とあるヒーローの成れの果て


<オープニング>


 ――ヒーローとは一体どんなものを示すのだろう?
 仮面をつけている? 変なコスチュームを着ている? スーパーパワーを持っている? 類まれなる才能を持っている?
「キャプテントリトーン!」
 問うても人らしい返答をしない彼は、自称する通りヒーローと呼べる存在なのだろうか?
 確かに拳を振るい、雷を放ち、公園にたむろする不良たちを駆逐せんとしているのだけれども……。
「深夜に出歩いちゃ、ダ、メ、ダ、ゾっ?」
 ……正義も過ぎれば容易に悪へと変質する。
 もっとも、この世在らざる鎖に繋ぎ止められている存在。地縛霊と化した彼には関係のないことなのかもしれないが……。

 放課後の学食で待っていた秋月・善治(運命予報士・bn0042)は、どこか疲れた様子で依頼のメンバーを出迎えた。全員が揃ってもその様子が変わることはなく、ただ、改めて頭を下げて依頼の説明を始めていく。
「とある住宅街の公園に地縛霊が出現した。幸い、まだ被害者は出ていない」
 が、運命予報により、そう遠くない未来に被害者が出てしまう事が確定している。なにより放置しておく理由もない。
 早々に退治する必要があるだろう。
「場所や行き方は地図に書いてある。出現条件だが、深夜零時以降、その公園に大勢で赴けばいい。それだけで地縛霊は出現する」
 深夜零時という時間。人通りがなく、周囲に人気もないため、その辺りも気にせず戦うことができるだろう。
「出現する地縛霊だが……そうだな。いわゆる、ヒーローのような姿をしている、といえばいいのか」
 性別は男。鍛えあげられた肉体をぴっちりした赤いスーツで包んでおり、青いマントも羽織っている。顔はプロレスラーのようなマスクで隠していて、しきりにキャプテントリトーンと名乗るとか。
 見た目のコミカルさとは裏腹に力量は高く、運も良い。全ての能力が高い水準で纏まっていて、唯一特筆するとしたら瞬発力に欠けるきらいがある、といった点。
 文字通り敵を殴り飛ばすトリトーンナックル。雷撃を放出し視界内に居る者を痺れさせるトリトーンサンダー。肉体美を誇示するポージングを取り自らの力を高めるトリトーンマッスル、といった行動を取ってくる。
「以上が依頼に関する説明だ。元に策を考え、事にあたってくれ」
 必要なものを手渡し、善治は今一度一礼。説明の締めくくりへと移っていく。
「幸いといっていいのか、まだ被害者のいない案件だ。元になった残留思念がどのような存在なのかはわからないが、人を殺めぬうちに眠らせてやってくれ。吉報を待っている」

マスターからのコメントを見る

参加者
深水・渉(のほほん鋏角衆・b32656)
真神・綾瀬(蒼風の舞姫・b39277)
吹雪・瑞希(いつでもどこでも百合の迷い子・b53324)
石河・翔霧(高校生符術士・b66185)
戸来・聖司(赤毛のエクスプローラー・b81253)
一条・冴(緋色の落花・b82096)
高梁・和臣(歌詠を紡ぐ銀砂の音色・b82249)
宮永・長閑(貴方に笑顔の女将・b83124)



<リプレイ>

●ヒーロー登場!
 まだまだ冬は遠かれど、骨身に沁みる夜の風。満足に肌も覆えぬ黒革のボンテージに身を包んだ幼い少女、吹雪・瑞希(いつでもどこでも百合の迷い子・b53324)が小さく体を抱いていた。
 いわく、自分は悪の秘密組織の怪人開発担当幹部スノウクイーンだと。
 改造した後に俺様さいきょーとか言いながら組織を攻撃しつつ逃げ出したキャプテントリトーンを倒しに来たのだと。
「……倒さないと降格だなんて……えぅぅ、わたし一人じゃ倒せないって、判ってるくせにぃ……」
 上司と言う名の冷たい風が夜の公園を吹き抜けて、幼い体を震わせる。
 彼女は仄かな灯りの点る公園に、そして住宅街へと繋がる道路へと目を向けて、深いため息を吐いていく。
「いつもならもうそろそろ来てもおかしくないはずなのに……フリッカー戦隊ギンセイジャー……えぅぅ……なんでこんな時だけ、なかなか来ないのよぅ……」
 ……ライバルたる正義の味方に待ちぼうけを喰らった、悪の女幹部と呼ぶには少々色気の少ないように思える少女の嘆きが夜中の公園に響いていく。
 彼女の落胆とは裏腹に、何かが起きる気配もなく……。

 仲間と共に公園の順路を歩く、フリッカー戦隊ギンセイジャー。一部の隙もなく警戒する彼らの前に一人の男が出現した。
「キャプテントリトーン!」
 彫刻のごとく鍛えあげられた肉体をこれでもかと魅せつけるぴっちりとした全身タイツに、程良く華美な装飾で彩られているヘルメット。マッスルポーズを決めている様だけを見るならば、自称ヒーローであることを聞かなければ変態のようにも思えただろう。
 むろん、ヒーローであるのかも怪しい。否、地縛霊という、ヒーローとはありえない存在へと成り果ててしまっているのだが……。
「……」
 真神・綾瀬(蒼風の舞姫・b39277)が一条・冴(緋色の落花・b82096)、高梁・和臣(歌詠を紡ぐ銀砂の音色・b82249)らギンセイジャーのメンバーを引き連れて、キャプテントリトーンの前に立ち塞がる。
 腹の底から声を張り上げる。
「貴様の存在はこの世の為にならない!! よって、我々が成敗する!!」
 ポーズを決めて、定められたワードを唱えていく。
 瞬く暇も与えずに、ギンセイジャーへと変身する!
「風の舞は平和をもたらす!! 戦舞の戦士、ギンセイハート!!」
「迫る悲劇を打ち砕く、断罪の音を奏でましょう! ギンセイクラブっ!」
 スラッシュギターを掻き鳴らし、冴も……ギンセイクラブもポーズを決める。
 どこからともなく雪が舞い、輝く力を与えていく!
「俺の言葉が悪を倒せと叫んでる……ギンセイスペード!」
 和臣ことギンセイスペードも名乗りを上げて、揃いのポーズを決めていく。
 どこからともなくライトも灯り、ギンセイジャーを照らし出す!
「フリッカー戦隊!! ギンセイジャー!!」
 決め台詞と共に頭の中に響いていく、現のものではない爆発音。対するキャプテントリトーンが負けじとポーズを取った時、ギンセイクラブが再びギターを弾きだした。
「キャプテントリトーン……あなたは確かに正義の味方だったのかも知れない。けど……」
 落ち着いていた曲調を激しい物へと移行させ、瞳に強い力を込めていく。
「自分勝手に人を傷付ける奴はもうヒーローじゃない! さぁ、覚悟してもらうよっ!」
 奏でた音色は、ヒーローの熱さ表す勇猛なるプレリュード。全ては見かけだけのエセヒーローを倒すため。
 背中を押されたかのように、綾瀬ことギンセイハートが自らの力を高めていく。曇りのないマスクを見つめながら、どこか悲しげに目を伏せていく。
「Go! キャプテントリトーン!」
 待っていてくれたのか、はたまた偶然か。名乗り終わった段階でキャプテントリトーンも動き出す。
 普通の能力者も巻き込んだ、ヒーローの矜持を示すための戦いが開幕する!

●ギンセイジャーVSキャプテントリトーン
 夜風が枯葉を運んでくる、夜も深まりし頃の公園広場。準備を終え、ヒーローたちが各々の思いをぶつけ熱い火花を散らしていた。
 交戦まで後数秒。静まる空気。高鳴る鼓動。
 響くは少女の嘆く声。
「先にいるなら言いなさいよー!」
「はっ、スノウクイーン!?」
 予定通りスノウクイーンが合流し、ギンセイジャーと肩を並べていく。
「ここで会ったが百年目……って言いたいんだけど、それどころじゃないわね」
 否。誰よりも早くキャプテントリトーンへと辿り着き、指先に冷たき力を込めて往復ビンタをぶちかました。
 続くは石河・翔霧(高校生符術士・b66185)が作り出せし、仲間に力を与えし霧のレンズ。
 受け取りながらもスノウクイーンは唇を尖らせる。
「か、勘違いしないでよね! あ、あなたたちを倒すのは、わたしなんだからっ!」
「……ま、どっちにせよ」
 一部始終が終わるのを待った後、翔霧が改めて小さな息を吐いていく。海に似た色の剣を使いキャプテントリトーンとの距離を図りつつ、お腹の底から声を張り上げる。
「正義正義って自分だけの正義を力づくで主張しちゃいけないな!」
「……さて、自称ヒーローの実力拝見と行こうか」
 一方、 戸来・聖司(赤毛のエクスプローラー・b81253)は静かな動作でキャプテントリトーンの前に立ち、右足を半歩後ろに引いていく。
 太い腕を引く素振りを見せたから、機械部分の目立つ大槌を護りの形に構えていく。
「トリトーンナッコォ!!」
「っ!」
 柄で受け止め、なお伝わる衝撃が骨身を震わせる。少しでも弱めるために軽く飛び、二、三歩分退いた。
「追撃はさせませんわ」
 一歩踏み出そうとしたキャプテントリトーンの体を赤き影が押し戻す。
 操り手たる宮永・長閑(貴方に笑顔の女将・b83124)は小さく口の端を持ち上げて、再び影を赤く染め上げた。
「さあ、手加減なしの全力で参りましょう」
 再び放つまでの間に、突撃するはシャーマンズゴースト・ファラオの渦子さん。黄金の輝き魅せつけて、一生懸命体当たり。
「よし、決まったゴールデンタックル! 渦子さん、その調子だ!」
 喜びの声を上げながら、深水・渉(のほほん鋏角衆・b32656)は黒き鉄片を投げていく。
 硬い筋肉の前に弾かれてしまったけれど、渦子さんが距離を取る隙を作り出すことはできていた。
 が、それ以上の反撃は許さぬとでも言うのか。キャプテントリトーンが両腕を大きく広げ、眩い雷を抱いていく。
「喰らいたまえ、必殺のトリトーンサンダー!!」
 合図と共に解放された雷が扇状に広がって、トリトーンアイに収められていた者たちに襲いかかっていく。幸いというべきか、痺れ動けなくなるものはいなかったけれど。
 軽い痛みを感じなかったわけでもないけれど……。
「……どんなに見た目を取り繕うが、アンタのやろうとしていることは単なる理不尽な暴力だ! その捻じ曲がった在り様、オレが叩き直してやるッ!!」
 ……あるいは、力持つ者であるからこそそれだけで済んでいる。一般人が受ければただで済むはずがないと、聖司はハンマーを大きく振りかぶる。
 機械の側面からロケット噴射を放出し、勢い任せに振り回す!
 避けきれぬか、胴を打たれたキャプテントリトーンが五歩、六歩と横に飛ばされた。
 つんのめる様子も見せたから、すかさず渉が声を出す。
「渦子さん! ファラオファイアだ!!」
 彼の言葉に呼応して渦子さんが炎を吹きかければ、ヘルメットが燃え始める。
 次いで放った鉄片も左肩へと突き刺さり、軽い毒を埋め込んだ。
「……この程度でキャプテントリトーンは挫けない!」
 が、炎燃えるまま毒に蝕まれるまま、キャプテントリトーンは立ち上がる。
 拳を強く握りしめ、ギンセイハートに殴りかかる!
「キャプテンナッコォ!!」
「っ!」
 不意を打たれたわけではないものの、抗いきれずギンセイハートの体が宙に浮く。バック宙で体勢を整え着地したけれど、キャプテントリトーンは遥か向こう。一歩で近寄れるのが幸いか。
「ギンセイハート、合わせます!」
「了解!」
 駆け出す音色を聞きながら、ギンセイスペードは紡ぎだす。キャプテントリトーンに牙を剥く、正義の呪詛を与える言霊を。
「はっはぁ!!」
 抗うか、キャプテントリトーンが笑い声を響かせた。
「受けなさい! ギンセイシャドーブレード!!」
 抗うように懐へと入り込んだギンセイハートが影を纏し手刀を放ち、筋肉と筋肉の間を打ち据える。
 罪を犯す前、綺麗なまま旅立たせてあげたいと。その為にここで倒すのだと。
 思いは同じなのか、ギンセイスペードは周囲に視線を走らせる。傷負う仲間がいないか探るため。
 傷がないことを示すため、長閑が再び赤い影を伸ばしていく。
 悪と化した存在を消すために更なる毒を与えていく。
「……この調子で……」
 幸いダメージを蓄積させている者もいない。この調子で、己が正義を示していこうか。

●ヒーローの証とは
 ヒーローの本分があるとするのなら、決して直接戦うことだけではない。
 ギンセイスペードの本分として、和臣は勇猛なる歌を響かせる。仲間の傷を癒し、心に熱を与えていく。
 歌では浄化できぬ痺れはギンセイクラブの爪弾く激しきビートが押し流す。
 スペード、クラブは各々の力で仲間を支え、キャプテントリトーンと戦っていく!
 故に、苦戦はない。正義の強さは彼らが上か。
 逞しい筋肉も傷だらけ。もはや風前の灯といった様相へと成り果てたキャプテントリトーンの前へ翔夢が躍り出る。
「お待たせ! ギンセイジョーカー見参!! 相手になるよ!!」
 四人目の戦士として。
 レンズ越しに放っていた一閃を放つために。
「っ!」
「ト……リトーン……ガード!」
 水晶剣が肉体を切り裂いたかと思われたが、筋肉に阻まれ叶わない。
 ならばと距離を取ろうとしたものの、瞬く間に生成されたトリトーンサンダーが追ってくる。
 剣を振るい、払うことはできた。
 しかし、傍らに立つ聖司の動きが止まっていた。
 最も早く動けるのは、情熱を癒しに変える力を持つギンセイハート!
「聖司さん、今助けます! ですから、その力を……」
「……ああ」
 与えられたチャンスを無駄になどしないため、聖司は槌に火を灯す。
 横ではなく、縦。脳天を打ち据えることこそできなかったけれど、首筋の辺りへ叩きつけ両足を地面に埋もれさせた!
「チャンスだ、トドメは任せるぞ!」
「まさかギンセイジャー以外に使うとは思わなかったの……」
 手柄を奪い去らんというのか、スノウクイーンの放ったナイトメアがキャプテントリトーン目指して疾走する。
 ならば、それすらも利用すると、ギンセイジョーカーが剣を横に構える。
 倒せればいいとの想いが強いか、ギンセイスペードは歌の質を正義の呪詛へと切り替えた。
「水平線の終わりまで飛んで行けー!」
 聖司が退き、ナイトメアが蹂躙したキャプテントリトーンの筋肉に、深い傷跡が刻まれる。
 が、まだ抗わんというのか立ち上がる素振りを見せながら、拳を強く握っている。
「キャ……プテン……!」
「お前の手の内は通じない! 俺の呪いの言葉、受けてみろ!」
 倒すため、終わらせるため、ギンセイスペードの紡いでいた呪詛が完成。自らに宿した加護に抱かれて、キャプテントリトーンは霞と化す。
「トリ……トーン……」
 後に残されるは正義と悪。あるいは各々の正義を抱き時には衝突しあうヒーローたち。
 勝利を祝福するかのように、木々が小気味の良いファンファーレを鳴らしていた。

 荒れてしまった地面を整備して、配置していた物を片付ける。涼しげな風の吹く公園で、彼らは撤収の準備を進めていく。
 一足早く担当分を終えた渉は渦子さんを招き寄せ、両手で優しく抱きしめた。
「渦子さん、ありがとう。やっぱりキミは、僕のヒーローだよー」
 傍らではやはり作業を終えた聖司が息を吐き、キャプテントリトーンの消えた場所を眺めていく。
 小さなため息を重ねていく。
「相手がゴーストなら問答無用で倒す……。オレ達も、結局はアンタと同じ穴の狢なのかもしれないな……」
 さらなるため息は自嘲の意か。はたまた嘆きも含まれていただろうか。
 対照的に、翔霧の表情に影はなく、紡ぎだす言葉も快活だ。
「この世の正義と平和は私達が守る、その魂は引き継いだよ!」
 響く声音は手向けと成り、空へ空へと運ばれる。
「トリトーンはあの世で正義を守ってね」
 正義を宿した証として。
 魂を背負った証として。
 仮面などなくても、変なコスチュームなどなくても、たとえスーパーパワーを持っていなかったとしても、類まれなる才能を持っていなかったとしても、正義の為に行動し、人々を救う心。
 それがヒーローの証なのだから……。


マスター:飛翔優 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2011/10/30
得票数:楽しい10  カッコいい7  ハートフル1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。