蒼天を切り裂く聲


<オープニング>


 もうすぐ、初夏。
 キャベツの名産で知られるその町では、収穫を前にした農家の者がせわしく働きまわっている。
 町外れに広大なキャベツ畑を持つこの夫婦も、丹精込めて育てたキャベツの出来を見ては微笑みを交わしていた。
「明日には収穫か。どれもいい出来だ」
「雨もよう降ったし、気温も高かったからねえ。玉も揃って最高の出来だよ」
 だが、そんな二人の耳にキーッという耳障りな鳴声が届いた。二人はまたか、と立ち上がって振り返る。最近、山から降りてきた猿の被害に合う農家が急増していた。
 だが、そこにいたのはいつも見かけるような猿ではなかった。
 巨大な腕が振られて、夫の頭が吹き飛ばされる。妻の悲鳴が響いた。けれどそれを上回る甲高い鳴き声がとどろき、それを聞いた女は白目を向いて倒れる。
 異形の生き物は、苦痛に耐えるようにキーキーと鳴き続けた。
 こころよい風の吹く、ある早朝の光景である。

「キャベツ畑に現れる猿型の妖獣。これが今回倒して頂きたいゴーストです」
 教室に集まった能力者達を見渡して、藤崎・志穂(高校生運命予報士・bn0020)は前置きなしに説明へと入った。
 それだけ状況が差し迫っているのだろう、彼女はいつもより険しい表情で告げる。
「未来視によって、農家を営む夫婦が近く犠牲になることが分かりました。場所と時間はこちらです。すぐに急行して、お二人を救って下さい」
 志穂は現場の住所と簡単な地図を添えたメモを差し出す。夫婦はキャベツの収穫を目の前にして、妖獣の犠牲となってしまった。
 いや、なってしまう予定なのだ。
 出現する猿型の妖獣は3体。
 全体的な印象は確かに猿なのだが、大きさは2m近くもある。その両腕はまるでゴリラのように太く、殴打攻撃は強力な一発となるだろう。
 また甲高い鳴声を上げることによって超音波のようなものを発生させ、全体にダメージを与える攻撃を持つ。
「ブラストヴォイスに近い能力、といえば分かりやすいでしょうか。攻撃方法は以上の2つとなります。今から出発すれば、なんとか当日の朝には間に合いますから……まずは農作業をしているお二人を非難させて、それから妖獣の襲撃を迎え打てば良いかと」
 
 ただし、そのまま畑で戦闘を始めてしまってはせっかく収穫を迎えたキャベツが台無しになってしまう。
 できれば畑はあまり踏み荒らさないようにして欲しいと、志穂は遠慮がちに付け加えた。そして、依頼を受けてくれた能力者達を見て励ますように微笑む。
「敵の攻撃力は侮れませんが、油断しなければそれほど手こずる相手ではないはずです。頑張って下さいね」

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参加者
護持・さくら(白き月の黒羽・b00019)
峰連・要(夕紅の片影・b00623)
穂乃村・翠(常磐の符術士・b01094)
七尾・那緒(蒼哭の獅子・b01129)
柊・明(中学生霊媒士・b02174)
神谷・響介(闇夜払う光の導・b02415)
後月・悠歌(銀歌を奏でる紫苑・b02867)
陽山・日明(燃え尽きるほどヒート・b05412)
波多野・のぞみ(高校生白燐蟲使い・b16535)




<リプレイ>

●晴天
 五月も終わりに近づいたある朝のこと。
 空は晴れ渡り、蒼穹の空に真白い雲が幾つかたなびいている。そんな気持ちの良い天気の下で、農家を営む夫婦がキャベツの世話を始めていた。
 一行が駆けつけたのは、まさにその時である。間に合ったようだと息つく暇もなく、穂乃村・翠(常磐の符術士・b01094)はその手に導眠符を取り出した。
「では、いきます」
 それを、彼女はキャベツ畑にしゃがみこむ妻の背中に投げつけた。
「ん……? おい、どうした!?」
 ふらりと倒れこんでしまった妻に、夫が驚いて声をあげる。今だ、とばかりに七尾・那緒(蒼哭の獅子・b01129)は翠と頷きあって二人の前へと駆け出した。イグニッションを済ませてあるが、二人とも洋服型の防具を装備している。詠唱兵器も、翠は術手袋、那緒は布槍をカバンにしまい込んでいるため目を引く心配はないはずだ。
 突然目の前に現れた学生達に、夫は気を動転させたまま尋ねる。
「あ、あんた達は……?」
「ただの通りすがりだよ。そんなことより、早急に休めるところに連れてって介抱しなきゃダメだ」
 那緒は同時に王者の風を発動させて、強引に言う事を聞かせる。のんきに説得や押し問答をしている暇はないのだ。
 早くしないと、この夫婦は妖獣の犠牲になってしまうのだから。
「わ、わわ分かった……」
「ご自宅は? 近くでしたらそこまでお送りします」
 翠に尋ねられて、夫である男は畑の向こうを指差した。それほど遠くない場所に一軒家が立っている。
「よし、じゃあ早くして!!」
 男に有無を言わせず、那緒は眠っている妻の体を背に負った。少し重くて後ろの傾ぐのを翠が支える。
「あ、ああ……こ、こっちだ……!」
 男に案内させて、那緒と翠はいったん畑から離れた。少し離れた場所で待機している仲間に、後は任せたと目配せを送る。
 それを受けて、護持・さくら(白き月の黒羽・b00019)は軽いウインクをしてみせた。夫婦の避難が迅速に済んだおかげで、まだ妖獣が姿を現す気配はない。
「了解っと。さって、敵さんの強襲に備えないとね」
「キャベツは生でもよし、炒めてもよし……お好み焼きにしても美味いからな。荒らさせるわけにはいかん」
 神谷・響介(闇夜払う光の導・b02415)が呟く横で、辺りを警戒していた峰連・要(夕紅の片影・b00623)が山の方を指差して声をあげる。
「来た、あれだよ!」
 がさがさと、草木をかきわけて巨大な猿妖獣が現れた。全部で三匹。彼らは咆哮し、畑へ向かって次々に駆けて来る。
「させるもんか……!」
 柊・明(中学生霊媒士・b02174)が叫んで、構えた蛇鞭を先頭の猿に向かって大きくしならせた。猿妖獣は苦痛に鳴いて、明の方を見る。
(「どこまで出来るか、わからないけど……」)
 能力者として役立ちたいと決心して、明は今ここに立っているのだ。初依頼だとて恐れてはいられない。
「ほら、こっちだよ!」
「ああ、私達が相手だ。かかってこい!」
 後月・悠歌(銀歌を奏でる紫苑・b02867)が念動剣を放ち、陽山・日明(燃え尽きるほどヒート・b05412)はLlamaと名づけた長剣を構える。響介の投げたボールが妖獣のこめかみにぶつかって、てんてんと転がっていった。ダメージにはならないだろうが、注意を引くには十分である。さくらの放つ雷の魔弾が、妖獣の毛皮を焦がした。
 妖獣達は甲高い鳴声をあげて、突撃する方向を変更した。回りくどいことはせず、攻撃を加えてきた能力者達に向かって一直線に襲い掛かる。彼らはそれを受けて、戦いやすい場所まで妖獣を引きつけた。
「お、お願いねコアちゃん」
 漆黒のメイド服を翻して、波多野・のぞみ(高校生白燐蟲使い・b16535)は周囲にリフレクトコアを旋回させる。
 その前に進み出ながら、響介は旋剣の構えを発動させた。氷冴静月と朔月無夜、その二つを構えて妖獣を見据える。
「始めよう。……閉ざされた未来を切り開くために」

●攻防戦
「ここまで大きいと猿って言うよりゴリラ……だねえ」
 目の前に居並ぶ3匹の妖獣を眺めて、悠歌はうーんとうなった。殴って攻撃されないようやや距離を取ってリフレクトコアを呼び出す。
「同感。迷惑な妖獣はさっさと退治しないとね」
 要が頷いて、自分の武器に白燐蟲をまとわせた。そこへ猿妖獣が大地を蹴って襲い掛かる。だが、前衛を務めるさくらがそれを遮った。魔弾の射手で攻撃力をあげたクレセントファングが、鈍い音をたてて妖獣の胸にヒットする。
「ボクの前は抜かさないよ!」
 桜の意匠が施されたナイフを構えたさくらの髪が、風にあおられて宙を舞った。その斜め前方では、日明が放ったフレイムキャノンが妖獣を魔炎で包み込んでいる。妖獣はキィキィと耳触りな声で鳴き、地面の上を転げまわった。
「動物は好きなんだが……妖獣とあっては、いた仕方ない。大人しく眠れ!」
 日明は容赦なく叫んで、次の攻撃へと移る。その長剣にのぞみが白燐奏甲をかけた。旋剣の構えによって気魄が上がっていたところへ、他の能力値も威力を増す。
「が、頑張って下さい……」
 のぞみの応援に頷いて、日明は長い黒髪を翻した。赤茶の瞳が勝気に笑う。
「さて、お前の相手はこっちだぜ」
 残る一匹に対する前衛は響介が請け負った。
「きょーちゃん、無理しないでね」
「ああ、そっちは任せた」
 響介は妖獣の殴打を剣で受け止めて、悠歌に頷く。彼を援護するように、ゴースト合体をした明が雑霊弾を放った。最後方に位置取りをした彼はその背後に畑を守っている。
「えいっ!」
 さくらの蹴りを受けて、妖獣が激しく鳴きわめいた。空を貫くほどの咆哮はやがて、超音波のようなものを発生させて能力者達を襲う。
「うっ……。ったく、うるさい声……!」
 要は思わず両手で両耳を塞いだ。お返しとばかりにこちらはヒーリングヴォイスを歌い、全員の体力を回復させる。
 だが、まるで連鎖するかのように別の妖獣が同じ鳴き声をあげた。一般人であれば死に至る攻撃だ。夫婦を無事避難させることができてよかったと、悠歌はヒーリングヴォイスを歌いながら心で思った。
 悠歌の歌に癒されながら、のぞみは白燐拡散弾で全体にダメージを与えていく。
 攻撃と回復、どちらもバランスよく手が足りている。
 前衛であるさくらと響介、日明が敵の進行を阻み、その後ろに控えたのぞみと要が攻撃を受けた前衛を随時回復。間隙を縫うようにして、後衛からは明の雑霊弾と悠歌の光の槍が敵を貫く。
「ちっ……」
 攻撃を受けた響介が舌打ちをして僅かに下がる。そこへ要が駆けつけて、白燐奏甲で回復させた。
「あと少し……!」
 日明は長剣を振りかざして敵へと踊りかかり、その肩を大きく切り裂いた。雄叫びをあげて妖獣が横倒しになる。
「あと、2匹……」
 明は小さく呟いて、残る妖獣に雑霊弾を放った。大量に積んできた雑霊弾は尽きる様子がない。渾身の攻撃が、妖獣の腹を撃ち抜いた。
 数が減ればその分攻撃が集中する。
 軽い動作で妖獣の拳を避けたさくらは、幾度目かのクレセントファングを相手の体に叩き込んだ。体勢を崩した妖獣へ追い討ちをかけるように、日明の長剣が深々と突き刺さる。悲鳴を無視して悠歌が光の槍を飛ばした。
「生かしてはおけないけど。せめてこれ以上苦しまないように……!」
 リフレクトコアで攻撃力を上げた光の槍はまっすぐに妖獣の眉間に突き刺さる。どさ、と倒れこんだ妖獣の体がさらりと消えた。妖獣は死体など残らない。ようやく苦痛から解放されて、無となるのだ。
「こ、コレで終りです!」
 最後に残った妖獣へ向けて、のぞみが光の槍を繰り出した。彼女の金髪が光に照らされ一層輝きを増す。その手にあるのは暗黒の法則という意味を持つ錫杖。黒いスカートの裾がゆれた。
 既に傷だらけだった妖獣は、更なる痛みに身をよじる。
「悪いが、逃がすつもりはないんでな」
 だが、逃がすまじと日明がフレイムバインディングを発動させる。拘束されて、妖獣が細く鳴いた。
 そこへ振り下ろされる、響介の氷冴静月。
 ……聲が、途切れた。
 最後の妖獣も地面へと倒れ、後には快い風が吹いていく。

●聲は消えて
「……なんとか、無事事件解決できたみたいだね」
 明はほっと息をついて、自分達が守った畑を見渡した。無傷とはいかなかったが、誰の犠牲を出すことなくゴーストを退治できたのだ。まだまだ訓練が必要かな、と呟く彼の後ろから、翠と那緒が駆けつけてくる。
「あら、もう終わってしまってました?」
 間に合わなくてすみませんと謝る翠に、さくらが首を振ってみせる。
「ううん。翠ちゃん達のおかげでおっちゃん達を助けられたんだもん」
「だよね。お疲れ様」
「そっちこそ、戦闘お疲れさん。それじゃあ、最後に二人の様子見てから帰るか」
 相槌をうつ要に那緒も笑う。
 日明は周りを見渡して、戦闘で荒れてしまったところがないか確認をした。畑はもちろん無事。戦闘をした場所は所々地面がへしゃげていたりするが、特に壊れたりした物はない。
「うん、いい感じだ」
 日明は満足げに笑い、他の者の後について畑を後にする。
 夫婦の自宅に着いた時には既に導眠符の効果は切れていて、翠は無理矢理運んだ女性に頭を下げた。
「無理矢理連れ出してしまってすみませんでした。お体は大丈夫ですか?」
「ええ。なんだかご迷惑をかけちゃったみたいでごめんなさいねえ」
「働きすぎじゃないですか? いきなり倒れられたからびっくりしましたよ」
 那緒が言えば、夫婦は「でも、これが私達の仕事だからねえ」と顔を見合わせる。のんきな二人に、のぞみは微笑ましくなって応援の言葉を贈った。
「これからもおいしいキャベツをどんどん作ってくださいね」
 すると、夫婦は嬉しそうな笑顔を浮かべてくれる。彼らはこれからさっそく畑に出て、キャベツの世話をするのだろう。
 妖獣に襲われる心配はもうない。彼らが守ったものは五月の蒼い空の下、瑞々しい息吹を吹かせていた。


マスター:ツヅキ 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:9人
作成日:2007/05/29
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死亡者:なし
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