≪霧椿庭≫そは死の行軍


<オープニング>


 霧椿庭のいつもの、のどかな午後の風景。
 庭を眺めながら、なにやら皆が顔をつきあわせて話しをしていた。何事かとひょいと後ろから蒔田・敬介(花に嵐の喩えもあるさ・b36724)がのぞき込むと、その中心にいた 桂・雪(ノットロンリー・b75753)の手元に一冊のファイルがあった。
 肩越しに振り返りながら、雪が手にあるファイルをちらりと敬介に見せる。
「プールの戦績だよ」
 何だ、と敬介は目を離す。
 あまり喧々囂々と作戦について話し合わない霧椿庭において、プールの作戦や戦績についてそんなに深刻に話し合うのは希であるかもしれない。
 現に、どちらかというと和気藹々と楽しんでやる方が、彼らにとっては大事な事であった。
「それで、また何でプールの話になったんだよ。勝ちに行こうって事?」
「勝ちたいのはいつだって同じだろう?」
 雪はそう応えながら、そっとファイルの後ろに持っていたレポートを出した。それは、いつかのあの……戦いの記録。
「プールでの戦績は、可もなく不可もなくといった所ですね」
 戦績表を見ながら、玉名・斎姫(神籠もる国の巫女・b07161)は静かに言った。プールにおいての勝利は、実践でのそれとは少し赴きが違うと皆は言う。
 それはゴースト相手である事や、ルールなど様々な要因が絡んでのことである。
 ただ、それでももっと強くなる事が出来れば……戦いの仲で何か得られるものがあればと斎姫は常に感じている。
「焦る事はありませんよ、プールで勝てなくってもそれだけで実践でのわたし達を否定されている訳じゃありませんから」
 アカネ・テト(風と羅針盤・b74635)は斎姫にそう、微笑みかけた。
 実はアカネや雪がこの話になったのは、以前の事件によるものだった。突然、闘神の独鈷杵の力によって呼び出され、貪狼によって屈辱の敗北を強いられたあの日の。
 もし、もう一度戦う事があれば。
 そう言いかけて、アカネは首を振った。
 今のままでは、彼女にはとうてい勝てはしない。
「みんなお茶でも飲んで一息つくですよっ! 烏龍茶緑茶、えっと紅茶はダージリンで……」
 大きなトレイ一杯にグラスを乗せ、足取りやや危なげに四紀・更紗(番犬命の真狐・b74691)が歩いて来た。笑顔を浮かべた更紗の声を聞いて、皆が手を伸ばし……。
 かけた。

 気がつくと腰掛けていた椅子もテーブルも消え去り、体勢を崩したクロリス・フーベルタ(こーもりネコ・b49141)が更紗を巻き込んで転がった。
 熱い紅茶を浴びる事はなかったが、更紗の周囲はドリンクで水浸しである。手を退けながら、更紗が床を見つめる。
 そしてぐるりと視線をめぐらせた。
 そこは石畳が敷き詰められた、巨大なグラウンドのような所であった。周囲を囲んだ壁の向こうには青々とした森林が広がっている。
「これは……」
 ハッとクロリスは事態に気付き、立ち上がる。
 ここは妖狐の修練場、つまりクロリス達は再びメガリスに召還されたのであった。
 しかしそこに居るのが貪狼ではない事が分かり、少しだけ安心したように更紗が息をつく。
 負けたくない。
 戦うのが怖い。
 でも、戦わない事ももっと怖い。
「大丈夫、あたし達はもっと強くなってるよ」
 自分に向けて言ったような、更紗の一言。それは皆の心に、仲間の存在という安心感をもたらしたのであった。
「そうだね、あの時の雪辱戦が来たんだ」
 クロリスは更紗に言葉を返した。
『ようこそ、戦士諸君!』
 すると突如、どこからともなく声が聞こえ来てきた。
 闘神の独鈷杵が所有者を探す為の戦いである事、最も勝利した組織にもたらされるであろう事。現状もっとも勝利から遠いのは、銀誓館であろう。
 ここで一勝でもしなければ、後に続く仲間が更に不利な状況に追い込まれててしまう。
 対戦相手は八名、そのうち一人は鈎爪のようなものがついた具足を付けている。長身で均整の取れた体つきをしており、恐らく近接戦闘を得意としている。
 もう一人は九尾扇を手にしている事からも、妖狐である事は間違いないようだ。ざっと見た所五人が妖狐、一人は風水盤を持った除霊建築士、残る二人が拳士といった組み合わせだ。
「七星将が居ないなら、勝機はある」
 双海・護(宵蜘蛛爪話・b06523)は思わずそう、呟いていた。
 すると、扇を揺らしながらふと妖狐の一人が笑った。何がおかしいと護が問うても、笑うばかりである。
 傍に居た具足を付けた拳士が、やれやれと肩をすくめた。
「運がない奴らだな」
「言いたい事ははっきり言えよ」
 護が急かすと妖狐がちらりと仲間を振り返り、ようやく口を開いた。
「さて、最初から我ら五人が総力を挙げてアヤカシを撃ち続けると……貴様らはどれくらい保つのかと思ってな。あまり面白い手ではないが」
 五人がアヤカシを使うという事は、八人に攻撃しつつ毎ターン五人がかりで仲間を回復しつづけるという事である。
 一人二人ならどうという事はないが、五人となると非常にめんどくさく手強い方法となる。
 既に勝ったつもりで非常にムカつくが、さすがにこれには護も『やってみろよ』とは言う訳にいかない。
「ラスボスがエリクサー使うような作戦はやめようよ」
「そうだな、確かにそれではつまらなかろう」
 妖狐が続いて、そう言った。
 こちらの回復がアヤカシに依存する以上、アヤカシ抜きに戦い事は出来まい。
「手を抜くというのか?」
 彩木・千束(暁闇の藍・b59747)が声を低くし、問う。手を抜かれて戦うのは、負けるよりも辛い事であった。
 確かに千束も貪狼と戦い、その恐怖は感じ取った。
 だが……。
「あまりつまらぬ戦いをすると怒られそうなのでな、しばらくは加減してやっても良い。もっとも、私達にすら勝てぬようなら七星将にはなおさら勝てまいよ。我が名は王明、お相手致す」
「俺は雲山、こっちを一人二人は倒して楽しませてくれよ」
 具足を付けた拳士は、にやりと楽しそうに笑って名乗った。

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参加者
双海・護(宵蜘蛛爪話・b06523)
玉名・斎姫(神籠もる国の巫女・b07161)
蒔田・敬介(花に嵐の喩えもあるさ・b36724)
クロリス・フーベルタ(こーもりネコ・b49141)
彩木・千束(暁闇の藍・b59747)
アカネ・テト(風と羅針盤・b74635)
四紀・更紗(番犬命の真狐・b74691)
桂・雪(ノットロンリー・b75753)



<リプレイ>

 吸血鬼達との戦いに比べて、妖狐との戦いはどこか命のやり取りという程の緊迫感が感じられない。何故か、妖狐を前にして蒔田・敬介(花に嵐の喩えもあるさ・b36724)はそう感じていた。
 戦闘能力を磨きより強くなる……その為には手段を選ばぬ所もあろうが、吸血鬼ほどの恐ろしさが感じられない。
 だからこそ、この戦いは負けられないのである。
「ちょっといいかな?」
 まずはじめに、敬介が提案を持ちかけた。
 それは、お互い陣形を整えてから戦闘を開始するというものであった。これは体力の低い後衛陣を守る為にどうしても必要な事であり、これが聞き入れられない場合、彩木・千束(暁闇の藍・b59747)やクロリス・フーベルタ(こーもりネコ・b49141)といった使役を連れた仲間がアヤカシであっという間に削られ、退場となってしまう可能性がある。
 玉名・斎姫(神籠もる国の巫女・b07161)はそれについて、扇形に展開する事を提案した。
「以前の独鈷杵戦で使った手です」
 扇の外側に前衛を配置し、後衛は中に入る。お互いの距離はなるべく開けるようにして、中心には舞を行う斎姫が陣取る。
 ともかくこちらが距離を開ければ、相手が一度にアヤカシで全員叩くような事は出来ないだろうとの考えもあった。
「なるほど、扇形に展開か」
 少し考えると、王明は頂点である斎姫を範囲に収めるように陣に接近しつつ、前衛後衛とバラして妖狐たちを配置した。
 その前衛に拳士二名及び妖狐数名を配置し、後ろに王明や建築士が立つ。
 銀誓館側は前衛と後衛の差が20m以上離れている訳ではない為、外陣に迫る配置をされるとアヤカシの範囲に入ってしまうのは仕方のない事である。
 幸い離れた所にいるクロリスや千束は、全ての妖狐から攻撃を受ける程には無い。これが吉と出るか、凶と出るか……。

 そして戦闘開始の合図が鳴る。

 まず、拳士二人を落とす。
 相手戦力が様子見をする序盤の攻撃は、拳士二人を落とす事に専念するというものであった。中央に位置した斎姫が周囲の動きを見ながら、白虎に破魔矢を放つ。
 敵陣に切り込むように突っ込んだ白虎の前方にアカネが立ちふさがると、横合いから戦旗に力を注いだ桂・雪(ノットロンリー・b75753)が迫った。
 ブラックボックスを握ったアカネ・テト(風と羅針盤・b74635)の詠唱停止プログラムを跳ね返し、白虎が剣ごとアカネに飛びかかる。深々と貫いた剣が、アカネの足下を血で濡らしていく。
 石化は阻止したが、それでも一撃があまりに重く威力を削ぎ切れていない。だがアカネは冷静に飛び退くと再び攻撃のタイミングを伺った。
「大丈夫。……越えなければ」
 壁を、越えなければ。
 アカネは自分に言い聞かせ、白虎を雪と挟み込んだ。白虎の攻撃はアカネと似たものである為、相性が悪いのは分かっている。
 後方からの斎姫、クロリス達の集中攻撃が白虎を襲う中、ゆっくりと王明が腕を上げる。九尾扇が払われると周囲に砂礫が舞い上がり、狐の影が現れた。
「来ます」
 斎姫が叫ぶ。
 だが、他の妖狐達はアヤカシを呼ぶ気配はない。様子見をするといったのは、どうやら本当らしい。その代わり前衛に立ったアカネの周囲は幻楼火で覆われ、動きを封じられていく。
 さらに建築士の放った不浄の気による体の汚染。残る妖狐による尾の攻撃はかわしたものの、アカネは敬介の符を受けてなお動く力は戻っては来なかった。
「大丈夫、慌てない慌てない」
 敬介の言葉に、アカネがほっと息をつく。そう、慌てず回復を待てばいい……仲間がその間、支えてくれるのだから。
 アカネはそう信じて、意識を集中させる。
 妖狐側によるアカネの集中攻撃と、そして銀誓館側による白虎の攻撃。四紀・更紗(番犬命の真狐・b74691)の九尾が白虎を串刺しにするのを見ると、最後に雪が動いた。
「こいつはどうだ……!」
 非物質化した雪の戦旗が、白虎をなぎ払う。
 治癒を禁ずる戦旗の力が白虎に襲いかかり、そして……捕らえた。治癒を許さぬ雪の力が捕らえているからには、これ以上の抵抗は出来まい。
「あと一人」
 雪は目を細めてその様子を見、ちらりと雲山の方へ顔を向けた。一人で阻止している双海・護(宵蜘蛛爪話・b06523)は雲山の強烈な突きを受け、息を荒くしている。
 朱雀の力と思われる彼の技は銀誓館でもまだ確認中であるが、おそらく他の拳士系と同じく力、技とバランスの取れた構成であると思われる。
 追撃……。
 雪は彼の技を見て、嫌な予感を感じていた。

 アヤカシを連発しない今、とにかく白虎と雲山を落とす。
 千束はすうっと息を吸い込むと、氷雪を舞上げた。
「それではこちらも、楽しんでもらわなければね。……彩木千束、参る!」
 氷雪が吹雪となり、周囲を白く煙らせていく。
 氷の力は、またたくまに白虎を包み込み力を奪っていった。比較的この手の攻撃に耐えやすい妖狐達はともかく、白虎と雲山はそうではあるまい。
「……まだか」
 白虎は攻撃のタイミングを待つように、呟く。
 後方に居たクロリスは、千束と合わせてロッドから雷を放った。モーラットの真珠にアカネを治癒するように声を上げ、ありったけ意識を集中して雷を撃ち続けるクロリス。
 やがてクロリスと千束の攻撃に、ついに白虎が退場した。
「……まだ、終わらないよ!」
 ほっと息をつき、さらに千束は意識を高める。
 絶対に、雪辱を果たす。
 千束はあの時の屈辱を胸に、氷雪を起こし続けた。
 しかし妖狐達も次々回復の為にアヤカシを使い始める。様子見といえど、回復がアヤカシしかない妖狐……癒す為には攻撃するしかなかった。
「雲山、引きつけていろ。攻撃はこちらでする」
「りょーかい」
 雲山は軽く王明に応えると、護に蹴りを浴びせた。力技で攻める雲山の蹴りを受け止めるのは、決して難しい事ではない。
 護は少しずつ受け流しながら、じりじりと距離を開けていく。少しでも、妖狐のアヤカシの範囲から逃れるように。
「……どうした、来ないのか」
 護の挑発を聞き、ちらりと雲山は振り返る。そのままきびすを返し、こちらに向かっていた雪に真正面から挑みかかった。
 やはり味方の回復範囲は心得ていると見える。
「くそ、その手は食わないか!」
「……てめぇらがやる事はこっちだってやるに決まってんだろ」
 にやりと雲山は護を嘲笑すると、雪に拳を突きつけた。鋭い一撃が雪に襲いかかる。
 楽しげな笑みが、そこにあった。
「俺は目印、だ」
「目印だと?」
「近接しか使えない奴は、俺の側に群がるしか出来ないからな。……必然的に、キツネの罠に入る事になる」
 雲山の言葉の意味を、斎姫は分かっていた。
 ここにいるからこそ、見えている。
 すべての攻撃が、前衛に集中しているのだ。お互い後方には手が届かず、だからこそ前衛を双方が集中して叩く事になる。
 しかし妖狐は、前衛がいまや一人。
 対してこちらは……。
「今倒さなければ…陣が崩れてしまいます! アカネさん、お願い動いて!」
 斎姫の符がアカネに届くと、アカネはすうっと顔をあげた。手をぎゅっと握りしめ、こくりとうなずく。体から力が戻っていた。
 届いた、斎姫の声が!
「聞こえました!」
 アカネは弾かれたように走り出し、プログラムを起動した。
 あのヒトを、何としてもアヤカシが降る前に倒す。
「クロリスさん、紅、更紗さん!!」
 仲間も傷ついている……今は攻撃出る仲間だけで、とアカネは声を掛けた。応と答えなくとも、クロリスが雷を放つ。
 更紗の尾を躱すと、雲山が雪につかみかかった。
「てめぇは巻き添えだ!」
「全員、炎で包め!」
 王明の声により、雲山と周囲にいたアカネ、雪、そして治癒の為にいた真珠が幻楼火に焼かれていった。
 届かぬ、動かぬ、雪の手。
 アカネは今度こそとデモンストランダムをねじ込んだ。力を奪われた雲山に、更にクロリスの雷が直撃する。
「頼む……から……っ倒れて!」
 雷が雲山の中ではじける。
 ぐらりと体が傾ぎ、雲山が体制を崩す。だが、彼の体はまだ消えてはいない。クロリスは即座に、次の攻撃準備に移った。
「駄目だ、削りきれてない!」
「……くっ、まだ武器は使えないはずだ」
 動けぬ雪が答え、雲山の動きを目で追いかける。

 ここで、ようやく王明が大きく息をついた。
「そろそろ、使わせてもらおうか」
 王明が呟くと、周囲を囲んでいた妖狐達がぴたりと動きを止めた。五人にゆらりと尾を生やし、周囲に小石が巻き上げられていく。
 ざわざわと風が鳴り、粉塵が空気を煙らせていった。
「言ったはずだ、アヤカシを使われればお前達に勝ちはないと」
 群がる狐の幻影と、それに混じった建築士の不浄の気。
 追い詰めていた雲山の傷がみるみるうちに塞がっていき、それと同時に狐の牙に晒された護や雪、アカネといった前衛が力を奪われていく。
「やらせねぇ!」
 護が雲山の背後から、『爪』をぎらりと光らせて襲いかかった。業炎を纏った爪が、雲山の背後に食らいつく。
 後衛はアヤカシを五人全員から受ける事がないよう、極力離して配置した。
 それを信じての攻撃だったはずである。雲山は護の攻撃を喰らったはずだが、護には目もくれずに動けぬ雪に拳を叩きつけた。
 狐が引き裂く体に雲山の鋭い突きによる追撃は、雪の体力を越えている。
「くそ……っ」
 意識が薄れると同時に、雪は闘技場から消え去った。
 更にアヤカシは舞い続け、なおも雲山と死闘を続ける護とアカネを襲う。舞に手を取られた斎姫を除けば、この時点で治癒に回れるのは敬介と真珠しか居ない。
「俺が護を支える、他は……自分で何とか耐えてくれ!」
 そう言うしか無く、敬介は唇を噛んだ。一投一投に全精力を込めた敬介の符は、確実に護の傷を癒していく。
 しかしそれでも、こちらに接するように組んだ妖狐の布陣は、前衛においては集中攻撃に等しい。
 削られた仲間を追い落とすのは、雲山の役目である。自分の具足の動力炉が再び動き出したのに気づき、ほっと肩をなで下した。
「さあて、それじゃあ一丁見せようかね」
 雲山が深呼吸をしながら手をあげると、それに合わせて光の翼が広がっていった。巨大な翼は大きく羽ばたくと、離れた所にいた紅を一撃。
 その大きな動きは隙が多いが、雲山は使いこなして紅を消し去る。一方王明の尾は、更紗を狙っていた。
「……そうは……いかないっ」
 かろうじて王明からの致命傷は避けたものの、更紗は次のアヤカシの猛攻に耐えられるだけ力は残っていなかった。
 せめて、せめて……せめて一太刀浴びせないと。
 雲山は、炎を纏わせた具足で護に蹴りを浴びせる。護はアヤカシの猛攻と雲山の攻めに耐えながら、敬介の支援だけでここに立っていた。
 それが、長くは続かない事は分かって居る。
 なぜなら、護自身で傷を癒す事が出来ない以上……敬介がいなければ倒れるしかないのだ。
「喰らってみろ……土蜘蛛の炎は極熱だぜ! 貴様とどちらが熱いか、なァ!」
 炎と炎のぶつかり合いは、これが最後と心得ながら。護は熱い炎をぶち込むと、雲山を殴り飛ばした。
 あとは、仲間に。
「任せた、んだよ……」
 止まったままの武器で拳を叩き込んだ雲山、それが産んだ更なるダメージが繰り返し護の体を嬲る。
 やがて、護の意識も闘技場から消し飛んだ。
 ふわり、と風が吹いて護を攫う。それはまるで幻のように、彼を元のところへと戻していった。だが戦いは今だ続いている。
 任された更紗が、妖狐の守護星を光臨させた。
 傷だらけの体で更紗が、懸命に声を張り上げたる。
「落ちて来たれ七つ星、我ら妖狐が守り星! ……まだ終わってないんだから!」
 護が漬けた傷、与えた力は決して無駄にはしない。星霜の輝きが雲山にも降り注ぎ、その体を石化していった。
 だが更紗もまた、アヤカシの攻撃に墜ちる事となる。

 ついに雲山を落としたが、既に護、雪、更紗、そして紅も消えていた。アヤカシの猛攻受けて、治癒の尽きた真珠が消えるとついに前衛はアカネだけとなる。
 そして彼女自身治癒の力が枯渇すると、敬介の治癒と斎姫だけが頼みの綱となったのである。蹂躙するアヤカシを前にして、二人で支えるのは至難であった。
 やがてアカネが姿を消すと、前衛は誰もいなくなった。
 そこで王明は手をとめ、ゆっくりと斎姫たちを見据えた。
「何故雲山や小虎……白虎から攻撃を始めた。彼らは一対一を得意とする戦法、それだけターゲットも少なく済み後方も支援に専念出来ただろう。布陣を我らに許したからには、アヤカシを使う我らを減らさねば元の木阿弥ではないか」
 ため息をつき、王明が九尾扇で顔を覆った。
 しかし、と彼は言葉を続ける。
「多彩な攻撃と、仲間との連携による集中攻撃はさすがと言うべきか」
「……まだ終わってない!」
 千束が声をあげると、王明はふと笑った。
「終わってない、と。だが君は既に力尽きている」
 ギクリと千束が息を飲む。
 前衛の消えた戦場は、真ん中だけぽっかりと不自然に空間が空いていた。本来は仲間が支えるはずの場所である。
「リベンジ…のはずだったんだけどねぇ」
 敬介の声が聞こえ、千束ははっと意識を戻した。
 また、敗北という文字を背負うのか?
 このまま何もせず、嬲られて終わるのか?
 答えは否だ。
「最後まで死力を尽くすのが俺達だ!」
 千束は残された力で、結晶輪を放った。
 後ろで舞続ける斎姫の声と動きが、千束達に力を取り戻させる。最後尾から雷を放つクロリスも、ついに力が尽きてロッドによる攻撃に切り替えた。
 ただ、ひたすら迎撃する。
 妖狐の半数が移動を始めても、クロリスは千束と敬介、斎姫とともに攻撃を続けた。
「……」
 ちらりと敬介の視線が千束と合う。
 彼に食らいついたアヤカシの影に千束が消え、次に見た時には彼の姿は消えていた。『頼んだ』と千束の声が聞こえた気がした。
「最後まで立って居たいんだがね」
 敬介は薄く笑うと、攻撃に転じた。
 スケッチで描いた妖狐に襲わせつつ、ちらりとクロリスを振り返る。
「……分かってる」
 残念ながら、あのアヤカシの猛攻を突破するだけの力が残ってはいないのだ。敬介の視線で意をくみ取ると、クロリスはじっと目をこらした。
 その時、斎姫が舞を止めると榊を振った。サラリと音を立てた榊から破魔矢が繰り出し、妖狐の一人を貫く。
 斎姫の動きを見越していたような敬介のスケッチから妖狐が生まれ、幻影の妖狐が切り裂く。
「私達の意地と絆。ご覧に入れましょう」
 この言葉を勝利とともに口に出来れば良かった。しかし斎姫は凜とした顔で、そう妖狐達に言った。
 最後まで諦めずに戦う事が、意地と絆であるのだから。蹂躙する妖狐達の中、クロリスは精神を研ぎ澄ます。
 そこから放たれたロッドの一撃が、妖狐の体勢を崩した。
 ……ごめんなさい。
 そう言いかけて、クロリスは首を振った。

 −また、強くなるから−


マスター:立川司郎 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2012/04/20
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