<リプレイ>
● 時の移ろいは早い物だと思う。 涼子が銀誓館で能力者としての活動を初めて幾星霜……高校生だった彼女も今では大学生。日々勉学に勤しみ、やがては日本を担う若き力として―― 「ちょっと涼子、何むにゃむにゃ言ってるの? 今どこよ」 「……え?」 「あなたまさか、まだ家とかじゃないわよね?」 「……そ、んな訳ないじゃないですか! 言うに事欠いて、何てことを言いやがるですかこの小娘はぁ!」 「って言うかむしろ、まだ寝てたとかじゃないわよね?」 「あははは! 実に面白い、刑事さんにはユーモアのセンスがお有りのようだ」 「完全に犯人フラグ立ってるじゃない。正直に言いなさい」 「……まぁその……今回の件に関しましては、私としても寝耳に水の事態で御座いまして……その様な事実が有ったかどうかに関しては現在、調査中と言うことで……」 「さっさと来い!」 ――ぶちっ。 携帯を閉じると、深く溜息をつくめぐる。 「その様子だと、志筑さんはやっぱりまだ家?」 龍麻の問いかけに、めぐるは肩を竦める。 龍麻は過去の涼子(に限らずだが)の誕生日パーティ全てに参加しており、涼子の人柄についても熟知している為、これくらいでは驚いていない様でもある。 今日は涼子の21歳の誕生祝いと言う事で、海沿いの公園に行く約束になっていた。集合時刻になっても駅にやって来ない涼子に電話を掛けたところ……この状況である。 「後10分して来なかったら私たちだけで遊びましょ」 待つのが嫌いなめぐるはすっかり不機嫌。 「でも……せっかくのお誕生日パーティですから、主役が居ないと。ね、莉緒さん」 「確かにね、とにかく少し待ちましょう」 麻里の慈悲に満ちた言葉に、頷く莉緒。 麻里は莉緒の友人であり、涼子との面識も深い。気の長い彼女の事だから、多少待つくらいは苦でも無いのだろう。 「そう言う訳だから、春風さんもごめんなさいね」 「ううん。でもさすが涼子おねーさん期待を裏切らない残念っぷりだよっ!」 謝る莉緒に軽く応えつつ、いっそ楽しそうな旋風。残念じゃない涼子はもはや涼子ではないと言わんばかりだ。 「それにしても晴れて良かったですよね。梅雨の合間の晴れだし、元気に遊びましょう!」 小春も今は高校生だが、幾つになってもやんちゃな少年のイメージが強い。彼もまた涼子と共に度々依頼へ赴き、ゴーストと戦ってきた。涼子にとっては、戦友と言って良い存在だ。 そんな小春の言う通り、今日は梅雨晴れの夏日。遊ぶには持ってこいだ。 「おーい」 「お?」 暫くして、何やら聞き慣れた声。 「しげちゃん! ゴッチ! それにみんなー!」 「だ、誰それ!? あと何でトースト咥えてるの!?」 「いやー、自転車に乗り遅れちゃって……あと向かい風で……」 突っ込みを入れるのも面倒になる感じで、ようやく涼子がやってきた。 「言いたい事はそれだけ?」 にっこりと問う莉緒。 「……お待たせしてごめんなさい」 「ま、そう言うことなので……誕生日って事と、わたしの顔に免じて許して上げてね?」 そんなわけで、一行はようやく公園へと向かうのだった。
● 「ひー、暑いですぅ……どこかクーラーの効いた休憩室で休みましょうかぁ」 「ええっ、まだ来たばっかりですよ? お昼はバーベキューですから、お腹を空かしておきましょう!」 「ふむぅ……バーベキューですかぁ」 笑顔で告げる麻里の言葉に、少しはやる気が出た様子の涼子。 「それじゃ、早速始めようか」 荷物を降ろした龍麻は、中から何やら器具を取り出す。 「何ですかそれぇ?」 「これはフリーブローって言って、吹き矢を使ったスポーツだよ」 「ほう……」 先端に吸盤の付いた安全な吹き矢を使って的を狙い、得点を争う競技である。腹筋運動や有酸素運動の一種として、近年競技人口を増やしていると言う。 「ちなみに優勝者には、このゲーミングマウスが贈られるよ」 「おおっ!?」 涼子に身体を動かす喜び(ゴースト退治で動かしてるのは別として)を思い出して貰う為に、様々なスポーツに挑戦させようと言う龍麻。涼子の欲しそうな物を事前にリサーチし、賞品で釣るのも忘れない。 「俺と志筑さん、山桜さんと鈴鹿さん、春風さんと速坂さんだな」 3チームによるダブルスで、最も得点が高かったチームの優勝となる。 「俄然やる気が出てきたですぅ……ふっ!」 ――すとん。 「おぉ!?」 ぶっつけ本番で吹いたにも関わらず、涼子の1本目はしっかり的の中に入る。 「賞品懸かると妙に強いね……」 提案者の龍麻もさすがに上手く、的の中央に矢を纏める。 「えっと、こうでしょうか……ふっ」 麻里、小春ペアもすぐにコツを掴んだようで、吹く度に矢が中央へと寄っていく。 「私たちも負けてられないわね、ふっ!!」 勝負事になると燃えるめぐる。運動神経は良いが、集中力が求められるフリーブローは余り相性が良く無い様だ。 「力を入れすぎとダメなんだよきっと、ほら」 旋風の健闘もあったが、結局優勝は涼子、龍麻ペアに。 「ってか今気づいたんですけど、誕生日プレゼントを勝ち取らなきゃいけないってどうなんですかぁ」 「さ、次はこの高級マウスパッドを賭けてディスクゴルフだ」 「おおっ!?」 何だかんだ言いつつ、涼子もノリノリでスポーツに興じる。 ……ただ、賞品を勝ち取るほど運動不足の生活が待っていそうな気がするのは……気のせいだろうきっと。
● 「良い匂い……」 「大分焼けてきたわね、生焼けだと危ないからしっかり火を通しましょう」 運動に興じた午前中が終わり、いよいよご飯時。麻里と莉緒が調理担当として、食材を焼いてゆく。 「もうお腹ぺこぺこですよぅ、一ヶ月分くらいは運動した気がしますぅ」 「でも楽しかったんじゃないか?」 「えぇ、お陰様でぇ。マウスも手に入ったし、メモリも増設出来ますぅ」 龍麻に笑顔で応える涼子。 「フランクフルトとか、もう食べられるんじゃない? 焦げないうちに取ってね」 「頂きまーす!」 火の通った具材から、次々に頬張り始める一同。 「どうぞ、冷たい麦茶もありますよー!」 小春は大きな魔法瓶から、紙コップへお茶を注ぐ。 「ん、美味しい!」 「空腹に勝るスパイス無しね」 「ちょっとそのケチャップ取って欲しいですぅ」 「美味しいよ。山桜さん、柳瀬さん」 「えへへ、良かったです! ……じゅる」 美味しそうに食べる面々を見て、調理の手が止まる麻里。 「麻里さん? ちょっと!」 「むぐっ?!」 「涎がこぼれそうになってるわよ!」 慌ててハンカチで麻里の口を抑える莉緒。 「わわ……危ないところでした……」 「こっちはもう大丈夫だから、麻里さんも先に食べて」 「はい、頂きます!」 「まっひゃく、ひゃまらくらふぁんはくいひんぼうれすねぇ」 「頬張りながら喋らないの……」 「でも家に一人で食べるより、皆でお外で食べると美味しいですよね!」 「まぁ確かにぃ……」 その後もわいわいと盛り上がりつつ、大量の食材を綺麗に平らげた一行であった。
● 「ふぅ、食べた食べた……後は寝るだけですぅ」 「じゃなくて……腹ごなしも兼ねて、スカッシュとかどうです?」 小春は準備良く、ラケットや場所の予約も済ませてきていた様子。 「えぇー? スカッシュって、あのめちゃめちゃ忙しそうに走り回るテニスみたいな奴ですよねぇ? ああ言う疲れそうなのはちょっとぉ……」 「あぁまだ賞品が残ってた。高性能グラフィックカードが」 「さ、行きましょうかね」 あっさり賞品に釣られる涼子。 「涼子おねーさん、花も恥じらう21歳の乙女なのに、さっきからパソコン関連の賞品ばかり欲しがって。このまんまだと『働いたら負けですぅ』とか『大人になんかなりたくないですぅ』とか言い出しそうだよね」 あまりのダメさ加減に、すっかり感心しきり(?)の旋風。 「大丈夫よ旋風。既に口癖だから」 「あ、もう言ってるの?」 肩を竦めつつ、めぐる。 「ほらそこのJC(女子中学生)組ぃ、何トロトロしてるですかぁ? スカッシュしますよぅ!」 「「……」」 顔を見合わせて、溜息をつく二人。
――ぱかーん! ぱかーん! 「ひぃ……ふぅ……」 「その調子ですよ、志筑センパイ!」 「ぐはっ」 何とかボールを返し続けていた涼子だが、ついに足がもつれてベシャっと倒れ込む。 「も、もうだめですぅ……コーチ……」 「諦めるんですか? 涼子おねーさん、残念ながら21歳は立派に大人だから子供のふりはもう無理♪ ここで頑張れないと、30になっても40になっても頑張れない人になっちゃうよ?」 「うぐっ……」 中学生の旋風に人生を説かれ、さすがにグサリと来た様子の涼子。 「ま、ボクは面白いからかまわないけどね?」 旋風は更に、満面の笑顔で付け加える。 「くっ……そこまで言われて黙ってちゃ、男が廃るってもんですぅ!」 「いや女でしょ」 「見せてやるよですぅ、この志筑涼子の本気って奴をグハッ!」 勢いよく立ち上がった涼子だったが、返ってきたボールが頭部に直撃。 ――どさっ。 「あーあ……」 しかし幸い、大事には到らなかった様だ。
● 「ひゃー、冷たくて気持ち良いですぅ。ほれほれ〜、くらうが良いですぅ!」 「きゃっ! 涼子さん冷たいです……」「もう、大人げないなぁ」 「麻里、旋風! これで反撃よ」 「なぬ、飛び道具とは卑怯なぁ!」 めぐるから手渡された水鉄砲で、反撃に転じる二人。 「まだちょっと早いかなと思ったけど、水着持ってきて正解だったわね」 「ええ、一足早い夏休み気分ですね」 そうこうしている間にも、莉緒と龍麻はコートを、小春はビーチボールの準備を終えた様だ。 「皆、準備出来たぞ!」 「ちなみにこれは優勝賞品有るんですかぁ? 高性能デスクトップとか」 「いい加減パソコンの話題から離れなさいよ……」 日差しが傾き、風が肌に冷たくなるまで、一行はもう暫く砂浜での遊びに興じる予定。
「はぁー、疲れた疲れた」 「でも楽しかったでしょ?」 「えぇ……でも私のヒッキー癖はこのくらいでは完治しないですよぅ」 「と言うことは?」 「ま、また誘って欲しいって事ですよぅ。言わせんな恥ずかしい、ですぅ」 と、涼子の出不精が完治する日はまだ先になりそうだが、仲間達と一緒に身体を動かす事の魅力は十分に伝わった事だろう。 「こほん。皆さん、今日は私の為にありがとうでしたぁ!」 そして何より、気心の知れた仲間と遊んだ一日は、最高の誕生日プレゼントになった様だ。
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参加者:4人
作成日:2012/06/24
得票数:楽しい7
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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