メガリス修学旅行:サンテミリオンの優雅な日に


     



<オープニング>


「皆さん修学旅行ですよっ」
 琴森・四葉(中学生運命予報士・bn0300)はわくわくとときめく心を隠せないと言うように微かに頬を紅潮させて、集まった面々をいつも通りに真っ直ぐに見詰めた。
 その一番近くの机に腰を下ろして、わくわくと上目使いに見詰めるスフレ・ペシェミニョン(ビターシュガー・bn0293)。数年後であったろう修学旅行がすぐ目の前にある。それだけでも価値があるというものだ。
「もちろん、お仕事もあるんです、けども」
 てへ、と少しだけ、申し訳なさそうに四葉は笑って見せる。世界決壊が弱まったおかげで感知することが出来るようになったメガリス――差し迫った危機は無いけれども、万が一……何者かが悪用しないとも限らない。だから、その前に。
 とはいえ、メインは修学旅行!
「場所は、ボルドーに近いサンテミリオンです」
「フランス!」
 それまで黙ってわくわくと話を聞いていたスフレ・ペシェミニョン(ビターシュガー・bn0293)は瞳をキラキラさせて、身を乗り出した。その様子に微笑む四葉、スフレにとっては里帰りでもある。
「回収して頂きたいメガリスは、『お使いの洋籠』……バスケットですね」
 とある少女が具合を悪くしたお祖母さんへのお見舞いに持たされたバスケット。
 それを曰くのある物として受け継いでいたお婆さんから譲って貰える算段が付いているので、それを受け取りさえすればお仕事はおしまい。
 あとは秋めたサンテミリオンを思いっ切り楽しめばいい。
 ワイン用の葡萄が実りを迎える時期。
 暑すぎもせず、寒すぎもしない爽やかな風が駆け抜ける頃。
 ……アルコールは飲めないけれど、香りのいい葡萄のジュースはきっと楽しめるハズ。
「それで! せっかくなので! お城に泊まろうと思うんです!」
 ぐぐ、と両手を握り締め、力を込めて言う四葉。
「お城!」
 ガタタンと勢いよく立ち上がるスフレ。食いついた。
 シャトーホテル。
 つまり、もともとお城だった建物を改装して使っているホテルで、古の貴族の暮らしをちょっぴり体験してしまおう、と言うのだ。
 川面に浮かぶように建つお城は景色も抜群!
「豪華なふかふかの広いベッドですし、家具や調度品もアンティークで揃えられてて本当に素敵なんですよ!」
 昼間は川べりの芝生でピクニックしながら、お城を外から眺めたり、葡萄畑をお散歩したり。
 夜は大きなふかふかベッドでちょっぴりお姫様気分、お喋りしたらきっと楽しい!
「スゥもお姫様したい!」
 はいはい、と四葉はスフレの髪を撫でた。
 のんびりまったりとした秋のフランス――。
「なんだかわくわくしちゃいます」
 四葉はほわんと思い浮かべて笑む。
「皆で一緒の王子様とお姫様、ね」
 黙って聞いていたスフレは既に夢の世界へ旅立っているかも……しれない。
 ――ほんの少し、メルヘンな世界へ。
 おとぎの国もたまにはいいじゃない? ね。

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参加者
合瀬・瑠羽(往きし黒に不敗の名を捧げ・b01219)
星宮・雪羽(雪花猫の人形師・b04516)
高坂・司真(影蓑・b05057)
遠座・藍(曖色絵草子・b37650)
志方・雪子(友待・b43513)
榛菜・織姫(勝利を照らす織女星・b57270)
嘉凪・綾乃(緋楼蘭・b65487)
シーナ・ドルチェ(ネミの白魔女・b67352)
紗白・想真(クロスデザイアー・b72319)
久遠・莉緒(たいやきと踊る娘・b84522)
NPC:スフレ・ペシェミニョン(ビターシュガー・bn0293)




<リプレイ>


 小高い丘の上に立つ古い城。
 積まれた石の壁は古めかしく、それがかえって荘厳な印象を与える。
 そよそよとその脇を流れる川は穏やか。
 葡萄畑を滑るように心地よい秋の風が通り過ぎて行った。
 シャッターを切る音。
「綺麗ね」
 川面に映る城を眺めて呟く由衣に、高坂・司真(影蓑・b05057)は頷く。
 二人並んで、こうしている幸せをそっと噛み締める。
「ねえ、いい写真撮れた?」
 背後から掛けられた声に振り返れば、久遠・莉緒(たいやきと踊る娘・b84522)が目一杯の笑顔を浮かべてそこにいた。
「ええ、良ければ久遠さんのも見せて頂いていいですか?」
「もちろん!」
 見せ合う写真はどれも素晴らしい景色と、屈託のない笑顔が浮かぶもの。
 でも、少しだけ――寂しい。
「ねぇせっかくだから、シャッター押そうか」
 一緒に並ぶ写真があればもっともっと素敵だろう。
 何よりその笑顔が一番の思い出に残るはず。
「莉緒さん、楽しそうですね」
「うん!」
 莉緒のはしゃぎっぷりに優しげに、府坂も笑顔を見せる。
「幼馴染がフランス出身だからすごく親近感湧くんだ! それに」
「大好きな府坂くんも一緒だもん、すごく楽しいよ」

 並んで歩く合瀬・瑠羽(往きし黒に不敗の名を捧げ・b01219)に、星宮・雪羽(雪花猫の人形師・b04516)はそう言ってはにかんだ。その普段は少し内気な眼差しも、瑠羽と一緒なら幸せな色に変わる。
「喜んでくれて良かったですね」
 メガリスを快く譲ってくれた老女に礼の品を渡したいと言い出したのは瑠羽だった。皆が持ち寄ってくれた品々に、彼女が心から嬉しそうに笑んでくれたのをきっと忘れない、と雪羽も思う。
 瑠羽も頷いて、葡萄畑から賑やかに聞こえてくる声に目を細めた。
「高い場所にあるのは伊知郎お願いー!」
「わかったわかった」
 嘉凪・綾乃(緋楼蘭・b65487)が声を上げるのに伊知郎は苦笑すると、傍らで葡萄に手を伸ばそうとしていたスフレを抱き上げる。
「わ、おとーさんありがと」
 歓声を上げるスフレ。伊知郎が少し困ったような笑みを浮かべた気がしたが、そんなのお構いなしに葡萄に手を伸ばす。
「スフたん、そっちのが甘そうよ」
 すかさず、甘い葡萄の選び方を訊ねてきた仁太郎が口を挟んだ。
「じゃあそっちにするー」


 散策を終え、広げられたシートの上に腰を下ろして、遠座・藍(曖色絵草子・b37650)はメルディが大事そうにしているデジカメの、城を背景に並んだ二つの笑顔を覗き込んだ。
 神経質な表情を浮かべることの多い藍の、その屈託のない柔らかな笑顔はいつも微笑みを絶やさないメルディが居てくれるからこそ。
「……こっちももう秋なんだね」
 嬉しそうな彼女に少し気恥ずかしさを覚えて、まだ暖かく眩しい日差しに藍は目を細める。
「そう、秋……ですね」
 想い返す、秋の色。
 秋みたい、彼をそう形容したのはもう一年も前。長い様で、短い様で。
 そう微笑んだメルディの笑顔を、温もりを抱き締めたのもやはり秋だった。
 あの時から少しずつ、確実に近付く距離を感じながら。

「サンテミリオンって地名だったんだね〜」
「そういうお馬さんがいるんですか?」
「織姫ちゃんはお馬さん本当に大好きだね」
 四葉の質問にそうそう、と頭を縦に振った榛菜・織姫(勝利を照らす織女星・b57270)は、御子に微笑まれてはにかんだ。
 気候のいい秋。ただそこに居るだけで気持ちがいい。
 カララン、といい音をさせて葡萄ジュースのグラスで乾杯。
「ん〜! 冷たくて美味し〜♪」
「葡萄も食べなくちゃ」
 御子は葡萄にも手を伸ばす。瑞々しくて美味しそうだ。
「しーちゃんはこういう自然にいるほうがなんか活き活きしてるよね」
 シーナ・ドルチェ(ネミの白魔女・b67352)が選んだ葡萄は、どれも一粒が大きくてずっしり、つやつや。甘くて美味しい。植物と生きる魔女として、そのくらい当然と紗白・想真(クロスデザイアー・b72319)の言葉に胸を張った。
「スゥちゃんにも一粒どうぞ」
「ん、おいし」
 隣のスフレにも葡萄一粒。
「僕も一粒……」
「あっ想真君! これ、甘くて美味しかったですよ? はい、あーん♪」
 手を伸ばした想真より先に一粒を選び取ったシーナの悪戯な笑みに想真が気付いたかどうかは別にして。お礼を言うより先に押し込まれた葡萄の味は――、
「すっぱー!」
 ただただ、酸っぱいワイン用の葡萄だ。
 ぺっぺ、と噴出した想真の恨みがましい目に、えへへとシーナが悪びれずに笑うから、
「もう、お返しだよ!」
 そう言って、お弁当用のバスケットの中に手を突っ込む。
 お目当ては――マカロン。
「あ、うまい」
「想真くん、それ私のマカロンー!?」
 ぽいぽいぽいっと目一杯口に押し込んだら驚愕するシーナの表情が可愛かったなんて、口には出来ないけれど。

 なみなみと葡萄ジュースが注がれたグラス。
「この葡萄ジュース、凄く美味しいです!」
 雪羽が目を見張る。
「本場の葡萄、と聞いてもピンとは来なかったが……成る程、得心が行く」
「取れた所で味わうと違いますね」
 瑠羽の言葉に頷くように、ジュースを味わっていたのは司真。由衣もひょい、とマカロンを手にすると幸せそうに頬を綻ばせた。
「マカロンも美味しいわ」
 そんな風に皆で、お弁当に舌鼓。
 摘み立て葡萄に手を伸ばした志方・雪子(友待・b43513)はけらりと笑う。
「話には聞いてたが食べ物うまいな」
 普段は生の果物を食べる機会は少ないのだけれど、これなら一房でもいけてしまいそうだ。選び抜かれた葡萄を含め、旅の気分も相まって、食べ過ぎてしまう。
「美味しいわよね」
「そうそう、ゆっこたんが場所探ししてくれてたから美味しいの選べたかんね」
 えっへん、と自慢げなスフレ。
 バスケットのランチを甲斐甲斐しく並べる綾乃の隣で、仁太郎も楽しげだ。
「青空の下で皆でランチって凄く贅沢だよね」
 心地いい風が綾乃の長い髪を揺らす。
 伊知郎がそっとと置いたバスケットからは「もきゅもきゅ」の声。蓋を開けてやれば、すずとましゅまろが羨望の眼差しを向けて辺りを見回していた。どうやらいい匂いが漂ってくるらしい。
「分けるだけな、全部はやらんぞ」
「きゅ!」
「もきゅ」
 仕方ないな、と笑った雪子が渡してくれた葡萄とマカロンに、2匹は幸せそうにかぶりついたのだった。


「本当に絵本に出てくるお城みたい!」
 品のいいシャンデリア。
 アンティーク調の家具。
 窓からの景色も、部屋の雰囲気もばっちりカメラに収めた莉緒は、ドレス風のネグリジェに着替えて、大きなベッドに寝転がって、思いっ切りふかふかを堪能して幸せそうだ。
「お姫様になった気分!」
 傍らには、温もり。
 黒猫がにゃーあ、と鳴いたので、えへへとはにかんでうつぶせになる。
「府坂くん、二人占めだねー」
「にゃん」
 小さな身体のお陰でベッドは広々。
 いや、人間のサイズでも全く余裕だったのだけれど。
 柔らかな毛並みに手を伸ばして、ごろごろして、ふかふかして。思いっ切り遊んで堪能しなくちゃ勿体ない! ……そう、思うのに。
「なんだか、眠くなっちゃい、そう……」
 うとうとふわり、いつの間にやら夢心地。

 ローブのようなパジャマに身を包んだ想真はベッドの上でもうすっかり王様気分。
 ワイングラス(中身はジュース)片手にゆらゆら、足を組んでまったり。
「王様っぽい?」
「うーん、どちらかと言うと王子様?」
 お髭が足りません、と言いつつシャッターを切るシーナ。
 そのピンクのネグリジェもやっぱりふわふわで可愛らしい。
 けれど。
「えへへ、お姫様な気分ですね〜」
 にっこりシーナが浮かべた笑顔に、思わず顔が赤くなる。
 ……女の子と同室!
 意識してしまったら最後、その感覚は簡単には拭えない。
「気品さが足りないからお姫様はお預け!」
 思わず想真の口から零れた軽口に、ぷくぅ、とシーナは頬を膨らませた。
「ふふ、ケンカはダメですよー」
「来ない方がよかったかしら」
 そこへひょい、と部屋を覗いたのは四葉とスフレ。
「あ、スゥお姫様、ましゅまろ枕に貸してー」
「きゅぴ!」
 恥ずかしさを紛らわそうと想真が伸ばした手に、スフレより先に反応したましゅまろがぴょんっと跳ねて飛び込む。
 ベッドの上に、4人車座でトランプ。
「四葉さんはどんな方が好みなんですか?」
「ふえっ!? いきなり核心じゃないですかっ」
 配られたトランプを一枚抜きながら訊ねたシーナに、四葉は慌てて首を横に振る。
 夜更かしの夜は、始まったばかり。

 大きな出窓に二人並んで腰掛けて、司真と由衣は街の灯りを眺めていた。
 ぼんやり、ぽつん、ぽつんと見える灯りはどれも温もりを感じさせてくれる優しい煌めきだ。それに似た、手にしたグラスのソーダの泡がしゅわりと弾ける。
「此処から眺めるとまた違った印象になるから少し不思議ですね」
 司真が呟く言葉に、由衣はそうね、と穏やかに答える。
 二人一緒ならきっと、どこだって楽しかったけれど。
 でも、王族気分を味わえるこんな場所ならもっと、素敵。
「此処がお城なら、由衣さんはお姫様、といったところですね」
「司真君は王様かしら」
 茶目っ気たっぷりに返せば、司真は少し照れたように薄く笑った。
「……新婚旅行と言ってもいいのでしょうか」
「そういうことになるのかな」
 面と向かって言われると、少しだけ気恥ずかしい。
「これからも楽しい思い出を増やしていきたいわね」
 きっと増やしてゆける。二人なら。

 織姫はピンクの、御子は水色の、四葉はクリームのふわふわドレス風ネグリジェに身を包んで、ベッドの上ですっかりお喋りに夢中。
「ねっすっごいふかふか!」
「お〜御子ちゃん楽しそう!」
「きゃっそんなに揺らしたらダメですってば!」
 ふかふかのマットレスと、スプリングにぼふぼふ。
 飛び跳ねる――程ではないけれど、やっぱり揺らしてみたくなるのが人情。言った四葉の表情もにやけていて説得力は無い。
「あ、そうだ」
 不意に、真剣な顔になった織姫はじっと御子を見詰める。
 ずっと聞きたかった、と前置きして……、
「御子ちゃん、王子様とか居るの?」
「え?」
 ぱちくり。
 瞳を大きく見開いた。
 そんなこと、聞かれるだなんて思ってもいなかったから。
「えっと……王子様はまだいないけどお兄ちゃんみたいな人はいるよっ」
 少しだけ、気恥ずかしそうに笑って。
「織姫ちゃんと四葉ちゃんの王子様とか聞きたいな〜」
「えぇっわ、わたしだっていません!」
 いきなり話を振られた四葉もしどろもどろ。
「それより! 言い出しっぺの織姫ちゃんから聞かないとっ」
「えっえええ〜!?」
 ガールズトークは夜更けまで。

 それなりに騒ぐつもり、と外れの二部屋に陣取った『月暈』組の部屋は賑やか。
「誕生日おめでとう枕攻撃ー!」
「んにゃ」
 だから賑やかな声に惹かれてドアを開けたスフレの顔面に綾乃の投げた枕がぽふっと当たって、変な声が出たのも必然。
「スフレちゃん大丈夫?」
 綾乃が慌てて駆け寄ってくれたけど、ふっかふか枕と威力の低い投擲のお陰で、ばっちり無傷だ。
「へーき。何してるのー?」
「『仁太郎さん生誕祝いin仏』と言う名の枕投げ大会。……大丈夫か?」
「ん、スゥも枕投げするー!」
 雪子の問い掛けにこくり頷いたスフレは、仁太郎目掛けて拾った枕を投げ上げた。
「お、愛(枕)はしっかり受け止めるよ!」
「よし、おめでとうございまーす!」
 さらに雪子の投げた、二連撃目。
 言葉の通りにぽふっとばっちり枕を受け止めた仁太郎の、反撃!
「雪子、スフレちゃん、伊知郎さんを盾にすれば怖くない!」
 賑やかな姿に優しく見守る態勢で笑みを零していた伊知郎は、不意に立った白羽の矢に目を見張る。
「おい、こら……!」
「おとーさんすごーい」
 キャっきゃと笑ってひらり、伊知郎の後ろに隠れる綾乃とスフレ。
「ま、あまりお父さんを壁にすると眉間の皺がアレになりそうなんで」
 苦笑した雪子は仁太郎からのダイレクトアタックを難なくキャッチ。
「うっし纏めてかかってこいやァ!」
 気合を入れ直した仁太郎に、枕が集中したのは言うまでもない。

「休戦ー」
 疲れたーとベッドに倒れ込んだ綾乃の一言で、枕投げはおしまい。
 ベッドに銘々腰を下ろして、昼間と同じ葡萄ジュースで乾杯。
「流石綾、色々持ち込んでんなー」
 感心したように呟く雪子に、綾乃は任せて、と満面の笑顔だ。
「誕生日おめでとう! と、修学旅行の夜に乾杯!」
「かんぱーい」
「もっきゅー」
 綾乃の音頭に合わせて、皆の声が揃う。
 カララン……♪
 グラスの重なる音が響く。

「……思えば、最初に出会ってから既に五、六年か?」
 静かに語らえば、思い返す過去のこと。
 呟くように言った瑠羽に、雪羽は頷いた。
「そうですね、瑠羽さんが館に来てくれてから、そんなに経つんですね」
 出会いはほんの些細なこと。何の気なしに瑠羽が訪れた結社。
 そこで微笑んでいた雪羽の存在が……何気ない日々の中で、けれど確かに大きくなっていったのを覚えている。
 それはきっと、雪羽も同じ。
 前線に行く彼を――見送ることしかできなくて、心配で、歯痒くて。
 今でも、いつかこの幸せが無くなってしまうんじゃないかと不安になることもあるけれど。
「雪羽」
「はい」
 長い長い、沈黙の後。
「俺には、やはり異性としての愛情がどうと、語れるほど成長していない。それでも、俺は、お前をこのまま、一生守り続けていきたいとは思っている」
 失いたくない気持ちを込めて、紡ぐ瑠羽の言葉は飾ることなく。
「……これからも、それを許してくれるか?」
 問い掛けに答える言葉よりも先に、雪羽の瞳から涙が零れ落ちた。
 その言葉だけで十分。
「私も、ずーっと瑠羽さんの傍にいたいです……!」
 泣きじゃくる雪羽の額に、瑠羽はそっと口づけを落とした。

 ふかふかの豪華なベッド!
 はしゃいで嬉しそうにするメルディの可愛らしい部屋着の裾が、その動きに合わせてふわふわと揺れる。
「どう?」
「うん、似合う」
 袖を軽く持ち上げて見せるメルディに目を細めて、その銀の髪をそっと撫でた。
「……僕の場違い感がすごいけれど」
 藍の長袖Tシャツに黒ジャージのズボン。でもそんなこと気にする風もなく、メルディは笑む。
「……どんな服装でも、あなたはわたしの王子様よ?」
 ベッドに二人並んで。
 サイドテーブルには湯気の立つミルクと、焦茶色が香ばしいカヌレ。
 お行儀は悪いけれど、少しの悪いコトもパジャマパーティーの醍醐味のひとつ。
「さて、気分は如何? お姫様」
 お返し、とばかりに藍が笑みを浮かべるから、今度はメルディがもう、と困ったように顔を赤らめた。
 甘い幸せと、笑みの零れるお喋りは、深夜まで続く。
 眠るときには、指先を絡めて。

 それぞれの色に染まったサンテミリオンの夜は、静かに、賑やかに更けていく。
 バスケットにそっと思い出を詰めて持ち帰ろう。


マスター:有栖りの 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2012/09/27
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