お茶好き爺さんの願い事二つだけ放浪記


<オープニング>


 年末年始の賑わいをわずかに残し、ゆったりと時間が流れる町。
 爺さんはのんきものだと近所で評判だったが、ここの人々もなかなかのもんだ。
 お茶好きで愛されていた爺さんは、一年ほど前に幸せそうな顔でぽっくり亡くなって、近所の人は「きっとばあさんが迎えに来たんだろう」と息子と娘を呼んでやり、酒の代わりにお茶で乾杯してささやかな葬式を上げたそうだ。
 けれどもう、そしてまだ、誰も住まないアパートの一室には、歓迎されざる一人の闖入者がいた。

「るるるーるるー、るーるるー」
 さく、さく、さく。
 畳の片隅に、穴が空いていく。
 ふと何か湧き上がったかと思うと――そこには真っ白に体を染めた、爺さんが立っていた。
「おや……わしも、やきが回ったかのう? ……しかし、焼けてるにしては白いのう」
 自分の手を見つめ直し、るーるーと声をかける少女に、爺さんは小さく笑って。
「折角綺麗に死んだのに……のう。わしみたいなのを生き返らせても、誰も嬉しくなかろうに。わしも、お前さんも、息子に娘も……それに、あの子達も、のう」
 そう言ってからじいさんは、懐かしむように瞳を細めた。
「でも……来てくれるかのう。きっと、来てくれるのう。また……」

 そして今日も爺さんは通りを見渡す。
 道行く人が爺さんだと気付かないよう、とりあえず綿でひげを付けて帽子を深く被ってみた。
「ほうほう、あっちの上のお嬢さんは中学生になったのか。若奥さんはそろそろ臨月かのう、めでたいのう。向こうのばあさんは……おや可愛いのう、嫁姑仲も良さそうじゃ」
 時の流れを感じて、爺さんは微笑む。
「誰も、美味しそうに見えん……よかった、よかった。……でも、食べないとやっぱり死んでしまうんじゃな?」
「るー」
 傍らで頷くのは、骨の足持つ少女――ルールー。
「…………それより先に、会えるかのう」
 己が命を失うよりも――否。
 己が命を失わせてしまうよりも、前に。

「覚えてる奴も知らない奴もいるだろうが――残酷なもんだな。ルールーも」
 穂村・勇史(高校生運命予報士・bn0292)の差し出した皿には、煎餅と最中。隣の湯呑の緑茶が差し出され、湯気が揺れる。
「一年ほど前に現れた、お茶好き爺さんのリビングデッドが――ナンバードとして、復活してしまった」
「……本当に?」
 信じられぬと言うように呟いた誰かの言葉に、勇史はこくりと頷く。
「やはり、まだ爺さんは、自分の欲求を抑え込んでいる。けれどいつかは――それに今回は、ルールーがいる」
 このままではあの優しかった爺さんがいつかは能力者を殺してしまい、殺人鬼となるのは明白だ。

「ただ、爺さんには望みがある――話を、聞きたいんだそうだ」
 それは、強い想い。
 人を喰らいたい思いよりも、ずっと。
「以前、自分の人生を終わらせてくれた子ども達は何者なのか。彼らが――つまりお前らが、何を背負っていて、どうして自分の所に来てくれたのか、助けてくれたのか。ただ、話を、聞きたいと」
 その代わりに爺さんから提供できるものは、何もない。
 爺さんは己の新しい生命について、自分を復活させたルールーについて、話すことはできない。
 ただすでに引き払われたけれど、誰も住んでいないアパートで。
 お茶と道具を持って行き、お茶が飲みたいと言ったなら、爺さんは喜んで淹れてくれるだろう。
 ――どちらにせよ、きっと戦いは必要になってしまうけれど。

「……犠牲者が出る前に、と言いたいところだが――爺さんも、犠牲者なんだろうな」
 だからせめて、最期くらいは。
「爺さんの願い、聞いてやってほしい。――頼んだぜ」

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参加者
ジャン・ルフォール(グレイシャルアイズ・b14116)
リュート・レグナ(微睡みの音・b41973)
相馬・亮介(青龍拳士・b43357)
釣・克乙(もふぷにを・b52353)
有栖川・美津海(谷間に咲く一輪の白百合・b63023)
天海・真琴(まことの拳・b70168)
菊咲・紅樹(小学生サンダーバード・b74567)
掛葉木・はたる(閃陽薔花・b75297)
坂本・璃音(紅を奉る姫巫女・b77952)
篠原・千秋(光霧の茶道家元継承者・b78170)



<リプレイ>

「この辺りでお茶を淹れるのが上手なお爺さんがいるって噂を聞いたんだけど……」
 リュート・レグナ(微睡みの音・b41973)が声をかければ――あの時と同じように爺さんが、ぱっと破顔する。
「おお、そうか。また、会いに来てくれたんじゃのう……」
「お久しぶりですわ御爺さん。私達が来るのを待っていてくださったのですか?」
「待っておったんじゃのう。懐かしくて、仕方ないんじゃ」
 有栖川・美津海(谷間に咲く一輪の白百合・b63023)の言葉に、爺さんが何度も頷く。
「お久しぶりです。……まさかまたお会いする事になるとは思いませんでしたが」
「また、会いに来ました」
 相馬・亮介(青龍拳士・b43357)とジャン・ルフォール(グレイシャルアイズ・b14116)が軽く微笑みを浮かべれば、爺さんが嬉しげにその手を取る。
「こんにちは、はじめまして!」
 菊咲・紅樹(小学生サンダーバード・b74567)を先頭に、初めて出会う能力者達が口々に挨拶を述べる。
 その様子を見つめた坂本・璃音(紅を奉る姫巫女・b77952)の握り拳を、そっと紅曜の手が包む。
 天海・真琴(まことの拳・b70168)の決意を込めた表情は、無意識に固くなっていたのだろう。
「お嬢さんは初めましてじゃのう」
「あ……はい」
 爺さんの柔らかな笑みが、真琴の心に和らぎを作る。
(「お爺さんの求めてる答えに少しでも応えられるように」)
 それに頷くように爺さんは、「ただ、知りたいだけなんじゃよ」と笑って言う。
 釣・克乙(もふぷにを・b52353)と篠原・千秋(光霧の茶道家元継承者・b78170)が丁寧に挨拶する隣で、掛葉木・はたる(閃陽薔花・b75297)はそっと掌を胸に当てた。
(「……堪えるわね。導けたと、思っていたのに」)
 けれど瞳は閉ざさない。爺さんと目を合わせ、はたるは微笑んだ。
「……宜しければ、『今日も』お茶を楽しみませんか?」

「先ずは、お茶会にしましょう」
「なんだか、そうでなけりゃ始まらん気がするのう」
 ジャンの言葉に爺さんが茶器を出せば、紅樹が持参した美味き水を、克乙が台所を借りて沸かし直す。
「まだ修行中ですがよろしかったらどうぞ」
「練習したから上達したと思うよ」
 湯冷ましの器を使ってお湯は適温に。
 湯呑に注ぐ時は何回かに分けて順番に。
 教わった通りの淹れ方で、美津海とリュートがお茶を差し出す。
 小さな卓には、桜の形の砂糖菓子とおかきに羊羹、それに雪兎の茶菓子。
 丁寧に手を合わせた爺さんが、順に湯呑を傾け――ほっこりと微笑む。
「美味しいのう。手をかけて、心をこめて、淹れたお茶じゃ」
 同じ茶葉を使って、同じ淹れ方で。
「それなのに、どこか違う味がするんじゃ。不思議なものじゃのう」
 さらに千秋から湯呑を受け取った爺さんは、そっとそれを啜って。
「そして違う淹れ方をしたら、全然違う旨さになるんじゃ。まるでお茶が、自己紹介のようじゃ」
 深く頷いた千秋が、「おばあさんと彼女も一緒に」と卓に一つ湯呑を置き、ルールーに一つ湯呑を差し出す。
「ありがとう」と言った爺さんも、克乙から湯を受け取り、丁寧に茶を淹れる。
「……美味しい」
 リュートが、目を細めてほのかに微笑む。
「俺も家柄上茶の知識はあるが、自身で術を会得したおじいさんには敵わないな」
 そう思わず呟いた千秋に、「全部ばあさんの受け売りじゃよ」と爺さんがにこり。
「おじいさんのお茶、飲む事ができて嬉しいです」
 そう気持ちを伝えた紅樹に、「わしも皆とお茶が飲めて嬉しいんじゃよ」と爺さんがゆっくり頷いた。

「俺達は、銀誓館学園という組織に属しています」
 頷いた爺さんに、主に亮介が中心に説明を始める。能力者の事、ゴーストの事、今までの戦いの事――それは幾万人もの能力者が、命を燃やし紡いできた歴史。
 それを語り終えた時、爺さんはそっと目を閉じた。
「わしらはそんなにも長い間、若い人達に守ってもらって来たんじゃのう……」
 命を。世界を。人としての尊厳すらも。
「お前さん達がいてくれたから、わしらは生きていたし、暮らしていられたし、そして……人を殺さずに、済んだんじゃのう」
 だから。
 人であったものとして。ゴーストとして。
「ありがとう……本当にありがとう」
 爺さんは、深く深く頭を下げた。

「ジャン・ルフォール、1995年3月3日の生まれ。生まれた頃から独りで、家族と呼べる人は養父だけだった。――その人も、今は、居ない。ゴーストに狙われた僕を庇ってね」
 淡々と話すジャンに、爺さんは静かに頷いた。
「ゴースト事件に関係する死者は、縁者の手で真っ当に弔われる事もあるけれど、下手をすると行方不明、最悪、存在しなかった事にされる……超常の事象を放逐する結界によって」
「……すると、お父上は」
「養父は後者……僕独りだけ、能力者だったから覚えていた。だから、この先、力を捨ててただの人になる事は全く考えて居ない。ただの人になったら結界に囲われて、養父の事を忘れてしまう。忘れられた人を弔えなくなる……」
 戦う理由は死者への執着と復讐かもしれない。
 そう言ったジャンに、爺さんは柔らかく微笑む。
「繋がりのきずなと、未練のほだしは、同じ字を書くのう。絆……けれど、忘れないでくれる人がいるのは、執着でもわしゃ嬉しいのう」
 その言葉を飲み込むように、ジャンは目を閉じた。

「戦う理由は、最初はお兄ちゃんを安心させる為だった。心配ばかりしてたお兄ちゃんに、一人でも大丈夫だって安心してほしくて」
「きっと、いいお兄さんなんじゃろうな」
「……だった、かな」
 相棒たるケットシー・ワンダラーのルルと寄り添うリュートの言葉に、爺さんはそっと目を伏せ、頷いた。
 それで、充分だった。
「でも今は、大切な人達を守りたいから」
 そう、リュートはしっかりと告げる。
「大切なものはどんどん増えて、どれも失いたくなくて、最善は何かいつも迷って」
 頷きながら、爺さんはリュートの話を聞く。
「どうしたらいいのか分からない事も多いけど、全てを失わずに済む未来が、皆と笑って、一緒にお茶を楽しめるような未来が、わたしの夢で望み」
 うん、とその言葉に、頷いて。
「わしの知っとる限りでも、世界は皆が笑っているとは言えん。お前さん達が言う戦いの世界なら、尚更じゃ。それでも――目指したいのなら、わしからも頼みたいんじゃ」
 微笑んだ爺さんに、リュートは大きく頷いた。

「俺が戦い始めた切欠は、正直ただの成り行きでした。戦わないという道もあったけど、俺の力で誰かを守れるならそのためにこの力を使いたかった」
「誰か――きっと、『誰も』を守りたいんじゃろうな……」
 呟くように言った爺さんに、亮介は僅かに迷って――頷く。
「……色々迷う事はあったけど、結局俺が戦う理由は『この力を誰かのために使いたい』それだけです。そしてここへ来た理由も同じ、『お爺さんの人としての心を守りたい』それだけなんです」
 これから先も、力に限らずそういう生き方を目指したいと。
「『誰か』の為に自分を削りすぎんようにのう。己が丸いから、お日様はみんなを照らせるもんじゃ」
 微笑んだ爺さんに、亮介はそっと頭を下げた。

「俺は小さい頃、海で溺れたのを切欠に能力に目覚めました」
 乙姫が助けてくれたのが、始まりだったと克乙は話す。
「それから幾年、風来坊として生き、学園に所属して乙姫と再会し、能力者としての自覚を持ち、世界結界を維持する事で俺の家族をはじめとした一般人を守る、その為に戦っています」
 だから我々は平和に暮らせたと、深く爺さんは頷く。
「俺達にゴーストの『生と死を分ける』資格があるかは解りません。ただ、敵であっても縁を結んだ相手の誇りと尊厳を守っていきたいです」
 将来は世界結界を完全に修復し、命あるものを守りたい。
「それはマヨイガとの隔絶、乙姫との別れを意味しますが――でも乙姫とマヨイガは、俺の心と共に居る。在ります」
「命あるもののために――ゴーストが、人を殺さぬように、じゃの」
 それはきっとゴーストの為でもあると、爺さんはゴーストとして頷いた。

「お優しい御爺さんに人の命を奪って欲しくない事は無論ですわ。ですが私が私で在り続ける理由を見つめ直す為にやってきました」
 美津海の言葉に爺さんは、自分もそれが望みと笑う。
「大義名分は関係ありません。私の大切な人達が悲しい顔をせず、何時も笑い合っている姿を見ていたくて戦っています。ただそれだけですわ」
 美津海の想いは、単純。
「しかしその事が私に想いと言う名の大きな力を与えてくれます」
「……想いは変わるもの、それだけは覚えていて欲しいんじゃよ。それでも守りたいと思うならば、それは本当の想いじゃ」
 そう微笑む爺さんに、美津海は深く頭を下げた。

「戦う力と意味はおじいちゃんから教わった……でもそれは、ただ敵を倒すだけじゃない力」
 教わった拳法には拳を握る技がないのだと、真琴は語った。
「おじいちゃんに尋ねたら、『握ったままの拳じゃ相手の手を掴む事が出来ないだろう?』と、そう言われた。あたしはそれにすごく感動して、あたしもこの掌に乗っかった物を掴み取るために、と。それがあたしの戦う理由と意味」
「だからわしの事も、掴み取りに来てくれたんじゃな」
 爺さんの言葉に、真琴は素直に頷く。
「あたしはおじいちゃんから、いやそのまた前の人達から受け継いだものを次の人達に伝えるのが、絶対やらなきゃいけない事だと思ってる」
 だから教える側につきたい。
「学校の先生になって、次の世代にいろんな事を教えられればって思っているよ」
「伝える為には、言葉も、技術も、経験も、想いも、全部必要じゃからの。けれどお前さん達は、普通の人よりも深くそれを持っているじゃろうから」
 ハードルを乗り越え、これからも育てて行ってほしいと、爺さんは微笑む。

「俺は篠原家の跡継として甘やかされて育ち、歳いった親父が中学の時に逝って、当主になった」
 その頃は嫌な奴だったと千秋が苦笑いを浮かべる。「省みられるならいい人になれるよ」と爺さんが微笑んで。
「だが自身の力に気づき、役に立つならと。死んでこの世に留まった色々な人達や、仲間と接する事で、俺は気づいた」
 爺さんの言葉に頷き、千秋は続ける。
「人の死を見送る事は、こんなに勇気が要るんだと……それほど、人の生は難しく、素晴らしいものだと」
 一族を支える者がそんな大切な事を知らなかったと呟く千秋に、本当は、もっと後に知るものなんだという爺さんの言葉は、どこか痛ましげだった。
「早くに知った大切なもの……それはお前さん達の支えじゃろうが、同時にお前さん達の鎖かもしれんのう」
 爺さんの言葉に、承知の上だと千秋は頷いた。
「高校を卒業してすぐ、幼馴染と結婚する。当主として篠原を改革するために……彼女も今の俺なら大丈夫だと言ってくれた。今度は、伝統という生きた死人を葬るために、得たものを生かしたい……これが、俺の希望だ」
「縛られるべき鎖を、選んだんじゃな」
 爺さんは深く頷いて、微笑んだ。

「自分の力を試したくて学園に来たんですけど……みんなと過ごして……『強さ』には心も必要だって知ったの」
 爺さんが優しく笑うのに、紅樹は大きく頷いて。
「それから、誰かが笑ってくれるのって、嬉しいって思いました。大事な人が笑顔だとね、心がぽわって温かくなるんです。だから、今のわたしはみんなの笑顔のために戦ってるんだって思います」
 まだ一人じゃ無理だけど……いつか、誰かを笑顔にして守ってあげられる人になりたい!
「だから、この先も一生懸命走るよ! 喜んでくれる人がいるなら、きっと迷ったりしないから」
 爺さんはその一生懸命な言葉に、微笑んで。
「走り方を知っておるなら、あとは転び方と、迷子になった時に人に聞く事を覚えたら大丈夫じゃよ」
 人生を走る為にも必要な事なのだと、紅樹は感じて頷く。

「ボクは封印されていた妖狐だった。目覚めた時にボクを保護して実の妹のように可愛がってくれている人の力になりたかった。でも、今は」
 紅曜の手を、璃音はぎゅと握りしめる。
「今は隣に居る世界で一番大切な人を、ずっと支えていたいから」
 爺さんがゴーストの性に抗えなければ、誰かを殺し――そしてそれは紅曜かもしれない。
「お爺さんが意に沿わない事をしてしまう前に、そして紅曜かもしれない誰かが殺される前に、『誰も殺したくない』という意思を受け止めて、『誰も殺させない』という覚悟で――全てを、終わらせに来たんだ」
「一本だけの柱は、一本崩れると全部崩れてしまう……けど、お前さんは守る力をもっているからの」
 爺さんはそう言って、「大切にするんじゃぞ」と頷いた。

「あの時も、そして今日も。私がお爺様の許へ来たのは『私が悲劇を望まないから』」
 これだけだと独善的な響きね、と呟き、はたるは言葉を選んで。
「見ているだけなど耐えられない。力があるなら尚更。だから私に出来る事なら何であれ尽くす。私なりに私らしく――さもなくば永遠に、追いつけない返せない報えない」
「……誰に、じゃろ?」
 爺さんの問いかけに、はたるはそっと目を閉じる。
「もう家の因習と夢の間で迷うなと。描く夢を只の夢物語にするなと。そう言って事も無げに因習をすべて引き継ごうとする双子の弟に。私が夢を諦め心を偽れば、彼の覚悟も決意も踏み躙る事になる」
 だから、戦う。力があるのだから、見ているだけは嫌。弟に憂いを抱かせるのだって嫌。そう、力強くはたるは言って、目を開く。
「迷わず偽らず私が在るがままの私で在り続ける為に」
 郷里で無敵の女勇者と渾名された自分らしく。
「弟さんが家の礎になり、お前さんは家を出る道を選んだんじゃの。……どちらが犠牲になったのでもない。どちらも、背負っておるのじゃから」
 深く、はたるは頷いた。
「――あの時も、今日も、私は悲劇を望まない」
「執着と復讐だけでもない、か」
 はたるに続けてジャンが爺さんの目を真っ直ぐに見つめる。
「理不尽に立ち向かわなければいけない時に戦える力が、美しい心根の人を助けられる力があるのは、とても心強いから」
 貴方を助けに来た、というのは、傲慢でしょうか。
 その言葉に微笑んだ爺さんが、最後の茶を喉に流し込んだ。
「傲慢ではないじゃろな。お前さん達は、わしを倒す事ができるじゃろ」
 す、とルールーが爺さんの側に寄り添う。
「すまんのう。あの時と同じに、死を受け入れる事はできんようじゃ。この子のせいじゃない。わしが、お前さん達の言葉だけでなく力を、知りたいんじゃよ」
 抵抗なき死を願う事も、手を抜く事も、礼を失すると悟って。
 能力者達は、頷く。
 互いに、己の武器を、構えて。

 ――最後に一つ、言える事がある。
 爺さんは、「お前さん達の事を知れたのがわしの喜びじゃ」と笑って逝ったという事だ。

 最期の言葉は、「ありがとう」だった。


マスター:旅望かなた 紹介ページ
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いまいち
参加者:10人
作成日:2012/01/27
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