【白と黒】焔獄奔逸

<オープニング>


『ええい、てこずらせるな!』
 苛立ったようにそう言い放ち、原初は朱・コウガ(陰陽姫・b82664)ぴたりと指差した。耐え切れるほどの体力を残していない彼女を見て取り、ロサ・サントス(砂茨・b31403)は鋭く相棒の名を呼ぶ。
「エスパーダ!」
 咄嗟に飛び出したエスパーダがその一撃を受け止める。
 がくりと膝を折りそうになりながらも、堪え、真っ直ぐに立つ。その背を見詰めながら、コウガは月煌絶零の光を放った。
 淡く美しい月光に原初はその身を凍てつかせ、駆け巡る魔氷に苦悶の表情を浮かべる。
 次々放たれる妖鳥の焔と共に、秋矢・基(真福座跡・b59852)と雨辻・慧夜(紅夜路・b54839)が駆けてゆく。
 眼前に迫る原初は、真っ向から撃ち込まれるその拳に俄かに顔を引き攣らせた。
 爆ぜ水の如き衝撃が原初の身体を駆け抜ける。続け様に放たれた黒衣の刃にどっと身を打ち貫かれ、原初はごぼりと血を吐き零した。
『何ということだ、この私が敗れるなど! おのれ……おのれ、許さんぞ!』
 幾度も、幾度も、男は怨み呻く。
 其の姿が掻き消えた途端、能力者たちは両の肩で大きく息を吐いた。
 その背後、白と黒が頭部の翼をばさりと羽ばたき彼らの背を押す。
 二体の妖鳥が沈んだものの、クロハ、ハナシロを含む四体の妖鳥は今尚健在だ。
『やれ登れ銀誓館』
『それ急げ銀誓館』
「一息吐く間もありませんね」
『我らは時が惜しい』
『我らが主の危機なれば』
 苦笑を零すルシア・バークリー(リトルウィッシュ・b28515)の後ろで、くるり回る白と黒。
『やれ参るぞ銀誓館、我らが主の元へ』
『それ往くぞ銀誓館、我らが主の元へ』
 急かすその声に応えるように、春日・吏月(雪桜・b32755)は頷いた。
「えぇ……止めなくては」
 今、此の時。
 災いを齎すのは、間違いなく彼ら――原初の吸血鬼たち。
 書道使いにとって不滅の災いは旧敵。
 だが情勢は変わるものだと、船見・窓日(空書使い・b81840)は思う。
 奪わせぬ為、未来の為。
 今自分たちが不滅の災いの為に動くことは、決して間違いなどではない筈だ。
 彼女は妖鳥たちに向けていた視線をふと上げ、登山道へと移した。
 一行は妖鳥たちに背を押される侭に、不滅の災いの居る山頂火口へと向かう。


「あの吸血鬼が言っていた通りか……」
 火口に身を置く不滅の災いの元、未だ無事な妖鳥たちが集っている。
 彼らは常に不滅の災いから離れず、近づくブリュンヒルデ勢力の者を集中して打ち倒していた。
 やはり攻めに打って出ることは出来ず、じりじりと火口から引きずり出されているようにも見える。
 このまま戦闘が続けば、その先に見えるのは敗北の二文字。
 それは今、最も恐れるべき事態。
 不滅の災いがブリュンヒルデの支配を受けることとなってしまう。
「でも、どうすればいいのでしょうか〜」
 不滅の災い勢力とブリュンヒルデ勢力、目の前で繰り広げられる一進一退の攻防を見詰めていた新田・しのぶ(すりーぴんぐふぉっくす・b74149)が小さく零した。
 その、次の瞬間だ。
 戦場に、ざわりと異質な空気が流れ始める。
「待て、今……」
「何か混乱が起きている?」
 誰かが、何かを仕掛けたのに違いない。
 引き起こされたその変化は、何を意味するのか。
 不滅の災いか、ブリュンヒルデか、或いは――此の死地に、其々の思惑が渦を巻く。
 その真っ只中へと引きずり込まれた彼らに逃れる術はない。
 事態は次第に、加速してゆく。

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参加者
ルシア・バークリー(リトルウィッシュ・b28515)
ロサ・サントス(砂茨・b31403)
春日・吏月(雪桜・b32755)
雨辻・慧夜(紅夜路・b54839)
秋矢・基(真福座跡・b59852)
新田・しのぶ(すりーぴんぐふぉっくす・b74149)
船見・窓日(空書使い・b81840)
朱・コウガ(陰陽姫・b82664)



<リプレイ>

●疾駆
 揺らぐ、揺らぐ、戦場の気配。
 不滅の災いに不滅の使者。
 数多の抗体ゴーストに原初の吸血鬼――そして、ブリュンヒルデ。
 その向こう、七百m近くも先の富士山頂火口対岸で、何かが蠢いている。
「恐らく、富士へ赴いた他班の方々ですわね。攪乱しようと……?」
「あぁ、混乱させて不滅の災いを逃がす心算なのかも知れない」
 良くは確認できないが、決して多い人数ではないだろう。
 果たして彼らだけで何とかできる事態であろうか。
 不滅の熱か、予期せぬ事態への動揺か。その場に満ちる熱気に、其々の額に汗が浮く。
 手早く幾つか相談を進める内、伝令を発すべきだと誰かが口にした。
 その言葉に朱・コウガ(陰陽姫・b82664)はこくりと頷く。
「では、私が往こう」
 機動力や戦力面。
 それらを併せ考えれば、今走るべきなのは自分だと、コウガは即座にそう結論付けた。
「でも、危険だ」
 先の原初のように、後背より回り来る者たちが居ないとも限らない。独りで相対することになれば――誰もがその可能性を考える。
 だが、コウガは緩く首を振った。
 決意は固い。
 持てるだけの情報をその目より脳へ。
 此の戦、銀誓館は不滅の災いに加勢する。
 降り注ぐ銀の雨。
 コウガの前に浮かび上がる銀の鏡は、嵐の王たる者の力の泉。
「往くも戻るも戦場だ、互いに武運を」
 ふと、友の言葉を思い出す。
 銀誓館に総意があるとすれば、それは目の前の命が大事なことだけなのだと。
 愚かしい。
 されどとても――好ましい。
 コウガはふと口の端を引き上げた。
 水鏡を潜り抜けた彼女は、一直線に山路を下りゆく。

●不滅を捕らう者
 不滅の災いの為に、原初の吸血鬼と戦う。
 こんな事になるなど思いもしなかった。だが、助けを求められたのなら手を差し伸べねばとルシア・バークリー(リトルウィッシュ・b28515)は思う。
 彼らを助け、きっと帰るのだ――彼の元へ。
 能力者たちの指示に、ハナシロは顎を引く。
『なれば我は知慧鳥の元へ参る。汝らはクロハと共に参れ』
「宜しくお願い致しますね」
『任せよ』
 新田・しのぶ(すりーぴんぐふぉっくす・b74149)の言葉に頷き、ハナシロはふとクロハへ視線を向けた。
『やれクロハ、汝は銀誓館らが道標。よくよく気を付けて参れ』
『汝こそすべき事を忘れぬ内に早う往け』
『然もありなん』
 ばさり翼を広げ飛び往くハナシロの背を見送り、クロハが振り向く。
『さて、我らも参ろうぞ』
「はい、行きましょう」
 先ず一陣。
 狐へと姿を変えたしのぶとルシアがクロハの後へ続く。
 極力岩陰を伝い、時にクロハの影に身を潜めるようにして隠密裏に近付いてゆく。ざっと見る限り、不滅の災いらの後方に敵影はないようだ。
 第一陣の孤立を避けるため、第二陣の二名、少し遅れて第三陣の三名と一匹が、其々残る妖鳥の一体ずつを連れ外縁部を発つ。
 不意にルシアが足下で鳴らした音に、後衛最後尾の妖鳥が振り向いた。
 じわり、ルシアの額に汗が浮く。
 妖鳥が口を開きかけるも、その眼前へさっとクロハが滑り出た。
『銀誓館が援軍ぞ。騒がず主が援護を続けよ』
 妖鳥は興味深げに二人を見遣ると、其の侭口を噤み前を見る。
 速やかに通り抜けてゆく二人を見ても、特に騒ぎ立てる妖鳥はない。恐らくハナシロが上手く説明をしていったのだろう。自分たちが援軍であること、決して騒がぬこと。双極鳥は春日・吏月(雪桜・b32755)が事前に伝えた役割を確りとこなしてくれている。
 無論、それがすべての妖鳥たちに伝わっているとは思えないが、上手く経路が重なったとみるべきだろうか。
 少し遅れて第二陣の雨辻・慧夜(紅夜路・b54839)、秋矢・基(真福座跡・b59852)が、そして第三陣の、吏月、船見・窓日(空書使い・b81840)、ロサ・サントス(砂茨・b31403)、エスパーダらが順に不滅の陣へと踏み込んでいった。
 黄金の輝きに満ちた火口。
 不滅の災いは其の大きな眸を、じっと前方へ――原初の吸血鬼らへと向けている。
 しのぶはその眸に僅かな焦燥の色が漂っているように感じた。
 彼女が狐変身を解いたタイミングで、ゆるり白の妖鳥が他の一体を連れ舞い降りてくる。
 双極鳥ハナシロ、そして――知慧鳥エニシユカリ。
 戦力不足故、主殿は一度脱出を。そう伝達した筈だが、知慧鳥自ら目の前に現れたということは、脱出は不可能という事だろうか。
 しのぶとルシアは互いに視線を合わせると、確認のため知慧鳥に告げた。
 自分たちが援軍としてきたこと、今仲間が原初の陣を撹乱していること、この隙を利用して戦場を脱して欲しいこと。そして、脱出に成功した折には封印を、と。
 すると、知慧鳥はこう答えた。
『不滅は動くこと能わず』
「脱出するのに何か問題があるのでしょうか」
『是ら全て不滅を戒めんが為の儀式なれば』
 能力者らに助けを求めた時、双極鳥はこういった。
 意志を奪われては、それは主たらぬ――即ちブリュンヒルデは、不滅の災いを取り込む為に活動しているのだろう。
 その最中に不滅の災いに飛ばれては、取り込む処の話ではない。
 ブリュンヒルデの行う『儀式』のせいで、不滅の災いは飛び立つことができないのだ。そして「是ら全て」ということは、原初の吸血鬼たちの行動もその一環であるということか。
 攻撃をして弱らせ、また何らかの儀式を強化する手伝いを行っている可能性がある。
 つまり、不滅の災いを逃がすためには、彼らの行う儀式の邪魔をする必要がある。
 命は義によりて軽し――不滅の災いを助けるためならば命をも捧げると心を決めていたしのぶは、ぎゅと玉串を握り締めた。
 ならば、やるしかない。
 脱出を妨げる要因を排除する。
 しのぶの決意を見て取ったように、基はこくりと頷いた。
 火口を覗いた時、真っ先に思った。
 あの戦場に居るかも知れない友人と、そして、学園に居る友人達のことを。
 知らずその指先がビーズに触れる。
 ――生きて、帰る。

●虚兵の計
 知慧鳥より指揮権を得た基と慧夜は、手早く現状戦力を確認した。
 指揮をハナシロら知能型の妖鳥に伝達させ、攻撃手の長にクロハら攻撃型の妖鳥を据える。
 また、後方より再度原初が回り込んで来ないとも限らない。その対応のため、吏月、ロサ、窓日らは従えた妖鳥らに幾つかの指示をしつつ、共に後方警戒にあたった。
 吏月は具に敵影や不審な動きが莫いかを確認するが、特にそういった動きはなさそうだ。だが、決して油断は出来ない。
 基と慧夜は不滅の前方、離れすぎぬ位置へと滑り込む。ルシアとしのぶはその後衛についた。
 四人は其々左右へと分れ、敵の動きを警戒。妖鳥らへ迎撃指示を行う。
「悪いが、不滅の為に力を貸してくれるか」
『我らが主の為ならば』
 自らの主の危機、そして、少数とはいえ求めに応じてくれた彼らは、きっと心強い存在なのだろう。妖鳥らの士気は非常に高い状態だ。
 妖鳥たちは彼らの指示通り、これまで以上に統率された行動を取り始める。
 攻撃及び接近してくる敵にのみ集中攻撃し、中でも原初の吸血鬼を最優先に撃破する。
 能力者らは名乗りを上げるまではあくまで目立たぬよう振舞った。
 妖鳥らに攻撃を一任し、その撃ち洩らしが近づいてくれば援護する。
「流石に、数が多いか」
 左方、妖鳥らの影から伸ばした慧夜の漆黒の腕が、抗体ゴーストの身体を引き裂いた。
 鏡雨転身を紡いた基が、ふと知彗鳥へ問いかける。
「主の封印は了承済と思っていいか?」
『主は、再び眠りにつくだろう』
 知彗鳥の答えに微かに首を傾げる基だったが、それを詳しく問い質す暇は莫い。
 彼らの指示に従い、ばさり双極の二鳥が天を舞う。
『やれ聞け同胞たちよ!』
『我らが主のため、銀誓館が参ったぞ!』
 そう叫び敵軍撹乱を狙う二鳥に乗じ、しのぶもまた天へ告げるかのように高々と声を張り上げた。
「不死の高嶺に在りし者よ、銀誓館が義により助太刀を!」
「情熱のブリュンヒルデ、奇襲に気を取られたが汝が命取り、お覚悟!」
 ざわり。
 敵勢の気配が浮き立ったのがわかった。
 構うまいと攻撃を仕掛けてくる抗体ゴーストに、妖鳥の攻撃が集中する。
 能力者たちが前へと躍り出、原初の吸血鬼と対峙した。
 原初の吸血鬼が居ては妖鳥たちは積極的に打って出ることができない。
 これまで原初が近付くたび其方へと意識を集中し、次々襲い来る抗体ゴーストらによって被害を出していた。だが、能力者らが前へ出て原初らを叩き、妖鳥たちが後ろから援護をすれば、被害を抑え、且つより効率的に敵の数を減らせるという寸法だ。
「行くぞ」
「あぁ」
 可能な限りの敵を巻き込まんと放った基の強大な水流が、大きなうねりと化しその視界に蠢く敵へと襲い掛かる。
 迸る水流に弄ばれ崩れ落ちる者、傍らを押し流される者。その水流が広がりを見せようかというところで、不意にかき消える。戦闘が大規模すぎて、把握しきれないのだ。
 目の前の原初へ肉薄した慧夜は、漆黒の柄をぐと握り思い切り振り下ろした。
 原初は刃を受け、それでも前へ出る。慧夜に襲い掛からんとするその胸を、ルシアの光の槍が貫いた。続き放たれた妖鳥らの射撃攻撃が、次々原初を乱れ撃つ。
 彼らが原初の吸血鬼を倒すと、その周囲に居る抗体ゴーストへ、近接型の妖鳥たちを引き連れたクロハが一気に襲い掛かる。
 そうした連携を幾度となく繰り返し、彼らは次々不滅の災いの周囲を開放していった。
「次はどの原初の吸血鬼にしましょうか?」
「右側で動きがあります〜」
「了解!」
 しのぶの声に素早く反応した基が、地面を蹴り飛び激しくその身を回転させながら突っ込んでいく。次々放たれる脚撃に原初が怯む。
 周囲を取り巻く抗体ゴーストらが基へ襲い掛かるのを、只中へ落とされたしのぶの幻楼七星光が牽制する。
 石化に囚われた敵が憎々しげにしのぶを睨み据えるも、その攻撃はやはり妖鳥らへと向かう。
「ご協力頂けますでしょうか」
『やれ断る意味も莫し』
 窓日、そしてハナシロら癒しの力を持つ妖鳥が、不滅勢と能力者たちの傷を癒し、状態異常にかかった者たちを次々解き放ってゆく。
 能力者たちは妖鳥らと協力し、原初、そしてその周囲を取り巻く抗体ゴーストを順調に屠っていった。
「よし、次だ!」
 抗体ゴーストの群れをすり抜け前へ出た原初へと標的を定める。
 だが、その次の瞬間――不滅と妖鳥らへ向けられていたはずの攻撃が、急に能力者たちへと向けられた。
「何だ、急に!」
「くそ、今度は俺たちを狙っているみたいだ」
 その動きは、不滅の使者を取り込むため大きく迂回する動きとはまるで違う。
 他とは異なる行動方針を持った敵――妖鳥たちへ攻撃する者たちとは別に、彼ら自身を狙う抗体ゴーストの集団が現れたのだ。
 能力者たちは後方の不滅の災いを狙う計略には目を光らせていたが、直接、自分達を狙う別働隊が動かされていたことを見抜くことはできなかった。恐らく戦いが始まった後、自分達を見つけたブリュンヒルデが、自分の護衛の中から戦力を割いて自分達の排除を画策したのだろう。
「このまま攻撃を集中されるのは、拙いですね」
「此方の体勢が大きく傾かぬ内に、何とかせねばなりません」
 周囲の敵を巻き込み吹き荒れる雪風が、周囲の敵を凍てつかせ、ふつと消える。
「行くよ……エスパーダ」
 ロサの放つギロチンの刃、そしてエスパーダの放つブラックセイバーが、眼前の敵を巻き込み引き裂いた。
 妖鳥らの攻撃を掻い潜り近付いてくる敵目掛け、窓日が素早く縛の一文字を綴る。
 その文字によって縛り付けられた敵目掛け、妖鳥の攻撃が集中した。
 だが、敵とて只黙ってその攻撃の的になっているわけではない。
 敵は能力者と妖鳥、其々へと集中し攻撃を放ってくる。
 次々前へ飛び出してくる抗体ゴーストたちが、妖鳥と不滅の災いへと狙いを定め、抗体兵器を振り上げる。
 徐々に押されてきている。
 苦々しく思いながら、能力者たちはそれでも徹底的に抗った。
 ロサの放つ虚空ギロチンが戦場を駆け抜ける。打ち倒し損なった敵の胸目掛け、エスパーダの放った焔の塊が、飛び込んだ。
 炎に包まれ倒れた敵を踏み越えて、次なる敵が襲いくる。
「拙い、ヨ」
「最後迄、仲間を信じて……生き抜きましょう」
 近付き来る敵の頬を、吏月の吐息がそよと撫でる。
 忽ち凍てつき砕け散る敵。その傍らを駆け抜け襲い来る敵へ、窓日は天へと不知刀書を走らせる。
「きっと来てくださると信じて……」
 富士の空に描かれた縛の字が、勢い良く敵目掛け飛んでいった。

●不滅の炎
 正面と背後。
 共に原初の吸血鬼を叩く内、その配下にさせられていた妖鳥たちが、原初のコントロールを外れて不滅陣営へと廻り始めていた。
 必死に抗う内、能力者たちは背にする圧倒的な存在『不滅の災い』への戒めが弱まり、彼の鳥が徐々に力を取り戻してきているのを感じていた。
 此の侭押し切ることが出来れば、不滅の災いを解き放つことが出来るかもしれない。
 吏月が戦場に視線を走らせる。
 遥か後方に控える原初たちの後ろ、褐色の肌の青年がふと此方を見た気がした。
 合う筈のないほど遠い視線に、若しやと吏月は思う。
 艶やかな漆黒の髪を揺らし戦うその姿には、どこか見覚えがある。
「……必ず、果たしましょう」
 吏月は真白な笛を握る手に、きゅと力を籠めた。
 不滅を救出し、きっと皆揃って生きて帰ってみせる。
 ――なれど。
「不甲斐ない。私がいなければ、なにもできない有象無象どもめ」
 吐き捨て、ブリュンヒルデが刃を握る。
 吏月の視線の先、仲間たち目掛け振り翳された槍が大きく空を裂く。
 一撃。
 たったの一撃で、彼らの殆どが薙ぎ倒された。
 遠く聞こえない筈の彼らの悲鳴が、びりと空気を震わせる。
 目の前には今尚激戦を繰り広げる不滅と原初たち、その背後には怒りを顕わにするブリュンヒルデ。
 逃げられる筈もない状況で、それでも彼らは戦闘不能の仲間を抱え撤退を試みる。だが、それを彼女が赦すはずもない。
 翳された刃が再び天を駆る。
 既に壊滅的打撃を受けた彼らでは、一溜まりも莫い。
 死。
 不滅を護り戦う皆の脳裏に、等しくその文字が過ぎった。
 目の前に居るのに、何も出来ない。
 今の自分たちには、どうすることも――。
「不滅の災いが……!」
 不意に誰かが漏らした声に、皆が振り返った。
 強烈な熱気を振り撒きながら、不滅の災いがぐぐと首を擡げる。
 多くの原初を屠り、ブリュンヒルデまでもが戦場を放棄した。その為に、不滅の災いは原初らの戒めから完全に解き放たれたのだ。
 吏月は咄嗟に不滅の災いへ駆け寄った。
「お願い致します、どうか、どうか力をお貸しください!」
 目の前に在るのは絶対なる力。
 不滅の災いであれば、彼らの命を救うことが出来るかもしれない。
 懸命に、声を振り絞る。
 只祈り願う吏月の声に、しのぶも、ロサも、基も、次々焔の鳥へと叫んだ。
「私たちの仲間なんです、助けてください!」
「誰にも、死んで欲しく……ナイ」
「頼む、何とかしてくれ!」
 懸命に、懸命に。
 次々紡がれる言葉。
 その声に応えるように、不滅の災いはばさりと翼を広げた。
 富士山の外へ、完全に姿を現した不滅の災い。
 その羽ばたきが、大きく空を震わせる。
 肌を焼くほどの熱い風が、轟と戦場を駆け抜けた。
「これは……!」
「なんと生命に満ち溢れた力なのでしょうか」
 不滅の巻き起こした熱風が、戦場に居る数多の敵を薙ぎ倒し、能力者たちの傷を次々癒しゆく。
「待て、何だこれは」
「え、あれ?」
 戦場を駆け抜ける熱風に気をとられていた彼らは、慧夜の声にはっと周囲を見回した。
 辺り一面に、小さく愛らしい姿の何かがふよふよと漂っている。
「まさか、妖鳥たちでしょうか?」
 恐らく、不滅の災いの放った熱風が、不滅の使者たちの体内からルルモードによって植え付けられた『抗体』を消し去ったのだ。
「……クロハさん、ハナシロさん、ちゃんといます?」
 小首を傾げる窓日の傍ら、確かめるように彼らへ呼びかけるルシア。
 だがその声に答える者は莫い。この状態での固体判別は容易でなさそうだ。
 皆が呆然と見詰める中、不滅の災いが再びばさりと翼を広げた。
 その活き活きとした金色の焔が、彼らの視界で渦を巻き踊っている。
 目映い金色の光に眩みかけた目で、皆が必死にその姿を仰ごうとした、その時だ。
 先ほどの熱風とは違う、凄まじい風が上から吹き降ろしてきた。
 不滅の災いが、飛び立とうとしているのだ。
「行くのか……!」
「でも、一体何処へ?」
 最早それを問う間も、止める理由すらもない。
 能力者たちの目の前で、不滅の災いは其の侭大きく羽ばたき、富士を飛び立った。
 彼の災いが優雅に翼を広げる空の下、生まれ変わったとでも云うべき不滅の使者たちが、次々大きく息を吸いぷぅっと吐き出す。
 撒き散らされる焔の息が、辛うじて立つ抗体ゴーストたちの身体を次々焼いてゆく。
 飛び去る不滅の災いの姿をじっと見詰めていたブリュンヒルデは、正に苦虫を噛み潰したような表情を作った。
 これ以上此処にいても仕方ないと判断したのか、彼女は配下たちに撤退を指示する。
「不滅の災いを手に入れ損なったか……。だが、最低限の目的は果たさせて貰った。龍脈の活性化を阻害していた不滅の災いは取り除かれたのだからな」
 吐き捨てるようにそういったブリュンヒルデの言葉に、能力者たちははっと息を呑んだ。
「今のは……何でしょう?」
「何か蠢いた、ような」
 その足下。
 遥か富士の地下で、胎動するマグマを感じたような気がする。
「この山は、確か日本の龍脈の礎だったな」
「……此の地で龍脈の力を自己の再生に使い続けられては、龍脈の活性化が進まない……ということでしょうか」
「成程な。だからあいつらは、不滅の災いを取り除こうとしたのか」
 油断なく身構えながら、慧夜と吏月は撤退するブリュンヒルデたちの背をじと見詰める。
 此方とて目的は果たした。
 今、ブリュンヒルデを追撃をする必要はない。
 傷つき倒れた他班の姿を見れば、それ自体が無謀なことなのだと思い知らされる。
 引潮のように退いてゆく敵を迂回しながら、彼らは傷つき倒れた能力者たちの元へと近づいていった。
「やっぱりムルさんも来てたのか。怪我は?」
「ええ、ボクは何とか大丈夫です。基さんもお怪我などありませんか?」
 そう微笑み答えた香我美・允(ムルさん〜あやとり名人〜・b16223)に、お互い無事そうだなと基は笑う。
「宗司郎さま、大丈夫ですの?」
「……ああ。この通り、命はどうやらあるようだからな」
 肩を貸そうと近付いた窓日に、墨枝・宗司郎(高校生真書道使い・bn0314)は達成感ある爽やかな笑みを浮かべそう答えた。
 宗司郎のもう一方の肩を支え歩く四宮・菊里(軍星・b65501)の姿に、吏月は安堵した様子で笑みかける。
「……よくぞご無事で」
「春日先輩も、ご無事のようで何よりです。……帰りましょう、皆で」
 心からの安堵を吐息へと変えて、菊里は吏月へ微笑んだ。
「この子たち、どうしよう……カ?」
「うーん、このまま放っておくわけにもいきませんよね」
 じと見詰めてくる可愛らしい姿の妖鳥に、そっと手を伸ばすロサ。その傍らで、ルシアは悩ましげに首を捻る。
「そうだな……なら俺たちで銀誓館に連れて帰るか」
「一緒に稲荷寿司パーティーしましょうです〜♪」
 慧夜の言葉にこくりと頷き、しのぶは新たな仲間たちへと笑みかける。
「俺たちと一緒に帰ろう、銀誓館へ」
 優しげな笑みと、次々に差し出される手のひら。
 自分たちを温かく迎えようとする彼らに、妖鳥はどこか不思議そうに瞳を瞬き――そして、こくりと小さく頷いた。
 重傷を負う者たちに肩を貸し、彼らは富士を下り始める。
 約束通り――誰一人、欠けることなく。


マスター:珠樹聖 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
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いまいち
参加者:8人
作成日:2012/03/14
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