富士山麓、妖鳥の災い:飛来する策謀


<オープニング>


「良く来てくれたわ。実はね、京都の書道使い達が感じ取ったそうなの。不滅の災いが復活する予兆を」
 不滅の災いの下僕である『妖鳥』達は、富士山頂から東へ向かって飛び立とうとしているとの事。
「書道使いに伝わる文献によると、不滅の災いが復活するにはタイミングが早すぎるらしいんだけど……とにかく『妖鳥』が動き出したからには、わたし達もぼーっとしてられないわ」
 彼女達は5〜10体程度の編隊で、小富士から宝永山の間を抜け、国道138号線に出るルートを取っている。
 目的は不明だが、人里に入る前に叩くしかないだろう。

「あなた達に担当してもらう編隊は、全部で6体。あなた達にはそこそこ開けた山道で迎撃してもらう事になるわ。ちなみに、その場所までの移動や一般人の対応は、京都の書道使い達がやってくれるから心配いらないわね」
 能力者達は戦いにのみ集中する事が出来そうだ。
「楽勝ベイベーですねぇ」
 相変わらず、謎の自信に満ちている志筑・涼子(残念な子とは呼ばせない・bn0055)。
「それが、前回の戦いを経て、妖鳥たちは戦闘力をアップしているわ。それに、現代の知識もある程度学んだみたいね」
「なんと……」
 彼女らは羽をはばたかせる事で突風を起こしたり、羽を手裏剣の様に飛ばして広範囲に攻撃する技もある。近距離から遠距離まで死角らしい死角はないと言って良いだろう。
「決して楽な相手ではないけれど、妖鳥たちが人里に達したら被害は小さくないでしょうね。何としても、迎撃して頂戴!」
 彼女らの意図が見えないのは不気味だが、取り急ぎ能力者達は戦地へと赴くのだった。

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参加者
穂乃村・翠(常磐の符術士・b01094)
立風・翔(吹き溜まり・b02208)
桐生・カタナ(修羅龍眼・b04195)
三島・月吉(仮面のヴァンパイア・b05892)
月島・眞子(トゥルームーン・b11471)
川満・紅実(空に知られぬ雪・b16707)
陽桜祇・柚流(華焔公・b21357)
エル・フランシェード(ペーシェンス・b41979)
霞谷・氷一(隔離されるべき論外裏商人・b55422)

NPC:志筑・涼子(残念な子とは呼ばせない・bn0055)




<リプレイ>

●山道を征く
「妖鳥達は何か目的としているのでしょうか……」
 そう呟きながら歩む川満・紅実(空に知られぬ雪・b16707)。
 普段からやや伏し目がちな彼女ではあるが、先ほどから視線が低めに向いたままなのは、長時間山道を歩き続けている事も無関係ではないだろう。
 能力者一行は、不滅の災いの下僕である「妖鳥」の奇妙な動きを察知し、これに対応すべく富士山麓へ向かっているのだ。
「ふむ……今回の妖鳥は知恵者、と言った所か、相手にとって不足は無いがメガリスの件といい最近は色々慌しいモンだぜ」
 そうぼやく桐生・カタナ(修羅龍眼・b04195)だが、余り嫌そうな素振りは見せていない。
 幼い頃から武術に触れて育ってきた彼は、そうした戦いの日々を楽しむ秘訣のような物を既に心得ているのだろう。
「うん。復活のサイクルが早まってるのが気になるね……」
 戦いと共に生きてきたと言う意味では、月島・眞子(トゥルームーン・b11471)もそうした生粋の戦士。
 その一方で、今回の戦いから有益な情報を得ることが出来れば――と大局的視点を兼ね備える。
「何だか、何かを探して焦ってるようにも思えるよ……」
 その隣を歩んでいた陽桜祇・柚流(華焔公・b21357)も、数回頷いてそう応える。
 スローライフを体現するような、ゆったりさが信条の彼(!)だが、今回は局面が局面という事もあって、その表情も口調も心なしか引き締まって感じられる。
「でも、現代の知識を学ぶ妖鳥の姿を想像して妙に和みました」
「萌えとかツンデレについてもちゃんと学習してあるんですかねぇ?」
「それは……でも何で妖鳥は全て雌なンだろうな……」
 と、こちらは余り緊張感がない霞谷・氷一(隔離されるべき論外裏商人・b55422)と志筑・涼子(残念な子とは呼ばせない・bn0055)。エル・フランシェード(ペーシェンス・b41979)も相変わらずニヤニヤ笑いを浮かべつつ、そんな疑問を口にする。
 しかし敢えて軽口を飛ばす事で、戦いに向けての緊張感をほぐしていると言う側面もあるのかも知れない。
「話が通じる相手なら少しは穏やかにいきたい所だったんだが、お互いそんな余裕は無さそうか」
 うーむと唸る立風・翔(吹き溜まり・b02208)。争い事や危険な事を避けられるなら、それに越したことは無いのだから。
 今回の敵はある程度の知性があり、現代語を解するのだから、意思の疎通は可能かも知れない。
 ただ、穏便に交渉のセッティングをするだけの時間的余裕がない。接敵してから交渉を試みるのは、大きな博打と言えるだろう。
「狙いが解らないのは不気味ですけど、どっちにしても人里への侵入は、絶対阻止、ですっ!」
 穂乃村・翠(常磐の符術士・b01094)が強く誓う通り、能力者達の最大の目的は、一般人に被害を出させないことに他ならないのだから。
 普段はおっとりしている彼女も、人命が懸かる場面とあって、心なしかその表情を引き締めている様に感じられる。
「あぁ、敵の目論見を砕くって最高に楽しいよなァ!」
 一方、三島・月吉(仮面のヴァンパイア・b05892)は極めてシンプル。立ちふさがる敵は粉砕するだけだ。そしてそう割り切れる強さもある。
 そうこうするうち、能力者達は指定されたポイントへと到着。確かに視界も足下も開けており、戦うには好都合そうだ。
 面々はそれぞれの思惑を胸に、妖鳥の到来を待ち受けるのだった。

●開戦やむなし
 ――バサッバサッ。
 それから程なくして、いくつかの羽音が彼方から聞こえてきた。それがゴーストの物である事は、眞子の死人嗅ぎによって裏付けられてもいる。
 姿を現す6羽の妖鳥達。
「悪いな、ここから先は通行止めだ。用件が聞けるなら聞くぜ?」
「! 銀誓館……またも邪魔をするつもりか!」
 立ちふさがる能力者達に気づいて、妖鳥達も身構える。
「まぁまぁそうしゃちほこ張らずに、私たちにお前達の目的を教えやがれですぅ」
「断る!」
 当然と言えば当然だが、簡単に目的を教えるつもりはなさそうだ。
「慌ててどうしましたか〜? 急がずにお話でもいかがです〜?」
 高速演算プログラムを発動しつつ、間合いを詰める氷一。
「戦う気満々でお話などと、笑わせる! 邪魔はさせぬぞ!」
 妖鳥たちも一斉に臨戦態勢を取る。やはり戦闘解決は避けられそうにない。
「さて……始めるとするか」
「是非もなしですぅ」
 カタナも一層強い殺気を纏い、涼子もファイティングポーズを取る。
「何を企んでるにしても、看過出来る事じゃないね。行くよ!」
「どうか動かないで下さいね」
 柚流の手から、ブラックヒストリーの原稿用紙が乱舞する。と、これに呼応した紅実もすかさず妖力を解放。妖狐守護の七星を召喚する。
 ――パッ!!
「くっ!?」
 紙吹雪と星の光は妖鳥の出足を抑えるが、それもつかの間。妖鳥たちも一気に間合いへと飛び込んでくる。
「消えろ!」
 ――シャッ!
 数羽の妖鳥たちが羽を大きく広げ、それを羽ばたかせる。
「うわっ!」「ぐっ……!」
 先ほどのお返しとばかりに、鋭利な羽手裏剣が能力者達を飲み込む。
「な、なんちゅー威力ですかぁ……」
 パワーアップしたと言うだけあって、その火力は侮りがたい。継続的に食らい続ければ致命傷にもなりかねない威力だ。
「こちらも……一体ずつ、集中で行きましょう」
「解った」
 符に呪の力を籠め、これを放つ翠。翔はその呪殺符に合わせてジェットウィンドを放つ。
「慌ててる理由なんて知りませんけど、そっち行かれると困るのですいませんねっ!」
 そして二振りの電光剣を振り上げた氷一が、舞うような剣裁きで一気に間合いを詰める。
 ――ババッ!
「きゃあっ!」
 立体的なコンビネーションアタックにより、少なからずダメージを受ける妖鳥。だが、体力的にはまだまだ余裕がありそうだ。
「展開する前に動きを封じちゃおう!」
「乗ったぜ」
 眞子が放ったのは、炎を宿した弾丸の雨。そしてエルの足下からは赤い影が走る。
 妖鳥の羽手裏剣を貫き燃やし、引きちぎりながら本体へと襲い懸かる紅の光と影。
「ギャアァッ!」
 悲鳴というより鳴き声を上げ、炎と猛毒に包まれる妖鳥。
「イィィィヤッハアァッ!!」
 果敢に妖鳥たちの側面を突く月吉。
 ――ガガガッ!
 高速回転しながらの体当たりに、たまらずよろめく妖鳥。
「……悪ィな、往生しろよ?」
 カタナの鬼面、天龍八部衆阿修羅が妖鳥の羽の根元へと齧り付く。
「おのれ……銀誓館め!」
「はっはっは! 数、質共に勝る我々にかなうと思ったですかぁ」
 悔しげに歯をかみしめる妖鳥たちと、特に貢献している感じもなく偉そうに高笑いする涼子。
「復活に必要なものを調達するつもりでしょ? 儀式でもやる気?」
「東へ向うか……行き先は鎌倉か?」
「許さん! お前達、あれをやるぞ!」
 眞子や月吉が探りを入れるが、一度戦闘モードに入ってしまった妖鳥達とコミュニケーションを図ることはどうやら不可能の様だ。
 元々さほど知能が高くない妖鳥たちは、戦う事しか考えられなくなっている。その証拠に、能力者達を放置して元々の目的を遂行しに行こうと言う意志は微塵も見られない。
 それでも、戦いにおける身の置き所は彼女達の根底にあると見えて、整然かつ速やかにフォーメーションを形成する。
「くらえ! 私たちの必殺技を!」
 一斉に小刻みな羽ばたきを開始する妖鳥。
「な、何をする気ですぅ」
 小規模なつむじ風が無数に発生し、彼女達の足下へと集結し始める。

●山麓に吹く風
「刃旋風!」
 ――ゴォォォォッ!!!
 集結した複数のつむじ風は、やがて巨大な辻風となって能力者達へ襲い懸かる。
「この程度の風……っ……!」「いや……これは、ただの風じゃない!」
 渦巻く風の中に無数の羽手裏剣が舞っており、容赦なく能力者達の身体を切り刻む。
 翠はすぐに慈愛の舞で仲間達の傷を癒やしに懸かるが、完治にはほど遠い。
「話を聞かない奴ですね〜。いたた……」
 ラジカルフォーミュラを発動しつつ、腕に刺さった羽を引き抜く氷一。
「大丈夫か皆」
 ヘブンズパッションを奏でるエル。大きなダメージに、皆回復に回らざるを得ない。
「どうした銀誓館、まだ終わりではないぞ!」
 再び陣形を構成し、羽ばたき始める妖鳥達。
「こっちもやられてばっかりじゃないよ!」
 ――バッ!
 ブラックヒストリーで応戦する柚流。
「動きを止めます、その間に1体ずつ……!」
 紅実もこれに続き、幻楼七星光を放つ。
 とにかく相手を減らさない事には活路が開けず、ジリ貧状態になってしまう。多少の危険は承知の上で、打って出るしかないのだ。
「情報収集どころではないな……まぁどうせ聞き出せそうには無いなら、割り切れるか」
「ここを通す訳にはいかないんだよね!」
 翔のジェットウインドと共に、月白風清を振り下ろす眞子。
 ――ザンッ!
 ロケット噴射により大きな推進力を得た長剣は、圧倒的な威力を帯びて妖鳥の羽根を切断する。
「まず一つ!」
「おのれぇぇぇっ!!」
 ――バッ!!
 再び、刃旋風を放つ妖鳥達。しかし1体が石化し、1体が翔と眞子に葬られたのだから、先ほどよりは明らかに弱化したものだ。
「効かぬ! 効かぬのだトリぃ!」
「ボロボロじゃねーかよ……大人しく回復しとけ」
「……」
 レベルで劣る涼子以外は、何とか攻撃継続可能なレベル。能力者達は翠の舞いに癒やされつつ、攻撃を続ける。
「こっちは任せな砕!」
「グウゥッ!?」
 月吉のローリングバッシュが直撃し、表情を歪める妖鳥。
 たまらず羽ばたいて間合いを開こうとする。
 ――パンッ!
 そこに追撃を掛けたのはカタナ。式刀を分離させた物を足場にして高く跳躍する。
「無刃流―――焔落としッ!!」
 ――ザンッ!!
「ギャアアァァッ!」
 紅蓮の炎に包まれた刃は、手負いの妖鳥を真っ二つに切り捨てた。
「君達には、ここで散ってもらうよ……!」
 時空を歪める膨大な魔力が、柚流の手から放たれた。
 ――バシィィッ!
 蒼の魔弾は、必死に回避運動を取る妖鳥を捉え、激しくスパークさせる。
「逃がしませんから……!」
 その大きなダメージから立ち直るより早く、紅実の指先が妖鳥の眉間を突く。
「グアァァァーッ!」
 魔氷に覆われた妖鳥の身体は、そのまま粉々に砕け散る。
「楽勝ベイベーとはいかんが……勝たせて貰う!」
 翔のジェットウインドが羽手裏剣を吹き飛ばし、上昇気流の中に妖鳥を封じ込める。
「みなさま、もう一息です……!」
 翠の呪殺符は、正確に妖鳥を補足していた。符に篭められた呪の力が、妖鳥を一層追い詰める。
「ちゃんと詳しく教えてくれれば通してあげなくも……無駄ですか」
 戦いの帰趨が決した今、情報を得たいのは山々だが、もはや妖鳥の口からは怒りの咆吼以外聞かれない。氷一は詠唱停止プログラムを電光剣に纏わせると、そのまま妖鳥へたたきつける。
「ウォォァァァァ!!」
 次々に倒れる仲間を目の当たりにしても、逃げる事無く突進してくる妖鳥。
「いくよ!」
 真っ向から迎え撃つ眞子。側方からは月吉のローリングバッシュ。そしてエルのカラミティハンドがこれをサポートする。
 当然ながら、妖鳥にこれを耐える術は残されていなかった。

「結局情報らしい情報は無しか……」
「仕方ないですぅ」
「何にしても任務は達成したんだ。次の展開があるかも知れないし、さっさと帰るとしようか」

 かくして任務を完遂した能力者達は、足早に富士山麓を後にするのだった。


マスター:小茄 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:9人
作成日:2012/03/02
得票数:カッコいい12 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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