【切り裂かれた想い】さようなら、あなた

<オープニング>


 本当はもう、どうでもいいと思っていたの。
 あの子が好きだって教えてくれたときから、もう決まってた。
 あの子の幸せを見届けたら、もういいの。
 もう、この世に未練はないから……。

 空が黄昏色に染まる頃。
「一臣君、待たせちゃってごめんね」
「ううん、全然待っていないよ。今来たところだしね、晴ちゃん……いや晴美」
 ふわふわの茶髪を揺らし、晴美はくすりと微笑み、頬を染めていた。
「これも……千佳ちゃんのおかげね」
 晴美は嬉しそうに隣にいる青年、一臣を見た。真新しいスーツに身を包む一臣も、嬉しそうに微笑んでいる。
「うん、そうだね。千佳が晴美に協力してくれなかったら、今頃、僕達、こんな風に帰っていないだろうしね」
「そーだ、今度、千佳ちゃんも呼んで、パーティーしよっか! お付き合い記念って事で♪」
「何そのお付き合い記念って。でもまあ……パーティーはいいかもな」
「うん、そうしよっ! きっと千佳ちゃんも喜んでくれる……あれ?」
 晴美はその足を止めた。
 そこにはすらりと背の高い女性が立っていた。ショートカットのクールな雰囲気漂う大人の女性だ。
「千佳ちゃん、丁度良かった♪ あのね、今度一緒にパーティーを……」
 千佳と呼ばれたクールな女性は微笑み、晴美達の元へと向かう。
「さようなら、晴美」
「え?」
 辺りに鮮血が舞う。どさりと晴美は血溜まりの中、ゆっくりと倒れていく。
 かまいたちのようなもので、晴美は切り裂かれたのだ。
「千佳? 嘘だろ、千佳!?」
 一臣の言葉に千佳は笑うだけ。
「ねえ、晴美」
 笑いながら千佳は晴美を見下ろす。
「一臣のこと、好きなの、晴美だけじゃないのよ……あたしも、愛してるの」
 そう告げる千佳は、あの羽衣を纏っていた。

 教室の中では、藤崎・志穂(高校生運命予報士・bn0020)が能力者達相手に話をしていた。
「かまいたちのようなもので、切り裂かれたんだそうです。そうまるで先日起きたあの事件のように……」
 先日、能力者達の手で解決に導いた事件が一つある。
 そのときも相手はかまいたちのような力を使い、相手を傷つけていた。
 その原因が。
「彼女もまた、羽衣を着ていたそうです」
 その羽衣が何なのかはまだ分からない。分かる事はその羽衣を一般人が扱えるという事。
「今、1人の女性の方……松村晴美さんと言うんですが、病院で治療を受けています。大怪我をしていますが、命に別状はないようです」
「で、今回は何をすればいいんだ?」
 能力者の1人が志穂に尋ねた。
「今回はちょっと大変なんですけど」
 そう前置きして答える。
「まずは病院で治療を受けている晴美さんを守る事。もう一つは晴美さんの友人である桐野千佳さんの持つ羽衣を確保してもらいたいんです」
 志穂の話によると、千佳はあの羽衣を纏い、再度、晴美を襲う可能性が高いとのこと。
「注意していただきたいのは、晴美さんの側には恋人の杉崎一臣さんがいることです。彼らをなるべく戦いに巻き込まないようにお願いしたいんです。それと、羽衣は使用者……今回は千佳さんですね……その彼女の思いが叶えられると、周りを突風でなぎ倒し、空高く舞い上がり何処かへと消え去ってしまうそうです。……ですので、確保するときは、その点についても考慮してください」
 志穂はそういって、もう一度、能力者達の方を見た。
「恐らく相手は人気の少なくなった夜に現れるはずです。皆さん、少し面倒ではありますが、どうぞよろしくお願いしますね」
 ぺこりと頭を下げて、志穂はああと、付け加えた。
「最後にもう一つだけ。今、晴美さんと一臣さんは結ばれています。千佳さんも一臣さんの事を愛していたそうです。全てが終わった後でもかまいませんので……千佳さんのこともお願いします。千佳さんは、一人だそうですから」
 力になって欲しい。そう志穂はもう一度、頭を下げた。
「こんな状況にいたら、誰だって寂しいと思いますから……」

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参加者
宗谷・幽(未だ幼き紫水晶の翼猫・b02948)
白月・蒼燈(空色の記憶者・b06339)
天草・円(中学生魔剣士・b18375)
片桐・綾乃(直情系お嬢様・b19717)
椎名・悠(深緑のねぼすけ娘・b20132)
辻莉・麻衣(紅孔雀・b21312)
狩夜・稔(罪過に染まりし赫き靴・b21569)
清里・ユウリ(蜘蛛の護り手・b23555)
樹神・陽気(中学生土蜘蛛の巫女・b23569)
白銀・巴(黒紫の賢姫・b24005)



<リプレイ>

●眠りの歌が響く時
 夜の病院。ここは晴美の入院している場所でもある。ひたひたと、足音を出さないように気をつけながら、目的の病室の前に来た。
「2階の207号室……間違いありません、ここです……」
 小声でそう答えるのは、白月・蒼燈(空色の記憶者・b06339)。
 蒼燈は事前に晴美の病室を確認していた。ちなみに晴美のいる病室については、既に、メンバー全員に伝えてある。
「どうやら、看護婦さんはいないようどすな」
 辺りを見わたしながら、辻莉・麻衣(紅孔雀・b21312)は確認する。
「それじゃ、ボク達はここで見張るね」
 樹神・陽気(中学生土蜘蛛の巫女・b23569)も小声で蒼燈達に伝えた。陽気と天草・円(中学生魔剣士・b18375)、そして清里・ユウリ(蜘蛛の護り手・b23555)の3人は、この病室の前で襲撃に備える事になっている。
 一方、蒼燈、麻衣、片桐・綾乃(直情系お嬢様・b19717)、椎名・悠(深緑のねぼすけ娘・b20132)の4人は、病室内で襲撃に備える。
「こんばんは〜♪」
 悠は、笑顔で病室の扉を開いた。
 そこには、ベッドに横たわる晴美と、彼女に付き添う一臣の姿があった。
「き、君は……?」
 時間外の来訪者に一臣は困惑している様子。
 悠はまた、にっこり微笑んで。
「おやすみなさい♪」
 ヒュプノヴォイスをかけて、眠らせた。

「よっこい……しょっ……」
 綾乃は、蒼燈に手伝ってもらいながら、晴美をそっと車椅子に座らせた。こうすれば、万が一の場合でも、晴美を安全な場所へと運ぶ事ができるだろう。
「……晴美さんにはもう少し、ダイエットしてもらいたいのですわ」
 不機嫌そうに言う綾乃に蒼燈は苦笑する。綾乃が不機嫌なのは、やはり前回の依頼で羽衣を逃してしまったからだ。事件を防ぐことができても、その原因を止めなければ繰り返されてしまうのだから。
「ご、ごめんなさい……少々言い過ぎましたわね」
 自分の発言に気づいたのか、綾乃は側にいた蒼燈に謝った。
「気にしないでください。綾乃さんの悔しい気持ち、私にも分かりますから」
 起きそうになっている晴美に、蒼燈は優しい歌声でヒュプノヴォイスをかけた。
「ふう、こっちも終わったどすえ」
 よっこいしょと麻衣は、丸まった布団をベッドに下に転がした。布団で簀巻きになっているのは一臣。これも彼らを守る為の作戦の一つ。一時は眠っていた一臣。今は麻衣によって簀巻きにされ、猿ぐつわを付けられて、もごもごと言っている。
「後は……千佳さんが来るまで待機ね」
 そういって、悠は窓の外を見る。
 病院から見える夜の明かりが眩しく映った。

●襲撃に備えて
 円は病院にある通気口を一つ一つ確認していた。
「ここも問題ありませんね」
 人が入っていない事を確認し、ほっとした表情を浮かべた。今、円は闇纏いをしている。途中、見回りをしている看護婦に出会ったが、闇纏いのお陰で気づかれずに済んでいた。
 最後の通気口を確認したが、そこにも誰もいない様子。
「どうでしたか?」
 晴美の病室前に戻ってきた円にユウリが尋ねた。
「今のところは変化なしですね」
「そうですか」
 円の言葉に、ユウリは胸を撫で下ろす。だが、まだ気を緩めるわけにはいかない。ユウリもまた、扉の前から見える廊下の窓から、外を見て、警戒を強める。
「こっちも異常なしだよ」
 周囲を警戒していた陽気も戻ってきた。
「千佳さんが来るまで、もう少し警戒しましょう」
 ユウリの言葉に、円と陽気は頷いた。

 病室、病室前だけでなく、他の場所でも襲撃に備えて準備を進めている者達がいる。
 宗谷・幽(未だ幼き紫水晶の翼猫・b02948)もその一人。
「これでよしっと。……学校からマットとかも借りれたらよかったんだけど……」
 晴美の病室の窓の真下となる場所で、幽は、用意してきた寝袋を窓の下の位置に敷いていた。本来ならば学園からマットを借りてくるつもりだったのだが、マットが予想以上に大きく重く、一人で運ぶ事は難しかった。また、夜といえども、マットを持って移動するのは、かなり目立つ。そのため幽は、自分の持ってきた寝袋と病院からちょっと拝借した毛布を敷いている。万が一、窓から落下する事になったとしても、こうしておけば、被害を最小限に抑えることができるはず。そう思い、幽は用意したのだ。
「うーん、これ……捕獲用に用意したんだけど……これも使っちゃおうかな?」
 幽は大きな鞄から、バレーボールのネットを取り出した。
 寝袋と毛布数枚では、少し心もとないかもしれない。
 幽は悩みつつ、ネットを広げた。

 また晴美のいる病院の屋上では。
「そっちはどうだ?」
 狩夜・稔(罪過に染まりし赫き靴・b21569)は、側にいる白銀・巴(黒紫の賢姫・b24005)に声をかけた。
「異常なしよ。そっちは?」
「こっちも異常なしだ」
 巴の問いに稔も答える。今のところ、屋上から確認しているが、まだ千佳の姿は見当たらない。
 屋上での捜索を開始して、およそ15分ほど。諦めるにはまだ早い。
「見つけたら、合図を頼むな」
「ええ、任せて」
 稔の言葉に巴が頷いたときであった。
「ん? あれは……」
 稔の視線に巴もあわせる。ひらひらとしたものが、病院に向かって来ているように思える。
「「来たっ!!」」
 巴は咄嗟にヘリオンサインを出した。

●天女が舞い降りる
 屋上で千佳の姿を確認した頃。
「ん? 今、影が出来た?」
 病室の中でその異変にいち早く気づいたのは、悠であった。光が何かに遮られれば、影ができる。もし、街の明かりに影が見えたのなら、それは千佳の可能性が高い。
「悠さん、上から何か連絡がきましたわ!」
 窓を開け、上を見ていた綾乃が小さく叫ぶ。真上に上がるヘリオンサインの全てを見る事はできなかったが、その一部を見る事はできた。と、同時に稔と巴が屋上から落ちてきた。
 幽の用意した毛布と寝袋、そして幽の広げたバレーボールのネットによって、稔はもちろんのこと、巴も怪我無く着地に成功した。
「みんな、千佳は東の方角から、飛んで来てる。私達もすぐそっちに行くわ!」
 巴は声を張り上げ、病室に伝え、すぐさま病室へと向かった。

「いよいよどすな」
 麻衣の言葉に皆が頷いた。
 既に病室前で待機していたユウリ達を呼んで、部屋の中で待機している。屋上から降りてきた稔と巴、そして外で待機していた幽はまだ時間がかかっているらしく、この場にはいない。
 一番窓の近くで2本のクロスソードを構えるのは、円。そのすぐ後ろに控えるのが、蒼燈とユウリ。ベッドの側には綾乃と陽気、晴美の寝ている車椅子の側には麻衣と悠が配置される。
 窓がバンと音を立てた。
「晴美……あたしは来たわ」
 羽衣を纏った千佳が、開いた窓からゆっくりと病室に入ってくる。
「あなたは、羽衣に操られているんです!」
 円が千佳の前に立ち、行く手を阻んだ。
「……あなたは誰?」
「え、わ、私は……」
 千佳の問いに思わず口ごもる円。千佳の正体が分からない以上、自分の正体を話すわけにはいかない。
「ねえ、お願い……退いてっ!!」
「きゃあああっっ!!」
 千佳の放つかまいたちの攻撃に、円の体は切り裂かれる。すぐさま悠は円にヒーリングヴォイスを施した。
 だが、千佳は気づいていなかった。円が千佳の注意をひきつけている間に、背後に回った蒼燈とユウリの存在を。
「千佳さんっ!」
 ユウリが放ったフレイムバインディング奥義と。
「お願い、眠ってください!」
 蒼燈のヒュプノヴォイス奥義が炸裂。
「やめ……て………」
 千佳は炎の蔦に絡まれ、眠りに落ちた。
「今よっ!」
 陽気の声にユウリと綾乃、麻衣が反応する。体を拘束され、眠った千佳に4人が群がった。
 目的は、千佳の持つ羽衣。それを千佳から外すことにある。羽衣さえ、外してしまえば、もうかまいたちを使ったり、飛んだりすることもなくなるのだ。
「こ、これ、なかなか取れない……」
 一人だけでは無理だったかもしれないが、陽気、ユウリ、綾乃、麻衣の4人がかりで引っ張られた羽衣は、時間がかかったものの、ずるりと剥ぎ取られた。
「みんな、大丈夫!?」
 と、そこへ、稔、巴、そして幽の3人も到着する。
「無事、羽衣を確保したどすえ」
 麻衣がそう答え、ユウリの持つ羽衣を指し示す。ユウリは飛ばさないよう、しっかりと腕に巻きつけた羽衣を皆に見せた。
「あ、でも……これだけ厳重に持っていたけど、私が持っていると変な効果が現れるかもしれません」
「後は俺が持とう。しっかり巻きつけてくれ」
 ユウリは稔の腕に羽衣を巻きつかせた。
 これだけすれば、羽衣はもう力を発揮する事はないだろう。あったとしても、ここには稔を含め10人の能力者達がいるのだから。
 こうして、千佳の持つ羽衣は能力者達の手によって、厳重に確保されたのであった。

●優しい声の主は
 声が聞こえる。
「ありがちな話に興味はないわ。でも、そこまで人を想う事ができたのは、自分の誇りにしてもいいとは思うけどね」
 ちょっと厳しい事を言われたけれど、悪い響きではない声。
「叶ってもやぶれても、傷つかへん恋なんてありまへんぇ? 一臣さんと糸が繋がってるなら、また巡り会えるもんどす。誰と誰が繋がってるかなんて、わからへんさかいに」
 まるで京都の舞妓を思わせる口調。何か含みがあるようだけど、優しい響きがある。
「千佳さんは、晴美さんも一臣さんも大好きなんだと思うんです。お二人とも大好きだから二人の恋を助けて、二人とも大好きだから仲睦まじいお二人の側にいる事がつらかったんでしょうね」
 うん、そうかもしれない……。優しい言葉はなおも続く。
「おばあちゃんが言っていました。人を本当に好きになれる人は幸せになれる人だって……。だから千佳さんには生きて幸せになって貰いたいです。彼女の大好きなお二人に、これ以上、悲しませないで欲しいのです」
 優しい言葉は胸にしみた。
「強い女はいつでも損をする。弱みや隙を見せることを厭うゆえに、その弱さに人は気が付かない……本当は他者が思うほど強い人間などいないというのに……」
 どこか、ぶっきらぼうな響きだけど、その声は相手を思いやる心に満ちていた。
「千佳さんの優しさに、そして他にもある素敵な処を見つけてくれる、そんな人を見つけてね」
 元気な声。そんな人を見つけられたら……こんなに苦労しないと思うんだけど。
「んーと、何て言ったらいいかよく分かんないけど……どんなに悲しい事があっても、いつか良い事があると思うから、笑って生きてれば笑顔が幸せを運んできてくれるよっ♪ 絶対……きっと……多分……? と、とりあえずっ! こんなボクでも頑張ってるから、人生何とかなるんだよっ!」
 そんな声に励まされる。
「ね、千佳さん? 死に逃げないで。傷ついても傷つけても、生きていればいつの日か……また、手を取り合うことも出来るんだから、さ」
 最後の声が、忘れられない……。

「千佳ちゃん、千佳ちゃん!」
 揺さぶられて目が覚めた。
「晴……美?」
 目の前には、包帯だらけの晴美がいた。
「よかった、私、千佳ちゃんが死んじゃったかと思っちゃった」
「そんなことないだろ? 僕らと同じ、寝てただけだから」
「でもでも、千佳ちゃんが死んじゃったら嫌だよ! だって、私にとって千佳ちゃんは、世界で一番大切な親友なんだから!」
 晴美のそんな言葉に思わず苦笑してしまう。
「敵わないな、晴美には……」
 腕で目元を隠す。その下できらりと光る雫があった。


 今回の事件で確保された羽衣。
 学園の調査によると、この羽衣もまた『天女の羽衣』と呼ばれるメガリスである事が判明した。
 能力者達の活躍により、羽衣を巡る事件は、こうして終息を迎えたのである。


マスター:相原きさ 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2007/05/31
得票数:楽しい1  泣ける12  カッコいい11  知的1  ハートフル70  せつない46 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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