<リプレイ>
● 「それにしても……目的が『人間を蹂躙する』だなんて、趣味が悪いっていう以外の言葉が浮かばないわよね」 廃工場内の足場を確認しつつ、肩をすくめる三笠・輪音(夕映比翼・b10867)。 異形化した神将が与えられた指示は、目についた人間を蹂躙する事だと言う。 「封神台のメガリスアクティブ……手に入れた力に酔い心の制御が出来無くなったか、元よりそういう人柄だったのか」 神将にそんな指示を出したメガリスアクティブの目的は何なのか、答えが出るべくもないが、ついつい思いを巡らせる嘉納・武道(柔道番長・b04863)。 「自分の意思を失って、殺戮を、だなんて可哀想だよ。悲しいよ。分かりあえた人もいたんだもの……」 もし彼らがメガリスアクティブに操られていなければ、意思の疎通も出来たかも知れない。かつてそうだった神将達のように。 そう考えて俯きがちになるレナ・クロニクル(豊穣のつぼみ・b79197)。 「バッカみたい! メガリスアクティブに操られるばかりか、異形と化した連中が神将を名乗るなんて片腹痛いわ」 他方、忍びの一族出身の神羅・あやね(深山の女天狗・b35586)は、やり場の無い怒りに奥歯を噛み締める。 銀誓館学園の能力者達にとって神将は、時に敵であり、時に友であり、浅からぬ縁で結ばれた関係。 それだけに今こうして、討伐以外の道無き「ゴースト」と化してしまった神将と戦わねばならない事は、余りにやるせない。 「神将と闘うのはラーラお姉ちゃん以来かな。こっちは話聞きそうにないけど……皆で頑張って倒そうね!」 その小さい手を握りしめ、ぎゅっと力を籠める乃々木・栗花落(木花咲耶の戦神子・b56122)。 年齢が長じるにつれて、物事を何でも複雑に考えてしまうのは人の性というものだろうか。栗花落は極めて簡潔に能力者達があるべき思考を示して見せた。 「確かに……考えても仕方ないな。僕たちの後ろに町の人々がいる。なんとしても、ここで奴らを食い止める!」 眼鏡のずれを中指で直しつつ、澄空・翔(澄み空を翔る蒼黒の風・b59134)も思考の迷路を脱する。 今能力者達に出来る事――すべき事は極めてシンプルなのだ。 「『人間を蹂躙する』だァ? 蹂躙されるのはお前らだろうがァ!!」 そうした意味では、三島・月吉(バスター・b05892)にブレはない。 足下に転がっていた瓦礫を彼方へ放り投げつつ、やがて来る「敵」に対して戦意を高める。 「意志を奪われた神将のために、何より罪の無い人々のために、必ず止めてみせます! モルル皆のサポートを宜しくね」 碓氷・茜(青空に寄り添う白星・b58271)はモーラットヒーローのモルルと共に誓う。 目の前で散っていった魂に報いる為、強くあろうとする彼女の心に迷いは無い。 能力者たちが万全のコンディションで迎撃態勢を整える間、三体の異形もまた、刻一刻と岐阜県に接近しつつある。 数多の命を懸けた、負けられない戦いの幕が開こうとしていた。
● 「神将さん、こっちだよ!」 三体の神将達は一切姿を隠すことも無く、県境へとやってきた。レナはその姿を認めるや、工場内から声を上げる。 「なんだあのチビは」 「町に入る前の試し切りに丁度良さそうではないか」 大身の槍と長刀を手にした男達は、少し後ろを歩む女を振り返りながらそんなやり取り。 「……」 女は何も言わず、微かに頷く。 「よし、そうこなくてはな!」 神将達は、そのまま工場へと足を向ける。
「ほう、ちっこいのが大勢居るではないか」 「手始めにこいつらから蹂躙するか」 廃工場内で対峙する両者。 「目を覚ませ、ばかー!」 ――ダッ! 「?!」 先んじて地面を蹴ったのはレナ。疾風のような速度で十字槍を手にした神将「鬼角」の間合いへ躍り込む。 鬼角が槍を構えるより早く、ピクシーズダンスの切っ先はその胸元を切り裂く。 「アンタらと遊んでいる暇はないの! 皆、行くわよ!」 これに続いて、一斉に動き出す能力者達。爆発的に覚醒した「気」が、あやねの髪を逆立たせる。 「……くくく、面白い! ただの据え物斬りより楽しませて貰えそうだ!」 滴る血も構わず、槍を力任せに回転させる鬼角。 ――ギャリィッ!! レナはナイフでこれを受け止めるが、圧倒的な衝撃に地面へはじき飛ばされる。 「わしがぶった切ってくれるわ!」 「おじちゃんの相手はボクがしてあげるよ」 「ほう? その心意気に免じて痛みを感じない様に斬ってやるわ、ふはは!」 大長刀を手にした「豪斬」の前に立ちはだかる栗花落。若い女性という事だったが、特に下限は無い様だ。 「歪んだ嗜好の持ち主にはさっさとご退場願いましょうか」 無数の白燐蟲達を、胡蝶楽篭に宿らせる輪音。 「神将共! 貴様等の行く手、我らが阻ませてもらう!」 「若い男を切り刻むのが好きなんて、よほどいい男に巡り会えなかったんだな」 まず鬼角を撃破しようと言うプランに則り、武道と月吉は二刀を手にした「黒睡蓮」を抑えるべく回り込む。 「フッ……口数の多い男も嫌いではないぞ」 刀を無造作に抜き放ち、微かに口の端を歪める黒睡蓮。 ――ガキィッ! 青龍の闘気を纏った拳を繰り出す武道。黒睡蓮はそれを交差させた刀の腹で受け止める。 「こっちで死ぬまで楽しませてやる」 「お前達が死ぬまで……な」 月吉の言葉に、二刀の女は一層笑みを濃くする。
「餓鬼がっ! ちょこまかと!」 鋭い切っ先が幾度も翻り、レナの眼前を掠める。 それに臆すること無く、肉薄するレナの手にプラズマが宿る。 ――バシィィッ!! 「ぐっ……!?」 零距離からの蒼の魔弾。 それは決して少なくない衝撃を鬼角の身体に与える。 「今よ! イカせてあげるわ!」 その瞬間、あやねの手から放たれたのは白燐蟲を凝縮した白光放つ球体。 ――バッ!! 鬼角の脇腹に炸裂した瞬間、一斉にその身体へ食らいつく。 「皆を守るために……どうか力を貸して」 茜は、モルルにレナの手当を急がせつつ雑霊達を凝縮。いまだに体勢を立て直せていない鬼角目掛けてそれを放つ。 「……楽しませてくれるじゃねぇかよ。ちょっと本気を出すとするか」 能力者達の波状攻撃を受け、その力量の程を垣間見たのだろう。鬼角は槍を回転させて構えを固める。
「ふん、女子供相手に手こずりおって。まぁいい、わしはお嬢ちゃん達と遊ばせて貰おう」 豪斬は仲間の苦戦を鼻先で笑い飛ばし、目の前の輪音と栗花落に向き直る。 情報通り、チームワークや連携と言った概念はかなり希薄らしい。 「ふふ、あなた達の目も思った以上に節穴なようね」 お嬢ちゃん呼ばわりに、ふっと笑いながら構えを取る輪音。 「節穴な目にはこれがお似合い! さぁ白燐、食らい尽くして!」 ――バッ! 豪斬の視界いっぱいに弾けるように広がる白燐蟲。 「小賢しいわ!」 ――ブオンッ! 振るわれた長刀は、大多数の白燐蟲達をはじき飛ばす――が 「殺人鬼の血って美味しいのかな?」 「むうっ!?」 吸血の衝動を開放し黒い疾風と化した栗花落は、白燐弾を囮に豪斬の側方を突いていた。 遅れて走る鈍い痛みに、顔をしかめる豪斬。 「小娘どもめ、やりおるわ……こうでなくてはな!」
「どうした? 楽しませてくれるはずではなかったか?」 ――ビュッ。 黒睡蓮が刀を振るうと、血が点線状に地面を濡らす。 (「さすがに強い……思考を止めるな……勝てぬまでも負けぬ戦いは出来る筈だ」) 月吉との連携攻撃を難なくいなされ、その上手痛い反撃を浴びた二人。武道は肩口の傷を確かめつつ、額に脂汗がにじむのを感じる。 「……フハハハハハハッ!!!」 一方、貴種の血を目覚めさせて力を解放する月吉。 傷は癒やされたが、例え瀕死の重傷であっても彼は笑うのだろう。 彼もまた、戦いに心を躍らせているのだ。
● ――ブオンッ!! 「んっ!」 槍の穂先がレナの腕を突く。 激しい痛みに表情を歪めた彼女だったが、右手に集中させた魔力はそのまま、鬼角の顔面へとたたきつける。 「グオォアァァァッ!!」 「モルル!」 鬼角が咆吼を上げる間、あやねはすかさず白燐蟲をレナへと飛ばし、茜はモルルに傷口を舐めるよう指示する。 「これ以上手強くなると嫌だし、ちょっと黙って」 射線を確保した翔は、強烈な上昇気流を発生させて鬼角を追い打ちする。 この一撃は、彼の力を強めていたエンチャントをも解呪した。 「おの……れぇっ……!」 片膝をつき、何とか身体を支える鬼角。 仲間達の必死の陽動もあって、鬼角への集中攻撃は確実に彼を追い詰めていた。
「回復するわ、攻撃を!」「解った!」 古の土蜘蛛の霊達を召喚し、栗花落の傷を癒やす輪音。 一進一退の攻防を繰り返しながらも、やや豪斬が押し気味の展開。 「ふん、非力じゃな! わしを倒す事などできんわ!」 「それはどうかしらね」「やってみなければ解らないよ!」 豪斬の長刀をかいくぐって銀桜「九重」を振るう栗花落。 耐えていれば、仲間達が助けてくれる。絶対の信頼感が彼女らを支えていた。
「ぐっ……恐怖に囚われるな。恐怖に慣れるな。制御しろ……」 幾度目かの虎紋覚醒で体力を回復する武道。 黒睡蓮は武道と月吉の立体攻撃を左右の刀で防ぎ、痛烈な反撃を繰り出す。 「そろそろ終わりにしようか? お前達との戯れも一興だが、より多くの人間を蹂躙せねばならぬ」 武道へと歩み寄る黒睡蓮。 「噛み砕くッ!」 ――ガッ! 月吉は電光石火の動きで、死角より黒睡蓮の腕に飛びかかる。 「……その程度か?」 ――ズンッ! 吸血噛み付きを受けながら、表情一つ変えない黒睡蓮。お返しとばかりに、もう片方の腕で握った刀を深々と月吉へ突き立てる。
「いくよ!」「これで終わりだ!」 レナの手に、一際大きな雷弾が形成される。と同時に、ブーメランを放つ翔。 「ばかな……この……俺がぁぁぁーっ!!!」 鬼角は苛烈な波状攻撃の前に、ついに倒れた。 「待たせたわね、次はそっちよ!」 「モルル、今度はあっちを!」 すぐさま新たなターゲットを定めるあやねと茜。 「……鬼角!」 長刀で輪音と栗花落の攻撃を受け止めていた豪斬だが、仲間が欠けたことに少なからず衝撃を受ける。 「隙アリだよ!」 その動揺を突いた栗花落は、再び豪斬の首筋に牙を立てる。 「ええい!」 力任せに栗花落を振り払う豪斬。 「……これまでのようだな」 傷口を抑えて膝をつく月吉に向かって言いつつ、右手の刀を振り上げる黒睡蓮。 「そうはさせん!」 地面を蹴り、一直線に黒睡蓮へ向かう武道。 「どちらが先でも、私は一向に構わんぞ」 表情を変える事無く女は言い、切っ先を武道へ向ける。 「はぁぁっ!」 繰り出される龍顎拳。しかし女は避ける素振りすら見せず―― 「何なら、二人一緒に逝くが良い……死独楽!」 ――バッ!! つむじ風の様に、目にもとまらぬ速度で回転する黒睡蓮。 鋭い斬撃が容赦なく二人の身体を傷つける。
● 「馬鹿……なっ……!」 大きな音を立てて、長刀が床へ転がる。 「もう少し人を見る目を磨く事ね」「ごちそうさま、おじちゃん」 輪音と栗花落の攻撃に加え、能力者達の集中攻撃に晒された豪斬。驚異的なタフさを誇った彼の体力も、無尽蔵ではあり得なかったのだ。 「役立たずどもめ……町一つを私だけで蹂躙せねばならんのか」 殆ど表情を変えること無く、仲間の散りざまを見遣る黒睡蓮。 (「一先ず役目は果たせた……が……」) 仲間が二体の神将を倒すまで、黒睡蓮を抑えた武道と月吉だったが、その身体はまさに満身創痍。体力的にはもはや限界を超えていた。 「今度こそ終わりだ」 再び振り上げられる刀。 「間に合わない――!」 あやねもモルルも、二人を癒やすには遠すぎた。 「……まだだぜ」 ――ガシッ! 黒睡蓮の足を掴む月吉。 「慌てるな、お前にもすぐに引導を……」 言いかけ、言葉を途切れさせる黒睡蓮。仮面を被っているにも関わらず、月吉が笑っている事に気づいたからだ。 「何がおかしいのだ」 「まだ俺たちは楽しませて貰ってないぜ……そうだろ、嘉納」 「あぁ……」 応えながら、ゆっくりと立ち上がる武道。 「なぜ立てる……?!」 目を見開く黒睡蓮。それは魂による肉体の凌駕に他ならない。 「嘉納!」「月吉さんも!」 すかさず、その傷を癒やしに懸かるあやね。輪音やモルルも、一斉に回復行動へと移る。 「ゆくぞ!」「食らいなァッ!」 「死に損ないどもが!」 打ち下ろすように繰り出される武道の拳。 黒睡蓮は今までそうしていた様に刀を構え、難なくこれを受け止めようとする。 「なっ?!」 ――シャッ! が、その拳は寸前で止まり、代わりに繰り出されたのは回転胴回し蹴り。 変則的な攻撃に対し、とっさに反対の刀を構えてこれを受ける。 「ガラ空きだぜ」 ――ガシュッ!! 必然的にノーガードとなった死角から、月吉の牙が突き立てられる。 「ぐっ……貴様ら……まさか」 先ほどまでの戦術が、自分を抑える為の物だった事を瞬時に悟る黒睡蓮。 「そこまで、信用出来ると言うのか……仲間を」 命を賭してまで、味方を信じて時間を稼ぐと言う発想が理解出来ないのだろう。 「神将さん、解放するにはこれしかないから」 レナは二振りのナイフを構え、地面を蹴る。 「仕掛けるわ。援護なさい」 これに呼応して、白燐侵食弾を放つあやね。 「モルルも攻撃を!」 雑霊弾を放ちつつ、モルルにVキャリバーを指示する茜 もはや攻撃対象は黒睡蓮のみ。集中攻撃あるのみだ。 「まだ……お前達は勝っていないぞ」 二刀を振り上げる黒睡蓮。 「来るぞ!」 「刀気……発勝!」 ――シャッ!! 放たれた真空刃は、能力者達を貫くように切り裂く。 「……女性からのアピールも嫌いじゃないが、痛いのは御免だ」 反撃のジェットウィンドを放ちつつ、傷口をマントで覆う翔。 その威力は絶大だが、一対多の状況を覆す物では無い。 「トドメだ!」 再びコンビネーションアタックを掛ける月吉と武道。 ――バキィッ! 月吉の牙が刀を噛み砕き、武道の拳が黒睡蓮の急所を打ち据えた。 「が……はっ……」 膝から崩れ落ちる黒睡蓮。 「アンタにも戦士の誇りが残っているのなら、勝者である私たちの質問に答えなさい!」 「……楽しませて……貰ったぞ」 あやねは倒れる神将を支えて情報を聞き出そうと試みるが、それは叶わなかった。
「とりあえず町は守った、僕たちの勝利、という所か」 「うん、後は大元をなんとかしないとね。メガリス・アクティブ……どこにいるんだろう」 翔の言葉に頷きながらも、小首をかしげる栗花落。 「特に見当たらないみたい」 レナは工場の屋根に登って周囲を見回すが、怪しい人影などは見つけられない。 「ま、近いうちにそれを知ることが出来るだろう。戻るとしようか」 神将を撃退し、人々の命を救った能力者達。 しかし彼らの消耗もまた大きい。 今は学園に戻り、次なる戦いに備えて休むとしよう。
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参加者:8人
作成日:2012/03/14
得票数:カッコいい14
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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