嵐の時、きたれり


<オープニング>


「ちょ、ちょ、ちょっと待って」
 そう叫んだのが誰なのか、人ごみにまぎれて、はっきりとはしなかった。少なくとも、女子の声であって、たぶん中学生以上ではあろう。
 そして、彼女の言葉に、そうだそうだと同調する声は少なくなかったけれど、やはり時間をとってはもらえなかった。重い機械音とともに、輸送機の扉が閉じてゆく。
 詰めこまれた能力者たちのひとり、中等部の制服を着た男子が『これ、Cなんとか』だと数字を口にした。『なあにそれ?』と隣にいた女子生徒がたずねると、アメリカ陸軍が使っている輸送機だ、という返事があった。
 戦車などもふくめて丸ごと一部隊を運べる巨大輸送機に、いまは人間だけが……銀誓館学園の能力者が、ぎっしりと詰めこまれている。みんな、どこか不安そうな面持ちだった。
 あわてて呼び集められて、緊急事態だからと、背中を押されるようにしてこの輸送機に乗せられたのだ。
 だれひとり、自分たちがおかれた状況が、理解できていない。
 そして、離陸時独特の加速が、みんなの身体をゆるがせた時、頭上に設置されたスピーカーから、声がひびいた。
「とても急な話でもうしわけありません。ワタシが、これを用意しました。とても申し訳ないことに、カシオリを準備する時間もありませんでした」
 それは、集められた能力者達にとっては聞きなれた声だった。
 この輸送機を準備したのは、サンダーバードのスティーブ・ロード(bn0291)だったらしい。大型メカのコレクターだという噂だ。
「ある場所に危険がせまっています。みなさんの力で守っていただかねばなりません。世界の命運が、かかっています」
「いったい、どこに行くんだ?! それに、この人数は!? 敵はなんなんだ?」
 集まった能力者のひとりが、大声でたずねた。そうだ、おしえろ、という声が、あちこちからあがる。
「それについては、ワタシではなく、運命予報士の皆さんから、直接お聞きください」
 ごそごそという音が、スピーカーの向こうからきこえた。マイクを受け渡しているようだ。
「あ、すいません。運命予報士の……」
 名乗ったのはひとりだけではなかった。数人の運命予報士がかわるがわる名乗りをあげる。集まった能力者たちから『おまえかよ』『ひさしぶり、元気?』『腐れ縁だなあ』などという声があがる。けれど、なごみかけた空気を変えたのは、能力者たちの中からあがった、いささか野太い声だった。
「……待てよ。同時に何人も運命予報を受けるって、よっぽどの非常事態じゃねえのか?」
「その通りです」
 運命予報士たちの返答にふくまれた緊張が、集まった能力者たちの、身も心も引き締めさせる。
「みなさんには、エジプトの首都カイロに行ってもらいます」
 国外を予想はしていたが、あまりにも遠い地名に、機内が完全に静まりかえった。
「先日、理事長からの要請があり、応援がエジプトに向かったことをごぞんじの方もいるかもしれません」
 運命予報士たちを代表して、落ち着いた声の女生徒が言葉を続けた。
「現在、理事長とも応援にむかったみなさんとも、連絡がとれない状況です。そして、今回のこれはおそらく、理事長が知らせてくださった事態に関連していると思われます」
 数人の運命予報士が同時に見ているはずなのに、歯切れが悪い。能力者たちは、ますます状況が容易ならざるものだと思い知らされ、押し黙った。
 その重い空気を、運命予報士たちの気迫のこもった声が切り裂いてゆく。
「今回、私たちに見えた運命予報は、断片的なものでした。数人ぶんのそれをつなぎあわせ、校長先生を通じてもたらされた情報によって補完して、ようやく、私たちは『みなさんがどこに赴き、何と戦えばいいのか』をつきとめました。完璧というにはほど遠い情報で、みなさんを危険のただ中に送りださねばならないこと。本当に心苦しく思っています。でも……! みなさんにしか……! 頼れないのです」
「心配すんな! オレたちは大丈夫だ」
 能力者のひとりが声をあげる。オレという一人称だったが、初等部の制服を身につけた女子だった。
「オレたちは、どんな苦しい戦いにも勝ち抜いてきた。突発事態や予想外なんて、いつものことじゃねえか。守るべきものがあるかぎり、オレたちは、いつだって最高の力を出してみせる」
「もちろん、それを疑ったことはありません」
「だったら、オレたちに教えてくれ。どこのどんな悪党が、誰を泣かせようとしてるのか」
 機内の気温が、その瞬間、数度は上昇していた。能力者たちの決意が、炎となって、まるで目に見えるようだった。
 そして、運命予報士たちも、その想いに応えた。
「私たちが見たのは、古い市街を、ピラミッドを作り上げた者たちが、ミイラの軍勢となって行進してゆく光景です。砂漠のスフィンクスが血肉をそなえて動き出し、獣の頭部と人間の身体を持つ強力なゴーストが、闇から這い出てくる姿です。……古代の超魔法王国エジプトの一大勢力が、ピラミッド付近から出現し、カイロ市街を蹂躙するのです。仮にその勢力をエジプト神魔軍と呼びます」
 古代エジプトの神々は「獣の頭部に人の身体」という姿で伝承されている。能力者たちの多くも、その神話を耳にしたことはあった。
 とはいえ、敵が、本物の神である、ということはないだろう。
 世界結界の影響で、伝えられる真実が歪んでしまったのか、それとも神の姿を模したゴーストなのか。だが、どちらにしても、その力は、神に匹敵する、という覚悟で立ち向かったほうがいいだろう。
 今度の敵は、これまで銀誓館の能力者たちが立ち向かった中でも、かなりの強敵に違いない。
 運命予報士たちは、言葉を続けた。
「私たちが、彼らの戦略や能力を、はっきりと見ることができなかったのは、その光景の前に、強大な影がたちふさがっていたからです。あれは……『生と死をわかつ者』でした」
 機内の能力者たちが、いっせいに息を呑む。
 その奇怪で謎めいた存在は、おそらく世界の根源とからみあって存在している。究極の敵ともいうべきそれが、砂漠の国で待ち受けているというのだろうか。
 能力者たちの無言の問いに、運命予報士たちが伝えたのは「否」であった。
「けれど『生と死をわかつ者』のおぞましい姿は、遠ざかりつつあります。それによって、ぎりぎり間に合う時間に、私たちは必要な情報を得ることができました」
 そう。行く手に『生と死をわかつ者』はいない。だが、エジプト神魔軍だけでも、その強さは、はかりしれない。やつらは、三大ピラミッド周辺から、続々とあらわれるという。いや、すでに出現ははじまっているというのだ。
「このまま順調に飛行できれば、カイロ市街への侵攻が開始される寸前に到着できます。ただし、エジプト神魔軍団は、支援や脱出の経路を断つべく、まず最初に交通手段を占拠します」
 この飛行機がおりるべき空港も例外ではない。
「ですので、まず滑走路を確保する必要があります」
「あたしらの出番だね」
 能力者たちの一角から、そしてあちこちから次々と、拳が突きあげられる。
「そうです。飛行機が着陸する前に、空中から地上へまいおり、橋頭堡を確保できるのは、エアライドの力を持つみなさんだけ」
 拳をつきあげたのは、いちはやくそれを悟った月のエアライダー、そして太陽のエアライダーたちだ。
「月さえ出ていれば、ルナエンプレスのみなさんの力によって、かなりの数がおりられたはずなのですが……残念です」
 あいにく、到着予定の時刻は、夜ではあるが月はない。月がのぼるまで待っていては、間に合わないのだ。
「ははっ、なめてもらっちゃ困るね。ここは、エアライダーの見せ場だよ。みんなの道、切り開いてみせるさ」
 空港で待ちかまえる敵は、太陽神アトンを僭称する、超巨大なリビングサン。配下は、ワシコブラや、スカラベなどの妖獣だ。おそらく落下途中をねらわれ、空中戦になるだろう。
「なるべく空中では身を隠すか、それとも迎え撃つべきか、助言できなくてすみません」
「だいじょうぶって言ったろ」
 さっそく、エアライダーたちが、自分たちの編成にかかった。
「着陸したら、空港を守る必要はありません。敵を撃退すれば、どうとでも日本へ帰国は可能です」
 だが、輸送機に積まれた医療設備などをおろし、負傷者の介護を行う拠点作りは必要だろう。
 続いて、運命予報士たちは、着陸後の行動について、状況を説明した。
「エジプト神魔軍は、大きく二つの軍勢にわかれています」
 ひとつは、カイロを包囲している軍勢だ。市民を虐殺し、大量の残留思念を得ようとしている。ミイラ戦団をはじめとして、数は多いが、一体一体の力はさほどでもない。もちろん、指揮官クラスは強力だが、多くはいない。数で飲みこもうとしてくる敵には、多数を一度に相手にできる能力者が向かうとよいだろう。
 もういっぽうは、ギゼの大ピラミッド前に集結している一団だ。こちらはまだ、動きを見せていない。ピラミッドを守護するような気配も見せているが、そこで何が行われているのかは『生と死をわかつもの』の影が遠ざかってからも、ついに見えることがなかった。神々の姿のゴーストや、超巨大妖獣スフィンクスといった強敵がひかえているが、数は市街包囲軍よりかなり少ない。そのぶん、多数を同時に攻撃できる敵が多そうだ。一撃必殺の技で、すばやく倒せればいいのだが。
「不利を承知で戦力を二分して、同時にあたるか。あるいは、戦力を集中して順番に片付けるか。判断はおまかせします」
 運命予報士たちは、さらにそれぞれの敵戦力についての情報を続けた。
 まず、カイロ包囲軍だ。
 こちらには、古代エジプトの兵士や貴族、そしてピラミッド建造に動員された労働者まで、さまざまなミイラがそろっている。
「こちらにはルールーもまじっています。ルールーは、エジプト市内にいる博物館に向かっているようです」
 おそらく、そこで何か強力なゴーストを復活させるつもりなのだろう。なんとかして、一部だけでもミイラ軍を突破して、博物館にたどりつき、ルールーを排除しないと、ただでさえ苦戦必至の状況が、さらに不利になる。
 とはいえ、こちらの敵はなんといっても数が多い。その目をくらますのは難しいだろう。ゴーストだから闇纏いなども通じない。通常とは異なるルートでもあればよいのだろうが。市街へ通じている、敵が思いもよらない道があれば。
「この包囲軍で、指揮官クラスは判明しているのが二体います」
 まずは、冥府の神アヌビスによく似た強力なゴーストがいる。アヌビスゴーストと呼ばれるものは、これまでにも確認されているし、今回も審判、裁断、断罪といった称号を持つそれらが、部隊長として存在するようだ。その頂点にいるのが、包囲軍の一方の頂点。
「アヌビス・ザ・グレートと仮称しています。無数の包帯が、その身体からのびています。アヌビスはミイラ作りの神。頭部はジャッカル……ヤマイヌです」
 分厚い護衛の向こうにいるやつを、まず倒すか。それとも、配下をけずりおとしていくべきか。
 そして、カイロ包囲軍には、もう一体の指揮官がいる。
「猫の女神バステトに似た姿で、仮称をバステト・ザ・キュート。配下に多数のリリスを持ち、それを強化する強力な魔術結界をはります」
 すべてのリリスに猫耳を生やして、その誘惑の能力を最大限に引き出すのだという。猫娘などは、猫耳が二組という不条理な姿になるのだとか。
「……ただ不確定な情報ですが……こいつは、猫だけあって気まぐれ。もしかすると、寝返るまではゆかなくとも、手を引くよう説得できる可能性はゼロではありません。しかし……」
 誘惑に耐えれば、バステト・ザ・キュートの戦闘力はさほどでもないようだ。
 続いて、運命予報士たちは、もうひとつの軍勢について説明した。
「ピラミッド前に集まっている強敵については、特に強力そうな五体のことが明確にわかっています」
 まず、やはりエジプトの神の姿をした三体。
 鰐の頭を持つセベク・ザ・パワーは豪腕無双。その発する気合で敵の動きを止め、噛み砕く。
 隼の頭を持つホルス・ザ・スピードは、超高速の動きで敵を翻弄する。動きをささえるのは、その大きな瞳だ。
 朱鷺の頭を持つトート・ザ・ウィザードは、究極の魔術師。その手にしたエメラルドの石版から、あらゆる魔術をくりだす。
 どれも、エジプトを統治するファラオの、ひとつの側面を象徴する神魔。
「相手の得意分野に強い者で当たるか、不得意分野を推理するか……。気合には気合、速度には速度、魔術には魔術として、こちらが上回れるかどうか。弱点を見抜けていればよかったのですが……」
 そして、その後に控えるのが巨大守護妖獣スフィンクス。エジプトと言えば誰もが思い出す、あの姿だ。
「こいつは一度倒しても、何かの形に変化して再度襲いかかってくるようです。変化が予想できればいいんですが……ふつうはありえないものだとしか。おそらく、まったく別の生き物」
 最後の強敵は、歴代ファラオの「影の部分」を寄せ集めた「ファラオ・ザ・ダーク」だという。
 エジプト魔法王国は、最強の魔術師(これは当時というだけではなく、地球の歴史を通じてそのレベルだ)であるファラオたちに統治されてきた。彼らは、おのれの心に闇や影が生じるたび、それを切り離し、恐れと夜を司る分身としてきたのだ。その分身である闇たちを、強引にひとつにたばねたのが、こいつだ。
「十一のファラオの黄金仮面を持つ闇のかたまり……それが、ファラオ・ザ・ダーク。まったき混沌にして、背後から這い寄るもの」
 こいつについては、能力、性質ともに不明。ただ、歴史につたえられるあらゆるファラオの側面をわずかずつ持っている。それが何かの助けになるかもしれない。
「我々の知っている古代エジプトと、世界結界の彼方の真実がどれほど一致しているのか、それはわかりませんが」
 この五体のほか、もちろん、未知の強敵がいる可能もある。運命予報士の中には、大地そのもの、天空そのものが、敵となって襲いかかる気配を感じた者もいるそうだ。
 それへの守りは『踏みしめる足もて大地を鎮めるもの』『風を読み風となり風の慈悲をひきだせるもの』であれば、という曖昧な情報がある。多くの場合、正面切って力ずくが、銀誓館の流儀であろうし、それで足りないとも思えないが。
「そして……これらの強敵たちは、ピラミッドを守っているようです。可能なら、敵の包囲にわずかな隙でも作れたら、内部に少人数でも突入させて、何が行われているのか調べたほうがいいかもしれません」
 そうするのであれば、あらかじめ突入班を人選しておいたほうがいいかもしれない。ピラミッドの内部に、カンが働くようなものがいれば、侵入はスムーズになりそうだ。
「ピラミッドの内部で行われていることについてですが……とある協力者からの情報によれば、オロチと関係している可能性が高いそうです」
 能力者たちは、その言葉に慄然とした。
 最凶最悪の魔術兵器オロチ。その破壊代行分体との戦いは、全国で続いている。能力者たちの何人かは、その恐ろしさを身にしみて知っており、周囲の友人たちに説明した。
 それにしても、はるかエジプトと、いったいどんなかかわりがあるのか。ピラミッドで、何が行われているのか。運命予報をもってしても見抜けないという、ごく稀な事態に、緊張がいや増してゆく。
「その、オロチのことを知らせてくれた協力者って、だれですか?」
 能力者のひとり、初等部の制服を着た男の子が、質問した。
 だまされてはいないか……当然の警戒だ。
「私たちも教えてもらっていません。これは校長先生経由の情報なんです。ただ……校長先生は『風が教えてくれたんだよ』とおっしゃってました」
 ごく一部の能力者たちが、微笑をもらした。銀誓館に加わった時期が最も近い者たち。風と雨の王、ストームブリンガーだ。彼らによみがえった記憶が、情報は信頼してよいものと教えてくれる。
 どうやら、運命予報士たちの言葉は終わったようだ。
 能力者たちが戦いにそなえて相談をはじめようとした時、もう一度、スピーカーから声が聞こえた。
「最後に校長先生からの伝言があります」
 運命予報士がためらいがちに言った。みんなが、あらためて言葉を聞く姿勢になる。
「私は……みなさんを信じています」
 ごく平凡な、けれど力強い言葉。しかし、まだ終わりではなかった。運命予報士の声が、ふるえをおびる。
「特に……もどってから、受験や就職がひかえているみなさん……信じてますからね? ……期末試験も含めて、みなさん、自力でがんばってください……だ、そうです」
 声にならない悲鳴が機内に満ちた。

 高い高い空を、輸送機が西へ向かって飛んでゆく、ちょうどそのころ。
 深い深い地の底を、同じ方角に進む存在があった。
 物質的な存在ではない。だが、意識は人と変わらない。いや、変わらないと言い切れる自信を、すでに彼は持てずにいる。
 人としての肉体を持っていたころの名を、雨堂盾哉という。
 いま、名を尋ねられて、それを答えられるだろうか。心もとない。
 雨堂盾哉が、なお雨堂盾哉でいられる時が、あとどれほど残されているだろう。彼という人格を支える、彼固有の記憶は、あまりにも少なすぎた。盾哉は、あまりにも若くして魔術体となったし、その長くない人生は闘争とそれへのそなえについやされていた。
 ただ。
 彼女とのわずかな記憶だけが、盾哉をして、人の世の守りであらしめている。
 ついさっき、あの娘と別れたような気がする。
 それから十万年ほど、戦ってきた。
 ……いや、ちがう。
 もちろんそれは事実ではない。事実ではないが、真実ではある。
 肉体を失い、詠唱銀の流れに魂を溶けこませ、もはや時の流れの感じようも、人とはちがってきている。
(……だから、わらわのもとへ来い。もはや地球を破壊するとはいわぬ。わらわが望むのは……)
(だまれ……! それは……ダメだ!)
 オロチへと溶けこみ、盾哉とその支配をめぐってあらそってきた意識。その残滓を、盾哉は押さえこんだ。もう、彼女を制圧するのも、わずかな力で可能になっている。
 けれど、残してきたあの娘と、新たな思い出を作るための力は、まったく足りない。
(……すまないな。ほんとうにすまない。約束、守れそうにないや)
 彼には、もはや抱き続けられる思い出が足りない。つまり、彼が彼であり続けることが可能な時間もわずか。
 自分自身を消耗させつつ、雨堂盾哉は突き進む。懐かしい日々、安らぎの思い出を、魔術のエネルギーに変えながら。

 あの娘を救うため、ではなく。
 彼女が夢を託した若者たちの、背中を守る、そのために。
 いいや、それは彼女だけの夢ではない。
 盾哉にとっても、若者たちは希望そのものなのだから。

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<リプレイ>

●その祈りは、いま盾となろう

 若者たちの気遣いが、嬉しかった。
 雨堂盾哉に、まだ肉体があれば、泣いていたかもしれない。
 彼は、誰かに「心配してもらった」という経験が少ない。友人は作らなかった。家族は喪った。案じてもらった数少ない経験のうち、いくつかは裏切られて終わった。あるいは、彼自身が裏切ってしまった。
 そして、晴恋菜のことも、裏切ろうとしている。約束を、守れそうにない。
 だから――。
 見ず知らずの自分を、案じて救おうとしてくれている、若き能力者たちの気持ちが、本当に嬉しかった。つらい記憶を渡してしまったと案じていた。戦いに巻きこんでしまったと、申し訳なく思っていた。だが、記憶をよみがえらせたストームブリンガーたちが、思いもよらず盾哉を案じてくれた。彼らだけではなく、わずかな情報から、盾哉の存在を推測した、多くの銀誓館の能力者たちが、彼を案じてくれた。
 若き能力者たちの『そこに苦しんでいる誰か、傷つこうとしている誰かがいるなら、救いたい』という気持ちが伝わってきた。
 盾哉について、彼らは多くを知らない。盾哉も多くは知らないが、まるで知らないわけではない。地球を駆け巡る、魔力の奔流。龍脈をオロチは駆けている。盾哉は、その力と一体化しているのだ。天空より詠唱銀がふりそそぎ、大地にしみこむ時、流れが触れたものについて、盾哉は、わずかながら知ることができる。それに、彼は嵐の王だ。雨だけではなく風もまた友。ささやかな風を送って、銀誓館の若者たちを見守ってきた。
 いま、盾哉のもとに幾多の想いが届いている。
 必要なのは、願いであり、祈りだ。呼びかけであり、記憶だ。
 いま、盾哉は魔術体であり、魔法エネルギーの奔流となって、地球そのものと重なって存在するオロチと一体化している。詠唱銀が存在する、世界結界の彼方とアクセスするのもできる。ダメージを与えるから、そうはしないが。
 詠唱銀は、世界を変革する意志に反応して形となる。つまり、魔法を具現化するものではあり、意志を魔法に変えるものだ。いま、盾哉の存在を支えるのは、詠唱銀を魔法に変えるための触媒。人の想いだった。だから「あなたを救いたい」という祈りが、盾哉を支えてくれる。
 もはや、あきらめるつもりは、まったくない。彼らがせっかく、自分の無事を祈ってくれるなら、それに応えたい。
 だが、彼らが盾哉の無事を祈ってくれるのと同様に、盾哉も、銀誓館のみんなが一人たりと欠けて欲しくないのだ。盾哉と晴恋菜と同じように、また会いたいと、願っているだれかがいるのだから。
 そのために、みんなを生き延びさせるために、盾哉にできることはする。ただし、自ら死地に飛びこむことも、もうだめだと思うこともしない。だいじょうぶだ。詠唱銀などなくても、みんながくれた「気持ち」がある。
(……今回は〈生命賛歌〉がないからな……)
 規模としては戦争に匹敵するこの戦い。だが、いまはメガリスの破壊を行うのは不安定な結果を招きかねない。オロチの中でカグヤと戦い、嵐の王の記憶を探った経験が、盾哉に「生命使い」の秘密の一端をつかませた。確信はないし、明確な通信手段もなかったから、曖昧なビジョンを一部の運命予報士に伝えることしかできなかったが、どうやら校長は苦渋の決断をしてくれたようだ。
(……オレが止めた。だから、オレが代わりになるのが道理だろう?)
 銀色の風を、戦場に吹かせよう。
 この戦いで戦闘不能や重傷におちいっても、学園に帰還するころには癒えているはずだ。そのくらいでは消えはしない。もらった「想い」の力で可能になっている。死亡を防ぐとなると、保証の限りではないが……。
(万が一のことがあったら……許してくれよ。でも、あんたのことは、銀誓館の連中が支えてくれるさ)
 彼らなら、後を託すことができる。
 生まれてはじめて、雨堂盾哉は、人を信じた。
 信じられる自分になれたことが、とても嬉しかった。
 そして、信じさせてくれた、銀誓館のみんなの――仲間のために、自分に可能なら、あらゆることをしようと思う。存在が消えないように、最後まで努力はするけれど。
 独力が必ず報われるものであれば、この世に敗者はいなくなる。異形だって、勝利のための「努力」をし「必勝」を念じているのだ。
(会えなかったら……ごめんな。……ほんとうにごめん)
 少女が――いつになっても、盾哉にとってあの娘は永遠に少女だ――泣くだろうこと、あるいは怒るだろうこと、それだけは残念だったけれど。
(いやいや、弱気になったら怒られるな。それに、ここで終わりじゃあない。この先のことだって、どうせなら手を貸したい)
 盾哉がすべての力を解放しても、銀誓館の若者たちが全ての生命と魂を燃焼させ尽くしても、なお及ぶか及ばないか、そんな戦いが、間近に迫っているのだ。
(……あんたたちが主役だ。あんたたちを、そろってその舞台に立たせるために、脇役のオレが、もらった願いの力、使い尽くす)


●降下部隊、闇へ飛びこむ

 夜空に派手な輝きが舞い散った。
 それは、禍々しいシルエットの戦鳥から飛び出している。
 同時に、猛き勇者にふさわしい進軍の曲が、大音響で真夜中の空に響き渡った。巨匠ワーグナーの名曲『ワルキューレの騎行・序曲』だ。
 とある戦争映画の名場面で使われて、空からの強襲のBGMとしては定番になっている。
「やっぱこーゆーのは気分出さねェとな」
 にやりと笑った犬神・ソーカル(オホートニク・b73424)のもとへ、群れとなったカナリアカマキリが押し寄せた。
 そいつらだけではない、まばゆい光と、大きな音にひきつけられて、夜空を巡回していたゴーストたちが集まってくる。
 だが、それはもちろん、飛び出したエアライダーたちのもくろみ通りだ。そして、囮役を選んだエアライダーたちは、空中での戦闘を楽しむ気が満々だった。
「狙いがあたりましたわね。たくさん、釣られてくださいましたわ」
 佐藤・陽子(高校生太陽のエアライダー・b77231)がニヤリと笑う。
「オーホッホッホ! さて皆さん、突撃いたしましてよ!」
 空中で、赤いスカートを翻しながら、妖鳥どもに身体ごとぶつかるような攻撃をあててゆく。
 が、捨て身がすぎた。大きく首をのばしてきたワシコブラの牙から身をかわせない。
 だが、その伸ばした首を駆け抜けて、頭部に蹴りをかました仲間がいた。
「空中戦上等! やってやるぜ!」
 その首をぶちのめしたのは、鈴木・風子(高校生真月のエアライダー・b64185)だ。テンションマックス、まさにハイスピード状態。
「オラオラオラぁ! 次に死にてぇ奴から前に出ろ」
 こちらも恐れを知らなさすぎる。
「陽子ついてきてるか! あたいは先に行くぜ!」
 横を見ないでつっこむから、別のワシコブラに足首を噛まれそうになった。けれど、そこへ仲間がつっこんでくる。背中から、だが。
「こっちをむくといいですよーっ!」
 あはっと笑い声でもつきそうなテンションで、鈴森・奏(は走り出したら止まれない・b81438)が、背面体あたり。ワシコブラが、がちんと口を閉じて、自分の牙が突き刺さった。
 キックの反動で位置を飛び渡らせるのはいいが、ちょっとタイミングがずれたらしい。
「太陽と月が協力すれば、怖いものなんてありません!」
 奏の姿勢を、支える仲間がいてくれた。シグナルフライを踏み台にした文月・裕也(太陽と月の着ぐるみ探偵・b33412)だ。
「そうだな。おっと、集まってきた……ちょっと離れろ」
 とん、とゴーストを蹴って跳ぶ。カナリヤカマキリの集団中央で、レッドダイナマイト! 夜空に気魄の花火が咲く。
「空中戦はいいね! 最高だね! 血がたぎるね!」
 クロランタ・プレートスミス(エクストリームストライカー・b46683)も全力全開。出し惜しみなしのサンシャインドライブから、続けざまの紅蓮撃だ。気合いで続けているのか、それとも、どこからか吹く風が、炎を煽っているのだろうか。
 彼女らのチームではないが、綾瀬・千鞠(祝福の娘・b31068)もまた、風に力を与えられている気がしていた。
「ふふふ、ダイビングなんて久しぶりですが、空にいるのはとても気持ちがいいのです。風が、いつもより千鞠の近くにいる感じがします」
 どの戦いの地にあっても、全員無事の帰還を……。その願いを風が届けてくれるように思える。
「風の踊る空を、風の走る地上を、あなたたちの好き勝手にはさせないのですっ!」
 光源をかかえ、音源をかかえて、派手な炎で電光をともなうアビリティで戦闘。エアライダーたちのもとへ、ゴーストが集まってくる。
 その中に、ひときわ巨大な黒い妖鳥がいた。ワシキングコブラ……いや、エジプトであるからワシファラオコブラというべきか。
「長くて言いにくい名前ですね」
 ルリナ・ウェイトリィ(白金の月・b22678)が、ワシファラオコブラの前面に立つ……いや対面して落ちることになった。
「こういう大物がひっかかってくれたなら、身を隠しながら降下している人たちは気づかれてませんね」
 自分が倒れても、みなにつなげられればよいのだと、ルリナは思う。むろん、簡単に倒れるつもりもない。
 彼女も属するチーム「眠れる泉」は、互いを援護するため、さほど離れないように気をつけていた。
 風上・颯(太陽のエアライダー・b50616)が、鏡雨転身で背面にまわり、プロミネンスパンチを叩きこむ。だが、巨大すぎるワシファラオコブラはゆるがない。巨大なコブラの顎が、ルリナを飲みこもうとした時、森田・雪絵(刃の女王・b21698)がかばうように飛び込んだ。
 剣一閃。得意は居合い。剣は牙を断った。しかしそれすらフェイント。クレセントファングは、まさに逆牙。
「これ以上……誰も死なせないんだから!」
「森田先輩も、死なせるわけいかないなっ」
 白燐奏甲をまとった砂宮・佳乃都(朝焼けのねがい・b71138)が、カバーに入る。
 その彼女たちに向かって、牙を失ったワシファラオコブラは、毒息を吐きかけた。しかし、超猛毒も隈野・小弥太(小鴉・b79090)の浄化サイクロンが吹き散らす。
 さらに颯の致命電光と、雪絵の再度のクレセントファングが、ワシファラオコブラを粉砕した。
 だが、敵はまだまだ多い。
 鳥のゴーストどもが、夜空を自由に飛翔できるのは、リビングサンという明かりがあるからかもしれない。
 ニヤニヤといやらしく笑うリビングサンどもを統括するのは、太陽神アトンを名乗る巨大リビングサンだ。
「ゴーストなのにえらそうね。太陽のエアライダーで神風使いの私も『太陽神』名乗っちゃおうかしら」
 黒づくめに身をかためて、地上を一直線に目指す羽柴・紫弦(真ファイアフォックス・b01189)は、一瞬、そんな誘惑に駆られた。
 だが、自分の役目を思いだして自重する。ここは囮役を引き受けたメンバーにまかせて、地上へおりる「道」を必ず作ること。
 滑走路へおりたった紫弦が、ゴッドウインドファントムの一撃を地上の敵に放つころ。
 頭上で、偽太陽神アトンと戦いはじめた一団がいた。チーム「片眼鏡」の面々だ。
 配下のリビングサンどもを踏みつけてゆけば、たどりつける――そんなルートが見えたのだ。
「陽動が役目だけど、チャンスがあれば倒しちゃってもいいですよね?」
 クレセントファングを利用しての、連続回転で、露木・水無月(月牙天翔・b43410)が肉薄するぅ! むろん、孤立は危険すぎる。チーム「片眼鏡」との連携はたもっていた。
 水無月の背中にせまる雑魚リビングサンは神崎・結那(向日葵の君・b16506)が致命電光と天雨豪流で掃除する。
 回転し、ひねり、くぐり、派手なトリックを決め、まるで風とたわむれるように、美しい軌跡を描いて、パメラ・カルティエ(駆け抜ける風・b68425)がアトン前に飛びだした。
 そのパフォーマンスをまのあたりにし、ゴーストのニヤニヤ笑いが困惑に変わる。
 そこへ、古月・明(アコニタム・b80183)が、落下速度を通常に戻し、重力を生かしたキックを叩きこんだ。
「一撃必殺! くらえ! アキラちゃんキーック!」
 思い切りめりこんで、はねかえされる。落下途中で、パーカーの空気抵抗を使って姿勢制御。雑魚を踏み台に飛んで戻る。
 片眼鏡の連携に、さらに仲間がくわわった。
 トップスビードに乗ったウルスラ・ロザーノ(鈴振り燕・b57572)のクレセントファング! さらに死角から、ファリューシング・アットホーン(宙翔る双頭の鷲の子・b57658)もクレセントファング。まさしく空の申し子たる、エアライダーの面目躍如。落下速度を調整できるだけのはずの彼らに対し、飛行できるはずのアトンが、まるでついてゆけない。変幻自在の空中アクロバットだ。
 戸惑うアトンの触覚が、まとめて投げ縄でひっくくられた。高橋・二二子(アナザージオタクシス・b83417)のしわざだ。
「ペロキャンみたいな顔してるくせにッ! 太陽神とか名乗るんじゃないわ。このテスト勉強の敵ィーッ!」
 これでアトンは逃げられない。
 そして、さらにもう一組のペアがくわわった。
 天川・そら(ダンスウィズミルキーウェイ・b71485)と御子柴・ひなた(星に寄り添う微笑み色の詠使い・b53125)だ。
 ひなたは、黒い衣服をまとっているから本来は隠密行動組だったのだろうが、たまたま激戦のただ中に飛び出すことになったのだ。
 となれば、遠慮してもはじまらない。
 アトンにとっても、思わぬ奇襲となったようだ。なら、その利点を生かさぬ意味はない。まずは、そらが隕石魔弾を叩きこんだ。ひるんだところに、ひなたが、プロミネンスパンチで思いっきりぶん殴った!
「恵みをもたらさない太陽なんて、太陽の風上にもおけないよ!」
 すでに「片眼鏡」とウルスラ、ファリューシングによって忌まわしき熱光のほとんどを吹き飛ばされていた偽太陽神が、その渾身の一撃に耐えられるはずもなかった。

●降下部隊、光をもたらす

 空中の敵は、囮部隊によって掃除されつつある。これなら、輸送機は危なげなくおりてこられるだろう。
 しかし、着陸するには、地上の清掃が必要だ。それは、目立たず隠密裏に先行した部隊の役目。
 これで三度目の経験になる空中戦を終えて着地した真月・マサト(中学生月のエアライダー・b47415)は、何年か前のメガリス『イカロスの翼』回収より、今回のほうがキツかったなと思った。
 空の敵を狙うか、と夜空を見上げる。
 周囲に降りたものに声をかけようとして、はっと気がついた。
 滑走路を異形の影が埋め尽くしている。金属の光沢を持つ、巨大な甲虫だ。妖獣であろう。エジプトの象徴、スカラベ。
 鉄の殻、青銅の殻、銀の殻、黄金の殻。装甲をまとって、ぞわぞわと迫ってくる。銀の殻を持ったスカラベは飛行も得意なのか、輸送機をめざすものもいるようだ。
「絶対に、輸送機を狙わせたりはせん!」
 すでに地上スレスレの位置にいたアリシア・マリンスフィア(トレードル・b22046)が、ライトニングヴァイパーで敵をなぎはらいつつ、着地する。
 続いて数十人がおりた。中には、空中で既に負傷したり、毒や魔炎に侵されている者もいる。加東・大治郎(少年ライダー・b25895)の浄化の風が、彼らに癒しをさしのべた。同じく四季・春介(春暖・b31094)が、エアシューズで駆けまわりながら、戦文字「天」で回復を行っている。彼らの親世代なら、その姿に、昭和期に活躍した男性アイドルグループを思い出したかもしれない。
 うっかり、カモフラージュ用マントの色選択を間違った安須来・柚架(太陽輝く大空へ・b45503)だが、傷口がふさがると同時に、そのマントをひるがえして飛び出した。たった数秒でも稼げればいい。その数秒が数百人重なれば、充分な時間が稼げるはず。
 しかし、先行着地組が撃墜のための態勢を整える前に、十数匹のシルバースカラベが、迎撃機として飛び立っていった。
 だが、そのタイミングは、銀誓館に利した。わずかに遅れて落下してきた波状攻撃組が出鼻をくじいたのだ。烏森・メジロ(いつか月に行ってみたい・b26804)が、その背を踏みつけてとびまわり、追ったシルバースカラベ同士がぶつかりあう。閨峪・深澄(メガライダー・b25076)が、目深にかぶった帽子をあげ、炎の魔弾を射ち放つ。
 さらに小鳥・身裂(墜とした曇天・b81504)の魔蝕の霧が、飛び立とうとするシルバースカラベを惑わせた。
「その牙も爪も、要らないだろ。落ちて消えるんだから」
 まさしく。まさしくその通り。
 いっぽう、地上を掃討しようとした面々には、アイアンスカラベとブロンズスカラベが、大地を這って押し寄せた。
 マント代わりの黒布が空中高く吹き飛んだ。鴻上・奈々(グリッサンド・b58888)のグラインドスピンが、甲虫どもを薙ぎ払う。
 顔を黒く墨で塗った時原・悠亜(風とともに・b59169)が、転がってきたスカラベに、ナイフでとどめを刺した。
「だいじょうぶ? 助けあっていこう! おちついて」
 悠亜は緊張しているけれど、ダイブのわくわく感も抜けていないようだ。おちついて、というのも自分をいましめる意味もあるのだろう。奈々が、それに笑顔を返す。
「戦ってるのは私達だけじゃなくって
ずっとひとりで戦ってきた誰かと出会うために、ここに導かれたような……そんな気がする。ここで挫けちゃ元も子もない、道は絶対に切り開こう!」
 だが、まだまだスカラベは尽きない。見えているのは地面が3割、スカラベ7割。
「状況は厳しいが……何とかしてみせるさ。ここは俺達エアライダーの意地の見せ所、だろ?」
 絶体絶命。だけれど、胸の高鳴りを抑え切れない。そんな表情で、美咲・紅羽(アクセラレータ・b65300)が、おりてきた仲間と連携を組む。
 アイアンスカラベは、鉄の針を射って攻撃してきた。
「カメラ小僧のフラッシュより避けるの簡単♪」
 椀田・桃(愛の冒険者にして桃色の旋風・b71469)が華麗によける。
 紫倉・古湖(夕陽色の憧憬・b22979)、星海・業(魂風に舞う翼・b22539)、遠藤・友理奈(灰塵の風景・b83518)らも、互いに声をかけあって、死力を尽くす。
「――パーティを始めましょう」
 山科・月子(ディープブラッド・b61466)の暴走黒燐弾がスカラベを飲みこむ。それは、風が黒い花弁を散らし、邪虫を包みこみ、喰らい尽くすがごとき光景。
「まあ、あんなところに、メインディッシュがお待ちかねよ」
 月子が見つけ出したのは、戦車のようなサイズの、プラチナに輝くスカラベだ。次々に、小さなスカラベを生んでいる。
「そのまやかしの輝きを銀の一閃、クレセントファングの一撃で沈めてみせます」
 鏡・月白(シルバースター・b37472)が、先陣切って攻撃をしかけた。ここまで「地味の才能」を発揮して、敵の目をくらませてきた日比野・弥月(ルミナスライナー・b47722)が果敢に斬りこむ。援護のため七瀬・鏡華(古流武術継承候補者・b49180)が騎兵銃で確実にスナイプ。プラチナスカラベのゴーストウォールたるプチスカラベを葬ってゆく。
「妹が宇宙で頑張ってんだ、兄である俺がだらけてられねぇ!」
 佐々・健吾(風牙装甲ゼピュロス・b53978)が、ライジングヘッドバッドでプラチナスカラベの右羽根を砕いた。
 だが、プラチナスカラベを救うべく、二体のゴールドスカラベが駆けつけようとする。光速のごとき動きを、一陣の疾風が凌駕した。
「ボクは風、旋風が如く撹乱し、嵐となりて戦場を蹂躙する存在さ」
 梶原・沙紀(破暁の先駆・b21488)は、まさにその称号のごとく、ゴールドスカラベの先へ先へと駆けて、翻弄する。突破できない。
 そこへ頭上から、波状落下のさらなる味方がおりてくる。
 式銀・冬華(真月のエアライダー・b43308)らにむかって、ブロンズスカラベたちが、散弾のごときトゲを吐いたが、何ほどのことやあらん。
「ははは、空の気持ち良さを前にこの程度何でもないな」
 次々に、グラインドスピンで回転しながら着地。駆けるが早いか、クレセントファング。神原・勝義(真ムーンサルトリ・b28635)、春河・翔子(心のヒビと感謝と繋がる命・b77339)らが続き、敵の躊躇をついて、空中での消耗からの回復アビリティをかける。
「まるで翼が生えたみたいだった。こんな心躍る戦場は無いわね。まだまだ油断できないけれど!」
 鬼灯・遙(彩雲のサーブルダンサー・b46409)が、ブロンズスカラベやプチスカラベを一掃してゆく。
「さすがにこの高さから落ちるのは初めてだったぁ……。さあ、これからよ。邪魔しないでったら!」
 着地しざまに大地にころがり、次々に水刃手裏剣をはなつのは、冬城・ちか子(疾風旋律空色娘・b76885)だ。それが、プラチナスカラベの複眼をえぐった。
 ついに、プラチナスカラベの姿が消える。それが消えると、スカラベたちも、もがきながら消えていった。地上が、クリアになってゆく。
「滑走路、確保ッ!」
 すかさず連絡が飛んだ。もはや空中の敵も少ない。
 輸送機がおりてくる。

●後方支援本部 腹が減っては戦はできぬ

「……ってね」
 パール・プラタナス(ソレスタルガーディアン・b06815)が、水と食料の確保に走る。
「気力の維持には必須ですからね」
 片岡・真吾(トワイライトウォーカー・b01690)も、同じ意見だった。さらに彼は、非常に的確な提案を続ける。
「治療の場と休む所を分けることで欝の電波を遮断できます。あと、食料は温かいものを。炊き出しを行いましょう。ぬくもりは、人を安心させるものです」
「調理ができない時用に、こういうのも用意してきたんだけどな」
 バリア・ガードナー(破壊と癒しの使い手・b79451)が、携帯食料やスポーツ飲料をいつでも配布できるように手配する。
「作れるならこれだな」
 固形ブイヨンを利用して、熱々のスープをしこみはじめた。
 それができるまで、氷室・朱音(料理好きな地蔵星・b46172)が、水とチョコを配布する。
 救護所の配置は、いろいろな意見が出た。
 ジョフロア・モンストルレ(シュネルベフェールスハーバー・b15471)の空港ホテルや近くの病院を使う案も悪くはなかったが、そこには、世界結界に守られて何も知らぬ一般人が多いゆえ断念することになった。だが、医療への献身にゆらぎはない。恋人のミリアム・ハートウィック(青龍拳士・b17448)とともに負傷者の緊急処置にあたることになる。
 結局、万が一の撤退にそなえて、負傷者をいつでも運びこめるように、着陸した輸送機のそばに準備することにした。
 熱血救護班のロック・パフォーマー(高校生フリッカーダイヤ・b83696)や護身・刀(除霊建築学の勉強中・b66152)たち、逆・守人(符術使い・b40958)、ルク・ブレイブ(後方支援に全身全霊・b78237)らが声かけをし、力をあわせて、大型テントを次々に立ててゆく。
 そこにベッドを並べているのは、エジプト民族衣装っぽい姿の角田・堅一郎(真ゾンビハンター・b57323)だ。通路の幅、治療スペースの配慮もできている。堅一郎と同じく【絆】に属する妙興寺・摩耶(霧のカルナック・b60524)が薬品の分類を、ヴィラン・アークソード(ネコミミダンディー・b70542)などは、物資輸送を行っている。
 ブルーシートが敷かれ、包帯、ガーゼ、消毒薬、止血ゴムバンド、冷却シート、生理食塩水、洗面器、などが用意された。
 作業がスムーズに進んでいるのは、ルーナ・ランフォード(遠隔神術師・b61963)が、あらかじめ現地の地図を見つけて、計画を立てていたからだ。
「妾の実力は低い。だが、低いなりにもやれることはあるということじゃな」
 また、松永・小草(中学生真鋏角衆・b77892)は、機内ですでに色つきのビニールテープなどを使って区割りを行い、人員と物資が、着陸後混乱少なく動けるように整理していた。個人携行物資をまとめる時間はさすがにとれなかったが。
 彼は、降下中の戦いをまのあたりにして「『ま、まさにゲヘナ・アナスタシス(地獄からの復活)な光景ですね……。本番は、まだこれからだというのに」とつぶやいていた。そう、本当のゲヘナ(イスラームの地獄)を見るのは、これからだ。
 本部に明かりがついた。八月晦日・蓮(縋れぬ霊媒士・b81990)が見つけてきた、空港の電源設備を利用したのだ。ガスや水道も拝借した。
 山上・美和子(中学生除霊建築士・b73391)は、除霊建築学の知識を生かして、支援本部に祝福と守護を与えてゆく。ナイル川を東に見て、四神相応の祭壇を作り、富士山で取ってきた土も置いて。ピラミッドまで気を流しこめるようにするのだ。
 救護所の形が整ったら、手当てのためにそこで待機する面々もいる。もちろん、逆襲への警戒も怠りない。また、手当てするべき相手は、銀誓館の仲間たちだけではない。
 ユール・ヴェルゼル(雪幸綾羅・b82254)やサフィス・フェリシア(紅焔の曼珠沙華・b82513)らは、一般人の保護および誘導を考えていた。時は真夜中でもあり、世界結界の効果もあるから、そうそう一般人へ被害がおよぶ事態は起こらないだろう。とはいえ、万が一にそなえることは重要だ。
 もちろん、戦場からの搬送と救護を担当するべくひかえている、天羽・玉乙(八咫牙・b82389)のようなものもいる。
 本部がおおよそ片付くまで、一時間とかからない。その間に、カイロおよびピラミッド間の移動を検討する。羽杜・悠仁(狩銀ノ宮・b13821)や天明・光(光と闇・b55301)たちが、巴衛・円(青龍拳士・b18215)などとも一緒に、ルートを決めていった。エインセル・アンフィスバエナ(暁光に捧げる華・b82518)が、機上から撮影した地形写真が、ずいぶん参考になった。
 また、ガノッサ・コルンルゥ(悪を斬る者・b79178)は、空港管制塔の屋上に飛び乗り、暗視スコープつき双眼鏡で、周囲の状況確認をおこたらなかった。空港内のクリアリングを考えてもいる。御境・紅菊(神駒・b28909)らも、掃討組としてスカラベの残存兵を排除した。「あぶないよー」と、いささか場違いな口調で警告するのは、仲間に無駄な緊張を与えないための、意図した軽さだろう。
 とにかく死亡者を出さないことを心がけ、セレエル・ベディナン(忘却されし深森の血族・b69497)らが、メディックとしての対応策を練ってゆく。薬品や包帯が準備されており、その場での応急手当も可能だ。
 後方支援本部の陣容が整いはじめると、銀誓館の能力者たちは、進軍のための隊列を作りはじめた。
 不破・赤音(真ゾンビハンター・b22569)が、全体作戦を説明する。すでに空港確保と後方拠点設置は終えた。次はまず、全員でカイロ市の解放を目指す。ルールが狙う博物館も確保せねばならない。そして、次の戦場はピラミッド。カイロでは戦力を温存するべきメンバーもいるだろう。
 赤音本人は、威力偵察班に向かう予定だ。同様の仲間たちとともに、さっそく出発する。
 戦力をばらばらにぶつける、軍事用語でいう逐次投入にならないよう、ある程度の隊列を組むことになっていた。
 ごったがえすその中で、護堂・真愛(パラベラムフィール・b78714)は考えていた。
 ……誰かと一緒に遠くへ行くのは初めてです。それも、外国だなんて想像もしていませんでした。戦場でさえなければ、浮かれてしまえるのですけど。いつか、平和なこの土地を、本当の旅行で訪れてみたいですね。
 それは、幾多のものたちが共有する思いだろう。
 だが、いまは戦いの時。
 進軍メンバーには、緊急信号である花火の信号弾の意味が、徹底告知された。
 灯台守を名乗る面々が、それぞれの色で各戦場の状況を知らせあうのだ。、
 コンス・コンス(屍人狩り・b82713)がすでに機内で周知していたが、念を押す。彼らは、モカッタムをはじめとするカイロの高台各地に、信号灯を設置して回る予定だ。これが成功すれば、全体の進軍はスムーズになるだろう。
 七儀・唯冬(サイコドラマと喜劇・b02567)は、布やセロファンで光の加減を調整したライト類を準備している。氷柱儀・櫂(いばら姫・b40174)は、やや頼りなさそうな面々に再度、色の意味を確認させ、その後で戸崎・水奈(翡翠の花・b84412)が花火を配布した。
 さあ、出撃だ。

●砂漠の大会戦、ミイラ軍団を叩け!

「うわぁ…すごい光景だね、ホント。でも気後れしてる場合じゃないね! うし! ミイラ軍団蹴散らすぞー!」
 銀誓館の移動と攻撃はすばやい。
 ミイラ軍団の大半が、カイロ市内に入ってくる前に、砂漠で迎え撃つことに成功した。
 敵の姿を見た閨峪・真澄(ティーカラースケルツォ・b35038)が発したのは、冒頭の言葉であった。
 空港を埋め尽くしたスカラベの時は、まだ地面が見えた。空港という限られた範囲だった。
 今度は違う。
 地面が見えない。ミイラの下はまたミイラ。砂の下にもミイラ。視界の右端から左端、彼方の地平線までミイラだ。
 これからはじまるのは、単なるカオス。相手には作戦もなければ、まともな指揮官もいなかった。いや、いるのかもしれないが、それが選択したのは真っ向からの怒涛の寄せであった。
 大軍に戦術なしという古来の言葉がある。ゆえに選択したのか、ほかに選ぶ道はなかったのか、カイロを目指すミイラの群れが、立ちはだかる敵対者に対して行ったのは、包みこみ、押しつぶすことであった。
 ミイラ軍団の数は圧倒的である。1体1体は、今の銀誓館の能力者と比べれば圧倒的に弱い。二、三十体で、並みの1体なみ。だが、敵は下手をすれば十万を超える。この数もまた、銀誓館にとって未知のレベルであった。
「さっさと片付けて、試験勉強に集中したかったんだがな。受験生まで、勉強をほうりだしてきてるっていうのに」
 緋坂・涼(緋氷刃・b83915)は、姉のことを思い出した。
 ミイラ軍に比べればはるかに小数だが、銀誓館もかなりの人数だ。家族や友人がどこにいるか、互いにわからないこともある。
 その姉、緋坂・燐(氷想華・b53619)は、ひとかたまりになった銀誓館軍の右翼で、今市・直人(手遅れ・b36897)のかたわらにいた。
「俺は数でくる相手のほうが得意だし。両手に花でがんばらなくちゃね!」
 さすがにここまでの法外な数になれば、そうも言っていられないだろうが、カッコつけるのが男というもの。『燐ちゃん惚れていいのよ!』と、ちらりと視線を投げて、忍獣気身法で強化をはかる。
 もうひとり、そのかたわらに四季光・春葵(シマリス・b61102)がいる。ヤドリギの祝福を盟友二人に投げかけた。
「ミイラは。友達になれないの。かなー……。元々は同じ人間なのに。なー……」
 皆が笑ってくらせる世界になればいいな、という祈り。
 同意するように、吹く風。
「気持ちはわかります。ゴーストというだけで全否定しようとは思いませんが……虐殺に与するなら話は別です。共存を望むなら、別の歩みがあるはずです!」
 たまたま隣にいたリリエル・ガブリエラ(絢華爛咲・b62071)が、僚友をはげますべく、おのれの信条を表明した。
 うん、と春葵もうなずく。
 同意する者たちは多い。
 進み出てきたのはアイリ・フリード(迷いの月・b83530)と高橋・圭(狼変身旅暮らし・b40862)の恋人ペアだ。
「今までは能力者って理由だけで漠然と戦ってきたけど、もう今は違う。この学園を作った先輩の想いがわかったから。……だから絶対に勝つ。負ける気はしないよ。干物なんか僕達の敵じゃないね」
 アイリが言うと、圭は恋人の手の甲にそっと触れた。
「銀誓館がなければ俺はアイリと出会えてもいなかったんだしな。……怪我するな。帰りはみっちり、機内でテスト勉強を教えるから」
 狼姿で、過去問解き終わるまで監視だぞ、と微笑む。
 聞くともなしに聞いていた平賀・双葉(現在を探る迷糸・b32970)は、もうテストから解放された我が身にほっとした。
「でも、世間では卒業旅行というのをするらしいけれど………こういうものなのかしら?」
 土蜘蛛ゆえ、あまり人間の風習にくわしくないけれど、たぶん違うのだろう。だが、思い出の品で身をかためたこの戦い、卒業前の大仕事にが丁度良い気がしてならぬ。
「露払いの露払い。良いわね………やり甲斐があるわ」
 いよいよ、ミイラ軍団の最先陣が、射程に入ろうとしている。
「混戦になれば、範囲攻撃のアビリティが使いにくくなります。距離を詰めさせないで!」
 榊・那岐(斬妖士・b48026)は、班分け用の腕章と連絡用花火を準備していた関係で、指示伝達の役目を任じられていた。
「攻撃……開始!」
 宮代・月音(岩砕き・b18821)が手裏剣を続けざまに叩き込む。40体撃破!
「堕ちよ星屑、敵のすべてを灼きつくせ!」
 織部・紗々(東雲の古歌・b19908)が隕石の魔弾。そして、背中合わせのリュクサーリヒト・ユーバー(夜想玉兎・b23319)がナイトメアランページを繰り出す。
「生命使いの魂の煌き、刮目せよ!この絆は生死ですらも分かたれぬ!」
「必ず、一緒に帰りましょう。……帰ったら、さくらもちでも食べませんか?」
 互いのぬくもりが互いを支え二人で84体を撃破!
「くれないの蛇よ。やつの喉笛を、食い千切れ!!」
 桃宮・紅綺(リリス狩りの赤い盾・b57806)が、カラミティハンドで38体を砕く!
 黒澤・夜斗(暗夜赤光・b21583)が暴走黒燐弾で90体を殲滅すれば、同じ黒燐蟲使いの黒瀬・芙美(シュテアネの花・b48231)が、91体吹き飛ばす。
 だが、砂中をもぐり、それらの猛攻をくぐりぬけて、銀誓館軍内部へ一部のミイラが出現した。
 霧宮・凪乃(銀夜の騎士・b15075)のスラッシュロンドが65体をなぎはらった。時ならぬ舞踏会の開催だ。シュベルト・オセ(アイゼルンゲシェプフ・b47155)も優雅にして残忍な輪舞で、78体を沈黙させる。
「敵陣に穴を開ける! 突破し、戦線を押し上げ、市街地へは近づけんぞ!」
 それに応えて、セオドア・エフェメローズ(鮮血の貴公子・b47033)もスラッシュロンドで93体。吸血鬼たちの連続輪舞が、内部に入りこんだ敵を一掃する。
「それにしても、オシリスやイシス、ラー、セトのような有名神はまだいるはず。どこかにかくれているんだろうか」
 いるならそれは敵か味方か。
 ともあれ、ふたたび距離は開き、銀誓館の猛攻が続く。
 そして、異邦刃・トキハ(黒い月の残滓・b72503)はヴァンパイアクロス!
「無粋で悪趣味な過去のオブジェども! 過去の遺物ごときが未来を生きる者の道を阻むでないわ!」
 この地には、大きな力があると、トキハは感じている。その力がどんな道を示してくれるのか、トキハは愉しみでならない。
 だが、そのトキハを、猛烈な砂流が襲った。
「なんじゃ!?」
 超高速のやすりをぶつけられるような攻撃に、トキハが鮮血を舞わせる。
 ヤドリギ使いの沢北・夜水(沢北家の魔女・b62531)が、それを見かけてあわててヤドリギの祝福による回復を試みた。だが、彼女にも砂流が襲いかかった。ミイラ軍団にも、遠距離攻撃可能なものがいたのだ。それを前に押したてなかったのは、敵に知性的な指揮官がいないゆえなのだろうが。
 ブラックヒストリーで殲滅、豊穣で回復、そして高速の連携と、要の活躍を見せていた小鳥遊・陽太(おひさまといっしょ・b66965)が、三発の砂流による集中攻撃で倒れ伏す。
 富樫・亜季(舞闘讐撃アンチクロス・b67315)が、緊急を知らせる花火を準備したが、砂が押しかぶせられた。
「……!」
 愕然としたところへ、砂中からミイラが躍り出る。断罪ギロチンで36体を断ち切り、そこへさらに100体が出現。
 砂中へ引きずりこまれ……かけたところで、鈴宮・玲音(宵風を纏う黒蝶・b09851)が黒影剣で敵を切り払ってくれた。
「アヌビスが市中にいるらしい。そちらに向かったやつらもいる。勝って、あいつのいる場所に戻る」
 彼の語る決意を、救われた亜季も周囲も共有する。
「神であろうと何だろうと、敵対したのなら斬り殺すのみ!」
 遠距離攻撃の打ち合い、砂中からの奇襲。銀誓館の戦線が、崩されつつあった。だが、まだそれは過程にして途上。すなわち仮定で確定にあらず。
 逆転する! その決意、固し。
「かかってこいやアアアアァッ!!」
 犬束・令法(ヴェルトロ・b55579)がヘッドバットで3体を塵に。彼と同じチーム【StS】の月代・文雪(紅き川の姫巫女・b38057)は、ふつうに近づいてこようとした大集団に、光の十字架をばら撒き、12体を始末。同チーム、月より来たりし音無・ヴェロニカ(瑠璃虎の尾・b82879)が、怒りをあわらにする。
「異形どもの行い、許すわけにはいかぬ
この星は美しい、あのように醜悪な者どもに汚されてたまるか!」
 ここを乗り越えれば、彼女のオロチ、龍脈に関する情報が役立つ局面もあろう。そのために、いまはダンシングワールドで敵の動きを封じる。
 単騎で参加の猛者たちも、チームに負けじと邪悪に挑む。
 機内で寝ていて作戦を聞きそこねた輪廻・殺機(小学生魔剣士・b57185)は、白光と闇の刃で切りまくり、白燐蟲大拡散砲奥義で104体消滅。バランスを保つ者、すなわち天秤たらんとこころざすメアリー・ヴァルトラウテ(高校生ストームブリンガー・b84229)が、かつての『ライトブリンガー』のごとく冥府を歩み、光を取り戻す。天雨豪流は86体を押し流した。
 それを見て、折原・弥生(中学生ストームブリンガー・b84233)が声をかけてきた。
「お、同じ嵐の王なんだね! よろしく! 単騎じゃ心細くない? それにしても、あれがゴースト…俺らの敵なんだね。正直ちょっとビビってるけど……上等さ、いけるとこまでいってみようじゃないか! どう、いっしょに?」
 メアリーの天雨豪流に重なるように、致命電光で78体を燃やした。
 陽田・ひかり(狐耳はじめました・b55683)と藤井・花火(迷子世界ランキング第三位・b37031)のような、最初からのペアもいる。真ケットシー・ワンダラーのエドもいれればトリオか。
「敵、まとめ役もいないのかぁ。この諸葛ひかりさんの軍略も、見せづらいなあ」
 九尾扇で優雅におのれをあおぐのも、いまはまだ夢か。変なスイッチも入りようが、いや、もう入ってますか?
「ひかりちゃんが見つけたリーダーを、蟲の知らせで知らせてもらって魔弾で狙っていく作戦だったのにねえ」
 この竹箒で、まさに一掃って、うまいこと言うつもりだったのに。
 機内では、オロチって言うと……あ、六甲オロチ? 巨人ファンVS阪神ファンの争いがそんな昔から!? と、いう発言を、周囲からスルーされてしまった花火である。友のスイッチをオフにする前に、おのれも省みよう。
 優しい風は、俺は気に入った、という感じで吹きすぎていったが。
 過酷な戦いにも余裕を失わない、銀誓館の描写はさておき。
 内田・花耶乃(水冠・b84292)、天雨豪流にて112体を押し流す。
「やはり、乾燥には水か?!」
 と、考えたものも少なくない。
 宮代・さつき(空色の風詠い・b52693)と柳瀬・和奈(てるてるむすめ・b39816)のコンビは、あわせて292体をふやかせた。
 神崎・翔(闇を背負いし青き瞳・b04754)の天雨豪流は、156体を押し流した。
 東雲・玲(高校生ストームブリンガー・b84264)は、66体を破壊したところで、砂流の反撃を受けた。
「悪ぃ、支援頼むぜ」
 呼びかけられたアリス・フィオーレ(悲恋の月氷姫・b82632)が、玲に近づく敵を光の子安貝で牽制する。真シャーマンズゴースト・シャドウのホムラは、炎を吹いて32体を燃やした。
「東端が突破されました!」
 全体に、銀誓館が押し返していたのだが、押し返しすぎた。カイロの中心街、新市街へと向かうルートが、ぽっかり開いている。
 そこを塞ぐために急行できたのは、チーム赤と黒と、チーム賽河の面々だ。
「さあ、戦争ですのね、お姉さま方。ゲームを始めましょう……」
 犬神・美影(死神・b84368)が、自分に気合いを入れる。赤と黒の目標は、カイロ市民への被害を最小限に抑えること。ここは絶対とおさない。そしてもちろん、一緒に生きて帰る。
 ユゼン・クロイラ(水月と君をいだきし鋼の花・b35092)、久野・一(流れる水のごとく・b27035)。桃屋・怜(終わりを告げる彼岸花・b14012)、七折・冬峰(小学生真ルナエンプレス・b82800)らが、一万のミイラ軍団の矢面に立った。
 肩を並べるチーム賽河に指示を出すのは、撲・殴子(真ファンガス共生者・b15466)だ。血走った目を、ミイラ軍団に向ける。数の比は五百対一ほどにもなるが、まったく臆したようすはない。
「異形勢力は不倶戴天の敵。その存在と行動全て、私ハ絶対許サナイ」
 いらつき姉をなだめて一家の平和を取り戻すために戦う妹の撲・佳蹴(高校生真除霊建築士・b38040)をはじめ、賽河の穏切・限(高校生カースブレイド・b83646)、貴腐人の名にかけて戦う十三夜・ひばり(仮免貴腐人・b27646)、パトリシア・クーガー(論より俺様・b17205)とオリバー・クーガー(青二才・b15706)の姉弟が、指示に従って配置につく。
「くぅるびぅちぃな私が、我らが、今まで積み上げてきたものを見せてやろうじゃないか」
 パトリシアが、一万の敵に見得を切る。
 迫るミイラは、豪華な装飾を身につけたものが多い。かつての貴族たちでもあろうか。
 チーム賽河の裏密・辛蜜(三色呪言士・b79222)はその姿を睨みつけた。
「妬ましい事この上ない古代のブルジョワジーどもは、明日の晩御飯代の為に消えてもらうわ。こっちは生活かかってるのよ!」
 さらに仲間が駆けつけるまでの五分で、二つのチームは敵の七割を殲滅。しかしそろって、これ以上の戦いは無理になった。
 東端はこうして死守されたが、中央で予想外の事態が発生した。
 砂津波、である。砂流を射てるミイラが、自らを崩壊させて砂に変えることで、その妖術の規模を拡大させた。
 動きが遅くて、かわすのは簡単だったが、じつは避けてはいけなかったのだ。敵の狙いは、砂の大波に、ミイラを巻きこんで運ぶこと。
 およそ五千の敵が、カイロ市街の外れに到達した。銀誓館がそれを追う。
 制服をまとい、他者から信用されやすい姿を心がけたサフィス・ケルヴィン(高校生ルナエンプレス・b82891)や、もとから一般人の保護誘導を心がけていた、春日・詩亜(狂姫桜姫・b06819)らが、市内に先行する。後方支援本部から。赤銅・氷刄(高校生魔弾術士・b63539)らも駆けつけた。おしゃべりカラスの茶を飲んでいるから、コミュニケーションに不足はない。かつて、修学旅行でエジプトに来たことがあるグラウ・フェアトラーク(ジャバウォック・b37143)も、土地勘を生かして手伝った。幸い、時間帯も深夜、世界結界の影響もあって、一般人の姿は街路にない。
 チーム青桜の桜庭・柚樹(寒緋桜の雪夜叉・b32955)やヘイゼル・ローレンベルグ(静寂なる風の流れ・b54104)らが、掃討を担当する。迅・正流(黒影の聖騎士・b27406)、御門・儚(黄昏の梟・b41144)らも、市街すれすれでミイラに追いついた。
 しかし、少ないとはいえ、ゼロではない。ミイラに襲われる一般人を見つけ、緋神・琉紫葵(黒翼咆哮・b42772)が疾走した。
「折角目覚めたところに悪いが、もう一度冥府の門に御退場願おうか。我は、汝らの死を司る黒き咆哮」
 名乗りを上げつつ右親指を噛みちぎり、頬に一筋の血化粧を施す。震脚が80体を吹き飛ばす。
 それを偶然見かけてしまった観光客の前に、ほわりと八重咲・凛々花(月夜に咲く桜花・b51904)が姿をあらわした。
「えらい、ごめんなさい。これ、映画の撮影やねん。化けモンの特殊効果、よぅ出来とるやろ」
 ふつうならごまかせるものではないが、世界結界が、一般人の認識力を狂わせている。
「これから、火薬も仰山使うで、おっちゃん、危ないから宿に戻っとき」
 その言葉に、観光客は唯々諾々と従った。
 ミイラ軍団にとってはここから先は行き止まりだ。浅野・クリューナ夢衣(絆を紡ぐシロガネの夢使い・b44387)が101体、巽・誠一郎(柔らかい弾丸・b09486)が90体、鈴見・鼎(スペルユーザー・b03352)は89体、小暮・蔵人(魔弾の狙撃手・b49923)は70、文月・風華(暁天の巫女・b50869)の101、ユーリ・ガイストハック(ドラゴンキラー・b72625)の74体。桃宮・紫戟(リリス狩りの青い斧・b76106)は69体。
「えへへ〜、まとめて逝っちゃえっ! こんだけ相手がいると、気分良いの〜っ♪」
 という、山野・進(ぽかぽか陽だまり拳士・b76199)のブラックヒストリーで、壊滅、消滅。
 百万を数えた敵はすでに六割が消滅。
 いまごろになって、新手が出てくる。
 騎兵である。馬ではなく、ラクダにまたがったミイラだ。
「ラクダさんは可愛い」
 レベッカ・マーキュリ(くまさんタンバリン使い・b41634)は、きっ、と騎兵軍団をにらみつけ、くまさんタンバリンを突きつけながら、言った。
 わずかに首をかしげて間をおいて。
「……ちょっとニヒル?」
 ふつうのラクダなら、たぶんそう。だが、こいつらが乗るラクダは、異様な笑いを浮かべて、後ろ足だけで駆ける。妖獣ドフルだ。
 やつらの突撃の正面に立ったのは、チーム「フューネラル」である。
 鳳凰寺・龍也(終わりを見届ける者・b53591)が、はっぱをかける。
「全員、エンチャント! 敵は千年物の干物だ。遠慮はするな、纏めて荼毘に伏してやれ」
 それに応えて、結城・薫(陽の下に立つ者・b67932)、榛・彼方(陰の欠片を抱きし者・b35037)、草薙・憐(ダメダメ三つ編みマン・b54120)、龍神・結奈(幼き月の遠征女帝・b82423)らが、それぞれに攻撃や回復のアビリティをはなつ。
 そこに、チーム烈火の面々や、焔月・燈夜(誰そ彼の月狐・b82459)御狩・宙(紅白月・b82559)らもくわわった。騎兵を防ぐには、その機動力を奪うこと。身を捨てるように、彼らが防壁となった。
 烈火のひとり四条・要(絶対理性・b59329)は、心なき暗殺機械として育てられた。だがある人物に救われ、銀誓館へと導かれ、そして、人の心の深みと温かみを知ったのだという。共に笑いあう喜びを、理不尽に対する憤りを、取りこぼしてきたものへの悲しみを、そして、友とすごす楽しさを、学んだのだ。
「我が御手は四条を護る要なり。四条とは四情、喜怒哀楽の人の営み。友とすごすこの世界を護るために。まだ見ぬ、未来の友のために。何より、私が私であるために。護る覚悟を見よ、ミイラ軍。四条要、推して参る」
 この要たる壁、用意に破れるものではない。決して倒れるものではない。
 やや未熟と自覚のある小城・礼子(葬送ルナティック・b82656)は、仲間が作った防壁の隙間から、月煌絶零・永劫を撃ち続けた。自分が生き残り、敵の数を減らす。なれぬ自分は、それだけ考えておこうと言い聞かせながら。
「戦場こそ私の生きる場所、そして、それで誰かを守れるのならば」
 銀条・詩祈(中学生真ルナエンプレス・b82448)が騎兵を47体、潰す。
 白仙・雪狐(闇に吹雪く冬白桜・b81896)の七星光が、75体の騎兵を石化させる。
 榛菜・織姫(勝利を照らす織女星・b57270)は、こんな妖獣ラクダに、パートナーである白馬が負けるはずはないと確信していた。
「いっけぇ! クロスちゃん! ホワイトライトニングランページ!」
 その蹄に、109体の騎兵が屈する。
 むろん、銀誓館側も無傷とはゆかない。
「この方を後方へ送るため、手を貸してください」
 サーシャ・ロマノヴァ(魔女王・b49614)の願いに、朋・朔夜(闇夢を抱く光・b54873)が応えた。ドフルの唾液で目を封じられ、左右の肩をキックで砕かれた九曜・尚人(幻霧斎・b05691)が運ばれる。こうなるまでに、すでに156体を撃破していたが。
 緋之坂・央璃(タラントラディベルダストロ・b00444)、久遠・彼方(黄昏は愁橙を騙る・b00887)、五十鈴・尚人(神誓継承者・b17668)ら、あわせて1000の騎兵を撃破したものの、みずからも戦闘不能に陥る。
 が、もはや残るドフル騎兵、わずかに200。
 砂流射撃ミイラ兵、わずかに300。
 通常ミイラ兵、残存、541。
 戦闘開始時の1%未満。
 そして銀誓館の損耗率、およそ2割。
「さあ、ここは任せて早くピラミッドへ!」
 島守・由衣(透空・b10659)が、高らかに叫んだ。
 が、ピラミッドへ向かう戦力だけではない。すでに、アヌビスが占拠した新市街へ向かった友に、増援を送らなければ。

●裁かれるのは俺たちじゃない!

「静島・茅(果敢な紡ぎ手・b45688)……我らを発見し……アヌビス3体を滅す大罪……轢潰に処す。……武藤・旅人(幻惑の微笑年調伏士・b11445)、我、審判のアヌビスを発見……その身に最初の傷をつける大罪……砕潰の刑」
「うおうっス!」
 その右手に、巨大な法典をたずさえたアヌビスゴーストが、銀誓館の能力者の一人を蹴り飛ばした。
「このくらいで……倒れてられないっす」
 旅人は顔をあげたが、そこが限界だ。
「大丈夫ですか!」
 救急箱をかかえた九重・優香(中学生霊媒士・b81377)が駆けよってきた。すぐに手当てをはじめる。
「罪人をかばうは大罪なり……断潰の刑」
 ひときわ巨大な目を持つ審判のアヌビス、その法典を持たぬ左手に、剣が出現する。
 優香の使役ゴースト、真モーラットピュアのモコがパチパチ花火で牽制するが、意に介したようすもない。
「逃げろ……」
 旅人は動かぬ腕を動かして、優香を押しやろうとした。だが、優香は逃げずに包帯を巻き続ける。
「……審判を下す」
 ふりあげられた剣。
「あうぉぉぉぉん!」
 遠吠えのような気合いともに、その剣にアルフレッド・ウッドストック(白狼の遠吠え・b72349)のクレッセントファングが炸裂した。
 軌道がそれて、旅人と優香が救われる。
「嵐の中で輝けってか…ま、分の悪いバクチだな」
 一旦、距離をとって身構える。
「さぁて、張った張った!レートは、てめぇの命だ。……犬同士、いっちょ楽しもうぜ?」
「愚かなるはそれのみで罪。……破潰の刑」
 剣が、ハンマーに変形してふりおろされる。
 アルフレッドは、ぎりぎりまで待って、それをかわした。
「ありがとうございます!」
「見てたわけじゃねえ。ボスっぽいのにターゲット定めてたら、たまたまだ」
 同じチームの連れに手を出すなら、売られた喧嘩は買う、のも信条であったが。
「オレの首輪は、魂と絆で繋がってるんでね。主も忘れた狂犬のとは、出来が違うぜ?」
 彼の背後で、クロエ・ノーティス(狼の首輪・b65526)が信号弾をあげる。指揮官発見の合図だ。
「異形に組するなら討つ。それだけよ」
 三浦・螢斗(双月阻む信義の母禮・b70853)が、その王である悪路王に、内心で、おのれの歩む此の道が、御身に続くかと訊ねる。
 彼らにない知識を持つ、吹き抜ける風にもいまは答えようもない問い。
 彼ら、チーム歯車機構と審判のアヌビスが対峙しているのは、カイロ市内、悠久の流れナイルに浮かぶ島の一角だ。
 ゲジーラ島というその島に、高さ187メートルの塔が建っている。それが、アヌビスの拠点のひとつだった。
 カイロ市街を三百六十度見渡せる、展望台に座するは、巨大な目を持つ審判のアヌビス。その手にした法典のページが、自動的にめくれてゆく。
「……また、おまえたちの仲間が罪を犯した」
 カイロ市内に散ったアヌビスゴースト。それが倒されるたび、この審判のアヌビスにはわかる。そして、倒した能力者のことも知れるようだ。
「……川満・紅実(空に知られぬ雪・b16707)、アヌビス4体を石化……粉潰の刑。……氷采・陸(瑠璃色ニュートラル・b28712)、アヌビス5体を戦闘不能。……貫潰の刑。弘瀬・章人(水天一碧・b09525)、アヌビスに猟犬をけしかける愚かのきわみ。アヌビス3体が食われる。……喰潰の刑。萩森・水澄花(アクロポリスロマンチカ・b25457)……刑執行を試みしアヌビスを妨害。切潰の刑」
「そこまでだ!」
 白賀音・刀夜(白嵐・b84261)の致命電光の爆音が、審判のアヌビスの宣告をさえぎった。
 まず審判のアヌビス……そう目的を定めていた、チーム「セシェン」の一行が、信号弾を見て駆けつけたのだ。
「同じ嵐の王が届けてくれた声……無駄にしてたまるかってんだよ」
 刀夜が身構える後ろから、小さな声で、でもはっきりと歌が聞こえてきた。この世に生きていること、新しい生命が生まれること、命と命がつながること、それを讃える歌だ。
 死者の群れに気圧されることのないよう、という決意の歌が、むしろ死者たちを怯えさせている。フリッカーでなくても、歌には力があるのだ。
 人の心をふるいたたせる力が。
「おお……おぞましい。汝、裂潰の刑」
 審判のアヌビスが、四辻・青葉(静穏な癒し手・b44486)に宣告する。
「いいえ、私はまだ、死後の安寧はいりません。みんな、好きな人が待ってます。また会うために、誰も倒れさせません!」
「無駄な抵抗……死の審判はすべてに平等にして絶対……なり」
「無理? レモンたちは今まで無理なことばっかりしてきたよ。今さら、無理とか無駄とか聞き飽きたし、レモンたちには関係ない!」
 レモン・ブラムレオン(は小粒でもパタリと致死量・b55155)がきっぱり宣言。静島・茅(果敢な紡ぎ手・b45688)の紅蓮撃が、闘争再開ののろしとなった!
 信号弾を見て続々と集まってくる能力者たちだが、審判のアヌビスも三大統率者の一人だ。強い。罪の宣告は能力者たちの身を縛り、変幻自在の審判の剣槌は、的確に苦手をついてくる。
 広さは十分な展望台も、戦いの舞台としては不自由だ。うっかり吹き飛ばされれば、はるか地上へ落下する。回避を重視すると、攻撃が甘くなる。だが、長期戦となれば一般人が巻きこまれる可能性も高くなる。
 能力者たちは、覚悟を決めはじめた。
「……異教の神で在ろうと、既に今世は御身らが在る地に非ず。我が雷槍を灯火とし、今一度冥府へ還られよ!」
 メモリア・フォルゴーレ(追想の蒼雷・b77665)の支援砲撃で、審判のアヌビスの目がくらんだ、と思えた。ために、すかさず宮城野・澄雪(高校生真従属種ヴァンパイア・b76467)がローリングバッシュを叩きこむ。
「ならぬ……。盲潰の刑!」
 バット状に変形した審判の剣槌が、澄雪を打ち返す。砕けた窓から飛び出しそうになったところを、銀・紫桜里(桜華凶天・b30535)が鋭敏な感覚であやまたずとらえて、落下をふせぐ。
「澄雪!」
 メモリアはあわてて駆け寄り、自分の血を彼の傷にそそぐ。一瞬で終えて、彼を護ろうとふりかえった。
 だが、同胞がさらにその前で、審判をさえぎってくえる。
「さーてっ寄らば斬る団長さん、学生として最後のご奉公ですよ、コノヤロー」
 風間・雷(シルバーライトニング・b61308)は、ただひたすらに、友を護ることを念じた。策を考えるのは向いていない、ただ自分が護るうちに、道を切り開く誰かがいるのを信じて。
 斬る! 斬る! 念入りに斬る!
「さあ、在るべき場所へ還りなさい ――鐘の音と共に、送ってくれる!!」
 栢沼・さとる(降れよ流星呼べよ嵐・b53827)が踏みこむ。
「愛はね、罪も憎悪も穢濁も全部焼き尽くすんだ。一つのハッピーエンドの為に力を貸して、始祖様」
 鈴鹿・小春(黒の咎狩人・b62229)が、紅蓮撃をぶちこんだ! 紅蓮の炎を全身にまとうように、榎・慧(流星を志す者・b62505)が突撃する。
「刑! 刑! 刑!」
 続けざまに傷をつけられ、ついに審判のアヌビスが狂いはじめた。法典に、魔炎が移って、燃えあがりはじめる。
 そしてついに、審判のアヌビス自身が、審判される時が訪れた。
「起風、発雷! 穿て雷、神鳴る力!」
 野分・朔太郎(小学生ストームブリンガー・b84245)の致命電光が、審判のアヌビスの巨大な目を、粉々に吹き飛ばす!
「……ふう」
 展望台に、沈黙がおりた。
「一段落、か?」
 誰かがつぶやく。そのようだ。他のアヌビスが、襲ってくる気配はない。
「ううむ。アビリティを使いきってしまったでござる。これでは壁としても役者不足」
 審判のアヌビスを倒した朔太郎は、手柄を喜ぶより、戦えないことを嘆いている。
「しかし、せっかく高いところにいるので御座るから」
 偵察のためにと、用意してきた双眼鏡がある。ここは展望台。レンズを通して、ピラミッドや市街を見れば何かに気がつくかも……。
「やや、あれは!」

 ――ナイル川に浮かぶ、クルーズ船。深夜であるから、乗客はいない。当直の船員だけがいる……いや、いた。いま船を動かしているのは、低位のアヌビスゴーストたち。
 そして、闇夜の甲板に座するのは、巨大な耳を持つ、断罪のアヌビス。その手に、布告を書くべき旗ざおを持つ。
「お伝えをする! ファルチェ・ライプニッツ(終わらないお茶会・b46189)なるは、我らを、神もどきなどと蔑む。炎でアヌビス12体を燃す。お伝えをする! この世より追放」
 旗ざおを振ると、そこに古代エジプトの文字が浮かぶ。アヌビスたちが吸いこまれて消える。ファルチェのもとへ送りこまれたのだろう。
「お伝えをする! レアーナ・ローズベルグ(優しさをくれた貴女に・b44015)は、我らの天秤に、我らの罪を乗せよなどと罵倒。アヌビス7体を石化。許しがたし! お伝えをする! 禁固256年」
 また、旗がふられる。
「お伝えをする! 秋月・慎斗(シロガネ・b48239)は、我らを烏合の衆などと呼び、アヌビス10体撃破。お伝えをする! 我に近づく悪意持つもの。そこにあり」
 旗がふられると、そこからアヌビスゴーストが弾丸のように飛び出した。
 河面から、甲板へと飛び移ってきた三人が、さらに跳躍してそれをかわす。
 野分・朔太郎からの「ナイル河のクルーズ船に怪しい気配」という信号を受けて、やってきた能力者たちだ。
「喜兵衛くんの死人嗅ぎのおかげで、思ったよりはやく、位置が特定できた」
 芦屋・紡実(花露・b20195)の口数がふだんより多いのは、戦いの興奮のせいだろうか。
 そして呼びかけられた添嶋・喜兵衛(真ゾンビハンター・b10415)は『アヌビスをはったおす!』という決意を果たすため、日本刀を抜いて断罪のアヌビスに接近していた。旗ざおからのアヌビス弾の射線は見切っている。
背後まで、届かせない。
「お伝えする! 汝らは滅ぶ!」
 アヌビス弾が射出! 喜兵衛の右肩をかじって、ごっそり肉が持ってゆかれた。しかし、そこに、きらめくキノコがあらわれて、傷を塞いだ。
(頑張ろうね)
 紡実の気持ちが伝わってきた。
(昔はこの力を疎ましく思った事もあったけど。喜兵衛くんを、仲間を助けられる力があって本当に良かった。最高の人生、まだまだこれから、だよ?)
 そこまで語る気はなかったのかもしれないが、深い気持ちが伝わってくる。仲間と愛しい恋人がいて最高だと、喜兵衛の気持ちもフィードバックしていったかもしれない。
 花表・かや乃(雛蕗・b79032)のサイコフィールドが、喜兵衛たちはじめ、仲間を包みこむ。
「エジプト山犬に日本妖狐の底力を見せ付けてやるとしよう」
 大神・由宇(奏でるは霽月の調べ・b82237)が天妖九尾穿をはなてば、断罪のアヌビスが宣告する。
「それなるはアヌビス18体石化の大罪人。250年の幽閉にすべし!」
 アヌビス弾が襲う。当たって幽閉ですむようには思えない。
「行きます!飲み込め、ナイルの氾濫っ!」
 ラトネリア・エルガーデン(龍巣嵐舞・b84317)の天雨豪流が、断罪のアヌビスを甲板すれすれまで押しやる。
「お伝えする! アヌビス35体を押し流せしは千年苦役!」
 だが、どんな罰を宣告しようと、能力者たちがひるむことはない。だが、油断も出し惜しみもしない。
「貴様のために、これ残しておいたんだよね。とっておきだよ!!」
 月島・眞子(トゥルームーン・b11471)の黒影剣が、断罪のアヌビス、その旗ざおを断つ。
「お伝えする! 旗を失ったとて、この手で断罪するのみである。お伝えする! 死刑!」
 断罪のアヌビス、その強大な爪が、眞子を引き裂いた。
「ぐふっ! でも、まだまだ!」
 片膝をついただけでこらえたが、立ち上がるには至らない。
「てごわい、ですね。……衛さん!」
 蜜月・杏奈(あんみつ姫・b00657)は、白岸・衛(白騎士・b02556)に、相愛満月をはなった。ルナエターナルが、衛の能力を極限まで引き出す。愛こそ無限のエネルギー、とこの能力を完成に導いた名もなき月帝姫は語ったというが。
 さておき。
 衛が、霧の巨人を身にまとい、瞬断撃をくりだした。
「お伝えする! ……汝らの罪、偉大なる方が、裁く!」
 ぼろぼろと、断罪のアヌビスが崩れ去る。
「……アヌビス・ザ・グレートのことでしょうか。それとも……」
 あるいは、オロチかと杏奈は思う。蛇神の伝承を、機内で調べてみようとしたが思うにまかせなかった。
 ファラオの象徴コブラとオロチ。何か関係があるのか? 恋人たちは、顔を見合わせた。
 戦いは、いまだなかばも超えていない。

 市街にひそむアヌビスを探すため、何人かの能力者が市内に散っている。
 亜麻月・聖(食卓の守護者・b67588)は、ハン・ハリーリにやってきていた。イスラーム地区の中央にある、巨大な市場だ。
「カバブ料理を、潰されてたまるか……」
 ……決して私的な興味で訪れたのではないと思うが。真夜中で、店など開いていないわけだし。
「勿論、マッザ(前菜)もタージン(壷焼き)も忘れてないぞ? 素晴らしいエジプト料理を絶やさせない。終わったら、美味い飯食うぞ……」
 単騎では危険なので、適当に出会った者同士で組んでいる。もうひとりの三島・月吉(仮面のヴァンパイア・b05892)は、自分のチームもあったが、手分けして探るうち、聖と会ったのだ。
「近くに審判や裁断や断罪の称号を持つ偉大なアヌビス様はおられますかー?」
 ダメもとで、呼びかけてみた。
「罪の匂いがする!」
「うおゥ?!」
 おどろいたことに、返事があった。いや、タイミングが偶然一致しただけか?
「罪の匂いがするのう。これは奈那生・真咲(シスターリトルデビル・b58733)とやらの匂いじゃな。呪言の匂いがして、アヌビスを11体ほど倒した匂いもする。九層目の地獄に落とさねばなあ」
 市場の真ん中、広く開いたそこに、鼻面が異様に長いアヌビスが、水タバコをふかしながら座っていた。
 これが、裁断のアヌビス。三大指揮官、残りの一人。
「罪の匂いがするのう。これは尾瀬・豹衛(青不動・b03524)とやらの匂いか。わしらを野良犬とか失礼に呼んだ匂いがするのう。一緒に匂うのは、地祇谷・是空(呪言書道家・b03968)じゃのう。神話を調べて、わしらを倒そうとした匂いがするのう。二人で、アヌビス百人隊長を亡ぼした匂いじゃのう。これは十三階層めの地獄へ落とそう」
 ふうーと煙を吐くと、それが宙に舞い上がり、何かの形をとった。アヌビスどもへの指示なのだろうか。
「地獄へ落とすってなんだ!? よしッ、ブッ殺ス!」
 チームメイトの名を耳にして、月吉がいきりたった。彼が出れば、聖も出る。花火の信号弾は忘れずあげた。
「匂いがするのう。敵の匂い」
 ふーっと、裁断のアヌビスが煙を吐いた。月吉と聖の視界がふさがれる。その白い闇の中で、無音のまま裁断のアヌビスが忍びよる。
 が、そこで。風が吹いた。
 煙が薄れる。二人は、ぎりぎりで裁断のアヌビスがふりおろす、ギロチンめいた大刀をかわした。反撃が、断罪のアヌビスを叩きのめす。
「こいつ……指揮官のわりに……?」
 そこへ、信号弾を見た、チーム狗狩が駆けつけてきた。
「匂う……」
「失礼な!」
 女の子に対して、その言葉は禁句。もとより、生者の都市を徘徊する死者たちに、おぞましい気持ちと強い怒りをいだいていたのだ。
「人々の支えである市場で! なんという忌まわしい!」
 巫名・芹(蒼刃の軌跡・b40512)のダークハンドが、裁断のアヌビスのキセルを握りつぶした。指揮能力こそ高いが、三大指揮官で、直接戦闘力において劣るのがこいつである。
 だから、白い煙で目と耳、自分以外の嗅覚までをつぶすのが手口なのだが、不思議な風が、その煙をことごとく散らしてしまう。
「お墓の中で眠っていてください。永遠にね!」
 天河・亜留(琥珀の真月・b82980)のレゾナンスナックルが炸裂する。
「太陽の旗に集いし者共よ、月の姫が直々に相手をしてやろう。誉れに思い華々しく散ってゆくのじゃ!」
 長月・綾女(闇に満ちる月の姫・b82525)旗をかかげたのは断罪であったが、そちらには遭遇しなかった。ともあれ、龍顎拳は長い鼻面を折るのに充分。
「能力者である前に、生きる人間として……死を、我が斧で断とう」
 如月・狩耶(一人往くモノ・b56011)のサンダージャベリンが突き刺さる。
「――こんな悪夢は、此処で断ち切る!」
 セリル・メルトース(ブリザードアクトレス・b81234)が、冷気を載せた槍を突きこむ。
 そして、四神・蒼夜(硝子の紅葉・b00988)の瞬断撃が、裁断のアヌビスの首を刎ねた。
「おう! 滅びの匂い。我が滅びの匂い、はじめて嗅いだ。なんとも甘く、官能的……」
 つぶやきながら、空中で消失する。

「……で、あるか」
 場所は市街南部。
 オールド・カイロとも呼ばれる、この都市発祥のおりに、中心となった地域である。その十二世紀に焼き払われた、軍営都市の廃墟が、いまもなお残っている。
 急ごしらえのアヌビス玉座は、そこにあった。かたわらに置かれた巨大なカップから、湯気がたちのぼっている。それを一口すすって。
「……で、あるな」
 と、アヌビスは、手にした天秤を見つめる。それは、ゆっくりと傾いてゆく。その意味を読み取るには、この狗頭人身の神魔にのみになせる技。
「……この本陣を守るアヌビスどもが、倒れていきよるのう」
 アヌビス・ザ・グレートが、天秤の傾きを読む。
「神原・唯智(高校生ヘリオン・b50779)が3体、打ち倒した」
 わずかに、右が重くなる。
「立湧・治秋(寡黙な剣士・b14010)が、本陣本営処刑のアヌビスを亡ぼした」
 淡々とした声で読む。敵が近づいているというのに、迎え撃つようすもない。
「ビート・サンダーボルト(高校生フリッカークラブ・b83177)に3体……。立湧・辰一(中学生ストームブリンガー・b84275)が絞首のアヌビス。立湧・深冬(嵐を呼ぶかも知れない前向き娘・b07602)に扉を破られ……」
 狗の顔、その目が細められる。
「神原・唯智の攻撃範囲に、余が入った」
 それは、天秤を見なくともわかること。
 唯智の光の槍が、治秋の断罪ナックルが、アヌビス・ザ・グレートに届……かない。
 光の槍が、実体のない槍が掴みとられ、断罪ナックルは、噛み止められた。そのまま拳を砕かれて、治秋が声にならない悲鳴を上げる。
「で、あるか」
 悠然と、アヌビス・ザ・グレートが立ち上がった。先の二人に続いて、アヌビス本営に雪崩れこんできた能力者たちが、距離をとる。
「人間、わずか百年。なれど、我が天秤を傾けるに足るほどに魂に重みがある……謎よのう」
 アヌビス・ザ・グレートが、おのれの眼前に天秤をかざした。天秤皿に青白い炎が生まれる。
 等距離におのれを囲む能力者たちを睥睨する。
「……こりゃ早い者勝ちだな」
 緋咲・誠(レジーウルフ・b10164)は、その威容にかすかにこめかみに汗をにじませた。けれど、だからといって引くことなどない。ひたすら前進がその覚悟だ。
「一番槍は譲らねえ! 犬頭! その首寄越しな!」
 狙いはインパクト。
 誠の行く手を、アヌビス最後の直衛、絶対廷吏のアヌビス二体がはばもうとする。
 そいつらに原罪ストームを叩きこんだのは、誠が前衛をつとめるチーム〔B.W〕の中衛、時永・柊弥(枯色の刃・b10103)だ。
「柊弥も緋咲先輩も、どんどん行っちゃえ!」
 行けると踏んで、後衛のピエリス・フォルツヴァイ(紫光の羅針・b10481)が援護に光の十字架!
「いっけぇ!」
「……で、あるか」
 身長およそ4メートル。山犬の頭に筋骨隆々たる武将の肉体を持ったアヌビス・ザ・グレートが、天秤の青い炎をかざす。それがはじけて、炎の帯になった。
 これこそが、魂を縛るアヌビスの包帯ッ!
「な……んだ?」
 空中に飛んだ、誠の肉体が、そのまま不自然な姿勢で制止した。浮かんだまま、ぴくりとも動かせない。炎の包帯が、巻きついてゆく。
 包帯を武器とすると知って、炎で燃やすことをもくろんでいた能力者は多かったが、もともと燃えていては、炎は通じない。
「おとなしくしておれば、ミイラとして我が兵にしてやろう。逆らう気配を見せるなら、そのまま炎の包帯で喰らいつくすのみ」
 生命を、炎の包帯は吸収するのだ。誠に続き、B.Wの二人が、包帯に縛られた。倒れた者たちを、巨大な足で踏みにじろうとする、アヌビス・ザ・グレート。
「させませんっ! ミージュ、支援を!」
 稲垣・幻(ホワイトティーリーブス・b36617)が、モーラットヒーローにモラスパークをはなたさせた。一瞬の隙に、仲間たちが倒れた三人を後退させる。
 三笠・輪音(夕映比翼・b10867)の白燐蟲大拡散砲が、あるじの意図を完遂しようとした、絶対廷吏にとどめを刺す。
「ゴーストがお茶を好きだとは思いませんでした」
 玉座かたわらの、巨大なカップを見て、幻がつぶやく。
「こちらのお茶は砂糖沢山のミントティが主流でしたね。カイロ市内の全てのお茶を愛する人々……そしてお茶で巡り合った大事な仲間を守り抜く! ……それが僕が戦う理由」
 ゴーストであっても、茶をたしなめる精神性があるならと、幻は一瞬の希望を抱いた。
「あれであるか」
 アヌビス・ザ・グレートは、鼻を鳴らした。
「あれは、しぼり汁、よ。そなたらの同類の、魂そのものの、な」
 ――慄然。
 やはり、ゴーストと人は、あいいれぬのか。
「血をすするっていうのは、もっと遠慮がちに、優雅にするものだよ!」
 御津乃廉・灯(白風纏う吸血児・b51863)が、一直線に突撃し、アヌビスからエネルギーを啜ることを試みた。たった一つの戦法にかけた。炎の包帯に巻かれつつ、なお牙を離さない。
 その攻撃は無駄ではなかった。
 神農・撫子(おにしるべ・b13379)が、一気に間合いを、詰めてさよならの指先を叩きこむ道を空けたからだ。彼女も吸われる。だが、倒れない。使役ゴーストのモーラット、マロウが祈ってくれているから。
「大切なものを護る為ならば、神を砕く事さえ厭いませんッ!」
 もう一度、同じ技。
 届いた。アヌビス・ザ・グレートに。
「……なんと」
 わずかにもれた驚きの声。
 続いたのは、ケットシー・ワンダラー。比企・古杜(蒼き月華ののばら・b58965)の使役ゴースト、リヒトだ。古杜自身は、ヤドリギの祝福で、強化をはかっている。
 さらに神農・蘇芳(笑う獅子と・b15579)が使役ゴースト、真ケルベロスオメガのブラックセイバーが、アヌビス・ザ・グレートに届いた。
 じつのところ。
 かりそめの命である使役ゴーストは、この炎の包帯に、魂を縛る技に影響を受けないのだ。いまは有効だけれど、視点を変えれば、哀しい現実でもある。
「獣風情が……神に向かって」
「生憎、僕は神サマなんか信じちゃいないんで」
ましてやゴースト率いる君達なんか、これっぽっちも許す気無いね」
 もどってきたケルベロス、シルの背をなでてやりながら、蘇芳が言い放つ。
「……で、あるか」
 アヌビス・ザ・グレートが、天をあおいで、カラカラと笑った。どういうわけか、隙だらけだ。
 ここぞとはなたれた、囀・理玖彦(烏晩鴃舌・b76270)のジャンクプレスが、アヌビス・ザ・グレートの天秤を押しつぶす。
「……で、あろうな。久々の地上ではあったが、やはり我らは、もはや不要か。されど、生と死をわかつものは、そうは思うておるまい。冥府の住人も、それぞれさまざまよのう」
 驚くほどにあっさりと、アヌビス・ザ・グレートの姿が崩れ落ちてゆく。
「え、倒したの?」
「終わったらスフィンクス見に行こうぜ。だから最後まで立てよ、リクヒコ!」
 アレイスタ・アーロン(グッドスリーパー・b81411)が、叱咤する。
 ようやく、戦いは三分の一を超えたところだ。まだカイロに厄介ものが残っている……。
 アヌビスとの戦いと、並行して行われている戦いが。

●お猫さまから宝物

 バステトは猫。忍び歩き、どこにでも出入りするのが信条だ。
 ミイラ軍団やアヌビスたちは、市街に対して入っていなかったが、バステトはすでにカイロの中核にまで入りこんでいた。
 モスクをはじめとするイスラームの歴史的建築が立ち並ぶ地区。その南東のはずれ、モカッタムの丘に建つ、城砦にバステトと猫耳リリスの一軍はいた。シタデルは城を指す一般名詞でもあるが、カイロでシタデルといえば、サラーム・アッディーンによって建造された、この城塞都市になるだろう。
 信号灯を設置に向かったコンス・コンスらの急報によって、対バステトの説得策を担うメンバーが駆けつけた。
 壮大にして堅牢。ここを城として建てこもられれば、やっかいなことになっただろう。だが、案に相違して、能力者たちはするすると中に入ることができた。
 ずっと猫耳のリリスたちが見つめているが、手出しはしてこない。ただ、進む方向をはずれようとするとさえぎってくる。
 そして、誘導されたのは、シタデルを象徴するような、ひときわ目立つ建造物、ムハンマド・アリ・モスク。
 そして、バステトは、ばちあたりなことに、壮麗なミンバル(説教壇)を椅子代わりに、モスク深奥で待っていた。
 体調は数メートル、頭部は優雅で繊細な美を持つ猫のもの。どの種というのでもない、猫の本質的な美を体現している。首から下は、豊満で妖艶な、エジプト美女のものであった。なかば透けたうすものしかまとっていない。だが、男子一同が目のやり場に困ることもなかった。そのような劣情を催しようもないほどに、バステトの姿は荘厳。まさしく女神の美であったのだ。
 が、それも一瞬。モスク内部をぎっしり満たした、猫耳のリリス(中には、猫耳二つの猫娘などというわけのわからない状態になったものもいるが)が、誘惑のフェロモンを放つまでだった。
 やすやすと乗せられる、やわな胆力の持ち主は、ここにはいない。
 海老原・淳(真ダーティでクールな男のネギ・b21845)が、下品な誘惑に年長者の意地を返す。
 今度はふくらむ、戦いの気配。猫耳眼福〜と見とれていた柳谷・凪(お気楽極楽あーぱー猫娘・b69015)が、夜乃・空(はらぺこかいじゅうは真符術士・b78639)やエルミニア・レイフォード(ホワットアワンダフルワールド・b79261)とともに、リリスたちへの牽制のかまえをとる。高坂・月影(粗暴な黒兎・b82614)が「てめぇらの誘惑なんか、無駄なんだ。諦めて引きな!」という意味でにらみつけた。
 いまにも猫のオネーサンことバステトのナンパにかかろうとしていた綾辻・晴花(空猫・b76662)も、そのサイズにあきらめたようだ。しかし、ここで戦端が開かれれば、あまりに多勢に無勢。猫耳リリスは、予想よりはるかに多く、いかに立ち向かっても、敗北しかねない。
 いかに説得の口火を切るか……策を用意してきた誰も、自信があるわけではなく、おのれの言葉で戦いがはじまってはと、最初のひとことに躊躇していたその時。
「せっかく、またたびのにおいがしたから、とおしてあげたのにゃ〜。くれるといいのにゃ〜」
 バステトが声を発したのであった。
 もんのすげぇロリ声であった。
 しかも、オバカな口調であった。
 たぶん、天然確実であった。
(うええええええ〜〜〜〜?)
 説得班全員の心が、はからずも一致した瞬間であった。
 だが、たとえロリ声天然であった、その力はあなどれない。……はずだ。
 ともあれ、滝音・治輝(名こそ流れてなほ聞こえけれ・b82964)とルナ・サンダーストロンガが、ダメもと覚悟で用意してきた、マタタビをさしだす。
「にゃっ」
 ハートマークのつきそうな声をあげてうけとると、バステトは、リリスに合図した。
「じゃ、ころし……」
「これはいかがですか?!」
 ルナが、マタタビのほかに用意していた、子猫写真集をさしだしてみた。
 動き出そうとしていた猫耳リリスたちが、ぴたりと止まる。
「むう……かわいいにゃあ」
(いけるのかーっ?!)
 神と名乗るゴーストとしては、お手軽ではないだろうか。とも思うが、疑問は捨てた。がんばってみよう、貢物。
 夕凪・真名深(白きコートの青汁刑事・b33573)は、猫萌えグッズをとりだした。
「現代の萌要素はもっともっと進化しているんだよっ! たとえばこのつけしっぽ! もふもふなのに手触り滑らか、静電気も起きにくいすぐれモノ♪ そして魅惑の肉球グローブ!!」
「は?」
 自前の尻尾と肉球を見せて、不機嫌そうなバステト。
 間髪いれずに稲田・琴音(蟲人・b47252)とレティシャ・ネクロフィリア(鏡の国の逆十字・b61248)が、機内で集めた甘いものや、アクセサリーをさしだした。戦力的な優位を確保できれば、強圧的な態度に出ることもできたが、リリスの数は外のアヌビス軍団にも匹敵する。もちろん、だからといって、屈服するつもりはまったくないが。
 強気でつっぱるつもりだった面々は、少しだけ辛抱して、というアイコンタクトを送られ、いつでも覚悟を見せてあいてを怯ませる気概をたたえたまま、動かずにいた。月宮・狼也(吼え猛る守護騎士・b63662)らだ。
 せめてなめられないようにと、弐那・上枝(舞嵐・b84327)が、持ち慣れない七支刀を、精一杯の思いをこめて、天にかかげる。
 八雲・椎名(どこにでもいる蒼電使い黒猫・b70646)も、最後は相手が泣くまで魔弾を打つ気だったが、この数では自分が泣く気になりかねない。
「なんとか、帰ってもらえないかなあ」
「いやーにゃ。せっかくでてきたのに、なにもしないとかないにゃー」
 とか言いながら、バステトは、べったりと寝そべった。どう見ても何もしらくなさそうだ。
 四方・ナイナ(がんばる・b65610)は、そんな格好でも、バステトはきれいだなと思った。
「ねえ、バステトさん。大陸妖狐の九尾さんも、すごい美人って聞いたけど、バステトさんと比べたらどうなの? 狐の耳がぴこぴこするらしいの」
「ふみゅう? そいつはまだあったことないにゃ」
 猫の瞳が、好奇心で爛々と輝いた。
「中国にいくと、会えるんだよ?」
 行ってくれればいいなとささやいてみた、が。
「とーすぎにゃ」
 一蹴されてしまいました。
 全滅の色が濃厚になってまいります。
「たいくつになってきたから、そろそろ、あそびたいにゃ」
 遊びってこういうことですよね、と猫耳リリスたちが、戦いのかまえをとる。
「そうじゃないよね? 僕と一緒に遊ぼーよ。何して遊ぶー?」
 猫耳尻尾完全装備の風嶺・涼介(ヤドリギの謡い手・b46356)が、猫猫ポーズなど、がんばってとってみる。
「おっしいにゃあ。ほんもののねこどーしならともかく。もふもふみみも、もふしっぽも、ほんものでないとダメ〜」
 なぜここに来てない魔弾術士ー! 妖狐とクルースニクも何してるーっ!
 だがそこで、最後にひかえていたメンバーが出てきた。モーラット秘密特殊部隊の二人だ。
「あのう、本物の……もふ……がいますが」
 天然猫に対するに、天然ぽい口調で進み出たのは、琴月・ほのり(鳳翼の詠媛・b12735)だ。そのかたわらに、モーラット。
「うちの華螺は蜘蛛童だけど、ちょっと毛は生えてる……よ?」
 もう一人の、舞・冥華(蜘蛛童育成型ちっちゃい鋏角衆・b32958)の申し出は無視された。
「ふにゃーっ! ひさびさのほんものにゃあ! 追いかけっこするにゃ。だーいじょうぶ、食べないから」
「えっ……」
 ほのりは、絶句した。真モーラットヒーローの、ぱおにーと目があった。
「……おねがい、して、いい?」
 悲痛な決意をこめて、ぱおにーはうなずいた。
 それから、どれほどの時間がすぎただろう。ぱおにーは、遊んだ。遊んで、遊んで、遊びまくった。客観的には、もてあそばれ、もてあそばれ、もてあそばれまくった。数人がかりで耐えるような試練を、奇跡の根性で耐え切った。さすがだ、ヒーロー。かっこいいぞ。
「うーん、いまいち、むかしみたいなあそびがいがないにゃあ」
「あげくのはてにそれですか!」
 さすがに、ほのりもナミダ目で抗議。辛抱を重ねていた説得班も、怒りに燃えた。
「あそびがいがほしいからおしえてあげるにゃ。ピラミッドに、トートっていうのがいるから、そいつのエメラルドのせきばんを、かいてある字の1行ずつこわすにゃ。そしたら、そいつらはみんな『覚醒』するにゃ」
「え?」
 いま、とんでもなく重要なことが告げられたような。エメラルドの石版に、使役ゴーストを強化する秘密が秘められている、と?
 たとえばこのぱおにーが、真モーラットヒーローから、覚醒モーラットヒーローとかになるですか?
「……そうなってから、そなたらの、全てのもふもふしたものと、余は改めて遊ばせてもらうやもしれぬ」
 いつの間にか、バステト・ザ・キュートは立ち上がっていた。その立ち姿は、荘厳さを取り戻している。声の高さは変わらないが、口調はがらりと変わっていた。
「これからの戦い、真にそなたらが信じるにたるものか。存分に見せてもらうぞ、今の世の生命使いどの」
 そして――。
 気がつけば、猫耳のリリスたちも、その姿を音もなく消していたのだった。

●ルールーが狙うもの・博物館を目指せ

 ミイラ軍団はカイロに入る前につぶされ、アヌビス軍団は掃討された。そしてバステトは戦いを止めて姿を消した。
 後は、博物館に向かったルールーを追撃するのみ。それを阻むものはいないはず。
 いや、もちろんそうではない。
 運命予報では、通常の手段では博物館に近づけないとあったが、それは市民を虐殺しようとするリビングデッドや地縛霊が理由ではなかった。
 より正確には、それだけではなかった。
 神魔軍の出現により世界結界がゆるぎ、多くのゴーストが出現していたものの、いまの銀誓館の勢力であれば、それらを倒しつつ博物館に向かうことも難しくはない。
 水流、である。洪水や雨という意味ではない。地面から高さ1メートルのところに水面がある。そこから厚み2メートルほど、水が流れている。
 空中のナイル川、とでもいうべきだろうか。それが、カイロ新市街の街路を流れていた。
 不破・赤音、浅葱・悠(星黎の紡ぎ手・b01115)、矢坂・孔明(蒼穹を貫く一条の矢・b02493)、鹿島・狭霧(蒼き鋭刃・b34207)らの威力偵察班は、その空中のナイル川から出現した巨大な難敵と、少人数で対峙することになった。ホワイトランス・トリプルとでもいうべき、三連のドリル大イカである。潜水艦なみのサイズと攻撃力を持つ妖獣と、彼らは、ほぼ相討ちになった。空中のナイル最大の難敵は、まず倒されたが、無数の雑魚ゴースト(文字通りの魚だ)が、そこをまだ泳いでいる。
 一般人が溺れているようなことは、ほとんどなかった。世界結界の作用で、無意識に伏せているのだろう。むしろ、不用意に外へと出られることもなく、戦いやすい。
 だが、濁った水はゴーストが姿を隠すにたやすく、水中の不利は否めない。回避して、博物館へ向かうなら、たとえば屋上などを伝ってゆく手段はあった。しかし、放置しておけば無辜のカイロ市民が犠牲になる。
 銀誓館の能力者たちは、博物館のルールー撃破の部隊を送りこむと同時に、この空中の河にも対処せねばならなかった。
 通常の方法では、博物館にたどりつきづらいというのは、こういう守りであったのだ。
 水による守りが相手となれば、頼るべきは水練忍者であろう。彼らなら、溺れる心配はなしに戦える。
 本来のチームから離れることを余儀なくされた者もいたが、カイロ市民を守るという目的に揺らぎはない。
「まだ修行中の身ですが、ここで戦わなければ学園に来た理由がありません!」
 井口・珠城(水面に忍ぶ藍珠・b80998)は、他とは違う経路をたどるチームメイトを案じつつ、空中の河を躍る魚類妖獣を、水刃手裏剣でしとめていった。
 もちろん、彼らだけでは戦えない。身長の低い小学生たち、あるいは低い姿勢でも戦えるジョブの面々も共に立ち向かっている。
 だが、どうしても頭上の水面に、背や頭頂を向けて、無防備になりがちだ。
 それをカバーできるのが、水練忍者。
「普段は背後から狙う忍者だからこそ狙われる仲間を護れる」
 森里・浩之(真盗聴忍者・b17397)はまた、チームBUの仲間が博物館へと向かうのを案じつつ、空中のナイルにいるゴーストと戦っていた。彼の雷の魔弾が水中を走り、濁りに隠れた敵を見つけ出す。
 条件にあてはらずとも、たまたま近くにそういった仲間がいたゆえに、ナイル対策にくわわった者もいた。
「水練忍者が本業なら、苦労しなかったけど」
 淳・空(月に願いを・b82500)が、水刃手裏剣を放ち、時に極月煌光・散華で空中の水ごと敵を凍らせる。きらめくダイヤモンドダストが散り飛び、それはあたかも、艶やかなる花が、咲き乱れるがごとき光景であった。
「ボルドーの巡礼士にも今回の件を伝えたかったが……」
 独りごとのような、つぶやきに相棒の坂上・神薙(槍衾夜叉・b81165)が答える。
「どうやろう……。うちら銀誓館のほかに、ここで戦っとるのはおらんようやけど」
「妖狐のことは、みんなも警戒してたみたいだけど……そっちもいないねえ」
 衛藤・浩也(小さなお医者さん・b50505)が、負傷者はいないかと目を走らせつつ、応じた。
(異形を、一緒にやっつけて、日本には面白い漫画とか美味しいものとか一杯あるんだって、もっと知ってもらえば、ずっと戦わなくてすむかと思ったんだけどな……)。
「わたしも、ピラミッドとかにさそってみようと思ってたんだけど」
 桃野・香(夜焔鬼・b28980)が同意する。
 妖狐の横槍は不安要素ではあったが、いなければいないで拍子抜けするようだ。
 ともあれ、闖入者や妨害者もなく、掃討は順調に進んでいた。
「こっちはなんとかなりそやね。ヤバイと思たらすぐ後退、命あってのモノダネや、とか考えてたけど」
 そうなると、地下組は心配だなとチーム【自U帳】の斉藤・縁(多分浪花の風水少女・b81259)は思った。近くに同じチームの春崎・樹(ウィンディーソニック・b75584)はいるが、他のメンバーとは、はぐれてしまった。敵も大群、こちらも多数。複数戦場なので、やむをえないところだ。
 濁った水をライトで照らして、夢野・楚那(エンドレスドリーム・b81288)が敵をおびき寄せ、萩宮・菫(小学生ストームブリンガー・b84425)が蜘蛛童・爆の桜と一緒に攻撃する。銀誓館にやってきたてで不慣れなため、なるべく前面に立たないよう注意していたが、側面攻撃ならできる。小学生と蜘蛛童のペアは、1メートルの高さ制限戦闘では、うってつけだったのだ。
 南・優(小学生真妖狐・b30373)と真蜘蛛童・爆の勇も、それゆえに、こちらにやってきた。
 もちろん、松澤・真赭(猩猩緋・b54505)と真蜘蛛童・爆の紅娘のように、主人は背が高い場合もあるが。
 真赭はすでに、博物館までのランドマークを頭に入れてある。ゴーストを片付ければ、突破する気だ。
「カイロ包囲軍に名前を連ねていない、有名どころのエジプト神って、博物館の中にいるかな……?」
 真赭の懸念は、惜しいところで違っている。
 いるのは、博物館内ではない、のだ。けれど、そんなことを知る由もなく、彼らは掃討を続けた。
 空中のナイルの水面は、驚いたことに鏡雨転身の出入り口として使えた。空中を流れる非常識な河のことだ。魔法がらみなので当然といえば当然だが。
 本業がストームブリンガーの橘・右近(非時香木実・b84331)、バイトなれど嵐を纏う身の獅堂・一二三(眠り火狐・b03293)にも、仲間と離れて、こちらを退治して欲しいという願いが届いた。
 否という返事はないと、信じての頼みだ。
「むろん。怯まない諦めない。カイロを死の河にしようとするゴーストは、生命の力と現代兵器の錆になってもらう!」
 一二三のいう現代兵器はバス停だったりするが。
 ほかにも上弦・半月(デスウィッシュ・b82853)、燈夜・真葉(始音の剣・b78165)、氷神・睦月(白銀のロップイヤー・b55639)、らが討伐を願われている。
 空中のナイルが、エジプト考古学博物館をとりまいているので、敵の狙いがそこなのは間違いないだろう。
 セドリック・ヘブナー(まあいいじゃないですか・b50715)のように、念のためにコプト博物館に回った者もいたが、そちらにはアヌビス軍団の残兵がおり、そこはそこで激しい戦闘になった。
 やはり、空中のナイルを掃討してからでは、ルールーの後手にまわる。そう判断して、かなりの人数が博物館への移動を開始した。
「サンダーバード中心の電送ルートや、水練忍者中心のナイル河ルート、様々な電撃戦用ルートがあると思うけれど、カイロ市内のミイラ掃討は大事な役目だから。……GoodLuck!」
 セフィラ・マーゴット(割れない胡桃・b60878)は、そう言って仲間を見送った。最後の一言はマインドトークで。もっとも、水練忍者はこちらにも必要ではある。幸か不幸か、それを表明していた水練忍者はおらず、ナイルルートはボートを試してみる少人数のみ。
 ポルテ・トルテ(フェンリルクォーツ・b37411)のように、狼変身して排水溝などを利用しようと考えたものもいた。残念ながら、それは頭上に流れる河からの強襲を受けた。猫変身をしたフェシア・リンフォース(月影の魔術士・b02719)は博物館の門が見えるところまでたどりついたが、そこでかなり強化されたモガキにはばまれた。
 道に迷うことを心配して大通りをゆこうとしたり、夜闇にまぎれて裏通りか抜けられないかと考えたものたちは、空中のナイルにはばまれて、妖魚ゴーストと戦うことになった。
 赤護・侑(紅い護葬士・b26012)、マリア・エスペランザ(蒼い戦姫・b52755)らである。
 やはり、行く手をさえぎられたエルファーシア・アークライト(贖罪への道・b82921)は、撃退組の手薄な方面の助けに向かった。
「補給と増援を断つのは戦いの鉄則です。頼みます」
 自分たち以外のルートを通った組に、願いをかける。
 そして博物館に向かった者のうち、大多数は、地下鉄ルートを選んだ。古代になかった存在だから、見落とされているのでは、という意見にうなずいた者が多かったようだ。
 白山・小菊(懸崖菊花・b26103)は、地下鉄のルートを完璧に調べ上げていた。
「緑の八角形に「9ドレロ M(赤文字)」という感じで書いている看板を探してください。そこが地下鉄の入り口です。チーム深緑で考えた、ベストルートは2月23日開業の3号線(The Green line)「Abbasiyaアバシア」駅から地下鉄に入り「Attabaアタダ」駅より2号線(The Yellow line)に路線変更します。その後「Gizaギザ」駅へ行くルートを確立。最低でも「ナイル川トンネル」は抑えます」
 博物館だけではなく、ピラミッド戦の移動まで考えられていた。
 彼と同じ深緑の犀遠寺・限(黄泉津の楔・b26238)らが先陣を切って、真夜中の地下鉄へとおりてゆく。世界結界の影響か、駅員などの姿はなかった。
 地下鉄のトンネルにおりた。隊列を組んで移動することになる。
 隣り合わせた、二人のルナエンプレスが話している。
 ひとりは、常雅・影見(平和を知らない月の狐・b82834)である。
「昔、一万と二千年前、初代様に仰せつかったのは、初代様がムーを相手しとる間、オリンポスをおさえておくことじゃった……。メティスやレテのおかげで取り込みには成功したが…ポセイドン達が離反したアトランティスを亡ぼす羽目になって……さすがに様変わりしすぎて昔の(脳内)地図は役に立たなんだわ」
 サランナージェ・アディルート(零の月影・b82923)は、それにうなずいた。
「昔も戦、目を覚ましてからも、ずっと戦いばかり。でもまぁ、現代とやらは中々に興味深くて愉快ではあるし、そんな時代を楽しませてくれた末妹の意に反するこをしでかしている。『敵』を排除する理由なんて、それで充分。末妹を悲しませるのは嫌だからね」
「……じゃのう。しかし、地上の者と月の者の恋はいくつも見てきたが、たいていは……」
 博物館に向かう者たちの中には、文化財や歴史に関心を持つ者も多い。
「中の貴重な史料を壊されてたまるか。史学者の卵としても絶対護ってみせてくれん」
 BUの総長である立見・鑑三郎(電光影裏斬春風・b21872)がいうと、綾之瀬・キッカ(エンジェルマヌーヴァ・b05633)やアリア・ルフィナス(アルスノヴァ・b72097)、御堂・燐(自由気ままな真符術士・b34201)たちもうなずいている。
「貴重な文化財を踏みにじられるわけにはいきません」
 仲間たちとともに士気が高い。
 彼らとチームを組んでいるわけではないが、神薙・焔(ガトリングガンスリンガー・b62427)も、使役ゴーストである真フランケンシュタインBのパワーを生かして、戦闘よりも文化財の保護を行いたいと考えていた。
 むろん、ルールーをはじめとする、ゴースト撃退こそ重要と考えているメンバーもいる。
「ちい……地上やらなにやら、ゴーストの気配が多すぎる。……ここにも……いるたあ思うんだが」
 葉棉・星輔(高校生ゾンビハンター・b81025)が悔しげに唸る。
 彼も、母をゴーストに殺された身だ。ほかにもそういう境遇の者は多いだろう。誰かを無くしたり失ったり、自分たちのような目にもう誰もあわせないと、みなが願っている。
 そして、路線の分岐点まで来た、その時だった。
 朝日・遥日(光の皇子・b40908)は、何か妙な気配に気づいた。目立たぬよう、最小限にしていた白燐光を、かぶせていたハンカチをとり、強くする。
 真上を照らした。
 ――ひび割れている。何だろう。ただのひび割れなのか? みんなに知らせ、足を止めさせるべきか、迷った。
 だが、同時に周辺警戒にあたっていた七海・悠樹(高校生真ヤドリギ使い・b63547)が、分岐している路線の奥から迫る気配を感じとり、警告を発する。
 そちらにはちょうど、絹川・勇次(高校生土蜘蛛・b81885)がいた。鉄傘は全開にして左に構え。左からの攻撃に備えていたのだ。とっさに敵に立ちふさがる。
「ここは自分に任せて先に。すぐに追いつきます!」
 一度、言ってみたかった台詞だ。
「ひとりにお任せなど、そういうわけにいきませんことよ!」
 すぐ近くにいた、早乙女・刹那(高校生真雪女・b82165)が、ぐぐっと筋肉をふくれあがらせる。『真雪漢女(まゆきおとめ)リリカルせつな』とも呼ばれる彼女は、近づくゴーストの影に、怒りを帯びた笑いを浮かべた。
「殲滅してあげますわ……フロント&バックダブルバイセップス!」
 ボディビルのポーズとともに、氷雪地獄がほとばしる。
「月姫の名において、おしおきですわ!」
 彼女の義姉にして、結社「漢女道」のチームメイト南・夕(運命の月姫・b82671)が月煌絶零をうちはなち、分岐側のトンネルは凍気に満たされた。
 が、近づく影は止まらない。
 しかも。
「先に行けって言われても、先にもいる!」
 宇奈月・朔夜(暴華・b42228)が、闇の向こうにいる気配を見つけた。「睡蓮」チームメイトがずっと彼女のそばにいる。すぐさま対応した。
 じりじり前に出つつ、戦闘態勢をとる。
 警告を聞いて、葛西・照夜(真フリッカースペード・b20770)が、まず白燐奏甲で、自分と仲間の強化をはかった。葛西・涼太(高校生真ゾンビハンター・b20773)はハンティングモードで防御を固めた。彼は、青龍拳士のコンボを身につけている。
「かなりの数のようです!」
 ふだんのたどたどしさが嘘のような、するどい口調の冷泉・香夜(幻想涙花・b47140)による警告だ。
「やばいぞ……下からも何かくる」
 細波・蓮耶(錆びた歯車・b26695)から、ふだんの眠そうな表情がふっとんでいる。
「悪党の邪魔してやると気分がスカっとするんだっつーのに、こっちが邪魔されんのかよ! 体力低いから不意打ちは勘弁だっつーに」
 彼が絶対遵守するのは『思うが侭に動く事』という法。それを邪魔する相手は、排除しなければならい。
 ずずずと、地面から不気味な震動。左と前の線路上から、じりじり近づく大軍。そして、頭上にもあやしげなひび割れ。
「いかん、久々に膝がガクガクいいよる。びびってるびびってる」
 蓮耶と同じ、チーム賢影の湯城・愛美(私をアイミーと呼ぶなッ・b34387)は、自嘲っぽくつぶやいたが、心の中は違っている。
(四年間もよくこんなんでやってきたよなあ……まあ、なんだ。人死には少ない方が良い。だから、戦力は多い方が良い。当たり前の常識をちゃんと護ること。やり通す事。それが私の法だ。私の常識は町一個の壊滅なんぞ許容しねー。あったりまえだ)
 横槍入れてやるぜ、と槍をかまえ、そして『いや、ちがうな』と思った。日常という幸福に、横槍を入れてきたのは、あいつらだ。
 そう、怖いよな、と地底だというのに風が吹いた。でも、がんばるんだよな、と。
 高まりかけた大地の揺れが、低くなってゆく。
 だが、正面からの敵、左からの敵が姿をあらわした。
 正面の敵。
 生首が、浮いている。エジプトの王の冠をかぶった、青黒い肌の、中年男性の頭部であった。常人の頭の三倍はあるだろう。威厳などという言葉では足りない、見たものの膝を砕かせる威圧感。
「余はオシリス……冥界の王。都の地下は、余の王国となる。闖入者どもよ、すぐさまさがれば、見逃してもよい」
 オシリスの向こうには、多種多様なゴーストがひしめきあっている。冥界の王というだけあって、あらゆるゴーストをひきつれている。
 オシリスがいないことを不審がっている銀誓館メンバーもいたが、その答えがここにあった。
 左側から、包帯に巻かれた一対の腕に先導され、ゴーストの群れが迫る。
 オシリスはエジプト神話の主神のひとりだ。敵対する神によって五体をバラバラにされる。紆余曲折の末に復活し、冥界の王となる。
 神話と違って、この神魔は、まだバラバラのままのようだ。
「この都の地下は、冥府として永劫に我が王国となる。立ち去れい」
 背後は、空いている。
 誰も、さがりはしない。
「去らぬなら、地上の臣民どもと同じく、冥府にて余に仕える意志表示とみなす」
 ざわり、と空気が揺れた。こいつらも、カイロの人々を虐殺するつもりか。ならば、捨ててはおけない。
 塗歩・蒼(冷たい炎・b00350)は、前に出た。一歩、進み出た。
「博物館巡りは中止だね。ゴーストくん、僕らと遊ぼうか」
 そして、セシェム・シストルム(超絶頂極重地獄大将・b17883)が二歩、進み出た。
「奮い立て、エクスカリバーハート! 冥界の王の僭称者 その魂ごと砕くーッ!!」
 戦いが、はじまった。
 敵は、多い。地上に匹敵する数だ。こちらの十数倍。戦場が狭くて、一度に襲ってこられないのが、唯一の利点か。
 レウィ・スペンス(光の羅針盤・b21160)が、無言のまま、サイコフィールドと悪夢爆弾の援護を展開する。
(……素敵なチームだと思います。一見仲が悪いようですが、その実お互いを信頼していて。……長い間共に歩んできた仲間たち、決して失いたくない)
 そのレウィは、カイロ到着後、瞬時別行動して、地図を確保していた。
 チームメイトの外道院・黒荷架(悪意の魔女・b13869)はスーパーGPSで、現在位置を把握している。
「誰か、地上に伝令を……」
 だが、後方は空いているように見えるが罠ではないだろうか。
「こんなこともあろうかと!」
 馬酔木・陽彦(高校生サンダーバード・b80856)がかって出た。地下鉄の電線を使っての、電送伝令だ。
 それを見送り、黒荷架は敵に向き治った。
(……雄大校長先生の言葉、『良い一年にしよう』……僕の譲れない法です。四年生でやってきて、もうすぐ高校生。銀誓館に感謝しています。そして、感謝はここで終わりません!)
 武器をかまえる。
「槍に遇っては刀の気。刀に遇っては無手の気。無手に遇っては獣の気。 武は『戈(ほこ)を止める』に通ず。気、覚悟、勝る事。即ち――『勝機』です」
 無数の敵。
 少数の味方。
 有象無象の敵。
 勇猛果敢、覚悟絶大の味方。
「エジプトに吹く風は、月の故郷によく似た匂いがして、とても懐かしい気がするよ。そんな国に、地球で得た仲間と共に来ているのだから。まるで負ける気はしないな」
 シャウラ・カルナック(獣姫・b82773)のアブソリュートルナが敵を凍らせる。
「申し訳ございません。貴方達の目論見はここで刈り取らせてもらいます」
 秋扇・紫苑(月の雫・b45670)が敵陣に斬りこみ、スラッシュロンド。
 そこへ押し寄せた敵に、ホーリィ・ランプフィールド(インビジブルスマイル・b18301)が隕石の魔弾。
「ぐーちゃんは、前のみんなの回復をお願い!」
 真モーラットピュアが、ぺろぺろなめる。
 ほかの面々も、奮戦した。エクセル・カーリム(蒼月・b01754)が暴走黒燐弾で敵の数を減らす。
 そこへ、卒業生である安曇・瑛汰(願わくば永遠に・b62202)の、暴走黒燐弾奥義も重なった。現役生の背を護ろうという決意が重い。
「前進は無理そうだが、ここを引き返すわけにもいかんぞ」
 岩崎・弥太郎(志せしは覇道の主・b42534)も、果敢に攻撃をはなつ。
 朱桜・結華(白雪を知らぬ桜の精霊・b59637)は、茨の世界で、側面、オシリスの腕軍の前進を阻む。敵の数は多いが、まだ逃げるほどではない。一斉に多数とぶつからないですむ。敵は逐次投入するしかない。
 茨の世界で側面を支えるのは、セルシア・マレヴァール(深緑の茨纏う幼き魔女・b76661)もだ。
 ピラミッドの中にいる、幼なじみの姉貴分のことが心配でここまで来た。ルールーとであった経験を生かすために、ここまで来たのに、肝心のルールーと戦う前に、倒されなどしない。
「お姉様、私は私が必要とされる場所で戦います!」
 遠峰・真彦(怪談ストーカー・b33555)は、ちょっと周囲からひかれそうな笑みを浮かべて戦っていた。
「嗚呼、冥界の王さまや、この後には世界七不思議と相見える日が来ようとは、何たる幸せで御座いましょう……ヒヒヒ。貪り食らわせていただきますよぉ……」
 一気にオシリスを目指し。猛毒鋏角齧りで喰らいつこうとする。彼の使役モーラットのもふもふ様は周囲をペロペロ舐めるに余念がない。押されれば、これも伝令につかせるつもりだ。
 しかし、まだ……。
「先にいった……颯壱先輩と、香恵先輩を見て……ッ、にやにやしてあげるまでは!」
 倒れられないのだと、奥田・茉莉花(罪有る屍隠す白花の苑・b79216)が虚空ギロチンで、敵を処刑してゆく。
 一般人退避の交渉役と考えていたのに、これでは、そこまでも……。
 その茉莉花(b79216)のフォローにまわっていた、和泉・里瀬(遥か彼方視る水銀の泉・b79215)は、首筋に、冷たいものを感じた。 殺気? 自分ではなった吹雪の竜巻の余波?
 ……そのどちらでもない。水滴が落ちてきたのだ。たまたまそばで戦っていた須釜・黎治郎(ネコ探偵の助手・b70526)と、彼のケットシー・ガンナーも、同じことを感じたようだ。
 はっと上を向いた。
 最初に、天井に気づいた、朝日・遥日が、警告を発しようとしているところだった。
「落ちてくるぞっ!」
 地下鉄の天井を、オシリスの胴体が突き破り、ナイルの流れが押し寄せてきた。

「まじぃぜ! 地下にやばいのがいる!」
 地下鉄から電線をたどり、馬酔木・陽彦(高校生サンダーバード・b80856)の緊急通報が届いた時には、地下鉄は水に満たされ、凄惨な乱戦がなおも続いていた。
「くそっ! 急いでくれ! この街も俺達が住んでた街みたいにさせたくねえ!」
 陽彦が、能力者として目覚めた時のことを思い出し、身をふるわせる。
 空中のナイルの敵も、地下に向かっていた。対アヌビス戦の決着をつけた戦力もあわせて投入した結果、オシリスは、無理押しはしてこず、地下のいずこかへ姿を消した。脚はどうやら地下深くからの襲撃を狙っていたようだが、なんらかの理由で、出現しなかった。
 多くの呼びかけが、風を強めた成果だが、それは銀誓館の若者たちも知りえないこと。
 だが、敵の戦力が75%だけでも、銀誓館の損害も大きかった。地下鉄ルートは、残念ながら誤った選択肢だったのだ。いつもの、完璧な運命予報であれば、こうはならなかっただろうが。
 もはや博物館の運命は、別ルートをたどった少数にゆだねるしかなく、そしてピラミッドへ赴ける戦力も、減少することになった。
 だが、悔やむにはおよばない。もしも、銀誓館の能力者たちが地下にもぐっていなければ、カイロの地下鉄は、誰ひとり気づかぬ間にオシリスの冥界とされていただろう。
 そう、異形のたくらみを撃破したという意味では、これはむしろ、勝利と呼ぶべきだ。カイロ解放は、なしとげられた。
 博物館に逆転の要素が隠されていなければ……だが。

 エジプト考古学博物館、その一角に、たどりついた銀誓館の能力者が、身をひそめていた。
「え? もしかして、たった四人なんですか?」
 菊咲・紅樹(小学生サンダーバード・b74567)が呆然とつぶやいた。
「そうみたい、だね」
 ヘリオドール・ベル(ハニーサクル・b84463)も、少し驚いている。
 電送を試みたサンダーバードは他にもいるのかもしれないが、戦闘に巻き込まれた可能性も高い。ほかの戦場で能力を必要とされたものもいる。
 地図を頼りに、あるいは戦闘は電送を解除して回避、メイン送電線ではなく民家を経由、そういった工夫や、何より幸運によって、たどりつけたサンバーバードが、四人。
「だけど、何もせずに逃げるわけにはいかない。こっちに向かってる仲間がいるんだ。迎えなきゃ……無理はしないけど」
 大沢・颯壱(ピンキッシュデジタリズム・b78739)が、拳をにぎりしめる。
「ルールーの動向を確認。入ってきたルートを戻って報告、というのではどうでしょう?」
 鳴神・盟華(建御雷神の巫女・b75641)が落ち着いた判断をくだす。
 ほかの三人に異論はなかった。物陰から忍び出る。
「がんばりましょう!」
 不安いっぱいだろうが、紅樹が、元気を見せる。
「でも、危険そうならすっぱりあきらめるほうがいい」
 ヘリオドールは、はりきりすぎをいましめた。
 四人はまず、玄関を確かめた。人の気配もゴーストの気配もない。後発組にそなえて、罠や警報を確かめておく。
「何もないねえ」
 颯壱は、首をかしげた。博物館内も静かなものだ。ルールーは、ここで何をするつもりなのだろう。てっきり、やつらがよみがえらせた抗体ゴーストであふれているものと思っていたが……。
「るーるー。るーるー」
「出た!」
 博物館の奥から、ルールーたちが出現したのは、その時だった。サンダーバードたちはふりむき、愕然とした。数が多い。ぞろぞろと湧いて出て、百体近いのではないだろうか。大展示室を埋めてゆく。
「逃げっ……」
 ここは撤退して、態勢を立て直すべきだ。四人の誰もが、そう思った。
 だが。
「るーるー。るーるー」
「向こうが、退いてる?」
 博物館の奥から来たルールーが、奥へ戻ってゆく。だが10体ほどが残った。四人のサンダーバードの足止めだろう。
 突破して、奥に戻ったルールーたちの意図を確かめるべきか?
 四人は、ふたたび迷った。
「颯壱! よくやったわ!」
 その時、背後から。つまり入り口から声が聞こえた。
「姉さん!」
「しくじったらタバスコの刑にしようと思ったけど……」
 厳しいことを言いつつ、大沢・美風(トパーズオートメタリックス・b77387)がライトニングヴァイパーをはなつ。チーム巌の杜が、颯壱が電送で移動しつつ探ったルートで、到着したのだ。
「闇夜、我が呪いでこの場から滅せよ!」
 巌・智速(藍染羽織の呪言娘・b77502)があたりを光明呪言で照らし出す。
「我が蟲たち、忌まわしい闇を照らして頂戴!」
 藤原・香恵(白糸旋律奏でる和琴巫女・b76879)の白燐蟲も重なり、そのまばゆさにルールーがひるんだ。
「……心配させないで、ふたりでいろんな所を回ろうって約束、果たせませんわ!」
 颯壱を見る香恵の目がうるんだ。
「お邪魔してすいませんけど、ナイル川ルートから、チームはねうさ、参上です!」
 ナイルの上にナイルはない。地道なゴムボート移動によって、市街移動を最短にした、柿木坂・みる(希望の羽・b63721)、アリシア・フランク(紅衣の念動剣使い・b77276)、
月姫・柚兎(想いを秘めた闇の刃・b60383)、蒲生・灯雪(雪雅幻詠・b55309)、西野・御子(小学生真処刑人・b16555)が到着したのだ。
 大展示室の戦力比は逆転した。そのまま、奥へ追撃の態勢に移る。
 だが、ルールーはみんなを迎え撃たなかった。そのまま逃亡したのだ。カイロ市街のゴーストは、すでに倒されかけていたとはいえ、まだ敵援軍があればどう転ぶか、わからなかったというのに。
 まるで「すでに目的は達成した」かのような態度だった。

 ――地下鉄の戦いも一段落した後、何人かが、博物館を訪れた。ゴーストの再訪にそなえ、警備に残っているメンバーもいる。
 ヘリオドールは展示物を調べ、敵の意図を探り出そうと考えていた。
 同じことを灯神・漣弥(巧速の探索者・b03209)も行っていた。なくなっているものは、ないだろうか。
「なにか……能力者の勘にひっかかるものがあれば……必ず何かを掴み、カンボジアでの借りを返す!」

●後方支援本部 みんな、だいじょうぶ

 空港確保戦、ミイラ軍団戦で傷ついた面々が、運びこまれてきた。
 てきぱきと学生証やイグニッションカードが確認され、傷を確認されて、タグと名札がつけられてゆく。
「志衛亭・響(敵殺チェンソー・b01408):緊急」
「奈那生・登真(七生討魔・b02846):準緊急」
「木葉・麗香(竜意悠久・b11818):緊急ではないが出撃禁止」
 緊急ではなく、動けるからのタグだろう。たいていは自分の具合がわかっているけれど、たまに暴走するのがいるから念のためだ。
「森里・浩之(真盗聴忍者・b17397)」
 タグは貼られず、即座に医療班に運ばれた。威力偵察班は、かなり過酷な事態に遭遇したようで、大半がリタイヤしている。
「影太刀・シュリケン丸(忍道一直線・b45806):緊急」
「飛鳥・瑛士(刃と想いを受け継ぎし者・b49579):緊急」
 自力移動不可能な怪我人を運んできた、有栖川・美津海(谷間に咲く一輪の白百合・b63023)と綾上・千早(殺神一劍・b02756)が、自分たちはまだ大丈夫だからと、休みもせずに前線へ戻っていった。
「がんばって!」
 駆け抜ける彼女たちに、長谷川・国彦(中学生ストームブリンガー・b84306)は声をかけた。
 砂漠から、たまにはぐれたミイラ軍団があらわれる。周囲の構造物を利用してバリケードを築いた彼は、仲間とともに警護の役目についているのだ。もちろん、必要に応じて負傷者の輸送もすれば、手薄な地区に出てもゆく。
「はぐれゴーストに追われている! 手を貸して!」
 負傷者運搬の任務についている、杉崎・意織(中学生カースブレイド・b84433)が、盾剣で仲間を守りつつ、バリケード内に飛び込んできた。
 ミレディ・ハーシェル(ニュイエトワーレ・b79828)が、傷ついた仲間を背負っている。背負われて霊を言う仲間に、ミレディは、笑ってみせた。
「メディックの経験はないがクラッシャーは長いんだ。力仕事は任せて欲しい」
 意織は、その怪我人を励まし、ささやく。
「退院して初めての旅行なのよね。終わったら……少しだけ観光していかない? だから…必ず生きて帰りましょ!」
 うなずきを確認して、救護所からの迎えに託した。
 スラッシュ・シェイエル(怪異の追走者・b80429)が続いて走りこんでくる。運ぶのは無理でも、敵をひきつけることは可能だった。彼を追ってきたミイラを、救護所護衛をかってでた、御鏡・幸四郎(櫻庵の職人さん・b30026)が迎えうつ。
 すでに真スカルロードである姉、七ノ香とのゴースト合体は終えていた。人出が必要なら使役ゴーストとして、敵襲にはゴースト合体で。
 20体あまりのミイラ兵士を、いあわせた光狩・鎌夜(猫の守護者・b60763)とともに片付ける。
 さらに、ミイラ兵の後から運びこまれた怪我人もいる。一瞥して、鎌夜は言った。
「ベッドまで運ぶより、いま止血だけしておきましょう。大丈夫、伊達にメディック常連と言う訳ではないのですよ?」
 すまん、戦えなくて、と泣く高潔な勇者を、運んできた赤狐・参九朗(鎌倉の赤いしっぽ・b04487)が慰めた。
「途中で脱落した、なんて言って自分を責めないで。あなたは『重傷になるほどに、がんばった』んだよ。とてもかっこよかったよ、戦ってくれてありがとう」
 それがただの気休めでなく、心からだとわかったのだろう。彼は、そのまま意識を失ったが、命に別状はない。
 そのまま、救護所に運ばれる。
 救護所では、戦争時と同じく、いや生命賛歌なきがゆえに、それ以上に忙しく、メディック経験者たちは、くるくると手当てに走りまわっていた。
「大丈夫ですよ。元気をだして。ええと、好きな歌とかありますか!?」
 内田・ゆりな(ブルースターオーシャン・b79935)が音無・舞子(悲しみのベルダンサー・b83874)ともに、担架で怪我人を運んでゆく。
「大きな戦いに出るの……はじめてだし、弱いけど……私でもお役に立ててるよね?」
 水田・えり子(スターライトティアラ・b02066)が力強くうなずいた。
「もちろん! 戦っても私たち弱い。けど、心さえあれば、みんなを守ることはできるから! さあ、歌ってみんなを元気付けよう」
 怪我がなくても疲労や、心が弱ることもある。歌ではげまし、またスポーツドリンクやカフェオレなどの準備も、おこたりなかった「絶対に、誰も死なせたりしませんから……」
 がんばるチーム内田の背を、優しい風がそっと押す。
 その風に、何かを感じて姫崎・夜羽(自由への旅路・b83020)が、一瞬感謝の表情をうかべて、そしてひきしめた。
「運ぶのはぼくがやります。女性のみなさんは、手当てのほうをお願いします」
「まだ動ける方はこちらに。サイコフィールドを使います」
 回復のアビリティを使うアリス・セレスタイト(不思議の月のアリス・b82668)も、えり子にあわせて歌う。
 意気軒昂たる表情を取り戻して、再出撃する仲間がいた。
「皆さん、どうか御無事で」
 ふつうの病院なら、歌いながらの治療など論外だろうが、銀誓館の救護所なら、踊りながらの医療行為だってありえる。
 回復集団「ダンスダンス☆きらりん革命海賊団」は踊子・キラリ(笑顔ハートトゥハート・b83506)浄化サイクロン、照山・もみじ(陽だまりの歌い手・b53306)ヒーリングヴォイスとヘヴンズパッション、銭函・朝里の幻影兵団を駆使してみんなを鼓舞し、癒している。
 彼女らに指示を出しているのは、支援部隊の経験が豊富な、室生・詩歌(無彩色の天球儀・b73737)だった。
「さて、日本名物炊き出し、いらっしゃいませ!」
 と、炊き出しで目立っている彼だが、いちばんの手柄は、トイレの設置をきちんと指示したことだろう。大規模集団において、最も重要でありながら忘れられがちなこれを行ったことで、銀誓館の戦線維持力は三割増えたと言ってよい。
「人の心の温かさ、歌と盆ダンスで感じて貰えたら嬉しいな♪」
「オレ達が来たから、もう大丈夫だアミーゴ♪」
 もみじ、キラリ、朝里の元気さに、みんながはげまされた。
「すごいです。小道がんばるのです!」
 伏見・小道(命漆に護られた子供・b28297)は、モーラットピュアのもにゃと一緒に元気にうなずいて、おてつだいにはげむ。
 はげますような優しい風に、ふと立ち止まって、小道はよびかけた。
「あのね、小道たちは「せーめーつかい」っていわれてるのです。せーめーは、きもちとかこころとか、おもいでもせーめーなのです。だから、だいじなこころとかきもちがきえちゃうのは、だめなのです!」
 誰に話しているんだろう、と姫神・くくり(掬想・b36996)がやってきた。こっくりうなずいて、小道がまだ動き出す。
 誰にだっていいな、と、くくりは思った。誰にも悲しい顔させないように、みんなが、笑顔でいられるように、銀誓館の仲間にまた笑顔で会えるように。くくりの居場所をくれたたくさんのみんなにありがとうができるように。
 その願いは、くくりもいっしょだ。
 だから、懸命にお手伝いする。みんなが帰ってくる場所を護る。
 シルド・バックラース(弱き者の楯・b53175)が、熱血救護班の逆・守人(符術使い・b40958)らとともに、怪我人を運んできた。カイロ市郊外で襲われた一般人のようだ。アビリティでは癒せないが、病院よりこちらが近かったのだろう。
 アカネ・テト(高校生サンダーバード・b74635)は、少し不思議に思っていた。
「今回、生命賛歌はないはずなのに……」
 戦闘不能級の大怪我に見えても、また立ち上がれるものが多い。学園に戻って、すぐ日常に復帰できそうだ。
 こうかもしれない、と考える。
 生命賛歌の加護はなくても、生命賛歌の源である自分たちの想いがここにある。互いの姿は見えなくても、会ったこともなくても、運命の糸は、絆はきっとつながっている。
 絆が互いを支えあっている。見えない誰かのことも、私たちは支えられる。祈りは届く。
 その通りだよ、と、優しい風がうなずく。
 また新しい怪我人だ。アカネは走りよった。
 運んできたのは、榊・くるみ(がんばる女の子・b79108)とシャトン・シャノワ(木漏れ日の旅猫・b79762)だ。
「みんなかならず生きてかえろうね! ハッピーエンドになるように…がんばるもん!」
「一人でも多く救うんです!誰一人の命として、死神なんかにくれてやるものですか!」
 そう、これも戦いなのだ。ある意味では、最も重要な戦線なのである。
 バリケード、拠点の防衛線はひとつではない。
 北の防衛拠点で、嘉月・輝弥(春照極光・b82516)は、ラクダ騎兵が近づいて来るのを見つけていた。
 もちろん、迎え撃つ。
「大事な拠点だ。一歩たりとも先へは進ませない」
 桂城・臥待(望郷の月読宮・b82570)と掛葉木・稚都世(にぎほのひなぎつね・b82044)は、砂漠会戦で負傷して運ばれてきた。回復して、前線に戻る途中で、ここを通りかかったのだ。
「さっき、臥待様のおでこを蹴飛ばして、大怪我させたやつらです!」
 ひるまない稚都世の言葉に、臥待は優雅にうなずいた。だが、その手はゆるがぬ決意を示している。
「青星を汚す者達を見過ごす事などけして出来ませぬ。何より……臥待たち月帝姫と対なる嵐の王達が立ち上がるなら助力は当然のこと。まだ戦える上は、戦いませぬと。今度は、稚都世殿も、どうか御怪我などなさいませぬよう」
「俺は大丈夫ですよ。今度はきっと、やっつけます」
「お湯と毛布を持ってきたぞー。砂漠は寒いから。運ばれてきたやつをまず暖めて……ありゃ」
 救護本部からやってきた天明・光(光と闇・b55301)が、近づく土煙を見て、湯と毛布を地面に置いた。
「さっきの重傷者、飛行機の中であったかくしてるから、心配ないぞ」
 稚都世と臥待の隣で寝ていた意識不明の仲間のことを伝えて、光は、こきりと首を鳴らした。
 そして、主にメディックたちによる、北バリケードの防衛戦がはじまった。

●大地の怒り、鎮めよ

 カイロからゴーストを排除して、ギザのピラミッドへ急行した銀誓館の能力者たち。
 夜明け前の、もっとも闇の濃い時間帯、彼らを待ち受けていたのは、思いもよらぬ事態だった。
「砂漠が渦を巻いている? まさか、流砂が迫ってきているんですか?」
 大地の怒りを止めるべく向かったものたちが見たのは、恐るべき光景であった。坂城・宗馬(栄える生を葬る魔・b73465)が身をふるわせる。さしわたし数キロの砂漠が、何もかも飲みこむ流砂となって迫ってくるのだ。
 あれこそが、エジプト神話の大地神ゲブの怒りか。
「このままだと、銀誓館の軍勢すべてが、あれに呑みこまれてちまう。おまけに、あれを超えなきゃ、ピラミッドにたどりつけねえ……けど、まだ時間がありそうだ」
 風が、吹いている。それが巻き起こす砂嵐が、流砂を食い止めていた。カイロを後回しにして、まっすぐにこちらに向かっていれば、あの流砂はまだ小規模だったかもしれないが。
「いや、まだ止められるぜ。なあ?」
 除霊建築士である雨御・叶一(水溜りの律動・b78003)は、かたわらにいる同じ除霊建築士の八幡・鋼鉄(心地よい住環境を貴方に・b80128)の意見を求めた。
「そうやね。あれからは、僕ら除霊建築士が使う不浄泥濁陣に似た魔力を感じます」
 二人はうなずきあうと、すばやく簡易祭壇を組み上げた。
「除霊建築学で、地脈の流れを探るからな、それを正せば、あれは止まる」
「ただし、大地の適切な場所に、魔力の震動を浸透させる必要があるんや。いうてみれば、地球は大きな建築物。それを直すのは僕らの本領っちゃね!」
 彼らの指示に従って、白虎拳士たちが散った。それ以外のジョブの者は、警護にまわる。まだピラミッドまで遠く、量より質の守護陣とはいえ、神魔に仕える雑魚も、かなりの数がいるのだ。
「もうちょっと右。あ、こっちから見て右だ。すまねえ」
「はい、あと一歩半、前へ進んでや」
 ここまで戦いをくぐりぬけ、たどりつけた白虎拳士は六人だった。かなうなら、北斗七星の陣形を組みたかったが、数が足りない。他の場所にいる白虎たちを呼んでくる時間はない。ヤドリギ使いがいれば、植物の根で、大地の底深くまで、威力を伝えることもできたろう。
「南斗六星の陣で、いく!」
 配置が終わった。合図がくだる。
「最初は、平和への思いをこめて」
 まずは、九条・勇(メメントモリ・b59732)が、その脚を大地に叩きつけた。ずううんん、と静かな響きが大地を癒す。
「次を! 友情の優しさで」
 四季・紗紅(白虎拳士・b59276)が、後続の道をならさんと、その脚で大地へ鎮まりたまえと祈りを伝えた。
「三つ目や! 正義を念じろ」
「私のダイヤモンドの超☆正義は、真っ赤に燃えているんだよっ! たとえるなら、ダイヤは今、ルビーカイロになっているんだよっ」
 カメリア・ダイヤモンド(てんてん天下の超正義・b59873)が正義の熱を、大地に蹴りこむ。
「四だ! 悲しみを伝えるんや」
「ホントに震脚でよかったんにゃあ。……じゃあ、バステトに、猫耳アピールをスルーされた哀しさを」
 それでいいのか、白木・祢琥魅(ひなたぼっこ道免許皆伝・b73244)。だが、大地は鎮まってゆく。
「五番ッ、どうだ、たまにはオレもちゃんと仕事するだろう」
「その安心で踏み固めろ、と? というかむしろ懲らしめます……ふだんを」
 雨御・静夢(謹猟区域・b77220)が、ずうんと震脚をふるって、叶一をおじけさせた。
「最後ッ! 未来を守るために!」
「守るなんざガラじゃねぇんだが……なッッッ!」
 青咲・理仁(黄雷・b78363)が踏みこむ。
 六つの震動が共鳴し……。
「どうだ?」
 除霊建築士たちが、その効果を見守る。
 震える、震える、震え……。
「よし、止まったぜ!」
 流砂の進行は止まった。徐々に消えてゆく。どうやら、それを引き起こした大地の神魔ゲブは、地底深くへ戻っていったらしい。
 だが、これでは倒すどころか封じることもかなわない。この戦いでは出ないだろうが、この先いずれか……。

●天空の嘆き、宥めよ

 一方、大地が迫る反対方向から、強大な竜巻が近づいていた。すべてを吸い上げ、砕き、撒き散らす。強大無比な、天空の暴虐だ。
「みんな落ち着いて! 大丈夫! あたし達には風がついてる!」
 平坂・希望(少女神風・b49597)は、みんなをはげました。本当のところ、少し怖い。あれは、希望が知っている風ではない。
 シルフィードにとって風は味方。親しい友人だ。
 だが、あの竜巻はよそよそしく感じられる。
 希望は、自分の持つ闇の力を呼び出して、竜巻に立ち向かう準備をかためた。
 釣・克乙(もふぷにを・b52353)は、シルフィードたちに、みがまえるように呼びかけた。自分たちの力を信じて、必倒の決意だ。
 ついに竜巻が間近に迫った。その直径は数十メートル。高さは数百メートル。逆さになって東京スカイツリーが二倍の幅になりつつ、回転して迫ってくるようなものだ。
 たった十数人のシルフィードたちの瞳から、ぶわっと涙が流れた。理由は――わからない。
 自分たちが怖がっているのか。その思いを否定するため、彼らは一斉に攻撃に出た。
「目には目を、歯に歯を、風には風を!」
 朝宮・りんね(白き黎明の守護者・b57732)が、ジェットウインドで足止めを試みる。
 一瞬も止まらない。
「エジプトの風は日本の風と違う。……これはもっと違う」
 夜闇・亜利亜(導きの風・b62751)は、悲しみは、竜巻が送りこむ精神攻撃だと判断して、浄化サイクロンで防ごうと試みた。
 吹き飛ばされる。
「これが、ワシのゴッドウィンドアタックじゃああ!!!」
 沙門・獅子丸(黄金の獅子・b83055)がとびこんだ。ぎりぎりと、風と風が押し合う。
「うおおおおおおお」
 獅子丸が押し切るか、と思われた瞬間。はじきとばされた。受身もとれないキリモミ状態で大地に叩きつけられる……!
 と、思われた時、優しい風が、彼を受け止めた。
「ぬ? この気配は!」
 間違うはずはない。幾度と刃を交えてきた敵でありながら何よりも分かりあえた存在。嵐の王だ。
(それではダメなんだ)
 優しい風は、するりとぬけだした。
 やはり吹き飛ばれたアリッサ・ルード(空を断つ剣・b84435)を受け止める。彼女は「風となり」をゴッドウインド、「風の慈悲」を浄化サイクロンと考えたのだが。
(惜しかった)
 鋭敏なアリッサの耳に風の声が聞こえた。
(あれは、天空の母ヌートの化身だ。彼女は、戦いの気配を嘆き、叱りつけている。その嘆きに共感して、自分たちの哀しみの思い出をぶつけることが必要なんだ……もっと早く正確に伝えられていればよかったが……わかるわけはないな。……だから……伝えられなかった責任は、とる)
「待って! あなたは……!」
(……きみたちの思いは受け取った。それがあるから大丈夫だ)
 優しい風が竜巻につっこんでゆき……。
 そしてどちらも、そよ風になった。

 さあ、道は開いた。ピラミッドを守る3神に向かう時だ。
 敵は神を名乗る。本当に、それに匹敵する力をそなえているのだろうか。
 銀誓館の若者たちにも恐れは、あるだろう。しかし、清白・神楽(御嬢様は所により拳で語る・b40602)は語った。
「そこに悪しきがあるならば、叩いて砕き。そこに不幸があるならば、幸福の種を持ち広げる。それが、能力者の務めです。たとえ相手が古えの神々だろうと、それを阻むものあらば、この拳と、挫けぬ心で貫き通しましょう」
 いま、若者たちは、全力で、悪を叩いて未来へ進む。

●豪顎粉砕! 人呼んでセベク・ザ・パワー!

「小さし! そなたらは小さし! 歯の隙間にはさまって、噛み砕くにもおよばぬぞ!」
 それは、明晰な人語を発した。
 口で話しているはずはない。なんといっても、その頭部は鼻先から後頭部までが10メートルはあろうかという鰐なのだ。思念波が、声として聞こえているのだろう。
 体躯は、分厚い。人間の男性のものだが、鰐の頭部に比べると、ややアンバランスだ。それでも、座高が15メートルはあるだろう。腕はそれほど長くはないが、鋼のような――いや鋼鉄よりも強靭そうな筋肉がよりあわさっている。
 身長ではなく座高、脚に触れずに腕だけなのは、その下半身が沼にひたっているからだ。
 砂漠の水場だからオアシスと呼ぶべきかもしれないが、にごりきった水は、その名から連想されるイメージとは、ひとかけらもつながらない。
 しかも、その沼の中には。
「ワニっていいですよね。大好きです」
 と、四季光・鈴夏(それなりの踊り子・b17409)は言った。彼女が使う剣と同じ名前らしいが、いまはそれを言っていられる場合だろうか。
「運命的なものも感じますが、だからこそ、わたしが退治します。平良さん、作戦をお願いします」
 巨大な相手は、ころばせて攻撃を届かせるのが常道だが水につかられていては、それも無理。だが、これなら向こうも動けまい。
 まだ実力も未知なセベクに、いかな策をくりだすか、平良・虎信(荒野走駆・b15409)よ。
「強そうな者がいるではないか、実に楽しみであるッ! 面白いッ! 小細工は無用、真向から突撃する役割も必要であろうて!」
「……だと思ってました」
「俺様と力比べだッ! 獲物に喰らい付くを得意とするのが、鰐だけだと思うなよッ!」
 殴るぞと、拳をかざす虎信の、その背を護る鈴夏である。
「面白し! じつに面白し。その小ささでなおひるまずか。我、正面より喰らうてやろうぞ!」
 パワーという異名、その容貌。接近戦が専門だと、みなが判断していた。近づいての殴りあいだろう、と。
 だがしかし。
「げぇーっ! なんじゃあれはーっ!」
 ここまでの戦いで攻撃アビリティを使い果たし、神殺しの名を得てペンギン帝国の伝説を増やす……という野望を一時棚あげして、後方に回っていたシルビア・ブギ(カオスの素・b45276)が解説役さながらの叫びをあげて、思いきり目立った。
 静かに状況を説明する役目もいるので、ランダムにスポットがあたった伊東・尚人(理の探求者・b52741)に驚愕してもらう。不条理な光景ので、理の探求者なら繰り返してくれるだろう。
「首が……伸びるだと? そんな理がどこにある?」
 伸びる伸びる。セベクの首が、アナコンダのように伸びた。大きく開かれた口が、ががががと大地を掘り、土煙を巻き上げつつ突進した。
 その大口は全てを飲む。土と一緒に、虎信と鈴夏、そして巻き添えのように、黒瀬・和真(黒のレガリス・b24533)と芥川・行人(終わる夢のはじまり・b39577)も吸いこまれた。
「たまるかよッ!」
 和真は内側から、聖葬メイデンを叩きこんだ。ほかの三人も、もちろん黙って飲まれはしない。
「ぼくにかまけた……それを後悔することになるよ」
 行人は、知っている。この事態を仲間が見逃すはずはない。瞬き一つの間、息を吸う一瞬。それだけ稼げば、彼が属するチーム「誄」の仲間が、こいつをやってくれる。
 その信頼に、まず倖端・花(常初に咲き継ぎ・b17103)がロケットスマッシュで応えた。
「悪ィな、一人でも倒されると困るんだ。……吹っ飛べッ」
 鼻面殴って、閉ざされかけた口を開かせる。
 ぼろぼろと、四人が口から落ちた。その先は、ワニで一杯の沼。妖獣、白いワニだ。
 だが、津嶋・新(幻惑ジュブナイル・b62514)の雑霊弾が、あらかじめ雑魚ワニどもの掃除にかかっていた。一撃で死なないワニには、天鳴・遊司(凍て蝶の歌屑・b01110)の侵食弾がとどめを刺す。
 そして、久留島・誠(高校生真こたつむり・b71396)のダンシングユニバースで攪乱され、ワニどもは、落ちてきた四人にかみつけない。
「無理して前に立ってくれた行人を、無事に連れて帰らないと、僕が怒られるんだよね!」
 牙でかなりの傷を追っていた捕食され組だが梅木・渉(夜顔の君・b31472)のギンギンパワーZで回復してくれた。
「ほほう、面白し! 我の消化能力、味わいたくないとは面白し。小さき者、全力を尽くすに足ると認むべし」
 セベクの頭がさらに大きくなり、首が太く長くなる。
「パワーって……パワーショベルって……意味?」
 戸惑いつつ、ブッシュロビン・ミルフォード(緑の中の散策者・b57910)は、これにも使えるのではないかと、池に浮かぶ藻を利用して、茨の領域を使った。セベクの号令で上陸しようとした白いワニどもが、上陸をはばまれる。だが、すぐにもいましめをひきちぎりそうだ。
「雑魚は致命電光で蹴散らすぞ。我ら、宇宙ぷに隊、ここにありと見せてやろうぞ! ……しかしのう、所属しておいてなんじゃが、ぷにとはなんぞ? 月の言葉はよくわからぬ」
 ちょっとトボけつつ、有珠川・百合花(有珠川宮の始祖の比売・b84259)が、ワニへの攻撃をはじめた。
「うむ、妾はゲストじゃが……なんじゃろうな、この名前」
 それとまったく同時に、有珠川・茉莉花(有珠川宮の揺れない震源地・b62582)が、同様にワニへの攻撃をはじめていた。
 何を言われる前からシンクロしている。
「さすが、先祖と子孫。一目見てわかりましたけど、相変わらず、同じ人が二人いるみたいです。……でも、ぷに、についてまでそんなに一致しなくてもいいじゃないですか」
 月影・環(神霊纏いし月の巫女・b82481)は、攻撃の手はゆるめないが、ちょっといじけていた。
「うう……どこまでも付きまといますね、ぷに。結社の名前にしておいて何を今更、ですけど……」
 どこからかふいた、優しげな風が、俺はなんかいいと思うよと、環の頭をなでていった。
 ぷに隊の仲間を、リリィ・ナイアーラトテップ(必殺魔法の料理にゃんこ・b68781)がヤドリギの祝福でパワーアップする。
「砂漠の夜は寒いから、はやくカイロ欲しい〜」
 町に入ってないだろうけど、そのカイロじゃないからね?
 御影・那結多(月夜の行灯・b82480)は、防寒対策はばっちり。
「あとで、旅行鞄の毛布、貸してあげるから」
 呼びかけつつ吹雪の竜巻。池が凍って、ワニが閉じこめられる。
「……あわせる」
 富士野・彩香(白昼夢の雪娘・b54301)は、那結多と同様、池を凍らせる。氷雪地獄だ。
 ワニの半数は、池の中で氷詰めになった。だが、残る半数は上陸に成功し、ぷに隊に迫った。
 が、銀誓館の面々は、個人だけ、チームだけで戦っているのではない。常に、仲間を意識して、連携を組もうと準備しているのだ。
 ぷに隊のカバーにまわったのは、チーム白夜の面々だった。
「おいたをする子にはお仕置きだよ!」
 佐繰・麻咲(空中庭園・b71331)の水刃手裏剣がワニを貫く。反撃で怪我をすれば、霜月・灯(リベラメンテ・b53174)がヘブンズパッションが使われる。ワニの反撃は知れていた。呪いの魔眼奥義で攻撃もする。
 霧峰・灰十(徒花・b26171)は仲間と肩を並べて黒影剣をふるい、浅巳・雪十(雪花・b37924)は病魔根絶符の回復を行うまでもないと見て、呪詛呪言でワニを根絶した。
 だが、ぷに隊と白夜を一飲みにしようと、セベクの大顎が迫りくる。神崎・真希(優しき路傍の石・b75013)のタイマンチェーンも、ぎりぎりでふりきられた。しかし、わずかに速度をゆるめるのには成功し、仲間は回避をなしとげた。
「面白し、面白し! 白いワニにて足らぬなら、行け、赤よ、青よ!」
 真紅のワニと、鮮蒼のワニが、水底からふたたび、とびだしてくる。
 ワニは見た目よりはるかに素早い生き物だが、このワニは、身体を丸めて車輪状になって、一気に爆走してきた。間合いが詰まったところで、疾走形態解除。真紅は炎、鮮蒼は冷気を、その大口から噴き出して攻撃してくる。
「ワニちゃんたち、そんなにカラフルなのがいたッスか」
 久遠・翔(お母さんか大将か料理人・b47702)が、あきれかえったという口調で言った。
「セベクとの戦いを邪魔するなら……」
 炎を軽くよけて、頭上で武器を回転させ。
「テメェら、覚悟せえやあ!」
 ワニ車輪が、そこここで食いとめられてゆく。ひときわ目立つのは、チーム「スクラッチ」の面々だ。
「……さて、皆の前をあけましょうか」
 裏賀・五十鈴(飴色の景色・b45418)がつぶやいた。
「はい、血路をこじ開けに参りましょう!」
 裏上・美沙樹(中学生カースブレイド・b83766)が続く。晦・三十日(背に続く巡る満ち月思う黒き終・b82690)、鹿島・阿須波(紅月藍染檻姫・b32784)、裏辺・纏(中学生真従属種ヴァンパイア・b41633)、裏沢・由那(スケダチマニアックス・b07250)、リヒャルダ・エンデ(高校生真貴種ヴァンパイア・b47011)、水裏・一早(中学生真シルフィード・b49638)、裏方・朝臣(きまぐれ呪言士無頓着系・b56377)、裏宿・由磨(霧裂刃枝の魔女・b58738)、裏佐・朱鷺恵(白の拝み屋・b74082)裏和・いぶき(真電光戦姫・b75500)といったスクラッチの面々が、真紅のワニを一掃する。
「こうすれば、凍気も吐けまい」
 鮮蒼のワニの、真上から顎をつらぬき、縫いとめてしまったのは、ライ・ルクス(魔剣士・b17729)だ。ワニが顎を開く力は案外弱い。
 彼と同じ、チーム黒刃の時任・薫(黒霆・b00272)は、非常識にもジャンプしてきた鮮蒼のワニを、下から貫き、同様に縫いとめていた。
「セベクも、この手が使えませんかね?」
 顎のほか、首を狙ってみるのは、ライも薫も考えていたことだ。だが、セベクの首は……太い。
「面白し、いよいよ我の前に立つ資格得たり。勝負、勝負。そこを動くな!」
 パワーショベルというより、特大ブルドーザー。ずがががとせまって、黒刃の残る面々――榮柄・黎己(閃煌たる蒼焔・b61614)、朝月・弥勒(閃影・b37369)、ルアン・ニーチェ(光凰・b21130)らを飲みこもうとする。
 そこへ、横殴りの攻撃をくわえたのは、藍原・友環、天領・晶(黎明を謡う琥珀金糸雀・b02346)そして高倉・湊(凛乎たる闇影・b02014)ら、風奏華詠の面々だ。
「おい、鰐頭! 力比べなら、こっちだ!」
 軌道をそれた頭に、西垣・直貴(月下影狼・b07386)が呼びかけた。
「本当にか? 真実、我と力比べを望むというか? 小さきそなたら、真に真に面白し!」
 さらに、ぐんとセベクの頭部が大きくなった。
「うおおおおおお! ここで漢を上げなきゃどこでやる!」
 暑苦しい叫びとともに、椿・壬戌(大乗脈流剣術士・b63159)が、相棒の木刀、阿修羅をかかげる。木刀なのに、ギラリと輝いたのは、漢の熱気のなせるわざか。
「漢部の団結力、今こそ見せる!」
 砂漠が真昼に戻ったかのような暑苦しさ……いや、砂漠ならもっと乾いている。なにごとだろうか、この湿度の高い暑さは。まさに日本の夏。
 いや、明らかに日本国籍でないメンバーも多いわけではあるが、なんというか温度と湿度が。
「はーはっはっはぁ!力比べと行くだがよ!」
 イアハム・ヴォレンティーナ(漢ヴァンパイア・b57824)が、両腕を開いてセベクを待ち受けた。ごん! と、その後頭部に、棘つき鉄球が炸裂する。
「イアハム様、それ以上の突出はお止めくださいませね」
 にっこり笑顔で威圧したのは、ユマ・ジャン(イアハム様のメイド・b59371)である。
「ハイ スミマセンデシタ(ガクガクブルブル)」
 鉄球が刺さったまま、仲間と並んで足を踏ん張る。
「元々考えるのとか苦手なんで、真正面から力比べとか大歓迎ッス!」
 宮古島・うるみ(猛襲破砕型必殺撲殺赤貧少女・b57318)が、気魄をこめる。
「血がまっこと騒ぐのぉ! 漢なら1対1で勝負……と行きたいが、わしら漢部、一心同体」
 鎧阿・震地(大地番長・b81978)が、大地に深く根をおろすがごとく、腰をおとして立つ。
「ここは使いどころ……か。ガイ!」
「おお、いくぜ!」
「「想愛満月・絢爛(ラブマッスルルナ・エターナル)!!!!!!」
 そこマックス! マックス! NOTマッスル! という、風に乗ってきたツッコミも無視して、なぜか筋肉がふくれあがる、独自の想愛満月・絢爛が発動する。面白いので発動するのだ!
 神崎・浩太(月光の白燐蟲使い・b16081)とガイ・ブリアード(裸足のマッスルナイツ・b00913)、二人のみの連携技である(としておこう)。
 各務・風姫(謡い巡る西風・b11362)は、そっと背後にまわって、仲間の肩をささえた。
「さぁ、野郎ども、力くらべの時間よぉん、漢らしくいきましょうねぇんchu-☆」
 キッカ・ベルルスコーニ(にゃんこと全使役の花嫁・b77240)が激を飛ばした。ケットシーのフレデリッカ3世も、応援している。
「面白し!!!!!!」
 戦場すべてを支配する轟鳴。セベクの頭が、何もかも飲みこもうと、全力全速で突入してくる!
「どっせええええええええい!!!!」
「受け止めた嗚呼嗚呼嗚呼?!」
 ああ、が漢字表現になるほどの驚愕が、銀誓館の仲間を支配した。
「ほほう! 愉快愉快千万千万! ぐわはははは」
 がっちりと顎を抱えこまれて、セベクが笑う。
「笑え、笑え、笑い返せえええ」
 漢部が、苦しげな表情を無理やりねじふせて、がははははと豪気に笑ってみせる。鰐が口を開ける力が弱いと言われても、敵は神魔でこのサイズ。能力者の全気魄をふるっても、押さえつけるのが精一杯。しかもセベクは、笑う余裕を見せている。
「ようくぞ、やりし。小さきものども。こちらも切り札。くりだそうぞ」
 ずうんという足音が響いた。セベクの胴体が、沼から陸へとあらわれたのだ。ずしずしと、我が頭部を押さえる漢部を叩き潰し、蹴散らそうというのか。
 だが、人材豊富な銀誓館には、まだ切り札が残っていた。
「土蜘蛛が眷属にして、原始の闇を受け継ぎし者、硬鎖禍鴉皇。推して参る」
 チーム鰐狩がひとり、硬鎖禍・鴉皇(原始の闇を纏う存在・b15375)が、斬ッとセベクの脚を断つ。巨木より太い足を、闇をまとった刃が斬った。
「柔能く剛を制すと言うが…剛によりて剛を制するもまた一興…!」
 そして刀を返す。
「教育してやろう―――気合とは、こう、入れるのだ!」
 斬ッ、と逆脚も落ちた。
 動けなくなったセベクへ、残る鰐狩が殺到した。
「シロちゃん、今日のご飯は鰐よ!」
 美咲・牡丹(緋牡丹・b05183)の白燐侵食弾が胸を貫き。
「目標、セベク。剋殺、実行!」
 雉橋・希平(ヨロヅワザワイホロボシマス・b68659)は、もはやただの成り行きで戦うのではなく、守るべきものを抱えた、決意を以って戦う、全身全霊の攻撃をくりだし。
「卒業旅行前にこんなイラつくことやってくれて……。ほっぽいたら寝覚めが超悪いっての!」
 そして最後のとどめとなったのは、天野・こやね(浅き夢みし・b48985)……の使役ゴースト、真蜘蛛童・膨のイタカがくりだした猛毒噛み付きであった。
「糸で口を巻いてやろうと思っていたけど……そうするまでもなかったみたいねぃ」
 セベクが……消える!
「面白し! 面白し! たいそう面白かったぞ、小さきものども!」

●疾風怒涛 人呼んでホルス・ザ・スピード!

 見えない。
 敵の姿が、見えないのだ。ホルス・ザ・スピードの速度は、あらゆる予測を上回っていた。
「来たれ雷雲! 雷の嵐をここに!」
 鴉颯・霧歌(風霧の舞姫・b16079)のジャッジメントサンダーも、あっさりかわされた。あの速度は、ハイスピードのエンチャントも上回る。
「どんなに速くたって…堪えて、掴んでしまえば一緒でしょ!」
 橘・鞠絵(楽園に咲く黒百合・b23279)は、敵の攻撃を待った。並みのレベルで「速い」相手なら、その戦術は正解だったろう。
 来たことさえ気づかずに、彼女は吹き飛ばされた。だが、それでも「せめて、動きをにぶらせれば………!」と、のばした手が羽根をむしっていた。
 ハヤブサのものだ。
 待ちのカウンターを狙ったのは、渡良瀬・燐太郎(男という名の物語・b44141)も同様だが、空振りに見せかけた旋剣の構えが、そのままヘリコプターのモノマネになるような吹き飛ばされっぷりだった。インパクトを叩きこむはずが、技を切り替える時間さえなかったのだ。
 雛月・鞠佳(虹色の唄・b81059)が、ふきとばされた仲間たちに、ヒーリングヴォイスを投げかけようとする。
 だが、その途端に、あたりの空気がすさまじい勢いで攪拌された。声は奪われ、詠唱はさまたげられ、眩暈がする。アビリティを使うのも、ままならない。
 雛月・かごめ(慈愛の眠り姫・b42803)は、真モーラットピュアのもふちゃんに、みなの回復を願っていたが、それもできない。切り札のゴースト治癒もままならない。ふつうなら後方援護のこの位置にいれば、封術の範囲攻撃とはいえ、巻きこまれないものだが。
 夜宮・満天(星満つる夜のそら・b56297)は、倒れた仲間が戦闘不能と見て、かばいつつ、じりじりと退避をはじめた。
 たまたま、ホルスと戦うこの場は、ぽっかりと戦力の空白ができてしまっている。味方が少ない。ところが、ホルスは、三神のうちで最強だった。
 苑田・歌穂(日だまりでたそがれて・b53333)の幻楼七星光も発動できず。苑田・歌依(赤いリボンと飛び道具・b53326)はスピード勝負を挑もうとしたが、あえなく敗れた。だが、まだ立っている。前衛の仕事は倒れないことだ。見えなくても、攻撃の軌跡を呼んで、後ろの仲間に通さないことはできる。
 術を封じる、空気の攪拌が、ダメージをともなわないのが不幸中の幸い。
「単独は無理だ。連携して隙を見つけようぜ。そうだ、運命予報士は、瞳がどうとか言ってなかったか」
 浦里・宗弥(星への旅路・b46495)の言葉が、仲間に冷静さを取り戻させた。
 泉・火華流(小学生ナイトメア適合者・b83900)が、砂煙で視界を封じようとした。だが、先んじて見えない攻撃に吹き飛ばされる。氷室・まどか(ひなたぼっこする雪女・b51391)の吹雪の竜巻も間に合わない。吹き飛んだ彼女らを受け止めて、星枢・ざから(星辰に棲まうもの・b45001)も、その戦闘力を奪われてしまう。
 だが、ホルスの一方的な優勢も、そこまでだった。ホルスがつっこんでくる気配を感じた瞬間、香月・風音(月光に踊る蒼・b52865)が、身体に固定していた懐中電灯のスイッチを入れたのだ。
 スイッチを入れるだけの動作に、トップスピードの気概をこめた。そのスピードについてゆけたのは、相棒である美堂・白髏(白花大輪・b51491)。
「この時代は今を生きるわたしたちのもの。古代の王国なんてお呼びじゃないです」
 スピードスケッチがほとばしる。
 ほんの、わずかな傷。だが、確実な一手。
 そして、反撃が彼女を吹き飛ばす。
「にぶっています。わずかですが!」
 佐崎・日和子(寒暁・b40270)はラジカルフォーミュラを発動させ、人間サーモグラフとなって、気温と風速を観測していた。魔術的にいえば、大気と火の元素を、己を研ぎ澄まし感知していた。
 すれ違いざま、電子の獅子の刃を一閃。また速度が落ちた。
「キャッシャアアアアア!」
 ついに、ホルスが声を発した。
「戦の神である我に、きさまら低級な人間どもの刃が届くなど……認めぬ!」
 若々しい、青年武将の声だった。高慢で、傲慢な。
「私たちを正面から見る度胸もないのに、偉そうに!」
 上条・鳴海(雪割草・b55099)が挑発する。ホルスの突撃。雪だるまアーマーで、一瞬、耐えた。ライトで目をくらましつつ、渾身の九尾穿。
 ついにホルスの動きが止まった。
「そのでかい眼が、弱点じゃ!」
 御厨・清兵衛(中学生ルナエンプレス・b82380)が、リフレクトコアで増幅した光の槍を、ホルスの瞳に衝きたてる。
「カカカッ! 文字通りに目を刺す眩さじゃろう!」
「そうだな……だが、あの超高速で、我が目や耳などに、そう頼っていると思うかっ!」
 鳴海、清兵衛も、また吹き飛ばされた。
 しかし、ホルスはついに、大地へとおりたった。
 身長はせいぜい3メートル。ほかの神魔に比べれば、驚くほどに小さい。しかし、その実力は、最強。ハヤブサの頭部と翼を持ち、肉体は若々しい青年のものだ。
 戦場は静かだった。
 すでに、ホルスに立ち向かったほとんどの仲間は倒れている。
 ただ二人残った、御鑰・沙耶香(インノチェンツァ・b35985)と御鑰・陽一郎(オックルタメント・b35995)は、顔を見合わせた。
「そちらの瞳は月と太陽の瞳っていわれてるんでしょう? 私たちの愛用の武器も、月と太陽に関するものなの。相手として不足は無いです!」
「なめたことをぬかすな! 人間風情が!」
 ホルスの姿が消えた。
 だが、その超高速は予想済みだ。これまでの、仲間がその身で確かめさせてくれた軌道に、二人の大鎌と長杖が置かれる。
「きゃうっ」
「くうっ」
 向こうが武器に飛びこんできたというのに、かまえていた腕がもげるかと思った。
「ぬがああああああっ!」
 しかし、ホルスにも大きな打撃を与えた。その片方の翼が、ざっくり切り裂かれて、もげかけている。
「おのれ! おのれ、おのれぇ!」
 ホルスが怒りの罵詈雑言を吐き散らす。
 また飛びこんできたら、今度こそ無事ではすむまい。陽一郎と沙耶香の双子は、相打ちをも覚悟した。
 しかし、その時。優しい風が、二人をとりまいた。
 同時に、哀しみの風が、ホルスをかき抱いた。
「む……。ヌートお祖母さまがおっしゃるのであれば」
 ホルスが、いまいましげに唸る。
「今日はこれでひいてやる。だが、人間ども、おぬしらとはいずれ、決着をつけるぞ!」
 翼を傷つけた戦神魔は、天空女神魔ヌートの哀しき風に運ばれて去った。

●変幻自在 人呼んでトート・ザ・ウィザード!

 朱鷺の頭を持つ神、トート。その名をいただく神魔は、魔法の玉座に座したまま、能力者たちの頭上に浮かんでいた。神話に伝わる、足がきかないという弱点は補われている。
 パワーに比べればやや小柄だが、立ち上がれば、身長10メートルはあるだろう。体躯は痩身の男性のそれである。
「かのヘルメス・トリスメギストスと見える機会が在ろうとは思いませんでした」
 霧島・絶奈(さよならを教えて・b61363)は、あれが魔術の伝承において「三重に最も偉大な者」と称されたトリスメギストスなのか、と戸惑った。ローマ帝国の「黄金のアクィラ」は、これ程強力な軍勢をも破ったのか……とも。
 が、それを問いかける余裕はない。すでに、トートは広域殲滅魔術のため、呪文詠唱をはじめている。
「壊すのは、まずあの石版から。トートを倒して、消えてしまっては困ることになります」
 バステト説得班からの情報が、すでに伝わっていた。望遠鏡で、全体を観察して魔術を把握しようとしていたスイヒ・カティア(暁光の魔力・b82422)が、駆けてきた伝令を見つけた。
 なんと、あの石版を一定の手順で壊せば、使役ゴーストがさらなる力を得るというのだ。
「あれってオロチに刺さった破片と関係は無いでしょうかね?」
 宮代・夏月(黒耀の使徒・b09502)が疑問を呈する。
「偶然じゃないか? 伝説の元になった本物か、伝説から生まれた様式の一つかは解らないが、トートといえばエメラルド・タブレットだし」
 答えた青柳・暁人(真水練忍者・b02849)にも、確信などはない。
「最初から、まず石版の破壊を試みるつもりだったんだ。問題ねえぜ!」
 相談しながら、敵の魔術を待っている場合じゃねえと、葛城・浪漫(真赤い亀裂・b17113)が、砂漠を走る。自分も死なず、みなも死なせない、そのための多少のムチャはやむをえない。砂丘のてっぺんにかけあがり、ハイジャンプしてのロケットスマッシュ!
 届いた。
 だが、一行目から削らねばならぬという制限が、正確さを優先させて速度を失わせた。
 トートの呪文が、わずかに早く完成する。
 七色の虹が発生して、浪漫だけでなく、みなを飲みこもうとする。赤は熱、青は冷却、色彩ごとに効果が異なる魔法を及ぼす、残酷な虹だ。
 後に続いていた、チームアイギスの土岐・英志(山の御来迎・b61808)が、くりだしかけていた退魔呪言突きを、単なるパンチにきりかえて、暁人をつきとばし、自分も反動で飛んでかわす。
 八十神・静流(ひとかけらの奈落・b54471)が、放った破魔矢が、気をそらして追撃を防いだ。虹は地上のみなもなぎはらったが、榛・遥(陽の欠片を抱きし者・b31027)はリフレクトコアで防いでいる。
 だが、このたった一発の虹で、傷を負い、戦闘不能に追いこまれたものも少なくなかった。利根川・幸緒(黒服・b09254)は、とっさにサイコフィールドをはった。攻撃役の仲間を支え、自分は倒れる。だが、虹は後方で支援に待機して仲間にも届き、そして打ち倒した。諦めの悪さを誓った草凪・まどか(籠人・b82655)が倒れた。虹は歪み、大きくカーブして、側面からの襲撃を狙っていた天白・謡(空白音律・b82892)に、緑の超マヒを与えた。月帝姫の知識を生かす機会が、失われる。無念。
 戦闘不能寸前から、朔月・風香(虚月光陰・b34778)の治癒符を受けて、彼岸花・紅葉(七天一刀・b31310)がひるまず迫る。イーティングブロウだ。
「喰らい尽くせ!」
 なぎ払ってやりたいところだが、そうはいかない。まずは石版に書かれた呪文の1行めを削った。
「そっちが複合攻撃で来るんなら、こっちだって! リリカル☆サンダーここに参上、4人合わせてエレメンツ☆フォースよ! 魔法勝負と聞いて参上したわ」
 佐々木・乙女(はゲーマー・b74755)が、魔法少女のポーズを決める。
「サンダーボーォオオォォォル!」
 と名乗る雷の魔弾だ。
 続いては、水属性担当の佐々木・オトメン(は男の娘・b77241)。
「オーホッホッホ!ラジカル☆ウィーター参上ですわ、全ての悪を洗い流してさしあげてよ!」
 オトメンは、不浄泥濁陣をはなとうとして、トートが宙に浮かんでいることに気づいた。だが、護衛のミイラ兵もいる。それには有効だろう。やっぱり放っておく。
 護衛が壊滅した。あっさりしたものである。
「フィジカル☆アースでございますわ、ワタクシは全ての悪を許しません」
 一二三四院・夢乃子(中学生書道使い・b80137)が破魔矢をあびせる。
「ひゃっはー!マジカルファイアーここに爆誕だぜ!」
 五六七八院・現子(魔法少女と呼ばないで・b83917)が飛び出そうとするのを、夢乃子が制止する。
「それじゃ殴れねぇんだよ!かしこまってねぇで回復よろしくな!」
「いいえ、それよりは……!」
 トートの呪文が詠唱される。指先から、真っ黒な闇のガスが噴き出した。地水火風のいずれでもない魔術をくりだしてきたのだ。なら、それに包まれるよりも早く、四人のあわせ技。
「ナチュラルエレメントアターーーック!」
 二行目、撃破。
 エレメンツ☆フォースは、毒と眠りで倒れたが、闇の毒ガスは止まった。
「行が減ると魔術も減るようだ!」
 トートの魔術を分析していた要・耕治(気骨稜稜の徒・b00625)が仲間に知らせた。
「ヒャッハー! それだけではないみたいですぞ!」
 睦月・誡(高校生真霊媒士・b48547)は、二行目から何かのエネルギーが解放され、すでに合体している真サキュバス・ドールのメイに、何かの共鳴が起きたことを感じたのだ。
「どんどんいきましょう!」
 トートが、どこかあせっているようだ。何かが狂っている、そんな雰囲気がただよっている。エメラルド石版を隠して、自力のみで魔術を使うか、そんな迷いが見えた。
「隙あり! 魔術なんぞより、暴力さ。ご自慢の魔術とやらで、この力任せ、防げるもンなら防いでみやがれ!」
 横からころあいをうかがっていた祭屋・宴(首狩御前・b38961)が、聖葬メイデンを叩きつける。
 3行目が削られて、生まれかけていた雷雲も消える。
「魔術勝負。己が本分は、速度にあり。追いつけるものなら、どうぞ。いらっしゃいませ」
 沙更女・粗目(蛇の心臓・b40178)が、呪文の詠唱速度を限界まであげた蒼の魔弾を、正確に石版へと集中する。
「ただ、殺るのでございます」
 おそろしいつぶやきだ。
 4行目は、読みはじめるひまさえなく削られた。
 御門・悠輝(アスール・b04748)が、炎の魔弾で5行目を削った。
 だが、その時、トートが読んでいたのは、7行目の呪文だ。トート自身より巨大な、サンダル履きの足が虚空からふりそそぐ。
 月代・奏(黒蝶の魔女・b61344)がよけきれず、砂漠に埋まる。風がささえて、致命傷にはならない。その傷を癒そうとした八葉・文(八つ神の舞巫女・b71444)も、続けざまに出現した足に踏み潰された。なんとか生きている。
「やってくれたな! オレの『道を切り開く覚悟』、受けてみろ!」
 仲間の負傷に、八宮・千影(蒼き滅霊杭・b74262)の怒りが頂点に達した。
「デッドエンドォォォ」
 だが、理性はなくしていない。相手は賢く自分はバカだと言ってはいたが、だからこそ、覚悟はゆるがない。
 6行目が削れた。
「もう一度、7行目の攻撃は受けられないな」
 冷徹な声音に、怒りをこめて、剣をたずさえ天羽・渚(紅凰・b83541)が駆ける。護衛ミイラ兵相手に虚空ギロチンを使い果たし、左右の陰陽刀とレッグギロチンでの攻撃だが。
「神の似姿たりとも、斬り捨てる!」
 7行目が喪われた。トートは、すぐさま次の呪文の詠唱に入る。すぐさま、空がゆがみはじめる。星が、動いた。
 あれがすべて、落ちてこようとしている。
 使役ゴーストのことは諦めて、一気に石版を破壊するべきなのか。
 だが、とっさに三人の能力者がアイコンタクトをかわした。二人はもともとチームだが、ひとりは違う。それでも、連携に不備はない。
 ドルミエンテ・ダルターニ(祖なる霧と夢幻の次期侯爵・b49489)が、詠唱の隙を見つけて、必殺の瞬断撃を遠距離から放った。8行めが削れる。
 守屋・ツムギ(藍の音結ぶ唄紬・b59086)は月煌絶零で9行めを喪わせる。
 そして成上・瑞羽(唄運ぶ藍風・b61342)が肉薄して、霧影爆水掌。これで十行目。
 星空が元に戻ってゆく。トートは、あわてて逃げようとした。すでに、石版からはすべての文字がなくなっている。
「よう、魔術の大先輩。魔法戦にお付き合い願えるかね?」
 だが、逃がすわけにいかない。乾・玄蕃(魔法使い・b11329)は、仲間に呼びかけた。
「古の叡智が相手であろうと、今を生きる者の魔法を見せてやる!!」
 気・術・神の三位一体の攻撃は、三重に偉大なる者を、一重ずつ打ち破り……そして、石版もろとも神魔トートは爆散した!
 砕け散った石板がもたらす使役ゴースト達の「覚醒」を、能力者達は直後に知ることになる。

● 闇のファラオを突破せよ

 三神を制した銀誓館であるが、ピラミッド守護の要は、じつのところ彼らではない。
 巨大な石造建築の前に、大いなる闇が浮かんでいる。不定形の闇の中に、黄金の仮面がいくつも浮遊し、強烈な魔法の気配が感じられた。
 数多くのファラオの、心の闇を吸収して生まれた複合ゴースト、ファラオ・ザ・ダークである。
 その周辺には、神には及ばぬまでもそれなりの力を持った、人身獣面のゴーストたちが守りをかためている。
「もはや神話の域ですね、これが嘗ての世界結界発動前の光景だったのでしょうか……」
 倒してきた敵、倒すべき敵に思いをはせて、天臥・月依(月詠の童女・b11870)が感嘆する。
 だが、これほどの動きを異形が見せるということは、それだけ相手方も切羽詰っているということ。決戦の日は、おそらく近いのだ。
「ファラオってのがなんなのか、どういう力なのか。マンゴーのパートナーとしては見ておきてぇな、と思ったが……」
 さっぱりわけがわからない、と八逆・敏夫(兄嫁はマンゴー・b56154)は思う。シャーマンズゴースト・ファラオのシャオネーは、なにやら思うところがあるようすで、ファラオを睨んでいるが。
 睨むというか、朱残・誄火(灰紅葉・b18864)は、ファラオをじっと見つめて、推理をめぐらせる。不死なるものとして讃えられたファラオ。古代エジプト由来の、オロチ復活儀式などがありえるのか。オロチと、冥界の蛇神メヘンにかかわりがあるのか?
 そして、先ほど倒した神々。セベクはともかく、トートやホルスの鳥頭人身は、改造人狼騎士を連想させた。あれは、異形とエジプト神魔の関係を暗示するのか? この推理をさらに深めるためにも、ピラミッド観察は不可欠。
「ともすれば神と戦う…不謹慎ながら楽しみです。さあ、ヒトに仇名す悪を叩き潰しに参りましょう!」
「で、ござるなあ!」
 ボーイズ・クリストファー(高校生魔剣士・b83529)が、頭上で剣を旋回させはじめる。
「なんだが良く分かりませぬが、今更出てきて王朝復権でござるか?もう、おぬしらの時代ではないでござるよ」
 と、その横を、とことこと樹・咲桜(蒼の御雷・b23115)が歩いていった。
「このファラオちゃんって、側面がいっぱいあるんだよね。側面が大事って運命予報士さん言ってなかった? 観察してみる」
 ぐるりと横にまわろうとする。
「いや、おまちあれ。その側面ではなくって……」
 それは、歴史上のファラオの性格とか業績とかで、と、ボーイズが制止しようとしたが、その時には、もう咲桜は横に回っており。
 ファラオ・ザ・ダークの「物理的な側面」にあった小さな顔が、唸っていた。
「なぁぜ、わかった。くかかかかー」
 時代劇か特撮ものの悪役のような声で。
「ほええ〜〜?」
 咲桜がおどろき、
「えええええええええええ」
 ボーイズがちょっとなにかのAAみたいな顔になった。周囲のみんなも以下同文。
「我はこやつらを束ねし、究極の闇ファラオ。よくぞ見つけた。十一の面を倒して後に、奇襲してくれようかと思っていたものを」
 セコいッ、というより悲観的。仲間が斃されるの前提かよッ!
 銀誓館に流れる空気が一気にぬるくなる。
 だが、油断はできない。
 咲桜は呼びかけた。
「ボクたちは戦いに来たんじゃない。話し合いに来たんだ。もし力になれるなら手を貸してもいいよ?」
 真ケットシー・ワンダラーのカーくんもうなずいている。
「笑止! 歴代ファラオのみなさま! こんな見下したこと言ってやがりますぜ」
 束ねてるんじゃなかったのか、おまえは。
 ――だが。
 その言葉で、ファラオ・ザ・ダークの巨体がさらにふくれあがった。確かにその魔力は、ここにいる全員の心を蝕むに足るもの。くじけそうになる意志を、みんながふるい起こす。
 あまり大物っぽくはない、究極の闇ファラオとやらに、御影・ありあ(白銀鏡の娘・b00509)が呼びかけた。
「おい、銀誓館まんじゅう食わねぇか!?」
 こいつさ! と、炸裂したライトニングヴァイパーが、戦いの幕を切って落とした!

 ファラオの闇が、全員を包む。その中で舞う、王者の仮面が、それぞれに銀誓館の能力者たちを攻撃にかかった。
 第一の顔が、名乗りをあげる。
「我はメネス……統一者なり」
 上下エジプトをまとめあげ、第一王朝を起こしたファラオだというのか。
「統一の……力」
 二人の能力者が宙に浮かび、ぶつかりあう!
 なんとも大雑把な統一ではあるが、ぶつけられたほうは、おぞましいことに手足が融合している。そのありさまに、比良木・征司(ユニコーンギャロップ・b00148)が身をぶるっとふるわせた。恐れて、ではない。
「……命懸けはやはり武者震いがするね
少しだけ楽しんでる自分が困るなぁ。命を賭けるに値すれば命も賭ける。銀誓館学生としての最後の戦い、気張っていかないとね!」
 龍撃砲が、メネス王の仮面に炸裂。
「ピラミッド前のマクドナルドが無事なら、後で寄ってみたいね!」
「それもいいですね。単独できましたので、ごいっしょに」
 神楽・春沙(緋刃の・b78423)は一瞬、ふだんの朗らかさをとりもどし、すぐに処刑人らしい冷徹な表情を浮かべた。
「聖なる乙女に、抱かれて眠れ」
 アイアンメイデンが、仮面を飲みこみ、砕きにかかる。
「統一!」
 征司と春沙が、ぶつかりあわされた。ふたりの身体が融合し、気を失う。
 だが、銀誓館の若者たちは臆することはない。黒須・竜司(乱気竜・b84355)が、致命電光を射つ。射ちまくる。
「つええな。力を出し切らないとかなわねえ。実力差を埋めるには幸運の力も借りなきゃな。エジプトじゃカナリアが幸運の象徴らしいな。カナリアはいねぇが、俺の側にはカナがいる。期待してるぜ、幸運の女神」
「はい」
 つないでいた手を、さすがに離して四十万・奏女(月歌鳳蝶・b82478)から相愛満月が投げかけられる。
(遠い昔に見いだした『ただひとつの違う歌』……貴方に再び逢えるとは思っていなかった)
 遠い日々に恋に落ちた者たちの再会。
 俺も覚えているよと、優しい風が吹き渡る。メネスの、統一の力が、二人に届かない。
「なにゆえ、我が偉業に従わぬか!」
 激怒するメネスに、彩水音・流我(暗夜幽迷・b71535)がしかけたのは、闇に染まった毒手の技。ダークハンドだ。
「幽明分かつ。……幽世の存在は、彼岸にお還り願います」
 一説によれば、歴代のファラオはラー神の息子であり、ラーのように不滅の存在とされているとか。ラー神と同様の性質を持つというなら、毒蛇の毒によって苦しんだという神話にならって、毒に弱いということもあるかもしれない。
 ためしてみるか、程度の一撃だったか。
「おおおおおお、おのっれええええええ」
 効いている! ただの毒が、超猛毒なみの威力を発揮した。
 仮面の色がくすんで、土くれに帰る。融合された肉体は、幸いにも術者の消滅で解除された。

 そして、次々とファラオの仮面との乱戦が起こる。
「我はジェセル。イムホテプよ、こやつらを始末せよ」
 ジェセル、またはネチェルイリケトは、初期の階段状ピラミッドを作ったとされる
ファラオだ。
 その攻撃は、宰相イムホテプの地縛霊を使役するものであった。
 だが、正直なところ、さほど強くはない。
「毒に弱いっていうのなら、Gペンとか装備してくればよかったかも?」
 琴吹・紗枝(青空駆ける春一番・b49528)は、弱点を探るつもりだったが、もう見つかってしまった。
「とりあえず、こいつをかたづけてみんなに知らせよっか。昔の王様だかなんだか知らないけど、お呼びじゃないからとっとと帰れー!」
 スピードスケッチが炸裂する。
 わりとあっさりと、ジェセルの仮面が消えた。
「ま、こういうのならいいけど」
 それでもさすがに無傷とはいかない。仲間にホワイトメロディを聞かせた鶚森・陽平(中学生フリッカーダイヤ・b83827)は、周囲を見た。
 まだ9つの仮面と、あの究極がいる。
「大帝の剣の持ち主だったアレクサンドロス大王の遺体、エジプトでミイラになったそうッスねー……。マジ出てきたら毛根絶滅しそう」
 だが、九つの仮面にそれらしいものはいない。中にひとつ、仮面ですらないものがいた。
「こいつ、倒されたはずじゃあ?」
 太陽神アトン……を名乗った、強大なリビングサン。それに似ている。
「余はアクエンアテンなり」
 宗教改革を行い、異端の王として後の世に排斥された、アメンホテプ4世の化身だ。彼が唯一神の座にすえようとしたものこそ、太陽神アトン。
 崇めた神を模したゴーストに、比肩しうる熱波も光線触手が、能力者たちに襲いかかる。
 それをかわしながら、なお笑みを浮かべて、日芽・夏凛(綾取る夢・b36112)が和解の道を探した。
「ファラオさん、こんにちはなの。もし夏凛たちに力になることがあれば協力してあげるの。だから……」
「おお、あるとも。我が神を崇めよ。汝らもともに下僕として……」
 この頼みは手伝えない。
「むーりー、なのー! かちんこちんにしちゃうの!」
 月煌絶零が、アクエンアテンを急速冷凍する。
「あなたの神を崇めるなんて、ピラミッドの中の親友や。銀誓館に夢や希望を託してくれた人たちの意志を無駄すること。できるわけないわ!」
 叫んだ杉本・沙紀(天弦に導かれし雷光・b46924)に熱波が襲いかかったが、砂丘の陰に身をひそめて回避。飛びだしざまに天雨豪流をアクエンアテンに叩きつける。
 異端の王を濡らす水を、白銀・深雪(はらぺこねぼすけ雪女・b49926)の氷の吐息が完全に凍りつかせた。
「お、おのれええええ! 貴様らも、余の高邁な宗教思想を理解せぬのか!」
「あ〜あ〜、恨み言は聞こえませ〜ん!」
 ただの白い球体になったアクエンアテンが、地面に落ちて割れる。
 3面がクリアだ!
 残るは8つの面、そして究極。闇にまぎれて、ファラオに仕えるミイラ兵も襲ってくるようだ。
 せめてもう少し効率よく敵を排除できないか。紫堂・小夜(小学生真水練忍者・b26122)は、策をめぐらせた。
「思想も目的も異なった王の影が集った魔物……とても円満に融合しているとは思えませんです」
 銀誓館学園で受けた授業のことを、小夜は思い出した。
「世界史でおそわった歴史に真実の欠片がちょっとでもふくまれてるなら、影同士でも憎みあったりして、負の化学反応を起こすのではないでしょうか」
 忍びとしての修行には、敵の不和を招く戦術も、当然に含まれている。
 戦いの中を飛び回り、小夜は、仮面の名を確認していった。
「余はクフ王なり……」
 背後のピラミッドを作ったファラオだ。
「余はラムセス2世……」
 多くの子孫を残し、巨大神殿を建設した偉大な王。
「余は女王ハトシェプスなるぞ……」
 その名に聞き覚えがあった。確か、夫の側室の子であるトトメス3世に、権力を奪われた女王だ。その暗黒面というなら、決して憎しみを忘れているはずはない。相手もまた、そうだろう。
「偉大なるトトメス3世さま〜! あなたの王座を不当に占拠している、偽者の女王がここにいますよう」
 小夜の狙いはまんまと当たった。二つのファラオ面が、互いをののしり、ぶつかりあいをはじめる。
 紫堂・小夜、みごとな忍者ぶりであった。
 かくして、4面、5面が同時にクリア。

 ――その面は、美しかった。
 神々しいばかりに、輝いていた。ただ、東洋人の好みからすれば、少しばかり鼻が高すぎるように思えたが。
「クレオパトラ、キターッ!」
 じつはあまり依頼による戦いになれていない神坂・清乃(縦横無尽のおにゃーのこ・b05351)はテンションが高かった。
「ふはー、それでいきなり、歴史上のちょー有名人とバトルとか、まこと、銀誓館はじごくじゃぜー!」
 人によっては極楽と表現もしようが。
「カーッ、もうその美貌で男の子をゆーわくしようってかー! さすが、世界最高の美人さん。だけどよー! まけられないんじゃよ、おとこのこはよぉー! あはははー、でも本当はおなごでーす」
 もうそのテンションにおいてけぼりのクレオパトラが、自慢の魅了を発するまでもなく、ブラックヒストリーで押されている。たぶん、これも黒歴史。
 なんとかいなして、立ち直ろうとしたら、同様にテンションが高いのがまだおふたりほどいらっしゃったり。
「あえていおう!真のとものは私であると!!」
 はあ、特に異論はありませんが、潦・ともの(緋色のトロイメライ・b01882)さん。えーと。
「ダッシュダッシュ! むう、揺れない平原、見果てぬ乳揺れ、二人を引き連れ最奥きてみれば、なんと愉快なたゆんたゆん」
 クレオパトラは、美女なので、仮面だけでなく胴体部分もそなえているのだ!
 ……このテンションにはそう対応せざるをえない。
「おい、デュエルしろよ! この勝負はとものの名をかけたまさにプライドのアンティ!貴様のファラオか、私がキングか。さあ、貴様のデッキからカードの剣を抜け! 私のターン!!」
 何をしろと?
「デュエルとかじゃないんだよ! コーラなんだよっ!」
 は……ええと、存分に御主張ください。コーネリア・レスコット(小学生真ルナエンプレス・b82818)さん。
「なんか気付いたらエジプトに連れられてきてたんだよ? こうなったら偉大なるコーラの力をエジプトにも知らしめるしかないと!」
 コーラの缶を全力でふるのはよしたほうが。
 あまりに理解できないので、クレオパトラさんは、超魅了も発揮できずにおりますが。
「しゅわーーー!」
 そっちは、とものさんですがーっ?!
「誰の胸が平原ですかっ!!」
 それですかー?
 あ。
 ぱぱぱぱぱぱぱぱん!
 うわあ、他人のふりをしてえ、という顔だった、夜刃・柊(ヴァラールの鎌・b00136)さんが、最終兵器びんた。
「目を覚ましなさい二人とも敵を前に奇行に走るんじゃありませんよ集中しないと危ないですちょっとそこのゴーストは説教の邪魔です消えなさい」
 ごん。
 天下の美女、歴史最高の美女の悪霊に、見向きもせずに天妖九尾穿とか、かなりあんまりです。かなり傷ついてます、クレオパトラさん。二重の意味で。
「コーネリアも、そこの叫んでる人と同じにされると傷つくんですが……」
 ぱぱぱぱぱ。だまらせました。同種だと思われてあたりまえなので。
「ああ、戦場に出てきたら変な人たちを拾ってしまいました。あまりにも心配。若者なら未来を信じて進みなさい。たぶん育ちます」
 そっちですか? 揺れのほうなんですか?
 あ、誰か清乃さんも突っこんであげてー。そこの同じチーム聖域のアラストール・セブンセントラル(高貴なる義務・b05350)さん。
 突っ込みました。
 クレオパトラさんに。
 はい、六つめの仮面、破壊に成功。いつの間にか文体がおかしくなっているので、シリアス路線に戻します。シリアスシリアスシリアス。
「あーっ、かっこいい黄金仮面! 仮面さん欲しい欲しい。人間やめたりしてみたい」
 超かっこいい立ち方してんじぇねえですよ、コーネリアさん!
 はっ。シリアスシリアスシリアス。

 ファラオの黄金仮面といえば、だれもが、彼のことを思いだすであろう。
 若くして亡くなり、その墓があらされることはなかったゆえ、悲劇の王として数々の伝説にいろどられ、また世界有数の祟り主として知られたファラオ。
 ツタンカーメン王。
「深い闇だな。でも、ヘリオンの聖なる光でその闇を払ってやるよ」
 エルレイ・シルバーストーン(銀石の操霊士・b00312)が、最大出力の光の槍をはなった。だが、その光は黄金の仮面を、いっそう輝かせただけであった。
「いまさら……余が、敵意ごときで傷つくと思うのか」
 こめられた怨念がなければ、青年王の美しい声音であったろうに。
「……う? こ、これ……」
 全身を襲ったけだるさと筋肉痛、いきなりの40度近い高熱が、エルレイを倒れ伏させる。
 ツタンカーメンの呪い。史上、もっとも知られた、必殺の呪いが引き起こした症状である。
「皆……死ぬるがよい。……死は安らかである。……敵意にも憎悪にも、もはや悩まずともよい」
 常人ならば意識不明の混濁にすぐさまおちいる疫病効果にも、能力者たちは耐えた。重い体に鞭打って、立つどころか戦ってみせる。
「身を捨ててこそ……浮かぶ瀬もあれ!」
 ずん! 月村・斎(閑人・b45672)は、おのれの足に刃をつきたて、意識をたもった。
「よう……毒の味は美味かったか? 死が安らぎとか、とんでもねえ。死にたくなかったから、そんな恨み言で自分を納得させようってんだろ? 敵意にはな、ケダモノのように野生の勘と五感を研ぎ澄まし、気配を感じ取って対抗するんだ。……こんな風にな!」
 毒殺疑惑……その一言に感情を揺らがせた時、ツタンカーメンは大きな隙を見せていた。
 打ち込まれる斎の渾身の一撃。
 ツタンカーメンの仮面に、大きなひびが入った。
 七つめの仮面が打ち砕かれる。
 クリア!

 次なる敵は、クフ王の仮面である。銀誓館の能力者たちがこれから乗りこむべきピラミッドに葬られたとされる王だ。
 だが。
 たどりつくために、苦戦しているはずのピラミッドで、なにやらポーズをとっている五人がいた。つじつま的には問題なのであるが、プレイング的にそれがいい感じだと思ったのである。メタなこと書いてすいません。
 どーん! 爆発なんかもサービスしてみよう。
「還りなさい、そこは蓬莱の地の先…黄泉国へ!」
 左手をまっすぐ指先まで伸ばし、右ひじを直角に曲げたポーズの高天崎・若菜(永遠と須臾の玄人・b19366)! 彼女の想愛満月・絢爛がチームを強化!
「オーッホッホッホ! 脆弱千万! 一瞬千撃! 粉砕☆玉砕★大殺界ですわぁッ!」
 左拳をつきあげ、右ひざをしゃがませたポーズの中茶屋・花子(クィーン巛フラワーチャイルド・b37343)! クロストリガーで一点集中!
「悪く思わないでよ、これも仕事だからね……。平穏だけが望みなのよ……」
 左足をあげて、両手を左右に伸ばすポーズの水走・ハンナ(狂気を忌む庶民派吸血鬼少女・b46874)! 戦文字を敵にぶつける。
「Somebody Screeeeeeeeeeeeam!!!」
 両腕を組んで、体重をやや左にかけるポーズの、釜崎・アイリーン(現役ホームレス中学生・b45268)! 自由な生活のために、極月煌光で一点攻撃。
「私を殺したかったら、戦艦大和でも持って来いや!」
 片膝をついてしゃがみ、のばした両手の指先を地面につけるポーズの庭井・よさみ(天を飛翔する大依羅の真龍帝・b03832)!
「さて、ファイティングポーズも決めた所で、行くとしよか! 私らの地球(シマ)で好き勝手しよるたぁ、ええ根性しとるやないか、ゴースト共が! とっとと帰れ! あの世にな!根性に免じて、私が全力で潰したる!」
 かくして、クフ王の仮面は、その能力を描写するヒマもなく倒された。
 八つめが撃破!

 シリアスシリアスシリアス。
 大柄な、ツチブタの仮面。セト神の名をもらった、セティ1世のものだ。
 すさまじい砂嵐が、彼の武器である。彼と対峙したのは、チームSRDの面々だった。
 ざりざりと砂が肌をこすり、ろくに目もあけていられない。そこへ、胴体を生じさせたセティ1世が、豪腕の一撃を叩きこんでくる。砂嵐をのぞけば、それは正統派の戦士の技であった。
 だが、正統派であれば、軌道が読める。
「やれるもんならやってみろーっ!!」
 シャレル・マリア(紅暁の娘・b37076)のライジングヘッドバットがカウンター気味に決まった。攻撃される瞬間なら、敵がそこにいることはわかるのだ。ひるんだところに、プロミネンスパンチ。
「その仮面、鋏で切り落としてやりたいところですの」
 サーラ・ヴィトルジェ(絶対零度の乙女・b40071)が、友の炎を目標に、ナイトメアランページをはなつ。
 そして、とどめとなったのは御影・ありす(漆黒薔薇の娘・b30953)の穢れの弾丸、であった。セティもまた、ファラオとして毒に弱かったのだ。
 9個めの仮面を撃破した銀誓館に立ちはだかるのは。プトレマイオス1世の仮面である。大王アレクサンドロスの後継者としてエジプトに君臨し、プトレマイオス朝の祖となった。
 その業績は、アレクサンドロス大図書館の建設。
 無限とも思える書物が、チーム無限光の能力者たちに襲いかかった。彼らがとったのは、正統派の戦術であった。
 夢見・瑠美那(蒼翔風月・b61838)、御神・深月(破天の戰・b63397)、久瀬・遥(インターセプター・b74134)、久瀬・一姫(小月姫・b82401)、久瀬・悠理(高校生真処刑人・b73652)が、前衛後衛の連携で、正統派に書物型ゴーストのしもべを打ち払い、プトレマイオス1世を撃破した。
 最後のひとつ!
 それは、エジプト史上もっとも多くの戦勝記念碑を残した、ラムセス2世の仮面であった。
 その記念碑を召喚し、巨石で爆撃を行うのが、ラムセス2世の能力! 押しつぶしの物理攻撃だけではない。さらには、その巨石から支配の思念波が押し寄せてくる。
「ぐ……」
 ひれふせ、ファラオをあがめよ……それは恐ろしい念圧であった。
「古い国の偉大な王さまたち……」
 舞城・弓矢(煉情・b57728)は、その思念を受け入れつつ、こう念じた。
「たしかに、できれば、貴方たちと敵対したくなかった。俺達は貴方たちを虐げるつもりはない。だが、屈するつもりもない。かつて貴方たちが守って来た国や人を守りたい。そのために東の果ての国から来た。……留まってはくれませんか」
「ひれふせ! 矮小な自我などいらぬ! すべてを王にゆだねよ!」
 記念碑からの強烈なプレッシャー! だが、弓矢は、さきほどの自分の言葉を守った。
「いいや……。俺はいる。ここにいる。舞城弓矢は……俺は、ここに居る!」
 それを支えるのは、大切な人々との思い出。
 そうだ、思い出は大事にしろ。たくさん作れ。最後に自分を自分であらしめてくれるのは、それだ。
 優しい風のささやき。
 弓矢の大切な人には、いまともに戦っている仲間も含まれる。
「なに、これ……? 従えとか、おかしくなっちゃってる系の人? ここまでの邪悪、今までに見たことない、みたいな〜。絶対にやっつける系だよ」
 雹牙堂・寧(正義系女子・b81307)のイーティングブロウが、記念碑のひとつを砕いた。
 彼女を支えた絆のひとつは、兄とのもの。その雹牙堂・カイナ(誇り高き守護騎士・b67028)も妹との絆に支えられ、セイクリッドバッシュをくりだす。
「破っ!」
「そうとも。学園で得た友と心が繋がっておる限り、妾達は負けぬ!」
 龍・月華(月華公主・b81443)が、幻影兵団と十絶陣を使い分けての攻撃をはじめた。
「そなたも王。王たるものは孤独であったろう。孤独な王よ、もう起きて傷つく必要は無い。眠るべきじゃ」
 戦勝記念碑が砕かれる。
「あんた、怖かったんじゃないのか?身内ですら自分を憎んでいるのかもしれないって。俺は、あんたを憎んでない。大事な人を救いたいだけだ」
 暗都・魎夜(黄昏の破壊者・b42300)も、紅蓮撃で、プレッシャーをはなつ巨石を破壊した。
「王に相応しき身となる為に、己の一部さえ切り捨てる」
 妹出・織泉羅(ノープランナー・b70426)が静かに諭す。
「捨てたものさえ、こうして利用する。権力に比した重責を負うは当然なれど、その無理が滅びを呼んだのではあるまいか?」
 この魔術で歪んだ戦勝記念碑は、歴史的遺物ではもはやなく、役目を終えた負の遺産。
 壊す。
「見るがよい亡者共。生命使いの生き様を」
「ファラオは不幸な境遇の者が多かったようですが、決して同情はしません。僕らがすべきことは、銀誓館として人々を全力で救うこと。敵に感情を傾けていたら、負けます」
 きっぱりとした決意で、ブライト・アカツキ(朔の彷徨者・b59563)の月煌絶零が、記念碑を凍らせ、砕く。
「かつて貴方達が愛した国に暮らす人達を害して、亡者の王国などと……恥を知りなさい!」
 美月・彩乃(半月の憂姫・b82490)は容赦がない。そして、最後に残った一つの戦勝記念碑に、珠洲屋・那智(白月の欠片・b82922)が、月煌絶零。彼の真フランケンシュタインBが、パワーナックル。
「要はてめぇはファラオのストレスの塊なんだろう? 本当は鬱憤晴らしがしてぇんじゃねぇのか? 来いよ!ケンカしようぜ! 俺は月の放浪王ナチ! さあ、てめぇも名乗りを上げな! 王の闇でなく、一個の自分として戦いやがれ!」
「余は……余はラムセス。偉大なるエジプトのファラオ。……そして、独りの戦士!」
 肉体を生じさせ、ラムセスの仮面が真っ向から挑み、そして散った。

「ひゃーっはっはっはっは!」
 究極の闇を名乗る小さな仮面が、周囲を圧する笑いを上げた。
「よっく、ファラオどもを倒してくれた! これであいつらの怨念が倍化する。俺の餌がたっぷりだああああ」
「まさか?! わざと倒させたとでも!」
 アシュレイ・シーケンス(エバーホワイト・b63857)が、身構えた。
「そうよ! その通り! 知っているか? 遠い昔に、分離して自我を持ったオロチもいたんだぜええ。俺たちは、あちこちで神さまになったり、世界を亡ぼす大蛇として恐れられたもんだぜええええ! 世界結界とやらに、すっかり奪われて、いまじゃ往年の万分の一だが、てめえら倒すには十分だ! 俺の名は、災いの大蛇。原初の蛇アポビスってえのよおおおお! 俺こそ、最初のファラオだああああ!」
 顔の蛇。
 それが、こいつの正体だった。闇と化した天空へ、伸びる伸びる。百メートル、二百メートル、暗黒の瘴気弾が流星雨のようにふりそそぐ。
「これは……。出でよ、白の黙示録…。そして、開け、鏡雨転身」
 霧の巨人をまとい、雨の鏡をくぐってアシュレイはそれをよけ、反撃に移った。
 原初の蛇アポビス。闇のファラオの思わぬ正体に、立ちすくんだのはほんの一瞬だ。
 すぐさま、みながアシュレイに続いて、攻撃を再開した。こいつを倒せば、あとひといきなのだ。
「カースインベイジョン!! 大いなる深淵の支配者よ、今ひと時、混沌を払うがための加護を!」
 先旗・禊(鬼炎万丈・b59818)が、自らの拳を、呪いの炎と変えてふりかざす。
 その禊へ瘴気弾が押し寄せると、小島・大地(針槐・b51788)が、鏡の道で転移してきて並び、肩を並べて打ち払った。
「あうっ」
 背後から、彩璃・叶(中学生フリッカースペード・b76329)の苦鳴が聞こえた。瘴気弾が、小さな蠍となって、彼女を襲ったのだ。
 大地が、その盾になるべく、また移動してくる。彼に時間を稼いでもらい、叶は、蜘蛛の糸で蠍を絡めとった。
「蜘蛛の糸。永遠に紡がれ、永劫に絡みつく禁縛の糸。混沌すら、縛る、よ」
 互いに守り、支えあう。
 顔をなくし、言葉も捨てて、ただ暴れ狂う原初の蛇には、決してできぬこと。優しい風も、彼らの間をはげますように吹き抜けた。
 漆黒の蛇が、闇夜にのたうつその姿に、意外や、笑いを与える者がいる。
「ハハハハハハ! 貌無し、渾沌、月に吠える者!! 懐かしいぞその気配!!」
 疾走するは、出雲・櫛名(高校生ストームブリンガー・b84313)。はるか超古代、秋津洲と呼ばれた地で「武神」と讃えられた戦士のひとり。
「懐かしい、懐かしいから――斬ってやろう!! とくと見や――我ら嵐の王 汝らが大敵なり」
 その手がふりかざされた時、八つの水流が大蛇の如く、うねくりのたうち、槌とも牙ともなって襲いかかった。これを称して八岐の技――オロチと戦うオロチ、天雨豪流の絶技。
「頼昌! 晃仁!!」
 かたや源氏の武者、かたや政争に巻きこまれた古の京の守り。
「――楽しいなぁ? 人同士の争いではない――我等嵐の王の本義を果たす時じゃぞ」 まさしく。ともに戦はもはや飽いたといえど、人を守るに否やはない。
「埋もれ木の、花咲く事も、無かりしに――」
 歌人たる馬場・頼昌(高校生ストームブリンガー・b84329)は、優雅に一文字、戦文字を虚空に描く。
「ふふ、またも帝に弓引くと思うたが、かような化性であれば、一本の矢となりて、友を守るに迷いはなし」
 ひゅう、と「葬」が飛んでゆく。
「ク、ククク――皇を呪うが我が務め。異国の異形とて、皇なるならば」
 白峯・晃仁(高校生ストームブリンガー・b84330)が、経典を広げて高らかに読み上げる。これぞ、魔道へ回向せし五部大乗経の呪詛ならん。
「皇を取って民となし民を取って皇となさん!」
 かの呪詛呪言は、皇を失墜させる究極の呪言。異形の者とておのれが皇となのりし上は、魔術においてはまさに皇たらん。受けて無事で居らりょうはずもない。
 ぐおおおおお、と唸りをあげて、アポビスがのたうつ。その巨体が、砂漠全土をゆるがす。
 だが、出雲・櫛名(高校生ストームブリンガー・b84313)はひるみもせぬ。幾多同胞群がりて、めった斬りなすアポビスの、その頭にて、剣ふるわば、凄惨なるは黒き返り血。暴れのたうちアポビスが、攻めに攻めても、また攻め返す。
 晃仁、頼昌の顔を見て、あれを見よと指差した。
「武神が娘、異形の皇とも渡り合うか。実に頼もしきは生まれながらの神よのう」
 そしてうなずき、おのが手に、目をおとしてぽつり一言。
「成程確かに悪くない。人を殺すを滅すが我等が本懐か。この形での黄泉返りにも感謝せねばな」
 かくて三武将の攻めが、アポビスを地に伏せさせた。だが、このオロチを名乗った性悪の、とどめを刺したのは、彼らのうちの誰でもなかった。
「本当のファラオは、こっちにいるよ」
 深水・渉(のほほん鋏角衆・b32656)と、その使役ゴーストである真シャーマンズゴースト・ファラオ、渦子さんの鋏角囓りだったのだ。
 集中攻撃の、最後の一押しになったのが、それであった。

 ――かくして。
 残る敵は、スフィンクス!
「が、頑張って、みんなで、日本に、帰りましょう、ね」
 その難敵に向かって、蕪菜・鈴菜(三尺聖域・b81577)が駆け出した!

● 最後の難敵その名はスフィンクス

 いよいよ、残る守りは、雑魚をのぞけばスフィンクスのみ。だが、こちらもかなりの味方が傷ついている。
 そして、雑魚の数はそれなりに残っているし、スフィンクスはあまりに巨大だ。だが、巨大であるがゆえに、これさえ打ち倒せば、敵の士気を大幅にそぐことが可能だろう。
 元の石像姿よりさらに大きく、人頭獅子体の表皮は、確かに妖獣らしい剛毛に覆われている。
 硬いのであろうし、守りは堅牢であろう。
「返された記憶の覚悟に応えられねば、嵐の王失格というものです。応えましょう、今こそ」
 スフィンクスへの道が開いたいま、叢雲・かげろう(蒼雷暗雲・b84265)は、全力で駆けた。初手は電光を帯びた剣の一撃。スフィンクスの前足に、うっすらと傷。
 が、その時、かげろうの全身に白い光がまとわりついた。二撃目は、深く食いこむ。奏甲の力だ。
「かげろうの王よ、久しいな!」
 その白燐蟲のあるじが、声をかける。
 万代音・篝(赤斑白花・b82502)だ。機内で見かけた彼の姿を追ってきた。
「おや、かがりの姫ではありませんか。まさか君がここにいて、並んで戦うことになるとは。いや、これだから運命とは解らない……」
「こっちを見ている場合か!」
 篝が叱咤して、かげろうが、踏み下ろされたスフィンクスの足を回避する。
「ここで死ぬわけにはいきません。帰ったら『続き』ですよ。僕を殺していいのは君だけです!」
 くるりと向き直って、かげろうは、剣をふるう。
「そうだな、がげろうの王よ。さあ、前を向け! 共に生きて帰るぞ! 僕を殺していいのは君だけだからな!」
 声をかけあうかつての、そして未来の宿敵(ライバル)をまとめて焼き焦がそうと、スフィンクスが大きく口を開けて、炎を吐いた。
「火っていったら、これのライバルの使うもんじゃないのーっ?」
 芦夜・恋月(縛鎖の中で足掻く狗・b10866)が、TRPGプレイヤーの知識で口走る。ともに炎をかわしつつ、蕪菜・鈴菜(三尺聖域・b81577)がうなずいた。
「そうですよね、先輩。顔のないスフィンクスとか、黒のファラオとかろくな単語が出てこないなぁ、イヤだなあ……と思ってたんですけど」
「そうならむしろ、逃げたくなったかもね!」
 炎が途切れた一瞬に、恋月が反転。呪言突きをくりだし、巨大獣を打ち払う。
 そこへ鈴菜がジグザグスラッシュで後ろから援護。恋月の従属種である都築・アキ(ターンコート・b16871)は、戦いながら、風に呼びかけた。
「男だったら、好きな女を待たせてるんだったら、早く帰ってやれよ!! その為の力が必要なら、僕の思い出も持って行け!」
(なるほど、思い出は助かる。でも……いまは受け取れないな……。まだ、足りてる)
 スフィンクスが口を開ける。炎の温度が上がっている。青色だ。そこへ、風が逆流した。
(思い出をもらえるなら……安心して力を使えるよ)
 スフィンクスの頭部が、炎に包まれた。
「いま……声が聞こえたか?! うむ、遠路はるばる鎌倉より、銀誓館来々! 大先輩の恋路を邪魔する輩は全て斬り伏せる!」
 布施・命(奏緑呪・b37509)たち、チーム「自由騎士」が一丸となり。スフィンクス撃破へ邁進する。
「浄化の剣鱗を纏いて、いざ――叩き斬るっ!」
「怪我しただけでもお仕置きするからね?」
 時任・檸檬(ミンネゼンガー・b36785)が、無謀をいましめる声を発した。ちなみに罰ゲームは、赤坂・蓮(宵咲蓮牙・b71508)の案で。
「……では、スフィンクスの着ぐるみを」
「誰が着るかっ!」
 命が、スフィンクスの大雑把な攻撃をかわす。よほどイヤなのか、本当に傷を受けていない。蓮の浄化サイクロンも無用なほどだ。
 涼野・文和(迷送香の枝・b36743)の幻影兵団により、自由騎士たちの攻撃は、スフィンクス頭部にまで届くようになった。
 スフィンクスが、たまらず苦鳴をあげて、その身を大きくそらす。
 腹部が、がら空きになった。スペルヴィア・スパーダ(月咎哮狼・b48362)は、それを見逃さない。
「さて……大物狩りだ。精々派手に行こう。人面獣身の巨獣よ……。我が刃に刻まれる武勲と成れ!」
 総身に虎紋を浮かべ、氷の牙を叩きこみ、ゼロ距離からの絶命拳。呵責なき連携は、とりたてて工夫がなくとも、ただ功夫を重ねたその、威力は尋常ではない。
「何に変化しようが、攻撃を続ければ何時かは倒れるだろうさ!」
 だが、全力を傾注するあまりがら空きの背中に、無数のコウモリがせまった。スフィンクスを守る、迎撃機だ。
 コウモリたちが牙を立てたのは、黒い蟲。羽鳥・氷女(覇凍蒼姫・b45222)が、スペルヴィアへと投げた黒燐奏甲だ。
「氷女に背中を任せておけるから、安心して戦えるというもの……だ!」
 ふたたび、先の連携技を繰り出した。力を失って、スフィンクスが、地面に這う。
 すかさず、骨咬・まゆら(戦陣のベネトナシュ・b43009)が背中によじのぼった。気づいたスフィンクスは、払い落とそうとした。だが、栗原怜治(b01569)が、正面から九尾穿を打ちこんで、意識をそらした。派手に尻尾を広げているのも、注意をひくためだろう。リスキーだが、惚れた女の前で格好をつけているのだ。これぞまさしく、男の甲斐性。バカさ加減と言わぬでもないが。
 が、そのバカの甲斐あって、まゆらはよじのぼった。あるいは突然、恐ろしい化身になるのかもしれない。だが、怜治を信じているおかげで、決して心が折れることはない。
「ここは任せて、突入班は先に行ってください」
 仲間に呼びかけながら、悪滅スピナーを超至近距離からえぐりこむ。その手ごたえ。
「……これ、一体、じゃない?」
 だが、感触を追求している余裕はなかった。スフィンクスが、空に向かって絶叫する。後ろ足で立ち上がって、その身体をぐるぐると回転させた。その勢いに、とりついていた能力者たちもふきとばされる。受身はとって地面にころがり、急いで離れた。
 そして、スフィンクスが、どうっと倒れ伏す。
「あれ? 思ったより簡単だった?」
 後方から、真モーラットピュアとともに、回復に専念していた 葉月・洵(高校生真ナイトメア適合者・b37515)や、ほかの後衛がおそるおそる近づく。
「油断しちゃダメ! まだうごいてる!」
 砂原・瑠璃子(螺旋式ルミナス・b05265)が警告を発した。近づきかけていた面々が、あわてて戻る。
「まあゴーストなんて大概ありえない姿してますし。何に変化しようと、殴れるなら倒せるはずです」
 芦田・かごめ(星をみる蜘蛛・b79167)は、落ち着いて変化後の姿や攻撃手段を見極めるかまえだ。
 そういえば、ほかの戦いであらわれたスフィンクスは地縛霊だったはずだぞ、と誰かが言った。けれど、このスフィンクスの見かけは、妖獣としか思えない。鎖もついていないし。
 もぞり、と倒れたスフィンクスが動く。背中が割れようとしているのだ。
「まさか“蜘蛛”?」
 葉月・洵とともに距離をとった秋風・なつき(雲の絶え間より漏れ出づる月・b03469)が、半信半疑どころか、一信九疑でつぶやいた。集まった視線に、言い訳がましく答える。
「いや、どこかでそんな話を観たからふと思っただけで……てか、なんで見守ってんの私たち!」
「そうか、観察は出てきてからでもよかった!」
 かごめとなつきが攻撃をはじめる前に、自由騎士の草薙・静(幻葬曲・b63289)が口火を切った。
「まったくだ。変化中に攻撃しちゃイカンわけじゃないだろう? 特撮の美学とかはこの際無視だ無視!」
 幻影兵団で長射程化した黒影剣を、背中に生じた破れ目に連打する。風見・玲樹(の弱点は虫・b00256)や、回復待機だった西村・絵里(水破・b26459)たちも、攻撃をくわえる。
 スフィンクスの表皮を構成していた妖獣たちが、次々に吹き飛んだ。
 こいつは一体の妖獣ではなかった。妖獣を変異合体させ、巨大な一匹のように仕立てていたのだ。
 そして、中にひそんでいたのは、蜘蛛型の地縛霊だった。その網と糸で、妖獣を組み替え、変幻自在を演出して、威嚇する戦術だったのだ。
「奥の手を使う、ってのは言い替えりゃ追い詰められてる、って事さ。勝負所だ、一気に決めるぜ!」
 姫川・アヅマ(哮剣・b17524)が、強大である姫川・鷹斗(鋼拳・b16038)と姫川・芙美子(悠久の立読姫・b01058)に声をかける。
 互いの死角を補う連携も、変形途中のいまであれば、ただ攻撃にのみ傾注できる。
 三人が肉薄。兄二人とタイミングをあわせて、芙美子も同時攻撃を放つ。
「インパクトォ!」
 思うのは、ピラミッド内で戦っているはずの親友のこと。彼女を迎えるため、周囲の掃除は怠れない。

● 亜空ピラミッド、突入!!

 スフィンクスが、岩にもどって崩れ落ちる。
 巨大な敵の肉体が、砂漠に倒れこんだ時、すさまじい砂煙が巻き起こった。ただの砂塵ではない。地縛霊の特殊空間によって強引に結びつけられていた、妖獣たちの肉体が、破壊と殺戮の意志を失った時に、連鎖的な裂壊を起こし、無秩序にエネルギーを外部放出したのだ。
 要するに。
 爆発した。
 怪獣が倒れた時に爆発するというのは、特撮のお約束だが、それは、太古の人類がこの種のゴースト合成巨獣と戦かった時の記憶が、無意識領域に連綿と受け継がれてきたのが、遠因だったのかもしれない。
 無駄な薀蓄はさておき。
 能力者たちが、この機を逃さず、動き出した。ピラミッド内部で何かが行われている――何の情報もなく、危険度も計りようのないこの任務のため、待機していた者たちが、一斉に活動を開始した。
 烏森・カケス(応急手当係・b27258)が想定していたのは、大規模な攻撃によるものだったが、エジプトの広大な砂漠は、最強レベルのアビリティでも、視界をさえぎるほどのものにはならなかったのだ。だが、これならいける。姉の烏森・スズメ(拳で語る人・b27259)とともに、一気に走り抜ける。
 砂煙が、守りについていたゴーストの群れと、守られるピラミッドの合間をさえぎっているのだ。もちろん、銀誓館の能力者たちが、引き離すように動いていた、ということでもあるのだが。
 ゴーストは、必ずしも視覚に頼らない。だが、聴覚や嗅覚といったその他の五感も、砂塵はさえぎる。ましてや魔法の爆発で吹き飛んだとなれば、超感覚も狂う。
 むろん、それは銀誓館の能力者たちも同じことだったのだが、こちらは、こういう事態を待っていた。覚悟していた。そこに違いが出た。
 他の面々も走る。まだ、いくらか邪魔になるゴーストもいるが、それを排除する者もいた。
 風間・義鷹(高校生ストームブリンガー・b84263)が、ほかの者たちに先んじた。震脚と天雨豪流で、敵の陣営をかく乱しながら、我が身の守りを気にせず走る。
 渦巻く砂そのもの、小竜巻のゴーストであるデモントルネードが、彼とぶつかりあった。義鷹はふきとんだ。戦うには厳しい傷だが、ゴーストは消えている。
「あ〜、だりぃ、俺はここで一抜けた。後任せた」
 そのすぐそばで、シーナ・アルファッド(熱砂の誓約・b58350)がたちどまる。倒れた仲間を守ろうというのだろう……そう推測したデモントルネードが、ぎゅんぎゅんと襲いくる。
「ひっかりやがったな! 気がはやりすぎで、でっかい穴が空いたぜ!」
 金の髪をふりみだし、シーナが天雨豪流で雑魚を蹴散らす。だが、その彼をさらにあらわれるデモントルネードが覆い隠した。
「ボサっとしてんじゃねえ、突っ走れ……!」
 シーナが叱咤する。
 彼ら、捨て駒覚悟の面々が、突破口を開く。
「行って来い突入班ッ! お姫様と旦那さんによろしく伝えといてッ!」
 鷹司・真白(真白色の鎮魂歌・b79772)が、わずかに守りについていたミイラ兵をフェニックスブロウで引き剥がす。
 彼女たち、チーム月光は、ピラミッド内部への突破口を作るべく、狙いを定めていたのだ。晦日・既朔(月蝕祈光・b82568)が、ピラミッドの礎石に手足が生えた怪物、ストーンプレッシャーどもに大拡散砲をはなつ。しかし、倒すには至らない。
 逆に、既朔を押しつぶそうと、ハイジャンプ。夜空の星光をさえぎって、黒々と影が既朔を覆う。
 だが、数本の電光が、ストーンプレッシャーに突き刺さった。チーム白夜の、リーリャ・ドラグノフ(イディナローク・b84421)がはなった致命電光乱れ撃ちだ。すでに大拡散砲でひびが入っていたストーンプレッシャーが砕け散る。
 既朔は、リーリャに笑顔を向けた。
「ストームブリンガーの方と一緒に戦う日が訪れるなんて…感慨深い、でございます……」
 リーリャがうなずき、何か言おうとしたが、そこへ今度は、巨大なハエ妖獣が襲いかかってきた。
「さぁ、皆様ピラミッドへ!あとは私達にお任せ下さいませ!」
 チーム月光の、残る面々が援護を行う。
「……揺蕩う朱い月の力…解き放ちます」
 石花海・舞矢(菊日和・b82589)が、サイコフィールドで守りを固める。石薬師・弦(雨燕・b79777)のバレットインフェルノ、ランバート・ダハーム(嵐の龍・b84252)の天雨豪流が、敵を殲滅して血路を開いた。御剣・風月(星空の新月・b39244)は、赦しの舞で、突入する仲間を回復させておく。
 リーリャの仲間、チーム白夜は駆けた。
「王の間で、探索を行うのがよいと思う」
 ヒルデガルド・ケッセルリング(オルキヌスオルカ・b80010)が、無表情にぼそりと提案した。その間も、後方への警戒は怠らない。
「美影のねーちゃん、やっぱこっちにいるでありましょうか」
 龍餓崎・杏(剣術小娘オーバードライブ・b80943)が、晴恋菜の調査団にくわわった結社仲間を案じた。
 犬神・伏姫(死人機士団・b77239)は、ケルベロスオメガの八房に、ブラックセイバーで一直線の道を作らせた。犬神・リディヤ(ラビリンスドール〜白夜迷宮録・b77255)がたずさえたワイヤー付きの銛撃ち銃をうちこみ、たどる。
「氷室さんも心配だけど………。生と死をわかつものには、カンボジアで戦った時、大敗となった借りがある。奴の手がかりが少しでも見つかれば……」
 ピラミッド奥を目指すのは、彼女たちだけではない。鷹司・真白がお姫さんと呼んだ、矛城晴恋菜を案じる者は数多くいた。もっとも、案じられているのは、命よりも、むしろ恋の行方のようではあったが。
「まったく、他人の恋路のために命をかけるなんて、この子分には、あきれてものもいえませんわ」
 と、口ではいいながら、小鳥遊・歌戀(恋色魔王・b07854)は、突入のかまえをとったカイト・クレイドル(真イケメン人狼騎士・b37048)に、相愛満月で力を託した。
 同じエンプレスとして、晴恋菜の恋路をかなえてやりたいと願っているのだ。
「だって、ずっとさ、お互い想い合ってたのに、離れたまま守って消えていく? そんなバカな話なんてないだろ? ……思い出は今からでも間に合うから」
 そんなカイトとともにいた、恋人のウルリケ・シュヴァルツ(影を弑する者・b69278)が不安そうな顔を見せる。ピラミッドをのぼりはじめたカイトの勇気が、じつはただの蛮勇とであったという結果に終わらぬよう、道しるべや明かりといった配慮をしつつ、彼についてゆく。ピラミッド潜入の経験なら、あるのだ。
 だが、そんな経験を無駄にしてしまうものが、眼前にあらわれた。
「あれはいったい? なんでしょう、正和さん」
 キノコ帽子を駆使して戦っていた八木山・聖夜(黄金山羊座の守護剣士・b55076)が、ピラミッドの頂点を指さした。
 声をかけられたのは伊達・正和(トレジャーハンターで人狼騎士・b00969)だ。「トレジャーハンター部」の経験を生かして、本来のピラミッドの構造を考え中に入ろうと試みていた。ところが、いま、事態はまるで異なった様相を見せている。
 ギザの三大ピラミッド中でも最大のクフ王のピラミッド。その頂点近くに、黒洞が出現していたのだ。
「……なんで? まるで、ブラックホールってやつみたいだな!」
 正和は言った。まさに、そう形容するのがふさわしい。黒い球体だ。しかし、どの方向から見ても、奥があるように思える。
 ピラミッドを守る未知の敵にそなえていたジャン・ルフォール(グレイシャルアイズ・b14116)が、光の槍をはなった。だが、吸い込まれるように消えてします。
「大空や大地が襲うという話で『出エジプト記』の十の災いを思いだしていたが……夜が襲う、などという話はあったであろうか……」
「ピラミッドと使役ゴーストは何か縁が深いですよね、章姫、何か判ります?」
 黄金崎・燐(高校生ルナエンプレス・b55478)は、使役である真モーラットヒーローにたずねたが、もどってきたのは、首をかしげての『もきゅ?』のみ。
 可愛かったが。
「おそらく、いまの魔力バーストで、特殊空間にほころびが生じたんだ」
 神谷・恭一(縛りし鎖を断ち切って・b73549)が、科学人間らしくの瞳に数字を流れさせた。ピラミッド内の地図を作るだけが、スーパーGPSの効果ではないのだ。かなりの機能拡張という拡大解釈なので、ここでしか使われないだろうが。
 ……ともあれ!
 能力者たちは、経験と知識で推測した。ルナエンプレスの宇宙経験、ストームブリンガーの過去知識もあわせてだ。
 もちろん、並みの地縛霊が操るような特殊空間とはわけがちがうだろう。龍脈の地縛霊のような……いや、かつて例のない空間かもしれない。古代の、エジプトの何物かが作り上げ、ひそかに設置していたのか。
 探索するべき「ピラミッド内部」とは、物理的に存在するピラミッドとは異なる、亜空間城塞ともいうべき空間であったのか。
 だが、銀誓館の能力者たちが躊躇したのは、ほんの一瞬だった。
「……あらあら。あちらから、末妹の気配を感じますわあ」
 能力者たちはいろめきたった。銀誓館学園の理事長、矛城晴恋菜。彼女のことを、月生まれのルナエンプレスは「末妹」と呼ぶ。その晴恋菜が、救援を求めた能力者たちとともに行方不明になっていたのは、つい先日のことだ。
 だが、彼女の魔力の気配が、あの黒洞の奥にあるという。それを口にしたのは、眠そうな陽奈月・九澄(ブックエンド・b82888)をはじめとする、ルナエンプレスたちだった。
「さすが、歴代最強や初代さまと、想い人をとりあっただけのことはある、思念の強さです。でも、末妹、力押しだけでは上手くは行かないんですよ。歴代最弱を謳う私だからこその発想でしょうが、好きな男の背を押せてこそイイ女なんです」
 ハックルベリー・フレンド(高校生ルナエンプレス・b82630)は、それを伝えてやるために、歩みを前へと進めた。もっとも、それをカグヤのほうに聞かれるのは、かんべんしてほしいようだが。
 けれど、上がった砂塵もそろそろおさまり、守護のゴーストの生き残りたちが、黒洞の魔力を感知して、押し寄せつつある。もちろん、それを防ぐ者もいる。
「行くしかあるまい! 吼えろ、レイジングソード! 烈火の剣侠児、罷り通る!」
 南雲・レイジ(烈火の剣侠児・b47935)が、その命を炎と燃やし、黒洞を守らんと迫るゴーストどもに、最大火力の一撃を叩きつける。
「亜空間とかよくわからないけど……ぬけたら、いしのなかにいる、はイヤだなあ」
 口ではそう言いつつ、鮫島・沙智(高校生カースブレイド・b83689)の歩みはゆるまない。まさくし、死亡上等! 手にした呪われし剣、百狐丸をかかげて、敵に宣言した。
「ただいまより、捕食のオリンピック開催です…!」
 そしてまた、別のひとり。
 群れなして襲う守備ゴーストに向かい、風に吹かれてひとり立つ男がいる。その髪は、黄金のたてがみのように輝いていた。
「嵐が俺を呼んでいる。俺の中に眠る嵐の血統が、今ッ、まさに咆哮を上げようとしている! 勇者咆哮マイトガイガー、俺の武器は勇気ッッッ!」
 旋風寺・凱(勇者咆哮マイトガイガー・b58135)が見得を切る。
 彼らが開いた道を、まずは突入班Chaserが先陣切った。
「ぶっ飛ばしてくぞ!」
 最短距離でたどり着くように、神経を研ぎ澄まして、走る。明空・萩吾(灼キツク陽・b41799)は、かつてエジプト遺跡内に飛ばされた経験を思い返していた。
 相澤・悟(生涯一ゾンビハンター・b03663)がフォローにまわり、後輩たちを送り出す。
「安心せえ! 墓場で死ぬほど、野暮やないで!」
 先輩の言葉を信じ、テーオドリヒ・キムラ(幻影纏いし守護狼・b37116)が死力を尽くす。彼は、銀誓館に命と心を救われたと感じている。今が、その恩に報いる時だと。
 日向・るり(蒼空に揺れる向日葵・b06322)が、仲間を迎えるために進む。記憶力のよさは折り紙つきだ。総六・逸(野分根之草・b02316)は、倒れない。歩く
「笑顔で『お帰り!』を言うために。切り開くぜ、道を」
 そして残るチームも突入に成功した。「ゆいま〜る」に「柔道」や「天体観測同盟」、突入1班に2班、といったチームが、黒洞へと飛び込んでいったのだ。チーム「幻桜の灰」は、退路を守るべく、対策している。黒洞と、通常空間のつながりを維持するかまえだ。
 そして、彼らが飛び込んだ、その先に待つのは……。
 ピラミッドの迷宮と、そして、敵の真のもくろみ。
 さらに――矛城晴恋菜と調査隊。最後のファラオストームを止める絶望的な戦いに、彼らが手を貸すことになる!

● エピローグ 雨堂盾哉が待ち続ける


 雨堂盾哉は、待っている。

 ピラミッドの外で。
 彼はもう、ほとんど消えかけていた。消えたくなどない。だが、救える相手を救わずにいることもできない。
 その気持ちを、銀誓館のみんななら、わかってくれると、思う。わかってはくれるが、消えてしまったら、叱られるだろうし、怒られるだろうし、悲しませてしまうだろう。
 だから、せめて、あとほんの少しでいいから、自分の存在が維持できることを祈っている。
 自分が消えたら、抑え続けてきたオロチがどうなるのか、消えかけていたカグヤがどう出るか、という不安もある。だが、今日の戦いをまのあたりにして、銀誓館のみんなは、絶対に勝ってくれる、生き延びてくれると信じられた。
 あの……生と死をわかつものが、何を企んでいようと、だ。
 夜明けの砂漠。
 風が、吹かない。
 ピラミッドに突入していったみんなは、まだ戻らない。

 諦めかけていた。
 消えてもいいと思っていた。
 これほどにたくさんの願いと祈りを受け取ったら、そうもいかない。
 水原・風戯(禍福の風・b64135)のように、自身の肉体を貸し与えてもいい、と願ってくれた者もいた。ただ、田中校長が知っている風、理事長の想い人としか知らぬ自分に、だ。
 彼が送り出した記憶を受け取ってくれた、嵐の王たちとは、まだどこかで繋がっている。
 だから坂上・佑(嵐を助く者・b84392)が『盾哉、諦めんなバカ! もちっとやれるだろ!』と呼びかけてくるのも感じていた。
『銀誓館の理事長、お前の女な、写真見せて貰ったがスゲーいい女だぞ! おっぱいでけーぞ! ここ踏ん張れば、何かいい案とか方法も出て、会えっかもしれねーだろ!? 晴恋菜はずっとお前の事待ってんだぞ!』
 人の想い人で、ずっと年上の理事長を呼び捨てにすんじゃねーよ、バーカ、なんて思ってみる。かつて持ったことのない、同じ年のじゃれあう仲間がいれば、こんな風に会話ができるのかな、と思って。
 おっぱいでけーぞ、か。……前から大きかったけど、いま、どのくらいになってるんだろう。
 夜刀・神也(谷津乃守也・b73718)も、そんなことを言っていた。
「美人の理事長が、牙城晴恋菜がてめーの事を話す時、少女みてーな顔して照れてやがったんだ。惚れた女のために体張ったんなら、今度は惚れた女の為に戻ってきやがれ! 守れねェ約束は約束なんて言わねーんだよバカヤロー!」
 わかったよ、戻るよ。
 たぶん、ほんの一瞬だけど。できれば、田中さんにお礼をして、アーマリアにも一言、わびたかったけど。
 せめて、晴恋菜が戻るのを待つ間くらいはもつだろう。
 寄せてもらった思いを、支えにすれば。
 月帝姫たちの思いを感じるのは、カグヤとオロチの中で、何度もぶつかったおかげだろうか。彼女たちが「末妹」と、カグヤのコピーだったはずの晴恋菜を受け入れ、愛してくれていることが、何よりも嬉しかった。
 あの人たちがいれば、オレなんていなくても、とさえ思った。でも、そうすると、晴恋菜はたくさんの姉たちに叱られるんだろうか。 カグヤ――盾哉にとっては宿敵でも、ルナエンプレスには、姉や妹なのだ。同胞だ。
 想魔・百合(高校生ルナエンプレス・b82928)の願いを思い出した。月帝姫は、月での説得のおりに、晴恋菜から事情を聞いている。
「私はカグヤを信じる。ここに集まった絆は、貴方が始まりで、きっかけ。からっぽなんて言わせない。カグヤ。私達の夢を託そう。いつか誰かに、あの日誰かに背中を押して貰えていたら、手を差し伸べられていたら。私たちは取り戻す事はできないけど、末妹は間に合う。再会を願った子を泣かせたくないの。最後には笑顔でいて欲しい。雨堂君と末妹の未来のために、救われなかった過去に。……花束を。誰かを守ろうとする。その背中こそ守りたい。世界よりたった一人。私はそれで良いと思う。それでこそだと思う」
 カグヤを変えることは自分にはできなかったけれど、みんななら、なしとげてくれるだろうか。
 ああ、次々と、みなの呼びかけが押し寄せる。
 天峯・叢(霧の騎士・b49920)は言った。
「救いたいのは、世界のため、なんて仰々しいお題目じゃない。たった一つの約束。たった一つの想い。それだけで俺は、俺たちは、ここまで来た。ここまで戦ってこれた。だからこそ、貴方はここで滅びてはいけない。必ず生きて、大事な人との約束を果たして欲しい……だから、新たな力となる新たな記憶。それをつなぐために。貴方はもう、一人じゃない」
 記憶、思い出。それを分けてくれということもできた。でも、そうはしなかった。
 しなかったのに、気づいてくれた人がいる。でも……もらえない。喪われてしまうから。辛い記憶であっても……それはダメだと、いまの盾哉は思うから。


 盾哉は、待ち続けた。


 待って。待って。どれほどの時が、すぎただろう。

 ピラミッドから、人影があらわれた。
 駆け寄ってくる。帽子が飛んで、長い髪が、ほどけてのびる。
 手をさしのべた。
 触れることは、もうできないとわかっていても。
 手をさしのべられた。
 触れることは、もうできないとわかっていても。
 二つの影が重なって。
 そして、永遠にひとつになった。


マスター:友野詳 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:728人
作成日:2012/03/13
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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