【ファラオストーム】古が呼ぶのは風か嵐か

<オープニング>


 ――深夜、エジプトの王家の谷。
 多くの墓が築かれた深淵の谷を、荘厳な岩山が護るように包んでいる。
 今は、乾いた微風と静寂に満ちていた其の地の片隅で、炎が一つ、弾けた。
「……くっ」
 嘴から赤々と吹き出された炎が地面を舐め、その先の人影を焦がさんとする。
 人影は大きく跳躍してかわすと同時に、右手に握り締めた樹木のようなものを鋭く振う。
 闇に漆黒の髪がなびく。熱をともわない紅が、先程炎を発した嘴へ吸い込まれ、溶かす。
 その姿を知る者がいたのなら、シャーマンズゴーストファラオと呼ばれる地縛霊に似ていると口を揃えるだろう。
「待ちなさい……!」
 真紅の輝きで地縛霊を葬った人影の方は、髪が長い女性だった。眼鏡もかけている。
 しかし、その凛とした声と視線は眼前に消え行くモノに掛けられたものではない。
 彼女の目は、崩れ行く地縛霊に留めることなく、その奥をしっかりと見据えていた。
「…………」
 その先には、古代エジプト風の神官服を着た壮年の男が輿に乗って悠々と構えていて。
 同時に、仮面をつけた美女達が男が乗っている輿を持ち上げ、素早く撤退して行く。
「待ちなさい、インムトフっ!」
 女性は闇に紛れるように消えて行く一行を追わんと、強く大地を蹴る。
 長い黒髪が靡き、影を追う。けれど、その手が、視線が、一行を再び捉えることはなく。
「ふう、逃げられてしまいました、1人ではちょっと厳しいですね……」
 1人残された女性は眼鏡の端を軽く上げて掛け直すと、素早く携帯電話を取りだす。
 一瞬、何かを躊躇するように指先が止まる。けれど、迷うことなくキーを叩き始めた。
「みなさん春休み前で忙しいと思いますが、試験までには帰れると思いますから……」
 と、なんだか物騒な独り言を零した女性は、星瞬く夜空を仰ぎ見る。

 女性の名は、銀誓館学園理事長、矛城・晴恋菜(むじょう・せれな)。
 彼女は、夜空のはるか彼方にある懐かしき学園と生徒達を思い、柔らかく微笑んだ。
 
●古の地が呼ぶのは風か嵐か
「……エジプトに滞在中の理事長先生から、連絡があったんだ」
「「エジプトにいたのかよおおおおお!!!」」
 武羽・和史(小学生運命予報士・bn0099)が口を開いて一拍、驚きと困惑が混じり合った声が教室に飛び交う。
 無理もない。昨年の末に行われたジハードに同行していた理事長は、今はUターンどころかエジプトにいるというのだから。
「……そして、今、理事長先生は」
 静寂に包まれる教室。
 何が起きても驚くまいと、能力者達は身構える。
「……エジプトの遺跡でファラオ関連のゴーストを発見した後、その調査をしているんだ」
 メールによると、エジプトのピラミッド周辺で怪しい事件が起こり始めているという。
 けれど、今ものすごーく、物騒なことをいいませんでした?
「まさか、1人で調査とか……してないよな?」
「そ、そんなこと、ないよね?」
 冷や汗を浮かべる能力者達。
 その願い虚しく、和史は「……多分」と答え、今回の依頼の内容を告げる。
「……それで、この事件の調査の為に、手伝いを8人くらい欲しいとのことなんだ」
 真摯な眼差しで見つめる運命予報士とは反対に、複雑な様子で呆然とする一同。
 それは、今まで手伝いがいなかったというのか、あるいは……いや、何も語るまい。
「……あ、えーと、ジハードの成果もあって、エジプトでは大がかりなゴースト事件は、発生していないみたいだよ?」
 このままでは、尾びれ背びれ式に武勇伝だけが増えて行く一方に気付いたのだろう。
 和史は咄嗟にフォローをいれる。が、ふと真剣な表情で集まった能力者達を見回した。
「……けれど、また戦闘が発生するかもしれないから、力を貸して貰えると嬉しいな」
 今回の依頼は、調査が主軸になるのは、確かだろう。
 しかし、理事長が何者かと交戦したのも、また事実であり、手掛かりの1つだ。
「……メールでは詳しいことは判らなかったから、まずは理事長先生と合流して欲しい」
 和史がパーカーの内ポケットから取り出したのは、エジプト行きの航空券。
 実際の調査活動についても、理事長から直接聞くのが1番なのは、間違いないだろう。
「……理事長先生はカイロ空港でみんなを待っている。凄く楽しみにしているみたいだよ」
 移動及び、現地での滞在費用は全て理事長持ちなので、懐面の心配は無用とのこと。
「……きっと、みんなに会いたくて、仕方がないんじゃないのかな」
 和史は微笑を浮かべ、教室を後にする能力者達を見送った。
 
●カイロ空港にて

 ――ようこそ、銀誓館学園御一行のみなさん。

 そう日本語で書かれた歓迎プレートを持って、カイロ空港の到着ロビーでルンルンと楽しく待つのは、美しい顔だちの女性……もとい、理事長その人でして。
「どんな子達がきてくれるのでしょう」
 二十は超えているのは間違いないけれど、容姿からは年齢までは特定できず、むしろ楽しげな様子は、遠足の当日を迎えた幼い子供のよう。
「折角なので、エジプト観光もしちゃいましょうか」
 一旦プレートを足元に下した理事長は、慣れた手つきでポケットから鍵を取り出す。
「マイクロバスもレンタルしてしまいましたし、楽しい旅ができるといいですね」
 ……すみません、調査という言葉が聞こえないのですが、が。
 
 到着ロビーは日本からやって来た旅行者達で、賑わいを見せ始めていて。
 それに気づいた理事長は、慌てて歓迎プレートを高らかと掲げる。

 古代文明を色濃く残す大地が運ぶのは、風か、嵐か、あるいは……。
 それは、未だ誰にもわからない。

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参加者
楠井・沙智(スレノディ・b12699)
八雲・紫織(彷徨うマリス・b41675)
涼風・ユエル(蒼穹戦姫・b47845)
レイラ・ミツルギ(魔剣士・b48060)
王仁丸・六説(後を踏む影・b58592)
愛良・向日葵(元気二百パーセント・b62143)
氷室・美影(月影さやかな夜・b77337)
オリヴィエ・シンフォティア(魔法陣描く金鈴音の魔女・b77441)



<リプレイ>

●遥かなる砂漠の遺構
「この地に足を踏み入れるのは久しぶりですね」
 王仁丸・六説(後を踏む影・b58592)の視線を止めたのは、プラカードを持った女性。
 背丈は六説と同じだろうか、黒く長い髪が、御辞儀に合わせて美しく流れていく。
「大役を仰せつかって大変緊急してますが、宜しくお願いします!」
 レイラ・ミツルギ(魔剣士・b48060)の自己紹介に、女性はもう一度深く頭を下げて「矛城・晴恋菜です」と名乗った。
(「緊張するけど、頑張らないと……」)
 軽く。呼吸を整えた楠井・沙智(スレノディ・b12699)は、携帯電話の電源をいれる。
 電波状態はMAX。世界に名を馳せているカイロだけあって、問題なさそうだ。
「……で、理事長。そのプラカードは何ですか一体」
 まるで観光客ですよと、目頭を抑える涼風・ユエル(蒼穹戦姫・b47845) 。
 理事長がエジプトにいることにも驚いたが、容姿のせいでツアーガイドにも見える。
「みなさんが分かりやすいようにと、頑張って作ったのですが……」
 高らかに掲げたプラカードは、周囲より2倍ほど大きい。
「理事長、メールで頼んだものを確認したいんだが」
 ツッコミを入れくなる衝動を抑えつつ、氷室・美影(月影さやかな夜・b77337) はデイバックを抱える。
 初めてのエジプトに心踊っていた愛良・向日葵(元気二百パーセント・b62143)も、理事長の背を押して、先を急かした。

「これなら野営も問題ありませんね」
 一行が持参した荷物に軽く目を通した理事長は、マイクロバスの後ろに慣れた手付きで収納していく。
「おっ、全部用意してくれたんだな」
 人数分の非常食に飲料水が3日分、調査に必要そうな野営用品が奥に見えて。
 事前に頼んでいたものが全て揃っていたことに、美影は感嘆の声を洩らした。
「無線機ですが、海外ローミングの携帯電話とそんなに効果は変わりません」
 一応、トランシーバー型の無線機を人数分用意していると理事長は告げる。
 どちらも電波障害の影響は受けるので、過信はできないが……。
「まさか、運転ペーパーじゃないですよね?」
 オリヴィエ・シンフォティア(魔法陣描く金鈴音の魔女・b77441)の懸念に美影も神妙に頷く。
「世界を旅しているから運転は得意ですよ、道無き道でもどんとこいです」
 取り出してみせた国際運転免許証が、少しだけ輝いて見えた。

●ナイルの賜物
(「なんでエジプト観光がセットなのよ?」)
 楽しくバスを走らせる理事長に、八雲・紫織(彷徨うマリス・b41675)は溜息を洩らして。
「考古学って浪漫だよな……て、違、浮かれてなんかねーよっ」
 新古の建物がひしめくカイロの街並に悠然とそびえるミナレットに、美影が声を上げる。
 優美な曲線のモスク、整然な新興住宅街が入り乱れる様は、まるで寄木細工のよう。
「スエズ運河とアスワンハイダムの関係で、もう肥沃な川ではないようだけど」
 あくまで地理の範囲外と付け加えたユエルは、眼前に広がるナイル川に視線を移す。
 しかし今も尚、大河に沿って拡大し続ける街並が、その恩恵を色濃く証明している。
「代償関係で留まっていられる期間、調査等に支障はないのですか?」
 最近の情勢や学園の様子を雑談を交えて理事長に話していたレイラは、ふと、尋ねる。
「明確に決まっているわけではありませんが、支障が無い範囲で行いたいと思います」
 万が一、現地を離れる時が来たならば、誰かに引き継ぎを行うと言う。
「そういうことにならなければいいのですが」
 ……と、零した理事長は、少し寂しそう。
「事件がなければ、何処へ向かう予定だったのかしら?」
「メガリスの代償ですから、何処に行くかは、風任せですね」
 私にも分かりませんと微笑む理事長に、紫織も作り笑いで返す。
 この生真面目な女性は、無理に笑みを作るのが、得意ではないのだろう。
「あと、お勧めの料理……いえ、いいです。真面目にやります」
 ほのかに香る肉の香ばしさが沙智の鼻をくすぐり、視線がちらちらと泳ぐ。
 早朝に来る観光客や、現地のビジネスマン向けなのか、開いている屋台は多い。
「折角ですし、バスの中でも食べれるものを買ってきますよ!」
 ぱっと瞳を輝かせた理事長は混雑し始めた道を物ともせず、キュッとバスを止める。
 数分後、沙智達の手には熱々の『シャワルマ』が湯気を立てていた。
「美味しい上に、少量でお腹がいっぱいになるんです」
 薄く削ぎ落した羊肉に、じっくり炒めた玉葱とトマト等を絡めて、ピタに挟んである。
 肉汁のコクと野菜の甘味が絶品で、病み付きになる味わいだった。

●メナ・ハウス・オベロイの一息
 カイロ空港からギザのホテルまで、1時間も掛からない。
 ホテルに着いた一行は「聞きたいことがある」と理事長の部屋に集まった。
「みなさんのお部屋にも、ピラミッド・ビューがありますよ」
 眼前に迫るのは、威厳に満ちた堂々たる、クフ王のピラミッド。
 陽を受けて輝くピラミッドは美しく、仰ぎ見る部屋もモダンな高級感を備えている。
「日本から『お喋りからす』で淹れた、お茶を持って来ました」
 ポットを持ってきた六説は、理事長のコップにお茶を注いでいく。
 喉を潤した理事長に、オリヴィエが外国語で幾つか話し掛けた。
「全部日本語で聞こえます、これで旅も楽になります」
 深々と頭を下げる理事長に、早速、向日葵が質問を切り出した。
「晴恋菜ちゃんが来たのは、前にエジプトで起きた事件と何か関係してるのかなー?」
「私も、これまでの経緯の確認は必要かなと思いました」
 同じ疑問を抱いていた、レイラも頷く。
「事件があるから来たのではなく、エジプトに立ち寄ったら偶然見つけた感じです」
「ずっとエジプトに留まっていたわけじゃないのね?」
「はい、ルクソール神殿の観光中に、怪しい気配を感じました」
「「観光ーー?!」」
「さすらうばかりでもなんですし、名所観光するように……大丈夫ですか?!」
「ああ、羨ま……いや、続けてくれ」
 理事長は椅子から転げ落ちそうになっていた美影を、慌てて助け起こす。
「他の組織、能力者の気配を感じた故でない、と」
 オリヴィエはそれ以上詮索せず、思案に耽けて。
「理事長は調査するために、エジプトに来たのではなく……」
 冷汗を浮かべながら、代わってレイラが口を開く。
 理事長の話と今回の調査を照らし合わせていた沙智も、確信を持って言葉を発した。
「たまたま事件に巻き込まれてしまった、という所でしょうか」
「はい、その通りです」
 にこやかに微笑む理事長。
 改めて難儀な人なんだなと、ユエルは小さく溜息を零したのだった。

「どのような事件が発生しているのか、確認して置きたいな」
 ノートPCにこれまでの情報を入力しながら、美影も談義の輪に加わる。
 質問は、理事長が『遭遇した敵』『事件の発生場所』の詳細に進んでいた。
「古代エジプトの神官風の男が、怪しい動きを見せているようです」
 おそらく、古代エジプトにまつわる『大きな事件』を引き起こそうとしているのだろう。
 その言葉に、六説の目が大きく見開いた。
「神官の面相を、覚えてる限り細かくお聞きしたいのですが」
「とある映画の、古代エジプト風の神官を少し老けさせたような感じで……」
 スキンヘッドで、後は宝石の装飾を少々……。
 理事長の話を元に六説は、別の事件で遭遇した人物との共通点を確認しながら、スケッチブックに似顔絵を描いていく。
 オリヴィエの手も借りて完成した似顔絵からは、彼の知識にある人物との共通点は見られなかった。
「神官とは何処で遭遇したのかしら?」
「ルクソール神殿の観光中にすれ違いました。これは女の勘ですが……」
 紫織の問いに、理事長は言葉を付け加える。
「あの神官は、ゴースト的な存在だと思います」

「何か発見していたら、確実な範囲で教えて頂きたいのだけど?」
 運命予報がない今、敵の情報をもっているのは、理事長だけ。
 オリヴィエは『敵の詳細』について、更に詰めていく。
「神官の他に、仮面をつけたリリスを発見したくらいです」
 敵一行を尾行したものの、王家の谷で見つかり、小戦闘となった。
 ――事の流れと、始まりが、繋がった。
「戦闘をした相手の様子や特徴、能力に何かありましたか?」
「正面から戦ってないので、真の力はわかりません」
 力及ばず申し訳ありませんと、深々と頭を下げる理事長。
 レイラが慌てて止める中、美影が口を開いた。
「ゴーストの正体に検討はついてるのか?」
「古代エジプトのファラオ系の勢力と思われます。他に心当たりはありません」
 それが、理事長なりに出した推測であり、答えなのだろう。
「何か違和感を感じた所があったら、教えて欲しいわねぇ」
 紫織の言葉に、理事長は少しだけ思案に耽ける。
「今、暗躍しているのには、必ず理由があると思います」
 そして、一拍置いて。
「嵐の、予感がします」
 それはどういう意味だと瞳を細めるユエルに、理事長は分からないと首を振る。
「そもそもピラミッドやファラオとは何なのでしょうか?」
 沙智の懸念に、理事長は「これも女の勘ですが」と一言添えて。
「忘却期よりも更に数千年遡る、古い時代の能力者文明だと思われます」

 ここからは、自分達で謎を紐解いて行かねばならない――。

●調査1日目〜スフィンクス周辺
「理事長は中間拠点で待機。携帯や無線の中継、連絡をお願いします」
 カフラー王の葬祭殿跡近くの駐車場にバスを止めた理事長に、沙智が流れを伝える。
 毎1時間と何か進展があれば、バスの中の理事長にも連絡が行くことになる。

 ――スフィンクス。
 アラビア語では『畏怖の父』と呼ばれ、ファラオや神を守護する聖獣でもある。
「1つの岩山から作られてるっていうんだから、驚きだよな」
 そんな、世界最大級のスフィンクスを前に、美影の心は弾んでしまっていて。
「理事長の話と共通するようなものは、今の所ありませんね」
 周囲の人々の動きを観察していたレイラは、向日葵から貰った水を口に含む。
 想像以上に乾燥が激しく、日よけ帽子が大いに活躍していた。
「聞き込みだが、河岸神殿の方に移動してもいいか?」
「そうですね、怪しい場所や入口があるかもしれませんし」
 チケット売り場の近くだけあって、とにかく人の気が多い。
 それ以上に、2人を悩ませていたのは、強引なラクダ引きや、ガイド、物売りだ。
(「私達、真実にたどり着けるのかなぁ……」)
 彼等のしつこい勧誘をかわしつつ、レイラは不自然に人が近づかない場所がないか見回した。

●調査2日目〜カウラー王墓近辺
「ピラミッド西側といっても、広いですね」
 ガイドブックや地図と照らし合わせながら、沙智は感覚を研ぎ澄ませる。
 最も美しいと言われているカウラー王墓は、3つのピラミッドの中央に座している。
 観光客はクフ王のピラミッドに集中しているのだろう、人の気は少なく、静かだ……。
「タオルを借りれて良かったよー」
 オペラグラスで不自然な形跡がないか確認していたユエルは、軽く息を吐く。
 調査範囲の認識が互いに曖昧だったのもあり、2人の体力の消耗は著しい。
「西ってことは、メンカウアー王のピラミッドも含むのかな……ん?」
 ふと、観光客ではなさそうな男性に、ユエルの視線が止まる。
 おそらく研究者なのだろう、ユエルは男性に近付いて声を掛けた。
「こんにちは、調べ物ですか?」
 ――自分達は日本の学生で、ピラミッドの調査に来ている。
 そう告げた瞬間、男性の顔色が曇った。
「観光でも研究でもなく調査? まさか盗掘目的ではないだろうな」
 怪しい箇所を発見するところか、逆に怪しまれた2人は、直ぐにその場を離れた。

●調査3日目〜メンカウラー王墓近辺
「そろそろ、昼食時ですね」
 炎天下で疲労を濃くした六説に、片っ端からスケッチしていたオリヴィエが顔を上げる。
 昼食時に集合して作戦会議、1日の調査が終了した後も1度バスに戻り、そこからホテルに帰還するのが日課になっていた。
「そのようね。あっ……誰か来たみたい」
 位置的にも他と離れているせいか、メンカウラー王墓近辺の人の気配は少ない。
 時折、観光客を乗せたバスが通り過ぎていく中、研究者らしき一行が姿を現した。
「何か変わったことはないか、尋ねてみましょうか」
 首筋に落ちた汗をタオルで拭い、オリヴィエは僅かな異常も逃すまいと、感覚を研ぎ澄ませる。
 ……研究者ならば、この近辺の情報にも詳しいかもしれない。
「最近、この絵に似たような方と出会いましたか?」
 六説は似顔絵を使って聞き込みを試みるが、「この辺では見ない」と口を揃えるだけで。
 一息ついて携帯に指を滑らせると、先日と同じ『以上無し』と、メールを送信した。

「最悪、俺達になにかあっても、継続調査の手掛かりにはなるだろ」
 ホテルに戻った一行は、各自の調査レポートを美影のノートPCに纏めていく。
 特に目新しい情報も異変もなく、平穏な3日目の夜が過ぎていく――。

●調査4日目〜クフ王墓近辺
 ――水平線のクフ。
 数千年の時を経ても今尚、人々に驚異と感動を与えている、クフ王のピラミッド。
 間近で見上げる其れは、圧倒的な威圧感を醸し出しており、威厳に満ち溢れている。
「人気の無いとこ神秘あり、っと」
 チケット売り場も近く、人気スポットだけあって、人の気は何処よりも多い。
 が、紫織と向日葵は姉妹を装い、人の気が少ない場所を探して根気よく捜索していく。
「何か怖いことないよね、夜眠れなくなっちゃうよぅ〜」
 ちょっとお喋りな子供風に、向日葵が関係者らしき現地の人に話しかける。
 紫織も細心の注意を払って、特に老人の行方不明者はいないか、怪しい仮面の女は現れてないか、訪ねようとした、その時だった。
「あら、此処で何をやろうってのかしらねぇ?」
 後ろ姿で顔は見えないが、少女なのは間違いない。
 ただ空を見上げているだけだったが、不自然なのは――。
「露出度、高いねー?」
 向日葵も気になったのだろう。
 その刹那。少女が振り向き、互いの視線が交差する。
「…………」
 気まずーい沈黙、向日葵が思い切って。
「何してるのー?」
『え、その……はわっ!』
 情けない声を上げ、一目散に逃げて行く少女――仮面リリス。
 開いた口が塞がらない向日葵。紫織は急いで携帯を取り出そうとする、が。
「……えっ」

 紫織は絶句する。

 西側と南側からも『仮面リリス発見』の一報が、同時に入っていたのだ。

●闇、降臨す
 ――急ぎ、バスに帰還して下さい。
 仮面リリスが一斉に現れたということは、何かの前触れに違いない。
 理事長から一報を受けた一同は、一旦ホテルへ戻るべく、バスに集まっていた。

「西側、尾行はされていないようです」
「全く知らない土地だからこそ、気は抜けないね」
 息を切らせてバスに飛び込んだ沙智は、警戒を解かず周囲を見回す。
 先に合流することを優先したため、会話はしていないとユエルが付け加えた。
「シャーマンズゴーストの仮面をつけたリリスだった?」
「ええ、葬祭殿を出たところで、鉢合わせしたわ」
「内部には目立った形跡はありませんでしたが……」
 紫織と視線が合ったオリヴィエは、同じような感じだったと答える。
 六説曰く、南側も紫織と向日葵が遭遇したと同様、驚いて逃げたそうだ。
「東側には現れませんでしたね」
「でも、人が多いのは、クフ王側も同じだよな?」
 レイラと美影に視線が集まる。
 リリスと遭遇しなかったのは東側、スフィンクス周辺班だけ……。
「もしかして、ピラミッドが共通点ー?」
 向日葵が呟いた、その時だった。

 空に。

 闇が、堕ちたのは。


マスター:御剣鋼 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2012/02/20
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冒険結果:成功!
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