メガリス修学旅行:ミラノの街角の小さな靴屋の小人さん


<オープニング>


「さー、みんな! ミラノに修学旅行だよ!」
「え、ミラノですか?」
 テンション高く叫んだ、月島・生樹(高校生運命予報士・bn0202)に、五條・梅之介(真魔弾術士・bn0233)も声を弾ませる。

 今回の修学旅行は、卒業生を含む全学年が参加できる上に、鬼の手を利用して世界に散らばるメガリスを発見、入手する一大ミッションである。
 世界結界が弱まった事で、メガリスを感知できるようになった。今現在は差し迫った危機はないものの、誰かがメガリスを悪用してしまう前に学園で回収してしまおう! ということらしい。
「イタリアのミラノにある靴屋さんにね、『靴屋の小人』っていう木彫りのお人形の形をしたメガリスがあるんだよ」
 靴の修理や製作も行っているその靴屋は、老夫婦が営んでいる小さな靴屋だという。
 その靴屋に、メガリス『靴屋の小人』が店のディスプレイとして飾られているらしい。
「お店のディスプレイだからね。もちろん大事にされてるんだけど、交渉次第では譲ってもらえると思うんだよね」
 生樹がそういうのには理由があった。
 老夫婦の営むこの靴屋は跡取りがいなく、夫婦は今年いっぱいで店をたたむつもりなのだ。
 そうなれば店のディスプレイも必要なくなる。老夫婦は店の看板を勤めてくれた愛着のある小人を処分してしまうのもったいないので誰か大事にしてくれる人がいるようなら譲りたいと思っているという。

「無事、『靴屋の小人』を譲ってもらえたら、残った時間でみんなでミラノ観光だよ!」
「ミラノはファッションの街ですよね。見て回るだけでも楽しそうです」
「ね! もちろん、最初の靴屋さんで買い物してもいいし!」
 ミラノのお楽しみといえばショッピング。
 メガリスを確保したあとは、みんなでファッションの街、ミラノを思いっきり楽しもう!
「えへへ、楽しみだね! あたし、外国行くの初めてだな〜……あっ、お土産なんにしよう〜?」
「全学年で修学旅行っていうのも初めてですよね。思いっきり楽しんじゃいましょう」

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参加者
柏木・隼人(黒の想火・b03076)
羽住・悠砂(星屑メロディ・b60673)
阿里谷・舞皇(戀唄ヒ電氣金翅雀・b64111)
グラーレア・ケラスス(水月のギタリスト・b71017)
彩水音・流我(暗夜幽迷・b71535)
松永・小草(高校生真鋏角衆・b77892)
菅井・レキナ(鳴神の月帝姫・b82451)
月護・アミナ(月華・b82809)
NPC:月島・生樹(高校生運命予報士・bn0202)




<リプレイ>


 本の中でしか見たことないような様式の建築物と街並みに、キラキラ光っているように見えるショップウィンドウ。
「着きました! ついに着きましたよ!」
「銀誓館、イン、ミーラノーー!!」
 そう、ここはヨーロッパ、イタリアの北部に位置する都市ミラノ。
 月護・アミナ(月華・b82809)と、月島・生樹(高校生運命予報士・bn0202)は両手を上げて、きゃあきゃあと大はしゃぎ。
「初めての修学旅行なのじゃ!」
 菅井・レキナ(鳴神の月帝姫・b82451)も付箋でいっぱいになったガイドブックを何冊も抱えて意気込んでいる。
 放っておいたらそのままどこかへ走り出して行きそうなテンションの彼女達の後ろから、五條・梅之介(真魔弾術士・bn0233)が遠慮がちに、あの、と声を掛ける。
「観光も楽しみですけど、まずは……」
「……あっ、そうでした! いけないいけない、まずはメガリスっ」
「そっ、そうですわっ、もちろん仕事も忘れてませんわよ」
 アミナはペチペチと自分の頬を叩いて気を取り直し、はっと我に返ったレキナも、赤面しつつ慌ててガイドブックを手持ちの鞄へと押し込んだ。
「あはは、それじゃ、お楽しみは後にとっておこっか。観光なら任せてよ。いい物を教えられると思うよ♪」
「あ、そっか。グラーレアはミラノも地元みたいなもんだよね。なんかいつになく心強いよ……!」
 イタリアが母国だという、グラーレア・ケラスス(水月のギタリスト・b71017)。ちょっぴり得意げな横顔を、阿里谷・舞皇(戀唄ヒ電氣金翅雀・b64111)は羨望の眼差しで見上げた。
 いろいろ見て回りたい気持ちを堪えて、一行は、メガリス『靴屋の小人』があるという店へと向かう。


 ミラノの街中を歩いていくと、細い通りに小さな靴店が見えてくる。
「ここか……」
 こぢんまりとした木製のドアの前で、柏木・隼人(黒の想火・b03076)が足を止めた。店の中から、トントン、カンカン、と金槌の音がする。店はやっているようだ。一度振り返り、皆が頷くのを確認した後、隼人は店のドアを開いた。
 カロンコロン、とドアに掛けられていた呼び鈴が鳴り、店の奥から愛想の良いおばあさんが顔を出す。
「いらっしゃい。おやおや、団体さんだねぇ」
「ああ、旅行者なんだが、少し中を見せて貰っても?」
「はいはい、どうぞ……おや、猫ちゃんも靴を履くのかい?」
 店に入ってくる一行の中に、羽住・悠砂(星屑メロディ・b60673)に抱っこされた猫……変身した、彩水音・流我(暗夜幽迷・b71535)を見つけ、笑って首をかしげるおばあさん。
「一緒でも大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ。後でミルクを持ってきてあげようねぇ」
 一瞬不安そうな表情をした悠砂に微笑んで、快く招いてくれたおばあさんに、流我は一声、にゃー、と鳴いて返事をした。
 おばあさんの言葉に甘えて、皆そろって店内へ。
「こんにちは! お邪魔しまーす!」
「はいはい、狭い店だけどゆっくり見ていっておくれ、可愛いブーツの坊や」
「えへへ、ここもかわいくて素敵なお店ですね」
 お気に入りの厚底ブーツを褒められて、舞皇は照れ笑いを漏らす。
 見た目よりは奥行きのある店は奥が工房になっているようで、そこではおじさんが一人、黙々と金槌を振るっていた。
「それにしても……よくこんな小さい店を見つけてくれたねぇ」
「す、素敵な小人の人形が呼びかけて来たような気がしましたので、お邪魔させて頂きました」
 言いながら、松永・小草(高校生真鋏角衆・b77892)は店の隅に飾られていた木彫りの人形を見やった。
 メガリス『靴屋の小人』だ。それとなく、小草は続ける。
「あ、あの子にはなにか謂れとかあるんですか?」
「ふふ、可愛いでしょう? あの子はおじいさんが作ったんでしたっけ?」
「…………」
「おや、違いましたか。誰かから貰ったんでしたっけ?」
「…………」
「そうですねぇ、あたしも忘れちゃいましたよ……それくらいずーっと前から、あの子はこの店の看板息子なのさ」
 職人らしく寡黙なおじいさんだが、おばあさんには何を言っているのかわかるようだった。
「とても仲がよろしくて、羨ましいですわ」
 思わず、レキナは目を細めた。本当に、仲の良さそうな夫婦だ。
 二人はこの木彫りの人形が特別な力を持つものだと認識しているわけではなさそうだが、とても大事にしているという事だけは分かった。それが分かるからこそ、譲ってくれませんかの一言が、少し言い出しにくい。
「にゃにゃっ」
「かわいいお人形……おとぎ話に出てくる小人さんみたいなのです」
 猫の手で、人形をてちてちする流我をぎゅっと抱っこしたまま、悠砂はそれを見つめた。
「……連れて帰るかい?」
「えっ!?」
 思わぬおばあさんの言葉。驚いて振り返った悠砂の瞳に、優しい笑顔が映った。
「あたしもおじいさんも決めていたのさ。この子を誰かに……この子の事を気にしてくれるお客さんでも来たら譲ろう、ってね。うちには跡取りもいないし、もうすぐ、この店も、なくなるからねぇ……」
 おばあさんは小人の人形を手に取り、そっと撫でながら目を細める。
「……跡取り、か」
「……どこも後継者不足は大変ですね」
「そうだな……」
 隼人と小草は感慨深く頷いた。
 ふと、店の奥で響いていた金槌の音が止む。
「倅は、お前たちと一緒に行きたがっている……」
 愛おしげに小人の人形を撫でるおばあさんの肩に手を置いて、それまで黙っていたおじいさんが口を開いた。
「邪魔じゃなければ、連れて行ってやってくれ」
「本当に、貰って良いのですか? あ、ありがとうございます!」
「大切にしますね! 絶対に……!」
 悠砂が深くお辞儀をする横で、舞皇が差し出された小人の人形を受け取った。
 舞皇のジャケットの胸のポケットに、ちょこんと納まった小人の人形。何だかとっても似合っていて、思わずグラーレアが、わあ、と声を上げる。
「いいね、舞皇、似合ってる!」
「うん、ちょっとこの子には親近感なんだよ……!」
「もうすっかりお友達だねぇ。遠くに行っても、達者で暮らすんだよ。たまには、あたし達のことも思い出して、ね」
 そう言って笑いながら、おばあさんは目尻に薄く滲んだ涙を手で拭った。


 規則正しい金槌の音が、再び響き始めた。
 ゆっくり見ていきなさい、と言ってくれるおばあさん。小さな店の中には、おじいさん手作りの革の靴が所狭しと並んでいる。
「わぁ、おしゃれな靴がいっぱいなのです」
「どれにしようかなぁ……うぅ、たくさんあって迷います……」
 悠砂とアミナも思わず目移りしてしまう。
「ふふふ、ゆっくりお選びなさいな、お嬢さん方。そうだ、猫ちゃんにはこんなのはどうだい?」
「にゅ〜」
 おばあさんの茶目っ気で、長靴にすっぽりと突っ込まれる猫流我。
(「流我お兄ちゃんには……」)
 そんな様子にくすりと笑って、悠砂は眺めていた綺麗なハイヒールの棚から、流我に似合いそうな黒い靴が並ぶ棚へ。
「あの、ここって修理もしてくれるんですよね」
「ええ、ええ、やってますよ」
「見てもらえますか? お気に入りなんです、直ると嬉しいのですけれど……」
 言いながら、レキナは箱に入ったタッセルローファをおばあさんに手渡した。かかとの部分が少しすり減っている。
「そ、そうだ、あ、あの、他所で買ったベルトの端にあの小人の模様とか入れられますか?」
 思い出して、小草も買っておいた牛革のベルトをおばあさんに見せた。
「はいはい、両方大丈夫ですよ。ちょっと時間をちょうだいね」
 慣れた様子で頷いて、おばあさんはおじいさんのところへレキナの靴と小草のベルトを持っていく。

 作業が終わるのを待っている間、いろいろな話をした。
 思い出に残っている靴の修理の話。まだ若かったおじいさんは、やりがいのある修理に夢中になりすぎて、飲まず食わずの三日三晩。完成した朝にはとうとう貧血で倒れたらしい。
 変わったお客さんの話。顔を見せるたび、おばあさんを口説く常連客。もちろん冗談なのだが、その男が来ると、おじいさんの機嫌がちょっぴり悪くなるんだとか。
 果てには、おじいさんとおばあさんの馴れ初め話。まだ少女だったおばあさんが、離れて歩いていた気性の激しい雄鶏に追いかけられているところを、少年だったおじいさんが助けたのが出会いだったと、おばあさんは照れくさそうに話してくれた。

「さあ、できましたよ。どうだい?」
「こ、こんな短時間でこんなに細かく……す、すごいですね」
「ばっちりです、ありがとうございます」
 ベルトの端に可愛らしく描かれた靴屋の小人。すっかり新品のようになったタッセルローファ。その芸の細かさに小草は思わず魅入り、レキナは満面の笑みを零した。
 皆の笑顔。おばあさんの優しい声。おじいさんの振る金槌の心地良い音。
「今日初めて来たばかりですが……私はこのお店の雰囲気、とっても好きです。何だか温かくて……今日ここに来てよかったです。靴、大切にします」
「そう言ってくれるとあたしらも嬉しいよ。ありがとう……うちの息子のことも、よろしくね」
 いっぱい悩みながら選んだ一足を抱きしめて言うアミナに、おばあさんも嬉しそうに笑って返した。

 こうして、メガリス『靴屋の小人』は、無事、銀誓館学園一行の手元へと渡ったのだった。


 残った時間は充分。ついに待ちに待ったミラノ観光である。
「そうそう、俺的にはここも一度見ておいて欲しいな」
 グラーレアが、ミラノの有名な観光地はもちろん、隠れたお菓子の名店を順番に案内してくれる。
 ミラノといえば、歴史ある劇場、スカラ座。それに綺麗なステンドグラスのあるドゥオーモ大聖堂。
「あっ、このサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会って所も行ってみたいね」
「えっ、どれどれ? 禅、俺にも見せて!」
 うきうきと、ガイドブックを食い入るように見つめる禅の手元を舞皇が覗き込む。
「了解、出来る限り全部回ろう!」
 任せてよ、とグラーレアは自分の胸を拳で軽く打ってみせた。
 観光名所巡りは近い場所から効率よく。もちろん、移動しながらショッピングを楽しむことも忘れない。
「それ、とっても似合ってますわ! あっ、あっちのも着てみましょうよ!」
「わぁ、それもかっこいいのです、モデルさんみたいですね!」
 レディースファッションのショップでは、女の子達が心ゆくまで試着を楽しみつつ、お気に入りをしっかり吟味。
「お、お土産はどうしましょうか……」
「あっ、この辺のアクセサリーショップとかいい感じじゃない? グラーレア、選びっこしようよー」
「うん! 舞皇にはどれがいいかなー♪」
 大きなアクセサリーショップでは、お土産選び。
「し、白さんにはお菓子の詰め合わせで良いとして、蘭黒さんへは……」
「あっ、これは? ウサギさんついてるよ!」
 生樹に手伝ってもらいながら、小草も一生懸命お土産を選ぶ。それを横目に、隼人は難しい顔で唸った。
「ううむ……なぁ、生樹なら土産に貰うならどういうのが……」
「うん?」
「……いや、やはりいい。自分で選ぶ」
「ひににっ、そうしなよ」
 何やらニヤニヤと笑う生樹。隼人は小さく咳払いをして誤魔化した。
「そういえば、梅之介はこういうのを専門にしているんだったか……色々参考になったりするのか?」
「そうですね。参考にもなりますし、見ていて楽しいです」
「なるほどな」
 皆が楽しそうにお土産を選ぶ中、悩みに悩んだ隼人は、白い花のコサージュを手に取ったようだった。


 移動とショッピングの合間に、ジェラードのお店もしっかりチェック。
「これが本場のじぇらーど……美味しそうですー」
 ショーケースの中をじっと見つめて、アミナが呟く。色とりどりのイタリアンジェラード。さすが本場の専門店。種類も豊富だ。
「私はスタンダードなバニラに。五條さんと月島さんは、何味でしょうか?」
「えーっと……あ、トマト味って気になりません?」
「待って! 基本のチョコは外せないよ!」
「気になるのを味見しあいましょうよ? ね、これどう?」
「……あれ、甘……? う、やっぱり辛いのです」
 流我は即決。決めかけていた梅之介の選択を生樹が制しているうちに、レキナは唐辛子入りチョコという大冒険なフレーバーをお買い上げ。味見した悠砂が一足先に不思議体験を味わった。
「……うむ、何だかんだで、さすがは本場だな」
 あまり日本では馴染みのないフレーバーもあるが、食べてみればちゃんと美味しい。味わいながら、甘党の隼人も満足げに頷いた。
「俺はやっぱり苺味がいいな! それとねー……」
「ジェラードばかりだとお腹壊すよ? バチ・ディ・ダーマ食べる? イタリアはチョコ大好きっ子が多いから、これもおすすめだよ。禅さんも如何?」
「わぁ、鈴みたいで可愛い……!」
「わ、本当、かわいいー!」
 グラーレアの勧める、ころんと丸いチョコレート菓子。可愛い外見に、禅と舞皇が声を上げる。
 ミラノのちょっとした寄り道は、甘くて美味しくて大満足。


「時間的にここが最後かな」
 言って、グラーレアは皆を促した。辿り着いたのは、ドゥオーモ大聖堂。
「わぁ、ドゥオーモ、来てみたかったのです」
 悠砂はキラキラと目を輝かせながら上を見上げた。
 目を見張るような建築技術の造形美。その中で、光彩を放つ巨大なステンドグラス。
「すごい……」
「こんなに壮麗な場所があったなんて……」
「き、綺麗ですね……」
「うん、イタリアって芸術の国だって聞いてたけど、ほんと、すごいね」
 アミナとレキナ、小草に舞皇も、その美しさに思わず息をのんだ。
「エレベーターで聖堂の上に上れるよ。行ってみない?」
 グラーレアの提案でエレベーターに乗り込み、聖堂の上部にも上ってみる。眼下に広がるミラノの街が、ゆったりと流れて見える。
「穏やかな空気ですね。何となく、懐かしさにも似た心地良さを感じる街です……」
 薄く目を閉じて、流我は静かに深く息を吸った。
 最先端のファッションと、歴史的建造物が共存する街、ミラノ。
「さて、と……記念写真でも撮るか?」
 街並みをカメラに収めていた隼人が、皆にレンズを向けて構える。

 楽しかった、と満足する気持ちと、もう少しだけ留まっていたいと思う気持ち。そんな旅の終りの気持ちを胸に、今年のちょっぴり変わった修学旅行は幕を閉じようとしてた……。


マスター:海あゆめ 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2012/09/27
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