道を歩くカマキリ


<オープニング>


 山の中に長い長い道がある。
 人が作ったわけでもない。
 獣が作ったわけではない。
 ただ生えている木々が勝手に作りだした道。
 だが、その道の途中にはいくつものアリの下腹部と繋がった巨大カマキリがいた。
 興味本位で道をたどっていた男は、自分の身長と変わらぬカマキリに切り裂かれ、体を食べられてしまう。
 男を食い散らかしたカマキリの口は、とても、とても赤かった。


「一般人を殺した妖獣を倒してください」
 神奈・瑞香(中学生運命予報士・bn0246)は、目に涙をためて言った。
 どんなに急いでも男を救うことはできない。
 できることは、男を食べ終わって間もない妖獣を見つけられることだけだ。
 もう少し早ければと、瑞香は唇をかんだ。

「一般人を殺した妖獣は、なぜか麓の方へとむかって降りています。
 しかも、この山の中にある自然が作り出した道をたどっておりますので、皆さんはその道をみつけ、妖獣を迎え撃ってください。
 今から向かえば、道を見つける時間は十分にあります。
 それでも、見つけるのに不安がありましたら……おすすめはしませんが、たき火をしてください」
 燃える火から湧き上がる煙が、妖獣を誘き寄せる。
 しかし、それは妖獣にも能力者たちの位置を伝えるため、奇襲をかけられやすくなる。危険が伴うだろう。
「妖獣は、体長二メートル弱。攻撃には連続した切りつけを行ってくるため、十分に気をつけてください」
 瑞香は、深く頭を下げた。



マスターからのコメントを見る

参加者
浅井・正義(姫の守護者・b04924)
菰野・蒼十郎(小者で弱くてヘタレな三拍子・b30005)
伊藤・洋角(百貨全用・b31191)
近衛・咲耶(陰陽師・b35581)
アル・アジス(魔を断つ剣・b35583)
神羅・あやね(深山の女天狗・b35586)
劉・麗鳳(仙道師・b41025)
比良坂・夜魅(死神・b78427)



<リプレイ>


「さて、集合場所は、ここに決まりましたから、これから道探しですね」
 山奥へ入ったところで、浅井・正義(姫の守護者・b04924)は辺りを見回した。
 妖獣が降りてきているという道は、それぞれが散らばって探すという作戦だ。
「一般人でも何気なく通れるのですから、おそらく山道から分かれていると思うのですが、いかがでしょう?」
「山道ねぇ」
 伊藤・洋角(百貨全用・b31191)の想定に神羅・あやね(深山の女天狗・b35586)がうなった。
 すっきりとしない返事に洋角が首をかしげると、あやねは、あのね。と言葉を続ける。
「近くの集落で道について聞いてみたんだけど、そんな道はないって言ってたわ」
「そうなのですか?」
「ええ。時間がないから、近くにいた男をナンパして聞いたんだけど、間違いないと思うわ」
 くのいちの色香を醸し出して、あやねはいう。
 しかし、その色香には惑わされない洋角は、笑みをくずさないまま、ふむとうなずく。
「そうなると、手がかりになるものは、何もないということですかね」
「うちも、周辺の人に、ささっと殺された男性のことを聞いてみたんやけど、誰もしらなかったわ。捜索の手がかりはゼロってことになるんやろか」
 さらなる追い打ちをかけた劉・麗鳳(仙道師・b41025)の言葉に、正義は軽く息を吐いた。
 話を聞けば聞くほど、何もない。
 菰野・蒼十郎(小者で弱くてヘタレな三拍子・b30005)は、そんな正義の背を叩いて励ます。
「まあ、気ぃ落とせんと〜。じゃ、行く前に時間合わせでもしとこか。時間がずれていたら大変やしな」
 全員で時計を合わせると、蒼十郎は満足そうに時計画面を見た。
「集合時間はどないする? 皆で散らばるから、短い時間やと遠くまで探されへんし」
「三十分単位でよかろう」
 それなら、間違える者もいないだろうというアル・アジス(魔を断つ剣・b35583)に蒼十郎は笑顔になる。
「おお〜、それはわかりやすいな〜。ほな、三十分ごとに、ここへ集合や」
「待て。話は終わっておらぬ。これじゃ」
「ホイッスルですか?」
 正義は、アルの手から現れたたくさんのホイッスルを見て、何使うのかと目でたずねた。
 アルは、ホイッスルの一つを口に含むと、思い切りホイッスルを吹いた。
「万が一、妖獣と出遭ってしまった時の合図じゃ。こんなふうに、めいっぱい鳴らせば、危険をみなに知らせられるだろう? 安心せい。人数分持ってきておるわ。連絡も取りやすいようトランシーバー用意しておる。数は少ないがな」「いくつ持ってはるんすか?」
「四つじゃ」
 近衛・咲耶(陰陽師・b35581)の問いかけにアルは簡潔に答える。
 アルと同じ言葉を独り言のようにつぶやき、少し考えていた咲耶は、何かに思いついて両手を合わせた。
「なら、二人ずつの班を四つ作りましょ。そうすれば、トランシーバーも行き渡りますし、妖獣と出遭う危険性があるのなら、なおのこと二人で行動した方が安全ですえ」
 一理ある話に、仲間は素直に納得する。
「わたしは、それでもいいわよ。一緒に行く人、いる?」
 比良坂・夜魅(死神・b78427)は、アルから受け取ったトランシーバーも耳に当てて言った。


 三十分後。
 麗鳳が、見つけた道のことを集まった仲間に告げた。
 見つけた草を踏んだ真新しい跡を丹念に調べていったところ、見つけられたらしい。
「おそらく、殺された男性が残したものだと思うんよ」
 表情をかげらせて言った麗鳳は、背を向け、仲間を道のある場所へ案内し始めた。
 少し歩いた場所にあるという方角に、咲耶は占いで向こうとした位置を思い返した。
 占いが示した先と同じだ。
 そして、道はしばらくして現れた。
 何かを導くように自然が織りなした道。
「ねぇ、ここから先は、耐久力の高い前衛を先頭にしたらどう? 妖獣と出遭ったとき、すぐに動けて効率がいいと思うわ」
「それもいいわね。では、わたしは前ね」
 あやねの提案に、夜魅は進んで前に出た。
 そして、洋角や麗鳳も前に出る。
 猫の姿になっていたアルは、人間の姿に戻り、一歩後ろへ下がった。
「ここまで来てしまえばあとは倒すのみですね。一応、奇襲がないとも限りませんので、油断はせずに――」
 そこで洋角の言葉が途切れた。
 山の上を向けた顔が動かないことに、仲間はその視線を辿ると驚いた。
 巨大なカマキリの姿が木々の隙間から見えているのだ。
 道は緩やかな曲がりを見せており、ちらちらと見える程度だが、間違いない。
「こんなところまで、降りてきたんか! 早めにしかけといて迎え撃ちっていうレベルやないで!」
 蒼十郎が長い髪を振り乱す。
 人気がないとはいえ、麓からの距離は短い。
 ここで食い止めなければ、確実に近くの集落へ行ってしまうだろう。
「人里に行かせる訳にはいかない」
 正義はイグニッションカードを輝かせた。


 妖獣も能力者たちに気づくなり、道を無視して最短距離を突っ切ってきた。
 妖獣の口についた血を見た能力者たちは、これ以上、被害は出さないと心に強く決めすばやく陣形を整える。
「前衛同士、協力し合って敵を包囲するわよ。そうすれば、移動を封じれば集中攻撃ができるわ」
「わかりました。では、自分が先陣を切りましょう。この先の犠牲は止めてみせます」
 旋剣の構えをとる夜魅の言葉に、洋角が向かってくる妖獣へ走り出した。
 黒燐奏甲をまとった武器が、ぼんやりと光る。
 麗鳳と夜魅は、妖獣と洋角がぶつかり合う中、妖獣の側面を捕らえて行動範囲を狭める。
 そして、麗鳳が奥義石兵気脈砕きをむけた。
「これ以上の被害を出さんためにもウチらできっちり方をつけようやないか!」
 連続斬りを繰り出していた妖獣の意識が洋角からそれる。
 洋角はダメージを最小限に抑えていた武器を引き、止めていた呼吸を戻した。
 さすが強敵だ。
 洋角の体には小さいがたくさんの傷が浮かんでいる。
「鎌も危ないけど噛まれるんも痛いで〜」
 後ろから、蒼十郎がギンギンカイザーXを投げ飛ばしてきた。
 中衛にいる正義とあかね。後衛にいる蒼十郎とアル、咲耶が戦いに備えた強化を終えたのだ。
 栄養ドリンクを飲み干した洋角は、まだ妖獣を引きつけられる。と、奥義インパクトをたたきつけた。
 そして、後ろから温かい癒しを受ける。
 前衛の真後ろに立つあやねが、白燐奏甲をかけたのだ。
 前衛が倒れないよう、傷の具合には細かく目を向けている。
「吸血鬼の逆十字よ、来たれ。そして、尽くの血を啜れ!」
 正義はヴァンパイアクロスで巨大な逆十字架を地面に浮かんだ。
 中衛の援護を受け、夜魅は死角にいる者が積極的に攻撃をするのだと、奥義断罪ナックルをたたきつける。
 その間を惜しんだアルが奥義蒼の魔弾を撃ちはなって、さらなる攻撃を妖獣に向ける。
「今じゃ!」
「百邪斬断、万精駆滅……、八掛浄銭剣ッ!!」
 アルの声かけに応えた麗鳳が八卦浄銭剣をふるった。
「御霊滅殺符があれば……」
 激戦の中、回復の手しか持たない咲耶は攻撃が出来ないことをくやんだ。
 わずかな隙を見捕らえても、攻撃することができない。
 ならばと、ありあまる回復の力を仲間に向けることにした。
 何度も何度も病魔根絶符で前衛を癒していく。
「くっ!」
 妖獣の攻撃を一身に受けていた洋角が大ダメージを受けた。
 何度も攻撃を避けて持ちこたえていたが、カマキリの刃が洋角の体をまともにとらえてしまったのだ。
「洋角さん、下がってください! フォローします。麗鳳さんと夜魅さんは、このまま一気に攻めて下さい!」
 正義は、血染めの忍者刀を逆手持ち、逆袈裟に切り裂きざま、洋角の前に立った。
 ノーブルブラッドで無傷の体に整えた正義は、この場を持たせる意志を見せる。
「私が回復するわ!」
「うちもです。その怪我、ウチが治すえ」
 互いに声をかけて行動するあやねと咲耶が団結して洋角を癒した。
「まったく、キモイ虫ね。柔らかいカマキリの下腹部が固い外骨格で覆われた蟻の下腹部に代わって弱点を克服したつもりだろうけれど、生憎とお前の弱点はそこじゃない。この程度で勝ったと思っているのなら、本当の弱点は本能でしか動けない足りないオツムの方よ!」
 あやねは、白燐奏甲をかけながら妖獣に悪態をつく。
 蒼十郎は、飛んでくる病魔根絶符を目に、洋角は大丈夫だと確信した。
「雄のカマキリやったら、雌のカマキリに食われるんが摂理やで!」
 蒼十郎は、昌義に襲いかかってくる妖獣に、一回り大きく描いたカマキリもどきを飛ばしぶつけた。
 奥義スピードスケッチだ。
 描いた妖獣カマキリは、妖獣を切り裂くと同時に消える。
「ゴースト如きが妾に刃向かうとは身のほどを知らんやつめ! 貴様など大いなる者どもに比べれば塵芥にも等しいわ! 妾の二つ名が伊達ではないということを教えてやろう! 渇かず、餓えず、無に還れ!」
 アルは渾身の力で蒼の魔弾を撃ちはなった。
 直撃した爆発音が消えると、妖獣はマヒにかかっていた。
 この好機を逃す手はない。
「正義さん、変わります」
「まかせました!」
 洋角と正義が入れ替わる。
「死人を冥府へと導くのが死神のふたつ名を持つ私の役目。悪霊となり果てたこの山の獣たち。その魂を私が刈り取ってあげるわ! あなたの魂を、削り取ります!」
 夜魅の声を筆頭に、洋角はインパクトを、夜魅は断罪ナックルを続けざまにくらわせ、麗鳳が八卦浄銭剣できりつけた。


 夜魅が、消えた妖獣のために墓を作った。
「人を襲ったゴーストは誰からも顧みられないもの。彼らもまたシルバーレインの犠牲者なのに……」
 そう呟く夜魅の言葉に、能力者たちは殺された男性のことを思った。
 このまま帰りたくはないと、彼らは麓へ戻らず、道を辿ることを決めた。
 殺された男性を、この目で見るためだ。
「うっ!」
 現場を見た咲耶は、口を覆って目を背けた。
 血がへばりつく草の中には、男性だった者が小さな肉の塊として散らばっていた。
「酷いですね」
 正義は思わず眉をひそめた。
 これほどとは思わなかった洋角も、さすがに笑顔を消している。
 あやねは、足元にあった財布を広い、免許所を取り出した。
「ダテ ヒロマサ。優しそうな人ね」
 あやねは、免許証にある写真を見て言った。
「連絡先はあるけれど……こんな状況、家族に連絡するのははばかるわ」
「うむ。いちど人里に戻って遺体発見の報告をと思うたが、下手をすれば妾たちが怪しまれてしまう」
 アルの言葉に、麗鳳が息をのんだ。
「うちらが、ここに来る前に、男性のことを尋ねてたからか……?」
「言われてみればそうですね」
 正義はあごに指をかけた。
「僕たちが聞き回っていた男性が、こんな殺され方をしたのですから、下手に関われば捜査の参考人にでもされてしまうかもしれません。それなれば、いっそ、何もしない方がいいでしょう。世界結果によって、野犬か何かに食い殺されたというふうに収拾されるかも知るでしょうし。僕たちにできるのは、せめてこれくらいでしょうか」
 正義は一番血の色が濃い場所に祈りを捧げた。
 せめて、魂くらいは安らかでいてほしい。
「……つくづく自分の無力さを痛感するで。ウチらにもっと力があれば、男の人も救えたのかもしれへん。後悔しないためにも、もっともっと強くならんとな……」
 麗鳳は、目に涙をためていった。
「より多くの人々を守る為にも、もっともっと強くなりたいですわ。無駄な犠牲を出さないためにも……」
 咲耶は祈る。
 どんな形でも弔ってあげたいと思っていた洋角も手を合わせた。
「自然の中は弱肉強食やけど、不自然なゴーストに襲われるんはなんかなぁ……」
 蒼十郎は、どこかやるせない気持ちを隠せずにいた。


マスター:あやる 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2012/02/01
得票数:楽しい1  カッコいい1  せつない6 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。