キミが記す書 -人生-


   



<オープニング>


「狼……いない、の?」
 大正風レトロ和風カフェ縞ねこ屋にて、近づいてきた営業ブチ猫ボタモチへの第一声、ばいローラ・エンディミオン(狼使い・bn0313)。
『みゃ!』
 ふんっとお尻振り振り、不機嫌あらわに去っていくボタモチに、星崎・千鳥(高校生運命予報士・bn0223)は「ごめんね」と手を振った。
「ローラちゃん、そりゃ無理だべ」
 たははと力無く笑いつつ、鳴子・椿(バンカラ爆砕娘・bn0270)はメニューを開いて目下の面々へと向けた。
「本当にいいのですか? おごっていただいても」
 黒糸ゆらし、詩条・美春(兄様といっしょ・bn0007)が問うた。
 古風な手作り本には、色とりどりな和菓子、和パフェが舞い踊る。どれもこれもできたてほやほやが売り、とっても美味しいぞ。
「おう、バイト代入ったから遠慮すんな」
「あ……折り紙、だ……ね」
 メニューには小さな千代紙で折られた鶴、やっこさんがぺたり、ローラはすりすり撫でると寿ぎ笑んだ。
「折り紙お好きですか?」
「ん……好き」
「じゃあ今度、折り紙の本をお持ちしますね」
「本? ……美春……あり、がと」
 お喋りをはじめた真向かいの二人を前に、もうすぐ受験生な千鳥はため息と一緒に天井を仰いだ。
「いーなー大学生。ボクも色々とモラトリアムを謳歌したい」
「モラトリアムとか堂々と言うでねぇっ! てかよ、大学生も勉強大変なんだどっ?!」
 ぺしっと千鳥の頭を叩く椿、とっても気安い。
「もらとりあむ?」
 淡いローズピンクがふわりふわ、ローラは小首をかしげた。
「ローラさん、今絶対『もきゅ』って鳴く例のアレ浮かべたよね?」
 こくこく。
「……とり……あむ? あまり毛……とれなそー……だ、よ?」
「捕獲はいーとして、その毛で編まないであげて」
「モラトリアムというのは……」
 収拾がつかなくなる前に、美春が解説の助け船を向ける。
「『社会に出る前の猶予の時間』をさす時に使われることが多いです」
 ――ここにいる四人はまだ『モラトリアム』の中にいると言えるだろう。
 けれど時間は絶え間なく流れていく。
 皆、少しずつ成長していく。
「椿さんは先生を目指してらっしゃるのですよね? 私はまだ将来を決めかねていて……」
 まず届いたほうじ茶で喉を潤し、美春はちょっと真剣に眉根を寄せる。
 音楽も好き、でも文学も好き……音楽の道に進むなら、今から本格的に向き合うのは遅いのだろうか、とか。
「まぁだ高校があるべ。色んな人の話を聞いてゆっくり決めるとええ」
 自分が中学3年の頃は「高校にゃいかねぇで地元を護る!」なーんて息巻いてたなぁ、と思いだしつつ椿は見守り姿勢。
「ローラ……森に、帰る」
「銀誓館は、いや?」
 千鳥の問いにふるふると髪が揺れた。
「たのしー、よ……でも、クロ、シロ、チャ……も、好き……だから」
 人と関わる世界は思うよりずっと倖せだったと微笑むローラに、千鳥も微笑みかえし。彼もまた孤独から銀誓館で絆を得たから。
「千鳥はどーすんだべ? おめぇさ、来年度受験だべ?」
「あーえーうーん……理系大学行って、それから考える」
「まさに引き延ばしだべな」
「…………夢言うと、笑うから、言わない」
 縞ねこ屋女給さんが、頼んだ和菓子を持ってきてくれたので一端黙る四人。
 テーブルの上、色とりどりな和菓子が艶やかな中、椿は「で?」と追求を止めないわけで。
「推理小説作家で一攫千金」
 ぼそり。
 零した千鳥は開き直ってこう続ける。
「だからネタ頂戴。これからもずっと殺人事件ごっこ、する。呼び出すから、皆、強制参加ね」
 しれと言いじとりと睨む紅はマジだ。
「ローラ、も……いー?」
「歓迎するよ」
 止めた方がいいのでしょうかとの美春と、無駄だと思うと肩を竦める椿。
 ……近い未来はそんな感じ。
 …………じゃ、遠い未来はどんな感じ?

マスター:一縷野望 紹介ページ
 あなたの路を教えてください。
 シルバーレインマスターの一縷野・望(いちるの・のぞみ)です。
 縁を紡いでくださった全ての方への御礼を、本当にありがとうございました。


◆シナリオ概要
『2013年〜24年』の12年間を綴ります。
 1年分のリプレイは、
=========================
 『日常パート』『同窓会パート』『卒業式パート』
=========================
 の3つで構成されます。

>日常パート
 平穏かもしれない、ゴーストと戦う死と隣り合わせかもしれない、あなただけの日常を描写します。
 学生を謳歌する、社会人生活……などなど。あなたの未来をお聞かせください。

>同窓会パート
 その年の同窓会に出る描写です。
 同じ年の同窓会に参加した人は年齢問わずに旧交深める感じになる予定です。

>卒業式パート
 自分が卒業する年を選択してください。
 卒業式は『小学校・中学校・高校』どの卒業式でもOKです。

>プレイングについて
【2015日常】とパートと年代がわかるよう冒頭にご記載ください。
 パートの選択は最大3つまでです。
 以下、全てOKですので、思うままにプレイングをかけていただければ幸いです。

・文字数全てを【1つのパート】に集中する(描写は一箇所のみで濃くなります)
・3つとも年代を変えた【同じパート】(数年ごとの日常、という感じです)
・【2013年卒業】【2015年日常】【2024年日常】も可能です

>一緒に過ごしたい方がいる
 それぞれのパートで【】の中に『名前』か『ID』か『グループ名』お願いします。

>NPCについて
・美春
 銀誓館卒業後は国立大学の音楽科に入学。
 兄様とはずっと一緒。
 お仕事は……どうでしょうかねぇ。

・千鳥
 銀誓館卒業後は理系の大学に入学。
 1留後卒業、実家の駄菓子屋の店番をしつつ、推理小説を書いては投稿。
 時期によっては案外子供がいるかもしれません。

・椿
 大学卒業後は小学校の先生をやっています。
 浮いた話はつつくと出てくるかもしれません。

・ローラ
 銀誓館卒業後は、森の塔でゴーストウルフの、シロ・クロ・チャと暮らしてます。
 たまに日本に遊びに来ているかもしれません。


 なんとなく一縷野の脳内にあるのはこんな感じです。
 ですが。
「こんな風に一緒に過ごしてる」とか「こんな仕事してる」とか……絡んでいただければ、彼らの未来も多少は可変するかもしれません。
(例として、美春が音楽を志す友達に強く影響を受ければ、音大を目指すかもしれません)
 彼らはお声がけいただければ登場します。
 お声がけなかった場合も、どこかに書かせていただく予定です。

 ――皆さんの未来が届くのを楽しみにしています。

参加者
緋之坂・央璃(タラントラディベルダストロ・b00444)
氷山・悠治(自由人・b00951)
柴・朔太郎(先生・b01919)
高橋・姫(光と闇の翼・b03556)
赤城・零(黒マフラーの蟲使い・b03620)
地祇谷・是空(呪言書道家・b03968)
美咲・牡丹(緋牡丹・b05183)
御厨・モニカ(真魔弾術士・b06381)
ジングル・ヤドリギ(吟星クリスマスロイド・b06651)
弘瀬・章人(水天一碧・b09525)
三笠・輪音(夕映比翼・b10867)
祝詞・勢(出オチ・b15345)
川満・紅実(空に知られぬ雪・b16707)
掛葉木・いちる(翔月六花・b17349)
佐東・ひなた(ミズノモリ・b18388)
水沢・環奈(春雪に守られし桜の子・b18954)
円・未都(藤風華想・b20117)
瀬崎間・亮(真こいくまんごー・b21102)
不破・赤音(真ゾンビハンター・b22569)
護塔・洸太(曉芒刃・b25401)
萩森・水澄花(アクロポリスロマンチカ・b25457)
鈴白・舜(無窮花・b25671)
上尾・亜衣(アイから始まる名前・b25928)
ユエ・レイン(白の翼と銀の尾と・b27417)
永合・周(アルゴナウタイ・b27864)
氷采・陸(瑠璃色ニュートラル・b28712)
御鏡・幸四郎(菓子職人修行中・b30026)
寒桜・美咲(蒼天夢想・b32031)
文月・裕也(太陽と月の着ぐるみ探偵・b33412)
矢代・朱里(朱の明星・b34612)
アルステーデ・クロイツァー(葬闇のシュヴァルツェナハト・b35311)
鞆総・スルガ(赫炎虚蟲・b35350)
萩島・光奈(軌鎖の祓断者・b36266)
稲垣・幻(ホワイトティーリーブス・b36617)
尭矧・彩晴(ベリルユピテル・b38169)
沙更女・粗目(蛇の心臓・b40178)
ラクシュ・ソラティス(シュークラヴィ・b40292)
久垣・晴臣(微睡む牙・b40597)
神薙・汀(嵐龍拳士・b42520)
凍滝・雨(ブラッディレイン・b42773)
四之宮・枝廼(烙焔・b42808)
空知・凪(華蝶拳士・b43818)
ラインハルト・シュバルトクロイツ(真魔剣士・b45457)
伊吹・詩乃(朝陽の息吹・b46040)
黒星・蛍燐(狭蝿ナス蟲ノ禍霊・b46408)
葉月・リオ(全身凶器のツンギレ娘・b46737)
ディーン・ランバート(紅炎銀月・b46794)
杉本・沙紀(天弦に導かれし雷光・b46924)
真月・マサト(中学生月のエアライダー・b47415)
ノエル・ローレンス(月夜のヴァンパイア・b47497)
涼風・流流(のらりくらり・b48448)
音羽・響(夢幻の空の下音を楽しむ・b49201)
横倉・心美(小さなたまご・b51575)
御津乃廉・灯(白風纏う吸血児・b51863)
八重咲・凛々花(月夜に咲く桜花・b51904)
神山・楼炎(蒼き銀の堕人狼・b52373)
アストラム・ヒッペアス(銀色の疾風・b52617)
宮代・さつき(空色の風詠い・b52693)
夜咫・晶(獅子の瞳を映す銀鏡・b53016)
矢車・千破屋(燦然・b53422)
藤野・涼太(フランケンシュタインの花嫁・b53733)
蒲生・灯雪(雪雅遊踏・b55309)
風雅・月媛(通りすがりの黒猫紳士・b55607)
久留宮・沙希(紅の詠を紡ぐ者・b55661)
リーゼロッテ・カルバート(月夜に舞踊る女帝・b57646)
ファリューシング・アットホーン(宙翔る双頭の鷲の子・b57658)
比企・古杜(蒼き月華ののばら・b58965)
太田・千枝(七重八重花は咲けども山吹の・b59223)
籐村・御幸子(野ばらの花嫁・b59540)
ブライト・アカツキ(朔の彷徨者・b59563)
舞城・笑弥(糸紡ぎ・b59830)
烏頭森・万葉(億千万の棘茨荊・b60331)
フィロミア・エルンスト(新緑の担い手・b60645)
羽住・悠砂(星屑メロディ・b60673)
成上・瑞羽(唄運ぶ藍風・b61342)
鈴鹿・小春(万彩の剣・b62229)
東郷・緋邑(閻魔の使徒・b62361)
静谷・千尋(ゼラニウムの夢・b63652)
鎮西・朝矢(弓張月・b63654)
シャムテイル・イルミナス(カシミールブルー・b64908)
六桐・匳(青藍水月・b66454)
ラクス・ソルス(蒙霧升降・b66563)
雹牙堂・カイナ(誇り高き守護騎士・b67028)
シーナ・ドルチェ(ネミの白魔女・b67352)
冴凪・要(白零葬・b67983)
麻倉・桜(闇の中で煌めく小さな翠風の羽・b69685)
八雲・椎名(蒼風の守護者・b70646)
早見・恩(絆誓万劫シャレードガール・b72348)
烏丸・硝子(死喰い鴉・b73293)
犬神・リューシャ(ヴォールクアヂノーチカ・b73419)
菊咲・紅樹(小学生真サンダーバード・b74567)
籐村・御陸(敬天愛人・b75746)
玉城・曜子(妖しの小花・b76893)
犬神・伏姫(死人機士団・b77239)
犬神・リディヤ(ラビリンスドール〜白夜迷宮録・b77255)
ヒルデガルド・ケッセルリング(オルキヌスオルカ・b80010)
雹牙堂・寧(正義系女子・b81307)
美月・彩乃(半月の憂姫・b82490)
宇佐美・雲母(高校生ルナエンプレス・b82600)
高橋・伍実(アナザーイビルコンセクエンス・b83761)
アスール・カルデナス(陽光のコンチェルト・b83977)
リグ・マルヴァス(眠り獅子・b84719)
宿木・星屋(螢惑・b85073)
栗田・鈴霞(日次の木花・b85530)
NPC:星崎・千鳥(高校生運命予報士・bn0223)




<リプレイ>

●2013年 卒業式
「激動の一年じゃったのう……」
 しみじみ。
 空知・凪(華蝶拳士・b43818)は、結界消失確定をはじめとした2012年に起きたあらゆる激動に想いを馳せる。
「自分で言うのもなんじゃがよく成績が落ちんかったもんじゃ」
 自然科学系の大学進学も確定、結界消失後への研究をしようと考えている。更に将来は宇宙飛行士志願。その心は冒険家。
(地球外にもまだ見ぬ友がおるかもしれんしのう……)
 その隣でぽろぽろと涙を零すのは寧だ。
「あーあ、女子高生ライフももうこれで終了かぁ……」
 彼氏も出来なかったし、ちょっといや割と寂しい系。でも想い出は胸一杯!
「……でも、振り返ってばっかりじゃなくて、前に進んでいかないといけない系だよね!」
 未来があるから大丈夫!
 お腹の底から笑ってみた。
 でも。
 やっぱ、涙もぽろぽろ。
「明日からまた、テンション上げてこー!」
 だから今日はちょっと泣かせて欲しいと、桜を見上げ請うてみた。
「……」
 卒業証書の筒を持ち上げあらゆる角度から検討。
 ……食べられない。
 口寂しいと紙でも食べる高橋・伍実(アナザーイビルコンセクエンス・b83761)だが、さすがに無理と判断した紅は、漆黒のインバネスコートを認め「ん」とこくり。
「ご卒業おめでとうございます、伍実さん」
 芳しき大輪の花束を彼女に渡すのは、卒業祝に駆けつけた黒星・蛍燐(狭蝿ナス蟲ノ禍霊・b46408)。
「食べられないほうの花」
 マジマジと花束を見た後で、じっと見上げてくる瞳に蛍燐は相好を崩す。
「じゃあ家に帰ってご飯にしましょうか、何か作りますよ」
 楚々と車に乗った彼女は一言「ごはん」ルームミラーに浮かぶ仄かな笑みを確認し、蛍燐はキーをひねる。
 折角のおめかしも彼女には関係なし、か。
「ごはんは、大盛り」
「はいはい」
「お魚が食べたいな」
 でもそんな会話と笑顔で充分な気も、した。
「おーい、舜!」
 嬉しそうに手を振る淡い金色髪に、華やかな薄紅髪が揺れる。
「よ。卒業おめっとさん」
「本当に来てくれたんだな」
 感極まったように証書筒を握り締めるアスール・カルデナス(陽光のコンチェルト・b83977)をからかうように、鈴白・舜(無窮花・b25671)は笑みかける。
「まさか泣いてないだろうな?」
「泣く訳ないだろ?」
 けれど過ぎ去っていく時間が感慨深く心を揺さぶってくるわけで、実は雰囲気に飲まれそうと白状する。でも涙より、笑顔。
「舜も卒業おめでとう!」
「ありがとさん」
 法学部を卒業した舜はそのまま大学院に進む予定だ。
「夕飯は奢るな」
「でも舜も卒業……」
 まぁでも今日は先輩の顔を立てよう。
(来年は千鳥の卒業祝ってやらねぇとな)
 響と話す藍髪を遠目に頷く舜の肩をぽんっと叩き、改めてアスールは口にする。
「お互いの卒業と新たなスタートを祝って」
 おめでとう!
「ま、あたしは当面銀誓館残ることになりそうなンだよね」
「卒業したのに?」
「あぁ」
 卒業証書の筒で肩を叩きつつ、音羽・響(夢幻の空の下音を楽しむ・b49201)は今はまだ一般人の千鳥に答える。
「そう遠くない未来に一般人が次々能力者になる訳だろ?」
 そんな彼らの一助になれればとの言に、千鳥は「響さんらしーね」とこくこく。
「良かったら色々付き合っとくれよ」
「いーよ。品質改良に消費者の意見を取り入れって奴だよね?」
「アンタ、わかってて言ってるかい?」
 もうひとつの理由――道に迷いし友人が羽を休める場所になれれば、そんな願い。
 制服の肌触りを慈しむように、掛葉木・いちる(翔月六花・b17349)は胸元を撫でた。
「や、とうとう俺もいちも高校生名乗れんの今日で最後なんねぇ」
 尭矧・彩晴(ベリルユピテル・b38169)は卒業証書を手にぐっと伸び。
「ユエさんは中学やけん後3年やが高校生活なんてあっという間よー」
 やはり中学卒業と区切りへの思いは違うなと思いつつ、ユエ・レイン(白の翼と銀の尾と・b27417)はいちるに第二ボタンをじっとみた。
「友達に聞いたんだ。大好きな人が卒業する時に、制服の第二ボタンを貰うものなんだって」
「あぁ」
 存外焦らぬいちるの態度に、ユエの悪戯心が疼く。
「知ってる? 日本じゃ女の子は16才から結婚できるんだよ」
 爆弾投下!
 彩晴はくくっと人が悪い笑みを浮かべ、焦る従兄弟様を見守ってみた。
「! ……あのさ。ユエちゃん」
 しどろもどろ。
「俺が社会人生活に慣れる頃、君の大学卒業を待つって選択肢は却下なのか?」
「へ?! えっ……ええっと……」
 予想外の真面目な答えに、ユエも真っ赤に熟れた。おやまぁ、瓢箪から駒な展開か?
「常春世界やねぇ」
 冷やかしながら、内心彩晴は清濁諸々素顔のまま想いを解ける二人が羨ましいと思う。いつか自分にもそんな相手が現れるのだろうか、と。

●2013年 日常
「これも……お鍋?」
「すき焼きですよ、ローラさん」
「おこたにすき焼きは、日本式温まり方?」
 かな? と小首を傾げる鈴鹿・小春(万彩の剣・b62229)は、ローラと美春、椿と千鳥を誘って楽しくすき焼き、5人が入れる縦長おこたでジュウジュウ。
「野菜たっぷり」
 葱、白菜。
「しらたきがうめぇんだぁ」
「お肉硬くなんないよーに寄せてね」
 賑やかな皆を前に、ローラはふわりと微笑む。
「日本の味……ローラ、また新しいの知れて……うれしー、な」

 3月9日、それは彼女が16歳になる日。
 彼、東郷・緋邑(閻魔の使徒・b62361)は、いつも通りのへにゃ笑顔で彼女、麻倉・桜(闇の中で煌めく小さな翠風の羽・b69685)をデートに誘い出した。
 ひとしきり遊んだ後、足が向いたのは公園。まだ桜が咲くには早いけれど、彼には華やかに笑う桜がいる。
「見晴らしいいな♪」
 はしゃぐ桜が振り返ったら、いつになく真剣な彼が、いた。
「改めて言うのもなんだけど……」
 婚約者だから。でも、彼女が結婚できる年齢になったら、ちゃんと言葉にしたかった。
「結婚しよう」
「!」
 不意打ちプロポーズに、真っ赤になる。でも、きちんと返したい。
「……こんな私でも、よければ結婚してくださいっ」
 断わられるなんて思っていなかったけれど、改めての承諾はやっぱり嬉しい。
 感極まっていつものように抱きしめようとしたら、ぽすりと華奢な体が飛び込んでくる。
(嬉し涙、見せるの恥ずかしい……)
 震える肩が愛しくて、緋邑は強く彼女を抱きしめ返す。
「一生大事にするからな……!」
 こくり、頷くぬくもりに改めての責任が男に宿った。

 銀誓館ではない別の学校でも卒業式の季節である。
 久垣・晴臣(微睡む牙・b40597)は、無事調理師専門学校を卒業し免許その他諸々を取得していた。だが学生生活はまだ続く。4月からは栄養士専門学校に通い、管理栄養士の資格取得を目指す。
 更に実家の旅館の板長から紹介された料理屋で週3回、実地修行を兼ねたバイトと、非常に多忙な日々。
(正直、ゴーストより抜き打ちでバイト先に様子見に来る板長や大女将のが怖い)
 けれど充実した日々。

 4月のある日、ひとつの命が産声をあげた。
「いやもうへろへろ。でも、無事に生まれてよかった〜」
 くってり。
 疲労困憊の緋之坂・央璃(タラントラディベルダストロ・b00444)はベッドに横たわり、隣に寝かされた我が子にへにゃりと笑ってみせた。
「世のお父さんとお母さんって、みんなこんな気分を味わってきたんだね……」
 分娩室の前で気が気じゃなかった柴・朔太郎(先生・b01919)は、大仕事をやりきった妻にしみじみ。
 それぞれの両親も祝福を携えてこちらに向っているという。
 名前をどうしようと央璃。決る前に生まれちゃったよねと紅葉の手をつつきながら。
「美弦、っていうのはどうかな」
 朔の父。
 満月の母。
 間を取って『弦月』
「えへへ、美弦かぁ……えへへへへへへ」
 にやける頬で、央璃は身を起こすとそっと『美弦』を抱き上げる。
 ふにゃふにゃ。
 父と母そっくりに笑ったように、見えた。
「抱いてみる? 朔太郎。ふふ……すごいよ」
「う……うん」
 腕の中に来たぬくもりに笑みかける。
「はじめまして美弦。お父さんだよ」
 おめでとう。

 6月の花嫁は幸せになれるという。今、学舎と同じ街にある海が見える教会にて、幸せな花嫁と花婿が誕生しようとしていた――。
 参列者は、御厨・モニカ(真魔弾術士・b06381)の家族とラインハルト・シュバルトクロイツ(真魔剣士・b45457)が育った孤児院の院長夫妻。身内だけのこじんまりとした式だ。
 真紅のバージンロードを歩きながら、二人の胸には出会いからこれまでの想い出が去来する。
 出逢いは『学生寮◆風月華◆』
 ラインハルトは風雨を凌ぐ為に身を寄せた……だけだった。裕福な幼少期から一転して家族を失った彼は、死を求め生きて来た。
(意識したきっかけは髪と目の色が母様と同じ、ただそれだけだった)
 けれど今は蒼空をとかした銀糸に惹かれて止まない、共に生き続けたいと願う気持ちが胸に満ちているのだ。
「……」
 視線に微笑みモニカは少しだけ寄り添うように体を傾けた。
(想いを告げられた日、初めてのキス……)
 一言では語れない日々に感極まって零れる涙。気遣わしげな眼差しがまた嬉しくて。
 ――健やかなる時も病める時も、愛し合い共に在ることを神に誓う。
 家族が自分を護り死んでから神を信じぬラインハルトは、家族に誓う――。
『誓いの口づけを』
 人前でのキスにラインハルトの視線が照れたように逸れた。頬が赤いのがすぐ側のモニカにはよくわかる。
「少し照れますけど、神聖な儀式ですから……ね?」
 悪戯っぽい微笑みにかなわないなとヴェールをあげて、ラインハルトはモニカに唇を重ねた。
「最初に出会った時は、こうなるなんて思いもしなかったですけど、今、すごく幸せです」
 一歩一歩、これからの人生を歩くように大切に、ラインハルトとモニカは歩く。
「これからも色々とあるでしょうけど、こうして一緒に歩いてくれますか?」
 ――道の果てまで。
 そう紡いだ所ですぐ側の気配が離れた。
「きゃ」
 かと思ったら、不意に優しく抱き上げられた、繊細な壊れものを扱うように丁寧にそしてしっかりと。
「何を今更。その気がなければ結婚式の前に逃げ出してる」
 耳元に唇を寄せて、熱情を注ぐように謳う。
「そう簡単に手離す気はないからな。覚悟しておけ?」
「はいっ、一生離さないでくださいねっ!」
 見る者すら幸せに染める爛漫の笑み。

 マヨイガのお洒落なカフェにて。
「いらっしゃいませー♪」
「あ、寧ちゃん、今日バイトなんだー」
 店内はリビングデッドと能力者が半々ぐらい、ちなみにほぼカップル……そんな中訪れたお一人様に、雹牙堂・寧(正義系女子・b81307)ぱたぱたと近づいていく。
「愛さん、おひさしみたいな?」
「やっだ、先々週きたよー」
 マヨイガに保護したリビングデッド愛は、ぶんぶんと手を振るとチョコパフェを注文。
 しばし後。
「せっかくだからサービス! 生クリームマシマシチョモランマ、みたいな!」
「おおぅ、ありがと……あーでも太っちゃうかなー。隆さん、痩せてるのよねー」
 揺れる乙女心はゴーストも同じか。お皿にわけっこ、つまみつつ盛り上がるは恋バナ。
 一方、乙女の兄・雹牙堂・カイナ(誇り高き守護騎士・b67028)は、千鳥の家『だがしのほしざき』の店先にて、千鳥を「文系大学」へ誘惑していた。
「ここなら、例えば、芸術作品に作者が散りばめた暗号を見つけ出して読み解く……なんて研究もできるんだ」
 大学案内の1枚をつまみ上げて該当ページをめくれば、紅が興味深げに瞬いた。
「楽しそうだと思わんか、千鳥?」
「……すごい楽しそう」
 だけど苦渋の表情だ、とっても。
「?」
「カイナさんはボクの国語の壊滅っぷりを、知らない」
 37点とか取った事もあるんだぜ。
「国語ができなくても入れる文系大学希望!」
 とても難しい話だ。

 昼間は大学、夜や休みの日は日舞の稽古。慣れぬ稽古に四苦八苦の日々を送るのは、風雅・月媛(通りすがりの黒猫紳士・b55607)である。
「ああもう晶、勝手に死んで面倒臭いこと押し付けていって……」
 けれどさすが血筋か才能か、口では文句を言いながらも如才なく自分の物としていく彼女に、周囲は舌を巻く。
(いつかあの世で会ったら、文句言ってやるからね!)
 本来の跡継ぎ弟へそう毒づいて、でも暫くは逝く気もないと彼女は日々を謳歌する。

 某山奥。
「お久しぶりです。まぢかる☆らいきゅんです」
 マトモな格好のブライト・アカツキ(朔の彷徨者・b59563)を、8人の残念な魔法少女(?)達は「えーっ」て顔で出迎えた。
「こちらはお土産なのです」
「あ、ドリたんそれで許しちゃう♪」
 魔法少女を破かぬように、パッケージは細心の注意で破きます、ベリーが鎖鎌で。ヤンデレイッちゃい系だけど、そんな所は繊細らしい。
 これからも仲良くしたいという言葉に返るのは魔法少女菓子をばりぼりする音。
「でも『ぺたぁ☆男娘隊』はやりません」
 そこはちゃんと言っとく。

『今日の「Promenade」は、夏からの注目ドラマ!『名探偵は霧に消える』で準レギュラー役を射止めた千枝さんを迎えての放送です』
『……改めてそんな風に紹介されると恥ずかしいですね』
 美月・彩乃(半月の憂姫・b82490)のハキハキとした声に、太田・千枝(七重八重花は咲けども山吹の・b59223)はもじもじ。
『準レギュラーというか、登場は……あ、これ言っちゃダメでした』
『意味深ですね』
 今日もポップなメロディと軽やかなお喋りがラジオから溢れ出す。
 Ayanoの名で在学中から芸能活動をしていてた彩乃、短大生になった春からはますますそちらに注力している。
 頑張り屋の千枝もばっちりとバックアップしたい。
『千枝さん、役によってホント変わっちゃいますよね〜』
『そ、そうでしょうか?』
 優しいお姉さんから狂気系まで幅広く、殺人事件ごっこや依頼で学んだ事は無駄になってません!

 ――ひさし貸して母屋取られる、だったか?
 ラクス・ソルス(蒙霧升降・b66563)は、布団に潜り込んできたボブカットを恨めしげに睨みつける。
 藤野・涼太(フランケンシュタインの花嫁・b53733)曰く。
「ああ、どうしましょう! 憧れのデザイン系専門学校に入れたはいいものの……」
 学費払ったらすってんてん、家賃を払う余裕がない! 家事をやるからと置いてみたらこの有様。
「むにゅ……ふかもふ〜」
 モーラットかケルベロスの夢でもみてるのか、涼太の使役好きは相変わらず。
(花嫁修業はどうしたんだか)
 聞いたら目を逸らされた。
 ラクスはあふと短く欠伸をすると布団を出て、機械置き場へ足を向ける。
 年上の友人が夢を叶える為に歩き出したのを目の当たりにして、自分の未来もゆるやかに決めはじめている。
(大学に行きたい)
 一度は専門的な勉強をしておきたい、きっとなにかの役に立つだろうから。
 それしても……。
(日夜くっつかれると気が散る……)
「くしゅん! むにゅ……」

 姿を消した彼からの手紙に、ようやく冷静に向き合えるようになった――八重咲・凛々花(月夜に咲く桜花・b51904)は、今、支えてくれた友達に心から感謝する。
(情報公開のためにも、色々纏めんとなぁ)
 ポストに入っていた関西からの届いた大学案内を机に置き、ノートを開く。
 とにかく綴る。
 綴る。
 今、心を占める感情が一体何なのか、まだ見失っているけれど。
『逢いたい』
 そんな文字をぐしゃぐしゃと消してなるべく冷静に記録する。それが一番自分の気持ちを落ち着かせるから。

●2014年 卒業式
 もう明日からは当たり前じゃない、教室でのお喋りに名残惜しむ言葉が見え隠れ。
「今日でみんなとお別れね……」
『実感沸かないね』
 杉本・沙紀(天弦に導かれし雷光・b46924)に頷く級友。方々で見られる光景は、「卒業式開始」を告げる校内放送で途切れた。
 滞りなく進んでいく式、校歌斉唱の所で涙が溢れる。
「絆広がる 銀誓館学園〜」
 こうやって広がっていける、きっと。
 沙紀は春から推薦入学で文系大学へ。時々海外の訓練施設へも顔を出す。
 もちろん。
 学園からの要請があれば、ゴースト事件の解決にも力を貸すつもり。
「それじゃ、またどこかで!」
 でもやっぱり門出は笑顔で。
「……私、もう銀誓館の生徒じゃないんだね」
 上尾・亜衣(アイから始まる名前・b25928)は体育館から出たところで急に実感が沸き、ぎゅーっと熱く切なくなる胸を押さえた。
 友達と一緒なら寂しくないなんて嘘だ。
 やっぱり『学校』という場所はとても特別。毎日通ってきて一緒に勉強しておしゃべりして……もう当たり前じゃないんだなと思うと涙がぽろり。
 先輩達もそうだったのかな……と一番に浮かぶのは薄紅髪の親分。
(私、この学校の生徒で良かった)
「だから皆で笑ってお祝いしようね」
「そだね」
 後で舜来るって――そう笑う紅に亜衣の胸の切ないが嬉しいに書き換わる。
 横倉・心美(小さなたまご・b51575)は愛おしむように今一度学舎へ瞳を向ける。
 数え切れない程の沢山のことを学び、数え切れない程の縁を紡いだ此の場所から巣立つと思うと、胸がいっぱいになる。
 家計を助ける為に就職をと考えていたけれど……学ぶことに真摯で真っ直ぐな心美を見ていた担任教師は、折角だからと進学を勧めた。
 考えた末、この春から奨学金を受けて、心美は大学へ通う。
 久留宮・沙希(紅の詠を紡ぐ者・b55661)は千鳥を桜の木の下にずるずるとご案内。
 カシャリ! これから英国に留学、寂しい時にもこの笑顔があれば頑張れる。
「向こうからお手紙送るから住所教えて」
 駄菓子屋の住所をメールに打ちかけ止る。
「そだ春から東京、双良なら憶えてるかな」
 千鳥は春から相棒とルームシェアだ。
「後で良いよ」
 近況報告の手紙を送りたい、返事は偶にでも嬉しいと笑えば、そだねと返る。
「紙の手紙は偶……でも必ずメールは返すよ」
 嘘や社交辞令は言わない大事な親友だから。
「……良ければ千鳥んの制服のボタンを貰えない? お守りにするから」
「ボクので、いーの?」
 第二ボタンは沙希の掌に。

●2014年 日常
 一月某日、新成人達が背筋を伸ばし凛とした佇まいで儀礼に挑む。
 白と紅、見るだけで寿ぎを感じさせる振り袖なのは、円・未都(藤風華想・b20117)とラクシュ・ソラティス(シュークラヴィ・b40292)の二人だ。
 話が終わり式場の外に出た二人は、ふーっと一息ついた後、朗らかに笑いあう。
「着物って和装美で素敵だけど堅苦しい場だと式終了後は脱力しちゃってそうだよね」
「確かになー、気も背もぴーんと伸びるけど反動も凄そうやね」
 でもお互いちょっと違う感じで素敵。
「おーう、未都ちゃんにラクシュちゃん」
 芥子色の袴を身につけた椿が手を振り輪に交ざる。
 元気そうな顔に旧交を温めた後で、円が「お洒落なバーにでも行ってみる?」とひとさし指を立てて提案。
「あー……私、実はまだ19なんだべ」
 今度の23日まではお酒はお預けなのだ。
「ほんなら……」
 と、ラクシュが指たてて提案する。
「ノンアルコールのカクテルで、雰囲気だけ先取りしよか♪」
「そうだね雰囲気重視で了解だよ」
 ソウルのエステで語り合ったように、名実共に素敵な大人女子を目指したいねと娘達は会場を後にする。

 早春『ж【≪Lupinus≫】ж』店内のハーブも芽吹き、淡やかな芳香は訪れる人達に安寧をもたらしている。
 今日は貸し切り、招いたお客様はある兄妹。
「いらっしゃいませ、美春さん」
 早見・恩(絆誓万劫シャレードガール・b72348)の隣で、ロッキーがはたはたと尻尾を揺らす。
「お招きありがとうございます」
 ぱたりとドアを閉めた所で美春の隣に兄様が立つ。
「一秋さんもいらっしゃいませ」
 テーブルにはふかふかチーズケーキと丁寧に淹れられたお茶。
「美春さんって音楽に興味があったんだねっ」
「はい」
 踊りの好きな弟はピアニストも似合いそう、とか色々な話題が溢れ出る。
「一秋お兄さんにも教えたら一緒に弾ける様になりそうだしねっ」
「兄様は昔はピアノを習ってらしたんですよね」
 二重奏も夢ではないかもしれない。

 ――土蜘蛛として長い刻を生きたが、生命の誕生とはここまで愛しさが胸に満ちるものなのか。
 鞆総・スルガ(赫炎虚蟲・b35350)は、最愛の妻寒桜・美咲(蒼天夢想・b32031)と、娘美桜と充実した日々を送っていた。
「ただいまぁ」
「おかえりなさい、スルガさん」
 玄関をあければ、ミルクの香り。シチューと我が子の香り。
 短大卒業後、漫画家を引退し美咲は家事と育児に専念していたが……新米ママは色々四苦八苦。
「今日はなぁ、ぬいぐるみを買ってきたぞぉ」
「わぁ、良かったね。美桜」
 あやすように抱き上げる美咲、そのままデジカメにおさめてご満悦のスルガ……だが、
「ふぇっ、ふぁあああん!」
 丁度ご機嫌斜めか大泣きをはじめた美桜に美咲がそっくりの顔でおろおろ。スルガはデジカメを置くと美桜を受取り体を揺らす。
「わー流石だね、すぐ泣き止んだよ」
「笑った顔も、美咲そっくりで可愛いな」
「美桜はパパ大好きだもんねー」
 そんな所もお揃いと微笑む妻が愛しくて、ぎゅっと二人を抱きしめた。
 秋の夕暮れ、たまたま授業が休講になった鎮西・朝矢(弓張月・b63654)からのメール一本、伊吹・詩乃(朝陽の息吹・b46040)は飛んできた。
 朝矢の通う医大傍の公園をお散歩。一緒に暮らしているけれどやっぱりデートするのは、格別。
 とりとめのないお喋りに生真面目な問いが忍び込む。
「ところでお前、そろそろ卒業だろ? 就活しなきゃ拙いんじゃねーの?」
 川のせせらぎの音に耳を傾ける詩乃のんびりと「就職活動、ですか」と小首を傾げた。大丈夫なのか? とさらに続きそうなお小言めいた台詞は、澄んだ深呼吸で止められる。
「……ホントは」
 胸でずっと暖めていた答えを、さあ解き放とう。彼はなんと答えてくれるだろう……不安もあるけれど、解き放とう。
「誰かさんが貰ってくれるの、待ってるんですけど、ね?」
「?!」
 家族に焦がれる彼女への答えは果たして――。
 河辺に佇む恋人らしき二人を遠目に見かけた涼風・流流(のらりくらり・b48448)は、夕焼け空へと視線を移す。
 気まぐれに国内外問わずにふらり旅人、前に帰ったのはいつだったか。
(今回はァわりと長い事帰ってェない気がする……)
 特に理由はないけれど、でも、もう数ヶ月戻ってない。
(会いたァくなっちゃった)
 両手で抱えきれない程の夕焼け空は、大切なあの人の髪と同じ。
「うん、帰ろ!」

 100のお化け南瓜の前で紡がれた恋は愛へと育ち、二人は決して離れぬとの誓いを交わしあった。
 が。
「もう、知らないですっ」
 高橋・姫(光と闇の翼・b03556)は空色の髪を靡かせ、ぷいっと冴凪・要(白零葬・b67983)から顔を逸らす。
 きっかけは本当に些細なことだった、それこそ思い出せないぐらいの。
 そんな言い方ないんじゃないのとか、そっちのためを思ってとか……絡まり合う言葉は掛け違え、やがて喧嘩へと発展してしまった。
 けれど。
(その顔見ると折れちまうんだよなぁ)
 心地よい敗北感。要は膨れる彼女に「ごめん」と腕を伸ばし、一番近くへ閉じ込める。
「好きだ、愛してる」
「……」
 甘く囁かれれば、拗ねていたことなんて紅茶に落とした砂糖のようにさらり溶けてしまう。
 ことり、と、髪を彼の胸につけて、響く鼓動を愛おしみ姫は愛の言葉をぽつりぽつり。
「私も、大好きです。愛してます……!」
 こうやって喧嘩したり言葉を交しながら、お互いを知っていく。
 そうやって恋は愛へと育っていく。

 10月19日、永合・周(アルゴナウタイ・b27864)は21歳を迎える。
 その日、故郷の和歌山で家業を継ぐ護塔・洸太(曉芒刃・b25401)は、久しぶりに鎌倉の地を踏んだ。
「周と直に逢うン久々やなァ、21歳おめでとう」
 彼女の茶室で、変わらぬ人好きのする笑顔の洸太に、周もほんのり口元を緩める。
「誕生日に会いに来てくれて本当に嬉しい」
 凛とした口調は変わらず、彼女はすんなりとした指でお菓子を差し出してくる。内緒で作ったといういじらしさ、今は得意なんだと胸を張る仕草……全てが愛しい。
「あ、ほんま。上手ンなってる!」
 程良い甘さはお茶に合う。そのまま近況報告をしあう二人、何処かタイミングを探る、二人。
「あの……」
 タイミングは作るしかない。洸太は背筋を伸ばし座り直す、周もつられて居住まいを正す。
「周、俺のお嫁さんになってくれる?」
 和歌山に来て欲しい。
 その意味にカッと赤くなる頬。
「うん……一緒に生きよう」
 頷く彼女を思わず抱きしめれば、同じだけの強さの抱擁が返った。

 銀誓館の有名人作戦に参戦すべく、寧はダンサーのオーディションにエントリーした。
「よろしくお願いしますっ!」
 ぱりっと笑顔。
 体を動かすのは大好きだから、のびのびと舞台狭しと跳ね回る。
 いつもの「〜みたいな」とか「〜系」は封印封印。
「ありがとうございましたっ!」
 受かるといいなと胸をドキドキさせながらもう一度お辞儀。
 ……即日、寧は『採用』の連絡を受けることになる。
 妹が日常を歩む中、兄はヨーロッパにて戦いに身を投じていた――ただしそれは『護る』ための戦い。
「や、やだ……こ、こないで!」
 目覚めたばかりの異能に怯える少女が放つ連続の弾丸、だがカイナは避けずに受け止める。
「大丈夫だ。俺はお前の敵ではない」
 長身の青年は優しく微笑むとまだ15にもならぬ少女に手を差し伸べた。
「あたし、化物……」
「安心していい」
 居場所はあると震える手を取り真っ直ぐに視線をあわせる。
「俺は守護騎士、雹牙堂カイナ……お前を、助けに来た」
 指を握り締め少女は今まで抱えた不安の分だけ泣きじゃくった。
「ご苦労様です。銀誓館に保護……ですね」
 カイナからの連絡に犬神・リディヤ(ラビリンスドール〜白夜迷宮録・b77255)は頷いた。
 学園卒業後、リディヤは人狼騎士団へ戻り組織再構築に力を傾けていた。銀誓館や他組織との連携は元より、幼い騎士の育成も重要な仕事のひとつだ。
 鬼教官。
 鞭と飴の割合で言えば飴は超微量! ハイパーツンデレ教官(ただしデレはなし)とはリディヤのことだ!
 そんな彼女が、ローラの里帰りにあわせて連絡を取り塔でゴーストウルフをふるもっふなのは、知ると消される重要機密……。

●2014年 同窓会
 しりとり。
 言葉のしっぽをつまみあげ、頭にくっつけ数珠つなぎ。誰でも知ってる遊び、知らない人とも仲良くなれた気持ちになれる、遊び。
 今年の12月11日で文武両道なしりとり同好会は8年目を迎えた。1年ごとに団長を変えながらも末永く続いている部活、それこそしりとりのように。
 今日は現役団員の好意でかつての部室に集まり同窓会が行われていた。
「同窓会というか日常の延長で集まった感じだな」
 初代団長の弘瀬・章人(水天一碧・b09525)は、変わりなく護られている居心地の良い部室の中
「お招きいただきありがとうございます」
 高校2年になった美春は、かつての放課後に可愛がってくれたお兄さんお姉さんにぺこりと頭を下げる。
 出逢った頃の彼らに年齢は追いついたはずなのに、不思議といつまでも彼らはお兄さんでありお姉さんだ。それは心美も同じ気持ちとこっそり。
「美春ちゃんもお兄様も元気そうで良かった」
 萩森・水澄花(アクロポリスロマンチカ・b25457)は、同好会に誘ってくれた時と変わらぬ笑顔。
「みんなと会うとあっという間に心が学生時代に戻るよ」
「本当です。久しぶりにお逢いできて嬉しいです。詩条さんもお久しぶり!」
 ファリューシング・アットホーン(宙翔る双頭の鷲の子・b57658)はカラフルな箱を抱え微笑む。
「皆様と再びお会いできるなんて嬉しいです」
 大学在学中は留学で日本を離れることも多かった氷采・陸(瑠璃色ニュートラル・b28712)は、千代紙で作られた紙袋を手に、瞳を眇める。
「春からも欧州へ渡るので尚更……」
「9ヶ月も離れると、やはり懐かしいですね」
 6代目の団長だった心美は、美春の着ている高校生服にもまた懐かしさを感じる。
「美春ちゃんも食べ物しりとりに参加していただけますか?」
 寺にて子供の相手が多い地祇谷・是空(呪言書道家・b03968)は、すっかり大きくなった少女に問うてみる。
「はい。心美さんからしっぽはお伺いしていましたので」
 そんな会話が微笑ましいと、川満・紅実(空に知られぬ雪・b16707)は寿ぐ。
「本当に、またこうして集まれて嬉しいです」
 学生時代はしりとり同好会とあったと言っても過言ではない――設立者の章人は「それは光栄」と頬を緩め、
「さて――」
 と、膝を軽く打った。
 恒例のしりとり食材、まずは初代団長章人の『醤油煎餅』
「もちろん醤油はしりとり印」
「うん……香ばしさがたまらないよね」
 大好きと水澄花。緑茶が欲しくなるの声に、陸が緑茶を丁寧に淹れて皆に渡す。
「緑茶も行き渡ったことですし」
 ガサガサ。
 是空が菓子容れにあけたのは『芋けんぴ』
「『ぴ』から良くつなげましたよね」
「そこはもう……はい、ピーナッツ」
 感心する紅実にウインク、水澄花は殻付き『ピーナッツ』を『芋けんぴ』の隣にあける。
「千葉に車で遊びに行った時に買ってきたの」
「殻付きか」
 ぺきり。
 章人が割って口に放り込めば香ばしさが広がった。
「美味いな」
「剥いてるのとは全然味が違いますね」
 ファリューシングが感心したように頷けば、隣で美春と陸が芋けんぴに舌鼓。
「私は萩森さんのピーナツから繋げて『ツナサンド』を持ってきました」
 三日月クロワッサンに見目良く挟まるツナサラダ、もちろん紅実のお手製だ。
「僕は『ドーナツ』です」
 ファリューシングがあけたカラフルな箱の中、楽しげにおしくらまんじゅうのドーナツに歓声があがる。
「ここで和菓子に戻します……『粒餡最中』です」
 上品に白い紙を纏った和菓子がクロワッサンと並んだ。
「紅茶も淹れましょうか?」
 お皿に並べた陸の声に、美春が「では淹れますね」とティポットをあたためはじめる。紅茶屋さんでのアルバイトは未だ続行中。
「私は『カップケーキ』です」
 心美が並べるとカップケーキは「し」「り」「と」「り」「同」「好」「会」としっかり主張。
「文字なしもあります。どうぞ召し上がって下さいね」
 紅茶を淹れていた美春は、自分に視線が集中したのを感じ「はい」と風呂敷包みを開く。
 タルト生地にたまごとほうれん草の……。
「『キッシュ』です。章人さんの『醤油煎餅』につなげたかったのですが……」
「『しょ』と『しゅ』惜しいね」
 水澄花にこくり。
「では、次の集まりは『ゆ』からはじめましょう」
 是空の声に、それは名案と次々に賛成の返事。
 ほんの数年前のことなのに、ずっと離れてしまっていた賑わい――けれどこんなにすぐに蘇る、それが嬉しくて水澄花は涙ぐみそうになる。
「全部美味しいっ」
 湿っぽいのは厳禁と笑えば、輪になるように笑顔が返る。
「皆さん最近はどう過ごされてますか?」
 粒餡最中を口元に、紅実はぐるりみんなを見回した。
「そうですね、進路はどうされたんですか?」
 陸も興味津々と瞳を輝かせる。
 心美とファリューシングは進学、美春は音大を目指して勉強中と口にした。
「私も卒業したら小さな音楽教室を開きたいなって……」
「紅実さんなら素敵な先生になれそうですよね」
 また言葉を紡ぐ音を紡ぐ、そんなお仕事もしているとの紅実に美春は「今度曲を教えてください」と手をあわせる。
「機会があったらセッションしましょうか」
「詩条は音楽の道を歩み始めたのか」
「はい」
 頷く少女に、本当に時間の流れを感じる章人。放課後、ランドセルを背負い部室に駆け込んできたのは今は昔。
「言葉を扱うといえば私もです」
 陸は欧州を中心に翻訳者として活動する心算だと語る。知略制圧、同好会で培った言葉を武器に戦うと。
「言葉ですか、私も山寺で住職をしているので説法の機会もありますが……」
 改めて言葉が持つ力を実感するとの是空は、この場を最初にもうけてくれた章人に視線を向けた。
「みんな、同好会に集まってくれてありがとう」
 今日も、過去も……言葉を繋ぎ続け創りあげた縁に感謝していると彼は静かに礼を述べる。
「設立当初は此処まで続くと思ってなかった」
 しりとりを楽しんでくれた皆と、団長というバトンを受け継いでくれた歴代団長のおかげ。全てを繋がりゆくのだと知った。
 例え銀誓館を離れても――。
「この絆はきっと永遠のもの、だよね」
 ファリューシングに頷き初代団長は結ぶ。
「ああ。また縁と共に繋がり続け、何処かで別に縁にも繋がるだろう」
 ありがとう。
 その言葉はこの場全員の声で大合唱。
 ありがとう!

●2015年 卒業式
「卒業おめでとう、桜」
「ありがと、緋邑♪」
 色とりどりの花を愛おしむように、桜はそっと花束を抱いた。
 6年通った銀誓館、長いような短いような不思議な感覚――戦いと、友達、何より愛しい人と通った日々が卒業という区切りを迎えたとたんに懐かしくなっている。
 共に歩きながらこれからの未来地図を広げてみる。
「4月からの大学生活、全力で支えるよ」
 なんて言ったって夫婦だからと緋邑は桜の髪をぽふぽふと撫でる。
「ありがとう。いっぱいお勉強して、もっともーっと、頑張るね」
 好きな人と同じ場所に眠り、目を醒ます――。
「あ、緋邑、今日の晩御飯何が良い?」
「そうだなぁ……」
 そんなささやかな日常が本当に幸せなのだと二人とも知っている。

●2015年 日常
 アスールは祖国には戻らず日本の音大で青春を謳歌中。戦いが終れば戻るつもりだったが……今しばらくは銀誓館のある日本にて、変わりゆく世界を導く手伝いをしたいと思っている。
 放課後、銀誓館の購買にて響はバッタリと美春に出逢った。
「おや久しぶり」
 すっかり大人びた少女に時間の流れを感じる。廊下を歩きながら現在銀誓館内で研究に携わっていると話す。
「響さんは、音楽関係に進まれたと思っていたのですが……」
 戦場で喉振り絞り謳うのを見ていたから。
「音を楽しむ、演りたい時に演りたいように……ってのが、あたしにとっての音楽」
 だから仕事にはしたくなかった。
 でも音楽はまだ傍らに、ある。
 ……頷く美春は「仕事にしない」と小さく零す。その表情からは深い惑いが見えた。
 ぽん。
「人生にやってやり直せない事なんて無いんだからね」
 怖がらず踏み出せばいいと肩を叩けば「ありがとうございます」と深い辞儀が返った。

「ヤツフサ」
 今日はケルベロス。寄り添ってくるのを撫でながら、舞城・笑弥(糸紡ぎ・b59830)は、堂々と一緒に歩ける日がくるといいなぁと思う。
 現在、笑弥は服飾デザイン系の専門学校の2年生。ゴースト退治も請われれば協力している。でも、激動の2012年に比べれば、今は驚く程安穏とした日々だ。
「あーそうだ、課題!」
 ノートを開き机に向う。ヤツフサは行儀良くベッドでお座り。
 ――数時間後。
「……んー……ちょっと休憩ー!」
 ぽふんとベッドにダイブ、ヤツフサをもふもふ。
 本当に、ありきたりだけれど安らかな、日々。

 土蜘蛛から成長、戸惑いが多い毎日をそれでも楽しく過ごしてきた栗田・鈴霞(日次の木花・b85530)は、高校生になっていた。
(より世界が広く見えてきたかも)
 学校帰りのゴースト退治、休みの日はちゃっかりマヨイガ使って欧州旅行♪ 銀誓館生徒として人生謳歌中。
 マヨイガ利用の際は視肉さんへの挨拶も度々。
「せっかく戦わなくて済んだんだから、これからもずっと仲良くしていけたらいいよねー」
 余興の慈愛の舞に感じる寿ぎ、仲良くなれてるのかな?

 ――ふらり放浪癖のある野良が珍しく帰ってきた。
 凍滝・雨(ブラッディレイン・b42773)が、野良流流をデートに誘えば人恋しい時期だったのかあっさり受諾。
 二人で色々楽しんだ後で、辿りついたのは夜景の綺麗なとっておきの場所。
「デート楽しィかったァー!」
 かんらかんらと笑う流流が振り返ったら――紅。
 華やかで艶やかな薔薇の香、跪き差し出す雨はまるで物語の騎士様か。畏まり垂れた頭をあげて、一言。
「わたしと結婚して下さい」
「……!?」
 吃驚でまんまるの流流の瞳。
「え、え、どしたの、え……けっ……婚?」
「これが正しいプロポーズというのだろ?」
 型にはまり具合が却って珍しいぐらいの正当派、男女逆な気もするけれど……。
「そりゃ驚くよ……!」
「返答ははいかイエス以外認めん」
 ふふんと胸逸らし、雨は流流に花束を握らせる。
「俺なんかァで良いの……?」
 揺らぐ声は、
「そろそろ黙って捕まえられろ」
 薬指に当たる指輪と、耳元の囁きでかき消された。

●2016年 卒業式
「美春お姉ちゃん、祈翠お兄ちゃん、櫻子お姉ちゃん、卒業おめでとうございます」
 羽住・悠砂(星屑メロディ・b60673)は空色の髪を靡かせて頭をさげる。
 手にしているのはそれぞれの名前をイメージした花束。桜色、緑と白の花束を渡し終えた後、悠砂は桃色の花を美春へと渡す。
「これから、夢に向かって頑張って下さいなのです」
「悠砂さんも高校生活を楽しんで下さいね」
「はい」
 早咲きの桜の木の下で、別れを惜しむ様々な人達……悠砂の胸にも切ない気持ちが沸き上がってくる。
「美春お姉ちゃんは大学で何をお勉強するのですか?」
「音楽を、ヴァイオリンを本格的に学ぼうと思っています」
「あ、わたしも弾けるのです」
「今度一緒に弾きましょうか」
 今度――それが『お別れじゃないよ』と示していて、嬉しい。
「わたしも、将来何にしようか迷ってるのです」
 保育師さん、お花屋さん、お菓子作り、占い……沢山の選択肢からどれを選ぼうか、進路決定のきっかけを知りたいと、悠砂。
「そうですね……」
 悠砂の年の頃はまだまだ悩んでいる最中だった。その時から色々な人の助言を受けてこの道へと踏み出した。
「色々な方の助言。後は自分が『その道を選んだら』を想像しました。例えば悠砂さんだと『保育師さんで子供の相手をしている悠砂さん』『お花屋さんで……」
 美春の言葉に頷きながら、色々な『わたし』を浮かべてみれば、胸がわくわくする。
「ありがとうなのです」
 入れ代わり現れる人好きのする笑み。
「詩条さん、卒業おめでとうございます」
 瞳を潤ませる真月・マサト(中学生月のエアライダー・b47415)につられ、美春も眦に涙をにじませる。
「……将来は音楽家を目指すんですか?」
「はい、ヴァイオリン奏者が夢です」
「僕は千鳥さんと同じ大学です」
 彼がいるわけではないけれど、総合大学の仲で奇しくも学部は同じ。
 将来はまだ定まっていないけれど……神秘と科学が隣人になるであろうこれからに、きっと役立つ知識が得られるだろうから。
「お互い頑張って学生生活エンジョイしましょうね」
 笑顔で差し出された掌、握手を交すとますます笑みが深くなる。
「……え?」
 鴇色の瞳が、不破・赤音(真ゾンビハンター・b22569)の目の前できょとんと瞬いた。
「……」
 困らせてしまっただろうか、いやでも伝えないことには何もはじまらないと、赤音はローラが銀誓館を卒業し日本を離れる前に自分の心を形にした――即ち、好きです。
「塔に行くなというわけではないんだ……」
 いつも一緒にいられなくても、互いの帰るべき人になれればと、赤音は不器用に紡いだ。
「……まだ、わからない……けど……」
 でも、その眼差しが『一人でいたい』自分を否定しなかったのは憶えている。だから赤音は『心地よい人』に含まれる、それは間違いない。
「心、探して……みる」
 訥々と紡がれはじめる言葉に、赤音はじっと耳を傾ける。
「それでよかったら……塔に、遊びに来てくれると、嬉しい……な」
 明確な答えはまだ返せないけれどと言うローラに、赤音は穏やかに頷いた。

●2016年 日常
「待っていたよ、卒業おめでとう」
 銀誓館校門前にて――珍しく高校生服に花飾りをつけたローラを、成上・瑞羽(唄運ぶ藍風・b61342)が手をあげ出迎える。
「瑞羽……来て、くれたんだ、ね」
「もちろん。大きくなったな。それに、綺麗になった」
「自分では、わかんない……よ」
 照れたように笑い、瑞羽はローラと並んで歩く。
「ローラを守れた事は、私にとっての誇りの一つだ」
「あの時は……ホント、ありが、とう」
 何も知らず塔の中、お姫様は延々とフェンリルを喚びだして世界を破滅に向わせていた。更に異形に捕らえられた後の再洗脳、でも銀誓館のみんなが助けてくれた。
「ここ……ローラにとっての、大切な場所……だ、よ」
 振り返り見上げるローズピンクに、瑞羽は改めて護れた誇りを胸に握り締める。
「アリス達も呼べればよかったのだが……」
 連絡がつかなかったし、ローラも知らないようだ。それでも――。
「遠くに居ようとも、私達の運命の糸は繋がっている筈だから」
「うん……瑞羽も、あの塔に遊びに……来て、ね」
 はじめて逢った時からは想像出来ない、孤独だけが好きだった少女の言葉。
「ああ、本当の用件をすっかり失念していた」
「?」
 手渡されたのは分厚い本。開けば、ふんだんな写真と共に世界の歴史と文化が綴られている。
「……いいの?」
「なに、私の方がお姉さんなのだから遠慮するな」
 悪戯っぽく笑むと、瑞羽は続ける。
「私は皆とあって多くの事に興味を持った」
 何処か自分と似ていた閉じた少女、だから救えたのが――誇り。
「だから、ローラにもそれを味わって貰えれば」
「ありが、とう……瑞羽、大切に、読む、ね」
 クロに涎垂らさないように言い聞かせないと、そんな台詞にあの三匹を浮かべ「そうだな」と吹き出した。

 リディヤは帰国したローラの元を訪れていた。
「チェルノタ」
「わふっ!」
 シロ、クロ、チャの中で丸まっていた少し小柄なゴーストウルフは、リディヤの姿を認めると真っ直ぐに向ってくる。
「元気だった? 仲良くしてた? ふふ」
 頬をぺろぺろ舐められるリディヤは、真っ黒耳を撫で撫で。
 ローラにゴーストウルフの使役の教えを請うたのは1年前。けれど「ローラ、使役してる……わけじゃない、よ?」ときょとん。
「チェルノタ、一緒に来るか?」
 少しずつ世界は変わり、使役ゴーストを連れ歩く姿も見られるようになった。
「わう!」
 だからこの子を連れて世界を巡ろう。カードに封じることができなくたって、一緒に歩ける世界だから、大丈夫。
「ローラ、こんにちは」
「……万葉、今日も……パトロール?」
 翡翠の髪をふわり、烏頭森・万葉(億千万の棘茨荊・b60331)は長い螺旋階段を登りローラの元へ顔を出す。
 小学校を卒業してから欧州の山岳や森林でパトロール。たまに持ち込んだ土鍋であったか料理をつつき……ローラとは楽しく過ごしてる。
「今度、発電機……置くかも」
「なら炬燵が使えるね♪」
 鍋には炬燵!
 食後はローラと近隣をパトロール。
 魂の名は……なんて魔法少女チックに名乗り上げる万葉に、ローラは「日本の本で、見た、よ」と懐かしがった。

 ――マヨイガ内のある古民家。
『詩条』
 そんな表札の掛かる玄関をくぐり、御鏡・幸四郎(菓子職人修行中・b30026)は「姉さん、お邪魔するね」と靴を脱ぐ。
 ここは姉・七ノ香とその夫・詩条一秋が暮らす家。だから「ただいま」ではなくて「お邪魔します」
(とは言え、一秋義兄さんは美春ちゃんと共にいるから、単身赴任の家庭みたいなものなんですけどね)
『七ノ香姉さんはお嫁に行きました』
 世界的に言えば、幸四郎は探偵騎士へバイトを変えた。
 この家に落ち着く話をした時、美春は大層喜んでくれた。
「兄様にはできるだけ帰っていただかないと、七ノ香さんを寂しがらせてしまうのはよくありません」
 今日はそんな義妹の門出の卒業式。
「姉さん、手伝ってね」
 腕まくり割烹着を羽織り幸四郎は姉と一緒に台所へ。
 数刻後。
「お邪魔します」
「……」
 その無音は『ただいま』
「……」
 その無音は『おかえりなさい』――妻は上等な白のワンピースに、愛らしい小花のエプロンでお出迎え。
「幸四郎義兄様、お久し振りです……良い匂い」
 通された居間に設けられた手作り和の宴に、美春は瞠目した。
「美春ちゃん、卒業おめでとう」
 どうぞと七ノ香が敷く座布団に座り、今日銀誓館を卒業した妹はにっこり。
「ありがとうございます」
 家族4人のささやかなお祝い。
「いただきます」の声の後、これからのこと、今までのこと、玉子焼が美味しいです……とかとか、弾む団欒。
「……いずれはお互いの実家にご挨拶に行かないと」
「そうですね。兄様の結婚を話した時、父様と母様は大層喜んでくれましたから」
 是非に。
(もうすぐご挨拶の日ですね、兄様)
 胸ポケットのカードを撫でて、音大の校門を出た美春は聞き慣れた声に呼び止められる。
「美春お姉ちゃん」
「もしかして、御幸子さんですか?」
 高校生になりすっかりと大人びた籐村・御幸子(野ばらの花嫁・b59540)だと気づけたのは、懐かしい呼び名と声のお陰。
「暇なら、ちょっとお茶でもどうかな?」
 二人で街場へと歩きながら滑らかな口調で話す様子には、もう父や壁の後ろに隠れた引っ込み思案な名残はなかった。
「最近、会ってなかったし……だめ?」
 伺うような瞳に美春は笑顔でふるふると首を揺らす。
「是非ご一緒に。御幸子さんはどんなお店が良いですか?」
「……落ち着いてお話できるところがいいかな」
 そんな二人がくぐったのは和カフェのお店縞ねこ屋。抹茶パフェとあずきロールを前に、近況おしゃべり開始。
「美春お姉ちゃんは、最近はどうなの?」
「音大に通っています」
 ヴァイオリンケースを見せ「御幸子さんは?」と返す。
「あのね、高校でたら、一人暮らしするの。ちょっと怖いけれど、お父さんが居てくれるから、大丈夫……」
 美春に兄様がいるように、掛け替えのない人がいるから頑張れる。
 更に大学に入り経理を学ぶ予定だと続けた、実家の道場の経営面から支えたい、と。家人はその方面は皆無頓着なようだから。
「その時は、応援させてくださいね」

 銀誓館を卒業しても能力者は続行、そんな晩秋のヒトコマ。
 神薙・汀(嵐龍拳士・b42520)と葉月・リオ(全身凶器のツンギレ娘・b46737)に誘われた美春は、同級生3人でゴーストタウンでゴースト退治。
「ぐぎぎ、遂に卒業しちゃったけど……結局、あたしに色恋話なかった、ドウイウ事よ!」
 でもゴーストよりじとっと睨んでくるリオの目の方が怖い汀。
「多分、汀とつるんでたのが原因ね」
 言いきった。
「まだまだこれからですよ、リオさん」
 そんな美春もまだまだ独り身です。
「お腹空いたわ」
「雲母さんのお店に行きますか?」
 矛先が向かないようにとっとと提案。道すがら汀は、恋人の宇佐美・雲母(高校生ルナエンプレス・b82600)が料亭をやっていると美春に説明し「どうですか?」と改めて誘った。
「はい、私もお腹が空きました」
 足を止めたのは銀誓館傍の『料理処・宇佐美亭』
 小綺麗な店構えの扉をあければ、紫髪を1つに纏めた大人びた雲母が「いらっしゃいませ」と出迎える。
「誰、その可愛い子。私へのお土産かしら?」
「え?」
 滑らかに続く店主の発言に吃驚。
「何いってんの、んな訳ないじゃない」
「じゃあリオをくれるの?」
「は? まーた何ふざけた事を……」
 どかばきどかばき。
「全力で殴るわよ! 泣いて謝っても許さないぐらい!」
 怒気孕むリオの蹴りを華麗にさばく雲母を背景に、美春は小首を傾げる。
「……雲母さんは汀さんの恋人ですよね?」
 でも私がお土産でリオさんを「あげる」? そんな問いに頷きつつ汀は苦笑する。
「いつもこんな感じなんです」
「「いつもじゃないわよ!」」
 ハモった。
「息がぴったりです」
「……仲はいいんですけどねぇ」
 どかばきどかばき、その前提で見ればじゃれあいにしか見えない。
 ひとしきり暴れた後で。
「なんか食べさせて」
「あ、いつものをお願いします」
 すっかり常連の二人がメニューすら口にしないのに焦りつつ、美春も一言「お任せ」と告げた。
 ――出てきたのは彩り良い和食膳。とっても美味しくいただきました!

 四之宮・枝廼(烙焔・b42808)は、苦手な勉強を克服して志望校の薬学部に合格、キャンパスの地を踏んでいた。
 自分のやりたいことって何だろう?
 そんな思索に捕らわれはじめたのはいつからだろう、けれどそれは進路を決める必要がある時期にまで形を為さなかった。
 ならば。
 大好きな人が、枝廼と名をくれた枝塚が生きられなかった人生を、生きてみたいって思った。
 ――道が形を為した。背中を押してくれたのはやはり枝塚、そういうことでも、いい。
(もっといっぱい勉強して、沢山の人の役に立てる仕事がしたかったって言ってた)
 大切な人の想いを叶える、そんな道も悪くはない。

 卒業後、犬神・伏姫(死人機士団・b77239)はモデル業に邁進していた。
 しかし、能力者のサガか……ある時、回転動力炉についての構想が浮かぶ。その後、彼女の動きは素早かった。
 一念発起して渡米、第二世代型回転動力炉の開発チームを結成した。
 ……が。
 研究途中で、それをよろしく思わない謎の組織に研究所を爆破される。
 ……伏姫もその若き命を散らしたか。
 …………に見せかけて、彼ら研究機関は地下に潜った。後の「犬神機関」の誕生である。
 犬神・リューシャ(ヴォールクアヂノーチカ・b73419)はロシアに散らばる人狼騎士を纏め、騎士団拠点を作ることに奔走していた。
 ゴースト事件の解決に追われる多忙な日々の中、従姉妹の悲報に触れ胸を痛める。けれど立ち止まってはいられない。
(政府への接触は中々難しいか……)
 協力が取り付けられればよいのだけれど、まずは学園の力を借りての地固めが必要か。

 喧嘩して仲直りして、お互いを知る日々を積み重ねる中、姫がもじもじと要の裾を引いた。
「どうした?」
 不安気に彷徨う視線、けれど口元に浮かぶは至福の笑み……そんな姫の前髪を擽り問うた。優しい笑みに勇気を得て、姫はそっと唇を動かした。
「子供が、出来たんです……」
 間。
 彼女の言葉が体中に染み渡ったほぼ同時にぎゅっと抱きしめていた。
「やったな!! 名前どうしよう? あ、男か女どっちだろ」
 先走る想い、それが嬉しくて姫は安堵と共に破顔する。ふと正気に戻った要は改めてじっと姫を見る。
「産んで……くれるか?」
 確認してなかったと焦る。
「もちろんです。私達の心の結晶ですもの」
 答えはひとつだけ。

「先輩のご飯美味しいです……! 流石です」
「ん、美味いか? なら、よかった」
 晴臣の実家・旅館の厨房そば職人さん用休憩部屋にて、賄い丼を手に笑弥はにっこにこ。
 専門学校3年生の彼女と、管理栄養士の試験を2年後に控えた彼(就職先は実家)の二人、とっても微笑ましい。
 こうやって笑弥はよくご飯を食べに来る。
 彼女が遊びに来てくれるのは純粋に嬉しい。
 ――そんな二人の関係に、この日ちょっとした波紋が投げかけられる。
「兄様に『お前らまだ結婚してないのか』って言われたんですよ」
『結婚を意識した彼女からのプレッシャー』に見せかけて素で言っている。
「老夫婦っぽいって」
 ぷっと頬を膨らませる笑弥。
「つか、老夫婦……?」
「ええ」
 無自覚。
「ふむ……もしかして周りの連中はすでに結婚してると思ってる、のか……?」
「……兄様に言われたくはなかったですが」
 甘さの前に落ち着きが来る時点で割と老夫婦だ、縁側とか似合いそうな感じのな!
 んーと髪をかしかし掻いたかと思うと、晴臣はぽつり。
「なら……せっかくだし結婚するか?」
 とても大切な事を気負いなく言いましたよ。
「そうですね、結婚しちゃいましょうか」
 そしてこの彼女もあっさり受けたよ?!
「まだ役所空いてますし、婚姻届もらってきましょう」
 なにその気軽さ。
 実印もってきゃその場で届け出せるよなとかー、しまった実印何処だっけに迷わず箪笥指さす彼女とか……トキメキは品切れですか?!
「それじゃ、ちょっと行ってくるか」
「そうですね」
 ちょっとコンビニへっぽい気軽さで、入籍。
 だもんで、何一つ変わらない関係――でも、二人はそれでいいと笑っている。幸せ、だから。

 高校になった悠砂は、花屋さんでアルバイトをはじめた。
 細々とした仕事は沢山あるけれど……花に囲まれた時間はとても幸せ。さらにはお客さんの話を聞きながら花束を編んだ後、必ず開く大輪の笑顔が大好き。
「いらっしゃいませ」
「……やっぱり、悠砂ちゃんだ」
 立っていたのは銀誓館中学制服を着た女の子、悠砂達が心の迷宮から救い出した――高薙美月だった。
「あ、わぁ! 美月ちゃん」
 穏やかな微笑み、彼女が優しい日々を歩けているのだとわかり、嬉しい。
「じいに花束をあげたいの、悠砂ちゃん選んでくれる?」
「うん、もちろんなのですよ」
 嬉しい笑顔がまたひとつ。

「さあ、つきましたよペンテ」
 ぱぁ♪
 涼太が腕を広げ示した館は、おどろおどろしていた。家賃が安かったわけだ。
「ワケありとは聞いてましたが」
 ペンテを連れて中に踏み込めば、むわっと血の香りと共に夥しい残留思念の気配。
「廃墟というか、ほとんどゴーストタウンじゃないですか……」
 デザイン業を営む前のウォーミングアップと言ってもこの数は一人では手に追えな……でも引けない、なけなしの貯金は敷金礼金に叩いた。
「ペンテ!前哨戦です!その後学園に連絡を!」
 ずびし!
 指さす先から赤い糸、結ばれたペンテが勢いよく駆け出していく!
「死と隣り合わせの青春を今一度!」
 ――そんな賑やかな涼太がいなくなった静かな部屋で、ラクスは一人思索に耽る。
 好きな夢を見られるようになったと言う受験生の彼は、凍てついた昔の夢に堕ちる。
 兵隊。
 駒。
 歯車。
 ……命を省みず前線に向う効率的で非人間的な集団。
(さぞや駒としては扱い易かったろう)
 戦闘経験を蓄積する前に命を手放していったから、強さとしてどう捉えられていたかはわからないが。
 新しい能力者には、違う人生を歩んで欲しい。
 折角、そんな部隊は壊せたのだから。

 凛々花はひとつの区切りをつけることに、した。
 大学講義の傍ら独逸を訪れ彼を探すこと3年、逢えないという答えがようやく胸に染みこんできたから。
(そろそろ、彼の面影を追うのは止めよう)
 好き『だった』
 過去形。
「それにしても」
 キーボードを打つ手が、止った。
 デビュー作となるこの物語をハッピーエンドにするか否か。
 報われなかった自分は、架空世界で報われる自分を赦せるのか否か。

●2017年 卒業式
 真っ白な薔薇が、咲いた。
「卒業おめでとうね」
 シャムテイル・イルミナス(カシミールブルー・b64908)が手向けるは、以前もちっちゃな魔女に贈った純白の花束。
「花束にも負けないくらい美人になったわね」
 その台詞に世辞はない。
 大人びた微笑の隣、六桐・匳(青藍水月・b66454)も穏やかな眼差しで頷く。
「あのちみっこ魔女もとうとう卒業か」
 大好きな年上の友人とあの日と同じ白薔薇を前にしたら、シーナ・ドルチェ(ネミの白魔女・b67352)の涙腺が一気に崩壊してしまう。
「じゃむでいるさーん!?」
 胸の中に飛び込んで、ぎゅー。
「シーナサン、おめでとう」
 すんすんと鼻を鳴らす少女を撫で撫で、懐くように頭をこすりつける少女は隣の匳にも腕を伸ばす。
「匳ざんもお忙しいのにありがとです〜」
 匳は能力者保護やゴースト退治で世界を巡る日々、多忙の合間を縫って駆けつけてくれたのが嬉しい、とっても。
「俺らと同じ、大人の世界に一歩踏み出すってワケだ」
 そんな事を言いながらも、その泣き顔を見ていたら現実感が湧かない。まだまだあどけない魔女にしか見えない。
「うう、背は大きくなりましたけれど、中身は変わらず……?」
 上目の問い掛けに吹き出してしまう大人組。
「まぁ、なかなか会えねぇ事も多くなるだろーけど……これからも宜しく頼むぜ。シャムさんもな」
「私も大学進学するので、会い難くなりますけど、これからも宜しくですっ♪」
 腕の中のシーナと、淡々としつつも昔より感情豊かになった匳にシャムテイルは微苦笑を返す。
「まぁ確かになかなか会えないかもしれないけれども……」
 否定的な言葉、でも、三人は希望に満ちた声音で紡いでいる。
「また会えるわ。同じ世界で生きていくんだから」
「紡がれた運命の糸は永遠ですっ♪」

 茶葉専門店『LEAVES』の面々の数多くがこの年に卒業を迎える。
「……皆さん……ご卒業おめでとうございます……」
 お祝いに駆けつけたノエル・ローレンス(月夜のヴァンパイア・b47497)は、それぞれへと花束を渡す。
 それぞれのお礼の言葉、すっかり大人びた皆に、ノエルは改めて「おめでとうございます」と微笑んだ。
「ふふ、思えばいろんなことが、ありましたね」
 零れた涙を拭い、微笑む比企・古杜(蒼き月華ののばら・b58965)に、佐東・ひなた(ミズノモリ・b18388)が黒髪揺らし頷く。
「修学旅行とかご一緒して、楽しいお時間、いっぱいもらってたですね」
 ほわりとした笑み。口々にあがる想い出話……それらへの嬉しさと、鎌倉を離れる寂しさを胸に、店長の稲垣・幻(ホワイトティーリーブス・b36617)は静かに目を閉じた。
 予てから表明していた通り……『LEAVES』はマヨイガ結社として北海道へと移転することが決っている。
 でも――閉店のお知らせ作らないとと誰も切り出せずにいた。それぐらいには名残惜しいと感じている、愛着のあるお店。
「稲垣さんは、北海道、いっぱい寒そうだから、あったかくするに気をつけて!」
「はい、ありがとうございます」
 ひなたはぬいぐるみを作る人を目ざし専門学校に通う予定。実家に戻らずに勉強が続けられてよかったと胸を撫で下ろす。
「ひなたさんのぬいぐるみ……! 絶対欲しいですー!」
「なら、古杜さん、届けるです」
 寂莫を含みながらもこれからの道を語る仲間達を前に、御津乃廉・灯(白風纏う吸血児・b51863)はずっと考えていた事を解き放つ。
「俺……大学行くの、やめる」
 吃驚の視線が、ノエルの花束をぎゅっと胸に抱く灯に集中する。
「え、大学行かないの?」
 代表するように問い掛けたのは彼のパートナー玉城・曜子(妖しの小花・b76893)だ。
 こくり。
「あんなに頑張ってたのに?」
 幻の問いにも、こくり。
『夢』という未来の目標より一日一日をしっかり生きる、だから……。
「……俺は、LEAVESやりながら……戦う。それが……やりたい事」
 そこに迷いはない、そして自己犠牲の苦悩も一切、ない。
「お店を手伝ってほしい、って言ったのは僕だからね……鎌倉のお店、お願いするよ」
 ぎゅっ。
 嬉しさを篭めて親友の手を握れば、灯は今一度しっかりと頷く。
「LEAVES……いい店に、してみせる」
「灯さんなら、安心ですね」
「御津乃廉さん、LEAVESさん引き継ぐの、素敵って思う」
 古杜とひなたは、手が必要ならいつでも呼んで欲しいと口にした。鎌倉からなくなるのは寂しかったから、嬉しいし応援したい。
「もちろん、私も応援するわ」
 曜子は彼の選択を後押しするように頷くと、自分は手伝う為の勉強に集中すると続けた。
「……音楽の大学……でしたっけ?」
 ノエルの問いに「はい」と返す。
 お茶が絆を、心を繋ぐなら、音楽はきっと、その助けになるとから。
「……イギリスに帰国してからも……良い茶葉に出会えたらお知らせしますね……」
 北海道と鎌倉の『LEAVES』に。
「はい、是非」
「大きいぬいぐるみ、結社に届ける、です」
「うん……店に飾るの、いいな」
 先行きを語りながら膨らむ世界、こんな縁を結んでくれた校舎へひなたぺこりと頭をさげる。
「ありがとう、ございました」
 楽しい時間と大切な出逢いを、ありがとう。

 卒業証書の黒い筒を胸に当てれば、改めての重みを感じる。これは辿った軌跡の重みだろうか。
 フィロミア・エルンスト(新緑の担い手・b60645)は、銀誓館学園の校門まで来た所で最後に学舎へと振り返る。
(今までお世話になりました)
 一礼。
 所属を捨てる訳ではないけれど、生徒として此処に立てるのは今日が最後。
 瞼をおろせば、能力者として戦ったこと、学校生活……様々な事が去来する。それは森に居るだけでは出来ない経験。
(今日僕は故郷のドイツに帰ります――離れてもこれからもよろしくお願いします!)
 あげられたフィロミアの表情は晴れやかに澄み渡っていた。

●2017年 日常
 ――『†C・M・D・A†』事務所
「シルヴィアさん、今度いつ帰って来られるんでしょうね〜」
「シル? どこほっつき歩いているのか、私が知りたいくらいよ」
 シーナのサンドイッチを口にファッション誌を繰りながら、シャムテイルは恋人であり探偵事務所の主である多忙な彼を浮かべため息。
 たまに連絡はくるぐらい、それは匳も同じか。
「そういえば六桐クンは今頃どこにいる……」
 事務所の電話が鳴る、なんとなく予感めいたものを感じつつ、シャムテイルは受話器を取ったシーナを見守った。
『あー、もしもし俺俺、俺だけど』
「あ、電話…オレオレ詐欺っ!?」
 匳だ、間違いない。
『冗談だよ六桐だよ。ちと調べてほしい事あんだけどさぁ……え、シルヴィアさん留守なの?』
 此処まで聞こえる声にシャムテイルは肩を竦め、シーナから受話器を取った。
「用件は何? 今度連絡があったら伝えておくわ」
 匳は手短に用件を伝えた後で、まぁ、いいやと笑う。
『情報得られるまではのんびりバカンス、ってな。気長に待つさ』
 はいとシーナに受話器を渡し、弾みはじめた世間話を聞きつつ新たなファッション誌を開く。
 電話が切れた時には、サンドイッチは空になっていた。
「美味しかったわ、ご馳走様。シーナサンは樹木医志望なのね」
「はい、関東の国立大学農学部に進学して樹木医目指して勉強中です♪」
 希望に輝く笑顔に、自分にもこんな頃があったかしらとシャムテイルは苦笑い。
「シャムテイルさんは今は?」
「私? まぁ一応大学には通っているけれども、売れないモデルも続けていてね」
 できたらモデルの道で生きていければと思ってはいる、楽しそうだから。
 また電話が鳴る、今度はシャムテイルが出た。口元が嬉しげにあがったのを見て、シーナはお皿をキッチンへ持って部屋を出る。
「……意外と待てる女なのよ? ま、限界はあるけれども」
 相手はだあれ?

「やっほー、あーそびにきたよー♪」
 しゅた!
 元気よく手をあげて塔の前で焚き火するローラに挨拶。流離いのファンタジー作家八雲・椎名(蒼風の守護者・b70646)は、こうやって世界を巡りネタを集めているのだ。
 どれぐらいネタ集めに貪欲かというと、だ。ゴーストに遭遇したら、まずは話を聞いちゃうぐらいなんだぜ! あ、凶暴な奴だったり襲われてる人がいたら無条件で助けますが。
「椎名……はい」
 お腹空いてるだろうなと差し出した肉塊、クロがじーっと見上げてる……あ、涎。
「ありがひょ」
 がぶり、がつがつ。
 ホテル代節約とかいいながら立ち寄ること数回。ローラもこの楽しい友人の突然の訪れを、楽しみにしている節がある。
 実は大都会とか苦手な八雲は、このダイナミックな生活が好みだったりする。
「焼肉屋の店の手前に焼肉屋があったりするのって駄目だと思うんだ」
「……競争して、やすくなる、よ」
「難しいこと知ってるね」
 そんなたわいもないお喋りをしつつ過ごす日々は元気をくれる。
 ――とんぼ返りで帰国、
「や」
「や」
 しゅた!
「殺人事件などに合わず日本に帰ってきましたー」
「椎名さん、生還おめおめ!」
 ローラさん元気だった? なんて、行き先は読まれてる。
「モーラット綿菓子とケットシークッキーくださいなー」
「クッキーは品切れだよ」
 綿菓子を取って袋にドヤ顔うずまきカキカキして渡しつつ、千鳥はなにか良いネタない? と問い掛ける。
「……鎌倉霧街道、ジャックザチッパー?」
 つっこんだら負け。

 ――卒業式同日『LEAVES』鎌倉店では、店舗移転と卒業を祝うパーティの準備で賑わっていた。
「はい、紅樹ちゃん。なくさないように纏めておいたわ」
「あ、輪音先生、ありがとうございます」
 皆で折りためた折り紙の数々、どこにしまったかと探す菊咲・紅樹(小学生真サンダーバード・b74567)と美春の前に、三笠・輪音(夕映比翼・b10867)は箱を差し出した。
 恩のロッキーも飾り布を咥えてやってくる。壁にゆるり結わえれば、とたんに華やか!
「一秋お兄さん、高い所はお願いできますか?」
 中学になり成長したとはいえ高い所には届かないから。紅樹から折り鶴を受取り美春は兄様へ。
「重い物でもそれなりに……」
「リグさん、頼りにしてるよっ」
「リグ先輩とロッキーさんもお手伝いありがとうございます!」
 リグ・マルヴァス(眠り獅子・b84719)の抱える箱には、沢山の花束。かぐわしい香りに鼻そよがせて、恩は透明セロファンで包んだ創作茶葉を、見栄え良くなるように包んでいく。
「恩先輩の花束とお茶、すごく素敵ですね」
「本当、綺麗です」
 瞳を輝かす少女達の前に、輪音は無地のシフォンケーキを置いた。
「リグ君も、今大丈夫かしら?」
「うん……なに?」
 スピーカーをセットし穏やかな音楽を流す蒲公英髪の青年も招き寄せ。
「準備メンバーで、これにデコレーションとかしてみない?」
 しぼり袋に入れた生クリームやチョコレート、デコレートペンを並べる輪音。
「輪音先生、ケーキ可愛く仕上げて、皆を驚かせちゃいましょうね♪」
 きゅっと紅樹が絞る花に、恩は瞳を丸くした。
「紅樹さん、お菓子作りのレベルホントに高くなったよねっ!」
「はい、昔から可愛い飾り付けに感心していたのですが……」
「えへへ……誉めてもなにもでませんよ?」
 金平糖を散らしたり、生クリームをのせてみたりきゃいきゃい。そんな様子を見守る輪音先生も「大好き」と描いた後に一旦席を外す。
 締めにリグはチョコレートでお皿に『LEAVES』と記した。
 準備万端、後は皆が辿り着くのを待つだけだ!

「卒業おめでとうございます!」
「皆、おめでとう!」
「古杜さんリヒトちゃんにもお祝いあるよっ!」
 ロッキーがよろしくと咥えて差し出した花束を、猫紳士は受け取り「みゃあ」
「ふふ、リヒトにまでお祝いだなんて、嬉しいです♪ 恩さん、ありがとう」
 ケットシーわんだにゃーと華麗にお辞儀、慣れたもの。
 ぱちぱちぱち!
 拍手で幕開けのパーティ、さっそく準備メンバーが知らなかった素敵なニュースが舞い込んだ。
「鎌倉にお店残るんですね、灯先輩」
「曜子さんも一緒かなっ?」
「それじゃあ引き続きお手伝いさせてくださいね」
 紅樹、恩、美春は花束を渡しながら口々に歓びを現わした。
「みんなの成長した姿見るとちょっぴり羨ましく思っちゃうなぁ」
 急速に追いついてきた少年少女達を眩しげに見る輪音は、皆で飾ったシフォンケーキをテーブル中央に置いた。
『ほっかいどう いてん おめでとう☆』そんな文字が甘い花や飾りをつれて楽しげに踊る。
「そうですよね、移転、おめでとうございます♪」
「ファンガスさんたち、近くなるですね」
 念願叶ってと改めて古杜とひなたに言われると、幻は照れる。
「ありがとうございます。そうそう、今年のファーストフラッシュが届いていますよ」
 幻が淹れている間、席を外した輪音。今度はきぐるみもふもふ、金の髪に空色の瞳をした男の子を連れて現れる。
「結婚しました♪ 今はこの子が居ますー」
「三笠さんご結婚おめでとうございます……」
 そっとお茶請けの鯛焼きをお皿に置いたノエルは、おちびさんと目があいほわりと微笑む。
「お子さん可愛らしいですね……」
「わわ、輪音先生のお子さん、可愛らしいですね♪」
「三笠さん……ご結婚したら、ご苗字、違う?」
 あわわと焦るひなたにウインク「学校では三笠のままだけどね」と輪音先生。
「結婚? それ……どうなるんだ?」
 ちいちゃな紅葉の手にひとさし指をぎゅーさせて、高校卒業生とは思えぬ程に灯は純粋な問いを作る。
(……やっぱり、灯君はこういうこと、疎いのね……)
 曜子、彼女としては複雑です。
「皆のこれからの未来に、乾杯!」
 かんぱーい!
「どうかみんなの未来が素敵なものでありますように」
「2つのLEAVES……始まりだな!」
「2つのLEAVESが、沢山の絆を生みますように」
 そんな音頭の後、店長自らのお茶にしばし沈黙。淡い香り、滑らかな喉ごしじっくり味わう中、リグの流した音楽が柔らかに場を包む。
「お茶で乾杯、結社らしさの現れ、ですね」
 ほにほにと微笑むひなたは、これからは同学年以外にも交流を深めたいと紅樹に話しかける。
「ぬいぐるみを作る人ですか? ひなた先輩、できあがったら是非みせてくださいね!」
 自分はパティシエが夢と笑う。
 しばらくすると口々にお菓子やお茶へ美味しいと歓喜の声が溢れ出した。
「サンドイッチや焼き菓子もいっぱいありますよ!」
「おかわりはリンデンティー、安らぐ効果があるんだよ」
 紅樹とリグの声に次々と伸びる指。
「これは、美味しいですね。リンデンティーですか」
 ほうっと一息の美春に、リグは頷く。
「お子さん、ちょっとなら触っても……」
 ドキドキの古杜、ほわっと髪を撫で撫で。
「よかったわね、古杜ちゃんに撫で撫でしてもらえて」
「幻さん、北海道と言えば雪とラベンダーでしょっ?」
 青紫に雪や結晶をイメージした金平糖とアラザンを加えた紅茶――命名『藤薫雪華』
「これは……北海道店で扱わせていただいていいですか?」
「もちろんっ。鎌倉店でもねっ」
 恩が振り返ると灯は「結婚」とぽつりぽつり呟いている。
「二人は一緒に暮らすの?」
 何気ない問い掛けに、こくり。
「え?!」
 吃驚で瞳まん丸の曜子に、灯は「ようこ……一緒に、暮らすか?」と確認するようにもう一度。
 ――もしかしたら、結婚パーティも加わるのかも?!

 3月下旬、空港。
 大学を卒業したファリューシングはかねてから告げていた通り母国のドイツへ帰るため、恋人の夜咫・晶(獅子の瞳を映す銀鏡・b53016)は彼を見送る為に、ここに立っていた。
 ファリューシングは、夢を叶える為……大切なものを護るため、自分を磨きたいと願っている。
「少しの間、離れてしまうけど……」
 出逢いから随分と大人びた少女を抱きしめれば「はい」と芯の通った声が返った。
「私も自分の夢が有りますから、叶えられるようにこれから歩いていきます」
 そのためにこの地を離れられないのは歯がゆいけれど、哀しいとか負の感情が満ちているわけではない。
「晶さん、僕は君の事を、ずっと待っているよ」
 だから、これからも宜しくね――その言葉に少女ははにかむような笑みを向けた。
 なら見送る言葉は『いってらっしゃい』
「うん、行ってきます」
 飛び立つ飛行機を眺めながら、晶はぽつり。
「……いつか必ず追い付きますから」
 イグニッションカードを撫でればデルタの『任せておけ』という力強い声が届いた、気がした。

「いらっしゃい、あ、ラクシュさん」
 木の香りがするお洒落な古民家の中、出迎えるのはあたたかな雑貨達。中には円手製の小物も沢山ある。
「またきたで」
 ひらひら手を振るラクシュは、学校帰りに寄りやすいねんと手作りのメニューを開いた。
「ゆっくりしていってね」
 ちょうどティタイムのお客さんも切れた所、未都はテーブルそばに立つとにっこり。すっかり常連さん、こっそりスタンプカードサービス。
 未都が選んだのは雑貨屋カフェの開店。小物作りが好きで紅茶が好きで……更には有事の時に能力者として動きやすいとの判断もあった。
「見目に美味しいもんも食べとかんと」
 そう笑うラクシュの道は学園の食堂のお姉さん。栄養士の資格も持っている本格派だ。行く行くは調理師の免許も取る予定。
「卒業しても学園に繋がるお仕事も素敵だね」
「あはは、おおきに」
 ちょっと不純な動機もあるけどとぼかしたのは恋バナ絡みか? でも、学生達の相談所にもなれればと思ったりもしている。
 夢を現実にした少女達のそんな日常――。

 ――8月6日入籍、20の彼女と23の彼は生涯を共に歩くことを誓った。
「えへへ……」
 夕暮れの茜に薬指の指輪を翳すユエにいちるは瞳を細め寿いだ。新潟の実家で儀礼を済ましとんぼ返り、そんな疲れすら吹き飛ぶ。
「……未だ頼り無い伴侶かもしれないけど、宜しくな、ユエ――」
「頼りないなんて……」
 小学校の頃からずっと護ってくれた背中に凭れ、ユエは首を揺らす。
 秋の陽穏やかな2階テラスで寛ぐ二人を、こーっそりと入ってきて見守る二人。
(わー、ユエさん大人っぽくなったね)
(千鳥、何処まで拡散したん?)
 彩晴の問い掛けに、にんまりと笑みだけで答える千鳥。うわこれ相当だ。さすが一瞬で乗っただけある。
(すっかりゆるゆるだね)
(油断しきっとるなぁ)
「私の方こそ、貴方に頼られるような、しっかりした人になれているかな? いちる」
 つい「お兄ちゃん」と呼びかけて名前呼び。そんな一瞬の間すら愛おしいと髪を撫でる。
「あ……」
 髪を擽られしばし。
「軽く何か食べるでしょ?」
 頼んでくると立つ自分が新妻さんっぽくて嬉しい……とか思ってたら、
 ――パァン!
 彩晴と千鳥の手元で弾けるクラッカーに目を白黒!
「きゃ?!」
 悲鳴に思わず抱き寄せた。
 それがますます人が悪い二人をにまにまさせる。
「や、昼の儀礼ん時新潟で既に会うてたが入籍おめでとうさんや!!」
「おめでと、いちるん、ユエさん」
「まさか儀礼の場から霞のように消え失せてた理由はこれか彩晴っ!!?」
 いつか仕返ししてやると思いつつも嬉しいいちる。
「あぁ、彩晴のお兄さんかぁ……」
 ドキドキをおさめ、ふーっと一息ついた後、零れた台詞。
「なら、仕方ないね」
 存外冷静だった。
 やいのやいの、ずっと変わらぬやりとりに吹き出すと、ユエはそっと席を立つ。
 ――奥様としては、お客様にはお茶をお出ししないと、ね。

 身重の妻である美咲・牡丹(緋牡丹・b05183)を気遣いながら、赤城・零(黒マフラーの蟲使い・b03620)はゆっくりとした足取りで歩く。
 結ばれて4年目にして授かった子宝は、あと2週間ほどでこの世界にでてきてくれる予定。妊娠を機に牡丹は教師を休職、貯金と零のバイトで日々を過ごしてきた。
「零ちゃん、そろそろよね……本当に私に母親が務まるのかしら?」
 暖かな家庭に縁遠かった牡丹は珍しく憂い顔。
「牡丹さん、不安な顔しないで」
 隣を歩く手を握ればそれは驚く程にか細くて。
「頼りないかもしれないけど、俺がずっとあなたを隣で支えます」
「ありがとう零ちゃん……」
 ほわり。
 いつもの穏やかな微笑みが、だがまた苦痛に染まる。
「牡丹さん?!」
「う……生まれそう……?」
 産婦人科までは目と鼻の先、気がついたら無我夢中で彼女を抱き上げ駆け込んでいた。
 ……牡丹はこの日、女の子を此の世に招き寄せるのであった。

「もう1回」
「「「はい!」」」
 ブライトはある能力者訓練組織の教官として日々を過ごしていた。
 穏やかな外見からは想像しにくい厳しい訓練に肝を冷やす教え子達だが脱落者は、いない。時に教え子達の心を支えるブライトの人柄故である。
 これは神ではなく自分で選んだ道。
 弱き者、迷える者を救いたい、と。
 光の名に恥じぬよう、輝く――自らを照らしてくれる人がいる限り。
 月のように優しい光湛えていられるのは、人が光をくれるから。

●2017年 同窓会
「私は元々月にいたから、銀誓館で過ごした日はあまり長くないけど……」
 それでもこの学舎の空気は心地よいと、Ayano。今は彩乃か。
「やっぱり帰ってきた、って感じがするね」
 千枝もうんっと頷き同窓会の会場へ向う。
「おひさ」
 芸能人オーラに遠巻きな人が多い中、しれっと声をかける千鳥に千枝はお久し振りですと笑いかけた。
「千鳥君とは、はじめましてでしょうか?」
「だね。ラジオ、聞いてるからそんな感じしないけど」
 挨拶の後、弾むのは最近のTVの話。
「うちでも置いてたよ、千枝さん出てたののカード」
「え、本当ですか?」
 千枝は特撮番組出演後ブレイク、ayanoと推理ドラマにも出演したりと二人とも引っ張りだこの毎日だ。
 ちなみに同窓会の後の「殺人事件ごっこ」にも参加予定な女優さんである!
「そうだ、千鳥君」
 ラジオで連続物の朗読推理劇、その脚本の話があるのだけれどとの彩乃に、きらり紅が輝いた。

●2018年 卒業式
「あたしは研究の方で頑張っていこうって思ってる」
 賞状筒を手にんーっと伸びをして鈴霞はきっぱりと口にした。
「リグ君は?」
「音楽家かな」
 芸術系大学への合格も決っていると続けた。
「そっか。じゃあ研究頑張らないとね」
 電気文明滅茶苦茶にされたら演奏会もできなくなるから、それを防ぐ為にも真面目に研究に勤しみたい……そんな言葉にリグはぽつり。
「入学した時は一般人だったけどまさかこんな縁が繋がってくるとはねー」
 覚醒した後、初めて逢った彼女は蜘蛛童だった。
「リグ君は蜘蛛時代から一緒だったよね!」
「まさに運命は摩訶不思議?」
 そんな風に言葉を飾ると、なんだかくすぐったくて……でも悪くない。
「悪い運命じゃないからそこは神様に感謝すべきなのかな」
 二人して見上げた学舎、夢中で学び日々を過ごした場所。
「んー……これからも末永く、よろしくね」
「あ」
 のんびりとした彼のいつもの言葉に慌ててぺこりん。
「不束者ですがこれからも宜しくお願いします……!」

●2018年 日常
 年が変わって1日目、とある境内に真紅の薔薇が咲く。
 彼女らしい涼やかな蒼地に逢いたい人に似合いの薔薇を纏い、和装の蒲生・灯雪(雪雅遊踏・b55309)は、厳粛な気持ちで手をあわす。
「……ふふ、たまには神頼みも悪くないわね?」
 漆黒のトラベルドレスが一際目を惹くリーゼロッテ・カルバート(月夜に舞踊る女帝・b57646)は、口元をあげるとおみくじへと指を伸ばす。
 巫女から渡された紙の中、まず目が行ったのは「待ち人」の所。
『待ち人来たる』
 読み終えた刹那、
「リ、リゼット……!」
 聞きたかった声が境内に響き渡る。着物をはだけ、必死に駆け寄ってくるその姿にリーゼロッテは微笑んだ。
「あ、あけましておめでとう」
 言いたい事は沢山あったのに飛び出したのは新年の挨拶だった。
「あけましておめでとう」
 でも黒の貴婦人は典雅に微笑み返してくれる。
 泣き笑い、震える唇。
「今度はずっと一緒にいてくれるか?」
「もちろんよ、その為に帰ってきたのだから」
 ……大切な人の傍らに。

 家の為に弁護士の資格を取得、これでようやく自分のための勉強ができる――舜は現在工業大学に籍を置いていた。
(やっぱ機械弄りの方が性に合ってるな)
 今日も機嫌良く学校行き……の際に職務質問。
『中学生? もちろん免許持ってないよね?』
 その確定が腹立たしい。いつもこうだ。
「……28です」
 ぶすっと膨れるとますます子供っぽいよ舜、身長も止ったし老けてないからな!

「はい、みんな集まってくださーい」
「「「はーい!」」」
 新米心美先生の声に赤帽を被った幼稚園児達がだーっと集合してくる。今はお遊戯の時間。
 色々な子がいる。
 集団に馴染めない子、ちょっと乱暴な子……でも、いつだって一所懸命な心美先生と接していく内に皆少しずつ変わっていく。
(子供達の笑顔が絶えず、平和に生きていける時代が出来る限り続きます様に)
 しりとりで繋ぎ続けたように、この世界も護り子供達に繋いでいきたい――心美は心から願う。

 晶は雪深い森の奥にそびえ立つ塔の前に立っていた。傍らにはデルタ。
「待ってた……よ」
 いらっしゃい、と瞳を眇めるのは、黒2匹、白、茶色の狼を連れた一人の女性だった。
「私の夢は獣医として経験を積み、主の居ない使役ゴーストを集めて保護したいってことなんです」
 具が溶けるまで煮込まれたシチューを口に、晶は手紙で伝えた目的を今一度唇にのせる。
 大学進学前に、ゴーストウルフと暮らすローラから話が聞きたい、と。
「気をつけてる……コトは……」
 なるべく自由に過ごさせる。動物は怪我や病気を隠しがちだから、気をつけて見る。不安もそこ。
「色んな仔……いると思う、から」
 頑張って、とローラは添える。
 三色と転がりじゃれるデルタを見て「また、遊びに……きて」とぽつり。晶も笑顔で頷いた。

 故郷ドイツ南西部の州立大学、それがフィロミアが歩む進路だった。
 目標は樹木医。だから故郷の森でのフィールドワークは欠かせない。木々に触れ想いを手繰り、座学で得た知識を確認する。そんな日々。
 けれど今日はちょっと違った理由で森に訪れていた。
「おいで、オフィーリア」
「にぃ」
「何時もカードの中に押し込めてて悪いね」
 ここなら大丈夫だろうからと召喚した護りの猫、オフィーリア。色々な事を悟ったか、いつもは嫋やかな護りの猫が髭をピクリピクリ、落ち着かない。
(今日一緒に居て欲しかった、僕の方かもね)
 少しだけ前に出るオフィーリアと歩き、辿り着いたのは――楡の木。
「……ただいま、姉さん」
 フィロミアは双子の姉の木にそっと指をふれて瞼をおろす。
「来るの、また久しぶりになっちゃったね」
 フィロミアの部族では、墓石の代わりに木を植える。この木は姉の死の日に植えたもの。
 森を出るきっかけとなった姉の死。
 ……消してしまいたかった姉の、死。
「にゃあ」
 主を気遣うように見上げてくる瞳に、フィロミアは強く微笑んでみせた。
「……にぃ」
 ぱちんと瞬きした後、オフィーリアは真っ直ぐに姉の木を見据えた。彼女なりの想いがあるのだろう、きっと。
「今は、姉さんが居てくれた事、結構幸せだよ」
 心に刺さった棘は抜けないかもしれない、けれど、その痛みは癒されていく。なにより、土壌となりし想い出は――哀しいことばかりではなかった。
 大きな幸いが、喪失と共に哀しみを刻み……再び、優しいものへと回帰する。

 同じ大学で学部も同じ、当然マサトと千鳥は顔を合わせることもちらりほらり。
「ゲームで徹夜して代返とか、ダメですからね」
「わかってる」
 ……♪ 不意にマサトの携帯が鳴った。
「ボクは知っている。その着メロは弓弦さんだ」
「ッ?!」
 メールを見るマサトににんまりと逆襲開始。
「ほ、ほら、そんな事より勉強ですよ勉強!」
「昨日、双良にスパルタされたから大丈夫」
 それで大あくびとか意味ないのでは? 船をこぎ始めた千鳥に苦笑を浮かべ、マサトはメールの返信を打ち始める――もうすぐ夏休みだ、なにして過ごそうか。
 夏は海!
 ピーチパラソルの元でお弁当に広げる周は、波打ち際で我が子二人を連れてはしゃぐ夫、洸太に優しい眼差しを注ぐ。
 右には洸太に似た男の子、左には周に似た女の子……双子の弟妹を持つ両親から生まれたのは、双子。
 てこてこ。
 大人と子供の足跡刻み、戻った洸太はお弁当美味しそうと晴れやかに笑う。
「俺も周もそいで子も双子ってちょっと凄いンちゃうん……な?」
「確かに双子が生まれるとはなぁ……」
 共に育った掛け替えのない存在を子供達にもあげられたのが嬉しくて、二人は幸せを面に刻む。
 その間にも、子供達はちょこちょこと砂浜を指でつついたり、落ちた貝殻に興味を向けたり。目を離す暇もない。
「ああ、そんなに駆けたら危ないぞ……」
 てこてこてこてこっ。
 走り去ろうとする男の子を、
「あ! そない遠く行ったらあきません」
 抱き上げた隙に女の子が波の音に顔をあげ立ち上がる。
「……ってお前もや! 海怖いよ言うたやろ! もー」
 大騒ぎ。
「お」
 女の子の紅葉の指の中、桜貝の欠片。
「そら綺麗やな、お父はんにくれんの?」
 ふるふる。
「宝モンかぁ、ほなお母さんにも見せといで」
 こくん。
「ん?」
 二人で開いたてのひら、貝殻ふたつ。子供達と接していると、じんわりとした幸せで胸が満ちる。

『Raw Ore』祝賀会☆
 貸し切りの『jupiter』店内にて、4人のメンバーが笑いあう声に胸躍らせながら、きらきらリースを編み編み。
 宿木・星屋(螢惑・b85073)は、瀬崎間・亮(真こいくまんごー・b21102)の奥様シャズナと編み編み。
「綺麗にできたかな?」
 こくこく。
 シャズナは星屋からきらきらを受取ると精一杯高い所にぺたぺた。
「ありがと」
「星屋と奥さんマジ天使」
 そんな二人に祝詞・勢(出オチ・b15345)がうんうんと大きく頷いた。
「シャズナ」
 亮の呼びかけに小首を傾げ、シャズナはパーティのきっかけとなった自主制作アルバムに星屋と作った冠をのせる。
 ――今日の王様、みんなが聞いてくれた『Raw Ore』の音楽。
 そんな声が聞こえるようで、ジングル・ヤドリギ(吟星クリスマスロイド・b06651)は眼鏡越しの瞳を眇めて「ありがとうございます」とにっこり。
「誰かのココロを震わす楽曲を、このメンバーでずっと創り続けていたいな……♪」
 そんな願いを込めた祝賀会。
「つまみは任せろ!」
 矢車・千破屋(燦然・b53422)は通りすがりに似た蒲公英髪をふわりと撫でて、一旦キッチンへ。賑やかなおツマミを手に再度現れる。
「ヤグは酒飲める歳になったんだなァ」
 注がれるお酒に勢はすっかり大人の千破屋に頷く。4つも下だったから感慨深い。
 グラスを手にとり「乾杯!」
 ふわりとお酒の香りが舞う中、バンド結成のきっかけはジングルの声かけだったという話題になる。
「まさかここまでくるとはなー」
「ああ」
 亮と勢はしみじみ。
「せっかくだし『あの頃』のアルバムも聴いてみない?」
 ジングルの隣で千破屋が得意気に掲げたのは、結成時から若い方のCD数枚。
『jupiter』店内に10年前からの歌声が流れはじめる。一番はじめに照れたのは千破屋だった。
「こ……こんな声の出し方してたっけ」
「ふふっ……チハヤったら照れちゃって」
「なんかくすぐったいな」
 ライブの感動、観客席からもらったもの。それを胸に奏でてきたのだと亮も頬を染める。
「あれ」
 奥様、待っててと、一緒に星を見ていた星屋は、とててっと千破屋とジングルのそばに駆け寄る。
「うわ、せーやまでこっちくんな」
「奥様もどうぞ」
 こくり。
 ジングルが招けばシャズナはやはり亮の隣、おしどり夫婦。
「じんぐるがこの声を選んでくれたから、いー兄達と居れたあの頃も……今も、あった」
 そう思えば自分の歌声が愛しくなってくる。
「今更だけど、ありがとな。おかげでこんな楽しい時間過ごせてる」
 声をかけてくれたジングルに、勢を皮切りに降り注ぐありがとう。
「不良時代にドラムで遊んでてマジよかった」
 不良。
 そのキーワードに皆顔をあげる。
「セマの不良時代の話とか興味あんだけど!?」
「うんうん、せざ兄の過去俺も超きになる!」
「せざ兄の過去話、オレも気になる……!」
 なにこの食いつき?!
 目を逸らすと星屋の瞳と目があった。
「僕は好きだよ、今も昔も父様達のお歌」
 きっと彼らの曲を「大好き」って思う人は、いっぱい。

 音大に進んだ美春が舞台に立つという。
 紅実の呼びかけで、集まったのは鈴霞と是空。章人は「よろしく」と伝言を託した。
 奏でるのは唯一曲。
 試される第一歩の音楽会に、大好きな人達が応援に来てくれたのが、心強い。
 純白のドレスに桜飾りの美春は、愛おしむように愛器に瞳を向ける。
 ――奏。
(素敵ね)
(これは……美春ちゃんの文学の才能が音楽を豊かにしている予感です)
 音が消えた刹那、皆、惜しみない拍手を送る。
 全ての発表が終った後の楽屋に訪れた3人に、美春は「ありがとうございました」とぺこり。
「皆さんが最初に逢いに来て下さったから、素直に演奏できました」
 食べものが喉を通らない人が多い中、紅実のくれた和三盆を食べ過ぎたぐらいですと微笑む。
「とても素敵だったよ」
 水澄花の花束に感涙、是空の花菓子に精巧さにも瞳をぱちくり。暖かみある応援メッセージに心が和む。
「音楽の世界に進まれて大正解だと思います」
「そう言っていただけると嬉しいです」
 中学時代の悩みを解く紅実の言葉に美春ははにかんだ。
「これからも応援にくるね」
「はい、是非」
「美春ちゃんと音楽限定しりとりをしたら勝てそうにありません」
「……プレッシャーですね」
 むむと小首を傾げる仕草が昔のままでみんな笑顔。

●2018年 同窓会
「美春ちゃん、久しぶりだねっ」
「美咲さん、お久し振りです」
 白のドレスを身につけ桜の髪飾りでアップにあげた美春に、美咲はうんうんと頷いた。
「すっかり綺麗になって……」
「美咲さんもとても幸せそうでなによりです」
 幼い我が子達を連れたスルガも美春と挨拶を交わす。
「これからも変わらぬ友情を……どうか美咲の良き友で居続けてやって欲しい。宜しく頼む」
「はい、美咲さんには在学中から本当に姉様のように可愛がっていただいたので、これからも是非」
 お子さんはとても幸せですねとの美春に、美咲は次女を抱き上げ見せる。
「ふふ、この子は美春ちゃんから名前貰ったんだよ」
「まぁ、光栄です」
「あのね、それで……」
 お腹に宿る三人目、是非美春に名付け親になって欲しいと言われ美春は瞳を見開いた。
「た、大役ですね……」
 ドキドキしつつ考える美春、向き合う妻から我が子美春を引き取りスルガは会場外へ。
 二人の子を遊ばせながら、結界崩壊後の娘達の生き方も示してやらないとなぁと思うスルガであった。

「みんなお久しぶり! 元気にしてた?」
「さぁも元気そーでなにより」
 沙紀は大学卒業後のはじめての同窓会に出席。だが同じ年の千鳥が「実はまだ大学生で」と目を逸らす。からかいを口にする前に、挨拶がまだだったとちょっと居住まい正し。
「ただいま」
「ん、おかえり」
 いつだっておかえり。予報士時代から変わらないコト。
 話題は推理小説のことに移りゆく。あの本読み始めたとか、お薦めはこれだとか……。
「千鳥は卒業したらどうするの?」
 本格的にアーチェリーに向き合い、また訓練施設の活動も本腰を入れていると添えた上で問うてみる。
「ちょこちょこーっと推理ドラマの脚本書かせてもらったりはしてるんだけどね」
 継続してではなくあくまで外注で。今後もフリーランスで文章に携わる仕事はしていきたいと締めた。

●2019年 日常
 夕暮れに溶け込む4人。
 お父さんとお母さん。お父さんと手をつなぐ女の子とお父さんの背で眠る男の子……何処にでもいるような、でも此処にしかいない『家族』
「ままー、今日のご飯なにー?」
 買い物バックからはみ出す葱をつつき美弦。
「ん、ハンバーグ。お手伝いもするのよ?」
「うん!」
 央璃には元気よくお返事。
「ハハハ、美弦はえらいなぁ。さすがお姉ちゃんだね」
「だってもう小学生だもん」
 舌足らずで胸を張る様が愛らしくて、けれどこの子もいつかお嫁に行ってしまうのかと思うと、朔パパはせつなさで胸一杯だ。
「今度お義父さんとゆっくり語り合おうかな……」
「気が早いわよ? パパ」
 くすくすと笑う央璃は、眠そうに目を擦る満彦の頬をちょんとつつく。横顔が特に愛する旦那さんに似ている、きっと将来いい男になるだろう……なんて。
「ぱぱのおよめさんになるー」
「美弦!」
 嬉しいけどパパのお嫁さんはママだけ。

 光あれば影がある。
 神秘の世界。夢が溢れてると思っていた万葉には、能力を悪用する者や決して0ではない一般人との軋轢が胸に痛い。
(武力制圧、私一人でも動くべきだったのかな)
 支持した道を取らなかった銀誓館。だからこそ理想の世界にならなかったのが悔しいし、未練を感じる。
「でも、もう決めたことだもんね」
 過去に囚われるよりは前を向こう。そして今日も友人のローラに会いに行き一緒にパトロールだ。

 東ヨーロッパにて鉄狼騎兵隊を率いるリューシャに、伏姫生存の報が届いたのは1年後。
(あちらもあちらで派手にやっているようね)
 先日逢った妹リディヤは、連れ歩いているゴーストウルフを自慢げにもっふもふ。
「あら、相変わらず動物ばかりなの?」
「……男よりチェルノタの方がいい」
「子供ねぇ」
 恋に戦いに、リューシャの現在は充実している。
 そんな彼女は今日も仲間を引き連れバイクを駆り、ゴースト事件の解決に向う。

●2019年 同窓会
「久しぶり、といってもこないだ収録で会ったな」
「ははは……先日ぶり」
 一方はビジュアルバンドボーカル、一方は歌のお兄さん……方向性は違うが業界は同じだからか、ディーン・ランバート(紅炎銀月・b46794)と矢代・朱里(朱の明星・b34612)は普段から顔をあわせることが度々。
 だがこうした場にてあわせる顔はまた違う。気楽に話せるとでも言えばいいのだろうか?
「代わりないか?」
「おかげさまで数年内ですっごい変わったよ……」
 神楽の舞手からモデルへ、ダンスで芸能界に本格参戦。歌を鍛えてくれたのは目の前のディーン。
 未来を担うのは子供。
 そんな思いで子供向け番組に携わる朱里にディーンはふと提案する。
「矢代、私が作る曲を歌ってみないか?」
 今まで繋がり続けているのは間違いなく、縁。それを生かしてみたい。
「コンセプトは、世界へ届ける歌」
「面白そうだな……俺で良ければ」
 コンセプトに共感した朱里は大きく頷いた。

 久々の日本の土を踏んだローラの隣には赤音がいる。
「皆とは……久しぶり。赤音とは……」
「4ヶ月ぶりだな」
 ローラの心はまだ見つかっていない。もしかしたらずっと「このままの関係」なのかもしれない。
 けれどクロ、シロ、チャの警戒心が逢いに行く度に深まっていくのは、確か。
(三匹にのし掛かられてバトルは結構骨が折れるけどな)
「赤音……?」
 あの料理なに? と無邪気に問う笑みを見ればそんな苦労も吹き飛ぶというもの。

●2020年 日常
『それでは今日も「Ayanoと千枝のPromenade」』
『お楽しみください!』
 世界結界の崩壊が進み、随分と能力者の認知が進んだので、二人は『能力者芸能人』であることを公表していた。
 ……それでも意外な程に周囲の反応は変わらなかった。
 ……これが世界結界の崩壊した世界、ということなのだろう、きっと。
『今日は……あ、今日『も』素敵なゲストを迎えてお送りします』
『推理小説作家・星崎千鳥さんでーす』
 ぱちぱちと出迎えられてうーっと緊張気味で唇を動かした。
『……よ、よろしくお願い。あ、ダメだ、緊張する』
『大丈夫ですよ。取って喰ったりしませんから。ねぇ、みなさん?』
『この間のドラマではお世話になりました』
 軽妙な彩乃のトーク、千枝のフォローに支えられて番組は盛り上がる――。

 深夜――。
「法を掻い潜ろうと闇には闇の報いがあるんですよねぇ」
 闇色の髪を靡かせて、蛍燐は指から零れる黒燐蟲をしとり……と零す。
「……らしいよ」
 がりん。
 隣で咥えた飴を噛み砕く伍実。
 こんな風に二人、道に外れた能力者達を狩る。それが、日常。
「う、うるせぇ! てめぇら畳んじまえ」
 そのてめえらは既に二人の手により葬り去られているわけで。
 最後の仕上げと蛍燐が睨めば吼えた男が漆黒の呪いに灼かれ仰け反った。踊るピンクの髪が愛しの呪剣を翳せば、応えるように命を喰らう喰らう、喰らいつくす。
「ありがと、むーくん」
 呪剣のむーくんを撫でる伍実。蛍燐は手伝いの礼をいつものように唇にのせた。
「お腹空いちゃった」
 手伝えばご飯がもらえるから一緒に暮らしている。ご飯、大事。
「じゃ、甘い物でも食べに行きます?」
「ん、パフェがいい。チョコレート一杯かかったの」
 この時間だとファミレスだろうか? それとも家で特製パフェを作るのもありか? しばし考える蛍燐は、ふと足を止めた。
「……あぁ、そういえば同窓会の招待状が届いているようですよ」
 出てくる時にポストに入っていた葉書を見せるが、伍実は興味を示さない。
 でも。
「料理もお菓子もあるでしょうし……」
 そう続ければ。
「行く」
 即反応。
 ぐー。
 追随するように鳴るお腹。本人は葉書を摘みじっと凝視。
「どれくらいご飯出るんだろうな」
「銀誓館の同窓会ですし、豪華かもしれませんね」
「甘いのたくさんあるといいな」
 ぐー。
「まずは今の腹ごしらえですね」
 吹き出す蛍燐に頷く伍実。二人は煌々と輝くファミレスの中へと消えた。

「恋人なんていつ出来てたんだ?」
「内緒」
 唇にひとさし指立てあて千鳥。
「結婚式には呼んでくれるよな?」
 結婚式場の前で偶然逢った千鳥に舜は「久しぶり」の前にぽろり。
「しないよ」
「え、結婚式しないんですか?」
 亜衣はきょとんと瞳を瞬かせる。
「お嫁さん、綺麗だと思いますよ」
 ちらり、純白ドレスを着たマネキンに千鳥の相手を想像して着せてみた……ら、いつしか自分の姿になったり。
 うっとり。
「……良いなぁ」
 ぽやや〜んっとしてる子分を舜は見守るように見つめる。
(キラキラした目をしてるな)
 結婚できるんだろうか、子分。ちゃんと見ててやらないとなーなんて、舜は親分心で腕組みうんうん。
(亜衣さんのお嫁さん、綺麗だと思うよ?)
(?! ……ッて?!)
 ……はてさて、千鳥のツッコミはあっているのか外したか?
「末永くお幸せに、だよ」
「舜と亜衣さんも、ね」

 二人と別れ夕食の材料を買い込み駄菓子屋に帰り着く。
「ちぃちゃん、友達きてはるよ」
「ホント?」
 だから店番はええよと言う祖母に微笑み返し、千鳥は2階へとあがる。
「よっ、千鳥。小説は進んでるか?」
「こんにちは、お邪魔してます」
 ハイハイできるようになったかどうかの女の子が二人。父の緋邑と母の桜に千鳥は「いらっしゃい」と笑いかける。
「双子なんだ、大変だよねー……」
 その口ぶりは自分の子も双子だと言いたげだ。
「可愛さも2倍、いや桜あわせて5倍」
「計算あってない」
 こつん。
 千鳥のツッコミにあわせて桜は緋邑を小突く。
「いたっ」
「……ちょっとでも惚気たら……今日の晩御飯抜きね」
 相変わらずだねと笑う千鳥は、双子の名前を問うた。
「こっちが椿でこっちが楓って言うんだ」
「良い名前だね。おかーさんが桜さんだもんね」
 しばし子供談義に花が咲く。やがて眠りはじめた双子を前に「推理小説見せて」のリクエスト。
「落選したので良かったらネットにあげてるよ」
 携帯端末に広がるクリアな文字に緋邑と桜は頭をこっつん、読み耽る。

 また別の日の『だがしのほしざき』にて。
「よお、邪魔するぞ?」
「駄菓子買ってけ、サボり魔猫探偵」
「客に対する愛想はないのか?」
「売り切れた」
 そんな軽口を叩き合うのは、文月・裕也(太陽と月の着ぐるみ探偵・b33412)と店番千鳥。
「お菓子で心と体を癒して英気を養うのも仕事の一つだ」
 もぎゅもぎゅ。
 駄菓子は相変わらずチープで甘くて、変わらない事がとても幸せだ。
「で、今度はどんな事件だったのさ?」
 代金分の小銭を受け取りながら輝く紅ににんまり。
「内緒だぞ?」
 とか言いつつ、漏れても構わない範囲の話しを唇にのせる。実はアレンジされて小説を見るのが裕也の密かな楽しみ。

 某探偵小説家の怨念宿るゴーストタウンにて――。
「千鳥センパイ」
「あ、小春君……よっと!」
 経典ひらり、石化したゴースト尻目にお宝書物に夢中な紅。
「ジョブは呪言士と……」
「探偵騎士、だよ」
「やっぱり!」
 やはりゴースト絡みの未来を見るのが性にあってると彼は微笑んだ。
 旅は道連れ、そのままゴーストを倒しながら進む2人。
「子供さん生まれたんだっけ?」
「はい、女の子です。家族の為に頑張れるなーって感じ……危ないっ」
 油断禁物! 千鳥の後ろの影を小春は素早く祓う。
 別のゴーストタウンでは、星屋を前に千破屋と勢がバックアップでゴースト退治中。
「これ……で、よし」
「せーや、ツメが甘い」
 千破屋の破魔矢と勢の帽子が蠢く地縛霊にほぼ同時に突き刺さる。
「まだまだ衰えてねェぜ!」
 帽子を被り直す勢の傍にいつもいた彼は『ノリト』は、いない。
「まだまだ敵わないや」
 ふうっと一息の星屋に、千破屋が指を立ててちちっ。
「俺が『父様』に会ったのも、今のせーや同じ年。色々あったね、いー兄」
「だなぁ、ヤグ」
「……お前もあの時の俺ら位、危険な目にもあうかもよ?」
 壊れゆく世界結界、もしかしたら更なる危険を招き寄せてしまったのかもしれない、この子達に。
 不安げなお父さん返す前にゴーストの気配! 流れるように攻撃開始! 赤手を踊らせ叩き込みながら、星屋は目一杯の声を振り絞る。
「確かに忙しないけど……文字通り明日がしれない戦いは、二度としなくて済むんだ。お父さん達のお陰で」
 心配を凌駕するような力強い我が子の言葉に、泣き虫お父さんは目尻に涙を溜めて、でも顔あげ笑う。
「お前だってあんな小さかったのに一緒に戦ったろ」
 その上、担おうとする我が子は誇り――未来を渡せて良かった。
(なぁ……)
 そんな星屋の後ろ守りながら、勢はふっと寂莫に身を委ねる。
(ノリト、お前星屋大好きだっただろうが……)
 昔々、フォローしてくれていた相棒――いなくなってしまった、ノリト。
(こんな立派に成長した星屋見ずに消えてどうすんだ)
 本当に、どうすんだよ。
「もらった『未来』大切にしよって思ってるんだ」
 この世界のヒーローにもらった未来。ヒーローの名として零れる中に「のりと」が入っているのが嬉しい。この子ならば当たり前だろうけれど。
 ノリト。
 ノリト。
(どうせ昔みたいに驚きの姿になって帰って来たりすんだろ)
 この子やみんなと、待ってるからな……。

 子供と一緒に楽しもう!
 朱里は全国の蒼空舞台をまわり、変わらず歌のお兄さんとして活躍をしていた。
 もふもふモーラット、ケルベビ、ケットシー、蜘蛛童さん……彼らとふれあう子供達。世界結界が消失しつつある世界ならではだからか。
 みんななかよし隊。
 使役ゴーストの鳴き声もきゅにゃーがう。
 曲集録の時にはローラがゴーストウルフを連れてきてくれたから「わふわふ」も☆
「今日はなんとゲストとして、お歌をつくってくれたディーンお兄さんが来てくれてまーす!」
「初めましてディーンだ。今日は一緒によろしくな」
 ピアノの前に座りディーンはウインク。
「「「よろしくおねがいしまーす!」」」
 子供達の歓声に心地よく耳を傾ける。
(使役ゴーストが皆の友人となって言ったのはこいつの尽力も随分あったんだろうな)
「さあ、ショータイムの始まりだ!」
 世界に届け!
 ……宇宙にも、届け!
 ふと、朱里は大空を見上げた、両手にはでっかいもふもふ「はぜりん」のぬいぐるみ。宇宙にいったある人へ掲げるように笑顔で歌う。
(見せてやれないのが残念)

 二人だけの結婚式――。
 新郎アストラム・ヒッペアス(銀色の疾風・b52617)、新婦アルステーデ・クロイツァー(葬闇のシュヴァルツェナハト・b35311)。
 夫婦としては長く過ごしたが、式はアストラムの大学院卒業を待っての挙式となった。
(俺は別にどうでもいいが、女はこういうの大事みてぇだしな!)
 純白ドレスを纏うアルステーデは、相変わらずの口調で切り出されたのを想い出し口元をあげる。
(……少しは成長した、と云うことかしら)
 とはいえ。
「あの時の誓いは今も変わらねぇが、もう一度口にする気はないぜ」
 式本番でそんなことを口にするのはやっぱり子供で意地っ張り。アストラムは変わってない。
「って、貴男、それでは式にならないでしょう?」
 形式もなにもあったものではないと異を唱える唇が、不意にふさがれる。
 態度で示せばいいとか、本当に彼らしい。
 彼女は苦笑から本当の微笑みに変えて「ありがとう」と零した。

「ちょっと、買いすぎたかしら?」
 買い物鞄からはみ出す荷物に牡丹は苦笑。
「雪、今日はハンバーグだー」
 荷物をさげながら娘の雪を肩車、零は弾む声で娘を揺らす。
「ほんと? チロちゃん、うれしーね!」
 ふわ、ふわり。
 零れ落ちる燐光は白燐蟲。雪は屈託ない声で「チロちゃん」とおしゃべり。牡丹の「シロちゃん」を真似て呼んでいるのだ。
「ゆ、雪っ! パパの顔にチロちゃん乗せるなっ!」
 零れ落ちる燐光に怖い顔、でも雪からは見えない。
「雪ちゃん、チロちゃんはお家以外で出しちゃダメよ」
 メッ。
 優しく諭すように叱る母に、雪ははーいとちょっとしょんぼり。「チロちゃんまたあとでね」と体内に戻す。
 ……私は自分が望んだ母になれているだろうか?
 ふとした時、牡丹は思う。そんな時、零は我が子とはしゃぐように振舞う。
「牡丹さんもお肉好きだから、今日は気合入れてつくらなきゃな!」
 ……大丈夫、あなたは俺と素敵な『家』を築けているよ、と。

「たぁ!」
「やぁ!」
「……ぐえっ」
 うたた寝の要の腰と太ももに衝撃、目をあければ銀と蒼、二人分の髪がふわりふわり。悪戯坊主達が「あそんで♪」と瞳キラキラ。
「おう、じゃ、お母さんの所へ行こうか」
 がしっがしっとそれぞれを小脇に抱えれば、はしゃぐ声に包まれる。
「「やっぱり寝てたー」」
 洗濯物を干し終わった所に現れた夫と息子達に、姫は「あらあら」と相好を崩した。
 ……やがて二人で遊びだした子らを前に、要がぽつり。
「姫に似た女の子じゃなくて良かったな」
 嫁に出したくなくなる。
 頑固親父を思わせる台詞に吹きだし、姫はわざと意地悪く。
「娘も居たら、もっと楽しくなりますね?」
「え……まさか?!」
 要の視線は姫の下腹部に注がれる。悪戯姫は息子とそっくりな笑い声。つられて王様も太陽のようにあたたかく、笑った。

「騎士団の仕事に同行しない?」
 リディヤからの提案に、三匹と戯れていたローラは瞳をきょとん。
 ――もっともっと大切なものを見つけて護りにいこう。
 チェルノタを撫でながらリディヤは真っ直ぐに問うた。
「ん……」
 ローラは見上げてくる三匹を纏めて抱きしめると、小さく舌を出して苦笑。
「ローラの大事……ここに、ある。もう両手、一杯」
 ここに訪れてくれる人もいて、それで充分幸せだ、と。
 でも、ね。
「ずっと……じゃなくて、年に2ヶ月だけ、とか……それで、い?」
 大好きなリディヤと一緒に世界を巡るのは、とてもとても興味がある。その答えにリディヤは柔らかく微笑んだ。

 沙紀はアーチェリーのプロ選手として新たな能力者のサポート役、2つの顔で世界を巡り活動していた。
「ずっとやってきたけど、ここまで来れるとは思わなかったわ」
 アーチェリーのプロ選手という狭き門をくぐれるとは想いもしなかった。
 能力者としても長年付き添った相棒と、表舞台でも一緒にいれるのはこの上無い幸せ。訓練施設でも弓を見かけ声をかけてくれる人もいた。
「能力者としての武器もこれなのよ」
「わぁ……ずっと一緒だなんて憧れます」
 白いラッパを手にした少女は拳を握り羨望の眼差し。それがくすぐったくも嬉しかった。

 菓子職人という本業の傍ら幸四郎は探偵騎士に協力する。過去を知る「断末魔の瞳」は、明晰に推理を組み立てる彼らに重宝がられていた。
 ……協力の交換条件として、姿を消した友人の情報が得られれば最優先で回して欲しい、そう提示。
 未だ実りはない。郷里の同胞に処刑されたとも聞くが――生存を、間に結ばれた絆を……信じている。

「マサトでねェの?!」
「鳴子さん、お久し振りです!」
 銀誓館学園でばったり。
 昔、雪合戦の中で姉と間違えた椿に声を掛けられた。
「プロポーズしたって聞いたべ。クリスマスたぁロマンチックだべなぁ」
 相変わらず開けっぴろげな破顔、からかう声には赤面で応えるしかない。
「あ、ありがとうございます……でも、彼女一人娘で……」
「あー、もしかして婿入りって話だべか?」
 うんうんと腕組み頷く彼女にはついつい素直に決ってないと返事。
「って、鳴子さんはどうなんですか?」
「! わ、私は……」
 鞄で顔を隠し赤面照れ顔、こちらも幸せそうだ。

『拝啓椿様 旦那さん共々、変わりなくやってるかい?』
「まぁだ、旦那とかじゃねぇべっちゃ!」
 手紙に返事をしても伝わるわけではないのだが、椿は言わずにいれなかった。
 地元商店街で響が開いたジャンク屋、だが店主と会えたのは開店時だけ。楽器を片手に気ままなひとり旅らしい。
 挟まれていた写真には、酪農家のおじさんとおばさんに挟まれた響の笑顔。旅先で手伝い代わりに止めてもらったとある。
「ホント、響ちゃんらしいべ」
 友の便りはなにより嬉しい。
 ああそう言えばと、椿はもう1枚の手紙を手に取った。
『皆で作ったポットツリーが大きくなったら、同窓会をしよう』
 ――それは10年前の同窓会の約束。ポットツリーを抱えて写るは懐かしい面々。
 当日、トナカイギャング達をもふった場所には、大きなツリーが飾られていた。
 招待状を出した静谷・千尋(ゼラニウムの夢・b63652)は、トナカイの角のヘアバンドをつけて人待ち顔。相棒真琴は他人顔。
 一番はじめに辿り着いたのは、宮代・さつき(空色の風詠い・b52693)。
「こっちこっち!」
 手をぶんぶんと大きく振る千尋に気付き、さつきはくすりと口元を綻ばせ息を弾ませ駆け寄った。それぞれの手には、大切そうに抱えたツリーポット。
「イエー!!」
「えいっ!」
 てんっとハイタッチ。
 28歳の画家さんなさつきは、髪が伸びたけれど面差しはあの日のままで。
 27歳の保育士さんな千尋は、人好きのする笑顔がやっぱりあの日のまま。
「皆すっかり変わってるかな、って思ってたけど」
 白い息を吐きながら辿り着いた枝廼は、ふふっと嬉しげに瞳を細めた。変わらないし、懐かしい。
「四之宮また背ぇ伸びたんじゃね?」
 大人びて見えた中学生の彼は23歳、今は薬学部の院生だ。
「大学院生かぁ、10年って改めて長いね」
「枝塚さんも元気かー」
「ずっと家事を任せてたからすっかり主夫らしくなった、ような」
 元気そうだ。
「久しぶりだな」
「硝子先輩とはそごで一緒になっだ」
 烏丸・硝子(死喰い鴉・b73293)と一緒に椿も姿を現わした。
「お久しぶり」
 二人に手を振りさつきは硝子に今どうしているのかと問い掛ける。
「音楽を続けてる。あとは……」
 あの日、思いを寄せた人は今日は来れないと聞いた。でもここに足を運べたのには訳がある。
「既に結婚して娘がいるよ」
「鳴子は先生だっけ?」
「おうよ」
「俺は……て、娘さん幾つ?」
「6歳だ」
「お、ちょっと大きいさんだ」
 その言葉は保育士ならではか?
「えらい久しぶりやなー」
 周を連れた洸太が現れる。
「周、今日の幹事さんこのトナカイバンドの人やで」
「護塔と永合は仲良いのな!」
 寄り添うような二人をつつこうとしたら、洸太は満面の笑み。
「せや、俺の嫁さんやもん」
 悪戯めいた笑い方が息子そっくりと想いながら、周はぺこりと頭を下げる。
「護塔です。主人がお世話になってます」
 そのにっこり笑顔は娘そっくりだ。
「やっほー、みんな久しぶり!」
 最後に来たのは亮。もちろん奥様シャズナもご一緒だ。
「ひまわりせんせー幹事お疲れ! 真琴ちゃんも久しぶり、相変わらず美人さんだね」
「……」
 ぺこり。
 銀髪を下げてお辞儀。
「こいくま先輩んちはシャズナさんとラブラブなんでしょ? 奥さんのハートを掴む秘訣とか知りたい!」
 千尋をつんつん。
「ん、どした、真琴?」
 そういう気の効いたことを言えるから奥様と円満なのだ、とでも言いたいのか?
「全員揃ったから移動……」
 ぱ。
 手をあげた千尋の目の前でツリーのイルミネーションが様変わり。
「Happy Merry Xmas……♪」
 ひょっこりと顔をだしたのは、サンタさん――ジングル。
「幹事をしてくださった千尋クンと皆さまにココロよりの感謝を」
 真上でキラキラ輝くのは、あの『トナカイギャング』達!
「おおおお、ジングル先輩!」
「ひさしぶりだね」
 お返事が遅れたお詫びとお祝いにと仕掛けたサプライズ、皆の輝く笑顔がサンタさんへのプレゼント。
「あのツリーはオレも家の庭に。もうこんなに背丈も立派になったのですよ」
「俺のツリーも庭に植え替えたから、家でお留守番中」
 ジングルの見せる写真に亮も「同じぐらいだ」と頷く。
「皆は今何してる? やっぱり社会人って忙しいのかな」
 枝廼は年上の皆を改めて見回した。
「自分のペースで過ごしてるよ」
 ポットツリーをつつきの硝子。さつきはそうだねと頷く。
「宮代は何の仕事してんの? すげー幸せそうな雰囲気じゃん」
「私ね、画家になったんだ。もう少ししたらね、大切な人とアトリエを構えるの」
 幸せそうなのは、だからじゃないかなと微笑む。
「そう言う千尋クンは? サンタさんのお手伝い?」
 その問いに『サンタさん』なジングルは安寧な笑みで千尋の答えを促した。
「お! すっげぇ半分アタリ」
 期間限定サンタさん。プレゼントを心待ちにする園児達に、サンタさんとしてプレゼントを渡すのだと得意気だ。
「あぁ、子供相手の仕事かぁ、仲間だべ」
 椿の今年の担任は小学1年生、元気いっぱいだと笑った。
「洸太も綺麗なお嫁さんもろたべな」
 照れたように頭をかく洸太。同じ年で地方出身方言仲間と、良く話した事を思い出したり。
「そういう椿は?」
「恋人とかどーよ?」
 硝子に問われ千尋に肘でつつかれて、ううっと俯くバンカラ先生。
「枝廼サンはどうですか?」
 興味津々で食いついていた枝廼は、ジングルに水を向けられぷーっと頬を膨らませた。
「……俺は忙しくて彼女作る暇ないけど。別にモテないわけじゃねーし」
 負け惜しみ? 場が弾けるように笑顔で包まれて、ますますむむむの枝廼。
「枝塚もいるしわりと充実してるからいいんだ……!」
「初々しいねぇ」
 シャズナを優しく撫でて亮は嬉しげに続ける。
「こんな風にシャズナと笑う未来なんて、夢に見るばかりだったのになあ……」
「確かに」
 いつかは別れなくてはと怯えたのは過去。枝塚と過ごす日常を浮かべれば枝廼の機嫌はけろりと直った。
「クロも連れて来れば良かったかな」
 ほわりと笑うさつきは、覚醒ケットシー・ガンナーの元気なあの仔を思い浮かべる。
「クロね、最近は少し遊び足りなくて……そうだ、今度真琴さんと一緒に遊んでくれない?」
「勿論! 真琴も喜ぶぜ!」
 ――お喋りであたたまりそろそろ居酒屋へ、そんな時に真琴が箱を取りだし千尋をちょんちょん。
「そーだ、これ記念品な!」
 小箱の中ではあの日のトナカイたちがバッチになって賑やかに踊る。
 四之宮には『キューピット』
 護塔には『ブリッツェン』
 永合には『泣虫ブリッツェンと慰めてるトナカイ』
 こいくま先輩には『プランサー』
 宮代には『ダンサー』
 ジングル先輩には『親分ルドルフ』
 烏丸先輩には『コメット』
 鳴子には『ダッシャー』
 ……ひとつひとつ、丁寧に名前を呼びながら渡していく。
「ほら、またトナカイギャングが……なんてな」
 枝廼はほっこり。
「わ、おおきに!よう出来てる……悪者らしくせえ言うたら泣きよってなァ……」
「それで慰めてるのね」
 洸太と周は頭を付き合わしトナカイをちょんちょん。
「お前はまさか、プランサー!? かわいいやつめ」
 当時の浮気(?)を想い出したか、シャズナはぎゅーする旦那をアンクでぽかり。
「あの日の子達……うん、良く出来てる」
 胸に蘇ったあの日を描こう、さつきはてのひらでそっと包む。
「これは、そっくりです……♪」
 ボスの名札の誇らしさもそのままとジングルの微笑みが深くなった。
「寝相が悪かったな」
 娘に見せると喜びそうと硝子。
「あったけぇ奴だったなぁ」
 椿はあははと口元を綻ばせた。
 ――あの仔達がまたこの地におりてくることを願い天に還したあの日が胸に蘇る。

●2021年 日常
 霧の街ロンドンの一室にて沙希は想いを篭めて手紙をしたためる。
『Dear千鳥様。
 私は相変わらず能力者保護のお手伝いをしながら、探偵騎士団と共にロンドンで楽しく過ごしてます。
 今面倒をみている子供達は……』
 こんこん!
「はい!」
 今宵ももう一つの仕事の依頼。
 ――。
「そこまでよ……貴方達をこれから裁かせ貰うわ」
 漆黒。
 あの女か。
『死の女神』
 能力を犯罪に悪用する者達に怖れられる裏の通り名、それが沙希のもう一つの顔。

●2022年 日常
 世界が様変わりしはじめてから今年で10年目。
 伏姫筆頭の犬神機関では、回転動力炉の開発に変わらず邁進。今日も指示に当たる伏姫の元に、
「なっ……」
 友人のヒルデガルド・ケッセルリング(オルキヌスオルカ・b80010)が重傷を負い入院したとの報が届く。
 ――少し刻は戻る。
「……」
 常に客観視点で生きて来たヒルデガルドは、自分の命にさしたる思い入れもせず、この度のヨーロッパはトランシルヴァニアでのゴースト討伐作戦に参加した。
 が。
 部隊は壊滅。
 見事に敗走となる。
 自分の命は駒だ。
 ……だが果たして、救った齢4の少女の命は駒なのか?
 右腕だけで少女を抱きしめヒルデガルドは思索を巡らせる内に意識を途絶えさせる。最後に残る葉少女の泣き声。
 ――再び日本。
「まだ予断を許さない状態です……」
「そう」
 集中治療室の中、左半身に大量の管を繋ぎ辛うじて命を維持するヒルデガルドを見て、伏姫は深く息を吐いた。
 不安一杯の瞳で硝子に張り付く娘の髪をそっと撫でると、伏姫はこれからゴースト事件で親を亡くすであろう子の寄る辺を作ろうと決意した。
 ――数日後、ロシア。
「そう……ヒルダが目を醒ましたの……良かったわね」
 ヒルデガルドが関わった事件は気になっていたので、伏姫からの連絡は嬉しいものだった。
『ふぇええ……』
「……ごめんなさい、また今度ね」
 隣の部屋から響いてくる泣き声に慌てて電話を切ると、リューシャは柔らかな笑みを浮かべてそちらへ向う。
「どうしたの? お腹が空いた? おしめ?」
 むずがるように泣く子を抱き上げる。最近は何を求め欲しがっているか解るようになってきた。そんな自分を見つけて、嬉しい。
 おっぱいを含ませながら、リューシャは夫の帰りを待つ……ちなみに夫は婿養子。
 もちろん母になろうがゴーストと戦う誇り高き騎士も続行中だ。
 母。
 ブライトは自らの過去と決別するためにイギリスの地を踏みしめていた。
 ……決別しなくてもよければ、そんな願望が心の片隅にあったのは認めるけれど、母の罵声を聞きそれも砕け散った。
「穢れた悪魔め! 主の裁きを受けろ!」
 十字を掲げ血走った目を向ける母は、自分を地下牢に監禁した時と何一つ変わらなかった。
 だから変われたブライトは決別を口にする。
「僕はもう貴女をママとは認めない。貴女の価値観には囚われない」
 支えてくれる仲間に逢えた、何よりずっとずっと母らしい人にも、逢えた。
 だから。
「さようならだよ」

「お色が素敵。娘の成人式が楽しみだわ」
「ありがとうございました」
 オーダーメイドの小さな呉服店にて、店主灯雪は客人の微笑みにぺこりと頭を下げる。
 今日も閉店と、リーゼロッテへ帰るコール。
「今日もお疲れ様ね」
「晩御飯何が良い?」
 たわいない会話
 待っててくれ/待ってるわ。
 遠い日の途方もない孤独ではなくて、大切な人にすぐに辿りつける幸い。
 ――帰宅した灯雪は、美味しい御飯を心を篭めて作る。
 ――仕事のサポートとパソコンに向っていたリーゼロッテは、経営補助よりゴースト情報収集の方が効率がよい事に苦笑する。
(……大半は彼女頼み。全く、再会できなければやばかったわ)
 それは真実。
 それは照れ隠し。
 ――ご馳走様と響く声は今日も弾んでいた。ただそれだけで、ほらこんなに幸せ。
「少し外へ遊びに行かないか?」
 月に星が綺麗だから、月下の貴女が見たい。
「そうね、たまには外に出るのも悪くないわ」
 灯雪に手を引かれ、ドレスを纏ったリゼットは外に出る。こんな事がなければ外に出ない、ネトゲ廃人と自分を揶揄しながら、御飯は必ず一緒に食べるし、散歩に誘われて断わる事なんてまずない。
 月の元、歩くリゼットは想像に描くより綺麗だから、ますます心が捕らわれる。
 映画を見にいこうか、なんて事を当たり前のように切り出せる日常が愛おしい。
「ええ。ところで……ねぇ、灯雪?」
 星の元で微笑む彼女は可憐で、頬を染めてついぼんやりと見ていたら、彼女はふっと笑った。
「結婚、しましょう?」
 その微笑みは本当に本当に心を捕らえて止まない。
 願いは幸せな日常を続けること――だから答えは決っている。

 ある地方都市にて。
 聞き覚えのある歌声に惹かれ、萩島・光奈(軌鎖の祓断者・b36266)は駅前の広場へと足を向けた。
「今日はありがとう」
 ゲリラライブ、観客と段差のない舞台で楽しげに歌うのは、ディーン。観客に子供達が多いのは、朱里と組んだ子供向け番組のユニットの影響か。
(……いやはや、これも一つの縁という奴ですかね)
 満面の笑顔で一緒に歌う子供達と一緒に体を揺らす光奈は、舞台のディーンと目があった。お互いに浮かぶは仄かな笑み。
「久しぶりだな」
「そうですね」
 舞台の後、ディーンは空色髪の彼に話しかける。何を話そうか探していた光奈は言葉少なく、けれど穏やかな笑みで返した。
 ……意志の強い瞳はそのまま。
 ……穏やかな中精悍さを宿した顔立ち。
 光奈とディーンは互いにそんな印象を抱きながら、穏やかな音楽の流れる喫茶店で想い出話に花を咲かせる。ここは光奈のお気に入りの場所。
「あの頃は大変でしたね、お互いに、彼女達はいつも無茶をしていましたから」
「ああ……目の届く所にいてくれたからな」
 懐かしい人達の話をしながら窓の外、蒼空を仰ぐ青年達――。
 場所は違えど蒼空に思いを馳せるのは、籐村・御陸(敬天愛人・b75746)も同じ。鎌倉の地から双子の兄御海が宇宙でうまくやっているか心配になる。
(素直じゃなかったからな……)
 そう苦笑する御陸からは幼い面影は消え、すっかり青年の顔立ち。
 今日もまた藤村流武術を護る為、道場へと足を向ける。
 後を継ぐには師範代の義父と藤村流武術最強の闘士である姉に勝たねばならない――そのハードルは高いとは思うけれど、心が挫けることは……ない。
 自分を信じてこの地を任せてくれた御海、期待に応えたい気持ちがすっと芯を通してくれる。
「ウミ、僕はここでみんなを守るよ!」
 ボクは成長しているよ、だからウミも成長しているって信じてる。

 ゴーストが闊歩し能力者であることが当たり前になりつつある狭間で、隠者のように沙更女・粗目(蛇の心臓・b40178)は生きていた。
 人類学、民俗学、考古学……人を知ろうとする学問、オカルト方面に傾いているなとは自認しているけれど。
 こふり……。
 込みあげる血の熱ももはや慣れたもの、書物を汚さぬように手で押さえハンカチで拭った。彼の内臓はもうズタボロ、残された時間は極々僅か。
「――」
 能力者として奔る時振うナイフを抱きしめて、彼は思索の海に落ちる。
(我武者羅に学び学び。僕はあの方に少しでも近づけたのでしょうか)
 残された時間は極々僅か。
 だから――。
「……」
 雨は窶れ果てた粗目を前に一瞬だけ息を呑む。だがすぐにいつも通りの父性……そう、厳かで暖かな気配を纏う。
 その厳かさは粗目にとっては実は母性。自分と義姉を拾い養ってくれた彼女はいつもと変わらず、それが嬉しい。
 でも、哀しい。
「わ、粗目久しぶりにィ見た……相変わらずゥ細いなァ……」
 それがもはやどうしようもないぐらいに病的だと悟り、ならば交したい言葉もあるだろうと流流は娘を連れて身をひいた。
「ありがとうございました」
 雨は覚悟を感じ取り、黙ったままで泣き出しそうなめぐしごを強く抱きしめる。
「――ッ」
「どこへ行くのか」
 それは出逢いと同じ言葉。
 粗目は親御のぬくもりに身を預けながら「星の見える場所へ」と、ぽつり。
 ――邪魔はしない。
 解かれた腕。
「……あれ、もう帰っちゃうんだァ」
「はい」
「いってらっしゃい」
 ばいばいじゃないよ、そんな声に胸が温かくなる。
(幸せでございました。たくさんの縁と思いをいただけて)
 手を振る娘と流流に深く深く頭を垂れる。手向けの花はなくとも絆を既にいただいた、と。
 去りゆく背を見つめ、雨は深く深く息を吐き出した。めぐしごを親として恥じなく見送れただろうか……。
「おいで」
「ん……ママがァ呼んでるよ」
 父に背を叩かれて腕に飛び込んでくる我が子を、粗目と同じ強さで抱きしめる。
「お前も自分の人生を決めるときがくる。そのとき後悔だけはするな」
「?」
「いつかわかる日がくるさ」
 流流は、母子を見つめ緩やかに幸せを噛みしめる。
 雨は自分に関わりし全ての『子』に祈る、生命の賛歌で満ちるこの世界で生きろ、と。
 粗目は「そばにいてほしい」との祈りを捧げられた目覚めの場所に横たわる――『これにて僕の物語は、お了い』

●2023年 日常
 銀誓館の職員室にてふと訪れた二人きりに、教師二人は夫婦に戻る。
「ねえ、央璃」
「ん、なーに朔太郎」
 ……あなたに逢えて良かった。
 そんな台詞に吃驚し瞳を瞬かせるが、すぐに彼女も「あたしも」と返す。
 唯一人のキミを好きになれた幸いを。
 あなたとこの絆を結べた行動に誇りを。
「……うん。あの時、色々と行動してよかったって思ってる」
 動かずにいたらこの幸せは、ない。
「誰にはばかることなく何度も言ってきた言葉だけどね」
 愛してる。
 またそうやって耳元で囁く。
「今年はどうしようかね」
「毎年バレンタインやりすぎて恒例行事扱いよ?」
 でもまた子供に冷やかされそうな甘いバレンタインをするのだろうなと、央璃。
 それがとっても楽しみな朔太郎。
「キミを好きになって、好きだと言ってもらえて。僕は幸せ者だ」
「愛してる朔太郎。世界で一番素敵な旦那様」
 机越しに絡めた小指――指切りげんまん赤い糸。
「……これからもよろしくね、央璃」
 永遠に。

「大地、転んじゃうから走らないで」
 桜の木の下、元気よく駆ける男の子は果たして……転んだ。
「うぅ……」
「いたいのいたいの飛んでけー」
 9歳の長姉美桜のおまじないに唇を噛んで堪えたのを、父スルガが「えらいぞ」と髪を撫でる。
「だいじょう、ぶ?」
 美桜の後ろからひょこりと顔出す美春の心配気な顔に、大地は元気よく笑ってみせた。
『花を春を育む大地』その由来の通り健康に元気に育っている男の子。
 ――薄紅が舞い散る中、仔犬がじゃれるように遊ぶわが子達を前に、美咲はそっと夫に背を預けた。
「本当にありがとう、スルガさん」
 沢山の宝物をくれたあなたに、抱えきれぬ程の感謝を。
 スルガはそんな妻にキスを降らせる。離れた唇で紡がれるのはやはり同じお礼の言葉。
「俺も、お前から沢山のものを貰った」
 抱く者達だけでも護りたい。
 変わりゆく世界で、変わらぬ幸せを過ごしたい。
「大好きよ、あなた」
 ――心に咲く、永遠に散らぬ桜と共に。

 夢のような10年だった――。
 桜の木の下で遊ぶ三姉弟に笑みを向けた神山・楼炎(蒼き銀の堕人狼・b52373)は、7歳と5歳の我が子へ視線を戻す。
 本当に、兄弟姉妹というものは上手に遊ぶなぁと……上の子が桜の花びらを下の子に飾るのを見て思う。
 そんなことを考える自分は随分柔らかくなったのだろう。戦いばかりに身を置いていた過去からの変化は心地よい。
 愛すべき夫とわが子達、今は彼らの安息となれるよう家庭を守りたいと願っている。
「お弁当ー」
「お腹空いたー」
「ああ、食べような」
 美味しそうな手作り弁当を広げ、今度は夫とじっくり二人の花見もいいかな……なんて考えてみたりもする。

『雹牙堂さん』
「ああ、いつもありがとう」
 カイナは馴染みの探偵騎士団の知人からの情報に礼を述べ、職場へ向う。
 警察官としての実績を積んだ後、彼はSPとして任命され要人警護に当たっていた。世界結界の崩壊が進み、悪しき者の攻撃も文字通り容赦なくなってきている……嘆かわしいことに。
「――危ない!」
 イグニッション!
 トレンチコートのカイナは身を呈して時空を歪める魔弾から保護対象を護った。

「小説のネタにもなるし、手伝ってくれるよな?」
 ガッ!
 裕也はイイ笑顔で千鳥の肩をつかんだ。
「誰に聞いてるのさ、裕也」
 こっちもイイ笑顔。
 そんなわけで二人は今、お決まり暖炉の前で登場人物達を集めて立ってます。
『失礼な奴だ!』
「これはこれは助手がご無礼を……ところでその表情は図星ですかな?」
『!!』
「こんな揺さぶりに引っかかるなんて、おじさんには過ぎた犯罪だったんだよ」
『なッ』
「……なーんて、この流れに笑いが止らないのはお嬢さんですかね?」
 父親が刺したのは確かだけど、その前に絞殺で被害者の命を奪ったお嬢さん――そう指摘すれば顔面蒼白、唇わなわな。
「そう、犯人は……貴方だ!」
 ずびし!

●2024年 卒業式
 しゃくり上げる千破屋の背をジングルは宥めるように撫でながら、自身も瞳を潤ませていた。
 今日は愛息子の星屋の卒業式。
(童だった頃が昨日のようだよなじんぐる)
(ほんとうに……)
 あっという間の12年、幼かった少年は今や父を越える背高のっぽに成長した。家族として紡ぎ上げた想い出が二人の胸を巡る巡る。
 式も無事終り、会場を出た所で星屋は二人の父の元へ。もうそこで涙腺の決壊が崩壊した千破屋、ジングルもうんうんと涙ぐみ。
「お父さん、父様……泣きすぎじゃない?」
 腕組み呆れた所に「星屋」と大好きな声に名を呼ばれた。手を振るのは勢と亮、奥様シャズナ。
「星屋、卒業おめでとう! あんなにちっこかったのに背ェ伸びたな」
「卒業おめでとう星屋! いやー、ホント、大きく……マジ成長期ってすごいなぁ」
 おーっと感心するしかない、今この中で一番背が高いのではなかろうか?
「いー兄、せざ兄、奥様……ありがとう!」
「そうそう」
 亮が切り出せばシャズナがリボンの掛かった小箱を星屋に差し出した。
「まあ、中身は卒業祝いにありがちなヤツ(万年筆)だけどさー」
「ありがとう」
「がしがし頭撫でていいか? ダメって言われてもやるけど」
 勢はわしゃっと蒲公英頭をつかむてわしゃわしゃわしゃ! 亮も横からわしゃわしゃ! きゅーっと目を閉じ星屋は二人に抱きつく。
「おいたん、りょーおいたんありが…………はっ」
 童心帰り、今のなしって言っても遅い。大人達はにっこり笑うとますます撫でくりまわしだ!
「おいたんって呼ばれんの久しぶり!」
 懐かしくって勢の嬉しさ爆発だ。
「幼い頃と変わらない星屋らしさ、大切にして欲しいな」
 照れた頬を父様にそう言われてしまっては、もう素直に頷くしかないわけで。そんな所が変わりなくて、千破屋は「天使そのもの」と親馬鹿全開。
「お祝いありがとうございます」
 奥様の嘴にキスすれば、母が我が子を撫でるようにシャズナは星屋の髪を梳く。そんな所を見ると亮の胸がじんわり熱くなる。
 泣いたり笑ったり、写真に納めたり……やっぱり泣いたり。
 沢山の大好きを振りまきながら、星屋の卒業は目一杯お祝いされるのでした。

●2024年 日常
 ――世界結界が随分と壊れたこんな日常。
「気をつけろぉ!」
 どぉん!
 跳ね飛ばされたダンプの運転手の怒号が遠ざかっていくのに、しれっと立ち上がった月媛は肩を竦めた。
「全く危ないわねぇ。私じゃなかったら死んでるわよ」
 大学を「ちょろいちょろい」と中の下の成績で卒業し、その後も変わらずの剛胆な日々。
「きちんと前を見て運転してよね」
 ぱんぱんと服の埃を払いつつ、月媛ねーさんは家路につくのであった。

「やっと寝てくれたかぁ」
 1歳を迎えた我が子がすやすやと寝息をたてるのに安堵の嘆息。凛々花は夫と出逢ってからの日々を回想する。
 今こうして掛け替えのない宝物とあれる自分は間違いなく幸せ。
 そして――8年掛けて綴った処女作の主人公もハッピーエンド。
(やっぱりこれだけは譲れなかったよ)
 そう描けたのはきっと、今が幸せだからかも……しれない。
 既に倣い、記録を残すように綴った日記を閉じて、凛々花はふっと一息。願うは彼の安息。

 朝矢は大学卒業後、公務員を経て警察へと進んだ。
 血腥い事件は後を断たず、もちろんゴースト絡みであることも当たり前の日々。そんな多忙な中、今日は飛び込みの事件もなく署を出られた幸運にほっと一息、妻へと連絡を取る。
 脇には昼休みに買っておいたリボンの掛かった包みを抱え。
『……ん、うん。気をつけて帰って来てね」
 詩乃は通話を切るとこたつにぬくぬくと入る小さな姿に振り返る。
「パパ、もう少しで帰って来るって」
「ほんと?」
 あどけなく笑う朝矢と詩乃の愛娘。少女は今日3歳の誕生日を迎える。詩乃は娘の隣に入ると、ぽふぽふと柔らかな髪を撫でた。
 ……憧れていた、家族。
 大切な存在と、やはり大切な人を待つ……ただそれだけの事がこんなに幸せ。
 ――。
「ただいま……っと、風邪ひくぞ?」
 こたつでうたたねの娘に眉を軽く潜める朝矢は、でも雪を連れる彼女似なら引かないのかなぁとも思ったり。
「おかえりなさいっ」
 こたつで暖を取る夫の上着を整えハンガーかけた後で、詩乃はキッチンへ。テーブルにケーキとご馳走を並べる。
「良く似てきたよなぁ、お前と」
「貴方にもね」
 わたしの家族が此処に在る――此処に、居る。
 ささやかに見えて本当に奇跡のような時間にいるのだと、かつて封印されていた詩乃は今を生きる幸せを噛みしめる。
 すやすやと眠るほっぺたを朝矢がつつけば「ふにゅ」と眠そうな声。ごしごしと目を擦り、またおちる瞼に夫婦は小さく吹き出した。
 でも今宵の主役は愛娘。
 揺り動かし目覚めた少女に、父と母は破顔一笑。
「「お誕生日、おめでとう――」」

 縁側。
 何の変哲もないある休日に、30を少し越えた夫婦が黒猫と共にひなたぼっこ。
 水沢・環奈(春雪に守られし桜の子・b18954)と氷山・悠治(自由人・b00951)と黒猫ノラさんだ。
「ひーちゃん、お茶どうぞ」
「お、ありがとな」
 縁側にまるまりしっぽゆらゆらの黒猫をじゃらしていた悠治は、環奈の座る場所を空けるように少し体をずらす。
「もう18年になるんですね……」
 二人、つきあい始めて18年。長いような短いようなと湯気をふく環奈に、悠治もしみじみ。
 ……その18年が奇跡の連続だったのだと環奈は思う、変わりゆく世界でここまで紡げた縁は掛け替えのない宝物だ。
「もう人生の半分以上みーちゃんと一緒にいるんだなー」
 そう考えると長い。
 いや、やっぱりまだ半分?
「みゃぁ」
 そんなこといいじゃないとでも言いたげに啼くノラさんに、二人は同時に視線を移す。こんな所にも長年生活を共にした証が現れている。
「よく考えたらこいつも結構いい年だよな」
「ノラさんは昔とあまり変わらない様な感じがしますが、長生きですね」
 けれどまだまだ現役。ぐぐっと伸びをすると黒猫は座布団から降りててこてことお庭を歩き出す。
「この元気さは、化け猫か」
 冗談口に口元を綻ばせ環奈はこっくり。
「猫又さん化、ですか? 確か尻尾が長いと、猫又さん化しやすいらしいですね」
 ひょこひょこ。
 ゆらゆら。
 草木に猫パンチする度揺れる尻尾は、そこまで長くはないか?
 かっくり。
 同じように首を傾げた後で、
「ま、元気なのはいいことだ」
 悠治は端的に結論を出して煎餅をぱりんっと囓った。
「ノラさんはきっと……」
 とことこと戻って来て、悠治の膝に収まり欠伸の黒猫の額を撫でて、環奈は続ける。
「ひーちゃんと一緒に居たいんですね。だから長生きなんだと思います」
 離れたくない。
 変わりたくない。
 ずっとずっとずっと。
 そんな願いが黒猫をこの世界に留めているのだとしたら、それもまた奇跡ではなかろうか。
「そりゃ嬉しいな、俺はこういう何も変わらない当たり前の日常が好きだしな」
 変わることに怯え、戦いに身を投じていた自分は遠い。遠い方が、嬉しい。
「はい」
 そう返しながらも、変わらないものはないと環奈は今でも思っている。それでも……変わってしまったとしても、続いていく事は出来るとも、信じている。
(確かな今はあると教えて下さった方が居ますので)
 うつらうつら、船をこぎ始めたノラを撫でふっと隣を見る悠治。環奈も同じことを考えていたのか、目があった。
 零れる笑い。
(今ではひーちゃんの隣りに居る事が今では当たり前の様になって……ひーちゃんの後をついて行きたいと思う様になって……)
 この掛け替えのないものを護る為精進したいとは、環奈。
「俺の当たり前の中にはいつの間にか自然とみーちゃんがいて、普通にそれがいつの間にか俺にとっての当たり前で……」
 言ってる内にこんがらがってきたと、悠治は一度お茶をすする。
 そんな夫を環奈は穏やかな気持ちで待つ。例えば続きが紡がれなくても、また別のお話に繋がっていける――そんな二人の『当たり前』
 ふっと。
「ああ」
 父と交した遠い日の会話を想い出し、悠治は吹き出した。
「どうしましたか?」
「……いや、これも愛なのかって思ってさ」
 きっと何十年後も同じことを言ってるんだろうなって続ければ、環奈は正座し居住まいを正すと、深々と頭を下げた。
「もう18年なのか、まだ18年なのか分かりませんが、これからも宜しくお願いします」
 改まったことすら可笑しい。
「にゃ?」
 弾ける笑い声に黒猫が片目を開けて大欠伸。

 繰り返しとは愛おしいもの――。
「お父さん、これもって」
「はーい」
 7つになる娘に差し出されたのは巨大な買い物袋。
「零ちゃん、これもお願いね」
 ふふと妻牡丹が差し出すのは、トイレットペーパーなどかさばる家庭用品。
「はーい」
「「わかればよろしい」」
 ハモる声がそっくり。
 諦め笑顔、ヒエラルキー最下位の零はよいしょっと荷物を担ぎ、手を繋ぎ前を行く妻と娘を見つめた。
「零ちゃん、大丈夫? 少し持とうか?」
「お父さん、持つ?」
 振り返る仕草がそっくり。
「父さんが全部持つからいいよ」
 欠片も預ける選択肢ないよねと幸せ苦笑い。
「雪ちゃん、シロちゃんにお願いする時はね……」
「うん……」
 前ゆくふたりは宝物、共に過ごす時間はずっとずっと護り続けたい宝物。

 忙しなく飛び回っていた生活も、男女の双子を授かった時点で驚く程に穏やかに変わった。
「パパしょうぶー!」
 ていっ!
 アストラムは自分に似た娘のタックルを受け止める。
「へっ、それくらいじゃ負けねーぜ!」
 ぐぐっとおせば、グーに握った掌でぽかぽか。
「まだまだまけないもん!」
 可愛い。
「畜生、参った、参ったぜ!」
 さすが俺の子と親馬鹿全開で抱きしめる傍らで、娘の片割れは黙々と絵本に視線を落としている。
「ほら、外行くぞ、外!」
 娘をぶらさげアストラムが吼えても、無視。
「お父様が呼んでるわよ?」
 アルステーデは反応が返らないのを見越して我が子に呼びかける。予想は当たり絵本の海に潜る息子は帰ってこない。
「男のくせに本ばっかり読んでんじゃねえ!」
 ようやく面倒くさそうに顔をあげて、少年は言った。
「男の癖に、なんていうのは見識が狭いよ」
 大人びすぎ。
 ……誰かに似すぎ。
「屁理屈ばっかこねるんじゃねぇ!?」
「……誰に似たのかしら、この子」
「てめぇに決ってるだろ!」
 また本の海に沈む息子とアルステーデを見比べて吼えながら、父は空いた腕を伸ばして我が子を撫でる。
「……まぁこいつはこいつでやっぱり可愛いんだけどな!」
 その親馬鹿振りにぷっと吹き出せば、アストラムはぎんっと睨んでくる。頬が真っ赤だ。
「……本当、微笑ましいんだから」
 でも、子供ばっかりで何だか少し意地悪をしたくなってくる。
「あら」
 後ろから寄りかかり、囁き声。
「偶には私を可愛がってくれても良いのよ?」
「な、な、な……!? 誰がお前なんか可愛がるかよっ!!」
 爆発しそうなほどに真っ赤なアストラムは、子供の前でと頬を膨らませる。本当に子供っぽい表情で。
 天邪鬼。
「ふふ、本当に貴男って……」
 ずっとずっと変わらない、それがまた彼女の中の愛しさを呼び覚ます。

「はい、ごはん」
 硝子は黒ウサギに草を与える娘を遠目に瞳を眇めた。
「おいしい?」
「宿題はやったのか」
「あーとーでー」
 ぷっと膨れた後、またウサギを撫でる様に硝子は肩を竦める。
 さらさら黒髪の娘は生意気盛りの10歳、でも家事を手伝ってくれる気立ての良い子。長く伸ばした髪は精一杯のお洒落心。
 だから音楽活動も続けていける。CDを出したりライヴをしたり、たまにラジオに呼ばれたり。
 ……けれど。
 家族と過ごす時間が何よりの幸せだと、硝子は常に思う。

 鎌倉と北海道、二軒の『LEAVES』にて――。
「いらっしゃい、りんね。いつもの、あるぞ」
「灯くん、曜子ちゃん……騒がしくてごめんね」
 桜色の髪に藍色の瞳の女の子の前に、灯店長はしゃがみ込むと緑茶飴をころりん。
「いいえ、賑やかで嬉しいですから……あ、いらっしゃいませ」
 柔らかな笑顔で応対する曜子に、輪音はうんうんと嬉しげに頷く。表情豊かになった曜子と、大きくなった灯……きっと自分達家族と同じぐらい幸せに過ごしているのだろう。
 灯と曜子、夜は戦いに赴くこともある。目的は理性あるゴーストの保護、それもまた目指した未来。
「リヒト、『LEAVES』さんに寄っていこうか」
「みゃ」
 大学時代にはじめた雑貨の輸出入の仕事が軌道に乗った古杜は、今では『LEAVES』に茶葉を下ろすこともある。
「あ、古杜先輩、お久し振りです!」
 お店の入り口でバッタリ!
「紅樹さんだ。リヒト、タイミング良かったね、今日も美味しいお菓子が食べられるよ」
「はい、今日は洋なしのタルトですよ」
 製菓学校を卒業した紅樹は、海外でパティシエとして修行を積みながら能力者としての活動も続けている。
「北海道にも顔出したいですね」
 そんな会話をしている頃、北海道店には、ノエルが訪れていた。
「いらっしゃ……ああ、ノエルさん?!」
 お子さんですかと向いた穏やかな眼差しの先には、7歳の女の子と2歳の男の子。ぺこりとお辞儀が愛らしい。
「はい……稲垣さんに、お逢いしたくなりまして……」
 背は伸びたが童顔のままの幻、カップをもきゅきゅと差し出すミージュに「変わらない」とノエルは寿ぐ。
 ティールームで話すはイギリスの北海道のお土産話。
 不安定な世界だけれど、戦いと隣り合わせだけれど……店先でミージュが差し出す茶葉に和む店員に眼差し向けて、幸いも増えたと幻は相好を崩した。

 樹木医として忙しない日々を過ごすシーナには、ひとつの野望があった。
『新妖精郷』
 日本の美しい自然の中にヤドリギ使いの拠点を作りたい、そんな夢。
 能力者がどんどん増える世界にて、新たにヤドリギ使いとして目覚めた者の中にも森暮らしを望む者もいるだろう。
(妖精郷のオルゴールはないけれど、皆で共同体を作り上げていけたら、凄く幸せなのですっ♪)
 そんな森を構成する木々達を慈しみ、今日もシーナ癒していく。
「という訳で、住みたい人募集&良い森探し頑張りますよー!」
 シーナの友人匳も長い海外暮らしから戻り再び拠点を日本に移していた。
「あー、今日から戦闘訓練を担当する六桐ってモンだけど」
 訓練施設にて海外での活動を買われ実戦訓練の教官として着任、若い能力者達を前に挨拶……が、既に面倒くさい。
「早速始めんぞ」
「へ?!」
 不意打ちで仕掛けられた攻撃に目を白黒。
「ほら、お前さん達も援護しろ」
「は、はい!」
 一対複数を華麗にさばき組み伏せた生徒達をぽふぽふ。
「実戦に勝る修行はない、全く以ってその通りでな……だから、俺の訓練では技の出し惜しみはしねぇ」
 お前達もその気でな、と初めての訓練を締めくくる。

「あの同窓会からもう10年なんですね」
 陸はふとペンを止めた。
 瞼をおろせば浮かぶは、言葉を繋ぎ縁を紡いだ大切な仲間達。
(言葉の大切さを皆様が教えてくださった)
 パリの空の下、陸は今も言葉を縁に日々過ごしている。今の自分があるのは彼らのお陰。
 今回の商談通訳の仕事が終わったら一度日本に帰る予定だ。
 ――逢いたい。
『親愛なるしりとり同好会の皆様へ――』
 一通一通丁寧に陸は文字を綴る。ペン先が紙を滑る小気味よい音に胸躍らせながら。
(氷采先輩はパリか)
 朝ポストから取り職場で開いた懐かしい人からの便り、どんな返事をしたためようか。
 士官学校を経て家族と同じ軍人となったファリューシングは、ある辞令を受け帰路についていた。
 世界結界崩壊の影響でますます増える能力者。銀誓館での経験を買われ、ベルリンに出来た訓練組織の教官となって導いて欲しい。
(頼られるのは……悪い気はしないかな)
「?」
 辿り着いた自宅前、雪のように白いドレスを纏った女性が佇んでいる。ヴェールを翻し振り返った彼女は華やかに、微笑。
「ファーさん、追いつきましたよ」
 駆け寄りふわり、抱きしめる。
「うん」
 獣医師免許を取得、晶自身の夢へ踏み出す第一歩は迷わずベルリンから。
「これからは、ずっと一緒に……」
「はい……」
 ――そんな彼女からの便りをローラは大切にファイルにしまった。
「晶、随分……近く、だ」
 今日はもう一人、大切な友人が訪れる日。
「わうわうっ!」
「クロ? 瑞羽……来た、の?」
「ローラ、久しぶりだな」
 そこには守屋瑞羽と名を変えた古友が、幼子を連れ微笑んでいた。

 ――犬神機関直営孤児院にて。
「もう服散らかして! ママ、だめよっ」
「ああ……すまない」
 舌足らずな少女は、孤児院の母親役であるはずのヒルデガルドをしかり飛ばす。
 イングリットが保護されてから2年。
 あの後、少女の祈りが通じたか目覚めたヒルデガルドに、伏姫は少女の養母になることと設立した孤児院の世話役になることを命じた、一方的に。
 左目と左腕の機能を失ったヒルデガルドには断わる選択肢はなく、渋々受け入れた。
 嘘だ。
 以前のヒルデガルドなら「まだ動く」と即死地に赴いただろう。
「ママ、あたしが学校に行ってる間、ちゃんとみんなのお世話できる?!」
 ……留まったのは、当時自分にしか懐かなかった少女がいたからだ。
「ヒルダママ、遊んで」
(今日もゴースト退治はお休みか)
 それもまたよしと頷き子供達と遊びはじめるヒルデを前に、伏姫は心からの笑みを浮かべた。今日は経営の打ち合わせで来たのだけれど……今割り込むのは、無粋。
(良かった、本当に)
 この2年でヒルデガルドは驚く程に感情を取り戻していた。それが伏姫は嬉しくてたまらない。
 ――犬神機関では、今後も孤児達が銀誓館学園に通う子供達のバックアップを全力で続けて行く心つもりだ。

(やっぱり私は今の世界の在り方をどこかで納得してなかったのかもしれないのですね)
 ――万葉が支持した選択肢を選んでいたら、もっと世界は良くなってはいたのか?
 ……それは、わからない。だって選ばれなかったモノはなにをどうしたって確認できない。世界はゲームじゃないのだから。
 ただ万葉は納得がいかない。それは事実。
 だから――銀誓館へと戦いを挑む。
(ローラを始め、多くの戦友達はこの行いを否定するよね)
 かつての戦友に討たれるのも本望か……。

●2024年 同窓会
 手紙が嬉しかったと美春、椿、そしてローラが挨拶をするのは、小春だった。今や立派に二児の父。
「千鳥センパイ、お久し振りです……て、子供さん大きい?!」
「や」
「「お世話になってます」」
 小春の長女より3歳は上の男女児が礼儀正しく頭を下げた……親とは大違いである。
「双子ですか? 女の子がセンパイそっくりですねー」
「良く言われる」
 ぐしゃぐしゃ。
 我が子2人を撫でれば男の子が千鳥の腕にしがみつき、女の子は小春の子へ「ゼリー好き?」とデザート皿をさしだした。
「♪」
「娘が懐いちゃってますねー」
「お嬢ちゃん、お坊ちゃん。月の石に興味はあるかね?」
 そんな子らへ屈託ない少年がまざる。
 少年?
「凪よ、かわんねぇべなぁ」
「久しぶりじゃの〜」
 椿と凪、笑いあいながら想い出話、今昔。
 そんな様を微笑ましいと口元緩め、小春はまたあいたいと、もう次の集まりを心に描く。
「そこのバンカラ乙女さん、桜介とは相変わらずラブラブな様で?」
「その声は……裕也先輩?!」
 ひゃっと裏返る声で振り返れば目があうのはクロネコ探偵。千鳥とはちょくちょく逢うが、久しぶりの顔ぶれが多くて心が踊る。
「ラ、ラブラブとかそんなことねぇべっ! 普通だべっ」
 けれど髪を纏める飾りはしっかり『桜』で頬も桜色だと裕也はにまにま。
「まぁ、裕也さんはお久し振りです」
「美春もいつの間にか大人だな、兄さんも元気そうで何よりだぜ」
「はい、兄妹で変わらず過ごしています」
 相変わらずだな千鳥と言えば、先週逢ったでしょと肩を竦められた。
 ……何気ないやりとりはいつものもの。
 年を重ね、それぞれの道を行き変わって行くようで、やっぱり変わらない『絆』
「だから皆、今後ともよろしくな!」
 会話に花添えるメロディを奏でていたのは音楽家となったリグ。
 彼は学生時代を過ごした『LEAVES』の倣いでお茶を淹れるのも楽しむのも大好きだ。今も演奏を止めた後、お茶を淹れ配り歩く。
「お茶をどうぞ」
「リグ君……このお茶は菩提樹の花の?」
 安らぐ香りだねと寿ぐ鈴霞に、リグは祖父譲りの美貌で微笑みかける。そんな鈴霞もまた中性的な魅力がミステリアスな女性に成長していた。
「そう。気に入った?」
「そうだね。安らぐ。お酒もたまにはいいけれど、いつも飲むならやっぱりこういうのじゃないと」
 彼女の笑顔に同意と頷く彼。
「時間は過ぎていくけれど、お茶の時間は絶やさないよう過ごしていけたらなって……」
 できればあなたと。
「30代か……なんや早かったような、早すぎたような」
「コレも節目の年だよね」
 賑やかな輪の中で落ち着きを纏った二人の女性、ラクシュと未都は「乾杯」とグラスをあわせた。お洒落なバーももはや大手を振って行ける年。
「久しぶり、かわりねすが?」
 両腕広げて二人の肩をぽふっと叩くのは椿だ。
 美春はと問えば、今はバイオリニストとして地方公演の日々を過ごしていると返った。
「椿さんはあの彼とはずっと仲睦まじく……って、もう子供もいたりとかするの?」
「おう、いっぞ」
 学校で子供達に接し続けていたけれど、母となるとまた違うとしみじみ。
「今日は旦那に預けてきたから、時間あるし根掘り葉掘り聞くから覚悟してな?」
「ラクシュちゃんの話ひそ聞かせてもらうべっちゃ」
「幸せそうで本当に何よりだね」
 ちょっと羨ましげに未都は微笑を浮かべた。
 お店の運営、そして日常を護ることへ集中し今までご縁なしという未都に、ラクシュはぽんぽん。
「そないな事言わへんの。同窓会で糸が繋がるかもしれへんよ?」
「おう。あっちにいる男子とかどだべ?」
 椿が指さす先で喋るのは、彼らよりひとつ年下の従兄弟達
「あの時から12年後……か。長いようで短いようで」
「意外に沢山集まっとるねぇ皆サン律儀つーか何つーか」
「お知らせしてくれた人、いたしね」
 いちると彩晴にプラス千鳥は、銀誓館制服を着た見知った顔に手をあげる。
「あ、こんにちは。殺人事件ではお世話になりました♪」
 人好きのする笑みで物騒な挨拶をするのは涼太。
「みなさんは花嫁衣装はご入り用ではないですか?」
 ふるふる。
「ええと、俺はね。双子の兄妹の父親なんだ」
「尭矧さんは?」
「えーどっか俺変わったように見える?」
 はぐらかし。
 そんな予定ないですよー、みたいな感じで。
「――え、既に4年前に結婚してて娘さんも居るよな、彩晴?」
「!」
「マジ? さいせー、マジ?! 奥さんどんな人?!」
 ずいずいずずい!
 千鳥がくいついたぞ。
「確信犯レベルでぶっちゃけよったし!?」
「あれ、これ秘匿事項? 7年前の復讐だけど何か文句が?」
 すげー棒読みだ!
 盛り上がりだした会話から涼太は抜けると、一人で食事を皿に取る友人の肩をちょちょんとつつく。
「じゃん! 見て下さいソルスさん、懐かしの制服です!」
 驚きましたかと屈託無い涼太に、ラクスは嘆息。コメントに困る。
 けれど、隣に並びとっくに身長を追い越し面差しも大人に変わった自分に、何一つ変わらず接してくれる彼に仄かな笑みを零す。
 相変わらず死と隣り合わせの自分は、今日ここに来れたのが奇跡。
 明日はないかもしれない……なんて嘯いたら、彼は泣き出してしまうかもしれない。
 だから「これからも……」には穏やかにこう返した。
「またいつでも会えるさ。ああそうとも」
 と。
「千鳥君久しぶり! 彩晴さんもいちるさんも……元気にしてた?」
 彩晴の奥さんを詰問していた所で、ひょっこり顔を見せたのは沙希だ。助かったとさっそく逃げる彩晴。
「沙きゅん、おひさ。お手紙いつもありがと」
 あだ名のままに呼んでくれるのが嬉しくて、千鳥先生って呼ぶのはむしろ悪いかなって呑み込んだ。
「いつも新刊楽しみにしてるんだよ」
「ありがと。1年に1冊出るかのレア作家だけどね。いつも送りつけて迷惑じゃない?」
「全然。あ、でもね……」
 沙希は胸のペンダントをかちんとあけると、見せた。
 移るのは赤子を抱いて幸せそうに収る沙希と見知らぬ誰か。
「その本送ってくれる、昔の憧れた人に会いに行くって言ったら、うちの旦那焼餅やいて」
 子供の面倒を頼み込むのが大変だったと笑う沙希はすっかり母の顔。

 …………此処までが12年間の軌跡。
 けれど生きる限り人生は続いていく。
 終わりを決めるのは、あなた。
 続きを決めるのも……あなた。
 大切な人に語ればそれは物語として綴られるし、胸にしまえば形ない宝物として編まれるのだろう。


マスター:一縷野望 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:104人
作成日:2012/12/20
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