＜リプレイ＞
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宇宙空間を背に、雲霞の如く押し寄せる宇宙ゴーストの群れ。１００……２００……どれ程の数だろうか。
一方、神の左手を護るべく浮遊する無数の浮島には、真のシルバーレインが佇立して寄せ手を待ち構える。
そして我らが銀誓館の能力者達も、ランドルフの最後の一手によりオンステージを果たす。
役者の揃った戦場で、神の左手を――世界の趨勢を賭けた戦いの幕が開けようとしていた。
「……こんなところで戦うなんて考えたこともなかったですが、厳しい戦いを乗り越えて辿り着いたのですし頑張らないとですね」
普段はさほど口数の多い方ではない舞崎・美華（漆黒の闇を舞う紋白蝶・b05082）。そんな彼女も、この戦いに際しては強い決意と覚悟を明確にする。
「ええ、まさかこんな形で宇宙に来る日がくるとは……何としてでも神の左手を確保しませんと」
周囲を見回し、また足元を確かめながら、久遠寺・彩華（ワールドメモリーズ・b21625）も頷く。
「『宇宙』とかけまして『食欲不振』と解く」
「……そのこころは？」
緊張感を高める仲間を横目に、唐突になぞかけを始める池田・クラレット（護界召喚師・b45628）と、速坂・めぐる（真烈風少女・bn0197）。
「どちらも『くうきがない』」
「……うまい」
確かに辺りは宇宙空間ながら、能力者たちの陣取る浮島には重力があり、酸素もある。普段どおりの戦いを展開出来そうだ。
「ディアボロスランサーを、渡すわけには行かない……」
こちらも臨戦態勢を取りながら、鈴桜・雪風（空に抱かれた憂いの焔・b19613）。
雪風の心には『清浄』なる死の世界――宇宙の本来の姿を犯したくないと言う気持ちもあった。それでも、自分達が生きる為、生きてゆく為にすべき事をする。
それこそが、この世界に生を受けた者の定め。生命賛歌を唄う者の歩むべき道なのかも知れない。
（「まさかランドルフが道を開いてくれるとはね……一方的に袂を別ち神秘根絶の道を選んだわからず屋。そう思えていれば気が楽だったのにね」）
フェリシア・ヴィトレイ（きまぐれな野良猫・b54696）は、この戦場に能力者たちを導いて消えていった、ランドルフの事を想う。
「……出来る事ならキミの事も救いたかった。キミの最後の力、決して無駄にはしないよ」
銀誓館の戦いは、もはや学園の人々だけの戦いでは無い。
多くの人々の想いや、遺志を背負って、我々は戦場に立つのだ。
（「聖杯剣の開いた道を往き、残したものを手に入れる……。あの男が俺達の道を開いたのなら、俺達もまたそれを手に入れて道を開かねばならない。未来へとつながる明日への道を……。その為に、血に濡れたこの手はある」）
八葉・秋星（刀術士・b74332）は、ここに居ることの意味を人一倍噛み締めている戦士の一人。
何のために戦い、そして己の存在を捧げるのか。その心には一点の迷いも無い。
「とりあえず、ランドルフの期待には応えてやらないとな」
黒菱・涅雅（覇鬼・b62200）は記憶を失い、裏社会の住人として生きてきた過去があった。
そんな彼が変われたのは、やはり銀誓館に来て仲間達との心の交流があったればこそ。以来彼は、他人との繋がりを重んじて生きてきた。
ランドルフとの奇妙な絆もまた、彼にとって忘れられぬ縁のひとつとなりそうだ。
「来るぜ……」
真のシルバーレインにほど近い場所に展開した能力者達。琴之音・琴子（とこしえの旋律・b05004）の双眼が、宇宙ゴーストの先鋒を見据える。もちろんマイモも彼女の影に付き従う。
こちらから攻撃を掛けさえしなければ、真のシルバーレインの迎撃は宇宙ゴーストを優先して狙うとの事。能力者達は一先ず、宇宙ゴーストを殲滅する事に全力を傾け、これを殲滅した後で真のシルバーレインを倒す方針を採る事にした。
いくつかの浮島では、既に戦端が開かれたのだろう。無数の閃光が宇宙を彩り始めている。
そしてこの浮島においても、その戦端は開かれた。
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縊鬼、獣人スコルピオバットらが真のシルバーレインを射程に収め、攻撃を開始する。これに反応し、真のシルバーレインもまた得物を振るい、七色の光線を応射する。
それから数秒、長物を手にした接近タイプのゴーストらが、シルバーレインに肉薄してゆく。
「今のうちに準備を！」
「はい」
魔方陣を展開する琴子とフェリシア。雪風もその声に頷きながら、雪の鎧を纏う。
リフレクトコアで守りを固めるのは、彩華とクラレット。
「決戦の舞台として不足なし、だな！」
涅雅と秋星は、旋剣の構えを取りつつ前衛へ出る。
「ふうっ……」
「めぐる、緊張してるのかい？」
「ううん、そうじゃないけど……こういうのはなかなか難しいわね」
気遣うフェリシアに笑顔を返すめぐる。こちらも黒燐奏甲による自己強化を済ませて、既に臨戦態勢。
敵を目の前に、タイミングを計る為の時間。数十秒程度だが、体感では相当長く感じられる。
長く様子を見すぎれば、真のシルバーレインは落とされてしまう。多数の宇宙ゴーストとの正面対決となれば、苦戦は必至だ。
「彩華は平気？」
「ええ、琴子先輩の合図を待ちましょう」
振り返って尋ねるめぐるに、彩華も微笑でそう応える。
能力者達の眼前では、ゴーストらがシルバーレインに対し苛烈な集中攻撃を始めていた。
――カッ！
幾度目かの光線が放たれ、宇宙ゴーストのうち１匹がその頭部を破壊される。
一方で、肉薄したゴースト達は真のシルバーレインに対し、槍を突き立てる。
「……さあ、始めようか！」
「待ってました！」
「参りましょう」
琴子の手に集まった魔力が、燃えさかる炎となって放たれる。と同時に、彩華の念動剣が宙を舞う。
それを合図に、一斉に動き出す能力者達。
「せめて静かに、滅んで逝って……この静謐な雪の中で……」
雪風の足下から、静かに舞い上がる粉雪の旋風。それは見る見るうちに激しい吹雪となり、周囲を氷雪の地獄へと変える。
――ギィッ……！
能力者達からの攻撃を受け、これまで能力者達を無視していたゴーストらが一斉にこちらへ意識を向ける。
無論彼らの狙いは神の左手であり、真のシルバーレインを倒す事だが、能力者達の力量と火力を鑑みれば側背を晒しながらシルバーレインのみに集中する事は不可能。自然、二正面作戦を強いられることになる。
「行きます！ 美華さん、フェリシアさん」
クラレットの指先が宙に紋様を描くと、ゴーストらの進行方向――足下に広がるのは、茨。爆発的な勢いで伸びたそれは、寄せ手の足に絡みついてその自由を奪ってゆく。
「漁夫の利を狙わせて貰おうか」
「はい」
それら茨の世界を突破したゴーストに対し、フェリシアと美華が放つのは幻楼七星光。妖狐の守護星が妖しく輝くと、数体のゴーストが石像と化す。
「そいつの元にあるものは、俺達が貰っていく……。道は空けてもらおうか」
秋星の足下――その影より伸びる闇の手。こちらへ攻め寄せる縊鬼の足へ一直線に伸び、引掻く。
「シャァァァッ！！」
「来る！」
十字槍が唸りを上げ、涅雅目掛けて繰り出される。
――ガキィン！
斬馬刀な斬馬刀でこれを受け止める涅雅。
――バッ！
その間にも、真のシルバーレインは虹色の光線を放ってゴーストらを貫いてゆく。
が、さしものシルバーレインと言えども、十数体のゴーストらに集中攻撃を受ければ無事で居られる筈も無い。苛烈な攻撃の前にジワジワと追い詰められてゆく。
「余り早期に倒れて貰っても困るな。クラレット」
「はい」
フェリシアの幻楼七星光と、クラレットの茨がゴーストらのシルバーレインへの攻撃を鈍らせる。とほぼ同時に、氷雪地獄を巻き起こす雪風。
「厄介な縊鬼から、狙わせて頂きますわ」「出し惜しみはなしだ」
琴子の炎弾と彩華の鋳薔薇が、射程内に入った縊鬼へと襲い懸かる。
――キィン！
「ここより先には行かせん……」
秋星は手にした二振りの刀剣によって、竜鯉の槍を受け流すと、そのまま縊鬼に対してダークハンドを放つ。
「お前の相手は俺がしてやるぜ」
涅雅は竜鯉と秋星の間に割り込むようにして、斬馬刀を振り下ろす。
三者入り乱れての激しい戦いは、佳境へと投入してゆく。
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「回復を……」
雪風の病魔根絶符が、涅雅の傷を癒やす。
「助かるぜ」
石にかじりついてでも前線を維持しようという彼は、満身創痍。次々に押し寄せるゴーストの攻撃を前に、ギリギリの戦いを強いられていた。
「ここで倒れたらランドルフに笑われるよ、生命の息吹の力を見せないとね」
こちらも魔弾の射手を再展開し、傷を癒やすフェリシア。バッドステータスに対応する為には、めぐると彩華の癒やしが不可欠。それを維持する為に、彼女も身を挺していた。
「みんな、もう一息よ！」
浄化サイクロンを巻き起こしながら、しきりに仲間を鼓舞するめぐる。
事実、シルバーレインと能力者達に挟撃される形となった宇宙ゴーストは、少しずつ……確実にその数を減らされていた。今残っている数体にしても、半死半生と言ったところか。
「いくぜ、宇宙の塵になりやがれ！」
涅雅の身体から眩い閃光と、熱が放たれる。それは瞬く間に燃えさかる炎となり、周囲のゴーストを飲み込んでゆく。
「さぁ、片付けようか……」「燃えな！」
――バッ！
「グォォォッ……」
秋星のダークハンド、琴子の炎弾が、次々にゴーストに引導を渡してゆく。
「今のうちに回復を」「ここから、ですね」
祖霊を降臨させる彩華。皆もそれぞれに態勢を立て直す。
戦いは次のステージへと移行しようとしていた。
それはすなわち、真のシルバーレインと能力者達の戦いである。
――カッ！
シルバーレインの放った光線は、手負いのまま動きを封じられていたゴーストを貫いて消滅させる。
「本当ならここで小休止でも取りたいところですけど」
クラレットの言葉に皆頷くが、シルバーレインの意識は次なる敵――能力者達に向けられていた。
これまでは襲ってくる敵を優先的に狙っていたまでのことで、それが消滅した以上、次なる敵に襲い懸かる事に何らのためらいも持たない様だ。
――パッ！
「っ！？」
拡散する光線が、能力者達を貫く。
「動力炉が……」
「なんの！」
再び浄化サイクロンを起こすめぐる。
雪風の手から、フロストジャベリンと氷桜が放たれる。再び動力を取り戻した詠唱兵器は、ダイヤモンドダストを放ちながらシルバーレインへと直撃する。
「オォォォッ……！」
剣を振り上げながら、咆哮を上げるシルバーレイン。
「効いてるぞ、もう一息のはずだ……皆！」「はい！ 集中攻撃を」
琴子の手から、最後の魔弾が放たれる。その命中を待たずに、彩華の念動剣、更にはクラレットの光槍が次々にシルバーレイン目掛けて牙を剥く。
集中攻撃を浴びていたシルバーレインの体力は残り後僅かの所まで減らされていた。能力者達の立ち回りは、最高のタイミングを読み切ったと言って良い物だった。
「さぁ、終わりにしようか」「蟲たち！」
――ババッ！
フェリシアの天妖九尾穿と、美華の白燐侵食弾が、左右の腕を直撃する。
言葉にならないシルバーレインの咆吼が、浮島の空気を震わせる。
「神の左手、頂戴しに来た……。その首と共に、な……」
流れるような動きで死角へと飛び込んだ秋星。反対側からは涅雅が間合いを測る。
「凍牙と共に虚空に消えろ……」
漆黒の刀身が魔氷に覆われ、鋭利な氷の牙となってシルバーレインの胸部を穿つ。
「自分自身を築き上げてきた『過去』と、これから先の『未来』の為に、絶対に勝つ！」
時を同じくして涅雅。
鬼炎大斬刀が黒炎を帯びて燃え上がる。それは学園の能力者となった彼が最初に会得した技、原点にして至高の奥義。
――ザシュッ！
真のシルバーレインの頭部は胴体より切断され、その巨体はゆっくりと崩れ落ちた。
「やっ……た……」
その場に腰を下ろすめぐる。
周囲の浮島ではいまだ戦闘が続いているが、さすがの九人にも、これ以上の戦闘を継続する余力は残されていなかった。
彼らの居る浮島から見える限りにおいては、他のチームも概ね首尾良く事を運んだ様だ。
「皆さんお疲れ様でした。おにぎりやお茶も用意してありますよ」
と、クラレット。
「あぁ、神の左手を持ち帰ったら……学園で一休みしたいぜ」
傍にやってきたマイモを撫でつつ、ふうっと息をつく琴子。
これからも、負ける事の許されない過酷な戦いが能力者達を待ち受けているのだろう。
それでも彼らは、自分達の未来を手に入れる為に……散っていた者の遺志を胸に、戦い続けるのだ。
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参加者：8人
作成日：2012/06/29
得票数：カッコいい13
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冒険結果：成功！
重傷者：なし
死亡者：なし
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あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
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