たとえば、こんな未来


   



<オープニング>


「ねぇ、みんなは将来の夢とかってある?」
「将来の、夢……?」
「そうですねぇ……」
 月島・生樹(高校生運命予報士・bn0202)の突然の問い掛けに、五條・梅之介(真魔弾術士・bn0233)と、神将の李・蘭黒は揃って首を傾けた。
「俺は、今の専門学校を無事に卒業して、早く一人前のテーラーになりたいと思っています。生樹は、どうなんですか?」
「あたし? あたしはね、まず、卒業したら看護師の専門学校に行けるように勉強頑張るっ! で、看護師になるんだ!」
「生樹も来年は高校3年生ですもんね」
 互いの夢について語り合う生樹と梅之介に、蘭黒は嬉しそうに目を細める。
「楽しみですね。皆さんの未来、私も応援します」
「蘭黒は? 夢とかないの?」
「私は、これからもずっと、神将として銀誓館学園を守っていきます。それが、私のしたいことですから」
「……そっか!」
 薄く微笑んで言う蘭黒に、生樹も笑顔で頷いてみせた。
「……これから先、みんなバラバラの道だけどさ、同窓会とか絶対やろうね! 月一くらいで!」
「あはは、それは何だか多すぎませんか?」
「いーじゃない! 会える時に会おう! 最低でも年に一回! ね! その時は蘭黒も一緒に遊ぼう!」
「はい、是非……」
 それぞれの夢を描きながら、笑い合う。

 今、世界は変わろうとしている。
 あと10年もすれば、世界結界は完全に消滅してしまうという。
 そんな中、どんな未来がやってくるのだろう……。

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参加者
風見・莱花(高雅なる姫君・b00523)
蜜月・杏奈(あんみつ姫・b00657)
御堂・巽(災厄ノ暴嵐麾シ禍キ蒼翠ノ女王・b01048)
アキシロ・スチュワート(碧眼の教師・b01500)
白岸・衛(白騎士・b02556)
フェシア・リンフォース(真なる魔女・b02719)
柏木・隼人(黒の想火・b03076)
神崎・翔(闇を背負いし青き瞳・b04754)
嵐堂・一矢(破魔矢・b09232)
襟裳・岬(の這い寄る混沌・b10858)
荻井・こず絵(沙鶉・b38614)
酒井森・興和(朱纏・b42295)
暗都・魎夜(全てを壊し全てを繋ぐ・b42300)
静島・茅(紡ぎ手・b45688)
杉本・沙紀(天弦に導かれし雷光・b46924)
レイラ・ミツルギ(魔剣士・b48060)
舞城・弓矢(煉情・b57728)
趙・猛臣(我輩は虎である・b59347)
シンディ・ワイズマン(真夏の雪女・b60411)
フォア・トンユエ(正しき闇の導き手・b61331)
戒名音・江莉子(紺珠想吟・b61521)
音海・雨(壊れた花束・b61862)
八重垣・日鷺(高校生符術士・b62091)
鈴鹿・小春(万彩の剣・b62229)
深水・百花(百花繚乱の萌芽・b63059)
深水・千花(千紫万紅の舞風・b63060)
フルラージュ・エグランティエ(月白蝶・b64014)
スペック・ランドルイーヴン(デストロイヤー・b64890)
陽本・哲太(空回りの太陽・b69498)
妹出・織泉羅(傾国の陽麗姫・b70426)
識野・凪(大切な片割れを守護せし者・b70462)
森部・柚子(土蜘蛛のお嫁さん・b73521)
穂高・瑠梛(臆病な迷子狐・b73787)
九原・終(ナインライヴス・b73832)
瀬河・苺子(絆に導かれて・b77693)
松永・小草(高校生真鋏角衆・b77892)
菅井・レキナ(鳴神の月帝姫・b82451)
焔月・燈夜(誰そ彼の月狐・b82459)
穂村・耶子(橙色の金平糖・b84998)

NPC:月島・生樹(高校生運命予報士・bn0202)




<リプレイ>

●2013〜One year later
 見慣れた銀誓館学園の校舎。御堂・巽(災厄ノ暴嵐麾シ禍キ蒼翠ノ女王・b01048)は教師として再びこの場所へと戻ってきた。
「……ふぅ」
 プール地下の闘技場を後にして、巽は小さく息をつく。
 普段、教室では倫理を中心とした社会科の授業の教鞭を取っている彼女だが、放課後などには在校生の能力者達に戦闘術も指導しているのだ。
 今日も厳しく、教え子達を全力で負かした。だが、彼らも日に日に手強くなっていく。
 教師という面目もあり、以前よりは落ち着いた戦闘装束。腕に填めた篭手を、ふと見やる。
 実家の道場は弟が継ぐことになった。本人は面倒臭がっていたが、まあ、なんとかなるだろう。
 苦笑を漏らしながら、巽は額に浮かんだ汗を拭った。
「……私も、負けていられませんねぇ」
 いずれ道場主になる弟にも。日々成長する教え子達にも。

 今日は進路相談が行われる日。今年高校卒業を迎える、杉本・沙紀(天弦に導かれし雷光・b46924)は、進路希望用紙に迷うことなくペンを走らせた。
 希望は進学。得意のスポーツ推薦が受けられる文系の大学を探すつもりだ。
「あとは……」
 記入を終えたプリントをよけて、手帳を開く。書き込むのは、能力者としての活動予定。
 もう、あと10年もしないうちに、世界結界は消滅してしまう。
 そろそろ、能力者達の訓練施設の準備も手伝いたい。どこかでゴースト事件があればいつでも駆けつけられるようにもしておきたい。
 全部をこなすのは、想像しただけでも大変だけど。
「……よしっ!」
 やれるだけやってみせる、と、沙紀は希望に満ちた笑顔で大きく頷いた。

 通っていた栄養士の専門学校を卒業し、実家のお弁当屋さんを継いだ、フォア・トンユエ(正しき闇の導き手・b61331)。
 このお店は彼女の親が副業として始めた店だが、これがまた思いのほか評判が良く、今ではすっかりこちらが本業のようなものだった。
「わたくしも、こうして地域の人達と触れ合っている方が好きですわ」
 もちろん、戦いを忘れたわけではない。本業の家業……呪言の力を操り、戦うことを。
「平和な日常を護る為……」
 これからも力は活用していこうと、そう思いつつ。フォアは、今日も店先で優しく笑っている。

 月下の魔女達や他の月帝姫達と一緒に、いつか月へと向かうことを決意して。
 菅井・レキナ(鳴神の月帝姫・b82451)は、主な活動拠点を月へと移すべく、忙しい毎日を送っていた。
 月が、元の姿を取り戻すその時を、強く願って。
「でも……帰ってくるのは、このほしだわ。この地球が、私の故郷だもの……」
 夜空の月を見上げ、レキナは誓う。
 大切な大和の地。もう二度と、月との戦が起こらぬように。その為に頑張るのだと。

 シンディ・ワイズマン(真夏の雪女・b60411)は、まるで妖精の如く世界中を飛び回っていた。
 古今東西、あらゆる芸術分野を追求し、求められれば、そこで得た成果を惜しげもなく譲渡する。
 そんな生活を送っている中、シンディは銀誓館学園が所有するメガリス、封神台についての研究にも精を出していた。
「誰もが共有出来る正義、なんて永遠に遠いものを生まれ変わりながらでも永遠に追い続けそうな妹がいるからね……生まれ変わり続けるいい子達をいつまでも迎えて、強く育つまで手を貸し続けてあげられたらなって思うのよ」
 いつの日だったか、誰かに理由を聞かれた時、そんな風に答えたシンディは、現在、封神台の使用許可を申請中なのだとか。

 今日は銀誓館学園の卒業式。暗都・魎夜(全てを壊し全てを繋ぐ・b42300)は、ひっそりと静まった結社棟を見上げていた。
 この学園に来てから色々なことがあった。修学旅行を賭けての人狼達との戦いから始まって、果ては宇宙空間での戦い。
 思い返せば大変なことばかりだったけれど、それが今はただ懐かしい。
 未来で会おう。
 結社棟の柱の隅にそう刻み込んで、魎夜は、にっと口の端を持ち上げた。
「人は何処にだって行けるし、何にだってなれる……か」
 師匠が教えてくれたっけ。なんて、そんなことを思い出しながら。
「そんじゃ、行ってみるか!」
 清々しく笑って、魎夜は結社棟を立ち去った。
 卒業。
 多くの希望がそれぞれの道へ、新たなる一歩を踏み出す日。

 今、何をしているのかと問われれば。
「わたくしは、今は実家のお弁当屋さんを……」
 そう言って、笑顔を返す。
 今日この日、集まった懐かしい顔ぶれに、フォアは顔を綻ばせた。
 時には世界を賭けて、共に戦った仲間達。そんな彼らと楽しい時間に思い描く未来は、どれもこれもがキラキラと輝いているようで。
「きっと大丈夫ですわ。わたくし達が力を合わせれば、どんな世界も明るく出来ますもの」
 今までだって、そうしてきた。これからだって、自分達は、未来を照らす光になれる。
 きっと、なれるはずだ。

●2014〜Two years later
 銀誓館学園、屋上。よく晴れた、ある日のこと。
「にゃにゃにゃ〜ん♪」
 久々に学園に顔を出した、フェシア・リンフォース(真なる魔女・b02719)は、猫変身仲間達と共に猫談議を楽しんでいた。
 そんな彼女も、今は幸せいっぱいな新婚生活を送る中で獣医の卵としての仕事をこなしつつ、世界結界の崩壊に備えて後進を導いたりと、充実してはいるものの、目の回るような忙しさに毎日振り回されていた。
 たまにはこんな息抜きも必要だど、フェシアはつくづくそう思う。
 仲間達とじゃれ合ったり、日向ぼっこをしたりしてのんびり過ごしていたそこへ、ふいに入ってくる、懐かしい人影。フェシアは思わず変身を解いて駆けつける。
「蘭黒さん!」
「ああ、貴女でしたか。お久しぶりです」
 呼びかけると、神将の少女はぺこりと小さく頭を下げて笑顔をみせた。
 いつ以来だろう。ついつい互いの近況報告や思い出話に花が咲く。
「貴女も、これから色々、大変ですね」
「本当、戦っていた時の方がまだ楽だったと思う時もあるわね」
 そんなことを言いながらも、フェシアと蘭黒は笑い合った。
 それは、未来が希望に輝くのを、他愛のない話の中ですら、確かに見たからかもしれない。

 お互い一途に愛を育むこと8年間。ついに結婚式当日を迎えた、白岸・衛(白騎士・b02556)と、蜜月・杏奈(あんみつ姫・b00657)。
 衛は一年間世界を回って歩いた後、消防庁に入庁した。政府への情報公開や世界結界崩壊後に備えて奔走している中でのプロポーズだった。
 杏奈の花嫁衣装は、神前式の和装から、純白のウェディングドレスへとお色直し。杏奈は涙を浮かべて両親と抱き合い、衛の母にも深々と頭を下げる。
 そんな彼女の手をしっかりと握って、衛も母に向き直った。
「今までありがとうございます。杏奈さ……杏奈を一人にしないと約束するよ」
「不束者ですけど、よろしくお願いします」
 衛の真剣な横顔を見つめて、杏奈は衛にも小さく頭を下げてみせた。
「ふふっ、改まって言うと照れちゃうね」
「そう、ですね……」
 見つめ合って、照れたように笑い合う。
「今日からずっと一緒なんだね……」
「これから色々と起きると思いますが、絶対に幸せにします。離しません」
「……衛さん。愛してるの」
 もうずっと、二人が離れることはないだろう。
 祝福の拍手の中、衛と杏奈は誓いのキスを交わした。

 2014年の卒業式を迎えた銀誓館学園。
「生樹ももう卒業か。大きく……なったな?」
「えっへん! そうでしょ、そうでしょー!」
「生樹、生樹、ちょっとここに並んで、な……むぅ、最後まで身長は勝てんかったか……」
「そりゃあ、あたしの方がちびっとおねーちゃんだし? にひひ〜♪」
 無事、式も終え、卒業証書を片手に背比べをし始める、妹出・織泉羅(傾国の陽麗姫・b70426)と、月島・生樹(高校生運命予報士・bn0202)。その一部始終を見守っていた、柏木・隼人(黒の想火・b03076)に、「まさに、どんぐりの背比べ!」と思われていたのは、また別の話で……。

「卒業だな、おめでとう」
「卒業式にわざわざくるとは、貴殿は保護者か」
 教室を出たところで、スペック・ランドルイーヴン(デストロイヤー・b64890)に呼び止められて、織泉羅は、むっと彼を見上げた。
「大きくなったな?」
「余計なお世話だ」
 さっき、背比べに負けたばかりだと、織泉羅は教室の中を振り返る。式を終えたばかりのそこは、はしゃぐ歓声や別れを惜しむ声、そんな幸せでいっぱいだった。
 思わず、織泉羅は目を細めた。その横顔を見つめていたスペックが、少し改まったように小さく咳払いを漏らす。
「……何だ?」
「話しがある。時間、いいか?」
「……? ああ、話すといい」
「そうか。分かった」
 織泉羅の促しに頷いて、スペックは真っ直ぐに彼女の大きな瞳を見下ろす。
「貴様が望むなら、俺は貴様を生涯の伴侶にしたいと思っている」
 突然のプロポーズ。珍しく呆けた顔をしている織泉羅に、スペックはそのまま続けた。
「答えは何時でも良い。どの道、俺は可能な限りずっと貴様の隣にいるつもりだからな」
「……待ってくれ」
 はっとしたように、織泉羅は踵を返して立ち去ろうとするスペックの服の端を捕まえた。
「……わたくしから始まった恋だから……求婚だけは、わたくしからはすまいと……決めていた」
 振り返ったスペックを見上げる織泉羅。ふわり、と向けられた微笑み。それが、彼女の答えだった。

「来年からは、ボクも中学生か……成長期になればボクのひんそーな胸元だって……んっ?」
 どこか遠い目をしながら、すっかり人の気もなくなり静かになった校庭を歩いていた、穂村・耶子(橙色の金平糖・b84998)は、見慣れた二人の姿を見つけて足を止めた。
「柏木先輩と蘭黒さん……? どうしたんだろ?」
 卒業式はもうとっくに終わってしまった。どこへ行くんだろうと、耶子はこっそり二人の後を追いかけた。
「これから、どうするんだ?」
「と、いいますと?」
 夕暮れに染まる校庭を、隼人と蘭黒は何となく一緒に歩いていた。何の事かと小首を傾げる蘭黒に、隼人は、ふと笑いかける。
「……生樹は、寮を出るんだってな」
「はい……寂しくなります……」
 蘭黒の同居人だった生樹は、今年の春から地元である北海道の専門学校に通うことになっている。一年前に銀誓館を卒業し、北海道に就職した同郷の想い人を追っての選択だったらしい。
 嬉しいような、寂しいような。蘭黒はそんな笑顔をみせる。
「……なぁ、蘭黒」
「はい?」
「もし良かったら、何だ、俺とその……」
「……?」
「……結婚しないか?」
 少しだけ口篭った後、隼人は蘭黒の肩を捕まえてそう言った。一瞬、驚いたように見開かれた蘭黒の瞳が、じわりと滲む。
「……駄目です、いけません……だって、私は……」
「構うものか……」
 どちらからというわけもなく、引き寄せられるように抱き合った二人の影が、夕陽に溶けた。
「あわわ……凄いの見ちゃったよ……」
 すっかり退散するタイミングを失って、物陰からその様子を見守っていた耶子の顔も、真っ赤に染まっている。
 卒業の日。少女達が、巣立っていく。

 銀誓館学園を卒業したのちの春休み。音海・雨(壊れた花束・b61862)と、陽本・哲太(空回りの太陽・b69498)は、いつものように肩を並べて歩いていた。
 けれど、こんな日常は、今日が最後で。
「しばらくお別れだな……けど、連絡はずっとするからさっ!」
「うん……」
 明るく笑って言う哲太に、雨も薄く微笑み、頷いた。
 二人はこれから、別の道を歩む。
 雨は音楽大学で声楽とピアノを勉強するらしい。
「休みにはこうしてまた会おうぜ! ほ、ほら、大好きな親友同士なんだからさ!」
「うん。そうだね」
 努めて明るく振舞う哲太に、雨も笑顔を返す。だが……。
「でもね、哲太くん、わたしに特別好きだって言ってくれる人はみんなわたしのことを置いていっちゃうんだよねぇ」
「え……?」
 笑顔に似合わない、悲しい言葉。哲太は愕然と立ち尽くす。
「……雨? 何でそんな事笑顔で言うんだよ?」
「ん……」
 少し先を行った雨が、笑顔のまま振り返った。夕陽に照らされたその笑顔の奥に、不安げな色が鈍く光ったのを、哲太はその時、確かに見た。
 思わず、哲太は雨に詰め寄った。
「なあ、雨はどうして笑うんだ? そりゃ、雨に悲しい事なんかない方がいいけど……悲しい事があった時くらい、ちゃんと泣いていいんだぜ……?」
「でも……笑わないと、置いていかれちゃうもん……」
 くるりと前を向き直して、雨は歩き出した。その背中に、哲太は呼びかける。
「あのさっ、道は別れるけど、オレは絶対、雨を置いていかない。どんなに離れる事があったとしても、心はずっと雨の傍にあるから」
「え……?」
 少し驚いた表情で振り返った雨に、哲太は続ける。
「だから、覚えててくれよな」
「……っ、うん。覚えているね!」
 今度は心からの笑顔をみせて、雨は大きく頷いた。
「約束だよ!」
「ああ!」
 きゅっ、と結ばれた小指と小指。
 大丈夫。どんなに悲しい雨が降っても、いつかは太陽が笑ってくれるはずだから。

 ある日の銀誓館学園。今日は、同窓会と銘打った、隼人と蘭黒の結婚式。
 もちろん、正式なものではないが、回りの強い要望もあって、何とか今日のパーティーを開くことができたのだ。
「蘭黒さま、隼人さま、ご結婚おめでとうございます」
「おめでとう、私も花嫁は憧れでしたの」
「ああ……」
「ありがとう」
 にこりと微笑んで、整った動きで礼をする、アキシロ・スチュワート(碧眼の教師・b01500) の横で、小さく拍手をして笑う、風見・莱花(高雅なる姫君・b00523)。隼人と蘭黒も、そんな二人に笑顔を返す。
「ほえぇ……蘭黒さん、綺麗……」
「隼人さん、恨むわよぉ〜?」
 純白のウェディングドレスをふわりと揺らす蘭黒の姿に耶子が見惚れ、その横で幸せそうに微笑む隼人の肩の辺りを、襟裳・岬(の這い寄る混沌・b10858)が、うりうりと小突いた。
「泣かせるんじゃないですよ? もし不幸にさせたら、皆がただじゃすませませんよぉ」
 その反対側から、巽も同じように。
「分かっているさ」
 笑いながら、隼人は頷く。
「ね、蘭黒。偶には我侭も言ってあげなさいね? 男は甘えんぼの癖に甘えて貰いたがるの……女と同じ様にね、ふふっ」
「……! はい……」
 悪戯っぽくウィンクをしてみせるシンディのアドバイスには、蘭黒が少し顔を赤らめて小さく頷いた。
「幸せになりなさい! あ、でもいつでも私の所来ていいかんね!」
「はい。ありがとう」
 相変わらずな岬の冗談にも、蘭黒は幸せそうに微笑んで。その横顔をそっと振り返った隼人が、ぽつりと呟く。
「蘭黒、俺はお前に、普通の女の子の様な人生を取り戻して欲しい。きっと……いや、二人で必ず幸せになるぞ」
「はい……!」
 今度は大きく頷いて、満面の笑みをみせる蘭黒。
「……ボクもいつか、あんな風に誰かのお嫁さんになれるのかな?」
 零れる幸せそうな笑顔に、耶子も自分の将来に想いを馳せる。
(「私達が生きている間、そしてその次の世代にも、彼女を支えていく絆が必要になってくるんでしょうね……」)
 そんな幸せな風景を眺めながら、神崎・翔(闇を背負いし青き瞳・b04754)は、ふと思う。
 彼女の神将としての部分は、変えることは出来ない。けれど、皆もきっと、それを十分すぎるほどに分かっているはずだ。
 きっと大丈夫。何があっても、乗り越えられる。
 白いブーケが、宙を舞った。


●2015〜Three years later
 銀誓館学園の教師として忙しい毎日を送っていたアキシロと莱花が、ついに結婚をした。
 元は主と従者という間柄であるが故に、親族の反対が大きく、説得に時間を有したというのも、今まで結婚が遅れてしまった原因のひとつかもしれない。
 けれど、一緒になれた今、忙しい毎日ですら愛おしく感じてしまう。
「ふぅ……」
「アキシロ? まだ起きてるの?」
 深夜。机に向かって何やら熱心に調べ物をしているアキシロの背後にそっと近づいて、莱花はその手元を覗いてみた。
 分厚い資料の中の、丁寧な文字で綴られているそれは、銀誓館学園で能力者達が戦ってきた歴史の数々。そして、悪路王関係者から得た情報から導き出した、真実の日本史の数々。
「……頑張るのはいいけど、ほどほどにね?」
「そうですね。そろそろ休みます、莱花さま」
「さまはやめてよ」
「……そうでした」
 妻にジロリと睨まれて、なかなか敬語の抜けないアキシロは困ったように笑ってみせた。

「きゃーーーっ!!!」
 絹を裂くような悲鳴が響いた方角へ、魎夜は急いだ。
 現在大学に通っている魎夜。最近は、こうしてゴースト事件を片付けることも多くなってきた。
「次第にこういう事件、増えてきてるな……」
 銀誓館にいた頃と違って、大事件に繋がりそうなものは今のところ無いのが何よりの救いだが。
 けれど、これは世界結界が消滅していっている兆しなのかもしれない。
 
 依頼を受け、山奥の秘湯へと赴いていた、五條・梅之介(真魔弾術士・bn0233)は、思わぬ顔に出くわして、ぽかんと口を開けていた。
「やあ、久しぶりだねぇ。元気にしてたかい」
 温泉にのんびりと浸かる、静島・茅(紡ぎ手・b45688)が、そこにいた。
「茅さん、どうしたんですか? こんなところで……」
「ふふ、私は神出鬼没のカッコイイつちぐもだから覚えておくといいよ」
『もきん! もきーん!!』
 梅之介の相棒、モーラットの白さんは、なぜか茅がお気に入りらしい。嬉しそうに側へと寄っていって、しきりにカッコイイポーズを取ってみせている。
「はは、白さんも入るかい? 立ち話もなんだし、梅之介もお入りよ」
「え、あ、はい……」
 促されて、梅之介も温泉に入ることになった。白さんには、溺れないようにと、茅が湯桶に入れて浮かべてやっている。
 二人と一匹、大自然を満喫しながら湯に浸かる。
「そういえば、茅さんは今どうしているんですか?」
「こっちは元気にしてるよ。結婚したり、子供が増えたり、結婚式に出席したりね」
 白さんを浮かべた湯桶を突きながら、茅はどこか嬉しそうに目を細めた。
「梅之介は最近どうだい? 結婚とか……」
「どうでしょうね。俺は、いつどうなってもいいように準備はいろいろしてますけど……」
「ふぅん?」
 口振りからするに、心に決めた相手はいるようだった。式にはぜひ呼んでよ、と付け足して、茅は心地良いお湯に身を委ねる。
「茅さんは、これからどうするんですか?」
「私は、郷を作ろうと思ってるよ」
「郷?」
 首を傾げる梅之介に、茅は、うん、と頷いた。
「来訪者も人間も分け隔てなく暮らせるそんな郷を、いうなれば、新・稲生の郷を作ろうと思ってるよ」
「それは、素敵ですね」
「……そういえば、梅之介はテーラーだったね。実は、昔の郷で絹織物を作っていて、私がその技法を受け継ぐ前に郷は滅んでしまってね……もしまた作れるようになったら、何かに使えはしないだろうか?」
「はい、ぜひ……! 楽しみにしてますね」
「良かった。そんな目標があれば、励みになるよ」
 そんな小さな約束を交わして、茅と梅之介はしばしの間、大自然の中の秘湯を満喫した。

 突然の、穂高・瑠梛(臆病な迷子狐・b73787)の予想もしなかった言葉に、識野・凪(大切な片割れを守護せし者・b70462)は思わず呆然と止まってしまった。
 一度落ち着いて考えて、息を大きく何回か吸ったり吐いたりした後、凪は瑠梛に体ごと向き直る。
「……よし、瑠梛、もう一回」
「で、ですから……お散歩してたら声をかけられました。なんでもモデル事務所の方で、モデルをやらないかとお願いされて……」
 もじもじと言いながら、瑠梛は一枚の名刺をそっと差し出してくる。
「というわけで凪、どうしたらいいでしょうか」
「ど、どうしたらって……」
 名刺を受け取ってみて、凪は考え込む。
 名刺にある事務所の名前は、名前くらいは凪も聞いた事があるくらい有名なところだ。悪い場所じゃないみたいだし、養われてばかりじゃ不満だという瑠梛の気持ちもよく分かる。
「私としてはやってみたいと思います、その……興味もありますし……でも、凪がダメと言うなら仕方ないので断りますが……ダメですか……?」
 潤んだ瞳で見つめられる。はぁ、と一つ、凪は深いため息をついた。
「……瑠梛がやりたいと思うなら、良いと思うぞ」
「ほっ、本当ですか!?」
 さっきまで零れそうだった目が、一気に輝いた。さっそく、と瑠梛は名刺に書いてある番号に電話を掛け始める。
「……送り迎え、可能な限り俺がするからな」
 うきうきと楽しそうな背中に、凪はぼそりと呟いた。

 今日は同窓会の日。沙紀は久しぶりに銀誓館学園に足を踏み入れた。
「久しぶりに来てみたけど、変わってないわね……」
 それっぽく呟いてから、無理もないか、と沙紀は笑った。彼女がここを巣立ってから、まだ二年ほどしか経っていない。
 ふと立ち寄ったプールの地下で、沙紀は懐かしい顔に出会う。
「お久しぶり。蘭黒、元気にしてた?」
「はい。貴女も、お元気そうですね」
 銀誓館学園の神将、李・蘭黒だ。
 変わらぬ姿。石化した彼女を封神台へと導いた時のことや、その後一緒に行った動物園の思い出が、鮮明に蘇る。
「ね、せっかくだから、一回手合わせをお願いしていいかしら?」
「分かりました。お相手しましょう」
 スラリと、蘭黒は腰に差した愛剣を抜く。
 敵わないかもしれないけど。それでもどこか楽しそうに、沙紀も起動し、武器を構えた。

 卒業式。無事にこの日を迎えた、森部・柚子(土蜘蛛のお嫁さん・b73521)は、体育館の壇上の上に立っていた。
 一礼し、すぅ、と静かに息を吸って声に出す。
「答辞」
 緊迫した空気に、よく通る声が響いた。
 一言一言を、大切に。
「……本当に色んな事がありましたが、私はこの学園の一員として学べた事を誇りに思います。この経験を胸に、私たちは、ここを巣立ちます!」
 感謝の気持ちも、しっかり込めて。
「支えて下さった先生方、そして、両親にこの言葉を送ります……ありがとうございました……!」
 涙で滲んだ声を振り絞って、最後に柚子は深々と礼をする。
 体育館中に、拍手の渦が巻き起こった。

 式も無事に終り、荻井・こず絵(沙鶉・b38614)は誰もいなくなった教室で、ぼうっと窓の外を見つめていた。
「とうとうあたしも卒業かあ」
 悔しいことに、お子様体型からは卒業できなかったけれど。そんなことを考えていたその時、小さく拍手をする音がした。
「おめでとう、こず絵」
「あっ、にいや!」
 にこりと笑って、教室に入ってくる、酒井森・興和(朱纏・b42295)に、こず絵は、ぱっと目を輝かせて駆け寄っていく。
「お祝い来てくれたの? ありがと!」
「うん、おめでとう……卒業、か。この学園に来た時は、お前も小学生だったのにねぇ……」
「何よ〜改まってもう!」
 ふざけながら、こず絵は握った拳で興和を小突いたりしてみせる。
「うん。すっかり一人前になったよ。これで、僕も安心して山に還れる」
「え……?」
 突き出された拳が、勢いをなくして、興和の体の上をするりと滑って落ちていく。
 しばらくの間、うつむいて黙り込んでいたこず絵が、わざとらしいため息をついてみせる。
「……ハイハイ、止めても行っちゃうんでしょ」
「うん、前から決めてた事だ。僕はやっぱり同胞と暮らした山が恋しいし、人の暮らしに馴染めないんだよ……でも、その点、お前は大丈夫。きっと人間の中でもやって行ける」
 始終にこやかに、優しく、言い聞かせるように興和は言葉を紡いだ。
「は? アホじゃない? あたしがしっかりしてるんじゃなくて、にいやがズボラ過ぎるだけじゃん……」
 もう一度、今度は少し強めに、ぼすっと。こず絵は握った拳を興和の体に埋めた。
「大丈夫。携帯ちゃんと持っておくよ」
「……ちゃんと出るか疑わしいよ」
「いや、本当だって! だから……」
 困ったように言いながら、興和は下を向いたままのこず絵の頭に手をそっと置く。
「いつでも会えるから、泣かないでおくれよ」
「……っ、泣くなって? 無理、言わないでよっ」
 夕陽に照らされた大粒の涙。こず絵の瞳から溢れ出す涙は、本当にぽろぽろと落ちる音が聞こえてきそうな。そんな涙だった……。

●2016〜Four years later
 今日この日、銀誓館学園で行われている同窓会に、神将の蘭黒は引っ張り込まれていた。
「久しぶりだな。変わりないようでなにより」
「ええ、おかげ様で」
 薄く笑いながら言う、嵐堂・一矢(破魔矢・b09232)に、蘭黒は笑みを返す。
「こうして皆と会うのも久しぶりね」
 フェシアも嬉しそうに声を弾ませた。
「ちょっと、ちょっと、蘭ちゃん!! 子どもが生まれたってホント!?」
「あ、はい……娘が、もうすぐ一歳になります。今日は、夫に預けていますが……」
「夫とか!! ぐぬぅ、柏木隼人め……!! 許さん!!!」
「っと、全く相変わらず元気ですねぇ、襟裳さんは」
 だいぶハッスルしている岬とぶつかりそうになり、翔は身を翻して苦笑する。
「けど、実際驚きましたよね」
「そうそう! あたしも聞いた時びっくりしちゃった!」
 梅之介や生樹も声を揃える、嘘のような本当の話。
 神将である蘭黒が、子を授かり、産んだのだ。まさに、生命の神秘といったところだろうか。理屈や詳細は不明だが、とにかく、蘭黒は一児の母になっていた。
「そういや、月島は、看護師になるんだったか」
「うん。今は実習とかも行ってるよ」
「夢があるというのはいいことだ。そのまま頑張れよ」
 あちこち走り回る岬の首根っこをひっ捕まえながら、一矢は生樹に笑い掛けた。
 皆、少しずつ、変わっていく。
 そんな中、神将の蘭黒の姿だけは、全く変わらないように思えた。命を宿すことは出来ても、肉体の時は止まったままらしい。
 何となく、時折寂しそうに皆の姿をぼんやりと眺めている蘭黒に、松永・小草(高校生真鋏角衆・b77892)はそっと、話しかけてみる。
「ら、蘭黒さんは神将としてだけではなく、銀誓館内部で何かの役職に就いた方が良いような気がします」
「あっ、それ賛成! 2代目校長とか!」
「役職、ですか……」
 話を聞きつけてきた岬の提案に、蘭黒は困ったように笑ってみせる。
「私は、銀誓館学園の神将です。もうこれ以上にない立派な役職を頂いていると、私はそう思います」
「な、なるほど……」
 そういう考え方もあるのだと、小草は納得したように頷いた。
「まあ、今を楽しめているなら、それで良しだな」
「ふふっ、そうね」
 一矢とフェシアも、少し可笑しそうにして笑った。
「……こんな世界を守りたいから、まだ戦えるんでしょうね、私も」
 そう、呟きながら、翔は目を細めた。
 楽しい時間が、今年もまたこうして過ぎていく……。

「はじめて一緒に出かけたのも、こんな時期だったな……」
「ああ、そうだった」
 思い返すように見つめあう、スペックと織泉羅。今日は、二人の結婚式だった。
 親族と、親しい友人のみで開かれる、ハウスウェディング。背の高いスペックの横に、プリンセスシルエットのふわりとした純白のドレスを着た、小柄な織泉羅。
「まさか、気にも留めていなかった後輩に、人生を救われ、此処まで惹かれることになるとはな……俺は貴様が許す限り、ずっと隣に居て貴様を守る……」
「ん……」
 軽く交わされた誓いの口付け。温かな拍手が響く。
「織泉羅、おめでとう! よかったね! 本当におめでとう!!」
「おめでとうございます。どうか、幸せになって下さいね」
 花嫁の友人として式に招かれた生樹と梅之介。
 生樹は零れそうなほど涙ぐんだ目をハンカチで拭いながら小さく鼻を鳴らし、梅之介はいつものようにやんわりとした笑顔を浮かべている。
「ああ、ありがとう……見てくれ、これがわたくしを幸せにしてくれる人だ」
「……俺を救ってくれて有難う。愛している、織泉羅」
 身を寄せてくる織泉羅の肩をしっかりと抱いて、戸惑いつつもスペックは言葉を紡いだ。

 早朝の道場で、高い金属音が鳴る。
「……そこです!」
「はぅっ!」
 ガキン、と一際大きな音を立てて、レイラの剣が弾かれた。
「……っ、はわ〜、ありがとう、ございました〜」
「こちらこそ、ありがとう。良い運動になりました」
 肩で息をして、礼をしながらその場にへたり込むレイラ・ミツルギ(魔剣士・b48060)。蘭黒も、頬を伝った汗を拭って小さく頭を下げた。
 レイラは教師として再び銀誓館学園へと通うようになっていた。そのせいか、生徒達が登校してくるまでの時間、レイラと蘭黒の二人は、よくこうして剣の手合わせをすることが多くなったのだ。
 外から、生徒達の話し声が聞こえてくる。登校の時間が、やってきたようだった。
「今日はこれまでにしましょうか」
「は、はい……あっ、そうでした! 蘭黒さん、これなんですけど……」
 何かを思い出したように、レイラは自分の荷物の中を漁る。出てきたのは、何通かの便箋。レイラはそれを蘭黒に差し出した。
「……? なんですか?」
「ええと……蘭黒さんへのラブレターですね。ふふふ、生徒達の間では結構憧れの人みたいですよ?」
「私が、ですか……?」
 不思議そうに首を傾げながら、蘭黒は便箋を受け取った。
「ふふ、蘭黒さんには学園の神将として、守護者として彼らを見守り続ける幸せもありますし、同時に、一人の女性として愛を紡ぎ合う幸せも、貴女は取れますよ」
「あの、私には……」
 少し困ったように、蘭黒は口篭る。
「ふふ、わかってます。でも、とりあえずお返事書いてあげてくださいね。失恋も、それはそれで大切な思いで、人生の糧になるんですから!」
 蘭黒の手の中でふわふわと迷っている便箋を、しっかりと握らせて。レイラは明るく笑ってみせてから道場を後にした。

 最近、千花が変わった。深水・百花(百花繚乱の萌芽・b63059)は、そんな疑念と共に妹の深水・千花(千紫万紅の舞風・b63060)を見た。
 バッサリと切り揃えたショートヘア。まるで男の子のような服装。
 ちょっと前まで、そっくりな双子の姉妹だったのに……余程、不満げな顔をしていたらしい、その視線に気がついた千花が、困ったよう百花に笑いかける。
「ねぇ百花、ボク高校卒業したら海外に行くよ」
「……っ! う、嘘、なんで……!?」
 突然の千花のその告白に、百花の中に衝撃が走った。
 というのも、百花は数年前の大きな戦いを終えてからというもの、明確な目標を見失っていた。何かをしようとしても、自分の周りの人々を守ることでいっぱいで、そんな自分が情けなくて、ずっとやきもきしていたのだ。
 そんな時に聞かされた、双子の妹、千花の希望に満ちたその言葉。
「海外に行ってね、ダンスの勉強も、能力者としての活動もそっちで……」
 百花の中で寂しさと嫉妬の気持ちが溢れ、爆発した。
「何でそんなに遠くに行っちゃうの!! 離れちゃうんだよ!!?」
 聞いた事のないような姉の大声。千花は驚いて目をこれでもかと言うほど丸くする。
「……百花? 何でそんなに怒るのさ? ボクはただ……」
「知らない知らない!!! 勝手にすれば!!?」
 泣きながら怒鳴り散らして、百花は部屋から飛び出した。
『きゅっ、もきゅ〜……』
 百花のモーラットピュアのコモモが、戸惑ったように百花の背中と千花の顔を見比べる。
「……行きなよ」
『もきゅ……』
 何度か迷ったようにしながらも、コモモは百花の後についていった。
 静かになった部屋で、千花は唇を噛み締める。
「……なんで、わかってくれないの」
 生まれて初めての大喧嘩。部屋を飛び出していった百花は、廊下の隅で泣きじゃくっていた。
『きゅ〜ん……』
「……っ、どうしようコモモ……私、馬鹿だよね……」
 ペロペロと頬を舐めてくれるコモモ。溢れる涙もそのままに、百花はコモモを、ぎゅっと強く抱きしめた。

 高校の卒業を迎えた、八重垣・日鷺(高校生符術士・b62091)。彼女は家業を継ぐ為、修行の道を選んだ。
 もちろん、相棒のケットシー、カイケンも一緒だ。
 けど、銀誓館学園とは、もうお別れで。
「それでは、ひとまずお世話になりました。お元気で」
 蘇るのは、楽しかった学園生活。入学した時には、世界の行く末なんて考えたこともなかったけれど。
 じわりと溢れてきそうになった涙を飲み込んで、日鷺は校舎に向かって深く頭を垂れた。

●2017〜Five years later
 銀誓館学園卒業の日を迎えた、瀬河・苺子(絆に導かれて・b77693)は、舞城・弓矢(煉情・b57728)からのメールを受けて、校門前へとやってきた。
「やっ、苺子ちゃん。卒業おめでと!」
「ありがとうございます」
 よっ、と軽く手を上げて挨拶をする弓矢に、苺子も微笑んで小さく頭を下げた。
「それで……どうしたんですか、弓矢先輩」
「……まぁ、ちょっと話しがあるんだ」
 言って、弓矢は苺子に先輩らしい顔で笑ってみせる。
「学園にいる間、本当に色んな事件があったよな」
「そうですね、この6年間……色んなことがありました。小学生の頃は、こんなことになるなんて思いませんでした」
「うん。色んな戦争があって、事件があった。でも、そういう時の……や、そういう時じゃなくても、俺、苺子ちゃんは凄いな、って思ってた。色々考えてて……それでも、強くて優しくて……」
「先輩……?」
 何が言いたいのだろう、と首を傾げる苺子。不思議そうに覗き込まれて、弓矢はあわあわと慌て始める。
「えっと、だから、一緒に居たいと思ったっていうか……だから、その……なんて言ったら……っ、あーっ、もう! まどろっこしい!」
 ガシガシと頭を掻いて、弓矢は苺子の手を握る。
「苺子ちゃん! ……君が、好きだ……こんな俺で良ければ、傍にいさせてくれませんか」
 真っ直ぐに捕らえた瞳で、するりと滑るように出た弓矢の言葉。驚いたように見開かれていた苺子の瞳が、零れそうなほどに潤んだ。
「ようやく言ってくれたんですね? 結構、待っていたんですよ?」
 そう言いながら、苺子は弓矢の手を握り返す。
「弓矢先輩、昔から頼りにはしていますけど……一人で放っておくには危なっかしいですから」
 そうして、苺子はちょっぴり悪戯っぽく笑ってみせた。

 武術太極拳の大会が行われた今日この日、趙・猛臣(我輩は虎である・b59347)は勇み足で、戒名音・江莉子(紺珠想吟・b61521)のもとへと向かっていた。
 今日こそは、プロポーズをする。猛臣はそう心に決めていたのだ。
「あっ、猛臣さん、今日はお疲れ様でしたー。見てましたよ。優勝するなんて、猛臣さんは凄いですー」」
 いつものように、江莉子は明るく猛臣を迎えてくれる。
「あのなっ、江莉子。聞いてくれ」
 意を決して、猛臣は江莉子を真正面から捕らえた。
「俺……江莉子とずーっと一緒にいたいんだ! だから、け……け……けっ」
 肝心なところで言葉を詰まらせ、猛臣はうつむいてしまう。そんな彼に、江莉子は、ふと優しく笑いかける。
「猛臣さん、私ずっと恋をしてるんです。これまでも、そしてこれからも私は貴方を見ていたい、そして傍に居たいんです」
 言いながら、江莉子は真っ赤になった猛臣の顔を、両手でそっと優しく包み込む。
「猛臣さん……私と結婚してくれませんか?」

●2018〜Six years later
 娘の藍菜が2歳となり、教員の仕事は育児休暇中。莱花は家事に育児の日々を送っていた。
 毎日、藍菜と買い物にいったり、一緒に遊んだり。時には、夫のアキシロに育児を任せて、のんびりした休日なんかも送ってみたり。
 なかなかいう事を聞かなくて、ついついきつく怒ってしまうこともあるけれど。
「……この子に辛い思いをさせたくないから、親として守ってあげないとね」
 健やかに眠る娘の頬にそっと触れて、莱花は幸せをかみ締める。

「順調みたいで何よりでした。お腹の子、やっぱり女の子みたいですね」
「うん……」
 美雪と美月、二人の娘の手を引いて、衛と杏奈は病院帰りの道を歩いていた。
「服はお下がりで大丈夫そうかな? 名前は……美雪、美月と来たから、美華で決まりですね」
 嬉しそうに声を弾ませる衛の袖を、杏奈は空いている手でそっと引く。
「衛さん、わたしやっぱり男の子も欲しいな……」
 こども達には聞こえないくらいの囁き。
「……頑張ります」
 そう答えて、照れたように衛は笑顔を返すのだった。

 興和は、生まれた山へと帰ってきた。
 人里を避け、ひっそりと建てた庵に、使役ゴーストのユーカと二人で暮らしている。
 無口で、無表情で、ちょっぴり横柄なところのある相棒。そんなユーカが、ある日蜘蛛童を見つけてきた。
「結界も、随分綻びたんだな……」
 ふと、蜘蛛童を見つめてそう思う。
 そのままにしておくわけにもいかないので、興和はその蜘蛛童を引き取ることにした。
 立派に育てる自信があるというわけではなかったが、人を狩らずに飢えない方法を教えることくらいなら、きっと自分にもできるだろう。

 月へと向かうその日のために、レキナは今日も忙しく動き回っていた。
「悪いが、銀に還ってもらおうぞっ」
 今日はゴースト退治。月光の光線を浴びせ、迫り来るゴーストを粉々に砕いていく。
「きっと、もう一度、月に緑を戻すのじゃ……」
 浮かぶ月は今日も綺麗な白い月。待っていておくれ、と笑って、レキナは夜空を仰ぐ。

 北海道、札幌市近郊。玄関のチャイムが鳴って、生樹は、はーい、と返事をしながらドアを開けてみる。
「Hi! お久し振り!」
「シンディさん!?」
 思いがけない顔に驚く生樹。シンディは悪戯が成功した子どものように笑ってウインクを飛ばす。
「ついに結婚するんだって? Aliceからね、何としても式までには日本に行くからって手紙を預かって来たの……北極でね。今は、どの辺にいるのやら……」
「ありがとう! 相変わらず、パワフルだよね、アリスもシンディさんも……」
 生樹は親友からの手紙を嬉しそうに受け取って、大事に読み始める。
(ああ、この子も幸せそうね)
 安心したように、シンディは目を細めた。
「……ね、気をつけなさいよ? 男の子ってね……」
 そうして、手紙を読む生樹の耳にこっそり囁くのは、自身の豊富な男性経験から得た小技。一瞬、びっくりしたように頬を染めて。それでも、生樹は素直に頷いたようだった。

 よく晴れた日の北海道。今日は生樹の結婚式。
「くふ、約束どおり、来たぞ」
「うん、ありがとう、終ちゃん!」
 満面の笑みを浮かべるウェディングドレスの生樹に、九原・終(ナインライヴス・b73832)はにやりと笑ってみせた。
「ほらな、望めばきっと、掴み取れると言っただろう……ん? そういえば少し成長したか?」
「したよ! したした! してないことは、ない……と思う!」
 相変わらず小柄な体で、生樹はえへんと胸を張る。
「……そういえばさぁ、梅之介君と終ちゃんはいつ結婚するの?」
「さぁ……どうなんでしょう?」
 ふと、側にいた梅之介の顔を生樹が窺い、梅之介はそのまま笑顔で終に向き直って首を傾げた。
「……もう少し、もう少しだけ待ってくれ。あと少しで見つかりそうなんだ」
「……そっか、じゃあ、はい、これ! 終ちゃんにあげる!」
 二人の間には、確かなものがある。生樹は手にしていた白いブーケを終に託す。
「マブダチからのお願い。梅之介君、意外とマテは得意じゃないから早くしたげてね! それじゃ!」
 そういって、小さな花嫁は悪戯っぽく笑って去っていった。

 今や、哲太は今は消防士。雨は大学在学中から、スタジオでピアノやキーボードを弾く仕事を少しずつ始めていた。
 今日は久々の再会。今日こそ告白をしてみせると、哲太は雨の優しい笑顔を真正面から受け止める。
「雨、オレ、雨の事が好きだ。他の誰より、一番大切なんだ!」
「うん! わたしも大好きだよ!」
 決心して叫んだ告白に、迷いのない笑顔でそう返された。
(「やっぱ、友達の好きとしか思ってないんだろうな……」)
(「あれ、なんか元気ないなぁ。昔言ってた大好きとはちょっと違う意味なんだけどな……」)
 そして、お互い、難しい顔。
 哲太と雨。二人の想いが通じるまで、まだ少し、掛かりそうだ。

 数年前の街頭でのスカウトから、モデルとして活躍している瑠梛。そんな彼女も、今日で銀誓館学園を卒業する。
「瑠梛、卒業おめでとう」
「しょうがないので受け取ってあげます……」
 凪から差し出された向日葵のプリザードフラワーを受け取って、瑠梛は思わずにやけてしまいそうになる口元を引き締める。
 その様子に、凪は、もうちょっと素直になってくれると嬉しいんだけどな、なんて事を考える。
 けど、彼女のそんなところも、なんだか可愛くて。
「これからは瑠梛も大学生か……モデルの仕事も忙しくなるんだし、体には気を付けろよ……一緒に、傍で支えてやるからさ」
「……頼りにしてますよ」
 優しく言ってくれる凪に、つん、とそっぽを向いて。瑠梛は出てきてしまう笑顔を隠した。

●2019〜Seven years later
「つ、月島さん……はもう旧姓ですね」
「えへへっ、そうなのだよ、小草君!」
 生樹が結婚をしてから初めての同窓会。いつもの癖で旧姓で呼びかけてしまった小草に、生樹はちょっぴり照れたように、でも幸せそうに笑ってみせた。
「け、結婚式は素敵なものでしたか?」
「うん、おかげ様で! そういえば、あたしの誕生日にみんなで練習してくれたこと、あったよね〜」
 懐かしい、と顔を綻ばせて、生樹は少し、ぽこん、と出た自分のお腹を優しく撫でた。彼女の体には、今、新しい命が宿っている。
「す、素敵なものになったのなら、あの時少しばかりのお手伝いをした甲斐がありました」
 ほっとしたような表情で、いつも伏し目がちな小草も優しく笑う。
「お、遅ればせながら、ご結婚、おめでとう御座います。げ、元気な赤ちゃんを、産んでくださいね」
「うん。ありがと!」
 生樹も笑顔で頷いた。
 彼女はもうすぐ、母になる。

●2020〜Eight years later
 兄と別れ、結局鎌倉近くに住み続けているこず絵。彼女は今、スーパーのレジ打ちのお仕事をして暮らしている。
 知っている人も多いし、銀誓館学園にも近くて何かと便利。コンビニ勤務の経験が功を奏して、スーパーでのレジ打ちの仕事も順調だった。
 ただ一つ、気に食わないことを上げるとしたら……。
「なんで、あんなに山奥に引っ込んじゃうのよ、馬鹿にいや……」
 卒業してから5年。兄の興和とは片手で数えられるほどしか会っていない。
 けどまあ、きっと元気でいるのだろう、とこず絵は笑う。
 それから、もう一つ。今まで、散った初恋をずっと温めていたこず絵だが、最近気になる人ができたようで。
「今度、話し掛けてみようかな……?」
 新しい恋にも、興味津々なようだった。

 子供が生まれました。
 そんなメールを受け取ってから、猛臣は武術太極拳のアジア大会の表彰もそこそこに、病院へと駆けつけた。
「あら、猛臣さん……ずいぶん早かったですねー」
「あっ、当たり前だろう!」
 走ってきたのか、肩で息をして汗を浮かべる猛臣に、江莉子は生まれたわが子を見せてやる。
 なんと、男の子と女の子の双子だった。
「この子達、それぞれ私達に似てると思いませんかー?」
 そう言われてみれば、なんとなく、男の子は江莉子に、女の子は猛臣に似ているような気がする。
「名前、どんなのにしよう? あっ、俺たちの名前から1字ずつ入れるとかどうだろう!?」
「ふふっ、素敵な名前、考えましょうねー」
 幸せに包まれて。猛臣と江莉子は顔を見合わせ、笑い合った。

 今年もやってきた、銀誓館学園の同窓会。
「まあ、ファイアフォックスにシルフィード! ふふ、元気印の生樹さんらしいですわ」
「えへ、ホント? ありがとー!」
 一般人が、次々と能力に目覚めていく中、この年、ついに運命予報士だった生樹も能力者に覚醒した。
 じつに彼女らしい能力の開花に、フォアは思わず顔を綻ばせた。
「生樹さんは、最近何かありました?」
「えっとね、いろいろあったよ。能力のこともそうだけど、子どもも、生まれたしね。男の子!」
「まあ! 素敵ですわね! おめでとうございます!」
「うん、ありがと! フォアちゃんは?」
「わたくしですの? 相変わらずのお弁当屋さん、ですわ」
 看板娘が、店主見習いになったくらいの変化はあったけど。 近況を聞き返されて、フォアはちょっぴり悪戯っぽく笑ってみせた。

●2021〜Nine years later
 今日は長女美雪の銀誓館入学式。ランドセルを背負ってはしゃぎ回る美雪に、杏奈はかつての自分の姿を重ね見る。
「お母さんはね、お父さんとここで出会ったの」
 はぐれてしまわないように優しく小さな手を取って。杏奈はふわりと笑ってみせる
「美雪にも……きっと素敵な出会いが待ってるの」
 嬉しそうに大きく頷いて、美雪は駆け出していく。
「この学校で、あの子達はどんな出会いをするのかな?」
 隣の杏奈の肩をそっと抱いて、衛は呟く。
「出来れば、僕達のような良い出会いが、あるといいね」

 織泉羅が卒業後に始めた、『24時間店主がいる不思議な土産物屋』土ノコ帝国。
 その謎は、土蜘蛛の巣作りの能力を利用。それを、世間に情報として広めることを目的としていた土ノコ帝国だが、最近はその情報も周囲に認識され始め、当初の目的は役目を終えたと言ってもいいだろう。
「そろそろ、寝ない生活は終りにしないか?」
「むぅ、だが、24時間営業はもはや土ノコ帝国のキャッチフレーズになっておるわけだし……」
「いくら能力とは言え、精神的に良くはないぞ」
 スペックの説得も手伝って、土ノコ帝国は、24時間営業だけど、店番を頼み、店主がときどき店にいない店として営業することになる。

 ちょっとお洒落なレストラン。
「……俺と、結婚してくれないか?」
 休みの日にこんなところに連れてこられたと思ったら、突然のプロポーズ。
 瑠梛は一瞬キョトンとして凪を見つめた。
「お、俺さ、瑠梛から見たら頼りないかもしれない。でも、瑠梛の事好きで愛してるって気持ちは誰にも負けない。瑠梛の事、絶対に幸せにしてみせるから……だから……!」
 顔を真っ赤にしたまま、一生懸命言葉にする凪。だんだんと状況を理解して、瑠梛もみるみる顔を赤く染める。
「絶対……」
「え……?」
「絶対、幸せにしてくださいね……」
「……うん、ぜってー幸せにするからな!」
 お互い、真っ赤な顔でうつむいて、そして、少し笑い合った。

 大喧嘩をして、中学時代はほとんど言葉も交わさなかった百花と千花。そんな二人も、今日この日、銀誓館学園の卒業の日を迎えていた。
「……千花、やっぱり考えは変わらない?」
「うん! やらなきゃいけないことは沢山ある! って、それアタシのお饅頭! こら、コモモ! センナも止めてー!」
 寂しいのか、まだそんなことを口にする百花に、千花はコモモや自分の相棒のセンナとお菓子を取り合いながら、力いっぱいに答える。
「そう……たまには連絡してよね」
「勿論だよ」
 幼い頃の面影を残したまま、線の細い小柄な百花。諦めたように苦笑するその笑顔に、長身のイケメン女子に成長した千花は、ぐっと立てた親指を突き出してみせた。
 海を隔てても、絆はちゃんと心の中にある。
 だから、きっと、大丈夫!

●2022〜Ten years later
 アキシロと莱花の長女も6歳。今日は銀誓館学園の入学式。
「卒業して12年、私達も二人の子の親ね」
 言って、莱花は自分の大きなお腹をそっと撫でた。
「親としても、能力者としても、教師としても、子ども達に教えてあげる事は沢山あるわね」
「ええ、まだまだ私たちは子ども達に教えられることがあります」
 嬉しそうに目を細めて、アキシロも笑みを零す。
「……それに、貴女を幸せにすることもね。私の永遠のレディ・莱花」
「ふふ、最近ようやく敬語抜けてきたじゃない?」
 見つめ合い、そして笑い合った。
 きっと、まだまだ、二人は、幸せになれるはず。

 こず絵は今日、結婚を決めた彼と兄の興和の元を訪ねる。
「やあ、こず絵……久しぶりだね」
「ん、兄さんちょっと老けたけど変わらないね」
「はは、そうかな。お前は綺麗になったねぇ」
 変わらぬ柔和な笑顔の興和。傍らには相棒のユーカと、土蜘蛛の少女の姿。
 そして、こず絵の横には、結婚の約束を交わした愛しい人。
「来てくれて、ありがとう。こず絵が幸せに暮らしているなら、僕はそれで十分満足だよ」
「ん、そうね。わたし、幸せだわ。兄さんも、どうか元気で……」
 落ち着いた気持ちで、こうして笑い合って、互いの幸せを願っている。
 きっとこうして、人は大人になっていくのだろう。

 大学を卒業した、沙紀は、アーチェリーのプロ選手として活躍していた。
 今日は有名な選手が揃う、国際大会。
(「こんな機会は滅多にないわ。頑張らないと!」)
 気合を入れるように、手の平で頬をピシャリと叩いた。
「さて、やるからには上位を狙っていかないとね!」
 構え、撃つ。
 引き絞られた矢が、真っ直ぐ風を切るように的へ向かって飛んでいく。
「うん、いい調子」
 清々しい笑顔で、沙紀は拍手に沸く観客席に向かって手を振った。

 アジア大会進出を機に武術太極拳の道場を開いて2年。弟子も徐々に増え、猛臣はしっかり育ててやらねばと思う。
「調子はどうですか? 猛臣さん。お弁当、もってきましたよ〜」
 お昼時になれば、江莉子が道場に顔を出し、弁当を届けてくれる。双子の息子と娘も、どんどん大きくなり、これからが楽しみだ。
「江莉子、いつもありがとう。江莉子の作ってくれた飯がなによりも一番美味しいよ」
「あらあら、ふふっ、照れますねー」
 笑顔と優しさの絶えない、愛しい家族。猛臣は、生涯をかけて守っていくと、そう誓った。

●2024〜12 years later
 ある日の、銀誓館学園近くのテーラーにて。
「梅之介! 見つけた! 見つかったんだ、頼む、一緒に来てくれ!」
「つ、終さん? え、あ、ちょっと……!」
 突然店へと飛び込んできた終が、店の中の作業台で裁ちバサミを走らせていた梅之介を捕まえて、引っ張っていく。
 引っ張られながらも、梅之介は部下の職人にあれこれ指示を出しながら上着のコートを引っ掛けて出かける準備をする。
 そのままマヨイガを抜け、やってきたのは、遠野近くの山奥だった。
「終さん、待って下さい、一体何を……?」
「お前の話を聞いてからな、ずっと、ずっと探してたんだ」
 やぶを掻き分けながらどんどん前へ進む終の腕を、少し強めに掴み、支えてやりながら梅之介も後に続く。
 細い獣道を抜けた。そこには、集落の跡らしき土地が広がっていて、梅之介も思わず辺りを見回した。
「ここは……?」
「……妖狐の、隠れ里だ」
「え……」
「梅之介……私は、やっと見つけたんだ! でもな……間に合わなかった……」
 歩みを進める終が立ち止まったその場所に、二つ並んだ小さな墓標のようなものがある。
「……私の、両親だ」
「終さんの……」
 梅之介の声に、こくりと頷いて、終は唇を噛み締めた。
 ここ最近、終はずっと自分の故郷を探して日本中を駆け回っていたのだ。
 妖狐の隠れ里を見つけては、自分の故郷のことを尋ねて歩いた。そうしている内に、終はとうとう自分のことを知っている者に会い、両親についても教えて貰った。
 終の両親は、何年も前に病気で他界していた。
 終が、無事でいますように。終が、幸せになれますように。
 亡くなる直前まで、そう、うわ言のように繰り返し、祈っていたそうだ。
「……こんな私のためにだぞ……」
 うつむいた終の目から、とめどなく涙が溢れ出す。
「終さん……」
「……すまぬ。少しお前の胸を貸してくれ」
「いつでもどうぞ。貴女を支えるために、俺はいるんですから」
「……っ、うっ、うぅっ……うわああぁぁぁぁっっっ!!!」
 梅之介の胸に顔を埋めて、終は泣き崩れた。
 終が落ち着くまで、梅之介はただゆっくりと優しく、彼女の背中をさすってやる。
「……見てくれているか」
 しばらくして、涙を拭き、終は顔を上げて墓標に向き直った。
「これが、私の愛している人だ。うん、私は幸せになるぞ」
「絶対に、幸せにします。どうか、終さんを、俺に任せて下さい……」
 終の横に並んで、梅之介は、墓標に深く頭を下げる。
 もう、10年以上もお互いを尊重し、愛し合ってきた二人だ。人より少し時間は掛かったけれど、きっとこれから、二人にも幸せな未来がやってくるだろう。

 レイラはこの日、恋人と共に北海道の地を訪れていた。
「いらっしゃい、レイラちゃん!」
「えへへ、お久しぶりですー」
 開いた玄関の向こうから出迎えてくれたのは、生樹だった。おー、来たのか! と顔を出してくれる彼女の夫も、レイラとは共通の友人だ。
 久々に会った友人同士だが、思い出話に花を咲かせれば、たちまち気分はあの頃のまま。
「実はですねー、私、今の旦那さんとくつっけようと、生樹さんの恋愛観とか男性の好みを時々リサーチしてたんですよー」
「ええぇっ! ウソっ! 何それ、やめてよ恥ずかしいー!」
 楽しげに話していれば、二人の子ども達が、大人の輪に入りたがってやってくる。
「ああもう、ほら、お姉ちゃんに挨拶して?」
「……こんにちは!」
 小さな妹を庇うように背に隠して、やんちゃそうな男の子がレイラに向かってぺこりと頭を下げてみせた。
「はわー、かわいいー! こんにちはー! お名前聞いても良いですかー?」
「たけだいつき、5さいです! こっちはいもうとの、まなです! 3さいです!」
「はわ〜、可愛いです〜!」
 思わず、レイラは生樹の子ども達を抱きしめた。
「生樹さん、今幸せです?」
「うん、もちろん!」
「ふふ、聞くまでもないですね」
「……レイラちゃんは?」
「私? うん、もちろん幸せですよ」
 くすぐったそうに、レイラと生樹は笑い合う。
 今日は来て良かった。レイラは、友人達の幸せな家庭を見て、心からそう思うのだった。

 高校卒業と共に世界へ羽ばたいた千花は、今は相棒のセンナと共にダンサーとして世界各国を巡る日々を送っていた。
 そんな忙しい毎日の中で、ふと幼い頃の記憶を思い出す時がある。
 日本にいる、双子の姉は、今ごろ何をしているだろうか。
 中学の頃、大喧嘩をした記憶も、今となっては懐かしい。
「アタシ、かっこいい大人になれたかな?」
 鏡を覗き込んで、笑ってみる。
 よく分からない。答えはまだまだ出そうにないけど。
「さ、行こう、センナ! シルフィードだって風と共に踊るんだよ!」
 千花は、今日も元気に、ダンスで人々を沸かせている。

 銀誓館近くの大学へ進学した百花は、最近梅之介の近況を知って、銀誓館の近所にあるテーラーへと、花束を持ってやって来ていた。
 もう、店を任せられるほどの、一人前のテーラーになった梅之介が、今年になってようやく正式に婚約をしらたしい。
 事前に連絡はしてある。けど、どうしても緊張してしまう。
 店の前で深呼吸を繰り返していると、店の扉が、カラン、と音を立てて開いた。
「ひゃあっ!?」
「ああ、すみません、驚かせてしまって……百花さんですよね?」
「あっ、はいっ! えっと、あの……!」
 中から出てきたのは梅之介だった。今年で32にもなる彼だが、あの頃とあまり変わらない。柔らかく笑う表情も、どこか綺麗な仕草も、そのままだ。
『もきゅっ! もきゅきゅっ♪』
『もきゅきゅぴ♪』
 百花のコモモと梅之介の白さんが、互いを見つけてさっそくじゃれあい始めた。
「あっ、こら、コモモ!」
「大丈夫ですよ。遊ばせてあげて下さい」
「あっ、ごめんなさい、あ、あのっ、梅之介さん、ご無沙汰しています! あと、いろいろおめでとうございます!」
「わ、ありがとうございます」
 ほとんど勢いだけで差し出された花束を、梅之介は笑顔で受け取ってくれた。
「……あ」
 花束を支える梅之介の左手。その薬指に、シンプルなデザインの指輪が光っていて、百花は思わず小さく声を漏らす。
「……? どうか、しました?」
「いっ、いえ……! あの、梅之介さん」
「はい?」
 どうしたのかと、首を傾げる仕草も、あの頃のまま。けど、お兄さんと呼んでいたのは、もう、昔の話。
「こんな時にいうのもなんですけど、私の初恋、梅之介さんだったんですよ」
 そう、悪戯っぽく、百花は言った。
 大丈夫、笑えてる。憧れだった人を、素直に祝福できている。
 少し、大人になったのかな、なんて思いながら、百花は何となく遠くにいる双子の妹を思い出していた。
 今度会ったら、今日の話をしてみよう。

 あれから、もう、10年以上の月日が流れた。
 今日もプール地下の闘技場で生徒達と手合わせをしたりして過ごす蘭黒は、ふとそんな事を考えていた。
 皆、元気だろうか。不意に懐かしい顔ぶれを思い描いたその時、突然聞き覚えのある声がした。
「こんにちは、蘭黒さん」
「よう、お姫様。元気でやってるか」
「お久しぶりね」
「あ、貴方達、どうして……?」
 揃って顔を出した、日鷺と一矢、フェシアの三人に、蘭黒は驚きの声を上げながら駆け寄っていく。
 彼らの話によれば、どうやら、偶然学園内で顔を合わせたらしく、ここに寄ってみるかという話になったらしい。
 フェシアは、今や国内での能力者達の指導をする立場にまでなっているし、一矢は学生の頃と変わらず、ゴースト退治に毎日奔走している。
 日鷺は、今もケットシーのカイケンと一緒。家業を継ぎ、それから茶道教室も開いて人にいろいろと教える先生をしているとか。
「……皆さん、少し、顔つきが変わりましたね」
「これも時の流れよね」
「お前さんは、やっぱりまるで変わらないんだな」
「はい……」
 少し、寂しそうに蘭黒は頷いた。
 神将である彼女の容貌は、出会ったあの頃のまま、止まっている。
「……蘭黒さん、お手合わせ願いませんか?」
「え……?」
「おっ、そりゃいいね」
「ふふ、楽しそう」
 そうと決まれば、そうしよう、と三人は戦闘態勢を整え始める。
 その瞬間、何だか時が、あの頃に戻ったような、そんな気がして。
「……いいでしょう。皆さんまとめてお相手しますよ」
 蘭黒も不敵に笑ってみせて、剣を抜き、構えを低く落とした。
「ケットシーのカイケンと共に、八重垣・日鷺、参ります……!」
 ふと笑顔を返して、日鷺も駆け出していった。

 毎年恒例となっている、銀誓館学園の同窓会。恒例、といっても、年がら年中、集まりたい人が集まりたいときに取り仕切って色んな場所で色んなパーティーを開いているというのが現状でだった。
 今日もまた、どこかのキャンパスの空き教室や体育館に、卒業生達が集まっている。
 少し、大人になった、鈴鹿・小春(万彩の剣・b62229)と、焔月・燈夜(誰そ彼の月狐・b82459)も、今日は顔を出し、仲間達と懐かしそうに昔話やお互いの近況報告を交わしていた。
「なんか10年も経つと、校舎の周りもずいぶん変わるんだなぁ……」
 魎夜が、まるで見慣れないものを見るように、辺りをきょろきょろと見回した。
 今日が久々の帰国となった魎夜は、今は妻と共に世界中を旅して回り、ゴースト退治やメガリス探索、転移門の捜索に大忙しの毎日を送っている。
「やっぱりあれから皆変わったな」
「そうですね……けど、ここに戻ってくるとあの頃を思い出しますね」
 今でも交際を続けている、弓矢と苺子。
 弓矢は保育士であると同時に、能力について教える教師を兼任している。一方で、苺子は大学から大学院へと進み、世界結界の研究やゴースト被害を減らすための研究を行っている。
 そろそろプロポーズでも、と考えている弓矢と、それを何となく察しつつも、先は長そう、と気長に待っている苺子。何だかんだで、とても、充実している二人である。
 世界結界は、もう完全に消滅してしまったと断言してもいいだろう。そんな世界の中でも、人は時を紡ぎ、そして新しい命を育んでいく。
「ああ、もう、待って、遥!」
 巽の、二歳になる娘の遥。結婚した幼馴染との間に生まれた愛娘で、ただいま絶賛やんちゃ盛り。固まって遊んでいるお兄さんお姉さんの輪の中へ、仲間に入れろと言わんばかりに、よちよち走っていく。
「……こんにちは」
 が、子どもは子ども同士上手くやっているようで、一番お姉さんらしい、小学生くらいの黒髪の女の子が、割り込んできた遥の手を引いて、輪の中へと入れてやっている。
「……そう言えば、二人の子って何歳になったんだっけ? 9歳? それとも10歳かな?」
「9歳になりました。もうすぐ、私も追いつかれそうです……」
 耶子の問い掛けに、蘭黒が子ども達の様子を見守りながら、どこか嬉しそうにそう答えた。
「てか、可愛いだろうウチの子」
「お、親バカだーー!! 親バカがここにいるっ!!」
 誇らしげな顔をする隼人。その横で岬は笑いながら戦慄する。そんな彼女も……いや、彼女は相変わらずのフリーダム。自称永遠の17歳を満喫中である。
 かつては皆この銀誓館の学生だった。時は経ち、皆、様々な人生を歩んでいる。
 幼かった耶子も、銀誓館学園を無事に卒業し、生き別れとなっていた家族を探して旅をした。総勢15名。無事全員との再会を果たし、今日ここにやってきた。
「久しぶり、月島さんも元気してた?」
「うん、元気だよ! レキナちゃんも元気そうだね!」
 少し落ち着いた風格も出てきたレキナ。相変わらず、月の復興の為に世界中を奔走し、研究や戦いを重ねているんだとか。
「最初はね、世界結界の事とか割り切れなかった人も多かったけれど、そこは現代文化を吸収してきた私達の腕の見せ所。文化交流って大切よね」
 世界結界が完全に無くなる前の苦労した時代を思い出しつつ、レキナはホットチョコレートにミントシロップを垂らした。それを一口、こくりと飲んで息をつく。
「生樹さん、ご無沙汰しています」
「あれっ? フルラさん!? わー、どうしたの、すっごい久しぶりー! ね、ちょっと! 梅之介君! 梅之介君!!」
 少し遅れて会場顔を出した、フルラージュ・エグランティエ(月白蝶・b64014)。生樹はまるで学生の頃のように目を輝かせて梅之介を引っ張ってくる。
「フルラージュさん! わ、久しぶりですね……!」
「まあ、梅之介さんこんにちは。丁寧で細やかなつくりのお洋服を仕立てられていると噂で伺っていますよ」
 昔と変わらない、優しく穏やかな笑みでやんわり話すフルラージュ。今、彼女は夫の実家である台湾に移住し、主婦業に専念している。学生になる、おしゃまな一人娘がいるらしい。
 それから、日本で音楽活動をしている弟とは、よく手紙でやり取りをしているんだとか。
「あらあら、生樹さんにもお子さんがいらっしゃるのですね?」
「あ、分かる?」
「そっくりですもんね。兄妹で並んでると、昔の生樹と愛一朗君みたいですし」
 子ども達の輪の中を見つめ、笑うフルラージュに、生樹は照れたように笑い、梅之介も、くすくすと笑い声を漏らした。
「本当、子供は可愛いですよね」
 釣られて笑って、翔は側にいた蘭黒を見やる。
「……蘭黒、憶えているか? 悪夢の中で私が言った言葉」
「ええ、忘れるはずないじゃないですか」
「……どうだ? 前に進める様に、なったか?」
「ええ。多分」
 ふと笑顔を向けて、蘭黒は子ども達の様子を見ていた隼人の元へと寄り添った。
「ん、どうした?」
「何でもないです。いいじゃないですか」
「……なぁ、蘭黒、今、幸せか?」
「もちろん」
「……そうか」
 俺もだよ、と呟いて、隼人は昔のように蘭黒の頭を軽く撫でる。
 自分達を受け継ぐ者達がいる限り、これからもずっと、この幸せは続くのだろう。
「みんな、お父さんとお母さん、好き?」
「「「すきーー!!」」」
 巽の投げかけた質問に、元気な声が重なった。
 そう、これからもずっと、この幸せは続くはず……。


マスター:海あゆめ 紹介ページ
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いまいち
参加者:39人
作成日:2012/12/19
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