地下の炎 〜ファイヤー・ラット掃討戦


<オープニング>


 大都会の地下、縦横に走る下水道にも生き物は住んでいる。その中に紛れるようにしてゴースト達の影も……。漆黒の闇の向うに赤い炎が揺れた。点々と増え続けるそれは生き物の気配を追って移動しているように見えた。都市の暖かさと餌の豊富さを一身に受け、肥え太ったドブネズミ達。怖いものしらずのように見える彼らでさえ、その赤いモノには近づこうとしない。火焔のように光るそれは今日も都会の闇に蠢いている。

「ようこそお集まり下さいました。皆さん」
 今岡・治子(高校生運命予報士・bn0054)は満面の笑みで教室に入ってくると、挙措も涼やかに一礼する。
「下水道に火ネズミが出るんです」
 手にしているのは古典シリーズの『竹取物語』。まさか皮衣を取って来いという依頼でもあるまいに……。能力者達の脳裏を我が侭放題の姫君がよぎったが、治子は一向に気づいた風もない。
「もちろん火ネズミなんて動物がいるわけではありません。妖獣です」
 炎をまとったように見えるネズミ妖獣が出没する様子が見えたと治子は言う。下水道はリビングデッドの吹き溜まりとはいえ、数が増えていく一方ではさすがに困る。この辺りでちょっとばかり大掃除してきて欲しいというわけだった。

「入り口はここ。まずは真っ直ぐ降りていって下さい」
 梯子を降りると第1の小さな部屋に出る。そこに火ネズミが出現することはないが、問題は更に地下へ移動する時だ。
「この部屋から下に妖獣は出現するのですけど、そこへ至る通路は人が1人しか通れないんです」
 1人1人降りていったその先の第2の部屋に火ネズミ達は待ち構えていることだろう。
「更にここからまた梯子を降りていくと横道にでます。いわゆる下水道ですね」
 下水道は大きな『日』の字のような形をしており、梯子の先はこの『日』の字の1番下の横線の真ん中辺りに通じている。ここにももちろん火ネズミは出るから、排除しながら『日』の字のてっぺん辺りまで向って欲しい。そこには大きな部屋と呼べるくらいの空間がある。何事もなければそこまでの到達時間は約30分。
「そして、そこには大物がいるんですよね……」
 火ネズミの大きさは20センチくらいだが、最後に出てくる大物の大きさは約2メートル。
「攻撃手段は火焔の弾丸を吐き出してくること。単体攻撃ですけど、強力ですよ」
 それに加えて毒のある爪で引っかいてくることもあるという。
「火ネズミの方は……体当りです」
 ただし、全身火の玉のように変化して。火ネズミの体当りは炎の魔弾のようなものだとイメージしてくれればいいだろう。
「火ネズミは要所要所でネズミリビングデッドを従えて出てきます」
 まずは第2の部屋に火ネズミ2〜3体にネズミリビングデッドが10匹前後、更に地下下水道では同じような構成の火ネズミグループが2つ、どこかで出てくるようだ。そこ以外は静かに進むことができるだろう。しかもグループといっても所詮は妖獣とリビングデッド。連携を取ってくるような周到さは欠片もない。
「ただ、大物の所はちょっと数が多くて……」
 大物1体プラス火ネズミ5体だという。
「火ネズミは厄介すぎないか?」
 能力者から意見が出る。魔弾相当の火ネズミがそれだけいるならこの人数では難しいのではないか、と。
「大丈夫です。火ネズミが炎のようになるのは3度に1度です」
 もう1度燃え上がるまでに時間がかかるなんて、お間抜けさんもいいところですよねと治子は微笑む。
「燃えているように見えても実際の火ではないですから、攻撃を仕掛けても火傷しませんし……1度炎の体当りをした後の火ネズミはまとっている火が小さくなりますよ」
 火ネズミは文字通り炎のネズミ。火の弱い火ネズミなどネズミリビングデッドに毛の生えたようなものだ。
「数が多いのは難点といえば難点ですけど。放っておいたら、ちょっと困っちゃいますからね」
 最後に撃ちもらしがいないか確認してくださいね、と治子は続けた。

「それから、下水道ですから灯りはそれぞれ用意した方がいいですよ」
 辺りは漆黒の闇だから明かりは必要不可欠だ。下水の匂いも汚れもイグニッションをとけば問題なく消える。
「ですから、安心して下さいね。もちろん、私は行きませんけど」
 にこりと微笑むこの運命予報士に逆らえる者は存在するのだろうか。能力者達は思わず顔を見合わせる。
「吉報をお待ちしてますよ。では、行ってらっしゃい」

マスターからのコメントを見る

参加者
遠野・優雨(闇纏う紅星・b00094)
宮本・武蔵(高校生魔剣士・b01457)
榊・竜也(黒曜の護士・b03277)
久瀬・了介(連矢羽・b05270)
清村・御風(乾坤一擲・b07683)
神代・このは(神代の白き龍・b12414)
武田・灯(三弦の標・b14297)
緋空・尚美(スカーレットアヴェンジャー・b14583)
木佐・菜実子(昼光虫・b19415)
大桐・連花(スロースタートエアライダー・b25239)



<リプレイ>

●大地の下の……
 かつて地下は根の国とも称され、生き物達の行きつく安住の地としての一面も持っていた。人々にとってそこは未知なる空間であり、畏敬すべきものであったこともある。だが、現代のそこは縦横の鉄道、無尽なる下水の脈がうがたれているだけの地。かつての泉下は散文的な通路へと変容を余儀なくなされ、うがたれた深い闇には闇の住人達が吹きだまることとなった。昼をも欺く地上の夜は決してここには届かない。光を発するものがあるとすれば、ただ1つ。暗く赤い炎。腐臭と闇に血の匂いが混ざる時、それは鮮やかな炎へと変化して虚無の闇を照らす……。
「下水道か……」
 その名の穴倉が街の地下に広がっていることを、清村・御風(乾坤一擲・b07683)は勿論知っていた。そう教えてくれた人がいたから。けれど目の当たりにして見れば、思い起こされるのはその人への懐かしさではなく、臭いへの嫌悪。
「下水道って1回降りてみたかったんだよね……」
 人目につかないマンホールから降りていく武田・灯(三弦の標・b14297)にもその臭いは強烈で。「2度はいいけど」と付け加えたことがすべてを物語っているかのようだ。
「なんだかドキドキするわね……うん、きっと大丈夫よ」
 大桐・連花(スロースタートエアライダー・b25239)が自らに言い聞かせるように懐中電灯のスイッチを入れた。黄色い明かりに照らし出されたのは無味乾燥な部屋。作業の為にでも使うのだろう。ただただがらんとした空間が広がっているだけだ。ここが連花の依頼歴の最初の1歩となるのだ。
「……正直、こういう地味な仕事は苦手なんすよねぇ」
 久瀬・了介(連矢羽・b05270)が大きく息を吐いた。爽やかな太陽、セクシーなお姉さん達、加えて血沸き肉踊る冒険活劇……この地下にはそのどれもが欠如していた。
「でもゴーストを野放しにはしておけませんからね」
 遠野・優雨(闇纏う紅星・b00094)がやんわりというと、
「ハルコサンニサカラエナイカラジャナイヨ……」
 と機械のような灯の声も虚しく響く。ここへと送り出してくれた運命予報士の顔が能力者達の脳裏をよぎる。
「……いや、分かってるっすよ?」
 そう。地味な仕事――あまりにも地下は地味だが――しっかりこなせてこそ一人前の能力者なのである。

「火ネズミですか……」
 おっとりと、と表現したくなるような穏やかさで榊・竜也(黒曜の護士・b03277)は今回の敵を確認する。物語の火ネズミの皮衣はめらめらと燃え上がるだけの偽物だったが、今度の妖獣は……。依頼には意味のないことではあるけれども興味が募るのは自分ながら抑えがたい。いわく、毛皮を剥ぎ取ったらどうなるのだろうと。
「ネズミって食えねぇんだよなぁ……」
 学園に来る前は山にいたという御風は実はネズミを食してみたかったらしい。架空のネズミと現実のネズミと。一口に火ネズミでも連想は千差万別といったところらしい。
「こんなことでもなければ来たくない場所ですが……まあ、ともかく……」
 優雨が最後の確認を済ませた。これから長い戦いが始まるのだ。
「前みたくごきぶりさんじゃないだけ良いかな……良いのかなぁ」
 下水道は2度目の小学生、木佐・菜実子(昼光虫・b19415)はゆっくりと部屋の中央へ行った。大きな取っ手を両手でつかむと勢い良く蓋をひらく。ぬるりとした感触の風が吹き上がってきた。緋空・尚美(スカーレットアヴェンジャー・b14583)の懐中電灯の明かりが縦に伸びる通路へと差し込んだ。茫漠とした闇を白い光の筋が心細げに貫いている。

●火をまとう獣
 幾つかの光が通った縦穴を宮本・武蔵(高校生魔剣士・b01457)は気配を殺しながら降りていく。両の肩には猫が1匹ずつ。神代・このは(神代の白き龍・b12414)と了介の変身した姿である。通路は狭く1人しか通れない。だができうる限り早く、多くのメンバーを送り込む必要があった。いつ攻撃を受けてもいいように武蔵は慎重に気配を探り、2匹の猫もすぐに変化を解けるよう全身全霊を傾けて行く先を見つめている。
 ことりと武蔵の靴が床についた。
「……痛っ!」
 通路を抜けた瞬間、彼女の足に噛み付いたモノがある。反射で踏み潰し、見回すと真っ赤に燃え上がる炎が3つ。体長は20センチぐらいとはいえ闇に燃える炎はネズミ達をそれ以上の大きさに見せていた。
 仲間達に知らせる隙も与えられないまま炎は武蔵を直撃する。一気に通路を飛び降りてきた連花も1歩間に合わない。
「いっちょやりますか」
 了介の気弾が一気にはじけた。武蔵を攻撃するにために群がってしまったことが妖獣達の敗因だった。小物のリビングデッド達はあっという間に瀕死の淵へと追いやられる。
「大丈夫ですか」
 優雨が降りてきた時、すでに武蔵を包んだ炎は取り除かれていた。このはの舞が魔の炎を打ち消し、武蔵自身も自らの潜在能力を最大限まで引き出していく。優雨は胸を撫で下ろしてさらに治癒をほどこした。
 了介の礫が再び地下に死の雨を降らせた。リビングデッドはもはや敵と呼ぶに値するものではなく火ネズミもその動きを鈍らせている。妖獣達には次々と襲い掛かってくる災厄を防ぐ術を持たないのではないかと思えるほどに、それは圧倒的だった。
「……あ」
 灯は腐臭の中にふと清冽な水の匂いをかいだ。次いで煌めく水の刃が炎の塊に吸い込まれるように消える様を……。火ネズミは異様な叫び声らしきものを放つ。それが断末魔だということを灯はなんとなく理解した。残る仲間達がこの部屋に降りてきた時には、妖獣の影はどこにもなく累々と横たわる小さな屍が照らし出されているだけだった。
「体力を温存できたのは幸いですね」
 竜也の言葉に頷くと一同は更に地下を目指した。巧遅よりも拙速を尊ぶべし。いにしえの教えに従い彼らは休息も取らず次なる戦いの場へと進んでいった。

●偽りの炎を消せ
「しかしなんて臭いだ」
 脇を流れるのは水であるが清冽さとも爽快さとも全く無縁の下水。日の字型の下水道を能力者達はつぶさに歩いていた。既にリビングデッドの群れを1つ殲滅して来たばかりである。その高揚感でさえ臭いを忘れさせることは難しいようだった。下水道をどのようなルートでまわるかは決められていなかったが、ともかく大物と向き合う前にすべて片付けておくという方針だった。妖獣の群れは2つ。それに行き当たるまで能力達は地下の細道を何度も歩いた。
「いましたよ」
 赤い炎はやはり3つ。ちらちらと光る眼はリビングデッドのものなのだろう。淡く光を帯びた『玄武』は真っ直ぐに火ネズミ達に向けられる。次々と先頭の準備を終えて戦いに赴いていく。
 真っ赤に燃え上がった火ネズミは一気に飛びかかる。あちこちで魔炎が能力者達を焼いたがこのパーティーにはこのはがいた。彼女の舞は仲間達を状態異常から解き放つ力を持つのだ。
「思っていたよりは煌びやかな敵っすね」
 了介の雨あられの気弾を浴びたリビングデッド達はキイキイと耳障りな鳴き声をあげて倒れていく。くぐもった水音がしたのも1度や2度ではない。窮鼠猫を噛むのたとえ通りに彼らの報復は激しい。前衛に立つ者達が少しでも油断をしていたならば後ろの術士達も危険であったことだろう。だが、後衛陣に飛ぶものは火の粉1つもない。それはまさに鉄壁と呼ぶに相応しい布陣。にもかかわらずリビングデッド達は突き進んでくる。
「理性は失いたくないものですね」
 哀れむような声を発したのは一体誰であったのだろう。

 地下の攻防は続いた。炎をまとっていない火ネズミでも体力はある。有能な者達が揃っているとはいえど無傷ですむような敵ではない。だが、彼らには潤沢な回復がある。地下を照らす偽りの炎はいずれ消えるだけのものへと変化していく。
「そろそろ決着といきましょう」
 連花が前に出る。と思うや、刃となった水は妖獣の首元に深々と食い込んでいく。連撃のような武蔵の攻撃があっさりと首を斬り落とす。こうなればゴーストといえども形をとどめていることはできない。消えていく火ネズミを横目に、竜也の龍撃砲も真っ直ぐに小物達を貫いていく。片や尚美の射撃が火ネズミの最後の命を吹き消していく。
「……護りたいものがありますから」
 聖なる光が優雨の後ろに現れる。それが十字架という名であるということを妖獣は知りようがないだろう。しかしそれが自らを害するものであることはその身を持って知ることになる。繰り返される光の攻撃を能力者達はただ無言で見詰めていた。聖なる光に焼かれていく妖獣の体。もう2度と立ち上がることのないその体を。

●火焔を吐く悪魔
 通路に不穏な気配が完全になくなったのを確かめると、一行は最奥の部屋へと急いだ。足音が高々とこだまする中、問題の部屋の入り口はいっそう黒い闇に沈んでいる。菜実子の白燐光が四角い部屋を淡く照らし出した。妖獣は奥の壁際にゆらりと立ち上がった。足元にはキイキイと叫ぶ見慣れた獣。2メートルの巨体、らんらんと赤く光る両の眼は人喰いに相応しく禍々しい光を発している。
 竜也の脇を長い髪が通り抜けた。夜の闇にも似た黒い髪の持ち主は眠りの符をその手の中に生み出している。
「眠りました!!」
 妖獣の巨体が背後の壁にどすんとぶつかったかと思うとそのままずるずると崩れ落ちていく。
「派手にいってみようか……」
 了介は笑う。頷きながら御風は音もなく影のように付き従ってきたシャーマンズゴーストを入り口に立たせた。火ネズミの逃走防止というわけだ。
 慎重に大物を狙いから外し、了介は一気に気弾の雨を火ネズミ達に降らせた。それが目に見えるものであったならば光の雨にも似ていたかもしれない。それは火ネズミ達を打ちのめし、逆上させるに充分だった。たちまちのうちに炎を燃やしたネズミ達は能力者達に飛び掛ってくる。
「むしさんごーごー……って技じゃないんだよね。ちぇー」
 部屋中にばらけるようにいる炎の塊に飛ばされたのは崩れた壁。小さな菜実子自身が投げるにはやや大きなコンクリートも彼女が念じればそれは強大な武器に変わる。上から潰されて動きを止めざるを得なかった火ネズミに今度は御風がみごとな回転蹴りを見舞う。
 当然のことながら火ネズミ達の抵抗も苛烈を極めるものとなる。
「!!!」
 御風の体が紅蓮の炎に包まれた。そしてその隣の竜也にも炎は襲う。だが、更なる炎にさらされているのはやはり武蔵だった。
「皆さんの盾ですから!」
 2つの武器は左右の敵を薙ぎ払い、残る1体の体当りはその身全体で受け止める。漆黒の瞳に強い意思が宿る。
「ありがとう、行きましょう!」
 それは優雨の宣言。火ネズミの炎は1度使えば次に使うまで時間が必要。ならばその間に削り取れるだけ削り取るのが常道というもの。あまりにも静かなその宣言に呼応するようにこのはは舞う。体を燃やさずにその生命力だけを焼いていく魔炎は嘘のように消えていく。水を得た魚のように能力者達の攻撃が一斉に火を噴く。それはまさに輝かしいばかりの力の洪水だった。長い戦いのために温存してきた力も調節してきたそれも、もはや留める要素は何もない。あっという間に火ネズミの大半は息も絶え絶えという状態にまで追い込まれてしまう。
「醒めた……?」
 灯の声と同時に巨大な影がゆらりと立ち上がった。ぐわっと大きく開けた口に火焔の球が見える。灯は急いで炎の蔦を放ったが、それはあっさりと振り払われてしまった。
「……!!!」
 刹那、灯の体は真横に突き飛ばされている。よろめいた彼女が見たものは真正面から炎を受け止めた武蔵の姿。その時彼女の体を突き抜けた衝撃をどのように表現すればよかっただろう。炎に飲み込まれたかのように見えたと、後に仲間達は語っている。
「…………」
 発する言葉はただの一言もなかった。けれど彼女の長剣は頭上で高々と旋回する。この戦いにおいて彼女の最大の功績はこの1点にあるといっても過言ではない。大物妖獣の攻撃に耐え抜き、なおかつ仲間達に確信を与えたのである。即ち「勝てる」と。

●再びの静寂
「力押しは正直苦手なのだけど……」
 だが連花の本領はそこではない。水の刃は連花の意を汲むかのごとく敵を切り裂いていく。竜也の龍撃砲もそんな彼女の後ろから一直線に火ネズミを薙ぎ払っていく。
「今度こそ……」
 炎の蔦が闇を切り裂いて飛び、灯の目に縛り上げられる妖獣の姿が映った。残り少なくなった火ネズミ達は何度目かの炎をまとい始めていたけれども、時既に遅し。数から言っても力から言ってももはや能力者達の敵たりえない。屠られるのを待つばかりであった。
 火ネズミの命の火が消えてしまうと、能力者達は最後の妖獣のいる壁際へと包囲の網を狭めていく。炎の蔦が引きちぎられるのと、雷鳴が響き渡るのはほぼ同時。天頂から見舞われた了介の雷撃は、せっかく得た妖獣の自由を再び奪う。さらに伸びてきた闇の手はたっぷりと毒を食らわせる。疲れを全く感じささせないリズムで武蔵の闇の剣戟が見舞われると、次々と能力者達の攻撃が加えられていく。
「おしまいにしましょう……」
 優雨の光は強く清らかに妖獣を照らす。呻く妖獣は毒牙を剥いたが、餌食になってやるほどの彼らは奇特ではない。音もなくゴーストを灼くその光が消えぬ間に、再びアビリティの花がひらく。水も闇も雷撃もすべてはゴーストを消すための祈りとなった。
 ――静寂が戻ってくる。ここが造られて以来大部分の時間を支配してきた永遠の夜が……。

 本来の静けさの中を能力者達の靴音だけが響く。日の字型の通路を生き残りの妖獣やリビングデッド達の姿を探して歩いているのだ。
「いないようですね」
 もはやそこには何もいなかった。下水の流れる音だけが響くただの地下。都会の地下にはまだまだ無数のリビングデッド達が潜んでいることだろう。だがそれはまた別の話。
「……一仕事したって感じでいいもんすね」
 了介が大きく伸びをする。
「2度と来ることはない……と願いたいよ」
 戦闘中は気にならなかった匂いが再び灯の嗅覚を刺激し始めていた。
「……でも、洗わなくても汚れがとれるなんてイグニッションカードって便利だね」
 灯の科白に優雨が苦笑する。
「……早くお風呂に入りたいですね」
 新鮮な空気を存分に吸いたいものだと竜也も笑顔を浮かべた。出口はもうすぐそこである。
「……いつか日の当たるところで戦うんだからー!」
 菜実子の幼い声がゴーストのいなくなった地下にこだまする。続いて朗らかな9つの笑いが暗い地下を満たしていった。
 外は暑いほどの1日。燦々と照らし出す陽射しはさぞかし眩しいことだろう。


マスター:矢野梓 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2007/06/13
得票数:楽しい1  カッコいい22 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。