Time flies 〜銀の世界の12年〜


                   



<オープニング>


 ある人の未来は、今と同じ様に、ゴーストと戦う日々を送っているかもしれないし。
 またある人の未来は、今とは全く違う第二の人生を、順風満帆に歩んでいるかもしれない。
 卒業して社会に出て、結婚して子供が生まれていたり。
 もしかしたら、国民的トップアイドルとして、仕事に忙しい毎日を送っていたり。
 世界を動かす権力者なんかになっている人も、いるかもしれない。
 そう、来るべき未来――これから進む道は、その人それぞれ。

「将来の夢、って皆様はありますか?」
 この時は――2012年・冬。
 まだ水無瀬・詩杏(高校生運命予報士・bn0212)が、運命予報士という存在であった時の会話。
「将来の夢なぁ。まぁとりあえずは、大学卒業して教師になることとかかな」
「右京はそういえば、教師志望だったか。物怖じせぬ右京には教師は向いていそうではあるが、料理人という道も適職である気がするな」
「まーイケメンカリスマ料理人ってのも、この俺にはピッタリなんだけどな!」
 墨枝・宗司郎(高校生真書道使い・bn0314)の言葉に、勝手にどや顔する五十嵐・右京(紅い火狐・bn0248)へと、首を大きく傾けて。
「料理人はともかく、イケメンカリスマ……ですか?」
 あ、右京さんはいっそ主夫という道などいかがでしょうと、にこり笑む詩杏。
 そんな彼女に、いつだって俺は嫁にいけるスキルはあるぞ! と再びどや顔してから。
「てか、嫁かよ!?」
 律儀に自分でツッこむ右京。
 宗司郎はそんな彼を後目に。
 今度は、詩杏へと問う。
「詩杏の将来の夢は、もう定まっているのか?」
「私の、ですか? 高校を卒業した後、大学進学をと考えてはおりますが。まだその先は、具体的にこれというものは見つけてはおりませんの。ですが……」
 そこまで言った後、ちょっぴり恥ずかしそうにして。
 こう、詩杏は続けたのだった。
「ですがやはり、いつかは……大切などなたかの、お嫁さんになりたいですね」
「ほう、お嫁さんか」
「はい。大切な方を支えるべく、あたたかいお料理を毎日欠かさず作って、しっかりと家庭を守りたいですわ」
「え、ちょ……ま、毎日、欠かさず……ッ!?」
 瞳をキラキラ輝かせながらお嫁さんに憧れを抱く、そんな目の前の少女の夢を壊さぬようにと。
 敢えて右京はそれ以上は何も言わずに、毎日欠かさず作られるという黒紫色なバイオオーガニックウェポン的な食卓を思って。
 その、大切などなたかとやらに、心からそっと同情しつつも。
「そういや、宗司郎の将来の夢は何なんだ?」
 今度は、宗司郎に訊ねる。
「そうだな……やはり私は将来的に、これからの世界を担う若き書道使いを、指導するような立場で在ればとは思っている」
「おーそれこそ、若い書道使いを育てつつ、イケメンカリスマ書道家として名を馳せる、とかいいんじゃねーかっ?」
「イケメンカリスマかはともかく、書道を生業とできれば幸いだな」
「宗司郎さんでしたら、イケメンカリスマ書道家になれると思いますわ」
 そう不滅の使者・陽炎の隣で上品に微笑む宗司郎に、うんうんと頷く詩杏。
 そして。
「ちょ、俺の時はイケメンカリスマすぐ否定したのに何で!?」
 俺だってイケメンカリスマになれるだろ! と。
 そんな根拠のない事を自信満々に言う右京をスルーしつつ。
 ふと詩杏は、こうも続けたのだった。
「でも私は、お嫁さんになるよりも早く……皆様と同じ、能力者になっているかもしれませんね」
 大きな危機は去り、皆で守った未来。
 その未来は、全ての一般人が能力者に戻る新しい時代へ向けて、既に歩み始めている。
 詩杏は、私は将来どのジョブの能力者になるのでしょうね、と蒼の瞳を細めながらも。
 一体どのような未来になるのでしょうかと、そう笑んで。
「これから変わっていくだろう世界ですが。是非とも、将来の皆様の活躍を知りたいですの」
「定期的に同窓会とかも開きたいよな!」
「まず近い未来といえば、2年後に控える私や詩杏の銀誓館学園の卒業式も楽しみだな」
 右京や宗司郎も、それぞれの未来へと、心を馳せる。
 
 1年後のあなたは、何をしていますか?
 3年後、隣にいるのは誰ですか?
 6年後には、2012年に抱いていた夢は叶っていますか?
 12年後のあなたは……どこで、誰と、どうしているのでしょうか。

 月日の流れはまさに、光陰矢の如し。
 あなたが、この銀の雨降り注ぐ世界でこれから過ごしていく日常の話を。
 人生の岐路となる卒業式や、懐かしい仲間と再会を果たす同窓会の時間など。
 それぞれが歩んだ沢山の未来の道の行方を――もしよければ、見せてください。

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参加者
萩坂・暈人(剱持つ考古学者志望・b00168)
エルレイ・シルバーストーン(銀石の操霊士・b00312)
龍堂寺・一歌(ユンタク娘・b01844)
水田・えり子(スターライトティアラ・b02066)
宵凪・朔(遥陽在りて・b04318)
綾之瀬・キッカ(エンジェルマヌーヴァ・b05633)
藤林・緋桜(鳳翼紫影・b09741)
鈴代・コウ(空椛・b16119)
守森・姫菊(橙黄の延齢客・b20196)
赤護・侑(紅い護葬士・b26012)
鈴木・ミー(中学生ファイアキャット・b29516)
文月・裕也(太陽と月の着ぐるみ探偵・b33412)
小早川・美海(通りすがりのもふりすと・b35501)
尭矧・彩晴(ベリルユピテル・b38169)
旻・遊飛(虹雫・b39080)
真神・綾瀬(蒼風の舞姫・b39277)
ティアレス・セルシウス(気高き臆病姫・b41953)
風深・翼(幻葬の蒼き硝翼・b43787)
レアーナ・ローズベルグ(心にいたみを刻む者・b44015)
一七夜月・氷辻(誇り高き月下の薔薇・b44022)
蒼城・陽菜(蒼き希望の西風・b44258)
忍里・佐織(真水練忍者・b45029)
新城・刹那(藍色の雪姫・b45413)
ファルチェ・ライプニッツ(終わらないお茶会・b46189)
風嶺・涼介(高校生ヤドリギ使い・b46356)
鬼灯・遙(彩雲のサーブルダンサー・b46409)
白神・風優翔(空色アンビエント・b51129)
サイト・ツァンデベルン(こうして朧月夜に神秘は永眠る・b51565)
マリア・エスペランザ(蒼い戦姫・b52755)
一ノ瀬・透也(はねむいだるいかえりたい・b53925)
結城・結衣菜(ブレイドディザスター・b54577)
永月・ヒナノ(あなたのハート撃ち抜きます・b54922)
日向・夏果(のんびりまったりいきましょう・b55022)
氷神・睦月(白銀のロップイヤー・b55639)
久留宮・沙希(紅の詠を紡ぐ者・b55661)
敷島九十九式・秀都(エクストラエンフォースメント・b57363)
津上・晶(天秤を背負いし鬼蜘蛛・b57574)
不利動・覚(マフィアと極道のダブル・b58239)
澄空・翔(澄み空を翔る蒼黒の風・b59134)
秋矢・基(真福座跡・b59852)
草月・惑(不憫・b60398)
穂宮・乙樹(桜纏う戦乙女・b62156)
鈴鹿・小春(万彩の剣・b62229)
冬木・菜々美(白陽に抱かれし狐巫女・b63330)
辻村・崇(蒼き牙を持つ幼き騎士・b63628)
時浦・零冶(黒鏡嵐霧・b64243)
桐条・司(陽に沈む薄明の唄・b66625)
遠山・和(黒・b68359)
浅間・龍太(火産霊神覇道流伝承者・b70080)
鬼頭・鋼誠(朧鋼の熕霽・b70561)
九頭龍・蓮汰(風の十二方位・b73547)
渡会・綾乃(月爛・b74204)
久遠寺・タキ(凍花相・b75212)
蒼井・加奈(目指せ素敵なおねーさん・b75538)
大手向・宰(とチアガールぬこ・b75701)
朝来野・健太朗(フリーダムライフ・b76060)
天梢・紗理亜(エクメネの空・b78969)
榊・くるみ(がんばる女の子・b79108)
津上・沙由理(鬼蜘蛛を照らす夜天の銀月・b79589)
内田・ゆりな(ブルースターオーシャン・b79935)
八幡・鋼鉄(心地よい住環境を貴方に・b80128)
東雲・鈴子(瞬く明星・b80370)
雨宮・定晴(スカイブルー・b81063)
エルジェーベト・フォスター(二輪草・b81064)
毛利・煌(ヘリオライトキャット・b81110)
黒紡・晶(黒耀狼・b81114)
春風・薫(ハニーオレンジ・b81158)
セレブラ・ヤステレブ(永久凍土の死霊・b81164)
此花・百合音(照る月・b81360)
一条・涼(ひたくだる水清らかに・b81384)
鈴森・奏(は走り出したら止まれない・b81438)
鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・b81451)
啄身・鶫(言ノ葉夜狐・b81642)
船見・窓日(空書使い・b81840)
シーラ・ブラッドショー(白銀令嬢・b81980)
一条・冴(夏色テンペスタ・b82096)
北御門・柚子(夜明けの空・b82139)
緋花飾・夜色(蝶ガ見タ夢ノ残リ香・b82143)
淳・空(月に願いを・b82500)
暁星・琉海那(有明月の約束・b82553)
アリス・セレスタイト(不思議の月のアリス・b82668)
音無・舞子(ムーンライトダンサー・b83874)
NPC:水無瀬・詩杏(高校生運命予報士・bn0212)




<リプレイ>

●2013年:卒業式
 今日は――銀誓館学園の、卒業式。
 今年も沢山の生徒がこの学園を羽ばたき、そしてそれぞれの未来を歩み始める。
 
 小学2年の時に学園に来た遠山・和(黒・b68359)も、早いもので、今日で小学校卒業。
 この春からは中学生ですねと、共に過ごした級友達の姿に瞳を細めながらも。
 和は、編入当時のことを思い出す。
(「あの頃は右も左もわからなくて……今よりも純粋、だった気がします」)
 銀誓館で過ごした日々は、多感で成長期な年頃の彼のいろいろなものを、間違いなく大きく変えた。
 子ども特有の純真な色は、大人になる為の経験を積むごとに色々な色が重ねて塗られていって。
 透明ではなくなったかわりに、でも、沢山の彩りを少年に与えた。
 そして迎えた、卒業の日。
 名前を呼ばれ、はい、と返事をしてから。
 卒業証書を受け取るべく立った壇上から、学園の生徒達を見回す和。
(「人がたくさんですね……」)
 この中には勿論、沢山の一般生徒もいる。
 だがそんな一般の生徒も……いずれは皆、自分と同じ能力者となっていくのだ。
 そして魔法使いになるべく未来を抱く少年は、思う。
(「僕は、同じ年頃のそういった人達が世界に慣れる様に、少しでもお手伝い出来るのでしょうか?」)
 それから――がんばろう、と。
 心の中で呟きながら、田中雄大校長から、卒業証書を受け取るのだった。
 
 振り返れば、本当に色々なことがあった学園生活。
 中には、普通の学生が体験しないようなことも多々あった高校3年間だったが。
 あっという間に過ぎ去った気がする短い時間の中でできた思い出は、数え切れないほど沢山だ。
 朝来野・健太朗(フリーダムライフ・b76060)も貰った卒業証書を手に、式が終わった校舎を振り返れば。
 今までこの学び舎で過ごしてきた様々な日々が思い浮かんできては、頭の中を駆け巡る。
 だが卒業は決して終わりではない。むしろ、はじまり。
 これからの進路を級友に聞かれた健太朗は、笑んで答える。
「俺はこれから大学の理学部へ進んで研究三昧の日々を過ごすぜ」
 健太朗の喜びは、世界のみんなのために役立つこと。
 これ以上のことはないと颯爽と言い放つ。
 そう、何せ。
「ヒーローは目立つばかりが仕事じゃないんだぜ?」
 彼が志すのは、ただの派手な飾り物のヒーローではない。
 真のヒーローなのだから。

 何だか実感が湧かないな、と。
 呟く毛利・煌(ヘリオライトキャット・b81110)の手に握られているのも、銀誓館学園高校の卒業証書。
 大学に受かった事すらまだ信じられないと、もう何度証書を見つめたことか分からない。
 そして、卒業式を終えた煌は、沢山の人で溢れる学園内である人物の姿を探す。
 だが……見つけるよりも先に、彼に見つけられる。
「卒業おめでとう、煌」
 そう煌へと祝辞の声を掛けてきたのは、宗司郎であった。
 そんな彼に、君に言っておきたい事がある、と煌は告げるも。
 その前に二人で、思い出話を語り合う。
 夏に行った鎌倉の例大祭、冬は雪に戯れて遊んで。訪れた春には花見を楽しみ、秋には修学旅行気分で京都も行った。
 そして一緒に訪れた、学園から程近い植物園。
 花に囲まれ、共に花の中を巡り、沢山の思いや言の葉を交し合った。
 あの時一緒にみた見事な芍薬の花の色は、今でも、鮮明に瞼の裏に焼きついている。
 一緒によく鍛錬に赴いた危険なゴーストタウンも、今となってはいい思い出だ。
「……煌?」
 色々なことを思い出しているうちに、じわりと滲み始めた景色。
 でも、必死に揺れる視界から雫を零さぬよう、我慢しながら。
 いつもと変わらぬ優しい視線を向け、自分の話にじっと耳を傾けてくれる宗司郎へと、煌は言ったのだった。 
「ごめん、ごめんね。今まで有難う、楽しかったよ。君に会えて良かった、沢山の思い出が出来た」
 そんな煌に、宗司郎は首を振って。
「煌に謝られる心当たりなど、私にはないよ。むしろ楽しい時間が過ごせた礼を言うのは、此方の方だ」
 そして、有難う、と。そう微笑むのだった。
 煌は、今にも溢れ出そうな感情を我慢して、抑えながらも。
「最初は仲間の恩人って認識しか無かったけど……私は、君と友達になれて幸せだった」
 そう最後に彼へと笑んでみせた後、告げるのだった。
 さよなら――と。

 卒業式も、滞りなく終わって。
 お世話になった先生や友達と、沢山記念写真を撮ったり。
 卒業アルバムに落書きしまくったりもして。
 銀誓館学園の学生として過ごす最後の最後まで、目一杯、楽しんだ後。
「ついにうちらも卒業かぁ……振り返るとあっという間だったなぁ」
 そうしみじみと呟きながら鬼灯・遙(彩雲のサーブルダンサー・b46409)が向かうのは、いつも一緒に居てくれた親友たちのところ。
「ふふー、思えば5年。この学園にはお世話になりましたねー」
 永月・ヒナノ(あなたのハート撃ち抜きます・b54922)も卒業証書を抱え、そうしんみり。
 今までの生活が一区切り迎えるとなると、やはりどうしても感傷的になってしまう。
 でも一足先に卒業する、遙にヒナノ、レアーナ・ローズベルグ(心にいたみを刻む者・b44015)の、3人の親友達を。
 あと卒業までもう1年残っているファルチェ・ライプニッツ(終わらないお茶会・b46189)は、笑顔で見送る。
 1人だけ残されるのは寂しいけれど。大切な皆の、折角の晴れの舞台だから。
 それからファルチェはふと、用事があるからまた後から合流すると。そう言って3人と暫し分かれるが。
 3人の姿が見えなくなった――瞬間。
「嫌……1人だけなんて嫌……。卒業おめでとうなんていいたくない……別れたくない……」
 今まで我慢していた感情が、涙とともに、一気に溢れ出す。
 本当は別れるのが嫌で、1人だけ学園に残らないといけないことが耐えられなくて。
 親友のおめでたい門出のはずなに、おめでとうと言うのが、とても辛い。
 それでも、やはり3人は自分にとって、とても大切な人だから。
 最後まで笑顔で見送ろう……そう思って頑張ったものの。
 やはり皆の顔を見たら、耐えられなくなったのだ。
 でも――親友達には、そんなファルチェの様子はお見通し。
 無理しているのがバレバレな彼女の後を追い、こそっと見てみれば案の定、と。
 自分達の姿を見て泣きながらも驚くファルチェと、一緒に堪えていた涙を零すレアーナ。
「あー、ファルちゃん発見ー。逃がしませんよー」
 泣くの隠そうとするファルチェをしっかりと皆で捕獲してから。
「最後までおねーさんぶったりさせませんよ」
 ここでファルチェを逃がしたら絶対に後悔すると、一緒に泣くヒナノ。
 そして、思わずつられて泣きそうになるも。
「いやも、本当にうるっと来ちゃうものねー」
 何とかこらえて、そう笑っておく遙。
 レアーナはどうやっても零れ落ちる涙を拭きながらも、笑顔を宿して。
 遙も、一緒になって泣いている親友達を見た後、ファルチェへと視線を移してから。
「ファルさん。次の1年、銀誓館をお願いしますね……♪」
「ファル、明日からは貴方が最上級生なんだから残り一年間しっかりおねーさんやるのよ」
 自分達が巣立つこの学園のこれからの1年を、大切な親友へと託したのだった。
 沢山、いっぱい、楽しい時間を共有して。
 いつも一緒にじゃれ合い、きゃっきゃとはしゃいで、笑い合ってきたけれども。
 暫くは――そんな皆とも、お別れ。
 ……だけど。
「さ、遙さん、ヒナノさん。後は頼もしい後輩に任せて、私たちは新しい道を行きましょうっ」
 心行くまで涙を流す親友達と、手を取り合い、肩を抱き合った後。
 遙は、また会いましょう、と。
 これからのはじまる、親友達と自分の、それぞれの未来を。
 再会の約束と笑顔で、迎え入れるのだった。
 
 ついに迎えた、高校の卒業式。
 それはとても目出度くて、喜ばしき日であるはずなのに。
 何となく帰りたくないと……ふらり、一条・涼(ひたくだる水清らかに・b81384)は、3年間学んだ校舎を巡って。
 通りかかった校門で、見知った顔をいくつか見つける。
 それは――【本屋『雨ノ雫』】の面々のもの。
 涼はそんな皆の元へと足を向けて。
「天梢さん、お互い卒業おめでとう」
 自分と同じく、今日晴れて学園を卒業した天梢・紗理亜(エクメネの空・b78969)に、そう祝辞の声を掛けた。
「ありがとうございます。涼もおめでとう」
 紗理亜もそんな涼に、お互いもう卒業ね、と笑顔と祝いの言葉を返して。
「ご卒業おめでとうございます、涼さん」
「涼、卒業おめでとう」
 仲間の卒業を祝うべく式に駆けつけていた東雲・鈴子(瞬く明星・b80370)と宗司郎も、そう祝いの言葉を。
 そして紗理亜は、自分を迎えに学園へとやって来た秋矢・基(真福座跡・b59852)の姿を見つけ、微笑んで。
「卒業おめでとう」
 基は嬉し気に、この日門出を迎える紗理亜を眺めてから。
「……制服も見納めかな。ちょっとだけ名残惜しいかも」
 思わず、そうぼそりと。
 そんな視線を感じるも、紗理亜は、まあいいか、と首を傾けて。
 基は今度は、涼に視線を移し、訊ねる。
「一条も卒業おめでとさん。一条は春から関西移住か?」
「僕は……無事に第一志望に受かったので、もうすぐ西へ発たないと」
 それから、ぐるりと皆を見回して。
 きゅっと卒業証書を握り締め、続けた。
「しばらく皆さんとは会えなくなりますが、お元気で」
「宗司郎と鈴子は残りの学園生活楽しんでね」
 紗理亜も学園に残る後輩に、そうエールを。
 そんな言葉に、ふとぼんやりと皆の会話を聞いていた鈴子は、ハッと我に返る様に顔を上げてから。
「あっ、はい!ありがとうございます! 紗理亜さんもご卒業おめでとうございます!」
 慌ててそうぺこりと頭を下げて。
「私も大学は京都に戻る予定だが……残り1年、悔いのない学園生活にしたいと思っている」
 そう微笑む宗司郎の隣で、鈴子は涼へと視線を向けた。
(「お別れするのはやっぱり……辛いですね」)
 卒業した後は、関西の大学へ進むのだという涼。
 彼が鎌倉からいなくなる事を受けとめ切るには、まだ少し時間が掛かるかもしれない……。
 そんな少し俯き気味になった鈴子を見てから。
「東雲に連絡先教えとけよ」
 涼へと、そう瞳を細め基は言って。
 その言葉に、思い出したように涼は連絡先を記した手帳を切ってから、鈴子に手渡した。
「……いつでも、何もなくても、ご連絡くださいね」
 鈴子は連絡先を受け取って、触れた彼の指先に少し照れた様に仄かに頬を染めてから。
 こくりと頷いた後、笑顔を彼へと向けるのだった。
 寂しい想いは胸にだけ秘めて……未来へ向けて旅立つ貴方には笑顔を見せたいんですと、心で呟きながら。
 そして――結社の仲間達と、別れた後。
「紗理亜」
「何ですか、基」
 紗理亜は、自分の名を呼ぶ彼に視線を向けて。
 少し照れながらも、その包み込むような大きな手を取った。
 まだ名前で呼び合うことに慣れなくて……繋がれた手から感じるその体温が、何だかくすぐったい。
「この後どこ行こうか」
「鶴丘八幡宮はどうですか?」
 鶴丘八幡宮といえば、まさに二人のご縁を五円で繋いでくれた場所だからと。
 そう、くすりと紗理亜は笑んで。
「この先の未来、君が一緒なら俺は何処にだって行けるし、何でも出来る気がする」
「これからどんな時でも私がサポートしてみせますよ」
 歩調を合わせて一歩ずつ、二人一緒に、歩み始める。
 そして紗理亜の耳元で、そっと囁かれたのは――。
「好きだよ」
 胸にいっぱい満ち溢れる、心からの、愛しい気持ち。

●2013年:日常
 思えば、1年前の今頃は、花見を楽しむどころではなかった。
 毎日の如く日本各地に出現した6体のオロチと必死に戦った、まさに死と隣り合わせだった日々。
 だがそれを驚異的な団結力と精神力で仲間たちと乗り越えて。
 また巡ってきた――桜咲く、春という季節。
 そして去年の埋め合わせをするかのように満開の桜の花を愛でるのは、鈴鹿・小春(万彩の剣・b62229)にエルレイ・シルバーストーン(銀石の操霊士・b00312)、詩杏と右京と宗司郎。
 凶悪目つきが相変わらず可愛いメビウスさんとアニエスさんの花見仕様な仲良し夫婦や、どこかミステリィちっくな黒鷹のぬいぐるみ、それに勿論、不滅の使者・陽炎の姿もそこにはある。
 そして、まるで久しぶりといわんばかりに向かい合うメビウスさんと黒鷹さんのすぐ傍にずらりと並ぶのは、重箱に入った豪華絢爛な花見弁当の数々。
 平和っていいね、と。持参した重箱を開けながら、ふと微笑むエルレイ。
 そんな彼女の料理の腕は、花嫁修行の成果著しく、既に職人級。
 大好きな人のために美味しい料理が作れるようにと……頑張っているから。
 そんな平和な世界は、まだ正直少し、不慣れだけれど。
(「前へ向いて頑張るの。世界結界の崩れまで、少しずつ進んで、変えればきっと大丈夫」)
 そして――大切な友達も、親しい人も、ずっとずっとみんなで一緒できればいいね、と。
 共に未来を迎えられた皆を、ぐるりと見回した。
 そんなエルレイの料理に負けないくらいに、女子力全開で。
 オーソドックスなおかずをはじめ、桜餅などのデザートまで、豪華5段重ねの弁当を拵えてきた小春。
 勿論、相変わらずな主婦力を駆使した右京も、どや顔で優しい色合いを意識した桜モチーフいっぱいの花見弁当を。
 それから満開に咲く桜のように話に花を咲かせながら、美味しく綺麗な一日を楽しむ。
「おお、エルレイの料理、すげー凝ってるな!」 
「あ、これ美味しい! 交換お願い!」
 感心したように自分のおかずを摘んでいる右京や小春に、この作り方も教えて、帰ったら彼に作ってあげたい、と。
 エルレイはそうお願いしながら、二人とおかずの交換こをして。
「センパイ達も陽炎ちゃんも、どうぞ!」
「有難う。重箱に入ったその見目も美しいが、味も絶品だな」
 小春の作った花見弁当の美味しさに微笑む宗司郎の横で、貰った桜餅をはむりと食べつつも。
 主人に同意するように、翼をぱたぱたさせる陽炎。
 そして――お約束??
「私もお花見弁当、張り切って作ってきましたの♪」
 小春さん、右京さん、味見していただけませんか? と。
 にこり微笑む詩杏が差し出すのは……ある意味一切ブレない、バイオオーガニック的な何か。
 そして詩杏がエルレイに、私も毎日お料理作ってさしあげたい御方がいるかもしれませんのと。
 興味を持った花嫁修業談義を持ちかけている間に。
 小春と右京は、目の前の黒紫色のそれを味見するべきかどうするか、こそり視線を交し合うのだった。

 長旅を終え、着陸した飛行機に乗っている人達は、これから何をすべくこの地へとやって来たのだろうか。
 それに――空へと次々飛び立っていく飛行機は、一体何処に向かうのだろうか。
 沢山の人の、夢や思いや決意を乗せて。
(「……そのうち、飛行機も必要なくなる日が来るのでしょうか」)
 窓の外に広がる澄んだ青空を見上げ、そんなことをふと思いながら。
 大きなトランクを預ける綾之瀬・キッカ(エンジェルマヌーヴァ・b05633)に、見送りに来た忍里・佐織(真水練忍者・b45029)はもう一度確認する。
「忘れ物はない? 何か必要なものがあったら、送るから、連絡して」
 そんなしっかり者な彼女らしい言葉に、キッカは頷きながらも微笑んで。
「お巡りさんのお仕事、慣れた?」
 そう、訊ねる。
 銀誓館学園を卒業した後、大学に進んだキッカと、婦警になるべく就職を決めた佐織。
 進む道は違ったけれど、そんな互いの姿を互いに見守り、応援してきて。
 頑張っている相手がとても素敵だと……自分も頑張ろうと、そう互いに励み励まされてきた二人。
 そして今日は――キッカが日本から旅立つ日。
 そんな門出に駆けつけてくれたのは、やはり大切な友達。
 キッカは佐織とともに搭乗口へと向かいながら。
「……私も、日本で普通に卒業して、就職して……って考えたこともあったけれど……離れたく、なかったし……忍里さんや、あの人と高校の時からの、夢だったから」
 胸に抱くその思いを、少しずつ、紡いでいって。
 それからふと足を止めると、真っ直ぐに佐織の瞳を見つめながら、こう続けたのだった。
「叶える為に、行ってきます」
 佐織も、決意に彩られたその瞳をしっかりと見つめ返して。
「むこうへいっても、しっかりね」
 キッカの手をぎゅっと握り締め、こくりと頷いた。
 そして搭乗時間が迫る中。
「……あ、そうそう、良かったらこれ、持っていって?」
 キッカの掌にそっと佐織が乗せたのは――八幡さまのお守り。
「わたし達が過ごした鎌倉の神様だから、綾之瀬さんの夢も、きっと、守ってくれるはずよ」 
 勉強に戦闘に遊びにと、一生懸命共に過ごしてきた地・鎌倉。
 生命に賛歌を漲らせ力を与えたのは、そんな鎌倉での充実した日々だから。
 きっとこれからも、力をくれるはず。
 キッカは、そのお守りをぎゅっと優しく握り締めて。
 ふいにじわりと滲んだ景色をそっと拭いながら、瞳を細める。
「……マヨイガから、すぐ会えるのに……えへへ、泣けてきちゃいますねっ」
「え? も、もう! 門出に泣いたりしないのっ」
 ほら、そろそろ時間でしょう? と。
 佐織はそう、キッカを送り出す。
 つられてこみ上げてくるものが、溢れ出す前に。
 そして未来へと向け飛び立つ友人の姿を見送り、その背中を押すようにエールを送る。
 ――行ってらっしゃい。綾之瀬さん、と。

 丁度満開を迎えた桜の花弁が、ひらりと空を舞っている。
 桜は、この時期しか咲かない美しさがあるけれども。
 春は別れも多い季節……その儚げな花は、どこか胸を締め付けるような、感傷的な色を帯びているような気もする。 
 そんな、春休みもあと残り僅かとなった、ある日。
(「にーちゃん、どうしてるかなあ」)
 出掛けた帰り道、ふと一条・冴(夏色テンペスタ・b82096)が立ち寄ったのは、鎌倉にある辺見ヶ原の学生アパートであった。
 ついこの間まで入り浸っていた部屋の表札は、もう今はなくなっている。
 それもそのはず、この部屋の主であった兄は、大学に受かって関西に行っちゃったから。
 うまくやってけるのかなあ、なんて。
 冴は兄のことを心配すると同時に――何だか今更寂しいなと、そうぽつりと呟く。
 でも……すぐに、その顔を上げて。
「って、心配してもしょーがないよね」
 思い出が沢山詰まったアパートに背を向けて、舞い散る桜色に染まった春の絨毯の上を駆け出した。
 あたしも頑張ろう――そう、決めたから。
 
 銀誓館学園を卒業し、妹の冴とも離れた地で暮らすことになって。
 関西の大学へ通い始めて、早数ヶ月。
 人の想いを繋ぐ言葉というものを愛し、大学で日本語学を専攻した涼であるが。
 言の葉への興味は、尽きるどころか、日々加速する一方で。
 やはり日本語だけに留まらず、講義や語劇サークルで多言語にも手を出すという、忙しい学生生活を送っていた。
 そして……ふいに耳に響くのは、講義終了の鐘の音。
 同時に、書き込みや付箋でいっぱいの教科書をパタンと閉じて。
 講義室を後にする涼が一緒に小脇に抱えるのは――語劇の台本。
 気弱で引っ込み思案であった自分が、演劇だなんて柄ではないと。
 そう、思っていたが。
 これも――新しい世界に踏み出した、自分の未来のカタチだから。
 でも……唯一、抵抗があるのは。
(「何でいきなり囚われのお姫様役を振られたんでしょう?」)
 そういう立ち位置なのは、どうやら相変わらずのようです。

「教授、この資料の整理は終わりました」
 そう告げたのも束の間、じゃあ次は研究論文に必要なこのリストの文献を内容ごとに分けておいてくれ、と。
 英文で書かれた沢山の文献リストを無造作に手渡される。
 ……大学院に進んだのはいいけどこの資料の山と格闘からとは、と。
 萩坂・暈人(剱持つ考古学者志望・b00168)は文献のリストを眺めつつ、再び資料室へと戻りながらも。
(「ただ、調査はより本格的なものになってそれに見習い扱いが卒業したのは良かったな」)
 少しずつだが、考古学者への道を進んでいるという実感を、少なからず感じていた。
 とはいえ、まだ一人前には程遠い。
 今は、以前からの趣味であったカメラの腕を買われ遺跡の保存写真を撮ったりだとか、料理を作るように頼まれたりだとか……そういう感じだ。
 それから暈人は、ざっと一通り渡されたリストに目を通した後。
 ふと、ある友人のことを思い浮かべる。
(「料理といえば今度、休みが合うなら右京を誘おうか」)
 昔からの盟友であり、同じ料理が趣味であり。
(「あの料理服仲間はあいつぐらいだからな」)
 そして、やたら割烹着が似合う、割烹着仲間同士。
 そんな盟友とまた料理を楽しむためにも、まずは資料や文献の整理だな、と。
 暈人は、辿り着いた資料室のドアを開けたのだった。

「やっばー! 遅刻遅刻!」
 二十歳になって、法律的にはお酒が飲める年になったけれども。
 でも、龍堂寺・一歌(ユンタク娘・b01844)の日常は、相変わらず。
 お酒が飲めないのも、今遅刻しそうになっている原因も……能力者としての日々が、以前と何ら変わることなく続いているから。
 ふわっと大きなあくびは、夜中にゴースト退治に赴いていた所為。
 この世界にゴーストがいるのも相変わらずで、しかもそのことを知らない人達はまだいっぱい。
 だから自分達銀誓館の能力者達がこっそり、人に被害を及ぼすゴーストを退治している世界。
 そんな世界がこれからどう変わっていくか、未来の想像は全然つかないけれど。
 でも……今はとりあえず。
「うわー間に合えー!」
 遅刻して怒られる未来を回避すべく、猛ダッシュ!

「……さあ、一緒に行くの。もふもふな世界にご招待なの」
 木の枝に挟まって、もきゅーっと助けを呼んでいた野良モーラットを無事に救出して。
 もふもふもふるのは、小早川・美海(通りすがりのもふりすと・b35501)。
 高校生になっても勿論、美海のもふりすとぶりは健在で。
 以前と同じ様に、野良モーラット依頼やもふもふ依頼を、日々精力的にこなしている。
 そしてひとしきりもふった後、美海は持参したケージに、もきゅっとモーラットを入れてあげてから。
 マヨイガへ向けて歩き始める。
 これから、このモーラットをマヨイガに連れて行ってから。
 マヨイガに招かれた他のモフモフ妖獣達に、視肉を与えたりするつもりだ。
 眠たげな印象は、相変わらずだけど。
 でも実にやる気満々、もふもふにかけるもふりすとのその意欲はまだまだ、とどまる事を知らないようだ。

 かねてから婚約していた女性(ひと)と晴れて家族となった浅間・龍太(火産霊神覇道流伝承者・b70080)は、式の準備に追われていた。
 参列者のピックアップや式場との度重なる打ち合わせ、式次第の段取り等々、決めることは山積み。
 家族や親戚や友人、実家でもある道場の関係者も呼んで、披露宴も行なう予定だ。
 でも、そんな大変さも、日常の中の幸せな時間。
 そして、数年前にホーチミンでお土産に選んだアオザイを着て、彼女と二人写った写真を、ふと見つけて。
 式の招待状のひとつに、メガリス修学旅行をともにした宗司郎の宛名をしたためる。
 ――その時だった。
 今いいだろうかと、そうあらたまった様子で龍太の元へと訪れたのは、師匠でもある父親。
 そして父はこう、龍太に話を持ちかけるのだった。
 正式に、道場を継がないか――と。

 久遠寺・タキ(凍花相・b75212)がこの日会いに訪れたのは、久しい友人。
 元気そうで何よりと、そう上品に微笑む宗司郎に。
 タキも、宗司郎もね、と小さく笑み返してから。
 あらかじめ用意しておいた手土産を彼に手渡した。
 そしてその土産を見た宗司郎は、ふっと漆黒の瞳を柔らかく細める。
「明太ちくわとは……懐かしいな」
「宗司郎と初めて行った依頼の事思い出して。ぷりてぃの分もあるよ」
 それから宗司郎は、私のは苺ミルクでは生憎ないのだが、と言いながらも。
 京都の高級宇治茶葉とともに、可愛らしくラッピングされた箱を差し出して。
 ご家族にもよろしくと言っていた、と、右京から言付けられたという黒猫クッキーも一緒に、タキへと渡した。
 そんな宗司郎にタキがこの日久々に会いに来たのは、どうしているかなと懐かしくなったこともあるけれど。
 ちょっとね、頼みがあって――と1枚の色紙を取り出しながら。
「俺の養父母に子供が生まれるンだ。名付け親任せてもらっちゃって……これ、お披露目するのに色紙に認めたいンだけどぜひ宗司郎に書いて欲しくて」
 頼めるかな? と、そう続ける。
 そんなお願いに、宗司郎は快く頷きながらも。
「ほう、これはとても良い名前だな」
 そう笑んで、力強くそして優しく、色紙にしたためる。
 ――『芽希(いぶき)』と。
 それから、もうひとつ。
 久々に聞きたいンだよねと頼んだそれは、出会いの思い出。
 そして宗司郎は、お安い御用だと。あの時と同じ様に言い放つ――渾身の「もきゅ」を。

 今年もやって来た、銀誓館学園の学園祭。
 そして大手向・宰(とチアガールぬこ・b75701)は今年も勿論、【猫好き同盟】の結社企画・CAT CAFE『KUROJI』の運営を精一杯こなしていて。
 訪れる客と一緒に猫を愛でられるその喜びを噛み締めながら、学園祭を楽しんでいた。
 そして一匹、募集していた猫の里親が決まって、貰われて行った時だった。 
「……あ、五十嵐さんいらっしゃいませ!」
 毎年のように結社企画に顔を出していた右京が、今年も猫たんたちと戯れにきたぞーと、姿をみせて。
 注文した肉球ロールケーキを嬉々と食べた後、いざふれあい広場へ!
 そして――今年も、やっぱり。
「おー、ゆきにトーマ、覚えててくれたか? よしよし、猫じゃらしピコピコ……って、だああぁあッ!?」
「今年も来てくれてありが……五十嵐さーん!?」
 にゃー! と一斉に猫たんたちに飛び掛られた右京は、あっという間に猫まみれに。
 そして猫たちに踏みつけられ倒れながらも、幸せそうにもふもふしている、そんな毎年恒例の姿を見て。
「うーん、どうしていつも五十嵐さんはここに来るたびに猫に囲まれて埋もれるんだろう……」
 宰は、足元にすりよってきた猫をひょいっと抱きながら、そう首を傾けるのだった。

 アリス・セレスタイト(不思議の月のアリス・b82668)が馳せる未来の展望は、故郷である月と共に歩むこと。
 緑に溢れたかつての美しき月の景色を取り戻す為に。
 それに、眠っている月の民がどうしているのかも、ずっとずっと気になっているから。
 そんな同胞の無事な姿をこの目で確かめたくて、月への道を模索する日々を送っている。
 そしていずれは、地球と月を繋げたいと。
 アリスの夢は大きく、宇宙へと広がる。
 鬼の手を借りて月へと赴き、月の都の建物を確認したり、動画や写真なども使って、臨場感たっぷりに月のことを視肉さんに伝えられれば。
 もしかしたら、マヨイガを使って地球と月を行き来できるようになるのではないかと。
 そうも考えてはいたが……どうやらマヨイガでは、地球と月を繋げられないらしい。
 鬼の手を使って月へと渡ることも、不可能ではないかもしれないが、かなりの時間を要してしまうことが分かった。
 でも――今はまだ、たとえ無理だと言われても。
 いつかの未来では実現したいと。
 アリスはそう今日も、柔らかに地上を照らす月を、見上げている。

●2014年:卒業式
 季節はまた巡って、春。
 最近めっきり温かくなり、きっと、日本では桜の花が満開になる頃だろう。
 そして――。
「今頃、卒業式か……」
 そうひとり遠い空の下で呟くのは、九頭龍・蓮汰(風の十二方位・b73547)。
 蓮汰も本来ならば、今頃銀誓館学園で田中校長から卒業証書を貰っている立場であったが。
 今彼が居る場所は、銀誓館から遠く離れた海外の地。
 世界を巡り、より強い相手を求めて――卒業を待たず、単身大陸へと渡っていたのだ。
 功夫を磨き、更なる武の高みを目指し挑み続ける日々。
 だけどやはり……ゴーストや来訪者、能力者と拳を交える中でも。
 鎌倉の銀誓館で過ごした時間は、蓮汰にとっていつまでも特別で。
 謝意とともに、こうやってその懐かしい風景に思いを馳せることもある。
 でも、昔と同じように強さを求めているけれども。
 昔とは、明らかに違う今。
 それは――独りで戦っているわけではないということ。
「……離れていても、仲間ですから」
 そしてまるで、再び歩き出した蓮汰の供をするかのように。
 ゆらりと、ふたつの蒼を帯びた御守りが、彼の掌で揺れる。

 その頃――鎌倉・銀誓館学園では。
 卒業式の式典が終了したばかりであった。
 少女の胸に大事そうに抱かれているのは、卒業祝いにと手渡された花束。
「卒業おめでとう詩杏ちゃん。今日は詩杏ちゃんの卒業式だから久々に来たよ」
 大きな蒼の瞳いっぱいに涙を溜めながら、有難うございますの、と笑顔を宿す詩杏。
 この日乙樹は、詩杏の卒業を祝うべく、母校である銀誓館学園を訪れていた。
 勿論、菜々美も一緒に。
「初めまして〜、冬木菜々美です。今日は卒業おめでと〜、詩杏ちゃん」
「詩杏ちゃん。菜々美さんは、私の大切な人よ」
 乙樹にそう菜々美を紹介されて。
 詩杏はぺこりと丁寧に頭を下げた後、菜々美から差し出された手を取りながら。
「乙樹さんの大切な人ですか。そんな菜々美さんも、とても素敵な人ですね」
 今日は綺麗な花束まで有難うございますのと、きゅっと握手を交わし、微笑んで。
「私も卒業した時のことを思い出すな〜」
 そう懐かしの学び舎をぐるり見回す菜々美に頷きつつも。
 乙樹はふと、右京は今どうしているのかと、気になったのも束の間。
 後輩のお祝いをしに、自分達と同じように銀誓館学園に来ている、目立つその赤髪を遠くに見つけて。
 元気そうで何よりねと、瞳を細める。
 そんな右京と共に乙樹が守り抜いたのが……今日卒業を迎えた、目の前の少女。
 そして皆で力を合わせ守り切った少女はもう一度、深々と頭を下げながら。
「乙樹さんがいなかったら……私は今日、此処に在ることができませんでした。本当に……本当に、有難うございますの」
 今まで堪えていた涙を、ぽろりと零すのだった。
 そんな二人のやり取りに微笑んで。
「最後に3人で卒業記念に写真を撮ろう♪」
 カメラを構える菜々美に、乙樹も頷いて。
「そうね、記念に一枚、写真を撮ろうか!」
 ぱしゃりと3人の笑顔にシャッターが切られる。
 そして、菜々美は。
「こうやって私たちの大切な思い出を1個ずつ、これからも作っていこう♪」
 人生のパートナーである大切な人に、そう微笑むのだった。

 卒業か……正直実感湧かないがな、と。
 鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・b81451)はふと卒業式の喧騒から少し離れて。
 眩暈がする程に眩しい、桜舞う青空を仰いだ。
 ナンバードから救出されて銀誓館学園へと転入したのが、高校1年の6月。
 或る、雨が降る日曜日であった。
 あの時は学園生活なんて全く興味もなかったし。
 まさか――自分が今の様な未来を迎えて、こんな志を抱くようになるなんて、思いもしなかった。
(「俺も毒されたもんだな」)
 元暗殺者が、今じゃ仲間と共に人魔共存を唱えてる――全く、世の中どう転がるか分からんもんだ。
 そう細めた瞳に映るのは、一緒に泣いて笑って抱き合っている、同じ学園の卒業生達。
 自分を変えたのはきっと……今という時間を全力で謳歌し、どこまでもおせっかいな仲間達と。あとは、共に在る海の仲間たちの影響、だろうか。
 そんなことを思いつつも、脇差が考えるのは今後の未来のこと。
(「今後は……そうだな、悪路王達とも協力して、各地にゴーストが穏やかに暮らせる隠れ里を形成するつもりだ」)
 あの雨の日から、約3年。
 人魔共存――これが進むべきだと決めた、今の脇差の道。
 ……まぁ、なるようになるさ、と。
 自分を呼ぶ声に気がつき、仕方ないなと、仲間達の元へと歩き出すのだった。

 卒業する生徒達の声で賑やかな校庭から、再びふと校舎に戻って。
 力強く【書道部】と書かれた張り紙の部室を覗けば。
 敷き詰められた畳に、冷蔵庫と金魚鉢。
 そして此処でキャッキャ楽しく皆でじゃれ合いながら、たまに書道もしたりして。
 結局お絵かき大会になってしまった思い出も、今となってはご愛嬌。
「今日で3年間過ごした学校もさよならなんだなー」
 貰った卒業証書片手に、書道部の部室へと向かいながら。
 雨宮・定晴(スカイブルー・b81063)は、これまで色々なことがあった学生生活を振り返りながら、柄にもなくしんみり。
 そして卒業証書を持つ手とは逆の手を、春風・薫(ハニーオレンジ・b81158)のものと、しっかりと繋いで。
 もう幾度となく通った廊下を、二人並んでゆっくりと歩く。
 それからふいに、こうやって通うのも最後になるんだなーと。
 ぎゅっと薫の手を、温もりを確かめるかのように、そっと握り締めれば。
「どーせ暇なったら遊び来るやろー」
 頭に乗せられた掌の感触と同時に、くしゃりと髪をかき混ぜられて。
「うん、つってもあっさり遊びに来てそうだな」
 そう二人、顔を見合わせて笑い合う。
 そして辿り着いた部室で、【書道部】の張り紙を見つめながら。 
 なんやえらいあっというまやったなあと、薫もしみじみと卒業の実感を噛み締める。
 そして部室には、他の部員の皆の姿が、いつも通り。
「卒業おめでとうー!」
 勢い良く扉を開いた定晴は、目の前にいた宗司郎の背中に体当たり!
 不意打ちの衝撃によろめくも、傍にいた陽炎がぎゅっと長い制服の裾を引っ張って、事無きを得ました!
 そんな部室にやって来た定晴と薫に、宗司郎は、卒業おめでとう、と微笑んで。
 自分が卒業の日を迎えたことが昨日のことかのように思い出してしまいそうになると。
 皆のお祝いをしに久々に部室に訪れた緋花飾・夜色(蝶ガ見タ夢ノ残リ香・b82143)は、啄身・鶫(言ノ葉夜狐・b81642)へと改めて、卒業おめでとうございます、と声を掛ける。
「俺達もついに卒業か……此処で書道に触れた日々は忘れない」
「わたし達も、もう卒業なのですね」
 鶫の言葉に頷いて、シーラ・ブラッドショー(白銀令嬢・b81980)も、時の流れは早いものです、としみじみ。
 そして鶫の隣に寄り添うように並び、微笑んで。
「いつも皆さまが賑やかに笑っていらっしゃるここが大好きでしたのよ」
 これまで過ごした部室をくるりと見回した船見・窓日(空書使い・b81840)に、薫は笑み返す。
「銀誓館はOBが部室来ても怒られへんし、また皆でお喋りしよ」
「あんま書道してなかったけど書道部たのしかったー!」
「皆様は何時も楽しそうで、書道部さんは本当に素敵な所でした」
 魂の一筆からふにゃ猫やうさぎのようなものまで、墨と畳の仄かな香りに包まれながら。
 お菓子を一杯食べたり、沢山いろいろなことを話したりした、楽しかった高校生活。
 こうやって集まる機会が減ってしまうのは、正直少しだけ、寂しいけれど。
 これからもいつだって、また会いたいと思えば会えるし。
 共に過ごしたかけがえのない時間は、きっといつまでも、忘れない。
「ううー、寂しくなりますね……でもでもっ、私たちいますからっ! 部室はいつまでもあいてますしねっ!」
 いつでも来てくださいね! と、卒業する皆に胸を張る、北御門・柚子(夜明けの空・b82139)であったが。
「柚子ちゃん、寂しいんかー」
「泣いてません! ないてませんったら!」
 髪をわしゃわしゃっとして笑う薫の言葉に、瞳にそっと涙を溜めながらも、ぶんぶん首を振る。
 そんな相変わらずな様子を微笑ましげに眺める宗司郎に。
「宗司郎もおめでとうな。書道使いたちの指導、影ながら応援している」
 鶫はそう、祝辞とエールの言葉を。
 宗司郎はそんな友に、有難う、と微笑んでから。
「私は京都の大学を卒業後、ゆくゆくは若い書道使いの育成に携わることができればと」
 皆はどのような道を進むのだろうかと訊ねる。
 これから別々の道に進むのが寂しくもあり。そして、楽しみでもあるのも事実。
「俺は、このまま東京に残って出版社に就職予定だ。言葉や文字に触れる仕事をして行こうと思っている」
「わたしは卒業後、東京で大学へ通いつつ装丁士の修行中です。今後世に出る書道使いの皆さまを支援できたらと」
 そう言った鶫と窓日は、それから、そっと視線を合わせる。
 でも一番はやはり、大切な人とすぐ傍にいることで。
 いつまでも傍にいたい人との将来も……真剣に考えたい、と。
「私は実家の手伝いが暫しの生業となりました」
「わたしは卒業後、帰郷して家を継ぐ予定です。色々教わって一人前の跡取りになれればと」
 夜色にシーラも続き、学園を離れた後のそれぞれの道はやはり様々。
 ――でも。
「卒業してもまた皆で遊びたいなーっていう」
「お菓子とかそういうの持ってきてくれると嬉しいなーとかとか!」
 定晴のそんな言葉に大きく頷きつつも。
 何気にお菓子のおねだりも忘れない柚子は、おもむろにカメラを構えて。
 門出を迎えた先輩たちが学園の生徒で居る最後の日を――いつも通り楽しそうにじゃれ合う、その姿を。
 いつものように、ぱしゃりと写真に収めて。
「卒業おめでとうございます!」
 満足げに数度頷いてから、卒業する皆を笑顔で見送るのだった。
 これから進む道は違っても。皆で馬鹿騒ぎできる、戻ってこられる此の場所は――きっと、変わらないから。

「中学卒業の時も、一緒の部屋にみんなで沢山集まりましたよね〜」
 新城・刹那(藍色の雪姫・b45413)はそう、希望に満ちた表情で臨んだ卒業式を終えた後。
 勉強や学校行事は勿論、色々な戦いなどの思い出を胸に、詩杏と視線を交わし合い、笑み合う。
 沢山の同級生達を集めて教室で写真を撮った中学卒業のあの日から、いつの間にかもう3年の月日が流れて。
 今日再び、手には卒業証書を、胸には揃いの赤薔薇をさして。
 晴れて銀誓館学園高校を卒業するのは――【青い小鳥の巣】の面々。
 そしてそんな皆と同じく卒業の日を迎えた、詩杏と宗司郎の姿もあった。
 それから卒業証書を手に、あの時は楽しかったね、などと沢山の思い出話に花を咲かせて。おめでとう、と互いに互いの門出を祝い合いながらも。
「皆とはしばらく会えなくなるね」
 ふとそう寂しげに笑む、久留宮・沙希(紅の詠を紡ぐ者・b55661)。
「さっ、寂しくなりますわね……、泣く程でもありませんけど!」
 卒業後はスウェーデンに帰国するティアレス・セルシウス(気高き臆病姫・b41953)も、今日で銀誓館や皆とお別れ。
 思わず零れた涙を帽子で咄嗟に隠し、そんな強がりを言って。
 ドイツのヤドリギ使いの村にいくためのトランクケースなどの準備も万端だという、風嶺・涼介(高校生ヤドリギ使い・b46356)。
 勿論、青い鳥の飛も一緒に。
(「卒業か。今日まで生きてるつもりはなかったからな。中々に感慨深い」)
 サイト・ツァンデベルン(こうして朧月夜に神秘は永眠る・b51565)は皆と迎えられた卒業という日に、そう微かに瞳を細めた後、同じドイツへと旅立つという涼介に声を掛けた。
「もう発つのか。慌しいな」
「まあサイトとは結構近所だしちょくちょく会えそうだがね」
 そんな彼の言葉に、サイトは曖昧に笑って。密かに思う。
 ドイツへ帰るのは、因果を断つため。だからオレは生きてるかも怪しい、と。
「涼介とサイト君は向こうで無茶しちゃダメよ」
 そして見透かされたかのように釘を刺す沙希の言葉に、思わずうぐっ……と言葉に詰まる。
 ティアレスはそんなサイトの表情を見つめてから。
「……貴方もちゃんと再会するって、約束しなさいよ。無理でも皆の前に引きずってってやりますけど!」
 そう詰め寄り、困り顔を宿すサイト。
 だがそんな彼へと、ティアレスはさらに、こう続ける。
「だから、困った時は連絡なさい。……力になるからっ。なれるよう、私も頑張るから……!」
 そしてサイトは、そんな彼女の言葉には、笑んで応えるのだった。
 卒業した学園の校門を一歩出たら――それぞれこれから進む道は、様々。
 だからその前に、また皆で一緒に集合写真を撮ってから。
 また会おうね――そうティアレスや詩杏と、沙希はしっかり握手をして。
「皆さん、絶対にまた会いましょうね〜」
 笑顔のまま、刹那の瞳から透明な雫が零れ落ちる。
 詩杏も堪えきれず、一緒にぽろぽろとこれまで本当に沢山の時間を過ごして来た親友と、抱き合って泣いて。
「泣かないの!」
 沙希は、そんな皆を元気づけるように、ぽんっと肩を優しく叩く。
 そんな姿に、これまで軽口を叩いていた涼介も思わず涙ぐんでしまうも。
「しっかりしなさい」
 そう沙希に声を掛けられ、涙をぬぐって。
「皆に負けないように僕もドイツで頑張らないと!」
 顔を上げ、キッと前を向くと、銀誓館学園の校門を出て歩き出したのだった。
 それぞれの――未来へ向かって。
 そして、皆と別れた後。
 サイトが独りで訪れたのは……過去の想い人の墓。
「生きてれば今日、卒業式だったな」
 その墓標を暫し見つめそう呟いてから。
 サイトも振り返る事なく、歩みだすのだった。

●2014年:日常
 年が明けて――迎えた、2014年。
「にゃー、相変わらず元日は人が多いなぁ〜」
 正月の雑踏で賑やかな神社へ仲良く初詣に訪れたのは、穂宮・乙樹(桜纏う戦乙女・b62156)と冬木・菜々美(白陽に抱かれし狐巫女・b63330)。
 でも、いつも行っていた近くの神社と、今年は違って。
「そういえば乙樹ちゃんを私の実家に連れてくるのは初めてだったよね。そうだ、あとでお母さん達に紹介するね♪」
 二人がやって来たのは、菜々美の実家の神社。
 そして菜々美そんな言葉に、思わず瞳をぱちくりさせて。
「ふぇえ!? し、紹介ってその……将来のパートナーってことかな?」
 顔だけでなく耳まで真っ赤にさせ、わたわたと大慌てしてしまう乙樹。
 そんな彼女に大きく頷いて。
「もっちろん、そうだよ〜♪」
 驚く乙樹と繋いだ手をぎゅっと握り締めながら、笑顔を宿す菜々美。
 そんな菜々美の家族はどんな人たちなのかな、と、それもあるけれど。
 乙樹はそれと同時に、大丈夫かなと、心配にもなるのだった。
 でも――1年の計は元旦にあり。まずは一緒に、初詣。
 ふたり並んで、賽銭箱に小銭を入れてから。
 手を合わせ、来たる2014年にそれぞれ願いを馳せる。
(「これからもずっとずーっと乙樹ちゃんと2人でたくさん幸せになれますよーに」)
(「菜々美さんとこれからも楽しく過ごせますように。あと変な横槍が入りませんように」)
 ドキドキと鼓動を早めたままの胸を、そっと押さえながら。 
 そして――初詣を終えた二人は、菜々美の実家へ。
「紹介するね、私の恋人の穂宮乙樹ちゃんで〜す♪」
 居間に集まって貰った、彼女のお母さんやお父さん、お兄ちゃんにそう紹介された乙樹は。
「初めまして、穂宮・乙樹です。菜々美さんと一緒にこれからも過ごしていこうと思います」
 ガチガチになりながらも、そう挨拶をして。
 ……どう、だろ? とそっと家族の皆さんの様子を窺った。
 乙樹もかなり緊張しているが。ご家族も同じ様に、固まっているようだ。
 そんな両者を交互に見て。
「乙樹ちゃん、これが私の家族〜。もちろん、今度からは乙樹ちゃんもその1人だよ♪」
 そう満面の笑顔を宿す、菜々美。
 そしてそんな娘の幸せそうな表情を見つめた後、菜々美の母親は、微笑んで言ったのだった。
「乙樹さん、でしたっけ。よかったら、今日はうちに泊っていってね」
 そんな母親の言葉に、両手を叩いて賛成する菜々美。
 大切な乙樹と家族の両方に、もっと互いのことを……よく、知って欲しいと思っていたから。
 乙樹は少しホッとしたように硬かった表情を若干緩めて。
 少しずつ自分に話しかけてくれる彼女の家族に笑みを向けた。
 そんな今の気分は、何だか不思議で……そして。
(「私も菜々美さんの家族、なんだね♪」)
 何よりも――とっても、幸せ。

 道場を継がないか――そう告げられてから、1年。
 沢山の人に祝福された結婚式が、まだつい最近のようでもあり、随分前の事の様にも感じる気がする。
 そして道場を継ぐ為の準備もようやく落ち着き、晴れて正式に道場を継いだ龍太であるが。
 最近は、これまで行なっていた仕事はある程度頻度を減らすよう心がけている。
 道場と家庭――龍太が今、しっかりと支えていくべきものは、このふたつだから。
 これまでは何かと慌しい日々が続いたが。
 これからは道場と家庭の時間をどう増やしていくべきか、色々と模索し始めていた。
 そして――この1年で、世界結界の崩壊がまた進んだ為だろうか。
 道場に通う子どもの中から、能力者へと覚醒する子も現われはじめて。
「強制はしないが、銀誓館学園に身を置いてみるのはどうだろうか」
 その子達に、自分がこれまで見てきた世界の真実、生命の賛歌溢れる最強の能力者組織・銀誓館のこと。
 そして……これからの世界の事などを、話して聞かせながらも。
 将来、能力者の訓練場所としてこの道場を使えるようにする為に。
 銀誓館や他の友好組織とも手を取り合い、準備を進めていく。
 これから来たる、未来の為に。

●2015年:卒業式
 さらに季節は巡り――次の年の卒業式。
 銀誓館学園を1年前に卒業し大学に通っている詩杏は、今度は、後輩を祝うべく母校を訪れていた。
 そんな詩杏を見つけて、挨拶に行かないと、と。
 白神・風優翔(空色アンビエント・b51129)は賑やかな人波をかきわけながらも思う。
(「とうとうこの時が来ましたか……感慨深いものがありますね」)
 沢山の思い出ができた、銀誓館学園での学生生活。
 詩杏とも、日常の学園生活は勿論、教室で受けた依頼や休日のお出掛けなど。
 共有した時間は、本当に、物凄くいっぱいいっぱいあって。
 大好きな親友であると、互いが互いに信頼を寄せ合い、支え合い、笑い合ってきた。
 そして迎えた――風優翔の卒業式。
「あ、風優翔さん! 探しておりましたの。ご卒業おめでとうございます」
 自分に気がつき、嬉しそうに笑む詩杏に笑み返した後。
「……こんにちは、今日はお別れを伝えに来ました」
 風優翔は詩杏へと、そう挨拶する。
 それから、驚いたように自分を見つめる彼女に、これからの自分の進路を告げたのだった。
「遠い知り合いの方が団長をしている楽団にお声がかかりまして……西欧にいくことになったんです」
 皆との別れは辛いところだけど……これが、風優翔が決めた未来。
 暫くはあえませんねと、そう続けた風優翔に。
 詩杏は、寂しくなりますの、と言った後。
 そっと風優翔の両手を握ってから、うっすら涙を浮かべた瞳を細め、微笑む。
「でも私はいつでも風優翔さんのことを応援しておりますし……いつまでも、私達は大切なお友達ですの」
 だからまた会いましょうね、と。
 そう言った詩杏に、風優翔も大きく頷いて。
「大丈夫! この続く空は同じですからきっとどこかで会えますよ!」
 ぎゅっと、空色の瞳を持つかけがえのない親友の手を握り返したのだった。

●2015年:日常
 今日は成人式――仲良く三人揃って、大人の仲間入り。
 蒼城・陽菜(蒼き希望の西風・b44258)は、まずは着付けをして貰うべく。
 この日一緒に成人式を迎える、風深・翼(幻葬の蒼き硝翼・b43787)と一七夜月・氷辻(誇り高き月下の薔薇・b44022)の親友達と、成人式会場近くの和服屋で待ち合わせ。
 そして先に来ていた二人へと、意気揚々と言い放つ。
「俺はもちろん羽織袴で……って、何だよ、二人とも?」
 そんな陽菜の言葉に、翼と氷辻は顔を見合わせて笑んでから。
「皆で振袖を着ましょう。すでに着物は選んであるわ」
「私達が選んだんだ。今日こそは、陽菜も着るよな?」
 二人で画策し、事前に選んでおいた振袖を差し出した。
 でも、大きくぶんぶんと首を振って。
「振袖なんて俺は着ないぞ!? 俺は格好良くありたいんだから可愛い格好なんてお断りだ……っ!!」
 振袖を断固拒否する陽菜。
 そして翼はそんな言葉に、思わずしゅん。 
「そうか……、陽菜は私の選んだ振袖など着たくないんだな……。私とて女性らしいセンスには欠けるけれど、陽菜に似合うと思って一生懸命選んだのだが……」
「って、翼はそんなにしょんぼりしないでくれ!?」
「……そう、翼さんが陽菜さんを思って一生懸命選んでくれた着物を着たくない、それが陽菜さんのポリシーなのね……」
 さらにすかさず追い討ちをかける氷辻の言葉に、……ぐ! と言葉を詰まらせて。
「き、汚いぞ、氷辻……そこで断ったら俺の翼愛が疑われるじゃないか……!」
 陽菜は観念したように、差し出された振袖を受け取った。
「わかった、着ればいいんだろ、着れば!」
「そう! 着ればいいのよ!」
 さ、早く着付けましょう、と笑顔の氷辻に苦笑しつつも。
 その代わり翼は今度俺とラブラブデートな! と着替え始める陽菜。
 そんな陽菜に二人が選んだのは、青の振袖。
 いや、陽菜だけでなく、翼や氷辻も、同じ青系統の着物だ。
 でも……同じ青を選んでも。
 翼のものは淡い空色基調、氷辻のものは水色に桜咲く、お揃いだけどそれぞれ印象が違う振袖。
 そして、着付けを終え、長い髪は綺麗に上げて貰えば――お年頃の乙女の完成。
「う、動きにくいぞ……!」
「慣れないのは私も同様だぞ、陽菜」
「……陽菜さんは動きをコンパクトにするといいわよ。翼さんもよく似合っているわ、いい色を選んでいるわね」
 ちょっとやっぱり、着慣れなくて窮屈さは感じるけれど。
「……それにしても、こうして三人並んでいるというのも、また新鮮だな」
「本当に、こんな時じゃないと着ないから新鮮よね」
「うんうん、翼も氷辻もすごく綺麗で可愛いぞー♪ 和服姿も新鮮だな♪」
 三人が互いに互いを見回しては、楽しそうに笑み合う。
 それから氷辻は、こう提案する。
「あとで三人で一緒に写真を撮りましょう」
 この素敵な時間を、いつでも思い出せるように――と。
「写真に残すのは……恥ずかしい気もするが。折角の機会だしな、式の後に頼んでみようか」
 翼も少し照れつつ、頷いて。
 っと、二人の艶姿に萌えすぎて大事な事を言い忘れてた! と陽菜は、改めて翼と氷辻を見つめてから。
 満を持して、こう言ったのだった。
「二人とも、成人おめでとうだ!」
 翼も共に成人を迎えた親友達を見つめ、笑んで。
「……二人とも成人おめでとうな。節目の日をこうして一緒に迎えられて、嬉しく思うよ」
「そうね、翼さんも陽菜さんも成人おめでとう。この区切りある時に、また二人と過ごすことができて嬉しいわ」
 ……たまには素直に言っておくわ、と氷辻も微笑み返すのだった。
 今というこの大切な時間に――三人で迎えられた、今日に。

 一人暮らしを始めて、早半年。
 氷神・睦月(白銀のロップイヤー・b55639)は、花の女子大生生活を謳歌……しているというよりも。
「そろそろカップラーメンの限界を感じてきました〜」
 食卓に並ぶ頻度が異様に高いカップラーメンの味に、さすがに飽きていました。
 いい加減お料理を覚えないとですね〜と、睦月は3分経ってラーメンの蓋をあけながらも。
 いただきます〜と手を合わせた後、ふと、何気に見つけたある1枚のチラシを手にする。
 そして、ふーふーずるずるーとカップラーメンの麺をすすりながらも、その内容に一通り目を通した。
 そのチラシは――お料理教室の広告。
 ちょうどいい機会なので参加してみましょうかね〜と。
 睦月はそうふむふむと頷いた後。 
 腕はまぁともかく……料理をすることが好きだと言っていた仲良しの友達を思い出して。
「そうです、せっかくですし詩杏さんも誘ってみましょうか〜」
 一人暮らし中のアパートでゴロゴロしながら、詩杏に連絡するべく携帯電話を手にしたのだった。
 そして――数日後。
「詩杏さん、お料理教室楽しみですね〜」
「はいっ。頑張って沢山レパートリーを増やしたいですの♪」
「ちょ、誰にそれ食べさせる気!?」
 睦月のお料理教室の誘いに喜んで乗った詩杏と一緒に、色々アレな詩杏の料理の腕を心配した右京も、保護者として同伴することに。
 というわけで、レッツお料理教室!
「え〜と……まずは、野菜を切って水にさらして〜」
「では私、野菜さんを切りますの……えい! あっ」
「ぎゃ! 殺す気かッ!?」
 すぽっと抜けた包丁が、危うく右京の頭に刺さりそうになったり。
「フライパンを熱して、……え、塩コショウで味を整えるですか〜」
「では胡椒を……はわっ」
「!? 今、胡椒一瓶丸ごと入れなかったか!?」
 うっかり蓋が外れた胡椒が、一瓶どばっと入ったり。
「先生、どのくらい入れればいいのですか〜、好みでとか言われてもわかりませんよ〜!!」
「好みですか……このくらいでしょうか?」
「え、何かどぼどぼ言ってるよ、ねぇ!? しかも待て、それ醤油じゃなくてソースだし!!」
 こってりすぎる味付けにしちゃったり、そもそも入れるもの間違えたりしながらも。
「睦月さん、出来ましたの♪」
「あぁ、詩杏さん、なんだか危険な感じの色になってますよ〜」
 案の定、黒紫色の料理の完成です。
 そんな詩杏の料理を、睦月はじっと眺めてみた後。
「右京さん、味見してあげてください〜」
「って、何で俺!?」
 さり気なく右京に押し付けるのだった。
 それからまた――暫く経った、ある日の早朝。
 この日も詩杏と一緒に通う、料理教室の日。
 早く外出先から帰って、支度しなければ〜と。
 空き地の横を通りかかった、その時だった。
「残念ですが、ここから先には行かせられません〜」
 どこからともなく現れた妖獣の群れへと、素早く起動し手にした睦月の薙刀が一閃。
 その鋭い一撃が、まず1体の妖獣を消滅させて。
 飛びかかってくる残り多数のゴーストを相手に、乱戦を繰り広げる。
 そして、纏めて敵の群れを飲み込んだのは、吹雪で成された強烈な竜巻。
 その吹き荒れる衝撃が、全ての妖獣を凍らせ、一瞬で滅したのだった。
 睦月は、ふぅ、終わりましたか〜と息を吐いてから。
「さて、今日のお料理教室は何を作るんですかね〜」
 そんなことを呟きながらも、一人暮らしをしているアパートへと再び歩きだすのだった。

 大学を卒業後、澄空・翔(澄み空を翔る蒼黒の風・b59134)が生業としているのは。
「私の方で、ここに必要な情報はまとめてある」
 銀誓館学園時代に所属していた結社から引き続き探偵……ではなく、情報屋として裏社会に本格デビューしていた。
 最近では使う一人称も、僕から私へと変化している。
 学生時代の探偵とはまた少し違う仕事ではあるが。
 学園で身につけたスキルを活用し、問題なくやっている。
 いや学園の探偵時代から、千里の道も一歩から、地味な情報収集こそ大事だと活動していたため、むしろ意外と性に合っているかもしれない。
 毎日情報を収集しては裏社会に売り捌く、そんな仕事は決して危険がないわけではないが。
 これまでは、何とかやり遂げてきている。
 そしてこの日も、クライアントに無事に情報を手渡してから。
 翔は、情報溢れる街の雑踏の中を歩き出す。

 また――ある日の朝。 
「崇くーん? 朝だよー、起きてー」
 トントン、ともう何度も何度も部屋のドアをノックしているけれど。
 この日もやっぱり、辻村・崇(蒼き牙を持つ幼き騎士・b63628)はお寝坊さん。
 声を掛けても、一向に起きてくる気配がない。
 夜更かししてたのかな? とそう首を傾けつつも。
 蒼井・加奈(目指せ素敵なおねーさん・b75538)は、先行っちゃうよー? と部屋の中の崇にもう一度声を掛けてから。
 ひとり寮を出て、銀誓館学園へとむかう。
 崇が追い付けるように、のんびりと。
 ――その頃。
「うわー遅刻遅刻」
 時計の時間を確認するやいなや飛び起き、バタバタと登校の準備をしながらも。
「って加奈ちゃんがもっと早く起こしてくれればいいのに」
 彼女が聞いたらほっぺたぷっくりしちゃうようなことをぼやきつつ、慌てて着替えて。
 朝食にパンを咥えながら、崇は今日も、春の花が満開に咲く寮を飛び出していく。
 そして学校へと続く桜並木の通学路でようやく加奈に追いついて。
「遅いっ。何度も起こしたのに」
「ちょっと昨日の夜、事件に巻き込まれてゴースト保護に行ってたから……眠い」
 お説教をする加奈に、そう言ってふわっと欠伸をしてから。
 一緒に手を繋いで、桜の絨毯の上を一緒に歩き始める。
 そんな崇の言葉に、あ、そういう理由なら仕方ないかな? と加奈はお説教をやめると。
「……ん、でもほどほどにね?」
 まだ眠そうな彼を、そう労う。
 崇は加奈を見つめて、うんありがとう、と笑みながらも。
(「実はゴーストと遊びに行ったんだけどね」)
 心の中で、こっそり。
 そして二人はいつも通り仲良く手を繋いで、いつものように笑顔を宿しながら。
 銀誓館学園までの楽しい道のりを、並んで歩くのだった。

 すごいー! と大はしゃぎしている黒紡・晶(黒耀狼・b81114)の前には、沢山の鹿さんたち。
 中学生になった晶は、制服を来て、奈良公園に修学旅行に来ていた。
 そして、制服の裾とおかっぱ髪を揺らしながら、此花・百合音(照る月・b81360)が晶と買ったのは、鹿せんべい。
 まんまる少し大きめなそれを1枚ずつ手に持って、ひとくちぱくり!
 でも、やっぱり。
「……味しないよー……」
「鹿せんべい変なお味ですね晶ちゃん……」
 不思議そうに首を傾けた百合音は次の瞬間、開けた袋を見て、瞳をぱちくり。
 袋に書いてあったのはそう、『鹿用』の文字。
「晶ちゃん、これ鹿さん用でした!」
「鹿さんのおせんべい……!」
「どおりでおいしくないですね……」
 味がないけど、噛めば噛むほど苦い味がしてくるような鹿せんべいを手に、吃驚するふたり。
 でも、二人にとっては美味しくないおせんべいも。
 鹿さんにしてみれば、美味しいおやつ。
「晶ちゃん、鹿さんがいっぱい集まって来ましたの!」
 いつの間にか鹿せんべい目当てでわらわらとやって来た鹿の大群に、ぐるりと取り囲まれていて。
「がう! がう! 晶を倒してからに……うきゃー!」
 負けじと晶は、がうがうと立ち向かうも。持っていた鹿せんべいをぱくり、奪われました!
 そして、たくさんの鹿さんたちに追い掛け回されながらも。
「鹿、ゴーストより強いの……晶勝てないの……」
「鹿さん強いですの!」
 鹿せんべい片手に、きゃあきゃあ二人で手を繋いで、公園内をぐるぐる逃げ回るのだった。

 アジア、ヨーロッパ、日本、アメリカ――世界を巡る、初の海外ツアー。
 そして今日は、ニューヨーク公演!
(「私、ここまで来られました。歌手として独り立ち出来たのでしょうか?」)
 沢山の観客の歓声が飛び、色とりどりの眩いスポットライト輝く中で。
 水田・えり子(スターライトティアラ・b02066)は、アイドルとして駆け上ってきたこれまでの道のりを思い、ステージを目一杯楽しみながらも。
『皆さん、ご紹介します。私の後輩の結衣菜ちゃんですよ』
 英語でMCをこなし、彼女の事も応援して下さいね♪ と、本日のゲストを紹介!
 そしてライトにパアッと照らされたのは、真っ赤な衣装を身に纏った結城・結衣菜(ブレイドディザスター・b54577)。
(「私がこうしてアイドルデビューできたのもえり子さんのおかげ」)
 数年前に受けたオーディションがきっかけでデビューした結衣菜は、支えてくれる先輩のえり子と供に、未来へ向けての情報公開も兼ねて、精力的に芸能活動を続けてきて。
 この日、えり子の初の海外ツアーのゲストとしてニューヨークに駆けつけたのだった。
 えり子と一緒にツアーに同行している内田・ゆりな(ブルースターオーシャン・b79935)も、ステージ上の二人の姿に微笑みながら。
 ぐるりと、ファンでいっぱいの会場を眺め、改めて思う。
(「えり子ちゃんはこんなツアーを開けるくらいに大きくなったんですね」)
 まだ、ゆりな自身はギタリストとしては未熟であるため、トップアイドルのえり子のバックバンドには、今はなれていない。
 でも……ふいに、えり子と結衣菜に手招きされて。
 一緒にステージで、コラボして歌ったりダンスをすることに!
『それじゃあ、最後まで楽しんでいきましょう♪』
 結衣菜は、恥じることのない精一杯の歌をと、持ち歌を堂々と披露して。
 沢山の歓声を浴びながら、主役のえり子を立てるように一緒に歌ったりと、ツアーを大いに盛り上げる。
 そして、すぐ近くで響く美しい歌声を聴き、共に歌いながら。
(「えり子さんは歌は上手く、人々を引き付ける魅力がありますね」)
 アイドルとしての、私の目標です――そう目標である先輩と共演し、一緒に歌える機会を幸せに思う。
 ゆりなも二人の歌声に合わせ、元気良くダンスしながら。
(「私も、こんな大きな会場でソロで……あ、でもえり子ちゃんと一緒の方が良いかな?」)
 えり子や結衣菜と歌声をはもらせ、楽しいステージにそう満面の笑顔を宿すのだった。
 そしてそんなステージを最前列のゲスト席で楽しんでいるのは、真神・綾瀬(蒼風の舞姫・b39277)。
 彼女自身もプロダンサーとして活動中の身であるため、仕事でえり子や結衣菜にたまに会うこともあったが。
 なかなか仕事が忙しくて、えり子のツアーにこれまで顔を出せなかった。
 でも、彼女の晴れの世界ツアーということもあり、偶然仕事でニューヨークに来ていたため、仕事の合間を縫って応援に駆けつけることがこの日、叶ったのである。
 そして――勿論日本でも、えり子たちの活躍を見守って応援している皆がいる。
 卒業後、念願のアイドルデビューをして3年。
 地道に努力し活動してきた榊・くるみ(がんばる女の子・b79108)も、最近は人気急上昇のアイドルとして、テレビに出る機会も増えている。
 そして番組収録中の休憩時間に、ふとつけたテレビから聴こえてきた歌声は。
「あ、えり子さん……」
 3年たってもその輝きは増すばかりの、憧れの先輩のもの。
 えり子の海外公演を特集している番組に、くるみは思わず見惚れてしまうも。
 くるみさんスタンバイお願いしますーと、番組のADが呼ぶ声に気がついて。
「ボクもいつかきっと……がんばるもん!」
 そうぐっと決意を新たに、スタジオへと向かうのだった。
 そして丁度同じ番組を見ていたのは、不利動・覚(マフィアと極道のダブル・b58239)。
「相変わらず……どんどん凄くなっていくね」
 学生時代から彼女の姿をみてきて、これまでずっと応援してきたが。
 遠い存在になったようで、でもやっぱり近い存在でもある、えり子の不思議な魅力。
 覚はステージ上で美声を披露している彼女の姿を、テレビの向こう側から見守る。
 そんな彼は高校生になり、次の宇宙へと旅立った兄に代わって実家の代貸しをしているのだが。
(「父さん達は兄さんの事を忘れちゃったみたいだけど、世界結界が崩壊したら思い出すんだろうか? その時、ボクはどう説明すれば良いんだろう?」)
 世界結界が消滅するまで、あと数年と言われている世界。
 以前に比べて、確かにその効力が薄れていっていると感じることもある。
 そして、完全に世界結界がなくなってしまった時に、自分はどう皆に説明すべきか……。
 覚はふと、そう一瞬考え込んでしまうも。
 悩んでいても、時間は刻一刻と過ぎていくものだと。もう一度、テレビの画面へと視線を戻したのだった。
 そして同じ頃、日向・夏果(のんびりまったりいきましょう・b55022)は。
「平和ですね……」
 お茶をずずずと啜りながら、まったりひなたぼっこ中。
 期せずして能力者活動で残った相応の財で、銀誓館学園を卒業後大学に進学した夏果は、のんびり生活を送っていた。
 でもやはり今も、銀誓館に通っていた頃と同じ様に、歌や楽器の腕は磨き続けているし。
 たまには能力者として、手に届く範囲で、ゴースト事件の解決もしたりしている。
 そしてぽちっとテレビをつけてみれば。
「あ、アイドルの番組……内田オフィスの皆様もがんばってますねぇ」
 アイドル作戦、でしたね……と。
 仲間達の精力的な活動もあり、数年前に比べて随分情報が広がった今に、そうぽつりと呟いてから。
 テレビに映る彼女達を見ながら、ずらり並んだお菓子をもぐもぐと口に運ぶのだった。
 一方――敷島九十九式・秀都(エクストラエンフォースメント・b57363)は今、世界を旅していた。
 信じるその正義を示しに、世界を相手にしている日々は悪くはないし。
 それに一つの場所にとどまるのは性に合わないと。
「どーせなら自分の可能性を試しに行くのが面白い」
 突き進むその姿は、昔と変わってはいない。
 ……いえ。
「……決して結婚から逃げているわけではないぞっ。まだ俺はそーいう家庭に縛られるわけにはーー」
 そういうわけじゃ……多分、ないんです!
 でも。
「あ、大学、まだ卒業してなかった」
 その前にまず、大学卒業という人生の壁が。
 秀都はそれから、ふと天を見上げて。
「仕方ないなぁ、そろそろ帰るか。あんま待たせるわけにもいかねーし」
 鎌倉にも続いている青い空へ向けて、そう呟いたのだった。
 それに今年もきっと……学園生活を共にした仲間の、カウントダウンコンサートがあるだろうから。

 連絡を受けたのは、その日の稽古が終わり、道場経営の雑務をこなしている時であった。
 事前に入院していた妻の陣痛の感覚が短くなり、もう今日のうちにでも産まれそうだと。
 そう聞いた龍太は、急いで病院へと駆けつけて。
 分娩室に移された妻の傍に付きっきりで、彼女の心の支えとなるべく手を握りながら。
 祈るように、第一子誕生のその時を待つ。
 そして――数時間後。
 元気に泣いていた赤ちゃんは産湯に浸かり、おくるみに包まれて。
 お父さんとなった龍太の大きな腕の中に、大切に抱き締められている。
「親父と御袋は初孫誕生に浮かれてるだろうな」
 連絡した時の電話の向こうの声からして、きっともうすぐ病院に駆け込んでくるだろう。
 ちょっぴりぎこちなく龍太の腕に抱かれている、待望の初孫に会いに。
 そして妻に、頑張ったな有難うと、そう礼を言いながらも龍太はあることを決意する。
 随分と情報公開も進んできた今――この機会に、家族や親族を集めて、世界の真実や能力者の事について話そう、と。
 今健やかに自分の腕の中で眠るこの子や妻を、守る為にも。

●2016年:卒業式
「もう卒業かー。あっという間の学園生活だったな」
 銀誓館学園で過ごした日々は、色々な意味でとても濃かったけれど。
 過ぎてみれば、あっという間だったような気がする。
 この日、沢山の同級生達とともに卒業を迎えた、鈴木・ミー(中学生ファイアキャット・b29516)は。
「えへへ、あたしも転校してきた時と比べておっきくなったでしょ!」
 卒業証書片手に、級友にそう笑んで。
「小学校の時はよく男子に間違われてそれも楽しかったけど、もう背もおっぱいもおっきくなって……え、太った? そうかなー?」
 随分と女性らしさを帯びてきた顔に、へらり無邪気な笑みを宿しながら。
 そっと無意識的におなかを優しく撫でつつ、ミーはそう首を傾けるも。
 こないだまで体調悪かったのをいっぱいご飯食べて治したからじゃないかな! と、すぐに笑顔を向ける。
 そして、体調悪かったんだ大丈夫? と心配する友人に。
 少し前までは食欲なかったけどもう今はいっぱい食べられるよ大丈夫! と大きく頷いた。
 それからふと、ミーちゃん彼氏が呼んでるよーと。
 また別の友達のそんな声に、すぐさま顔を上げてから。
「じゃあ行ってこなきゃ。またね!」
 教室の入口で待っている恋人の元へと向かった。 

 同じく、銀誓館学園をこの日卒業する宰は。
 日々の学校生活は勿論、頑張った学園祭などの学園行事や、能力者として色々大変だったことまで。
 これまでこの学び舎で級友や仲間と過ごしてきた、楽しかった日々を思い返して。
 感慨深く田中校長から貰った卒業証書を握り締めながらも。
 同時に、これからの未来への展望を、心に描き出す。
 銀誓館学園を卒業した後は、大学で経営学を勉強するつもりで。
 経営のことを十分に学び、カフェの運営ももう少ししっかりできるようにしたい。
 それと同時に、能力者としての活動も、これまでと同じ様に行なっていくつもりだ。
 特に、ケットシーのリンゴと一緒に、日本国内の事件を中心に対応にあたろうと思っている。
 これから世界結界完全崩壊までの間、能力に新たに目覚める人は増え続けるだろう。
 そんな新米能力者たちへと。
(「使役ゴーストの頼もしさと、使役ゴースト使いには欠かせない一見非情な判断のことも知ってもらいたいです!」)
 使役使いとして、これまでリンゴと一緒に歩んできた自分の色々な戦いや冒険を。
 今後のために語ってあげたいし。何より、よく知って欲しいから。

 今年も後輩の目出度い門出を祝いに、夜色は書道部の部室を久々に訪れていた。
「北御門さん、卒業おめでとうございます」
 久しぶりのこの場所は、学園を卒業して数年が立っている夜色にとってとても懐かしい場所で。
 でも……力強い『書道部』の看板の文字や、鼻をくすぐる畳や墨の香り。
 そして何より、この場に集まって賑やかに泣いたり笑ったりじゃれ合ったりしている目の前の皆の様子は、まるで時が止まったかのように。
 学園に通っていた時と、何一つ変わっていない。
 勿論、自分が数年前に祝って貰った様に、皆が学園を卒業するのを見送りたい。
 だから毎年卒業式にはお祝いには訪れたいと、そう思っているのだが。
 でも、銀誓館学園を訪ねる一番の理由は。
「変わらずここは温かい場所ですね。みなさんにお会いできたのも嬉しいです」
 皆に、こうやって会えるから。
 そして夜色は、今年卒業する後輩たちのために筆をとって。
「改めて……おめでとうございます」
 『祝』――門出の一文字を、したためる。

 卒業を迎えた後輩達の門出を祝った後。
 紫陽花のコサージュが胸元に咲いたワンピースの裾をふんわりと揺らしながら。
「ご卒業おめでとうございますですのっ」
 エルジェーベト・フォスター(二輪草・b81064)は、恙無く卒業式を終えたセレブラ・ヤステレブ(永久凍土の死霊・b81164)に、改めて祝いの言葉を述べる。
 そんな彼女の姿を、真っ直ぐにその瞳に映して。
「大事な話があるんだ」
 セレブラは不思議そうに自分を見つめるエルジェーベトを連れ、裏庭へと足を向けた。
 そして――二人きりになって。
 改めて彼女と向き合ったセレブラは。
「銀誓館学園を卒業するこの日、君に言いたいことがある」
 伝えたい今の気持ちを、エルジェーベトへと伝えるのだった。
「今はまだエリザを養えるだけの力はないけど、でも必ず一人前になるから、だからその時、僕と結婚して欲しい」
 まだ日本語を喋る事に慣れておらず、どこか妙な口調だったあの時から。
 掌と掌が触れあい重なっただけでも、とてもドキドキした夏の日。
 彼女の為に作って渡した御守には、こっそりと胸を染める淡い想いを込めた。
 いつか――この想いを伝えられる日が来ますように、と。
 故郷の花である向日葵を受け取り一緒に踊ってくれた君は、本当に綺麗だった。
 銀誓館学園で過ごしたセレブラの日々を語る時に、エルジェーベトは必要不可欠である人で。
 そして――ずっとこれから、自分と人生を共にして欲しい女性(ひと)だから。
 エルジェーベトは、震えながらも精一杯気持ちを紡いだセレブラの言の葉を最後まで聞いた後、一瞬ぽかんとしてしまうけれども。
 じわりと、徐々に胸の中いっぱいに、嬉しさがこみ上げてきて。
 溢れ出す気持ちをおさえるかのように両手で口元を覆って、こくりと頷いたのだった。
「……はい」
 エルジェーベトにとっても――目の前の彼は、特別な人だから。
 そんな返ってきた言葉を聞いたセレブラは、彼女を引き寄せて、ぎゅっと抱き締めてから。
 やったー! と、そう思わず声を上げて叫んで。
 自分を包み込む優しい体温と耳元で聴こえたそんな歓喜の声に、エルジェーベトも。
「セレ君、私今、すごく幸せですの!」
 少しだけ恥ずかしいけれども……今の気持ちを、素直に大好きな彼へと伝えたのだった。

●2016年:日常
 それは、一緒に暮らしはじめて4年が経った、2016年のある日のことだった。
 これまで、彼の前ではいつでも可愛くありたいと心がけてきたし、苦手な料理も頑張って家庭も守ってきて。
 その傍らでパタンナーとしての仕事もこなしていた、守森・姫菊(橙黄の延齢客・b20196)は。
 大好きな彼との仲はもはや言うまでもなく、幸せな毎日を送っていた。
 この日もいつもと同じ様に、時浦・零冶(黒鏡嵐霧・b64243)と部屋で食事をしながら会話を楽しんで。
 ふと一瞬だけ会話が途切れた……その時であった。
「大学卒業したから、本格的に世界を巡ろうと思う」
 意を決して告げられた、零冶の抱く思い。
 その目的は、他の能力者達との出逢いや人害を成す野良ゴーストの討伐。
 そして、勿論。
「……一緒に行かない?」
 傍にいたいから、一緒に、と。
 零冶は姫菊の反応を伺いつつ、でも、揺るがぬ決意をその声に込めて伝える。
 そしてそんな彼の話を、姫菊は最後まで静かに聞いた後。
「……本当に困った人ね」
 そう、小さく首を傾ける。
 パタンナーになって6年目。
 仕事にも随分と慣れ、後輩も出来て、それなりの立場になった頃だ。
 でもそのことは、これまで彼女のことをすぐ傍で見てきた零冶にも、よく分かっていること。
 部屋は今のままにするし、無理強いはしたくないと、そう思うけれども。
 でも――やはり、一緒に居たい。それが本音。
 姫菊は、自分の姿だけを真っ直ぐに映す彼の真摯な瞳を見つめ返してから。
「少し考えさせて」
 彼の申し出に、そう答えたのだった。
 でも――その心は、実はもう決まっている。
(「零冶君がいないとつまらないし世界を巡るなんて楽しそう」)
 今のこの生活も、とても幸せだけれど。
 彼とともに巡る、また新しい刺激的な日々を思えば、自然と心が躍る。
 なのに何故すぐに頷かなかったか。
 それは。 
(「ただ、困った人を少し困らせたいの」)
 今すぐじゃなくてもいいから一緒に歩めればいいと、懸命に続ける彼の様子に。
 姫菊は、そっと小さく笑むのだった。

 蓮汰の日常は相変わらず、鍛錬の日々。
 銀誓館学園で培った経験を生かしながら世界を巡り、戦いに身を置いて。
 高みを求め、強者を探し、拳を交える――そんな毎日。
 そしてその旅の途中で出会った能力者を導いたり。
 誤った道を進もうとしているのを正したりもしていた。
 今は、距離的には遠く離れているけれども。
 そんな能力者としての活動や志は、銀誓館の皆と同じ道。
 昔は、ゴーストは全て倒すべきものだと、そう思っていた。
 でも……ゴーストだからただ倒すのではなく。
 共存の方法も自分なりに見つけていければと、今は模索中だ。
 そして、ゴーストに対しての蓮汰の考え方を大きく変えたのは。
 運命の糸が繋がったマヨイガ探索において、実際にその目で見て、その耳で聞いて、身を持って感じた経験と。
 その時の仲間達と交わした、ハグルマの誓い。
(「生きるために戦い続けます。みんなから教えてもらった強さを胸に……強くなるために」)
 本当の強さとは何か、そして何の為に戦うのか。
 銀誓館学園という場所や仲間達は、それを教えてくれて。
 そして――さらなる答えを見つけるために。過去の自分の様な人達の力になるために。
 蓮汰はこれからも、旅を続ける。

 一方――その頃。
 もふもふ依頼やマヨイガへのゴーストの誘導などに果敢に取り組んできた美海も、18歳となって。
 銀誓館学園高校を卒業後は大学へは進まず、マヨイガへ。
 思えばマヨイガも、存在を発見した数年前からは想像もつかなかった程、大きく変貌したものだ。
 そして。
「……と、いう訳なので、よろしくお願いするの」
 頑張れよ、と美海声を掛けるのは、以前世話になった妖獣動物園のカリスマ飼育員・コージ。
 その他、顔見知りのマヨイガの住人達も、彼女へとエールを送る。
 さらにこれから、視肉の間にいる視肉さんにもぷにょぷにょと会いに行く予定だ。
 シニクーランドの初代園長に就任する――その挨拶をしに。
 シニクーランドは、数年前に銀誓館学園の皆で作った施設のひとつであるのだが。
 特に今までは、園長を名乗る人やゴーストが、そういえばいなかった。
 そこで、これから世界結界が失われる時代がくるということもあり。
 美海がシニクーランドの初代園長になることになったのである。
 美海は視肉さんの元へと行く前に、自分たちが保護してつれてきた8匹のふわもこウサギたちと再会して。
 そのまんまるくてちっさいふわもこを、もふもふもふ。
 マヨイガの為に、ふわもこの為に、これからも美海は尽力していく所存であるのだった。

 そして再び、地上。
 その電波的な才能の無駄使いさ加減を如何なく発揮して。
 米好きシュールアイドルとしてデビューを果たした後も、じわじわ世間からの知名度を上げていった淳・空(月に願いを・b82500)は。
 ある番組の企画でユニットを結成したことをきっかけに、歌の才能を発揮してブレイク!
 米に注いだ愛を熱血に歌い上げ、人格すらも変わっているように見える気がするギターかき鳴らした演奏、やたら技巧を凝らしたダンス。
 それに、シュールな曲も呼吸するようにこなすその様が、人々の心を掴んでいた。
 でも。
(「10万人ライブも夢ではないと言われたが……まだ足りないと思う」)
 クールな面は舞台まで我慢、華やかに華やかに……バラードでは此方がうってつけか、と。
 まだまだ精力的に志高く活動に励んで。
 そして芸能活動だけでなく、勿論学業も忘れていない。
 そんな空は、仕事に勉強にと。
 慌しいが、とても充実した楽しい毎日を送っているのだった。
 
 尭矧・彩晴(ベリルユピテル・b38169)がいるのは――数年前に卒業したはずの、銀誓館学園の資料室。
「……あーもう卒論の資料すら大学より銀誓館のが豊富ってどーゆー事デスカ」
 大学が学園とそう離れていなかったから良かったものの。
 これが遠方だったらどうなっていたことか。
 その時がマジ怖い、と呟きながらも。
 彩晴は、沢山の文献を棚から引っ張り出していく。
 そんな彼の就職先はもう、ほぼ決まっていて。
 顔馴染みの職員が沢山居る所に、春から世話になることになっているのだが。
「最後の最後に卒論滑ったらシャレにならねぇっつーね……」
 これで卒論を落として留年なんてことになったら大変だ。
 だからなんとしてでも、卒論というこの最大の試練を乗り越えなければならないのだ。
 ……でもまー愚痴っとっても始まらんから、と。
 彩晴は必要な資料を選んでは、積み上げていきながらも。
「……まだ鎌倉も銀誓館もそんなに変わった感は無ぇみたいね」
 自分が通っていた頃と、今の鎌倉や銀誓館学園を照らし合わせつつ。
 ぐるりと学園の日常風景を見回し、呟くのだった。
 後数年で世界結界サヨウナラとはいえ――と。

●2017年:卒業式
 卒業式を終えた、銀誓館学園の校門の前で。
 感慨深いという気持ちは勿論、それ以上にあっさりしていたことに驚くのは、暁星・琉海那(有明月の約束・b82553)。
 もう卒業なのですか……と呟いた琉海那は、ふと、これまでのことを思い返してみる。
(「……思えば、敵であった地球に降り立ち暮らし、一人の能力者として戦い。こんな年齢になるまで時が経ったのですね」)
 まさかこんなことになるなんて、月の女帝であった頃は想像もしていなかったし。
(「むしろ、女帝だった頃が嘘のよう……なんて言っている場合でもありませんか」)
 卒業証書を手に、一度だけ、これまで沢山のことを学んできた銀誓館学園の校舎を振り返ってから。
 これからもっと沢山のことを学んでいくためにと、今度はしっかりと前を向いて。
「さあ、まだまだ立ち止まってはいられませんね」
 世界結界の完全なる崩壊、人間すべてが能力者となる時代の到来に。
 月の民の目覚めに備え、もっともっと知識を深め、備え学ばなくては、と。
 琉海那は桜舞う青空のもっと向こう――月へと、その思いを馳せながら。
 スッと、春風にひらり靡く桜色のリボンを外したのだった。

(「結子、私、とうとう高校卒業だよ」)
 あの事件から、5年と少しの時が経って。
 その年月と同じだけ、銀誓館学園で色々なことを経験してきた少女――音無・舞子(ムーンライトダンサー・b83874)もこの日、卒業式を迎えていた。
 学園に来たばかりの頃は、双子の妹のことばかり考えては何度も心が破れそうになった。
 でも――助けてくれて、手を差し伸べてくれた、ゆりなたち銀誓館学園の皆と時間を過ごして。
 沢山の素敵な人との出会い、いっぱいの楽しい思い出ができた、今。
(「今は未来に……夢を持って居るよ」)
 そう桜舞う空に報告するかのように、舞子は門出の日に広がる天を仰ぐ。
 その夢は、皆の為に踊れるダンサーになること。
 もう、自分や結子のような子を出さないようにと……そう、ぎゅっと卒業証書を握り締める。
 卒業後は、内田オフィスに所属させて貰うことが決まっている。
 大学に通いながら、ダンサーの勉強もしていければと。
 舞子は未来へ向けて、ゆっくりと歩き出しながら。
「結子、これからも私を護って応援してね」
 銀誓館学園で過ごした日々がくれた希望を胸に、もう一度そう青空に呟くのだった。

●2017年:日常
 大学院まで進み博士を習得した暈人はその後、ある大学に就職していた。
 そしてこの日は初仕事。
 気を引き締めて向かった先は――博物館であった。
 発掘調査成果を展示公開するから、その準備を手伝ってくれと。
 そう言われ、やって来た館内で、沢山の発掘物に触れながら。
(「これだけ、発掘した量があるから触れるだけでも楽しいけど。早く調査に行きたいな」)
 興味のある好きなものを仕事にできることの喜びを覚えながらも、目指す考古学者への道はまだまだ先。
 でもゆっくりでも少しずつ、前へと進んでいるのも確か。
 そして展示する発掘物を丁寧に分類し、並べて終わった――その時だった。
(「っと、早速学生の一団が来てるな」)
 急に賑やかな声が上がった方向へと視線を向けた暈人であったが。
 子供達に囲まれている、とても見覚えがある赤い髪の人物を見つけ、呟く。
「あの引率の教師は見覚えがあるけど、右京なのか?」
 それから、博物館見学にやって来た小学生の一団に近づいて。
「右京、久しぶりだな!」
「……え? あ、暈人じゃねーかっ。おー久しぶりだなっ!」
 偶然の再会に声を上げる。
 卒業後も、たまに一緒に料理を作ったり出かけたり、近状を報告したりはしていた二人だが。
 互いに忙しくなって、会うのは何気に久しぶりであった。
「先生になってから雰囲気が変わったな」
「そうか? ……って、おまえたち博物館では静かに……え、ちょ、だあっ!?」
 わいわい賑やかな小学生に教師らしくそう注意を促した右京であったが。
 悪戯盛りの男子に、それーっと一斉に飛びつかれて、てんやわんや。
 そんな相変わらずな弄られ属性の友人に、やっぱり変わってないか、と思わず笑んでから。
「あとで話をゆっくり聞かせてくれないか」
 そう手を振った暈人に右京も、おうっ頷いて。
 そして――俺も丁度報告したいことがあったしな、と微笑むのだった。

 窓から射しこめる朝日が、異様に眩しく室内に反射する。
 それは今日という日が天気が良いということもあるが。
 昨夜遅くまで作業していた身には、特に眩く感じるものかもしれない。
 いや、昨夜だけではない。
(「もう何日家に帰ってないかな……」)
 大学の研究室の一角で寝ていたその身体を起こして。
 うーんと大きく伸びをした健太朗は、最近頑張りすぎじゃないですか? と声を掛けてきた研究所の助手の言葉に頷く。
「ちょっと頑張りすぎ? ま、そうかもな」
 でも、こうした研究というものは、日々の積み重ねが大事だと。
「大発明や大発見ってのは、そうした積み重ねの先にあるものさ」
 そう、笑って返す。
 でも口ではそう言えるけれども。
 研究を進めるために必要不可欠なのは、元気な体や心であることも確か。
 体壊しちゃ元も子もないな、ちょっと一息つくか、と。
 健太朗は研究資料をデスクの上に置くと。
「カラオケでも行ってくる!」
 そう気分転換にと、久々に街へ繰り出すのだった。
 
 知る人ぞ知る、実績豊かな名探偵。
 北に迷子の猫がいれば行って飼い主を探して。
 南に事件があれば、行って颯爽と冴えた推理で万事解決!
 謎ある所に着ぐるみアリ、クロネコぐるみは今日も事件溢れる街を行く。
 そんな彼こそ、人呼んで『着ぐるみ探偵』!
 銀誓館の学生であった時から今だ全くブレないのは、名うての探偵となった文月・裕也(太陽と月の着ぐるみ探偵・b33412)。
 今日はダークスーツを身に纏い、ぐるりと目の前の容疑者達を見回す。
 古びた洋館の一室に集められた事件関係者達。それを迎え入れる名探偵。
「皆さんお呼び立てして申し訳ない。事件解決の為、しばし時間を戴きたい」
 さぁ……いざ、謎解きの時間の開幕だ。
 動揺する関係者たちとは対照的に、落ち着いた口調で話し始める裕也。
「……つまりこれは、関係者全員にアリバイがあるという事。では事故や自殺なのか? いいや違う、これは能力者による計画的な犯行だ」
 ざわっとざわめく事件関係者達。
 裕也はひとりひとり、その反応を見るかのように全員を見回した後。
 辿り着いた真相を、今明かす!
「偽身符でアリバイを作り闇纏いで犯行に及ぶ、実に単純だが一般人相手なら見破られる事も無かっただろう。だが致命的だったのは、関係者にもう一人能力者が居た事。彼が見たのは幽霊では無く、立ち去る犯人の姿だった」
 ごくりと、息を飲む一同。
 そして――その静寂を破ったのは、確信を持って口にされるこの言葉。 
「犯人はそう……貴方だ!」
 ビシイッ! と。
 裕也の指が、犯人を指し示して。
「く……だがしかし、こんなところで捕まるわけには……!」
「あ、こら逃げるな!」
 アリバイをいともあっさりと崩された犯人は、逃亡を試みてくるりと踵を返すも。
 着ぐるみ探偵が、そんなことさせません!
 素早く起動し、一番の戦闘服であるクロネコの着ぐるみ姿で犯人をとっ捕まえて。
「……ふぅ、やれやれだぜ」
 一件落着の事件解決に、クロネコ姿のまま一仕事したいい汗を爽やかに拭うのだった。
 
 銀誓館学園中学を卒業後、和が選んだのは――魔術師としての道。
 そして彼のすぐ傍にはいつも、使役である不滅の使者・らぶりぃたんvの姿が。
 そんならぶりぃたんvと一緒に。
 夜空に煌く星を見上げるのが、和の日課となっていた。
 世界結界が崩壊すると言われはじめて、数年が経った今。
 予想された通り、年毎に覚醒した能力者が増えている現状。
 和は今、そんな新しい能力者達を育成する機関で、魔術師としてアビリティの研究をしている。
 そして世界結界が完全になくなった時にやって来る、全ての人間が能力者となる時代。
 そんな未来の為にできることを、らぶりぃたんvと一緒にできればと。
 そう慌しいが充実した日々を過ごしている和であるが。
「僕、あの星が消えたら一緒に消えようと思ってたんです」
 天を仰いだまま、そう言の葉を零した。
 彼の視線の先にあるのは――夜空に消え入るように輝く星と、その傍で光る小さな星。
 その星の光は、吹けば消えてしまいそうなほどチカチカと小さく瞬いているように見えるが。
 でも……確実にまだ、その輝きを失ってはいない。
 そして、そんな煌きを見つめながら。案外としぶといな――と。
 和は、パタパタと無邪気に翼を羽ばたかせるらぶりぃたんvの隣で。
 そう、懐かし気に微笑むのだった。

 ――そこは、古びた洋館の一室。
 そして津上・晶(天秤を背負いし鬼蜘蛛・b57574)と津上・沙由理(鬼蜘蛛を照らす夜天の銀月・b79589)の目の前にいるのは、ライアライと名乗る脚本家。
 いや……これまで、二人の恩人の振りをして、津上家そのものを弄んできたリリス。
 沙由理の祖父母と母親をゴーストにしたのも、父親にそれを殺させたのも。
 そもそも彼らを引き合わせたのも、全てはこのライアライの仕業であったのだ。
 そして、自分の望む悲劇へのシナリオを実行させて。
 破滅する様を見る事で快楽を得る、それがライアライという存在。
 でも――それも、もう終幕。
 その身を容赦なく貫いたのは、晶が振り上げた一本の呪剣。
 沙由理の父が創りあげた、『鬼蜘蛛』であった。
 そして突き刺さった鬼蜘蛛の衝撃に、断末魔を上げる全ての元凶に。
「これが、いや。私がオマエを消し去る鬼蜘蛛だ」
 晶は、そう言い放って。
 跡形なく消え失せていくリリスの様を見つめながらも、ふいに呟く。
「私は、津上か?」
 その言葉を聞いた沙由理は、大きく首を縦に振った後。
「津上だよ。今までを否定するような事を言わないで」
 リリスが完全に消滅した洋館で、そう、彼を見つめたのだった。

 路地裏に響き渡るのは、大気を振るわせるほどの断末魔。
 雑霊で成された気の塊が撃ち出されたと思った刹那、容赦なく貫いたゴーストの存在が四散するように消え失せていく。
 死と隣合わせであった日々。大きな脅威は去り、人類を脅かす存在はもう今はないが。
 今も尚こうやって、歴戦の能力者として詠唱兵器を手に取り、戦いに身を投じることも珍しくはない。
 それは、幸せな人と歩むこの世界を護るためでもあるが。
 純粋に、強力な敵と戦えることが、楽しくもあるのだ。
 エルレイは敵の衝撃を見切り、素早く身を翻して。
 空を裂く様に眩い一条の光の槍を見舞い、また1体、ゴーストを仕留める。
 ――その時だった。
「エルレイ!」
「あ、右京様と詩杏様じゃないか」
 ふと名を呼ばれ振り返った視線の先には、駆けつけた右京の姿が。
 その後ろには、詩杏の姿もある。
「最近は殆ど視えなくなっておりましたが……久しぶりに、運命予報が視えましたので」
 世界結界が完全に崩壊してはいないためか、詩杏の能力覚醒はこの時はまだであったが。
 彼女が能力者となる日も、そう遠くはないかもしれない。
「助かったね、手を貸してくれないか。先発見した子を保護してお願い」
 なんか新種の能力者らしいけど調査は後で、と。
 エルレイはそう詩杏に、能力者として覚醒したばかりらしいその子を託してから。
 いずれ能力者となる彼女に戦闘の仕方を教えるような感覚で、右京と共に再びゴーストの殲滅にあたる。
「んーこのデカい鈍器ぶん回してる雑魚は、いかにも気魄系ーって感じだよな」
「バス停振り回している誰かさんみたいにね」
 そう雑談しくすりと笑む余裕さえみせながら、エルレイは右京と視線を合わせて。
 確かに俺は気魄系だけどこいつらよりは雑魚じゃねーぞっ、と炎を宿したバス停を振り上げる彼と連携をはかり、次々と敵をなぎ倒していく。
 そして、全てのゴーストを無事退治した後。
 あれ、その薬指? とふと訊ねた右京と、傍に駆け寄ってきた詩杏に。
「ええ……高校卒業したら即結婚……ま……旦那様は8つ年上だから……」
 実は結婚したばかりですと、照れながら結婚式の写真を見せるのだった。

 搭乗口で出迎えてくれたのは、懐かしい仲良しの同期たち。
 この日キッカは、皆とも共通の友人である羽根の結婚式に出席するため、英国から一時帰国していた。
「ふふ、お久しぶりです。五十嵐さんは荷物持ち、で来てくださったんですよね?」
「わたしの車まで、荷物持ち、よろしくお願いね」
 そうキッカと佐織に言われ、おう任せとけ! と威勢良く言った右京であったが。
 じゃあ、これ、お願いしますね♪ と渡されたトランクに、デカッ!? と思わず瞳を見開く。
 でも唯一の男手ですから、どんな重い荷物でも幾つでも持たせればといいと思います!
 そして必死に荷物を運ぶ右京を後目に、先に女子達は車に乗り込んで。
 久しぶりに再会したことを喜び、話に花を咲かせる。
 それから右京もやっと車に乗り込んできて、いざ出発!
「あ、そういやこの間、博物館見学の時に偶然、暈人に会ったんだぞ。温泉旅行の思い出とかも話したな」
「そういえば、皆で行ったわね。富士山の見える温泉!」
 卓球で勝負して、マッサージしてもらったっけ、と。
 右京の言葉に懐かし気に佐織はそう言って。
「……向こうはスパはあるけど、日本みたいな温泉、ないんですよね」
 また、富士山を見ながら、露天風呂入りたいな……そうキッカも微笑む。
 あの旅行の時から、互いの状況もまた少し変わったけれど。
 久しぶりでも全く途切れぬ楽しい会話は、今も昔と全然変わらない。
「そういや佐織、前に俺の特製レシピあげたけど。その後、お菓子作りどうだ?」
「……お菓子づくり? う、うん……頑張っているわよ? いちおう……」
 何となく声が小さくなる佐織の様子にも気付かず、じゃあ今度はもう少し凝ったレシピあげるからな♪ と笑む右京。
 そしてそんな様子の友人たちに笑んでから。
 貰った結婚式の招待状をふと開きながら、キッカは訊いてみるのだった。
「……そういえば、忍里さんと、五十嵐さんは、結婚のご予定って……?」
「結婚の予定……かあ。どうなんだろう。いまは、お互いに、仕事仕事だからなあ……」
 婦警の仕事に充実している今を思い、そう首を傾ける佐織。
 いずれは……と思わないこともないが、今はまだお互い仕事を頑張りたい時期なのである。
「俺も、銀誓館の小学校教師になって2年目なんだけど……」
 右京はそこまで言って、少しだけ言葉を切った後。
 実は俺な、来年結婚するんだ、と。照れた様にぼそりと、そう同級生たちに報告して。
 は、羽根の結婚式楽しみだなっと、誤魔化すように続けるも。
 車の中で展開される女子達の恋バナに、顔を真っ赤にして慌てるのだった。

 思えば、長い道のりだったけれども。 
 家督を継いで正式に当主の座についた、渡会・綾乃(月爛・b74204)を護るために。
 近衛兼当主補佐の地位を預かる事になった鬼頭・鋼誠(朧鋼の熕霽・b70561)であるが。
 地位的なものだけでなく……彼女を助ける立場であるべく、正式に渡会の家に婿入りしたのだった。
(「……俺、渡会鋼誠になったんだなあ……」)
 以前よりも、より一緒になってるって感じがして……そう、呟きかけて。
「いややめよう、恥ずかしいわ」
 そう頭をかいてから、鋼誠は綾乃の元へと向かうべく長い廊下を再び歩き始める。
 ――同じ頃。
(「鋼誠のお嫁さん……夢みたい」)
 これまでも、傍には居てくれたけれども。
 これからは……いつも、いつまでも、彼がすぐ隣にいてくれる日々。
 当主となったばかりで、まだまだ忙しくて大変なことも沢山あるけど。
 二人一緒だから……すごくすごく、幸せだよ――綾乃はそう微笑んで。
 そっと優しく、お腹を撫でる。
 気持ちが通じ合い、その心に互いに触れ合った、運命の日。
 それからは二人一緒に、激動する世界を必死に生きてきた。
 皆を、そして何よりも大切な人を護る為に強くなりたいと、そう死と隣り合わせの青春を駆け抜けてきて。
 彼だけの巫女になるべくその背中を支えたあの日、そして彼を照らす月となって、共に赴いた戦場。
 その結果、皆で掴んだ、今という幸せの未来があるのだ。
 そして――新しい命の息吹が今、綾乃のお腹には宿っていた。
「お腹のこの子にも、伝わってるのかな、この幸せ」
 そう微笑む綾乃の表情は、大切な人と育む愛しい存在が増える喜びの色で満ち溢れていて。
 次第に近づいてくる大切な人の足音に気付き、幸せいっぱいに瞳を細めて小さく首を傾ける。
 彼に、どうやって伝えよう? と。
 神様がくれた、おくりもの――この新しい家族という、命の芽吹きを。

 銀誓館学園を卒業した後。
 八幡・鋼鉄(心地よい住環境を貴方に・b80128)は、各国の小さな農村を廻る旅をしていた。
「これでこの村は当面大丈夫そうやね」
「あはっ、新しい建築士の卵さんも見つかりましたし、村の人達も喜んでくれてましたね!」
 その隣には勿論、鈴森・奏(は走り出したら止まれない・b81438)の姿も。
 金毛九尾達にも後押しを貰った、除霊建築学を用いた都市計画。
 そして何より、この力で誰かを救いたい。その為に世界を巡りたい。
 そう鋼鉄に告げられたのは、月や星が煌いていた数年前のマヨイガの展望台であった。
 それに返した奏の言葉は、自分も付いていく、という迷いなき決意。
 そんな世界を共に廻る二人の今の主な活動は、世界の小さな村々を巡りその土地を無償で除霊をすることや、迎える神秘世界の広報、ゴースト退治と村との交渉などである。
 まだまだ除霊建築は勉強中の身であるものの、鋼鉄の手伝いを中心に彼を支える奏は。
 胸の前で手を合わせ、お疲れ様でした、と彼を労うも。
「その土地の地形に風習、使える材料や運用とかを考えると、集落や都市単位での除霊建築の計画は頭が痛いのぅ」
 僕の力でこれからどんだけやっていけるやろか……そう呟いた彼に、笑顔を向けて。
 これからはあの子がこの村を守ってくれますよ、と新しい除霊建築士の子に視線を向ける。
 それから、すぐに鋼鉄へと瞳を戻してから。
「あはっ、辛い時はいっぱい甘えて下さいね?」
 そうそっと彼に寄り添う。
 いつも頑張ってる姿を知っているから。そんな真っ直ぐな姿が大好きだから。
 だから――いつだって私が支えますよ、と。
「ん……ありがとさん。奏さんがおらんかったらもっと早く音をあげとったかもしれんな」
 鋼鉄はそうふっと柔らかく瞳を細め、顔を上げた後。
 そんな奏の頭をそっと大きな掌で撫でてから。
「諦めんと僕に出来る事を全力でやるだけっちゃね」
「私たちは比翼連理。二人で一緒に乗り越えましょうね」
 さて次の国へ行こうか? そう手を繋いで歩き出すのだった。
 昔から変わらない矜持――『鉄の意志』を胸に、二人一緒に。

 いつから恒例になっただろうか。
 昔よく一緒に色々なものを作ったりはしたが。
 それから数年が経った今でも、こうやって、たまに一緒に小物作りをしている。
 宵凪・朔(遥陽在りて・b04318)は小物作りに必要な材料を買うため、鈴代・コウ(空椛・b16119)と待ち合わせをしている場所へと早足で向かう。
 そしてその肩に下げる鞄の中からひょこりと顔を覗かせるのは、栗色の猫・もなか。
 放浪生活が最近板についていた相棒も、今日は一緒で良かった、と。
 朔はそう、安堵し微笑んでから。
 視線の先に見つけた彼に、手を振った。 
「コウ君、お待たせなんよ」
 すっかり大きくなったその姿に、コウちゃんと呼べない寂しさをちょっぴりだけ感じながらも。
 けれど頼もしい成長は誇らしいと、朔は彼の顔を見上げた。
 そんな彼女に軽く手を振り返し、待ってへんよ、とコウは首を振ってから。
 笑顔で駆け寄ってきたその姿を瞳に映した。
 前よりまた少し大人のお姉さんになった気もしつつ、でも、その可愛らしさは変わらず和む――と。
 それからコウは、ふと彼女の鞄にも目を向けて。
「今日はよろしくや。もなかも元気そうやね」
 にゃーと返ってきた返事に、もう少しそこで辛抱な、と小さく笑むのだった。
 そして――二人と一匹が向かったのは、街の手芸やさん。
 コウの手の中にある毛糸は色とりどり、白に黒に赤、それにオレンジ。
「いろんな色の猫がいると楽しいやろ?」
 昔から物作りが得意な彼が作ろうとしているのは、猫のモチーフがにゃーんと繋がった膝掛け。
 ふわふわでカラフルな毛糸を次々と手に取れば、自然と気分も昂ぶってくる。
「だんだん燃えてきた。よし、猫の編みぐるみも作ろ」
 そんなコウにやる気を触発されて。
「ボク、やなくて私も負けられない」
 朔も気合を入れて、ほこほこあたたかい色をした暖色系の毛糸とコロンとした木製ボタンを選んだ。
 作ろうと思っているのは、手袋とポンチョ。手袋は指出るタイプで、指カバーは猫さん型に。
 そして、材料を確認して、会計を済ませながら。
「編みぐるみも教えてね」
「ん、指導は任されよ」
 朔のランクアップした挑戦心にこそっと感心しながらも、コウはえへんと胸を張って。
「さ、荷物は俺が持つよ」
 さり気ないその気遣いに、立派な紳士さん! と朔も感激。
 それに……互いに互い気付いていた、一人称や雰囲気の変化。
 自分も一人称が変わったように、相手もこれまでの数年で環境の変化もあっただろうし。
 何よりも……あ、変わったなと。分かるくらい一緒にいた過去があるのは幸せだと、コウは思うから。
 でも、やっぱりそれでも。
 本質はお互い変わらないと――そう、朔は小さく笑む。
 それから材料もバッチリ調達、コウの家に到着すれば。
「クウちゃん立派に……!」
 出迎えるは、どっしりオカンの貫禄がついた三毛猫クウと、同じ三毛柄の子猫達。
 朔は、子供猫さんも可愛い、と瞳をキラキラとさせて。
 もなかもお邪魔しますと、にゃーとご挨拶!
 そんなもなかを、仲良くね、とにゃんこの楽園に送り出して。
 じゃれじゃれと戯れ始めた猫達を横目に――いざ、編み物開始です!
 コウも、クウともなかのよく見たコンビに加えて。子猫も混じってにゃんにゃん遊ぶ姿は新鮮だと眺めながらも。
 沢山の猫さんを編み編みすべく、毛糸をくるり。
 そして猫達が遊ぶ中、黙々と張り切って編み進めていくも。
 手袋の細かい猫さんカバーの部分に悪戦苦闘、コウ君! と朔のヘルプが!
 そんな声にもしっかり応え、コウはやり方やコツを教えてあげるも。
 ふと気がつけば、猫さんモチーフが増えてる……!?
 いえ、猫は猫でも。
「重い思たら毛糸で猫が釣れとる……」
 にゃにゃーんと毛糸にじゃれつく、猫さんたちです。
 そんな毛糸と戯れている愉快なにゃんこの可愛さに、思わず写メをぱしゃり、作業も中断して一緒に遊ぶも。
 これもれっきとした休憩時間、猫パワーでやる気も充電完了!
 作業もすいすい、最後の仕上げに。
 そして、先に完成したコウのにゃんこたくさんな膝掛けは、早々と猫達のお布団に。
 それから……もなかによく似た、栗色のもこもこ猫さんの編みぐるみは、朔へ。
「猫ぐるみ大事にするんよ」
 そうコウの猫ぐるみをぎゅっと抱き締めてから。
「手袋くれるん? ありがとう。お、ぴったりや」
 編んでいた猫さん手袋は、実はコウへのプレゼント。
 ポンチョはすぽっと、もなかへ。
「交換も何回目やろ」
 あったかぬくぬくな可愛い手袋に、そうコウは小さく笑って。
(「変わっていきながら、変わらない大好きなものも大事にしたいんよ」)
 一緒に作ってきた今までに、有難うを。
 そして朔も、互いの成長見つめて。素敵な時をずっと紡げますようにと、そうあったかい時間に瞳を細める。
 そんな二人が毛糸と一緒に編みこんだものは、同じ。
 沢山のありがとうと、これからもよろしく――そんないっぱいの、大好きの気持ち。

 これまで、世界を旅していた秀都であったが。
 今、彼がいるのは――日本。
 大晦日の今日、秀都は銀誓館学園に通っていた頃に結ばれた仲間達が活躍するその姿を、観に来ていたのだ。
(「まあ、たまには観客としてみんなの活躍を見守るのも悪くはない」)
 煌びやかなステージで歌い、踊り、楽しそうな笑顔を宿す彼女達は、相変わらずで。
 いや、昔よりもその輝きはむしろ、より一層増している。
 毎年恒例となった、シークレットカウントダウンイベント。
 今年も客席は、最高のパフォーマンスを楽しむお客さんでいっぱいだ。
 そんな様子を客席からぐるりと見回し、満足気にうんうんと頷いた後。
(「しかし、ステージ魂と言うか、ついステージにお邪魔してしまいそうになる……」)
 愛用のギターをかき鳴らし、いつものお決まりの台詞を叫びたくなる様な。
 そんな宿命に似たような葛藤には耐えがたい。
 でも……今年は、頑張って我慢。
(「ま、今回はみんなの活動に惜しみない拍手を送ろう」)
 次の曲がはじまるやいなや、一気に盛り上がりが最高潮まで高まる会場で。
 目一杯、頑張る仲間達へと、客席から拍手とエールを送るのだった。

●2018年:日常
 それは、二人とも社会に出て、同棲をしていた2018年のことであった。
 大学を卒業後、一ノ瀬・透也(はねむいだるいかえりたい・b53925)は、幼馴染の仕事の手伝いをしていて。
 旻・遊飛(虹雫・b39080)も社会人になって、4年程。
 仕事も家事も、それなりに慣れてきた頃だ。
 そして普段通り二人一緒に。
 いつものように、ゆるやかな夕食後のひとときを送っていた――かと、思われたが。
 ごちそうさまーと手を合わせ、食事を終えた透也は、目の前の遊飛の姿をじっと見つめてから。
 ずっと考えていた事を、彼女に言ってみたのだった。
「ねぇ、あそびちゃん。結婚しようか」
「……そうね。結婚……」
 あまりにもさらりと言った彼の言葉に、思わずそう普通に頷いてしまったものの。
 途中でその意味に気づいた遊飛は、眺めてた雑誌を思わずバサリと落として。
 瞳を大きく見開き、さすがに驚くも。
「あそびちゃんの驚いた顔、久しぶりに見た」
 あまりにさらりと言いすぎたかなと、小さく首を傾けているそんな透也の様子に、とても彼らしいと笑んで。
「俺、あそびちゃんのウエディングドレス姿、もう1度みたいな」
 ――返事、聞かせて?
 そう自分だけを映す彼の瞳を見つめながら、思う。
(「あぁ、じっとわたしを見る貴方の視線、やっぱり弱いのよね」)
 そして、こくりと頷いた遊飛は。
「ずっと一緒だって約束したものね」
 彼に笑み返して、思わず透也のその手を取ったのだった。

 同じ時、世界を巡っていた零冶と姫菊が差し掛かったのは。
 美しい海を臨む、地中海沿岸の都市であった。
「この辺りでちょっとした有名店らしくて」
 心地良い風がさらりと頬を撫でる中、海辺のカフェで二人はランチタイム。
「有名店って言うのは納得かも」
 少しお昼時から時間を外したというのに、店の中はお客さんでいっぱい。
 地中海の恵みをふんだんに使用したシンプルだけど美味しいランチを味わいながら。
 姫菊は、今度家で作ってみようかしら、なんて思ってみながらも。
 零冶と二人、これまで巡ってきた世界各国での思い出話に暫し華を咲かせる。
 そしてそんな彼と会話を交わしながら、良い男、と。
 世界を巡って、これまで以上に逞しく益々素敵になっていく彼の姿に、姫菊は改めて惚れ直す。
 それから――ふと、食事も会話も落ち着いた頃合を見計らって。
 姫菊の前に零冶が差し出したのは、綺麗に包まれた小さな箱。
 そして、こんな時にプレゼント? ときょとんと首を傾けている彼女に。
 零冶は、こう告げるのだった。
「付き合って6年……これからの時間も一緒に過ごそう」
 その箱をそっと開けてみれば――中には、シンプルな指輪とネックレス。
 姫菊はその箱の中身を暫し見つめた後。
「はい。宜しくお願いします」
 顔を上げて彼へと、そう返事を。
 今度は……彼のことを困らせる必要は、ないから。
 そして零冶は姫菊の手をそっと取って、箱の中から指輪を取り出しながら。
 冗談交じりに、戦いの邪魔になってもいけないし、と言いつつも。
 スッと、姫菊の左手の薬指に、静かに煌く指輪をはめたのだった。
 それから、自分の指で光る指輪を愛し気に見つめる姫菊は。
「告白は私からだったけど、今度は待っていて良かったわ」
 そう、幸せいっぱいの微笑みを彼に向けて。
 零冶もそんな愛しい人の言葉に、自然を笑みを零すのだった。

 将来学舎を建てるこの土地に、綺麗な桜の花が咲きますように。
 そして見知らぬ桜好きの人が噂を聞いて、此処を訪れる様になりますように。
 満開の桜がいつかこの場所に建った学舎に、春の彩りを降らせるような――そんな未来を願いながら。
 学舎を建てる為に知人に借りた土地に、桜の木を植えようと。
 基は紗理亜と共にこの日、この場所を赴いていた。
「きっと綺麗な花が咲いて、お花見が出来ますね」
 そうなる様に大切に育てましょう、と。
 どこか慈愛に満ちた眼差しで、紗理亜は、今はまだ小さな桜の苗木を見つめる。
 子供達も、桜が好きな人や通りすがりの人も――沢山の人がみんな、笑顔になれる様に、と。
 彼と、同じことを願いながら。
 それから基は、植えた桜から彼女へと視線を移し、瞳を細めて。
「いつか誰かに渡す日が来るのかな、とかね」
 昔、学園に来て初めてこれ拾った時に思ったな、と。
 そっと取った紗理亜の掌に、古ぼけたその指輪を落とした。
 そして――その自分の手の中で左右に揺れている円環の軌跡を眺めている間に。
「君と一緒にいたい」
 今度はその言の葉と共に、銀色に光る新しい指輪が、薬指に優しくはめられて。
 俺のこの先の未来を全て君に委ねたい――彼の声がそう耳をくすぐった刹那。
 基の温もりが、ふわりと全身を包み込む。
 引き寄せられ、告げられたそんな言葉に、最初こそ驚いて実感が湧かなかった紗理亜であったが。
「はい……私も。ずっと一緒に」
 銀色の輝きを纏う掌を、基の大きな背中に回し、抱き締め返した後。
 与えられる口づけを受け入れ、唇を重ねたのだった。
 そのキスはじわりと溶けるように優しく、胸いっぱいに広がって熱で満たして。
 泣いたことなんて、ずっと無かったのに――瞳から、ぽろぽろと涙が溢れ出る。
 でもこれは間違いなく……凄く、幸せな涙だから。

 渡会家の土地の端に建つ小料理屋には、腕の良い料理人と気立ての良い看板娘がいると。
 そんな評判を聞きつけた客足が絶えない、お昼時。
 当主補佐という立場ではあるがそれはそれ、間借りした土地にちゃっかりと店を構えた鋼誠は、この日もその腕を振るっている。
 これは外の情報を仕入れるため……というのは、実は建前で。
(「こうして飯作ってる方が楽しい…そんな理由だったりする」)
 手際良く完成した出来立ての料理を運んで貰うべく、看板娘に声を掛けた。
 その看板娘は、勿論。
(「今日は当主の仕事をサボ……えへへ、お休みして、鋼誠のお店を手伝いに来ちゃった」)
 旦那様のお仕事を手伝うのも妻の務め、と。
 お忍びで手伝いに来ている綾乃である。
 旦那様の方が料理が上手だということは、ちょっぴり複雑ではあるものの。
(「美味しいからいいよね。とっても評判がいいらしいし、私も嬉しいよー」)
 そして一族を束ねる者として忙しい毎日を送っている綾乃にとっても、この店は。
 当主ではなく、鋼誠の妻としていられる大切な場所であるのだ。
 でも、何だかたまに店を手伝っている時に視線を感じるような……と、ふと綾乃は首を傾けた後。
 気を取り直して鋼誠の料理を運びながら、店に新たに入ってきたお客さんに、笑顔でいらっしゃいませーと声掛けを。
 そしてそんな綾乃の笑顔に、ぼーっと立ち尽くしてしまった男性客に向かって。
「……おいそこの客。俺の……ああいや、うちの看板娘に手ぇ出したらどうなるか、分かってんだろうな?」
 包丁片手に、そう凄んで言った鋼誠に。
「あ、鋼誠! ダメなんだよー、お客さんにそんな顔しちゃ! スマイル、スマイル! ねっ?」
 綾乃は瞳をぱちくりさせながら言った後、すっかりびびってしまったお客さんのフォローを慌ててするのだった。

 ようやく片付いた、重大な案件。
 紆余曲折あったものの、無事に厄介ごともクリアーできて。
 情報をクライアントへと渡すことができた。
 そんな裏社会での情報屋として、相変わらず仕事をこなしている翔は。
 笑顔で客を見送ったその後、文机へ。
 それから少しホッと息をついた後、おもむろに仕事を再開する。
 それは、頼まれて集めた資料を、ある探偵事務所へと送ること。
 集めた資料を整え、厳重に封筒に入れて、郵便局へ。
 その宛名は――かつて学園の探偵時代に世話になった、着ぐるみ探偵の事務所。
 そして無事に書類を送り出し、事務所に丁度戻った、その時だった。
 息をつく暇もなく次の来客があり、また依頼を受けることに。
 翔は訪れた客に、ソファーを勧めてから。
「ようこそ、本日はなにを知りたい?」
 早速、次の依頼に取り掛かる。
 
「何とか当初の目標もクリアだな」
 そうふっと安堵したように、一瞬だけ思わず表情を緩める煌。
 大学は、一年留年してしまったけれども。
 それでも、きちんと卒業することができたし。
 それに何よりも。
 この2018年、今月今日この日に。
 取得したのは――目標であった、薙刀の三段。
 これで、初心者の指導に適する者だと、世間に認められたという証である。
 だが、これで満足しているわけではない。
 あくまでもこれは、ひとつの目標という通過点。
「もっと上を目指したいけど、それは来年の五月の審査までお預けだな」
 さらなる高みを目指し、またひとつ、来年の審査で上を臨めればと。
 そしてそれまでは、今まで通り――日本の各地を巡っていこう。
 そう、愛用の薙刀を握り締め、頷く。
「薙刀やってる所があったら、短期の講師になるのも良いかもな」
 自分の為にも、人の為にも、この薙刀が力になればと思う。
 いずれにしても――後悔のないように、と。
 煌はそっとおもむろに瞳を閉じてから。
 自分自身にぺちぺちと気合を入れなおすと、顔を上げ、前を向いたのだった。
 後悔ばかりしてきたから、今度こそ――そんな祈るような決意を、胸の奥に抱きながら。

 こうやって皆で訪れたのは、何年前だっただろうか。
 今日は――鎌倉宮例大祭。
 あの頃も今と同じ様に、浴衣の袖をひらり躍らせ、下駄をカランコロンと鳴らして。皆で楽しげに鎌倉を歩いた。
 そして、2018年の今日も。
「やべー久しぶり!!久しぶり!!」
「ハル嬉しいからって落ち着きなさすぎやて」
「落ち着きがないとかそういう!! 同窓会くらいいいじゃーん!」
 連絡が来た段階で、賑やかになりそうですよ、と。そう携帯の着信を鶫に見せた窓日の予想通りに。
 後ろで結んだ金色の髪を揺らす定晴と、短めの髪をピンで留めている薫は早速じゃれ合って。
「お久しぶりです!」
 それに、柚子も加わる。
 そして相変わらずな定晴たちの仲の良さに微笑みながら。
「わあ、わあ、皆久しぶりですのっ!」
 そう皆に駆け寄ったエルジェーベトは、セレ君こっちですのー! と、セレブラを手招き。
「皆久し振りだね。なんだか見違えたよ」
 そして、懐かし気に皆に笑んだ後。
 皆に報告もあって来日したんだ、とセレブラはエルジェーベトと視線を合わせ微笑み合ってから、話を切り出すのだった。
「実は僕達、結婚したんだ。今回はその報告も兼ねて、ね」
「今はロシアに二人で」
 セレブラの報告に続き、はにかみながら左手薬指の指輪をみせるエルジェーベト。
 そんな彼女を見つめ、これからはもっと守らないとね、とセレブラは瞳を細めて。
「えっ、エリザ先輩とセレブラ君は結婚ですか!」 
 柚子は驚いたように声を上げた後。
「エリザちゃんとセレちゃんは結婚か! 今ロシアに住んでんの、すごいなあー」
「エリザちゃんセレくん結婚オメ!!!」
「お、おめでとうございます! 式には呼んで下さいね! 絶対ですよ!」
 わーっと祝福する定晴と薫に、お二人の結婚はもう終わってる? とにやにや。
「わ、ご結婚おめでとう御座います。末永くお幸せに……!」
 シーラもお目出度い報告に祝辞を言った後。
(「わたしも直に奥様になるのでしょう、きっと。ふふ、何だか想像出来ませんね」)
 幸せそうな二人を見つめながら、そう瞳を細める。
 そして、二人の結婚に皆が次々お祝いする、そんな様を見て。
 皆が集まると知り、嬉しく思っていた鶫は、相変わらずな皆の様子を微笑ましく眺めながら。
 少し流石に照れるが、人の雑踏で迷子にならぬようにと。
 傍らに居る、お祭りの景色にきょろきょろしている男の子と女の子の双子を、抱っこするのだった。
 そう、2歳になるこの子たちは、鶫と窓日の子ども。
 父親に似た漆黒の髪の女の子と、母親に似た柔らかな香色の髪の男の子。
 鶫は言葉と文字を通して、これから生まれる子供達の為になれたらと。
 今は、就職した後書いた絵本がきっかけで作家になったという。
 窓日も鶫と結婚して家族ができ、今は大学を休学して装丁業に専念しつつ、子育て中なのである。
 四年も経つと少しずつ変わりますね、とそう兵児帯を結んであげた子供達に笑む窓日に。
「窓日さんのお子さんは双子さんですね。とても可愛らしいです……!」
「わ、わ、お子さんですかっ! かわいい〜! はじめましてー! ゆずぽんですよー!」
「うわー! 窓日ちゃんと鶫ちゃんの子かわえーな!」
 シーラと柚子は再び驚きの声を上げて。
 薫は子供達と同じ目線になって、二人にそっくりやなー! と話しかける。
 そして定晴も、鶫に一言言ってからひょいっと二人の子供達を抱っこして。
「スゲー!! ちっちぇえ!!」
 高い高い! を。
「窓日さんはお母さんですか、可愛らしいお子さんです」
 夜色は、母親の表情をして子どもを見守る窓日に言ってから。
 私もいずれはなれる、でしょうか……と小さく笑む。
 この数年間で皆それぞれ変わったけれど、でも変わらなかったり……そしてそれは自分も、例外なく。
(「以前来た時は窓日さんと林檎飴食べたりヨーヨーを掬ったり……皆と騒いですごく楽しかった……」)
 今でも鮮明に覚えている、あの夏のひととき。
 それを思い出し夜色は、思わずくすりと笑む。
 そして鶫は再び子供達を抱っこしながら。
「子供達は見ているから夜色と行っておいで」
 窓日に、そう優しく言ったのだった。
 あの夏と同じ様に、まんまるで真っ赤な林檎飴を食べて。ヨーヨー掬いを1回。
 夜色は、前の時よりもスッと掬うことができたけれども。
 自分が選ぶ色は……ただ、1つだけ。
 柚子も、えいっとヨーヨーを掬って遊んで、わたあめをこそりお土産に。
「久々の駄菓子は相変わらず美味しいです!」
 シーラも、わたあめや林檎飴を手に、にこりと嬉しそう。
 そして、久しぶりの日本のにはしゃぐエルジェーベトは、はぐれないようにと、セレブラとしっかり手を繋いで。
 セレブラも握ったその手を離さないまま、彼女と一緒に祭りを楽しんでいる。
 それから……皆が見つけた屋台は。
「おっ、金魚すくいやる? 懐かしなー」
「高校ん時よくやったなー!! 懐かしいー!!」
 そう、あの夏も皆で遊んだ、金魚掬い。
 昔より金魚取れたりしねーかな? と狙いを定め、前よりも少しだけ多く掬えた定晴の隣で。
 今回は1匹も掬えなくてしょんぼりする薫だが。
「窓日ちゃん上手なってるー! 練習したんか、努力家やな!」
 子供を片腕に、明らかに上達した手つきで、金魚を掬っていく窓日。
 そんな、久しぶりに会った皆であるが。
 愉しい時間をこうやって変わらず共にできるのは大変嬉しいことですね、とシーラははしゃぐ面々に微笑んで。
 鶫は楽しそうな友人たちの様子を見つめた後、ふいに我が子へと目を移し、瞳を細め思うのだった。
 この子達も、いつか大きくなったら友人と祭りに行ったりするのだろうか――と。

 たまーに、レアーナに愚痴を聞いて貰うため、来ているとはいえ。
「今日はみんなが揃う日……」
 この日、【学生寮 ◆風月華◆】の階段を上るヒナノの足取りは、とても軽くて。
 こういう気分なのは本当に久しぶりだと、笑顔を宿す。
 そんな彼女を待っていたのは。
「ヒナノさん、今日は愚痴はナシですよっ!」
 ヒナノ曰く、寮のヌシと化したらしいレアーナ。
 そして、初めてこの街に来た時の事を、皆との思い出を、沢山いっぱい思い出しながら。
 ゆっくりと石段をのぼって家路につくファルチェの姿を見つけて。
「お久しぶりです、ファルさん。っと……風月華流に……おかえりなさい♪」
 懐かしの石段の先で、おかえり、と。そう親友を出迎えた。
 そんな言葉に、ただいまです、と返してから。
 子どもっぽいかもと思いながらも、思わずレアーナにぎゅっと抱きつくファルチェ。
 だって……嬉しくて、仕方がないんだもの。
 そんなファルチェにヒナノも笑んで。
「お久しぶりですー♪ ファルちゃん、また一層所帯じみて……!!」
「久しぶりね皆ー! 元気だったかい〜?」
 タッタッと石段を駆け上ってきたのは、遙。
 そして、会うなり全員にハグしていく構えの彼女に。
「遙さんも、もうちょっと頻繁に帰ってきて下さいね? お部屋の掃除大変なんですから」
 そうぴしゃりと言い放つレアーナ。
 それから遙は、かわるがわる親友達にハグしていきながらも。
「や〜この感触も久しぶりっ。おや、ファルは少し大きくなった? ヒナノは……どんまい! レアーナは相変わらずだね……」
 ひとりひとりに、そう笑顔をみせてから。
「私達が集うとしたらここになるわね。風月華……ただいま」
 皆で帰ってきた風月華に、ただいまを。
 それから全員集合して、感動の再会を果たした後は。
 レアーナの作った和食料理を摘みながら、いつも通り、きゃっきゃ話に花を咲かせる。
「レアーナって和食作れたっけ? けっこーやるわね」
 はむりと食べてその美味しさにそう言った遙の隣で、頷くファルチェ。
「あ、これ美味しい。レアーナさんこのレシピ教えて貰えますか?」
 やっぱりファルちゃん所帯染みたねーと笑うヒナノ。
 そして今、世界各地を回る神秘探索の冒険家として活動しているという遙が。
「っと、そうだった。お土産持ってきたのよー」
 何だかとっても神秘的なお土産を持ってきました!
「遙さん、その見るからに怪しげなのは……え? お土産? の、呪われてたりしませんか、それ?」
「え、遙さんなんですか、その呪われそうなアイテムの数々!!」
 その神秘的さ加減に、思わず同じツッコミをするファルチェとヒナノ。
 絶対喜ばれない系の、世界各地で手に入れた珍品です。
 レアーナはそんな遙が持ち帰った神秘的な珍品の数々をささっと整理しつつ。
「ほら、これこの前の誕生日の写真。大きくなったでしょ?」
「あはは♪ 出会った頃のファルさんを思い出しますねー♪」
 ファルチェが差し出した彼女の写真に、そう笑んで。
「きゃー、ファルちゃんの子かわいー!! そっくりー!! えっへんってしてるー!!」
「わー、昔のファルそっくりねー。この偉そうな所とか!」
 きゃーきゃーと学生時代と変わらず盛り上がるヒナノと、母親に似て偉そうにえっへしている姿に思わず笑う遙。
 そして、遙さんのいじわるっ、と頬をぷくりとさせて言ったファルチェを後目に。
「んでヒナノは恋愛どうなん?」
 ヒナノにそう聞いちゃいました!
 話を振ったけど、その顔は見ないようにしつつも。
「え、あー。わたしも今年でようやく大学卒業です。6年制大学って、もう忙しくて忙しくて参りました……」
「ひ、ヒナノさんにも良い出会いはあるはずですから……」
 案の定やっぱりなそんなヒナノの答えに、ほろりとそう肩ぽむするファルチェ。
 それから話は、結婚を含めたこれから先の未来のことに。
「私はもうしばらく銀誓館で教員生活ですね。ドイツに分校を設立できたら、と」
 遊びに来て下さいね、と、いつか語った夢の実現を願うレアーナ。
 いつか再び皆の道が交わる時も、今と同じ笑顔でいられますようにと――そう願いながら。
 でも……この4人ならば、大丈夫。
 まるであの頃に戻ったように、沢山笑い合って、いっぱいお喋りしている姿をみれば。
 遙は、そんな昔と全然変わっていないこんな様子に、あれ?いつも通り? と一瞬首を傾けるも。
(「まぁいいか、この4人でこのノリが一番落ち着くのよ」)
 そう親友たちをからかって、けたけたと笑って。
 時間が経っても変わらないこの大切な友情を、これからも永遠に続けていきます、と。
 ヒナノは親友たちとずっと一緒の自分たちのエピローグを、この風月華で。
 そう、心に綴るのだった。

●2019年:日常
 プロポーズをしたのは、丁度1年前の今頃であった。
 それから準備を重ねて――今日は、結婚式当日。
 二人で選んだウェディングドレスに袖を通しながら、遊飛はふと思わず懐かしむ。
 昔、仮想結婚式とかしたっけ――と。
 そして新婦控え室に姿を見せたのは、タキシード姿の新郎。
「あそびちゃん、やっぱり綺麗だね」
 純白のウェディングドレスに身を包む彼女に、透也はそう微笑んで。
「ありがと。とうやくんこそ、とても素敵」
 笑み返してきた遊飛に、透也はこう続けるのだった。
「覚えてる? 昔、マヨイガにある遊園地で仮想結婚式を挙げたこと」
 そんな言葉に、遊飛は思わずくすり。
「わたしも同じ事、考えてた」
 それから式が始まるまでの間、懐かしい昔話を。
「こうやって今みたいにドレスを着たあそびちゃんと結婚式を挙げたよね。あの時はドキドキしたんだよ」
「わたしもすごくドキドキしたわ。あの時はこんな風に結婚なんて考えてなかったけど……、嬉しかったのよ」
 ずっと一緒になんて約束、そうそうできないもの、と。
 遊飛は当時を思い出しながら透也を見つめて。
「今までもこれから先も、一緒に居てくれてありがと」
「俺のほうこそ、ありがとう」
 透也は自分だけの花嫁に、心からの微笑みを返す。
 そして――式の時間。
 祭壇で待つ彼の元へと、バージンロードをゆっくり歩きながら。
 7年前、仮想結婚式を挙げたあの時から。この気持ちが揺らぐことはない、と。
 相手はとうやくん以外考えられないくらい――そう、静かに煌くステンドグラスの前に立つ、前よりもずっと逞しく見えるその姿を真っ直ぐに見つめて。 
 彼の元へと辿り着き、見つめ合いながら遊飛は強く思う。
 これから先、一緒の道をずっと歩いていきたい――と。
 そして自分の元へと辿り着いた彼女に歩み寄り、嬉し気に微笑んでから。
 この先も、ずっと大好きな彼女と居たい。この気持ちは昔から変わっていない、と――透也も、愛しい彼女の姿だけを瞳に映した。
 いやむしろ……この想いは昔よりも強くなっていると、そんなことさえ思うくらいに。
 それから透也は、今の溢れんばかりの想いを、彼女の耳元で囁く。
「遊飛、愛してる」
 この先もずっと、二人で手をつないで歩いていこう。
 二人でならきっと何があっても乗り越えていけるから――と。
 そんな囁かれた気持ちに、そして初めて呼び捨てで名前を呼ばれたことが、遊飛はどうしようもなく嬉しくて。
「わたしも、愛してるわ。透也」
 そう返して、改めて誓い合うのだった。
 これからもこのぬくもりが消えないように、手を繋いで……ずっとずっと、一緒だと。

●2019年:同窓会
 この日は――鋼誠と綾乃、二人揃ってのお出掛け。
 いや、二人だけではない。もう一人……鋼誠の腕の中で今、すやすやと健やかに寝息をたてて眠っている。
 そして今日は、皆で集まる同窓会。
「久々に皆と会えて嬉しいなっ」
 学園に通っていた時と雰囲気が全く変わっている子もいれば、相変わらずな子もいて。
 銀誓館を卒業した後の皆の未来は、聞けば聞くほど様々。
「よう、久しぶり!」
 鋼誠はふと、会場でもよく目立つ赤い髪を見つけて。
 振り返った右京も、おお久しぶりだぞ! と再会を互いに喜び合う。
 ――そして。
「どう? 右京くん、私、ママになったんだよー?」
「どうだ五十嵐よ……俺もついに親父だ」
「えっ、鋼誠と綾乃の……!?」
 右京はそうぱちくりと瞳を瞬かせるが。
「そっか! うわーおめでとうだぞ!!」
 すぐにパッと笑顔を宿し、友の幸せを目一杯祝福して。
「それにしても、綾乃が母親なのは何となく分かるとして、鋼誠が父親とはなぁっ」
「いや俺自身もつい2年ほど前までは、想像がつかんとか言っていたんだがな……」
 鋼誠はそう少し照れたように笑いながら、傍らの綾乃と、そして腕の中の子供を見つめて。
「幸せとは、こういう事を言うんだろう」
 そうしっかりと、腕の中にある幸せの重みを抱き締めるのだった。
 そして。
「で、お前の方はどうよ?」
「右京くんはどうなのかな? 上手くやれてる?」
「え、俺っ?」
 赤い狐は猫とよろしくやってるのか? と。肘でうりうりとされた右京は。
 じっと自分を見つめる鋼誠と綾乃の視線にちょっぴり照れながらも。
 銀誓館の教師になって3年目の昨年に、俺も結婚したんだぞ……と、そう報告してから。
「ていうか、それはともかくっ。赤ちゃんはパパ似か? それともママ似か?」
「そう照れるな、五十嵐。よし、色んなところが似た者同士……語り合おうぜ」
 何気に話を逸らそうとする友に、そうはさせまいと。そうだ、小料理屋やってるから今度二人で来てくれな、と、鋼誠はいい笑顔。
 それから、二人が得意とする料理談義に華咲く様を、微笑ましげに眺めながらも。
 綾乃はふと、物思いに耽る。
 こうして幸せを感じるのは皆のおかげで。感謝しても、し足りない、と。
 それから鋼誠に抱かれ眠る我が子を見つめ、思うのだった。
(「時代は過ぎて、新たな生命が産声を上げる。私達の子供は、新時代の申し子」)
 そして――その未来に、幸あらんことを……と。

●2020年:卒業式
 小学校から通っていた銀誓館学園とも――今日で、お別れ。
 貰った卒業証書を握り締め、長い髪を揺らしながら、寂しくて泣いてしまった百合音に。
「また二人で遊びにこよう?」
 そっと肩下までの髪を撫でてから、親友を慰めるようにそう声を掛ける晶。
 先生もお友達も皆大好きでした、と。
 百合音は今までの思い出が募り、胸がいっぱいになって。
 肩を抱いてくれた晶に、ぎゅっと抱きつく。
 それから、みんなで一通り泣いてから。
 夕暮れの銀誓館の校舎を二人、並んで歩く。
 この学び舎で過ごした年月は、まだ小さかった女の子を少女へと変えて。
 これからこの学園を羽ばたいていく少女たちは、大人への道をそれぞれ進み始める。
「随分長い事この学校ではお世話になったと思う」
 そうしみじみと言った晶に、百合音は頷きながらも。
「昔は晶ちゃん、がうがうってとっても可愛かったです」
 そんな昔の口調のことを持ち出されて。晶は恥ずかしさに顔を隠しながら、ユリはいじわるだ、と返して。
 小学校、中学校、そして高校と――過ごして来た学園での日々を。
 この学園の生徒である最後のこの日、一緒に沢山思い出しながら、泣いたり笑い合ったりして。
「この学校に来て本当によかった」
「晶ちゃんも私も随分と大きくなりましたね」
 夕焼けの校舎でもう一度、ぎゅっと二人は抱き合ったのだった。

●2020年:日常
 2020年の小春は、幸せいっぱいの新婚さん。
 検察官の仕事も愛する家族のために、今まで以上により一層頑張っている日々。
 そんな忙しいけれど、充実した毎日を送っていたある日。
「詩杏センパイ、お久しぶりです!」
 詩杏が能力者に覚醒したという話を聞いて、久しぶりに彼女に会いに来たのである。
「小春さん、お元気でしたか? お久しぶりですの」
 そんな詩杏に、小春は訊いてみる。何のジョブに覚醒したんですか? と。
 その問いに、どのジョブだと思いますか? と逆に聞かれて。
「何のジョブに覚醒したのかなー……呪言士とかの和風な感じ?」
 ……猟理師とかコミックマスターとか。
 ある意味、詩杏がなってはならない気がする恐ろしい可能性は、この際、明後日の方向へぶん投げました!
 そんな小春の予想に、詩杏は、はわっと声を上げて。
「実は私、猟理師さん……」
「えっ!? えええッ!!!?」
「……など、花嫁修業している身としては憧れていたんですけど」
「あ、憧れか……あれ食べたり飲んだら流石にゴーストが……」
 心からホッとしつつ、ぼそりと呟いた小春に。
「それにしてもよくお分かりですね。私、呪言士が本業で、書道使いがバイトジョブでしたの」
 詩杏はそう告げたのだった。
 話を聞けば、大学院を卒業した彼女は、文芸翻訳家になったのだという。
 能力者としてのジョブも、何となくそれっぽい。
 それからふと小春は、詩杏をゴーストタウンへと誘う。
「センパイ戦闘得意そうじゃないから、いざって時の為に訓練してみません?」
「ええ、是非能力者としてご教授いただきたいですの」
 そう、すぐにこくりと頷いた詩杏であったが。でも心配しますのであの人には内緒で、と続ける。
 そして、そういえばセンパイ花嫁修業って……と聞き返した小春に。
 詩杏は幸せそうに、小春ににこりと笑んでから。
「では、参りましょう。よろしくお願いいたしますの」
「戦う機会がないのが一番ですけどねー。ごーですよ!」
 張り切って二人、ゴーストタウンへと向かったのだった。

 ゴーストが穏やかに暮らせる、隠れ里。
 そこでゴーストたちと共に暮らす脇差の1日は、大体毎日こんな感じである。
 コケコッコー!! と。近所の鶏妖獣の叫び声に、朝と言うか早朝と言うか、むしろ夜中かもしれない時間に叩き起こされる。
 そして午前中は、町役場にて黙々とデスクワークに勤しんで。
 お昼時、パカッと弁当箱を開けたまでは、よかったが。
 もきゅもきゅ♪ とモーラットに、折角最後の楽しみにと取っておいたハンバーグを食べられてしまう。
 しかも。
「……ああ、有難う」
 代わりに一生懸命摘んできた花を、もきゅぴっと差し出されては……怒るに、怒れない。
 そして午後、どちらのモーラットの方がよりふわもこかと。
 ぎゅっとそれぞれ抱き締めたモラぐるみのふわもこ対決で痴話を喧嘩する、若いゴースト夫婦の仲裁に。
 そして、これどうぞ、と。アーウー呻く近所のリビングデッドにお裾分けされたコロッケが、今日の夕食。
 それからそろそろ寝ようかと、海の仲間たち柄のパジャマに着替えようとしたその時。
 いつもの如く、隣の部屋の落ち武者に強引に引き摺られ、無理やり宴会に誘われて。
 結局、深夜まで落ち武者たちの愚痴に付き合って。疲れて、ばたんきゅー。
 そんな……それなりに平穏で。
 それなりに楽しい毎日を、日々送っているのであった。

 其処は、銀誓館学園から少し離れた町にある、小さな喫茶店。
 その看板には『イージス』と書かれてある。
 そしてそのドアを開いて、中に足を踏み入れれば。
 この店のマスターである晶の淹れた珈琲の良い香りが、ふわり、鼻をくすぐる。
 静かでのんびりした時間が流れる店内。
 こぽこぽという珈琲を入れる耳触りの良い音が、小気味よく聞こえてくる。
 それから晶はふと、新しい客が入ってきたのを確認して顔を上げて。
 カウンターに座った客の話を聞いてあげるのだった。
 晶は喫茶店のマスターを営みながら、この店で、時折やって来るこの客のような能力者達の相談に乗ったり。
 たまに、ゴースト退治の助っ人をしたりしていた。
 でも、あまり前に出過ぎぬように気をつけている。
 その理由の一因は――大切な、彼女の存在。
 同じ頃……通っている銀誓館学園から『イージス』へと続く道を歩く沙由理。
 そんな彼女の隣には、友達の姿もある。
 沙由理は銀誓館の生徒として学園で勉強しながら、能力者としても、後輩の面倒をみていたりしているのだ。
 そして――喫茶店の扉が、再び開いて。
「ただいま、晶。それとお客さんだよ」
 帰ってきた沙由理と彼女の友達に、晶は視線を向けて。
「お帰り、沙由理。それといらっしゃい」
 とびきり美味しい珈琲を淹れる準備をするのだった。

 タキが久しぶりに訪れたのは、養父の勤め先でもある銀誓館学園。
 そして職員室に顔を出して。
「おー家庭科の調理実習で作ったのの味見か? んじゃひとつ……って、ちょ、おまえたちこれ……ッ!!?」
 さすが五十嵐先生っ、ひとつだけ激辛入れておいたんだ! と。
 そうきゃっきゃっはしゃぐ小学生達に相変わらず弄られ……もとい慕われている様子の右京に。
「うっきーの教員姿は眼福……茶化してないってば」
 くすりと、タキは笑んで。
「おおっ、タッキーじゃねーか!」
 小学生の激辛ロシアンにまだケホケホ咽ながらも、久しぶりに会う親友に笑顔をみせる右京。
 そんな職員室中に響くような声に。
「ていうかうっきー、タッキー言うな」
 タキは、ぷいっとそっぽを向く。
 それから二人、場所を銀誓館学園のテラスに移して。
 互いの近状や他愛のない会話を、久しぶりに交わし合う。
「俺は今、徳島で獣医師してる。妹と弟ができてね、もう直ぐ3人目が産まれるって」
「そっか、タッキーは獣医師してるんだな。それに3人目……お目出度いな、うんうん」
 右京はそう言った後、少し照れた様に笑む。俺んとこも実はもうすぐなんだ、と。
 それから、銀誓館に通っていた頃の懐かしい話なんかを沢山して。
「うっきーと出会ってもう随分長いよね。初めて友達だって言ってくれたんだ」
 タキはそんな初めての友達に。改めて視線を向けて、続ける。
 これからもずっと俺の特別な友達だよ――と。
 そして、勿論俺もだぞ、と。すぐに笑み返してくる、昔から変わらない友達の様子に瞳を細めてから。
 こんな約束を、交わし合うのだった。
「ねえまたオーストリア旅行に行こう。今度はうちの家族達と……うっきーの家族も一緒だといいな」
 次は――お互いの大切な人達全員で、と。

 銀誓館学園を卒業した鈴子は、都内の大学に通っていた。
 そして、大学で文学部史学科に在籍する傍らで。
 その勉強とはまた別に、除霊建築学も勉強中であった。
 人を守る事に繋がればと……そう思ったから。
 だから、大学で史学の勉強に励みながらも。
 他の除霊建築士達と一緒に、近郊でのゴースト発生を抑える事からこつこつと頑張っている。
 そんな鈴子の将来の進路は、まだ少しだけ、迷い中だけれども。
 銀誓館学園で教師になるのもいいかなと、そう思っていたり。
 除霊建築学を活かした仕事にも就きたかったりと……やってみたいことは、沢山。
 これからもう少し、色々な活動を続けていけば。
 その中から本当に自分がやりたいことも、きっと見つけられるだろう。
 ――そして。
 揺れるストラップの銀鈴の音が優しく鳴り響く中、北極星をモチーフにしたペンダントへとおもむろに手を当てて。
 未だ変わらない、『好きな人』への気持ちを。
 きっと彼の元へと繋がっている青空へと、馳せるのだった。

 ここは、可愛らしいチャペルにある一室。
「加奈入るよ?」
 コンコン、と鳴ったノックに顔を上げれば、そこには花嫁を迎えにきた新郎の姿が。 
 そう――今日は、崇と加奈の結婚式。
「あ、崇君」
 タキシードを着た目の前の崇の姿は、とても格好良くて。
 加奈は思わず、ドキッとしてしまう。
 でも……それは、迎えに来た崇も一緒。
 加奈の綺麗なウェディングドレス姿に見惚れてから。
「うん、すごい綺麗だよ……僕のお嫁さん」
 そう、幸せいっぱいに微笑む。
 そんな言葉に、何だか改めて照れくさいと、くすぐったい気持ちになりながらも。
「……ありがと」
 瞳をそっと細め、彼を見つめる加奈。
 それから崇は加奈のすぐ近くまで歩み寄ってきて。
「待たせてごめんね。その、昔の約束『かっこよくなるから』って約束果たせたかな」
 その彼の言葉で思い出されるのは――2011年のクリスマスのこと。
 あの崇君が……とくすりと笑んだ後。
「あ、約束覚えてたんだ。うん、ホントにカッコよくなったの」
 そう加奈は、笑顔を返す。
 あの時の約束を覚えていてくれて……そして十分すぎるほど、果たしてくれたから。
「じゃあ行こう。皆が待ってるよ」
「こちらこそ……わたしの素敵な旦那様」
 差し出されたその手をそっと取って、彼に手を引かれ、歩き出す。
 そして、廊下で待っていた加奈の父親のところまでエスコートしてから。
「改めて約束するよ。加奈を絶対幸せにするから」
 崇の言葉に、こくりと大きく頷いた後。
 加奈は、ちょっぴり複雑な表情を宿している父親とバージンロードを歩く準備で腕を組みながら、言ったのだった。
 ……でもわたしは幸せだからね? と。

 鋼鉄と奏が新居を構えたのは――北九州市。
 除霊建築学を世の中に広め、その力を人々を救う為に使いたいと。
 そう数年間ずっと、二人で世界を旅し、巡ってきたが。
 今は、除霊都市計画の立案を中心に活動している。
「はい、少し息を抜いてね」
 奏もそんな鋼鉄の手伝いをしながらも、彼との家庭をしっかりと守っている。
 そして、コトリとテーブルに置かれた珈琲に、ありがとさん、と鋼鉄は笑んでから。
「けど奏、あんまり無茶せんとゆっくり休んどってな。家事とかは僕がやるけん」
 そう彼女を労わるように言った。
「あはっ、ありがとう。もう少し大丈夫よ」
 奏はその気遣いに嬉しそうに笑みながら、無理のない範囲で、ゆっくりと家事をこなしながら。
 珈琲を飲みながら少し休憩を取る彼と、にこやかに会話を交わす。
「無理せんでな。母さんも偶に手伝いに来たいっていうとるし。はは、孫が楽しみで仕方無いみたいっちゃ」
「お義母さんが来てくれると助かるわ。また八幡家の家庭料理も教えて貰わないとね」
 そう――今、奏のお腹の中には、新しい命が宿っている。
 奏はふと鞄からおもむろに母子手帳ケースを取り出して。
「病院でエコーとってもらったらね、男女の双子だそうよ。あなたみたいに意志の強い子だといいわね」
 手帳に挟んでいたエコーの写真を、彼へと差し出した。
 今、奏は妊娠6ヶ月。そろそろ性別が分かる頃だと、密かに楽しみにしていたが。
 二人の子どもは、男女の双子なのだという。
「そか、男女の双子か。奏に似て明るい子に育ってくれるとええな」
 鋼鉄はそう珍しく、にこにこと満面の笑みを宿しながら。
「名前も考えていかんとな」
 うーんと考え込むように呟いて。
「あはっ、どんな名前がいいかしら?」
 胸の前で手を合わせ、お腹をそっと優しく擦りながら、奏も小さく首を傾けた。
 ――そして。
(「そうやね、名前は女の子やったら……あの時奏さんと見た、ぐんと空に元気に咲いて伸びる、日輪を描くあの花のような……」)
(「そうね、男の子だったら……二人で一緒に眺めた、燃える様に咲くあの花みたいな……」)
 二人が思い出すのは、数年前のあの時。
 マヨイガで一緒に見た――鮮やかに咲いていた、ふたつの花。

「来てくれてありがとうございます♪」
 そう微笑むエルジェーベトが纏うのは、純白のウェディングドレス。
 白いヴェールがふわりと揺れて。
 胸元に咲くは、ふんわりとした大き目の紫陽花のコサージュ。
「とてもお綺麗ですよ」
 シーラは自然と頬を緩め、花嫁にそう笑んで。
 月日が経った分だけ、やはり少し大人になったけれど。
 変わらずに可憐なエルジェーベトの姿を見つめ、胸の中から溢れてくる様々な思い出を噛み締めながら。
 花嫁へと、その腕を差し出して。
 そっと腕が組まれた刹那……教会の扉が、ゆっくりと開いた。
 ――今日は、セレブラとエルジェーベトの結婚式。
「わあー! エリザ先輩綺麗! 綺麗ですー!」
「わーわー結婚するとか感動じゃねーの!!」
 シーラに伴われ、開いた扉から姿を見せた花嫁の姿に、柚子と定晴は式の邪魔にならない程度にこっそりと声を上げて。
 定晴は、あんなちっちゃかったセレくんがなぁーと、薫とうんうん。
 大切な仲間の大切な日を祝えるのはとても嬉しく思う、と。鶫は、綺麗な花嫁さんに、わぁと声をあげた娘をそっと撫でてから。
(「子どもたちが静かにできるようになっていて良かったです」)
 きょろきょろしてはいるものの、大人しくお利口さんにしている息子に、そっと安堵の息をついた後。
 ドレス姿のエリザさまとてもお綺麗です、と、窓日は瞳を細めて。
 どうか幸いな道行きになりますよう――そう友人の幸せを祈り、心からの祝福を。
 そして、ヴァージンロードを歩いてるエルジェーベトに目を奪われて。
 柚子は、何も言えなくなりながらも思う。
 私もいつかこの道を歩いて、そして、永遠の誓いが出来るのでしょうか――あの人と、と。
 それからふと顔を上げて。
「……って、雨宮先輩と右京さん、何泣いてるんですか」
 早速感極まっている二人に、そうツッコミを。
 そして、娘が嫁に行くとか俺耐えられないかも、と呟く右京に、その気持ちは良くわかると頷く宗司郎。
 いえ……ぷりてぃはいますけど、彼にまだ娘はいません。
 それから柚子は、ハッとあることに気がついて言うのだった。
「よくよく考えたらセレブラ君私の後輩じゃないですか」
 先に結婚するとか生意気ですね、あとで頭ぐりぐりしてやりましょう、と。
 そんな参列者達の祝福の想いを一身に感じながら。
 シーラは花婿へと続くバージンロードを歩く、すぐ隣の友人へと、もう一度改めて視線を向けて。
 あの時は楽しかったねとか、仲良くしてくれて有難うとか……想うことは沢山あるけれど。
「お幸せに」
 そう今の一番の願いを伝え、その腕を解いて。
 祭壇で待つ花婿へと、花嫁を受け渡すのだった。
 それから、花嫁を迎えたセレブラは、エルジェーベトと見つめ合った後。
 互いに祭壇で、誓いの言葉を紡ぐ。
 病めるときも健やかなる時も、いつだって。
「エルジェーベト・フォスターに永遠の愛を誓います」
「セレブラ・ヤステレブに永遠の愛を誓います」
 大好きな貴方の、すぐ傍に在ることを。 
 そして向き合って指輪交換をした――その時だった。
「絶対に幸せにする……だよ。エリザせんぱい」
 昔のように、そう彼女の名前を呼んで。
 そっとベールを上げると、その唇に、優しくキスを落とした。
 ずっと一緒だよ、エリザ――と。
 エルジェーベトも昔のように呼ばれて照れながらも、瞳を閉じて彼のキスを受け入れる。
 ずっと、あなたのお傍に――と。
 そんな幸せそうな二人の顔を見て、薫はすごく嬉しくなる。
(「色々あったけど、これからはセレちゃんと幸せにな」)
 楽しかった思い出は勿論、本当に沢山いっぱいあるけれども。
 それだけじゃなくて……一緒に思いっきり泣いた日も、あったから。
 定晴も二人とも幸せそうで嬉しいなと笑みながらも、学生時代のことが蘇ってきて、再び目頭が熱くなる。
 今は居ない誰かも、どこかで幸せだといいと。そう心から思いながら。
 そして晴れて夫婦となった二人に、皆は沢山いっぱいの惜しみない拍手と、おめでとうの笑顔を送って。
 二人の幸せそうな姿を見つめながら薫は、ふとマヨイガで挙げた自分たちの結婚式を思い出す。
 僕もずっとハルのそばに居たいと、改めて、そっと誓って。
(「膝の上の娘もこんな風に嫁に行くのかと思うと目頭が熱くなるのは、きっと俺が年を取ったからだろうか……」)
 鶫も滞りなく終わった感動的な式に、込み上げてくるものを感じながらも。
 花嫁を見送る妻の手をそっと握り、言った。
「子供達も生活もやっと落ち着いたし……俺達も、式……するか?」
 改めて誓うのも、きっと悪くないから、と。
 窓日はそんな伴侶の言葉に、掌と掌を重ねてから、目を伏せて頷く。
 ……はい、と。
 それから、仲良く腕を組んだ花嫁と花婿が退場した後は。
 お待ちかねのブーケトス!
「ブーケトスにはもちろん参加します!」
「俺もブーケトス加わる!」
 はいはい! と元気良く挙手するのは、柚子と何故か定晴も。
 そんなブーケトスに入る気満々の定晴に、薫は笑って。
「薫、俺らも結婚式もっかいしようぜーっ」
 そう言った定晴に、ええよーと、キスを。
 そして――エルジェーベトの投じた運命のブーケが。
 良く晴れた青空に、高々とあがるのだった。

●2020年:同窓会
「おー、みんな元気だったか?」
 なかなか顔出せずにすまなかったな、と。
 健太朗が久しぶりに顔を出したのは、懐かしい皆が揃う同窓会。
 それから、今まで何やってたんだよ、と仲間達に聞かれて。
「いや、遊んでたわけじゃないぜ? ようやく先が見えてきた感じだな」
 そう健太朗は答え、胸を張る。
 家にも帰れず、研究室にずっと缶詰状態だったことも珍しくない。
 遊びに行く時間の余裕もなく、いつも沢山の資料と睨めっこしていた日々。
 でももう少し研究を進めていけば。
 世界に発表できる成果が、得られるかもしれない。
 そしてその時はこれ以上ないインパクトになると思うぜ、と。
 そう健太朗は笑んで続ける。
「世界結界、IMS、それらに大きく貢献することになるさ。世界中の人がそれを研究してるからな」
 だから――俺も負けられねぇ! と。
 彼の研究意欲は尽きることを知らない。
 一番にならないと気が済まない、負けず嫌いだから。
 そしてヒーローは遅れて登場するんだぜ、いいとこ見せないとな! と。
 銀誓館学園の仲間達にもう一度、ニッと笑むのだった。

「皆様、お集まりいただきありがとうございます。固い所ですがお気になさらず崩してくださいな」
 そう立ち上がり、一礼をした琉海那は。
 折角成人した身、大人っぽい場所でと思いまして! とそう気合を入れつつも。
 結社長であるマリア・エスペランザ(蒼い戦姫・b52755)の音頭で乾杯をしてから。
 食事と共に色々交流すべく、同窓会のために料亭へと集まった【マヨイガへようこそ】の皆と、久しぶりの歓談を。
「こういう料亭で同窓会をやる年齢になったと思うと、イロイロと感慨深いものがあるわね」
 結社での遊んだイベントの数々や、マヨイガの入り口をみんなで守った事、一週間ぶっ続けで戦った戦争。
 学生時代の思い出話をするとキリがないわね、と笑むマリアに。
 赤護・侑(紅い護葬士・b26012)も頷いて、今の立場こそ違えど再び会えたことに乾杯、とグラスを傾けて。
「琉海那さんは大学卒業祝いを併せておめでとう。元々大人びてましたが、より落ち着きが深まったようで」
 より皆に慕われる月帝姫になりそうですね、と笑んで。
「琉海那はしばらく合わない内にスゴク綺麗になったわね」
 マリアも侑に同意するように頷いた。
 そんな二人の仲睦まじさに、何よりです、と笑んだ琉海那であったが。
「その仲の良さは何だか憧れますね……うぅ、お二人に褒められるとくすぐったいです……」
 ちょっぴり照れたように頬を染める。 
 そしてやはり、美海といえば。
「美海さんはもふりを極めてるのでしょう。着ぐるみ姿が思い起こされてしまいます」
「美海は相変わらずの『もふりすと』かしら? 最近モフり足りないならば、この子をモフってあげてね」
「美海さんは何をなさっていますか? マヨイガの為に動いているとは風の噂で存じていますが……」
 皆が口を揃えるほどの、もふりすと。
 美海は、卒業した以前とは違った口調で答える。
「今は、マヨイガのシニクーランドの初代園長。……あと、マヨイガの収容限界問題に取り組んでる」
 マヨイガで、マヨイガの為に、もふもふ尽力しているのである。
 そして、美海にもふもふされて喜んでいる様子の陽炎を微笑ましく見つめる宗司郎に、今度は琉海那は声を掛ける。
「宗司郎さんは随分有名になられましたね。書に疎いわたしでも活躍を聞きますよ」
「書道会の広告塔として表舞台に出るよりも、若い書道使いを指導する方が性に合っていると、自分ではそう思っているのだがな」
 若手の書道会役員が現状では私くらいだから仕方ないのかもしれないが、と。
 そう首を傾ける宗司郎は、能力覚醒した書道使いを育成する傍ら、書道使いや書道会の広告塔として、メディア展開や講演会などを精力的に行なっていて。
 ぷりてぃな陽炎とともに、知的で端正な容姿の人気書道家として、それなりの知名度があるのだった。
「宗司郎さんも陽炎さんと仲良く過ごされてますか?」
「墨枝クンと陽炎も久しぶり。ましろも陽炎に会いたがっていたから連れて来たわよ」
 侑とマリアもそう宗司郎に視線を向けて。
 嬉しそうにシッポをフリフリしつつ、ましろも挨拶!
 そしてましろときゃっきゃ遊ぶ陽炎の様子に微笑む彼に。
 侑は、こう続けたのだった。
「いや、愛娘になるだろうから参考にしようかなと。黙ってた訳じゃないけど、足掛け3年半をとうに過ぎてマリアとは12年に学生結婚しました。決して悲しい思いをさせない、という条件でね」
「これからは赤護マリアって呼んでね♪ エスペランザはNGよ♪」
 マリアもそんな彼の報告に合わせ、ちょっとおどけて言ってみて。
 おめでとうと、皆から祝福の声が二人へと上がる。
 美海もそんな皆の様子を見回してから。
「……皆も元気そうで何より。マヨイガ・シニクーランドにも偶には遊びに来て欲しい」
 ましろと陽炎を纏めてもふもふしつつ料理も堪能し、皆にシニクーランドの割引券を。
 それからも、暫し歓談は続いて。
(「結社の縁で集まった仲間が今も元気だと嬉しいです。学園じゃ無茶な毎日を共有できて、今はかけがえの無い思い出」)
(「ふふ、それにしてもこの同窓会を企画してよかったです。皆さんの元気な顔を見て、こんなに楽しい一時を過ごせたのですから。きっと、社会人になっても頑張れる気がします!」)
 沢山の思い出話に花を咲かせ、この楽しい時間を、未来への活力にするのだった。
 これからの皆に幸あれ――そう願いながら。

●2021年:日常
 銀誓館学園を卒業して、早数年。
 相変わらず風優翔は今も、西欧のとある楽団の一員として世界中を飛び回っていた。
 そして。
「人生に3度も名前を変えたのって私ぐらいじゃないかなぁ……」
 ……故あって名前も変わってしまいましたが、とぼそっと呟く。
 フーカ・S・ノイヴァール……これが今の彼女の名前。
 そんな彼女は今、空を飛んでいる飛行機の中にいた。
 その行き先は――日本。
 楽団の次の公演は、久々の日本であるのだ。
 風優翔はふとスケジュールを眺めながらあることに気がつく。
「おや、この公演、確か赤い狐さんが教師をしてるところでやるんじゃなかったかしら」
 元気にしてるかなぁ、と。暫く会っていない友人の顔をふと思い浮かべるも。
「……って銀誓館じゃん」
 そう、赤い狐さんが教師をしているのは、風優翔の母校でもある銀誓館でした!
 そんな久しぶりの日本、久しぶりの銀誓館を密かに楽しみにしながら。
「赤い人に会った時、からかってやりますか」
 着陸準備に入った飛行機の中、そう笑むのだった。
 
「久しぶり! ……って言っても翼の姿は一方的によくみてるけどな」
「翼さんの活躍は聞いているわ。忙しくて試合見にいけなくて残念」
 なんせ翼の試合は全試合応援に駆け付けてるからな! と得意顔な陽菜は今、母親の拳法道場で師範として門下生を指導する日々。
 凄く忙しいけど好きでなったし、がんがん出世するわと仕事に意欲を燃やす氷辻は、法学部を出て今は警視庁のキャリアとして奮闘中。
「時折は代表に呼んでもらえる機会もできたが、でも、活躍……と言われると面映いな。そう言って貰えるのは嬉しいけれど、私はまだまだだよ」
 一方、翼が選んだのは、プロのサッカー選手としての道。
「でも、二人が少し羨ましい。私はもう、この先は衰えるばかりだからな……無論、簡単に追いつかせるつもりもないが」
 選手生命の短い世界ではあるものの、まだまだ現役で頑張ると強く頷く。
 だがそんな翼の一番のファンは勿論、陽菜や氷辻だ。
 いや、翼だけではない。それぞれが、違う道に進む互いを、誰よりも応援している。
 学生時代は、いつも一緒であった仲良しの3人。
 だがそれぞれが進んだ未来の道は、三者三様で。
 忙しくも充実した日々に、最近では会う機会が少なくなっているのも事実。
 でも、それぞれがそれそれの未来を応援して――そしてまた、こうして3人で集まれば。
 暫く離れていたことが嘘の様に、笑い合い話が弾むもの。
 これまで一緒に紡いできた沢山の思い出は勿論、現代の自分、そして未来の話題まで。時間がいくらあっても、話は尽きない。
 ずっといつまでも変わらないのは、結ばれた絆とあの頃そのままの空気。
 照れくさくて、口には出せないけれど。
 親友とは……きっと、そういうもの。

 べとりと手に纏わり付くこの嫌な感覚は、己から流れている血の所為だ。
 だが、そんな強烈な赤の色を、もう気にすることもなく。
 人の気配の無い場所まで何とか辿り着いた煌は、倒れるように座り込んで。
 ふと、気を失いそうなほど眩すぎる空の青に、堪らず瞳を閉じた。
 それと同時に瞼の裏に駆け巡るのは――今までの思い出。
 まるで走馬灯のように、とはよく言ったものだ、と。
 沢山の過去の季節をぐるぐるとひとり駆け巡りながら。自分の運命を、煌は既に悟っていた。
 相対したのは、非常に手強いゴーストであった。
 相打ちと言ってもいいほど何とか紙一重で戦闘に勝利を収め、その存在を打ち倒したものの。
 思った以上に、抉られた傷は深くて。
 手当てもろくに受けず、逃げるようにこの場に姿を眩ませたのだった。
 ぐるぐると回り続ける季節。そして思い出と共に鮮明に浮かんでくるのは、大切にしたかった人達の姿。
 銀誓館を離れた後、自ら望んで遠ざけてきたはずの大切な人達の顔が順に映る。
 その時、煌はふと気がつく。自分には、こんなに駆け巡るほどの思い出があったということを。
 鮮明に思い浮かぶほど、大切な人達がいたことを。
 それは今思い返しても、とても幸せなことだったかも、しれない。
 ……でも。
「はは、もう限界だな……出来るなら越えたくて、もう一度会いたい人が居た」
 霞む視界は、薄れゆく意識の所為か。それとも――無意識のうちにふいに瞳から落ちた、一筋の雫の所為か。
 もう一度会いたい人。でも……それは、かなわないから。
「だからせめて、あの人達が護り続けるこの世界の礎、に……」
 刹那、ずるりと崩れ落ちる身体。
 そして地にじわりじわりと広がっていく色は……ただ、夥しくも鮮烈な赤であった。

●2022年:日常
 迎えてくれたのは、とても元気な泣き声だった。
 その日は落ち着かぬ様子でずっと、時計の音ばかりを聞いていて。
 呼ばれた時には、分娩室へ飛び込んでいた。
 そう――今、まさに侑の瞳に映っているのは、何とも愛しくて仕方が無い、二人の天使の姿。
 金髪に赤い瞳の女の子が、ママの腕の中に抱かれて元気に泣いている。
「マリア、お疲れ様」
 侑はマリアに、心からの労いと感謝をそう言葉にして。
「侑の赤い瞳と私の金髪を受け継いだから、きっと可愛い娘に育ってくれるはずね」
 結婚してから色々と大変だったけれど。でもこの腕の中の温もりを感じると、この子を産んで良かったと。
 マリアは改めて思う。
 そして目の前で、我が子を見た瞬間目尻を下げたパパの様子を見れば。きっと娘には甘そうね、とそう笑んで。
 ちょっと緊張しながら、そっと差し出した侑の指をきゅっと握る、小さくて可愛い手。
 その柔らかくて小さな手が、またとても愛おしく思えて。
「指だけ握ってないでちゃんと抱っこしてあげればお父さん♪」
 マリアに差し出された娘を恐る恐る、慎重に抱っこした侑は。
 ――ああ、溺愛か過保護か。
 ふと、そんな自分を思い浮かべながらも。
 今、腕の中にある大きな幸せの誕生を、マリアと共に迎えられた喜びを。
 新しい命の息吹を感じながら、しっかりと、噛み締めるのだった。

 相変わらずシュールキャラで芸能活動を続けている空であるが。
 そんな空には、密かな野望があった。
 それは――月へシャトルで行く事をこぎつけること。
 そして数年にわたる交渉の甲斐があり、月面着陸を行う予定の計画において、宇宙飛行士としてシャトルに乗り込めるかもしれないと返答がきた。
 だが、そのためにはまだシャトル開発に必要な時間と、宇宙飛行士としての訓練を受けなければいけないことになっていた。
 ちなみに表向きには、一般人初月面旅行+月面生中継という感じの建前企画のためという口実をつけている。
(「シュールキャラがこんな所で役に立つとは……」)
 普通のアイドルでは、この企画は通らなかっただろう。
 このために世界三大名山無酸素単独登頂とかやって来たんだ、とそう空は頷いて。
 世界結界崩壊直後ならば尚更、月の民の存在をカメラを通して世間に知らせるのも悪くないかもな、とも思う。
 だが今はまだ、それらは準備段階で叶わない。
 空はこの企画が流れないように、今日もシュールな人気アイドルとして。
 仕事と、宇宙へ向かうための訓練に励むのだった。

 ひょんなことから、銀誓館学園の近くの店で久々に集まろうと。
 そういうことになった、不憫仲間達3人。
 そして草月・惑(不憫・b60398)はその店に向かう道すがら、何だか見覚えがある赤い野郎を見つけて。
「お前、もしかして……右京か!?」
 仕事を終えて銀誓館学園から帰宅途中の右京に、ひっさしぶりだなァ、おい! 俺の事覚えてるか? と声を掛ける。
 そして。
「あっ、惑!? おまえ、相変わらず不憫かっ?」
「って、懐かしの再会の第一声それ!?」
 固い絆で結ばれた不憫同士、久しぶりの再会を果たして。
「丁度今から司たちと飲みに行くんだよ……あァ、積もる話もあるだろう! 折角だしお前も来い!」
「おー不憫同士で飲み会するのか、まぁ俺は不憫じゃねーけどな!」
「いやおまえもどう考えても仲間だろ!?」
 不憫がまたひとり増えました!
 ――その同じ頃。
 既に店に到着していた桐条・司(陽に沈む薄明の唄・b66625)は、アイツらどうしてっかなー、と残りの不憫達の到着を待っていたが。
 ふと店に入ってくる藤林・緋桜(鳳翼紫影・b09741)を見つけ、笑いながら声を掛ける。
「久しぶり。相変わらず目つき悪ぃなお前」
「余計なお世話だ」
 そして緋桜の蹴りを予測して一歩後ろへと下がった司は、この懐かしいやり取りにもう一度笑んでから。
「翠も連れてきたかったんだけど、流石に子ども一人留守番は心配だしなぁ……赤い不憫に宜しくって言ってたぞ」
「お前も大概親馬鹿だよな。って、赤い不憫って言うな」
 ビシイッと司の頭に、緋桜のチョップが!
 ていうか。
「いやオレじゃねーよ!?」
 不本意だ、と頭を押さえる司は、安定の不憫です。
「しかし男三人で居酒屋ってむさいだろ。発案したの誰だ……」
 惑の奴遅いな……と丁度二人で呟いた、その時だった。
 惑が店に入ってくるのが見えて。
「……おい、何か赤いの一人増えてねーか」
「って……右京!? ちょ、お前何でここに……会っていきなりって強引すぎるだろオイ!」
 そこで会ったから連れてきたという惑に、司はそう笑いかけつつも。
「でも右京、久しぶりに会えて良かった」
「おーホント久しぶりだな、司! てか相変わらずおまえも不憫なのかよ?」
「いや、俺は不憫じゃねーし!?」
 早速不憫トークに花を咲かせる。
 というか。
「俺初対面だぞそいつ」
 そう、なんか増えた赤いのに目を向ける緋桜。
 そしてそんな緋桜に右京は笑みながら。
「こいつらと一緒にいるってことは……やっぱ不憫か?」
「初対面で不憫って言うな」
 よろしくな! と笑む赤い頭に、初対面だけどチョップ!
 それから頭を押さえる赤いのを後目に言ったのだった。
「……まあいいけどよ。どうせ三人も四人も変わんねーし」
 不憫トリオが、不憫カルテットになりました!
 そして惑は改めて、緋桜に右京を紹介する。
「右京はアレだ、俺の親友! あの頃はよく不憫だって言われてたな!」
「おい待てや元祖不憫」
「おいコラ元祖不憫」
「おい待て元祖不憫!」
「声揃えて言うことじゃなくねェ!?」
 総ツッコミを喰らう元祖不憫。
 そして、ぱらりとメニューを開きながら。
「ま、適当に始めるか。嫁と子供が待ってっからそんなに遅くまでは付き合えねえけど」
 そう何気に言った緋桜の言葉に。
「あー、俺も嫁さんと子供ほっとけねーし……っておいィ!? 緋桜おま、結婚して子供、って……」
「って、緋桜お前子ども……ってか結婚して……!?」
 さらりと告げられた結婚と子どもの事実に目を見開いて驚く、司と惑。
「? 何そんな驚いて……」
 そんな二人に逆に一瞬首をかしげた緋桜であったが。
「…………」
 そういえば言っていなかったことに気がついて。携帯を操作すると、奥さんと子どもの写メを見せる。
 そして。
「しかも相手が……えええええ!? ちょっ……つまりアレか? 俺とお前って……親戚になんの?」
「おいこれ散葉ちゃんじゃねーか!? ええええ、おま、いつの間に……!!」
 今更知らされる、衝撃の真実……!
 そして驚きつつも、おめでとうと祝辞を言ってから。
 始まるのは、近状報告という名の親馬鹿大会!?
「あ、右京、俺結婚したんだ。それでこの写メ、可愛いだろー」
「奥さん元気か? おー司の子どもは息子なのか」
「ばっか、うちの娘がこの世で一番可愛いに決まってンだろ!」
「いやちょっと待て、俺の娘が一番可愛いんだぞ!」
「司んちの子とうちの子、同い年でよォ。よく一緒に遊ばせてるんだけど……やっぱ子供って可愛いもんだよな! って、右京も娘いンのか!?」
 携帯の写メを見せ合いつつ、うちの子まじかわいいと張り合う不憫達。
 そして何気にそんな親馬鹿トークを聞いていた緋桜であったが。
「……で、緋桜はいつどこでどんな風に散葉ちゃんとそうなったわけ?」
「馴れ初め話、詳しく聞かせてもらおうじゃねーの……?」
「って、は、馴れ初め? いや別に大した事ねーよ」
「ちょっと詳しく聞かせろ、おいコラ逃げんな!」
「逃げるのはなしだからな、今まで黙ってた分洗いざらい吐いてもらうぞ」
「つーか黙ってたわけじゃなくて、海外飛び回ってて言う暇がなかっただけで……」
 司と惑からそう攻められ、じりじりと下がる緋桜だが。
「そーだ、そーだ、教えてくれよ!」
「だからお前は初対面だろ」
 何気にノリで便乗した右京にツッこんだ後。
「だーもう、話せばいいんだろ話せば!」
 もう後が無いことに気がつき、いい笑顔で正座待機する不憫仲間達に。
 自棄気味に、馴れ初めを話し始めるのだった。

●2022年:同窓会
「んー。同窓会ですか……皆と会うのも久しいですねぇ」
 そう呟いて、風優翔は見知った顔を探し、会場をぐるりと見回してみて。
 卒業以来初めて出席する同窓会で。
 見つけた懐かしい知人達と、近状報告や思い出話を。
「私ですか? 卒業してすぐ海外を飛び回ってたんです」
 いや、楽団に所属してずっと海外を飛び回っていたからということもありますが。
 ……だから、今まで同窓会のお誘い届いてなかったのだけどね、と呟く風優翔。
 招待状が届かなかったんだから、同窓会あっていることすら知らなかったんです……!
 今回は先日、銀誓館学園へ冷やかしに……いえ久しぶりに会いに言った右京から、同窓会が開催されることをたまたま知らされたのであった。
 ふぁーっくっ!!! あの赤い狐の人がいなかったらどうなっていたやら! と。
 風優翔はそう叫んでから。
 とりあえずテーブルにずらり並べられた食べ物を一通りいただいた後。
(「まぁ、私のやりたいことやるべきこと。ようやく見つけたから」)
 それもこれからやりたいようにやるだけです、と。
 そう改めて決意するように頷いてから。
「さて、皆に挨拶してくるとしましょうか!」
 誰か懐かしい知り合いがいないか、きょろきょろと賑やかな周囲に視線を向けたのだった。

 ●2023年:日常
 26歳になったミーの職場は、給食センター。
 そして彼女自身の母校でもある銀誓館学園にも、配送などでよく訪れていたが。
 ――ある日の昼休み。
 仕事でこの日も銀誓館学園を訪れていたミーは偶然校内で、教師をしている右京と再会して。 
「えへへ、うっきー久しぶり!」
 昔の調子で、そう声を掛ける。
 その声に、右京もパッと笑み返して。
「あ、ミーじゃねーか! 久しぶりだなー」
 昔と比べ、見た目も中身も年相応に成長している彼女に、見違えて最初誰かと思ったぞ、と瞳を細める。
 ――その時だった。
「うっきーの担当のクラス、1年生の……あれ?」
「ん? 今年度は、1年菊組の担任だぞ」
 小脇に抱えている出席簿に目を向け呟いたミーに、右京は小首をかしげて。
 1−菊と書かれている出席簿から右京へと再び視線を戻したミーは、こう言ったのだった。
「ねぇ、そのクラスに桃って名前の子がいるよね?」
「ああうん、いるけどよ……桃と、知り合いか?」
「あれ、あたしの子なんだ!」
 そんなミーの言葉に、右京は一瞬きょとんとするも。
「えっ? えええええッ!?」
 自分が担任のクラスにミーの子どもがいると知って、驚きのあまり大きく瞳を見開く。
 そんな右京の様子に、くすりとミーは年相応に笑んでから。
「うちの子がお世話になってます、五十嵐先生」
「あ、いや、そのなんだ……こ、此方こそお世話になっています」
 ぺこりと互いに頭を下げるのだった。 

 お互いの30才おめでとうパーティーは。
 夏生まれの佐織と冬生まれのキッカの、二人の誕生日のちょうど間。
 落ち葉舞う――秋の季節に。
「……お互い、もう30になっちゃいましたね」
「10代のころは、30歳の自分なんて、想像もつかなかったな」
「気づいたら、あっという間でした」
 そう瞳を細めるキッカは、目の前の佐織を見つめて。
 忍里さんは、全然変わりませんね、うらやましいなぁ……と呟いて。
 そういう綾ノ瀬さんも変わってないじゃない、と笑った後。
「本当、あっという間だったけれど……ふふっ、なんだか不思議ね。TEAM【BU】で初めて会ってから、もう何年になるのかしら?」
「【BU】で知り合った頃は、今みたいな未来が来るとは想像もしてなかったよね」
 銀誓館学園で一緒に送った、死と隣り合わせの青春の日々を思い出しながら。
 世界結界がほぼ消え失せた現在の空を見上げて。
「本当、どんな世界になっていくのやら……」
「……忍里さんの子供が銀誓館に入る時は、今とはまた、違った世界になっているんでしょうね」
 予想できないさらなる未来に、そう呟く。

●2024年:日常
 ――世界結界の崩壊。
 それが原因で、今まで前提としていたものが呆気なくひっくり返って。
 少なからず、世の中に混乱が生じた。
 人間誰もが能力者となる――そんな時代の到来。
 そしてそれにより、考古学の世界にも大きな影響や被害が報告されるようになってきた。
 暈人はこの時、遺物や遺跡の保全を目的とした団体に移って活動していたが。
 遺跡に出現するゴーストにより、学者達に危険が及ぶことも少なくなくて。
 調査の傍らに、護衛もするようになっていた。
 考古学者というよりも、冒険家という方がむしろ相応しいかもしれない。
 元々考古学者への道を目指していた暈人は、そうも思わなくもないが。
 後悔は、していない。
 最近になって、発見よりもむしろ。
 それを伝えて行く方が……やりがいがあると、そう思ったから。
「……!」
 同行した遺跡に現われたゴーストをバサリと叩き伏せた後。
 暈人は、学者達と共に奥へと進んでいく。
 これまでずっと志してきた道を、心奪われてきた歴史を語る遺跡や遺物を、この手で守るために。
 
 長居放浪を終えて、戻ってきた日本。
 久しぶりの鎌倉はとても懐かしくて。
 長いこと連絡を取っていなかった神社や寮に改めて顔を出して。
 挨拶すれば、消息不明扱いで叱られたりもしたが。
 皆、銀誓館学園に通っていた当時のように。
 精悍だが、優しげな大人の男性に成長した蓮汰をあたたかく迎え入れてくれたのだった。
 しかしながら、ずっとひたすら鍛錬の日々を送り、強くなることを目標に世界を巡っていた彼が。
 何故、日本へ帰国することを決めたのか。
 その理由は――彼のすぐ隣にいる、愛娘のため。
 小学校に入る娘の入学準備のためであった。
 勿論、娘が入学するのは、銀誓館学園。娘と手を繋ぎ、蓮汰は母校へ。
 父親となっても相変わらず寡黙で表情の変化に乏しい彼であるが。
 この日は――娘が驚くほど、楽しそうな様子の蓮汰。
 そして、懐かしい校門を潜って。
「ここで大切なものにきっと出会える」
 そう娘に告げるのだった。かつて自分が、そうであったように。
 ――その時だった。
「あれ、もしかして蓮汰か?」
 掛けられた声は、懐かしい先輩のもの。
 教員となった右京は、蓮汰と彼の娘を順に見つめた後。
「一緒にこれから、色んなこと学ぼうな」
 大きくてあたたかい掌を、少女に差し出したのだった。

 時の流れは妙に可笑しなものだと、そう誰かは歌った。
 血よりも濃いものを作ることがある――と。
 今、自分以外にこの場所にあるものは、雪と氷と、満面の星空。
 タキは静寂に身を投じ、ただ一面に広がる星を見上げる。
 降る雪はまるで、瞬く星が地上に降っているようで。
 白に染め上げられていく身体は熱を奪われているはずなのに……この胸は、何故かとてもあたたかい。
 此処はロシア某所――はじまりの場所。
 そっと、ふいにタキが手を添えた大事な腕輪に刻まれている文字。
 それは――『Come home anytime』。
 生まれてよかった、なんて。そんなこと思える日が来るとは思わなかった。
 記憶に無い実の両親に感謝できる日がくるなんて、想像もできなかったし。
 枷になったモノを全部許せる――こんな気持ちになるなんて、夢にも思っていなかった。
 でも今のタキは、全て許せる。養父、養母、妹、弟、友達、沢山の大切な人達の顔が浮かぶ。
 もう……枷は、無いのだから。
 そして綺麗で暖かい真白の星が降り注ぐ空の下、静かに目を閉じる。
 ――ただいまを言いに帰ろう。
 血は繋がってないけれども。
 おかえり――今のタキには、そう言ってくれる人達がいるから。
 そして大切な家族が居る、帰れる場所が、あるのだから。

 結婚して6年――6才の娘は、一番強敵な恋のライバル。
「将来はお父さんと結婚する」
「零冶君は私のだからダメー」
 塗り絵に勤しむ3才の息子を尻目に、今日も始まったママと娘の、パパの取り合いこ。
 そして両腕を引っ張りっこされる零冶は。
「おいおい……」
 笑いながらも、ちょっぴり困った顔。
 世界を二人で巡った後、姫菊はまたパタンナーに復帰して。
 子供たちが着ている服もママが仕立てた、世界で二着だけの愛情入りの特別製。
 今日も家族団らん、いつもと変わらない親子4人の日常。
 でも――最近。
 ふと気付けば、窓の外をじっと見つめていることが増えてきた息子と娘。
 その理由は……変な人が、いたから。
(「この子達を守る為にもまだまだ現役続行かしらね」)
 そう遊びつかれて眠った二人の姿を見守りながら。
「変な人、か……」
 零冶と姫菊は、静かに言葉を交わし合う。
「……話す時が来たのね」
「こんな世界を楽しめるくらい鍛えてやらないとな」
 そんなテーブルの上にあるのは――子供たちが描いた家族の絵と、そして2枚のカード。

 もうこうやって、何度もこの場所を一緒に訪れているけれども。
「ほらここがマヨイガだぞ」
 今日は、二人じゃなくて――もうひとり。
 腕に抱く赤ちゃんにそう語りかける、父親の崇。
 そして赤ちゃんを大事に抱っこしつつ、母親の加奈と向かう先は――ふれあい動物園。
 二人並んで園内を歩けば、まるで、あの時のデートのよう。
「ここはパパとママが初めてデートをした場所なんだよ?」
 そう加奈も、腕の中の娘・つぐみに話しかけながら、園内を歩き回る。
 この場所に、つぐみを連れてきた目的。
 それは――。
『きゃわゆいふわもこたんたちぃー、まんまの時間でちゅー♪』
「こんにちはっ」
『……!!? な、ちょ、おいぃっ!?』
「……相変わらずですね。変わりないようで嬉しいです」
 そうくすりと笑む加奈に、き、今日はどうした? と。まだしどろもどろしているのは。
 相変わらず赤ちゃん言葉を聞かれ、死んでいるけど死にそうなくらいの恥ずかしさに闇堕ちしそうな表情をしている、目の前のカリスマ飼育係・コージさん。
 そんな、なにかと過去お世話になった彼に。
「コージさんご無沙汰してます。うちの娘です」
 娘を紹介するため、二人は娘と一緒に、マヨイガのふれあい動物園を再び訪れていたのである。
 そしてコージは、そりゃーめでたいな! と祝福した後。
 抱かれたつぐみを覗き込み、言ったのだった。
『きゃわゆいベィビーたぁんっ、コージおじちゃんでちゅよー』
 赤ちゃん言葉は大得意みたいです。
 そんなコージの様子に、思わず二人で笑った後。
「皆も元気ですか?」
 ふわもこうさぎもガーゼットもグレートもみんな元気だよ、とコージは頷いて。
 そういや、赤ちゃんの名前は? と今度は、二人に尋ねる。
「名前は蒼井つぐみ。加奈の娘ですからきっと物怖じしない娘になると思いますよ」
「……崇の娘でもあるんだからね?」
 だからきっと私達以上にここの子達が好きになると思います、と。
 両親譲りなふわもこ好きの、お墨付きを。
 それからコージさんおすすめの、子連れ向けふわもこコースを案内して貰った後。
「遊びに来たら宜しくして下さい」
「また遊びに来ますね、その時はよろしくお願いします」
 そう二人はコージにぺこりと頭を下げるのだった。
 腕の中のこの子が近い未来、またお世話になりそうだから。

 誰よりも、いつもすぐ傍で見てきたから。
 だから、沙由理は知っていた。
 晶がこの『イージス』でこれまで貯めた資金、培った人脈、必死で覚えた語学。
 それが、何のためのものなのかということを。
 そして――世界を巡り、様々な能力者、ゴーストと出会い、その話を纏めたい。
 そんな、彼の考えも。
 さらには数年前に起こった1件で保護者役を失った沙由理の為に。晶が、旅に出るのを延期していたということも。
 でも、もう20歳になったから。
「旅に、でないの? ずっと準備していたんでしょ?」
 自分を置いて旅にでるのかと、そんな不安を抱いた気持ちのまま、彼に尋ねる。
 でも、そんな沙由理に。晶は、こう答えたのだった。
「旅に出るには、荷物が重くなりすぎましたからね」
 常連客や能力者の後輩達、町の人々。
 そして何より……沙由理とその内にある、新たな生命の芽吹き。
 旅に出るよりも大事なことがある――晶は真っ直ぐに、沙由理の姿だけをその瞳に映してから。
「共に、幸せになりましょう。我が愛しき人」
 誰よりも愛しい彼女へと、そう想いを紡いだ。
 それから、その答えを聞いて安心した沙由理は笑んで頷くのだった。
「私達で幸せになるの」
 これからの未来もずっと、二人一緒に。
 
 大学を卒業して、早4年。
「いらっしゃいませー」
 宰が銀誓館学園の近くに開いた猫カフェは、癒しスポットとして今、こっそり人気になっていて。
 経営も、昔に比べて随分と軌道に乗ってきた。
 常連さんから新規さんまで、お客さんもそれなりに来るようになったし……。
 そうそっと猫さんのふれあいスペースを見れば。
 赤い常連さんが今日もまた、猫に飛びつかれて埋もれています。
 そんな様子をリンゴと眺め、笑みながらも。
 最近入ったおめでたい連絡に、驚きと複雑な気持ちを抱く宰。
 従兄弟の兄ちゃんが結婚して、おまけに子供まで生まれて。
 さらにもう少ししたら、その子が銀誓館学園に入学すると聞いたのだ。
「もう……何と言ったらいいのか……」
 時が経つのは速いなぁと、改めてぼそりと呟きながら。
 そういえばそこに埋まっている赤い常連さんが、確か銀誓館学園小学校の先生だということを思い出して。
 ますます時の流れの早さを感じ、何とも言えない気持ちになって。
 リンゴと一緒に猫たちへ、猫じゃらしをぴこぴこさせるのだった。

 世界結界も崩壊し、十数年前には予想もしていなかった未来が到来して。
 そろそろ年齢的に、結婚の話なんかも出てきたりしているが。
 それも、どこ吹く風。
 今日も一歌は、相変わらずマイペースな日常を過ごしている。
「さて、今日も修行だ! ビシバシいくわよー!」
 青龍拳士の一族に連なる者として、実家の道場で門下生達を鍛えたり。
 たまには、ふらっと抜け出して、ライブを見に行ったりなんかも。
 風のように軽やかに、自由に。
 フットワーク軽いのが、一歌には性に合っている。
 そして。
「大丈夫だった?」
 ゴーストに襲われていた能力覚醒直後の少年を助けた一歌は、彼に手を差し伸べる。
 ビシバシと日々修行し鍛えながら、どこへでもすぐ飛んでいけるように。
 どこかで誰かが助けを求めていたら――いつでも、駆けつけて守れるように。

「今年は出ないとね……」
 そう呟いた沙希の手には、1通のお誘いの手紙。
 それは――懐かしい皆が集う、同窓会のお知らせ。
「崇君と加奈ちゃんも子供が出来たっていうし会いに行きたいな」
 手紙やメールなどで、皆の近状はそれなりに聞いていたりしているけれど。
「涼介や刹那ちゃん、詩杏さん、墨枝さんも来るのかな?」
 でもやっぱり、直接会って話したいし。
 懐かしい思い出話も沢山したいし。
「みんなどんな感じになってるか楽しみだな」
 ねー、と。
 腕に抱いた赤ちゃんに、あやしながらそう話しかける沙希。
 妊娠や出産、育児で、これまでは行きたくてもいけなかったけど。
 今年は、夫が見てくれるって言ってくれたから。
 皆との再会の日を指折り数えながら。
 沙希は愛しい我が子に微笑むのだった。
 そして――英国から日本へ出発する、当日。
「じゃあ、同窓会に行ってくるからよろしくね」
 そうぎゅっと夫を抱き締めてから。
「行ってきます」
 にこにこと機嫌良く笑う赤ちゃんに、手を振るのだった。

 もうすぐ、日本で同窓会が開かれる日。
 涼介はこの日のために、前々から準備万端! ……にしていたのだが。
「またこのパターンか!」
 結局、やはり出先でトラブルが。
 予定通りの旅路にならない予感でいっぱい。
 ということで、大急ぎでマヨイガへ!
 こういう時本当に便利です、さすがマヨイガ。
 そんなマヨイガを無事に経由し、待ち合わせ場所へと駆け込んでくる涼介を。
 既に待っていた同級生の詩杏と宗司郎、そして不滅の使者の陽炎が迎える。
「お待たせ、遅れてないよね!?」
「ええ。そんなに急がなくても大丈夫でしたの」
 息を切らしてやって来た涼介に、詩杏はそうくすりと笑んでから。
「では、同窓会の会場に向かおうか」
 そう微笑む宗司郎と、涼介の周囲をくるくる嬉しそうに廻る陽炎。
 涼介は普段はドイツで楽隠居しつつ、植物研究をしているのだが。
 研究過程で育てた花の評判が良く、仕事も頻繁に舞い込んでくる。
 そしてたまにマヨイガを通って、詩杏や宗司郎にもそんな花をお裾分けしたこともあって。
 久しぶりという感じは、まだ正直しないが。
 同窓会にはきっと、懐かしい顔が沢山だろうから。 
  
 サイトが卒業後、ドイツに帰郷したのは、能力者の家系の古い因習を断つ為であった。
 しかしそれの因果は、祖母の死去というカタチで、数年で終わったのだった。
 だが、その先の未来を特に見据えていなかったサイトは。
 そのまま、ゴースト退治や能力者の素質を持つ子供の保護等を続けている。
 その間、仲間達との交流といえば。
 ティアレスに、保護した子供を預かって貰いに行く程度になってしまっていた。
 一方――ティアレスは。
 誰かの役に立ちたいとそう思い続け、選んだのが、教育者という道。
 そして銀誓館学園に送るにはまだ幼い年の能力者覚醒直後の子たちを預かっていたら。
「みんな食事の時間よ」
 何時の間にか――孤児院みたいになってしまった。
「しかも殆どサイトの連れて来た子とか! 全く私を何だと思って……っ」
 そう子供たちの食事の準備を終え、ぐっとお玉を握り締めたティアレスであったが。
(「……ま、頼られて悪い気はしないけど」)
 そう、心の中でぼそり。
 そんな――ある時だった。
 サイトが対峙したのは、かなりの強敵であったゴースト。
 そのゴーストを、何とか相打ちギリギリで倒せたはいいもの。
「……同窓会、行けそうにないか」
 ガクリと膝を折り、地に崩れ落ちるのだった。
 そして――もうすぐ、日本で同窓会があるのだが。
 それに出席すべく待ち合わせをしていたのに案の定、一向に姿を現さないから。
 ティアレスは『また』、サイトを探し回る羽目に。
 それから血の後を辿れば、そこには倒れ伏す彼の姿。
 ――だから。
「治療の前に一発ぶん殴るわ!」

 大晦日のトップアイドルは、大忙し。
 つい先程までえり子は、テレビの歌合戦番組に出ていたかと思えば。
 今度は急いで移動して、毎年恒例のシークレットカウントダウンの会場へ。
「充実した大みそか、やっぱり忙しい年末って最高ですよね♪」
 ソロのダンスシンガーとして番組でパフォーマンスを披露し、同じ番組でえり子のバックバンドのギタリストとしても演奏をしたゆりなも、彼女と一緒にカウントダウン会場へ。
 そして今年は、ひらりと雪が舞う年の瀬。
 そんな中、白い息をはあっと吐きながら急ぐえり子にとって、今年のカウントダウンはいつもよりも特別なものであった。
「最近はなかなか来られない人が多かったんだけど、今年は皆来てくれるから……絶対遅れられないんですよね」
「皆と会うの、楽しみですね〜♪ さぁ、今年も最高の年越しです♪」
 そう、今年は――皆が、勢揃いすることになっているから。
「私を助けてくれた、支えてくれた皆との再会。本当に、本当に楽しみです」
 えり子やゆりなのバックダンサーを普段はつとめながらも。
 実は結婚し、子どももいて……本当に幸せな今を送っている舞子も。
 昔からの皆が来るというカウントダウンライブを待ち望み、会場入りを。
「間に合って良かった♪」
 それと同時に、えり子とゆりなも会場に到着して。
 控え室には、沢山の懐かしい顔が。
 今はカウントダウン公演の前であるけれども……何だかちょっとした、同窓会のよう。
「こうしてみんなで集まる機会は貴重ですよね。久しぶりの再会……嬉しくて涙がでますね」
 そう感慨深げに微笑む結衣菜も、もうすっかり、24歳の大人に。
 今は、アイドル活動で世界を巡りながら、傍らでゴースト退治をしている生活を送っている。
「忙しいけど、すごく充実していますよ。皆さんの今はどうですか?」
「詩杏ちゃん、今年もありがとうございます。本当に綺麗になりましたね♪」
「詩杏さん、右京さん、お久しぶりです♪ お2人とも最近の調子はどうですか?」
 えり子やゆりなも、今年もカウントダウンに参加しにやって来た右京や詩杏に声をかけて。
 詩杏は皆さんの活躍はテレビなどで拝見していますの、と差し入れの大きな花束をえり子へと渡しながら。
 結婚して4年、昨年に第1子の女の子を出産したことを報告して。
 このカウントダウンにだけは来たかったので主人に初めて預けての外出ですの、とちょっぴり心配気。
 右京は、アイツがひとりで子供の世話かー……と微笑ましげに笑みながら。
 銀誓館学園の教師として働く一方、詩杏と同じ昨年に2人目が生まれたのだと、これまたおめでたい報告を。
 そしてバニーさん姿でそんな二人にドリンクを配ったりと、公演前の接待に勤しむ舞子は。
 コンサートが始まるまでの間、皆と昔話や今の事など、色々なことを懐かし気に語り合う。
 そして秀都の傍らには。
「ああ、紹介するぜ。俺の息子だ。名前は……静都だな。まー、嫁さんの一字と俺の一字を取っている。ちなみに娘はアイツのとこに預けて、今は世界一周巡業の旅にでてたってわけよ」
 彼に良く似た、男の子が。
 世界に名を知られたトップダンサーとして活躍する綾瀬も、招待されたカウントダウンを盛り上げるため、沢山の劇団の皆を率いて楽屋に顔を出して。
 そしてくるみも、招待された約束のカウントダウンに胸を熱くしながら。
「みんなひさしぶり……元気にしてた?」
 アイドルを経て、すっかり大人のタレントに。
 歌だけではなく、バラエティにお芝居にと、マルチな活動を続けている。
 そして、それなりの年月が流れたけれど。
「えり子さんはどんどん美人になりますね。結衣菜さんはさらに可愛らしく……他の皆様も立派に……」
 雪女だからか、夏果の見目は昔と殆ど変わっていない。
 でも、フリッカーの修行ということもあったけれど……歌とギターとベースの腕だけは、ずっと磨いていた。
 そしてお呼ばれした、この内田オフィスのカウントダウン。
「プロのえり子さんや結衣菜さんのステージにお邪魔するのであれば、相応のクオリティが必要ですしね」
 そう夏果は気合を入れて、ギターとベースを抱える。
 ――開演までの感情が昂ぶっているのは、何も楽屋だけではない。
 ステージに煌きと旋律が溢れるのを待つ、客席も同じ。
「年に一度のシークレットカウントダウン、とっても楽しみなのですよ♪」
 アリスも、えり子たちの登場をわくわくと心待ちにして。
(「今年ももう年末か……」)
 毎年誘われている覚にとっても、大晦日の恒例となっているカウントダウンイベント。
 そしてここ数年は――妻であるレイラと子供二人も一緒だ。
 大学を卒業し、実家の運営もほぼ任されてから数年。
 もうすっかり、家長が板についているけれど。
(「ここに来ると学生時代に戻ったような気がして嬉しいね」)
 それに今頃、死んではいないのだが草葉の陰の兄も。
 遠い宇宙の向こうで悔しがっているだろうねと、そう、雪が舞い降る空をふと覚は見上げた。
 そしていよいよ――カウントダウンイベントの始まり!
 えり子の手を引いてステージにエスコートするのは、男装の麗人。
 その麗人の正体は、プロダンサー仕様の綾瀬だ。
「久しぶりに皆さんが揃いましたね。さあ、新しい年のはじまりです」
 綾瀬は、えり子の歌にあわせ劇団の皆が踊る中、インカムをつけて。
 新しい年に祝福を……そしてこの幸せがいつまでも続きますようにと。
 そう願いを込めて歌い、ステージを舞う。
「それでは、ステージへ……」
 オープニングパフォーマンスが終わり、続いて飛び出したのは夏果。
 歌って演って、ガンガンにビートを利かせたりもして。
「行きますよ!」
 少々ハッスルしすぎましたかと思うも、客席も大盛り上がり! これも修行の賜物です!
 そしてあと僅かに迫ったカウントダウンの時を待つ。また、新しい1年が始まりますよ、と。
 接待仕様のバニーちゃんから、舞子もバックダンサーに早変わり。
 えり子や、自分を救ってくれたゆりなの後ろで、しっかりとステップを踏んでいく。
 舞子は結婚し子供もいて、今、とても幸せである。
 そして――生まれた娘に付けた名は『結子』。妹の生まれ変わりに、思えたから。
 それに何より、この子がずっと幸せでいられる未来を、皆で護っていきたい。
 そんな思いを込めて舞子はステージに踊る。
 どこか高い空の上から、もしかしたらこのステージを見ているかもしれない、妹のために。
 ん、盛大に盛り上げていこうか、と。秀都も皆と一緒に、ステージでギターをかき鳴らしている。
「ほいじゃ、一曲いってみっか。俺の歌がどれだけ成長したか、聴かせてやんよ」
 もう音痴な歌は卒業? 秀都は隣にいる息子へと声を掛ける。
「よし、いくぞ。静都っ、お前も歌えっ」
 そして持参したギターを弾いて皆の演奏のサポートにあたるくるみは、ステージの真ん中で歌う憧れの人に視線を向けて。
「ご招待ありがとう、えり子さん。 今日はたのしみましょう♪」
 すぐそばまでやって来た彼女と一緒に、大好きな歌を披露!
 そしてくるみは、歌を歌いギターを鳴らして、ステージ上にいる皆を見ながらも思う。
 大人になったくるみは皆にどのように映るのでしょうか? と。
 それから、ふと空を見上げて。
(「私も大人になりました……今の私をあなたが見たらどう思うかしら……あの日……はるか彼方へと旅立っていった幼い私の初恋の人……」)
 心を染めた淡い思い出に浸るのだった。
 それからついに――新しい年を迎える瞬間。
 皆、もう新年ですよ、とえり子は微笑んで。
『3・2・1……あけましておめでとう♪』
 ハッピーニューイヤー!!
『皆の元気な顔、見られて良かった。これからも皆の笑顔見せて下さいね。さぁ皆で歌いましょう☆』
 新しい年を迎えても、まだまだステージはこれから!
『朝までノンストップ♪ 皆で元気に楽しく、歌って踊るのです♪ 楽しい年越しの、新しい年の夜から朝は…ずっと続きます♪ 今年も来年も……すっとずっと……A Happy New year♪♪』
 ゆりなはえり子のバックバンドのギタリストとして、ギターとコーラスでより新年を迎えた一層ステージを盛り上げて。
 結衣菜もスポットライトと歓声を浴びながら、今を彩る。
(「私たちの日常は、未来は、今を重ねて続いて行くんです」)
 皆との再会を、迎えた新年を祝して。
(「アイドル活動で上手くなった私の歌、みんなの心に響きますように」)
 これらの今を忘れられない思い出にして、重ねていくために、結衣菜は歌う。
 心に響く旋律を、皆と奏でながら。
 そしてステージに負けないくらい盛り上がりをみせる観客席で、アリスは素敵なステージに感動しきりで。
 自然に声を合わせ、ステージと観客席が歌声という一本の糸が繋がる。
 アリスはその一体感を全身で感じながら。
 どうかこの先も素敵な未来でありますようにと、月の如く柔らかな微笑みと歌声をステージへ。
(「やっぱりこうした機会に触れ合えると喜ぶよね」)
 そして覚も客席で、えり子やゆりなの大ファンだという子供達の大喜びする顔を見つめながら。
 ふと隣にいる妻の横顔を見つめる。
 全ては――縁、だと。
 大切な人と出会えたのも。えり子たちのような、芸能界の第一線で輝いている大歌手の皆と知り合えたのも。
 本当に不思議なものだよね、とキラキラ輝くステージに視線を戻しながら。
 銀誓館学園に通っていた頃のことを、思い出す。
(「ボクは結局、楽器には縁がなかったけど。周りを見れば、当時、練習してた皆が楽器を持ってる訳で……良い学生時代だったんだね」)
 そして何より……良い学生時代が送れたのは、良い仲間達に出逢えたから。
 それから覚も、歌を一緒に。大切な人や子供達と一緒に、歌を歌うのだった。
 えり子は、今こうやって、ステージの上で皆と一緒にで歌えることに喜びを感じながらも。
 自分たちとともに声を合わせ、惜しまない拍手を鳴らし、歌ってくれる沢山のお客さんたちをぐるりと見回して。
 大きく手を振りながら、ぐっと胸に揺れる星のペンダントを握り締め、スポットライトに輝く雪が舞う空を見上げる。
 ――お父さん、私、立派な歌手になったかな?
 その答えは、今、目の前にいる観客たちが教えてくれている。
 学園生活に能力者活動、芸能界の仕事――どれも決して手を抜かず、これまで駆け抜けてきたえり子。
 そんな頑張りやさんの彼女の周りには、いつも笑顔と音楽で溢れていて。
 そして皆と一緒にキラキラ輝くその姿は、月日が流れた今も、その光が失われるどころかますます増すばかりで。
 歌手として、世界に名を知られるほどになった。
 きっと、いつもすぐ傍で見守ってくれたお父さんも、大満足なくらい。
 でも――そんなえり子にも、あとひとつだけ。親孝行をしなければいけないことが残っているようだ。
 それは。
(「お父さんにまだ花嫁姿を見せられなくて申し訳ないけど。私、今凄く充実してます」)
 だからもうちょっとだけ……待ってて下さいね♪ と。
 音楽という絆で結ばれたかけがえのない皆と、沢山の音を合わせて。
 大切な思い出の曲――『HOPE in the SONG』を歌うのだった。

 ――夢と希望は生きる力、歌の力、信じる希望、どんな時も忘れないで――HOPE in the SONG♪
 
●2024年:同窓会
 今日は――銀誓館学園時代の、同窓会の日。
 でも、銀誓館学園の同窓会だから……多分、ありふれたものではありません。
 ……などと言っているうちに。
 同窓会に向かおうとしていた刹那は、ふと立ち止まって。
 何事か、何だか騒ぎになっている様子を見かけ、首を傾けてから。
 ふと騒ぎの現場を覗いてみると、そこには――。
「ティアレスさんと、サイトさん?」
 倒れたサイトを運んでいる、ティアレスの姿が。
 二人のことをよく知っている刹那は、すぐに事情を飲み込めて。
「変わらずにぎやかですね」
 くすっと笑みを浮かべてから。
 手を繋いで連れている小さな子に、微笑みかける。
 その頃、既に一番乗りで同窓会会場に到着していたのは、涼介と詩杏と宗司郎。
 二人のおかげで無事に早めに会場に辿り着くことができた涼介は、皆が来るまで、詩杏たちと近状を語り合う。
「そういえば詩杏さんは、何のジョブになったの?」
 まさか猟理師だったり……と、詩杏と親しい友人であったら一度はガクブルする想像をそっとする涼介。
 ゴーストタウンなんかで料理をばらまかれたら全滅するかもしれない、などと思っていたが。
 呪言士×書道使いであるという返答に、ちょっとホッ。
 そんな涼介に、今度は逆に詩杏が訊ねる。
「涼介さんはドイツで研究に勤しんでいらっしゃいますが……その、ご結婚などは?」
 その言葉に、待ってました! と言わんばかりに。
 大量の写真をまずは二人に一通り説明付きで見せてから。
 その後、たっぷり惚気まくりです!
 そして性格的に生真面目にうんうんと彼の話を真剣に聞く、詩杏と宗司郎。
 不滅の使者の陽炎も、にこにこと翼をパタパタさせながらお利口さんに。
 それから涼介が、今度は携帯に保存してある家族の写メを見せようとした――その時だった。
 怪我を負ったサイトを抱え、幼子十数人を引き連れて。
 ティアレスが、同窓会会場に姿をみせたのだった。
 そして担ぎ込まれたサイトに駆け寄って。
「お前……担ぎ込まれるの卒業してこれで何回目だ……?」
 そう呆れつつ、薬箱を取り出して涼介は怪我の治療を。
「またサイト君が無茶したんだ……」
 同窓会会場に到着した沙希も同じく呆れながら、治療のお手伝い。
 無茶ばかりだという言葉に自覚のあるサイトは、素直に皆に従いながらも。
「え? 担がれた回数……うん、まぁ」
 実はティアレスに数え切れない程されていますが。
 そう、何気なく流そうとするも。
 ティアレスの連れた子供たちが、一斉に口を揃えて連呼し暴露しました!
 そしてその数に、また呆れる一同。
 でも……そんなサイトは相変わらずで、昔から変わらない。
 というか。
「そういえば、その子たちは……?」
 サイトの怪我でスルーしそうになったが、何気にティアレスの周りに沢山いる子供達に気付いて。
「……子供ばかりを家に置いとけないから、仕方なくて!」
「え、ティアレスさんの子供!?」
「ちょ、私の子供じゃないからねっ!?」
 この子たちは、ティアレスが預かっている、銀誓館学園にまだ入学できる年ではない能力者のタマゴたちです。
 さすがにこんなに子沢山じゃありませんでした!
 そして、刹那も同窓会会場に到着して。
 わいわいと賑やかな皆の元へ。
 そして。
「お久しぶりです、皆さんいつも通りですね」
「いつも通りなんです〜??」
 きょと、と首を傾けたのは、刹那が手を引いている蒼い髪と瞳の女の子。
 その子に皆の視線が集まる中。
「あ、この子は私の娘です」
「お義兄ちゃんは聞いてませんよ!?」
 刹那の衝撃発言に思わず涼介は声を上げて。刹那の娘に、狼狽。
 さらに、父親は「内緒」だといわれ、さらにうろたえる。
「刹那ちゃんの子供。本当にかわいいね。お名前は?」
 ふとそう、女の子の視線に屈んで訊いた沙希に。
 刹那の子は、ゆき、と名乗る。
「悠希(ゆき)……悠久なる希望を願い、沙希さんから一字頂きました」
「ちょっと照れくさいな」
 名前の由来を聞いて、沙希は悠希に優しく微笑んでから。
「こんな事だったら、私も赤ちゃん連れてくるべきだったかな?」
 そうそっと、ロケットペンダントを開く。
 そこには――英国人の夫と赤ちゃんと一緒に、幸せそうに笑う写真。
 そんな幸せそうな写真を見せて微笑む沙希と同じ様に。
 私も娘を連れて来ればよかったですの、と言った詩杏も。
 1歳になりますルリですの、と茶色の髪に蒼い瞳の赤ちゃんの写真を見せる。
 それから、刹那や詩杏や沙希がそんな話をしている間に。
「りょうすけおじちゃんですよー」
 すぐに切り替え、義理の姪を可愛がる涼介の姿が。
 そして悠希と陽炎が遊ぶ様に、宗司郎は微かに頬を緩め、微笑ましげに見つめるのだった。
 そんな時――ぶつくさ文句言いつつ、サイトを治療しながら説教していたティアレスであったが。
「ならいっそ、一緒に住まないか?」
 さらりと爆弾発言する、サイト。
 その言葉に、ティアレスは思わず噴出した後、瞳を大きく見開く。
「それっ、プロポー……ッバ、バカじゃないの!?」
「バカってそれなりにオレも責任を感じてだな……」
 こんな子供たちの前で……ッと、また彼女に怒られながらも。
「どうしても。頼む。ティアレスじゃないと駄目だ」
 サイトは、そう続けたのだった。
 そして。
「――こ、子供達の父親役として、家に置いてあげない事も無い、けど……っ」
 っち、父親代わりによ!? 勘違いしないでよね!? と。
 そう顔を真っ赤にして言ったティアレスを。
 サイトはおもむろに引き寄せて、ぎゅっと抱き締めた後。
 そっと、その唇に、キスを落としたのだった。

 参加した同窓会で偶然出会ったのは、懐かしい顔。
「あれっ、右京さんどうしてここに? え、同い年だったの!?」
「お、一歌! てか同期だろ、俺たち」
 知らなかったのかよ! とツッこむ右京に、素で年上と思ってました! と。
 そう一歌はビックリしつつも、右京と一緒に、暫しお喋りを。
「というわけで、右京さんがどんな風にこれまで過ごしてきたのか、すっごく興味あります!」
「って何、そのレコーダー!?」
「いや、今日ここに来てない結社の皆も気になってるんじゃないかなーって」
「ていうか……どんな風に過ごしてきたかって言われてもなぁ」
 いざ聞かれると、どう答えていいかわからない様子の右京に。
「はいっ、質問です! 銀誓館学園卒業後はどんな風に過ごしてきましたか!」
「え? 大学の教育学部に進学して、結構慌しかったな。銀誓館で能力者活動もしてたし」
「じゃあその頃、一番楽しかったことは?」
「一番か……えっと……彼女とデート、とか?」
「えっ、何? もう一回!」
「何でもう一回!? ていうか何で俺ばっか!?」
 そういう一歌はどうだったんだよ、と逆に右京は彼女に聞いてみるも。
「私のことはいいの、いいの! じゃあ、先生になってからはどう? あ、結婚してるんだっけ? 子供は?」
「え? えと、今は銀誓館学園の小学2年生の担任だぞ。結婚は……えと、6年前で。子供は今4歳と1歳の、世界で一番美少女な姉妹がだな……って、もういいだろ!?」
 大人の事情でこれ以上は企業秘密だ! と。
 そう何気に真っ赤な顔をして言った後。
「あ、そーいや前に、惑と司と会ったな」
「おお、懐かしい、赤い不憫の三連星だね!」
「なんかもうひとり不憫がいたけど……って、俺は不憫じゃねーし!」
 そう二人で、学園に通っていた頃の不憫楽しい思い出話に花を咲かせるのだった。
 
 偶然駅で出会ったのは、久しぶりに会う友。
 でもその傍らにはお互い、自慢の我が子の姿が。
 有名な絵本作家で2児の母となったエルレイは、6歳の男の子を。
 順調に検察官としての仕事をこなしている小春は、3歳の女の子をそれぞれ連れてきていて。
 いざ同窓会会場に着いて思いっきりはじまるのは、親バカ話!
「この子も春に銀誓館に入学よ。かっこいい拳士になりたいって言ったね、拳士×もらね」
「うちの子、顔立ちとか髪とかおかーさんそっくりでもー可愛くて……」
「この前拾った子だけど……ほら、もらいじめないでよ!?」
 きょとりと、パパの傍にちょこり座っている女の子と。
 いじめたつもりはなかったらしいが、モーラットのふわもこほっぺをびよーんとしたちょっぴりヤンチャな男の子。
 エルレイは、もきゅぅ〜と助けを求めるモーラットを保護し、よしよししてから。
「あ、右京様。相変わらずオサレイケメンね」
 通りかかった右京に、エルレイはそう声を掛ける。
 右京はそんなエルレイの言葉に、おーそうだろ? とどや顔してから。
「!」
 相変わらず凶悪な視線を向けるメビウスさんに、やっぱいつ見てもメビウスさん可愛いなぁとほわん。
「そういえば学園の教師なのか? もしうちの子がお世話になりましたらよろしくしてね」
「おう、学園の小学校の教師に……って、エルレイが保護者、だと……!?」
 右京は驚いた様に、エルレイと彼女の息子を交互に見遣って。
 時が経つのはあっという間だなぁと呟く。
「あ、センパイ方、こんにちは!」
 それから小春は、詩杏と宗司郎も見つけ、元気にご挨拶!
 そしてまたもや、子供紹介と言う名の子供自慢です!
 え、親バカ? ええ、親バカです!
 それから一通り、うちの子まじかわいい的なトークが済んだ頃。
「イケメンオサレなセンパイ方のお相手の人どんな人かなー……子供やっぱセンパイ達に似てるんです?」
 そう、視線をちらっ。
 右京は少し照れながら、お相手も会場のどこかにいるんだぞ、と言って。
 詩杏は、将来は郊外の一軒家で犬を買いたいと話してますの、と笑んで。
 宗司郎は、相手は元々許婚であった幼馴染だ、と微笑む。
 そしてやはり皆で始まるのは、うちのこまじかわいいの親馬鹿談義です!
 何気に子供がまだである宗司郎も、陽炎がいるから大丈夫……??

 今年の同窓会も、銀誓館学園を巣立った沢山の能力者が出席していた。
「や、皆サン変わって無ぇ人も居ればえらい印象激変した人も居って見飽きんねぇ」
 知人を見かけるごとに挨拶しつつ会場を巡る彩晴は、改めてぐるりと周囲を見回して。
 流石に十数年経っとりゃそんなモンなんかもしらんが、と呟いてから。
 ふと鏡に映る自分の姿が目に入る。
「ま、俺は元々銀髪のせいでそう変わったようには見えんかしら」
 先程から比較的あっさりと知人に見つかっているあたりを考えても、恐らくそう変わってはないと思われる。
 いや、むしろ。
(「年齢積んでも全く落ち着かんで色々騒がしい生活なのは相変わらずやし」)
 落ち着く日がくるんかは知らんけどな、と瞳を細める。
 というか、同窓会に来て何よりも驚いたこと、それは。
(「結婚した人も結構多そうやなーと。さっきすれ違った人なんか子供サン沢山連れとったし……」)
 皆、いいお年頃になって、家族になった人達や家族が増えている人まで様々だ。
 彩晴は、わーいっとはしゃいでいる誰かの子供を見つめてから。
 今回の同窓会で集まっているという【文月探偵事務所】の面々を探した。
 そして彩晴の探している【文月探偵事務所】の皆は。
 共通の知人も多い【本屋『雨ノ雫』】の皆とも合流し、続々と懐かしい再会を果たしていた。
「まさかこの年でまだワイワイ騒げるとはな」
 久々に会った探偵事務所の皆の、相変わらず賑やかな様子に、翔はそう言って。
「みんな久しぶりやね。見違えるような人も変わらん人も、これが12年の歳月かの」
「みなさんこんにちは。あはっ、お久しぶりね」
 鋼鉄の傍で、胸の前で手を合わせ笑む奏。
「鋼鉄と鈴森……いや、奏と結婚したか」
「八幡は……ごちそうさま」
 翔は、自然と寄り添う夫婦二人に、改めて祝いの言葉を贈りつつも。
 あの頃の朴念仁を思い出すとなんか笑いが浮かぶ、と瞳を細めて。
 基も、すっかりおしどり夫婦の二人に、そうからかうように笑んだ。
 いや、夫婦となった二人もだけど。
「ほら、朔花と向日葵。みんなに挨拶しぃ」
「八幡向日葵、4歳っちゃ〜♪」
「初めまして、ヒマの兄の朔花だ!」
 父親の隣で絵を描いていたにこにこ明るい笑顔の女の子と、母親の傍で悪戯っぽくにっと明るく笑む男の子。
「って、八幡たちの子、双子か!?」
「ふふ〜、自慢の子達よ」
 こくりと頷き、奏は自慢の我が子である双子の兄妹を見つめて。
「さく、ひま。沢山お友達つくってきなさい」
「父さんらお話しとうけん、みんなと遊んできぃ」
 そう促した両親の言葉に、双子たちは頷いて二人手をしっかりと繋ぎ、仲良く走り出す。
 そして奏は子供たちが遊びに行くのを見送りつつ、周囲を見回して。
「あはっ、みなさんの子供も可愛いわ」
 無邪気な声が上がる賑やかな雰囲気に笑むのだった。
 もう皆、子供がいても不思議はない年齢。
 鋼鉄や奏だけでなく、我が子も一緒に同窓会に出席している者も多い。
「この子、あたしの子そっくりでしょ」
 そうにっと笑んだミーの隣には、ミーをそのまま縮めたような女の子が。
「おー、桃も来たんだな」
 何気に偶然ミーの娘の担任をしている右京に、先生のおかしおいしいね! と桃はへらりと笑んだ後。
 ねー遊ぼー! と、元気よく他の子たちに声を掛ける。
 そして、転ばないよう気をつけろよーと娘に声を掛けた右京に、ミーは向き直って。
「そういえばうっきーは子供いるの?」
 そう右京に尋ねる。
「ん? ああ、女の子が二人いるぞ。4歳と1歳のな」
 今日も来てるけど、あっちにいるママのとこに二人ともいるんだぞ、と言ってから。
 二人ともママっこだからな……と、ちょっぴり寂しげなパパ。
 だが、その時だった。
「ん? ちょ、何でネコ……だああぁあッ!?」
 そんな右京にどかーんっと突進してきたのは、3匹の猫!?
 いえ、3匹の大小の着ぐるみです!
「べ、別に皆と会えて嬉しいとかじゃないからね!」
 トラネコの着ぐるみを着た、ツンデレお転婆な桜ちゃん(8歳♀)に。
「おっと事件かい?俺は文月楓、探偵だ!」
 サバネコの着ぐるみを着た、一人前の探偵気取りな楓くん(5歳♂)と。
「ははは、すっかり懐いてるな」
 そしてお馴染みクロネコの着ぐるみを着た、めっちゃ楽しんでいる裕也さん(32歳♂)である!
 それから3匹の猫の体当たりを受けて吹っ飛んだ赤いのを後目に。
 クロネコな32歳児は、我が子である8歳児と5歳児を改めて皆に紹介する。
「……何か子供多いな、幼稚園状態かよ」
 そう文句を言いつつも、何気に皆の子供にわらわらと囲まれている脇差は。
「……別に、一緒に遊びたいから遊んでやるんじゃないんだぞ」
「べ、別に遊んで欲しいって思ってるわけじゃないからね!」
 トラネコぐるみの桜ちゃんと、ツンデレ合戦!?
 何気に子供たちに懐かれている脇差は、どうやら仲間と認識されたようです。
 そしてやって来た冴も、お久しぶりです! と皆に挨拶した後。
「ふふ、流石に皆さん大人になっちゃいましたね」
 懐かしい顔ぶれをぐるりと見た後。
「わ、子供いる人も多いんだ。よっし、お姉ちゃん遊んであげちゃうぞ!」
 張り切って、子供たちと楽しくキャッキャウフフ!
 それから、皆を見つけて合流した彩晴は、最近どーよ、と訊かれて。
「……はい? そーゆー俺はどーしたんて?? え、結婚したよ4年前」
 まーんな事言うたらダメなんやろがホントけったいな物好きが居ったもんだと、と笑って。
 そうなんだ!? と返ってくる言葉に、証拠を提示!
「や、そんなに疑うんならホラ証拠写真持ってきたけん見ぃ」
 その写真を皆で覗き込めば、金髪で薄緑色の瞳をした色白の女性と、彼女に良く似た女の子が一緒にピースしている。
「そ、その子供もまさか……!?」
「――て俺の娘の他に誰が居るんぞねー……」
 ちょっと2時間サスペンスなノリの言葉に苦笑しつつも。
「もう一瞬もじっとしてくれん辺り確かに俺の血継いどるわ、毎日大変やよ、面白ぇけど」
 彩晴は父親の顔を垣間見せつつ、写真の子と似た笑みを宿すのだった。
 そんな皆の結婚話や子供たちを眺めて。
(「私ももうこんな歳だし、そろそろ結婚相手を探そうか?」)
 ふとそう翔は考えるも。
 ……いや、こんな仕事をしてる人なんて、結婚できるわけないな、と小さく首を振った後。
(「それより、いまはこの穏やかな時間を心に残して、精一杯この世界に生きよう」)
 平和そのものの風景や懐かしい友人達と過ごす時間を、目一杯楽しむ。
 それから、探偵事務所の団長である裕也が来たことに気付いた基は。
「そういえば裕也さんにきちんと紹介した事なかったな」
 改めて紗理亜を、裕也に紹介して。
「妻の紗理亜です」
 せっかくなので、と紗理亜もきちんと基の妻として、挨拶を。
 さらに、そんな基を探しているのは。
「らぶりぃvたん、秋矢さんが何処にいるかわかりますか?」
 基ほいほい……いえ、不滅の使者のらぶりぃvたんに、彼を探させて。
「懐かしい面々が揃っていますね」
 クロネコぐるみな裕也にも挨拶を。
 そしてきょとんと自分を見ている彼に。
「え、誰って? 和ですよ」
 年月が経つと、人は変わるものです、と言った後。
「青年は中年に、「お姉さん」はおば……」
 言いかけて自己規制!
 その位のデリカシーは身に付けました、少し大人になりました!
 その同じ頃、赤のワンピースと白のワンピースを揺らしながら。
「あの人って運命予報士だった人だよね」
「色々な方がいて、とても懐かしいですね」
 一緒にそう微笑みながら食事を済ませた晶と百合音は、【文月探偵事務所】の皆を見つけて。
 互いに互いへと贈りあった、大きな赤と黒のMalusと白に銀が散りばめられたThe Snow Queenのリボンを仲良く揺らしながら、懐かしい人たちの元にタッタッと二人駆け寄る。
 そして晶は、吹っ飛ばされた後ようやく戻ってきた右京へと、お久しぶりです、と。
 少し照れながら言った。
「って、晶!? すげー久しぶりだな!」
 おー大きくなったなぁっと、昔と全然変わらない笑顔で右京はそう返して。
「昔もかっこよかったですが、今も右京さんはとってもイケメンさんですね」
 同じくぺこりと挨拶した百合音の言葉に、おーそうだろ♪ と、相変わらずのどや顔を。
 そんな晶に気付いた裕也も、懐かしそうにこう笑う。
「てるてるさんとかうきょとか、そう言ってた頃と見違えたな!」
「ふふ、晶ちゃん、うきょ、うきょってぴょんぴょん可愛かったですの」
 そんな過去のことを言われ、ユリの意地悪っ、と晶はまたまた恥ずかしさに顔を隠すも。
「あ、そうだ。今日、晶が来るって聞いてたから……ほら、アニマルさんウインナー作ってきたんだぞ」
 これ、すげー好きだったよな? と優しく微笑んでアニマルさんウインナーを差し出す右京に。
「うきょ……」
 それを受け取りながら、つい、昔の呼び方を口にする晶。
 だがすぐに我に返り、やっぱり真っ赤になった顔を隠してしまう。
 そんなやり取りににこにこ微笑む百合音は、ふと右京の携帯についているストラップを見つけて。
「あ、このもふもふしっぽさん、遊園地に晶ちゃんと行った時のお土産ですよね?」
「ん? おお、そうだぞ。あ、晶もまだつけててくれてるんだな! てか遊園地、懐かしいなー」
 無邪気に笑む右京と、恥ずかしくてまだ顔を隠している晶を交互に見ながら。
 昔の二人のデートを思い出して、百合音はそわそわ夢見がちなことを考えるのだった。
 それから、裕也に挨拶した後。
「久しぶり、元気だった? 涼と鈴子、宗司郎も久しぶりね」
 紗理亜は基と【本屋『雨ノ雫』】の皆の元へ。
 そしてそんなに変わっていない面々に、あの頃の事を思い出す。
「皆さん、お久しぶりです。本屋の懐かしい顔ぶれは本当に変わりませんね」
 涼も、紗理亜と同じくそう久しい仲間たちを見回して。
 ベタだけど、学生の頃に戻ったみたいです、と笑んだ。
「皆さんお久しぶりです! お変わりもなくてお元気そうで何より」
 そんな涼を見つめた後、鈴子は嬉しそうに瞳を細めてから。
「卒業してからはあっという間に何年も経ってしまって、学園にいた頃が本当に懐かしいですね」
 改めて、皆を見つめる。
 そんな涼と鈴子を交互に見て、一条は男上げたか? と基は笑んだ後。
 ちょっぴりお互い頬を染める二人の様子にうんうんと頷いてから。
「皆、久しいな。元気そうでなによりだ」
「墨枝……」
 そう言ってやって来た宗司郎に視線を向けた。
 あ……いえ、間違えました。
(「ぷりてぃは変わらず可愛い……」)
 くるくる回りながらぺこりんっと挨拶した陽炎をガン見、でした!
 そんな陽炎を見て、思わず鼻血……は、もう出さないそうなんですが。
 基はまた、ぷりてぃに熱い視線を……と。自分に向けられている紗理亜の目線に気付き、こほんと基は咳払い。
 そして、裕也に挨拶を終えた和のらぶりぃvたんと陽炎が、きゃっきゃ一緒に戯れはじめたその姿に。
 今度こそ、堪らず鼻血を出しそうになっている基を後目に。
「皆は今、何をやっているの?」
 紗理亜はそう皆に尋ねた後、自分の近状を語る。
「私は子供達を教えてるの」
 忙しくもあるけれど、とっても幸せ、と。
 続けた紗理亜に、基も頷いた。
「桜の木のある小さな学舎をやってる。立ち寄る人を『おかえり』と迎える場所で」
 うん、幸せだよ――そう、彼女に笑みながら。
 そんな基に続いたのは、皆と一通り再会し、らぶりぃvたんと仕事場へ戻ろうとしていた和だった。
「僕は今、魔術師養成の指導をしています。1人でも多くの人が命を落とさないように。能力を最大源に引き出すのです」
「僕は大学を出てからずっと、向こうの中学校で国語を教えています」
 涼も続いてから、ふとおもむろに首を傾けて。
「……西の言葉、やっぱり大分移ってるかなあ。墨枝君、京都の人の耳にはどう聞こえます?」
 そう、宗司郎に目を向けた。
 宗司郎は、確かに言葉の端々が移っているようだな、と笑んで。次に、自分の近状を。
「私は書道会の役員として若い書道使いの指導にあたったり、広告塔として講演会やメディアで我等の活動を広めたりしている。結婚は昨年に、昔からの許婚であった幼馴染と」
 さらに、鈴子も続いて。
「色々迷ったけど、私も先生になりました。今は銀誓館で歴史を教えてます」
 それから涼に視線を向けた後、微笑みながらこう言ったのだった。
「本屋には時々顔を出したりしてますけど、そこにいる人が変わっても、あの頃のままの、優しい場所なのは変わってないですよ」
「あの店も、後輩たちに受け継がれているんですよね。そう考えるとすごく嬉しい」
 一時期鍵を預かっていた涼も、相変わらずであるという雨ノ雫の様子に瞳を細めて。
「後で本屋さんにも寄りたいわね」
 紗理亜も基と視線を合わせながら、懐かしそうに頷いた。
 そんな本屋の皆の元にやって来たのは、涼の妹の冴。
「そう言えば、涼兄さんに会うのも何だかんだで久しぶりだよね。昔は頼りなかったのに、もうすっかり先生なんだ」
 随分と立派になった兄に、そう言った後。
 兄たちや集まってきた探偵事務所の皆に、近状報告を。
「あたしは、留年しなければ来年獣医師の国試です! ふふ、一個浪人したけどちゃんと夢に向かって突き進んでますよ!」
 日本中旅しながら、動物もゴーストに苦しめられてる人も助けられたらいいなって! と笑みながら。
「今は建築士仲間と中国で除霊都市のモデルタウンを造っとうよ」
「みなさんの活躍も聞き及んでるわ。私ももっと頑張らないとね」
 鋼鉄の横で彼の仕事をサポートしている奏は、そう皆を見回した後。
「笑顔が溢れる都市づくり、頑張りましょうね、あなた」
 目的を実現させるべく進む彼に、そう微笑む。
「皆結婚したり仕事したりそれぞれの道を歩んでるんだね」
 ミーは皆の色々な進路に感心したように言ってから。
「あたしもゴースト退治は続けてるよ。子供も一緒に戦ってるんだ」
 楽しそうに遊ぶ桃に目を向ける。
 右京も、銀誓館学園小学校の教師を生業に、女の子の2児のパパになったと頬を緩ませて。
「詩杏は料理上達したのか? ……あ、試食なら右京に宜しく頼む」
「何で俺!?」
 保父状態で子供に囲まれたまま、バイオオーガニックウェポン的なそれを右京に無茶振りしつつ。
「宗司郎もだが、陽炎が元気そうで何よりだ」
 ぱたぱた翼をさせながらちょこんと座っているぷりてぃに何気にきゅん。
 そしてアリスは、えへへと笑みながら。
「アリスももう23歳、立派な大人なのです。うっかり天然ボケなんてしないのですよ?」
 押すなよ押すなよ! 的な感じに似ている前振りをしっかりしてから。
「あ、右京さん、珍しい料理があったのです! ……あれ?どうかしましたか?」
「ちょ、おまっ、今まで何気に敢えて触れないようにしてたのに!?」
 寧ろ拍車のかかった天然ボケ発揮です!
 そして。
「そのお菓子、私が皆様にと作ってきたマカロンです♪ 右京さん、どうぞですの」
「マ、マカロンとか、なんでよりによって難易度高めなお菓子を選ぶ……!?」
 ずいっと差し出されたソレに驚愕する。
「右京は……まぁ、相変わらずだな」
 主に不憫的に。
 それからバイオオーガニックマカロンを断れず、口にしてぴくぴくしている右京を後目に。
 仕事の都合をつけてやって来た空も、近状を語る。
「女優以外に特にやりたい事もないから、相変わらず芸能界で活動中だ。最近キャラが作り物でない事がばれた。むしろ人気出た。なぜだ」
 第一線で活躍するシュールアイドルの活躍は、皆テレビで知っているが。
 真剣に首を傾ける空に、キャラじゃなくて素なんだ、とぽつり。
 だがシュールキャラなりに、抱く野望もその胸に。
 それは、月の仲間の現在を知りたいということ。
 それから空は、裕也は結婚したのだろうか、と周囲を見回して。
 そっくりな着ぐるみ親子を見つけて、ああ、と納得した後。
「私は『まだ』いい人もいないからもう少し、かな」
 そう言った後、サプライズに一曲、持ち歌の生命賛歌を歌い上げ、場を沸かせるのだった。
 そして、そんな空に。
「そうだ空、隣の部屋の落ち武者に頼まれてな。済まんがサイン一つ頼む」
 がさごそと、隠れ里の落ち武者から預かった色紙を彼女に差し出したのだった。
 ――懐かしい皆とのそんな楽しい時間。
 アリスは今の幸せを噛み締めながらも、ふと、空を見上げて。
 空のそのまた先にある、次の宇宙へと想いを馳せる。
(「それぞれの道を歩んでも、運命の糸はずっと繋がっている。例え今は会えなくとも、想いはいつも一緒なのですよ」)
 だから明さんも、どうか幸せな日々を、と――そう、祈りをこめて。
「昔を思い出すのぅ。これからも僕等の『運命の糸』がずっと繋がっとうとええね」
「学園にいたのがついこの間のよう。今ならどこへだって駆けていけそうね。刻が流れて次の世代へバトンタッチしても、またこうやってみんなで集まりたいわ」
 鋼鉄と奏は、皆や子供たちを改めて見回して。
「それに初めましての人もいる筈なのに、全然初めて会う気がしないですしね。やっぱり、ただ母校が同じ人ってだけじゃなくて『銀誓館学園』の仲間だからかなあ」
 仲間っていい言葉ですよね、と。冴はお代わりのグラスで、もう一度乾杯!
 そんな相変わらずな仲間達に、裕也も微笑んで。
(「それぞれの道を歩もうとも、またこうして笑い合える。この幸せな絆に感謝を」)
 同じ時間を駆け抜けてきた皆との運命の糸に。この幸せな今に、感謝するのだった。

 時間が過ぎるのはあっという間……まさに、光陰矢の如し。
 でもまだこれは、ひとつの時代を駆け抜け、創りあげた君たちの、ほんの十数年の未来。
 そしてまだこの先――THE END OF SILVERRAIN――新たなる時代へと。
 それぞれの未来の道は、続いていく。


マスター:志稲愛海 紹介ページ
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参加者:82人
作成日:2012/12/20
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