≪月のゆりかご≫ロンドンの夜は大騒ぎ


<オープニング>


 冬季特有の濃霧が包む街、ロンドン。
 アメリカのニューヨークや、日本の東京などと並んで金融の街である事も知られるが、それ以外にも数多くの美術館や博物館が存在する事でも有名な、世界に名だたる古都である。
 そんな街の一角、ウェストエンドと呼ばれる街区の、一番外れに近い博物館。
 一層の寒さが堪える深夜に、蠢く影があった。その数、4つ。影は入り口と思わしき扉へと近付くと、一気に立っていた2人の警備員に当身を食らわし、気絶させる。
「やれやれ……『M』、手筈は大丈夫かい?」
「ええ、問題ないわ『A』。警報ベルは約10分間、おネンネしてるわよ」
 建物に張り付き、小声で会話を交わすのは、『A』と呼ばれた東洋風の男と『M』と呼ばれたグラマラスな女性。
 『A』は手馴れた手つきで、扉に取り付けられた鍵をいとも簡単に解錠する。そのまま音も立てずに素早く内部へと進入する4人。
「……で、目的の『眠れるプリンセス』の絵はどこにあるんだ?」
「焦んなよ『J』。お姫様とのご対面はもうじきだぜ」
 M29……通称『44マグナム』と呼ばれるリボルバー銃を構え、周囲を警戒していた帽子の男『J』の言葉に対し、軽口を返す『A』。
「しかし面妖な……これほどの施設、警報が死んでいるとは言え、何の警備も無いとは」
「心配性だな、『I』は。なーに、ここはロンドンでも場末の博物館だ。警備がおざなりなのは、事前の調査で明らかだからな」
 日本刀を手に、訝しげな表情を見せる『I』に対し、ニカッと笑顔を浮かべる『A』。
 会話を交わしつつも、慣れた動きで博物館内を進む影達。やがて4人は、ホールと思わしき広い場所へと到達する。
「見えたわ、あれが『眠れるプリンセス』よ」
 『M』が指差す先。暗がりながらも一際輝いて見えるその絵は、横たわった高貴な女性が描かれた絵画だ。細部まで丁寧に描き込まれた絵は、この博物館の目玉と言っても過言では無いだろう。
「よし、さっさと手に入れてオサラバしようぜ。長居は無――」
「そこまでですよ、怪盗の皆さん」
「!?」
 突然の声に、驚く怪盗達。声の主は物陰から進み出ると、ホールと『眠れるプリンセス』との間にゆっくりと姿を現す。
「随分と荒っぽい手を使いますね。尤も、わざわざ『予告文』を送り付けて来る辺り、自信もあるのでしょうが」
 声の主――『月のゆりかご』の現団長、室生・詩歌(無彩色の天球儀・b73737)が片手に持った紙切れをひらひらとさせながら、落ち着いた口調で語りかける。
「予告文……なーるほど、お前達が『ギンセイカン』の奴らってワケか」
「そういう事。わざわざあたし達に予告文を送りつけて挑戦して来るなんてね。大人しく縛に付け、と言っても聞きそうにないみたいだね」
 両手を広げ、『やれやれ』と言った表情を見せる結城・薫(陽の下に立つ者・b67932)。
「……どうする、『A』」
「どーもこーも、こうなる事も予想して予告文送りつけたしな。まぁ、テキトーに追い払えばいいんじゃなーい?」
 『A』と『J』が『月のゆりかご』の面々から目を放さぬまま、小声でやり取りする。
「あー、英語で会話すんのは勘弁してくれ。オレ、英語苦手なんだよね」
「そんな事言ってる場合じゃないと思うけど……でもそこは是非『オレ、帰ったら英語の勉強するんだ』とか言ってくれると嬉しいかな」
「なんでこんなトコまで来てフラグ立てなきゃなんねーんだ」
 敵と相対した状況でも、緊迫感の無い会話を交わすのは、来留須・京一(廃洋館の野良吸血鬼・b54059)と旗野・起子(フラッガー・b81517)の2人。
「……『A』、あと7分程度よ。片付けるなら早いほうがいいわ」
 『M』の言葉に、4人がそれぞれ自分の武器を構える。『A』『J』はそれぞれ銃を、『M』は投げナイフを、そして『I』は日本刀を。
「やる気ね……いいわ、相手してあげましょう。でもその前に、こちらにも『切り札』があるから、それを出させて貰うわ」
 『月のゆりかご』の初代団長でもある 小鳥遊・桐音(御伽草子・b53243)が、腕組みをしたまま自分の後方を顎で指し示す。
「……切り札?」
 序盤から切り札とは、よほど戦力に自信があるのか? 怪盗達が警戒する中、現れた『切り札』とは――。
「よいよいよい、怪盗にも仁義と言う物がある事、知ってるかい? それすら守れないようなら、それは『急ぎ働き』って言うもんだよぃ」
 現れたのは……同じ『怪盗』を名乗っているティキ・レイス(哂ウ奇面・b72085)だ。
 全くの意味不明の展開に、呆然として言葉を失う怪盗達。
 ていうか、あんた誰。
「おや、本場日本の怪盗である儂が理解できないと見えるねぇ。いいぜぃ、皆の衆ヤッチマイナー」
「いや、切り札なんですから自分から戦いましょうよ」
 まるで自分が主役の如く振舞うティキに対し、呆れた様な水原・風戯(禍福の風・b64135)のツッコミが飛ぶ。
 何とも微妙な雰囲気が漂う対峙。
「……すっかり雰囲気に乗りそびれましたね。でもまぁ、良い具合に緊張感は解れましたか」
 愛用の紅の刃を持つ長剣『紅牙』を抜き放ちながら、静かに呟く七村・晶(剣牙・b69126)。
 そう、ここは既に戦場である。互いの命と命を懸けた、真剣勝負の場なのだ。
「やっぱりロンドンと言ったらフィッシュ&チップスよね。明日からの観光、何処に行くか決めた? あかね」
「そうね、バッキンガム宮殿かしら……って、今そんな事話してる場合じゃないでしょ!?」
 親友である桐音の質問に答えかけた金森・あかね(天然符術士・bn0003)が、正気を取り戻しいつも通りのツッコミを炸裂させる。
「『A』、あと5分だ」
「! 行くぜ、お前ら!」
 『J』の言葉に怪盗達もようやく目的を思い出し、戦闘体制に入る。
「いいでしょう……貴方達をさっさと倒して、観光旅行を楽しませてもらいましょう」
「あ、それフラグね?」
「いや、もうそれはいいから」
 あくまで最後までペースを崩さない、銀誓館学園『月のゆりかご』の面々。
 制限時間5分、客のいないナイトミュージアムで、戦いの幕は静に切って落とされたのだった。

マスターからのコメントを見る

参加者
小鳥遊・桐音(御伽草子・b53243)
来留須・京一(廃洋館の野良吸血鬼・b54059)
水原・風戯(禍福の風・b64135)
結城・薫(陽の下に立つ者・b67932)
七村・晶(剣牙・b69126)
ティキ・レイス(哂ウ奇面・b72085)
室生・詩歌(無彩色の天球儀・b73737)
旗野・起子(フラッガー・b81517)
NPC:金森・あかね(天然符術士・bn0003)




<リプレイ>


「各自、作戦の手順に従って行動お願いします……さくっと倒して、明日の観光を楽しみましょう」
「「おーっ」」
 現『月のゆりかご』団長、室生・詩歌(無彩色の天球儀・b73737)の指示が飛ぶ。と言うより、既に皆の気分は観光の方へと飛んでるのでは。そんな雰囲気だ。
「J、先に絵を抑えといてくれー」
「よし、分かった! ……ぬっ!?」
 リーダーの『A』に声をかけられた『J』が、博物館の壁にかけられた『眠れるプリンセス』を取りに向おうとした瞬間、相手が飛ばして来た何かを、とっさに銃で払い除けたJの目に写ったのは、風車――。
「ふっ……眠り姫に魅了された者は、君達だけではないという事さ」
「ふざけているのか、お前……その格好は」
 風車を放った水原・風戯(禍福の風・b64135)の格好いい台詞に、Jが吐き出すように答える。
 無理も無い。現在の風戯は、黒マントとタキシード、そして妖しげなアイマスクを装着した、ただの変質者とも言うべき格好。
 しかもその後ろでは、おずおずと何処か恥ずかしげな、風戯のサキュバス・ドール『綾』。某泥棒三姉妹が着用しているような、レオタード姿である。
「なんか……色々と混じっちゃってる気がするわね」
「銀誓館のタキシード伊達男、早抜き0.3秒のプロフェッショナル? かどうかは分からないが、義理堅く頼りになる男、その名も水原風戯」
「何その説明口調っ!?」
 言葉を無くしそうな金森・あかね(天然符術士・bn0003)の横で、何故か棒読み口調で解説を加えた来留須・京一(廃洋館の野良吸血鬼・b54059)に対し、即座に飛ぶあかねのツッコミ。
「くっ、なーんだコイツら。仕方ねぇ、I頼まぁ」
「……心得た」
 動きを封じられたJを横目に見て、今度は日本刀を持った長髪の男『I』に対し指示を出すA。
 しかしその動きも、直後に封じられてしまう。
「中々出来そうね……まぁ、こんにゃく以外にも斬れない物があることを教えてあげましょうか」
 動こうとしたIの足元に突き刺さる弾丸。台詞と共に現われたのは、初代『月のゆりかご』団長、小鳥遊・桐音(御伽草子・b53243)だ。その手に握られた二丁のガンナイフ『壱式・神薙改』『弐式・神威』が、怪しく輝く。
「……望むところ。いざ、参る!」
 桐音のセクシーポーズでの挑発に触発されたか、それとも武人としての何かを感じたのか。Iは正々堂々、1対1の対決を受けて立つ。
「小鳥遊・桐音、ガンナイフの達人。なんでも真っ二つとまではいかないが、怒らせると怖〜いお方」
「ひょっとして全員分言うつもり!?」
 後方で京一とあかねのやり取りが続いている間にも、時間は刻々と過ぎていく。業を煮やしたAが自分で絵を取りに行こうとしたその道を、塞いだ者がいる。
「儂ゃあ怪盗ティッキー! それなりの腕はあるよぃ! 真打同士で泥棒対決しようじゃあないかい?」
 本日の主役、ティキ・レイス(哂ウ奇面・b72085)だ。泥棒対泥棒の戦いを希望した彼は、そのまま敵のボスであるAの対戦を望んだのだ。
「なーるほどねぇ。お前さんもなかなかどうして、使える仲間を持ってるみてーじゃねぇか」
「そりゃあそうよい。儂ゃあ、大怪盗だよぃ」
 にやりと笑いあうティキとA。リーダー対切り札の、正に究極対決――!
「狙った獲物は必ず奪う? 神出鬼没の大いに怪しい盗賊略して大怪盗、その名もティキ・レイス」
「怪しいんだ……それはなんだか納得」
 半ばツッコミも諦めたあかね。しかし漫才やにらみ合いを続ける一行を他所に、素早い動きで絵に近づく影がひとつ。
「Aもアテにならないわね……こうなれば、絵はあたしがもら――」
 紅一点、Mが素早く死角から絵へと近づこうと、物陰から飛び出た瞬間。そこを狙ったような人物が姿を現した。
「あたしが貰う、は立派なフラグね……ふふふ、あなたの相手は私よ。美女フラッガーと名高い私の相手を出来るなんて、光栄に思いなさい」
 フラグある所に彼女の影あり。巨大な撲殺用の『バトルレンチ』を肩に乗せた旗野・起子(フラッガー・b81517)がいつの間にか、動きを察知してMとの距離を詰めていたのだ。
「面白いわね、私とやりあうつもり? お子様は家に帰ってママのおっぱいでもしゃぶってなさい」
「……ふ〜ん、確かにスタイルは良いようだけど、問題は年……よね。女子高生ってだけで美人度アップなのよ、知らなかった?」
 Mと起子のチクチクとした剣呑な会話。異常なまでの殺気が、この2人から放たれている。
「……殺してやるわ。1対1ならこんなマセガキ、相手じゃ――」
「対決中にぶち込まれるのは無粋とか言わないでよ?」
 Mが何か言い終わる前に叩き込まれる、炎の弾丸。完全に油断していたMの身体に直撃したそれは、一気に爆ぜ燃え上がる。愛用のガトリングガン『ホムラ弐式・改』を携えた、結城・薫(陽の下に立つ者・b67932)の重過ぎる一撃が炸裂したのだ。
「このクソガキ……!」
「いや、だからそっちも言ったでしょ。『時間が無い』って」
 逆上したMに対し、さらりと事も無げに言い放つ薫。見れば既に1分経過している。
「くっ……邪魔はさせないわよっ!」
 素早い動きで太股に指していた投げナイフを6本取り出すと、一気に全てを放つM。それら全ては、横槍を入れた薫へと――。
「動きが鈍いですね。狙う方向も見え見え……話になりません」
 薄暗いホールに甲高い音が響き渡る。それはコンクリートへと音を立てて落ちてきたナイフが、飛ばされた音である事に気付くまでそう時間はかからなかった。
「我々は銀誓館学園、結社『月のゆりかご』の能力者です。犯罪能力者であるあなた達を制圧、捕縛します」
 両手に『紅牙』『散華月』の弐振りの剣を持ち、生真面目に、それでいて静かにそう告げる七村・晶(剣牙・b69126)。彼女がこの時内心、そう言えばテストが近かったですね、などと考えていた事は誰も知る由も無い。
「な、な、なんで」
 自らの不利を悟り、半ばヤケクソとなりナイフを放つM。しかし、最早一同の相手では無かった。
「何で私には3人なのよーっ!?」
「これが若さの差ってやつよ♪」
 言い放った起子のインパクト、そして薫のフレイムキャノン、晶の黒影剣が全てMへと命中し。Mは捨て台詞を残し、その場に崩れ落ちる。
「あ、忘れてた。フラグを立てているのかへし折っているのか、このオレにも分からない謎の女の子、旗野起子」
「……遅すぎるわね、反応」


「M! お前等……!」
 一角が崩れた事に危機を感じたJが、即座に動いた。眼前の風戯を飛ばし、別の相手を狙ったのだ。その狙いは……ティキ! 流石に避ける事も叶わず、ティキが思わず膝をつく。
「よいよいよい……こいつぁいけないねぇ……水原クンヤッチマイナー」
「今が好機、急ぎ絵を!」
 ティキが崩れた事で、Aのマークが外れた事を察知したIが絵を奪うよう急かす。その言葉に従い、急ぎ踵を返すA、だが。
「はいはい、怪我した人は回復しますので、思いっきりやっちゃってください。あ、その前に」
 のんびりした口調で詩歌が術手袋を装備しなおす。そして、その直後。
「動かないでもらえますか? そろそろ時間も押してますので」
 3人のほぼ中心で突如起こる爆発。同時に飛び散るように放たれた無数の茨が、一気に3人の身体を包み込んだのだ。
「ぬぅ……面妖な!」
 しかし唯一難を逃れたIが、くるりと向き直るとそのまま桐音目掛けて突進する。そして、その腰に挿した日本刀を一閃。
 誰の目にも、桐音は完全に避けた様に見えた。だが、次の瞬間。桐音の腹部から、大量の血が溢れ出したのだ。
「うそ……? まっ、て……わたし、あの人に……なに、も言って……ない」
 弱々しく呟き、その場に倒れ付す桐音。その一瞬の静寂の後。
「う、そ? ……いやぁぁぁぁあああ!!」
 あかねが涙目になり思わず叫ぶと、倒れた桐音の元に駆け寄ろうとする。その身を押し留めたのは、吸血グローブ『リザ・アルトランド』を装備し、先ほどまで漫才を繰り広げていた京一だ。万が一逃げ出そうとする者がいたなら、逃走経路を塞ぐべく注意を配っていた京一。故に戦況を冷静に観察出来ていたのだ。
「……まだ戦闘中っすよ。今は目の前の敵を倒す事に集中っす」
「そんな事言っても! 桐音さんが!」
 たとえ桐音が倒れたとしても、眼前の敵を許す事は出来ない。それが能力者の覚悟たるものだが、あかねはなおも泣きながら駆け寄ろうとする。
「南無……おなごとは言え、強敵でござった」
 自身が斬り倒した相手に合掌するごとく、目を閉じ祈るI。ところが、そうは問屋が卸さなかった。
「ヴァンパイアは永遠に不滅です!!」
 突如起き上がった桐音が分身を生み出すと、飛び起きざまにIの腹に特大の一撃を叩き込んだのだ。不意の一撃に耐えられるはずも無く、そのまま膝から崩れ落ちるI。
「……え?」
 目の前の出来事が信じられないあかね。そんなあかねの前で、桐音は斬られた腹部をめくり、中から破れた血糊袋を取り出す。
「フフ、敗因は心のブレね」
「……ばかー!!」
 あかねの特大の怒りを篭めた叫びが木霊す中、茨に動きを封じられたAとJの方も、決着が付こうとしていた。
「……言っとくけど、逃がすつもりなんて無いから」
 そう言うなり、動けない相手に容赦なく炎の弾丸を叩き込む薫。息も絶え絶えのJに対し、止めとばかりに襲い掛かる風戯の黒影剣。
「つ……強ぇ……」
「またつまらんものを斬ってしまった……なんてね」
 風戯が腰に剣を戻すと、決めのポーズを取る。その後ろでは、綾が仕込まれたようにバラの花びらを撒いて雰囲気を盛り上げている……らしかった。
「残るはあなただけです。怪盗もここまで来たら終わりですよ」
「っきしょぉお! 何ヶ月も準備しといたのによぉ!」
 晶の降伏勧告に答える事も無く、茨の下で暴れまくるA。往生際の悪さは、正に小悪党と言うに相応しい。
「……お前さんも怪盗を名乗るんなら、尻の拭き方も知っとくべきだねぃ」
 小型の独鈷杵『Irukanji』を手で叩きながら、呆れたようなティキの言葉の後。有無を言わさず放たれた晶の黒影剣と、ティキの零距離からの白燐大拡散砲により、哀れAも意識を手放し、捕縛されたのであった。
「やれやれ……詩歌君、時間はどう?」
「3分50秒……ギリギリですね。急いで縛り上げて退散しましょう」
 薫の問いに答えた詩歌の言に従い、手早く意識を失った4人をぐるぐる撒きに縛り上げる一同。既に現地の協力者への連絡は済ませており、そう遠くは無い場所で身柄を引き渡す事になっている。
「では行きましょう……あれ、ティキさん。どうしました?」
 ふと博物館から退散する前に、晶はティキが茫然自失している姿に気付き、問い掛ける。
「儂まだ何も盗ってねぇ……」
 ティキはがっくりと肩を落とし、仕方なく皆の後を追いかけていくのだった。


 世界でも類を見ない歴史を誇る他、幽霊に市民権を与えるなど、その不思議な国民性が話題となるイギリス。
 皆が訪れたのは、世界最大の博物館でもある大英博物館。ナイトミュージアムなどでも有名なこの博物館には、常時約700万点もの美術品や書籍、遺品などが展示されている。
「……とにかく広いですね。何日あれば全部見て回れるんでしょう」
 晶が驚くのも無理は無いだろう。今はとにかく一つでも多く見て回る事が先決、とばかりに歩き始める晶。
「だーかーらー、機嫌直してってば」
「ふーんだ。私がどれだけ心配したか、分かるまで直しません!」
 昨日の戦いの折の出来事で、あかねが完全に機嫌を損ね、必死に機嫌を取ろうとする桐音の姿も見て取れる。ちなみに、あかねは宿に帰っても余程動転したのか、しばらく泣きじゃくっていたのは素敵な秘密。
 しばらく歩いた晶は、風戯とティキが並んでギリシャの彫刻を眺めているのを見かける。
「成程……確かにこれなら怪盗が来るのも頷けるな……」
 大胆かつ繊細、今にも動き出しそうな彫刻の数々に、目を奪われる二人。この時ティキが内心、どうやって忍び込み、何をどうやって盗もうかと一心不乱に考えを巡らせていたのは言うまでもない。
 大英博物館一の売りでもある『ロゼッタストーン』や、古代エジプトで見つかったミイラなど、暫しの間展示品を眺めていた後、ホールに戻った晶はそのまま、土産物売り場へと足を運ぶ。
「あ、このペンケースいいな……へー、中にホワイトチョコレートのミイラが入ってるんだ」
 薫が土産物売り場でお土産に何を買うか、必死に選んでいるようである。そして少しばかり離れた場所では、詩歌が何か考え込んでいるようだ。
「詩歌さん、お土産決まりましたか?」
「そうですね……お揃いのキーホルダーとかあれば」
 詩歌が僅かに頬を赤らめ答える。日本に帰れば愛しい恋人のいる詩歌である。それは何を買うか、悩むのも当然だろう。
 結局。皆が博物館を出たのは、閉館時間である午後5時半ギリギリであった。

 夕食にと街へと繰り出した皆が辿り着いたのは、ロンドン名物の時計塔の直ぐ側、路地を入った場所にある軽食の店。
「まずは勝利を祝して、乾杯……」
「「かんぱーい!」」
 詩歌の音頭で、皆が一斉にグラスを合わせる。賑やかな一団が来たと、店の主人達がにこやかな笑顔でこちらを眺めている。
「さて、と……やはりイギリス名物、まずいと評判のメシが出て来るっすか?」
 京一がニヤニヤしながらそんな事を呟く。
 イギリスの食事と言えば、一部で「あれは食事ではなく燃料だ」と言われるほど評判が悪い。
 実際に見るのは初めてなのだが、暫くして出された食事を見て、皆の間から一斉に歓声が沸きあがる。フィッシュ&チップス、つまり魚の白身フライとポテトチップスなのだが、見た目はかなり美味しそうなのだ。
「これが本場のフィッシュ&チップスか……どれどれ……」
 風戯の言葉に押されるように、皆が同時に口へと運ぶ。果たして、感想は?
「あら……普通に美味しいじゃないの」
「うん、美味しい〜♪」
 桐音と起子が、同じ感想を述べると皆もこくこくと頷く。少し脂っこいが、全く気にならないほど美味なのだ。
「一度は本場の味を楽しみたかったから、来れてよかったな……今度は普通に観光でいいけど」
 薫の感想にも、皆はやはりこくこくと頷く。やはり銀誓館のお仕事ではなく、プライベートで来たいのが本音なのだ。
「あはは……あれ、ティキさんどうしたの?」
「いや、未だに分からねぇんだけど」
 ようやく機嫌が直ったあかねが、魚のフライを手に考え込んでいるティキに問い掛ける。
「何故に儂が切り札だったのかと……」
 しばしの沈黙の後、余りに今更の質問に皆の間から笑い声が沸き起こる。その笑顔に引かれるように、運ばれてくる次の料理。
 仲間達との楽しいひと時。皆の笑い声は、暫くの間ロンドンの街に響き渡るのだった。


マスター:嵩科 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2011/12/16
得票数:楽しい15  笑える1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。