最果ての閉塞阻止作戦


<オープニング>


●氷の柱〜流氷の正体
「これを見てくれ」
 蒼氷・麻凛(武踏月騎・b42218)が皆を呼ぶ。海底までを凍結させて作られた氷の大橋の上に立つ、氷柱のひとつ……その中には、女性らしき人物が一人と、大きな獣のようなものが1体、氷付けにされているらしい。他の氷柱は確認できないが、なにか影のようなものは確認できた。
「なんとロマンティック……いやいや、まだ息があるかもしれません、急いで助け出しましょう」
 橘・松(人生空回り・b80496)がさっそく、手にしていたブラックレインで、その氷の柱を破壊した。それは意外にあっけなく壊れた。
 と同時に。
『きゃーんっ☆ 伯爵さま、お疲れ様でしたわー☆ もう仕事を終わらせるなんて、流石は伯爵さまーん☆』
「おわわわ!?」
 ぎゅむっと側にいた黒鋼・輝刃(牙鳴散らす・b09479)に抱きつくのは。
「「リリス!?」」
 能力者達の言葉に、輝刃に抱きついていた女性……いや、リリスはぱっと離れた。
『あらやだ、良く見たら伯爵さまじゃなーいっ! 伯爵さまが起こしてくれたと思ってたのにっ!!』
「伯爵!? ま、まさか……」
「凍結の目的は、検討がついています」
 狼狽する天城・凍夜(真魔剣士・b01188)をさておいて、神楽・美玖(未来の歌姫・b70540)が続ける。
「美味しい宗谷黒牛を強奪するため、海峡を凍結して道を作ったことを! ……図星でしょう?」
『ぶふーーー!!』
 思わずリリスが噴出す。
『そんなワケあるわけないじゃん! 伯爵さまが日本に上陸する為に、この道を作ったのよ』
「伯爵は、もう北海道にいるのか!?」
 臣・拓也(妄想愛好家・b33221)が叫ぶ。
『そうよ。既に上陸しているわ。今頃は目的地に向けて移動している頃よ』

「良く来てくれたわ」
 柳瀬・莉緒(高校生運命予報士・bn0025)は、寒そうに手をこすり合わせるのを止めて、一同へと向き直る。
「実はね、宗谷海峡の流氷を調査に向かった人達から、報告が届いたの。と言うより、流氷じゃなかったのよ」
 それは、海底までも凍て付かせる『氷の橋』であり、海の流れを完全にせき止めていたのだと言う。
 すなわち、流水を渡る事ができなかった伯爵にとって、日本へ渡る手段が出来たと言う事になる。
「欧州で姿を消した伯爵が、北海道への上陸を目論んでいたとはね……。既に氷の橋周辺に伯爵の姿は無いし、北海道への侵入を許したと考えて良いわ。でも、逆に言えば、氷の橋を破壊してしまえば、伯爵の退路を断つ事が出来るって事でもあるわ」
 橋を維持しているのは、氷の列柱に封じられたリリスと妖獣であるらしい。
 能力者達の任務は、これらのゴーストを倒し、氷の柱を破壊する事だ。

「あなた達に戦って貰うのは、シロクマ妖獣とリリスの2体……そうね、数の上では圧倒的に有利と言えるけれど、油断は禁物よ」
 シロクマ妖獣は身体の力強さ、動きの素早さ、共に極めて高く、20m直線上に吹雪を吐く事が出来る。この吐息を浴びれば、超魔氷のバッドステータスを受けてしまうだろう。
 リリスは厚手のコートにウシャンカと呼ばれるロシア帽と言った出で立ちで、性格は強気でやや自信家。
 しかしそれに見合うだけの戦闘能力も備えており、特に20mの範囲内に居る能力者に対し七色の光を浴びせる必殺技は、ダメージに加えて魅了のバッドステータスを与えてくる。

「伯爵が北海道に上陸したなら、決戦の日は近いと言う事になるわ……その時の為にも、今回の作戦をきっちり遂行させておかないとね。皆、頑張って頂戴!」
 そう言うと、莉緒は一行を送り出すのだった。

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参加者
萩坂・暈人(レガシーアベンジャー・b00168)
月島・眞子(トゥルームーン・b11471)
柳瀬・和奈(てるてるむすめ・b39816)
御蛹・真紀(遺志を継ぐ者・b44782)
ララ・ファルクラム(アストライアの金なる護り・b49541)
ザザ・ファルクラム(アストライアの銀なる護り・b49544)
風雅・月媛(まないたのっとせんたくいた・b55607)
玖珂・香登(偽白の従者・b69886)



<リプレイ>


「最近ちょーっとムシャクシャすることがあって、誰でも良いからぶっ飛ばしたい気分だったんだけど……。丁度良いわ」
 端整な顔立ちに似合わず、過激な物言いの風雅・月媛(まないたのっとせんたくいた・b55607)。
 そんな彼女擁する銀誓館学園の能力者一行は、日本最北端の地である宗谷岬にやってきていた。
 宗谷海峡に出現した氷の大橋。それは海流を完全にせき止めるほど巨大であり、すなわち伯爵の北海道上陸を可能たらしめる物。
 伯爵が海流を塞き止めて侵攻すると言う奇想天外な手段によって、北海道へ上陸した事は、能力者たちに大きな衝撃を与えた。
「伯爵め派手に動いてくれたけど、そう簡単に思い通りに行くと思ったら大間違い。のこのこ出てきたって事は逆にチャンスでもあるんだよね」
 しかし、月島・眞子(トゥルームーン・b11471)が言う様に、戦いはまだこれからだ。
「敵がどれほど強くなろうとも、私は決して負けられない!」
 御蛹・真紀(遺志を継ぐ者・b44782)も強く頷く。
 敵がいかに度肝を抜くような作戦を取り、いかに有利な戦況を作ろうとも、能力者達に臆している暇は無い。
「さぁザザちゃん、準備は万全ですか。この北海道を決戦の地としましょう、その為に――」
「みなまで言うなって、ララちゃん。――退路は断つ。今度こそ逃がさないぜ、伯爵」
 ララ・ファルクラム(アストライアの金なる護り・b49541)、ザザ・ファルクラム(アストライアの銀なる護り・b49544)の姉妹もそれを確認し、顔を見合わせ笑みを交わす。
「ふふふ、札幌で大きな借りあるから殴って返してあげないとなんだよねー」
「はい……私も、デルタくんと一緒に頑張ります……」
 不敵に笑う柳瀬・和奈(てるてるむすめ・b39816)と、その隣で頷く晶。
「断つんじゃなく絶つ。奴の逃げ道だけじゃなくその命運も……だがその前に、あいつらに待つだけ無駄な事を教えてやる」
 萩坂・暈人(レガシーアベンジャー・b00168)の視界の先には、そびえ立つ氷の柱。
 来るべき伯爵との決戦に先んじて、氷橋を破壊。予め伯爵の退路を断つのが今回の作戦の骨子である。
「これで逃げられたんじゃいやになるし、任された分はきっちりとつぶしておかなきゃな」
 その為に玖珂・香登(偽白の従者・b69886)らが担当するのが、氷柱の中に眠るゴーストの退治である。


「殺人女王、第一の爆弾」
 ――カチッ。
 月媛が爆弾のスイッチを入れると、上がる大きな爆発。
 氷柱は容易く砕け散る。
「……これで敵も吹っ飛んでたら楽で良いなぁ」
 呟く和奈。
「……げほげほっ……同志伯爵、お待ちしておりました」
 やがて雪煙の中から現れたのは、ひとりの女と巨大な獣。
「……ん? 誰だお前達は」
 彼女らはすぐさま、自分達を目覚めさせたのが伯爵で無いと気づき、警戒感をあらわにする。
「厄介なことになってるからな、任されたところくらいはしっかりとつぶさせてもらおうとおもうぜ?」
「なるほどな……だが、我らの崇高な使命を妨害する事は許されない」
「グォォォン……」
 香登の言葉に対し、表情一つ変えずに言い返すと、すぐさま臨戦態勢を取るリリス。巨大な白熊妖獣もその横に控える。
 かくして、最果ての地における戦いが幕を開けた。
「ほーら、あんたの相手は私よん。思いっきり、どつきあいましょう」
「ふん! 調子に乗るな。すぐに這いつくばらせてやろう」
 月媛の手から放たれたチェーンを、俊敏な動きで回避するリリス。
「思いっきりいくよ!!」
 間髪入れずに飛来する和奈の御霊滅殺符。
 しかしこれも、防御の上からで直撃は与えられない。
「やるな、個別に攻撃してもだめか。ミオさん」
 真サキュバス・ドールのミオに戦闘態勢を取らせながら、自身も魔方陣を展開するザザ。
 晶とデルタは後衛に陣取り、仲間の支援に徹する構えだ。
「えぇ、同時に参りましょう」
 ――ヒュッ!
 天輪に凝縮された念を篭め、ララが間合いへと飛び込む。
 コートを翻して呪言突きを受け止めるリリスだが、死角を突くようにして飛翔する香登。
 ――ガガガッ!
「小賢しいっ」
 踊るような身のこなしで、ローリングバッシュを受けるリリス。
 各々の攻撃はリリスの体力を削ってはいたが、有効な直撃はまだ与えられていない。

「シェルティラさん、私に力を貸して……」
 真紀の身体から、闘気がほとばしる。
 彼女らが対するのは、巨大な白熊妖獣。
「氷の中で眠ってるなんておとぎ話みたいだが、氷漬けが悪女と妖獣なら容赦する理由はないよな」
 暈人は白熊の前面に立ち、その注意を引きつける。
「シロクマはアイスだけで十分!」
 素早く白熊の背後に回り込んだ眞子は、月白風清を最上段に構える。
 ――ザシュッ!
「グルルルゥ……」
 眞子のロケットスマッシュは深々と白熊の背を切り裂いた……かに思えたが、低いうなり声を上げながら、ゆっくりと振り返る白熊。
 見た目に偽りなく、並の頑丈さでは無さそうだ。


「馬鹿正直に殴ると思った? そんなお馬鹿さんはそこで凍ってなさい」
 吹き付けられる月媛の吐息に、リリスのコートが凍り付く。
「お命、頂戴します……っ」
 時を同じくして、退魔呪言突きを繰り出すララ。
 ――ガッ!
「……なるほどな……認めてやろう。お前達は強い」
 一瞬表情を歪めたあとで、すぐさま元の表情に戻ったリリスは言う。
「だが……これを耐えられるか?」
「来るぞ」
 身構えつつ、仲間に注意を促す暈人。
 ――バッ!!
「っ?! こ、これは……」
 リリスの手が高く挙げられたその刹那、極光が能力者達を飲み込んだ。
 目もくらむばかりの美しい光に、攻撃の手が止まる。
「皆さん……これで……」
 慈愛の心を篭めた舞によって、仲間達の意識を戻す晶。デルタ、ミオもその傍で祈りを捧げる。
 その光は能力者達を魅了するだけでなく、体力までも削り取る死の光なのだ。

 ――ゴォォォッ!
 白熊妖獣の口から、猛然と吹き荒れる吹雪。
「くっ……みんな、連携して一気に叩くわよ!」
 指先の感覚が薄れるのを感じながら、真紀は声を張り上げる。
「内側から、爆ぜなさい!」
 真紀の澄んだ瞳が、俄に禍々しい力を帯びた次の瞬間――視線に射貫かれた白熊の全身に呪の力が迸る。
「グォォンッ……」
「いくら頑丈でも……!」
 駆け巡る毒に呻く白熊に、再び眞子の剣が突き立てられる。
 ――ブンッ!
「熊は何度か食い止めてきたが、状況的にこう寒いのは余りいなかったな」
 苦し紛れに振り回された腕が、暈人の眼前をかすめる。
 能力者達は連携を取りつつ奮戦していたが、敵もさるもの。数的有利を感じさせない力強さがある。


「あっははは。やっぱり強敵とやり合うのは楽しいわね。私も奥の手を切らせてもらうわ。召喚! 雪だるマー!!」
 雪の鎧を纏い、傷を癒やすと同時に防御力を高める月媛。
 決して楽な戦いではないが、その事が彼女の精神を高揚させているのだろう。
「ザザちゃん」「任せろ! 喰らえ、そんで痺れちゃえ!」
 他の能力者達もまた、庇い合い、コンビネーションを決め、躍動していた。
「こいつら……っ……無駄な足掻きをするな! 貴様らごときが同志伯爵に抗おうなど……!」
「余計なお世話だよ、あんたみたいな高慢ちきな女が一番嫌いなんだよね!」
 リリスの放つオーロラエクスキューションは、能力者達を多いに苦しめ、攻撃の手を鈍らせる。
 だが、厚い支援と復元力によって支えられた能力者達の布陣を、破る程の決め手にはなってはいなかった。
「いつまで手こずっている!」
 白熊妖獣へ、苛立ち紛れの声を上げるリリス。
 ――キィン!
 暈人の疾蒼流転が、白熊の一撃を受け止める。
「もう一度!」「うん!」
 真紀の魔眼に呼応して、眞子のロケットスマッシュが巨獣の背中に新たな傷を刻む。
「グォォォーン!」
 氷上は紅く染まり、妖獣のおびただしい量の出血を物語る。
 いかにタフな身体を持つ白熊も、延々と続くコンビネーションアタックの前に、確実にダメージを蓄積されていたのだ。
「隙あり!」
 ――バシィッ!
「ぐうっ!?」
 和奈の御霊滅殺符が、リリスの横腹に直撃する。
「……くっ、おのれ!」
 みたび炸裂する極光。
「そんな光に惑わされて、たまるかぁ。まだまだいけるはずだ」
 だが、怯む事無くローリングバッシュを繰り出す香登。
「んっ! ……お……おのれ……この私が……」
 蓄積したダメージの大きさに、がくりと膝を突くリリス。
「さぁ、そろそろトドメよ」
 ――ビュオッ!
「きゃああぁぁっ……!」
 月媛の放った氷の吐息がリリスに直撃し、その体を凍りつかせる。
 完全に突っ伏したリリスは、それきり動かなくなった。
「ぐぉぉおぉん……!」
「もうひとがんばりよ!」
 呪いの魔眼を放ちつつ、真紀。
 吹雪を撒き散らしながら、苦悶の咆哮を上げる白熊。
「さぁ、残るは白熊ですね」
「よし、このまま行こう!」
 ララはそのまま妖獣へと向き直り、天妖九尾穿を繰り出す。
 和奈、香登、ザザらも一斉に妖獣への攻撃へ移行。
「そろそろトドメといこうか、月島」「よし!」
 暈人の双剣が黒炎に包まれ、眞子の月白風清が火を噴く。
 ――ザシュッ!!
「グォォォ……ッ……」
 豪腕を振り回していた白熊妖獣も、断末魔の叫びを上げてついには倒れた。

「よっしゃ、ミッションコンプ!」
「ふぅ。やりましたね、ザザちゃん」
 喜び合うララとザザ。
「晶ちゃんありがとう、お陰で助かったよ」
「お役に立てて……良かったです」
 他の面々も安堵の表情を浮かべて、互いの勇戦を讃えあう。
 しぶとい敵ではあったが、健闘の甲斐あって無事任務を完遂する事が出来た。
 これで氷橋を破壊する事が出来れば、伯爵との決戦にも一定の目処が立つだろう。
「これで逃げ道の一つを砕けたのかねぇ、後は伯爵を倒してみてかねぇ」
「あぁ、これが一つの節目になってくれたらいいんだが」
「それじゃ、戻りましょう」
 かくして一行は、喜びもそこそこに帰途へつく。
 決戦のときは目前に迫っていた。


マスター:小茄 紹介ページ
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いまいち
参加者:8人
作成日:2011/12/19
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死亡者:なし
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