<リプレイ>
● 都内某所。無数に存在するメイドカフェに、新たな一店舗が加わって数週間。 初めて行われる「ツンデレイベント」によって起きる悲劇を察知した能力者は、これを防ぐ為に動き出していた。 「確かもうメイドカフェが出現してから10年くらい経つのよね。マンネリ打破の為に妹系とかのよく分からない方向に走るのも致し方ないコトと言えよう」 天見・日花(ソルカノン・b00210)は、あちらこちらの「メイド喫茶」と書かれた看板を見上げつつ、冷静な分析。 今回地縛霊の出現する物件に開店したメイド喫茶も、様々なキャラを網羅しバラエティに富んだ店らしい。それに加えて、ツンデレイベントや猫イベントなどを開催するのは、最近では当たり前となっている様子。 「そろそろロボ系とか出てきても良い頃じゃないかしら」 監獄系喫茶、軍隊系喫茶なんて物も期間限定でやっているという話を聞くが……確かにロボ系もありそうだ。 「ツンデレメイドなんてよくもまあ考えつくものよね……。ほんと呆れるわ」 肩を竦めて言う浅倉・きよい(フライパン片手に歩く火薬庫・b60821)。もうその仕草からしてツンデレっぽさを漂わせている。 メイドの衣装でイベントに混じれば、さぞ堂に入ったツンデレメイドっぷりを発揮できるだろう。 「え? わ、私はツンデレじゃないわよ! ツンデレって言うな!」 と、本人は言っているが。 「何と申しますか……最近の流行と云う物は分かりかねますね……」 どちらかと言うと流行には疎いらしい中寮・琴乃(風花の舞う静謐の乙女・b47782)。コスプレ姿でチラシを配る女性達を見ては、やや怪訝そうな表情で呟く。 「えぇ。まぁ、そういうのが最近の流行と言うのは聞きますが、大変な地縛霊が登場しましたねぇ」 その隣で受け取ったチラシを眺めながら、日向・夏果(のんびりまったりいきましょう・b55022)。 「メイド喫茶に地縛霊ねぇ。その上ツンデレに反応するってどれだけ偏った存在なのよ。そういうアレで迷惑な存在は一般人を襲う前に全力でぶっ飛ばすわよ!」 固めた拳で手のひらをパシンと打ちつつ、戦意を高揚させる木島・御凛(ハイメガキャノン・b78807)。 燃える正義漢である彼女の前では、己の趣味を押しつけ人を殺める変態地縛霊など、許しがたい存在なのだろう。 「ふむぅ……らしくないメイド……ですか……。判断基準が……地縛霊さん次第……ですから……難しい……ですよね……」 今回の敵は、自分の考えるメイド像から外れたメイドに対し、襲いかかって来るのだと言う。八坂・茴香(穿ツ終ノ雷咆・b16991)は小首を傾げながら、どの様な方向性で行こうか思案している様子。 「主が見ていない所、主が気づかない所で主の為になる事を行う。メイドの本来の役目とはそういうものだ」 ノリスカッパード・ガイザーベイスン(戦場のメイドさん・b77172)はクレメンス家に仕える本物のメイド。 プロである彼女からすれば、その辺の喫茶店にいるメイドさんはいずれも偽者――本物らしからぬメイドとなるのだろう。 「全くまぁ、廃墟に出てくる奴等ならまだしも、営業中の店に出るって経営者はたまったもんじゃないよね。にしても……またメイド? あぁ嫌な記憶がががが」 エルム・レガート(夜明けの紫・b39299)は頭を抱えて、ブラックヒストリーを振り払おうとする。 彼は以前にも、メイド関連の依頼においてエプロンドレス姿になった過去を持つらしい。 あまり違和感はなさそうだが。 「あ、あそこみたいですね」 と、茴香が指差す先には「メイド喫茶いちごみるふぃーゆっ」の文字。 8人は、現場であるメイド喫茶の前へとたどり着いたのだった。
● 「メイド服なんか着ないよ! 着ないよ! 絶対に着ないからね!」 「良くお似合いですよ」 「……」 現代で言うメイド、すなわち家政婦はエプロンを付ける程度の格好なのだから、それで良いだろうというエルムだが、エプロンが無いとか任務上の都合とか色々な理由から、ともかく着るしかない流れになってしまったらしい。 大丈夫、伝統的なエプロンドレスであって、決してフリフリの萌え萌えきゅんな感じではないから。 さて、一方の琴乃は矢絣模様の袴風デザインにエプロンが施された、和風メイドスタイル。こちらもばっちり似合っている。 「もう着ることないと思ってたんだけどなぁ……」 御凛はかつて罰ゲームで猫耳メイドスタイルになった時のメイド服を着用。今回は耳と尻尾は付けず、スパッツ着用だが少し気恥ずかしそうだ。 「それにしても……メイドと言っても、いろいろなタイプがあるのですねぇ」 夏果は店内の壁に貼られた、メイド達の紹介プロフィールを見て思わず感心したように呟く。 かく言う彼女自身は、眼鏡をかけたおっとり天然メイドと言ったところだろうか。トラディッショナルなエプロンドレスだが、露出の少なさがかえって色気を漂わせている様な気もしなくも無い。 「ところで皆こういう物どっから調達してんだろう。特に予報士の皆さん」 日花は自前のエプロンドレスを着用。ひまわりをイメージしたような、かなりアレンジの効いたメイド服だ。 ちなみに予報士は依頼解決の為なら、恐らく準備費用に糸目はつけないのだろう。銀誓館の潤沢な資金源のなせる技でもありそうだ。 「わたしは……どう……とられるの……でしょうか……?」 こちらは色々な意味で、枠の中に収まり切れていない茴香のメイド服姿。 もしこの格好でメイド喫茶に出ていたら、風営法違反で取り調べを受けることになってしまうかも知れない。そういうレベル。 「メイドが見せ物ではないという事を教えてやる」 ノリスカッパードは早々とチェーンソー剣を手に、やる気満々。さすが戦うメイドさんと言った所だが、こちらも違う意味でデンジャラスだ。 「ほら、持ってきてあげたわよ。好きに食べればいいじゃない」 さて、店の奥からトレイを手にやってきたのはピンクのメイド服に身を包んだきよい。 「あんたのために持ってきたわけじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!!」 と、このまま店で働いていても全く違和感がない。 「そんなんじゃねぇよ……メイドってのは……ご主人様は絶対っつーかよぉーっ……」 そんな八人のメイドに反応したのか、店の片隅に浮かぶ青白い人影。 一つ二つと増えてゆき、ついには五体が出現。 「出たな……!」 身構える一同。 「まずお前……」 地縛霊のうち一体が、エルムを指さす。 「……は、良いだろう」 (「良いのか……でもボクはメイドじゃないからね!」) 正統派メイドを演じる予定だったエルムは、地縛霊的にも正統派扱いのようで、複雑な心境になりながら雪だるまアーマーで防御力を高める。 「そしてお前……」 更には、琴乃へ地縛霊達の視線が向く。 「も、いいだろう」 意外と審査の甘い地縛霊達。 真ケルベロスオメガの宿儺と顔を見合わせる琴乃。 「だが貴様、許せんッ! ご主人様に対し何つー態度だ!」 「うるさい! あんたらさっさと消えなさい!!」 記念すべきメイドらしからぬメイド認定第一号は、やっぱりツンデレメイドのきよい。 ――どごぉっ! だが、そんなの知った事かとばかりにフェニックスブロウ一閃。ご主人様……もとい地縛霊の顔面へとたたき込む。 「ごぶっ……こ、これはメイドに対する侮辱だ! 偽りのメイドに制裁を!」 「「制裁! 制裁!」」 シュプレヒコールを上げる地縛霊達。 「うむ……お前は合格だ」 「……」 呆れながら、プロトフォーミュラで攻撃力を高める御凛。 彼女も見た目に関しては問題なく、合格を貰えたようだ。 「へいらっしぇー。おう、注文選べよ。おう、早くしろよ」 「!?」 もうメイドとか何とか言う物を根底から覆す勢いで接客する日花。地縛霊達も一瞬動きが止まる。 「……問答無用で失格だー!」 襲いかかって来る地縛霊の攻撃を受け止めつつ、イーティングブロウによって痛烈な反撃を繰り出す。 「理想のメイドを求めてメイドカフェに来るってのがそもそも間違いなんですよご主人様」 ――ガシュッ! 「ぐはぁぁっ! なんて事を言い放ちやがるんだこの小娘……」 メイド喫茶の存在を根底から否定するような恐るべき発言に、店内が震撼する。 「ええい他のメイドで口直しだ……はっ?!」 「皆様に勇気と活力を……」 地縛霊達の視線の先に居たのは、ヒーリングヴォイスで仲間の傷を癒やす癒やし系メイド夏果。 「……良い」 どうやら、地縛霊達のツボは彼女の様な癒やし系メイドらしい。 「この調子で行くぞ!」 地縛霊達が次に目を付けたのは、茴香。 「なっ――!?」 巫女装束をアレンジしたメイド衣装は、巫女にしてもメイドにしても露出度高すぎるでしょうがと言われてしまうレベルの色々ギリギリな物。地縛霊達も思わず硬直。 「そんなけしからんメイドが居てたまるかー!!」 これには地縛霊もブチギレ。一気に襲い懸かる。 「やっ……お、お仕置きは……堪忍……して……くださいぃ……」 タイマンチェーンで地縛霊と自分を繋ぎながら、くねくねと身をよじらせる。おお……もう……。 「万全の準備を施すのがメイドの務め」 この間にも、幻影兵団を展開するノリスカッパード。 「ほう……実にメイドらしい」 その完璧とも言える所作には、地縛霊からもお墨付きが出る。 ひとまずの第一印象でメイドらしさの合否が分かれたが、それに並行して戦いは進行してゆく。
● 「御客様? 戯れも大概に致しませんと……さくりと命(タマ)ァ取らせて頂きますよ?」 琴乃が引き続き氷雪地獄を巻き起こすのと同時に、宿儺の刃が地縛霊の喉元を掻き切る。 「ぐはっ……そんな極道みたいなメイド……認めん……認めんぞぉーっ……」 ドサリと倒れ込んだ地縛霊は、そのまま床に染みこむように消えてゆく。 「おのれ……メイドの名を借る偽物どもめ! 例え天が許そうと我々が許さぬ!」 地縛霊も偽メイド達に怒りを爆発させつつ、猛然と襲い来る。 「御主人様、おいたはいけませんですよ」 ――トンッ。 「ぐうぁあっ!?」 エルムの指先が、地縛霊の眉間に触れたと同時――絶対零度の魔氷がその身体を包む。 嫌々エプロンドレスに袖を通した甲斐あって(今はイグニッションしてるので、もう着てないと思われる)地縛霊のマークを受けることなく攻撃に専念し続けてきたエルム。 「め、メイド……ばんざーい!!」 魔氷の浸食によってついに体力の尽きた地縛霊は、禍々しい思念を散らして消えてゆく。 「正統派扱い……全然嬉しくない……」 複雑な表情のエルム。 「ぐっ……! やるじゃない……でもね、なにがメイドらしくないメイドよ! 勝手なメイド像を作るんじゃないわよ!!」 ――バキィッ! 「ぐぼぁっ……ツンデレメイドなど……」 「ツンデレじゃないわよ!!」 ――ドゴォッ! ツンデレ呼ばわりする地縛霊を容赦なく叩きのめすきよい。 「頑張ってくださいね、皆様」 「あ、ありがと……」 回復を一手に引き受ける夏果がすかさず能力者達の傷を癒やせば、デレを見せるのも忘れない。本人に自覚はないのだろうけれど、実にあざとい。(良い意味で) 狙われない夏果やエルムが効果的に動いたこともあり、戦いは終始能力者達のペース。 「やらせはせん……お前達の様なバッタもんメイドに……我々のメイド道をやらせはせんよ!」 「ついでに言うとご主人とメイドは雇用関係にあるから奉仕にはなり得ないんですよ」 「……!?」 日花のフレイムソード、オージェが地縛霊の頭を喰らう。 メイドの現実を思い知らされた地縛霊にこれを回避する術はなく、そのまま絶命。 「あいにく既に閉店時間ですのでさっさとお帰りくださいませご主人様。というかもう夜分遅いのでおやすみくださいませご主人様。永久に。というか眠れないというならお手伝いしますよ、力尽くで問答無用で眠っていただきますご主人様。ものすごく痛いかもしれませんけど大人しく受け入れてくださいませ」 「ぐうっ……なんだその態度は! 貴様それでも我がメイドか!」 「あぁもう、あんたのメイドになった覚えもなければ私はもともとメイドでもないし! いいからあんたは黙って吹っ飛ばされなさい! というか問答無用で吹っ飛ばす!」 ――ドゴォッ! 「ぶべらっ! ……初めから偽りだったと言うのか……騙したな……僕の心を……」 メイドのフリが面倒になったらしい御凛。鋭利なクレセントファングを地縛霊の顔面へと見舞う。 「きゃうぅぅぅん……ご主人様ぁ……」 「け、けしからん! こんなメイドはお仕置きが必要だな! こうか? こうかぁ?」 「んはぁぁ……そ、そこはぁ……あ、あひゃ……んっ!?」 ――ドカッ! さて、その間にも茴香はタイマンチェーンで繋がれた地縛霊と盛り上がっている。地縛霊の攻撃を受けてよろめいた茴香だったが、バランスを崩したついでに繰り出されたフェニックスブロウは、地縛霊の人中(鼻のすぐ下)を強打。 「ひでぶっ!! こ、こんな……メイド……許……す」 だが、なぜか少し幸せそう(多分見間違いだろう)に消えてゆく地縛霊。 「き、貴様……主人に対してなんて態度だ!」 またこちらでは、ノリスカッパードがチェーンソー剣で地縛霊の攻撃を受け止める。 「五月蠅いぞ、静かにして貰おう」 ――ガシュッ! 「ごぶふぁっ!!」 幻影兵団によってあたかもメイド部隊を率いるかのように、跳んだノリスカッパード。聖別されたメダリオンが、地縛霊の顔面を打ち抜く。 「我が主家は一つ。貴様などが主人であろうはずもない」 「俺は……主たる資格を持たぬ……というのか……ぐふっ」 血を吐き倒れる地縛霊。 青白い燐光を放ちつつその姿が消えると、店内は元の静けさを取り戻した。
● 「さすがですねぇ……」 戦闘によってやや散らかった店内だったが、ノリスカッパードの後片付けが終わると、以前より綺麗になっている程。 思わず驚嘆する一同の視線を後に、次なる戦場へと向かうかの様に颯爽と立ち去ってゆく。 「私たちも帰ろうか」 「はい、これで惨禍が広がる事もないでしょう」 一応地縛霊達の冥福を祈った日花の言葉に、夏果が応える。 「ああいう輩の相手は本当に疲れるわよね…。当分見たくもないわ……」 「全くだわ。ふんっ……。別に気にしてなんかいないんだからね……!」 やれやれと言った感じの御凛。きよいは、それでも散っていった地縛霊達に手向けのデレ分を供給。 これで無事、明日のツンデレデーは開催出来そうだ。
無事任務を終えたメイド……もとい、能力者達は秋葉原を後に、帰途へとつくのだった。
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参加者:8人
作成日:2012/04/07
得票数:楽しい12
笑える1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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