【tne flicker】Music Carnival

<オープニング>


 フライングVはフライってついてるんだから飛べなきゃおかしいだろ。
 そう言って俺の親父はビルの屋上から飛んで行った。アル中だったんだ。無論死んだ。
 でも俺は、親父の言ってる意味が何となく分かってはいたんだ。
 世界を忘れて、この世を捨てて、まるで地上を捨てた鳥のような自由。
 ギターをかき鳴らしている時にだけ感じる、不思議な浮遊感。
 だから俺は、親父を殺したフライングVを誰よりも愛している。

●エア・レジスタ
 眼鏡の少女がいた。
 名はマリー。
 外からロックバンドが来たのだと、まるでサーカスを待つ子供のように飛び出していった若者たちを、バーカウンターの内側から眺めていた。
 若者と言うなら、自分だってまだ若い。発育が遅いからか胸も膨らまずいい加減同年代のバンビやジュリエットに置いて行かれているが……ええい、邪魔な思考め。
 マリーは頬を膨らませ、呑みかけのコーラやビールを片付けていく。
 どうせ彼らは戻ってこない。気の抜けたこれらを飲むこともあるまい。
 甘ったるいか苦いだけの残り物だ。
 まるで私のようだ。
 村人は外に出て音楽をやって、それなりに稼いで、中には大きな成功を収める人もいる。そう言う時は出身地を偽って、元孤児だとかなんだとか適当にこの村を隠す決まりだ。外で誰かと結婚し、子供を産むことも許されている。
 しかし産まれた子が音楽の才能に恵まれなかったら、大抵の場合村に捨てられるのだ。
 ……わかってる。保護される、の間違いだ。食事や寝床に困るわけではない。
 村を維持するために、そしてフェスを滞りなく行うために、私達のような『ただの人間』がいるのだ。
 村のフリッカー達に混じって音楽をやる機会は、残念ながらないのだが。

 ――ふと、歌声が聞こえた。

 半開きのドアから流れ込む、誰かの声。
 それはお世辞にも上手くは無くて、街の少年少女がカラオケボックスで披露する歌声にこそ近かったが、マリーにはもっと別のものとして聞こえていた。
 魂の声、だ。
 才能に恵まれず、境遇に恵まれず、幸運にも恵まれず、しかし歌うことだけは自由だと、声は言っていた。
 隣人の歌声を穂に受けて大海を滑り出す船。
 古い誰かの歌声をハンマーにして東西の壁を叩く音。
 マリーは洗いかけの皿を置いて駆けだした。

●song dey and dey
 暈人は軽く目を回していた。
 この村の若者たちによる手荒い歓迎(非暴力的なものを差す)に三十分少々つき合わされたのだ。
 しかし暈人達にとっては貴重な友好的村人。できれば情報を収集しておきたかった……のだが。
「で、分かったことは?」
「女の子のメールアドレス」
 五六八が眠そうな顔で自分のスマホを見せてきた。普段は高機能MP3プレイヤーと化していそうなスマホに、変な名前のアドレスが登録されている。
「嬉しいか?」
「……あんまり」
 テーブルを流れるメイプルシロップが如き鈍重さで応える五六八。オフ時のロウテンションは知っているつもりだったが、それ以上に疲れているらしい。
 額に手を当てる暈人。
 ぶっちゃけ、情報収集らしいことは何もできていなかった。
 アドレス帳に女の子の名前が数件増えただけである。どうしようかな、コレ。
「ヴォルフラムは?」
「ンー……ン」
 曖昧な表情を見せるヴォルフ。
 村人たちの相手を暈人や五六八に任せて、彼は適当にかわしていたらしい。
「カワイイ女の子のアドレス、ボクも欲しかったんだけどネー」
 何と言うか、彼はわざとバカみたいな発言をすることがある。会話のレベルを意図的に下げているのではと暈人は思う。相手と接しやすくするには有効な手だ。多くの土地を渡り歩いたり、沢山の『初対面』を経験した人間が自然と身に着ける技術である。
「じゃ、ボクはその辺散策でもしようカナ?」
 などと言って歩き出すヴォルフ。
 その裾を、誰かが掴んだ。
「あのー、外から来た人……ですよね?」
 ヴォルフはそっと、携帯の電源を切った。

 マリーと名乗った少女は、ヴォルフ達にこの村の事を一通り話してくれた。
 大抵は事前に仕入れた情報ばかりだったし、マリー自体なにか深い事情を知っている人間というわけではないので、テレビゲームで言うところの『取扱説明書』レベルの情報しか入らなかった。まあメールアドレスよりは価値がありそうだ。
 その中でも特に価値があったのは――。
「ここが、地下のフェスシェルターです」
「「ひっろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおいいい!!」」
 さやかと深冬が両手を広げて叫んだ。
 相応しい表現かはわからないが、東京ドーム何個分という表現がされそうな広さがあった。
 四角形に区切られた巨大なライブステージ。
 コロッセオ風(もしくはすり鉢状)の観客席。
 巨大なスピーカーが各所に設置されていて、今でも何人かのスタッフが作業をしている。
「フェスは普通、外の人達にはナイショですから。こうやって『何もない村』のフリをしているんです」
「ふーん……?」
 『何もない村』と言う表現にどこか自虐のニュアンスを感じて、深冬は振り向く。
 マリーは何ともない風に説明を続ける。
「ちょっとそこのドラムを叩いてみて下さい」
「うん、私でいいの?」
「一緒に……その、大きい人も」
「あっぷるぱいさん」
 深冬はドラムセットの前に座ってみる。隣のドラムセット(なんと二つも並んでいた!)にはあっぷるぱいさんが座る。
 深冬はいつもの調子で……というか、いつもらしく本気でドラムをぶっ叩いた。
 彼女の特徴は基本姿勢が既に本気と言うオリジナルテンポにある。
 それを真似てか、とりあえず力強くドラムを叩いてみるあっぷるぱいさん。
 音量は同じくらいだったし、多分威力で言えばあっぷるぱいさんに軍配が上がる……と思っていたが。
「うぉ……っと!?」
 深冬のスティックが突然オレンジ色に光った。淡い光である。
 いいですよとマリー。
「このステージの下には……何て言うんでしょう、リュウミャク? と言うようなものが昔から走っていたようで、特定の行動に対して反応するんです。光る以外に特別な効果は無いんですけどね」
「特定のって……コレ?」
 スティックを指で回して見せる深冬。
「私達はそれを『魂の輝き』って呼んでます。フェスでは主に、その輝きの強さで競っているんです」
「魂の輝き……ねえ」
 深冬は自分のスティックを見つめて、何かを深く考えていた。

●ジュリエット
 マリーからフェスの説明を受けた後、村の宿泊施設(主に海外活動するフリッカー達のためのフェス滞在用)を二部屋程借りた。
 マリーはどうやらフェスの受付を兼任していたようで、手続きじみたことは滞りなく進んでいた。食事もバーに来れば(有料ながら)できるらしく、一同はまずはライブ疲れを癒そうと宿に留まることにした。

 その晩、バーにて。
「アンタがストレンジャー(外から来た人)?」
 ちびちびとホットミルクをのんでいた彩音の向かいに、知らぬ少女がどっかりと座った。コーラの瓶をやや豪快に置く。
「そうですけど……」
「ギター、カッコイイじゃん」
 見れば、少女はアコースティックギターをベルトで背負っていた。
 スペード型の髪飾りをつけていて、赤く塗られた部分がハート型になっていた。
「あ、コレ? ピックケースになってんの。カッケーでしょ」
 ハート型のピックを取って見せる少女。ピックには『ジュリエット』と書かれていた。
 彩音は適当にそうですねと言っておく。これでも人見知りはする方だ……と思う。
 するとそこへ、オレンジジュースの瓶を握ったマッキが現れた。
 なんだかヘンテコな歩き方をしている。
 酔っているのかと思ったが、本人いわく『曲のイメージを固めている』動作らしい。
「おっすアヤネ、まだ寝てないの? 今日のギターテクすげかったね! そっちはトモダチ?」
「いっぺんに三つも聞かないで下さい」
 特に二番目に関して応えづらかったので、適当に濁す彩音。
 一方ジュリエット(仮名)はピックを髪飾りに戻すとどこか不機嫌そうな顔をした。
「アタシはトモダチじゃないよ、まだ」
「まだ?」
 首をかしげる(ような踊りをする)マッキに、ジュリエットは手を小さく振る。
「アタシはね、魂の輝かない人とは友達にならない主義なの。アンタがどの程度か知らないし……だから保留」
 彩音を指差して言う。非情に失礼な仕草だったが、今に関して言えば寧ろ好意的ですらあった。
 ジュリエットはこう言っているのだ。
 『あなたの輝きを私に見せて』

●CC
 外の風が寒い。
 雪菜はそんな時、ほのかなユーモアを感ていた。
 元雪女の私が寒いだなんて。出来そこないも甚だしいではないか?
 マフラーに首を埋める。温かいというのは良いことだ。安心する。
 そうしていると、背中から何かを被せられた。温かい。
「かぜ、ひく」
 妙な訛りのある声で、誰かがそんなことを言った。
 振り返る雪菜。
 そこにはなんと、身長2mを超す黒人男性が立っていた。
 びっくりする……が、彼が薄着であることに気づいて、同時に自分に上着を貸してくれたことにも気づいた。
 元雪女、他人のコートを借りるの図。
「あ、ありがとうございます」
「いい」
 首を振る男。彼の胸にはバッヂがついていて、モンスターCCと書いてあった。
 頭の中で『CCさん』と呼んでおく。
「フェス、でるか」
「……はい。あなたも?」
 同じだと言って頷くCC。
「がんばれ」
「……」
 応援された?
 雪菜は白い息を吐いて、あなたもと言った。

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参加者
萩坂・暈人(単なる一人の書剣・b00168)
芝本・五六八(ワーロック・b01225)
片桐・彩音(ドミナントノート・b05423)
立湧・深冬(嵐を呼ぶかも知れない前向き娘・b07602)
時守・雪菜(ピグマリオン・b52803)
五和・さやか(普通の子・b55655)
護宮・マッキ(輝速・b71641)
ヴォルフラム・レーヴェレンツ(ツヴァイ・b71934)



<リプレイ>

 魂の輝きは誰にだってある。
 気付けるか否かだ。
 それだけのことだ。

●Johnny strobe
 ブラストヴォイスと響音弾、ダンシングワールドにショッキングビート。
 およそ20人はいるかという試合会場(ステージ)の中で、萩坂・暈人(単なる一人の書剣・b00168)は歯を食いしばった。
「思ったよりすごいな……こっちは殆どぶっつけ本番なのに」
 暈人はこう見えて秀才型だ。キーボードに固定した楽譜通りに、几帳面に打鍵していく。演奏ができるように攻撃も魔眼に絞った。
 が、いくらなんでもコレはないだろう。
「ヒヨってんなよストレンジャー! 輝きが足りねえぜ!」
 V字の変形型ギター。
 ボディには『Johnny strobe』のステッカー。
 仮称ジョニーはギターをバットのように構えると、暈人の魔眼をかっ飛ばした。そうだ、それこそ野球のスラッガーみたいにだ。
「無茶苦茶なっ」
「そうでもないよ」
 体勢を低くして突っ込む芝本・五六八(ワーロック・b01225)。ガントレットが唸りをあげ、噴出した冷気と共に拳が繰り出される。
 ジョニーは内角低めにギターをスイングすると、五六八の拳と激突させる。
 瞬間、鈍色の光が散った。ほんの一瞬だけの、しかし強烈な光だ。
「魂の輝きなんて難しいものじゃない。よっぽど運が悪くなきゃ、見たことがある筈だ」
 五六八はかつて、世界が揺れる瞬間を見たことがある。
 ある者が泣き、ある者が笑い、手を叩いて飛び跳ね、薄いTシャツ一枚ですら熱いと感じる、この世とは思えないような世界が、かつて見たステージにはあったのだ。
「ここは譲れない。一歩も退くつもりはないよ」
「お互い様だ!」
 歯を食いしばる五六八。
 目を見開くジョニー。
 二人は再び正面から激突した。

 誰にだって魂はある。
 それが物言わぬフランケンであっても同じことだと、五和・さやか(普通の子・b55655)は考えていた。
 そもそも考えることは得意ではない。おっぱいに脳の栄養が取られているんだと思う。
 だからとりあえず、彼女はこういう風に主張した。
「あっぷるぱいさんの魂は、ボクが一番感じてます。こういう――時に!」
 リコーダーを振りかざす。赤い糸が伸び、あっぷるぱいさんの巨大なボディと繋がった。
 普段は見えない筈の糸が、赤い光になってしっかりと見える。
「あっぷるぱいさん、GO!」
「――!!」
 スティックを持った腕が振り上がる。
 二丁の六連ガトリングアームが、凄まじい勢いでドラムを打ち鳴らすのだ。
 さやかと繋がった今だからか……いや、さやかが信じた今だから、あっぷるぱいさんは淡く輝いた。
「やるじゃん」
 誰かがアコースティックギターを鳴らした。
 その音だけで、片桐・彩音(ドミナントノート・b05423)は直感する。
「ジュリエットさんっ」
「遅っそぉい!」
 激しいブラストヴォイス。
 彩音は対抗してホワイトメロディを奏でたが、受けたダメージは倍以上だった。
 いや、ダメージだけではない。彼女が歌い出した瞬間から、世界が彼女を中心に回り始めたのだ。
 そうとしか、言いようがないのだ。
「あっぷるぱいさん!」
 シンバルをぶっ叩き、ファイナルキャノンをぶっ放す。
 ジュリエットはそれをガードもせずに受けると、焦げた髪を振り乱して更に歌い続けた。
「輝けないの? かっこいいのはギターだけ? ねえねえねえねえ、ねえってば!」
 彩音の血がぶわりと沸く。

●third eye
 五六八の拳から血がにじむ。
 彼は傷口を無理やり凍らせ、再びジョニーを殴りつけた。
 顔面に命中。もんどりうって倒れる。
 直後に突き出された脚で今度は五六八が蹴倒された。
 歯を食いしばる。
 ゴルフスイングのようにぶん回したギターのボディが、彼の顔面をかっとばす。
 実際に跳んだわけじゃない。そう言う気分になるくらいシェイクされたのだ。
 バシュンというストロボのような光を境に目を回す五六八。
「楽しかったぜピエロ、また後でな!」
 五六八の上を飛び越え、ジョニーは暈人へと一直線に走ってくる。
 暈人は迷った。
 演奏をやめて防御に移るか?
 装備を見ればある程度は立ち回れる。
 いや、いや、いや。違う。
 迷っていたのは、そんなことじゃない。
「……くそっ!」
 暈人は楽譜をひっつかむと、ぐしゃぐしゃにして放り投げた。
 右腕を振り上げる。
 そして真っ直ぐ、キーボードへと叩き落とした。
 殴ったと言ってもいい。
「俺は勘違いしてた」
 腕を中心に、淡い光が漏れ始める。
「形を崩さないように、踏み外さないように必死だった。でもそんなのいらないんだな」
 光は腕を伝い、肩を満たしていく。
「形にならないものを、乗せなきゃいけないんだよな!」
 剣があった。
 友が去っても、想いが傷ついても、折れなかった剣だ。
 暈人の魂の中心にはいつも、そんな剣が刺さっていた。
 キーボードを右から左へ、勢いよく払う。
 彼の腕は今、魂に刺さった剣そのものだった。
「受け取れジョニー、これが俺の信念だ!」
「OK、来いや!」
 飛び掛るジョニー。
 目を見開く暈人。
 真っ直ぐに放たれた魔眼。
 フルスイングされたギター。
 そして、ギターに穴が開いた。
「んなっ――!?」
 空中でバランスを崩し、みっともなく落下するジョニー。
 途中でぽっきりと折れたギターを掲げて笑った。
「すげえや、折れちまったぜ……俺の愛」

 ブラストヴォイスがこれほど身体に響くものだとは。
 彩音が大人ぶってかけていた眼鏡からビシリと音がする。
 世界を変える歌声が、世界を常識ごと染め上げようとしているのだ。
 よほど訓練したのだろう。よほど努力したのだろう。
 こんな少女相手に、自分なんかが適うのか。
 ……首を振る。振って、メガネが外れた。
「私だって」
 そうだ、私だって、だ。
 嬉しかった日があった。
 恋をした日があった。
 悲しかった日があった。
 砂を食んだ日があった。
 守りたいものがあって、やりたいことがあって、嫌な事とか、苦しい事とか、楽しい事とか、なにもかもが。
 片桐彩音が片桐彩音である全てが、ちゃんとあるのだ。
「これが私の叫び」
 呟きは声になり。
 声は歌になる。
「歌が上手かろうが、楽器が弾けようが」
 歌は光になり。
 光が世界を貫いた。
「――私は負けない!」
 ギターを覚えたのはなぜだっただろう。
 何故だかその時、彼女は初めてギターを触った日の事を思い出した。
 波紋のように広がる光が、ぶつかり合って混じり合う。
「今ですよあっぷるぱいさん!」
 さやかがリコーダーを殆どただの棒として振り回す。
 ドラムを壊さん勢いでぶっ叩き、ガトリングとファイナルキャノンを乱射するあっぷるぱいさん。
 両手を振り上げたさやかが解き放たれたように跳ねた。
「おっぱい大きくてごめんなさーい!」
「ジュリエットさん」
「オーケ、ダーリン! 後で名前聞かせてよね!」
 産声のような歌声が、ジュリエットの声と相殺する。
「――ィ!」
 ジュリエットが笑い、彩音が笑う。
 次の瞬間。
 ジュリエットの胸を響音弾が貫いた。
 彩音の身体がガクンと揺れた。
 同時に、仰向けに倒れる。
 目を瞑る彩音。
 不思議と、負けた気はしなかった。

●blues drive monster
 昔話をする。
 護宮・マッキ(輝速・b71641)はいいとこのお坊ちゃんで、お上品にピアノなんて習っていた。
 甘やかされて育った細っこい腕で鍵盤を押せば、それはもう怒られたものだった。
 そんな彼がギターに出会ったのは小学生の頃。
 誰でも知ってる大定番のストラトキャスターを握ったその頃、彼は漸く少年になったのだった。
 それから数年。
 彼にとってギターは正真正銘、大人をぶん殴る道具になった。
「いっくよ――!」
「ああ――!」
 大柄な黒人男性だ。
 マッキの鍛えられた腕でさえ、並べれば子供のように細く見える。
 しかしマッキはぶん殴った。
 彼がこれまで放ったことの無いような、滅茶苦茶で大雑把でいい加減で出鱈目な、それはギターのフルスイングだった。
 溢れだす虹色の光。
 黒人男性(雪菜がCCさんと呼んでいた)の肩に命中し、巨体を無理やり転がす。
 弦がバチンと音を立てて弾けても、マッキは無視してぶん回した。
 恐らくは次元を超えた奇跡なのだろう。彼の心がここまで溢れたことなど、これまで無かっただろうから。
「伊達じゃ、ないな」
「うん!?」
 CCはブレイクダンスのような動きで起き上がると、マッキの顔面にパンチを叩き込む。
 もんどりうって倒れるマッキ。
「こンのっ!」
 ぴょんと飛び起きる。
 立湧・深冬(嵐を呼ぶかも知れない前向き娘・b07602)がヘブンズパッションをかけてきた。
「もう一発だよ、マッキくん!」
 凄まじいテクニックでドラムを叩く。
 叩くと言うより、暴れると言った方が適切なくらいだ。
 別方向から、ハーモニカとインカムを備えた男達が駆け込んでくる。
 連携のとれた三人チーム。やんわりと広がる輝き。
 ヴォルフラム・レーヴェレンツ(ツヴァイ・b71934)が機敏に振り向き、暴走黒燐弾を撃ち放つ。
「さあボクの半身、食い散らかしておいで!」
 爆ぜる。
 三人は小さな闇を掻い潜って走る。
 ヴォルフラムはガチンと歯を鳴らし、先頭の一人を赤手で殴った。
「壊し屋ツヴァイが叫ぶ魂、とくと味わうがいいヨ!」
 炎を上げて倒れる。
 直後、後ろの二人の拳が光り、ヴォルフラムに二人がかりのラリアットが炸裂した。
 今度はヴォルフラムが倒れる番だ。
「つっ……」
 頭を摩って起き上がろうとした、その時。
「■■■■■」
 CCが不思議なイントネーションで何かを呟いた。
 解放感が、世界を包む。
 軽快に、しかし力強く、それでいて自由に踊り始めるCC。
 殴り合っていたマッキを初めとして、ステージにいた殆どのフリッカー達がその空気に巻き込まれた。
 凄まじい解放感なのだ。
 どうしようもない、いや、どうしようもありすぎる感情が、湧き出て止まらないのだ。
 それは笛を吹いていた時守・雪菜(ピグマリオン・b52803)にとっても同じだった。
 解放感。
 解放感。
 解放感だ。
「…………」
 自由にさせられそうになった魂を、ぎゅっと掴む。
 そして小さく呟いた。
「CCさんも、そうなんですね」
 足踏みをする。
 大地が鳴って、彼女に応えた。
 赦しの足音であり、慈愛の足音である。
 そして何より、彼女自身にとっての、解放の足音だった。
「灯夜さん」
 笛を吹き鳴らし、足を踏み鳴らす。
 それだけで、マッキ達は解放された。
 一度でだめなら二度。二度でだめなら三度。
「これは」
「愛だ」
 顔を上げたマッキに、CCは小さく呟いた。
 そして、足音を鳴らす。
「勝負をしよう、ストレンジャー」
「……私でよければ」
 十数メートルの距離を開け、雪菜とCCは踊り出す。
 それは壮絶な、解放の競い合いだった。

●good dreams
 雪菜とCCによる、世界の揺らし合いは続いていた。
 頭を抑えるヴォルフラム。
 黒燐奏甲はかけた傍から外れていくし、歌にもろくに集中できない。
 歌いながら戦ったことなんてないんだから、できなくて当たり前か。
 ヴォルフに諦観が浮かぶ。
 だってそうじゃないか?
 ボクの主張って言ったら、もっぱら壊せと動けだ。
 ロックスターみたいな歌唱力なんて出ようもない。
 歌なんてボクにとってみれば……。
「アー、ンー……あ、そっか」
 ヴォルフはぱちくりと瞬きをした。
 いつの間に仰向けに倒れていたのだろう。
 何度か殴られた気はしたが、正直覚えていない。
 それどころか、頭がぼうっとする。
 何だか身体中が痛い。
 徹底的にやられたからか、目も良く見えない。
 だからヴォルフは、昔のことを思い出せた。
 いい思い出だって?
 そんな幸せそうなヤツに見えるかい?
 粗末な房に放り込まれて、痛くて眠れない夜のことだ。胸糞悪い思い出さ。
 でも確か、あの時隣から聞こえてきたのは……こんなメロディだった気がするよ。
「――、――、――」
 ゆっくりと起き上がる。
 耳鳴りがするので、自分で殴って黙らせる。
「……ヴォルフ」
 振り返ったマッキが目を丸くした。
 ヴォルフ本人は気づかなかったかもしれないが、彼は歌詞の無い子守唄を歌いながら、赤黒く光っていたのだ。
 髪が、爪が、剣を握った手首が。
 そして胸が。
 彼によくなじむ色で、どんよりと光っていた。
 ハーモニカの三人が飛び掛る。
 一人を片手で受け止めて、もう一人を片足で、三人目を歯で受け止めると、ヴォルフはにやりと笑った。
 一回転。
 次々と炎が上がり、群がっていた連中を跳ね除けていく。
「どうかな……少しは、輝いてるカナ」
 そう言って、ヴォルフはうつ伏せに倒れた。

「おぅわ!?」
 マッキが地面を転がる。
 CCが拳をまっすぐ突き出していた。
 じっとりと汗が流れ、顎から雫になって落ちる。
「ここまでだ」
「私も、です」
 胸に手を当て、荒い息をする雪菜。
 これ以上は、踊れそうにない。
 出来ることと言えば、仲間の誰かを強化して助けるくらいのものだ。
 ごろんごろんと転がってきたマッキが、ドラムセットに当たって止まる。
「ごめん、僕も限界」
 腕上がんない。
 腰の所で折りたたんだような体勢で、べたりと膝に顎をつけるマッキ。
 今ステージ上でピンピンしているのはCCだけだ。
 ……と、思っていた。
「あ、じゃあ、そろそろ出番?」
 ドラムセットを放置して、深冬がすくっと立ち上がる。
 オレンジ色の輝きをまき散らし、あれだけ激しいドラムテクニックを披露し続けていながら、未だ彼女はピンピンしていた。
「お願いします」
 雪菜の祖霊降臨。
 頷く深冬。
 彼女はドラムスティックを両手に持つと、世にも楽しげな笑顔を浮かべた。
「うん、やっぱりボクはこっちがいいよね!」
 次の瞬間、ドラムセットが吹っ飛んだ。
 迂回も飛越しもしない、真っ直ぐ突っ切った深冬に撥ねられたのである。
 CCもそれを察し、真正面から迎え撃つ。
 じゃらりと鳴るブレスレット。
 深冬のスティックとCCの拳が正面から激突した。
 衝撃波が背後に走り、オレンジのリボンがはためく。
「魂のビートを、直に感じさせてあげるよ!」
 指の周りでスティック一回転。
 深冬はオレンジ色の光を放ちながら、CCの全身へ高速のドラムアタックを繰り出した。
 一旦停止。その隙に強烈な連打を繰り出すCC。
 うはうっ、という変な声をあげてのけぞる深冬。
 封術が解けない。マッキが足をばたつかせて、最低限のヘブンズパッションをかけた。
「さんきゅう! もっぱついくよー!!」
「っ!」
 連打。
 連打。
 連打。
 鳴りやまないドラムソロ。
 深冬の凄まじい連打はおよそ33回を超え、CCをその場に横たえたのだった。
 そして――。


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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2012/02/10
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