まほろばの雪檻


<オープニング>


 銀誓館学園のクリスマスパーティー。
 クリスマスイヴの日は毎年、様々な趣向を凝らすパーティーが開催され、学園はクリスマス一色に染まります。

 クリスマスパーティーは無礼講。
 たとえ、今まで一度も口をきいた事が無い人とでも、一緒にパーティーを楽しむ事ができます。
 クリスマスパーティーは、新しい友達を作る為のイベントなのですから。

 気に入ったクリスマスパーティーがあれば、勇気を出して参加してみましょう。
 きっと、楽しい思い出が作れますよ。

●まほろばの雪檻
 溶けない雪で模した、掌サイズのかまくらの中にツリーを一つ。サンタを一つ。花と硝子で彩りを添えて、最後ににょんと赤い鼻先──のようなもの──が伸びた大きめのトナカイを仕舞いこむ。トナカイの足下に繋がれた鎖を空いた指先で弾いてみれば、鈴のような音が耳に響いた。

 さあおいでませ。
 此処は大好きなものがめいっぱい溢れたまほろばの雪檻。

「そんなわけでかまくらシェルターです」
「わあ既視感」
「かまくらが好きなもので」
 棒読みで宣う黒宮・咲(中学生運命予報士・bn0262)へ、白杉・桜介(花に唄・bn0251)は平生通りに言葉を返した。
「かまくらを作ろうにも鎌倉ってあんまり雪積もらないから。あ、洒落じゃないよこれ」
「昨年聞きましたよ」
「だからかまくらシェルターを作ってみた」
「昨年通りですね」
「今年はスノーランタンも置こうかと」
「わーほんとに暇ですね桜さん」
「否定はしない」
 桜介が教室の窓からグラウンドを見下ろせば、彼に倣って窓下を覗く咲。グラウンドには昨年と同様にぽこぽこと白のかまくらシェルターが並んでいた。一名でいっぱいになりそうな、こじまりしたサイズから大人数が入れそうなサイズまで、様々な大きさの白が真冬の陽を浴びて煌めいている。
「まあ、年に一回のことだから。かまくらの中には好きな音楽を鳴らして、好きなものを並べて、好きなことして遊びたいなって」
 そう言うと桜介は机上のアコーディオンに掌を沿わせた。蛇腹を引きながら鍵盤を叩けば緩やかな音が室内に響く。紡がれた音に耳を傾けながら、咲はゆっくりと口を開いた。
「最近よく窓の向こうからそのクリスマスソングが聞こえるんですけど」
「ここ一ヶ月間のオレの子守唄だからね」
「最近、近所のコンビニでサンタを良く見掛けるんですけど」
「ここ一ヶ月間のオレの寝間着だからね」
 ちなみに寝間着サンタ服は五着あるらしい。
 咲は呆れたように息を零すと、机の上に置かれた花々と小物達に視線を向けた。ブーゲンビリアの色鮮やかさとルクリアの優しい香りは昨年と一様のまま変わらない。数々のお菓子の隣には紅茶の葉っぱとティーハニー。それから、ふとその傍らに小さなかまくらを見つけて、咲は瞬いた。
 溢れんばかりに人形と小物が詰め込まれた小さなかまくら。
 今年もこんな風に、かまくらシェルターの中にはめいっぱいの大切なもの達が溢れるのだろうか。
 そう思えば咲の口元が緩んだ。

 さあ始めよう。
 大切なものを詰め込んだ、特別のハッピークリスマス。

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参加者
NPC:白杉・桜介(花に唄・bn0251)




<リプレイ>

 スノーランタンの灯火から移り宿した小さな炎が、ベビーピンクの瞳の奥に揺れている。甘香が漂うのは、メルディがキャンドルを雪檻に添えたのとほぼ同刻。メリークリスマスの一声と共に飛び込んできた絵里の姿に瞬いて、エリスがふわりと笑みを零した。
「エリのプディングは本格的やな!」
「これ大好きなのです、凄く美味しそうです……!」
 ナッツに果実、花の蜜漬け──沢山詰め込んだ絵里のプディングに、秘められたのはおまじないと二つの秘密。誰に当たるでしょうかと微笑む絵里の手元に青の炎が揺らめいて、ウルスラは思わず瞠目した。とろりと零れるソースはご自慢らしい素敵な甘さ。幸せが身体中を巡り巡って、シーラの眼が煌めいていく。
「あの、皆さんで歌ってみません、か?」
 繭が言い、千束が紅茶を注ぐ手を止めた。耳にはジャックが爪弾く、心地良い弦の震えが聞こえる。マルメロトナカイの角がリズムを取るように揺れれば愛らしさに口許が弛み、コントラバスの低音が響けばほうと零れる感嘆の息。やがてシーラはバイオリンの奏を其所に重ねた。
 音とリズムならお手の物。軽やかにハーモニカを吹き鳴らしたウルスラは雪檻の中を飛び出していく。踊るようなステップの彼女が捕まえたのは桜介サンタ。奏でられた歌宜しく逸る彼の姿を見遣り、メルディは微笑った。
 そのメルディが奏でるのは幼い頃から親しんできたハーモニカ。深みと情緒と追憶と、千束が奏でるクラリネットの柔らかな音色が全てを包み込むように広がっていく。それは彼が淹れてくれた紅茶のように優しい。エリスは音に合わせてゆっくりと歌声を響かせた。これほど暖かな場所ならば多少の辿々しさはご愛嬌。楽譜を辿る彼女の声に微笑みを浮かべて、繭も彼女の歌に添う。
 幸せ、とマルメロが言った。
 色彩溢れる音達と甘いプディングに暖かな紅茶、ツリーとオーナメントの淡い影、何より笑顔溢れる雪檻ならば更に笑みが重なるのも当然で。マルメロに肯いながら、繭はこの一時を仕舞い込むように胸元へ掌を寄せた。
 寂しさは有るだろう。けれどそれを見せない姿が彼女らしいと云えばそうかもしれない。杞憂を奥底に仕舞い込めば、繭を見守るジャックの目許が緩んでいく。その彼のスプーンが絵里の仕掛けに触れた時、澄んだ音色が凛と響いた。

 耳を澄ませば遠くの奏が微かに聞こえた。宗司と風香は手作りケーキと珈琲を一口。笑顔と共に零れる言の葉は何れも他愛なく、何れも愛おしい。
 今日が終りもしない間に来年を想い、共に居たいと願うのは能力者たる所以だろうかと、風香が零したのは一抹の不安の所為かもしれない。けれども宗司が明瞭な声で否定と優しい言葉をくれるから、風香の口許には笑みが咲く。
 共に在れる今に感謝を、共に過ごす未来に願いを。手元のカップさえ寄り添って、大切な貴方にメリークリスマス。
 はんてんは佳太の背に掛けて、棗は彼の懐に寄り掛かった。二人羽織のようなその姿は寒くもなければ離れもしない。大切な人を一番に感じられるから、佳太の表情が緩むのも仕様がないというもの。
 佳太は棗の口許へ苺を寄せた。あーん、と一口。それからお返しすべく彼の口許を見上げた棗は、あ、と思い付いた様に瞬いて。
「これだと間接キスですねぇ」
 ぺたり。
 思わず目測誤る佳太の頬にケーキが触れるのも、二人一緒なら笑み綻ぶ──これもきっと仕様がない。
 早速のオレンジブランケットは久遠と彼方を柔らかな温もりで包んでくれる。無数に散りばめられたランタンの星、千一夜の多彩な香り。雪化粧を纏ったガトーショコラには勿論隠し味も添え入れて、
「ふふ、すっごい贅沢気分……!」
 思わず呟く彼方だけれど、贅沢なものはもう一つ。久遠が紡ぐ、彼方の為だけの奏が、彼女の耳を伝いゆく。
 ──メリークリスマス。
 久遠の頬に触れるのは隠し味以上のらぶが詰まった意趣返し。久遠の口許もまた彼方の頬に触れれば、幸せの滲む眼を交わして、笑って。

 二人だけの大切な雪檻。でも足を踏み入れる、その前に。
 ──We wish your Happy Xmas!
 ジングルさんたと千破屋から頑張る君へのプレゼント。星に蜘蛛に、相棒に。心遣い溢れるクッキーとお茶と、両手一杯の有難うを貰った桜介は破顔した。
 ジングルと掌を繋いで雪檻に戻る道すがら、千破屋が爆破はしないと言い切れば、返ってきたのは祝福の歌。千破屋とジングルは音を零しながら眼を見交わす。奏でるのも、触れるのも、全てが幸せで堪らなかった。
 ガラスポットを泳ぐ薄紫の花片を待ち侘びるように、輪音の指先がソーサーに触れた。時折煌めくピンクアザラン。クリスマスカラーが可愛いチーズケーキ。ココアシフォンから甘い香りが漂えば、紅樹が幸せいっぱいの目許を緩めた。
 トナカイとツリーの愛らしさにも微笑みながら、幻は丁寧な所作で薄色の茶を注いでいく。華やかな彩りに茶香が寄り添った雪檻は贅沢で、それは手招きに誘われて雪檻を覗いた咲が感嘆の息を零すほど。
「明日はLEAVESの三回目の誕生日なんです」
 幻から零れた言葉を後押しするように、恩が肯い、咲の顔を覗き込んで笑った。
「だから目一杯にお祝いするんだよっ」
「ふふ、どれも素敵よね」
 輪音の言葉通り美味しい幸せが満ちた雪檻は、LEAVESが同様の、或いはそれ以上の幸せ溢れる場所である証なのだろう。次の一年も、ステキな一年にしましょうねと笑む紅樹に首肯して、幻はティーカップを眼前に掲げた。
 メリークリスマス。
 そしてハッピーバースデイ、LEAVES。

 雪檻の天辺に居座る風見鶏が訪れを喜ぶように一転する。
 琴音の呼び声が聞こえ、桜紅楽と葵は顔を上げた。同時に片手を挙げた花の姿を見つければ、はたと思い付いた様な顔をした葵が皆をぎゅうと雪檻へ。一年ぶりのおしくらまんじゅう。冷えた頬に温もりがじんと伝わって、葵の口許に笑みが咲く。
「ってことで、ほい」
「セレブリティさが増した!」
 一年振りの大人買いには四角い箱が添えられた。此方は桜紅楽のケーキと一緒に後ほど愉しむものとして、次に現れたのはモラだるま。見目にも可愛いモラだるまだけれど、それで終わらないのが琴音である。中から現れたシチューを見遣り、花の眼がぱちりと瞬いた。
 離れ離れになろうとも有り続ける思い出と縁。桜紅楽は拍手を奏でながら身を包む温もりを噛み締めた。暖かいのは、それらが宿す温もりのお陰だと思うから。
 少し豪華さを増したお弁当を並べると、始めましょうかと葵は言った。不変も変化も閉じ込めた雪檻で、一年分の思い出話を。

 悠氷が雪檻に並べるのは大好きな沢山のぬいぐるみ。たれ耳うさぎの隣に添うのはシュネーに貰ったトナカイだ。全部、悠氷の大切なお友達。
 大好きなものと大好きな人が添う雪檻。幸せだよね、とシュネーが笑った。
 沢山の玩具を並べて何れがいいかと問いてみれば、シュネーの肩に乗っかる悠氷の体温。少しだけ狼狽えて、ぶっきら棒に言い返して、シュネーは悠氷の肩に手を添えた。平生は取らない所作だけれどそれもいい。それがいい。今日は特別な日なのだから。
 やと、やと。シロの指先が夜刀の袖を引き寄せれば、口の中にぽんと蜜柑が飛び込んだ。
「夜刀、シロくんのこと大好きなのです」
 食べっこをしながら夜刀が紡ぐのは確かな決意。
 今はまだ友達だけれど何時かそれ以上になってみせるから。
「覚悟しておいて欲しいのです」
 夜刀が微笑むもシロはきょとんと首傾げ。けれど、嫌な覚悟ではないと解るから、シロも口許を綻ばせた。何時かのパパと同じように、解る日を迎えられるよう、頑張るから。
 真白の世界で瞳色の薔薇は鮮麗に綻ぶ。雪檻の中に二人きり。リーゼロッテは甘いココアを笑み綻ぶままに受け取った。クェンティーナを撫でてやれば、彼女はふにゃりと眼を緩める。
 大好きな姉様と迎える二度目の聖夜。
 今も未来もずっと一緒に居られたらいい。
 クェンティーナがそう願えば、リーゼロッテの願いが同じ様に重なった。護ると誓い、護れるようになると誓う。二人は薔薇の眼を見交わすと、世界を彩る花々のような笑みを咲かせた。

「ふぉお、クリスマスっぽい!」
 きらりと輝く古湖の視線の先には人数分の赤マグカップ。諷が注いだホワイトチョコのミルクティーは甘くて優しくて、チロからほわりと息が零れた。シナモンの香りが漂うカップを掌で覆えば、沙夜の冷えた指先がじんとする。
「そうそう、お茶会用のお菓子」
「片銀先輩、それは……!」
 じゃーん、と効果音付きで片銀が取り出したのはほかほかのあんまん。ぱちりと瞬く諷の隣でチロも不思議そうに傾げるも、あんまんを手に取った古湖の表情はふにゃりと緩んだ。掌を伝う暖かさはなんだか幸せな心持ち。
 ブレッドもクッキーもひんやりアイスも愉しみながら、さて次に始めるのはプレゼントの交換会。桜介サンタの音に乗り、くるりくるりと品々を廻していきながら、沙夜は品を選んでいた一時のことを思い出す。貰うだけでなく、選ぶのも愉しいプレゼント。片銀は可愛いソックスでも履きこなしてくれるらしい。笑みを堪えながらも肯う諷の手元で、誰かのプレゼントがころりと踊った。

「メリクリー!」
「わ!」
 ぱあん、透の手元で弾けるクラッカー。みけの淡茶の眼差しがぱちんと瞬く。
 雪檻の外にも内にも煌めく無数の星達。まさしく『星の下』、七輪から零れる温もりが蔵人の身体を暖めていく。夕人はまろサンタに最早めろめろ。もふりもふられカーペットをころりとする夕人達に笑いながら、あずきは手元のメモを繰った。
 綴られるのは祭向けのカフェメニュー。星に因んだものなら如何かと提案したのは蔵人だった。天の川を描いたケーキ、星形クッキー。浅蜊系なら浅蜊ケーキ、なんて零した透の声を聞き、みけはドーナツを愉しむ口許を止めた。
「つくったら、食べる?」
「いや俺は……あ、あずきちゃん食いたいって!」
「えっ、アサリ入りケーキ?!」
 思わず戦慄するあずき。相棒を思い出したらしい。
 ともあれ、みけの定食──とひっそり焼き秋刀魚──も添えられて、カフェは少しずつ形を成していく。星砂糖が溶けるまでに願い事三回、とあずきが零した案には、夕人が微笑みながら頷いた。
 最後にことり、透が雪檻に添えたのは空色ソーダ。
 楽しい事を、無病息災といっぱいの幸せを、こうして一緒に居られる日々を。
 あずきとみけ、透の祈りを抱えた泡が、空色を泳ぎ溶けゆく様がとても綺麗で、蔵人の目許が優しく緩んだ。

「おーすけー……」
(「集られる?!」)
「と、見せかけて」
 直ぐさま翔伍の後ろに隠れた桜介は、裕也から手渡された品々に瞠目した。梓守も僅かに眉を寄せながら、そっと手袋のプレゼント。
「別に、余ってたから、やるだけだから」
(「ツンデレ?!」)
 梓守の態度に裕也は瞬き、桜介は胸きゅん。
 ──さて、本題。
「チョコフォンデュをしようと思って!」
 どん、とトワヤは簡易コンロとアルミ鍋を乗せた。それならばと裕也トナカイの準備もぬかりない。
「果物、マシュマロ、ブロッコリー……彩りはバッチリだぜ」
「凄い、着ぐるみ超クール!」
「あ、そっちですか」
 羨望を宿したトワヤに対して最早見慣れた悠は華麗にスルー、クリスマスカラーのてふてふに可愛いですねと微笑んだ。
 そのてふてふが真っ先に手を伸ばすのはブロッコリーだ。裕也とトワヤが瞬くも、彼女が見せるのは余裕顔。本当はチョコと合うと、知っていたから。
「チョコフォンデュって固まるとすごく食べづらいんですよね」
「ちょっ、悠……!」
「なぁ、どれ食べて良い?」
「梓守にはこれとかオススメ。翔伍サンは?」
「どれにしようかな〜」
「迷うわよね」
(「助けゼロ?!」)
 悠は満面の笑みで熱々をあーん。大悶絶の裕也を傍らに、和やかなフォンデュを愉しむ寮の面々。チョコに、歌に、踊りに──梓守の動きは固まって、トワヤのダンスはへっぴり腰で、てふてふの歌声には戦慄したけれど──と目一杯に詰め込まれた雪檻から、笑みは何時までも絶えそうになかった。

 セドリックの雪檻には何時の間にか襖が添えられていた。矢張りサンタはお一人様にも贈り物をくれるらしい。
 うん。一人、寂しくない。
 ともあれ遠くの奏を聞きながら、セドリックは雪檻に凭れかかった。おでんは聞き終えてからにしようかと、そう思いながら。
 フルートに炬燵に蜜柑にチゲ鍋。雪檻にめいっぱい詰め込む龍麻トナカイに瞬きながらも、咲は一曲リクエスト。龍麻の音は彼らしく陽気で心地良かった。
 刹那の腕がゆるりと広がり、足が丁寧な所作で滑りゆく。踊りに添って変化する曲を愉しむように、刹那は柔らかな微笑みを零した。
「楽しんでいただけましたか?」
「勿論!」
 芸を愛するもの同士、詰め込むものは何も物とは限らない。
 密やかに練習したのだという小春のオカリナと重ね音。合間には甘いココアを愉しみながら、小春と桜介は緩やかに息を零した。景色に溢れるのは沢山の幸せ。来年もこうやって幸せに包まれることが出来たらいい、そう思う。
 響杷は雪檻を飛び出して桜介達の腕を引く。
 今年は自分から。
 今年も一緒に。
 響杷の手元のタンバリンから一粒の音が零れ落ちた。肯いと共に掌は重なる。そして一斉、笑顔の渦へと響杷達は飛び込んだ。

「公平に競りで」
「競り?!」
「先ずは二千万から」
「何その強気な値段」
「大学に行きたいもので」
「あ、養育費ですか」
 七海の言葉に咲が頷く。お金が掛かるなら最早贈り物ではない事実はさておいて。
 七海が持ち込んだ五本のマフラーは正真正銘の贈り物。一つ一つ巻かれていくマフラーの内、禊に巻かれたのはたぬき柄だ。御礼にと禊が奏でるハーモニカの音が響きゆく。昨年よりも一層綺麗な音に耳を澄ませば七海達の口許もほわりと緩んだ。
 桃が雪檻を選んだ理由はちょっとうずまきに似ていたから。何時でもうずまきを想う桃を見遣り、纏の口許には笑みが咲く。
 居心地が良い雪檻に苺ケーキと紅茶が添えばそれは一層。音楽が有ればより素敵、と桃の目線は纏の方へ。げほりと咽せはしたものの、纏はギターの弦を震わせた。
 音は笑顔の御礼代わり。
 けれど、一緒ならばより愉しいから。
 纏はキーボードに眼を向けた。桃は思わず瞬くけれど、確かに折角のクリスマス。頓て二人の雪檻には鍵盤と弦の重奏が響き渡った。

 銀誓館Horse Parkの雪檻は多分他の何処よりも白熱していた。それは奏でられた音楽のお陰に他ならない。
 音楽。
 否、正しくは、実況。
 灯雪とエリーゼは揃って織姫らしいと頷いた。当の織姫は新聞を広げてうっとり顔だ。明日の展開を想うだけで愉しくて仕方がないらしい。
 雪檻へ一緒に添えられたのは、エリーゼの手作りケーキと灯雪の紅茶。二つを愉しむ三人の口から零れる話題は矢張り馬のことだった。
 どんな展開になるだろう。
 どんな奔りが見られるだろう。
 明日が愉しみなのはエリーゼと灯雪も変わらない。
 織姫の解説を聞きながら、エリーゼがほうと息を零した。この話題は今宵一晩を掛けてみても、どうやら語り尽くせそうにない。
 一方、雪花鍋の会は何処よりも黙々と時が過ぎていた。それは彼らの中央に居座る鍋の所為に他ならない。いや思えば面子も若干妙だった。なんせ雪子と貴也は初対面である。
 綾乃から話は事細かに聞いていると言った貴也は、珍しく苦笑を零したほどだから、気まずいとは多分違う。話題も全くの零ではない。ちゃんと食べてるかとか、自分こそちゃんと食べてくださいだとか、鳥団子は美味いなとか──。
「わ、正月ムード」
「桜介サンタさん、いい所に来た!」
「アコーディオン弾いてくれたら鍋の会招待するけどどうするっていうか一曲弾いていくといいと思うぜ」
「え、どうしたの」
 綾乃と雪子に瞬く桜介へ、貴也が席を示す様に掌を向けた。珠にはサンタにも見返りを。一曲の御礼は美味しいお鍋。──まあ。助けろ、サンタ。

 ワァオ、と盛大な感嘆がキッカの口から零れ落ちた。これぞKAMAKURA、冬の風物詩。正倉が言葉を添えながら中の炬燵を指し示す。
 キッカなりの知識を以て用意したのはイタリアン鍋。思わず眼を見開いた正倉に、キッカはとってもvonoと笑ってみせた。
 安堵の息を零した正倉が、あーんした方が良いかと問えば、キッカの答えは勿論Certo。羨望を受けても可笑しくはないと思えるほどの、幸せな一時が始まる合図だった。
 ウルリケが用意したのは目一杯のビーズクッション。どーんと飛び込んだカイトに引かれ、ウルリケもクッションの海に埋もれていく。
 ──今度はなでて?
 沢山の甘いお菓子達を抱いたウルリケが、何時もより甘えた声音で囁いた。瞠目して、手を拭いてみて、カイトの緊張気味の掌がウルリケの綺麗な髪に触れていく。
 こんなのでいいのとカイトが問えば、ウルリケは甘えるペットの様に掌に添う。これが良い、撫でるのも撫でられるのも好きなのだから。
 ──猫のままの方が、よかったか?
 鴻之介の言葉に青葉は金眼を瞬かせた。一人分の雪檻にぎゅうと身体を詰め込んで、頬を染めたのも束の間のこと。素っ頓狂な彼の問いを包み込むように青葉は笑んだ。両掌が髪を掴む。唇が触れる。瞬く鴻之介を愛おしむように指先が撫でた。
 ──キスするなら、こっちの方が何倍も好きですよ。
 答えをくれた彼女には触れ返すことで応えを返す。途方もないほど暖かな体温が言葉と共に身体を巡り、伝っていく。
 小さな空間は好きだ。鼓動、息遣い──存在の欠片を幾つも感じることが出来るから。
『いつも隣で、君の幸せを叶える俺でいさせて』
 夜雲が綴るのは昨年の返歌のような恋手紙。ただ傍に居て、だけでは足りなくて。
 一層心奪われる彼に、結梨が我侭を言うなら只一つ。結梨は夜雲の胸に凭れ掛かると小さな笑みを口許に咲かせた。
 ──傍に居てね。
 返答代わりに抱き締めれば伝い合う体温。甘いタルトを分け合いながら、夜雲もまた、その口許を緩ませた。

 抱え切れないほどの心が溢れるのは、こうして一緒に居られるから。
 朔姫がくれた汁粉を覗けば白玉が二つ、雪だるまのよう。雨色がきらりと眼を輝かせて朔姫の傍に擦り寄れば、かじかむ指先が柔らかな温かさに溶けていく。何れ程雪檻が暖かくとも大切な人の熱には敵わないと、そう思う。
 頓て二人ははたと思い付いたように眼を開き、互いの眼を見交わした。
 そうだ、雨色。
 あのね、あのね、かぐや。
 ──メリークリスマス。
 二人だけの雪檻が、甘く、暖かなもので満ちていく。大切なものを詰め込むなら自分が詰め込みたいものは此処にある──そう示すように、司真の視線が由衣を捉えた。
 ──私の隣にいるとっても素敵な宝物。
 包み隠しもしない真直ぐな司真の言葉達。由衣は思わず瞬くけれど、頬を染めて僅かに視線を落としもしたけれど。頓て司真を見返して、由衣は花のような笑みを零した。
 大切なものは心の中と、そして今、隣に寄り添ってくれている人。
 じたばたとする明良の掌が冴兎の頬を掠めたけれど、それぐらいなら何時ものこと。漸くして大人しく膝の上に収まってくれた大切な明良へ、冴兎はそっと唇を落とした。
 眠たげな眼に幸せが滲んでいるように見えるのはきっと気のせいではないのだろう。ぎゅっと掌を握り返せば、彼の温もりが明良の指先を余すことなく暖めてくれる。
 ──これからも、よろしくな?
 耳許に零れた言葉に、明良は仄かに頷いた。
 何せ今日は特別な日。今日くらい少しは素直になってみてもいい、なんて。
 
 重ね音は賑やかに、華やかに。允と桜介の音粒は冬景色を丁寧に彩っていく。
 友達を想い、想い出を刻む。
 この日なら見知らぬ縁とていとも簡単に紡いでいける。色溢れる瞳を見返せば、幾度も口許に笑みが咲いた。
 ──幸せだね。
 思わず零れた允の言葉が心の奥底にじんと伝った。
 アシュレイが寄そってくれたお鍋を含めば身体中が暖まるよう。表情を緩めた光希は、けれどアシュレイの表情に気が付き、顔を上げた。
 無事で良かったと彼は言った。君に何かあったら、とも彼は言った。途中で言葉を止めた彼の藍眼を真直ぐに見返して、大丈夫と光希は笑う。
 大丈夫、まだまだアッシュと居たいから。
 これからも、ずっと。
 そうして彼女の笑顔に包まれれば、アシュレイの口許も緩むというもの。
 好きになったのが光希でよかった。
 ありがとう。
 ずっと、ずっと、愛してる。
 ハズレにとっては少し、照れてしまうような膝枕。けれども一の膝元に一度身体を寄せてみれば、触れた箇所から広がりゆく温もりが心地良かった。髪を撫でる指先も、からかうような彼の口調も全てが愛おしい。ああ、人肌と愛に勝る温かみはないのだと、実感する。
 ハズレを見遣る一の目許がゆるりと緩んだ。撫でる指先には、溢れるほどの愛を込めて。

 玲螺が繊細な真白糸で紡いでいく編物に興味津々の桜介サンタ。柔らかなレースのマフラーが冬風にふわりと浮かぶ様には感嘆の声が零れ落ちた。
 描かれるのは馴染み深くも大切な子達。
 玲螺は笑みを浮かべたままサンタへマフラーを差し出した。
 メリークリスマス。今宵も素敵な一時に、感謝を。
 ソーダグラスが心地良い音色を響かせれば、シーナと想真の特別な時間の始まりだ。狭めの雪檻で寄り添えば何時もより胸が弾むようで、二人の口許から絶え間なく笑みが零れていく。
 ケーキが少し物足りない想真は、何気なくシーナの頬を見遣った。美味しそう、なんて思っている内に思わずかぷり。シーナは勿論、自分もびっくりのうっかり所業。けれどシーナからかぷりとお返しされれば、瞬きながらも、ちょっと嬉しくもなるようで。
 かぷ、かぷり。
 二人の甘噛みはもうちょっとだけ続くような、そんな予感。
 ぴたりと隙間なくひっついて、口に含んだはちみつれもんは何だか幸せな味がした。おいしーって、あったけーって息を零して、薫と定晴は眼を見交わす。
 頓て薫が形作るのは雪うさぎ。定晴は葉っぱを添えて雪のねこ。ちょっと掌は冷たいけれど雪の彼らは可愛くて、何より定晴と掌を繋げば直ぐさま暖まるものだから、薫の口許がみるみる内に緩んでいく。
 来年もまた、一緒に。
 そうして零れた約束がいとおしくて、幾度とも知れない笑みが溢れた。
 小さなテーブル、スノーランタン、暖かな紅茶、それから傍らの大切な人。ぎゅうと雪檻に詰め込めば、詩歌とノーファを優しい温もりが包んでくれる。
 何より大切で、大好きだから。
 詩歌がノーファを目一杯に抱き締めれば、一層近づく彼女の首筋。ノーファは首筋に宿った小さな傷に視線を落とすと、やがてそっと唇を落とした。ノーファが唇を添わせるのは、詩歌が『一人だけ、絶対に後悔しない相手』だからこそ。
 詩歌にとっても此処が初めて出来た大切な『居場所』。
 後悔なんてしない。だから、ずっと傍に居る。

 手元には魎夜の声に合わせて掲げたグラス、しゅわりと弾ける泡飛沫。重ねグラスから零れた音粒がCOLパーティーの始まりの合図だ。
 苺子と琴乃のケーキから漂う、甘い香り。カップに揺らめく熱々のスープ。必死に冷ます月華の姿に、織泉羅はそっと目許を緩めた。星やハートと可愛い見目のクッキーは兄貴作、とは寧の談。加えて、クッキーに添えられた百日草の花言葉が『友への想い』『絆』と知れば、魎夜の表情も緩んでいく。
 そんな彼らが語るのは、今年一年の振り返り。
 皆と会えて本当に良かったと、苺子が思わず涙ぐみ始めれば、驚きながらも素直にその言葉は嬉しかった。思えば琴乃にとっても愉しき縁が多く結ばれたこの一年。織泉羅が並べた写真に視線を落とせば、様々な情景が琴乃の脳裏に描かれていく。
 ──ありがと、いつも一緒に居てくれて。
 ふと、琴乃の耳に魎夜の囁きが落とされれば、彼女は当然ですと首肯した。此処が自分の幸いなる地なら傍を離れることなど在る筈もない。
 百日草に託した絆は寧にとっても特別なものだ。一人で戦ってた系だったけれど、やっぱり皆と会えてよかったなーって思ってる系。それはきっと、絆のお陰。
 目覚めて精々半年の月華に語られるものなどないけれど、ただ、こうして一緒に食べる食事の美味しさを教えてくれたのはこの一時。確かにこの一時も大切だと肯って織泉羅はカメラを取り出した。
 随分と遊んだ一年の記録。
 勿論、この一時も大切な記憶にするために。
 目一杯の笑顔を収めたカメラのシャッターが、織泉羅の手元で、今を切り取る音を奏でた。

 雪檻に仕舞った、大切で愛おしいもの達へ。
 大切な君に、メリークリスマス。
 これからもどうか、共に過ごせる幸せな日々を。


マスター:小藤ミワ 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:95人
作成日:2011/12/24
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