皆様の行く先へ


   



<オープニング>


「そこをなんとか、ね?」
「無理ですっ」
 能力者達が目にしたのは、実に珍しい組み合わせだった。山本・真緒(高校生運命予報士・bn0244)と王府・志都子(高校生運命予報士・bn0297)。
「や、ほら。僕もごく普通の女子高生だけど、時々それを否定されるんだよ。だから、ごく普通の女子高生の心得を……」
 志都子の言葉でどういう状況下はあっさり判明したが、志都子をごく普通の女子高生にするのは、本当に可能なのだろうか。
「そんな、心得なんて言われてもっ……あ」
 とりあえず、能力者達の視線へ先に気づいたのは真緒だった。
「え、真緒さん何」
 少し遅れて志都子も固まり、どうやら能力者達へ気づいたらしい。

「……お友達との会話が発端だそうです」
 志都子がにこんな無茶ぶりをしたのは、友人と将来のことについて話していたのが原因だったらしい。
「あー、うん。ほら、街角でスカウト、とかあるよね?」
 それは、所謂モデルにならないかとかタレントにならないかという類の勧誘。
「前に僕も声をかけられたことはあるんだけど……」
 そう明かしつつも得意げでないのには理由がある。
「えーと、僕、どこにでもいる女子高生だからスカウトする理由って、これ、しかないよね?」
 言いつつ志都子が目を落とすのは、自分の胸。つまりは、胡散臭い類のスカウトだと断じた訳だ。
「志都ちゃんって、やっぱり芸能人になるの? この間もスカウトの人に声をかけられてたよね?」
 その友人はスカウトマンをまっとうな芸能事務所の人だと見てこんなことを言ったのだが、事実まともなスカウトマンだったとしても、押し切られて申し出を受けてしまったらどうなるか、志都子は想像もしたくなかったらしい。
「そもそも僕に向いてるとは思えないし」
 肌を晒すのが苦手なのでグラビアアイドルには向かないし、芸人でもない。芸人ではない、重要なことなので二度主張しました。
「だから、大学では目立たないようひっそりとキャンパスライフを送れたらなぁって……」
「話をしてたから将来についての話がああねじれたのよね」
「脱線してからの方が長かったと思うけどね」
「って、二人ともいつの間に?!」
 たぶん、弁解に気をとられていたからだろう。
「だいたい最初からかな」
「そうね」
 ようやく存在に気づかれた梅咲・一花(ダンディーの追求者・bn0027)は肩をすくめ、石蕗・紗夜子(中学生真土蜘蛛・bn0143)も一花の言葉に頷いた。
「ま、そもそも二人が将来のことを話してたのはどっちも運命予報士だったのが理由でね」
「あ、うん、そうそう。僕達もそのうち能力者になると思うから、どんな能力者になるかなぁ、って」
「ちょっとわくわくしちゃいますけど、不安でもあるんですよね」
 確かに運命予報士の二人にとって能力者になると言うのは未知の領域だ。
「志都子お姉さんのことだから、ゾンビハンターで粉塵爆発自爆キャラとか」
「粉塵爆発自爆キャラって何ーっ!?」
 何と聞かれても、答えようがないが、ひょっとしたらアークへリオン自爆キャラとか悪夢爆弾自爆キャラかもしれない。
「ふふっ、仲が良いんですね」
 じゃれ合う二人を微笑ましげに眺めつつ真緒は顔をほころばせ。
「や、なかがよいっていうか、ふほんいなことをいわれただけですよ?」
「ま、仲が良いのはいいことさ。それはさておき……」
 引きつった表情を浮かべた志都子をスルーして、一花は帽子を弄びつつ口を開く。
「能力者に目覚める時が来て、近くに居ればアドバイスなりなんなりするさ」
「そうね。力にはなれると思うけど」
 ここで二人が確約出来るのは、あくまで先輩能力者としての協力。
「そもそも、この先どんな生活を送るのかわからないとね」
「会社勤めだったら休日になれば会えると思うけど」
 中には休みが不定期な職種もある。
「うーん、将来かぁ……」
 続いて行く未来。能力者達は、どんな生き方を選ぶのか。
「とりあえず、ごく普通の女子大生になるよ」
 悩みに悩んだ末、志都子はそう宣言して拳を突き上げた。
 

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参加者
如月・清和(魔導特捜ザンガイガー真・b00587)
穂村・陽子(猛き焔の妖狐・b10384)
星野・優輝(戦場を駆ける喫茶店マスター・b15890)
楡崎・洋子(唯尊・b16444)
白羽・命(白の妖精・b23300)
足利・灯萌(奪ってもいいのよというか奪え・b32352)
久遠・翔(魔剣士・b47702)
鈴鹿・小春(万彩の剣・b62229)
鈴木・珠輝(熱風ファイター・b62519)
桜・姫恋(桜降り逝く夢幻の夜・b72049)
鬼城・蒼香(青にして蒼雷・b73557)

NPC:王府・志都子(高校生運命予報士・bn0297)




<リプレイ>

●2013年の日常
「へぇ、マニュアルの作成かぁ。けっこう大変そうだね」
「ああ、だがそっちだって大変じゃないのか? 卒業を控えてるだろ?」
 それは電話を介してのやりとりだった。客の来ない時間帯、洗い物を済ませた星野・優輝(戦場を駆ける喫茶店マスター・b15890)は電話越しに王府・志都子(高校生運命予報士・bn0297)へ問いかける。
「あー、うん。志望校の方は今のままなら行けるとは思うんだけど」
「何かあったら言ってくれよ? 勉強にしろ、他のことにしろ」
 微妙に歯切れの悪い答えに優輝は苦笑しつつ壁に掛けられていたカレンダーを見た。
「や、でも喫茶店の他にもやることがあって忙しいんじゃ……」
「時間なら作るよ。この前みたいに気分転換……遊びに行っても良いしな」
 電話の向こうの恐縮する声に電話では顔は見せられないと解っていつつも笑顔を作り、カレンダーの側へ歩み寄る。
「わかった、予定を開けておくな」
「うん、じゃあね」
 カレンダーの書き込みに矢印を付け加え、一部修正しつつ通話の終わった携帯を操作した。また一件、私的な用事が入り、忙しくなった訳だが、それでも優輝は充実した日々を送っていた。

「にしても、凄かったね」
 主語を省いた夫は、当時の光景を思い出していたのか無意識に左の頬を抑えている。
「あー、まあ仕方ないわ」
 省略された主語を察した楡崎・洋子(唯尊・b16444)の意識も自然と過去へと遡り。
「え? って、あの時の――」
 同じ場所だったという小さな囁きの意味を察して洋子は赤面する。実は、洋子も梅咲・一花(ダンディーの追求者・bn0027)を照れ隠しで殴ったことがあったのだ。丁度会いに行った洋子の父親から一花が殴られたのと同じ頬を。
「それはそれとして、どうして手を出さなかったのよ」
 どことなく似たもの同士的な場所があったのか、それとも。とりあえず、この時最初に手を出したのは洋子だった。
「なんとなく、そう言うものだと思っていたからさ」
 結果として、目の前の男は自分の盾としてただ殴られていただけだった。もっとも、この親娘喧嘩によって洋子は父親と絶縁状態にあったのだが、つい先日までは。
「あれ、まだ完全には納得してないかしらね」
 今日、この日結婚式の真っ最中である二人の視界には式に招待されたことで和解した洋子の父親の姿もあり。子が視線を逸らしてそちらを見たのは、その父親の顔。
「かもね」
 無理もないのかもしれない。数分前、洋子はウエディングドレスを纏った腰に腕を回した状態で唇を落とされ、キャラが壊れそうなほどとろけるような笑みを浮かべていた。
「もう一度、する?」
 などと言われた時、抗えるのかどうか。否、抗うどころか求めてしまうだろう。幸せな時間を。
「一花……」
 愛しい人を呼んだ先は言葉にならなかった。だが、洋子の隣に座る人は仕方がないねとでも言うように苦笑して洋子の身体を抱き寄せ――。

●2013年の卒業式
「今度は高校生か。スカートがちょっとエッチだよね。スリットが大胆に入っているし」
 呟く白羽・命(白の妖精・b23300)とすれ違った人は、卒業生か在校生か。卒業生だったにせよ卒業式を迎えるまで高校生だったのは、間違いない。丁度命が口にした銀誓館学園の制服を着ていたのだから。
「卒業、おめでとう。命お姉さん」
 その日、あちこちで口にされる言葉とほぼ同じ内容を命は会いに行った人物の口から聞いた。
「ありがとう」
 腕に卒業証書入りの筒を持っているのだから、石蕗・紗夜子(中学生真土蜘蛛・bn0143)の言ったことは妥当であり、言葉はごく自然に口をついて出た。卒業式に姿を見せなかった命の両親から同じ言葉を聞くことはなかったが、これについては命も全く気にしていない。
 そもそも、命が気にしていたのは、別のことで。
「高校まではエスカレーターだけど、大学は選ばないといけないね。できれば、一緒の大学に行きたいね」
「そうね。その辺りは学力とか所在地とか色々なものと相談になると思うけど」
 命は中学を卒業したとしても、これから始まるのは高校生活。紗夜子はまだ中学生。どちらにとっても三年以上先の話であり、まだ暫く銀誓館学園での学園生活が続くのは疑いようのない事実で。
「良い高校生活を。それから、これからもよろしく」
「ありがとう、紗夜子ちゃん。これからもよろしくね」
 在校生から贈られた言葉へ、命は微笑みを返した。卒業生として、一人の友人として。

●2014年の日常
「お待たせ致しました」
 慇懃にお辞儀をして、デザートを運んできたウェイターが去って行く。
「んみんみ、絶景、絶景」
 窓の外を飾るのは数え切れないほどの光の点であり、宝石のような輝き達が作り出すのは食事に訪れた客の目を奪う、美しい夜景だった。
「そ、そうだね」
 少なくともレストランからの風景はに気に入って貰えたようで、如月・清和(魔導特捜ザンガイガー真・b00587)は穂村・陽子(猛き焔の妖狐・b10384)が窓の外に視線を向けているのを確認しつつ小さく頷くと、勇気を総動員して切り出した。
「早いものだね。もう付き合い始めて数年か……。そろそろどうかな? ヨーコ、いや、穂村陽子さん。僕とけっこ……」
 食事に逃げられないよう、デザートを食べ終わるのを待ち、緊張した面持ちを作って話し始めた、清和。
「ぷっ、なに急にマジになっちゃってんの? おかしー☆」
 真剣なプロポーズの言葉を遮ったのは、告白の途中で噴き出した彼女の態度だった。
「え? あ、うんうんそうだね。そ、それでね? 僕とそのけっこ……」
 数年の付き合いがある陽子の性格はある程度把握しているからか、それでもめげずに清和求婚しようとした。表情が苦笑に変わってしまっているのは、もう仕方ないと割り切ったのか、目的の為なら小事に拘らないと言う覚悟だったのか。
「あ! キヨ君あれ見てあれ☆」
「え、どれ?」
 結局の所、二度目の告白も遮られて流されてしまうのだが。
「そういえば昨日のテレビで……」
 どことなく落ち着かないそぶりで陽子が話題を流し続けていた理由は、緊張していたからではない。苦手な空気に恥ずかしさとむず痒さを感じ反射的に話題を逸らしてしまうからであって。
「えー、えっと、その……ね? 僕と」
「んみ、この時間だったらまだお店開いてるよね☆」
 プロポーズが空振りし、次の行き先がいつの間にか決まる。この日、清和が得たものは陽子からのOKではなく有名店の人気スイーツだったとか。

「大学に入り……さあ普通の生活に、慣れてきた所で……サプライズ……」
 プリントアウトした一枚の応募用紙を手に、足利・灯萌(奪ってもいいのよというか奪え・b32352)は呟いた。他の誰でもない、志都子を芸能界にデビューさせるべく案を練っていたのだ。別に無理矢理というわけではない、志都子の迂闊な所を鑑みるに下手な芸能プロダクションに捕まってしまう可能性を考慮したからだった。
「……水着審査なし……安心」
 流石に志都子が嫌がる事を無理矢理やらせる気など灯萌にはない。
「大丈夫……親御さんには、許可取った……」
「え゛っ、何時の間に?」
「メイクや着付けは任せろー」
「や、ちょ――」
 とりあえず、オーディション当日の様子をイメージしながら、灯萌はメモ用紙に箇条書きでいくつもの項目を書き込んで行く。
「これで……グランプリは確実」
 数ヶ月後、志津子と言う少女がキャンペーンガールの座を射止めることとなるのだが。
「ちくせう……名前間違えた」
 と、灯萌が言ったかどうかは定かではない。

●2014年の卒業式
(「色々ありましたが……」)
 歌声に包まれた体育館で鬼城・蒼香(青にして蒼雷・b73557)は卒業の時を迎えていた。歌声に涙声が混じっているのは、実際泣いている者が居るのだろう。
(「卒業ですね、志都子さん達と一緒に――」)
 高校に上がってキャンパスこそ変わったが、元のクラスメートが同じように卒業を迎えているのは疑いようがなく。
「……では、わたしはこれで失礼します」
 式が終了し、見知った者への挨拶の後、蒼香は待ち合わせの場所へ向かった。
「えーと、あ」
 到着するなり首を巡らせたがすぐに相手を見つけられたのは、長いツインテールが目に入ったからだった。
「志都子さん卒業おめでとうございます」
「うん、ありがとう。蒼香さんも卒業おめでとう」
 出会うなり互いの卒業を祝う言葉から始まった会話の中で、蒼香が微かに顔を曇らせたが、これは仕方がない。
「少し寂しくなりますが各自の道を歩んでいきますし、機会があれば交わることもあるでしょうしね」
「……だよね、きっと会えるよね」
 卒業には別離が伴うのだ、一部の例外を除いて。
「それはそれとして、写真、撮りましょうか?」
 ことさら明るく言って見せたのは、おそらく志都子にまで伝染しかけた寂しさを蒼香が振り払おうとした為で。
「お願いしても良いですか?」
「私で良ければ」
 たまたま居合わせた山本・真緒(高校生運命予報士・bn0244)は受け取ったデジタルカメラを手に卒業生二人へ声をかける。
「撮りますから笑って下さいね」
「はい」
「うん」
「それではっ」
 二人分の返事に応じてシャッターが切られ。
「えーと、こんな感じですね」
 くるりとひっくり返して差し出されたカメラの液晶部分に並んだ蒼香達が微笑んでいた。
「温泉に行った時は片方ずつしか写ってませんでしたし、これで一緒に写れましたね♪」
「そっか、そう言えばそうだよね」
 満足げな表情の蒼香と並んで志都子はポンと手を打って、二人の思い出がまた一つ増えたのだった。

●2015年の日常
(「もう中3とか……はっやいなぁ」)
 いつの間にか過ぎ去ってしまった時間に驚きつつ、鈴木・珠輝(熱風ファイター・b62519)は胸中で独り言ちていた。
「っと」
 ただ、目は手にした携帯ゲーム機の液晶に注がれ、指は慌ただしくボタンを叩いている。休み時間を利用して友人とゲームの真っ最中でもあったのだ。
「そういやお前ら、進路どうすんの?」
 突然そんなことを言い出したのは、対戦中の友人へ揺さぶりをかけようとした訳ではなく、おそらくは純粋な興味からで。
「そりゃ、このまま高等部へ進学だろ?」
 返事は、予想通りでもあり、おそらく珠輝が聞かれた場合の答えと同じものでもあった。
(「やりたいことも目指すものも変わってないし。塾とか通ってるけど、なんか空気もぼんやりしてるよね」)
 友人の答えはにとって参考になったのか、そうでないのか。
「……あ、やっべ負ける」
 ただ一つ確実なのは、別のことに気を回している内にゲーム内のが追い込まれつつあるという事実。
「よっしゃー、ヴィクトリー♪」
(「ま、それはそれとして……能力者生活も大して変わんないし、それなりに両立出来てる方だから、良い学園生活なのかもなー」)
 結局敗北を喫した珠輝は、机の上に携帯ゲーム機を置くと天井を仰いだ。

「この前のポスター……素敵だった」
「えっ、ホント?」
 結局の所芸能界入りした志都子を前に、灯萌は仕事の成果を褒め称えていた。
「エロくて」
「エロくてって何ーっ!」
 絶叫している目の前の人物は、ある意味以前と変わらない。肩書きが大学生兼『シルバースタープロダクション』所属のタレントというものに変わってこそいたが。
「あの、志都子さん? あんまり叫ぶと周りの人に」
「あ、ごめんなさい」
 志都子にやんわりと注意したのは、全然怪しくない人から紹介された志都子のマネージャー。
「ほのエロと、キャラで売れると……思うんで……ガードしっかり……」
 と言う要請を含めて灯萌の意思が何処まで伝わっているかは不明だが、なんだかんだで芸能活動が続いているところを見るに、ある程度上手くはいっているのだろう。
「と、まぁ……そんなかんじですよ?」
「苦労してるっすね。あ、姫恋ちゃん、これ持っていって貰えるっすか?」
 虚ろな目で顔を向けられた客に苦笑を返しつつ応じた久遠・翔(魔剣士・b47702)は、煮物をもった丼をお盆に載せつつ桜・姫恋(桜降り逝く夢幻の夜・b72049)へ声をかけ。
「いいよ、あっちの席だったよね?」
「よろしくっす」
 了承の言葉と共に去って行く姫恋の背中を笑顔で見送った。翔が店長を務める店で姫恋が働き始めてもうすぐ半年。大学卒業後すぐ翔の店で働きたいと姫恋は希望したのだが、姫恋の卒業した時にはがまだ店を持てて居らず、結果として雇われ店長と従業員という形となっている。
「調理師免許と栄養士の資格を手に入れて、来年にはお店を持ちたいっすね」
 小さいながらに座敷部屋があり、格安でおいしくツケが効くをモットーに。
「そうそう、店が出来たら場所教えるんで、もし何かあったら使うといいっすよ」
 愚痴とか緊急時の隠れ場所として、と志都子に言い終えると、丁度良いタイミングと言うべきだろうか。
「追加の注文き――」
「そのときは、姫恋ちゃんに女将さんとして一緒にいてほしい……かな?」
「え?」
 料理をおいて戻ってきた姫恋へ向き直った翔は、言葉で姫恋を硬直させて。
「もしくは姫」
 と、この状況下で弄りに転じるほど人の悪い客も居なかった店内は、告白を生温かく見守る場へと変わり。
「「おめでとう」」
 数分後、拍手やら歓声やらで賑やかになった店内へ顔を真っ赤にした姫恋の姿が、あったとか無かったとか。

●2016年の日常
「11月24日から一月休むから、なんかあったら電話頂戴」
 突然の宣言から洋子の部下が立ち直るまでに数十秒を要した。
「彼氏と旅行とかですか?」
 洋子に最愛の人が居ることは知っていたからこそ、プロジェクトチームの一人がそう質問したのだが。
「いや出産」
「え?」
 返ってきたのは、予想外の答。
「「えーっ?!」」
 妊娠したのはずいぶん前なのだが、お腹が目立たなかったこともあり、ようやく事実への理解が追いついた面々が発したのは、悲鳴というか絶叫だった。
「って、ことがあったのよ」
「なるほどね」
 相づちを打つのは無意識に触れたお腹へ宿る命の父親で、身に纏う詠唱兵器があちこち傷ついているのは、ここに来るまでに何かあったのだろう。
「ま、たいしたことじゃないけどね」
 と言う一花の帽子に大きな歯形が付いているところを見るに、妖獣か何かと一戦やらかして駆けつけたのか。
「ったく、無茶するところは変わってないわね」
「おぉ、悪いね」
 心配させるな、と言う意味の嘆息をした洋子に一花は頭を下げるとイグニッションを解く。いくら何でもボロボロの姿では出産の立ち会いなど許される筈もないのだから。
「一花……」
「了解」
 いつも通りのやりとりをかわした二人が分娩室へと入ったのは、一時間ほど後のこと。
「……いよいよアンタもお父さんね」
 照れ隠しか、不安を紛らわせようとしてか、ぼそりと零した洋子の言葉に夫は頷いて見せた。

●2017年の日常
「俺は……姫恋ちゃんの居場所でありたい」
 翔が独り言のように言葉を漏らした時、控え室には他に誰もいなかった。
「……翔」
 そう、姫恋以外は。自分の店を維持しつつ、新しく目覚めた能力者の先輩として戦場に立ち続けた結果、プロポーズからこの日までに翔は二年を要した。
「色々あったっすけど」
 目を閉じれば、今日この日に至るまでの日々が浮かんでくるのだろう。
「あの人の分まで生きて居場所であり続けたいです」
 それが、翔の答えであり目の前の人と夫婦になる理由でもあるのだろう。
「そろそろ時間っすよ?」
「あ、うん」
 一瞬呆けた姫恋へ翔は手を差し出すと、微笑みながら鏡の前に目をやった。
「出るタイミングを間違えるのも招待客を待たせるのも駄目っすからね」
 おかれていたのは、その招待客の一人から贈られた結婚祝い。送り主の部分には王府・志都子と書かれていて。
「そうね。ん、翔……」
 手を繋いだまま二人は向かう。
「何っすか?」
「幸せにしてね?」
 輝かしい未来へと。

●2018年の日常
「晩ご飯何にする?」
「ハンバーグがいい」
「じゃあ、食べてから帰るか」
 すれ違う親子連れを陽子が目で追ってしまったのは、数日前にもらった手紙のせいか。
(「ヤバいかなぁ……」)
 プリントされていたのは、よく知った顔と並んで映る生まれて間もない赤ん坊の写真。迫り来るの30代の扉と相まって危機感を抱くには充分な要素が揃っていた。
「ヨーコちゃん、あそこでいい?」
「んみ?」
 ラーメンの屋台を示すへ清和の反応が一瞬遅れたのも、本来細かいことを気に留めない達にもかかわらず、考え事などしていたからだろう。
「へい、お待ち遠さま」
 何か考えていると待ち時間というものもあっさり過ぎ去るもので、気がつけば陽子の前にはラーメンの丼が置かれ、横に座った清和は既にコップを傾けていた。
「デートで屋台ってなんか、年取ったなって思うわー。ヨーコちゃん全然結婚してくれんしさー」
 口から漏れたのも、愚痴ではなくいつものたわいない会話のつもりで他意は無かったのかもしれない。 
「んみ?」
 たまたま耳に飛び込んできたの一言を口の中の麺の様に咀嚼し。
(「ま、いっか」)
 再びすすった麺と一緒に、陽子は飲み込んだ。
「ん〜。じゃ、しよっか。おっちゃん、替え玉おかわり☆」
「ぶっ、なんじゃそりゃっ!? ……いや、うれしいけどさ。 じゃあ僕もおかわり」
「へい」
 噴き出す清和に動揺することなく、屋台のオヤジは麺を茹で始め。
「えーと……」
「んみんみ、でも浮気なんかしたら燃やしちゃうぞ☆」
 真顔で言葉を探そうとした清和をすぐさま冗談で茶化して陽子は牽制する。
「替え玉お待ち、それとこいつは俺からのサービスだ。幸せにな」
「おっちゃん、ありがと☆」
「おう」
 替え玉の上にチャーシューを載せたオヤジは、絶句した清和を置いてきぼりにしつつ陽子へサムズアップしてみせるのだった。

●2018年の同窓会
「お久しぶりですね、お元気でしたか?」
「あ、うん。お久しぶり」
 会場を少し歩いただけで、目的の人物は見つかった。
「志都子さんはこの前テレビで見ましたが大変そうですね」
「大変っていうか、うん、まぁ……ね?」
 微笑みかける蒼香の言葉で志都子が遠い目をするが、友人がこんな反応をするのは多々あることだったように思える。
「僕のことは置いておいて、何かあったの?」
 話題を変えてきたのは、追求されたくなかったのか、別に気になったことがあったのか。
「そうですね、わたしはあちこち行ってますが忙しい状態で――」
「や、そうじゃなくて、それ」
 近況を聞かれたと思って答えた蒼香へ、志都子はかぶりを振って見せ。
「え、これですか?」
 指さされた先、水色のツーピースに包まれた豊かな胸を蒼香は戸惑いつつも少し持ち上げる。
「ええ、都子さんと同じ3ケタ台に」
「違うから、胸じゃないから。服、服! お洒落してるよね?」
 蒼香の言葉を遮って叫んだ友人は気づいているだろうか、自分の言動が周囲の注目を集めてしまっていることに。
「せっかくの同窓会ですし、それより――」
 蒼香がそのことを指摘すると、志都子は自爆に気付き硬直するのだった。昔と変わらぬように。

●2018年の卒業式
「卒業おめでとう、志都子」
 大学の門の前で待っていた優輝は、卒業を祝う言葉を贈ると、駅まで送るよと道の先を示して見せた。
「俺は中学生の頃から喫茶店で働く事が夢だった」
 語り始めた優輝の目はここではない過去を見ていて。風に梢がざわめく大学脇の道を並んで歩きながら、志都子が優輝の横顔をちらりと見てから視線を前に戻す。
「銀誓館に入学後は喫茶店の結社を申請して、職場体験学習もした」
 卒業後は流通業でノウハウを学び、本場で修業をしてから起業した。その先に今の優輝があるのだ。
「今では能力者の俺しかできない事もやっている」
 志都子はただ黙って独白を聞いていた。
「えっと」
 そんな志都子がふいに声を出したのは、並んで歩いていた優輝が立ち止まったからだろう。
「運命予報で誰かを救いたいという意思と同じよう、自分の意思をしっかりもって、後悔のない道を選ぶんだよ」
 立ち止まった優輝の口から発せられたのは、先達としてのアドバイスで。
「辛い事や悩む事等たくさんあるけど、俺は志都子を応援するよ」
「ありがとう」
 微笑み返す思い人の笑顔に頷きを返し、優輝は再び歩き出す。緩やかに下り始めた駅に続く道を。

●2019年の日常
「『そっちは中学校じゃないよ』って酷いよね」
「そうね。そもそもあの辺りには中学校自体無かったはずだもの」
 命の独り言とも愚痴ともとれる呟きに相づちを打ったのは、横を歩く紗夜子だった。
「どうぞ、上がって」
「お邪魔するね」
 紗夜子からすれば大学からの帰り道、紗夜子の家に遊びに行くつもりだった命からすれば寄り道、辿り着いたのは一軒のアパートだった。
「鎌倉で借りてたお家も大学までの距離を考えると遠すぎるもの」
 と言うことらしいが、命が驚くことは特にない。
「この前寄ったのゴースト退治のあとだったかな?」
「そのはずよ。……もうこんな時間、テレビつけないと」
 二人は同じ大学に通う先輩後輩、命が遊びに来るのも初めてではなかったのだから。
「あれから随分経ったね」
「本当にそうね」
 時間の流れを実感させるのは、二人を取り巻く環境の変化だけではない。例えば、テレビに映る、知人もまた年月を重ねて成長していた。
「志都子お姉さん……」
「弄られてるのは相変わらずだね。胸はまた大きくなってるみたいだけど」
 変わらないものと、変わったもの。両方を兼ね備えた知人がバラエティー番組に出演する様を見て何とも言えない表情を浮かべたのはどちらだったか。
「レーヌお姉さんも、場所は違えどあんな感じらしいのよね」
 見張り小屋の騎士・レーヌのことを聞かれた紗夜子曰く、人狼騎士と弄られで二足のわらじを履きつつ日々を過ごしているらしい。意地っ張りなところが弄られポイントになっているのだろうか。

「お疲れ様です、調子はいかがですか?」
「あー、うん、お疲れさま。僕は相変わらずだよ」
 その頃、後輩から話題にされていた内の一人は、小料理屋でテーブルを挟んで蒼香と向かい合っていた。
「この頃デスクワークが多くて肩がこりますね、そちらは変わった事はありましたか?」
「うーん、芸能活動以外のこともしてみようかなって思い始めたぐらいかなぁ?」
 小鉢に入った煮付けを蒼香が箸でつつけば、志都子は身をほぐした焼き魚を骨だけにして行く。
「では、この間週刊誌に書かれていた『恋人発覚』というのは?」
「え゛っ?」
 鞄から出された雑誌を見て志都子の手から箸が転がりかけ。
「や、優輝先輩とは、違わない……って、この写真、ええっ?!」
「早くわたしも恋人が欲しいな、フェイラ先輩達はもう子供もいるし」
 明らかにパニックになりつつある志都子の様子を眺めつつ、蒼香は嘆息する。
「あるぇ、ひょっとして僕ももう恋人居るって認識してる?」
 もし蒼香がそう認識していたとしても間違いだと言えないのが今の志都子で。
「それはそれとして、弟で良かったら紹介するけど?」
「えっ」
 身内をダシに使って誤魔化そうとした志都子の提案に今度は蒼香が目を丸くするのだった。

●2019年の卒業式
「はぁ、遂に卒業だな」
「うわー、銀誓館生活がついに終わりだよ」
 制服とかほとんど着なかったけど、と着ている制服の上着をつまんだ珠輝は、結構長かったなぁと学園生活を脳内で振り返りつつ先程まで並んで歩いていた友人へ片手をあげた。
「んじゃまた後でメールするー」
「おぅ、また後でな」
 別段今生の別れという訳でもないが、それでいていつもの放課後とは違った別れ。中学の時とは違い皆が皆同じ道を歩む訳ではないのだ、簡単に会えなくなる友人もいるかもしれない。
「さて、と」
 だが、感傷に浸ったまま立ちつくす訳にもいかず。
(「……育ててくれたのは母さんだけど、支えてくれたのはこのガッコだよな」)
 歩きながら見上げた校舎は、まるで巣立って行く卒業生を見送るかのように静かに佇んでいる。
「来てよかったなぁ、やっぱり」
 母親と一緒に行く父親の墓参りに入試合格の報告、するべき事はまだ他にもあったが、「頭の良さは父さん譲りなんだろーか」と言う感想だけで今は頭の片隅に追いやって、珠輝は暫く校舎を眺めた後、踵を返す。
「帰るかな」
 携帯をとりだして着信だけ確認し、踏みしめるのはこれまで何度も通った道。ただ、この日の道は珠輝にとって未来へ続く道でもあったのだった。

●2020年の日常
「マスター、サンドイッチあがったよ」
「あ、あぁ」
 厨房からひょっこり顔を出した志都子の姿に優輝の顔は自然と笑みを作っていた。
(「想い人が近くにいて、一緒に働いてると思うと実にいいものだ」)
 優輝が自分の喫茶店をアルバイト先に勧めたのは、それ程昔の話ではない。
「そうそう、営業時間が終わったら『いつものやつ』をするからな」
「あー、そう言えば今日は水曜日だっけ」
 アルバイトの合間に実践形式で能力者として志都子の指導をし始めたのとどちらが早かったか。能力者に目覚めた志都子は、空いた時間を使った実践式訓練で始まりの刻印により遭遇したゴーストを爆殺している、かってアークへリオン自爆キャラと言われたのがまるでフラグであったかのように。
「や、自爆はしてないよ?」
「どうした、突然?」
「えっ、誰かに不本意な言われ方をしたような気がして」
 時折、誰に向けてなのか解らない抗議や指摘をするが、ひょっとしたらどこかで誰かが噂をしているのかもしれない。優輝の想い人は何時しか恋人になっていたが、ある点においては出会った頃とあまり変わらないままで。
「ラヴラヴは良いですが……次の撮影のスケジュール、忘れないで下さいね?」
「あ、うん。……って、ラヴラヴって何ーっ?!」
 今日が水曜日発言で危機感を覚えたのか、お客としてやって来ているマネージャーへ志都子は決まり悪そうに頷くと、一瞬遅れて絶叫する。アルバイトが増える前より賑やかになった店内、今の日常に優輝は満足していた。彼にとっての幸せな日常がそこにはあったのだから。

●2024年の日常
「スピカ、昨日の見たー」
 まちのおまわりさん、市民に親しまれる素敵な職業。珠輝かからすれば今の自分は、念願の警察官になれた訳であり、不満などあるはずもない。
「サイのおっさん、新しく編み出した必殺技ですげーあっさり死んだんだぜー」
「ああいうの『でおち』って言うんだよなー?」
「あっこらまだ今週の録画見てねえよ! ネタバレやめろ!」
 子供達に呼び捨てにされてはいたが、親しまれていると考えれば問題はない。
(「エリートだった父さんと同じ方法じゃないけど、刑事は目指すから」)
 国家試験を敢えて受けず、街の人々に頼られる道を選びつつも、珠輝の夢は終わらない。
(「まだ夢の途中だけど、喜んでくれるよな」)
「そう言えばさー、今遊園地でショーやってるんだよなー」
「おれ、この間かーさんたちと行ったぞー、遊園地」
「マジか?! いいなー」
 騒ぐ子供達に囲まれながら、珠輝は空を仰いだ。

「おおっと、これはピンチ。こういう時こそみんなの応援が力になるんだよ。さぁ、みんな――」
 マイク片手に舞台脇にいたお姉さんが観客席のちびっ子達を促す。それは、良くあるヒーローショーの一場面で。
「洋介、パパと一緒に応援だ! まけるなー」
「うん、がんばれー」
 声援に大人の声が混じっているのも、子供に合わせているのだとすれば問題はなかった。
(「変わんないなぁ」)
 もっとも、陽子からすれば息子と一緒にヒーローショーに夢中になる清和も充分許容範囲だったようで、苦笑を浮かべつつ視線を手を繋いだままの息子へと移す。
(「今が一番かわいい時だけど、パパみたいなおっぱい好きになったらやだなぁ」)
 心の中で思いつつも、ここに来るまでべったりだった様子を加味した胸中の自分が「無理ぽ」と漏らした。もっとも、こんな思案も子を持つ母にならなければしなかっただろう。
(「母親になるとか想像もつかなかったけど、普通に母親しちゃってるなぁ」)
 空を仰ぎ、学生時代を思い出しつつ物思いに耽った陽子は――。
「んみ?」
 右手を強く握りしめられたことで我に返る。横を見れば、ショーが大詰めらしく興奮した様子の夫と息子。
「ま、いっか」
「ん? どうかした?」
「ううん、何でもないない☆」
 独り言か視線に気付きこちらを見て問うへ、陽子は開いていた方の手をヒラヒラ振ると。
「2人目がんばろーね、パ〜パ☆」
「え? あ、おう! もちろん。がんばるよ!」
 元気な笑顔を向けてくる清和へと笑みを返した。

「お前たちの未来をかけた戦いだよ。命を懸ける覚悟はできたかな? 私はとっくの昔にできているけどね」
「くっ」
 不敵な笑みを浮かべた命が足を一歩踏み出すと、気圧されるように対峙する男の一人が後ずさった。
「ちっ、何てプレッシャー纏ってやがる、どう見ても中学せへべばっ」
 舌打ちした男は、最後まで言葉を紡げず巨大な植物の槍に押しつぶされた。外から光の差さぬ、町はずれの倉庫の中、始まった犯罪能力者組織と命との戦いはほぼ一方的なものになりつつある。目覚めてあまり経たない能力者と命では年期もくぐり抜けてきた修羅場の数もまるで違うのだ。
「楽な仕事だったね。随分あっさり片づいたし、久しぶりに遊びに行ってみようかな」
 倉庫内に倒れ伏す男達へ意識がないのを確認すると、息のある男達を縛り上げながら命は呟いた。
 
「実名で、いい……?」
「言い訳あるかーっ! って言うか、これ決定事項?!」
 とある小料理屋の座敷で誰かが叫んでいた。まぁ、その座敷に匿った翔からすれば声の主は明らかなのだが。
「おとーさん、志都子お姉ちゃんで遊んできていい?」
「今は取り込み中みたいだから、後でね」
「えー」
 姫恋との間に生まれた娘も今では時折訪れる志都子になつき、こうして志都子が訪れた際はいつも遊んで貰っていた。そう、遊んで貰っていたのだ。母親の「志都子は弄るものでしょう?」という言葉を鵜呑みにしてしまって玩具としてみているなんてことはきっと無いと思う。
「すっかりなついてるわね」
「そうだね」
 だから、姫恋の言に相づちを打ち、翔はまだかなーと「お話が終わるの」を待つ娘を微笑ましげに眺める。
「逃げても、いいのよ……?」
「や、引き受けた仕事を投げ出す訳にはいかないし……って埒があかない。そっち、時間作れる?」
 とりあえず、電話はまだ続いているらしい。志都子の言葉の端を捉えると、電話の相手は灯萌のようで。
「忙しくて、ね……」
「じゃあ、こっちから行く!」
「……え?」
「知らなかったのかな? 王府・志都子からは逃げられないっ!」 
 呆然とした灯萌の声に言葉を返した直後、電話を切った音に続いて座敷の戸が開けられた。
「志都子お姉ちゃん?」
「ごめんね、ちょっと急用。原作者に色々問いただしてこないと」
 おそらく急用の理由は電話相手だった灯萌の漫画が原作の映画についてなのだろう。
「そうそう、キミのお母さんも姫とまで呼ばれた弄られの人だから……お母さんに相手をして貰うといいよ?」
「ちょっと、志都子?!」
「ほんと、おかーさん?」
 どさくさに紛れて逆襲しつつ志都子は去り、残されたのは一組の夫婦と首を傾げた娘のみ。
「え? 違うよ?」
「それについては……いや、それよりも」
 慌てて首を横に振る姫恋の横で何かを言いかけた翔は、敢えてそこで言葉を止めると、姫恋に歩み寄って背に腕を回す。
「ずっと、幸せにするからね……姫恋?」
 結婚式の時にかけられた言葉への答か、それとも場を誤魔化そうとしたのか。
「うん」
 おそらくは前者。心のどこかで確信し、姫恋は頷いた。

●2024年の同窓会
「皆の近況が聞けると良いな」
 と、カメラを片手に会場へ向かった鈴鹿・小春(万彩の剣・b62229)が見かけたのは、見覚えのある帽子をかぶりコートを身につけた後ろ姿。
「一花センパイ、お久しぶりです」
「よぉ、久しぶり。そっちも家族連れかな?」
 一花がそう返したのは、互いに娘を連れていたからだった。
「息子もいるんですけどね」
「俺の所もさ。今は洋――」
「一花? あ」
 会話していた二人の元に顔を出したのは、息子を連れた洋子。
「久しぶり、かしら?」
「……に、なると思いますよ」
 洋子も小春もこれが初対面ではない。一花の記憶では自分の誕生日祝いやモーラットの捕獲など何度も顔を合わせた間柄の筈だが、洋子はこの同窓会に参加する為一時帰国した――つまり海外にいた訳で。
「紹介しておくわ。息子の一矢と娘の洋美」
「よろしく」
「よろしくね」
「お二人にそっくりですね」
 母親に促されて頭を下げた兄妹は、雰囲気も顔つきもどことなく両親に似ていた。兄が洋子似で妹が一花似と性別だけは逆であったがそれはそれ。
「そ、そう?」
「確かにそっくりですね。あ、お手紙ありがとうございました」
 小春の言葉で照れくさそうに洋子が視線を外せば、いつの間にか会話に加わっていた真緒がぺこりと頭を下げて。
「あるぇ、そこにいるのって……」
 丁度そこへ、一人の女性がやってくる。
「……志都子お姉さん?」
「や、そうだけど……というかむねをみてかくにんするのはひどいですよ」
 声をかけつつも自信なさげな顔をしているのは、紗夜子。こちらは高校時代に髪を伸ばしたままの出で立ちだが、とちゅうから抗議が棒読みになった元運命予報士は特徴だった長いツインテールをばっさり切っていた。
「……と、とにかく、立ち話も何ですし」
「そ、そうですね」
「そうね」
 子供もいるのだ、わざわざ立って話をする理由もない。誰かの提案でその場の面々は座れる場所を探し始め。
「あー、近況だったかしら?」
「はい、僕は検察官やってます」
 とりあえず適当な席を見つけて落ち着き、口を開いた洋子に娘を膝に載せた小春が頷き、まずは自分からとでも言うように答えた。
「私は銀誓館学園で教師をやってます。あ、能力者としてはゴーストチェイサーしてますよ?」
 とは、真緒の言。
「そう言えば、運命予報士も能力者になったんだったわね」
「「と言うことは……」」
 洋子の言に数人がハモりつつ志都子を見たのは、もうお約束なのかもしれない。
「志都子お姉さんもとうとうゾンビハンターで粉塵爆発自爆キャラに――」
「なるかぁぁぁぁっ!」
 相も変わらずの絶叫をする志都子を横目で見つつ嘆息した洋子は、他の面々に倣って近況を口にすると、一つ付け加えた。
「アンタらは使わないように注意しなさい」
「ま、医療品とか必要なければそれにこしたことのないものってのはあるからね」
 補足するように言葉を続けた一花は、肩をすくめつつどこか遠くを見て。
「そうだ、せっかく集まったんですから写真を撮りましょう」
 カメラを持ってきていた小春からすれば、思いつきという訳ではないのだが、会話が途切れた瞬間というのは、申し出るには丁度良いタイミングだったのだと思う。
「そうね。こういう機会でもなきゃ集まんないし」
「じゃ、ごく普通のフリーターの僕は隅っこね?」
「あの、それかえって墓穴掘ってませんか?」
「え゛っ?」
「父さん、私ここがいい」
 場所決めで賑やかになる同窓会の会場の一角、そこには笑顔があった。一人引きつっていたような気もするが、それはそれ。
「じゃあ、タイマーかけますよー」
 全員を写せる位置にカメラをセットした小春は、仲間達へ声をかけると写真に入るべく早足で歩き出した。
 


マスター:聖山葵 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:11人
作成日:2012/12/19
得票数:ハートフル4  せつない2 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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