≪弁当屋【樹雨の虹】≫誓い水無月


<オープニング>


 世界をゆっくりと梅雨の薄青ににじませて、しとしとと雨が降る。霧雨と小雨のちょうど中間くらいの雨粒は大地に落ちても音はない。だがここは樹雨の宿り。結社の名が表すがごとく若葉から滴る滴はパタリ、パタリとリズムを刻み。
「6月……なのよねぇ」
 読むともなしに読んでいた雑誌から、リヴァル・ローレンス(ブラッディクロス・b18553)はふと顔を上げた。雨に濡れた庭石をのんびりとかたつむりが横切っていく。
「……5月の次だからね」
 答える都築・アキ(ターンコート・b16871)のほうも、気持ちはどこをさまよっているのやら。続かない会話の間をつなぐように、またひとつ樹雨の粒が落ちていく。ブリキのバケツに当たった音が思いがけず澄んだ音を響かせた。まるで教会の鐘の音色のように――。
「花嫁の月がこれじゃあね」
 リヴァルは嘆息とも深呼吸ともつかない一息を忍ばせると、アキはふと表情を改めた。花嫁――口の中で小さくつぶやく。
「そっか、ジューンブライドか」
「そう、6月の花嫁は幸せになる……ってね」
 でもこの季節じゃね――リヴァルは再び若楓から落ちる滴を眺めた。紫陽花の花ではあるまいし、ウェディングドレスは雨粒をのせてこそ映えるというわけにはいかないのだ。
「北海道なら梅雨はないけど、ね……ああ」
 頬杖をついていたアキが急にリヴァルに向きなおる。マヨイガならば雨など関係なく過ごせるのではないか、と。いつか2人で遠出をしようと計画していたのもまだ実行できていないのだし、この機会に出かけるのもいいだろう。
「それって……式ってこと?」
「えっと、ほら、お、え、あ、うん。えっと、あれだ、あれ」
 改めて問われると何とも微妙な答えになってしまうのだけれど、時は6月、アキも高校を卒業したことでもあるのだし――。目の前ではリヴァルがふわりと笑っている。2人だけの場所で2人だけの結婚式。呟いてみればなんと甘美な音の連なり。さっそくマヨイガの報告書を持ち出してくる彼女に、アキもふっと目を細めた。

「じゃ、まずはお互いの衣装を選んで……」
 マヨイガ内をゆっくり散策しながら、まず向かう先は貸衣装屋さん。正統派のロングドレスでもちょっと現代風のアレンジがきついのでも大抵のものは揃うだろう。2人の衣装を選んだらそれに合う小物も選んでもらいたい。どんな式にしたいのかをあらかじめ伝えておけば、従業員がいろいろ出してくれるだろう。何しろここの従業員はこういうものをそろえるのが大好きときているのだから、おおいに注文をつけてやってもらいたい。
「それから結婚式場へ、か」
 式次第はこれまたかなり自由がきくけれど、牧師さんを頼むこともできるし、音楽の類はウィーンの少年少女合唱団ばりに充実しているらしい。
「指輪の交換とか……する?」
 アキが尋ねるとリヴァルは小さく笑った。ブーケトスは投げる相手はいないけれど、もしもやりたいと希望すれば合唱団、従業員こぞって相手をしてくれるはずだ。ともあれ、2人のプランが最優先。ここはもう目一杯希望を伝えておくべきだろう。
 ささやかにでもにぎやかにでも、とにかく式が終わったならばあとは新婚旅行代わりに2人きりの時を。マヨイガの夕焼けを楽しむのもいいけれど、ここは宿でゆっくり……というのがリヴァルの希望。
「じゃあ、ここのホテルで夕食を……」
「温泉とかも入りたいね」
 緑色の瞳にいたずらっ子のような光が宿った。見つめられて一瞬頬に熱が走るアキ。でも確かに今までそうしてのんびりということができていなかったことでもあるし――。
「うん。わかった――」
 最近はことが多すぎた。地上どころか空まで揺れた先の出来事を思えば、このあたりで疲れをいやしておくのも悪くない。思い立ったが吉日という言葉もあることであるし。
「いい天気になるといいな……」
 そんな呟きに誘われるように、2人は再び庭に目をやった。いつの間にか雨は上がり、斜めの白日が若木の雨粒に輝いている。
「ああ……見て」
 アキの指がこんもりと茂る木々の上を指差した。緑の樹冠から灰色の空へと伸びあがるのは七色の橋。
「……ふふ、虹ね」
 マヨイガにもあんな風に虹はかかるのだろうか。それは2人で出かけた時に確かめることにしてみよう。

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参加者
都築・アキ(ターンコート・b16871)
リヴァル・ローレンス(白薔薇と白百合と・b18553)



<リプレイ>

●マヨイガの6月
 しとしとと雨の続くこちらの世界を後にして――くぐりぬけたのはマヨイガへの扉。リヴァル・ローレンス(白薔薇と白百合と・b18553)が最初に目にしたのは今年最初の向日葵の花だった。運河沿いの小路ではそろそろ初夏の花が役目を終える頃。代わって盛りを迎えている紫陽花もなぜか陽の色がよく似合う。
「雨の花なんだけどね、ふつうは」
 苦笑交じりに都築・アキ(ターンコート・b16871)は花の茂みに顔を寄せた。一体誰が世話をしているものなのか、様々な色に咲かせた紫陽花の茂みにはヒツジや仔猫。小さなリビングデッド達が花影の午睡としゃれ込んでいる様は、ゴーストとの戦いに明け暮れてきた2人には不思議なものを見るような思いがする。
「良い思い出にしましょうね、アキ君」
 リヴァルの指がそっとアキの袖を引き、彼はふっと恋人を見詰め直した。銀の髪が風をはらむ。今日はこの髪に花嫁のヴェールをつけに来たわけだけれど……。
(「……戸惑い、かな。これも」)
 こうして結婚式の当日を迎えても『結婚』の2文字は実感がわかない。リヴァルのことを好きでないなどということはありえないけれど、まさか自分が……という気持ちも確かにある。
「まずはアキ君が作った本屋さん、寄りたいんでしょ?」
 ならこれが条件ね――リヴァルはするりとアキの左腕に自らの右手を滑り込ませた。

 マヨイガの街に作られた本屋はなかなか盛況のようだった。本を抜きぱらぱらとページをめくるゴーストの姿は何となく微笑ましい。ぐるりと店内を巡るとアキたちが訪れたのは雑誌のコーナー。ウェディング関連のものに写真集。何しろマヨイガの結婚式はぶっちゃけなんでもあり。2人の意思次第だとくれば資料は多いにこしたことはない。
「正統派のロングドレスも勿論だけど……」
 ひとまず落ち着いたカフェでリヴァルは早速ページを繰る。この後は貸衣装屋さんで衣装を見立てる予定だけれど。アクセサリーにブーケ、ヴェールにヘアメイク。1つ1つ2人で考えていくのはとても楽しい。
「和装はしてみないの?」
 白無垢に綿帽子に、豪華な縫い取りの打掛けに――アキが指差せばリヴァルも憧れを秘めたような目でじっと見入る。今日は2人だけしかいないけれど、いつか仲間の前で行う式にはそういうのもいいかもね……そんな囁きがアキの耳にはくすぐったい。
「なら、沢山着てみればいい」
 一眼レフを借りておくから……アキは小さな笑みを見せた。マヨイガの風景を撮れるかどうかは判らないが、ドレスを着た彼女を取ることは多分できるのだろう。
「じゃ、行こうか」
 今はもう迷わず彼女に差し出せるこの手。躊躇いなく組んでくれるリヴァルの存在が今の彼には何よりも温かい。日向の匂いを含んだ髪がその頬を撫でた。
「うん。アキ君にはどんな衣装が似合うかしら」
 リヴァルがくすりと笑う声がアキの胸元で響く。そのまま抱きしめてしまいそうな衝動をなんとか抑え、2人は花の小路へ。互いに選び取ったのは迷路のように植えられた向日葵の小路。どちらからともなく選んだルートではあるけれど、恋人の気持ちはそれぞれ手に取るようにわかるつもりだった。今このひと時をもう少しだけ。けれど教会へ続く道を見失いたいわけではなく――幸せな遠回りというものが、ここには確かにあったのである。

●誓い水無月
「じゃ、次はこれ」
 試着室から現れたリヴァルが着ていたのは薄ピンクのマーメイドライン。ウェディングドレスというには少し斬新すぎるきらいもあるけれど、これはこれで彼女の白い肌をよく引き立てる。最初の白無垢から始まって、アキはもう何本のフィルムを使いきったことだろう。一口に結婚衣装といってもマヨイガの貸衣装屋の品揃えは半端ではなかった。加えてここの従業員達ときたらさすがに衣装好みが勢ぞろい。遠来の客がスタイル抜群となれば舞い上がってしまうくらいに嬉しいらしいのだ。
「ねえ、どう?」
 結婚式は正統派で行くつもりでいるリヴァルも、こうして次々と着替えるのはモデルにでもなったようでとても楽しい。
「いつか子供が生まれたら……」
 こんな大騒ぎしたのよと教えましょうね――リヴァルはアキの胸ポケットに薔薇のブートニアを挿した。真ん中に行くほど微かにグリーンのその薔薇は、彼女の瞳の色を思わせる。決めたドレスは雪のような白、細かなレースの長い裾。
「少し気が早い気もするけど……」
 でもここが2人の新たな出発の場となるならば――アキも微かに微笑む。そして同じバラで作られた髪飾りを手に取った。銀線細工の葉に縁どられた花の上には幸福を約束する朝露が輝いている。
「じゃあ、やっぱりドレスはこれかな……」
 リヴァルは艶やかな光沢を放つシルクの1着をにこやかに取り上げた。

 厳かなパイプオルガンの調べ。バロックの音色が教会の隅々までを神聖な式の空気に染め上げる。
(「元従属種と貴種が教会で結婚式、か」)
 取り合わせの妙にアキが苦笑しかけたその刹那、遥か向こうで彼の運命がその扉を開いた。霞のようなヴェールに隠された顔をそれと知ることはできないけれど、そのシルエットを見間違える彼ではない。やがて託された手はしっとりとなじみの深いもの。祭壇に進むとステンドグラスの七色がリヴァルの豊かな胸元に祝福のように落ちかかり、アキは思わず視線を逸らした。
(「どうしたの?」)
 そう尋ねるかのようにリヴァルの指に力がこもった。アキはくっと顔を上げて壇上の十字架を見つめたまま言った。
「飾らずに言うよ……」
 綴る言葉は彼女にだけ聞こえるように。家族が欲しいと願っていたこと。幼い頃に失ってしまった光景に抱いていた憧れ。
「ただ正直な所、結婚とかは意識したこと無くて……」
 傍らからこぼれてくる真摯な言葉。リヴァルはすがった腕にそっと頬を押し付けた。それでも自分の幸せがここにあることを彼女はよく知っているのだ。
「……でも、幸せにすることは、約束するよ」
「うん」
 そっと見上げるとアキの紫水晶の瞳もまた、リヴァルのほうに向けられていた。
 結婚式は牧師の祈りから形式通りに始められた。何千回となく繰り返されてきたであろう誓いの言葉も、まるで今日初めて人の口に上ったような真摯さを以って報いられる。2人の答えは勿論イエス。恋人の誓いを天使の声のごとく聞きながら、リヴァルは来し方を思い出す。初めて出逢い、恋人として過ごした日々。思い出せば数えきれないほどの日が自分立ちの上を過ぎていったのだと改めて思った。とその瞬間、手をと囁く声が聞こえた。続いて指輪の交換をという牧師の声も。
「アキ……これ」
 用意されていた指輪はリヴァルの記憶にあるものとは違っていた。ちょっとしたサプライズと、彼は花嫁の手を取って笑う。左手の薬指にはめられた指輪にはごくシンプルなルビー。
「三ヶ月分とか格好いいもんじゃ無いけどな」
 だがその7月の守護石は極上の真紅。
「アキ……」
 もう『君』はつけない。これからはずっと。リヴァルと彼の間を隔てていた薄い幕が静かに取り去られる。ジューンブライドの誓いを経て初めて見つめあう夫と妻。その手に導かれるままにリヴァルは静かに顔を上向けた。菫の色の瞳に映る自分を認めるとなんだか少し気恥ずかしいような気がする。きっとアキも自分の瞳の中に自身の照れを見出していることだろう。
「約束する――」
 何をとはもうアキは言わない。リヴァルもまた聞き返さない。ゆっくりと縮まっていく距離に反比例するように鼓動が強くなっていく。恋人として重ねてきたものと、夫婦として重ねていく口づけの狭間にあるのはこのただ一度。しっとりと吸うように重なったその一瞬、リヴァルの中の本の新しいページが開かれた。まだ言葉のないまっさらな。けれど今はまだ言葉は要らない。ただ重なりあう唇が伝えてくれるそのぬくもりがあるだけで――。

●June bride&Honeymoon
 滞りなく式が終われば新婚旅行デートというのがお約束。従業員一同に賑々しく見送られて夫妻が向かった先はマヨイガの一角に建てられたホテル。ここが2人の蜜月の始まりの地というわけで。
「まずは浴衣でしょ」
 お風呂もあるし、卓球台だってほらそこに……。お約束だといわんばかりに花嫁の目がキラキラと輝きだす。だがそれって新婚旅行のメニューだろうか――花婿の脳裏に浮かんだ疑問は、しかし電光石火で宇宙の彼方へ。従業員が楚々たる態度で紫陽花模様の浴衣一式を差し出したのだ。華やかなドレスを纏っている時も美しかったが清楚な浴衣を着ればリヴァルの初々しさがいっそう引き立つ。
「食事の前に軽く一戦……いいかしら」
 無論、夫側に拒否する意思はない。かくて新婚一時間の夫婦は家庭内の覇権をかけて白い小さなボールを打ち合うことに――。まあ抗争とまでは冗談としても式で緊張した体をほぐすには卓球はもってこいのスポーツだった。リヴァルの巧みなラケットさばきでアキを翻弄すれば、アキの方も懸命にドライブをかけたりなどしてみて。気持ちのよい汗が玉と散る頃には、2人の頬は春先の桃花のように上気していた。
「うーん、攻めあぐねちゃったかな……」
 自らの惜敗という形で勝負をきれいにおさめて、リヴァルが笑うと、
「手加減されたのかな」
 アキは激しい動きにはだけつつある彼女の襟をそっと合わせた。薄い生地の下にある柔らかいものを思うと頬はさらに熱くなる。それを見すましたかのようにリヴァルはさらりと細い帯を解いた。豊かな胸に押されるように襟の合わせ目が広がりかけ、アキは慌ててもう一度彼女の胸元を抑えた。
「ちょっと! そういう意図じゃないから!……な」
 アキの手にリヴァルも悪戯っぽく笑って手を重ねる。ここを許すのはあなただけ――言葉にならない言葉が指先を通して伝わってくる。
「……汗、流すか?」
 ここの浴場は今、2人の貸切状態だと聞いていることだし。リヴァルの瞳はさらに子供のような光を増し、その手は素早く浴衣と帯とを整えにかかった。

 湯は滑らかに石造りの床を流れていく。広々とした湯船にアキが身を浸すとガラス張りの窓の向こうには雄大なマヨイガの景色が広がっている。
「タオルは大きめの方が良いかしら」
 わずかに遅れて姿を見せたリヴァルは髪を大きくまとめていた。芸術品のような体はすっぽりとタオルで覆われている。
「…………」
 切れ切れに聞こえたアキの呟きは意地悪とかなんとか言っている気がする。リヴァルの唇に笑みの形が刻まれたのをアキ自身は見ることができただろうか。
 2人してぬるめの湯にたっぷりと身を浸せば、さらさらと湯の流れゆく音が聞こえてくる。抱き寄せられるままにリヴァルはアキの肩に頭を預けた。互いの肌の間には糸一本の障害もなく。お互いに湯とは違う熱さには覚えがないわけではない。だが心臓は初めてのその時のように早鐘を打っていた。

●はじまりの常夏月
 湯のほてりが消えぬ間に新しい浴衣に身を包んだ2人が戻ってくると部屋には夕食の支度が整っていた。結婚式の正餐ということを計算に入れてくれたのだろう。食膳の杯は改めての三々九度。もっとも能力者ゆえに中身はお茶で代用となるけれど。杯を置くと互いの手が触れ合った。ここからはもうずっと一緒なのだという実感が今更ながらに2人を包み込んでいく。
「はい、あーん♪」
 初めこそしおらしく差し向かいで箸をとっていた彼らだが、リヴァルはあっという間に卓を超えてアキの息がかかる距離。目一杯大きく切り取った焼き魚も彼女に勧められれば頬張らずおけようか。喉に詰まらせて慌てて湯飲みに手をのばすのも2人なら甘いひと時以外のなにものでもない。食べて食べさせての甘いやり取りは全く今日という日ならではのこと。最後に出されたシャーベットの方が恐縮してしまいそうな、結婚式の晩餐だった。

 夕食が終われば夏のマヨイガもとっぷりと暮れる。星々が飾る天の空間はそれはそれは美しかったけれども、幸せな新婚夫婦は目下星よりも大切な行事(?)と格闘中。
「どう? 気持ちいい?」
 いわゆる膝枕という状態で彼女が手にしているのは檜作りの耳かき。2人きりで浴衣お泊りとくればこのイメージ……とたってのリクエストとあれば――精一杯優しく指を動かすたびにアキの肩が小さく揺れた。
「あんまり経験ないんだけど……」
 心配そうに覗き込んでくるリヴァルにアキはそっと手を伸ばした。指先に触れるのは滑らかに匂い立つような白い肌。
「……くすぐったい。気持ち的に」
 くるりと向きを変えて見上げれば、すぐ近くで大切な人の顔が花とほころぶ。ねえ、というようにアキの口が動いた。内緒の話……そんな風に促されてリヴァルが顔を寄せると、
「……色々終わったら、本当に、一緒に暮らそう」
 アキの瞳が真剣な色を湛えている。ついこの間も宇宙空間の死線を越えてきたばかりの2人。未来を約すということがどれほど重い意味を持つものか、判らないリヴァルではない。
「…………」
 だがすぐには言葉が出てこない。黙ったままの彼女にアキは続けた。
「僕はキミのこと好きだよ。けっこうどうしようも無いくらい……」
 彼女がいなくなることなど、アキは想像さえしたくなかった。
「うん、知ってる。私もアキのこと好きよ」
 後に続く言葉を待つかのように、リヴァルはそれだけを口にした。
「まぁ、捨てられたら一ヶ月ぐらい落ち込んで、その後、新しい恋を捜しに行くと思うけど」
 でも未来を築くならキミとがいい――ずっと一緒に暮らして小さな料理屋を2人で切り盛りして……。それが自分の描く夢なのだとアキはいう。
「できれば私はあなたの最後の女になりたいと思うわ」
 リヴァルはやっと、大きな息をついた。
「でもね、もしいなくなる時が来たら、その時は新しい恋を探してね」
 あなたの幸せが私の幸せだから、きっと――アキはゆっくりと起き上がると華奢な肩を抱いた。不吉な未来の話など封じ込んでしまうように。背中に回した指に力を込めると、女もまたそっと体を預けてくれる。しんと静まり返った夜の中で、2つの鼓動だけが確かなもののように思えてくる。リヴァルを腕に抱いたままアキははっきりと頷いた。未来はどんな風になるのか、それは誰にも判らない。だがそれは未来を思い描いてはならないということではないし、2人で築き上げていこうとすることの障害にもなりえない。リヴァルを抱き上げて寝室へ向かうと、大窓の向こうにはマヨイガの星空が煌めいている。
「6月の花嫁に……」
 柔らかな褥にリヴァルを下ろすと、彼女は両の手をそっとアキの肩へと伸ばした。こうしていると2人して星の海に浮かんでいるような気さえして。
「未来の始まりに……」
 応える声はそこで途切れて。

 言葉の要らない深い時が、2人の部屋に静かにしずかに流れ始める――。


マスター:矢野梓 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:2人
作成日:2012/06/27
得票数:ロマンティック7 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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