Do not let 『Rule the world』


<オープニング>


 砕かれた『世界』の欠片の向こうに見えたのは、孤独な男が見下ろす姿。
 撒き戻る時は永遠に閉ざされた悲しい箱庭であることを意味し、それを知らない男は、蘇る鳥を東西南北に従えて、手にした世界だと酔っている。
 只、今は痛む傷を押さえて。
 糸口というバトンを渡すために。 


「集まって頂き、有難うございます」
 運命予報士はぺこりと頭を下げると、
「聖杯結界のことは、もう皆さん知っている方も多いと思いますが……」
 近年の巡礼士の調査により、メガリス『聖杯』は、実は2つあったという事実。
 もう一つの聖杯は世界結界創造時に粉々に砕け、そのカケラは『世界結界創造の妨げになる強大な地縛霊』を封じる『聖杯結界』に姿を変えて、今もそれらを封じ込めている。
「これから欧州へ向かってください」

 
 まずはお互い挨拶を交す。
「我々の不始末を押しつけたばかりに、君たちの仲間が傷つくこととなってすまない」
 ランドルフは深々と頭を下げた。
「これは君たちの戦友が傷ついてまで得てきてくれた情報だ。かなり詳細に調べ上げてくれた。攻略の糸口になるものばかりだ」
 そう言って、報告をまとめたものを一人一人へと手渡した。
 結界に入るには、特定の場所で円陣を組む必要がある。結界の中は、人が一人余裕を持って立てる程度の氷山が九つあり、地縛霊はその中央にある氷山の一つにいて、地縛霊を囲むようにそびえる氷山に、一人ずつ配置される。その場から動くことは不可能だ。氷山は、攻撃や回避などのアクションを行う分には十分な広さが確保されているものの、地縛霊から等しく13m離れている。誤って踏み外せば強制的に結界内より排除される。
 つまり、結界内に入るために組んだ円陣が、結界内の立ち位置となり、終了まで居座るフィールドとなる。
「使役は使役主と同じ場所に立つことになる。最初から二人で共に立つ分には問題ない広さはあるものの、主が戦闘不能となると使役も強制的に弾かれる」
 闘神の独鈷杵と同じく、結界が戦闘不能者を弾く機能は同じメガリス故だろうか。
「地縛霊の周りに四体の鳥妖獣がいる。それらは東西南北の四方に浮かび、目の前に立つ能力者を狙ってくる。だが、誰かの体力が四割を切るとそれをかぎ分けて、攻撃を集中させる傾向にある。彼らは連携しているわけではないが、当然同じ個体なので素早さは同じ。四割切った瞬間、残りが怒涛の如く攻めてくるため立っているのが難しくなる。円陣を組む時点で、こちらに都合のいい配置を考える必要性がある。例えば回復範囲や、鳥の習性を考慮した配置などだ。もちろん、アビリティや装備もよく吟味する必要があるだろう」
 氷山に隔離されるため、結界内では近接攻撃はできず、遠距離攻撃の必要性が求められる。場所によっては回復などのフォローが届かない。
 そして、攻略の要となる東西南北に誰が行くか、だ。
「そして件の地縛霊の能力だが、男の姿をしているそうだ。髪色と同じ羽根の一撃は強力、氷柱を出現させて気絶させるうえ魔氷に閉じ込め、更に殺傷力のある冷たい眼光を放つ。それと四体の鳥妖獣だが、その場を動くことはない。口からつららのような氷の弾丸を飛ばし攻撃してくるだけだが、体力は十分にあるので侮らないでほしい」
 内容をすべて説明し終えた後、ランドルフは、
「これが聖杯結界に閉じ込められた地縛霊の全てだと言ってもいい。これらの事を考慮して作戦を立てれば……」
 更に勝率が高まったと言える筈だ。
「彼らが傷ついてでも得てきた情報を無駄にしないためにも、ここでこの結界の役目に終止符を打とう」
 よろしく頼むと、ランドルフは再び深々と頭を下げた。

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参加者
月乃・星(永遠の欠食児童かも・b33543)
露木・水無月(月牙天翔・b43410)
須賀・義衛郎(天を取る者・b44515)
苑田・歌穂(日だまりでたそがれて・b53333)
緋坂・燐(氷想華・b53619)
メイベル・ウェルズ(銀月卿・b54806)
夜科・涼子(蒼穹の乙女・b55281)
遠野・英史(魔術師・b77804)



<リプレイ>


 北極圏ともなれば、ひなたであろうとも肌に刺さる寒さは尋常ではなく。
 遠野・英史(魔術師・b77804)は襟元を押さえつつ足を進める。
「……聖杯の欠片、か」
 風に乗ってきらきらと輝き落ちる、氷の欠片を目で追った。
 予想すらしていなかった、片割れの存在。集めれば世界結界の完全修復の可能性も見えるかもしれないという。
(「……どうなんだろう? 僕は、本当にそれを望んでるのかな」)
 思い付く、完全復活に伴うであろうメリットとデメリット。それらが英史の頭の中を幾つか過ぎっていって――。
 いや、と英史は頭を振って。
(「今は考えない方がいい。そんな事を考えながら戦える相手じゃないし……」)
 僅かなミスが(それは例え油断した結果発生したものではなくても)、亀裂となれば、一気に押し広げられ、巨大なクレバスとなってこちらを飲み込む。
 落ちたら最後。
 たった一つの綻びも生まないよう立ち回らなければならないと、月乃・星(永遠の欠食児童かも・b33543)は最後に残ったパンの欠片を口に放り込んで。
 巡り合わせによっては、最後まで妖獣の的となる立場を担う自分としては、どこまで立っていられるかが勝負。誰かの仇打ちなんて考える性質ではないけれど、得られた情報は活かして今回で終わりにしたいとは思う。
 人が傷つくのも自分が傷を負うのも良くない。
 だって――、
「……ご飯が美味しくなくなる」
 皆が美味しいご飯が食べられる様に。
 目的の場所に辿り着いて、須賀・義衛郎(天を取る者・b44515)は果てしない水色の空を見上げる。
 天空に聳える氷の世界はもちろん見えないけれど――。
(「あんたはこっちのことなんざ覚えてないだろうが、こっちは脳ミソ焼ききれそうなくらい覚えてる……」)
 だからまた、此処に。
 義衛郎は、円陣の最後の一角へと。
「待ってろ」
 今、行く。


(「大丈夫、勝てる」)
 苑田・歌穂(日だまりでたそがれて・b53333)が揺ぎ無い決意と共に目蓋を開けば、次に見えるのは蒼天の世界。
『我、世界を制する――』
 誰もの眼前で、微笑を湛え、空を仰ぐ地縛霊。
 聖人のように穏やかな貌であるが、滲むのは多大なる自尊心と優越感に浸った、人を見下した愚者のもの。
 自己陶酔しているあの顔を見て、すっかり癒えたはずの胸に、痛みが走った。
 幻痛、そんなのじゃない。悔しいという気持から来る痛みだ。
 負けたままでは悔しい。負けっぱなしは性に合わない。
 だから――。
「もう一度ここに来ました」
 幼い顔に秘められた、闘志の炎。
「世界を制するのは、貴方ではありません」
 そんな視線もまるで意に反さぬように、地縛霊はアイスブルーの髪をなびかせている。
「みんなの頑張りを無駄にしないためにも、今回で決めるのですよ」
 露木・水無月(月牙天翔・b43410)は構え、
「全力全開。行くですよ、みなさん!」
 先手必勝、持ち前の瞬発力を生かし、一気に妄想を撒き散らした。
 足場は心許ないけれど、宙を舞うならば話は別。パラノイアペーパーが燕のように翻りながら、結界に縫い付けられた者たちへと。
 真っ白な羽根が散る中で、一筋の朱が際立った。
「あんたの世界とやらに、盛大に轟かせてやる」
 水無月の速さに負けず劣らず、義衛郎は呪いの魔眼が北の鳥の背を引き裂く。
「全て纏めて喰らい尽くす!」
 彼の勢いに引かれるように、メイベル・ウェルズ(銀月卿・b54806)はヴァンパイアクロス。地縛霊を張りつけするかの如く背後に出現。三方に走る血の筋、追撃によってダメージを刻んでゆく。
 英史の炎の魔弾が弾ければ、北に激しい炎を呼び起こす。
『世界よ、我が思うままに』
 穏やかな顔に蔑む色が濃く浮いた。
「モルガン、我の後ろに控え、できる限り持ちこたえるのだ」
 メイベルは地縛霊の行動を察知し注意喚起。もちろん今の形態に退化させているモルガンに、それがどれだけ無茶な命令だとわかっているけれども――。
『君の運命を排除する』
「来るぞ!」
 相手とて、効率をある程度は優先する。地縛霊の瞳が人数の多い北東を中心として、北と東を巻き込むように眼光を放つ。
 力を失い、戦線離脱するモルガン。
 とはいえ、真の柱はメイベルだ。氷山に一片の揺らぎはない。モルガンが、主への危険を一回でも反らしたことには間違いない。
 とはいえ、決して気を抜けない。妖獣が生存している限りは。
 緋坂・燐(氷想華・b53619)は、歌穂を横目で伺いつつ、防具の具合、北の鳥の疲弊具合を見比べる。
(「最優先すべきは……」)
 攻撃より仲間の傷。余裕を持って癒さなければ、いつ飛んでくるかもわからない地縛霊の強打によって、一瞬にひっくり返されると知っている。
 燐を中心に広がるのは、慈悲なき氷の嵐ではなく、ふわりとした優しい光。癒しと浄化を伴った力が、刺さりこんだ魔氷の呪いを溶かしてゆく。
 赦しの舞の光が縮小すると同時に吹き上がるのは、六花逆巻く穢れなき力。
「氷雪を使うのはそちらだけではありません、凍てつきなさい!」
 夜科・涼子(蒼穹の乙女・b55281)の氷雪地獄が、氷の鳥と地縛霊飲み込んだ。
 氷の体に走る、それを上回る凍気。更にどす黒い色が氷の肉体の中央に、染みのように浮いた。
 義衛郎の呪いの魔眼によって毒が縫い付けられ、北の鳥は身を振り乱しながらがぁと野太い声を上げる。歌穂の尾からは必死に逃げ果せたものの、追撃は止まらない。
「……落とす」
 星の手が瞬く。
 天を滑る輝きの欠片の如く、その一閃は巨大な霧の幻影に届けられた。
 瞬断撃。片翼となった鳥の体。まるで元から二つあったかのように綺麗に割れて、雲海の底へと消えてゆく。
 最初に堕ちたのは、北の鳥。囲む氷山は亀裂一つ浮かんでいない。
「次は西を落とすぞ」
 メイベルは、攻撃対象の指示を。繰り広げられる攻防の中、ヒット数や傷の具合などでの判断のため、必ずしも正確ではないにしろ、全員の意思をまとめる事は大事。
 星は頷くと腰を落とし、即座に瞬断撃。水無月のパラノイアペーパーが鳥たちの固い肌を削り取る。
『君の時を、破壊する』
 鬱陶しそうに原稿を叩き落とすと、地縛霊は西を中心に眼光がきらめいた。
「回復ならお任せを」
 ちりりと焦げ付く様な視線の痛みを払いのけながら、涼子は即座に凛とした舞いを踊り、水無月はギンギンパワーZを星へ。
 鳥がカッとくちばしを開く。煙るような冷気を纏う弾丸が、尾を描き真っ直ぐと。
 次も分散に成功。未だ誰もが立っている。
 北東の燐と南西の涼子、二人の巫女が交互に舞う。
 鬼門、裏鬼門。忌み嫌われる方位より忍び寄る邪気を弾くかのように。
 地縛霊がアイスブルーの翼を広げる。鳥が甲高い声と共に放たれる弾丸。再び食い込む魔氷に苛まれながらも、歌穂は決して視線を外さない。頼りなくなった防具を英史に修復してもらうと、妖力全開放。
「今度は遅れを取りません……!」
 光を伴う九つの尾は、天を駆け抜ける流星群のように。
 刹那の輝きが秘める力は、連なれば地を割るほどの破壊力となる。腹に入った一撃に続く次の尾は脇を穿つ。ざく、ざくと、いう音を立て、その白い翼が無残なほどに砕け散る。
 七つ目の尾が、弧を描くように鳥へと。
 頭を完全に捉えた。
 輝く尾は一瞬の滞りなく、頭蓋を打ち砕く。
 硝子のような音を立て、鳥は粉砕。
 メイベルが次なる目標を東とし、ヴァンパイアクロスを発動。
 地縛霊はくるりと振り返り指示を飛ばしたメイベルへ指差す。
『君の時よ、止まれ』
 氷山が、その上に立っているメイベルを無視して、急に成長したかのように見えた。
 出現した氷の柱に、メイベルの防具が半壊しただけでなく囚われる。
「加護を」
 燐が祈りを捧げるかのように手を掲げれば、尊き祖霊を引き下ろし、力を。
 再び放たれる弾丸が、地縛霊が手にした『小さな世界』の最果ての氷山へと放たれる。東と南に攻撃は分散。だが未だ油断は許されない。
 何故なら、地縛霊の一撃は、時に一瞬でこちらの流れをひっくり返す。
「次こそ落とすのですよ」
 水無月は最後のパラノイアペーパーを振り撒いた。
『冷たき氷像へとなり果てよ』
 きりきりと身を切り裂かれ、地縛霊は忌々しげにアイスブルーの翼を広げた。今度は水無月が氷柱に囚われた。水無月は禁癒の状態が幾度か続いていたため、体力は常に目標値ギリギリだった。そのため、この一撃は決定的なものとなる。
 魔氷の残る体のままメイベルはヴァンパイアクロス。一体でも落とし、危険を減らすべく解き放つ。
 幾筋かの血を抜き取り活力を取り戻すものの、だが鳥は落ちない。
 涼子がすぐに赦しの舞にて救出を試みる。体は霜に覆われ治癒力が大幅に低下したまま。
 燐も舞う。だが……仮に全て解けたとしても、危険な状況は継続したまま。
 血の臭いに、鳥たちは容赦なく目標を変えた。
 刺さりこむ氷の弾丸。
「ううっ……」
 水無月は必死に氷の上に踏ん張って回復を試みるけれど、地縛霊は不気味なほど穏やかに微笑を湛え、
『君の時を、破壊する』
 翼が、水無月の体を縦に裂く。
 ぶっと、血が放射状に咲き乱れる。
 がらり――。
 氷山が一気に崩れ、水無月は遥か眼下の雲海へと。
 やはり結界に縛られるほどの地縛霊。一筋縄ではいかない。
 傾いた流れ。手早く引き戻さなければ。星は狙いを定めて瞬断撃。目にもとまらぬ抜刀。巨人の腕が、鳥の体を真一文字に突き抜けた。
 強打をモロに腹へ受け、よろける鳥に、メイベルは容赦なくヴァンパイアクロスを召喚。
「堕ちろ!」
 紅の逆十字が、鳥の傷口から無理矢理血の糸を引きずり出し、びきりと鈍い音がすると同時に、鳥の体が一回り縮んだように見えた。
 瞬間、内部から亀裂が走って脆くなり、崩れ落ちる東の鳥。
 残る鳥は、南の一体。
(「……蓄積しているダメージから言って、落とすのにさほど時間もかからないと思うけど」)
 英史は狙いを定めるようにナイフをかざし、炎の魔弾を。
 燃え盛る魔弾が、鳥の側面を打ち抜いた。片翼が弾け飛び、激しく燃える炎に無残なほど溶け爛れているものの、
「これでもまだ落ちない、と」
 タフだねと、呆れにも似た口調で零す英史。
「次で落とす」
 義衛郎の気迫がこもったような鋭い眼光が、鳥の胸元を打ち抜いた。
 瞬間、まるで破裂したかのように、鳥の体は粉々に砕け散る。
 きらきらと落ちる氷の粒子の向こう、義衛郎は無言で地縛霊の顔を見据えた。
 さすがに地縛霊から微笑は消えた。
「残るは、貴方だけです」
 涼子は雪だるまアーマーで自らの守りを固めると、薙刀を構える。
『我が、世界を制する』
 冷たい視線。喰いかからんとアイスブルーの翼を広げた。
 研ぎ澄まされた刃のような羽が、涼子の首元を狙う。
「くっ……!」
 ぎりぎり急所は避けたけれど、当たったことには変わりない。激痛が彼女を支配する。
 しかし血の臭いに群がる鳥はいない。英史が手早くギンギンカイザーX。
「もしかしたら、生前は同族であったのかもしれませんね……」
 その手に持つ氷の輝きも、微笑も、何もかもがどろりとした卑しさに曇りきってしまっているけれど。
 こちらも、勿論ゴーストとなった当の本人も、生前のことなど何もわからないけれど、仮にもしもそうであるとするならば、尚更、ここで引導を渡さなければ。
 燐は氷雪地獄を発動。巻き上がる結晶が地縛霊をきりきりと切り裂いて。
『我は凍らぬ――!』
 絡みつく魔氷を無理矢理弾き剥がし、地縛霊はアイスブルーの羽根を広げる。
『君の時を、破壊する!』
 羽が閃いて、燐の体に血の筋が流れる。
「負けません」
 喘ぎながらも、燐は雪だるまアーマーにて防具の疲弊を治すと、再び氷雪地獄を。涼子も同じく氷雪地獄を重ねる。
 晴天の空、ごうと激しい音を立てて風雪が吹き荒ぶ。ほぼ何もない空間を、上に、下に、予測もつかないタービュランスのように強烈な力が地縛霊を飲み込んだ。
『我、世界を制する者――!!』
 氷山が削り取られるくらい鋭く、眼光が東を覆う。
「こんなところに永遠とも近い時を閉ざされていたら、井の中の蛙を気取りたくなる気持ちもわからなくもない……」
 眼光の衝撃を上手く横へと流して、歌穂は妖力を解放。
「けど、そんな地縛霊には負けたくない、負けるつもりもありません……!」
 歌穂は全てをぶつける勢いで、九つの尾が腹部に、大腿部に、次々と刺さりこむ。喉元を狙う尾を握り潰す勢いで掴み取ると、
『失せよ!』
 歌穂へと氷柱による鉄槌を。
「失せるのはそっちだ」
 歌穂へと意識がそれている地縛霊を義衛郎は呪いの魔眼で狙い打ち。
 ぶっと、地縛霊のこめかみ付近からどす黒い血が噴出した。
 縫い付けられた毒。地縛霊は頭を抱え、必死に毒を投げ捨てようとするも、叶わず吐血する。
『時よ、砕けよ!』
 地縛霊が手を掲げれば、義衛郎の半身が真っ赤に割れた。
 力のはいらなくなった腕、がくりと膝をつく。傷口に黒燐蟲が群がらせて喘ぐ義衛郎。
 一発で防具が弾け飛んだ。だが、もうこの空間に彼に付き従うものはいない。彼の下した裁きを執行するものは誰もいないのだ。
 燐が祖霊を下ろせば、傷口は塞がり防具も一部修繕されて。
 一撃が強力でも、こちらの回復力の方が上回っている。
 巨人の手が地縛霊目がけて放たれた。
 星が繰り出せる最後の瞬断撃が、地縛霊の腹を完全に捉え――。
 今自身の体を突き抜けた感覚に信じられないと言わんばかりに、目を剥いて。
 傷をなぞる。
 その手に映えるのは、鮮血の色。
『……見事……』
 天を仰ぐ地縛霊。アイスブルーの髪が、さぁと風にたなびいて。
 上と下に別れた体がくらりと傾き崩れると、氷山の肌を転がる様にして堕ちてゆく。あの微笑を浮かべたまま。
 燐は、同族かもしれなかった男の最後を見送って。
 すると、氷山の全てに亀裂が走る。
「えっ?」
 私たち勝ちましたよねと言わんばかりに、歌穂は皆の顔を見回して。
「結界そのものの意味がなくなったからでしょう。この氷山自体も結界の一部ですから、それがなくなれば当然……」
 冷静に分析しつつも、ちょっぴりはらはらした様子の涼子。
「正直勝ったのにまた落ちるなんて……」
 聞いてねぇ。
 義衛郎は口元ひきつらせ。
 がらり。
「……あ、崩れた」
 まるで他人事のように無表情でぼそっと星が呟く。
 全員一斉に雲海へと落ちた。



 先程まで氷山に立っていた位置そのままの状態で、全員が雪の中に大の字で寝転がっていた。
 顔についたふわふわの綿雪がくすぐったい。
 落ちたと思って受け身を取ろうとしたら、ただ新雪の上に背中から倒れた程度の衝撃。あれが聖杯結界によって作られた特殊空間なら、当然落ちた感覚も幻で。
「……あれは、欠片か」
 メイベルが、聖杯の欠片が空から落ちて来るのを見つけて。
 それは円陣を組んだ彼らの中心へと、祝福するかのように輝きながら。


マスター:那珂川未来 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2011/10/29
得票数:カッコいい16  知的1 
冒険結果:成功!
重傷者:露木・水無月(月牙天翔・b43410) 
死亡者:なし
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