≪学生寮 ◆風月華◆≫そして星々の下で


<オープニング>


●星の園への入り口
「いらっしゃいませ、二名様ですね?」
 通りを進んだところに目的の場所はあった。
「うん、二名でお願いします」
「はい、ではこちらにどうぞ。上映中は暗くなりますので足下にお気をつけ下さい」
 受付にいたリビングデッドの女性に案内されて風霧・來那(石段の先の護り人・b71827)と天川・そら(ダンスウィズミルキーウェイ・b71485)の二人はプラネタリウムの内部へと足を踏み入れる。
「あは……賑わってるね」
「はは、みんな考えることは一緒なのかも」
 こじんまりとはしているものの、ペアシートが多く用意されたこの施設にはカップルでの利用客も多い。
「このまままっすぐお進み下さい。座席番号はお手元のチケットに記載されておりますので」
「あ、ありがとう。……來那くん、いこ」
 二人の入場券に記載されていた番号の席もそんなペアシートの一つで。
「Bの7とBの8ここ、だね」
「うん。今日は誘ってくれて、どうもありがと……かな」
「こちらこそ……今日はよろしくね?」
 改まって礼を言うに笑顔で応じる。内部はこれから暗くなるのだ。二人だけの時間は――すぐに訪れる。
「お待たせいたしました。これより館内は暗くなります。歩かれる際はお足元に――」
 館内に響いたアナウンスにブザー音が続き、非常灯を残して明かりは消える。
「ホテルの予約も済ませてるから、ね」
 後のことは考えず、まずは満天の星空を楽しもう――そう言うかのように沈黙の中、手が触れて。
「うん」
 天体観測が始まった。
 

マスターからのコメントを見る

参加者
天川・そら(ダンスウィズミルキーウェイ・b71485)
風霧・來那(高校生真クルースニク・b71827)



<リプレイ>

●回想の夜空
「始まったね」
 と、天川・そら(ダンスウィズミルキーウェイ・b71485)が言うことはなかった。
(「考えることはみんな同じなのかな」)
 明るい内に見た館内に入場者は多く、すぐ隣には大切な人が居て、館内は先程から流れ始めたクラッシック音楽に包まれている。
(「プラネタリウム、か」)
 ゴースト達が暮らすこのマヨイガには他にも映画館やカフェ、ショッピングモールに結婚式場もある。
「ちょっと寒いね。まだ二月だから、かな?」
 当たり前の様にリビングデッド達が行き交う変わった場所でもそらはそらのまま。
「確かに言われてみれば……だったら暖かそうな方に行ってみる?」
 風霧・來那(高校生真クルースニク・b71827)もいつもと変わらぬ様子でのんびりとマヨイガ内を見て回った。
「ねぇ、あれ……」
「プラネタリウム?」
 二人が散策中にこの場所を見つけたのは偶然か、それとも必然か。
「いらっしゃいませ、二名様ですね?」
 何かひらめいたらしいそらに手を引かれる形で入場口まで辿り着いた來那は、受付にいたリビングデッドの女性に声をかけられ。
「うん、二名でお願いします」
「はい、ではこちらにどうぞ。上映中は暗くなりますので足下にお気をつけ下さい」
 短いやりとりの後。
「えと、じゃあ、行こっか」
「……うん」
 再びそらに手を引かれて今に至るのだ。選択肢は他にもあった、だが、二人にとってはここが正解だったのだろう。
「もうすぐ、三月。寒い冬も終わり暖かい春が訪れます。まずは、皆様へ一足早く春の夜空を楽しんで頂きましょう」
 上映されていたプログラムは、四季の夜空。
「牛飼い座のアークトゥルス、乙女座のスピカ、獅子座のデネボラ。この三つの星が描き出すのは春の大三角形」
 大きな歓声は上がらないものの、作り出された春の夜空は恋人達を過去のその季節に誘っているのか。
(「……ん、凝ってるなぁ」)
 流れ星ではなく桜の花びらが夜空を横切り、花びらの飛来にあわせてスピーカーから風の音が流れる。
「北斗七星を延長しアークトゥルスを経由、スピカに至る曲線を春の大曲線と――」
 星々の間をナレーションにあわせて光の線が走り、描き出された弧の側で星はまたたく。
「そして季節は春から夏へと」
 星空の時が流れ。
「皆様ご存じの天の川は射手座の……」
(「メルの名字と……確か」)
 西の空に春の名残を残したまま、説明が星の大河にさしかかれば、來那はそらの手に己の手を重ねる。
(「あの時手を差し出して踊りに誘ってくれたよね」)
 の脳裏に浮かぶのは、優雅に踊る空の姿と差し出してくれた手。
(「ん……あの時と同じだね」)
 声に出さずとも、言いたいことがわかったかの様に、そらは頷き。二人で踊った思い出の終わりは重ねた唇の感触と。
「こうやって一緒に星を見上げると一段と星がきれいだね……」
「うん……」
 芝生に寝ころび交わした言葉。
「これからも、一緒に……」
 過去も今も未来もずっと。天の川を仰いだ過去と今、二人は手の届く距離にいて。
「川が流れゆく様に時も移ろいゆきます。夏から秋へと」
 星空の季節は変わりゆく。

●秋から冬に
「こんな風にお月見すると特別だね……」
 そう言ったのは、いつのことだったか。
「ね……膝枕、させて貰っていい、かな?」
 そらの提案に恥ずかしがりながらも來那は応じ。
(「あの時と同じ……かな?」)
 見上げた角度こそ違えど、北の大地で見たものと同じ星の並びを來那は見つけて、続きを思い出す。
「ありがとね」
「……うん。わたしからも、ありがと」
 膝枕をされたままだった。そらからすれば、『した』ままだった。手が触れあったままだった。
(「あはは……ちょっと恥ずかしい、かな」)
 二人の視線があったのは、お互い同じことを思い出したからなのだろう。
(「……あ」)
 思い出と重なる夜空は思い出の中を旅行する内、秋から冬に変わっていて。
「りゅうこつ座のα星はカノープスと――」
 星空が姿を変えた様に思い出の光景も別のものへと変わって行く。
「ちょっと寒いけど、こうしてると暖かいね」
「うん……ふたりなら、ね」
 冬の空、ふたりで毛布にくるまって眺めたカノープス。プラネタリウムの中に屋外の寒さはないが、思い出に浸るのに問題にはならない。
 星を見に来たのか思い出を見に来たのか。前者でもあり、後者でもあるのかもしれない。
(「いろんなことがあったね」)
(「うん」)
 修学旅行、寮の皆で語り合った星の夜。そらが「たまには静かな時間も面白いかな」と思ったのも修学旅行の夜だった。
「あはは……もらいすぎちゃったかなぁ?」
「まあ……食べられなくは、ない、かな?」
 学園際を終え、後夜祭の帰り道。お互い苦笑しながら歩いた道の上にも空はあった。
(「本当に色々行っていたんだな」)
 学校帰りに見上げた、寄り添う月と明星。
「きれいに晴れたね……いいお月様」
「うん、いつもは星を見てばかりだったから新鮮、かな」
 湯煙の中に注ぐ月光の下で、今度はふたりきりで、と笑い合って。
(「そして、今日も」)
 少し感慨深くなるなか、思い出の度は終着点に辿り着く。
「今日はおつきあい頂き、ありがとうございました。また縁がございましたら――」
 そして星空の旅も、また。

●遊び回って
「次はどこに行こう?」
「ん……來那くんは行きたいところ、ない?」
 プラネタリウムを出ても二人の時間は続いた。天体観測をたっぷり楽しんだのは事実でも、それだけで一日は使い切れないのだから。
「えと、そろそろご飯にしようか?」
 だからこそ空腹にもなるのだが、施設の充実したマヨイガの中なら飲食店はいくつもある。問題は、充実しすぎてどこに行こうかという意味で迷うことぐらいだろうか。
「ねぇ、ちらし寿司だって」
「ひな祭りフェア……そっか、もうすぐ三月だからなぁ」
 和食の店のものらしいのぼりが風にたなびいて客を誘い、別の一角からは焼き肉の音と匂いが手ぐすねを引く。焼き肉屋の看板にある『視肉』の文字はここがマヨイガであることを物語るが、問題はそこにない。
「メルは何がいい?」
「……あはは、これだけ色々有ると目移りしちゃう、かも」
 取るに足りぬ問題に見えて、店のチョイスは意外に重要だろう。
「そっか、ならもう少し歩いてみようか?」
 ここに来るまでに見つけたのか、それとも事前に調べておいたのか。來那は案内板らしい看板を見つけて歩み寄ると、地図の一点を指す。
「良さそうなお店があったから。ちょっと距離があるけど、いい?」
「……りょうかい、だよ」
 流れる景色とすれ違う人。歩き出した二人を惜しむ様に美味しそうな匂いは呼ぶけれど、だからこそ目移りしそうだったのだ。
「トリュフだね」
「うん……ホワイトデーのフェアなの、かな?」
 飲食店の一角、おしゃれなカフェでおみやげ用に売られていたお菓子を見て二人が顔を見合わせたのは、何かを思い出したからなのか。
「來那くん」
「はは……お店はまだ先だし、行こっか」
 微かに顔を紅潮させながら二人の歩く道には活気があった。マヨイガは広い、賑やかな通りを歩き來那達が目的のお店にたどり着いたのは、数分後のこと。
「ありがとうございましたーっ」
 昼食を終え、店員の声に送り出されて店の外に出ても見る場所、遊ぶ場所には事欠かない。
「まだ時間はたっぷりあるよね」
「うん……次はこっちの方に行くのどう、かな?」
 近くの案内板に足を止め、相談する時間も楽しくて――だからこそ時間が流れるのは早い。
「夕日も綺麗だったけど……え? もうこんな時間なんだ」
「そろそろホテルに行った方が良いかも」
 時計を見、二人が少し足早にホテルへ向かったのは、沈む夕日を見終えて夕食をとり、更に数カ所スポットを巡った後のこと。
「いらっしゃいませ。お荷物はこちらへ」
「あ、お願いします……」
 チェックインするそら達をホテルの従業員が出迎え、促されて荷物を置いた二人はチェックインカウンターへ向かう。
「風霧・來那様、天川・そら様ですね。お部屋は五階の522号室になります」
 フロントでキーを渡され、部屋に案内されることになったそらは、部屋に置いてあったホテルの案内に目を落とす。
「大浴場、この時間ならすいてる、かな?」
「うん、大丈夫だと思うよ。混浴は利用する人を選ぶだろうし」
「じゃあ、先に入ってるね」
 従業員の持ってきた荷物から入浴用具一式を取り出したそらは、何か用があるらしい來那を残して部屋を後にした。

●湯と星空と
「ん……」
 湯船に足を入れ適当な場所に腰を下ろし、そらは天を仰いだ。湯気に霞む星空が見えるのは、ここが露天風呂だからだろう。
「少し不思議な感じ、かな」
 ポツリともらした一言に身じろぎして生まれた水音が水面を泳いで行く。
「お待たせ、ちょっと遅くなっちゃったよ」
 見慣れぬ場所、今まで見上げたものとは違う空。けれど、湯気の向こうからかけられた優しい声はいつものままで。
「ん。今日も一日、ありがと、ね?」
「こちらこそ」
 声の方を見て浮かべたそらの笑顔に、來那の笑顔が返ってくる。
「……隣、いい?」
「うん……もちろん、だよ?」
 いつかしたようなやりとりをかわして、來那はそらの隣に座る。
(「二年間」)
 二人で過ごし築いてきた時間の中にある、どこかで出会った「いつもの声」は思い出という形で時々顔を出す。
「約束、守ってくれて、ありがと、ね?」
「ううん」
 そらが告げた感謝の言葉に來那は頭を振って言葉を続ける。
「こちらこそ、だよ?」
 笑いあう二人を夜空が見ていた。來那はそらの肩を抱き。
「ん……」
 どちらからともなく、口づけをかわして。
「暖かい、ね」
「あ、うん……」
 立ち上る湯気の中で二度目の天体観測をそら達は満喫し。
「わぁ」
 湯上がりの二人を待っていたのは、窓から星空を望む客室だった。
「おさらい、出来そうだね」
 窓辺に置かれた大きなベッドには枕が二つ。窓の外にはプラネタリウムで見たものに似た星空があって。
「あはは……星の名前、忘れられなくなりそうだけど」
「ん……そうだね。けど」
 幸せな思い出が強く記憶に残るなら――。
「ん、流れ星だ」
「え……どこ?」
 更けゆく夜は、まだ長い。
  


マスター:聖山葵 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:2人
作成日:2012/03/04
得票数:ハートフル7  ロマンティック1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。