<リプレイ>
● 「あれが……敵の拠点……」 銀誓館を発った能力者達は、神秘撲滅を阻止する為に作戦を発動した悪路王軍に同調し、真のシルバーレインとランドルフの軍勢に対し戦いを挑もうとしていた。空へ伸び続ける鬼の手を登る一団の中には、速坂・めぐる(真烈風少女・bn0197)の姿もある。 彼女らの視線の先に見えてきたのは、空に浮かぶ島らしき物。 「おーおー、すごいもん軌道上に作っちゃって……ま、戦争かしらね、これは」 眼鏡越しに緋之坂・央璃(タラントラディベルダストロ・b00444)が見据えるのは、世界結界の外――成層圏に浮かぶ「神の島」。ランドルフはこの島で戦力を蓄えていると言う。 「抹消されるつもりなんてさらさらないし、授業もまだまだだし、結婚して家庭だってつくりたいわん。きゃ☆」 これから始まる一連の作戦は、恐らく過去に類を見ない熾烈な物になるだろう。にも関わらず……あるいは、だからこそかも知れない。央璃はマイペースに戯けてみせる。 6年近くの長きに渡り、銀誓館学園の能力者としてゴーストと戦い続けてきた彼女。銀誓館の中学教諭となった今も、最前線で戦い続ける道を選択した。 全ては守るべき世界の為だ。 「短期間にどうやってあんな城塞を築いたのか気になるけれど、とにかく阻止する為の道を切り開かないとね」 他者には聞こえない程の声ではあるが、確たる口調で呟くフェシア・リンフォース(真なる魔女・b02719)。 幼い頃に能力に覚醒し、それが故に異端として迫害を受けてきたフェシア。過酷な幼少期を送りながらなお、彼女は世界を憎むこと無く生きてきた。 他者を助ける為、そしてもちろん、愛する人と自らの為。戦う彼女の心に迷いは無い。 「神秘撲滅など全く受け入れられない。力なき人々の脅威を打ち払う剣となろう。……それが死地とて、そのためならば進んで赴こう」 硬鎖禍・鴉皇(原始の闇を纏う存在・b15375)は、東北地方に伝わる土蜘蛛の一族を統べる当主である。 彼女にとって自分の一族を守ってゆく事は、もちろん何物にも替えがたく重要な事ではあるが、それでも彼女は命を賭けて戦いの場へと赴く。 誇り高き土蜘蛛が土蜘蛛らしくある為、この戦いは不可避の物と言って良い。 「ランドルフに一発かましてやりたいね」 烏森・スズメ(拳で語る人・b27259)にとって、小難しい理屈は不要なのかも知れない。 悪と判断した物に対しては、鉄拳をもって制裁を下す。極めて単純明快な正義の形を体現するのが彼女なのだ。 「それにはまず、先に倒さなきゃいけない奴らが居そうだな」 次第にはっきりと見えてくる神の島の全容。当然鬼の手による接近を察知している彼らは、万全の迎撃態勢を整えているに違いない。 「ええ。とりあえず、目の前の敵は排除しないとね」 浅倉・きよい(フライパン片手に歩く火薬庫・b60821)もまた、考えるより身体を動かす方を好む行動派。 次第に近づいてくる戦いの時に備え、戦意を高める。 「……ランドルフがどうなろうが知ったこっちゃないわ。ふん!」 他方で、彼女が気にしているのはランドルフの事。 様々な経緯を経て、今は敵味方に別れては居るものの、かつては轡を並べて共に戦った仲でもある。浅からぬ縁をそう簡単に割り切れないのは、彼女の情の厚さだろう。 「ランドルフ……あいつ、ぜってー見えざる狂気におかされてるだろアレ。というか神の左手に本人も洗脳されてるとかな……メガリス持ってて正気でいる奴、ほとんど覚えが無いし」 その隣を歩きながら、ぶつぶつと呟いているのは漣・終夜(暴威のブレイズバード・b61052)。 熱血正義漢の彼にとってもやはり、かつて味方であった相手が敵になったりと言う状況は好ましくないのかも知れない。 「神と騙ったお城ごと、とっと落としちゃおう」 しかしすぐさま気持ちを切り替えると、少し歩く速度を速める。 「総帥には総帥の正義があるのでしょう。例え虐殺者の汚名を被ろうとも、今この時代で全てを終わらせるという……」 そうした意味では、ここに居る9人の中で最も複雑な心境であるのは、アルファリア・ラングリス(蒼光の槍・b77160)かも知れない。 協定によって銀誓館に合流した巡礼士である彼女にとって、ランドルフらはまさに同胞。彼らと決別し、銀誓館と共に歩む事は、極めて偉大なる決断だったに違いない。 「ならば、巡礼士として生を受けた私にできることは一つ。私は私の正義を信じ、銀誓館を貫かせていただきます。理想論でも、雲を掴む話であろうとも、絆の先にある未来を信じること。それが、私の中の『巡礼士』ですから!」 最前線攻撃隊が戦端を切ったらしく、彼方でいくつかの火球が輝く。 アルファリア達9人はそれを横目に、城の斜め側方へと回り込む。 「ここで負けるわけにはいかないよね、絶対に鬼の手は壊させないよっ!」 普段はちょっととぼけた天然キャラの十六夜・蒼夜(インフィニティゼロ・b44935)も、左右計8体の巨大砲台が、鬼の手に対し魔砲を浴びせているのを見、表情をきりりと引き締める。 鬼の手が破壊されるような事があれば、城への侵入は不可能となる。作戦の失敗へと直結する深刻な事態を招くだろう。 「急ごう!」 負ける事の許されない戦いが、始まろうとしていた。
● 「さ、アホやってないでぶっ潰しましょ」 央璃は漆黒の闘気を纏い、一気に速度を上げる。 「えぇ。相手がただの兵器であるなら遠慮なく破壊できるわね」 頷きつつ、魔方陣を展開するフェシアと蒼夜。 「邪魔だ。貴様らに用はない、失せろ!」 「あんたら邪魔するな!!」 阻止せんと群がり来る量産型巡礼士を退けながら、一気に巨大巡礼士へと肉薄する能力者たち。 巨大巡礼士は約8m。鎧姿の巡礼士にも似た外見ではあるが、太い4本の手足を持ち、ゴリラの様に門の横に鎮座。鬼の手に対し頭部のマスク部分から魔砲を放っている。 門の右側に配置されている巨大巡礼士は4体。 「ちょうど、各チーム1体ですわね」 「あれ、こっちを見てる気がするわ。視線を感じるんだけど」 「なんだあいつら。4体とも順にこっちを向いたぞ!」 「……あの像、もしかしたら互いに援護できるんじゃないかしら」 「では、やはり1体ずつ撃破がよさそうですね」 巨大巡礼士を見据えながらそんな言葉を交わすのは、共に右側に迂回した他チームの能力者たち。 「ボクらは手前から2番目の巨大巡礼士を狙う」 赤い髪の女子が告げ、チームと共に駆け出す。 「力を尽くして戦いましょう」 激励の言葉を残した一人は、白髪をなびかせて走り去った。 「なら、俺達はあいつを討とう」 また別のチームの男子は、一番手前の巨大巡礼士を示す。 「了解ですわ、参りましょう。……皆様、ご武運を!」 かくて2つのチームが、それぞれに標的に向かって突入してゆく。 「そんじゃ、その次のは私達が頂くぜ。最後のは任せた!」 残るもう1チームの能力者たちへ、スズメが告げる。 「お互い頑張りましょ!」 9人は一斉に、ターゲットである3番目の砲台へと向かう。
「この陣容、これが総帥のお覚悟ですか……。それでも、私が銀誓館で学んだ全てをもってお相手させていただきます……!」 レイヴンサイズに黒燐蟲を纏わせ、一気に肉薄するアルファリア。 ――ヒュッ! ヒュッ! 「う〜む……硬くて不味い」 終夜の合体剣が、無数に分離して巨大巡礼士へと襲い掛かる。が、巨大かつ頑丈な巨砲は小揺るぎもしない。 ――キィィィン……。 「見て! なにか動きがあるわよ!」 ――バッ!! きよいが注意を促すが早いか、収束した魔力が砲弾となって放たれる。能力者を貫くまばゆい光線。 「っ?!」 「この程度で!」 黒燐奏甲によって仲間の傷を癒しつつめぐる。 「やっほー、そーにゃん。がんばろっかー」「よし、こんな砲台に邪魔はさせないよっ!」 蒼夜の手に、時空を歪ませるほどの膨大な魔力が集まる。放たれた蒼の魔弾に呼応し、紅蓮の炎に包まれた赤手を繰り出す央璃。 ――ドンッ! 「みんな、固まりすぎないで」「全身全霊―――砕き斬る!」 フェシアもまた仲間に注意を促しながら蒼の魔弾を放ち、同時に間合いを詰めた鴉皇は、巨大巡礼士の脚部へ紅蓮撃を叩き込む。 「喰らえ!」 ――ガガガガッ! スズメは巡礼士のマスク部分目掛けて無数の弾丸をたたき込む。 能力者達のノーガードとも言える苛烈な攻撃の前に、さしもの巨大巡礼士も次第に傷を増やしてゆく。 「よし、この調子……まだまだこれからだぞ」 砲台からの応射に加え、量産型巡礼士がちらほらと能力者達の元へやってくる。 敵も必死の反撃によって能力者達を退けようとするが、9人の狙いは目の前の巨大巡礼士ただ1体。 「でかいからって威張るんじゃないわよ!!」 きよいの放つ火球が、またも巨大巡礼士の腕付近に炸裂する。 共に持てる力の全てをぶつけ合う苛烈な打撃戦は、佳境へと差し掛かってゆく。
● 「どぉっせーい!」 ――バキィッ! 紅蓮の炎を帯びた央璃の鬼灯が、巡礼士の顔面を強かに打ち据える。 「よし、効いてる効いてる!」 魔炎に包まれる巡礼士へ、更に蒼夜の魔弾が追い打ちを掛ける。 「彼のためにも生きて……、生きて帰るんだから!!」 更にはきよいのフレイムキャノン。 眩いほどの猛火が巡礼士を覆う。 「どんな正義があっても貴方は私達を見ていない」 フェシアは自らの詠唱兵器が受ける負担さえも顧みず、螺旋状の詠唱停止プログラムを発動させる。 ――ガッ!! 黒猫のワルツが巡礼士の砲塔部分を打ち、その一部を破壊する。 「もう一息……もう一息だ!」 武術短棍に氷を具現化したスズメは、巡礼士の左腕にフロストファングを見舞う。 咆哮を上げながら、次第に崩れ落ちてゆく巨大巡礼士の身体。しかし今だ、反撃を諦めることは無く、むしろその抵抗は過激さを増している様にさえ感じられた。 だが…… 「たわけ―――我が一族郎党の行く末を預かるこの硬鎖禍鴉皇を打ち滅ぼしたくば、この三倍はもってこい!」 ――ザシュッ!! 負う傷を物ともしない鴉皇。手にした斬馬刀「不殺」が紅蓮に燃え、半壊した砲塔を完全に切断する。 「トドメを!」 浄化の嵐を起こしつつ、声を上げるめぐる。 「システムチェンジッ、いっくぞー押し通すっ!!」 剣を合体させた終夜は、それを最上段から全身全霊の力で振り下ろす。 ――ドンッ! 切断された巨大な腕が、地面へと落ちる。 「折れるものかッ! この道は銀誓館が歩んできた信念の翼!」 アルファリアの召喚した一際巨大な聖葬メイデンは、砲塔を失い片腕となった巨大巡礼士を問答無用の抱擁によって捉えた。 「私は、いや、銀誓館は、この程度で折れたりはしない!」 ――ガシャーン!! 城を守る8つの砲台のうちの1つは、この瞬間に完全に沈黙した。
「なんとか鬼の手は守れた……のかな?」 「えぇ、こっち側の他のチームも巨大巡礼士を無事破壊したみたいね」 周囲を見回しながら、安堵混じりに言葉を交わす蒼夜ときよい。 しかしこの勝利も、作戦全体を見ればまだまだ第一段階の中の一部に過ぎない。 他の仲間達の奮闘を祈りつつ、一行は次なる局面に備えて量産型巡礼士の掃討へと移る。 戦いはまだ、始まったばかりなのだ。
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参加者:8人
作成日:2012/05/25
得票数:カッコいい10
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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