<リプレイ>
● やたら気温が高い日が続いたり、「秋らしい」とは言いにくいながらも、季節は秋である。 能力者達は鎌倉を離れ、神奈川県西部を訪れていた。 風は涼しく空は晴れ、山は紅葉に染まる。いかにもと言う光景を目にすれば、否応なく秋を実感できようと言うもの。 「山に茸採りに行くがも久しぶりやね、実家は周り山やったけんよぉ採り行きよったけんど」 山間の集落で生まれ育った宇津木・佐平次(蝋梅・b32729)にとっては、山道も慣れっこ。 また、経験者が居るか居ないかは、キノコ採りにおいてはかなり重要な要素だ。 「鍋と網にカセットコンロ、醤油、バター、アルミホイル、お肉や魚、野菜類……何も、問題は……」 その横を歩くのは、極めて重装備の蒼月・秋奈(月下ニ咲ク花・b72525)。 確かにこれだけの備えがあれば、キノコを調理するのに不安は無さそうだ。 「キノコ狩りは初めてですし、面白そうです。でもまずは妖獣退治、羽目を外すのはその後ですね」 腕利きの能力者が8人……いや9人。しかも相手はさほど強力とは言えないゴースト。 ついついキノコ採りの方に意識がいってしまいそうになるが、結城・結衣菜(ヴァンパイアガール・b54577)は緩みそうになる意識を引き締める。 「……あ、妖獣退治が先でしたね。また忘れるところでした、てへ♪」 そんな言葉を聞いて、本来の目的を思い出した今倉・愛(澄んだ琥珀色・b61534)。 彼女……もとい、彼は以前にも、依頼のオマケとしてキノコ採りをした経験があるらしい。 「あ、涼子さん、キノコの味見よろしくお願いしまぁす」 「味見って……今回は食用キノコ以外は絶対に口にしないですぅ。キノコグルメ持ちの皆さんに任せますぅ」 にっこり笑う若生・めぐみ(キノコの国のめぐみ姫・b47076)と、かぶりを振って断固拒否の姿勢を示す志筑・涼子(残念な子とは呼ばせない・bn0055)。 彼女らもそんな経験の持ち主らしいが、涼子は過去の苦い経験から学習している様だ。 「それにしても……欧州では豚が茸探ししますが、この豚も茸が大好物なんでしょうか」 トリュフを探す豚と、今回退治すべき妖獣の姿を重ね合わせつつ、小首をかしげる竜桜院・エレナ(幸運の金色兎・b32417)。 彼女はれっきとしたヨーロッパ育ちである。 「茸が生えた豚さんとか……纏めて煮ると美味しそう……」 もし妖獣が食べられるものなら……と。 陽桜祇・柚流(華焔公・b21357)は、自分の腹をさすりつつ呟く。 彼に限らず、山道をひたすら歩き続けてきた能力者一行は皆、少なからず空腹を感じ始めていた。 何と言っても食欲の秋である。 「あ、看板がありますよ」 諏訪・八雲(神に仕えし白狐・b83224)が指差す先、キノコ狩りの看板が出ている。 どうやら、妖獣の巣食う山に到着した様だ。 「さあて、初めての冒険頑張りますか」 彼にとっては初陣となる為、他の能力者たちに比べると多少表情が硬いが、ひとつ気合を入れなおす様に呟く。 秋の山において、まずは妖獣狩りを始めるとしよう。
● 「あまり散開しない様にしましょう。どこから現れるか解りませんから」 「うん、そうだね。今のところ特には……」 エレナの言葉に頷くのは、感覚を鋭敏に研ぎ澄ませる柚流。 山の中は木々が生い茂り、視界は狭い。 「足元にも気ぃつけて歩こ」 佐平次は登山靴で足下を確かめながら歩む。 昨晩パラついた雨で、地面は若干湿っている様だ。ただ、雨の翌日ほどキノコ採りに適したタイミングも無い。 「うぅ〜、お腹すいたし、もうキノコ探し始めませんかぁ。妖獣出てきたら適当に対処するって事でぇ」 「そんな片手間には……」 緊張感の欠片もない涼子と、あきれ顔の八雲。 「あ、ほら! 言ってる傍からキノコ発見ですぅ。しかもこれは……もしかして……松茸って奴ですかぁーっ?!」 地面から顔を出していたキノコに飛びつく涼子。 「……むむ、中々抜けないですぅ。無理矢理引っこ抜いて傷が付いたりすると価値が下がるしぃ……あれ?」 松茸らしきキノコを引っ張っていた涼子だが、どうも様子がおかしい。 「……藪柑子?」 と、こちらも隣に控えていた蜘蛛童の異変に気づく佐平次。何かを警戒している様なそぶりだ。 「気を付けてください! 殺気を感じます!」 「涼子、それ……」 「妖獣だよ!」 八雲、秋奈、柚流が言うが早いか、地面が盛り上がる。 ――ぼごっ……ぼごぼごっ。 「どわあぁっ!?」 姿を現すのは、背にキノコを生やした巨大な豚妖獣。 「もしかして、この子達がキノコを探す豚さん?」 めぐみがまじまじと観察する間に、周囲からも同様に2匹が姿を現す。 「山の恵みは皆の物、独占させません」 ギンギンカイザーXを飲み干し、身構えるエレナ。 「敵の動きを止めますね」 ――バッ! めぐみはファンガスで編み上げた網を投げつける。 「やっつけないとですね、主にキノコのために」 「そこ、少し止まっていなさい」 間を置かず、愛のクライシスビート、結衣菜のジャンクプリズンが次々に妖獣の動きを止める。 「一体ずついこう!」 柚流の手から放たれる、蒼い雷弾。 「ブギィィィッ!!」 「総てを蝕む魔眼よ……」 スパークが走って妖獣の叫びが轟く中、秋奈の瞳が禍々しい力を帯びる。 「藪柑子がんばろな」 ――シャッ! 佐平次は、藪柑子が妖獣に食らい付くと同時に、飛斬帽を投げつける。 下馬評どおり能力者の力は遥かにゴーストを圧倒しており、早々に主導権は握られた。
「また胞子を飛ばす気や!」 佐平次が警告を発するのとほぼ同時、全身を震わせた豚妖獣からおびただしい量の胞子が飛ばされる。 「げほっ! げほ!」 「この程度なら死にはしません」 咳き込む涼子と、尾獣穿を繰り出す八雲。 「速やかに成仏して下さいな」 エレナの指が宙に閃き、描かれた豚妖獣が本物のゴーストへと食らいつく。 一匹、また一匹と能力者達の攻撃の前に崩れ落ちる妖獣達。 相応の抵抗はしてきたものの、やはり能力者達の敵では無かったようだ。 程なくして、最後の一匹も集中攻撃の前に倒れたのだった。
● 「松茸は、山頂近くの山の斜面、適度に日当りと湿り気のある所でしたっけ……結構体力使いますね」 エレナは斜面に踏ん張りつつ、木々の根元を根気強く探す。 「赤松の根元あたりの土に埋まっちょって、ちびっと出ちょる天辺が目印やったっけ。藪柑子は分からん?」 佐平次はパートナーの藪柑子と共に松茸探し。 「なかなか見つからない物らしいけど……見つかったらホントらっきーだよね!」 少し離れたところでは、柚流が図鑑を片手にナメコを収穫中。 「シロちゃん、美味しいキノコの場所分かりますか?」 「私の中のファンガスが囁きます。キノコはそこにあると」 一方めぐみや愛は、キノコのありかをファンガスに尋ねながらの捜索活動。 「えっと、これは毒キノコだからこっち……」 愛は手当たり次第、めぐみはお土産に毒キノコを分けて集めている様だ。 「共生者用と食用のキノコ、絶対間違わないで下さいねぇ……危ないから絶対間違わないで下さいねぇ!?」 念を押す涼子。決してフリではない。 「こういうときは……キノコグルメが、うらやましいわね。……みっけ……」 食用かそうでないかを見分ける作業は、何しろ安全に関わる問題なので神経を使う。秋奈はファンガス共生者を羨ましがりつつも、マイタケを確保。 「えぇ、俺たちが食べちゃいけないものを食べたら、大変なことになりますからね。……それにしても、森に来るとなんだか懐かしいですね」 八雲は相づちを打ちながら、山の自然を満喫している様子。森の奥で暮らしていた時代の事を懐かしく思い出しているのだろうか。 「あれ、このキノコ図鑑に載ってませんね……でも見た目が地味だから、たぶんいけるはず」 結衣菜はそんな事を呟きながら、正体不明のキノコを採取。 ちなみに、見た目が派手なキノコは毒があり、地味なキノコは大丈夫というのは、誤った認識である。くれぐれもご注意を。
「茸いうたら火で炙ったがが一番好き。簡素やけど美味い」 網の上では、佐平次と秋奈の焼いていたマツタケやヒラタケが丁度良い頃合い。 能力者達の運の良さはここでも遺憾なく発揮され、ホンシメジやマツタケと言ったレアキノコもかなりの量をゲット出来ていた。 9人プラス1匹で食べても、十分お土産を確保できそうだ。 「いただきます……」 いよいよ限界に近くなっていたらしい秋奈も、ようやく焼き上がったキノコに舌鼓。 空腹に勝るスパイスなしと言う所だろう。 「あぁ、良い匂いですね」 こちらでは、少し焦げ目の付いたアルミホイルを結衣菜が開く。すると、とたんに広がるバターの香り。 「わぁ、美味しそう! こっちのピザ風はどうかな……」 柚流が開くのは、鶏肉とピザソースを用いた洋風キノコ。こちらも、きつね色に焦げ目のついたチーズが食欲をそそる。 「やっぱり採れ立ては違いますぅ! しゃっきりぽんですぅ。味の宝石箱ですぅ」 テンションを上げて騒ぎつつ食べる涼子と、対照的に八雲は、この山の神々に礼を述べつつ、静かに味わう。 「皆さん、お鍋も出来ましたよ」 「かつおと昆布がいい香りです」 そうこうしている間に、家事全般に定評のあるめぐみと、美味しいだしの取り方を実践する八雲が、鍋の下ごしらえを完了させて皆を呼ぶ。 「これ、卵とじでもなんでも好きにつこうてや。で、そっちのは?」 佐平次は持参した卵を提供しつつ、愛の手がける鍋に視線を向ける。 「はい、こっちは共生者用の鍋です。せっかく採ってきたんですし、美味しく頂かなくちゃ。やっぱり此方の方は色合いが綺麗ですねー」 「こっちはグルメ持ち用ですので、抓まないで下さいね」 にっこり笑いつつ答える愛とめぐみ。確かに、ピンクや赤、更にはパステルカラーのキノコなども煮込まれており、非常にカラフルだ。 「涼子さん味見してみます?」 「いやいや……」 断る涼子だが、ここである事実に気づく。 面子的に見て、無茶をする人間が居ないと言うことに。このままでは、ほのぼのとした空気のまま終わってしまうではないか。 「……ちょっとなら大丈夫ですよねぇ、ほんのちょっとならぁ……」 取り皿を受け取る涼子。 かくして、一同は秋の味覚を満喫したのだった。
● 「後片付けはこんな所ね……行きましょうか」 片づけを終えた秋奈が、皆を見回す。 さすがは食欲の秋。一行は調理した分のキノコを綺麗に平らげた。 「こんだけあれば当分は困らんで済むろう」 新聞紙に包んだ大量のキノコを抱える佐平次。 「いやー、今年もいいキノコ狩りができました」 愛やめぐみも、お土産のキノコを背負って満足げ。 「秋の風物詩を堪能できたね」 「ご馳走様でした!」 柚流とエレナも満腹感を覚えつつ、八雲に倣って山に感謝の念を捧げる。 「こういうみんなでワイワイってバーベキューみたいでいいですよね。楽しかったです……あれ? 涼子さんは?」 ふと、周囲を見回して涼子が居ないことに気づく結衣菜。 「私ならここに居ますよ?」 と、背後で微笑む涼子。 「さぁ、皆さんの頑張りで悲劇を回避することが出来ました。後は暗くなる前に学園に戻りましょう」 「……何か違和感が……」 「やっぱり食用でないキノコはグルメ持ち限定ですね」 かくして山の妖獣は葬られ、悲劇は未然に回避された。 山の恵みで空腹を満たした一行は、不自然に健全な涼子に続いて、凱旋の途についたのであった。
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参加者:8人
作成日:2011/11/10
得票数:楽しい15
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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