<リプレイ>
●標的 柳瀬莉緒は時折、自分はいわゆる「普通の女の子」ではないと思う事がある。それどころか、好戦的な人間なのかも知れないと。 小学生の頃には既に運命予報士であり、未来視の中では凄惨な光景を嫌と言う程見て来たし、命がけの現場へ能力者を送り出した回数も100回やそこらでは利かない。 もちろん彼女にとっても、人が死ぬ光景を目にするのは愉快な事ではない。友人達を死地に送り出すのも辛い事だと思う。 それでも、莉緒は予報士をやめたいと思った事はないし、その力を呪った事も無い。予報士であることは誇りだったし、もっとシンプルに言えば、好きなのだ。 能力者達と共に、この世界を守る為に戦っていると言う想いは、少なからず彼女の心を躍らせる。 だから今回、未来視によって自分が殺される光景を視ても、恐怖はさほど感じなかった。 能力者達が自分を守ってくれるだろうと言う、信頼に起因する所が最大なのは言うまでもないが、より能力者達に近い場所で戦える事は、彼女にとっては喜びでさえある。 気がかりと言えば、自分を守る為に能力者達が傷つくのではないかと言う恐れ。その一点だけと言って良かった。 「莉緒は……確か小学生の頃から予報士をやってたそうだな? それがここまで大きくなるまで能力者達を支え続けていたとは、大したものだ!」 豹童・凛(近寄り難き者・b33185)は、隣を歩む莉緒の表情を和らげる様に、そんな言葉を掛ける。 「有り難う、豹童さん。そういってもらえると嬉しいわ」 微笑んで応える莉緒。能力者から必要とされ、頼りにされる事は予報士冥利に尽きる事だ。 「莉緒さんは絶対、守ります!」 「御安心を莉緒様、凶刃一振りたりとも、貴女の元へは行かせません」 口々に言う山桜・麻里(花守くのいち・b35101)と中寮・琴乃(風花の舞う静謐の乙女・b47782)。 「うん……頼りにしてるわ」 胸が熱くなるのを感じつつ、こくりと頷く莉緒。 「はぁ〜……ここって時に決めきれないですねぇ莉緒さんは」 「な、何がよ」 「そこでツンデレなくていつツンデレるんですかぁ? それともクールデレにでもなるつもりですかぁ」 「はぁ……この人にはお願いしない方が良かったかしら。せっかくの緊張感が……」 こんな時でも我が道を行く志筑・涼子(残念な子とは呼ばせない・bn0055)の軽口に、ぼやきつつ眼鏡のずれを直す。ホームグラウンドである銀誓館が攻撃を受けているこんな危機的状況だからこそ、そう言ったマイペースさも大事なのかも知れないと、内心では思いつつ……。 さて、そんな莉緒を擁する能力者達一行は、銀誓館の敷地に数多く点在する体育館の一つへたどり着いた。莉緒を守りつつ暗殺部隊を迎撃するには、地形的に好都合な場所。 あとは暗殺部隊を待ち構えるばかりだ。
●招かれざる客 体育倉庫に莉緒を隠れさせ、その前に陣取る能力者達。 体育館の各入り口は一つを除いて閉鎖し、倉庫から最も遠い入り口だけを開放してある。 「あ、来ましたよう!」 その一団は、小細工を弄することも無く、解放されている正面入り口から姿を現した。 まるで忍者の様な風体をした3人の男女と、リリス、そして妖獣。さすがに少数精鋭らしく、立ち居振る舞いからも隙の無さがうかがえる。 「来るべきモンが来たってとこか。知識さえあれば当然思いつく戦術だもんな」 値踏みするように敵を眺めつつ、貴種の血を目覚めさせるプリス・ベルグランデ(吸血幼女・b47961)。 「あぁ、暗殺部隊ね。一考するとそれなりによさそうだが、愚策だな」 真浪・忠史(真青龍拳士・b00075)は相づちを打ちながらゆったりと立ち上がり、体内の「気」を覚醒させる。 凛、麻里もこれに続いて臨戦態勢を取る。 「だとさ。確かにこうも手ぐすね引いて待たれていては、到底暗殺とは言えないな」 「確かにね」 「グハハハ、結果的に殺してしまえば暗殺でも何殺でも構いはせんのだ! 覚悟は良かろうなこわっぱども!」 身構える能力者達を見返しながらも、不敵なやり取りを続けつつ、体育館の中を進む暗殺者達。 「ここから先は……行かせない!」 彼我の距離が一定に縮まったのを確認すると、銀・狼貴(残照・b10233)は漆黒の闘気を纏いつつ駆け出す。 「良く来たなネズミどもー、返り討ちにしてくれるわですぅ!」 虎紋覚醒を発動させながら、これに続く涼子。 「皆様との平穏の場である此の学園、此処に土足で踏み入るなれば、相応の御覚悟を願いましょう。宿儺、貴方の全霊を以て、敵を引き裂き焼き尽くしなさい!」 琴乃は使役ゴーストの宿儺に命じ、狼貴に追従させる。 「一応言っておくが、大人しくそこを退くなら見逃してやらなくもないぞ」 忍者刀を手にした男が、冷徹な響きで告げる。 「お断りだ! 柳瀬さんは、必ず守る! 仲間の命も、必ず守る! そして、おれ自身も必ず生き残る!」 松虫・九郎(黒キ蟲ハ光らない・b50055)は間髪入れず、暗殺者の提案をはね除ける。 全員で生き残ってこその勝利なのだ。それ以外はあり得ない。 「運命予報士の皆さんにはお世話になってますし、従兄の依頼でもありますからね」 神原・唯智(高校生ヘリオン・b50779)は最終ライン。倉庫へと通じる扉の前に陣取る。 退くことの許されない戦いの幕は、かくて上がったのだった。
●強襲 「せっかく迎撃しやすいよう少数で飛び込んできてくれるんだ。各個撃破した後五体を砕いて首をドブ川にさらしてやる」 「ガハハハッ! 身の程知らずの若造が、言い寄るわ! これでも食らえい!」 ――ブオンッ!! 「ぐっ……!」 巨大な鉄球を自在に振るう巨漢の忍者。果てしなく重い一撃を、リボルバーガントレットで受け止める忠史。 「力押しで突破を図って来るか? ならばそれを喰い止めるのは私の役目! かかって来い!」 ――ギィン! 凛は二振りの長剣で、狼男の鋭い爪撃を受け止める。 「時間を掛けすぎると不利ね、リリスちゃん例の奴よろしく」 涼子と対峙しながら、リリスへ指示を出す女忍者。 「解ったわ、私のパフュームを受けてご覧なさい!」 ――バッ! 周囲に広がる甘い香り。 通常の戦闘においてもリリスのパフュームは厄介だが、今回はそれでは済まない。魅了されてしまえば、その分突破口が広がり、倉庫への肉薄を許す危険が高まるのだ。 「……此処は各地で戦う皆様方の帰る場所。その場を穢すなど、如何して出来ましょうか?! 此の全霊で護ると誓ったのです!」 琴乃は強い意識で誘惑の芳香を払いのけると、更に吹き飛ばす様な氷雪地獄を巻き起こす。 「みなさん! 大丈夫ですか?」 すかさず、慈愛の舞を踊る唯智。 「俺たち銀誓館学園の強さは心の強さ……行かせないって……いっているだろう!」 「あなたには早々に退場してもらいます!」 「な、なんで効かないの、私の――くっ!?」 高速回転しつつ、無数の蹴りを繰り出す狼貴。それに呼応して麻里と九郎が、呪の力を帯びた瞳でリリスを見据える。 「俺たちには負けたくねぇ奴がいる。守るべき奴がいる。共に戦う仲間がいる。そして、倒すべき敵がいるッ!」 ――カッ! 追い打ちを掛けるように、高出力の電撃がプリスの手から放たれる。 「そ、そんな……きゃあぁぁーっ!!」 統率の取れた集中砲火の前に、脆くも倒れるリリス。 「ちっ、役立たず」 横目でそれを見て、舌打ちをする女忍者。 「他人事だと思っているのか? 頭ん中を後悔で埋め尽くしてやる」 ――ドッ! 一瞬の隙を突き、龍顎拳を繰り出す忠史。 「ぐうっ!? このガキどもっ」 「まだまだっ、そこっ!」 刀を振り上げた瞬間、今度は狼貴が拳を繰り出す。 能力者達の極めて洗練された連携の前に、さしもの暗殺者集団も容易には倉庫に近づけない。 「なんの! まだまだよ! こちらも一点集中で行くぞ!」 「よし、続け!」 鉄球をぶん回しながら突進する巨漢忍者。これに合わせて、もう一人の忍と狼男も一気に突進をかける。 「あぐっ!? 一人狙いとか卑怯ですぅ! ひぎゃあぁ!?」 鉄球の直撃と手裏剣を受け、よろめく涼子。 「残念属性は封印しろ、格好いいところを見せろよ!」 「そ、そんな無茶な〜」 紅蓮の葬花を振るいつつ、檄を飛ばす凛。 「大丈夫、俺も出るぞ」 「先は行かせません!」 素早く前衛へ押し出し、崩れかけるラインを維持する九郎。麻里もまた、獣の闘気を帯びた獣爪を振るってこれに続く。 「援護は俺たちに任せな! 琴乃!」 「はい、宿儺!」 プリスの呼びかけに応え、琴乃は再び氷雪地獄を呼び起こす。 猛吹雪の中、プロトヴァイパーの電光が、宿儺の牙が空を裂く。 「今のうちに!」 「ひ〜……助かりましたぁ」 慈愛の舞によって傷を癒やす唯智。涼子自身も、虎紋覚醒によって体力を回復させる。 「お願い皆……無事で……」 倉庫内で身を潜める莉緒が祈る中、戦いは佳境へと差し掛かっていた。
●それぞれの使命 「今だ、散れい!」 「あっ?!」 暗殺者達は瞬時に散開し、体育倉庫目掛けて恐らく最後となるであろう突貫を仕掛けた。 ――ガキィンッ!! 「来いよゴースト。小賢しい企み諸共ブッ潰してやる」 突進してくる敵の前に立ちふさがり、二丁のガンナイフで斬撃を受け止めるプリス。 「……例え薄皮一枚とて、此処で護る事に意義は在る筈です!」 琴乃もまた、匕首を手に行く手を阻む。 「奇妙な巡り合わせですが……同じ忍びとして引導を渡します!」 ――ザシュッ。 「ぐああっ!」 背後を取った麻里が、忍びの一人にとどめを刺す。 「そこまでだ!」 「いけえっ!」 ――バッ! 「グオォォォッ!!」 狼男の身体を長剣で貫く凜。同時に九郎が、強力な呪の力を帯びた魔眼でトドメを刺す。 「観念して下さい!」 「おのれ……まだ終わってはおらんわ! まだ――がはっ!」 狼貴の拳が、巨躯の忍の鳩尾を捉える。 ――ズンッ。 ゆっくりと、前のめりに倒れる忍。 「これで残るは……!」 「そこをどきなよっ!」 唯智が立ちふさがるドアへ、満身創痍で迫る女忍者。 彼女達からすれば、一人残らず全滅しようとも、標的の命さえ取れば勝利なのだ。 「どけって言ってるのよ!」 ――ヒュッ! 忍者刀が、唯智の眼前を掠める。 「出来ません!」 はっきりそう言い放つと、手にした光の槍を投じる唯智。 「ぐううっ!?」 ――ドッ! その光槍が最後のナンバードを貫くと同時に、忠史の龍顎拳が炸裂。 ゴーストの暗殺者は、残らず地に伏したのだった。
「莉緒さん!」 「わっ……有り難う、皆……お陰で助かったわ」 倉庫から出てきた莉緒を抱きしめる麻里。 莉緒は若干苦しそうにしながら、皆へと礼を言う。 「いたた……莉緒さんを守る為に大変な目に遭ったですぅ。莉緒さんを守る為に大変な」 「解った解った……本当に有り難う」 「いえ、まだ終わりではありません。後続が来ないとも限りません」 「そうね、まだ戦いは……でもあなた達なら大丈夫よ!」 確信めいた表情と口調で言う莉緒。事実、彼女はそう信じて疑わないのだろう。
かくして、予報士の命を狙った捨て身の強襲は、能力者達の活躍によって防がれたのだった。
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参加者:8人
作成日:2012/01/15
得票数:カッコいい20
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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