【天の衣、舞い降りるは白百合の園】不変の憎しみ

<オープニング>



 『四つの翼』が羽衣の力を失ってから数日経った今、聖アウグスチヌ女学院には大きな変化が訪れていた。
 学院内に渦巻いていた男性に対する酷い噂はめっきり聞かなくなり、代わりに女生徒達の間では、年相応の可愛らしい恋の話が囁かれている。
「これが本来の学校の姿よね……本当、私もどうかしていたわ」
 恋話に花を咲かせながら廊下を歩く女生徒の笑顔を見つめ、怜子は表情を綻ばせた。すっかり穏やかな雰囲気になった彼女を見つめ、玲奈も安心したように目を細める。
「戸田先生がわかってくれて本当に良かったです」
「あなた達のおかげよ、ありがとう。それはそうと……あなた達、気をつけた方がいいわ」
「……もしかして、輝羅々のこと?」
 そっと顔を見上げてくる雪紗に怜子は頷き、眼鏡の縁を押し上げて浅い息をついた。
「天ヶ崎さん、あの日から欠席が続いてるわ。けど、校舎の中で彼女を見かけたっていう生徒もいるし、何か、次の行動に出る準備をしているのかも……もう、無茶な事はして欲しくないんだけど……」
 そう言って、ふと視線を落とした怜子の瞳は心配の色に染まっていた。


「そういえばぁ、あなた達、輝羅々様にも会ってお話しするつもりですかぁ?」
「えぇ、そうできればいいと思っているわ」
 迷いのない表情で頷くレキナに、沙里菜は立てた人差し指を口元に当て、う〜ん、とわざとらしい仕草で唸った。
「なら、話し方に気をつけた方がいいですよぉ?」
「……? どういう意味じゃ?」
「えーっとぉ、輝羅々様は、ワタシや他のお友達と比べ物にならないくらい、男の人を嫌ってますし、苦労もなさってるらしいですからぁ、お話しする内容は慎重に選んだ方がいいと思いますぅ」
 首を捻っていた御美子を振り返って、沙里菜は、にぱっと屈託のない笑顔を向け……。
「下手な事話したら、きっと『こう』ですよぉ」
 首の前で立てた親指を、くいっと横へ引いてみせた。
 きっと悪気はない。彼女なりの忠告なのだろう。


 呼び出されて来てみた空き教室で、彼女は待っていた。
 教室に入ってくる昼楕とティセを見つけて駆け寄ってきた美羽は、言いにくそうにその口を開く。
「あ、あの、あたし、見たんです……あの日の後、き、輝羅々先輩が、屋上で誰かと話をしているところ……」
「本当!? 何の話しをしてたかはわかる?」
「ご、ごめんなさい、屋上の見える廊下の窓から見ただけだから、そこまでは……」
 ぺこりと申し訳なさそうに頭を下げた美羽。そっか、と少し残念そうに笑った昼楕を見上げて、少し口篭ってからまた控えめに話し始める。
「けど、その……見かけたのは一回だけじゃないんです。何回か屋上にいる先輩を見かけました。あの、もし皆さんが輝羅々先輩と会うつもりなら、屋上に行ってみるといいかもしれません……あたしが見たのは、夕方、放課後の時間でした」
「そうなのですか……みうちゃん、教えてくれてありがとうなのです」
「行かれるなら、気をつけて下さいね。あ、あたし、皆さんなら輝羅々先輩のことも救ってくれるって、信じてます……!」
 丁寧にお辞儀をするティセに釣られたのか、もう一度、深々と礼をしてそう言う美羽の声は、どこか震えているようだった。


「……行くんでしょう?」
「えぇ……戦争を起こすなど……そんな考え、絶対に止めてみせますわ」
 揺るがない綾乃の目の光。決心を固めたようなその瞳に唯は小さく頷き、ふと教室の窓の外を見やった。
「輝羅々様は……この学院には、おばあ様の援助で在学していると聞いたわ。ご両親は、離婚なさったそうよ。共に浮気相手と一緒に蒸発して、ね……」
「それで……男の人を憎んでいるんですか?」
「ご両親がそうなってしまったのは、輝羅々様がまだ幼い頃だったの。心に受けた傷は大きかったのだと思うわ……だって、輝羅々様、口癖のようにこう言ってた……」
 そっと窺うように言う苺子を振り返って、唯は切なげに眉をひそめる。
「男は、わたくしを傷つけた。大切なものを奪った、って……自分を捨てた父親と……それに、母親を奪っていった見知らぬ男に抱いた憎しみを、きっと今でも引きずっているんだわ……」
 言いながら再び窓の外を見つめた唯は、そのまま静かに目を閉じた。
 できることなら、輝羅々に関しても彼女達のように話をして羽衣の力を手放すよう説得できれば良いのだが……。


 放課後になった学院内。天女の羽衣のメガリスアクティブ、天ヶ崎・輝羅々は屋上に続く階段を駆け上がっていた。
「わたくしの……わたくしの翼達が裏切るなんて……!」
 きつく噛まれた形の良い唇から、血の珠がプツリと浮かぶ。
「もうこの学院の者は信用できませんわ! やはり、今のわたくしにはあなた達しか……!」
 階段を上りきった先にある扉を激しく開いた。その向こうで待っていた女が二人、輝羅々の姿をみて妖艶な笑みを浮かべる。
『そうよ……私達はあなたを決して裏切らない……』
『さぁ、早く……私達にその力を授けてくれれば、きっとあなたの望みは叶うはず……』
 女達の足元に這う、無数の蛇。輝羅々はそれを気にする素振りもなく彼女達の元へ吸い込まれるようにして近づいていく。
「ええ、共に築きましょう。男のいない世界を……!」
 輝羅々の肩に掛かっている美しい羽衣が、妖しげな光を放つ……!

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参加者
片桐・綾乃(猫を被った直情系お嬢様・b19717)
ティセ・パルミエ(猫ふんじゃった・b34291)
平永・玲奈(月光に舞う白銀の姫騎士・b35936)
籐村・御美子(おばあちゃんのぽたぽた焼き・b41315)
山陽・昼楕(ここにも土蜘蛛の巫女・b59999)
織原・雪紗(目覚めた眠り姫・b73159)
瀬河・苺子(道を探す少女・b77693)
菅井・レキナ(鳴神の月帝姫・b82451)



<リプレイ>


 放課後。屋上に続く階段を駆け上がる。
「行こう! 彼女はきっと屋上いる……!」
 美羽から聞いた話しを思い返して、山陽・昼楕(ここにも土蜘蛛の巫女・b59999)は確信めいた目で呟き、歯を食いしばった。
 急がねばならない。一刻も早く輝羅々自身の心の闇を払わなければ、きっと彼女は悲しみと苦しみの内に狂気へとその身を堕とすこととなるだろう。
 階段を上りきったところに、屋上に出るドアが見えてくる。
「よし、儂がこちら側で見張っておこう」
「すみません、よろしくお願いしますわ……!」
 金属でできた重たいドアを開いて皆を促す、籐村・御美子(おばあちゃんのぽたぽた焼き・b41315)に、平永・玲奈(月光に舞う白銀の姫騎士・b35936)はこくりと頷いてみせた。
 校舎内へ続く階段の見張りを御美子に任せ、能力者達は屋上へと足を踏み入れた。夕暮れの赤い光に照らされたそこに、美しい巻き毛の少女と、妖しげな雰囲気を纏う女が二人。女達の足元に禍々しい模様の蛇が這っているのを見て、能力者達は確信した。
 リリスだ。二人のリリスが、少女の手を取り何かを囁いている。
「お待ちなさい!」
 咄嗟に、片桐・綾乃(猫を被った直情系お嬢様・b19717)は叫んでいた。驚いたような少女の顔と、リリス達の妖しい笑みがこちらを振り返る。
 少女の、不信感に満ちた厳しい目つき。その華奢な肩に掛かる、この世の者とは思えぬほど美しい羽衣。
 間違いない。彼女が、天女の羽衣のメガリスアクティブ、天ヶ崎・輝羅々だ。
「あなた達……」
 輝羅々の目の奥で煌いた殺気が、ビリビリと空気を伝って肌を刺した。
 彼女に会ったらまず名乗り出そうとしていた能力者達も、張り詰めた緊張感の中で思わず口を噤んでしまう。
 いや、それはもしかしたら必要ないかもしれない。能力者達を認めた輝羅々の目。知っている、といった表情だった。
 息を飲み、輝羅々に向けて一歩踏み出した綾乃は努めて冷静な声で続ける。
「離れてください。その女達は快楽のために人を苦しめ、殺す危険な存在です。力を貸してはいけません」
「……? 何を言って……」
『キャハハハハッ!』
 突然何を言い出すのかと怪訝な表情を浮かべた輝羅々の言葉を、彼女の隣にいたリリスの耳に付く高笑いが遮った。
『バーーカ! もう遅いわよ!』
『アハッ、すごいわ、この力……! この力があれば、いつもよりもっと美味しい食事にありつけそう! 例えば……』
 ぺろり、と舌なめずりをしたリリスが、能力者達を見つめてくる。
『アナタ達……とっても美味しそう……』
「あなた達何を言っているの? わたくしとの約束は……一緒に、男のいない世界を作るって……」
 輝羅々の瞳が動揺に揺れる。震える声で訴え、すがるようにして掛けられた彼女の白い手を、リリスは乱暴に突き放した。
『バッカじゃないの!? そんなメンドいことするわけないじゃない!』
『ちょっとぉ、もうちょっとしおらしくしときなさいよ! せっかくもらった力取られちゃったらどうするのよー!』
『ごっめぇ〜ん、でもぉ、人間なんてちょっと脅かせばゆーこと聞くしぃ』
『それもそうねー♪ キャハハッ!』
「……っ! 貴方達、もう黙って!!」
 本性を現したリリス達。耳障りな笑い声が響く中、菅井・レキナ(鳴神の月帝姫・b82451)は堪らず声を張り上げた。
「そ……んな……!」
 顔面蒼白になった輝羅々が、その場にがくりと膝をつく。
「わたくしは……また、裏切られたの……?」
「違う! 違うよ、輝羅々さん! 皆は……翼の皆は決して輝羅々さんを裏切ってなんかいないよ!」
 ほとんど放心したような状態の輝羅々に必死に呼びかけながら、昼楕は起動し、構えた。それを合図に、玲奈が素早く飛び出していく。
「あっ……!」
「荒っぽくなってしまってごめんなさい。けど……」
 輝羅々の体を捕まえ、そのままリリスとの距離を置くように玲奈は後ろへ飛び去る。
「ひとつだけ言わせてもらいますわね。天ヶ崎さん。貴女が思っている以上に、貴女と御友人達そして先生との絆は、固いですのよ?」
「え……?」
「あのね。こうなって……彼女たちが真っ先に心配したのは輝羅々のことなんだよ」
 玲奈に引っ張られてくる輝羅々と入れ違うようにして前に出た、織原・雪紗(目覚めた眠り姫・b73159)が、彼女にそう静かに声を掛ける。
「嘘……だって、先生は……あの娘達は……わたくしを……」
「言う事を聞かなくなったら、裏切りなのです? それは、違うと思うのですよ」
 後退してきた輝羅々を庇うように立ち塞がって、ティセ・パルミエ(猫ふんじゃった・b34291)は魔法陣で底上げした魔力をバチバチと迸らせる。
『なぁに? 歯向かう気?』
『面白いじゃない♪ いたぶった方がもっと美味しくなるわ』
 口元から下品に涎を垂らし、鋭い牙を剥いたリリス達が、立ち向かう能力者達に襲い掛かってくる。
「ひっ……!」
「ご安心を。あなたは、わたくし達が守りますわ」
 恐怖に顔を歪める輝羅々を背に庇い、綾乃は突き出した指先で向かってくるリリスを指した。神々しく輝く十字が、茜の空から降り注ぐ。
「輝羅々さん、わたしは教えてもらいました、仲間の絆は最高の武器だって」
 ファンガスプリズンを展開させて、瀬河・苺子(道を探す少女・b77693)はリリス達に向かって駆け出していく。
「仲間の……絆……」
「貴女も翼の皆も、巡り遭うきっかけとなった学院も私はとても素敵だと思う。私達はこの学院を、学院の皆を、貴女を含めて危険に晒したくない。守りたいの」
 力なくその場にぺたりと座り込んだ輝羅々の肩にそっと手を置いて、レキナは視線の先に映る仲間たちの背にトーテムの加護を送った。
「あ……あなた達は、一体……」
「きららお姉ちゃん、どうか、今自分が持っているものに気付いて欲しいのです。間違いに気づいたら教えてくれるのが、本当の仲間なのです」
 激しく爆ぜたティセの蒼い魔弾が、弾けるようにしてリリスを捉え。
「私の覚悟、見せ付けてあげる」
 雪紗の凍てついた指先が、キン、と透き通った光を放った。
『くっ……何よ、小賢しい奴ら! 人間のくせに!』
「少し、黙って下さい」
 甲高く喚き散らすリリスに、苺子が詰め寄り、低いトーンで囁いた。
「……抗体原初の指示ですか?」
『はぁ? 何よそれ、知らないわよぉっ!』
 ファンガスの網に絡まれ、もがくリリスを苺子は厳しい目つきで見つめる。
「……そうですか」
 これ以上の詮索は無意味だろう。短く息をついた苺子は、リリスへと武器を振り下ろした。


 襲ってきたリリス達は、羽衣の力を手に入れて喜んでいたようだったが、能力者達にとってはさほど強敵というわけでもなかった。
 リリスを打ち倒し、起動を解いた能力者達を、輝羅々は屋上のコンクリートの上に座り込んだままぼんやりと見つめている。
「……あなた達、何者なの?」
 ふと口を開いて能力者達を見上げた輝羅々に、苺子は向き直ってからぺこりとお辞儀をする。
「わたし達は、その羽衣を回収するためにやってきました。それは、輝羅々さんを不幸にする、危険なものです」
「え……?」
「待って! お願い、聞いて」
 肩に掛けた羽衣を白く細い指で掴んで引き寄せ、輝羅々は身を庇うようにして後退った。逃げ出そうとするその素振りを、レキナが制する。
 襲ってきたリリス達から守ってもらったという事実も手伝ってか、警戒の色を残しながらも輝羅々は小さく頷いてみせた。
「ありがとう……じつはね、その羽衣はメガリスと呼ばれる物の一つなの。不明な事も多いけれど、人間が使えば代償が発生するの」
「……代償?」
 怪訝な顔つきで眉をひそめる輝羅々に今度は綾乃が深く頷き、そのまま続けた。
「正式な名前は、天女の羽衣といいますわ。その羽衣を纏った者は自分を抑えられなくなります。わたくしは以前にも、その羽衣を身に着けた女性が大切な親友を傷つけて苦しむ姿を目にしました。あなたにも……いえ、もう誰にも同じ思いをさせたくありませんの……それが、わたくし達の目的ですわ」
「……まるで、夢物語のような話ですわね……」
 俯き、蚊の鳴くような声で呟いた輝羅々。逃げたり襲い掛かってきたりするような素振りは無い。心なしか、小さく肩を震わせているように見える彼女の次の言葉を、能力者達はそっと待つ。
「…………怖いの……もう、誰も失いたくありませんの……! 奪ったのよ! 男は、わたくしから大事なものを奪っていった……! 憎くて憎くて、気が狂いそう……!」
 座り込んだまま抱えた膝に顔を埋め、輝羅々は半ば叫ぶようにして言葉を吐き出し始める。
「同じ女性なら、わかってもらえると信じてましたわ……けど、もうわからない! わたくしは、心の底から信じた者達に裏切られてしまった……!」
 押し殺した悲痛な叫びをすべて吐き出した後、輝羅々はゆらゆらと顔を上げた。
 まるで深淵を覗いたような暗く濁った瞳が、鈍い光を放つ。
「もう……誰も信じませんわ……たとえ、この身を地獄へ落とそうとも……わたくしは、この羽衣と共に生きる……わたくし一人の力で、わたくしは、男に天罰を……」
「……っ、何で!」
 今まで黙って話を聞いていた苺子が堪えていた何かを解き放ったように輝羅々へと詰め寄り、コンクリートの地面に膝をついて彼女の肩を掴まえた。
 零れそうな瞳が、生気の無い目を真正面から捉える。
「何で憎んでいる相手のために、輝羅々さんが自分を不幸にしなくっちゃいけないんですか!? 唯先輩達を仲間にしたのは、利用しやすいと思ったからですか!?」
「……それは!」
「違うと言うなら簡単に裏切ったなんて言わないで下さい! みんな、輝羅々さんを心配しているんです、わたし達も、翼のみんなも……輝羅々さんの仲間なんです!!」
 溢れ出す涙をそのままに、苺子は叫んだ。捉えていた曇った瞳から、一粒の涙が静かに落ちる。
「……わからないわ……信じるのが、怖い……失いたくないの……もう、これ以上なにも……」
「輝羅々様!!」
 校舎内へと続く重たいドアが、突然、内側から勢いよく開いた。
 そこにいたのは、唯を始めとする、四つの翼達。
「……! あなた達……っ」
「おぬし、愛されておるの。ちょっと連絡しただけで皆飛んできたぞ」
 ドアの後ろから顔を出した御美子が、携帯電話をひらつかせて、にっと笑った。
 突然の事に言葉を失っている輝羅々に、彼女達は必死に呼びかける。
「輝羅々様……いえ、輝羅々……お願い、目を覚まして……!」
 肩で息をして輝羅々を見つめる唯。着替えの途中だったのか、制服のスカートの下は裸足だった。
「輝羅々先輩……! 今度は、あたしに、あたし達に手を差し伸べさせて貰えませんか?」
 ちょうど校舎を出るところだったのだろう。上履きを片方だけ履いた美羽が、輝羅々に向かって手を伸ばす。
「あたしぃ、先輩のこと大好きですよぅ? また、みんなでお茶を飲んで、お菓子を食べて、いろんなお話ししたいですぅ。今は……えへ、こんなのしかありませんけど、食べますぅ?」
 手にしていた食べかけのクッキーを差し出しながら、沙里菜は、にへらと気の抜けた笑顔をみせた。
「天ヶ崎さん、私達、あなたの事、見放したりしてないわ。あなたの事、信じてるの」
 言った後、癖のように眼鏡を押しやる仕草をした怜子が、顔にいつもの眼鏡が掛かっていないことに気がつき、小さく咳払いをする。
 きっと、皆なりふり構わず駆けつけてきたのだろう。驚き、目を見開いて震えている輝羅々に、レキナはそっと手を伸ばす。
「中野さんは言いました。仲良くしてくれたお友達がいるこの学校が、ずっとずっと大事だと……だからこそ、学院を危険に晒さない為力を手放してくれたの」
「彼女だけじゃないよ。皆、貴女の事を心配してる。わかるよね、貴女が力を振るう事で貴女にも危険が及ぶ事を、皆望んでなんかいないんだよ」
 反対側の手を取って、昼楕がゆっくりと輝羅同じを立たせてやった。
「こんな彼女達を裏切ったなんて思うことこそ、裏切るってことだって思わない? お願い輝羅々。彼女達を裏切らないであげて」
「あ……あ、ぁ……」
 雪紗に背中をぽん、と押されて、輝羅々はふらつく足取りで一歩踏み出した。
「ほら、早く行きませんと。鋼鉄の鎖よりも固い本物の友情による繋がりです。それを、貴女は捨てますの?」
「きららお姉ちゃんはもっとみんなを頼って良いと思うのです。みんな、きららお姉ちゃんのことをとても心配してたのです……それも、自分のことみたいにですよ」
「わ……わたくしは……」
 玲奈とティセに促されて、輝羅々はまた一歩、二歩と少しずつ歩き始める。
「あなた達は……わたくしを……捨てたのではない、の……?」
「……っ、バカ! 輝羅々!! そんな事、するわけ……っ、バカ! バカ……っ、ああああぁぁーーっ!!」
 勢いよく駆け出した唯が、輝羅々に飛びつき、抱き締め、思い切り泣き叫んだ。
「輝羅々先輩!」
「先輩〜!」
「天ヶ崎さん……不安にさせて、ごめんなさいね……!」
 後から後から、輝羅々を支えるようにして抱き合う彼女達。
「……ありがとう……皆……大好きですわ……!」
 ふと輝く光を取り戻した輝羅々の瞳から溢れた涙が落ちると同時に、彼女の肩に掛かっていた羽衣がふわりと離れた。
「……! 逃がさないのですっ」
 咄嗟に手を伸ばしたティセが、素早くそれを腕に巻きつけると、鈍い光を放った天女の羽衣は、まるで生き物のようにティセの腕の中で蠢き始める……。


「わっ、わわっ、なんなのです?」
 ティセの腕に巻きついた天女の羽衣が暴れ出す。巻きつきを自ら解くように動いた羽衣は再び能力者達の頭上を漂った。そして、綾乃の目の前で止まった天女の羽衣が、そのままふわふわと彼女のイグニッションカードに吸い込まれるようにして消えていく。
「……っ、これは……!?」
 綾乃は慌てて自分のイグニッションカードを見やった。見慣れぬ色に染まったカード。天女の羽衣が、カードの中に入ってしまったということだろうか。
 よくわからない。とにかく、銀誓館学園に戻って早急に報告しなければ。

 日の落ちていく中、夕陽で真っ赤に輝いた屋上では、まだ彼女達の泣く声が響いている。
 そっと、気付かれないように、能力者達は屋上を後にすることにした。
「ねぇ、輝羅々。本音で語り合ったら、もう友達なんだよ。何かあったら絶対助けに来るからね。もう一人だけだ、なんて思っちゃダメだよ」
 小さく呟いて、雪紗は屋上のドアを閉める。
 彼女達の男性への不信感は、仲間と過ごす時間が癒してくれるだろう。
 能力者達のこと、この事件のこと。いずれ彼女達の記憶からは次第に消えてゆくかもしれない。
 それでも、また彼女達が困っていれば、自分達は迷わず手を差し伸べよう。
 たとえ、忘れられたとしても……。


マスター:海あゆめ 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2012/03/27
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