≪白桜寮≫桜吹雪に集う


<オープニング>


 チェコ共和国、首都プラハ。
 この街で最近ちょっとした騒ぎになっているのは、ボヘミアンガラスの店ばかりを狙って襲う、謎の窃盗団の存在だった。
 いずれも店員達の目を盗み、彼らが『いつの間に盗まれたのか分からない』と口を揃える見事な手口で、看板商品ばかりを攫っていく。犯人の目撃情報は皆無で、足取りが全く掴めないまま、事件だけが繰り返され続けている……。

「これはね、犯罪能力者による事件なの」
 目撃情報が無いのは、世界結界が真実をくらませているからだと、スプリーナお婆さんは雲乗・風斗(結びの傘・b51535)ら、集まってくれた面々に教えてくれた。
 彼らは能力者としての力を悪用し、窃盗を繰り返しているのだ、と。
「辛うじて集めることができた、情報の断片を組み合わせて分かったことは、まず犯人が5人組であること。どうやら全員がフリッカー系のジョブを本業かバイトにしているらしいこと。彼らは人気の無いタイミングを狙って店に入ると、店員を眠らせて事に及んでいるらしいこと。盗まれるガラスは常に5つで、それ以外には一切手をつけないということ」
 スプリーナお婆さんは指折り数えるように、ゆっくりと判明している事柄を語ると、彼らを取り締まって欲しいとお願いした。

「何度も繰り返してるというし、おそらくまたどこかへ盗みに入ろうとするだろう」
「連中が狙いそうな店の当たりをつけて、張り込むか」
 闇野・啓(黒き刃と魂の銀貨・b25609)の読みに山内・連夜(葬魔の奏者・b02769)が頷く。とはいえプラハは広い。皆で手分けしながらボヘミアンガラスの店をチェックしていくと――。
「ね、面白いもの見つけたわよ」
 愉しげな様子で集合場所に現れた山科・月子(ディープブラッド・b61466)に連れられ、彼女が見つけたという店に向かった一行は、窓からそれを覗き込んだ。
 道行く人へ見せる為なのだろう、店の外へ向けて商品が並べられている展示棚の一角に置かれていたのは、
「あら、綺麗……」
 霧崎・若葉(高校生ナイトメア適合者・bn0198)が目を細める。
 幾重にも重なり合った、複雑なカットが織り成す図柄は――桜吹雪。
 一瞬、ここが春の桜並木の下だと錯覚してしまいそうな程、美しい桜吹雪が描かれた置物が、そこにはあった。
「桜だなんて、なんだか奇遇ですねい」
 同じ『さくら』を名に持つ護宮・サクラコ(さくら色アイアンメイデン・b72480)は、こんな遠いプラハに来てまで、日本の花であるはずのサクラに出会うだなんて、奇妙な縁もあるものだと笑う。
「今日入荷したばかりですって。名前は『サクラヴァーニツェ』だそうよ」
 くすりと歪む月子の唇。なるほど、この美しさ、珍しさなら、犯人の次の標的となる可能性は十分にありそうだ。
「あそこ、隠れるのに向きそうね」
「よし、連中を待ち伏せしようぜ」
 オリヴィエ・シンフォティア(魔法陣描く金鈴音の魔女・b77441)が目をつけた細い路地に入り、一行はそれを待つ。

 日が沈み、夜が更け――そして異変は起こった。
 既に閉店の札が出ている店へ、堂々と入っていこうとする5人組。申し訳なさそうに出てきた店員が、今日はもう閉店したのだと、説明し始めた時だった。
 そのうちの1人、金髪の女が暖かな歌声を紡ぐなり、店員の体が崩れ落ちた。
(「ヒュプノヴォイス!」)
 それが何の力によるものか、もう疑いようも無い。
「よっしゃ一番乗りー!」
「ちょっと、それはアタシが貰うのよ!」
「おい、騒ぐな。ガラスが割れたらどうするっ」
 インカムを装着した細身の青年が店内へ飛び込むのを、スラッシュギターを抱えた、気が強そうなベリーショートの女が追いかける。そんな2人を制するのは、夜だというのにサングラスを掛け、肩からキーボードを提げた男だ。
「そうそう。私達が来たのは何の為? この美しいガラスちゃんを手に入れる為でしょう? たとえお目当て以外であっても、この子達を傷つけるなんて論外よ」
 諭すように語りかけながらも、金髪の女の視線もまた同じガラス――『サクラヴァーニツェ』に注がれている。
「まあ、しょうがないですよね。これ凄いですから。でも……どうします? 手に入れられるのは1人だけ。残りの4人は、他を当たらなくっちゃ」
 スラッシュギターを肩に掛けた少年の言葉に、5人の視線が交差する。
「……揉めてるみたいですね」
「僕らには好都合だ。今のうちに身柄を押さえよう」
 こっそり中の様子を伺っていたセルシア・マレヴァール(深緑の茨纏う幼き魔女・b76661)の報告に、海原・零(蒼魂の霹靂・b78340)が皆を振り返る。
 勿論、異論は無い。
 窃盗犯達は棚の傍を離れると、今は品物が片付けられ、空になっている展示用のテーブルの方へ集まり始めた。どうやらそこで相談しようという腹積もりらしい。
 どうやら店内の商品は夜になると一度、片付ける決まりになっているようで、どのテーブルの上も空になっていた。
 商品があるのは窓際の展示棚だけ。テーブルの方で戦えば、展示されたままのガラスに被害を出さずに何とかすることができるかもしれない。ただ、スペース的に、全員がそこで戦うのも困難だろう。
 あるいは、店の外に敵を引きずり出して戦うのも手だろうか。ただそれは、逃走を許す可能性のある、諸刃の剣であることを忘れてはいけない。
 何にせよ、動くなら今がチャンスだ。
「そこまでだ!」
 能力者達はイグニッションすると、一斉に動き出した。

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参加者
山内・連夜(葬魔の奏者・b02769)
闇野・啓(黒き刃と魂の銀貨・b25609)
雲乗・風斗(結びの傘・b51535)
山科・月子(ディープブラッド・b61466)
護宮・サクラコ(さくら色アイアンメイデン・b72480)
セルシア・マレヴァール(深緑の茨纏う幼き魔女・b76661)
オリヴィエ・シンフォティア(魔法陣描く金鈴音の魔女・b77441)
海原・零(蒼魂の霹靂・b78340)
NPC:霧崎・若葉(高校生ナイトメア適合者・bn0198)




<リプレイ>

「大人しく縛につきなさい!」
 先頭を切って颯爽と飛び込んだのは山科・月子(ディープブラッド・b61466)だった。
 不敵な笑みを浮かべ、さらりと流れる髪をかき上げる彼女とほぼ同時、すぐ隣を駆けていくのは山内・連夜(葬魔の奏者・b02769)。
 2人の視線の先にいるのはサングラスの男――ヤオだ。初手で狙うは集中攻撃可能な位置にいるターゲットから。それは突入前、彼らが打ち合わせた作戦でもある。
 彼が只者ではあるまい、と予測したのは連夜だ。この闇夜でサングラスを掛けているとは余程夜目が利くのか、それとも心眼持ちか。入口に近い位置にいたのも、襲撃を危惧しての事だろうか……などと彼を気に掛ける連夜だったが。
「変なところに感心してる場合ですか?」
「そうは言うが、普通は掛けてたら見えないものだぞ?」
 くすりと笑う月子に肩をすくめ、まあ戦ってみれば分かることだと駆け出したのが先刻のこと。華麗な動きで月子が距離を詰めるのに続き、連夜は霧影爆水掌を放った。
「こいつら……!?」
 咄嗟にキーボードを構えて衝撃を逸らすヤオだが、全てを防ぐには至らない。それでも奇襲に等しい攻撃に対応してくるとは、やはり生易しい相手ではないと連夜は検分する。
「絶対に逃がさないぜ。投降するなら早めにな!」
 2人の後ろからグラインドスピンで滑り込んだ雲乗・風斗(結びの傘・b51535)は、ヤオのみならず傍らのペトルも射程に収めて高速の回転蹴りを繰り出す。
「っく!」
「投降? なんだそれ!?」
「同業者……って訳でも無いのかしら……?」
 攻撃され、5人はこちらを伺ってくる。だが、悠長に自己紹介しあう時間は残念ながら無い。
 海原・零(蒼魂の霹靂・b78340)は仲間達の隙間を縫うようにして距離を詰め、トーテムの力を宿した拳を力いっぱい叩きつけた。
「能力を悪い事に使う輩には鉄拳制裁だ!」

「……後ろから眺めてると、なんか微妙な気分だな」
 ドアから更に距離を置き、状況を見守っていた闇野・啓(黒き刃と魂の銀貨・b25609)はギンギンカイザーXを飲みながら率直な感想をこぼす。
 店内のスペースと逃亡阻止を勘案し、彼ら5人は店外にいた。オリヴィエ・シンフォティア(魔法陣描く金鈴音の魔女・b77441)は開け放たれたままのドアの脇に立ち、敵をスケッチするべく、その様子を観察する。
「にしても困った集団ね」
 買えないのなら、目で見て心に刻むもの。欲しいからって盗むもんじゃないとオリヴィエは口を尖らせる。その後ろから、顔を覗かせたのは護宮・サクラコ(さくら色アイアンメイデン・b72480)。
「無駄かもしれませんが、一応降伏勧告しておきますねい。あなた方は包囲されています。速やかに投降すれば、命まではとりません。いかがですか?」
「ふっ……ざけるなぁぁっ!」
 聞こえないかもしれないけど、と思いつつ呼びかけるサクラコだったが、その声はバッチリ届いたらしい。すぐさま怒声が返って来た。
「外にもいるの?」
「1人、2人……もっとですね」
「多いな」
 包囲されている事を知った彼らは、反撃に出ようとした動きを押し留めた。その代わりに、
「そういう事なら、力押しよりもこっちね」
 テレサは歌声で眠りへ誘った。響きは店の入口にも届き、オリヴィエの体をぐらつかせる。続けざまに奏でられたのはペトルのショッキングビート。その衝撃に風斗が縛められた。
「ヤオ、大丈夫か!?」
「助かる」
 後ろからカールが放ったヘブンズパッションに、零の一撃で意識を失っていたヤオが立ち上がる。それを見届けたヤナはスラッシュギターをかき鳴らした。
「アタシが引き付けるから、ずらかりましょ!」
 サタニックビートだ。月子と連夜の脳裏に抗い難い怒りが浮かぶ。ヤオは突破口を切り開くべくドアへ向けて駆け出す。まともに戦っても分が悪いと判断した彼らは、逃げの一手を打つ気のようだ。
「そうはさせません。私の茨でお縄になってもらいますっ」
 その足元からセルシア・マレヴァール(深緑の茨纏う幼き魔女・b76661)の茨が、一瞬にして湧き上がり覆い尽くす。完全に締め付けられた体は動きを封じられる。
「結構やられたか」
 啓はギンギンカイザーXをオリヴィエに投げた。早速半数近くに悪影響を与えてくるとは。巻き込まれないよう距離を置いた事もあり、啓に効果は及ばなかったが、それが仇となって啓の支援もまた、オリヴィエまでにしか届かない。
「やられた……でも!」
 それを浴びて目を覚ましたオリヴィエは、立ち上がりざまに自ら生み出したギンギンカイザーXを月子へ投げた。怒りに目がくらみ、更に店の奥へ動くような事があれば、オリヴィエの位置からも支援出来なくなりかねないからだ。
「動けない今のうちがチャンスですねい」
 一方サクラコは華麗なペンさばきでヤオをスケッチする。さくら色のラインは形を成すと、一気にヤオへ飛び掛かった。更には霧崎・若葉(高校生ナイトメア適合者・bn0198)が伸ばした指先を辿るように、疾走したナイトメアがヤオを蹂躙する。
「向こうは任せて大丈夫そうだな」
 あちらは外の面々が何とかしてくれるだろう。なら、と零はトーテムを宿した拳を今度はペトルに叩き込んだ。そこへ冷静さを取り戻した月子が忍び寄る。
「アナタ、とても美味しそうね」
 月子は歪めた唇を更に首筋へ寄せた。だが、それが触れるよりも微かに早く、ペトルは身をよじらせてそれを回避する。
「あら、残念」
 嫣然一笑、囁いた月子の後ろを連夜が駆けた。その目に捉える標的は、ヤナ1人だけ。風を切って繰り出されるナイフの一撃は鋭いものの、先刻程の威力は無い。
 一方、身の自由を取り戻した風斗は、先程のお返しだとペトルの前へ躍り出た。軽やかなフットワークで敵を翻弄しながら惑わし、生じた一瞬の隙を突いて、風斗は超高速の蹴りを叩きつけた。
「やりますね……しかし、今度はどうですか?」
 集中攻撃を受け、包囲される格好となったペトルは再びショッキングビートを奏でる。辺りを震わす衝撃に、今度は零が動けなくなってしまう。
 その隙に、とテレサの歌声が傷を癒していく。傍らのカールは一瞬逡巡したものの、
「俺達はいい。それよりも、あいつらを」
「わかった。俺様の華麗なステップを魅せてやるぜ!」
 ヤオから言われ、激しいダンスパフォーマンスを見せつける。生き生きとしたその動きは、月子や風斗をも巻き込んでいく。
 そして自力で茨を振り解いたヤオは、幾重にも力を込めた歌声を解き放った。衝撃が店内のみならず、店外にいた面々まで貫いていく。セルシアはすぐさま再び茨で辺りを覆い尽くさんとするが、押さえ込みきれない。
「逃がすかぁ!」
 そこへオリヴィエの描いたキャラクターが襲い掛かる。茨に気をとられていたヤオは、その直撃を食らってよろめいた。
「飲食店前の見本で、飢えを凌いだことあるんだから私はっ!」
「それ、胸を張るところか……?」
 言い放つオリヴィエにぼそりと呟きつつ、啓のスピードスケッチが続く。既に幾度も傷を受けたヤオの服は、あちこちが裂け、ボロボロだ。しかし満身創痍になっても、その姿はまだ屈していない。
「霧崎先輩!」
「ええ」
 振り返ったセルシアに頷き返し、若葉は悪夢爆弾を飛ばす。だが弾けた悪夢の塊すら避けきって、ヤオは後続へ退路を示し続ける。
「力、技、心、みなぎれー、はい!」
「助かる!」
 サクラコからギンギンカイザーXを受け取り、零は痺れの抜けた体に活力を漲らせていく。ヤナ目掛け攻撃を続けていた連夜もまた怒りを制御しきると、そのままの位置からペトルを振り返った。
「あの男までは届かないが……なら」
 店外を目指すよりもまず、落とせそうな相手から沈めるまで。
 連夜は蒼き雷弾を撃ち出す。それはペトルの急所を寸分違わず貫いた。
「しまっ……!」
「ペトルくん!」
 膝をついた体は、もう再び立ち上がる力を持たない。それを目の当たりにしてヤナはサタニックビートをかき鳴らした。途端、月子とオリヴィエの脳裏が怒りに染まる。
「私が連れて行くわ」
 ペトルの元へ駆け寄ったテレサは、彼を連れて店外へ連れ出そうとする。その視線の先で、まるで進路を譲ってしまうかのようにオリヴィエが動いた。怒りに駆られたまま、ヤナ目掛け走っていく。
「仕方ない、距離を詰めるか」
 こうなっては、この位置のままでは分が悪い。啓達は距離を詰めて入口付近を包囲する。その間に退路を確保しようとするヤオを先頭に、敵方は一気に逃走の構えを取るが、
「これでじっとして下さいっ!」
 彼らの周囲をセルシアの茨が覆い尽くす。最後の一発となる茨は、テレサとヤオを見事同時に絡め取った。
 一方、店内では、それを追おうとしたカールの進路を遮るように零が回り込む。
「逃がすと思うなよ……!」
「ちっ!」
 サベージナックルは意識を失わせるには至らなかったものの、その絶妙な立ち位置は移動を遮るのに十分だったらしい。カールは憎らしげに舌打ちしながら大回りし、ついでに、インカムを通した衝撃波を風斗へ叩き込む。
「さんざん人を踊らせたろ。今度は、あんたの番だ!」
 カールに無理強いされた踊りと、それから今の攻撃の分。あわせて返してやるとばかりに、風斗は目にも止まらぬ速さで蹴り抜いた。ただただ、三日月の軌跡だけが残像として視界に残る。
「欲望も抑制出来ないガキ共が。……今の自分の姿でも見て、悔やむんだな!」
 啓は、撤退ルートを辿る彼らにまとめてプロトヴァイパーを叩き込んだ。反動が啓の体にも襲い掛かるが、見返りは十分。膨大な電撃は、これまで攻撃を耐え切ってきたヤオの体に限界を超えた衝撃となって降りかかった。
 黒く焦げた体が、落ちていく。
「兄貴!」
「すま、ん……」
 店内で上がった叫びはヤナのもの。後ろをチラと振り返りながら、ヤオは倒れこんだ。
「まぁ『力ずく』で何かしよーってんなら、やり返されても文句言えるモンじゃねーよなぁ」
「てめぇ、よくも……!」
 言い放つ啓に歯軋りするヤナだが、彼女からでは啓には届かない。スラッシュギターを振り回しながらテーブルを飛び越えるヤナだが、薄く笑んだ月子が回り込み、その首筋に牙を突き立てる。
「きゃっ!?」
「ふふ、ごちそうさま」
 思いがけぬ急所への攻撃に声を裏返すヤナ。月子は絡みつかせた体を素早く離すと、嫣然と笑みながら吸い取った血の残滓を手の甲で拭う。
「動けない今がチャンスですねい。逃がさないのでいす!」
 表では、サクラコの鮮やかなペンさばきがテレサを描いていた。その後ろを疾走していく若葉のナイトメアが、更に急所を突いて痛めつける。ペトルを抱えたまま、テレサは茨を振り払えず、一歩たりとも動けないまま傷ばかりを増やしていく。
「テレ……!」
「行かせません」
 叫ぼうとするカールだったが、そこにセルシアの月煌絶零が降り注いだ。青白い月光はカールの体を凍てつかせ、更にそのまま動けなくさせてしまう。ヤナも連夜の霧影爆水掌を食らった後、零のサベージナックルで意識を失う。
 今や彼らのうち2人が倒れ、残る3人も満身創痍。対してこちらは傷を負っているものの、まだまだ十分に戦える状態だ。そんな双方の様子を見、テレサが首を振りながらカールを振り返り、ぎりりと歯噛みしながらカールは目を伏せた。
「――待って頂戴。参ったわ、降参。……降伏は、まだ受け入れて貰えるかしら?」
 代表してそう切り出してきたのは、テレサの方だった。
 命だけは恵んでくれないかしら……と。

「倒すほどの相手ではありませんし。ね? 先輩方」
 セルシアの言葉に皆が頷き返し、結論は出た。最初から彼らを取り締まるのが目的だし、そこまでするつもりは無い。持ち合わせていた救急箱を出し、セルシアは倒れた2人へ簡単な応急処置をしてあげる。
「まったく……こんな素晴らしい能力を持ち得ながら、こういう事にしか使えないのか!」
「う……」
 再び同じ事を繰り返されては元も子もない。零の説教に正座させられた面々が言葉を詰まらせる。
「散る桜は無常も表す。悪事もずっとは続かないってことだ」
 出来るだけ巻き込まないようにと配慮したのが功を奏してか、サクラヴァーニツェはじめガラス細工も皆無事だ。そんなサクラヴァーニツェを見やりながらの風斗の言葉に、彼らが居た堪れなさげな様子でいるのを見るに、どうやらそれなりに反省はしているらしい。
 更にオリヴィエから「買えないなら見るだけ!」と強く説かれ、身をもってひもじさに耐えた話も絡めてたっぷり説かれる5人。
「まあまあ、お姉さま。その辺で……」
 セルシアの取り成しで開放された5人はほっとした顔を覗かせつつ、今後このような悪事には手を染めない事を誓った。
「一件落着ですねい」
 サクラコは満面の笑みを浮かべ、改めてサクラヴァーニツェの前に立つ。プラハにこうして呼び寄せられたのも、きっとサクラヴァーニツェの導き……運命に違いないと、闇夜に浮かぶサクラヴァーニツェを見つめる。
「まあ、少し見るだけなら良いわよね?」
「サクラヴァーニツェ以外にも、素敵なガラスがたくさんありますよ」
 オリヴィエの言葉に、セルシアもほわわっとしながらガラス達を覗き込む。考えてみれば、こうしてまともに外国に来るのは初めてのこと。見慣れない文化は興味深くもある。
「せっかくだから携帯で撮っとこ」
 風斗はカメラを起動させて画面を覗き込む。今出ているガラスは数える程だけ。明日、また昼間に来てみようかと風斗は皆を振り返った。明るい光の下でなら、ガラス達はまた違った姿を見せてくれるだろう。
「そういえば、サクラヴァーニツェって……」
 いくらなんだろう、と風斗は値札を探して……微かに眉を寄せた。想定の範囲内ではあるものの、やはりゼロの数はそこそこ多い。
「さて、面倒事が済んだなら……遊びに行くか?」
「そうね。折角だもの、夜のプラハを愉しまない?」
「わぁ、いいですねい。観光したい場所は山ほどあるのでいす!」
 ガイドブックを取り出した啓に月子が頷き返す。本を覗き込みながら、あちこちサクラコが指差せば、「わたくしもこちらを見てみたいですわねぇ」と若葉も微笑む。
「僕はとりあえずご飯が食べたいな」
 お腹も空いたし、と零がこぼした一言に、そういえばと顔を見合わせる。張り込みと戦いを終え、確かにすっかり胃袋は飢えている。
「じゃあ、まずは腹ごしらえね」
「折角ですから美味しい所がいいですね」
「そういう事なら……」
 お勧め料理店のページを開きながら、一行は歩き出す。
「ほら、山内さんも」
「……ああ」
 悪戯っぽくウインクしながら伸ばされた月子の手に、微かに笑って連夜は応えた。
 この街にはきっと、夜には夜の、また違った楽しみ方があるはずだ。そのひとときを、共に過ごすのも悪くない――と。


マスター:七海真砂 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2011/11/29
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