如何様八八花の陣


<オープニング>


 ――『八八花占い 〜何方様もお気軽にどうぞ』。

 そこは下町の外れにある、こぢんまりとした店であった。
「……御免くださーい」
 もしかしたら、もう営業していないかもしれない。
 鮮やかな花鳥風月が描かれた看板は風化し、随分と色褪せているが。
 この『八八花占い』とやらが、如何様なものなのか。
 それがずっと気になっていた占い好きな少女は、この日勇気を出して、店の扉を開いたのだった。
 だが……すぐに、店の中の様子を見た少女はがくりと肩を落とす。
 埃っぽい空気と殺風景な店内を見れば、随分前に店を閉じたのだろうことが分かったからだ。
「あーあ、ついてないなぁ。今日のやぎ座の運勢、あまり良くなかったもんね……」
 占い好きな少女はそう残念そうに溜め息をつくも。
 ふと、目の前の台に置かれている、あるものの存在に気がつく。
「あ、これって、『花札』?」
 そう……それは、『花札』であった。
 少女は裏向きに山になって置かれている札の1枚を何気なく捲り、手に取って眺めてみる。
「よく花札知らないけど……これ、鶴と松かな? なんかニッポン! って感じでお目出度い絵だね」
 少女の取った花札の絵柄は、『松に鶴』。
 ――その時だった。
『……とき葉なる……松のみどりも、春<れば……今ひとしほの、色まさリけり』
「えっ? えええええええええぇぇえっ!?」
 少女は驚いたように思わず声を上げる。
 それもそのはず――目の前に広がる風景は、殺風景な店内のものではなく。
 いつの間にか、松が生え鶴や赤短が舞い飛ぶ、花札の絵柄の如き光景に変化したからである。
 そして現れたのは、鮮やかな着物姿の女。
 女は驚く少女へとふと目を向け、ぱらりと器用に両の手で花札を広げると。
「あ、あ……きゃあっ!!」
 激しい毒を帯びた札を、容赦なくばら撒いたのだった。

「皆様、お集まりいただきありがとうございますわ。運命予報、始めますの」
 水無瀬・詩杏(中学生運命予報士・bn0212)はそうペコリとお辞儀し、視たものを語り始める。
「ある下町の外れの今は営業していない占い店に、地縛霊の存在が確認されましたの。まだ被害は出てはおりませんが、このまま放置すれば、近いうちにこの場にやって来る少女が犠牲となってしまいますわ」
 場所は、下町の外れにあるこぢんまりとした店。そこに、ゴーストの存在があるのだという。
「まず、この地縛霊の出現条件ですが。この『八八花占い』のお店の中へと入り、店内に置かれている花札を1枚めくれば現れますわ。そしてその場に居る人全員を特殊空間へと連れ込みますの。またその際に『どの札を引いたか』によって、地縛霊の使ってくる技が変わってくるようですわ」
 敵の地縛霊は、花札を手にした着物姿の女――便宜上『花札御前』としよう。
 花札御前を出現させるにはまず、山にして置かれた花札を誰かが1枚引く必要がある。
 そしてその引いた札によって、若干花札御前の使用する攻撃が変わってくるというのだ。
「成程。それでどの札を引いた場合に、どのようになるのだろうか」
 集まった能力者のひとり、墨枝・宗司郎(高校生書道使い・bn0314)は、詩杏がおもむろに机に広げた花札を目にしながらも、そう尋ねる。
「それが……どの札がいわゆる『当たり札』かは、申し訳ありませんが分かりませんでしたの」
 そう瞳を伏せる詩杏。だが、敵の能力は以下のように判明している。
 花札御前は、太鼓を持った赤と灰色の鬼の手を伸ばし引き裂いてきて毒を付与してきたり、花見酒を飲んで自らの回復や攻撃力の強化をはかったり、無数の花札をばら撒いて広範囲に及ぶ攻撃を仕掛けてくるようだ。
 そして『当たり札』を引いた場合、ばら撒かれる花札には激しい毒が付与されるのだという。
「あと、花札御前さんの他に、猪のリビングデッドが1体おりますわ。こちらは真っ直ぐ突進し体当たりしてきますの。あとは引っ掻いたり噛み付いたりしてくる程度ですわ」
 倒すべき敵は2体。油断せずにさくっと倒してほしい。

「そして、ゴーストを退治した後ですが。近くのお寺で行なわれる歳の市『羽子板市』へと足を運ばれてみてはいかがでしょうか」
「歳の市とは、神社仏閣で正月用品や祝儀物を売る市のことだな。『羽子板市』か」
「ええ。この『羽子板市』は年の瀬恒例の縁日で、50ほどの羽子板の露店が境内に並びますの。歌舞伎物から現代風のものまで様々な絵柄の羽子板があるそうですし、羽子板の絵付けなんかもできるそうですわ。勿論、羽子板やお正月用品だけでなく、定番の食べ物や雑貨などの露店も沢山出るそうですの」
 宗司郎はそんな詩杏の言葉に瞳を細めた後、机に視線を落として。
 ある1枚の札を手にし、言った。
「この、通称『雨札』に描かれている人物・小野道風は、書道の神様と祀られている平安時代の能書家だ。そんな神様に恥じぬよう黄泉還りを滅し、祭りも楽しみたいところだ」
 詩杏は鮮やかな絵柄の花札から宗司郎へと目を向け、大きく頷いてから。
「ええ。お祭りを楽しむ為にも、ゴーストの退治をよろしくお願いいたしますの」
 能力者達全員を見回して、丁寧にもう一度、頭を下げたのだった。

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参加者
日向・るり(蒼空に揺れる向日葵・b06322)
宇津木・花(真土蜘蛛の巫女・b35810)
一条・陽花(明かりの花・b53696)
夜科・涼子(蒼穹の乙女・b55281)
羽住・悠砂(星屑メロディ・b60673)
望月・祐理(高校生真魔剣士・b73386)
巌・智速(藍染羽織の呪言娘・b77502)
小空・睡蓮(ラクシュミーの花弁・b79291)
御狩・宙(紅白月・b82559)

NPC:墨枝・宗司郎(高校生真書道使い・bn0314)




<リプレイ>

●五光猪鹿蝶
 四季折々、天地自然の美しき色の中に踊るは、流水の如き筆文字で書かれたこんな謳い文句。
『八八花占い 〜何方様もお気軽にどうぞ』
 だが今ではその看板はすっかり風化し、色褪せている。
 そんな、どこか無常感漂う看板を眺めながら。
「八八花占い、やってみたかったわねぇ」
 宇津木・花(真土蜘蛛の巫女・b35810)は褪色した花鳥風月の様を見つめつつ、そう呟いて。
「花札を使う占い、なぁ……どんなんやったんやろ?」
 一条・陽花(明かりの花・b53696)も小さく首を傾ける。
 八八花とは所謂、一般的な『花札』のこと。
 そしてこの八八花占いが如何様なものなのかは分からないが。
(「まぁ、どんな占いだったかもいかさまだったかも今更知りようないし」)
 早いところ依頼を完遂させたいと、陽花は看板から店の入り口へと視線を移す。
 当たるも八卦、当たらぬも八卦。
 だが占いは、人の心を捉え揺さぶる、不思議で魅惑的な言の葉。
「わたしも占い好きなので、予報に出てたお姉さんの気持ち、分かります」
「女の子ならやっぱり占い気になりますよね」
 特に乙女にとっては結果がとても気になるもの。
 羽住・悠砂(星屑メロディ・b60673)の言葉に頷く、日向・るり(蒼空に揺れる向日葵・b06322)。
 占いの結果は、時に背中を押す勇気をくれたり、幸せを感じたり。
 また、溺れて深みに嵌る事もある。
「今週のおとめ座はどんな運勢なんでしょうね」
 夜科・涼子(蒼穹の乙女・b55281)はそうくすりと笑んでから。
 これまで何人もの乙女が訪れただろう店の扉を、静かに開いたのだった。
 キイッと軋みながらも、いとも容易く開く店の扉。
「不法侵入成功ー……鍵くらい掛けておけばいいのに」
 広がる殺風景な店内を見回し、そう呟く陽花。
 いやむしろ……店の主が、客を待っているかの様な気さえする。
 ――『何方様もお気軽にどうぞ』、と。
 だが、八八花占いとやらが例えどんなに当たる占いでも、乙女がどれだけ占いが好きだとしても。
 予報視された少女をこの店に行かせるわけにはいかない、と。
 そう表情を引き締めて店内に足を踏み入れるるりに続き、悠砂も誇りっぽい店内へと侵入を果たして。
(「占いを悪い事に使うのは、だめなのです。花札も……あんまりやった事ないからよく解らないのですけど、でも、悪い事に使うのはだめなのです」)
 目の前にふいに置かれた花札に、視線を向けたのだった。
(「花札で占い? よくわかんないけど、悪さはめーっなの!」)
 小空・睡蓮(ラクシュミーの花弁・b79291)は花札を見つつ、大きく首を傾げるも。
 御狩先輩お願いしますなの、と、御狩・宙(紅白月・b82559)を見つめた。
 今回のゴーストの出現条件は、誰かが花札を引くこと。
 そして札の中には、敵の攻撃能力を強化してしまう『当たり札』が存在するという。
 だが、引いた札で地縛霊の攻撃が変わってくるってのとか面白そうだしな、と。
 運試しの勝負を楽しむかの様に、皆よりも一歩前へと出て。
(「花札な。俺、あの色合いとか札の感じが好きだぜ」)
 山になった花札に、視線を落とす宙と。
 それを見守る仲間達。
(「当たり札が来ませんように」)
(「光札が当たり札って予想、合ってると良いけど……」)
 祈るように見つめるるりの隣で、じっと札が引かれるのを待つ花。
 そう――能力者達の『当たり札』の予想は、『光札』。
(「こいこいでいう20点の札でしょうか。そういえば、三光とか四光とか五光とか言いますものね」)
 涼子の言う、こいこいの20点札は、5枚の『光札』のことだ。
 また、誰がどの札を引くかが決まっているのだというが。
(「こいこいのルールなら少し齧った程度でわかりますが、花札の月の意味とかまでは知りませんでした」)
(「予報視の山羊座の女の子が引いたのは、1月の札だったね。和歌も1月。1月といえば光札のひとつ。これを機にいろいろ調べてみたけど、奥が深い」)
 札へと手を伸ばす宙から目を外さずに、巌・智速(藍染羽織の呪言娘・b77502)も、固唾を呑んで状況を見守っている。
 智速や皆の考察通り、予報視された少女の星座は山羊座。1月生まれの可能性が高い。
 そして少女が引いた札『松に鶴』も、出現した地縛霊の詠んだ和歌も――『1月』にちなんだもの。
 すなわち、宙が取る札は。
「吉と出るか凶と出るか、いっちょ運だめしといこうじゃねーか!」
 鮮やかに咲く菊と、盃の絵柄。
 彼の誕生日である9月の札――そう、『菊に盃』であったのだ。
 これは当然、当たり札と睨んだ『光札』ではない。
 ……その時だった。
「!」
 空間が歪んだ気がした瞬間、鮮やかな菊の花が咲き誇り、まるで花見をするかの様に盃が並ぶ。
 それは一見、美しい9月札そのものであるように見えるが。
「……気を付けて行くぞ」
 望月・祐理(高校生真魔剣士・b73386)は、どこか歪んだ花鳥風月の光景を悪趣味だと感じながらも、長剣を構える。
 そして。
『…………』
 花札の9月札に和歌はない。
 ゆらりと菊の空間に静かに表れしは、着物姿の花札御前と猪であった。
「出やがったな……それじゃあ、いっちょひと暴れしてやるぜ!」
 だが――その瞬間。
「!!」
 和を思わせる特殊空間に乱舞するは、彩り見事な花鳥風月の嵐。
 しかし、急に敵が襲ってきた時のことを懸念し、事前に打ち合わせしていた通りに。
 すかさず墨枝・宗司郎(高校生真書道使い・bn0314)のしたためた戦文字「豊穣」が、皆の傷を癒すべく天翔ける。
 そして戦場を乱舞した花札に、超猛毒の効果は付いてはいないのだった。

●花の嵐
「はわー、花札ってよく知らないですけど、綺麗ですね」
 見事『当たり札』である『光札』を回避した能力者達にとって、眼前の敵は取るに足らぬ相手。
 菊に盃、萩に猪、こいこい八八花合わせ。
 花札は見目色鮮やかに飛び交いながらも、鋭く鮮血を走らせるが。
「ヤドリギさん、祝福なのです」
 充実した回復手によってすぐに傷は塞がれ、戦線に全く揺ぎは無い。
 逆に、和の世界に紡がれ舞い踊るは、能力者達の攻撃。
「歌は歌でも呪いの言葉、紡がせてもらうよっ!」
 智速の呪いの言霊が荒ぶる猪に襲いかかれば。
 後衛支援の普段のスタイルとは違い、継承者から託されたという籠手を嵌め、前へと出て。
「さあ、この美しい舞に酔いしれろ。そして死ね」
 普段の優雅なものとはまた違った、猛々しい荒ぶる舞いを披露する涼子。
 たしか、こう言えば良かったんでしたっけ……やっぱり恥ずかしいです、と。
 そっと呟きながらも。
 そんな荒ぶる涼子に続き、花札御前へと猛毒の衝撃を一撃見舞う祐理。
「猪に集中している間フリーにして置く訳にはいかないからな」
 そして思惑通り、伸ばした赤い影に引き裂かれ、駆け巡る猛毒に身を捩る花札御前は。これまで蓄積したダメージも合わせ、堪らずに花見酒を飲み干す。自らの回復に専念してくれれば、猪を倒しやすいから。
 刹那、宗司郎がしたためた「伊邪那美」の戦文字が、文字通り猪突猛進な猪をきつく縛り上げる。
 そんな、ふがふがジタバタと、動けずもがく猪を見て。
「猪鍋にして食べたら美味しそ……はっ。分かってます。食べられないですよね」
「……そういえば今年はまだ牡丹鍋食べてないわねぇ」
 しょんぼりするるりと、じーっと見つめぽつりと呟く花。
 この猪は、鍋にはできなさそうです、ええ。
 だがその間に、体力や状態異常からの回復をはかり、そして一気に攻勢に転じる能力者達。
「まだまだいけるよ、がんばろうっ」
「祖霊さん、お願いします」
 智速の術符や花の光を纏った槍が花札の世界に彩りを添えて。悠砂の祖霊が降ろされれば。
 るりの禍々しい一睨みに続き、陽花の橙と蒼の二重奏を織り成す杖から撃ち出されし蒼き雷弾が閃き、ケルベロスオメガの赤き炎が敵の身を焦がして。同時に、宙の凝縮された妖気が紅蓮を帯び、強烈な一撃となって叩きつけられる。
 そして魔炎に焦がれながら、揺れる猪に引導を渡したのは。
「さよなら、です」
 舞う様になぞられた、涼子の凍気宿りし指先であった。
 これで、あとは。
「お前の命、俺が預かってやる、覚悟しやがれ、花札御前!」
 花札御前を残すのみ。
「花札は日本の粋がつまったものなの、だれかをきずつけるだなんて粋じゃないの! そんなぶすいなのにはおしおきなの!」
 びしぃっ! と唸りを上げ、花札御前に叩きつけられるは、睡蓮の虚空ギロチンの処刑鞭。
 花札御前はその衝撃に体勢を崩しながらも、はらり1枚の札を取って天へと放った。
 それは、鬼札――『太鼓に鬼の手』。
「く……っ!」
 空間に雷鳴が轟き、刹那伸びた鬼手が、祐理を引き裂きにかかって毒を蝕む。
 だが、すかさず施されるは、悠砂の慈愛の舞。
「悪い状態、今治すのです」
「ありがとう」
 祐理は身体から浄化された毒と回復する体力に礼を言い、改めて長剣を握り締める。
 当たり札を引かなかったとはいえ。
 花札御前の攻撃は、ただダメージだけを与えてくるものではない。
 だが……そんな敵の動きを封じたのは
「あなたの運は自分で捨てたと後悔しなさいっ!」
 回復を兼ね自己強化していた花札御前へと見舞われるは。
 智速の、呪詛呪言の衝撃と痺れる呪縛の言葉。
『……!』
 それに抗えず、マヒして身動き取れなくなった花札御前。
 お正月といえば着物でカルタだけど花札も良いかも、と。
 美しい色柄の着物を纏う花札御前を狙いすまして。
「この花札御前さんも、そうやって過ごしてきたのかしら?」
 花の光の槍が、地縛霊の身を容赦なく貫く。
 そして、大きく上体を揺らした敵へと、満を持して放たれるのは。
「必殺! 突撃メイデンです」
 びしっとポーズを決め召喚した、るりの「鉄の処女」による幾重にも連なる衝撃であった。
 そして四季折々、風光明媚な花札に送られて散りゆく、花札御前。
 今これにて――八八花の局の勝負が、ついた瞬間であった。

●羽子板の市
 縁日もいいけど羽子板も捨て難い。でもやっぱり縁日……!
 るりと睡蓮に明花も合流して。
「お祭りは正義なのです」
 ということで!
「にっくー!」
「おにくだよね、やっぱり。ねー」
「串焼き高いですが……食べます!」
 そんなおにくに滾る乙女達に笑んで。
 人数分買った串焼きを、奢りだと差し出す宗司郎。
 でも、まだまだ序の口。
 ドネルサンドにフランクフルト、焼玉蜀黍にじゃがバタ。いつもの様に沢山、のんびりほかほか。
 そしておなかが少し満足してから。
 乙女達が咲かせるは、羽子板に描くそれぞれの華。
 大好きな白梔子を絵付ける明花の横で、八重桜を頑張って描くるり。
 睡蓮は、美人度で負けないようにするのー! と羽子板の日本美人と張り合いながらも、結社のにに達の顔に墨をぬるの! と、とっておきの羽子板を選んで。
「墨枝先輩は買うのですか?」
 やたら渋い羽子板をいくつか手に、ふむと独り言ちる宗司郎に首を傾ける。
 そして、絵付けも買い物も無事完了! 甘酒をふーふー飲んだ後。
 再びいざ、楽しい食べ歩きへ!

「はぐれ無いように、手繋ぐ?」
 そう差し出した手に、するり冷えた手を寄せたしのに。
 花は、屋台の明かりが映え始めた風景と人出に、足元気をつけてと添えてから。
 視線を、ずらり並ぶ羽子板へと向ける。
「艶やかな羽子板も惹かれるけど、今日は丈夫な羽子板を探したいなって思ってるの」
「一緒に頑丈そうなの見繕おうか?」
 そして二人で楽しく会話を交わし、羽子板を沢山選んだ後。 
「今日にちなんで花札も買って帰ろうかしら」
 そう言った花に、しのは笑む。
 花札買ったら家寄って遊んでくかい? と。

「古い物に囲まれて育ったからわくわくだよ」
 骨董品や日本画に造詣の深い環境であった智速は、羽子板は雅な時代がモチーフなのがいいなぁ、と。そう羽子板市を千秋と見て歩きながら、なんなら千秋の好みでも良いと彼に目を向ける。
 これも、嫁入り道具にするのだから。
「千秋も好きでしょこういう所。買い物あれば付き合うよっ」
 そんな智速に頷いて。
「来年のためにな」
 千秋は、縁起物の達磨をひとつ、探して選ぶ。
 来年のために――彼女へと、贈る物を。

 本格的な羽子板を目の当たりにするのは、二人とも初めて。
 待っていた望と合流した陽花は彼と一緒に、物珍しげに沢山の羽子板をしげしげと眺めている。
「中位のなら買ってみようか……」
 祐理も羽子板屋台を眺めながら、沢山ある中でも手が届きそうな代物を探す。
 特殊空間で見た和も一見すると鮮やかではあったが。
 眼前に広がるのは、それとは全く異なる、温かみのある美しさ。
「ふう、ちょっと恥ずかしかったです」
 戦闘で荒ぶり舞った涼子はそう呟くも。気を取り直して、羽子板市を楽しむ。
「和風の物は好きですし、何か一つ買っていきましょう羽子板」
 そして購入した羽子板をふと宗司郎に、一筆、と手渡して。
 受け取った宗司郎は少し考えてから。するりと、流れる様に筆を走らせた。
「すげーな、こういう賑やかな光景ってぇのは見てるだけで楽しくなるぜ」
 鮮やかに、華やかに、そして賑やかに。
 何気に屋台で買った沢山の食べ物を頬張りながら、羽子板並ぶ賑やかな羽子板屋を眺める宙は。
「俺は羽子板は、飾るヤツ見るよりもやる方がいいな! 宗司郎はどっちなんだ?」
 相手を墨まみれにしてそーで強そうだよなと、そう宗司郎に目を向けて。
 鑑賞するものも羽をつくものも、どちらも良いなと微笑む彼に。
「機会があったらよ、俺と是非とも羽子板で戦ってほしいぜ」
 羽子板勝負を申し込む。
 そして、その時の為にと、楽し気に羽子板を物色し始めた宙に。
「此方こそ是非に。存分に墨塗れにしてやろう」
 やたら渋い羽子板を選びつつ、微笑む宗司郎。
 そんな羽子板市も良いけれど。もっと興味があるのは、定番の屋台! と。
 陽花は望や皆と、たこ焼きに串焼きなど、定番の食べ物屋台をぐるり巡って。
 のんびりほくほく、楽しいお祭り気分を。
 
「人が沢山なのです……」
 でも、大丈夫。
「うわー、やっぱ年の瀬のお祭りって感じがするね!」
 お祭り好きなお姉ちゃんと、ぎゅっと、手を繋いでいるから
 羽子板って色んな種類があって見てて綺麗なのですと、悠砂は沢山の羽子板に目を向けて。
「そう言えば小さい時に、家族とお隣さん達とで羽子板やった事あったかも」
 飾ってあると人形みたいで綺麗だから、あまり思いつかなかったと、そう首を傾けた。
 そんな妹の言葉に、ぽんっと手を打つ楓。
「折角だから羽子板買ってって今度皆でやろっか?」
 皆でわいわい、羽子板も楽しそうだけれど。
 悠砂は、八八花乱舞する和の彩りをふと思い返しながら。
「そうだお姉ちゃん、帰ったら花札教えて」
 花鳥風月の和心溢れた羽子板を見つめ、やってみたいな、と。
 そう微笑むのだった。


マスター:志稲愛海 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:9人
作成日:2011/12/28
得票数:楽しい8  カッコいい1  ハートフル6 
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