鈴蘭屋敷


<オープニング>


 足を踏み出せば、カサっと乾いた草の音が響く。
 目の前には、海外にでも行かなければ見れない様な古ぼけたお屋敷が一軒。
 その屋敷を囲む様に大量の鈴蘭が咲き誇っていた。
 男は目にうつる光景にどう反応して良いのか分からなかった。
 確か自分は、近所の植物園に居たはず……。
「ようこそ、私の鈴蘭屋敷へ」
 呆然としている男に声がかかった。
 振り向けば、白い日傘を差している女性が一人。
 錦糸の様な背中までの黒髪。その身を包むのは日傘と同じシンプルな白いワンピース。
 ここは何処だと問う為に口を開いた男は、しかし言葉を発する事は出来なかった。
 鼻に届く芳醇な香り、首に絡みつくカサついた冷たい感触。
「ようこそ、私の鈴蘭屋敷へ」
 再度女性が口を開き、にっこりと微笑んだ。

「皆、筋肉痛とか大丈夫? 今回もバシバシ行っちゃうよ〜」
 集まった能力者に、雛咲・小羽(小学生運命予報士・bn0037)が微笑んだ。
「今回、皆に退治して貰いたいのは女の人の地縛霊なんだ」
 小羽の話はこうだ。
 その地縛霊は鈴蘭の形をしたものを持っている人間を狙うという。
 そしてその条件を満たし、ある植物園の鈴蘭コーナーに差し掛かった瞬間、特殊空間へと引き連りこんでしまうのだ。
 鈴蘭と言えば、今が丁度その時期。
 しかし、鈴蘭の形をした物を持って植物園へ行く確率はどれ程のものか?
 それ故なのか、今まで犠牲者が出ていなかったのだ。
 しかし、不運な事に男が一人捕まってしまった。
 地縛霊は捕まえたものを殺し、その肉体を鈴蘭の糧にしようとしている。
 だが、唯の気まぐれなのか、それとも何か別の事を考えているのか。
 今捕まっている男は地縛霊に殺される事無く、特殊空間に捕らわれているのだ。
 捕まっている男が初の犠牲者となるのも時間の問題だろう。
「特殊空間に入ると、一面鈴蘭だらけの鈴蘭畑に出るみたいなの。
 特殊空間の広さは、何て言うか……。もー、凄く広いの!!
 凄く広いって事しか言えない位広いんだよ!!」
 両手を大きく広げて説明する小羽。
 大きさを精一杯伝えようとしているが、それにも限界がある。
 大きさを伝えるのを諦めると、小羽は能力者達に向き合った。
「特殊空間の中には大きなお屋敷があるんだけど、そこに捕まった男の人が居るみたい。
 幸いな事に気を失ってる状態みたいだから、自分の身に起きた事も夢だと思ってるみたいだよ。
 それとね、地縛霊は鈴蘭畑に入って暫くすると現れるはず。
 地縛霊の攻撃は全部鈴蘭は媒体としていて、ダークハンドみたいな遠距離攻撃と、ブラストヴォイスみたいな全体攻撃をしかけて来ると思うんだ。
 通常攻撃も鈴蘭を媒体にしてるだけあって、遠距離を攻撃出来るものだから後衛にいるからと言って安心は出来ないからね」
 敵はその女性の地縛霊が一人、屋敷に誰も近づけまいと行動するだろう。
 しかし一人だからと油断する事なかれ、その攻撃力は中々に高い。
 そして鈴蘭を媒体にした攻撃は油断出来ないものとなるだろう。
「そうそう、戦闘が終わったらゆっくりと植物園を散歩してみるのもありだよ〜。
 色々な花があるから、ゆっくりと散歩して気分転換ってね♪」
 説明を終えると小羽はパチっとウィンクした。
「中間テストも近いけれど、皆頑張ってね」

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参加者
夜月・京(黒衣の影・b00113)
風見・莱花(白薔薇の令嬢・b00523)
シュネー・アウターゼーエン(陽だまりに唄う雪兎・b01495)
アリア・アマティ(幻奏・b12345)
遊佐・霧雨(温故知新・b13986)
タルト・ブランシェ(凛華翠花・b19594)
アイン・ヴァールハイト(黒翼・b22629)
月夜・澪(幻想なる闇月・b22747)



<リプレイ>

●鈴蘭の導き
 その植物園に穏やかな時間が流れていた。
 花を見に来ている人達は少なかったが、彼等は騒ぐでもなくゆったりとした時に身を任せている。
 時折、囁き程度の声で何か言葉を交わしているが、それは不快になるものではない。
 今が時期の花々が、艶やかに美しく咲き誇り、自身を主張している。
 お土産コーナーを覗けば、花の形をした物が沢山置かれていた。
 そんな静かな賑わいを見せる場所から離れた所に、件の鈴蘭コーナーは置かれていた。
 石で出来たタイルを踏む音が静かに響く。
「ここですわね」
 風見・莱花(白薔薇の令嬢・b00523)が、確認するように辺りを見回した。
 彼等を挟むかのように、両脇に鈴蘭が植えられている。
 その数もかなりのもので、一面白と緑のその光景は心を穏やかにし、癒すのには十分なものだ。
 静かに靴音を響かせて奥へと向かって歩く。
 そして中央に差し掛かった瞬間。
「あっ……」
 夜月・京(黒衣の影・b00113)が小さく声を上げた。
 鈴蘭コーナーに来た時から出していた【君影草】が光っているのだ。
 元々【君影草】は懐中電灯ではあるが、その光はぼんやりとしたもの。
 しかし、京の手の中にある【君影草】の輝きはそれ以上だった。
 見れば、同じく【君影草】を持っていた者達のも光っている。
 スーツの襟につけた、アイン・ヴァールハイト(黒翼・b22629)の鈴蘭のブローチも。
 姉から貰ったという、月夜・澪(幻想なる闇月・b22747)の鈴蘭のキーホルダーも。
 【君影草】と同じ光を放っていた。
「これは……」
 一体どういうこと? そう続くはずだったタルト・ブランシェ(凛華翠花・b19594)の言葉は宙に消えた。
 彼らがその場から消えるのと同じくして……。

●鈴蘭屋敷
 ざぁぁぁ、っと風に吹かれ、鈴蘭の花が音を奏でれる。
 それは、小波の音にも似ていて……。
「ここが……、特殊空間……」
 目の前の景色に、アリア・アマティ(幻奏・b12345)は息を呑んだ。
 見渡す限りの鈴蘭。
 それが一斉に風に吹かれ、花が音を立てる。
 時折空を舞う白い花弁が空間を包み込んでいるようで言葉が出ない。
「……君の影を映し……導くは、異界の……屋敷」
 京が呟いて辺りを見回す。そして、その目の前に大きな洋館が見えた。
 それが、件の鈴蘭屋敷であり、あの中に男性が捕らわれている。
 それは間違いようの無い事実だ。
「綺麗なお花畑だけど……寂しい感じがするのね」
 シュネー・アウターゼーエン(陽だまりに唄う雪兎・b01495)がぽつりと呟いた。
 確かに鈴蘭は可愛い、そして癒される。
 けれど一面、見渡す限りのその光景は逆に寂しさを呼び出されるのだ。
「私の鈴蘭屋敷へようこそ」
 カサッと音がしたかと思えば、鈴を転がしたような声が彼らにかけられる。
 鈴蘭の間を、まるで滑る様にして移動して来た女。
 彼女自身が鈴蘭の精であるかのように、真っ白な服を纏い、真っ白な日傘を差していた。
 鈴蘭の精……。そう呼ぶにはあまりにも禍々しい者ではあったが……。
「私の鈴蘭屋敷へようこそ」
 再度にっこりと微笑んで女は告げた。

 ざぁぁぁ、っと鈴蘭が音を奏でる空間。
 その音とは別の大きな草を踏む音。
 【雷切】と【妙法村正】を構え、遊佐・霧雨(温故知新・b13986)は地縛霊へと向けて地を蹴る。
 霧雨に続き、京、シュネー、タルトと己の獲物を構え、地縛霊へと間合いを詰めた。
 明らかに自分を害する動きを見せる彼らに、しかし地縛霊は動じるでも無く、ただ静かに微笑んでいるだけ。
 自身に向かってくる霧雨達を一瞥すると、右手を前へと伸ばす。
「私の可愛い鈴蘭……。貴方の体で感じて下さい」
 にっこりと微笑む地縛霊。
「……っ!!」
 アインが小さく呻いた。
 そのアインの肩を、鈴蘭が一つに纏まり、まるで鉄の棘のようになったそれに刺されていた。
 アインは戦闘開始と共にリフレクトコアを発動していた。
 しかし、それは敵の攻撃を完全に防ぐ事は出来なかったのだ。
 アインの近くに居た澪が術扇で鈴蘭の棘を薙ぎ払う。
 鉄の様な鋭利さを持っていた鈴蘭は、もとの自身を取り戻したかの様にハラリと宙を舞った。
 これが敵の能力なのだ……。鈴蘭を媒体とした敵の……。
 すぐさま澪が治癒符を放ち、アインの傷を癒す。
「このっ!!」
 【奏燐蝶の寄る辺】を構えタルトが地縛霊へと攻撃を仕掛ける。
 地縛霊を囲うようにして展開していた、霧雨、京、シュネーも続く様に攻撃を放つ。
 しかし、彼等の攻撃はどれも致命的なダメージは与えられず、地縛霊が操った鈴蘭の攻撃に弾かれる。
 宙に浮いた体を、手を地面につける事で受身を取ったシュネーはそのまま体を戻した反動を利用し、一気に地縛霊へと近づき光の槍を放つも、それは地縛霊が優雅にターンした事により避けられた。
 シュネーが地縛霊へと攻撃してる隙をついて地縛霊へと接近したタルトは、振り向き様の地縛霊による鈴蘭の攻撃を受ける。
 咄嗟に、自分に向かってくる鈴蘭の棘に【奏燐蝶の寄る辺】をつき立て、その反動で避ける事に成功したものの、それでも傷を負ってしまう。
 後方で、莱花とアイン、アリアの癒しの旋律が流れ、傷を癒してくれるが戦いが長引けば厳しい。
「あら……、あらあら、困りましたわね……」
 日傘を持っている手とは反対の手を頬にあて、地縛霊は周りを見回す。
「これ以上、私の可愛い鈴蘭達が散っていくのは耐えられませんわ」
 吹く風が地縛霊の髪を揺らし、鈴蘭の花弁が雪の如く儚さで宙を舞い。
 芳醇な香りが彼等の鼻腔をくすぐる。
 小さく、本当に微かな旋律が空間を振るわせた。
「……っ!!」
 小さく声を上げて、アリアは膝をつく。
 空気を振るわせるかのような衝撃……、このまま地縛霊にこの技を使わせるのは危険すぎる。
 衝撃が過ぎるとアリアは隣に居る莱花、アインに目配せし、ヒーリングヴォイスを紡ぎだす。
 三人の紡ぎだした癒しの旋律は、前衛で戦っている者達の傷を癒した。
 旋律を紡ぎ終えた地縛霊の隙を突き、澪が光の槍を放つも、瞬時に気付いた地縛霊の前に鈴蘭の壁が出現する事で塞がれる。
 前に防御壁を作り出した地縛霊の後ろに京が居た。
「綺麗……ですが、ここは違い……ます。故に、貴方を……再度、殺します」
 京は常に地縛霊の背後を取れるように動いていたのだ。
 しかし、地縛霊の扱う鈴蘭に攻撃のチャンスを阻まれていた。
 だが、今がまたとないチャンスなのだ!!
 自然と術扇を握る手に力が込められる。
 地縛霊が京の方向に振り向くその瞬間、旋剣の構えで強化された術扇の攻撃が炸裂した。
 地縛霊が京の攻撃を受けて体勢を崩すと、地縛霊の前にあった鈴蘭の壁が崩れる。
 そこに再び澪の光の槍が放たれる。
 それを地縛霊が避けようにも、京やタルト、霧雨、シュネーが居るのだ。
 彼らに囲まれるようにしている状態である以上、大きな移動は出来ない。
 再度鈴蘭の壁を作りだそうと腕を持ち上げた瞬間、その腕に澪の光の槍が刺さった。
「あの世に行くがいい……、死の天使が待ってるだろうさ」
 痛みのあまり、後方へと体勢を崩す地縛霊にアインの光の槍。
「天国のお花畑は、ここよりきっと素敵なのね。だから……ばいばい」
 そして、タルトとシュネーの近距離からの光の槍が突き刺さる。
 四方向より放たれた光の槍は、見事地縛霊の体をその場に縫い付ける事に成功する。
「あなたは、ここが、鈴蘭が、大好きなんですね。
 けれど、あなたが鈴蘭を大切に想うように、彼を大切に想うひともいるから」
 身動きの取れない地縛霊にアリアが囁くように言葉を紡いだ。
 そして、目を軽く瞑り、再び見開いた時、そこには強い意志の光が宿っていた。
「皆さん、これで終わりにしてください!!」
 アリアの紡ぐ癒しの旋律。ヒーリングヴォイス。
 それは疲れきった仲間達に再び力を与えた。
「これで最後ですわ!!」
「これで終わりにします!!」
 地縛霊を挟む様に位置していた、莱花と霧雨がその手に炎を生み出す。
 そして、その炎を地縛霊目掛けて放った。

●花を見ながら
 地縛霊を倒し、男性を救いだした彼等は元の植物園へと戻っていた。
 助け出された男性は、自分が花を見て転寝をしていたと思っているだろう。
 何はともあれ事件が無事に解決したのだ。
「後は、任せました……よ」
 男性を起こす前に、京は闇纏いをしてその場から去っていた。
(「ラフレシア……、見たかった……」)
 ぽーっとしながらふらふらと彷徨う京の背中に哀愁が漂っていたとか。
 幾ら植物園といえど、流石にラフレシアは置いてないのである。
 鈴蘭コーナーから離れ、別のコーナーへと歩く莱花の脳裏には、先程戦闘場所だった鈴蘭畑が思い起こされる。
 あれだけ、壮大に咲いていた鈴蘭の花達。
 植物園に咲いている花達が貧弱だとは思わないけれど、迫力が違っていた。
「あんなに大きくて綺麗な鈴蘭畑。あの地縛霊は生前、あんな場所に住んでいたのかしらね。
 あの地縛霊にとっては、色々な思い出がある場所なのかもしれないわ」
「そうですね……」
 莱花の言葉に、莱花と一緒に見学していたアリアが相槌を打つ。
 彼女の脳裏にも先程の鈴蘭畑が浮かんでいるのだ。
 あんな、壮大で美しい光景。そんなに簡単に忘れるわけがない。
 そんなアリアの目は自然と、鈴蘭畑へと導いた【君影草】に行く。
 もう、それが自分をかの場所に導く事は無いと知っているけど……。
(「鈴蘭達が美しかったのは、彼女が彼らを沢山愛したからでしょうか……。
 それとも、彼らもまた、彼女を愛していたからでしょうか 」)
 一つ笑みを零すと、アリアはランプを仕舞う。
 そして、莱花と一緒に、脳裏にある鈴蘭畑以上の花を眺めに行くのだ。
 莱花、アリアとは別の方向にタルトと霧雨は歩いていた。
 折角の植物園だ。綺麗な花々を堪能しないで何をする?
 それに地縛霊退治があったとは言え、近々テストが行なわれる。
 勉強もしなくては行けないし、勿論ゴーストが現れれば退治しなくてはならない。
 そんな慌しい時の中で、少し位緩やかな時間があっても良いのでは無いのか?
 気分転換を兼ねての、植物園見学は中々に心癒されるものである。
 談笑しながら園内を歩く、タルトと霧雨の姿は能力者ではない、一人の少女だった。
 園内の中央にある休憩所に澪とアインの姿があった。
 二人は何をするでもなく、静かに周りに植えられている花々を愛でる。
 こうしていると、まるで世界に自分一人だけ取り残された気分になる。
 穏やかな時の流れ、静かな空間……。
 その時、彼等の耳に微かな旋律が届いた。
 耳障りではない、美しいく柔らかい声。
 成長しきってない、だが未熟とも言えない声が旋律を紡ぎ出す。
 鈴蘭コーナーで最後まで男を見ていたシュネーの歌声だ。
 シュネーの紡ぎ出す歌声に耳を傾け、目を閉じる。
 ふわりと風が髪を靡かせた。
 穏やかな時、緩やかな時の流れ……。
 ずっと、こんな時が続けば良いのに。
 そう、思いながら……。


マスター:桜花 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2007/06/11
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