封神台の中へ


<オープニング>


「銀誓館学園のみなさまには、大変なご迷惑をおかけしてしまいました。申し訳ありませんでした」
 そう言って頭を下げたのは若い女性だった。緊張しているのか表情が硬い。
「あの、どこかで……?」
 校門前で偶然呼び止められた能力者たちは、グレーがかった長い髪をひとつに束ねたその姿に見覚えがあった。だが、どこで会ったかが思い出せない。
 困惑する一同に、彼女は「失礼しました」と品のある所作で口元を軽く覆い、続ける。
「わたくしの名前は、鈴木よど子。関が原でみなさまと相まみえました、メガリス・アクティブ――ミスター鈴木ジュニアの妻でございます。どうしても一言謝りたくて、恥を忍んでやって参りました」

『よど子、現る!』
 このニュースは瞬く間に学園中に伝わり、その日の放課後、時間のある能力者たちは教室に集まることとなった。
 よど子は、長谷川・千春(運命予報士・bn0018)に付き添われて、一同の前に立っている。
「逃げられたんだっけ?」「鎧着てないからわかんなかった」「17歳? そんなに若かったんだ……」
 オロチ大乱から諏訪湖決戦までの怒涛の日々。まだその余韻も消えていない今、一連の事件の発端とも言える『関が原の戦い』で敵対していたよど子を前にして、集まった能力者たちは動揺を隠せずにいた。
「さ、よど子さん。言いたいことがあるんだよね、どうぞ」
 千春に促されて、よど子は小さく頷いて前を向く。
「謝って許していただけるとは思っておりませんが、どうか謝らせてくださいませ。みなさま、本当に申し訳ありませんでした」
 再び一同に向かって深々と頭を下げるよど子に向かって、「まあ、いいってことよ」「旦那がああなっちゃあなあ」と声が上がる。よど子を受け入れることにわだかまりがある能力者もいたが、単身で正式に降伏と謝罪をしに現れた彼女に、それ以上厳しい視線を向けることはなかった。
「みなさま、ありがとうございます。わたくしにできることがありましたら、何なりとおっしゃってくださいませ」
 よど子の顔にようやく笑みが浮かぶ。
「ひとつ聞いていいか?」
 ひょいと手をあげたのは、背の高い青年だった。
「あんた、メガリス『封神台』について何か知ってるか? 使い方とか知ってたら教えて欲しいんだ。俺たちは封神台に神将を登録する方法を探してる。友だちを助けたいんだよ」
 助けたいのは、秦・美鈴と李・蘭黒のふたり。彼女たちは、『敦賀市攻略戦』中に破壊された封神台の神将で、現在は石化した状態で銀誓館学園に保護されている。
 封神台の破壊は神将の消滅を意味するため、神将として新しい封神台に登録しない限り、ふたりの石化を解くことはできない。解いた瞬間消えてしまうからだ。
 復活した封神台を確保した以上、早くふたりを動けるようにしてあげたい。これは銀誓館学園の多くが望んでいることだった。
 事情を聴いたよど子は、少し困惑した様子で一同に告げる。
「封神台の使用法でしたらわかります。夫は封神台のことはすっかり忘れてしまっているようですが、わたくしは夫から聞いた分だけは覚えておりますので。どうやって封神台に神将を登録するかも存じておりますが……」
「本当!? やったー!」
 よど子の言葉を最後まで待てず、一同は喜びの声を上げた。抱き合って涙を流している者もいる。
「よど子ちゃん、ありがとう!」
 手を取って感謝の意を伝えようと近づく者もいた。しかしよど子は、「ちょっと待ってくださいませ!」と大きな声を上げて押しとどめた。
 その思わぬ気魄に、教室はしんと静かになる。
「……その、存じてはおりますが、かなり難しい方法なのです」
 言いにくそうに、よど子がポツリポツリと教えてくれる。
 どうやら、封神台に新たな神将を登録するには、神将になろうとする者が封神台内部の異空間に入り、過去の神将の幻影と戦わねばならないらしい。
「幻影に勝利した後、『神将席』と呼ばれる台座に神将となる者が触れれば、登録が完了して新たな神将となれます。ですが、みなさまが神将にしたいと思っておられる方々は、元神将とはいえ今は身動きの取れない状態なのですよね?」
「ひょっとして、本人が戦わないとダメなの?」
「いいえ。本来はその方がいいのでしょうが、別にその者自身が戦わなくてもかまいません」
「だったら、何の問題もないじゃん! ボクたちが石化した二人を守って封神台に入って、相手をぶちのめして、登録してやればいいんだろ? 神将は手ごわいけど、みんなでやればなんとかなるって」
 まかせてと胸を叩く能力者に、よど子は悄然と首を振る。
「封神台の内部は死の世界となっていて、みるみるうちに『生命』が失われてしまいます。普通に封神台内部に入れば、たちどころに『生命』は尽き果て、みなさまは生者としては元の世界には戻れません」
「え?」
 よど子が危惧していることがわかり、能力者たちは黙り込んだ。つまり、命を捨てなければ、美鈴と蘭黒を封神台の中へ、神将席へ連れて行けないのだ。
「そんな……」
 方法が見つかったと思った途端の絶望。静寂がただ痛かった。

 とはいえ、ここであきらめるわけにはいかない。やっとふたりを復活させられる手がかりを見つけたのだから。
「体力のある者たちで精鋭部隊を作ったらいいんじゃない?」
「いや、生命賛歌を使って突入をすれば」
「癒しをかけ続けるのも考えよう」
「……自分が生命に代えても連れて行く」
「そんなの、ふたりが喜ぶわけないじゃない」
 さまざまな意見が飛び交う。
 ああでもないこうでもないと議論するうち、気がつけばすっかり日が落ちていた。
 夜風にあおられ、窓辺に咲いていたジャスミンがはらはらと白い花びらを散らす。それを見たよど子がふと小さく呟いた。
「そういえば、実は、わたくしは、とある呪われし剣術の裏流派を継いでいるのですが。この流派に伝わる旧い言い伝えで、『明王活殺の表と裏が合わさるとき、生命の鎧が顕れる』というものがありました。それを使えばあるいは……」
「!」
 一同は目を剥いて、よど子を見た。
「しょせんおとぎ話ですわよね。忘れてくださいませ」
 視線に驚いたよど子が力なく微笑む。
「いや、そうじゃないんだ」
 おとぎ話などではない。つい先日、実際にその鎧を見た。ていうか、着た者も知ってる!
「その方法で何とかなるかもしれません」
 ――ガラガラガラ!!
 凛とした女の子の声が聞こえたかと思うと、突然、教室のドアが開いた。
 教室に入ってきたのは、人型の来訪者ファンガス園枝・さつきと、メガリス『紺碧の貴石』の所有者である相馬・亮介(青龍拳士・b43357)だった。
 どうやらさつきが亮介をここに連れてきたらしい。
「さつきちゃん、久しぶり。いきなりどうしたの?」
「今年はツアーがなかったけどファンガスたちは無事か?」
 本日二度目の意外な来客に驚きながら、一同はさつきと亮介に話しかけた。
「心配してくださってありがとうございます。この間も、オロチのことで大変な戦いの最中に様子を見に来てくださって、本当にありがとうございました」
 淡い色彩の髪を揺らして、さつきは礼を言った。
「カムイワッカのファンガスは、極端に増えることなく過ごせています。みなさんが去年、思いを届けてくださったから、『増えなきゃ死んじゃう』って本能が弱まったみたいです」
「つまり、もう春にツアーがなくても大丈夫になったってこと?」
「はい。必要があれば増えちゃうでしょうけど、今のところは。でも遊びに来ていただくのは大歓迎です! 樹のオロチに利用されていたファンガスたちは、亮介お兄さんのおかげで自由になれたから、カムイワッカに帰って来れましたし、困ったことは何もありません」
「そっか」「よかったね」と、能力者たちは次々にさつきの頭をなでた。
 気持ちよさそうに目を細めていたさつきだったが、はっと表情を引き締める。
「……って、今はそのことじゃなくて、別のことをご報告しにきたんでした。亮介お兄さん、お願いします」
「うん。ちょっとこれを見て欲しいんだ、みんな」
 真剣な表情で、亮介は懐からイグニッションカードを取り出した。メガリス『紺碧の貴石』を秘めた亮介のそれは、今までにはなかった碧く強い輝きを放っていた。
 亮介がプールに近づいたとき、不意に輝き始めたのだという。不思議に思った亮介がイグニッションカードをあちこちにかざした結果、プールの地下、厳密には封神台の前に立った時、もっとも輝きが強くなったのだという。
「封神台と紺碧の貴石が共鳴しています……!! 死に満ちたものと生命をもたらすもの、相反する存在が互いに影響を及ぼし合っているんです。今なら亮介お兄さんの紺碧の貴石と、流派明王活殺の真なる奥義『生命の鎧』を利用すれば、封神台の中でもみんなの生命を失わずにすみます」
 きっぱりと断言するさつきに、思わず尋ねてしまう。
「それ本当なの、さつきちゃん?」
「誰が流派明王活殺を人間に伝授したと思います? ほかでもないファンガスですよ。生命の鎧は、亮介お兄さんが望めば、ほかの人にも分け与えることができます。共鳴も、そう長くは続かないでしょう。このチャンスを逃す手はないですよ!」
 興奮して目を輝かせるさつきを見て、誰もが大丈夫だと確信した。
「うわ! 見えたよ。みんなが白い鎧を身にまとって、岩場や風巻く荒野で戦う姿が」
 千春の運命予報も、さつきの言葉を後押しする。
「封神台の中は特殊な空間みたいだね。思ったより広いよ。ところどころに敦賀市攻略戦でやっつけた怪物みたいな神将がいた。神将席っぽいのは一番奥っぽいけど、行けるよ、みんな!」
「ありがとう、ちっぱー。みんな、これでもう迷うことはないな」
 闘志を秘めた目で、一同はうなずき合う。
「俺たちの手で美鈴と蘭黒の二人を封神台に登録して、早く動けるようにしてやろうじゃねえか!」
「おおーー!!」
 突き上げた拳は、彼らの決意を表すように固く固く握られていた。

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<リプレイ>

●封神台、開く
 その日、銀誓館学園のプールの地下に多数の学生たちが集結した。
 彼らの前にあるのは、メガリス『封神台』。今からその中にある死に満ちた異世界へ赴くというのに、どの顔にも恐怖の色はない。
 ――かつて友情を育んだ二人、秦・美鈴と李・蘭黒を助ける。
 ――二人を助けたいと願う、友人の手助けをする。
「したい」ではなく、「する」のだという強い意志。もちろん、封神台への興味や強い相手と戦うことが第一目的の者もいる。だが、どの理由を取ってもあるのはただ熱い思いだけだ。
 封神台の中に入る者以外でここにいるのは、封神台の使い方を学園にもたらした鈴木・よど子と、封神台の生者が存在できる方法を伝えた園枝・さつきだけ。
 よど子は封神台の中に入る手順を執り行うため、さつきは『生命の鎧』を生み出す手伝いとよど子のフォローをするためにいる。
 そしてもうひとつ、何より重大な任務がある。
「では、みなさんにお二人をお預けします」
 そう言ってよど子とさつきが慎重に取り出したのは、厳重に保管されていた石化状態にある美鈴と蘭黒――石像だ。
「美鈴!」「蘭黒!」
 二人の名を呼ぶ声があちこちから上がる。
 石像は事前に話し合いで決めていたとおり、それぞれの護衛と運搬を担当する者たちに預けられた。
「さて、約束を果たしに行こうか」
 言いながら、四道・浅葱(魔道の申し子・b55060)は美鈴の石像を受け取った。浅葱は神将だったころの美鈴をよく知っている。このまま石像のままにしておくのはあまりに忍びなかった。だから必ず助けると思っていた。
 詠唱銀製の着物を広げて待っていたジングル・ヤドリギ(吟星クリスマスロイド・b06651)は、浅葱から石像を受け取り丁寧に包んでいく。
「ずっと、美鈴とまた会える日を待ってた。絶対、二人を助けるよ……!」
 そう言いながら、神楽・ねむ(夏咲き雪花・b45522)も用意していた詠唱銀製の布やロープを使って包むのを手伝う。
「よければ俺が背負おう」
 ジャック・ボエルジ(ロックパンプキン・b51745)が名乗りをあげた。
「1年半前の約束、今こそ果たす時! 何としてでも美鈴を封神台に送り届けますっ!」と、久保田・龍彦(雪原の執行者・b40406)も交代要員に立候補する。
「荷物扱いで悪いがカンベンしてくれ」
 そのとなりで、苦笑しながら巴衛・円(青龍拳士・b18215)は、受け取った蘭黒の石像を詠唱銀製の布と紐で覆っていく。結び目を何度も確認した。予備の布とロープの準備も万全だ。
「敦賀の一戦で蘭黒と美鈴と交わした約束、今、果たそうぞ」
 ムハメド・ラグカーデ(砂塵の勇士・b63033)は、マントをかぶせた上で、そのロープをしっかりと握る。長い時を共に過ごしたとはいえ、ムハメドの知る蘭黒はうら若き娘なのだ。気安く肌に触れなかった。こちらは数人で石像を運ぶ段取りだ。
「やっと来たな、この時が」
 神崎・翔(闇を背負いし青き瞳・b04754)も、着ているロングコートをさらに被せた。
 蘭黒と会ってからもうすぐ2年だ。「お前の復活と動物園に行くという2つの約束、果たしに来たぞ」
 翔と同様に約束を果たそうと、臨んだものは多くいた。豹童・凛(近寄り難き者・b33185)もそのひとり。凛もこの日が来るのをずっと待っていたのだ。
「必ずや彼女との再会を果たすぞ」
 守ってみせると強い意志で、蘭黒と繋がるロープを強く握る。
「先の見通しが無い状態で、わたし達を信頼し石化を同意してくれた意志に応える時ね」
 杉本・沙紀(天弦に導かれし雷光・b46924)も、このチャンスを逃すつもりなどなかった。
 護衛運搬担当以外からも声が上がる。
「全部終わったら、伝えたいことがあるんだ」
 だから成功させる。この日をどれだけ待ち望んだか。万感の思いを込めて、終日・魁斗(天魁剣・b57167)は美鈴の石像に声をかけた。
「ウチは縁ないけどな……願いがあるならそれに応える。それがヒーローゆうもんやし、絶対もう一度会わせたるよ!」と、坂上・神薙(槍衾夜叉・b81165)は槍を手に言い切った。
「なるほど、これが銀誓館学園の強さなの元なのですね」
 以前、敵対したことがあるよど子は、宝物を見るような目で一同を見た。
 倒れても倒れても立ち上がる。あれはメガリスの力だけなのではない。誰かを思う心こそが、強さの原動力なのだ。その輪の中にいない自分を、よど子は少し寂しく思った。
「あ、よど子さんも学園に来ぃな。待ってるから」
「わ、わたくしですか?」
 それを見透かしたかのような神薙の言葉。
「そうですよ。蘭黒さん、美鈴さんもですけど、よど子さんも学園に編入されたらいいと思います」
 驚くよど子に、メルティ・デュール(破軍さんを応援し隊・b73164)も笑顔で勧めてくれた。
「……はい!」
 思い切って学園を訪ねてよかったと、よど子は心から思った。
「でも、まずはお二人をお助けしてからですわね」と封神台を見上げ、きゅっと表情を引き締める。よど子は封神台をあちこちを触り、起動させた。
「亮介さま、さつきさま、よろしくお願いいたしますわ」
「はい。じゃあ、亮介お兄さん。わたしが今からファンガスたちから分けてもらってきた『力』を放出しますから、流派明王活殺の真なる奥義『生命の鎧』を使ってください。今なら、亮介お兄さんが願いながら技を振るうだけで、みなさんに鎧が装着されるはずです」
 事前にさつきから説明を受けていた相馬・亮介(青龍拳士・b43357)は、「わかったよ」と頷き、静かに呼吸を整えた。
「行きますよ……!」
 ぶわわわわっ!! さつきからファンガスの『力』が大量の白い粉となって噴き出した。
「生命の鎧をみんなにも!」
 亮介は手にした鎖鎌を、心の命じるままに振るう。
 表の《明王活殺》にて動きを鎮められた白い粉は、次なる裏の《明王活殺》の一振りで消え行く前に留められた。舞の如き美しさで放たれた奥義は、見事、よど子とさつきを除いた全員に生命の鎧を纏わせていた。
「……っと、これが生命の鎧ですか。ありがとうございます、亮介さん」
 まじまじと鎧を見つめながら、レアーナ・ローズベルグ(優しさをくれた貴女に・b44015)は礼を言う。
「これで封神台の中へ入っても平気な訳なのね」
 桜庭・柚樹(寒緋桜の雪夜叉・b32955)は、腕を上げたり下げたりして具合を確かめた。
「重く……はないな」「何か、あったかい気がする」と、ほかでも感想を言い合う声がする。
 鎧をつんつんと突いた襟裳・岬(の這い寄る混沌・b10858)は、「ファンガスさんもふもふ」とその感触にクスリと微笑んだ。
「え? この鎧ってファンガスなのか? やっべー! 俺、超燃えてきたんだけど!」
 岬の声を聞きつけて、ファンガス大好きな城崎・モクレン(菌類・b62861)のテンションが上がる。
 稲垣・幻(ホワイトティーリーブス・b36617)は生命の鎧に触れながら、「ファタ、守って」と身体に宿したファンガスの名を呼んだ。
 ふうと息を吐いて、さつきは亮介とよど子を見る。
「亮介お兄さん、お疲れさまです。よど子さん、こちらの準備は済みました」
「わたくしも、あとは最後の手順を踏むだけです。さつきさまにお手伝いいただければ、封神台への入り口が開き、中へ入れますわ」
「いよいよ、封神台の使い方に迫るのか……大陸の妖狐が知ったら、なんて言うんだろうね」
 春崎・樹(ウィンディーソニック・b75584)は小さく呟いた。
「では」と始めようとするよど子とさつきを、セレエル・ベディナン(忘却されし深森の血族・b69497)が、「すみません。突入する前に聞いておきたいんですが」と制する。
「無事二人の石像を置けたとして、どうやって僕達は帰ってきたらいいでしょうか?」
「封神台の中に入ったら、みなさんは揃ってある場所へ出ます。その場所へ戻って来てくださいませ。神将席までの道を逆向きに辿ってくだされば、自動的に同じ場所へつくはずですわ。そこから封神台の外へ出られます」
 答えたよど子は、一同を見渡してほかに疑問がないか確認をする。手は挙がらない。
「それでは、道を開きますわね。みなさま、ご武運を。いってらっしゃいませ」
「みなさんの無事をファンガスのみんなと祈ってます。がんばってください!」
 よど子は封神台に入るための最後の手順を始めた。手伝いながらさつきも一同にエールを送る。
 ――しゅうううう。
 巨大な太刀で断たれたかのように縦一直線に、封神台の真ん中から禍々しい黒い光があふれ出した。光は周囲を侵食し、じわじわと左右に広がっていく。
 それを見ながら、御堂・巽(災厄ノ暴嵐麾シ禍キ蒼翠ノ女王・b01048)は不敵に笑う。
「お寝坊さん二人、きっちし起しに行きましょうか」
「行きましょう。友達の笑顔を、いつでも見られる『普通の光景』にする為に」
 応える鈴乃宮・影華(光に焦がれる影・b63908)の声が響いたとき、一同は封神台から放たれた光に包まれた。


●封神台、潜入!
 封神台の中へと続く道は、すべてを覆い隠す黒い光に満ちていた。
 生者を拒絶する凶暴な黒い闇だ。上下も左右も、近さ遠さ、暑さ寒さもわからない。感覚はすべて失われ、自己が希薄になる恐怖に襲われた。「魂が身体を離れる」というのはこういう感じなのかもしれない。
 そんな中、ファンガスから成る生命の鎧が「自分」の輪郭を感じさせてくれた。
(「ここだよ。大丈夫だよ」)
 心に直接伝わってくる思い。おかげでかろうじて自分を保っていられる。だが、この鎧が失われたとき、おそらく自分という存在は消えてなくなるのだろう。
 それまでに成すべきことを成して脱出しなければ。
 誰もがそう強く心に誓ったとき、パアっと一気に目の前が開けた。

 気がつけば、全員、緑の木々に囲まれた森の中に立っていた。
 ここがよど子が言っていた「ある場所」なのだろう。封神台の中から外へ出るためには、ここへ戻ってくればいい。
 目印を置いてざっと調べてみる。と、途端に妙な違和感を覚えた。見上げれば青い空が広がり、風も感じられる。だが、どこかよそよそしいのだ。作り物めいている。
「神将と同じで、これも幻影なのかもしれないな……」
 誰かがふと呟いた。
 森の端まで進み、前方を見てみたが白くかすんでよく見えない。霞がかかっているというのではなく、空間がゆがんでいて見えない感じなのだ。
 どういう作りなのかはわからないが、この森はかなり空の高いところにあるようで、一本の道が下に向かってえんえん延びていた。
「ここが妖狐の至宝、封神台の中か。訪れることなどあるまいと思っていただけに感動的じゃの」
 真妖狐である龍・月華(月華公主・b81443)が、ほほほと笑う。
「何か不思議な感じ。妖狐も通った道なのかな」と那智・れいあ(空翔ける銀獅子・b04219)は辺りを見回した。
「封神台の中に広がる世界……これは何かの記憶なんだろうか?」
 秋矢・基(真福座跡・b59852)も周囲を見て呟いた。神将になったら、呼び出されるまでこの世界で過ごしてるのだろうか。ふと基は「……ちょっと羨ましいかも」と思ったが、慌てて気を引きしめた。
 神将へと至る道、それは自ら死へと至る道。蘭黒と美鈴はそれをどんな気持ちで進んでいったのだろう。鬼瓦・有可(三毛猫魔弾・b70483)は二人を思って胸を痛めた。絶望と悲愴、そして自分のためでない希望。「……はは、ちょっと涙が出てきた」
「生きながら赴く死の世界……まるで黄泉下りやオルフェウスですね」
 足元に延びる道に、霧島・絶奈(さよならを教えて・b61363)は呟いた。この世界は別世界。ティンカーベルやマヨイガも在る意味ではそうだ。これら三つのメガリスとルルモードに繋がりが無ければいいのだけれど。
「死の世界か。マヨイガもそういえばメガリスって話だし、ここもまた別世界なんだね」
 真中・縫子(笑顔を君に・b75389)は、除霊建築学の観点から観察する。この先、異形達の本拠地に攻め入ることがあれば、この世界の様子が何かのヒントになるかもしれない。
「特殊空間っていいよね〜」と色々と見て回るのは、珠洲屋・那智(白月の欠片・b82922)。あまり大きな声では言えないけど、戦いよりも二人の復活よりも、那智は封神台の中が見たかった。「こんなに大きなものでなくていいから、僕も欲しいな。作れないかな?」
 まぶしいものをみるような目で、武内・恵太(真処刑人・b02430)は空を見上げた。
 美鈴や蘭黒ももちろん助けたい。けれど恵太が一番したかったことは、かつてシェルティラという銀の髪の神将が居た場所を見ることだった。彼女がどう戦ってどう過ごしたのか、自分が破壊したものは一体何だったのか。まだまだ彼女には及ばないけれど、彼女がかつてそうしたように力尽きるまで戦おうと、恵太は心に誓った。
 
 封神台の中に入る機会などそうそうない。だが今は時間が惜しかった。調査は余裕があるときに、と方針を決めるべく検討が始まる。
 すぐに結論はでた。
 本当にこの道を行けばいいのかわからないが、進まなければ何もはじまらない。
 わかっているのは、足の裏に感じる土の感触は確かなものだということ。ならば行くしかない。
 迷いを捨てればあとは早い。おおかまに決めていた方針どおりに、一同は石像の運搬と護衛を司る「本隊」と、各神将と遭遇した際に対応する「対応班」とに分かれた。それらを、どちらにも所属せずフリーで動く者たちが取り囲むようにして、隊全体が完成する。
「鏡雨転身」「旋剣の構え!」「雪だるまアーマー!」
 次々に自分のポテンシャルを高める技を使う声が上がる。今回の任務で美鈴と蘭黒を助けられるかどうかは、移動と対応力、すなわちスピードにかかっていることをほとんどの者が理解していた。
「兵は神速を尊ぶ……。時も限られてる以上、手早く進めようか」
 毛利・周(真火を得た日輪の将・b04242)の一言で、一同は一斉に行動を開始した。


●岩山に潜む恐怖
 長くくねった森の坂道を、一同は周囲に気を配りながら駆け下りた。
 しかし三つ目のカーブを過ぎたところで周囲の様相が変わったため、速度を落さざるを得なくなる。左手前方に、茶色い岩肌丸出しの山が現れたからだ。
 山水画のごとき急峻な岩場が連なっていて、木々はまったくといっていいほど見当たらない。山はさほど広くはないが、とにかく起伏に富んでいて一目見て危険とわかる地形だった。
 神将「四足獣」は、長谷川・千春の運命予報により岩山にいることがわかっている。
「四足獣の対応班、注意を怠るな!」
 全体に緊張が走った。四足獣の神将は、事前の相談で、必ず撃破する二体のうちの一体にしようと多くの者が同意している。そのため、多数の能力者が対応班としてこの岩山に残ることとなった。

「美鈴ちゃんと蘭黒ちゃんを連れて行く人は、急いで先に進んでね」
 テオドール・フォルクナー(白ム廃園・b16818)が呼びかける。テオドールは今回は裏方に徹すると決め、ここで足止めを行うと決めていた。
「時間との勝負! テキパキ動こう!」と、月島・眞子(トゥルームーン・b11471)も本隊と別の神将を担当する対応班の者たちに先に行くよう促す。
「ありがとう。任せた」
 四足獣の対応班に守られながら、本隊は岩山に細く延びる道をさらに進んでいった。あまり離れすぎると神将を倒せたかどうかの確認で時間をロスする恐れがあったため、速度を少しだけ落とす。四足獣に限ったことではないが、一度離脱した対応班が追いつけるよう、合流を容易にするための方策だ。
 石化している神将の二人を、友人である美鈴を自由にするため全力を尽くそうと誓った。いよいよこの時が来た、と風嶺・涼介(ヤドリギの謡い手・b46356)はこみ上げる思いを抑えることができなかった。
 そんな涼介の傍には、七瀬・鏡華(古流武術継承候補者・b49180)がいる。
 神将の二人を自由に、涼介達が一生懸命になって友情を築いた美鈴を助けるのだ。鏡華は、そのためならどんな努力も惜しむつもりはない。四足獣を見つけたら、涼介はレゾナンスナックルを、鏡華はフロストファングを、左右からぶつけてやるつもりでいた。
 きっと四足獣の動きは素早い。椿・逸刀(真魔剣士・b14179)は、距離が開いても大丈夫なようにと、でるだけ多くの者に届くように幻影兵団を飛ばした。「当たらなくとも、傷つけることがなくても、誰かの一撃を援護できれば重畳だな」
 特殊な空間といえども、気の流れを読めばおおよその出現場所はつかめるはず。山上・美和子(五行の調べ人・b73391)は、先手が打てるよう、後手にはまわらないようにと四足獣の捕捉に全力を傾けた。
「白虎は大きな道も司りますから、倒せばきっと私たちの道も開けるはず!」
 自分の言葉が真実であると信じて。
 そんな美和子の思いが聞こえたのか、「俺に出来るのは望む道を切り開く事だ」と戒・蒼魔(戒刀乱魔・b02671)が前衛に立とうと進み出る。
 連日でオロチが出たり、大戦したり、しゃれにならない四月に、この五月だ。
「こういう時だからこそ仲間が増えるのは嬉しい事だな」
 蒼魔は、そのために全力を尽くそうと拳を握り締めた。
「四足獣を見つけました!」
 鏡雨転身を使い走りまわっていた久瀬・遥(白のリンドヴルム・b74134)が戻ってきた。「山頂の方にいますけど、ものすごく身軽に移動してます。こっちです」
 久瀬・悠理(高校生真処刑人・b73652)と久瀬・一姫(小月姫・b82401)をはじめとする、能力者たちが対応に動き始める。
 移動する前に、「はい」と一姫は悠理に想愛満月を使う。無愛想に思える言葉使いだが、これが一姫なのだ。
「ありがとう」
 それがわかっている悠理は、ありがたく受け取って駆け出した。

 見つけた四足獣は怪物と呼ぶにふさわしい姿をしていた。
 身体は虎だが、その両手足は黒々とした熊のもの。背中には奇妙な瘤があると思ってよく見ると、それは龍の首だった。虎の頭があるはずの場所には、どう見ても霊長類――猿か狒々の顔があるし、尻尾は大蛇だ。鎌首をもたげてこちらを見ている。
 見かけの好戦的な姿と違い、こちらの様子を窺うだけで仕掛けてこない。鍛え上げられた筋肉を思えば、かなり素早く動けるはずなのにじっとしている。ひょっとしたらなめられているのかもしれない。だとしたら絶好の機会だ。
 一同は見晴らしが良すぎる上に、足場が悪いという悪条件の岩山を、数人ずつに分かれて四足獣に向かっていった。
「複数の頭部があるとは、まるで西洋のキマイラだな」と、山頂付近に陣取る四足獣を見て、不破・赤音(真ゾンビハンター・b22569)は苦笑した。
 あれだけ頭があれば死角がなさそうだ。高い位置を取られている以上、チャンスは岩山から襲い掛かってくる際に宙に体を躍らせるところか。「さて、まずはメイデンで首の一つもいただいて死角を作り出させてもらうことにしようか?」
 虎の身体にどんな獣がついているのか気になっていたココ・スメンクカラー(恋人はラクダさん・b66981)は、四足獣を見て格好いいのかどうか少し悩んだ。
 だが、わかるのは、こいつは強いということ。でも。
「負けない」
 おうさま――シャーマンズゴースト・ファラオが四足獣に向かって歩き出す。その背にココは死がふたりを分かつまでを使った。「おうさまは、俺が守る、から」
(「ねむが、ずっと、また会える日を待ってたのを知っているから。なんとしても叶えてみせる」)
 本隊で美鈴の護衛についている神楽・ねむを思い、神楽・海渡(胸に灯る歌・b70093)は四足獣と本隊との間に立ちはだかる。「絶対に、本隊には近寄らせない」
 岩場の不安定さを気にせず距離を詰めながら、緋神・琉紫葵(黒翼咆哮・b42772)は虎紋覚醒で己を高めていく。本命は白虎絶命拳だ。「長引かせるつもりはない。今ある全力を叩き込む」
「神将、か」。後月・悠歌(月響の奏律・b02867)は誰に聞かせるともなく呟いた。
 自分が相対した「彼」はもういない。だが、あの人と同じように、あの戦いに加勢してくれて、そして、共に歩むことを決めてくれた二人の神将がいる。まだ助けられる。
「その二人だけはせめて、元気な姿にしてあげたいわ」
 悠歌は、崩壊を導く戦慄を伝えるべく拳を構えた。

 本隊は速やかに通り抜けると決めていたとはいえ、道は広くはなく、また移動する人数も多い。道は岩山をぐるりと回り込むように延びているため、先々で本隊と別対応班の安全を確保する必要があった。
 結果として、さまざまな方角からほぼ同時に四足獣を見つけ、挑むこととなった。
 チーム【自U帳】もそのひとつ。
「ここはウチらに任せて、先行きー」
 言いながら斉藤・縁(多分浪花の風水少女・b81259)が張った陣から、巨大な植物が育って本隊を守る壁となる。これで少しでも四足獣の邪魔ができればいい。縁は本隊が木々で見えなくなったのを確認し、仲間の支援を信じて前衛に立った。
 僕らは僕らの役目を果たそうと、春崎・樹(ウィンディーソニック・b75584)も四足獣へ駆け出す。
「断罪の拳よ!」
 攻撃に集中させて、先へ行く者たちに危害が加わらないようにするためだ。
「総てを凍てつかせる氷雪よ……」
 日向・夏果(のんびりまったりいきましょう・b55022)も攻撃の手を緩めない。自分の出来ることを、しっかりやっていこう。そう心に決めてきたから。
「――鵺。弓でも持ってきた方がよかったかな」
 小机・水城(月墜す鴉・b61103)は四足獣を見て呟いた。弓の弦の音には鵺を退ける力があるという。混ざっている動物は違えど複数の獣をその身に宿すと言う点では、鵺とこの神将は同じだ。
「我が儘言って、ごめんな」
 そんな水城に、終日・魁斗(天魁剣・b57167)が語りかける。恋人である水城の前で、他の女――美鈴のことでに必死になるなんて。魁斗の胸に罪悪感がのしかかる。
「我が儘な事なんて、なんもないですよー」
 魁斗が美鈴にお礼を言える様、責任持って神将席の枠を開けるつもりだったのだ。笑って水城は続ける。
「じゃ、前は任されるので後ろは任せますね」
 さらりと言われて、魁斗は少し呆けた。わかってくれている。それが嬉しくて笑ってしまう。
「あぁ、任せろ相棒――」
 どんなに相手が強くて大きくても、みんなで戦えば、一咬みくらいはできるだろうか。
「虎はーバターのような味がするかもしれないね」
 そう言いながら気を巡らせ、両手両足を地に付けた獣の姿勢を取っているのは雨御・静夢(謹猟区域・b77220)だ。「四足には四足で―戦うのです!」
 安定感を優先した作戦。静夢は素早く四足獣に近づくと、吸血噛み付きをお見舞いしてやった。
「へへっ! この不思議な世界のどこにいても一緒に頑張ろうね!」
 同じく前衛に立つ水城に話しかけながら、静夢は口元を拭った。
 そこへ、とうとう反撃に出た四足獣の攻撃が襲い掛かる。
 背に生えた龍の首、それが大きく伸び上がったかと思うと、ガクンと大きな顎を開いた。チラチラと燃えているのは超高温の魔炎。
 ごおおごごごぉぉぉおおおおおっっっ!!!!
 一筆で円を描くように放たれた凶悪な魔炎は、静夢や数多くの者を巻き込んで燃えさかる。
 肉の焦げるいやなにおいが辺りに満ちた。だが、それでひるむ者は誰もいない。
「彼の者に、豊穣の癒しを……なんてな!」
 戦闘不能者を極力出ないのも重要だと、冬柴・細(ペンネームは姉小路細雪・b60582)は積極的に戦文字を記していく。若人が恩人の為に一肌脱ぐというのなら、応援だけはしてやると笑いながら言っていたが、やるときゃやるのだ。
 その姿に、ちゃんと仕事をしているとホッとしながら、蒼月・秋奈(月下ニ咲ク花・b72525)もすかさず黒燐奏甲を飛ばす。
「癒しの力を……。総てを喰らう黒燐を、その身に宿せ」
 秋奈は細と共に支援のためひかえていた。とにかくがんばるのだ。攻撃のチャンスも逃すまいと目を凝らして隙をうかがった。
 魔炎を浴びせられながら、『超☆正義のキノコ』の二人も立ち上がる。
「心頭滅却すれば火もまた涼しって言うけど、ボク達のファンガスを信じて、心を一つに重ねて寄せれば、きっと死をも寄せ付けない、一条の光が見えてくると思うんだ!」
 八木山・聖夜(黄金山羊座の守護剣士・b55076)は、そう言いながらカメリア・ダイヤモンド(てんてん天下の超正義・b59873)と手をつないだ。
「心頭滅却すれば、火もまた涼し……難しい言葉の意味はよく分からないけど、心を重ねてみんなと一つになれば、きっとみんな『なかよしファンガス』なんだよっ!」
 カメリアも笑顔で手を握り返す。言葉どおり、聖夜と自分をなかよしファンガスで癒した。
 聖夜は炎に巻き込まれたみんなに、ヒーリングファンガスで応援の心を届ける。こうやって心を感じ取るファンガスを介することで、より大きな力が沸き起こると信じているのだ。
 その願いは、この死に満ちているはずの異世界の中で、生者がこれほどまでに動けるという事実で証明されているように思えた。
「みなさん、受け取ってください」と、ベン・カプハ(蒼い放浪者・b59473)もサイコフィールドでみんなを支援する。
 四足獣を見据え、ベンは言い放った。「さぁ、眠って頂きましょうか。俺達の戦友の眠りを解く為に」
 一人で神将と戦うほど自惚れていないし、悔しいけど学園には私より強い人はたくさんいる。そう自戒して生駒・紗希(陰陽飛媛・b84475)は、突出することなく同じ四足獣対処班のみんなと動きを共にしていた。
 しかし、四足獣はそんな後方にも炎を飛ばしてきた。
 周りの者たちが癒しを施そうとするが、紗希がアンチェインエアで加速していたため効果が期待できない。しかし、紗希には根こそぎ体力を奪われることも計算済みだった。
「倒れはしません……!」
 魂さえも陵駕して、紗希は立ち上がった。

 四足獣は山頂にいたが、道からは完全に死角になっている場所もいくつかあった。
 そこで鏡雨転身で動きを早めた神崎・結那(向日葵の君・b16506)は、状況を把握するべくチーム【石守人】の一団から抜け出した。「そのあたり見てくる。戦場の情報できるだけ集めてくるよ。その後の作戦立案は任せるねっ♪」
「こら! 馬鹿! 結那! 指示出してやるから無茶すんな!」
 単独で遭遇したらどうするんだと、五十鈴・尚人(神誓継承者・b17668)が待ったをかけるも、望遠鏡片手にすでに結那はいない。
 任された尚人は、戦場が岩山であることを考え、自身は一歩引いて戦いを見渡せる場所に位置することにした。どこで何が起こってもフォローできる体制だ。
 前衛は任せて後ろに下がりつつ、御桜・八重(花手毬・b40444)は美鈴と蘭黒のことを思う。会ったことは無いが、石化してる二人とは話をしてみたい。
「よし、がんばろー!」
 気合いを入れて、正面を見据えた。
「岩山の頂上付近、高いところにいたよ♪」
 逃げ足を生かして、無事戻ってきた結那が前衛に加わる。チームはそちらに向かっていた。互いを攻撃範囲内に捉えるのは間もなくだった。
「兵団、起動します!」
 前には先輩たちがいるから心配いらないと、白藤・暁里(銀紫の東雲・b81365)は強い意志で四足獣を見た。
「鋭敏感覚を用いるまでもなく、明らかな敵の襲撃。それだけ自分の力に自信があるのでしょう」
 王者の風格でこちらを睥睨する四足獣を見て、御鏡・幸四郎(菓子職人修行中・b30026)は静かに呟く。
「ですが、私たちは倒すのみ。あの二人のために」
 幸四郎の言葉に、覚醒スカルロードである姉の七ノ香が頷いたように見えた。
「二人を救う機会を待ち続けてきた人たちのためにも必ず落としましょう。行くよ、姉さん!」
 幸四郎と七ノ香の身体がひとつになった。
 四足獣の動きをじっと観察していた不利動・明(大一大万大吉・b14416)は、四足獣の背がピクリと不自然に動いたのに気づいた。確か、四足獣は身体に数体の獣がついていると言っていた。攻撃の予兆だ!
「来るぞ!」
 明の指摘に、一同は一斉に身構える。
 結那がもたらした情報を無駄にせず、どの方向から向かうのがよいか事前に考えていた神崎・真希(優しき路傍の石・b75013)は、明と息を合わせつつ、ゼロ距離まで近づいてタイマンチェーンを絡ませた。
 チェーンで引き寄せ一撃をと考えていた真希だったが、四足獣は無造作にチェーンを引きはがし、真希ごと放り投げる。
「真希!」
 岩山に明の声が響いた。明も四足獣が同時に投げた岩の直撃を受けていたが、なんとか身体を守りきる。
 ゴロゴロと岩肌を転がり落ちる真希の身体を、八重の想愛満月・絢爛が包み込む。
「後ろは任せて。思いっきり行っけーっ!」
 八重の応援に真希は立ち上がった。

 四足獣発見の報を受け、本隊から少し先行する形で進んでいた紅乃瀬・司(黄昏の誓いと暁の夢・b71583)は、急ぎ身を翻した。その場にいた者たちと共に、四足獣に一直線に突っ込む。勢いをのせて顔面にインパクトをお見舞いする。――堅い。
「さすがは神将といったところだな」。
 闘気を込めたチェーンを具現化し、司は「次はこいつでどうだ?」と四足獣に強い眼差しを向けた。
「面白そうな相手ではないか、実に腕が鳴る! さァ楽しませて貰おうか、神の将とやらッ!」
 そう豪語するのは、平良・虎信(荒野走駆・b15409)だ。
 地の利が向こうにあるのは承知の上。ならばこそ、斬り込んで状況を変えるも一興であろう。
「純粋に真向からの勝負を望むのみッ!」
 龍尾脚から龍顎拳へ、虎信の力が弾ける。
「上からの攻撃が得意なのか。ならば足場を崩せばどうする?」
 四足獣の動きを見切った敷島九十九式・新都(ロングショットオーディナンス・b81466)は、サンダージャベリンを岩山に放つ。
 足場を崩され、手ごろな岩も弾き飛ばされた四足獣は、徐々に山頂付近から降りてこざるを得なくなった。それはすなわち、接敵できる人数の増加を意味する。
 新都のサポートに、「助かる!」と幾人もの声が上がった。
「天見センパイ! 一気にいこう、ボクに合わせて!」
「合わせるよ、相棒」
 新都が作ったチャンスを生かそうと真田・涼子(音速の赤ハチマキ・b17048)は声をかけ、 天見・日花(ソルカノン・b00210)が応えた。
「これだけの力と想いを並べて、失敗しました、とは言えないでしょう?」
 不敵な笑みを浮かべて、日花は四足獣へと突っ込んでいく。振り上げた刃は確実に四足獣をとらえ、ジグザグに切り刻んだ。
 なるべく時間をかけすぎないよう一気に叩く。草薙・藤次郎(真水練忍者・b01852)は、真・ケルベロスオメガの火狩に指示を出し、積極的に戦ってもらっていた。
「さあ、今のうちです」
 自らも水刃手裏剣を放ちながら、前に立つ者たちの手助けをする。
 藤次郎の攻撃を避けようと四足獣が身体を捻る、その場所へ光が飛来した。アルステーデ・クロイツァー(葬闇のシュヴァルツェナハト・b35311) の光の槍だ。
「灰は、灰に。幻影は、影と消えて頂くわ」
 つぶさに動きを観察したがゆえの正確さだった。
 搦め手なしで単純勝負出来そうだからと、四足獣の対処班に手を挙げた不破・久郎(地獄の断頭台・b84499)は、いつもは前のめりに戦うが今回は攻撃よりも防御を重視している。
(「意思疎通できない相手が敵じゃ、面白くないからな」)
 思惑はどうであれ、倒れない前衛である久郎は、後衛で戦う者たちを守る盾となっていた。
「ねえ、俺と遊んでよ……」
 雷の魔弾を的確に飛ばしながら、久遠寺・タキ(凍花相・b75212)は四足獣に語りかける。内なる戦いの衝動を抑えながらしゃべるタキのいらだちが、指先の動きとして現れていた。
 もっと。もっと戦いたい。
「遊び足りないんだよ!」
 新しい雷の魔弾が放たれた。
「銀誓館のなかまが復活できるかどうかの瀬戸際ですものね、少しくらいはがんばらないといけないでしょう?」
 言いながら小鳥遊・歌戀(恋色魔王・b07854)は、前に立つカイト・クレイドル(真イケメン人狼騎士・b37048)に想愛満月・絢爛で支援する。
「っし、カレンさんきゅな! 伊達に胸がぺたんこなわけじゃないな!」
「胸は関係ないでしょう? ぶち殺しますよ!」
 軽口を叩きながら、少しでもたくさんダメージを与えれるようにとカイトは四足獣に近づいた。
「ロートルの神様はその場所をどけっつーの!」
 カイトの聖葬メイデンが炸裂した。
「悲しんでた蘭黒、怒ってた蘭黒、泣いてた蘭黒、絶望してた蘭黒、私達を信じてくれた蘭黒……そして笑ってた蘭黒。その全てを取り戻すために!」
 月島・眞子(トゥルームーン・b11471) は、渾身の力でロケットスマッシュを一閃する。
「同情か、感謝か……ほぼ面識無いってのに復活に手を貸すのは」
 自問しながら、八宮・千影(蒼き滅霊杭・b74262)は手刀を繰り出した。
「まぁなんだっていいか、やることはシンプル『目の前に出てきた敵をぶちのめす!』」
 デッドエンドを用いた貫手の如き一撃は、恐るべき威力でもって四足獣に襲い掛かる。
「この作戦を成功させるためにも、全力……やってやるぜ!」

「あそこです!」
 視界の端に四足獣を捕らえた時任・薫(黒霆・b00272)は、大声を上げて前に立つ者たちに知らせながら、ダークハンドを放った。
(「この怪物達の姿は元々そういう来訪者なのか、後天的なのか気になる所ですねぇ」)
 四足獣と対峙しながら、薫は冷静に相手を見極めている。
「できれば十三も連れて行きたかったが……」
 いや、過ぎた事をこれ以上は言うまいと、水無瀬・葵(黒刃の屍狩者・b03253)は軽く首をふって思考を切り替えた。ただ残った二人を救える可能性があるのなら、全力を尽くそう。
 かつて拳をぶつけ合った、神将燕・十三を思う者はほかにもいる。不知火・レイ(星の欠片・b71576)もそうだ。どうしても、ここに十三がいたらなと思ってしまう。
 お前との喧嘩、忘れたことはないぞ。こいつも……お前と同じくらい強いのだろうか。
「行くぞ、勝負だ」
 最大火力でいくと、レイは不利益も省みず、四足獣に御霊滅殺符を投げつけた。
 やる事は至って明瞭だと、時任・檸檬(ミンネゼンガー・b36785)はインカムのMistilteinnに手を添えた。討伐対象か自分が倒れるまで殴り続けるのみ。
「邪魔よ、音として消えなさい!」
 檸檬のレゾナンスナックルが共鳴振動派を叩き込んだ。
 大好きな紗白・想真(クロスデザイアー・b72319)とシーナ・ドルチェ(ネミの白魔女・b67352) は、SS団として参加していた。
 二人そろえばできないことなんか何もない。蘭黒も美鈴も絶対助けるのだ!
「想真くんっ、背中は私が守ります。だから……いっちゃってくださいー! SS団の絆の力、見せ付けちゃうのです♪」
 リフレクトコアを放ちながら、シーナは想真にエールを送る。
「僕らSS団に勝とうなんて一億年早いよ!」
 想真は吸血衝動の黒い疾風で四足獣を包み混んだ。
「跡形も無き蹂躙を、塵も残らぬ殲滅を」
 咎められぬ戦いとあればこれほど楽しく喜ばしい事はないと、フェイト・ブラッドレイ(吸血軍曹・b47222)は高らかに宣言した。
 そばには、朱鷺村・伊鳥(繚乱に咲け華の宴・b47332)とシン・インデックス(ランブルライド・b55425)がいる。二人と共になら心強さはそれ以上だ。
 それは三人全員が同じように考えていること。
「任せるんだぜ、兄貴!」
「いつも通りよ。……背中、預けたぜ」
 シンが幻影兵団でみんなをサポートする。それに応えるように、伊鳥は駆け出し、イーティングブロウで斬りつけた。そんな伊鳥の中で、ファンガスが「共に居たいよ」と答えた気がした。
「さあ、僕らにあなたを蹂躙させ、殲滅させなさい!」
 フェイトの放った炎をまとった弾丸が真っ赤な雨に見えた。
「いくよー恭一っ!!」
 マジカルロッドのリィンカーネーションを振りかざし、綾辻・稟(疾駆・b41740)は神谷・恭一(ランドグリーズ・b73549)に呼びかける。
「よし、行くぞ、稟……」
 四足獣が炎ならこちらは電光だとばかりに、恭一は電光剣にプログラムを奔らせ巻きつけ、ボルテージを上げていく。「光の彼方へ消え去れ……!」
 助けられるならば手を伸ばす。そして護る。それが水上・晶(鷹龍・b42759)のモットーだ。
 その後ろには山吹・和泉(氷柩に眠る・b80345)がいる。晶とはほぼ初対面の関係なんだが、なんとかなるかと思う。
 現に、前で龍尾脚を放つ晶に、後ろから蒼の魔弾を飛ばす和泉、和泉の使役ゴーストの真ケルベロスベビーのカロンと、いい感じで戦えていた。
「縁のある人達も居るんだし、その人達の為にも気合入れて行きますか」
「うん。そうだね」
 なんとなくおっとりしているように思える二人だが、そんなことは決してない。出し惜しみするつもりは毛頭なく、全力で戦うつもりだ。

 足場を崩され、四足獣が山頂から降りてくる。
 その連絡を受けて、「奇襲を受けにくいよう、ここに陣を張りましょう」と、ユリア・ガーランド(天上の蒼・b03877)は、岩壁前の空間を指差して結社【幻桜の灰】のみんなに告げた。
「えんごはまかせろー!」
 箒をぶんぶんと振り回して、河嶋・ほたる(月に咲く翅・b03676)は自分の位置を仲間に告げる。仲間が攻撃の手を休ませなくてもいいようにと、ほたるはしっかり準備してきた。
「さぁキヨミちゃん、どんどん回復してこう! みんながいるから、大丈夫だよ!」
 ほたるは、自分の中の白燐蟲のキヨミちゃんが「うん!」と言ってくれたような気がした。
 その後ろを本隊が通り過ぎていく。
「神将登録は頼むね!」
 周囲を警戒しながら、那智・れいあ(空翔ける銀獅子・b04219)が彼らを見送った直後、岩陰から四足獣が現れた。
 ピー! 正面から四足獣と見詰め合ってしまったれいあが、「敵発見!」の合図に笛を吹く。
「悪いけど友達の為に倒させて貰うよ」
 この神将に怨みがあるわけじゃない。でも、蘭黒も美鈴も銀誓館の大事な仲間だ。約束したし、何とか蘇らせてあげたい。
「妖獣は空に還ってね!」
 れいあの蒼の魔弾は迷いなく四足獣へと向かっていく。
 タイミングを合わせて放ったユリアの蒼の魔弾が、同時に四足獣に当たって弾ける。
「これが必殺ダブル魔弾ですっ」
 力を合わせればこんな敵なんでもないと、ユリアが胸を張る。
 しかし、四足獣はマヒすることもダメージを苦にする様子もなかった。
「気を抜くなよ。人間相手とは訳が違うからな」
 刈谷・紫郎(見通す者・b05699)が注意を促す。とはいえ、紫郎も少し気が抜けていたのかもしれない。「見切った」と斬りつけた黒影剣を守りきられてしまった。
 この間、世界を滅ぼさんとするオロチとやりあって以後、どうも物足りなくて身が入らなかったのだが、久しぶりに歯ごたえのある相手とやりあえそうだと、紫郎はグラン・クロワとマインゴーシュを構え直す。
 それを見た四足獣は、移動したことでできた周囲の岩を熊の手で掴んで、目にも留まらぬ速度でそれらを全方位に投げ落とした。
「ぐっ」
 直撃を喰らい、紫郎の顔がゆがむ。
「神将を助けるという学友の為、ここで負ける訳にはいかんだろ」
 一撃で体力を三分の一ほどもっていかれそうになったが、血をぐいっと拭い睨み返す。
「刈谷さんファイトです」
「まかせろー!」
 即座にユリアとほたるから癒しが飛んだ。
 
「神将達を元に戻せる好機だ、全力で彼女らの信頼に答えるとしようか」
 前衛の一角が崩れたのを見て、相澤・頼人(闇纏う希望の双剣士・b01073)はその穴を埋めるべく駆け出した。呪いの魔弾での攻撃を黒影剣に切り替える。
 後方で雷の魔弾を打ち込んでいた出雲崎・夏野(ステキ魔弾術士・b32906)にも、四足獣が投げた岩は届いた。聖職服のfortuna favet fortibus.でなかったら耐えられなかったかもしれない。
「まだまだだぜ?」
 己を癒しながら、夏野は不敵に四足獣に笑いかける。
「行こう陸井! 俺達の出来る事をしよう!」
 葛城・時人(光望青風・b30572)が言えば、「また背中は任せるぞ、相棒」と凶月・陸井(我護る故に我在り・b12455)と返す。
「そこの席、開けてもらうぞ!」と陸井は四足獣に戦文字「伊邪那美」を放つ。
「お前が無意味に座すその場所が必要だ! 今すぐ消えろ!」
 人格も失い、ただ戦うだけの存在に成り下がった四足獣。美鈴や蘭黒のために、その場所が欲しいと、時人は吼えた。
「良い結末の為にも……気合入れていきますか! ウィルー、上手く行ったら後でギュッとさせてねー♪」
「ねーちゃ、そんな事をここで言わなくったって……ハァ」
 ぎゅーっと抱きついてくる、姉のエリーゼ・アルファード(陽光のフリッカーハート・b70367)に、ウィル・アルファード(お日さまフリッカー・b12971)はため息をついた。
 前衛がぶつかり合い、戦場は激しさを増してきている。
「ウィルー、そろそろわたし達のビートを聴かせようよ−?」
 エリーゼがそう言った瞬間、視界が一気に開けた。
「……ッ、今がチャンス! ねーちゃ、僕のリズムに合わせてヨ!」
 息のぴったり合った、二人の聖なる分断とヒロイックフィーバーが戦場を駆け抜ける。
 妖精の名に恥じない、優雅に、舞うように戦うのは蒼崎・洵(白き妖精・b21925)だ。
 蘭黒と約束というか、「家族になってやる」とか言った手前、きっちり助けて、これから仲良く過ごせたらいいな……とか考えていた。
「ともかく、今は、そのための神将席を用意する事に集中しないといけませんね」
 放った蹴りは、三日月の弧を描いて四足獣の腹へと食い込んだ。

 別の方向からチーム【月華】の面々も、岩場を駆ける四足獣を追いかける。
「これが神将に関する最後の大舞台。石になって待つ二人のため絶対に成功させる!」
 強い意志で、相馬・亮介(青龍拳士・b43357)は標的と決めた四足獣を探していた。メガリス『紺碧の貴石』の所有者である自分はムチャはできないと理解しているが、四足獣が現れるまでは、と石像護衛の本隊ではなく対応班で敵の捜索に加わっていた。
 その傍には、レアーナ・ローズベルグ(優しさをくれた貴女に・b44015)がいる。亮介を守るためだ。
 岩山に着くなり、ギンギンカイザーXを使った十六夜・蒼夜(インフィニティゼロ・b44935)も、亮介をいつでもフォローできる位置にいた。
(「亮介お兄ちゃんが攻撃を受けたら安全に後ろに下がれるように」)
 そう思いながら、周囲に気を配る。
 チームの中で、最初に四足獣に気づいたのは、前方を担当していた四神・蒼夜(硝子の紅葉・b00988)だった。
「現れました!」
 仲間のみんなに届くように、普段はあまり出さない大声を上げつつ、蒼夜は愛用のレイピア、緋焔刀『紅葉舞』を構える。
「目の前の相手である僕に集中して貰いましょうか」
 ムリに突破するつもりなら身体を張って止める。ノーブルブラッドで自己を強化しながら、ゆっくりと近づく蒼夜を、四足獣はどこか濁った目で見ていた。
「この時がくるのを本当に待っていたわ」
 四足獣を前に、フェシア・リンフォース(真なる魔女・b02719)は心が高揚するのを抑えられなかった。ようやく蘭黒と美鈴を助け出す事ができる。今まで出来ずに悔しい思いをしていたけれど、それも今日で終わりだ。
「今度こそ一緒に歩む仲間として迎えてみせる」
「さて、時間がねぇ。速攻で行くぞ」
 日向・修一郎(は嫁の戮屠が命・b39150)も、岩山に入るなり九条・勇(メメントモリ・b59732)に想愛満月・絢爛を飛ばしていた。
 修一郎からの強化に加え、勇は自分でも虎紋覚醒で力を高めている。
「こっちも時間無いんでな。……短期戦で行かせてもらう!」
 空気を振るわせるほど激しい勇の龍顎拳は、四足獣の腹にぐぼりとめり込んだ。
 そんな修一郎と勇を物陰から、坂城・宗馬(栄える生を葬る魔・b73465)が応援していた。いつでもギンギンカイザーXを投げられるようスタンバイしている。
「ってぇい、大人しくしろってのよチクショウ神将!」
 みんなの攻撃は当たっているはずなのに、と綾上・千早(殺神一劍・b02756)は悔しがった。
「……千早、真咲、抜かるなよ」
 眼鏡と共に、普段の慇懃無礼もとい丁寧な言葉遣いをかなぐり捨て、奈那生・登真(七生討魔・b02846)は一気に四足獣との距離を詰める。
「躾のなっていない獣と戯れる趣味は御座いませんの、大人しくなさい」
 奈那生・真咲(シスターリトルデビル・b58733)は、距離を取りつつ、冷静に相手の動きを見極めた。そこへ。
「ナナ、まーちゃん、合わせてっ!」
 千早が声をかける。
「その名で呼ぶなっ!」
「その渾名、やめて下さる!?」
 全力で否定しつつも、身体は即座に反応を返す。千早のダークハンドと、登真の黒燐黒燐暴走弾、真咲の瞬断撃が同時に放たれる。
「恨みも無いが手を抜く筋合いも無い、失せろ!」
「一気に決めるぞ! SRドライブ、リミッターカット! 出力限界突破!」
 叫ぶ騎島・亮(剣の聖者・b01277)の正面で、四足獣が背中から生やした顔を生やした。龍を思わせるその顎の奥で、チラチラと魔炎が揺らめく。
(「間に合うか……!」)
 合言葉は「殺られる前に殺れ」だ。亮は覚悟を決めて突っ込んだ。
 ゴウッ!! 先日のオロチ大戦を思い出すほどのパワーを秘めた炎が、ほかの能力者たちと共に亮を焼く。
 相馬・亮介も巻き込まれるところだったが、山吹・慧(想浄奏黒・b71495)の機転によってほとんど傷を受けずにすんだ。
「そう簡単にやらせはしません」
 慧は岩山に入ってからは常に足元に注意して遮蔽物を確認していた。射程に割り込む形となって亮介の盾となったのだ。
 もうひとり、亮介をかばって魔炎の直撃を受けたのは一橋・智巳(月光橋の守護者・b72282)だ。
「合縁奇縁、亮介とはダチなもんでね」
 智巳は笑いながら、「主役はアイツ。まぁ俺たち戦力Aはそれらしく、サポートに全力を注ぐぜ」と立ち上がる。
「騎島君! 山吹君! 一橋君!」
 若生・めぐみ(キノコの国のめぐみ姫・b47076)が慌ててなかよしファンガスを飛ばして回復するが追いつかない。使役ゴーストのフレアが心配そうにめぐみを見たが、首をふって様子を見るよう指示する。
 なぜなら、ほかにも回復役に回った仲間がいるからだ。
 天瀬・一子(雪華媛・b05184)もそのひとり。
「みんな、受け取って♪ 今回は徹底して裏方、全力回復で参加だよ♪」
 敵をカッコよくやっつけるのはみんなに任せたと、一子はへブンズパッションでひたすらみんなを癒し続ける。
「んー、ほんとは依怙贔屓はダメだけど、今回はりょうくん優先で♪」
 声が聞こえた相馬・亮介がぺこりと頭を下げる。
 一子と同じく、セレエル・ベディナン(忘却されし深森の血族・b69497)も回復役に徹していた。
 草薙・憐(ダメダメ三つ編みマン・b54120)は、中衛からの攻撃で戦場のバランスを取っていた。憐の足下から赤い影が伸びて、四足獣を引き裂く。
(「もっと時間があれば十三たちにも会えたかもしれんな」)
 鳳凰寺・龍也(終わりを見届ける者・b53591)は、四足獣が見つかったときそんなことを考えていた。改めて四足獣を見て、「エジプトの干物どもよりは手強そうだ」と思う。
 龍也も中衛の位置を保ちながら、鋭い感覚で他の神将が近づいてこないか確認する。大丈夫そうだ。「二人には借りがある。そこを退いてもらうぞ」

 黒い外套を纏って、静かにかつ速やかに移動していたチーム【龍龍】の面々も、攻撃の手を緩めない。
 チーム内で真っ先に四足獣を視界に捉えたセイバー・ラピュセル(騎士王・b77165)は、「向こうが幻影ならば、こちらも幻影で応えるまで」と幻影兵団を発動させた。
「虎クン、こちらよ」
 ラピュセルの援護を受けた御蛹・真紀(遺志を継ぐ者・b44782)は、漆黒の爪で手招きして注意を引き付けながら、呪いを込めた魔眼で鋭く睨みつける。
 真紀が作り出した隙を突いて、紫上・結衣(高校生真書道使い・b81724)もクロストリガーを飛ばした。十字の紋様が攻撃すべき場所を教えてくれる。
 離れた場所からの攻撃を隠れ蓑に、的場・遼(ゾンビハンター・b24389)と緋勇・龍麻(龍の伝承者・b04047)は密かに岩肌を駆け上がり、四足獣に肉薄する。
「受けてみろ」と獣爪である日緋色金を閃かせる遼。
「受け取ってください!」と十六夜・迦具耶(高校生真ルナエンプレス・b82611)から想愛満月・絢爛が飛び、龍麻の力を漲らせた。もちろん真紀には岩山についた時点で使っている。
 そのおかげで龍麻の攻撃は四足獣の熊の手で受け止められたが、「ならばその守りの上から叩き込むまでだ」と強引に龍顎拳を叩き込むことができた。
 チーム【たぬ喫茶】の面々で先陣を切ったのは、銀・紫桜里(桜華月天・b30535)だ。
 強敵と死合う、そのことに心躍らせていた。愛剣凶桜が武者震いでカタカタと鳴り、イーティングブロウを四足獣にお見舞いする。
 心躍らせているのは、式銀・冬華(紅き片翼の剣巫女・b43308)もそう。四足獣の毛並みを見た途端、討伐とは別の目的ができてしまった。
「モフモフを堪能させてもらうぞー」
 冗談めかしているが、攻撃は本気。冬華のデモンストランダムが四足獣の攻撃を鈍らせんと打ち込まれる。
「よもや、よもや神将とやらに挑む事となろうとは、のぅ」
 四足獣を前に、アヴェリア・アメティスタ(砕牙継ぎし咎断鳥・b80681)は、ほぅと小さく息をついた。アヴェリア自身は神将たちとは面識はない。ファンガスが協力して居るならば、と恩返しを兼ねて参加していた。
「……元より、元より多芸など無き身での。じゃが威力はそれなりに在る。喰ろぉて確かめるがいい魔獣めが」
 静かな声と共に、聖葬メイデンが放たれた。

 百数人が全力で行った一斉攻撃。地の利は四足獣にあったとはいえ、そう長く耐えられるはずもない。
 王者の風格だった虎の毛並みは見る影もなく、熊の手の爪もその数本が失せていた。それでも四足獣はまだ立ち上がる。
「悪いが席を二人分空けてもらう……、行くぞ、相棒ッ!!」
 戸来・聖司(破城鉄騎・b81253)は四足獣に向かって駆け出した。スパークが混じる青いオーラを纏っている。
「勝負だッ!! 脳天にハンマー叩き込んでやる!!」
「へいへい、おめーこそ遅れ取るなよー」
 その隣りで、福井・義充(悲歌の守護者・b70106)も駆けていく。
「つーか相変わらず闘いになると熱っついよなー、お前」
 普段の聖司は、無愛想でダウナーな感じなのだが変化っぷりが凄まじい。
「行くぞ、相棒!! ミョルニル……リアクター・イグニッションッ!! いけぇぇぇぇ!!」
 派手に動く聖司がロケットスマッシュをぶちかます。
「おーよ! 行くぜ! 来い、不死鳥! お前の炎で燃やし尽くせ!」
 死角を突いて繰り出された義充のフェニックスブロウが、四足獣の龍頭を穿った。
「心無き神将など恐れるに足りないよ」
 日下部・美咲(高校生魔剣士・b62373)は、四足獣の目の前に立ち、睨みつけた。
 神将が強敵なのは身をもって知っている。だが神将が無敵で無い事も知っている。 自分がその鮮やかな生き様に魅せられ、追いかけ続けた紅の髪の神将はもう居ない。だからこそ、神将達の復活に賭ける人達の気持ちは痛いほど判るのだ。多分これが最初で最後のチャンス。
「今こそ二人を長い眠りから目覚めさせよう」
 美咲のダークハンドは四足獣の足を切り裂いた。
 日比野・紅芭(天衣無縫・b46618)は、どんな目的であっても、崩寝台の力を利用することには戸惑いがあった。助けるためとはいえ二人を再び神将に戻してしまうことに抵抗があったのだ。それは二人を封神台の永遠に縛り付けることになってしまうのではないかと。
 それでも、これから先をどう生きるか、どう死ぬか。それは助けた後、二人が決めることだから。
「今は道を切り開くだけですっ!」
 紅芭の決意が込められた光の槍が、四足獣に降り注ぐ。
「ごめんなさい……。其処を……、退きなさいっ」
 過去は過去、今は今。今の私は任務達成のための駒に過ぎないと、石像を思い、戦うべく足を止めた者がいる。
 防具に描かれたふしぎな目と漆黒の髪が、絵を描く手に合わせて大きく揺れる。
「速攻でけりをつけます」
 スピードスケッチで描かれた四足獣は、絵の自分に咬みつかれた。
 絶対に倒す。
 そう臨んだ能力者たちの前に、四足獣はとうとう動きを止めた。
 しかし、その眼はまだ闘いを諦めていない。いや、違う。それしか考えられないのだ。
 心が空っぽになってしまった四足獣には、闘うことしか存在する意義がない。
 立てぬ足を必死に動かして、もげた龍の首を求めて、なお動こうとする。
「……もう、何の為に神将席についたのカモ覚えていないのでしょうね」
 その姿に憐憫の情を湛えて、アリス・ワイズマン(龍の忍者見習い・b57734)は引導を渡すべく、宙に文字を書き始める。
「ナラば、せめて安らかな眠りを。貴方の席で紡がれる幸せが、どうか貴方の魂をも安らがせマスように……」
 アリスの書いた戦文字「葬」は、四足獣の空虚で長い闘いの日々に終止符を打った。


●竹やぶをすり抜けて
「四足獣、討伐成功!」
 この知らせは、鏡雨転身を使い伝令をかって出た者によってもたらされた。
 しかしこのとき、隊は次なる神将が出るという竹林に到達していた。
 緑深い竹林は十重二十重と道を取り囲み広がっていて、岩山と違って視界が利かない。
「昆虫の神将に注意しろ!」
 四足獣はこちらから討って出ることが決まっていたが、昆虫は対処班が足止めをしているうちにすり抜ける予定だ。討伐目的だった四足獣と違い、昆虫の対処に裂ける人員は少ないが信じて先に行くしかない。
「せめて、四足獣の対処班と合流できていれば……」
 それにはまだ少しの時間が必要そうだ。せめてもの救いは、昆虫の神将の姿が見えないこと。先ほどは岩山をぐるりと回るように道があったが、今回は両側に広がる竹林の真ん中を突っ切る形で道が伸びている。駆け抜けるのは、それほど難しいことではないだろう。
 そうは言ってもここは封神台の中。油断は禁物だ。
「さ、道を拓きます、助けてきてくださいな」
 すいっと脇にどいて、木之花・さくら(混血種・b47400)は本隊に進めと告げた。
 封神台に特に興味はないが、人助けをするのはやぶさかではない。どうせなら何事もハッピーエンディングがいい。どこぞの嵐の王さんに尽くせなかった事をここでするのも一興だと、さくらは微笑んで背に本隊をかばった。
 宮代・月音(岩砕き・b18821)も、生き残るために身につけた方策を応用し、通りやすく見通しの良いルートを選んで本隊を先導する。
 ザザザ……と竹林を抜ける風が葉を揺らし音を立てた。まるで敵の接近を隠すように。
「あら?」
 月音はときおり物を投げては、昆虫が擬態していないか確認していたのだが、今の揺れ方はおかしい。不自然だ。ならば――。
「当たりですわね」
 炎を目印とするため、月音は紅蓮撃を叩き込んだ。
 ギギギギギイ。
 声だろうか。耳障りな音を立てて、竹と思っていたものが動き始めた。
 昆虫だ。でかい。腕だけで竹一本はあろうかという大きさだった。胴体だけで優に三メートルはある。
 自分たちでは相手にならないと、チーム【Rogue】の全員がその姿を見て即座に理解した。だが、それはそれだ。
「それでも時間稼ぎぐらいはしてみせるぜ、なぁ幌サン?」
「てかやってやろーじゃねーの。な、令法!」
 犬束・令法(ヴェルトロ・b55579)と五十嵐・幌(闇に輝く金色の鴉・b55736)は、にやりと凶暴な笑みを浮かべ、昆虫に向かっていく。
「邪魔すんじゃねーぞ、おめーの相手は俺らだ!」
 幌が大声を上げて回り込み、令法は昆虫の足にしがみついて言い放つ。
「ここは俺に任せて先に行けーっ」
 今、ちょっとだけ「やっべ、俺カッコイイ」とか呟いたが、それは聞かなかったことにする。
「りょーぶ、幌、はしゃいじゃ駄目なんよー!」
 色彩・花紡(ハングリームーン・b82957)が注意した途端、無造作に振るわれた昆虫の足に令法と幌が吹っ飛ばされた。
「とにかく、目覚める前に終わるってことだけは阻止だ!」
 吹っ飛ばされながら幌が叫ぶ。
(「……花、石像の二人の事良ぅ知らんよ。でも、銀誓館の皆が守りたがるってことは、きっと良い人なんよね?」)
「それなら起こしてあげるんよ! そんでそんで、一緒に過ごすんよ!」

 焼かれた足をボトリと落とし、昆虫はまた竹林に溶け込んだ。
 驚くほど静かに移動する。厄介な相手だ。姿が見えなければ、石像を護衛する本隊をきちんと守れない。まずは隠れた昆虫の居場所を突き止めることが優先された。
「緑は私の領域、姿を晒しなさい」
 ヤドリギ使いである烏頭森・万葉(億千万の棘茨荊・b60331)は、隠された森の小路の力で竹たちを曲げ、反応を見る。封神台内でも力が使えるのか心配だったが、問題なく竹は、万葉の望んだ方向へ曲がってくれた。
 注意深く見れば、つい先ほど何かに引っかかれたような傷をもつ竹がある。
「この辺が怪しいです」
 万葉の言葉に対応班は警戒を強めた。
 竹林を視認してからずっと、神農・撫子(おにしるべ・b13379)も竹の揺れ方等に注意を払っていた。だから気付いた。一見、竹の葉に見えるものがそうっとそうっと伸びている。あれは昆虫の腕だ。それもたくさん。
「腕が狙っていますわ!」
 注意を喚起すると同時に、撫子は「貴方はわたくしがお相手致します!」とすばやく昆虫の腕と本隊の間に立ちふさがった。いつの間にか、腕は本隊を掠めるほど近くまで伸びていたのだ。
「しぶといのが取り柄なのは、わたくしも同じでしてよ」
 雪だるまアーマーを使いながら、撫子はモーラットのマロウと小さく頷きあった。
 撫子と共に参加した【N】の仲間たちも戦いに加わる。
「蘭黒さん達を任せたよ!」
 囮になるかと白燐光を作った神農・蘇芳(笑う獅子と・b15579)は、本隊に先に行くよう目配せをする。銀誓館の為に戦ってくれた彼女達にお礼が言いたい。だから何がなんでもこの作戦を成功させてみせると蘇芳は決めていた。
「再会を邪魔するなんて無粋だろう?」
 鈴宮・玲音(宵風を纏う黒蝶・b09851)は、昆虫の腕に黒影剣で斬りつけた。
(「壁として、彼女らを守ることに全力を。 絶対に、目覚めさせる」)
 蘭黒も美鈴も以前は敵だったが、今はもう銀誓館の仲間だ。
「絶対二人を起こしてあげるのですよ……だから、邪魔させません!」
 光を槍を放ちながら、月代・文雪(紅き川の姫巫女・b38057)も戦いに加わった。
 ギチ……ギチ……。
 昆虫の腕という腕から、かすかな音がする。
 後方で全体を見ていた音無・ヴェロニカ(瑠璃虎の尾・b82879)は、「来るぞ!」と注意を促した。
 途端、今までの緩慢な動きが嘘のように、腕が一同の上から何度も振り下ろされる。
 ドカドカドカドカ。
 巨大な杵に放り込まれ、細い杵で素早く連続で突かれる。まさにそんな感じだった。
 見た目はナナフシのくせに、攻撃はまるでカマキリの鋭さだ。竹に阻まれ避けづらかったこともあって、一同の体力はごっそり奪われた。
「すまない、あと少し堪えてくれ!」
 少なくとも石像を運ぶ本隊が見えなくなるまでは、足どめしなくてはならない。
 ヴェロニカはみんなに謝りながら、癒しを飛ばした。

 静島・茅(果敢な紡ぎ手・b45688)は、自分たちを信じて石化を受け入れてくれた二人に報いたいと竹林に残った。
「それに、めいりんが助かれば、きっと美樹が喜ぶ」
 いつも美鈴の事件を伝えてくれていた運命予報士を思い、茅は笑う。
「ええ、きっと矢代さんも喜んでくれるはずです。行きましょう」
 四辻・青葉(静穏な癒し手・b44486)は、彼岸と此岸の境に立つ巫女として、二人をきっと連れ戻すと誓った。
 その隣で、日下部・真昼(織り手・b49306)は石像となって奥へ進んでいる二人を思う。
 死の世界は、怖くないといえば嘘になる。けれど。
「ここは美鈴様、蘭黒様がかつて通られた道。臆していてはお二人に笑われてしまいますね」
 絶対に成し遂げてみせると竹林に立つ彼らを、昆虫が睥睨する。
「出たな。虫を捕まえるなら、蜘蛛に任せろ」
 茅は強靭な蜘蛛の糸を張り巡らせた。土蜘蛛禁縛陣だ。
 それを見て、「僕も前に出る!」と静島・深夜(虹の手のひら・b84654)が進み出る。
「って、深夜! 前に出ると危ないですよ!」
 真昼は肝を冷やし、蜘蛛童の向日葵が真昼の指示を待って足を動かしたが、茅は笑って深夜に二人で攻撃しようと話しかける。
「大丈夫ですよ」と青葉は真昼に微笑んで、茅と深夜を守るべくサイコフィールドを展開した。
 真昼はようやっと息をつき、向日葵にそばにいるよう命じる。
「行くよ!」
 茅と深夜、二人で放った紅蓮撃は、昆虫の足を新たにもひとつもいだ。

 昆虫は対処班が危惧していたとおり、隙あらば竹林へ擬態してしまう。
 竹の傷が昆虫を見つける目印になることに、寒川・螢(白虎拳士・b67149)も気がついていた。
「見つけました」
 螢は、傷と本隊との間に身体を配置するようにして、昆虫が本隊に向かおうとするのを阻む。
「この力、どこまで通用するか試してみましょう」
 不死鳥の名にふさわしい一撃を、螢は昆虫の腹に打ち込んだ。
 足止めなどではない。氷澄・澪(真実の徒・b02888)は昆虫を倒すつもりで準備をしてきた。向こうが竹林でこちらをハンティングするつもりなら、逆に狩ってやるまでだ。昆虫の足連打攻撃を受けていた澪は、ちょうどいいとカースインベイションで己を癒しつつ、力を高める。
 御剣・火影(真妖狐・b58052)自身は、美鈴や蘭黒たちと直接の面識はない。けれど、敦賀の時に助けてもらった恩は忘れていない。
「今度は俺達が助ける番だ」
 離れ行く本隊を守るように火影は昆虫に向かい合った。すでに威力は高めてある。
「くらえ!」
 妖力を限界まで具現化した九つの尾が昆虫を叩きのめした。
「封神台ねェ……命を弄ぶ代表的なメガリスが、妖狐にとっちゃ御神体扱いかァ」
 言いながら、夜刀・神也(谷津乃守也・b73718)はこきりと肩を鳴らす。
「異形とドコが違うやらな。ま、やるっきゃねェか」
 神也もまた、自分が時間稼ぎなんて出来るような強さを持っていないと知っていた。となれば、全身全霊を持ってぶつかるだけだ。
 人手が足りなさそうだと、咎乃・麗香(沈黙の想魂喰らい・b81499)はこの地で足を止めた。つられるように、遠藤・友理奈(灰塵の風景・b83518)も止まる。
「神将とやらを助ける為の戦だろう? ならばこやつらになんら私怨はないが手を貸すとしよう」
 同じく残った遠野・結唯(幻触語り・b82406)が、擬態を暴かれた昆虫を睨みつける。
 結唯の考えはいたってシンプル。向かってくるなら排除するだけだ。
 ナナフシ。聞いてはいたけれど、本当にそんな姿。
「神将絡みの事件があった時に私はいなかったけど……。こういう輩ばかりなのかしら……」
 思わずため息をつく麗香だった。
 友理奈は恩人であるそんな麗香の前に立つ。
「皆の足を引っ張らないよう頑張るよ」
 体力にそれほど自信があるわけじゃない。クレセントファングで昆虫の足を蹴りつけながら、友理奈はその堅さに「なるほど、昆虫だね」と思わず呟いた。
 クロストリガーを使って昆虫の胴体を穿ったあと、カイル・クレイドル(シリウス・b51203)は鏡雨転身を使って奥へと駆け出した。攻撃しつつ通る道を確保するためだ。
 その道を通って、ほかの者たちも奥へと昆虫をいざなう。本隊を攻撃させたくないのなら、本隊から引き離してしまえばいいのだ。
 昆虫はまんまと引っかかり、竹林の奥へと向かっていく。

 本隊はずいぶん先に行った。もう大丈夫だろう。対処班のみんなの心がほんの少しだけ緩んだ。
 その隙を昆虫は見逃さない。もしゃもしゃと竹を一本丸々喰らって体力を回復させてしまった。
 竹が竹を一気食いしたように見えるその姿に、一同は思わず茫然となる。
 昆虫は生気を取り戻し、ぱや〜っと効果音がしそうなぐらいツヤツヤになった。一回り大きくなった気がするし、焼かれた足もすべて再生している。なるほど、しぶとい。
 ならばこれでどうだと、南・優(糸継ぎ・b30373)は、竹林を念動剣を飛ばし次々と切り払っていった。
「脚六本に九尾が負けるものか!」と優は昆虫を睨みつける。しぶとさでは負けない、負けたくない。一寸の虫にも五分の魂という言葉がある。なら、人にはどれ程の魂が宿るだろう?
(「睡藍もかつて、ここで戦ったのだろうか」)
 優は、彼の跡を辿れる事が少しだけ嬉しかった。
「つくづく、僕って竹と縁があるよねぇ……」
 どこを見ても竹だらけ。結社【空】のみんなと来ていたルナエンプレスの姫崎・夜羽(自由への旅路・b83020)は、誰に聞かせるともなく呟いた。だからこそ、こんなところで絶対に倒れられない、と昆虫を睨みつける。
 結木・里子(高校生真白燐蟲使い・b77847)は、自分も一応「蟲使い」だから、気配とか分かればいいんだけど、と辺りをうかがっていた。けれど現れた昆虫のサイズを見て、わからなくても別にいいかもと少し思う。
「夜羽くん!」
 白燐蟲たちに彼の強化を助けてもらう。援護を受けた夜羽が月煌絶零を放つ。
 初めて気づいたと、昆虫が夜羽と里子の方を向く。そこに気を引くように飛び込んで、明空・萩吾(空の破片・b41799)がタイマンチェーンを叩き込んだ。が、昆虫は足が一本もげただけで平然としている。
「随分しぶてぇンがウリらしいな。ちょいと、根比べといこうじゃねーか!」
 萩吾の言葉は伝わっていないはずだが、昆虫はクリクリと首をかしげながら、残りの足をゆっくりともたげる。
「それに一度言ってみたかったんだよな」
 やる気に見える昆虫に、楽しげに萩吾はにやりと笑いかけた。
「……倒しちまっても構わねぇんだろ?」

「でっかいナナフシ…出来れば出会いたくなかったかも……っ」
 竹林を動くその姿に、思わず本音が漏れた時原・悠亜(風とともに・b59169)だった。
 何が嫌って、ギチギチ動く姿のキモさがハンパない。しかし、動くことをやめれば昆虫は周囲に溶け込んでしまう。とにかく擬態が面倒だと誰もが考えていた。
 悠亜と同じ結社の【涼風前線】で参加しているの面々もそうだ。強い香水やカラーボール、鈴などを各自で用意したものを昆虫に振り掛けたり、ぶつけたり、つけたりして気づけるようにした。
「この身は皆の刃であり翼、風切り進むが我が信条だ……!」
 当然、それらを使うためにも昆虫の気を引く者がいる。成上・瑞羽(唄運ぶ藍風・b61342)がその役目を引き受けた。
「行くぞ神将。穿て、爆水……!」
 瑞羽は、昆虫が動こうとする方向から攻撃をして退路を殺ぐことに留意していた。背後は味方に任せ、己はただ戦うのみ!
 そんな瑞羽を、朝日・遥日(光の皇子・b40908)は「……すぐ合流できるように気をつけなくちゃ……」と心配していた。光の槍を放ちながら、瑞羽だけでなく誰にでも癒しを使えるように遥日は周囲に気を配る。
「足止め、むしろ倒してしまうくらいのつもりでいくぜー!」
 そんな心配もどこ吹く風と、守屋・ツムギ(藍の音結ぶ唄紬・b59086)も全力で戦う。一番に瑞羽には想愛満月で援護をしておいた。あとは自分も戦うのみだ。
 天宮・輝梨(颶風・b84728)も、足止め目的だけど倒すつもりで全力で行く、最初から天雨豪流を連発する。
「……わたしの力だと、そうでもしなければ足止めにもならないから」
 輝梨は回復のことは一切考えずに、ひたすら攻撃を続けた。
 個々の力はたとえ小さくても、絶対に諦めないと、天白・謡(空白音律・b82892)も攻撃の手を緩めない。この神将たちは、言葉を持たぬ生命の残骸だ。負ける訳にはいかないのだ。
「捉えて、蒼き月。かの者に冷たき束縛を」
 力では及ばずとも、せめて足止めになればと願った謡だったが、昆虫の動きは止まらなかった。
 狐の耳と尻尾を生やした苑田・歌穂(日だまりでたそがれて・b53333)は、封神十絶陣で攻撃と回復を同時に行う。
 そのとき、昆虫の足がいくつか消えた。
「え?」
 歌穂は我が目を疑う。だが間違いない。封神十絶陣に捕らえられた昆虫の足はバラバラの絶陣に飛んだ。つまりあの足はバラバラに動くし、今は繋がっているように見えるがバラバラに襲い掛かってくることもあるということだ。
 ギギギギギ。
 奥の手を思わぬ方法で見破られた昆虫は、歌穂を中心に足を飛ばしてくる。そばにいた遥日や優、謡も巻き込まれた。
「……大丈夫です」
 直撃を受けた歌穂たちは、気丈にも助けは要らないと立ち上がる。
 駆け寄ろうとしたツムギだったが、みんなの意志を尊重し、「皆で成功させて帰るぞ!」と癒しの歌を響かせた。
 結社の全員が足の乱舞で何かしらのダメージを受けていた。おまけにこの足、当たったところがマヒしてる。直に全身動けなくなるだろう。
「ボクも使うね」
 長期戦を見据えて癒しの重複を避けていたのだが、悠亜も浄化サイクロンでみんなの傷を癒していった。

 自身を回復するだけでなく堅くなる。さらにはこちらの動きを封じることある。堅くてしぶとい昆虫との戦いは、なかなか決着がつかなかった。
 本隊は無事通り抜け、もう足止めの役目も充分に果たした。そろそろ本隊を追いかけてもいいだろうと何人かが竹林を離れようとしたのだが、昆虫がそれを許さなかった。どうやら、この昆虫は自分の領域を荒らした者を許す気がないらしい。
 ならば倒せばいいだけのこと。
 離脱を考えていた者も、元々そのつもりだった者も、ここが勝負の決め時と不退転の決意で立ち向かう。
「覚悟しろ、私の火力は尋常ではないぞ」
 強敵を前に、シュベルト・オセ(アイゼルンゲシェプフ・b47155)に愉悦の表情が浮かんだ。本来なら四足獣と戦うつもりだったシュベルトは、四足獣に残った人数を見て、より困難な場所が出るだろうと、昆虫の対処班に移ったのだ。
 シュベルトのプロトヴァイパーは命中したが、昆虫の堅い甲殻に弾かれてしまった。
「ヴァイパーが……。ならこれはどうだ?」
 衝撃でザワリと竹林が震えるほどのプロトストランダムは、確実に昆虫の体力をごっそりと消し去る。
 余力があれば倒したいと考えていたアイリ・フリード(迷いの月・b83530)は、常に一定の距離を保って攻撃を続けてきた。猛毒を与えながら徐々に弱らせていけばあるいはと考えていたが、やっとこさ昆虫が弱ってきた気がする。
「今が畳みかけ時なのかな?」
 飄々とした口調とは裏腹に、蛇腹剣のAtropa bella-donnaを構え直したアイリの表情が鋭さを増す。
「出でよ神滅の凶刃! 汝の名はダーインスレイヴ!」
 烏頭森・万葉(億千万の棘茨荊・b60331)も神霊剣で斬りかかった。
 チーム【夢琴】の面々も、己を奮い立たせる。
 浅野・クリューナ夢衣(ナイトメアと現を歩む夢使い・b44387) は、「みんなに守護の力をお願い、ほーさん!」と周りのみんなにも届くように、何度目になるかわからないサイコフィールドを放った。
「蟲同士ですもの、藪での動きなら負けませんよ……!」
 稲田・琴音(蟲人・b47252)は、しぶといというならばと癒しを妨害する神霊剣で何度も斬りかかってやった。その合間に機会を見つけては周囲の竹を薙ぎ倒す。
「何処にも行かせるものですか!」
 琴音は周囲の竹を格子状にして、昆虫の行く手を阻んだ。
 クリューナ夢衣もかわいい妹分に負けていられないと、天妖九尾穿を使い、九本の黄金色の尻尾で昆虫を攻撃する。
 それでも――それでも、昆虫は倒れなかった。
「無事か!」
 もう限界かと思ったそのとき、竹林の向こうから駆けてくる四足獣の対応班の姿が見えた。
「俺たちは他人じゃない、俺たちは一つだ!」
 比留間・兵庫(大学生ファイアフォックス・b14785)が、フレイムキャノンを打ちながら近づいてくる。
 ほかにもたくさん。もちろん全員ではない、半数以上は先に進んだのだろう。だが、少なくはない数の能力者たちが合流すべくこちらに駆けてきた。
 その希望が対応班の心を奮い立たせた。
「――――ッ」
 星枢・ざから(星辰に棲まうもの・b45001)は、仕切りなおしとばかりに咆哮する。
 砕き引き裂き、切り裂いて。噛み千切り、噛み砕き突き進めばいい。
 昆虫が意思のない目で、ざからを見る。
 受けて立つと繰り出した獣撃拳が、昆虫の堅い甲殻に穴を開けた。
 どおぉっっ!!
 切り払われて、すっかり広くなった竹林の一角に、昆虫がその巨体を横たえる。
 一同が見守る中、昆虫は最初からいなかったかのように霧散した。


●天からの襲撃
「あれは何だ?」と誰かが空を指差した。
 明らかに不自然な雲のカタマリが空に浮かんでいる。
 空といえば、思い当たる神将がいた。そう、魚だ。
 このまま進めば、道はあの雲の下を通る。道はけっして細くはないが、横には雲を避けて通るだけの余地がなかった。道から大きくはずれようとしても、何か不思議な力で押し返されてしまうのだ。例外は神将のいる場所に向かうときだけだった。
「仕方がない、上空に気をつけながら一気に抜けよう」
 幸いなことに、四足獣班のうち、休憩や竹林の援護などで足をとめずにきた者たちが追いついて来ている。いざとなれば彼らも対処に動けるだろう。
 ちなみに昆虫班からは、撃破したとも追いついたとも、一切の連絡が届いていない。魚の神将も撃退ではなく足止めするのが目的だが、一同は不安を拭いきれなかった。
「此処は任せて、先に行け!」
 それでも、アラストール・セブンセントラル(高貴なる義務・b05350)は言い切った。
 助けられるものなら助けたい、その力となれるならなりたい。少し前に、助けられなかった遠い仲間が居たのだから、尚のことだ。
 アラストールの思いが籠った力強い言葉を聞いて、本隊と他の対処班は先に進むことに決めた。
 ざあああああ……!
 怪しい雲の下に差し掛かったとき、どこからともなく滝の流れる音が聞こえてきた。
「やっぱり」
 この雲の中に、おそらく空に浮かぶ島があるのだろう。そういえば、天高く滝から水が落下するとき、滝にならずに直接雲になってしまうと聞いたことがある。あの雲はそれだろうか?
 ひゅうううっ。
 突然、地面さえ巻き上げるかと思うほど強い風が吹き、頭上の雲が晴れる。
 はたして、そこに空に浮かぶ島はあった。
 中央に山、周りに森。山から一本の堂々たる滝が流れ落ちているのがわかる。
 島の下部にはむき出しの岩がゴツゴツとくっついていた。そこから飛び石のように小さな岩が数十個ほど浮かんでいて、地上との橋渡しとなっている。
 島も岩もまったくどういう原理で浮いているのかはわからないが、とにかく浮いている。
「……まぁ、分かりやすい場所ではあるな」
 鷹峰・京護(国護りの影祓い・b04005)は、予想通りの風景にポソリと呟いた。
「美鈴ちゃんと蘭黒ちゃん、早く元に戻してあげないとね♪」
 京護の隣りで感覚を研ぎ澄まし、周囲に警戒しながら、鳳・流羽(門吏の符呪士・b03012)は決意を顕わにする。
 数百人が移動するのだ。魚も気付いて攻撃を仕掛けてくるだろう。
「……さて、やるか」と京護は己の力を高めた。流羽もヤドリギの祝福を自分と京護に授けながら、思っていた疑問を口にする。
「んー……これって登竜門てコトなのかな?」
 神将になるための試練。確かに登竜門と言えるだろう。
 ふと、風が揺らいだ。
「音が変わったよ!」
 耳を澄まし、滝の水音の変化に注意していた高崎・優一(真モーラットの花嫁・b24417)が言う。
 優一のその言葉が何を意味するのか、共に来ていた結社【モラの事務所】のメンバーはすぐにわかった。鋭い感覚で異変を察した酉谷・政吾郎(太陽は全てを照らす・b24691)は、空を見上げて、「来るぞ!」と周りに警告を発する。
 一同に緊張が走った瞬間、上空から五メートルはある巨大な影が現れた。魚だ!
 黄金色に輝く鱗、少し厚い唇。ひとことで言ってデカイ鯉だった。
 もろもろのインパクトにもめげず、政吾郎は即座にライジングヘッドバットで応戦する。
「丸呑みしようってなら、腹から突き破ってやるぜ!」
 これでダメなら焼いてやるつもりだ。煮ても焼いても食えないっぽいが。
 ぎょろりとした眼を政吾郎に向け、望みどおりに食ってやろうと魚が巨大な口を開ける。
 覚醒モーラットピュアのカントも、優一の大事な人たちを守るべくパチパチと花火を発し、魚を牽制した。
「例え見知らぬ相手でも、友と肩を並べた者は助けるのが武士の心意気! さあ、どこからでもかかって来るがいい!」
 ウルリッヒ・タイラ(黒風白雨の人狼武士・b84282)は、本隊を安全に通すため大声で魚を引き付けた。ムダに騒がしいウルリッヒに魚はまんまと引っかかる。「降り注ぐ滝の水は雨粒も同じ。その様な場に暮す身で、嵐の王たるこの私に勝負を挑むとは愚かな!」と天雨豪流でぶっ飛ばしてやった。
「ほら、こちらですよ!」
 パンパンと大きく手を鳴らし、長瀬・三月(天地の間で踊る夢・b25057)も魚の注意を引く。
 魚は狙いを替え三月に口を向けた。そこへ居勢・譲(白の守護者・b49003)が進み出て立ちふさがる。
「魚よ、私の巫女には鱗一枚とて触れさせぬぞ」
 永海・刃月(欠けた月・b82678)も、三月のすぐ傍で彼女をかばった。
「魚風情が私の可愛い妹に手を出そうとは……万死に値しますよ。さ、凍っておしまいなさい」と月煌絶零で魚を凍てつかせる。
「もう! 譲さんに刃月さん、私は巫女でも妹でもないんですからね」
「むぅ……三月よ、まだ巫女になってくれないのか? まだ先は長いか……」
 しょんぼりしながらも、譲は魚にきっちりと紅蓮撃をお見舞いしている。
「譲さんには、名前で呼んで欲しいのにな……」
 ちらりと譲を見た三月。その呟きは聞こえていたようで、「何か言ったか?」と聞き返されてしまう。「何やら大事なことの様な気がするが……?」
 恥ずかしがって「聞こえていないですよね」と慌てる三月を、刃月は「あらあら、可愛らしいこと」とこっそり微笑む。自分の方を向いていないのは少々口惜しいけれど、それも一興。「簡単に手に入っては面白くありませんものね」
 そんな刃月に「はっはっは、これがオレの武士道だぜ! どうだ見たか永海」とウルリッヒが話しかける。返事はもちろんなかった。
「……って、コラ無視すんなよ!」

 現れた途端、ボカスカ殴られて魚はヒラリと身を翻した。
 非常識にも空を泳ぎ、そのまま天空に浮かぶ島の滝へと帰っていく。
 ひょっとして追いかけてこない? 足止め成功? と一同が空を見上げていると、しばらくして再びひゅーーんっ! と落ちてきた。
 どうやら、ヒットアンドアウェイを繰り返すつもりらしい。正直、ウザイ。
 島は空に浮いているため、そこに棲む魚が現れる範囲は岩山や竹林の比ではない。広範囲だ。本隊や他の対処班がその範囲から出るには、かなりかかってしまう。
 そのためにはなるべく地上で引きつけ倒しきるか、滝に戻ったときに追いかけて島で足止めするしかない。臨機応変に対処しよう。即座に決めて実践する。
「ほら、こっちだ」
 再び降りてきた魚に、総六・逸(葉片風・b02316)は、本隊から引き離すように反対側から水刃手裏剣を飛ばした。
「きゅぴきゅ!」と覚醒モーラットの雫石もパチパチと花火を放って、逸を手伝う。
 そんな逸と動きを同じくして、結社【Chaser】の面々も魚を殴ろうと左右に展開した。
 愛良・向日葵(元気二百パーセント・b62143)は思う。みんなみんな、助けられたら良かった。でも、落ち込むのはここまでだ。
「その分も今日は皆を助けて回るのだー!」
 向日葵は、魚に丸呑みされないよう気をつけながら回り込む。
「よーし、頑張っていってこーい!」と、桃野・香(夜焔鬼・b28980)は次々と黒燐奏甲で援護していく。隠された言葉は、『胃袋に』だということを仲間は知っている。
「お魚どこですかっ」
 食べられないのに、ついドキドキしてしまった日向・るり(蒼空に揺れる向日葵・b06322)は、照れ隠しついでに呪いの魔眼で魚を見た。
「釣ったお魚さんが毒で食べられないけど……じゃなくて!」
 うっかりまた呟いてしまい、るりはほっぺぺしっと叩いて気合入れ直す。そんなるりに、「何か青白い猛毒はメインディッシュのスパイスになるって聞いた事がある!」と香が本心だかフォローだかわからない言葉を返していた。
「テオちゃん、そっち行ったよ!」
 全体を見ながら援護していた向日葵が声をかける。魚がぽっかりと虚空へと繋がりそうな口を開けて、迫っていたのだ。
 回避は間に合わない。魚に飲み込まれるのは仲間共々覚悟済み、とテーオドリヒ・キムラ(風と共に在りし守護狼・b37116)は、避けずに仁王立ちになる。
 今度こそ、救える命を救うのだ。理事長の想い人、救えなかった雨堂・盾哉の事を想い、テーオドリヒは唇を噛みしめた。
「零距離射撃なら外しようがねぇ!」
 クロストリガーをその口の中へぶっ放す。
 ゴリゴリと周囲の土を削りながら迫り来る魚の口に、テーオドリヒは呑みこまれる。傍に誰かいたなら、一緒に飲まれていたであろう大きさだった。
「その口開けた事、後悔しとけよッ!」
 暁葉原・燵吉(炎塵・b04308)は、魚のエラあたりにフレイムキャノンを叩き込む。
 生半可な心意気じゃ足止めにもならねぇ。倒せたら倒すと決めていた。
「焼き魚になる前に吐いとけ」
 まだ魚は口を閉じていない。今、吐かせるしかない。燵吉は二度三度と拳を振り上げる。
「二度と閉じれん口にしたる。撃ち抜くで!」
 半開きの口に身体を突っ込ませ、相澤・悟(なんてん・b03663)もロケットスマッシュで畳み掛けた。手を伸ばし、テーオドリヒを引っぱり出そうとする。
 それを見た瀬尾・アヤメ(だんまりの花・b76589)は、【盟臨館】の仲間と駆け出した。
「吐き出しなさいっ」
 インパクトを魚の目と目の間に叩き込む。
(「こいつは絶対、ここから逃がしませんから」)
 目の前の仲間も神将の二人も助けるために、アヤメは全力を尽くす。
「花、後ろは任せた! アヤメ、何としても動きを止めるぞ!」
 天瀬・煌輝(蒼雲天煌の護者・b47328)も、魚の顎を落とさんと黒影剣で斬りかかった。
 その衝撃で、テーオドリヒと悟が魚の口からごろんと転がり出る。「口ん中で暴れたったで」と悟が傷だらけの顔でにやりと笑った。
 彼らを背後にかばいつつ、「悪いがここで俺達の相手、して貰おうか!」と煌輝は立ちふさがる。
「ヤドリギの祝福を!」
 無理はしない。みんなにも無理はして欲しくない。そう願っていた藤森・花(ふつうのおねえさん・b76292)は、癒しを届けながら「全力で抑えてみせるから」と魚を睨みつけた。
 花、渾身の茨の領域が発動する。
 が、相手は腐っても神将だった。魚は対処班の追撃を振り切り、再び滝へと戻っていった。

「行くぞ!」
 一同とて、それをポカンとただ見ているなんてことはない。
 地上に魚を留められないとわかった瞬間、動けるものから順に助け合い、浮き石を伝って天空の島へと向かっていた。
 それほど登ったつもりはないのだが、雲が眼下に移動し、空に浮かぶ島が近づいてくる。
「これは蓬莱島なのか? もしそうなら何かありそうな気がするが……」
 木花・葬汰(孤高の羅刹・b83651)は、「魚退治終わったら、時間が許す限り空に浮かぶ島を探索しよう」と密かに決めた。
 気にはなるが、今は神将たる魚を倒すことが先決だ。葬汰は気を引きしめる。何しろここは敵陣なのだ。弱さに繋がる余計な事は考えない。その先に誰かの望む再会があるのなら、負けるわけには行かないから。
「ほぉ……これはまた絶景だな」
 飛び岩を登りきった藤堂・焔弥(鬼島津・b68516)の目の前には、仙人が住んでいそうな立派な山がそびえていた。
「空に浮かぶ島とその滝に住まう巨大魚か……まるで滝を登りきると龍にでもなりそうだな」
 この絶景を写真に収めたり絵に残しておきたい位だが、そうも言っていられない。
 焔弥は用意していた偏光サングラスをかけて、水の中の魚を確実に目視できるよう備えた。
 グネリと滝の中を泳ぐ、おかしなサイズの魚影が見える。
「デカイな……おもしれぇ。三枚に卸して刺身にしてやるよ!!」
 滝の半分はそのまま空へと流れていたが、残りの水は留まり滝壺を作っていた。そこへ籐村・御海(異体伝心・b75747)がドボンと飛び込む。御海は真水練忍者。水の中でも呼吸ができる特性を生かして、魚の動きを監視するためだ。
「そっち行ったって!」
 御海と以心伝心の籐村・御陸(敬天愛人・b75746)が、周りのみんなに声をかけて回る。「丸のみしようとスタンバってるって注意ー!」
 ざばあっっと飛沫を煌かせ、魚が滝から現れる。その口先には水刃手裏剣を打ち込む御海。丸のみされそうだのは御海だったのだ。
「ウミを丸のみにしたら、許さないんだからー!」
 飛び出した御陸の龍顎拳が魚のアゴにヒットする。同時に飛び出した、香我美・允(ムルさん〜吟遊ピエロ〜・b16223)と秋矢・基(真福座跡・b59852)も拳を振りかぶった。
 允はレゾナンスナックルで横っ面殴りつけ、魚の口から御海を遠ざける。思ったよりしっかりとした手ごたえに、「鱗、固くて痛ったい!」と声が出た。
 逸らされた口の中目がけて、基は天雨豪流を撃つ。いきなり口の中に勢いよく水を大量に撃ちこまれ、魚はエラから水を吐き出すことで勢いをなんとか弱めた。
 せっかくの獲物を奪われ、魚もやられっぱなしではいない。
 大きな身体を震わせると鱗をすべて逆立てる。黄金のまつぼっくりのような姿になったかと思うと、それらを一気に撃ち出してきた。
 ずしゃっずしゃっ! 四方に散らばった鱗は巨大な刃となって襲い掛かる。
 身は抉れ、骨が見えたが、能力者たちはひるまない。
 九曜・尚人(幻霧斎・b05691) は病魔根絶符を飛ばし、仲間の傷を癒していく。
「土蜘蛛の真の力を、見せてあげるわ!」
 援護を受け、桜庭・柚樹(寒緋桜の雪夜叉・b32955)は立ち上がって紅蓮撃で魚の腹を焼いた。
 真フランケンシュタインFWの鞘斗にかばわれた赤壁・静香(黒薔薇の花嫁・b43853) は、急いでゴーストフォートレスで愛する人を癒した。
 静香の無事を確かめ、草壁・狂矢(世界の破壊者・b64119)は鞘斗と共に駆け出して、ロケットスマッシュをお見舞いする。
「さぁ、この呪われた瞳で君を蝕んであげるよ」
 お返しとばかりに、ヘイゼル・ローレンベルグ(静寂なる風の流れ・b54104)も呪いの魔眼で睨みつける。
「美鈴、蘭黒、待っててね。今、自由にしてあげるから……」
 この身はこの地にあっても、心は彼女たちと共にある。神将たちとは縁はないが微力をつくすと、白仙・雪狐(雪嵐狐・b81896)も己を癒しながら狐の耳と九つの尾を出した。
 巨大な霧の巨人を纏い、美沼・瑞穂(鮫牙忍者・b06580)も立ち上がる。自分にはまだ霧影爆水掌もある、練達レイピアだって使える。負けられない。
 自分で癒す術を持たない黒澤・夜斗(と呼ばれていた男・b21583)は、ただひたすらにインパクトを使い続けた。

 倒せたらラッキーと臨んでいた緋薙・悠(ルナエンプレス・b52942)も、結社【白銀寮】の仲間と共に戦い続けていた。
 真ケルベロスオメガのアルも悠の意志を汲み取り、立ち向かっていく。
「ほら、こっちを向きなさい」
 天鳥・てふてふ(真電脳魔女っ娘・b00248)の蒼の魔弾が鼻先で炸裂し、魚は向きを変える。
 その隙に、密かに滝の上に移動していた文月・裕也(太陽と月の着ぐるみ探偵・b33412) がエアライドで接近し、魚の死角から不意をつく。
 背中に異物を感じて、魚はビチビチと身体を捻る。再び刃の如き黄金の鱗が宙を舞い、裕也とてふてふを切り裂いた。
「そう暴れるな、刺身になりたいか?」
 振り落とされないよう、両足で身体をしっかりと支えて裕也は黒影剣を振るう。
 想愛満月を使い癒しを与えた悠は、ある事に気づいた。魚の動きがかなり鈍くなってきている。鱗の色が褪せて、最初見た見事な黄金色ではなくなっていた。
「今です! 一気に!」
 悠の声に、対処班の全員がラストスパートをかけるべく技を繰り出す。
 雷光か、炎が、拳が、刃が、それこそ雨あられと魚に突き刺さり、降り注いだ。
 そんな中、藤堂・焔弥(鬼島津・b68516)が最後にとっておいた聖葬メイデンが、弱って逃げようとする魚を残酷に包み込む。
「終いだ。三途の川へ還りな」
 金色の鱗を、飛ばすのではなくハラハラと散らせながら、魚の神将はドボンと滝壺へ落ちた。
 一度プカリと浮かんだが、見ているうちに霞と消えていなくなった。


●カゲフミしようよ
 神将席への道はまだ遠く、影も形も見えない。
 そんな中、不意に道幅が広がり強い風が吹き始めた。朽ちた木立がカサカサと音を立て、砂埃と共に枯葉が舞う。一同は枯れ野に到達したのだった。
 今まで青く澄んだ空は遠くなり、薄曇の日の白っぽい空に姿を変えた。日はあるが、冬の弱い日差しに似て、すっきりとしない。かといって、日が差していないわけでは決してない。
 枯木立のもの、自分たちのもの、輪郭がぼやけたいくつもの影が枯れ野に落ちていた。

「さあ、お二人を運ぶ係の人たちは早く行ってください!」
 ここでも対処班は言葉で本隊の背を押した。ルシア・バークリー(リトルウィッシュ・b28515)の声を合図に、本隊と対処班は守られながらこの枯れ野を抜けていく。
 ルシアは恋人のイグニス・ランフォード(近接武術師・b42985)と背中合わせになり、周囲を警戒した。
「足止めは任せろ! そっちは任せた!」
 イグニスも本隊に声をかける。イグニスはルシア側に影が現れたら、割り入って守るつもりでいた。ルシアもそれはわかっていたが、もちろん自分でも打撃用棒杖の 『CANDY@DANCE』で守るつもり。
「影は任せとけ!」
 永倉・エイゼン(朱雀は煉獄の空へ・b41066)も本隊を笑って見送った。美鈴と蘭黒が元に戻った時の友達の笑顔が見たい、だからがっつり手伝うのだ。
 二人が神将席にたどり着くまで持ちこたえればいいのだ。なら……楽勝だ。いつでもオトリ弾を放てるよう、エイゼンは目をこらして影の襲撃に備えた。
「きっちり足止めしてやろうじゃない」と、神居坂・縫(碧き風炎・b67463)は、ゴーストチェイスであたりを探る。相手は幻影、引っかからないだろうけどうまく行けばもうけものだ。
 アヤカシの群れを呼び、影の居場所を突き止めているのは寺見・嘉月(星詠みの金月・b74452)だ。気配を感じたほうへとアヤカシたちを放ち、何か変わった動きがないか見ていた。
 影との勝負は、とにかく相手の居場所を突き止めること。そう考えた泉・火華流(小学生ナイトメア適合者・b83900)は、用意してきた偽身符を枯れ野に配置させてもらった。
 かれらに楽器を吹かせたり、ハーブを持たせたりして、聴覚と嗅覚、どちらに反応しやすいのか調べるためだ。今のところ反応はなく、どうやら相手はこちらを視認しているようだとわかった。
「影さんこちら……」
 本隊から離れるように、水原・風戯(禍福の風・b64135)は覚醒サキュバス・ドールの綾と共に、囮になるべく思い切って枯れ野に大きく踏み出した。
「……」
 そのとき、初めて異変が生じた。
 風戯の足下、風戯自身の影からゆらりと黒いものが立ち昇ったのだ。これそが神将「影」。
 どごっ!
 影は人間ほどの黒いカタマリとなって風戯を殴り、枯れ野の奥へと大きく吹き飛ばした!
 風戯とは別の方向に踏み出していたリグ・マルヴァス(眠り獅子・b84719)は、その光景を離れた場所から見ていた。ひょっとして鳥ではないかと疑い空も警戒していたが、その姿を見てやはり敵は影だったと確信する。身振り手振りで合図をしつつ、リグは鏡雨転身で周りに知らせて回った。
 風戯が攻撃される一部始終を、松永・小草(高校生真鋏角衆・b77892)も見ていた。
 影は、風戯の影から現れて襲い掛かっていた。つまり影から影へと素早く移動したあと、相手を殴ると同時に遠くへ吹き飛ばすことで、そこから人がいなくなったように見せていたのだ。もちろんそれだけが攻撃方法ではないだろうが、少なくともひとつはわかった。
「ほっ、本隊の進行方向に対し0時方向!」
 大声で影の逃げた方角を告げながら、小草は覚醒蜘蛛童・爆のアヤメと武装解除弾を放つ。
「そこですのね!」
 影の能力は、影から影への空間転移。そう考えていた風薙・葉月(神なる蟲の巫女姫・b83330)は、小草の声に即座に反応し、最寄の影に向かって白燐侵食弾を撃ち込んだ。
 影はかなりの距離を転移できるようだった。ただ、じっくり観察して、絶対に「影」という条件が必要だとわかった。ならば手はあると葉月は白燐光を出して辺りを照らし、影が潜むべき「影」自体を消し去っていく。
「手伝うわ」と、ユゼン・クロイラ(水月と君をいだきし鋼の花・b35092)もランプを手に近づいた。するとそのユゼンの足下から、するりと影が立ち昇り襲い掛かってきた。
「……!」
 真フランケンシュタインFWのラピが、ユゼンをかばって吹き飛ばされた。
「オマエ、こっち来い……」
 影を見つけた天野・イタカ(忌垣八重垣・b85103)は、オトリ弾を放って影を引き付けようとする。少なくとも本隊が枯れ野を出るまでは、こちらに足止めしなければならないのだから。
 しかし、影はオトリ弾に引っかかることなく、またするりと消えてしまった。
 少しの異変も逃さない。綾瀬・千鞠(祝福の娘・b31068)は感覚を研ぎ澄ませた。
 その背後、枯木の影から『影』が伸びてくる。それをすばやくナイフでガードし、千鞠はクレセントファングで蹴りつけた。
 そこへ、レオナ・ダオレン(彷徨う狐は何を見るか・b71278)が幻楼七星光を使う。相手が影なのだから、やはり強い光に応じて姿が見えやすくなるのではないか。そう思ってのことだったが、現れた七つ星の光を嫌ったのか影はピタリと動くのを止めた。

「光で追い払う」作戦は功を奏し、影は本隊に近づきたくとも近づけない様子だった。
 しかし相手は神将。それで終わるわけもなく、今度は光を用意している者たちを狙い始めた。影を完全になくすほど光の量が多くなければ、そこに必ず影はできるのだから。
 たとえ攻撃されなくとも、影が姿を見せればどうしても反応をしてしまう。その隙に別の場所に転移した影は、死角から現れてひとりずつ殴り飛ばしていく。
 どがっ! どがっ! と荒野に影が誰かを殴る不気味な音が響き渡った。
 深追いと孤立は厳禁だと、チーム【壊刃】のメンバーは決めていた。相手の居場所や正確な攻撃法方がわからない以上、それは包囲網の崩壊を意味するからだ。
「心強い皆様と一緒の戦い、無様は見せられませんわ」
 儀水・芽亜(夢何有郷・b36191)が、影の居場所を探るべくアンチウォーヴォイスを響かせると、浅葱・悠(星黎の紡ぎ手・b01115)と梶原・沙紀(破暁の先駆・b21488)が、両端から中心に向かって移動する。
「隙なき行動はない、世に捉えられぬ存在などない」
「ボクは枯野を駆ける一陣の風、影だろうと逃がさないよ」
 悠は静かに長剣の星黎剣【白鷺】を構え、沙紀は不敵な笑みが浮かべ蹴りを放った。
「背中は任させて貰いますよ、存分に戦ってください」
 後方に控えた村上・輝(夢見る奏者・b47795)から、悠に想愛満月・絢爛の支援が飛ぶ。
 範囲攻撃であぶりだされ、輪を閉じるように追い詰められた影が、ぶわりと膨れ上がり沙紀に襲いかかった。
 ぶうんっ! と沙紀は遠く吹き飛ばされる。
 その一瞬の隙を突いて、影はまた転移してしまった。

 逃げられはしたものの、対処班は「範囲攻撃で絞り込むことはできる」という重要な情報を得ることができた。
 どうやら影は、潜んでいる状態でも攻撃されればダメージを受けてしまうらしい。だから場所を攻撃されると逃げるか、反撃してくるのだ。
 これで影の捜索が多少は楽になる。怪しい気配を感じたら、そちらに向かって技を繰り出せばいいのだ。いつ襲撃されても対処できるよう、一同はいっそうの警戒をした。
 結社【ミゼリコルディア】の面々も、影の居場所を特定するべく揃って動いていた。
「神将、影の戦闘を実況致しますわ、アナでございます!」
 その様子をアナ・ウンスー(只今実況中・b64948)が実況していく。
「姿見せたくないってんならさ」
 楡崎・洋子(唯尊・b16444)は、おもむろに手を振りかぶった。
「見えないまま消えてきなさいな」
 殺戮ハウンドで呼び出された針金細工の猟犬たちが、すべての影を喰らわんと駆け抜けていった。
 その中で、ピクリとおかしな方向へ動いた影がある。
「今、匳君の所に行ってます! 気をつけてください」
 言われた六桐・匳(青藍水月・b66454)は、自分の足下から影が膨れ上がるのに気付いた。反応する前に、影が匳を吹き飛ばそうと襲い掛かる。
 ぼぐうっと鈍い音がしたが、アナの忠告のおかげで匳は攻撃を堪えた。
「こっちには何が何でも助けなきゃなんねー奴らがいる。だから邪魔すんなよなぁ」
 お返しのクレセントファング! そこへ、 橘・鞠絵(楽園に咲く黒百合・b23279)も「見極めてしまえば、なんとかなります」と暴走黒燐弾を重ねた。
 木村・小夜(神様よりも大切なもの・b10537)は、匳に白燐奏甲で癒しと支援を送る。
「私達が、認識、出来ないのなら、空間ごと……!」
 小夜は誰かが倒れたときは使おうと、いつでも白燐拡散弾で影を察知できるに身構えた。
「他の神将を予定通り倒せるとも限らないし、足止めにとどめる必要はないよね♪」
 チーム【御堂物産】の真中・縫子(笑顔を君に・b75389)は明るく言い放った。
 感覚を研ぎ澄ましていたレーゲン・シュトゥルム(シルフィード・b53698)が、わずかな異変を感じ取る。懸念をなくすため、致命電光で枯れ野をなぎ払った
 すると不審な動きを見せた影がある。すぐに動かなくなったが近くにいるはずだ。
 ふと、真中・夏美(中学生真霊媒士・b80612)の耳に鈴が鳴る音が届いた。真ケットシー・ガンナーのルーシーと夏美が身につけていたものだ。
「ルーシー!」
 夏美の声に反応して飛びのいたルーシーの足下から影が立ち昇る。すかさず、二人で雑霊弾と銃弾を打ち込み、影が逃げるのを引き止めた。
 そこに真中・由武(は今日も全力疾走・b54066)が走りこんでくる。
「これなら、また影に入りにくいでしょ?」
 影をグラインドアッパーで空に向かって吹き飛ばした。
 その影をタイマンチェーンで捉えながら、「……私が相手じゃ不満かな」と暁・早妃(若き白虎・b83335)が挑発する。
 姿が見えた今がチャンスとばかりに、神楽・美沙(妖雪の黒瑪瑙・b76178)も「相手が強大であろうと、信義により退くことはできぬ!」と、さよならの指先で影を凍りつかせた。
 怒りにくらんでいた影は冷静さを取り戻し、攻撃をせずチェーンを振りほどいて、再び影へと潜んでいった。

 シーナ・アルファッド(ヴリトラハン・b58350)は、自分や【砂影】の仲間の影を眺め、「ありえないって思い込みは禁物か」と呟いた。
 実際、影と対峙したほかの者たちから、自分の影に襲われたという報告はすでに受けている。「いつでも攻撃ぶちこめるよう、注意しとくかね」と、シーナは警戒を強めた。
(「神将といえど、永遠に生きねばならぬのは辛いでしょう」)
 考え事をしていた都筑・騰蛇(穢れ無き鋼のプライド・b08282)は、ふいに己へと向けられた殺気に反応して黒影剣を放つ。シーナが気にしていたとおり、足下から影が顕われた。
 この封神台は正しく魂の牢獄か。あの二人を復活させたい事はやまやまだが、果たして美鈴と蘭黒はそれを真実願っているのだろうか? 
 切り裂いた影を見て、騰蛇は自問せずにはいられなかった。
 どこか危うい、そんな騰蛇の背中を守るのはこの私と、黒桐・さなえ(甘党で乙女な符術使い・b20828)は追い討ちをかけるべく光の槍を放つ。
 月舟・朔太郎(小学生ルナエンプレス・b82924) も、「相手が影だろうと、この光で溶かしてみせよう……」と、現れた影を極月煌光で照らしてやった。
 幾人の能力者たちに取り囲まれ、即座に反応された影は、攻撃方法を変えてきた。不意を打つのは諦め、身体を顎状に変えて襲い掛かってきたのだ。
 いきなり地面に影で描かれた顎が開いたかと思うと、にゅうっと立体的に地表に現れ、バクンと閉じた。上にいる者たちすべてを呑みこんで。
 朱残・誄火(灰紅葉・b18864)もそれに巻き込まれ、全身を噛み砕かれるような衝撃を受けた。
「やられっ放しは嫌いなもので。絶対に逃しませんよ……!」
 足止めではなく、もともと倒すつもりだった。誄火は顎となった影に、天妖九尾穿をお見舞いする。
 栗原・嘉狼(獅子と狼の殴斬劇・b60760)も、一緒に顎の一撃を受けていた。次に覚醒フランケンシュタインの獅子丸を中心に現れた影の顎に、「そこか!」と詠唱ライフルの桜灰・試験型を打ち込む。獅子丸がサンダーブラストで応戦するのを傷をおして、嘉狼はさらに射撃で追い詰めた。
 そこに血のごとく赤い腕があわられ、影の顎を引き裂く。逆上・夜刀(紫黒を繰る虚白の夜叉・b04904)のカラミティハンドだ。
「ここでもない……デッドエンドの力は何処にある……?」
 夜刀の目的は、この影の神将の幻影を倒すことにあった。だが、手ごたえは望んでいたものではなかった。影を倒せたなら、夜刀は未練なく帰ることだろう。
「喰らうつもりで覚悟しとけば……耐えられるぜぇ!」
 影の顎に捕らえられながら、紅十字・黒猫(骸装殲鬼・b01443)が吼える。そのまま顎が閉じようとするのがわかるが、そうは問屋が卸さない。
「俺の全力、喰らっとけ……ちなみに釣りはいらねぇぞ!」
 黒猫の、覚悟を決めた致命電光が炸裂した。
「今回はこっちが押し込み強盗するようなものだな」
 それでも手は抜けないと、月村・斎(閑人・b45672)は聖葬メイデンで、影の顎を更に上から包み込む。正義もへったくれもない気がするが、友のためだ。「あばよ」

 不意打ちも見破られ、とっておきの顎の攻撃も耐え切られ、殴られ続けた影は必死になって自分が隠れられる影を探す。
 見つけたと飛び込んだのは、金・秀元(柔麗剛獣・b19161)のものだった。
「自分の気持ちにけじめをつけなければ」と、秀元は封神台の中へ来た。その姿を見て、金・太元(不変の希求・b19166)は思う。せんないことだが、あの神将達六人全員の像が合ったならば、と。
「斬らせて、貰います……!」
 その思いを知った上で、手助けするべく如月・棗(焔超克・b17829)は現れた影の顎に斬りかかる。
「全身全霊、推して参る!」
 放つのは断罪ナックルだ。太元も「崩れ落ちろ!」と黒影剣で影の顎を斬りつけた。
 二人が開けてくれた場所に、秀元は進み出る。
 神将がどんなに強くったって、しょせん幻影だ。どんな攻撃だってきっとあの子の技より効かない。
「これなら、睡藍の方がよっぽど強かったよ!」
 秀元の瞬断撃が、影の顎にを真っ二つに切り裂いた。
 影は顎の形から、ただのカタマリへと姿を戻す。
(「死の世界により肉体は朽ち果て、形無き『影』だけの存在と成り果てる……哀れなだな」)
 人でもない、何の形というわけでもない。ただそこにあるというだけの影を見て、玖堂・統夜(黒の確約者・b05760)は、思う。
 形すら無き、力の残滓が還るべきはただの『無』だ。
「今こそ、輪廻の呪縛から解放され……乾かず飢えず無に還れ」
 統夜のダークハンドが神将だった影を切り裂き、消散させた。


●花の誘い
 美鈴と蘭黒の石像を送り届ける道のりも、そろそろ終盤に差し掛かってきた。
 四足獣の討伐成功の報告のあと、昆虫と魚、影に関してはまだ連絡が届いていない。本隊の進みが速いのか、あの人数で撃破したため時間がかかっているのか、不幸な結果となっているのか、彼らに知るすべはなかった。
 また、討伐すべしと決めていた二体目の神将が、最奥の神将を除けば最後に現れることになっていたのも不運だった。これでは、予定通り、花の神将も討伐するつもりで対処するしかない。
 風に乗ってふわりと甘い香りがする。蝶であればうっとりと羽を休めてしまいそうな芳香の訪れは、一同が花の神将の領域に足を踏み入れたことを表していた。
 気がつけば、黒い彼岸花があちらこちらに姿を見せている。彼岸花自体が神将なのかはわからなかったが、とにかく警戒すべき存在には違いない。
 黒い彼岸花が見え始めると、セオドア・エフェメローズ(鮮血の貴公子・b47033)は一気に前に出た。
「蘭黒さんと美鈴さんには指一本触れさせないよ!」
 セオドアはスラッシュロンドで彼岸花を吹き飛ばした。
 地上の花だけでなく、地下の根にいたるまで完全に滅する勢いで極月煌光・散華を放つのは、空知・凪(華蝶拳士・b43818)だ。何しろ情報が足りない。花の一部が動くのか、園全体が動くのかわからない以上、凪は手は抜くつもりはない。「万が一石像に絡みつかれたら目もあてられんからな」
「この香りになんぞ効果があるやもしれん。気をつけられよ」
 同士討ちでもされても困るでの、と葛葉・玲(呪怨の森の巫女・b66094)は周りに注意を喚起した。
 玲は、【不破ノ剣亭】と名乗り共に来た蒼間・夜刀(禍つ蛇・b02968)に支援を飛ばす。
 夜刀は、花が根や枝葉を伸ばしそうだからと、回避しやすいよう目星をつけて彼岸花を切り払う。
 その隣りで、アイン・ヴァールハイト(コキュートス・b22629)は彼岸花を引っこ抜いていた。こうすれば、繋がっているなら嫌でも花の居場所がわかるだろうと考えてのことだ。
 ぐん。アインは引っこ抜いたひとつの彼岸花に手ごたえを感じる。
「そっちか?」
 顔を向けた先で、何かを見つけた者たちがいた。
「やっぱりそう来ましたか」
 密かに伸びていた黒い匍匐枝に、足下を警戒していた露木・水無月(月牙天翔・b43410)は気づいた。
 匍匐枝とは、ストロベリーやオリヅルランといった植物が持つ、地面すれすれに伸びる枝のこと。そこから新しい仲間を増やすべく芽や葉を出して増えるのだ。
 本来、彼岸花は匍匐枝など持たないはずだが、ある以上はしかたがない。絡めとろうと伸びてきたそれを、水無月はそうはさせじとクレセントファングで蹴り飛ばした。
 足下に警戒していたのは、レナータ・レシュリスカヤ(ルサールカ・b76066)も同じ。
「足下に気をつけて!」
 みんなに忠告しながら、レナータはラジカルフォーミュラで高速演算を行いつつ、花を探して慎重に歩を進めた。
 
 もっと大胆に花を捜索した者がいる。漣・夜半(ユハンヌス・b11134)だ。夜半は一切の迷いなく、黒い彼岸花咲き乱れる中心に向かって走り込んだ。
 そして気づいた。数ある彼岸花の中に、一メートルほどの背の高さの何かがあることを。
 どことなく少女に見えるシルエットなのだが、ゴテゴテと黒い彼岸花がくっつき、人というよりも花としか言いようがない歪な姿をしている。黒いそれぞれの花の中心から、先ほどアインや水無月、レナータが気づいた匍匐枝がたくさん伸びていた。
(「これが、花の神将……!」)
 本能的に悟った夜半は、花に向かってイーティングブロウを放つ。しかし思った以上の力で弾き返されてしまった。
「あれが神将? ……よし、行くよミナ!!」
 倒すべき敵がわかり、緋島・了(通りすがりのモラりすと・b26806)は、真モーラットヒーローのミナに声をかけた。
 ミナがモラスパークで周囲の彼岸花ごと花を焼く。了も負けていられないと、霊装武具「緋霞」で矢を放った。
 ユーフェン・シュヴァリッツェ(色鮮やかな魔法使い・b84722)も、本隊に花を近づかせまいと炎の魔弾で牽制する。
「ケロちゃんもお願い」
 ユーフェンの意思に従い、ケルベロスのケロちゃんも彼岸花に攻撃した。
「ここは私たちに任せてくれていいよ〜!」
 言いながら、紗白・波那(光巡る花・b51717)は本隊を見送った。
 きゅっと表情を引き締め、幻影兵団を使いながら【クラレットの花束】のみんなに声をかける。
「何としても倒さんといかんでのう。勝負かけるだよ」
 九頭龍・権座衛門(眠り髭熊・b73087)が応え、花に向かって飛び出した。気合い一閃。獣撃拳が唸る。多少無理しても敵を倒す意気込みだ。
「やっちゃえゴーレム! 花なんかに負けないよね〜!」
 がんばってる相棒のフランケンシュタインFWに、水原・椎奈(陽だまりの姫君・b31817)は声援を送る。
「皆、遠距離攻撃で攻めるわよ!」
 波那の合図に合わせて、椎奈も雑霊弾を飛ばした。
「止められる前に、止めて見せます……!」
 ホーリィ・ランプフィールド(インビジブルスマイル・b18301)も同時に蒼魔弾を撃ち込む。助けられる人がそこに居るなら。救える生命があるのなら、がんばるまでだ。モーラットヒーローのぐーちゃんも、ホーリィの気持ちを汲んでモラスパークで一緒に攻撃する。
「さあ、私の祈りに応えてくれ……『霜月』」
 愛用のナイフをかざして、極月煌光・散華を放つのは淳・空(月に願いを・b82500)だ。
「咲き誇れ舞い踊れ乱れ狂え、花の如く水の如く月の如く!」
 その言葉どおり、黒い彼岸花が赤い月に舞い散らされていく。
 月護・アミナ(月華・b82809)は、「お二人の事は知りませんでしたが……学園の仲間ですものね。絶対に助けるのですっ!」とさよならの指先を使う。「幻影さんにはご退場願いますっ!」

 この黒い彼岸花の花園は、大きな弧を描く道の内側に広がっていた。本隊を守りきるには、弧の始まり、中央、終わりと弧に接するどこからも警戒しなければならない。
 相手が周りを巻き込む技を使いそうな以上、突出は危険だとヴィラン・アークソード(新感覚極道系ホスト・b70542)は、充分な人数が揃うのを待っていた。
「よし、今だ」
 ヴィランのジェットウインドが生み出した上昇気流が、花を空へと舞い上げる。
「ファンガスたちがくれたチャンスだもん。必ず助けて見せるよ!」
 隠された森の小道で本隊のための道を作りながら、七海・悠樹(高校生真ヤドリギ使い・b63547)は言った。須釜・黎治郎(高校生魔剣士・b70526)も同じ気持ち。このチャンスをしっかり物にしないとと周囲に注意を配る。
 本隊を悠樹が見送った直後、地を張って近づくものがあった。花の操る黒い匍匐枝だ。
「出たよ!」
 伸びるそれを逆に辿っていけば、本体である花に辿り着く。
「お前に恨みはないけどよ……そこ、どいてもらうぜ!」
 黎治郎は地面から伸びる黒い手で花を切り裂いた。ケットシー・ガンナーの興覇も制圧射撃で援護する。
 レイラ・ミツルギ(魔剣士・b48060)は、弧の中央からいち早く花園に足を踏み入れ、ダークハンドを放っていた。
 蘭黒が再会を信じてくれている事を知ってる。美鈴が最後まで捕まった二人の身を案じていた事を知ってる。今も復活の為に全力で戦う仲間を知ってる。「だから絶対にこの幻影を倒して見せます!!」
 二人を助けたい思いは久遠・翔も同じだ。翔も見つけた花に向かって突っ込んでいく。美鈴も蘭黒も、翔の知る神将ラーララーニーの仲間だった。「絶対に助けてみせる、ラーラさんの友達として!」
 黒影剣で斬り付けながら、翔は今はいない友を思った。
「この身を挺してでも、護衛班は護る、護り抜く!」
 仲間達の手伝いが出来るなら、喜んでこの骨を粉にし身を砕く覚悟で戦おう。そんな思いで、毛利・煌(光恋う金猫・b81110)は蒼の魔弾を花へと放った。覚醒ケットシー・ガンナーのバステトも、制圧射撃で煌の思いを手伝う。
「いつもそういうのやってるんでしょ? なら大丈夫だよ今回も」
 今年になって銀誓館に来た内田・花耶乃(水冠・b84292)は、不安そうに彼岸花を眺めていた関屋・葵(小学生真ルナエンプレス・b82979)や、様子を窺っていた紫堂・小夜(小学生真水練忍者・b26122)、祭屋・宴(首狩御前・b38961)に声をかける。
「私に出来ることは攻撃する事くらいだから、がつんとやっちゃうよー」
 花耶乃の致命電光が、絡み付こうとする匍匐枝を横一線になぎ払った。
 白姫・みやび(シャイネンプリンツェッスィン・b42885)も、花が隠れている彼岸花ごとスラッシュロンドで刈り取る。
「助っ人卒業生一号ォパァンチッ!」
 鎖剣の鎖を拳に巻いて紅蓮撃を放つのは、南・行介(通りすがり・b38673)だ。【LEAVES】のかわいい後輩達が困っているらしいと聞いて駆けつけた。
 覚醒ケットシー・ガンナーのリヒトに前を任せながら、「花の動きを止めます」と比企・古杜(蒼き月華ののばら・b58965)は茨の領域を展開する。
「絶対に、お二人を助けましょう……!」
「さあ、そこをどいてもらいますよ!」
 言いながら、菊咲・紅樹(小学生サンダーバード・b74567)は雷の魔弾を打ち込んだ。続いて構えるのは炎の魔弾。「邪魔する悪い子は、燃やしちゃうんだからね!」
「想いは一つ 望みは皆で叶えてみせるの」
 慈愛の舞でみんなを癒しながら、三笠・輪音(夕映比翼・b10867)は言う。ファンガスとみんなとたくさんの縁と想いで繋いだ絆の強さは何にだって負けない。
「ファタ、皆の零れし命を補ってくれ! ミージュ、信じてる」
 稲垣・幻(ホワイトティーリーブス・b36617)は、身体に宿したファンガスと覚醒モーラットピュアのミージュに戦いの勝利を託した。
「植物を武器にするのも絡め捕るのも、貴方の専売特許ではありません事よ!」
 茨の領域に花を捕らえながら、ティアレス・セルシウス(気高き臆病姫・b41953)が言い放つ。
 セドリック・ヘブナー(睡臥・b50715)は、本隊で石像を守る結社の友人を思いつつ、カラミティハンドで花を攻撃する。
(「ひさめさんが、この日のためにずっと頑張ってきたのを見てきたから」)
 僕の力がなにがしかの一助になればいい。セドリックは思いを、祈りを、現実のものとするため戦う。
「あんたの、魂を寄越しなさい!」
 八雲・紫織(彷徨うマリス・b41675)が吼えるように言った。せめて、助けられる神将だけでも助けてあげないと。それがきっと、わたしの責任だから。
 紫織の吸血衝動を受け、花がドタリと倒れる。みるみるうちに萎れて枯れていった。
(「撃破した? でも……」)
 不審に思った紫織は、復活しないか念のため花を見ていた。すると、別の方向の二箇所から「うわっ!」と声が上がる。
 伸ばしていた匍匐枝を伝い、花が己の身体を分裂させたのだと紫織が気づいたのは、向こうで闘いの音が響いたから。しかも一体余分に増えるなんて。
「やってくれるじゃないの」
 紫織はクロスシザーズの『啼き叫ぶシュメッタリング』を抱えて走った。

 花には意識も思考もない。あるのはただ戦いの本能だけ。
 花はいつものように闘っていればいいと思っていた。けれど、向こうが自分を消し去ろうとしているとわかった以上、本気で闘わなければならないと気づいた。
 数には数で。花はストロベリーが匍匐枝の先で増えるように、いつもは絡め取るために使う匍匐枝の先で、つぎつぎと自分の分体を生み出していった。
「俺の戦い方を見せてやる!!」
 匍匐枝の先で新たに姿を現した花。それに向かって宣言するのは、吉国・高斗(赤マフブレイド・b05216)だ。隣りにいるのは、背中を任せている吉国・冬花(心はコミックマスター・b37620)のモーラットヒーロー、ムサシだ。
「ファンガス、お願い」
 さつきちゃんや紺碧の貴石が力を貸してくれてるんだから、ファンガスと共に歩んできた私も頑張らないと、と冬花は支援を飛ばす。
 そこに花が自分の味方になりなさいと、甘く蠱惑的な芳香を放った。
 思わず花に跪いて許しを請いたくなったが、「ここで俺が膝をつく訳にはいかないぜ!!」と高斗は堪えて、イーディングブロウをお見舞いする。ムサシもモラスパークで応戦した。
「私とファンガスの想いを込めて!!」
 不穏な動きをする花を止めるべく、冬花は強制共生弾でキノコをつけてやる。黒い花に白いキノコが一瞬生えた。 
「やー。こうしてみんなと肩を並べて戦うのも……って考えると、ちょっと感慨深いね」
 共に戦う【樹雨の虹】のみんなを見て、芦夜・恋月(縛鎖の中で足掻く狗・b10866)はしみじみ思う。
「んじゃ、一丁、私たちの団結心を見せちゃろうね!」
 大切な仲間と一緒に戦う恋月に怖いものはない。退魔呪言突きを花にぶちかます。
 封神台の中でいつもと勝手は違っても、やることは同じ。敵を見つけて倒すだけ、と都築・アキ(ストームブリンガー・b16871)も天雨豪流で彼岸花を押し流した。
 今回は結社の仲間もいるし、いつも以上に気合い入れないとな、と心の中で思う。無様な真似とかいうのじゃなくて、傷つけるわけにはいかないから。
「向こうも辛くなってるハズ ここが正念場!」と、美原・月(闇に放つ月輝・b15609)は幻影兵団でみんなを支援する。
 あの時、美鈴や蘭黒と同じ神将だった燕・十三を繋ぎ止めれなかった運命の糸の端を私は掴んで、今も放せない。だからこそ月は、繋がった糸の先に誰かがいるならば、絶対に絶対に途切れさせないと固く誓う。
 蕪菜・鈴菜(三尺聖域・b81577)も後方からジグザグスラッシュで援護する。自分は強くはないけど、でも、先輩たちの力になればいい。何より、今、このために頑張っている美原先輩の力になりたいと、鈴菜は全力を尽くした。

「さて、強友よ、行くぜよ!」
「ああ、早く倒して追いつかなければならんしな」
 鎧阿・震地(大地番長・b81978)の呼びかけに、軽口を叩きつつも返す推命・五行(無慙一心流・b81086)の表情は真剣だ。
「ワイが止めるけぇの一気に仕留めぇよ! 必殺! ナマズパンチ!」
 震地の八卦迷宮陣が撃ち込まれる。足を止められた花を、「無慙一心流、推命・五行。参る!」と五行が背負った斬馬刀で叩き斬る。
 移動を封じられた花は、ここでも身体をふくらませ魅了の芳香を噴出した。
 一度は花に心を捧げたいと膝をついたが、五行はそれをなんとか振り払う。
「俺が愛でる花は、貴様では無い。悪いな」
「ガーハッハッハ! 大地番長推して参るけぇの! 花になぞ負けんわい!」
 強友にみっともない姿は見せられんと、震地も立ち上がった。
 そんな彼らを祖霊降臨で癒しながら、緋坂・燐(氷想華・b53619)は思い出していた。彼岸花の花言葉の一種は、『悲しい思い出』だということを。「今この時を悲しい思い出にしない為にも、花には散って頂きましょうか」
 一面の花畑、って聞いて期待してたのに黒い。キモ怖系が苦手な四方・ナイナ(がんばる・b65610)も、「絡まってくる蔦なんか風で吹き飛ばすの!」と浄化サイクロンでみんなを助けようと奮闘している。あの時、蘭黒と美鈴を助けたいって頑張った全員の気持ち。ここで勝ってきちんと報われたのが見たいから。「みんながんばれ!」
「合わせていくわよ!」
「いっくのだー!」
 木島・御凛(ハイメガキャノン・b78807)と柳谷・凪(お気楽極楽あーぱー猫娘・b69015)も声をかけ合って突っ込んでいく。
「全力でふっ飛ばす!」
 先に繰り出されたのは、御凛のクレセントファング。「この一撃で全て断つんだよ!」と、それに合わせて体勢を崩した花に、凪が黒影剣で全力で切り込んだ。
 匍匐枝を伝っていた花は、増える途中で力尽きる。
「やったわね!」
 喜ぶ御凛と凪は互いをたたえてハイタッチ! ついでそして油断している御凛の背後から、凪は成長途中の胸も思いっきりハイタッチ! そのあとどうなったかは推して知るべし。

 予想はしていたが、花が放つ魅了の芳香はかなりやっかいだった。その上、匍匐枝の先で増えたりするものだから、黒い彼岸花の花園の中に戦場がいくつもできることとなってしまった。
 しかし、分かれた花の数のぶんだけ、元の花の体力は割られていることが感じ取れた。ならばと一同は各個撃破を狙い、花園全体に散らばっていく。
 その花のひとつと対峙しながら、柳城・明来(夜嵐・b23790)は、美鈴の護衛についている仲間の佐京・藤若(花信風・b42167)を想い、一心に黒影剣を振るっていた。
 自身も神将の史・睡藍に関わった身だ。護衛をしている彼らの願いが――再会が、果たされるように、全力を以って道を切り開こう。「……どうか無事、辿り着いてくれ」
 共に戦う【辻ヶ花】の仲間も、思いは明来と同じだ。少しでも藤若の、そして神将の彼女達の助けとなれるよう力を尽くすまで。
 速さを生かして、加賀・功貴(パシクル・b28520)は戦場の流れを掴む。普段の緩さとは打って変わった鋭い雰囲気で敵見据える。
「さァてお相手願おーか、余所見は許さねーぜ」
 道も席も、譲って貰うと、みんなを牽引しつつデモンストランダムを放った。
 目くばせして先を行った藤若のためにも、「此処は、譲れませぬ」と春日・吏月(雪桜・b32755)も花に立ちふさがる。
「みなさま、来ますわ」
 蟲笛の花神を持つ身、花の変化は見逃さなかった。ぷうっと根元をふくらませた花が、また広範囲に馨しい芳香を放つ。
 吏月の警告がなければ、みんなもろに受けてしまっていただろう。それでも何人かは花に魅入られてしまった。
 戦文字を描くつもりだった北條・千郷(華刀・b58321)は、「しっかりしてください!」と激を飛ばしながら、慈愛に満ちた癒しの舞でみんなを正気に戻していく。
 先を行く本隊の仲間を思うのは、チーム「深緑」のメンバーもそうだ。
 美鈴の護衛の任に就いた仲間の伏見・小道を守るため、あえてこの地に残ることを決めた。
 紅蓮撃で花を焼きながら犀遠寺・限(黄泉津の楔・b26238) は、「……思えば俺も欲深くなったな」とひとりごちる。
 戦う為に色々理由を持った。家族がここにいる、だから戦う。それで十分だと思う自分にも、限は少し驚いた。
 そんな限を想愛満月・絢爛で支援しながら、白山・小菊(懸崖菊花・b26103)は、目の前にいる、人格はおろか意識ももたぬ花の姿に胸を痛めた。
(「封神台を作った方は。どれだけの想いでこんなものを作ったのでしょうか……」)
 死の世界を塔一つにこめる。そして死なない人を作る。神将になった者がやがておかしくなっていくのも分かる気がする。
 でも、倒す。倒すことが弔いとなるといい。
 ふと先に行った本隊の方を見て、小菊は「……皆様どうか小道を……宜しくお願いします」と頭をさげた。

(「神将になるために、最奥までの旅、か。……睡藍もたどった道を、ボクもなかば追体験することになる、とはね」)
 今はもういない神将を思い浮かべながら、蓮華院・優花(アンノウンズ・b49546)は【隠れ家】のみんなとここまでやってきた。
 鈴鹿・小春(黒の咎狩人・b62229)は、「ロマンスは果たされないとダメなんだよ?」と、ここに来るまでの道中笑っていたが、今は表情を引き締めて、新たに生まれた花を見据えている。
 対峙した花を見て、西垣・直貴(月下影狼・b07386)は考える。彼ら神将が妖狐の物にならなかったのは幸いだが、助けられるものなら助けたい、と。
 しかし、その方法を探す時間がない。ならばせめてと直貴は黒影剣で斬りつけた。優花が無理していないか気にしながら。
「……流石に、君のような、一撃には及ばない、けれど、ね?」
 当の優花は、ガラスの剣のInconnuで瞬断撃。目にも止まらないとはまさにこのこと。直貴に心配はいらないと言外に伝える。
「……幻影如きに、倒されるわけにはいきませんので」
 いつもとは打って変わって落ち着いた口調で小春がイーティングブロウを放つと、花はぶひょおおおっと奇妙な音を立てて、辺りに魅了の芳香を放ち始めた。
 そこへ、魅了は危険と距離を取っていたものたちから攻撃が届く。
「未熟な私の力でどこまでお役に立てるかはわからないけど……!」と、陰崎・千鶴(辟邪書人・b84540)は得意技の戦文字「伊邪那美」を書き記す。自分は未熟なれど、この墨には自信がある。「神将といえど、我が家伝の墨の毒は効果を発揮すると信じています」
「The arrow of thunder、To give a great shock!」
 適度な距離とタイミングを計って、ルイカ・イール(真実の追跡者・b25306)も雷の魔弾を飛ばした。
「ファンガスの鎧がついてるし! 俺、無敵!」
 城崎・モクレン(菌類・b62861)も大きく戦文字「葬」を書く。
 狐の耳と九つの尻尾を具現化させ、クラウス・ヴァルクラフト(シルバーブライア・b75930)は天妖九尾穿を放つ。「彼女達が人生を取り戻せるかどうかが懸かっているんです。幻影には倒れてもらいましょうか」
「もうこんな時間か」
 携帯のスヌーズ機能で時間を把握した添嶋・喜兵衛(真ゾンビハンター・b10415)は、共に来た婚約者の 芦屋・紡実(花露・b20195)と視線をかわした。
 思った以上に時間がかかってしまっている。
「ホクト、気合い入れていこうぜ」
「行くよきーちゃん!」
 互いに身体に宿したファンガスの名前を呼び合う。喜兵衛と紡実、息ピッタリのパラライズファンガスが飛んだ。

 別のところにも花は生まれたが、即座に見つけたヴェルス・バルトロス(呪闇断罪者・b68474)が「てめぇの相手はこっちだ!」と逃すまいと突っ込んでいく。
 さっさと片付けちまおうとひたすら攻撃を繰り出す。フレイムソードの魔炎が彼岸花ごと花を焼いた。
 水澤・靜爾(命を懸す闇疾風・b34002)も、「悪いが、行かせるつもりは無い」とジェットウインドで花をくぎ付けにする。
 動きを阻まれた花はもどかしそうに身体をうごめかせると、ここでも甘く蠱惑的な香りを放出する。
 突然ヴェルスの中に、花をいとおしく思う気持ちが溢れ出した。
「……! 一緒に戦ってんだ、てめぇに負けてられっかよ!」
  靜爾との絆でそれを振り払う。靜爾も同じで衝動に耐えきった。
「詠え」
 靜爾は傷ついたヴェルスやみんなを浄化サイクロンで癒した。
「こんな所で魅了されたら飛鳥に顔向けできるか!」
 うっかり口に出しながら、鈴木・風子(高校生真月のエアライダー・b64185)は彼氏の事を強く思った。何時もは素直には言えないけれど心の支えになっているのだ。
 ついうっかり口に出したのは、鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・b81451)もそう。
「……こんな俺にも大事な仲間が居るんでな、魅了なんかされてたまるか!」
 普段のツンデレはどこへやら。
「このワタクシに魅了が通じると思いまして?」
 不敵な笑みを浮かべて耐えるのは、佐藤・陽子(高校生太陽のエアライダー・b77231)だ。仲間がいる。心強い。表に出さないけれど嬉しく思っていた。本当にどいつもこいつも素直じゃない。
「我を惑わそうなど片腹痛いわー! 無事か皆のものー!?」
 いや、森之宮・竜胆(月陽炎の戦帝・b82506)は、結社の人、特に脇差に絶対に見られたくないと顔を真っ赤に念じているから素直なのかもしれない。
「オホホホホ、ここは任して下さいまし、決して護衛部隊まで通しませんわ!」
 必死に花の魅了に耐える【文月探偵事務所】と【「太陽と月の妖精を導く風」邸】の仲間たちを、陽子は浄化サイクロンで癒していく。
 それにしても、魅了したり、黒い匍匐枝を伸ばして絡んだりと花はやりたい放題だ。
「魅了と締め付けとは破廉恥な!? ではなく厄介な」
「全く、やらしい攻撃ばかりしてくんじゃねぇぜ!」
 竜胆と風子が毒づく。
「お前ら引っ張るからついてきな!」
 その名のとおり、一陣の風となって戦場を駆ける風子に続き、澄空・翔(澄み空を翔る蒼黒の風・b59134)は、致命電光で彼岸花もろとも花を焼いた。信じてくれた仲間たちのためにも、封神台への道を切り開くのだ。
 竜胆も茨の領域で、逆に花を締め付け返してやる。
「さて、行きましょう皆様。太陽と月の突撃を魅せて差し上げましてよ」
 陽子はゴッドウィンドファントムで突撃、脇差は一面の彼岸花を天雨豪流で押し流した。
「来た以上、手加減する理由はひとつもないからね」と、チーム【不破】の矢和・翅居(群晴・b22326)は花の攻撃範囲を見切って、その外側から蒼の魔弾を撃ち込んだ。狙いは正確に。「当てる!」
「また、お二人と共に手を取り合い、同じ時間を生きる為に、光の槍よ、その未来を照らし示してください!」
 自分たちを信じて、この道を選んでくれた二人の心に応えるためにも、ここで退くわけにはいかないと、志水・みゆ(明時に歌う薄光・b53832)も光の槍を放ち続けた。

 魅了が利かない。これは花にとっていささか都合の悪いものだった。
 花は次なる一手を打つべく、大量の匍匐枝を全身から生み出していく。
「さ〜て、行こうか白髏!」
「ええ、わたし達の力見せてやりましょう!」
 香月・風音(月光に踊る蒼・b52865)は美堂・白髏(白花大輪・b51491)に声をかける。
 一面に咲く黒い彼岸花は、死の世界を連想させて見ていて気持ちのいいものではない。
「魅入られる前に片付けてしまいましょう」と、白髏(白花大輪・b51491)はナイフの月下美人を握り直した。
「草薙ぎ花断つ神の剣、存分に味わいなさい」
「喰らい尽くせ、紅十字!」
 背中合わせになり、放つ技は戦文字「草薙剣」とスラッシュロンド。クルクルと二人舞うように、花と黒い彼岸花達をなぎ払う。
 それさえも乗り越えて白髏に迫る黒い匍匐枝に、風音は逆十字を切ってヴァンパイアクロスで消し飛ばした。
 苑田・歌依(赤いリボンと飛び道具・b53326)も、勢いに乗ってクレセントファング!
 しかし、懐深く入り込んだ歌依に、黒い匍匐枝が絡みついた。絡んだ場所から注がれる猛毒に、歌依の体力はガリガリと削られていく。
 無謀に見えるこの行動こそが歌依のサイン。声すら出せぬほど憔悴しつつも、【桜並木裏小屋】の仲間に、花を攻略する参考にしてと目で訴える。
「みんな、絡みつかれると毒を喰らうぞ!」
 あらかじめ歌依から無茶をやらかすと聞いていた夜宮・満天(星満つる夜のそら・b56297)が、歌依の思いを代弁する。急ぎ助け出さんと、満天は周囲の彼岸花もろとも吹雪の竜巻で凍てつかせた。
 花の毒は考えていた以上に強力だった。満天たちとは違う場所で同じように絡まれ、猛毒を流し込まれたみんなを救おうと、讖在・瑠璃(科学人間・b11826)は全力で赦しの舞を舞う。
「落ちたら誰か拾ってねー、誰か落ちてたら拾うから」
 冗談めかして言っているが、これが瑠璃の偽らざる本心だ。
「みなさんに癒しと守りを」と、十五夜・美月(月見人形・b82592)もサイコフィールドで仲間を支援する。
 そんな中、黒い彼岸花のそのを前に婉然と笑みを刻む者がいた。山科・月子(ディープブラッド・b61466)だ。
「素敵な花園ね。紅葉君もそう思わない?」
「……そうだな、綺麗すぎるくらいだ」
 答えながら、彼岸花・紅葉(七天一刀・b31310)は呪いに身体を明け渡し、黒い彼岸花を神将もろとも全て焼き尽くさんとインパクトをぶちかました。
「遊んであげるわ」
 花が黒い匍匐枝を伸ばすのを見て、月子は興奮を隠せず頬を染め、躰を抱き締めた。月子の高まる力は黒い桜の花びらとなって現れて周囲に舞う。
 ひゅんっ! と匍匐枝が月子に絡みつく。四肢の動きを封じられ、猛毒を送りこまれつつも、月子は逆らわずむしろ花を強く抱きしめ返した。
「――斉火、燎弦!」
 月子と視線を交わした紅葉は、太刀に冷色の炎を纏わせる。月子をかすめるように袈裟斬りに剣を振い、イーティングブロウの紅蓮を猛らせた。
「もっとアナタを感じさせて……?」
 月子は花に肢体を押し付けるように絡み付かせ、吸血した。

「封神台の中は死の世界、何が起こるか解らないけど負けないわ! 真雪漢女(まゆきおとめ)リリカルせつな、パンプアップよ!」
 結社【漢女道】の先陣を切って、歌うように高らかに言い放つのは早乙女・刹那(高校生真雪女・b82165)だ。
「この指先に込めるのは別れの言葉ではなく、再び逢う為の約束の言葉よ」
 刹那の指先がやさしく触れた。
 運命の月姫、南・夕(運命の月姫・b82671)もそれに続く。「私達を阻むのならば、月に代っておしおきですわ」と青い月光を降り注がせ、月煌絶零で花を凍りつかせた。
「キミにそこにいられると、困っちゃうんだ……」
 悪いけどどいてもらうよ、と橘・右近(非時香木実・b84331)も龍尾脚で花を追い詰める。「逃がさないよ!」
 逃がさないのは花も同じと、黒い匍匐枝を展開して一同を絡め取っていく。
 猛毒をはらんだ締め付けが、そばにいた刹那や右近を苦しめる。しかし――。
「書道一族、書道健(拳)闘術正当伝承者、書道・殉、征きます!」と、書道・殉(中学生真書道使い・b83896)が無音細密筆でさらさらと文字を記す。
「書道一族の真なる業、見せてあげましょう!」
 殉(の書道回生陣なる戦文字「豊穣」がみんなを解き放った。
「わりぃが綺麗な彼岸花、全部刈り取らせてさっぱりさせてもらいましょうか!」
 マーノ・インフィオラータ(碧海の遺跡・b65774)も、できるだけ前に出て、花と対峙している仲間にも届くよう赦しの舞を踊る。
「明王活殺は生命の力! 反逆しましょう、死の誘いに!」
 自分の中のファンガス同様、今倉・愛(澄んだ琥珀色・b61534)もやる気満々だ。愛は、リベリオンビートの鎖から解き放つ力で、絡め取られたみんなを助け出した。
「例え僅かでも救える可能性があるのなら、私はそれに手を伸ばします。何もせずに諦めるのは、もう嫌ですから」
 思いを込めた白瀬・友紀(蒼の浄巫女・b03507)の慈愛に満ちた舞は、仲間を癒すと同時に勇気づけた。
 鳴神・盟華(建御雷神の巫女・b75641)も同じ舞を舞う。みんなを苦しめるすべてが祓われるようにと祈りながら。

 四方に分かれた花は、能力者たちの活躍で次々と刈られていく。
 しかし、残った花たちもただ刈られるのを待つばかりではなかった。生き残りをかけるべく、次なる一手を打ってきた。
(「睡藍の為に、ホントに一生懸命だった仲間達と一緒にやって来た身としちゃ……)」
 本隊で蘭黒や美鈴を護る連中の背中を支えてやろうじゃないかと、音羽・響(夢幻の空の下音を楽しむ・b49201)は思う。気にならないって言ったら嘘になる。けれど言葉は胸に閉まって。
 そんな響の後ろで、同じ結社【ReserveDogs】の白銀・深雪(はらぺこねぼすけ雪女・b49926)が言う。
「だいたい、石のままじゃ美味しいモノ食べられないじゃないですか〜。あんドーナツとか!」
 そんなのは可哀相だ。深雪が美鈴や蘭黒を助ける理由はそれで充分。
「行って……アルファリス」
 エリアラ・エリオル(機械のこころを識りたくて・b50062)の声に、相棒の真フランケンシュタインFWが駆け出す。
「撃ちます……」
 アルファリスの攻撃に合わせて、エリアラも詠唱ガトリンガンのAWファイナルアームガトリングを連射する。
 エリアラは二人を知らない。でも、石になって独りは寂しいと思うのだ。だからエリアラもみんなとがんばる。「二人も……みんなに、なれるように……」
 真月・沙梨花(死門封殺の呪を操る者・b56331)も、自分にできることを為すだけと呪詛逆鱗弾・無間痛苦を装備した貫き手で、退魔呪言突きを打ち込む。
 しかし相手が石になることはなかった。
「呪詛は効かずとも……念を込め、穿つ事は出来る」
 神将相手、元より承知だ。
「反動で腕が動かずとも……呪詛の塊と化した、この腕を叩きつければ……!」
 沙梨花の攻撃は止まらない。
 戦い方を変えた花は、匍匐枝を束ねて黒い槍となし一直線に貫いた。
 地面がえぐれるほどの衝撃が戦場を一閃する。しかし、太田・千枝(七重八重花は咲けども山吹の・b59223)はひるまない。
「これくらいなら……っ!」
 気合で槍をしのぎ切る。私たちは一人一人じゃ微力かもしれないけど、決して無力じゃない。真ケットシー・ワンダラーのヤマブキも、千枝へ力を分けてくれる。
「だから、力をあわせて頑張ろうね」
 みんなに呼び掛けながら、千枝は雑霊弾を花へと届けた。
 楠田・御琴(常世送りの戦巫女・b62960)も槍の一撃に巻き込まれていた。
「負けない! みんな、頑張ってッ!」
 御琴は自分というよりみんなのため、慈愛の舞を舞う。
「しっかりしなッ!」
「救急雪女の深雪ちゃん、到着ですよ〜」
 響の気合いの籠った歌声と、深雪の白燐蟲がみんなの傷を癒していく。
「大丈夫? しっかり!」 と声をかけた美月・彩乃(半月の憂姫・b82490)だったが、みんなの視線が「戦って」と告げていた。ならばやることはひとつ。
「動きを止めてみせる……!」
 危険を賭して月へとやって来た末娘の恩返しをするまで。
 彩乃は蒼き月の光で花を凍てつかせた。

「僕の頭……堅いからね! 覚悟してよね!」
 彼杵・天羽(太陽の紡ぎ手・b63707)のライジングヘッドバッドが炸裂する。「……この先の道を進むためにサッサと片付けさせてもらうからね」
 呼応するように、クロエ・ノーティス(狼の首輪・b65526)のデモンストランダムが発動した。「どんなに強い相手でも私達が力を合わせれば勝てない筈はありません」
「最初に拳を交え……最後まで戦い続けるのが僕の役割。……そうだったね」と伏管・煉(時計仕掛け・b71013)。白虎絶命拳をお見舞いする。
「皆様は前だけを向いて戦って……下さい。背中は私が……きっとっ守ります……から」
 弥久保・冬霞(紫紺の紙吹雪・b72126)は、どこにでも癒しを飛ばせるよう戦場を見渡せる位置に移動した。
 自分はまだみんなよりも弱いし、できる事が少ないかもしれない。
「けど、自分のできる事を精一杯やります……私もそうやって皆さんに救われたのだから……!」
 真モーラットピュアのモコにはパチパチ火花をお願いして、九重・優香(中学生霊媒士・b81377)も雑霊弾を撃ち込んだ。
 そんな【歯車機構】のみんなに、花の匍匐枝が黒い彼岸花に隠れてウネウネと伸びてくる。
「さて……夏本番の前に、いっちょ草抜きと行こうかねぇ」
 アルフレッド・ウッドストック(白狼の遠吠え・b72349)は、あえてそこにに足を踏み入れていく。
(「曼珠沙華……天界に咲く花が黒く染まる、か。黒い大黒天もどこかに居るのかな」)
 そんなことを思いながら、今日ばかりは草刈り機の歯車かな、と煉も震脚で次から次へと伸びてくる匍匐枝を刈っていく。
 しかし次の瞬間、それらがしゅるりと纏まり一本の槍となって襲い掛かった!
「……!! 危ない!?」
 とっさに冬霞が駆け寄り煉をその身でかばう。救急箱を手に、急ぎかけつけた優香とモコは冬霞の傷を癒していった。
「さて、明日から本気出す……とは言ってられねぇか」
 アルフレッドは彼らをかばうように、三日月を描く蹴りで花を蹴散らした。
「……んじゃ、俺らも始めるか。風香」
「ふふ……息を合わせていきましょうか、宗司さん」
 声をかける桐嶋・宗司(深黒晦冥・b25663)に頷き返し、朔月・風香(虚月光陰・b34778)は歩を進める。
「あいつらの再出発が懸かってる。テメェらにはご退場願おうか」
 すでに気を巡らせ高めてある。近づく宗司を警戒するように、ここでも花が匍匐枝を束ねて黒い槍を放つ。が、当たらない。
「彼女達が座る席を空けてもらいます。消えなさい……!」
 風香の御霊滅殺符が花の注意を引き、守りをそちらに向ける。
「宗司さん、今です!」
「任せな、風香ぁ!」
 宗司のカラミティハンドが花を切り裂いた。

「なんて禍々しいお花なのでしょう……!」
 黒い彼岸花が咲き乱れる園に驚いたのは、結社【しりとり同好会】の川満・紅実(空に知られぬ雪・b16707)だ。
「黒い彼岸花……今の季節に不似合いよ」と、萩森・水澄花(アクロポリスロマンチカ・b25457)も眉をひそめる。
 漂うこの香りも危険かもしれないと、宿世・淡雪(春日の訪れ・b81824)はしばし息を止めて様子を見た。
 三人を見ていた白神・楓(天星埋葬・b46213)は、「縁起でもないな……纏めて刈取るとするか」と言いながら、レッグギロチンのミスティックであたりを薙ぐ。
 それを合図とするように、「一丁派手にやろうぜ。援護は任せろ!!」が乾・玄蕃(魔法使い・b11329)がみんなに声をかけた。
 先陣を切ったのは、三島・月吉(バスター・b05892)。「折角手に入れた封神台だ。あの二人、助けてやらにゃあいかんよなァ!」とローリングバッシュを繰り出した。
 玄蕃も「我が雷槌で華と散れッ」と、芳香を払い彼岸花を舞い散らすほど至大の蒼の魔弾を馳走してやる。
 香りを奪われた花は、ブルリと身体を震わせると全身に生やした彼岸花から黒い匍匐枝を突き出した。匍匐枝は太く巨大な槍となって、一直線に月吉や淡雪を貫く。
「奴らの魂を背負ってるんだ……簡単に膝は着けねえなァ!」
 ノーブルブラッドで癒しつつ、月吉は立ち上がる。淡雪も目に戦いの意志を宿したまま、雪だるまアーマーを纏った。
 二人に癒しは必要ないと判断したファリューシング・アットホーン(宙翔る双頭の鷲の子・b57658)は、クレセントファングでその忌々しい黒い槍を蹴り砕く。
「この黒い花の色は哀しみの色ですか……?」
 近づいた紅実もさよならの指先で、輪郭をなぞり凍てつかせた。
 焼かれ蹴られ凍てつかされて、彼らの前の花はもはや枯れるのを待つのみ。
「花は美しく散るのよね? 鋼の棺桶でお休みなさい!」
「閉幕だな。彼岸花を手向けに散りな!」
 水澄花と楓が、花のすぐそば零距離で二つ同時に放った聖葬メイデンで、花は跡形もなく消え失せた。

 疲れの見えてきた花の前に、刀禰・隆之(眼鏡君・b20816)が進み出る。
「この彼岸花は、あなたへの手向けの花ですね」
 隆之の聖葬メイデンが、棺のごとく花を包んで閉じる。
 神将とは会話は出来ないそうだが、魂の叫びは聴こえるだろう。
「ならば聴かせてやるよ。俺の歌で魂の叫びをっ」
 ファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・b82686)は愛用のギターをかき鳴らす。
 花の束縛からみんなを解き放つべく歌うファルケのヒーリングヴォイスに合わせ、コーラスとなって大神・由宇(奏でるは霽月の調べ・b82237)のホワイトメロディが重なっていく。
「神将さんよ、わしらのジャムセッションが聞けるなんて幸運じゃぞ?」
 どこか野辺送りを思わせる黒い彼岸花の花園に、場違いな、しかし心地よい音楽が鳴り響いた。
「さあ、行くよ!」
 元気よく声をかけ、チーム【スクラッチ】の裏沢・由那(スケダチマニアックス・b07250)が走り出る。誰かが倒しきっててくれればいいと、最初から全開で斬りかかった。
「……信じてくれたのだもの。助けてみせないと、ね」
「ふふふ、これはしくじれませんわね」
 裏賀・五十鈴(飴色の景色・b45418)が頷いてさよならの指先を使えば、鹿島・阿須波(紅月藍染檻姫・b32784)は赤手の藍染纏繞ごしに生気を吸収した。
「この機会、成功させてみせるよ!」と、裏宿・由磨(霧裂刃枝の魔女・b58738)も攻撃の手を緩めない。瞬断撃で花と別の花をつなぐ匍匐枝を断ち切った。
 まさに攻撃のオンパレード。
「さあ、今こそ信義に応える時!」と、花が息つく間もなく、裏和・いぶき(真電光戦姫・b75500)も電光薙刀【戦姫】にプロトストランダムをのせて斬りつけた。
 裏上・美沙樹(中学生カースブレイド・b83766)も負けてはいない。「やってみせますわ!」とイーティングブロウで花を捕食する。
「ほな、ハッピーエンドをお土産に、どすな」
 晦・三十日(背に続く巡る満ち月思う黒き終・b82690)が、ほほほと笑って放った極月煌光が花を完膚なきまでに焼いた。

 ひとつ、またひとつと倒れて、とうとう最後の花となった。
 妹出・織泉羅(ノープランナー・b70426)は黒い彼岸花の園を前にして、【COL】の仲間に話しかける。
「戦とわかってはいるが、こうして親しい者が揃うとまるで遠足のようだな」
 春が近づき、みんなとファンガスツアーの話をし、今年も行こうと誘いをかけた。それが……どうしてこうなった?
「ファンガスもいるんだから、ファンガスツアーってことで良いんじゃないかな」
「なるほどなるほど、COLの封神台つあーということじゃな。面白いではないか」
 暗都・魎夜(全てを砕く者・b42300)が身体を包む生命の鎧を指さして言った言葉に、龍・月華(月華公主・b81443)はころころと笑いながら同意した。
「一年も経つと、こんな事態にも慣れちゃうんですね、自分が怖いです」
 織泉羅に話しかけながら、瀬河・苺子(道を探す少女・b77693)は花の姿をとらえた。
 強制共生弾を撃ち込みながら思う。自分が戦うのは、神将を助けるみんなを信じているから。こんな自分がちょっと誇らしい。
 敦賀以前に戦った神将達が封神台復活後にまた現れた。それ考えるとどうしても、自分の知るラーラたち――封神台と共に消えた神将達が気になってしまう、。
 琴吹・つかさ(祓魔の守護拳士・b44491)は、自分の心にそんな思いがあることに気づいた。軽く頭をふって考えを追い出す。
(「千載一遇の好機を無駄にしちゃダメだ」)
 今はみんなで協力して、蘭黒と美鈴を助けないとと前を見る。
 花は集った者たちを絡め取ろうと、黒い匍匐枝を伸ばしてきた。
 織泉羅も狙われたが、素早くかばったスペック・ランドルイーヴン(魔剣士・b64890)が代わりに受ける。
「此処で倒れても死ぬわけではあるまい。ならば、やりたい事が此処でしか出来ない者が先へ行くべきだろう?」
 絡みついた匍匐枝から注ぎ込まれるのは猛毒。しかし、スペックは顔色一つ変えない。
「わたくしを護るつもりならば最後まで護れ。中途半端な事を申すな」
 傍にいて、ほしいのだから、と言外に込め織泉羅は告げる。
「美鈴と蘭黒は命を懸けて俺達を助けてくれた。だったら、俺達も命を懸けて、二人を助ける。たとえ、生と死の壁があったとしても。信じて貫けば、俺達に不可能なんか……無い!」
 魎夜は匍匐枝を振り払い、黒い彼岸花を蹴散らしながら鏡雨転身で花へと肉薄する。
 絡め捕りが効かないとみるや、花は今度はぶふぉおっと甘く蕩けるような香りを放った。すべてを捨てて、花のために尽くしたいという衝動が湧き上がる。
 マオ・イェンフー(その漢トゥーハンド・b73520)は、恋人の顔を思い浮かべ、念じる。俺は屈しないと。
「鼎に俺の無様な姿だけは見せられねーんだよ!!」
 とっさに握りしめる恋人からもらった懐中時計。それを見ながらマオは浄化の風を吹かせ、みんなを誡めから解き放つ。
「悪しき戒めなんて俺の風には関係ないぜ! 目を覚ませやこらっ!」
 正気に返った一同は、タイミングを合わせて打って出た。
「幻影風情がでしゃばるな」とスペックが黒影剣で薙げば、「皆様の後背は私共が護ります……追撃を!」と中寮・琴乃(風花の舞う静謐の乙女・b47782)が氷雪地獄で花を凍りつかせた。真ケルベロスオメガの宿儺は、琴乃の命のとおりに背中の巨大な刃で花を刈り取っていく。
「神将の何するものぞ。仲間の絆とは最強の武器らしいぞ?」
 幻影兵団でみんなを支援しながら、月華は笑みを浮かべた。
「植物を動物が食べる。これが食物連鎖だ」と織泉羅が、土蜘蛛の、支配者の矜持をかけて生気吸収で花の生命を奪っていく。
「決める……禁技・全門滅殺!」
 つかさの白虎絶命拳――これが花を本当の意味で刈った。
 神将「花」は花園に咲くすべての黒い彼岸花と一緒に、身体中の彼岸花を散らして消えていった。


●震える山
 とうとう辿り着いた。封神台の奥、こここそが神将席がある場所だ。
 気がつけば、昆虫、魚、影の対処班の面々も合流している。直に花の対処班も追いつくだろう。心強いことこの上ない。
「見つけた。あの方向に見えるのが最奥の神将だ」
 双眼鏡から見えたモノに驚きながらも、硬鎖禍・鴉皇(原始の闇を纏う存在・b15375)は能力者たちに告げる。
「コレが最奥の神将……正確には幻影っすか」
 とてもそうは思えない。圧倒的な存在感に白賀音・刀夜(白嵐・b84261)は息を呑んだ。
 刀夜の呟きはここにいる全員の思いを代弁していた。一同、前方を見てゴクリと息を飲む。
 前方には、もはや「山」としか言いようのない何かが鎮座していた。
 途中見た空に浮かぶ島より大きい。それが目を凝らさなければわからないほど、ゆっくりゆっくり動いている。
「けど、立ち止まってるわけには……いかないんすよ!」
 ここが正念場。刀夜は護衛班の務めを果たすため、神将席を探して奥へと進む。
 慎重に近づくにつれ、その途方もない大きさのそれが何かわかって来た。
 足が複数ある巨大な亀。いや、這いつくばった巨人か? 岩のごとき甲羅を背負った巨人。しかし腕も足も四本ずつあり、もう単に巨人とは表現できそうにない。頭部と甲羅にはイソギンチャク状の青色の何かがびっしりとくっつき、触手を蠢かせている。
 甲羅の中央には横に切れ目のようなものがあり、今は這いつくばっているが、最奥の神将は上半身を持ち上げることができるようだ。現に一同の気配を不審に思ったのか、ぐぐぐっと身体を持ち上げて辺りをうかがっているではないか!
「……なんてやつだ」
 倒せるなら倒す。今までそうやって神将たちを撃破してきた。しかし、これは……。
 さらに追い打ちをかけるできごとがあった。
「みんな、鎧が!」
 メガリス『紺碧の貴石』所有者である相馬・亮介がファンガスたちと流派明王活殺奥義で作り上げた生命の鎧が、ほんのわずかだが欠け始めたという声だった。
 いっさい余分な時間をかけず移動したがギリギリだったようだ。
 最奥の神将が邪魔で神将席自体はまだ見えていない。が、最奥の神将の後ろに灰色の壁のようなものが見える。あれがそうかもしれない。
 急いで調べ、美鈴と蘭黒を席に据えなければ。護衛班は戦いを一同に任せて、最後の戦場を駆け抜けていった。

「標的発見! これより作戦行動に移る!」
 岩崎・弥太郎(志せしは覇道の主・b42534)は、チーム【崩山】の仲間全員に伝わるよう大声を上げた。
 弥太郎は双眼鏡も使って最奥の神将の上半身の動きを追う。隙を見つけては、弥太郎は呪いの魔眼で睨みつけた。「我が眼力は山をも貫くぞ!」
 感覚を鋭く研ぎ澄ませながら、鴉皇は最奥の神将へ、正確には最奥の神将の腕の一本に近づいていく。
「剣技意殺。その神髄は、仇なす意思を、害する意思を、悪意を殺すことにある」
 鴉皇が振りかぶるのは【妖刀】不殺。「さあ、貴様の悪意を悉く、殺し尽くして進ぜよう!」
 一度で潰されないよう互いの距離に注意しながら、チームの前衛でギリギリの傍まで寄ることで、石弓・衝平(レディネスの欠乏・b27142)は護衛班に神将を近づかせないように計らう。チームの名前は崩山。名は体を表さなければならないだろう。「俺の紅蓮撃でどのくらい削れるかわからないが、退場まで付き合おう」
「総員、上方注意!」
 弥太郎の指示で、一同は最奥の神将の腕の一撃に備えた。
 調べておいた「打ち出の小槌のメガリスゴースト」関連のレポートを思い出しなら最奥の神将の攻撃を避けるのは、霧島・絶奈(さよならを教えて・b61363)だ。腕の合間を縫って、石化を狙って幻楼七星光を飛ばした。しかし、さすがに石化させることはできなかった。
「ならばこれはどうですか!」
 今度は封神十絶陣と絶奈は攻撃を切り替えた。
「さて、野郎共、喧嘩の時間よぉん、華々しく行きましょうねぇんchu−☆」
 覚醒フランケンシュタインBのタマたんに、死が二人をわかつまでを使いながら、キッカ・ベルルスコーニ(にゃんこと全使役の花嫁・b77240)は色っぽくみんなに呼び掛けた。
「了解ッス、あいつは自分がぶっ飛ばすんで皆さんは先に行ってくださいッス!」
 キッカに応えつつ、宮古島・うるみ(猛襲破砕型必殺撲殺赤貧少女・b57318)は、【漢部】のみんなと最奥の神将に立ち向かう。
「うりゃあああ! ぶっ飛べッス!」
 うるみは愛用のハンマー、真・打ち壊し1号からのロケットスマッシュを最奥の神将の岩にしか見えない足へと叩き込む。
 かーーーーんっっ!! 無情にも鐘を打つような音が響き渡った。
「お前なんかより、裸男さんのほうがよっぽど漢らしかったッスよ!」
 かつて戦った神将、椿・十三を思い浮かべながら、うるみはハンマーを叩くのをやめない。
「要は相手を引きつければいんだろ?」
 敷島九十九式・秀都(エクストラエンフォースメント・b57363)は、ベベンと三味線かき鳴らし、音痴な歌を聴かせた。秀都の、真っ白に燃える正義を籠めたジェットウインドのおかげか歌のおかげか、最奥の神将の足が止まった……気がする。
 ひるむことなく天宮・奈月(天翔茜歌・b01996)も蒼の魔弾を撃ち込む。
「僕のも食らえよ! あんたにとっては蚊が止まったようなもんだろうけどな!」
 声で引けない注意なら、力づくで注意を向けさせるまでだ。せいぜい騒いで派手にぶつかって、目いっぱい気を引いてみる。奈月の一番苦手なことなのだけど、今はそんなこと言ってられない。
「何をするか分らないなら叩くに越した事はないだろ」と、萩坂・暈人(零れ落ちた剣の残り刃・b00168)は長剣の疾蒼流転を握り直した。黒影剣を、それが無理なら呪いの魔眼を使う心構えだ。
「食らうと大変そうだからな」
 防御よりは回避を。暈人は慎重に距離を見極めた。
「「ラブマッスルルナ・エターナル!」」
 ポージングを決め、ガイ・ブリアード(裸足のマッスルナイツ・b00913)と神崎・浩太(光撃の術士・b16081)が想愛満月・絢爛と幻影旅団を同時に放つ。
 鍛えぬいた足技、ガイの真・ブリアードキックが唸りを上げた。最奥の神将のあのサイズは、一撃をくらった段階で戦闘不能だろう。ならば守りはあえて捨ると、浩太は攻撃一辺倒で光の槍を撃ち続ける。
「ハーハッハッハァ! やらせはせんがよー! オルテマバスター!」
 イアハム・ヴォレンティーナ(漢ヴァンパイア・b57824)は、龍顎拳を打ち込みながらわざと大声で叫んだ。
「この間に行ってくれだがね! 後は任せたがよ!」
 護衛班に呼び掛ける。山のような姿なんて気にしない。ここは根性の見せ時だがよ!
 さらに単騎突撃をかけようとするイアハムを、「戦闘で足並みを乱す行為は、例えイアハム様とて許しませんよ」と笑顔でユマ・ジャン(イアハム様のメイド・b59371)が威圧する。イアハムを掠めそうだった最奥の神将の足の軌道をダンシングワールドで歪ませた。
「漢部部長を甘くおみでないわよぉんchu−☆」
 最後の人になるまでここをどかない、とキッカの目が据わっていた。

 本当にコレは山だ。最後まで立っていられるか自信はないが、そこは強気で突っ込むしかない。護衛班の目を逸らすには、こちらが本気だと最奥の神将に思わせるのが一番なのだから。
 最奥の神将と戦うと決めた者の中には己の決断を呪う者もいたが、戦うことをやめるような能力者は一人もいなかった。
「も、もきゅ〜」
 怖がる真モーラットヒーローの章姫の頭を撫でて宥めつつ、黄金崎・燐(高校生ルナエンプレス・b55478)は、「必要なのは時間稼ぎですし、無理せず頑張りましょう」と隣に立つイクス・イシュバーン(神聖なる白煌・b70510)に話しかけた。
「そうだね、あまり時間も掛けていられないみたいだし……」
 イクスも大丈夫だよと章姫を撫でてやった。
 やると決めたら、即行動。燐は相愛満月でイクスを支援する。
「一撃に当たると拙いようだけど、的もデカイので狙いやすくもあるよね」
 イクスは距離を見極めながら黒影剣で切り刻んでいく。だが、的がでかいということはちょっとした動きでも大きくなるということ。最奥の神将の指がかすっただけで、イクスの身体に鈍い衝撃が走った。
「きゅぴぴ〜」と章姫が飛んできてぺろぺろなめて傷を癒す。燐も援護にと極月煌光を叩き込んだ。
「こっち! こっちだよ!」
 神将の山のごとき巨体に取りつき、登りながら、風華・八重(高校生真霊媒士・b02664)は大声で最奥の神将に呼び掛けた。呼びかけついでに雑霊弾を飛ばす。
 真グレートモーラットのポメは八重を心配そうに見ながらも、身軽く上へと登っていった。
「左に向かいます、気をつけて! 足が狙っていますよ!」
 八重と一緒に最奥の神将の身体を登っていた明鏡・止水(真白燐蟲使い・b06966)は、自分の位置からわかることを他の仲間に知らせる。だが最奥の神将の足が大きすぎた。止水は白燐侵食弾で軌道を逸らそうと攻撃したが、間に合いそうにない。
「ポメ! 顔に張り付いて!」
 八重の声に反応してポメが顔に張り付いた。片目だけだが視界を塞いだことでギリギリ狙いが外れる。これは有効な作戦かもと、止水も目を狙ってさらに上を目指した。
「あった!」
 そのとき、偶然八重は神将の背後に見えていた灰色のものが実は石壁だということに気がついた。さらにその壁に一部に、今登っている最奥の神将とそっくりな小さい最奥の神将がいるのも見つけた。まちがいない。あれが神将席だ。
 八重の声は最奥の神将の対処班に伝わり、それは即座に護衛班にも伝えられた。

 あの石壁が神将席とわかった以上、とにかくあそこから最奥の神将を引き離さなければ。
「「「「「みんな揃って!【庭井よさみと愉快な仲間達】!」」」」」
 庭井・よさみ(天を飛翔する大依羅の真龍帝・b03832)たちは、どこぞの特戦隊のポーズを決め、堂々と名乗りを上げた。白いはずの生命の鎧が、なぜだか赤、黄、青、ピンク、黒のビキニアーマー姿に見える。
「復活した封神台……さすがに十三や睡藍君までは復活しなかったか」
 神将席に向かう本隊を少しさみしげに見送りながら、水走・ハンナ(清貧少女は吸血鬼・b46874)は呟いた。
「全員散開!」
 よさみの指令がみんなに飛ぶ。敵の狙いを分散させるよう大きく動き回る。敵の攻撃を避け、隙あらば攻撃を叩きこむHit&Awayを基本方針にすると決めていたのだ。
「悪く思わないでよ、これも仕事だからね……」
 最奥の神将の視界の外から、ハンナはスラッシュロンドを使う。
「神将が神将候補を襲うとか、何処の体育会系部活先輩の洗礼? 笑わせますわ!」と、嗤いながら中茶屋・花子(クィーン幵フラワーチャイルド・b37343)もクロストリガーを放った。
 相手の攻撃は一度受けたら終わり。それぐらいの気持ちで忙しく動き回りながら、高天崎・若菜(永遠と須臾の玄人・b19366)は花子を除く想愛満月・絢爛を順に使っていく。なぜなら、花子には釜崎・アイリーン(現役ホームレス中学生・b45268)が想愛満月を使うから。
 アイリーンは花子の心遣いに感謝しつつ、凍気を纏った。「凍らせるだけが雪女じゃないですよ? むしろ……雪と同化させましょうか」
「オーッホッホッホ! 脆弱千万! 一瞬千撃! 粉砕☆玉砕★大殺界ですわぁッ!」
 人狼族の女王にして人狼騎士たる初代クィーン☆フラワーチャイルドの花子が傲慢に言い放つ。若菜も近づいて、「還りなさい、そこは蓬莱の地の先……黄泉国へ!」 と紅蓮撃で神将の足を焼いた。
 山が何だ。「私を殺したかったら、戦艦大和でも持って来いや!」
 よさみの啖呵が耳に届いたのだろうか。最奥の神将が、戦艦以上としか思えない巨大な腕をふり下ろしてきた。
「でかいのもいいけど、死角増やしすぎです!」
 四本の足の間をすり抜け、白咲・朝乃(キャストリンカー・b33560)はレゾナンスナックルを真上に放つ。
 足下にもぐりこむまでの傷は、モーラットのぷいぷいやみんなが癒してくれた。だから朝乃はがんばるのだ。
 美鈴も蘭黒も石化させたままずいぶん待たせちゃった。
「今日は、必ず元に戻してあげるからね。もう、仲間なんだから!」
 闘うことがすべてではない。強ければ何でもいいわけではない。それでも強さを求めて闘う。更なる高みへ。
「……俺は挑戦する!」
 護衛班が通りすぎたのを確認し、九頭龍・蓮汰(風の十二方位・b73547)は一気に攻撃へと転ずる。相手にとって不足なしと、白虎絶命拳を最奥の神将に喰らわせた。
(「始神将セイ……いるか?」)
 念のため蓮汰は注意を払ってみたが、ここでは感じることができなかった。
「私、二人を助けたい。だから絶対、諦めない!」
 そのためにここまでやって来た鬼瓦・有可(三毛猫魔弾・b70483)は、己に活を入れるべく叫んだ。
 有可はおもむろに最奥の神将の足下まで行き、「よいしょ」と雷の魔弾で足の小指を攻撃する。雷の魔弾でダメなら、アームブレードでも刺してやる。
 どうしてそこを狙うのかと誰かに問われ、有可は答えた。
「タンスの角に小指をぶつけると痛いでしょ? その要領で」

「3、2、1、発射!」
 時守・癒太(夢幻世界投影者・b52874)のカウントに合わせて、結社【ゆいま〜る】の面々はあらかじめ決めておいたポイントに攻撃を撃ち込む。最奥の神将の足だ。
 足が四本あったのは想定外だったが、今さら変えることもできない。癒太の描くディフォルメされた最奥の神将が、本体の足にポカポカポカと四本の腕で殴りかかった。
 危険だけれど足下が死角なのも事実。骨咬・まゆら(戦陣のベネトナシュ・b43009)はあえて足下に身体を置いた。
「美鈴と蘭黒とはいつか手合わせしてみたいんです。それを思えば無理もします」
 巨体ならば転がしてしまえば起き上がりにくいだろう。まゆらは夢を現実とするため、何度も何度も同じ場所にイーティングブロウを放つ。
 ここへ来るまで、誰にも気を許さず護衛班を守ってきた王仁丸・六説(エメラルドタブレット・b58592)は、今や放たれた矢のごとく動き回り、三日月の蹴りを最奥の神将に食らわせていた。
 初手の攻撃は控えて、金剛院・空花(裏呑月読天・b56447)は想愛満月・絢爛を仲間に順に放っていく。攻撃より倒されないことを第一にと考えてのことだった。
 護衛任務は騎士の華。ましてや自分は盾である事を恋人に約束した身だ。
「ハハッ、抜かれたら絶交だな」
 シュヴール・ルドルフ(マーナガルムの天護騎士・b57139)は小さく笑いつつ、クロストリガーに続いて断罪ナックルをお見舞いした。

 小うるさいアリが群がってきた。おそらくそんな気持ちだったのだろう。
 ところがこのアリは思った以上の痛みを自分に与えてきた。最奥の神将は、伸び上がっていた身体を元に戻し、再び八本の手足で地面に触れる。
 氷室・まどか(ひなたぼっこする雪女・b51391)は、再び這いつくばった最奥の神将から、ただならぬ気配を感じ取った。
「皆、逃げてっ!!」
「全員全速退避っ!!」
 まどかと一緒にいた泉・星流(中学生真魔弾術士・b51191)も共に大声で叫ぶ。
 足下で攻撃を行っていた者たちが、二人の警告を受けて急いで離脱した。
 次の瞬間、大地が跳ねる。
「うわわわわわわわっっ!!!」
「きゃあああっ!!」
 あちこちで悲鳴が上がった。
 最奥の神将が四本の腕と四本の足で地団駄を踏んだからだとわかったのは、それらが収まってからのこと。もし警告が間に合わなければ、あの足下でおそらく何人かは踏まれてしまっていただろう。そして、そうなればただではすまなかったことが容易に想像できる。
「危なかったわ……」
 ふぅと額の汗を拭うまどかの隣りで、同じく安堵の息をついた星流は気づいた。
 最奥の神将、ものすごく激しく息していないか? ひょっとして、今の技、ものすごく体力使うのか? ならば――。
「今がチャンスだっ!! 動きを止められる奴は叩き込めっ!!」

 星流の声に応えて、最奥の神将に向かって一斉に技を繰り出した。
 最奥の神将は、対処班が八本の手足を狙って攻撃している間に、実は背中と頭のイソギンチャクから無差別の攻撃をしていた。そのため護衛班からも離脱し攻撃に転じる者がいる。
 四足獣、昆虫、魚、影、花の対処班からも大勢の助っ人が来ている。最初から最奥の神将狙いの者たちと合わせると、総勢およそ四百三十名。それら全員からの攻撃が届く。
 足を止めさせるもの、石化させるもの、マヒさせるもの、凍らせるもの……ありとあらゆる苦痛が最奥の神将に刻まれていく。それらが行えない者たちも、少しでもダメージを与えようと攻撃し続けた。
 壁役を引き受けた小早川・奈々(シトラスアナイアレイト・b16673)の身体も、先ほどの地団駄で大きく揺れた。得物の粉砕バットで身体を支えながら、奈々は攻撃のタイミングをうかがう。基本は足止め。自分は壁。でも、もし倒せる隙があるなら、しっかり倒したい。奈々の獣撃拳が唸りを上げた。
「神将と聞くと、私は闘王アグディが一番にでるのですが……」と呟くのは輪廻・殺機(闇纏い生命輝く魔剣・b57185)。セイクリッドバッシュでわずかずつ最奥の神将を吹き飛ばしながら、赤い瞳で最奥の神将を見据える。「勝った者が強いとか。さてどちらが強いのか、力を示しましょうか」
「……俺は、睡藍ッて奴に礼も言えなかった。だからせめて、助けられる奴は助けてぇんだ」
 アウトサイドクラッシュを放ちながら、瀬崎・直人(朝焼けの冬空・b03547)が吼える。顔は泣いていなくても心が泣いていた。
 その背を援護するように、篠田・春一(夕焼けの春空・b01474)からクロストリガーが飛ぶ。
「ここまできやがったンだぁら、絶対ェ最後まで護ってやんぜ、なァ!」
 春一の言葉には、石像だけでなく直人もという思いが詰まっていた。直人も同じ。互いの背を護りつつ闘う二人だった。
 直撃を食らった者はいなかったとはいえ、最奥の神将の地団駄はかなりの者に軽くはない怪我を負わせていた。
(「もしも、もしもです」)
 国東・流梨(真土蜘蛛の巫女・b33882)の心からいつまでも消えない時間がある。あの時、ちゃんと十三さんを守れて、石化させる事が出来て、今を迎える事が出来たら……その時は、あの人もこの場所にいたのでしょうか。
 流梨は胸を裂かれるような痛みをほかの人に味わって欲しくないと、ただひたすらに舞い続けた。

 ぐらり。最奥の神将の身体がかしいだ。
 絶対に倒せない。自分は無敵だと、最奥の神将自身も信じて疑っていなかっただろう。その身体を支える手から、足から、力が抜ける。
「嵐になる前の一吹き、受けて貰いましょうか!」
 浄化サイクロンでみんなを癒し続けてきた釣・克乙(ストームブリンガー・b52353)が、鏡雨転身で近づきながら、最後のジェットウインドを炸裂させた。
 ぶうんと最奥の神将が緩慢な動きで、腕を振るう。
 それをかわしつつ、シンディ・ワイズマン(真夏の雪女・b60411)は神将席がある岩壁へ、護衛班が辿りついたのを見た。
 シンディの心に蘭黒の姿が浮かぶ。
「……蘭黒、あんた胸を張って戦えてたわね? なら、私も約束を守って応えなきゃあ」
 気合いたっぷりの天妖九尾穿が飛ぶ。
「女が廃るってもんよ! 」
 その一撃がとどめとなった。
 気が遠くほどなるほど長くここを守護してきた最奥の神将は、「がぁあああっ!」と悲しみとも喜びともつかない声を上げて、永遠に封神台からいなくなった。


●約束を果たすために
 美鈴と蘭黒。それぞれの石像を護衛すると決めた者たちは、彼女らを全員で持ち、時には背負う誰かを護り、ひたすらに道の先を目指した。
 自分たちに思いを託して戦うみんなの思いに応えるために、何より自分たちの願い――美鈴と蘭黒を無事に神将席に送り届けて、彼女たちを助け出すために。
 仲間の「先に行け」「お願いね」という言葉に背を押されながら、走り続けていた。
 そして今、その目的地を自分たちの目で捉えた。
 最奥の神将の向こうにそびえる石壁、それこそが神将席の在り処だ。
 美鈴と蘭黒の石像を届けにそれぞれの護衛班が近づいて行く。

 毛利・周(真火を得た日輪の将・b04242)は、結社【マヨイガ防衛部】の三人で美鈴を護る任についていた。
 美鈴を復活させる、この時をどれほど待ち侘びたことだろう。交代で石像状態の美鈴を背負いながら、その重さを噛み締めながら、周はここまでやって来た。
 用意した花とメッセージを握り締め、ヴィントミューレ・シュトゥルム(ジーザスシュラウド・b22548)は美鈴を護る盾となる。復活した時に事態が飲み込めるように、美鈴が座る神将席に添えるつもりなのだ。
 リチェンツィオーソ・ヴェルジネ(偽り刻む怨讐の舞燈姫・b59634)も気合い十分。再会出来る日をずっと待ってたのだから。美鈴を背負う周の壁、時には回復タンク。それでかまわない。「待ってて、美鈴。今おねーさん達が迎えに行くから♪」
 交代で石像、主に美鈴を運ぶ【マヨイガ防衛部】の毛利・周や、結社【天体観測同盟】仲間のジャック・ボエルジ(ロックパンプキン・b51745)を、右サイドでジングル・ヤドリギ(吟星クリスマスロイド・b06651)は護っていた。
 その隣りには矢車・千破屋(燦然・b53422)の姿がある。石像はもちろん、ジングルを害するものは何人たりとも近寄らせない。いつでも攻撃できるよう、千破屋は和弓の穿月の弦を引いた。
 全員の生還を期して臨んだ北原・智恵理(高校生カースブレイド・b09487)も、道中あらゆる状態の変異に注意を払ってきた感覚をここでもフルに発揮させる。
「小道、美鈴さんとごえんはないのです。でもどんなひとなのかごぞんじなのです♪」
 大事な人がいると聞いた。小道にも大事な人はいっぱいいる。「だからおてつだいしたいのです」と斥候役を志願した伏見・小道(命漆に護られた子供・b28297)は、真っ先に異変を感じ取った。
「何かくるのです」とみんなに警戒を呼びかける。覚醒モーラットのもにゃにも、毛を逆立てて「もきゅー!」っとみんなに知らせてもらった。
「……」
 警戒を続ける覚醒スカルロードのノリトは、それが最奥の神将の背にあるイソギンチャクからの攻撃だと、祝詞・勢(出オチ・b15345)に身振りで教えてくれる。
「背中から来るぞ。石像を守れ!」
 勢はそれをみんなに伝える。生命の鎧は死者であるノリトに授けられることはなかったが、自分がノリトを大切に思う気持ち、ノリトがそれを嬉しく思う気持ちが、勢の着る生命の鎧を通じてはっきりと感じられた。
 今までは、対処班のみんなのおかげで本隊が直接攻撃されることはなかった。が、さすがは神将席を見張る神将。一筋縄ではいかない。今は班の左側で警戒していたジャックも、攻撃に備えて身構える。
 とうとうイソギンチャクが、ぶぐぐぐっと不気味な音を立てて身体をちぢこませた。その身体が再び伸びたと思った刹那――ずどどどどど!! と、大量の巨大な氷柱が四方八方に射出される。
 最奥の神将自体は、足止めをかって出てくれたみんなが引きとめてくれた。けれど、巨大な背に生えたイソギンチャクまでは完全に止めることはできなかった。
「世界の果てまでブッ飛んでまえー!」
 大氷柱に身体をさらし、壁になりつつウルスラ・ロザーノ(鈴振り燕・b57572)は、グラインドアッパーで次の大氷柱を吹き飛ばした。「こんなにも助けたいと思っとる仲間がおるんや、なんとかしてみせるで!」
 鉄傘を開いてジグザグスラッシュで応戦するのは、王・天煌(骨音童子・b84374)だ。
「痛いあるネ。でも石像が被弾しねーようにするヨ」
 大氷柱は天煌の黒いチャイナ服を抉るも、軌道をそらされ地面を穿つ。
 氷柱といっても一本一本の大きさが半端ない。かばった者たちも無事ではすみはしないのだ。
 清滝・心結璃(魂鎮ノ舞ヲ奏上ス・b60741)は、「神将ごとき何するものでございましょうや!」と慈愛の舞で二人に癒しを授けていく。
 舞いながら、未だ石像の蘭黒と美鈴に声をかける。
「かように多くの者が待ち望んでいたのです。はように元気な顔を見せてやって下さいませ」
「メディックの底力、舐めないで下さいね」と、レイン・アイス(朧月ノ尾・b82428)も封神十絶陣でみんなを癒しながら、イソギンチャクにダメージを与えていく。みんなが笑って帰れるように。みんなに無理はさせないように。狐耳と尻尾を生やし、レインは陣を張るのだ。
 遠野・英史(魔術師・b77804)は、癒す心結璃やレインを雷の魔弾で援護する。
 別に美鈴と蘭黒に面識があるわけじゃない。けれど、彼女達を助けたいと思う人がいる。「戦う理由としてはそれで十分だよ」と魔弾を撃ち続けた。

 蘭黒を護衛していた八重垣・日鷺(高校生符術士・b62091)も、最奥の神将の視線や動向には注意を払っていた。
 イソギンチャクのあまりに広いその戦闘範囲に、日鷺は戦闘に巻き込まれずに神将席に辿り着くのは無理だと判断する。
「警戒前進しましょう」
 覚醒ケットシー・ガンナーのカイケンに攻撃に徹してもらいつつ、自分は治癒符で見える範囲の仲間を癒していく。もう一度、彼女たちに出会うためにできることをするのだ。
 神将席に蘭黒や美鈴が収まるまでは、と豹童・凛(近寄り難き者・b33185)も警戒を緩めない。充分に周囲を警戒しながら、小鳥遊・陽太(おひさまといっしょ・b66965)はスピードスケッチで最奥の神将のイソギンチャクを描いて飛ばした。「あのふたりを助けるセイギノミカタなのですよ!」
 護衛が目的だから、こちらから戦闘を仕掛けるのは厳禁。それはわかっていたがもどかしい瞬間はあった。それらもろもろを飲み込んで、嵐堂・一矢(破魔矢・b09232)はここまでやって来た。
 たどり着いた時こそ一番の注意を。一矢が危惧していたとおり、最後の最後で見つかってしまった。大氷柱が次々に飛来する。
「体を張ってでも止める」
 まあ、死ぬ気は全くないが、と一矢は迷うことなく立ちはだかった。

「みんなで声を掛け合って、意思統一を図ろうね」
 結社【蒼雪の花】で参加した八伏・弥琴(始まりの空・b01665)の提案は、護衛班全体に受け入れられ、常に声を出すようにしてきた。
 慌てず、見つからないよう神将の足元へ。そして置ける状況だと判断出来るなら一気に移動して神将席に置きに行く。弥琴は何度もシミュレートした動きを、実行に移するタイミングを図っていた。だから動ける。
「近づけさせません!」
 新城・朱里(紅黎の巫女・b19237)は、飛来する大氷柱に向かって蒼の魔弾を撃ち込み、その威力を削ごうとした。ついに恩を返すことができる日が来たのだ。絶対に成功させてみせる。
 雲乗・風斗(結びの傘・b51535)は、急ぎ石像から離れて大氷柱の飛来に備えた。飛んできたならクレセントファングで衝撃を与えて、軌道をそらしてやるつもりだ。「石像にはもちろんだが、大事な仲間にだって指一本触れさせない!」

 確実に蘭黒を神将席に運ぶ。そのために羽杜・悠仁(狩銀ノ宮・b13821)は、相棒の天羽・十六夜(闇に囚われし者・b21674)、天明・光(光と闇・b55301)と共に接敵阻止の最終防衛線であることに徹していた。
「二人が無事に神将に戻れるように頑張らないとな!」
 光は護衛班全員に呼び掛けた。地の利は相手にある。互いに声をかけあって連携して補わねば。
 十六夜は、共に石像を神将席に届ける美鈴の護衛班の動きも把握しつつ、どちらがどう動いても大丈夫なように心を砕いた。他の神将の撃破に成功し、各班が合流した今、あとは神将席を目指すだけだ。「足を止めずに行くぞ」
 しかし、イソギンチャクから無差別に大氷柱が射出されるようになり、「敵を倒すことよりも滞りない運搬に注力」などと言っていられなくなった今、悠仁は「たとえ一体相手でも」と天雨豪流をピンポイントに撃ち込み、わずかなりとも射出する向きを変えようと考えた。
「必ず蘭黒さんにおかえりなさい、と言う為にこの作戦失敗する訳にはいきません……!!」
 石像を庇って、大氷柱の直撃を受けたレイフォン・シュバルツシルト(殲滅の蒼騎士・b37134)は最奥の神将を見据えたまま、次なる一撃に耐えるべく魔狼のオーラを纏う。
 氷桜・ひさめ(蒼銀珠・b56811)も、今まで温存しておいた想愛満月・絢爛を惜しみなく使ってイソギンチャクからの攻撃を耐え続ける。ひさめは蘭黒とお話したいことがたくさんあるのだ。「約束を守るため、約束を果たすため、決して怯みません」

 とにかく想定外のことだった。美鈴、蘭黒を運ぶ者たちを最小限に留め、何人かはイソギンチャクの大氷柱から石像と運ぶ彼らを守るため、身を翻して新たな護衛班となる。
 そんな中、イソギンチャクの反応を見て、とうとう最奥の神将が一同の目的に気づいてしまった。引きつけようとする者、倒さんとする者、何より護衛する者、全員に緊張が走る。
 しかし、最奥の神将の身体に登った明鏡・止水(真白燐蟲使い・b06966)の連絡とほぼ同時に、護衛班も神将席に気づくことができた。最奥の神将がいる奥の石壁、ここにところどころ開いた穴がそれぞれの神将席だ!
 石窟寺院の仏像を思わせる、縦長に浅く掘られた穴。それらすべてに台座のようなものがある。
 最奥の神将は石壁に近づく者を排除せんと、おびき出された位置から八本の手足を使って這い戻ってくる。時間との勝負だった。

 拙速をモットーに駆け続けてきた、TEAM【BU】の立見・鑑三郎(紫電清霜・b21872)は、石像を任せて最奥の神将へと向かっていく。断罪ナックル、黒影剣、続けざまに技を繰り出す。「ここまで来て引くわけにはいくか! 神将達の為に、神将と約束した者の為にもここで敗けるわけにはいかんのだ!」
 神将というのはは何より強い束縛かもしれない。「けど」と紫月・漣夜(ダムネーション・b32087)は呟く。「そんなあいつらにも生きる権利はあるはずだ。俺達と何ら変わらねぇ、感情のある人間じゃねぇか」
 だから待ってろ。必ず戻してやる。「とっとと貫かれなぁ!」
 飛鳥・瑛士(蒼き流星・b49579)も、最奥の神将の動きを阻止しようと護衛班を離れる。今までは残ってくれた対処班のみんなに武運を祈ってきた。今は、自分や戦う全員の武運を願う。最奥の神将を呪いを籠めた魔眼で睨みつける。「ここは通しません」
 残された時間はわずか。戦闘はみんなに任せて石壁に運ぶことに注力していたアリア・ルフィナス(ルレーヴ・b72097)も、これが限界と、任せて最奥の神将に向かっていく。ジェットウィンドが吹き荒れ、最奥の神将の足を鈍らせた。
「これ以上、近づけはしない! 喰らえ!」と、瀬名・琉美(真蒼ノ協奏曲・b42713)も爪剣 【Sard=Onyx】の柄を握り締める。二人を笑顔で迎えるためにも、ひるまない。最奥の神将に黒影剣で斬りつけた。
「通さない、絶対に……この身に代えても!」
 久保田・龍彦(雪原の執行者・b40406)も雪のアーマーでさらに白くなりながら、さよならの指先で最奥の神将を凍らせる。「邪魔を……するなあっ!」
 蒼の魔弾を放ちながら、四道・浅葱(魔道の申し子・b55060)も「後は頼んだぜ。美鈴を必ず助けてやってくれよな」と足止めで残った。

「ラーララーニーを知りきれなかった分の責務は果たすっ」と、蘭黒の護衛班から抜け出し、いち早く最奥の神将の前に飛び出したのは、如月・清和(魔導特捜ザンガイガー真・b00587)だ。降り注ぐ大氷柱から護衛班を庇いながら、竜巻導眠符を放つ。
「蘭黒をお願い!」
 御堂・巽(災厄ノ暴嵐麾シ禍キ蒼翠ノ女王・b01048)は、囮となるためにブラックボックスのfulmine forbici manoを手に走り出した。己のプロトストランダムを信じて突っ込む。無理せず無茶するけど非常時は無理を押し通す。近寄らせはしない!
 巴衛・円(青龍拳士・b18215)は、封神台に入る前から美鈴の護衛班との連携を強く考えていた。
「うって出るぜ!」とどちら班にも声をかけて、盾となるべく最奥の神将の前に躍り出る。
 ムハメド・ラグカーデ(砂塵の勇士・b63033)も、他の者に後を託して足止めに残った。使うのはミストファインダー。ただし、攻撃の支援ではなく盾となり耐えるためだ。
 鈴乃宮・影華(光に焦がれる影・b63908)は、攻撃は最大の防御とこちらからぶちかましに行く。
「ふっ、過去の神将の幻影と対峙するのも……まともに勝てるわけねぇ」
 ポルテ・トルテ(フェンリルクォーツ・b37411)は、神将という存在がいかに強いかを知っている。それでも蘭黒の護衛に手を挙げた。
 蘭黒が狙われる今、ポルテも攻撃に転ずる。注意を引くため、わざわざ姿を見せるようにしながら瞬断撃でヒットアンドアウェイ。ちょこまか鬱陶しそうに動き回る。
「この十字の連撃に耐えられるかな〜っ♪」
 少しでも僕の力が役立てばいいと、ポルテに内緒で尾行してついてきた山野・進(ぽかぽか陽だまり拳士・b76199)もクロストリガーで応戦した。「李さんを神将席までガードだ〜いっ!」
 神将ってのは……力を得る代わりに失うモンも多かった。だったらもう十分だ。これからはいろんな幸せ掴むために生きたっていい。好きに生きていいはずだ。壬柳・惣一(黒ノ奔流・b46550)はそう思う。
「ブチのめさせてもらうぜ。俺達の……仲間のためにな!」
 殿を務めるため、惣一は隊列を離れて最奥の神将へと向かっていく。

 ドドドドドドっ!!
「今だ、置ける!」と思った時、最奥の神将が地団駄を踏み、大地が跳ねた。
 護衛班の足下も大きく揺らいたが、石像を運んでいた者たちは必死で二人を抱え込み、転倒しないよう全力で踏ん張った。石像を護るため一切衝撃を吸収することもできなかったが、そんなことはどうでもよかった。こんなところで石像を落とすわけにはいかない!
「これで耐えてください!」
 彼らが受ける衝撃を、アキシロ・スチュワート(幽霊屋敷の執事・b01500)の白燐装甲が癒した。ついさっきまで護衛班の外縁で戦闘の余波に備え続けてきたが、最奥の神将が地団駄を踏む直前、隊列を離れて迎撃に向かっていた。だから回復を飛ばすことができた。一瞬の差だった。
「ハリー!」
 止まる足を奮い立たせるため、リリアン・ソーンダイク(生き運をもつ幼女・b72741)はみんなに呼び掛けた。
 石像をすぐに動ける人へ渡すのを手伝う。手が足りないと感じたリリアンは、ならば自分がと手を添えて運び出す。

「美鈴をきちんと迎えてやる為にもココが正念場だぜ? 締まって往くとしますか!!」
 美鈴を包んできた布を解く間、鷹星・迅(双銃を操る無法者・b46712)は運搬班を背に、最奥の神将の動きに注視する。大氷柱だって、最奥の神将本体だって、「絶対に通さねえぜ!」
「正に命懸けやな」
 あともう少し。六視・勇吹(一風一閃・b58531)は己が身を顧みず、覚醒モーラットピュアの白玉と一緒に戦いに行く。
「オレより気持ちが込もうとる人も居るやろう。やけど、オレやって同じ立場で同じ気持ちや! 絶対に『ただいま』を言わしたる! ナンパと言われても構わへん」
 渾身のゴッドウインドファントム。希望をつなぐため、勇吹は一陣の風となった。
「『ガキが笑って死ぬような話は嫌いだ』って言ったわよね。アンタの命取り返しに来たわよ、美鈴!」
 一直線に戦場を抜け、楡崎・洋子(唯尊・b16444)はこの場に駆けつけた。
 急ぎロープを切りほかのみんなと協力しながら、神楽・ねむ(夏咲き雪花・b45522佐京・藤若(花信風・b42167)と)は、美鈴を包む布やロープを解く。気持ちは焦るがここか肝心なのだ。失敗はできない。
 自分を応援してほかの神将に残ってくれた、【辻ヶ花】のみんなには感謝してもしきれない。
 藤若の脳裏に浮かぶのは、美鈴の笑顔。
 祈る思いは、ここにいるみんな同じだ。――どうか再び会えます様に。

 背後で蘭黒が神将席へと運ばれるのを護りながら、柏木・隼人(黒い風・b03076)は思う。
 いざその時となると、きっと何から言えば良いか……上手く言葉に出来きないだろう。顔さえまっすぐ見ることができるかどうかもわからない。
 それでも。「おかえり」の言葉くらいは、真っ直ぐに真っ先に彼女に伝えたい。そのためにもがんばるのだ。
 いつでもクレセントファングを繰り出せるよう身構えながら、隼人はその時を待った。
 ここまできたなら。護ってくれるみんなを信じて、神崎・翔(闇を背負いし青き瞳・b04754)と杉本・沙紀(天弦に導かれし雷光・b46924)は、最後の鏡雨転身を使った。
 一切周りの状況を無視し、最短ルートで駆け抜ける。石壁はもう目の前だ。急ぎ蘭黒を守ってきた布とロープをほどく。

 コトリ。小さな小さな音を立てて、美鈴と蘭黒の石像が神将席に置かれた。


●あと少し、ほんの少し
 護衛班が息を呑んで見守る中、美鈴と蘭黒の石像は神将席に置かれた。
 と、同時に、歓声が聞こえた。
 護衛班が驚き振り返ると、最奥の神将と戦っていた者たちが勝鬨を上げていた。なんと、あの最奥の神将を倒したのだ!
 最奥の神将と戦おうと最初に決めていた者たちだけでは、とても倒せるような相手ではなかった。しかし、四足獣や昆虫、魚、影、花の対処班の面々に護衛班、それぞれから戦力になろうと集った能力者のおかげで、戦力は倍増……どころかほぼ九倍まで膨れ上がっていた。
 先の戦いで激しく消耗した者、勝負が一気について余力を残せた者、そしてここで使うべしと体力を温存させていた者、それらすべてがひとつになってこの勝利をもたらした。
「誰かを助けたい」と願う、銀誓館学園の生徒だからこそ起こせた奇跡だ。
 一同は手を取り合って喜んだ後、互いを称えあった。
 
 喜びの波がじわじわと広がっていく中、息を呑んで石壁を見つめる一団がいる。
 神将席に美鈴と蘭黒を送り届けた者たちだ。周囲もそのことに気づき、二人の復活の時を一目見ようとあちらこちらから集まり始めた。
 ぼうぅ……。
 しばし反応のなかった石像だったが、しばらくして淡い光を放ち始めた。
 やがてその光は、美鈴と蘭黒、それぞれ二人の姿をかたちどっていく。二人の幻影は目を閉じたままだったが、やがて神将席の上にて彼女たち本来の姿を取った。
 ただ美鈴と蘭黒の二人の石像は、光に包まれたまま、未だぼんやりとしている。
 手順が半分しか終わっていない、そんな感じがした。
 とはいえ、無事に石像を置けて、よど子に聞いてきた手続きがとれたのには違いない。
「おかえりなさい!」
「会えて嬉しいよ」
「お待たせしてごめんなさい」
 一同から、喜びのさまざまな声が飛ぶ。しかし、二人は目を瞑って座ったままピクリとも反応してこない。
「……失敗?」
 誰かがつぶやき、「嘘っ!?」と悲鳴が上がる。
「美鈴! 美鈴!」
「蘭黒、帰ってきて!」
 必死に呼びかける能力者達。そんな中で、誰かが呟いた。
「……確か、封神台の使い方では、神将の封印を解き、封神台から出さないといけないのでは?」
「……という事は」
「石化してる2人を外に出さないといけないのかな……?」
 恐る恐る石像を神将席から除けてみる。が、二人の幻影はそこに留まったままだった。これが、神将席に登録されたという状態を意味しているのだろう。
 そういえば、よど子は『神将席に触れれば』と言っていた。
「あれって、置いて持って帰って来いってことだったのかも……」
 それならもっとわかりやすく言って欲しかったと、胸を撫で下ろしながら、護衛班は二人の石像を改めて包み直そうとする。
「スリット深いですけど気になさらずドゥフフ」
 そう言いながらリリアン・ソーンダイク(生き運をもつ幼女・b72741)が取り出したのは、銀誓館学園の制服。二人に仲間の証として渡そうと用意していたのだ。
 受け取り石像を包みながら、二人がこの制服を着て銀誓館学園に来る日を夢見る。
 緋宮・アカリ(太陽の娘・b43437) は、以前プレゼントした蝶の髪飾りをつけた美鈴の頭をいとおしそうに撫でた。
 それを見た蒼間・夜刀(禍つ蛇・b02968)は、石化が解けたら二人の頭を撫でさせてもらおうと思う。もしもの話。蘭黒と美鈴だけじゃなくて睡藍も石化してたら「おっす、おかえり!」といって自分は頭撫でるだろうから、その代わりに。いきなりでびっくりするかもしれないけど、すまねって。
 豹童・凛(近寄り難き者・b33185)も蘭黒に話しかける。「遅くなって済まなかったな。今日まで滅亡の危機やら何やらと大変なことがあったが、どうにかキミに会えるまで生き延びることができたぞ」
 式銀・冬華(紅き片翼の剣巫女・b43308)も、「おかえりだ、二人共」と声をかけた。
(「生きられなかった神将たちの分まで、これからの人生を楽しんでくれ。……ま、嫌と言っても銀誓館の皆が楽しませてくれるだろうよ」)
 ぴゅるりー……。
 緋薙・悠(ルナエンプレス・b52942)のバンズリ、「遥かなる音」の澄んだ音色が響き渡る。
(「ラーラさん、貴女もここにいて欲しかったな」)
 その音は、似た思いを抱く者すべての胸を振るわせた。
 如月・清和(魔導特捜ザンガイガー真・b00587)もそのひとり。「ラーラ。神将仲間は助け出したよ」と彼女を偲ぶ。
 友と、仲間とまた会えること、会わせてあげらることが嬉しいのに、少し、哀しい……。
 ティアレス・セルシウス(気高き臆病姫・b41953)は、涙が溢れそうになった。
(「十三……本当なら、貴方だってここに……っ)」
 思って、ティアレスはぐっと涙を我慢する。だって、きっと泣いたら笑われる。
(「封神台の中なら、見てるかもですしっ。強くなったとこ、見せないとね……!」)
 美原・月(闇に放つ月輝・b15609)は、そっと神将席のある石壁の前に、お手製の蜜豆を置いた。お供えかと尋ねられて、月は「ううん違う」と首を振る。「向こうでお腹空かしてるだろうから差し入れだよ」
「本人さえ諦めてなければ」と釣・克乙(ストームブリンガー・b52353)は神将席のある石壁を仰ぎ見る。美鈴や蘭黒の様に、雨堂・盾哉の復活の手はきっとあるはずだ。克乙は「そう信じます」と呟く。
 その横で、珠洲屋・那智(白月の欠片・b82922)はこっそり空いている神将席に近づいて「座り心地はどうかな?」と試そうとしていた。那智の首根っこを、不穏な行動を起こすヤツが居ないかと注意していた夜刀・神也(谷津乃守也・b73718)が掴んで止める。「やめとけ」と。
 そんなことがあったとは露知らず、「やった、な!」と、葛城・時人(光望青風・b30572)と凶月・陸井(我護る故に我在り・b12455)は拳を合わせて凱歌を歌う。
 あとは戻れば、すべての目的が達成される。十五夜・美月(月見人形・b82592)は、月に感謝し祈りを捧げた。
 
 ぐんっ。
 ふいに全員が同じ方向へ引っ張られた気がした。生命の鎧を作っているファンガスたちが、限界を知らせてきたのだ。知らせついでに一同の身体を癒してくれる。
 襲い来る神将は、往路ですべて倒してきた。もう何の脅威もない。
 あとは石像を無事に持ち帰ることにだけ気をつけて。
「帰ろう、私たちの学園へ」
 きっと美鈴と蘭黒が首を長くして待っている――。


マスター:篠谷志乃 紹介ページ
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いまいち
参加者:445人
作成日:2012/05/11
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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