漸白。 「温泉……こういうのも悪くは無いですね。今度は私の可愛い妹と一緒に……ふふ……その日が楽しみです」 ガールズトークに花を咲かせる数人とは少し離れた場所で、打たせ湯を浴びる刃月。 「かつての力とは比べ物になりませんが、これだけ出来れば十分でしょう」 今の自分の力にはまだまだ満足していないが、一先ずの手ごたえを感じている様子。
かくして不埒な地縛霊は再び葬られた。 二度とこのようなゴーストが出現しないとは言い切れないが、彼女達が居る限り、女湯の平和は守られてゆくだろう。
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参加者:8人
作成日:2011/10/31
得票数:楽しい16
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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