【猫の村】祝祭の宵

<オープニング>


「助けて!」
 少女の声は暗闇に吸い込まれる。
 彼と森で別れてすぐに、何者かに襲われてしまった。意識を失い、目を覚ました部屋は丸くて石造りの塔の内部の様だ。
 小さくみゃあと鳴く声に彼女は目をこらす。暗闇に光る双眸はしかし、いつの間にか消えてしまう。
 高窓から射す月光が黒く煤けた壁や焼け焦げた何かの欠片を照らした。

●収穫の宴
 花の香が混じる風に落ち葉が舞う。
 パックは梯子から器用に腕をのばし、祭礼門の花飾りを整えた。
(「……せっかくの祭なのに」)
 パックは下の連中にけどられぬ様に小さくため息を吐いた。領主の城館の庭園は祭の準備をする村の女と手伝いの若い衆で賑わっている。
 もうすぐ今年の収穫の祭が始まる。この城館の庭園は開放されて、村人達は、仮面を被ったり仮装をしてダンスに興じる。庭には篝火がともされ、天幕では飲食物がふんだんにふるまわれるのだ。
 ――そして。
 パックは屋敷の向こうに聳える、古めかしい塔を見つめた。
 『よるべなき塔』と呼ばれるあそこに祝祭の夜は煌々と灯が点り、燃え上がる炎さえみえる。そして祭が終了する夜明け頃には塔もいつのまにか鎮まっていた。
 何でも厄祓いの儀式が行われているらしいが、パックは大した興味も持てなかった。それに普段からあの塔に入れるのは領主様と長老達のみだ。
 だが彼の友人のロビンは妙な好奇心に負けた。侵入を試して捕まったらしいと、今朝ロビンの母ちゃんが泣きながら話してくれた。
(「掟破りの仕置きは地下牢行きだからな」)
 ロビンは多分祭には参加できない。
(「それにへナのヤツも、どこに行っちまったのか……」)
 彼は最近出会った少女のことを考えた。二人は隣町の祭で出会い、ひそかに意気投合したが村の皆には秘密だった……それというのも、この村にはよそ者と結婚してはいけないという不文律があり、深い誼を通じることさえ禁じられているからなのだ。
 ただ、パックやロビンのような若い衆の中にはひそかにこの掟に疑問を持っている者も多くいた。最も成人すればいつのまにか村の因習にくみこまれてしまうのだろうが、少なくとも今のパックはそうではない。
 村では祭だからといって好んでよそ者を招くわけではない。しかし仮面をつけて踊り浮かれるこの日なら、同じような格好のよそ者がまぎれこんでもまず気づかれないだろう。
(「スリルいっぱいへナと楽しんで、できれば自分の気持ちを伝えて……」)
 ところが、時間を打ち合わせる前に彼女と連絡がとれなくなってしまった。
 だがパックは諦めない。約束通りナイトの仮装で、一日中この祭礼門の傍でうろうろ待っているつもりだった。

●ラプンツェル曰く。
「付け加えると、この村は猫村と呼ばれているのよ」
 やたらと猫が多い村なのだという。
「もう検討つくでしょ、魔弾術士達の村なの。一般人は余りよりつかないわ……でもそれと、へナが消えたわけは別」
 この村の長老達は見えざる狂気に犯されている。
「調べたところ、毎年祝祭頃に付近の村や町で失踪事件が起こってる。絶対に何かあるわ」
 ラプンツェルは、申し訳ないがパックの恋人の失踪はよいきっかけだと能力者達に告げる。彼女はさらわれたんじゃないかと思う、と。
「この情報をまずはあなた達に流したのは、村で何が行われているのか探って欲しいからなの。パックをうまく味方につければ、村の情報を得られるんじゃないかしら。そしてもちろんへナを助けて欲しいわ。その事が、村の問題解決の糸口にもなると思うの」
 人狼騎士達が詳細な情報なく村を制圧すれば、無駄な血も流れてしまうかもしれない。村主と長老に対して大人達は従順だから、敵対者とみれば有無を言わさず排除にかかるだろう。説得が通じるのは未成年者だけだ。
「実際、危険な任務だと思うわ。万が一バレた時はまず身の安全を図ってほしい……でも、銀誓館の皆はこういうの得意らしいじゃないの?」
 ラプンツェルは期待の眼差しを向けた。
 そして、放っておけばもっと酷いことになるかもしれないと言う。
「最近では祭だけに捕らわれず『狩』を行っているとの推測もできるの。証拠はまだ掴んでいないけどここ数年、近隣の町や村で行方不明者が増えてる」
 ――最終的に要の領主と長老達さえどうにかすれば、猫村を開放できるのではないか。
 ラプンツェルは一瞬伏せた長い睫を瞬かせ、能力者達をみた。
「ともかくはまず、祭に仮装して潜入し、パックの信頼を得るのはどうかしら。そのあとは……あなた達次第よ」
 彼に尋ねたり、調査すべき事は多いだろう。
 具体的に『長老達』とは誰で、何人なのか。
 祝祭では実際に何が行われているのか、へナを救助する手段は?
 他にも、多分あるだろう。
「知りたい事は多く、時間は少ないけど」
 頼りにしてるわと微笑むラプンツェルの瞳は真剣だった。

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参加者
渕埼・寅靖(人虎・b20320)
静島・茅(果敢な紡ぎ手・b45688)
氷川・小雪(冬の残滓・b46013)
常陸・朝霞(土蜘蛛に新しい風を吹き込んで・b50975)
フェリシア・ヴィトレイ(きまぐれな野良猫・b54696)
ラナ・ララサバル(猫の女王候補・b72122)
犬神・リューシャ(真クルイークヴォルク・b73419)
淳・空(月に願いを・b82500)



<リプレイ>

 銀誓館所属の調査班三名が、小高い丘の上から童話に出てくる様な古い塔を見はるかす。
「あそこね、猫村」
 指さすのは金髪長身の犬神・リューシャ(真クルイークヴォルク・b73419)。
「城館の北に塔、塔の裏手は森だな」
 応えた渕埼・寅靖(人虎・b20320)は髪、瞳、肌色さえ違えてまるで別人だった。
(「囚われのお姫様は塔の中、か……」)
 最後のフェリシア・ヴィトレイ(きまぐれな野良猫・b54696)は金髪青い瞳。欧州人として立派に通る容貌だ。
「騎士の道を開くのがボク達の役目だね。さあ、行こう」

●収穫の祭
 祭礼門をくぐる怪人の黒いマントがゆらりと風に煽られた。寅靖はシルクハットに黒タキシード、顔を覆う仮面。手袋をはめた手で時計を確かめた。フェリシアは目元にシンプルなマスクをつけ、大人しい中世風のドレスを着ている。そしてリューシャはリアルなマスクと毛皮の狼姿で、国籍性別年齢など全く判別しかねた。

 全員で時刻を合わせ、合図用のリボンとパックへの質問内容を確認後、能力者達は調査班、潜入班、接触班に別れて潜入を開始していた。

 午後の村は華やぎ、村人は様々な趣向の衣装をつけ仮面を被っている。
 メイン会場である領主の城館は大きく門を開き、祭に浮かれる村人を大勢のみ込んでいた。ポーチでは音楽が奏でられ、天幕では今の時間、お茶やお菓子が供されているようだ。
「今年の祭はどうですか?」
 黒猫娘が林檎パイを貰い、おばさんにきいた。
「賑わってるね」
 常陸・朝霞(土蜘蛛に新しい風を吹き込んで・b50975)は礼を言って列から離れる。 黒髪を隠す為にウィッグ以外、朝霞の衣装はため込んでいる猫グッズから引っ張り出してきたものだ。彼女は甘い物と猫が大好きなのである。
(「……さすがにネコは食べませんが」)
 猫村と呼ばれるだけあって猫をよく見かける。
 哀の表情の仮面越しに淳・空(月に願いを・b82500)が村を観察する。
『人のみならず、猫の視線にも警戒』
 それは空が自分の作戦の指針としていることだ。彼女は熱い飲み物が入ったカップで手を温め、かぐわしい香りをかいだ。月帝姫として戦った永の日々を思い、辺りを走り回る子らがいずれ見えざる狂気に囚われる宿命を思う。
(「私にどれほどの事ができるかはわからないが、無駄な血を流すことは避けたいな。それにしても恋話とは……来訪者も人間も何時の時代も変わらない、か」)
 そして彼女達とつかず離れずの距離を保ち、やはり暖かいパイの一片を手にした静島・茅(果敢な紡ぎ手・b45688)のグリーンマンが、緑葉の面の奥から塔を見上げた。
(「掟か――うまく二人が結ばれると良いけど、ともあれまずは救出だね」)
 朝霞、空、茅は潜入班だった。祭を楽しみ、村人達に混じって会話に聞き耳を立て、情報を掴むのが任務である。
 同時に接触班にも注意を払っておく。茅は、祭礼門で白いシーツを被ったお化けがナイトに近づくのをみつけた。

●接触
(「ネコの村!? お祭り!? ラナの出番なのにゃ〜♪」)
 ラナ・ララサバル(猫の女王候補・b72122)は踊る仔猫をやりたい気持ちを封じ込めて、まじめに任務中だった。
 小さなシーツお化けはパックの視線を十分に引きつけ、ラナお化けは浮かれた足取りで、パックに近づいた。
「ラナはシーツお化けなのにゃ! 入ってもいいにゃ?」
「んっ、お前、よそ者か? 入れ入れ、食べ放題だぞ。ただしシーツはとるなよ?」
 パックはひそひそ言い……それからちょっと真面目に囁いた。
「……あのな、村の近辺で可愛い娘を見なかったか? 多分姫様っぽい格好してるはずなんだけど」
「知ってるにゃ! ラナはコユキと一緒に来たのにゃ」
「え? コユキ?」
 ふわりと揺れるドレス。顔には仮面。
「こんにちは」
 確かにお姫様姿の氷川・小雪(冬の残滓・b46013)が近づいてきて、パックに話しかけた。
「少々お聞きしたいのですが、このお祭りにはよそ者でも参加して宜しいのでしょうか?」
「……あんたがコユキ?」
「ええ。先程からこちらで待たれていましたので、あなたも誰か外の方をお待ちなのかと」
 パックは瞬きした。
「俺はパック。……まぁ、待ち人はその通りだけど」
 初めて彼の声が翳った。パックの瞳をみつめ、小雪は真摯に言葉を繋ぐ。
「……外の人間をお嫌いでなければ少しお話させて頂けないでしょうか。もしかするとお待ちの方が来られない事と関係あるかもしれません」
「……あんた何か知ってるのか?」
 シーツお化けのラナが楽しそうに二人の周りをふらついている。ラナはそうしながら、うまく辺りを見張っているのだ。小雪も素早く周囲を伺って――少しだけ仮面を動かして素顔をみせた。
 自分の眼差しから真剣さが伝わってくれることを小雪は祈った。
「もし信じて頂けるのでしたら、人目のないところで全てお話しします」

●猫村
 接触班がパックと一緒に歩き去るのを、潜入班は遠目に確認していた。
「うまくいったようだ」
「……そうですね」
 茅と朝霞は談笑のふりで意思疎通。時計を確認すると、再集合の刻限まではまだ時間があった。
 彼等はそぞろ歩きながら村人の会話に注意したが、耳に届くのは陽気な談笑の声ばかりだった。
(「できれば地下牢のありそうな場所に目星をつけたいが……」)
 空は辺りを見回し、祭広場からは死角になる屋敷の裏にぶらぶらと歩いていった。
「ん、あの建物……?」
 空は薔薇園にせり出すように建つ離れを凝視する。
「建物らいしが扉が見当たらないね」
 茅が不思議そうな声を出す。
 離れは四阿ほどの大きさで、一見扉がなく壁に刻印がある。それは魔弾術士が魔弾の射手を唱えて描く、魔方陣によく似ていた。
 建物の方からもっふりした灰色猫がひょろりと現れ、朝霞が近づいてゆく。彼女は猫をみたら撫でておくのだ。
(「本当の猫なのか魔弾術士なのかは分かりませんが……」)
 だがその猫は朝霞が腰をかがめて撫でようとすると、さっと逃げてしまった。
「行こう。そろそろ時間だよ」
 茅が再び時計を見て促した。

●裏森の邂逅
 一方、調査班は『よるべなき塔』の裏手の森に達していた。
 祭礼門から入り、途中でフェリシアがダンスに誘われるも巧く処理し、まず領主の館と庭園、塔を遠目に検分。人よりは猫の視点で村を観察するフェリシアは、魔方陣の離れに目立たぬ小さな扉を見つけた。
「あの離れには猫用の扉しかなさそうだね」
「……まさに猫村だな」
「よそ者には優しくないわね?」
 およその建物配置はすぐにつかめた。城館の横手に祭会場になっている石畳の広場。そこに飲食用の天幕があり、ダンスが行われている。城館の裏手は小さな薔薇園があり、その向こうは芝生が物寂しく広がっている。『よるべなき塔』は芝生の一番奥で、塔の裏手は森だった。

 最初に高台から全体を眺めていた彼等はおよその見当をつけて、村はずれからよるべなき塔のすぐ裏手に回り込んだ。
「このルートを逆に辿って、いざと言うときの脱出路にできるかな?」
 フェリシアが小声で話す。ここからは扉は確認できないが外壁にはあの魔方陣が彫られている。
「まさかまた猫用扉しかないのかしらね」
 リューシャが難しい表情をする。外観を観察すると上の方に窓があり、外階段が外周をぐるりと巡っているのが見える。
「あの階段の途中に扉があるのかもしれないが」
 寅靖のこの疑問は思わぬ危険とひきかえに解消されることになった。
 祭の日頃に行方不明者が出るという情報を、リューシャもフェリシアも忘れてはいなかった。だから、人目につかず塔に入れるような、建物の裏手や周りの森等を重点的に調査したのだが……。カサリと背後で枝が鳴り、リューシャはいきなり肩を叩かれて立ち止まった。
「こんな所で何をしている? お前どこの誰だ? 仮面をとって顔をみせろ」
 村人は幸い一人だけ。祭の仮装にしては違和感のある黒いローブに顔を隠す黒いフード。どちらにも壁面と同じ魔方陣が描かれている。
 そしてみつかったのも一人だった。
 フェリシアは少し離れた木陰で寅靖と視線をかわした。襲われる可能性は考えていたが監視猫がいたとは……事を荒立てれば大騒ぎになって撤退せざるを得なくなるかもしれない。非常時における能力の使用は、個人の判断に任されていた。
 リューシャのクールな声が森に響く。
「私は日本から来た旅行者で、祭りの噂を聞きつけてきたの」
「よそ者か……祭に紛れてこんな所に来るとは。今年は大猟だな」
 リューシャは大人しく男に捕まり、能力者であることを隠し通すつもりなのだ。
 赤いリボンがさりげなく手首で揺れる。男はリューシャを連れて外の階段を昇り、消えた。

●核心
 パックは小雪とラナを目立たない納屋に案内していた。
「ここならしばらくは誰も来ないから大丈夫だ。話を聞かせてもらおうか」
 小雪は頷き、この村の付近で行方不明者が多発している事、自分は仲間と共にその調査に来た事、目的は真相の解明と行方不明者の救出で村に危害を加えるつもりは無い事を告げた。
「行方不明者が多発か……それが本当ならヘナも事件に巻き込まれたかもしれないな。ところで、調査って小雪達は何者なんだ?」
「それは……その」
 小雪はともかく、パック様の敵ではないので仲間に会ってもらえないかと説得した。パックの顔に明らかに迷いが浮かぶが、場の緊張をほぐしたのはラナの歌声だった。ジプシー出の彼女は余所者との悲恋の歌を口ずさんで、言った。
「ラナはこんな唄をいっぱい知ってるにゃけど、そんなことにならなければいいにゃって思ってるにゃ」
 パックは驚いて黙りこみ、再び決心した様に口を開く。
「俺も歌は好きだよ……なんか、怪しいはずだけど悪い人には見えないんだよな。俺、あんたの言う事に興味あるから、仲間の人達に会うよ」
 こうしてラナが一時合流場所に報告に向かい、腕に青リボンを巻いた仲間が次々に集まった。
 朝霞が軽く自己紹介をして隅の壁にもたれる。パックが聞きたがっていた素性については寅靖が包み隠さず伝え、「日本の銀誓館学園」を彼は非常に羨ましく思ったようだ。
 それから茅とフェリシアが再度事件の詳細を説明する。猫村の祭の頃に行方不明者が多く出ている事、そこにヘナも含まれている事。
「ボク達の目的は事件解決、そしてヘナを救出する事。それにはキミの協力が必要なんだ、頼む、力を貸してくれ」
「ヘナが姿を消したのは事実だし、この村で何かが起きているのも確かだ。どうか俺達に力を貸して欲しい、頼む」
 フェリシアが言い、仮面をとった寅靖も誠心誠意頼んだ。
 能力者達の話を聞くうち、パックの中で疑念よりもヘナへの気持ちが勝ったのだろう。彼は頷いた。
「わかった。もし危険があるなら俺はヘナを救いたい――だけど祝祭はあんた達も見ただろう、食って飲んで踊るだけだよ。あとは塔の儀式で厄祓いだと聞いてる。何か塔で焼き捨てるんだと思うけど」
 考え込むパックに、茅が案を出す。
「最後にヘナと会った場所はどこかな? そこで何かみつかるかもしれない」
「裏森だよ、塔側の村境の方」
 顔を見合わせた者達がいた。
「それ……」
「パックを味方と信じて話す」
 フェリシア、寅靖にパックが頷く。
「誓う。信頼は裏切らない」
「リューシャが、まさにその場所で黒ローブにさらわれた」
「多分、作戦をだめにしない為にわざと捕まってくれたんだと思う」
 息をのむ声が聞こえる。ラナが呟いた。
「遅れてると思ったにゃ。そうだったのにゃ……」
「黒ローブ? 魔方陣があるやつなら長老だな、本当に人をさらってたのか」
 呟くパックに寅靖はきっぱりと言った。
「二人を助ける為に聞きたいことがある」
「何でも聞いてくれ」
「長老達や領主の名と性格は?」
「村長は……領主はニクラ様と呼ばれてる。長老席は4で炎の長老が二人と雷の長老が二人。本名や性格は知らない。長老は達者な術の使い手でそれぞれ取り巻きがいる」
「祝祭の内容は聞いたな。日程は?」
 この質問には空も身を乗り出した。
「明日の夜明けが祭の終りだけど実際賑やかなのは真夜中頃までで、儀式の日程はわからないが朝には塔の火も消えてる」
「村人だけの秘密や抜け道、しきたりは?」
「よそ者とは結婚しない、とか誼を通じるなとかな……」
 自嘲気味に言葉を切るパックを茅が励ます。
「私が育った村にも同じような掟があったよ。色々あって、私はダメだったけど、だから君の事は応援したい」
「有難う。……ま、それはおいといて、あの塔に入れるのは領主様と長老だけで、祭の前は近づくのもよくない。魔が集まってくるからだってさ、それを祭の儀式で祓う。俺の親友のロビンってのが掟破りで捕まって地下牢行き。勝手に逃げ出せば家族に迷惑がかかるし、酷い話だ」
 パックは苦々しい表情で皆を見て続けた。
「あと、抜け道は礼拝堂と塔の間にあるが鍵がかかっている。もちろん俺は通ったことない」
 聞けば礼拝堂とは、領主の館の離れのことらしかった。
「近隣での行方不明事件について、祭時に姿が見えない人物がいたか」
 リューシャから託されていた質問に、パックはわからないと答え、沈黙が降りる。
 小雪が静かに尋ねた。
「ロビン様に話を聞く事は可能でしょうか」
「えっ」
「私はロビンが侵入した時間帯を尋ねたいな。地下牢の在り処や塔の構造は知っているか?」
 空も尋ねる。その視線を受けてパックはしばし黙り込んだ。
「地下牢は礼拝堂にある。塔の構造はロビンなら知ってるだろうな」
 パックは言葉を切って考え始めた。
「ロビンは塔に侵入して捕まってそれきり。ただの悪戯にしては酷すぎる罰だと思うが、ロビンが何か見たのなら……行方不明事件が儀式に関係あるなら、考えたくないが奴ら人間を焼……まさか、ヘナ!」
 茅は青ざめたパックに冷静に声をかけた。
「落ち着いて。ナイトなら捕らわれの姫君を助けなくては」
「……ああ。でもあんた達、真相の解明は危険かもしれないよ」
「大丈夫、協力するよ。こう見えても荒事は得意だからね」
「リューシャといったか? 捕まったあんた達の仲間も、ロビンも、口封じに儀式に使われるかもしれない」
 銀誓館の皆は一様にリューシャの身を案じていたが、見方を変えれば期せずして敵の懐に潜入を果たしたのかもしれない。万が一のことがあっても、もしリューシャがヘナ達といるなら必ず時間を稼いでくれるだろう。手遅れにならない内に、吉と出るか凶と出るか、次の一手を打たねばならぬ。
「とにかくロビン様に会ってお話を聞きませんか?」
 小雪がやんわりと促し、パックは立ち上がった。
「わかった。派手に掟を破るしかないな……」
 緊迫した空気の中、パックの不安と迷いが伝わってくる。
 ずっと黙って聞いていた朝霞が、壁を離れてパックに近寄り、そっと言った。
「……大丈夫、何とかしますよ。私たちが……」


マスター:水上ケイ 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2011/11/14
得票数:カッコいい17  知的1  ロマンティック4 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
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