修学旅行2007〜湖畔の花火大会


     



<オープニング>


 銀誓館学園の修学旅行は、毎年6月に行われます。
 今年の修学旅行は、6月20日から23日までの3泊4日。
 この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つのです。

 今年の行き先は、北海道!
 自然豊かな北の大地で、札幌や旭川、富良野や洞爺湖を巡りながら、各地での観光や体験学習などを堪能するスケジュールとなっています。
 さあ、あなたも、修学旅行で楽しい思い出を作りましょう!

 3日目の宿泊地となる洞爺湖温泉では、春から秋までの約半年間、「ロングラン花火大会」と銘打った水上花火大会が行われる。
 夜の8:45分から約20分間、一晩辺りの打上げ総数は400発と小規模ではあるものの、通常の打上げ花火のほかに湖面で扇型に広がる水中花火や華やかなスターマインも見られ、洞爺湖の夜の観光の目玉にもなっているようだ。
 湖に浮かべた船上から打ち上げられる花火はホテルの客室や露天風呂からも楽しむことが出来るが、どうせならもっと間近で見たい! というそこのあなた。そんなあなたは、さらなる迫力を求めて湖畔に足を伸ばしてみるのはいかがだろうか。
 ホテルから湖畔までは、徒歩で約5分。浴衣一枚で、気軽に出掛けられる距離だ。ただし夜は冷えることもあるので、寒がりな人は丹前やカーディガンといった簡単に羽織れる上着を一枚持っておくといいかもしれない。さらに冷え性の彼女や友人のためにこっそり暖かい飲み物を用意しておいたりすると、あなたの好感度もグッと上げる……かも?

「ロングラン花火大会、か……」
 密かに楽しみにしていた修学旅行を間近に控え、熱心に旅のしおりを読み耽る華宵・瑠璃花(高校生魔剣士・bn0080)。ふと、日程表の中に花火大会の文字を見つけて目を留める。
「修学旅行最後の夜ではあるし、友人達との思い出作りにも丁度お誂え向きなイベントと云えそうだ。折角だから、浴衣も自前で用意したりして……い、否っ。別に誰かに見せたいとか、そういう訳じゃないんだからなっ」
 別に誰にツッこまれた訳でもないのに、勝手に言って勝手に一人で照れまくる。
 浴衣姿の自分をぼんやり想像しつつ、瑠璃花は花火をバックに記念写真を撮ったり、湖畔でおもちゃ花火を楽しむのも悪くないと呟いた。

 初夏の澄んだ夜空いっぱいに咲く、七色の花火。
 一人でのんびり。
 友達や仲間とワイワイ。
 そして、大好きなあの人としっとりと……。
 今宵ばかりは無粋なイグニッションも忘れ、一瞬の輝きを残して刹那に散りゆく夜の花をじっくり堪能してみては如何だろうか。

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参加者
NPC:華宵・瑠璃花(高校生魔剣士・bn0080)




<リプレイ>

●思い出の夜の始まり
 夕焼けが淡いグラデーションを描き、濃紺の星空へと色を変えてゆく。
 今宵の宿泊地、洞爺湖を彩る光宴を心ゆくまで楽しもうと決めた秋や自慢の一眼レフカメラ持参の沙羅、同じくカメラ片手に「うふふふっ。花火大会、久しぶりですわ」と張り切る早苗らは、それぞれ湖畔へと繰り出した。

 花火の開始を待つ水辺に、色とりどりの浴衣の花が咲く。
 麓と愛の叶野姉妹は、薄い水色と紺色の揃いの浴衣。袂に使い捨てカメラを忍ばせた伊月も風呂上りの身体に白地に暗緑色の格子模様の浴衣を纏い、のんびり夕涼みを決め込む。
 楽しげに目を輝かせて浴衣美人を物色する桃は、変な事したら蹴るからと先に瑞樹に釘を刺されて苦笑い。
「お前もキレイだよ?」
 瑞樹の目を見つめる桃の言葉に、恐らく嘘は……ない。
「頑張って自分で着てみたんだけど、どうかな?」
 紺地に紫陽花柄の浴衣で現れた縞は、いつも以上に眩しくて。すっかり照れた甲太郎が、ぶっきらぼうな右手を差し出す。
「うん、ありが……っしゅん」
 おずおずと手を握り返そうとした縞が、突然くしゃみをひとつ。
 こうなった仕方ない、苦肉の策だと甲太郎は縞を後ろから抱き締め、俺があっためてあげるからねと囁きかけた。

 橘花が今日の為に用意した浴衣は、紺地にウサギと月と花模様。結社仲間の雄真が場所を確保をしておいてくれたお陰で、湖が視界一杯に広がる絶好の観賞ポイントに腰を落ち着ける事が出来た。
「御菓子と飲み物も用意しておきましたので、お好きなだけ召し上がって下さいませね?」
 切絵風の薔薇柄をあしらった紺地の浴衣姿のフェリスが、橘花の伴って来た華宵・瑠璃花(高校生魔剣士・bn0080)に微笑み掛ける。
「瑠璃花さん、素敵な浴衣ですね。水色もとてもお似合いですよ」
 偶然見かけたクラスメイトに手を振り、弓胡はいそいそと聡一朗の待つ約束の場所へ。
「おーい、弓ちゃ……あれぇ?」
「ふふ、残念でした」
 弓胡と賭けていた彼女の浴衣の柄当てに失敗し、これは予想外の展開と頭を掻く聡一朗。はにかんだ笑みを浮かべつつ、どちらにしても渡すつもりでいた缶しるこを差し出した。

「どうだ、場が潤うだろう?」
 真面目に問うた魔王の浴衣は、どこからどう見ても女物。
「あっ、あの……おかしくない、ですか?」
 俯いてもじもじ恥らう靜も、見た目は十分立派な乙女っ子だ。
「浴衣美人さんなのです。お二人ともよく似合ってます♪」
 手放しで褒め称える紅遠に頷き、すっかり気をよくする魔王。
 彼らの盛り上がりをよそにそっと恋人の唯と手を繋ごうと腕を伸ばした瑠夏が、突然素っ頓狂な声を上げる。
「マ、マオっっっ!?」
 あろうことか魔王の手を握ってしまった瑠夏は脱兎の如く逃げ出し、ごめんなと唯の手を握り直す。そんな彼氏に、唯は「次は間違っちゃいやですよ」と笑い返した。

「花火とは、実に風流だねぇ」
 どこか適当な見物ポイントはないかと歩く綾那が「しかも隣には浴衣姿の美女ときたもんだ」と続ければ、浴衣は初めての零七が「どこかおかしいところは無いでしょうか」と心配そうに問う。
 よく似合ってるよ。
 そっと耳元に落ちた綾那の声は、一瞬にして零七の不安を消し去って。
「鈴木、すごい可愛い……」
 思わず見とれてしまったと照れる氷影の手が、りちこの髪を優しく撫でる。
「ん……」
 珍しくされるがままになっているのは、緊張で固まっているせいか。ぎこちなく氷影に歩み寄り、「浴衣一枚じゃ寒いからよ。誤解しないように」とりちこは彼の肩に寄り添った。
「えと……似合う、でしょうか?」
 藍地に白桜の浴衣姿を恥ずかしげに神威の前で披露した瑞樹にも、自分にとっては瑞樹こそが綺麗な花だと心からの賞賛が贈られる。

 いつもは男子用制服姿のフィーダも、今夜は臙脂の浴衣でシックにおめかし。
「良いなぁ、似合ってるっていうか綺麗じゃないか。な、朱残もそう思うだろ?」
 すっかり感心して頷く次郎に続き、「銀の髪は予想外に映えるものですね……。見事な着こなしです」と誄火にまで言われてますます顔を赤くする。火照る頬が宿す熱は、決して次郎がくれた暖かい飲み物のせいばかりではないだろう。
「浴衣も似合うぜ、小町。いつにもまして綺麗だ♪」
 飛鳥は惜しげもなくそう言って、紺地に白花を散らした浴衣を褒めてくれたけど。
「石井さんこそ、すごく色っぽい……です」
 実のところ、小町は結構複雑で。僅かに落ち込みかけたのを「おぅ、ありがとよ♪」と答えた飛鳥の照れがちな笑みが、ほっこり幸せな気持に戻してくれる。

「みんな、こっちですよー」
 日暮れ前に出掛け、先に場所取りをしていたまりあーじゅが仲間たちを手招く。まりあーじゅは黒い男物の浴衣姿の朔夜を見て「絶対、女物の方が似合うのにー」と残念がるが、当の朔夜はそんな事とは露とも知らずに記念撮影用のカメラの調整に余念がない。
「刹那にて 消える花火と この時と されど消えぬは この思い出……」
 普段の白い着物から紫陽花柄の浴衣に着替え、結社メンバーとの記念撮影を心待ちにする柚子。当然春美も想いは同じであったが、こっそり「でも、一枚くらいは黒にーとのツーショット写真が欲しいよ〜」と呟いてみる。

 どういう訳か、今日はホテルの売店や周辺のコンビニで線香花火が飛ぶ様に売れたそうで。打ち上げを待ち切れない千歳とフランクも、早速買ってきたばかりの花火に点火した。
「どうせお楽しみは後だ。今は、まったりとスリリングに遊ぶぜ!」
 無謀にも10本束ねた千歳の花火から、有り得ない大きさの火花が散る。
「Hey! きっと、俺っちのほーが長いゼー!」
 当然フランクも千歳と張り合い、真剣に先端の火球を睨みつけた。
「タッキー、しっかり足で首挟んでおいて!」
 ウサギ模様の甚平姿の滝と彼を肩車した定義の手には、火のついた花火。
 全速力で湖畔をダッシュする定義は滝を落とさぬよう、滝は振り落とされないように……これぞ、互いの信頼関係が織り成すスリルとアクションの火薬義兄弟遊戯! とはいえ危険な行為には違いなく、この後二人が引率の先生にこっぴどく叱られたのは想像に難くない。
「見るだけじゃなく、こっちでもどーかね? お嬢さん」
 こちらは、あくまでも穏やかに。飄々と線香花火を取り出した社が、いつになく大人っぽい印象の奈月に笑い掛ける。
 アカシアの簪を挿した髪が、また何とも妙に色っぽくて。どうにも抱き締めたくなってうずうずしている社に、先に腕を伸ばしたのは奈月の方であった。
「触れても良い、ですか……?」
 緊張を隠せぬ様子で尋ね、愛しい社をぎゅうと抱き締める。
「人、多いの、苦手。でも、線香花火は、好き。ぱちぱち、綺麗」
 人ごみから離れて湖畔にしゃがみ込んだティアの手にも、小さく儚い橙火の花──。

「お? 割と似合ってるじゃん」
「ちくどーもね。その緑の、何のアニメのキャラクター?」
「アニメじゃねー。竹だ、竹!」
 本気か冗談か分からないロレンスのボケにツッコミを入れつつ、竹童が手に持つのは蛇花火。
 でっかい花火も、ちんまりした線香花火もいいけれど。いっそもっと地味に楽しむのも一興だと、二人はジンギスカンキャラメルを食べながらの蛇花火大会を満喫した。

 それぞれ待ち合わせて湖畔に出た蒼雪の花の面々も、仲良くみんなで花火観賞。
「あ、一人だけずるいよー」
 持ち込んだ線香花火を楽しもうとした謙一郎に、自分もやりたいと弥琴が勝負を挑む。
 真剣勝負のその後ろからぬっと顔を出した嗣天に「お前は背後霊か!」とツッこんだ瞬間、謙一郎の花火の先が落ちたのはお約束……なのかもしれない。
「修学旅行だから仕方ないけど、全員で来たかったね」
 白地に薄蒼の蝶を描いた浴衣の霊菜が、しんみりと呟く。その背に自分の上着を着せ掛け、チャンスならいつでもあるさと疾風は愛しい恋人を励ました。 

「一緒に修学旅行に来れてよかったな」
 赤い椿柄の浴衣を着た音々を線香花火に誘った桃弥が、にっこり笑って髪を撫ぜる。
「んとね……音々は……頭なでなで……されると……嬉しい……よ……」
 自分に向けられたほわんとした笑みは、心のファインダーに。花火に興じる自然な姿は手元のカメラに収めようと、桃弥はこっそりシャッターチャンスを伺った。
 のんびり過ごす桃弥たちから少し離れた場所では、朱皇院三兄弟が線香花火持続勝負の真っ最中。とはいえ実際に勝敗を争っているのは長男の博と三男の律で、次男の託は真っ先に火球を落としてしまった狼とまったりそれを見守った。
「どっちも頑張れー」
 詫の応援を受けての真剣勝負。律は俺はいつでも一番でないと気が済まんと鼻息荒く、一方の博は長男らしい余裕の表情を見せる。
「おっと手が……」
 結果はわざとらしく律の肩を叩いて動揺させた博の勝利に終わり、ふいに光が途絶えて広がった闇と静寂に狼は一抹の寂しさを覚えるのだった。

●光と音の饗宴
「上を見ていてごらん、もうすぐ光の華が咲く」
 湖畔から少し離れた木立の傍で立ち止まった光竜が、薄闇の星空を指さして言う。
「光、華……わたくしたちの名前ですわね」
 肩に添えられた兄の手の温かさを感じ、淡く微笑む天華。人の多さに驚き戸惑いながらも、生まれて初めて見る打ち上げ花火に胸を高鳴らせた。

「た〜まやぁ〜!」
 船上から最初の一発が打ち出されたのと同時に、とりあえず叫ぼうと決めていた嘉己が声を上げる。「打ち上げ花火に負けねェくらい派手に遊ぶぜ!」と意気込む連れの苦瓜とおもちゃ花火を振り回し、嘉己は夏の夜の定番ソングを口ずさんだ。
「たーまやー!」
 威勢のよさなら、瑛二だって負けてない。適当にジュースでも飲みながらのんびりしようとしていた修也や黒地に鮮やかな舞桜模様の浴衣姿がかわいいジウ、ハリセン片手に厳しく男女の不純異性交遊に目を光らせる純をも巻き込んで。
「一人でも多い方が楽しいだろ?」
 無邪気にそう言って騒ぐ瑛二に向けてシャッターを切り、和司は「結構癒されるもんだな」と呟いた。

「わあ、本当に火の……光の花が咲くようですね!」
「お、おおおおおお!!」
 花火の音を聞いただけでうきうきと駆け出したいつかに続き、嵐も興奮気味に感嘆を洩らす。
「二人とも、はぐれないよう気をつけてね」
 ゆるーい雰囲気を漂わせた学がゆったりのんびり注意を促す横で、「花火もいいけど、浴衣もいいよなー」とすっかりおっさんモードの礼。
 非時木下の楽しくも長い夜は、まだまだ始まったばかり。

 湖畔の散歩に出掛けた葛西兄弟は空いていたベンチに腰を下ろし、二人仲良く花火見物と洒落込んで。
「綺麗だなぁ」
 花火の見事さに照夜は目を輝かせたが、じっとしてるとどうにも底冷えがして仕方ない。
「少し寒いね。よかったらココアでも……」
「兄さん、コーヒーでも飲むか?」
 照夜がココアの缶を取り出すより早く、差し出された缶コーヒー。涼太も同じ事を考えていたと知り、照夜の顔も自然に綻ぶ。
「ストールを掛けていてもまだ肌寒いわね……アイリスは平気?」
「はい、大丈夫ですよ。とっても気持ちいいです」
 お揃いのストール、それに何より刹那の膝枕が嬉しいと答えるアイリス。
「花火、綺麗……来てよかったですね♪」
 ずっとこの時間が続けばいいとあどけない笑みを浮かべ、アイリスは刹那の膝に頬を押し当てた。

 早坂キャンパス中学2年E組のクラスメイト、非公認☆学級会の6人は、湖畔に沿って並んだ露店通りを仲良くそぞろ歩き。
「皆、ちゃんといる〜?」
 ちゃんと手を繋いでないと迷子になっちゃいますよと、改めてメンバーの確認をする一郎。
「日本の夏は、これだから最高だな」
 いつもと同じ男物の浴衣を着崩した境は、今日は他の女性陣も浴衣姿なのがちょっぴり嬉しくて。
「それに、皆で一緒に見る花火は一層綺麗に見えるわぁ」
 はんなりとした関西弁で言う灰路に白地に水玉模様の浴衣を着た時計も嬉しげに頷き、方向音痴な委員長、一郎と手を繋ぐ迅は「折角の修学旅行だし、良い思い出を残したいな」と呟いた。
「阿名っちが結社を作ったのも、この旅行のためみたいなもんだからな……っと、難しい話はさて置いて」
 とにかく騒ぐ! はしゃぐ! 楽しむ! といこうぜと元気印の大空は拳を振り上げ、今日の体力は今日使い切るためにあるんだぜ! と息巻いた。

「ほら、花火っすよー! 折角だから写真撮るっすよ☆」
 軽やかな下駄の音。少しでも花火に近づこうと湖畔へ急ぐ朝乃が、浴衣の袖を振って仲間たちを呼ぶ。
「朝乃ちゃん、それに初夏ちゃんも。二人とも今日の浴衣すごく似合ってる。可愛いよ」
 藍と紫の浴衣を選んだ晶は長い髪も綺麗に結い上げ、しっとりとした佇まい。
「夜空の大輪の下、地上の花に囲まれる……か」
 黒一点のファルケンが、満更でもなさそうに言って顎を撫ぜる。
「うわー、凄い近い〜……音も凄いよね!」
 こんな近くで記念撮影だなんて嬉しいとはしゃいでみせながらも、大人っぽい晶を意識しているのだろうか。団扇を胸に抱いた初夏は、カメラの前ではちょっぴり気取ってはい、ポーズ。

「花火の音ってイイよなー。こう、低音がさ……超キック利いてんの」
 明彦が腹に響く爆音を全身で楽しむのを見て、いかにも彼らしいと眼鏡の奥の瞳を細める稜。北海道の涼しさをすっかり気に入った稜はこのまま定住するのも悪くないと真顔で言い、明彦を呆れさせた。
「ウィルくん、それ……なんて踊り?」
 足に止まった蚊を追い払おうとして暴れるウィルソンに、親友の蛍から蚊取りブタの差し入れ。
「へぇ〜。逆立ちかぁー」
 どうせなら逆立ちして花火を見ないかと提案する蛍の発想の面白さに感心し、蛍もまた自分の話を真面目に聞いてくれる友をますます好きになる。
「赤い果肉が麗しひ夕張メロンの食べ放題も無いとは……」
 俺、何しに北海道に来たんだろうとぶーたれるトモの前に差し出されたのは、赤い果肉の……メロン?
「はい、これ。トモくんご希望の『うぉーたー』めろんだよ♪」
「お前なー……それ、前もやったろ」
 茶目っ気たっぷりに笑う通に肩を竦め、トモは半ば自棄気味にスイカに齧りついた。

「わぁ〜綺麗」
「凄いねぇ、綺麗だねぇ」
 Cafe【月ノ宮】とハーブガーデン『EDEN』の仲間と水辺まで移動し、花火を見上げたさなえと光歩がはしゃいだ声を上げる。冷たい湖水に素足を浸して寛ぐ二人から少し離れ、淡い藤色の浴衣を濡らさぬよう足先を水に潜らせた夢美の傍らには、藍染の浴衣を着た将弘。こうして夢美と過ごせる時間が嬉しくて、将弘は夢美ばかり見ている。
「首が痛くなるから、寝ながら見ませんか?」
 海藍に誘われ、言われるままレジャーシートに横たわった銀二の顔が赤い。自分には、恋人としっとり愛を語らうなど無縁だと思っていたけれど。こうして海藍と花火を見上げるのも、正直悪い気はしなかった。
「きゃっ!」
 湖に飛び込んで水しぶきを上げ、光歩を驚かせたのは悪戯っ子の表情をした和樹。「やぁ〜い、ざまみろ」と光歩をからかう和樹は、ついでとばかりに相棒の悠斗にも飛水攻撃を仕掛ける。
「和樹……やっぱりお前か……」
 こめかみをひくつかせ、静かにキレる悠斗。運悪く水しぶきのとばっちりを受けた彩夜も、反撃だ〜と笑いながら両手ですくった水を和樹めがけて振り撒いた。

「菓子とジュース、買ってきたぞ」
 暁の社のメンバー、それに一人でも多い方が楽しいからと太郎が誘った瑠璃花が集う湖畔の一角に、両手に荷物を提げた出雲が戻ってくる。
「俺は缶の緑茶を貰うとしようかな」
 そう言って手を伸ばした千慧に気を効かせ、フタを開けて渡そうとした出雲が缶の中身を一気に噴出させる。
「あの、それって炭酸じゃありませんですか? しかも、さっき先輩が思いきり振ってた……」
 遠慮がちに護のシャツの裾を握った奈月がおずおずと指摘するが、もう遅い。
「俺も花火買って来たから皆でや……わわっ!」
 噴出したジュースは、ロケット花火を抱えた北斗をもろに直撃。ずぶ濡れになって「俺のガトリングがぁ……」と恨めしげな北斗に、護は「どうせ、それで何か無粋な事でもやらかすつもりだったんだろ」と苦笑し、絶佳は穏やかな笑みのまま「危険行為する子はお仕置きよ」と花火の筒でこつんと北斗を小突いた。

「花火の実物を見ながら、ゆっくりデッサンするのは難しいからね」
 だからこそ最高のシャッターチャンスを狙っていたはずなのに、いつしかそれも忘れて天空のショーに見入る雪風。
 同じく夜空を彩る七色の光に心奪われた槐も、愛しい十虎の背で「ん、とてもよく見える……綺麗じゃのぅ」と満足げに頷いた。
 そんな槐の笑顔と、背中に感じる彼女の温もりが嬉しくて。つい相好を崩しがちな十虎を苦々しくも微笑ましく眺めた紫苑は、「後は、槐と十虎君とで楽しんでおいで」と二人を人ごみの向こうに送り出す。

 花火が綺麗なのは当然だけど。
 隣で花火を見上げてる人の横顔はもっと綺麗だと、奈々は深柑を盗み見る。
 一方の深柑は深柑で、奈々の愛らしい浴衣姿にご満悦。「……嫁には、やらないわ」と意味不明な言葉を放ちつつ、奈々とのツーショットをカメラに収めた。
「早く帰ってお会いしたい……」
 楽しい筈の夜も、花火が綺麗であればあるほど寂しくなるのは何故だろう。数日会えないだけで胸が痛くなるほど募る彼の人への想いに、紗夜は自分でも驚きを隠せない。
「儚いですが、綺麗です」
 夜空に咲く光の花は一瞬で終わってしまうけど、だからこそ尚更鮮明に心に焼き付いて。
 いつかまた知り合いの方々と見に来たいと呟く環奈は、なんだか今日は特別よい夢を見られそうな気がした。

●寒い夜も暖かく
 肌寒い北国の夏の夜も、二人でいれば暖かい。
「この花火を未久路さんと見られるなんて、俺は三国一の幸せ者だな」
 未久路の肩に上着を羽織らせ、心からの喜びを口にする月吉。
「え。今、何か……?」
 ともすれば掻き消されてしまいそうな呟きを聞き返され、月吉はあわてて「たーまやー!」と誤魔化した。
「うわぁ、すごくキレイですー」
 空いっぱいに広がる色と音に圧倒されたノアは、ありきたりな感想を口にするのが精一杯。そんな恋人が愛しくて、静の目尻も下がりっぱなしだ。
「綺麗ですね。近いから迫力もあるし」
「……あのね。しゅうがくりょこう、シズカといっしょでノアはとってもうれしいですよ」
 静がいつも纏っている振袖に包まれたノアの初々しい頬に、花火と同じ朱が宿る。
「……上着、持って来なかったんですか?」
 呆れた風に言って上着を脱ぐ白颯にここねは強がるが、白颯は構わずそれを着せ掛ける。更にはぎこちなく感謝の言葉を返そうとするここねの手を握り、「暖かいでしょう?」と意地悪く微笑んで。
 我ながららしくないけど、せめて今日くらいは……。
 不器用で素直じゃない彼と彼女は、互いに同じ事を思って苦笑した。
「花火なんて何年ぶりかしらね」
 子供の頃はよく家の庭で遊んだものだと、幼馴染みの乙夜と司は思い出話で盛り上がる。
「俺、火薬の匂い結構好きでさー」
 だからといってアブない趣味はないぞと司がおどけ、つられて乙夜もくすくす笑った。
「せっかくの機会ですもの。今夜は……ううん、今夜も目一杯楽しみましょう、ね?」

「先輩先輩、綺麗だよっ!」
 器用に人ごみを掻き分けて辺りを跳ね回る伊那穂に合わせ、彼女のポニーテールも元気に弾む。
 それにしても、この異常な人の多さは何なのだろう。まるで彼女自身が花火みたいな伊那穂を見失ってしまいそうで、和樹は内心ハラハラと落ち着かない。
「待てよ……ほら、はぐれるだろ?」
 しっかり掴まえておかないと安心出来ないと腕を引き寄せ、手と手を重ねた。
「手、繋いでもいいかな?」
 初めてのデートを楽しむ素樹と雅。素樹の顔からはいつものおちゃらけた表情が消え、雅への愛しさだけが溢れている。
 返事代わりに手を差しのべた雅の頬にも熱が宿り、それが妙におかしくて。思わず、なんだかガラじゃないねと吹き出した。

 慣れない下駄に足を取られ、沙羅が路上で蹴躓く。咄嗟に手に持ったアイスだけは死守したけれど。
「あたた……あら、どうしよう?」
 鼻緒の切れた下駄を掴み、すっかり途方に暮れて困り顔。縋るように見上げる沙羅を放っておける筈もなく、連華は恋人の身体を抱え上げた。
「結構人の目が気になるな、これ」
 お姫さま抱っこなんて堂々とするもんじゃない。微妙に後悔めいた言葉を口にしつつも、偶にはんな夜もいいかと連華の目は優しい光を宿して。
「下駄とは歩き難いものだな。周泰、手を貸してくれ」
 海と魚柄の浴衣姿の仲謀が、同行の幼平についと腕を差し出す。仲謀が年甲斐もなく甘えてみせる相手は、彼を主と仰ぐ幼平ただ一人。互いの気持ちに敢えて気づかぬフリをしながらも、彼らは何人も間に割って入れぬ固い絆で結ばれていた。
「はい、これで大丈夫ですよ」
 アリアの可憐な浴衣姿に見とれ、転んだ拍子に解けてしまった美歌の髪をアリアが自らのバレッタで器用に纏め直す。お礼だと美歌が差し出した白い柊の簪を髪に挿し、アリアはそれを大事そうに指で触れた。
「もうひとつお礼に……私の曲、聴いて下さいね?」
 今夜はエアさんのために夜想曲を弾きますと、美歌は人ごみの途絶えた静かな場所へアリアをいざなった。

「……その、なんだ。ありがと、な」
 二人で過ごす時間に感謝。自分に付き合ってくれた彼女に……感謝。
 夢中で花火に見入っているつばきの頭に手をやった鈴四郎が、軽く腕に力を込めて引き寄せる。抱擁というには、余りにも幼い愛情表現。だがそれは、つばきにとって何物にも代え難い温もりでもあった。
「誘ってくれてありがとーね、四郎君。……えへ。大好き♪」
 今日ばかりは、素直に感謝のお返し。言葉の最後は、こっそり花火の爆音に紛れ込ませて。
「綺麗なもんだな……なぁ、里緒奈」
 花火を見ながらしみじみと呟いた璃御が、傍らの妹に次は二人でどこかに出掛けようと誘う。
「……いいよ。内緒で行こうか、お姉ちゃん」
 内緒という言葉の響きにドキドキしつつ、二人は声を合わせて笑った。

●笑顔のポートレート
「修学旅行、もうすぐ終わっちゃうね」
 改めて口にすると、なんだか一気に寂しくなる気がして。
 楽しいことは沢山あった。むしろ楽しいことばかりで、かけがえのない思い出が幾つも甦ってくる。そんな柚榎の話を静かに聞き入ってくれる連夜の腕を掴み、柚榎はこの旅最後の思い出を作ろうと二人きりの記念撮影に誘うのだった。

「先輩、僕たちも写真お願いしていいですか?」
 写真部員の腕の見せ所とばかりに花火に向かってシャッターを切る弥生に、朗らかな声が掛けられる。構いませんよと振り向けば、そこにいたのは那緒と翼の姉さん女房カップル。
「那緒さん、そのぉ……」
 最近めっきり成長した那緒との身長差が気になるのか、翼はもじもじと落ち着かない。ならばと彼女の肩と腰に手を添え、ひょいと抱き上げた那緒がニッと笑う。
「お姫様抱っこ……ね、これなら気にならないでしょ?」

 共に初めての打ち上げ花火に見惚れていた瑛璃と蒼來も、撮影を頼めそうな人を探して辺りを見回す。
「うむ。あそこのカップルにでも頼んでみようかのぅ」
 適当に当たりをつけ、蒼來が指差した先には仲良くアイスを頬張る男女。
「え……でも、御邪魔になるのでは?」
 彼らのムードを壊してはしまわないかと瑛璃は心配したが、当の二人連れ、暮陽と禰々子はそんなの全くお構いなしで。
「そもそも、俺たちカップルなんかじゃないしな」
 姐御な禰々子に続き、ホニュワ〜ンとしたウニアイスを舐めていた暮陽もそうそうと頷く。
 ともあれ、互いの写真を取り合うという条件で交渉成立。
 瑛璃がシャッターを押した瞬間、禰々子が盛大なくしゃみをかますというハプニングこそあったものの、思い出の夜を切り取った写真がそれぞれのカメラに残される。

「はい、チーズ……っと!」
 愛想よくカメラを構えた鏡夜の合図で、ぎこちなく口角を上げる大男二人。
「野郎同士で華がないが、その分花火があっから大丈夫だろう」
 からからと闊達に笑う哲綸に、「そういや写真、苦手と言ってませんでしたか?」と穣が柄に似合わぬ子供っぽい目を向ける。
「何にせよ、記念写真ってのはいいもんだよ。俺も、せいぜいいい風景写真を残せるよう頑張るさ」
 哲綸たちの仲のよさを羨ましく思いながら、鏡夜はひらひらと手を振ってその場を離れた。

「一人で静かにのんびりというのも、悪くはありませんけどね」
 どうせなら誰かと思い出を作りたいと周囲を伺う柳夜。偶然目に飛び込んで来たのは、あろうことか小学生の蹴一が高校生の絢帆をナンパしている現場であった。
「俺、綺麗なお姉さんが好きなんだ」
 しかもお姉さん超好み、と大人顔負けなのアプローチの蹴一を、絢帆は「ふふっ。単なるナンパはご遠慮いたしますわ」とあっさり受け流す。
 このままでは蹴一も立つ瀬がないと相棒の今日介がさりげなく助け舟を出し、なんとか三人一緒に記念撮影の約束を取り付けるのだった。

「華の宵……先輩のご先祖さんって、こんな夜に苗字考えたのかな」
 少し話がしたいと瑠璃花を水辺に連れ出したナイアーラトテップが、ふとそんな事を言う。
「ロマンチスト、なんだな」
 意外だとでも言いたげな瑠璃花に、シシシッと特徴ある笑いで照れ隠し。
「あ、華宵さん! 写真一緒に撮りたいんだけど……良い?」
 生徒たちのカメラマン役を快く引き受け、撮影に大忙しの緋照が瑠璃花を見つけて駆け寄る。
「別に私は構わないが……」
 瑠璃花の了承を得た後、どうせなら一人でも多い方がいいと緋照はシガレットチョコを咥えてぼんやり佇む巽や景色の撮影に夢中な凛も誘い、呼び集めた。
「あのー……僕も華宵さんの隣、良いですか?」
 さらにそこへ、瑠璃花に声を掛けるタイミングを計りかねていた紅乃も加わって。
「せーのっ、『いーっ!』」
 ナイアーラトテップの掛け声に合わせ、背景の花火にも負けないとびきりの笑顔が花開く。

「ちーっす、先輩」
「あのね、ボクたちも瑠璃花さんと一緒に写真どうかなーと思って」
 続けてツーショットを何枚か頼まれた後、今度は黒い男物の浴衣を着た夜恐と、朝顔模様の白い浴衣姿の焔璃の間でにっこりポーズ。二人と瑠璃花はすぐに打ち解け、夜恐は焔璃と瑠璃花に写真の焼増しを約束した。
「初めまして……お嬢さん、一緒にどうじゃね?」
 次に瑠璃花の前に現れた蘇芳は、挨拶代わりにと熱いお茶を手渡す。そのまま他愛のない会話を楽しみ、蘇芳は堅苦しい言葉遣いとは裏腹に意外と人懐っこい彼女の性格を知った。
「……あれ、あそこにいるのは瑠璃花ちゃんじゃないか?」
 妹のようなかわいい瞳亜と手を繋ぎ、彼女の歩調に合わせて歩いていた羅偉が、おやと声に出して立ち止まる。折角だから瑠璃花に写真を撮ってもらおうと提案した羅偉に、「瞳亜も撮ってもらいたいですわ」と瞳亜があどけなく微笑む。お返しに瑠璃花の写真も取ってあげようと決め、二人は瑠璃花の元へ足を速めた。

 同じ学校の生徒、ましてや能力者同士ともなれば互いに打ち解けるのにそうは掛からない。単独参加の皓と亜希も、思いがけない出会いに盛り上がる。
「思い切って声を掛けてみてよかった……」
 そうでなければ、こんなに楽しい時間を過ごせなかったかもしれないと笑う亜希。
「明日で修学旅行も終わり、か」
 皓が寂しげにそう呟いたのに続いて「なんだか、あっという間だったな」とふたつの声が重なり、二人は思わず顔を見合わせた。
 
●消えない花
 湖面に広がる水中花火に、華やかなスターマイン。花火大会も終盤に差し掛かり、最高潮の盛り上がりを見せる。
「ゆずっ、しほっ、次のでけぇぞっっ」
 片手に棒アイス、もう一方の手には熾火の柔らかな手。連続して発せられる光の花に魅了された竜樹が、興奮気味に両手を振り回す。
「私、またお出掛け出来て嬉しく思いますのよ」
 竜樹と柚木の間で二人の両手を握り締め、ほんのりと頬を染める熾火。
「……来てよかったな」
 微かな竜樹の独白に、湖水に映り込んだ灯火と夜空の明かりが照らす大切な人たちの横顔を見つめていた柚木もまた、「そうだな」と声にしない声で淡く微笑み返した。
「あ、ほら涼子さん。あれがスターマインですよ」
 こんな時間がずっと続けばいいのにと陣が呟いたのは、一緒にいるのが涼子だからだろうか。
 せっかくだからあれをバックに写真を撮ろうと誘う陣に、さすがの涼子もちょっぴり緊張。どちらからともなく手を繋ぎ合い、二人はセルフタイマーのシャッターが切れる瞬間を待った。
 涼子は、最後にこう言うのも忘れない。
「星崎先輩、大好き! これからもよろしくね」

 突然、背後から抱き締めてきた銀の両腕。
 こうしないと花火のせいで聞えないと言い訳してから、銀は蓮晶の耳元へと唇を寄せる。
「好きだ」
 蓮晶の瞳が大きく見開かれ、明らかな狼狽が白い顔を覆う。いつか告白されたら……そのときは、イエスと答える覚悟は出来ていた筈なのに。
 深呼吸ひとつ。
 今こそあの花火に負けぬ私の花を咲かせるときなのだと、蓮晶はうっとりするほど美しい笑みを浮かべた。

 今回の花火大会に参加したラボOTの面子は、なんと総勢11人!
 文字通りの大所帯でわいわいがやがや花火を見物した後、何かまだ物足りないという誠の提案で、瑠璃花も誘っての線香花火大会へと雪崩れ込む。
「はじめましての方も多いから、これを期に仲良しさんになれればいいな」
 水バケツを用意して甲斐甲斐しく準備を手伝う空色が、偶然目が合った瑠璃花にひらひらと手を振る。
「火花には、気をつけて下さいねー?」
 年長者の伊織が蛍や瑠姫に優しく注意を促し、興弥も笑顔で皆を見守って。
「フィズちゃんー……花火、やろ?」
 仲の良い蒼衣の誘いを受け、フィズは「こういう小さな花火も可愛くていいよねー♪」と目を輝かせた。
 花火は楽しいけど、そろそろ眠くなっちゃいそうだよと欠伸を洩らした千鶴に続き、蛍も寝ぼけまなこで瞼をごしごし。
「みんな、楽しい思い出と共にゆっくり休めばいいさ」
「そうだね。せめて今日くらいはね」
 次々とおねむの時間を迎えたちびっこたちを斗哉や興弥が手分けして背負い、やれやれと半ば苦笑気味の暁徒も加わる。

「終わっちゃった……ね」
 最後の花火が消えるのを惜しむように、ぽつりと呟く焔。
 右手に感じられる藤弥の温もり。その温もりをもっと沢山、もっと近くに感じたくて。
「ほむ……ら?」
 ぴたりと身体を寄せてきた焔の瞳が潤んでいる。それ以上は何も言わず頷き、藤弥は焔の顎に手を添えた。
「貴方と一緒に居ると、時間が経つのが早くて困ってしまうわ」
 このまま、時間が止まってしまえばいいのに。
 名残惜しげに線香花火を始めた三葉が、純愛を誓い合った榛那だけに本音を洩らす。
「今度は、二人で来ような」
 榛那の誘いに頷き、三葉は幸せ一杯の胸を押さえた。
「さて、帰りましょうか。みゃーちゃん?」
 まいらびゅわんこな武蔵に肩車され、満足げな亜子が武蔵を促す。
「はい、御主人様」
 従順な笑みで武蔵が答えたのと同時に亜子の視界が反転し、気づいたときには彼女の腕の中。
「やっ、姫抱っことかナシだって……恥、じゃなくて! 生意気よ、わんこのクセに!」
「みゃー! えぐえぐ。ふぇぇ〜ん……」
 ドSなツンデレご主人様の愛の鞭を受け、武蔵は堪らず嬉しい悲鳴を上げる。
「小夜ちー、楽しかった?」
「はい♪ 今日はエスコートして下さり、ありかとうございました〜」
 楽しかった気持ちを大好きな英二に伝えたいのに、言葉だけじゃなんだか足りない。物を渡すのも味気ないしと悩んだ末、爪先立ちになった小夜が英二の頬に軽く唇を触れさせる。

「とっても綺麗だったのです〜♪ また一緒に見たいの」
 十分に花火を堪能した様子の怜那が、愛らしく微笑んで言う。
「ええ、きっと連れて来ますよ♪ 約束です」
 穏やかに頷いた朱羽もまた、中性的な美貌に笑みを浮かべて。そんな朱羽に、ちょこんと背伸びした怜那から有難うと感謝の囁き。
「こちらこそ、これからもよろしくね……怜那」
 彼女をさん付けしないと決めた朱羽と怜那との距離が、今までより少しだけ近づく。
「夏になったら、また一緒に見に来ようね?」
 花火の余韻を楽しみながら、ルファーレインが告げた約束。けれども籠姫は、それにはうんと答えない。
「夏はまだ始まったばかりなんだから、もっと今を楽しみましょ♪」
 星空にも負けない笑顔の籠姫に手を引かれ、今年の夏は特別楽しい夏になるかもしれないとルファーレインは胸をときめかせた。

「レディちゃん、寝ちゃったね」
「はしゃいだり途中花火が途切れるとがっかりしたりで、忙しかったからね。きっと疲れたんだよ」
 柔らかな芝の上。自分の肩に寄りかかってすやすやと寝息を立てるレディに、傍らの陽と顔を見合わせた朔之助が仕方ないなぁと笑う。
「いろいろあったけど、三人で来られてよかった」
 しみじみと呟いた後、陽は自分に向けられたありがとうの言葉を聞いた気がして、少し照れたように朔之助を見返した。

 二人、肩を並べて歩くホテルまでの道すがら。
 何度もちらちらと隣を盗み見ている直矢は「御守、楽しんでくれたかな」と気になって仕方ない。
「今日は、その……ありがと」
 ふいに、俯いたままの御守から発せられた声。
「あ、あたしねっ。四堂さんの事、好き……かも」
「……ぇ?」
 驚いて反射的に伸ばした直矢の手をすり抜け、羞恥に頬を染めた御守は堪らず駆け出した。 
「ぇとね、その……」
 歩幅を合わせ、遠慮がちに手を重ね合う心とジングルの間にも、戸惑うような恥らうような甘酸っぱい空気が流れる。
「今日は私の我儘に付き合ってくれて、本当に……ありがとう」
「そんな……お礼をしなくてはならないのは、オレの方です」
 落ち込みやすい自分を、いつも親身になって気遣ってくれる優しい心。
「心さん、ありがとう」
 こんなときでもないとまともには言えないだろう感謝の言葉に想いを込め、ジングルは握ったその手にも力を込めた。

「会場、ゴミとか、いっぱい……」
 手にした箒と自らの詠唱兵器の面影を重ねつつ、会場の後片付けに勤しむ永。無責任にゴミを放置するのは修学旅行生の恥だと、ゴミ袋を手にした零も永を手伝う。
「ナガラたちのホウキ……明日からはまた、戦いの中で、チカラ、振るわなくっちゃ、いけないんですよね……」
 こんな風に、戦いのない場所で使えたらいいのに。
 いつもは表情に乏しい顔に憂いを浮かべ、永はどこまでも広がる星の海を見上げた。


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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:201人
作成日:2007/06/22
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
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