絆は血を越えるだろうか。


<オープニング>


 いとしいいとしい愛娘が、実の子でないと検査結果を告げられたその日。
 彼の妻、娘の実の母は、別の男と逃げ出した。
 そして後には――記入済みの離婚届と、血の繋がらない少女が残った。

 あれだけ楽しかった娘との生活が、今は彼の心を苛む。
 憎いは思わない。三年半――妻のお腹にいた時から数えれば四年半近くも、慈しんだ少女は愛おしいとも思う。
 けれど、わからないのだ。
 仕事に行っている間、どうすればいいのだろう。
 自分が彼女の父ではないことを、伝えるべきなのか。伝えるとしたらいつなのか。
 自分とは性別の違う、女の子。彼女を自分一人で育てることが、できるのか。
 そして、何よりも――血の繋がらない少女を、これからも愛して行けるのか。

『――無理だよ』
 嗚呼。
 耳元で、声がする。
『だから、殺しちゃおうよ』
 そう、彼女は何も知らないまま、もし不慮の事故で死んだとしたら。
 その方が、幸せなのかもしれない。
「殺しちゃおうよ」
 父であった男は、その言葉に背中を押されるように歩き出す。
 少女を、迎えに行くために。

「……難しいな。血の繋がりを越える絆は、存在するのか」
 ブラッディ・メアリーというカクテルがある。
 そこからブラッディ――血を抜いた『ヴァージン・メアリー』。
 今の父と娘の関係は、存在すると思っていた血の繋がりを、急に奪われてしまった状態だ。
「緊急の依頼だ。飲んで聞いたらすぐ向かってくれ」
 そう、勇史は能力者達に言った。
「地縛霊は、町はずれの公園に出没する。昼間なら誰かしら遊んでいるが、幸い地縛霊の出現条件は、夜だ」
 もっとも、それ故に悩める父親――文雄が仕事帰りに公園のベンチに座って考え込んでしまい、地縛霊に出会ってしまったわけだが。
「文雄氏は、心から愛していた娘が実の子ではなかったことに、強いショックを受けている状態だ。本来ならば、血が繋がっていなくても娘を殺そうなどとは絶対に思わないだろうな」
 だが、彼はひどく心弱っている。
 だから娘の手を引き、公園へと連れてくる。
 文香と名付けられた彼女を、地縛霊に喰わせるために。
「もちろん文香ちゃんが殺されたら、文雄氏も地縛霊の標的になる。――二人とも、救出してほしい」
 よろしく頼むと勇史は頭を下げ、公園の位置に丸を付けた地図を差し出す。
「地縛霊は、十歳ほどの少女の姿をしている。行動は非常に遅いが、呪いの言葉を爆発範囲に届かせる攻撃を持っている。これはいつでも一番効率的に敵を巻きこめる場所を狙うが、文雄氏と文香ちゃんを避難させている時に喰らえば――間違いなく二人は死ぬ」
 陣形には気をつけてほしいと、勇史は言って。
「あとは、お菓子を食べて己の攻撃力を高めることがある。それと、戦闘が始まって少ししてから、三体のやはり子どもの地縛霊が現れ、冷たい手で掴みかかってくる。彼らは一番近くにいる者に攻撃するから、二人を避難させていれば襲われることはないだろう」
 そう説明を終え、少し考えてから勇史は再び口を開く。
「文雄氏も、悩んでいる……というより、混乱しているんだ。妻も娘も、大切な心の拠り所で――それを一度に失ってしまった気がしている」
 これ以上追い詰めると、また彼は同じような事件を起こすかもしれない。
 今彼に必要なものは、暗闇の中を照らしてくれる光明なのだ。
「きっと戦闘より難しいが……よろしく頼むぜ」
 そう言って、勇史は能力者達を送り出した。

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参加者
那智・れいあ(空翔ける銀獅子・b04219)
佐伯・マコト(中学生科学人間・b04752)
三笠・輪音(夕映比翼・b10867)
コリンヌ・スウィート(綿菓子唄姫・b15030)
真神・智尋(此花咲耶姫・b41226)
朝宮・りんね(白き黎明の守護者・b57732)
桃宮・紅綺(リリス狩りの赤い盾・b57806)
雉橋・希平(木偶にあらず・b68659)
桃宮・紫戟(リリス狩りの青い斧・b76106)
永海・刃月(欠けた月・b82678)



<リプレイ>

(「僕はこういう依頼に入りたかったのかもしれない。それは純粋に、人を護る為の依頼」)
 桃宮・紅綺(リリス狩りの赤い盾・b57806)が全速力で駆けながら、しみじみと思う。
「全力で護ろう。お二人の、身の安全も、その御心も」
「護る。相棒と共に、この力の全てを賭けて」
 紅綺に寄り添うように、桃宮・紫戟(リリス狩りの青い斧・b76106)が隣に並ぶ。
「文雄さんと、娘さんの文香さんを」
「「護る!」」
 その二文字を心に刻み、二人は肩を並べて走る。
「お父さんが混乱する気持ちは分かるけど。ゴーストの言いなりなんかになったらダメ」
 那智・れいあ(空翔ける銀獅子・b04219)が強く言い、足を速める。
「子どもは親を選べない、なんて言ったのは誰だったか――」
 雉橋・希平(木偶にあらず・b68659)が皮肉げに呟く。「個人的には、親だって子どもは選べないし、選んじゃいけないとも思うのだけど」と続けてから、希平は強く首を振った。
(「……今はよそう。余計な事を考えるのは後でいい」)
 ただ、助けることだけ。
 そう胸に刻み、駆け抜ける。
「阻止して思い止まらせなきゃ――これ以上の悲劇は防がないと」
 れいあの言葉に、着物の裾が閃くのも構わず全力で走りながら、三笠・輪音(夕映比翼・b10867)は頷いた。
「母親はお腹の中で子どもとの繋がりを感じることができるけれど、父親はそういう身を以て感じることができないから、どうしても血の繋がりとか、見える形に求めちゃうのかもしれない」
 輪音の一族は、血の繋がりを大切にする。
 けれど、きっとそれよりも大切なものが繋がっているから、血を大切に出来たのだ。
「わたしは血の繋がりよりも絆の方が大切だと思う。本当は文雄さんだってわかってる。でも今はあまりにも突然すぎて、心が追いついていないだけ――」
「家族でいるって簡単だけど難しいの」
 ぽつり、とコリンヌ・スウィート(綿菓子唄姫・b15030)が呟く。サーカス団という特異な環境に育った彼女の家族観は、文雄とは違うかもしれないけれど。
「でも、お互いがお互いの光になれる、そんな親子になってほしいんだよぅ」
 だから小さな手に力を籠め、精一杯駆ける。
 朝宮・りんね(白き黎明の守護者・b57732)が、そっと頷いた。
(「家族と言うものは血で決まるものではないわ。もともと、他人同士が結びついて生まれたコミュニティが家族なのだから」)
 両親を失った彼女が、復讐の代わりに見出した、誰かの為に生きる道。
 他人の温かさを知った彼女だから、それをきっと伝えられる。
「何かを愛するなんて単純ですのに」
 ふわり、と永海・刃月(欠けた月・b82678)は首を傾げる。
 愛する妹を探し出すことを決め、時を越えてその子孫を見つけた刃月だった。
「ただ愛せば良いだけの事。血の繋がりというのは、愛する理由の一つでしかないと思うのですけど」
 けれど実際には、彼女が気に入ったから妹として愛しているのだとは刃月の語る所である。
(「文雄にはそれを思い出してもらわないと!」)
 間に合うように。伝えられるように。りんねは、走りぬく。
 そんな中真神・智尋(此花咲耶姫・b41226)が思いを馳せるのは、血の繋がらない弟のこと。
 立場は違えど、心の複雑さとつらさは同じと思う。けれど、弟と自分達は、本当の家族としてここまで来たから。
「文雄さんと文香ちゃんはきっと幸せになれる。その血を越えた絆を、すぐ身近で感じた人間がここにいるのだから」
 智尋の言葉に、佐伯・マコト(中学生科学人間・b04752)は僅かに拳を震わせる。己もまた、血の繋がらぬ家族を持つ者だ。父も、母も。
(「僕のお父さんは最初から僕に愛情を持っていたのだろうか?」)
 父親の顔を、マコトは思い浮かべて。
 それは、未だに手が震える程怖くて聞く事が出来ない。
(「でもお父さんが今僕を愛してるのはわかるし、僕も同じなんだ。だから」)
 地を蹴る足に、力を込める。
「あの二人にも同じ絆が続いて欲しいんだよ!」
 そう叫び公園の中に踏み込んだ足は、戦いの合図。
「あの二人はこれからだから、邪魔はさせないよ!」
 れいあが素早く少女の前に身を躍り込ませる。銀の苦無がくるりと回り、地縛霊を打ち据える。
 ゴーグルを下ろした希平が、それに続く。父と娘を守る為、彼らは攻撃をあえて受ける位置を選ぶ。
 蟲籠に白燐蟲が薄明るく輝き地縛霊を照らす。白燐奏甲を宿した輪音が包囲に加わったのだ。
「君達は――」
 言いかけた文雄の体を、マコトが掴む。
「二人はまだやり直せるの。こんなところで終わりになっちゃだめなんだよぅ」
「パパ!」
 コリンヌの腕に掬い上げられた少女が、父に向けて手を伸ばす。腕を振りほどこうとした文雄を、マコトは抑え込み担ぎ上げる。
 その抵抗が、娘を護る咄嗟の心から出たと信じて。
「「イグニッション。行こう」」
「【赤心】」
「【潮丸】」
 それぞれの武器を構えた紅綺と紫戟が、地縛霊の少女を両側から挟み込む。
「ケロちゃん!」
 りんねが呼び出したケルベロスオメガのケロちゃんを走らせ、その輪に加える。マコトのモーラット、チーコがさらに包囲を形作る。
「ゴースト風情に思い通りにさせておくのは、面白くありませんからね」
 刃月が伸ばした蓬莱の玉枝に、白燐の輝き。
 文雄を保護したマコト、文香を保護したコリンヌが、距離を離し駆け出した瞬間。
『みんな、しんじゃおうよ?』
 少女の口から現れた言葉が。
 爆ぜる。
 ――少女を、中心に。
 能力者達が意図した通りに。
 チーコがカードに戻ったことを知り、マコトはありがとうと心で呟く。か弱き身で、十分な役割を果たした相棒に。
「ははっ! 私達を狙った方が楽しいぞ!」
 紫戟が一心に少女をダンスに誘う。
「そうそう! 絶対行かせないからね!」
 紅綺が放った盾ごとぶつかる体当たりは、強き衝撃を少女に伝える。
 マコトとコリンヌの姿が、木立の向こうに消えた次の瞬間。
 現れたのは、小さな姿の地縛霊達。
「保護対象の離脱を確認。これより戦闘行動に移る」
 無機質な声で希平が宣言し、エネルギーの風を身にまとう。それは一歩間違えば、彼の身すらも削る風。
 輪音も素早く囮の輪を離脱する。扇の一撃を与え、伸ばされた手をかいくぐる。
 最後の一体に向けて放たれたのは、ブーメランの一撃。
「あなたの相手は私よ。こっちに来なさい」
 気迫で地縛霊を引き付け、りんねはきっぱりと立ちはだかる。
 れいあと智尋が飲み干した栄養ドリンクの瓶が消えるのと同時、刃月の玉枝が月光を呼ぶ。体力で劣るりんねの目の前の敵に、冷たき月光を浴びせて。
「残念ですが、月は優しく暖かいものではありませんよ」
 柔らかな微笑みは、月光のように冴え冴えと冷たく。

 コリンヌの子守唄が優しく響き、父と子を眠らせる。
 マコトがかけた毛布は、希平が持参したものだ。
「行かせないと言ってるだろ!」
「あの二人はこれからだから。邪魔はさせないよ!」
 紅綺が吹き飛ばした少女の体を打ち返すように、れいあの蒼の魔弾。
「紅綺、大丈夫か! 今、私の魂の力をお前にも分ける!」
 紫戟の情熱が力となり、紅綺を癒していく。「回復ありがと、紫戟♪」と蕩ける笑みを浮かべた紅綺は、打って変わって鋭き目で少女地縛霊と向き合う。
「風よ、みんなの傷を浄化して!」
 りんねの広げた腕に従い、風がサイクロンとなって吹き抜ける。氷を払い落とされた輪音はありがとうと微笑み、己の前の地縛霊へと扇の先に集めた白燐蟲を――叩きつけ、銀へと還す。
 だが次の瞬間、順調に地縛霊に打撃を与えていた希平が、僅かに爪先を逸らされ暴風に苛まれた。
 けれどその背を支えるように、触れるは白燐蟲を宿した指。
「折角興に乗ってきたところですもの、まだ倒れてはいけませんよ」
 面白がるような刃月に続き、コリンヌが駆け寄って同じく白燐蟲の癒しを施す。
 再びまとった風の力と共に振るわれるのは、弾丸の如き蹴り。
「攻撃対象を捕捉。粉砕する!」
 彼らももしかしたら不幸な事件の被害者かもしれぬ。
 けれど守るべき命がある以上――容赦は、一片たりともしない。

「ふふ……消えてしまえば寒さなど感じませんね」
 刃月の指が、幾度目かの月光を描き、地縛霊を氷に染める。
「ケロちゃん、今こそ駆ける時! 黒き風になりなさい!」
 りんねの言葉に従い駆け抜けたケロちゃんの黒き刃が、地縛霊を消し飛ばす。
「変な言い方だけど感謝すらしてるよ」
 そう呟いたマコトが、雷をブラックボックスに集めて。
「お前達が居なくちゃ僕達は文雄さんの苦悩に手を差し伸べる事さえできなかったんだ」
 そのまま、伸びる雷の蛇。れいあの伸ばした手の先で爆ぜる蒼の魔弾と同時に少女を貫く。
「けれど、文雄さんがちゃんと前を向けるようにするためにも、二人のこれからの未来を守るためにも」
 あなたは、倒すと。
 そう告げた輪音の手から、白燐蟲が飛び、喰らう。
「お許しくださいませ。これも今ある絆の為」
 そっと手を組んだ智尋の胸の前から、蒼き魔弾が真っ直ぐに飛び、貫く。
 動きを止めた少女に、紅綺と紫戟の盾が、剣が迫り――紫戟の剣が少女を貫いて、紅綺の盾で止まる。
 それが、少女の終焉だった。
 心を落ち着かせる穏やかな音色が流れる中、文雄は目を覚ました。
 仲間達を労った紅綺の、ギターに合わせた優しい歌。
「文香ちゃん、かわいいですね。特にお父さんへ向ける笑顔がとっても幸せそうで、見てるこっちも温かくなります」
 しゃがんで視線を合わせた輪音に、文香は無邪気に笑いかける。そしてその瞳を、父へと向ける。
「きっと、文雄さんが笑った顔は文香ちゃんとそっくりなのでしょうね」
「っ!」
 そういえば、この一週間は笑みなど浮かべていない。いられなかった。
「知ってます?」
 ぎこちなく口の端を動かした文雄に、輪音は微笑んだ。
「人は一緒に過ごす時間が長いと表情まで同じになるんですよ」
「私と……文香が、ということですか」
 力ない文雄の言葉に、れいあが頷き二人の身を気遣ってから。
「通り魔みたいな人は行ってしまいましたよ。その人が言ってた事情聞いたんですけど……」
 ひょいとそこに顔を覗かせたのは、コリンヌ。
「本当の親子になるって難しいの。血の繋がりだけじゃダメなんだよぅ」
「けれど……血の繋がりは、大事です」
 そう力なく応えた文雄の顔を、コリンヌは覗き込んで。
「文香ちゃん、今はまだよくわからなくても、いつか悩む日が来ると思うの。お父さんと血が繋がっていないこととか、お母さんに捨てられたのかな? とか。それはきっととても辛いこと」
「…………っ」
 そう。己は、今、苦しい。
 けれど娘が苦しむのはこれから先なのだ。
 ならば、いっそ今……そんな思考に、陥りかけた時。
「でも、その時に文香ちゃんを救ってくれるのは、その繋いだ手のあたたかさとか、お父さんとの思い出、お父さんが自分を愛してくれる想いだと思うんだよぅ」
 はっと、顔を上げる。
「家族の絆に、血の繋がりは必要かしら?」
 首を傾げたりんねに文雄は、わかりません、と小さく答える。
「私にも、血の繋がらない弟がいるのです。ちょっと訳ありの子なんですけど」
 そう言って微笑むのは、智尋。四年前に自分の弟になった少年のことを、智尋はとても愛しげに語る。
「でも今は本当の家族ですよ。血の繋がりはなくても……深い絆があればそれが本当の家族ですよ」
「そうですか、血の繋がりがなくても……」
 ぎゅ、と膝の上においた手を、文雄が握り締める。
「思いあって愛しあって、離ればなれになっても大切な人が家族なの。それって、同じ血が流れてるよりずぅっと大切なこと」
「私は絆があれば家族だと深く実感しています。大丈夫、きっと幸せになれますよ」
「……言葉だけなら、何とでも言えます」
 本音に近い言葉が漏れたのは、それだけ心を許した証拠。
 それだけ、不安でもあるのだろう。
「だって、家族って元々は他人同士じゃない。他人同士が手と手を取り合って出来たのが家族でしょ?」
「だけど、私と妻は失敗している。家族として」
「だったら、魂の繋がりがなかったの。そこに必要なのは血の繋がりではなく、魂の繋がりのはずよ?」
 文香ちゃんからあなたに、魂の繋がりはないのかしら?
「文香……」
「パパ?」
 振り向いた少女の瞳は、父を慕う心に溢れていた。
「実の子でなければ愛せませんか? それとも、真実を知られて逃げられるのが恐ろしいのですか? 貴方を捨てた奥様と同じ様に」
 黙って唇を噛む文雄に、刃月はくすと笑んで。
「血の繋がりなど些細な事。愛したければ愛せばいいし、そうでないのならどのみち破綻しましょう。要は貴方自身がどうしたいのかというだけの話です」
 他人の幸せがと言うのは単なる自己正当化に過ぎませんよ。
 そう言って、刃月は少女からそっと離れる。
「あなたが文香ちゃんを愛してみたいなら、それでいいんじゃない。完璧な人間は存在しないし、完璧な親子だってきっといない。誰だって悩みながら絆を育てて行くんだ」
 そう言ってから、照れたように前髪で瞳を隠し、「僕はそう思う」と付け加えて。
「お母さんがいなくなった文香ちゃんにとって、今、親と呼べるのは文彦さんだけです。どうか見捨てないであげて。二人が一緒に積み重ねた日々は何よりの絆だと思います」
 だから、大丈夫ですよ、きっと。
「……愛せる、でしょうか」
 ぽつりと言った文雄の前に、マコトが立つ。
「文雄さん、僕も文香ちゃんと同じなんだ。僕がそれを知ったのは、中学に入った時だけど」
 それでも、僕はお父さんが好きだよ。
「文香ちゃんもきっと他の誰でもない、今ここにいる『お父さん』が好きなんだよ。今はただそれだけで充分じゃないかな?」
 子育てに伴う問題は、協力してくれる人や組織があるから。
「もし……何かありましたら♪」
 無料のピアノや歌のレッスンがあれば、育児に疲れた時、忙しい時、娘を楽しませながら己の時間を持つこともできるだろう。
 力になれたら、と紫戟は、己の所属する音楽教室の連絡先を差し出す。
「文香ちゃん、お父さんのこと、好き?」
 輪音と遊んでいた文香が、コリンヌの問いにぱっと顔を上げた。
「だいすき!」
 躊躇のないその答えに――文雄は、ぎゅっと目を閉じる。
 その目尻からは、一粒の涙。
「この笑顔はあなたが文香ちゃんと手を繋いで心を通わせ重ねてきた時間が作り上げたもの。それは、血よりも貴い絆じゃないかとわたしは思うのです」
 少女の背中を、輪音がそっと押して。
「文雄さん、文香ちゃんのこと可愛いって思うかな? ……かな?」
 大きな父の手が――そっと娘を抱きしめた。
「……愛してます。愛します。私を父として選んでくれた、この子を」

 父の背中と抱かれて手を振る少女を、能力者達はいつまでも見つめていた。
 ――彼らの未来には、きっと幸いがある。


マスター:旅望かなた 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2012/01/23
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