<リプレイ>
● 春の足音も大分近づいてきた日本列島だが、ここ群馬県のスキー場はまだまだ雪がたっぷり残っており、春スキーを楽しむ人の姿も多く見られる。 能力者一行は、スキー場の片隅で起ろうとしているゴースト事件を解決すべく、この地へやってきていた。
「今回の依頼は……ルールー? なんや懐かしい響きやで。カンボジアで片っ端から蹴散らしたのも、もう半年前……」 カンボジアで行われたジハード救出作戦に思いをはせる斉藤・縁(多分浪花の風水少女・b81259)。 あの作戦のみならず、数え切れない程のルールーを倒してきた能力者達ではあるが、今でもルールーによる事件は細々と起き続けている。 「何とかしてるーるーを現行犯で倒せないか? ……まぁ、できればやってるよな」 地縛霊を復活させる前に倒せれば、大分楽になるだろうに。三井寺・雅之(風炎の光彩・b60830)はごく自然な考えに行き当たる……が、予報士の力は世界の理が歪められる直前か、歪められた場合にしか発揮する事は出来ない。そうは問屋が卸さないと言う奴である。 「私たちの仕事は殆どが『たいしょーりょうほー(対症療法)』って奴だからね。でも、このタイミングでるーるを倒せるのはまだマシな方かもよ? 抗体ゴーストの大軍団を作ってからじゃもっと大変だもの」 物は考えようとばかりに、ポジティブ思考な速坂・めぐる(真烈風少女・bn0197)。楽しそうに雪を踏みしめたり足で舞い上げたりしている。 「……今なら大丈夫そうでござる」 周囲を見回し、皆へ伝える影太刀・シュリケン丸(真ニンジャ・b45806)。 一行は立ち入り禁止のロープをこっそり乗り越え、足跡一つ無い雪の上を歩き出す。これのお陰で今のところ被害は出ていないが、立ち入り禁止区域で滑りたがる人間は後を絶たない。 カップルという物はえてして二人きりになりたがるものだし、今回の地縛霊にとって格好の餌食となりかねないのだ。 「らぶらぶなカップルに攻撃だなんて、ダメですよねぇ! カップルは暖かく見守らなくっちゃダメですよねぇ! ……あれ?」 水姫・優希那(おちこぼれ妖狐・b73873)はそこまで言いかけて、ふと何かを思い出す。 「カップルに嫉妬して攻撃って、クリスマスあたりの銀誓館で見たことあるような、ないような?」 「ははっ! そんなことをしている時期が、僕にもありました。でも今の僕はリア充の仲間入りだから!」 どうやら、不毛な事をしていたのは護宮・マッキ(輝速・b71641)らしい。 彼も今では大事に思う女の子が出来た。めでたしめでたしと言った所だろうか。まぁ一応爆発してしまえと祝辞を贈っておこう。
「……恐らくこの辺りかと」 氷柱・六花(氷結王女・b45346)が手元の地図と周囲を交互に見回して、足を止める。 「では影太刀さん、宜しくお願いします」 「よしなに」 地縛霊対策として、偽装カップルをでっち上げる事にした能力者達。アリアン・シンクレア(妖精姫・b58068)は軽く礼をしつつシュリケン丸に歩み寄る。 「あまり近づきすぎると、玖堂さんの恋人さんに恨まれてしまうかしら?」 「問題無い」 玖堂・統夜(黒の確約者・b05760)に背中を預けつつ、くすくすと笑う六花。 「マッキ様!」 「おう! こいよ地縛霊! 嫉妬じゃ僕らをどうすることもできないって証明してやるよ!」 拳を握りしめたマッキは、優希那を守るように立ちつつ地縛霊へと言い放つ。 「ウチらも恋人の振りか? えっと……えっと……どないしたらええの?」 「確かに恋人の振りってどうやるんだろうな? お互いの後学にために、こっそり他の組を見てみようか」 一方、縁と雅之のコンビは、初々しすぎてカップルのフリをどうやるのかで一苦労。しかし、こそこそささやき合っている様子は、十分それっぽいので問題無いだろう。 「……」 ちなみにめぐるは回復役として地縛霊のヘイトを受けないようにする為、独りぼっち役に徹する。 ――オォォォォオオオオオオ……。 「?!」 風の唸りかと思われた低い唸りが、次第に大きくなってゆく。 やがてそれは明確に人の声となり―― 「アヴェェェェェック!!! 臭う臭うぞ! ゲロ以下の臭いがプンプンするぜぇーっ!」 木のてっぺんで腕組みし、仁王立ちする黒ずくめの男。 「出やがったな……!」 「雪山とはいえ、自然豊かな山の中。自然を友とするヤドリギ使いであるわたくしに、この場で挑む事の愚かさを教えて差し上げましょう」 身構える一同。 ――ボゴォッ! 周囲の雪の中から、次々に黒服の男達が姿を現す。 嫉妬に燃える地縛霊達との戦いは、かくて始まったのである。
● 「マッキ様、援護しますですよ!」 「さんきゅっ! ゆきな!」 優希那は祖霊を召喚し、マッキの力を高める。 「ファァァァック! 俺の目の前でイチャつく事はッ……断じて許さんッ!!」 早速これに反応し、襲い懸かる地縛霊。 「教えてやるぜ……嫉妬の力で、愛が砕けることはない! 絶対に、だ!」 ――バッ! マッキは踊るようなフットワークで間合いを詰めると、地縛霊へ凄まじい勢いの連続攻撃を見舞う。 「ムゥゥゥ! ちょこざいな!」 しかし地縛霊もさるもの、さほど怯む様子は見せない。 「拙者が纏いしこの忍装束も、かつてはこの雪の様に純白でござった。この手で葬った無数の悪党どもの返り血で、いつしか紅に染まったのよ〜っ」 「さすが影太刀さん、素敵ですわ」 影太刀の嘘八百に対し、笑顔で乗ってみせるアリアン。 「なぁにそれほどでは……しかし金髪美女の横で眺める雪景色もまた格別でござるなァ」 さりげなくアリアンの肩に手を回す。これぞ忍法役得の術……是非習得したい術だ。 「この不埒なバカップルめ! ……貴様らの血で雪を赤く染めてやるわぁぁぁッ!」 これには当然激昂する地縛霊。 「フッ……男の嫉妬は醜うござるぞ」 嫉妬の炎によって燃え上がり、猛スピードで突進してくる男。 ――ドゴォッ! 「ぐっ……ごほぉっ!」 「その猛スピードが命取りよ」 闘気纏わせた拳をクロスカウンターで見舞うシュリケン丸。 「凍気よ、永久にその姿を留める悠久の眠りへと誘え!」 まさに間髪入れぬ連携。アリアンはぐらつく地縛霊の顔を指先でなぞる。 「ギャァアァァァ!!」 魔氷は見る見るうちに、嫉妬男の身体を覆い尽くす。 「貴様らもまつろわぬアベックの類か!」 「そうだと言ったら?」 問いかけてくる地縛霊に対し、六花を守るように立ちふさがる統夜。 「知れたこと……滅する!」 雪煙を上げて飛びかかる地縛霊。 「この地で私に挑む事の無謀さを、その身に教えて差し上げますわ!」 「はぁぁぁっ!」 ――ザシュッ!! 六花の手から放たれた氷槍が、地縛霊の左腕を貫く。とほぼ同時、統夜の操る二振りの長剣が地縛霊を深々と斬り付ける。 「るーるーるー」 「こいつが元凶やな……木行の力、解放するでー」 緑の呼びかけに応え、雪を割って伸びる植物群が地脈の邪気を払いのける。 「覚悟しろ!」 雅之の赤手が紅蓮に燃え盛り、動きを止めたルールーを強かに打つ。 ● 仁義なき戦いを繰り広げる能力者とゴースト。戦いは能力者達が優勢ではあるものの、地縛霊達も往生際悪く抵抗を続けていた。 「るーるるるー!」 ――キィン! ルールーのスコップ攻撃を、解理尺で受け止める緑。 「斉藤先輩、トドメを」 「よっしゃ……ほな行くでー! 八卦! 浄銭剣!」 再び、紅蓮撃を見舞う雅之に合わせ、龍脈の乱れを正す浄銭で詠唱定規を覆い、切り払う緑。 ――ザシュッ! 「るーるるっ……」 ルールーは前のめりに倒れると、それきり動かなくなった。 「速攻で決めようぜ、ゆきな!」 「はい、マッキ様! 参ります!」 早く片付けて、優希那と遊びたいから――そんな言葉を飲み込んだマッキは、地縛霊の間合いへと飛び込む。 「イチャついてるんじゃねぇぇぇぇッ!!」 傷つきながらも、一層激しい嫉妬の炎を燃え上がらせる地縛霊。こちらも渾身の体当たりを繰り出す。 ――ドスッ! 「ぐはっ!?」 優希那の放った破魔矢が、地縛霊の額を射貫く。 「これが……愛の力だ!」 ――ドドドドドッ!! マッキは一瞬の幾度めかのヒロイックフィーバーを地縛霊へとたたき込む。 「ぐっ……馬鹿な……認めん……認めんぞぉぉぉーッ!!」 断末魔の絶叫を上げつつ、散滅してゆく地縛霊。 「影太刀様、大丈夫ですか?」 ヤドリギの祝福によって、手傷を癒やすアリアン。 「愛の……祝福だと……?」 ぴくりと眉根を動かす地縛霊。彼らにとって愛は禁句と言って良い。 「ほざけぇぇぇぇっ!!」 ――バッ! 跳躍した地縛霊は、アリアン目掛け襲い懸かる。 ――ガキィンッ!! 「春とは申せ、此処は流石に冷える。手早く済まそうではござらんか」 地縛霊の攻撃を獣爪によって阻止したシュリケン丸は、そのまま拳に闘気を凝縮させる。 「NINJAAAAHHHHッッ!!」 「王族に刃を向けた罪、その命で償っていただきますわ! ――ドゴォッ!! 二人の攻撃は的確に地縛霊の急所を捉え、禍々しい思念をこの世の縛りから解き放つ。 「人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られるというが、生憎と馬の方は持ち合わせていない」 残る嫉妬地縛霊は1体。統夜は長剣を手に、ゆっくりと歩み寄る。 「その代わりと言っては何だが……馬よりも凶暴な剣閃にて引導を渡そう」 「黙れィ! 貴様らの様な美男美女の組み合わせ程気に入らぬものは無い! 我が全存在を賭けて滅してくれるわぁッ!!」 粉雪を巻き上げ、猛然と突進する地縛霊。 ――タッ! 統夜は、六花を抱き上げると高く跳躍してこの攻撃を回避。 「何ィッ! 飛んだだと!?」 そのまま空中で離れた二人は、それぞれに地縛霊目掛けて反撃に転じる。 「我が身をまとう冷気よ氷結せよ。マレビトを冷たくもてなせ!」 「オォォォ……!!」 ――バキィィンッ!! 六花の指先が地縛霊を凍て付かせ、統夜のインパクトがこれを粉々に砕く。 禍々しき漆黒の地縛霊達は、再び葬られたのだった。
● 「二度とあんなんが出てこん様に……」 静かになったスキー場の片隅が、再び戦場にならない様に祈り清める緑。 「背中を押してやりたくなる組もござるが、余計な御世話かの。フッ」 シュリケン丸はそう呟くと、一陣の風と共に姿を消す。 「お疲れさまだ、やったな」 「ええ、でもまだこれからでしょ雅之? せっかくスキー場に来たんだもん、たっぷり遊んでいきましょ!」 「お、おい……」 めぐるは雅之の手を掴むと、引っ張るようにしてリフト乗り場へと走り出す。 「アリアンも行くでしょ?」 「えぇ、わたくしも中級者コースで滑ろうかな……白銀の世界というのは気持ちいいものですね♪」 安寧たるスキー場の光景を眼に焼き付けつつ、アリアンもリフトへと向かう。
「うまいうまい、その調子!」 「二人乗りのソリ初めてなのですよぅ。わ〜い、楽しいのです〜!」 マッキと優希那はソリの上で呼吸を合わせ、シュプールを描いてゆく。 「マッキ様、楽しいですね……あっ」 「!」 優希那が笑顔で振り返ると、すぐ目の前にマッキの顔。 思わず見詰め合って言葉を失う二人。 「――って、前前!」「きゃああぁぁ!」 前方にはリフトの支柱。 ――どかーん! 「……いてて……」「いたた……」 二人は転覆したソリの横で、体を起こす。 「「……あはははっ!」」 二人は互いに雪を被った顔を見合わせ、笑い合う。
「雪女の意地に掛けて、スキー勝負は負けませんわよ。でも良い勝負でしたわ」 ゴーグルを外し、にこりと微笑む六花。 「さすがは北国育ちの雪女だ」 少し遅れて麓に下りて来た統夜は、自販機にコインを入れ、暖かい飲み物を手渡しつつ言う。 共にスキー上級者の二人は、インストラクター顔負けの直滑降勝負で熱い火花を散らしてきた様だ。
かくして、無事嫉妬ゴーストの退治を終えた能力者たちは、平穏を取り戻したスキー場でのひと時を楽しむのであった。 しかしそれは――新たなる戦いの前の、ひとときの休息に過ぎないのかも知れない……この世の中は、幸せそうなカップルへの嫉妬に渦巻いているのだから……ほら、あなたの後ろにも……。
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参加者:8人
作成日:2012/03/29
得票数:楽しい13
笑える1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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