<リプレイ>
● 夜半。能力者達一行は、横浜港に複数存在する埠頭の一つへ到着していた。 この埠頭に存在する倉庫に、地縛霊とリリスが棲み着いているとの報せを受け、これを退治する為だ。 「えっと、こっちが海だから……この辺りだと思うんですけど」 紫堂・小夜(小学生真水練忍者・b26122)は予報士から渡されたメモ帳と、倉庫に記された番号を見比べてきょろきょろ。 小柄であどけない彼女だが、忍びの里で幼い頃から厳しい修行を積んでおり、能力者としての腕前は一級品だ。 (「ひゃっほーい♪ 美人婦警さんにタイトスカートのもっこりリリスちゃん。もう辛抱たまらーん!」) 皆が目的の倉庫を探す中、やけに鼻息が荒い男子は的場・遼(ゾンビハンター・b24389)。 欲望に素直なタイプというか、要するに女好きである。 確かに今回の相手は、どちらも美形の女性型ゴーストではあるが…… 「パフュームリリス、噂には聞いていましたが、ついに私にもお鉢が回ってきましたね。被害が出るのを防ぐためにも、ここで討滅してしまいましょう」 今回の敵、パフュームリリスとは初めて対するルシア・バークリー(リトルウィッシュ・b28515)。 パフュームリリスは、狡賢いリリスが抗体兵器を手にしてパワーアップした厄介な敵。 「平凡な女の子」と言う自称が謙遜に過ぎる、凄腕能力者のルシアをもってしても、決して油断は出来ない。 しかもそのリリスは、悪に反応すると言う女刑事の地縛霊を支配下におき、能力者達を待ち受けているのだから。 「悪と正義は表裏一体なれど、命を悪戯に奪い、弄ぶ諸行の正義など俺は認める訳には行かない……」 悪に対して正義という言葉を用いるならば、玖堂・統夜(黒の確約者・b05760)は人一倍正義感の強い人間である。 自分が信じた正義の道を邁進する彼にとって、地縛霊の標榜する正義を認める余地は微塵も無い。 「正義の概念は人それぞれ、正義の名の下に起きた殺戮等の愚行は数知れず。正義などと言う曖昧な信念に屈する道理はない……リリスなどに与する存在ならば尚更な」 絶対の正義は存在しないと考える浅葱・悠(星黎の紡ぎ手・b01115)だが、絶対の悪が存在するとすれば、ゴーストはそれに最も近い存在かも知れない。 「どちらにしても、僕たちの仕事をこなす事です」 善悪の判断は別として、能力者達がすべき事はもう決まっているのだ。小笠原・宏道(野球侍・b08417)の言葉に、皆頷く。 「Fの17……どうやら……ここみたいですね」 やがて一行は、くだんの倉庫前へとたどり着く。 「……みんな、準備はいい?」 突入に際して、湖面の様に静かな表情と挙動で問いかけるのは、緋室・朱莉(静かなる緋・b15509)。 とある組織にエージェントとして教育された彼女にとっては、こういった修羅場さえ日常の営みでしかないのかも知れない。 彼女は鍵開けの名手でもあったが、今回はその技を使うまでもなさそうだ。 リリス達からすれば、自分達のエサとなり得る人間の来訪は、いつでも歓迎と言った所なのだろう。 「よし、突っ込むぜ」 ――バァン! 熱いパッションと音楽が原動力。悪とは無縁とも言える、霧島・芽衣(銀誓のバンド娘・b28397)が景気良く言い放つ。 彼女の足がドアを蹴り開けると同時に、8人は倉庫内へとなだれ込んだ。
● 芽衣が突入から間を置かずに蛍光灯のスイッチを入れる。 庫内はいつからそこに置かれているのか、埃の積もった大小のコンテナであったり、木箱などが山積している。 統夜がハンドシグナルで示すのに従って、一行は散りすぎず固まりすぎず、警戒態勢を取りつつゆっくりと庫内を進む。 リリスは能力者達の接近をある程度察知する事が出来る為、既に万全の態勢で手ぐすね引いて待ち構えていると考えて間違いないだろう。 ――がたんっ。 唐突な物音。見れば、高く詰まれたコンテナの上に人影が一つ。 「シャアァァァッ!」 ――キィン!! 飛びかかってくるリビングデッドの一撃を、悠が受け止める。 「手段はどうあれ勝てば正義か? 戦をよく解っているな」 「気をつけて!」 皆に注意を促しながら、ルシアはリフレクトコアを展開する。 「反対側にも居るよ!」 二体、三体と次々に襲いかかって来るリビングデッド。 振り回された腕をヒラリとかわした小夜は、そのまま霧影分身を発生させる。 「男のゾンビなんて要らないぜ」 獣爪を振るって、リビングデッドの顔面を斬りつける遼。 「……! 其れは囮です。本命は……!」 ――ガガガガッ!! 常に背後を警戒していた宏道が警告するが早いか、無数の弾丸が能力者達を襲う。 「ちっ、結構良い反応するんだなぁ……それに勘も良い」 振り向けば、銃口から上がる煙をふっと吹きつつ不敵な笑みを浮かべる、ロングヘアの女。 「悪党め……正義の鉄槌を下してやるぞ」 そして隣には、やはり拳銃を構えるショートヘアの女。 「現れたな、卑劣なリリスめ。覚悟を――」「お嬢さん、パンツ見せてください♪」 「あ?」 これから戦う敵に対して掛けられる言葉としては、余りに意外性が大きすぎたのだろう。思わず呆気にとられるリリス。 しかしその台詞を臆面も無く言い放った遼はと言えば、地面にしゃがみ込んだり這いつくばったりしながら、ローアングルでリリスのタイトスカートの中を覗き込もうとしている。 「……そんなに見たいのか? しょうがねぇなぁ、だったこっちに来なよ」 人差し指をクイクイと動かして、遼をおびき寄せようとするリリスだったが―― 「この不埒な変質者め、死を持って償え!」 ――ガァン! 悪に反応したらしい地縛霊は、容赦なく引き金を引く。 「その程度の罪で死の罰が必要か? 私は暗殺者、今まで多くの存在を消してきた……貴様も我が闇に葬ってやろう」 「薄汚い悪人どもめ……!」 更なる挑発を意図して、悠が放った言葉。これにも地縛霊はかなりの反応を示す。 「これは挨拶の代わりです」 ――ヒュッ! 地縛霊が二人に気を取られている間、ルシアは金色に輝く光槍をリリスに投げつける。 「っと……?! 危ねぇ……おい相棒、そいつらに気を取られてる場合じゃ……ゾンビども、さっさと抑えろ!」 リリスがやや浮き足だって指示を出す間にも、朱莉、統夜は旋剣の構えを取りつつリリスとの間合いを詰める。 「アタシの歌を聴けーっ!」 エネルギーの弦を弾き、クライシスビートを響かせる芽衣。たちまちにリビングデッド達の動きが止まる。 「行きます……!」 宏道の飛ばすオトリ弾が、リリスの頬を掠める。 「変な物飛ばすなっ! アタシを狙うつもりか……面白いじゃないか」 能力者達の意図を悟るが、浮き足立つ事なく不敵な笑みを浮かべるリリス。
● 「ほーら、どうだい? アタシの香りはさ」 庫内に充満する甘い香り。 リリスが動く度に鼻を突くそれは、能力者達の戦闘行動を大いに妨げる。 能力者達は他者に対する回復アビリティを活性化しなかった為、リリスの傷を癒やしてしまうと言う事はないが、それでも厄介この上ない。 「このっ!」 ――バッ! 芳香を振り払った小夜は、コンテナを蹴って跳躍。リリス目掛けて霧影爆水掌を繰り出す。 「グオォォォッ!!」 だが、それを受けたのはリビングデッド。 彼らはリリスの盾として、しつこく能力者達の前に立ちふさがる。 「連携していくぜ。アタシのリズムに合わせな!」 「解りました」 芽衣の放つダークハンドが疾走するのに合わせ、ルシアは光の槍を投げつける。 「ちっ、何の……この程度!」 リリスは身のこなしも軽やかに、中々遠距離攻撃の直撃を受けない。 「邪魔だ!」 長剣を振るい、立ちふさがるリビングデッドを斬り捨てる統夜。 「……剣に宿れ、命を喰らう煉獄の黒き炎」 朱莉もまた、黒炎宿す宝剣でリビングデッドを一刀両断する。 やはり接近戦と遠距離攻撃の連携でなくては、リリスを倒しきる事は至難だろう。
「悪は許さん!」 「己が信念と命を剣に賭す……貴様の正義と我が信念、互いの得物にて語ろうか」 ――ガキィン! 一方こちらでは、悠の長剣と地縛霊の警棒が激しくぶつかり合って火花を散らす。 これに呼応して、地縛霊の背後を取る遼。 「貰った!」 ――むにゅ。 「パイ揉みアターック!」 「なっ……何をする! この極悪人が! 死ね!」 ――ゴシュッ。 警棒を顔面にたたき込まれる遼。 ちなみにこれも、あくまで地縛霊のヘイトを自分に向けさせる為の行動であって、他意は無い……よね?
「これでトドメだよ!」 「ウォォオォン……」 一体、また一体と崩れ落ちてゆくリビングデッド。やがてリリスを直接攻撃する射線も経路も拓かれた。 「やるじゃないか……でもそいつらは所詮捨て駒。まだまだ楽しませて貰うよ!」 しかし、自信満々のリリスが放つパフュームがまたも能力者達を襲う。 「くっ、また……」 一同は、攻撃の届く距離に居るリリスに対し中々攻撃を掛けられないもどかしさに焦れる。 「あははっ、どうしたんだい? せっかく自分からやってきてくれたんだ、アタシはとことん付き合うよ」 ――ガァン! ガァン! リリスの拳銃が火を噴き、無数の弾丸が能力者達を襲う。 パフュームの効果を逃れたとしても、傷ついた自らの身体を癒やさねばならず、能力者達の攻撃機会は極めて限定的な物となっていた。 「ふっ……悪の栄えた例しなし。これまでだな」 弾丸を装填し終えた地縛霊は、踊るように回転しつつ銃を乱射する。 「ぐっ……」「うわあっ!!」 よろめき、膝を突く能力者達。 回復も無尽蔵ではなく、苛烈なゴーストの攻撃の前には焼け石に水と言えた。
● 「このままじゃジリ貧だ……賭けてみるか」 表情を引き締め、皆へ問いかける遼。 「一か八か……やってみる価値はありますね」 頷く宏道。 「ふふっ、アタシ達に刃向かうなんて無謀だったね。ボクちゃん達? このパフュームで終わらせて上げるよ」 勝利を確信したリリスは、心なしかこれまで以上に多量かつ濃厚と思えるパフュームを散布。庫内を妖しい芳香で覆い尽くさんばかり。 「可愛い女に子たちの前で、カッコ悪い真似が出来るかー! もっこりパワー、全開ッ!」 謎の煩悩パワーによって、パフュームを無効化する遼。 「イグニスさん……あなたの炎で不浄な匂いを燃やし尽くして下さい」 「俺にとっての大切な存在、それは後にも先にも唯一人のみ。凪乃が俺の帰りを待っている」 「この世界に身を投じ続けるのは、皆の幸せを守る為。そして、日常へ戻った彼女が何の憂いもなく日々を過ごせるように剣を振るうと自らに誓ったのです」 ルシア、統夜、そして宏道は恋人を想い、リリスの誘惑をはね除ける。 「こんな私にも、心配してくれる親友がいる……凪乃さんを、心配させるわけにはいかないの!」 「アタシはミュージシャン。ファン達がアタシの帰りを待ってるんだ、音楽家はお客を魅了するもの……アタシが魅了されてたまるかよ!」 朱莉は掛け替えのない親友を、芽衣は自らの情熱を注ぐ音楽と、それを支えるファンを想う。 「な、何?! なんで効かない!」 「今だよ!」 「援護します!」 完全に意表を突かれたリリスに対し、小夜は霧影爆水掌を見舞う。すかさずこれに呼応し、光の槍を撃ち込むルシア。 「馬鹿なっ……そんな事でアタシのパフュームを……!」 「俺の全力を持って、貴様らの存在全てを否定してやる」 気合一閃、リリスに立ち直る隙さえ与えずにインパクトを見舞う統夜。 「ぐっ……ごほっ!」 「……命を削れ、闇の刃ッ!」 「服は邪魔だーッ!」 朱莉のダークハンド、遼の牙道砲が連続してリリスを直撃する。 「ぎゃあぁぁぁっ!!」 床に倒れ伏すリリス。 タイトスカートとスーツは千切れ飛び、全身を蛇に覆われた本来の姿になっていた。 「う……ま、待ちな。本当のことを言うよ、アタシもあの地縛霊に強いられてこんな事してるだけなんだよ。あんな悪霊と組みたくて組んでるわけな――」 ――ドスッ。 悠の星黎剣「白鷺」がリリスの心臓を貫く。 「悪は……倒す……!」 残るは拳銃を構える地縛霊のみ。 「その魂、天へ解き放ちましょう」 「喜んで、君に合わせちゃうぜ♪」 ルシアの光槍に合わせ、牙道砲を放つ遼。 「正義に縛られし存在、貴様を縛る数多の鎖を断ち終焉をくれてやる」 正面から斬りかかる悠に呼応し、コンテナを駆け上がった統夜は地縛霊の背後を突く。 「くっ……がはっ……悪などに屈しはしない……」 地縛霊は波状攻撃によろめくが、すぐに立ち上がると再び拳銃の引き金を引く。 「戦闘も音楽も、リズムが大切だってことを教えてやるよ!」 弾丸をかわした芽衣は、すかさず反撃に転じる。 「……どこを、見ているの?」 「止めです……!」 「正義が……負けるはずは――ッ!!!」 朱莉、宏道が駄目押しとも言える連続攻撃を仕掛けるに至って、地縛霊もついにはその凶悪な思念を散らしたのだった。
「アタシがとっておきのレクイエムを演奏してやるとするか。迷わずあの世に旅立ちなよ!」 静寂を取り戻した庫内に、芽衣の鎮魂歌が響く。 能力者たちは苦戦の末に、ゴーストたちを一掃する事に成功していた。 「この世界を守るのは生きている者たちが行うこと。あなたが関わること自体が罪なの……」 朱莉もまた、己の正義に準じた地縛霊に哀悼の意を表する。 「ところでお嬢さんたち、俺とデートしない?」 「とにかく、ここには平穏が戻ってきました。帰るとしましょう」 「……あら?」 一行は遼の言葉を聞き流し、凱旋の途につくのだった。
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参加者:8人
作成日:2012/02/29
得票数:楽しい2
カッコいい11
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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