≪CAPRI≫瓜葛之親〜親と子と


<オープニング>


『着いたぞ』
 佐川・鴻之介(湾曲男子・b20654)に、徳島にいるはずの人物から電話がかかったのは昨日の事であった。前後を省略した祖父、善之介の言葉に狼狽したのは鴻之介の方である。
「着いた? 着いたって何じゃ何処じゃどういう事じゃ!」
『鎌倉駅に決まっておろうが。東口って書いてあるぞ』
 洗濯物を干し終わってベランダから戻ってきた倉澤・青葉(直線少女・b59474)は、携帯電話に怒鳴っている鴻之助を見てきょとんとしている。
 事情はよく分からないが、誰かが着いたという事は聞き取れた。
「迎えに行ってあげないと」
 お昼ご飯は何にしようか?
 鴻さんのお祖父さんは何が食べたいと思う?
 突然の訪問にも笑顔で余裕のある様子を見せる青葉であったが、鴻之介としては何をしにきたのか気が気では無い。
 老いてなお心身健在の善之介は、13年前に妻に先立たれてからは徳島で一人暮らしをしていた。
 ずっと一人であった訳ではなく、娘夫婦が早世してからは鴻之助の面倒は彼が見続けてきた。鴻之介が鎌倉に来てからは、妻が大切にしていた花と菜園を守り続けている。
 特に理由を語ることはなかったが、理由がなければ来てはならぬという事もなし。
 台所で料理の話をしている青葉と祖父を見ながら、鴻之介は複雑な表情を浮かべていた。何度か青葉もあったことのある相手だったが、それ故ずっと置き去りにしたままにしていた問題が両家にはあった。
 まあ、来る日が来たという訳である。
 その『来る日』というやつはまったくもって唐突に、そしてまとめてやって来るのだった。
 煮物の灰汁取りについて話している青葉の携帯電話が、着信を告げる。かかってきたのが母の香子からであると着信表示から知り、お玉を善之介に手渡して電話を取った。
「お母さん?」
 急に顔が見たくなって、と話す母の背後からは人の声が聞こえてくる。のんびりとした話し方は相変わらずであったが、出先で電話をするというのは珍しい。
「どこかに出かけてるの?」
『うん、あのね……』
『貸しなさい』
 あ、お父さん。
 横から割り込んだ父勝二は、母から携帯を取り上げると声をあげた。
『今鎌倉駅に着いた。二人とも、家に居るのか? 今からタクシーで……』
「え? あ、あの……今?!」
 今度は慌てたのは、青葉の方だった。
 台所では、のんびりと善之介がお味噌汁の出汁を作っている。電話の様子に気づいた善之介が振り返ると、青葉は視線を泳がせた。
 よりによって同時に来るとは。
 もしや、示し合わせた訳じゃ……?
 そう疑いたくもなる状況である。
「ちょうど頃合いで味噌汁が出来そうじゃ、青葉さんの料理を食べて貰おう。……鴻の字、急いで掃除せえよ。きっちりな」
「言われんでもそうするわい」
 鴻之介はぶっきらぼうに言い返すと、立ち上がった。

 夕飯はまるで、お通夜のような様相となった。
 何が言いたくて来たのか、青葉も鴻之介も察している。しかしその場に鴻之介の祖父もいるわで、会話の流れがどうもつかめなかった。
「あら美味しい。お出汁かえた?」
「うん。お出汁の取り方、お祖父さんが教えてくれたの」
 母が聞くと、青葉は父の様子を気にしながら答えた。無言で料理を片付ける青葉の背に、料理を教わっていた青葉の事を話す善之介の声が聞こえる。
 娘の話を笑顔で聞き終わると、母はこう口にしたのである。
「じゃあ、そろそろ花嫁修業は終わりね。いつでもお式が上げられるわ」
「そ、そんな事を勝手に決めないでよ。あたし達の事はあたし達二人で、ちゃんと話して決めてるんだから」
 そもそも青葉は高校を卒業したばかりだし、結婚式はちゃんと二人で時期や将来の事を考えて挙げたいし、まだちゃんと式を挙げるだけの予算が無いし。
 きっと言い訳のように答えるだろう。
 青葉も鴻之介も、結婚式がしたくないとは言っていない。ただ、鴻之介も将来の事を考えていて、その事を青葉も理解してくれている。
 だから……。
「予算とか時期とか、言い訳ばかりじゃないか。君はそんな甲斐性も無く娘を掻っ攫っていったのか!」
 お父さん、と声を掛け引き留めようとした母に先立ち、青葉は台所からすたすたと戻るとキッと父を見据えた。
「鴻さんの事は、お父さんよりずっとあたしの方が分かってるんだから! 何で何時もお父さんは、ちゃんと聞いて……もういい。お父さんのバカ! 大嫌い!」
 怒鳴るように大声で言い放つと、青葉は制止も聞かずに飛び出していった。
 飛び出すと、外はすっかり闇に包まれていた。幸い月がぽっかり浮かび、道を照らしている。
 とぼとぼと歩き出す青葉から少し遅れ、鴻之介と母は青葉の姿を探して通りを見回す。すでにそこに青葉の影も形も見当たらなかったが、携帯電話を掛けても出る気配がない。
「携帯電話を置いて出たのかもしれん。……青葉の事じゃから、知らん所にはいかんと思うんじゃが」
 いざとなれば青葉はイグニッションカードを持っているはずだし、ゴーストに囲まれでもしなければ猫化して……。
 そう考えて、青葉が猫になっている可能性も思い出した。
 心配事は、青葉だけではない。
「お義父さん大丈夫じゃろうか」
 慌てていたので、祖父と二人きりにしてしまった。よもや余計な事をしていないだろうか、勝手に連れ出したりしていないかなどじわじわと不安がこみ上げる。
 だが母は笑顔で、大丈夫と答えた。
「むしろ、うちのお父さんが迷惑を掛けないかどうか心配だわ」
 さて、どっちに行ったものか。
 置き去りにしてしまった祖父と義父の様子を見に戻るか、それとも青葉を探すか……。

 その頃、置き去りにされた二人はその場から立ち上がる事もなく向き合って卓を囲んでいた。
 青ざめた顔の勝二の様子に、善之介は卓に手を掛けて息を一つつく。
「まあ、心配はいらんじゃろう。青葉さんはしっかりした娘さんじゃ。茶でも煎れるから、飲んで落ち着くとええ」
「あ、ああわたしが煎れましょう」
 慌てて立ち上がり、勝二が台所に向かう。普段自分が茶を煎れる事などないが、実家が和菓子店を営むだけあって茶くらいは煎れる事が出来る。
 蒸らした茶を均等に二つの湯飲みに注ぎ込み、お盆にのせる。土産として店から持参した和菓子も、箱を眺めるとそこから見栄えのいいように選び取り、器に入れた。
 父、案外こういった部分で手抜きの出来ぬ男である。
 きちんと正座した善之介は、勝二に茶と菓子を差し出されて、身を乗り出すようにして和菓子をまじまじと見つめた。
 栗の形をした練り切りと、栗きんとんがつやつやと美味しそうに光っている。秋らしくこしらえた、上生菓子であった。
 ひとしきり眺めたあと、善之介は口をひらいた。
「これ、どこから食ってもええかのう?」
「は……はぁ?」
 思わず素っ頓狂に、勝二は声を上げてしまった。
 どうぞ、上からでも下からでもお好きなように。そう言えばよかったのだが……。どう返答しようか悩むうち、善之介は匙を手にとった。
 ぱくり。
 一口で食べてしまったのである。
 和菓子は一個でひとつの食べ物、半分にするなどもったいないというのが善之介の考え方であったが……どうやら彼らにはまだまだ、意思の疎通が必要そうである。

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参加者
佐川・鴻之介(湾曲男子・b20654)
倉澤・青葉(直線少女・b59474)



<リプレイ>

 冬の寒風は、ひたひたと歩く倉澤・青葉(直線少女・b59474)の体を撫でてゆく。
 毛皮のおかげで体は暖かいが、青葉の心は晴れなかった。まだたくさんたくさん、言いたいことはあった。
 たくさん、報告したい事があった。
 鴻さんと話すみたいに上手く言えなかったし、結社や学校の仲間と語り合う時のように笑顔で迎えられなかった。
 心が身構えていた……のかもしれない。
 青葉だって、お父さんお母さんに笑顔で結婚を祝ってほしいと思っている。沈んだ顔色のまま誰もいない公園に足を踏み入れると、トボトボと青葉はベンチの上にやってきた。
 ひんやり冷たいベンチの上から、しんとした寂しげな公園が映る。夕暮れ時の公園は、誰もいない学校に似て物寂しい光景であった。
『だーれも追いかけてこない』
 ムシャクシャするやら、寂しいやら。
 青葉がにゃあと思い切り声を上げると、どこかからにゃあと返事が返った。鴻さん? と言いかけて、青葉は考え直した。
 そういえば今鴻之介は魔弾じゃないから、猫化しているはずがない。
 のそり、と物陰から現れたのはデンとした大柄な虎猫であった。
『おうねーちゃん、ベッピンさんやないけ』
 ……と言ったかどうかは、定かではない。
 青葉もにゃあと言い返したが。
『今ナンパ待ちなんだけど、相手はあなたじゃないです』
『ボスのわし差し置いてナンパしてええ思て……ふごあっ!』
 最後まで言うことなく、飛びかかった青葉のパンチがボス猫を吹き飛ばした。しかも爪ひっこめた猫パンチじゃなく、爪出したマジ猫パンチである。
 立ち上がるより早く青葉は飛びかかると、パンチをさらに浴びせた。
「やめんか、死ぬ! 死んでしまう!」
 追撃が回り続けていた青葉の体を、後ろからひょいと大きな手が拾い上げた。だらんと抱えられたまま、じたばたと暴れる青葉。
 手をひっかくと拘束から逃げ出し、さっと草むらへと飛び込んだ。
 ちらりと振り返ると、ボス猫を心配するように触っている母とこちらを見ている佐川・鴻之介(湾曲男子・b20654)の姿があった。
「野良猫の縄張り争いかしら」
「いや……そ、そうじゃ。いつも青葉と可愛がっておった猫なんです」
 さきほどの猫が青葉だと気づいている鴻之介は、曖昧な返事を返した。二人はボス猫を離してやると、何か話しながら公園内を歩き出す。
 青葉の姿を探す母について行きながら、鴻之介は草むらにちらちらと視線を投げる。その表情を見てすまなそうにうなだれると、青葉はそっと猫化を解いた。
 日が暮れた公園の街灯下、ぽつんと影が落ちる。
 うなだれた顔がちらりと上に向き、じっと二人を見つめた。
「……」
「「青葉!」」
 母と鴻之介は同時に声をあげ、駆け寄ってきた。
 自分から掛ける言葉が見当たらず、ただ無言の青葉の気持ちを察して二人はふと笑顔を浮かべた。
 優しく笑う母と、青葉が口を開くのを待ってくれている鴻之介が嬉しくて、青葉は思わず顔を赤らめる。
「あの……ね」
 それしか口から出ない。
 だけど母は、いつものように笑って手を取った。
 歩き出す母の手は、少し冷たい。冷え性なんだから、と呟いてそっと両手で包むと少し母の手が暖まった。
「お父さん、心配してるわよきっと」
「うん」
「言葉が足らない人なんだから、青葉もそれをちゃんと分かってあげなきゃ。お母さんなんて、行間読めるようになっちゃったもの」
 行間読めるんですか!
 と鴻之介が声をあげ、青葉もつられてくすりと笑う。そうすると、するりと心の糸がほぐれた気がした。
 鴻之介は持っていたココアの缶を青葉に渡し、二人でずっと探していた事を話した。その間、いろんな話しを母としたのだという。
 鴻之介の事、青葉の事、お父さんとお母さんの事、そして……鴻之介の父と母、祖父母の事。
「お父さんと……お母さんの?」
「そうよ。ああ見えてお父さんねぇ……」
 母が話し出したのは、ずっとずっと昔。
 まだ青葉も兄も生まれていなかった頃の事である。

 ほっと息をつくと、お茶の温かさがのどを通った。
「いやあ、低温の玉露と菓子がよく合うのう。熱すぎても、菓子の旨みが味わえんからの。よくを言えば、もう少し弾力のある生菓子が好みじゃ」
 さらりと言った善之介の言葉に、勝二は身を固くした。
 何気なしに言ったような善之介の一言であったが、その言葉に父の声を思い返していた。柔らかすぎる、湿度も気を遣え、ずっと勝二が言われてきた言葉であった。
「……よく、言われます」
 ぽつりと勝二がそう返したのは、なんとなく善之介が父と同年代だからであったかもしれない。
 別段今は勝二が教授してもらっている訳ではなかったし、今勝二自身が嫁に貰いに来ている訳でもない。
 緊張が解けない勝二は、何となくぎこちないままであった。
 会話の元を探して視線を泳がせた勝二の目に、善之介の後ろに置かれた風呂敷包みが入った。
 小洒落た風呂敷に包まれたものは、四角い箱か本のように見える。勝二の視線に気づいた善之介が、振り返って風呂敷に手を伸ばした。
「ああ、これは青葉さんに見せようと思うて持ってきたアルバムなんじゃ」
 シンプルな白いアルバムは、分厚い二冊に分かれていた。そういえば、鴻之介の父と母は何をしているんだろう。
 そう、勝二が疑問を感じた。
 その疑問は、アルバムを開かれるうちに明かされた。そこにあったのは、赤子の鴻之介と父、母のいくつかの写真。
 そしてその後は一枚も、父と母の姿が写る事は無かったのであった。ただ、鴻之介と祖父、祖母が写るだけ。
「これが、ちょうどうちに戻ったときの写真なんじゃ。……次の日、事故に遭ってな」
 何も言わずとも、勝二は察して無言でうなずいた。
 かつての善之介は、娘可愛さでどうしても首を縦に振る事が出来なかった。自分も昔は頑固だったんじゃ、と善之介はからからと笑って勝二に話す。
 娘が飛び出した後も、追いかける事も出来なかった。
「じゃから、娘が帰ってきた時は嬉しかった。口じゃどう言うても、やっぱり娘と孫を見たら……後はもうどうでも良い気になるじゃろう?」
 すべて水に流してもいい。
 自分の所に挨拶に帰ろうと言ってくれたのは、夫の方だったと後から祖母……妻に聞いた。娘が孫を抱いて帰った日、善之介がその晩何を考えて眠りについたのか。
 ただの一言も語る事はなかった。
 ただ、娘を語る善之介はとても幸せそうで悲壮感などこれっぽっちもなかった。自分の娘がそうなってしまったら、勝二はとてもじゃないが善之介のように話す事など出来ないだろう。
 俯いてぽつりと涙をこぼした勝二の肩に、善之介の手がかかった。
「泣く事はありゃせんよ。わしは娘の楽しい想い出を一杯持っておる、だからのう……鴻之介にも、それを話す時は楽しくする事にしとるんじゃ」
 善之介が持参した二冊目のアルバム、それは善之介の娘のアルバムだった。
「別に娘の話を盾に、鴻之介の結婚を認めさせようとはしとりゃせん。ただ、わしには分かる。……あんたは娘の晴れ姿が楽しみだし、その晴れ姿には娘の笑顔が無きゃならんとな」
 娘が笑顔で晴れ姿を見せてくれるには、どうすればいいのか善之介にはちゃんと分かって居た。今はかなわぬ、娘の晴れ姿。
 涙を拭って、勝二は泣きっ面で笑顔を浮かべた。
「情けない話ですね。……自分はあんな父にはならないと思っていたのに」
「なあに、父親なんてみんな一度はそういうもんじゃよ」
 からからと笑った善之介につられ、勝二も笑う。
 そうだ、お茶が冷めたようですからもう一杯注ぎましょう。勝二はそう言うと、立ち上がって台所に向かった。
 持ってきたお茶の缶に手を触れた勝二は、お茶を煎れていた父の姿を思い出して……手を止めた。お茶を煎れていた父の姿、そしてお茶の湯飲みを投げつけられた香子の父の事。

 秘蔵の写真なのよ。
 そう言って、青葉の母はそっと一枚の写真を取りだした。青葉の母が見せてくれたのは、恐らく彼女の家族の写真である。
 仏頂面の香子の父親と、その横で笑う母。香子は腕に子供を抱いており、勝二はどこか強ばった顔をしていた。
 青葉が3つの時に二人で写真を撮ったというのは聞いているし、見た事がある。しかし青葉も、この写真は見たことがなかった。
「挨拶に行った時、お兄ちゃんがお腹に居たからそりゃもう大変だったの。……お父さん、怖がってるでしょ。なんとか一枚だけ撮った時のものなの」
「お父さん、お母さんの家に泊まらないのってそれが理由だったの?」
 仕事が忙しいとか、お店を空けられないとか散々理由を言って正月でも碌に香子の実家に泊まらない事は青葉も知っていたが。
 なるほど、トラウマになっているという訳か。
 しかしそうと聞くと、ますます納得がいかない。頬をふくらませて、青葉は母につらつらと文句を言った。
「だって、お父さんあんなに文句言ってたのに自分は……出来ちゃった結婚なんじゃない。なんか納得いかなーい!」
「それは……仕方ないじゃろう青葉。人間物事、うまくいかない時がだな」
 なんとか庇おうとする鴻之介であったが、事が事だけにいい言葉が出てこない。だが鴻之介も、そんな青葉の家の話を聞いているうち、次第にあの父親の事が好きになってきていた。
 いい、父親だ。
 そしていい母親だ。
 鴻之介は、脳裏に善之介が笑顔で話してくれた両親の姿を思い浮かべた。いつでも楽しく話してくれた善之介の思い出話は、鴻之介にも楽しい想い出として沢山記憶されていた。
 彼女達を見ていると、それが思い起こされる。
「だから、鴻之介さんがうちに泊まってくれなくなったら私、悲しいわ」
 母が笑顔で、鴻之介に言った。
 もちろん、泊まりますと鴻之介が大きく答える。
「わしはお義父さんとじっくり話したいと思うております。青葉の話も聞かにゃならんし」
「何の話を聞くの?」
「今度、青葉のアルバムを見せてあげるわね」
「ちょっとお母さん、勝手にアルバム見せないでったら!」
 プライバシーの侵害……と言いかけて、青葉と顔をあげた。窓に明かりがついていて、台所の小窓に誰かの影が見えた。
 ……お父さん?
 そっとドアを開けると、奥から笑い声が聞こえた。
「……爺、失礼をしとらんようじゃな」
 ほっと肩の力を抜いた鴻之介と一緒に部屋に戻ると、父は顔を赤くして咳払いを一つした。別に何も笑ってませんよ的な場の取り繕い方に、母が笑い声をあげる。
 どうやら、取り繕っても無駄のようである。
「こ、鴻之介くんの写真を見せて貰っていてな」
 勝二の言葉で、鴻之介がはっとテーブルに飛びついた。
 確かにそこにあるのは、鴻之介の写真である。しかも、あまり見せたくない類の写真までいろいろ混じっていた。
 ついでに言うと、端々に善之介の感想じみた言葉が沢山書き残されている。
「やめろ爺、勝手に写真を見せるな!」
「何を言う鴻の字、ちょっとそこに直れ」
「うるさいわい、まずアルバムを寄越せ!」
 もみ合う二人の横から手を伸ばし、青葉はひょいとアルバムを取り上げた。一つは鴻之介のもの、そしてもう一つは……どこか鴻之介に似たひとの写真だった。
 くるりとした髪が、鴻之介によく似ている。
 あ、遠くを見てる目元がそっくり。
 青葉はアルバムをめくりながら、微笑む。
「鴻之介さん、お母さんにそっくり。性格はお父さん似なのかしら……ほら、笑い方がそっくりね」
 そう言われれば、と青葉が写真をのぞき込む。
 青葉も、性格は父親にそっくり……と母が呟く。青葉は、それを聞いて眉を寄せて反論した。
 お父さんにそっくり? どこが?
「そういう所がよ」
 くすりと笑う母と一緒に、鴻之介の写真を眺める。
 こうしていつか、自分も家族を得てアルバムを見ながら見送る時が来るのだろうか。青葉は手を止めると、打ち解けた様子で話している鴻之介や父を見つめた。
 いいのだろうか、鴻之介と結婚しても。
 だめだと言われても結婚するけれど、父はどう言うのだろうか。
 青葉の事を……。
「鴻の字」
 善之介が話しを始め、ぴくりと青葉は肩をふるわせた。真剣なおじいさんの声に、青葉も緊張する。
 鴻之介の顔は真剣だったし、お父さんも……黙って聞いていた。
「結婚式はな、自分達のためだけにするんじゃないぞ。親がのう、子が生まれて育っていく様を思い出して、ああ一人前になりおって……と嬉し涙する最後の日じゃ。だから、これくらいはさせてくれ」
 青葉がはっとして鴻之介を見返すと、どうにも表現しにくい顔で鴻之介がこくりと頷いた。嬉しいのと、そして申し訳ないのとごっちゃ混ぜだ。
 どうやら善之介が、結婚費用を立て替えてくれるらしい。
 ちょんと正座をすると、青葉はちらりと父を見た。
「ちゃんと……式の前には挨拶に帰るから。改めて……育ててくれてありがとうって……ちょっとお父さんどうしたの」
 くるりと背を向けた父の様子に、青葉が慌てる。
 早くも娘を見送るモードに入っている父を見た母は面白そうに笑っているし、青葉はこれ以上言う事が出来ずに溜息を一つついた。
 手にした、鴻之介の母のアルバムを善之介の方に差し出してテーブルに置くと、青葉はすうっと呼吸を整えて少し下がる。
「不束な嫁ですが、どうぞよろしくお願いします」
 鴻之介と善之介へ。
 そして、見守ってくれている彼のお父さんとお母さんに。
 青葉は笑顔で三つ指をついた。

 青葉は佐川家の嫁になります、と。


マスター:立川司郎 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:2人
作成日:2012/12/13
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