世界と君と、そして自分と


<オープニング>



「……もう卒業か……」
 年の瀬、ふと所要で立ち寄っていた鍛冶野・アラン(運命予報士・bn0063)をみて麦畑・知代子(ブラウニー・bn0137)は呟いた。
「ねえ鍛冶野先輩、大学ってどうなの?」
「ふむ、どうなのかと聞かれても」
 アランはふと考えて返す。
「少なくとも私にっては学ぶところではあるね」
「そうなのよね、勉強するところなのよね」
 ため息をつく知代子は御鏡・更紗(白き娘・bn0014)の言っていた事を思い出す。
「え、私ですか? 大学に行って生化学とか勉強しようかと。将来は食品関係に……」
 自分より年下の彼女がこれである。まったくもってはっきりと進路を考えてる人間ばかりだ。自分は果たして何をしたいんだろう?
「……迷うための時間を得るためにいくのもいいのじゃないかね」
「でもそれってモラトリアムって言うやつでしょ?」
「その全てが悪いとは私は思わないがね。……それでもいずれ親の手を借りずに生きて行かなければいけないのだとは思うが」
 アランの言葉を聞いて知代子は再びため息をつく。
「それでも迷いがあるのなら、就ける仕事の幅を広げるために行き必要な能力を磨くといい。……何、君なら大丈夫だろう」
「どうしてそんなことが言えるのよ?」
「君は笑顔で彼を見送ったと聞いているからさ。そんな君ならばどんな結果でも受け止めて行けるだろう」
 知代子は突っ伏した。そのままの姿で数秒、笑いながら身を起こす。
「本当にそうよね、あいつならこんな事で悩みもしないもの」
 笑顔で知代子は言いきる。きっとどこでも何度でも迷って悩むのだ。それならひっくるめて楽しんでしまえばいい。それはずっと悩みっぱなしのくせにそういう気持ちも忘れなかった彼に教えてもらったこと。
「さあて、そうと決まったら……」
 知代子は参考書を開く。みんなが時間を重ねていく、いつぞや会ったドジな妖狐あの子も中学生の制服を着ていた。こけそうになるのを見る限り、そそっかしいのは変わってないようだけれど。
「……よし」
 知代子はペンを走らせる。それで描かれる未来は果たしてどんなものになるのだろう?

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参加者
水那・冴兎(チョコの人・b00556)
蒼流院・雨音(嵐を祓う蒼き雨・b01718)
四神・巽(バスタード・b10193)
芦夜・恋月(縛鎖の中で足掻く狗・b10866)
美原・月(闇に放つ月輝・b15609)
櫛田・要(赤錆びた虚・b20624)
大木・夏美(ロードオブレディ・b20748)
静月・明良(光宿す影纏いの剣士・b24511)
儀水・芽亜(夢何有郷・b36191)
朱森・舞華(アコースティックワーズ・b36419)
今市・直人(イマイチな男・b36897)
緋坂・燐(氷想華・b53619)
浅神・鈴(秘水練武・b54869)
平・でこ(はセンセーが躾け中・b56332)
アリス・ワイズマン(龍の忍者見習い・b57734)
四季光・春葵(それなり・b61102)
鈴鹿・小春(万彩の剣・b62229)
斎藤・斎(虹の彼方へ・b66610)
蕪菜・鈴菜(三尺聖域・b81577)
楸原・暁雲(高校生真妖狐・b85350)
青睛・葵(高校生真クルースニク・b85437)
紅雲・辰黄(高校生除霊建築士・b86131)
NPC:麦畑・知代子(ブラウニー・bn0137)




<リプレイ>

●2013年の日常
 ゴールデンウィ−クのころ、静月・明良(光宿す影纏いの剣士・b24511)と水那・冴兎(チョコの人・b00556)は久しぶりに二人の時間がとれた彼らは部屋でくつろいでいた。結婚し甘い生活と思いきや日々の生活は殊の外忙しくこうやって二人でいられる時間もやっとできたと言うところだ。
「……折角結婚したのに、何かつまらん……、もっと一緒にいたい」
 冴兎は同棲していた時期を思い出す、あの時はもっとゆっくりできたはずだ。
「……明良……忙しいのはわかるけど、少しは休めよ? あと……俺の腕の中にいる時間を作って。もっとゆっくり明良を楽しみ……」
 冴兎を鈍い音の一撃が襲う。明良が同時に彼を襲った拳を収める。
「ば……っ、昼間っから何言ってんだ自重しろ!!」
「……俺、明良に出会ってから、相当鍛えられてる気がする……」
 そんな彼らの新婚生活。

 とある日の放課後、アリス・ワイズマン(龍の忍者見習い・b57734)はまどかのもとへ訪れていた。これまでも何度かアリスはまどかの元へ来ており、それはきっと彼女と銀誓館学園の縁を結んだのにアリスが関わっていたためだろう。アリスは遊びに彼女を誘いつつ今までの自身の経験を伝える。……そんな時の帰り道。
「なんでアリスはわたしにいろいろおしえてくれるの?」
 まどかは不思議そうに問う。叱られたりもしたけれど、たしかに前よりはいろいろと視界が広がってきた気がする。
「貴女はわたしの約束を信じてくれたデショウ? だからわたしも応えたい……HEROの誓いに、かけて貴女を幸せにしたいんです」
「え、えっと、うん」
 あまりに真っ直ぐなアリスの言葉にまどかは頬を赤くする。「どうしましたか?」というアリスの言葉に彼女は首を横に振るばかりであった。

●2013年の卒業式
「私もいよいよ卒業かぁ、思えばこの学園に入ってずいぶん時間がたったのねぇ」
 朱森・舞華(アコースティックワーズ・b36419)と浅神・鈴(秘水練武・b54869)はいつも通りの様子で学園へと来る。改めて校門の前で立ち止まった鈴は校舎を見上げて呟く。
「つらいことも楽しいことも色々あったけどここから旅立つのか……」
 門をくぐり卒業式の会場である体育館へ、自分達と同じ多くの生徒が粛々とあるいは目元を抑えながら進行していく。校長先生の話、そして送辞の言葉、校歌斉唱と続くにしたがって舞華の目元に涙が滲んでくる。そんな状況で卒業証書授与式の時間となる。
「朱森・舞華。卒業おめでとう」
「はい」
 壇上に上り、卒業証書を受け取る。受け取る際の返事も涙声だった。そのまま式が終わり卒業生は会場を後にする。体育館の前に出た舞華の隣に鈴がやってくる、舞華の瞳からはまだ涙が流れ続けている。
「ほら、舞華ちゃんももう泣かないで。最後くらいは笑って迎えよう、ね」
「う、うん」
 鈴の言葉に答えつつも、ほっと出来る相手が現れたためか更にすがるように泣く舞華。
「……ほら、もう。そっちが泣いてるとボクまで泣きたくなってくるじゃないか……」
 肩を貸す鈴の瞳にもうっすらと涙が浮かぶ。
「これっきりってわけじゃないんだし、ね?」
 舞華は涙を拭きとって、うなずいた。
「進む道は違うけど、ちゃんとこうして生きてるんだから……」
 その言葉を聞いて舞華は鈴に微笑みを見せる。溢れ出るものはまだ止まってはいないけれど。
「あ、住所とか連絡先とか交換しておこう? お手紙とかちゃんとするから」
 二人はこの後また会うためのやり取りをする。そして最後に舞華は校舎に向き、「さよなら」の挨拶で彼女の学園での生活は幕を閉じた。


●2014年の日常
 病院の中を冴兎は行く、知らせを受けた彼は急いで明良の病室へとたどり着く。部屋の中のベッドの上には生まれたばかりの赤ん坊を抱いた明良が待っていた。彼女があやす姿を見て、彼はそっと胸をなでおろす。出産の時のことについて少しやり取りして落ち着いたのか明良が少し心苦しそうに呟く。
「22で母親か……。いやもっと若く母親になった親戚もいるけど、オレ就職1年目で産休とか、迷惑かけちまったなー……」
「明良、仕事熱心なのは良いが、そんなに仕事の事、考えすぎるなよ。生まれて来た子供が可哀想だぞ」
「……馬鹿、子供が可愛くなくて言ってる訳じゃねーよ」
 いつもなら冴兎を小突く腕は新たな命を抱きかかえるために使われている。
「無茶苦茶可愛いよ、オレが腹を痛めて生んだ子だからな」
「……目は明良に似てるな……良い目だ……」
「髪色は父親似……かな? まだ産毛で判りづらいけど」
「きっと将来、凄いパティシエになるぞ……」
 冴兎の手が生まれた子を撫でる、それが彼の父親として初めての仕事だった。
「生まれてきてくれて、ありがと」
 そして彼の手は母親の頭も撫でる。
「そして……明良、お疲れ様……産んでくれて、ありがと……」
 この日より二人は三人となる新しい生活を迎えるのであった。

 舞華は大学に進んだ。彼女が目指すのは幼稚園の先生、周りの生徒達には世界のありように深く関わる道に進もうとする者も多かったけれど、彼女は彼女の夢を追いかけている。
 道を違えたとしても、見知った人間からは時折手紙がやってくる事もある。その中には海を超えてくるものも。
「みんな、今頃どうしてるかな……」
 勉強の息抜きに返事を書いた便箋を封筒に入れて彼女は小さく空を見上げる。封筒の口を閉じて邪魔にならない所に置き、再び資料に目を向ける。彼女の道は、ここにある。

 とある大学近くの喫茶店。そこには大学の合間に世界を巡り諸所を見てきたアリスが、アランと対面に座っている。話の内容はこれからの世界について。
「わたし、卒業したら龍脈からの都市計画や、能力者の保護と育成の為に世界を回るつもりなんです。研究者達に届くべき神秘のデータも一緒に収集できますしね」
 彼女は科学と神秘の合わさるその先の事を見極めようと動いていた。例えばサンダーバードの研究所など。
「……その時、貴方の求める法律の心も必要になると思うんです」
「つまり、今のうちにコネクションを持っておきたいと。そういうことだね」
 これから先は世界そのものの形も変わるだろう、そしてそれに伴い法律も。その時に向けてその力を得ていればもっと動きやすくなるだろう。目の前の彼はできることはすると、言った。彼の言葉を聞きつつ、アリスはあの日に交わした言葉を思い返していた。

 さすらう料理人、今市・直人(イマイチな男・b36897)。将来少料理屋を目指すため、彼は行く先々で色々な店を渡り歩き和洋折衷の味を学ぶ旅をしていた。今はとあるイタリアンレストランで働いている。
 毎日仕事をしながら学ぶ彼を、店長が暖かく応援している。今までの彼のきた道にはこの店長のように温かい人柄に支えられてきた。
「あ、お昼早めに取って」
 賄いとして出されたのは、簡素なペペロンチーノ。フォークを運びゆっくりとその味を噛み締める。贅沢でもなんでもないけれど、美味しい。
「そう、この一味が大切なんだよね」
 彼の真に学んでいるのは、その優しさの味なのかもしれない。

●2014年の卒業式
 楸原・暁雲(高校生真妖狐・b85350)、青睛・葵(高校生真クルースニク・b85437)、紅雲・辰黄(高校生除霊建築士・b86131)の3人は揃って卒業式を迎えていた三者三様にこれまでの学園生活のなかで思うところがあるのか時折目をつぶって思い返したりしている。卒業式が終わり卒業アルバムに何か書かせてくれと暁雲と辰黄が回る。
「僕のにも書いてくれるの?」
「勿論です」
 暁雲に辰黄は答える。「いつかまた、巡り逢う時まで」と書き、すぐにブーイングを受けたが。
「……うざい……」
 また、あとで葵が返ってきた卒業アルバムを見て呟く。辰黄のいたずら書きには「どうか元気で。連絡下さい」のメッセージと共に携帯電話のアドレスが。ちなみに葵は携帯電話を持っていない。続けて「家無しになったらウチにおいで」と電話番号まで。
「……まあ、これから会うことも無いだろうけどな」

●2015年の日常
 四季光・春葵(それなり・b61102)は物のなくなった自室を振り返り、ホコリを払うように手を叩いた。
「良し、片付けはこんなものかな。……この部屋ともお別れか」
 がらんと広がった部屋にはわずかにしか生活の後が残っていない。壁の傷を撫でながら遠くへ行った姉の事を思い出す。
「姉さん、元気にしてるかな」
 姉と一緒にいた暮らしを懐かしむようにしばしたたずむ。ふと時間を見て彼は扉の前に立つ。出港の時間に近づいていている。
(「僕は世界に出るよ。世界に出て、色んなものを見てこようと思う」)
 広くなった部屋に向かって心の中で誰かに言った。そして扉を開ける。
(「皆が守ったこの世界を、この目でもう一度確認したいんだ。そして、自分の戦いの結果を求めたいと思うんだ」)
 少年は世界に歩き出した。

「もしもし、あゆみかえ? 合コンの話はどうなったのじゃ?」
 高校生になった蒼流院・雨音(嵐を祓う蒼き雨・b01718)は携帯で友人と電話していた。何かの打ち合わせらしい。
「何? 女子が1人足りぬじゃと。うむ、なら妾に任せるが良い」
 と言うやり取りの少しあと。雨音は更紗の部屋の扉の前に立っていた。
「更紗、朗報じゃ。今度の日曜日に医者の卵と合コンじゃぞ」
「え、え? えーっと?」
 更紗は突然の来訪者の突飛な物言いに二の句が継げないでいる。目の前の彼女は医大生とかいうので喜んではいるが、大体まだ高校生じゃなかっただろうか。
「……先の展開が読めました」
「ん、何か言ったかの?」
「いえ別に」

●2015年の卒業
 桜の花が散る。春風に踊るその中を歩きながら斎藤・斎(虹の彼方へ・b66610)は銀誓館学園の校門を後にする。隣を歩く更紗と未来の展望を語り合う。
「ドイツ語を学ぶために留学しようかと」
「海外ですか?」
「ボードゲームとか、その国の言葉で遊んでみたいですしね」
「私も本格的に英語覚えないといけないかな……」
 これからのこと、これまでのこと。帰り道を歩くスピードは遅めに。
「学園の皆さんとの別れは寂しいですし、友達とも簡単に会えなくなるのは嫌ですけれど、今生の別れにするつもりもありませんし」
 斎の言葉が続くと共に彼女の目元に涙が滲み、そして流れ落ちる。
「大丈夫ですよ、きっと」
 更紗はいつも通りに見えて、その声が震えている。その彼女へ斎は笑顔を浮かべる。
「卒業、おめでとうございます、だね。更紗さん」
 涙が笑みにかたどられた頬を伝って落ちた。

 静かな畳張りの部屋。その一角には仏壇と白い布で包まれた箱が置かれていた。線香の煙が立ち上り、香りがふすまで仕切られた空間を漂う。
 その仏壇の前、櫛田・要(赤錆びた虚・b20624)が茫洋とした眼差しで遺影を見ていた。彼女の近くには急須と湯呑が置かれており、仏壇の前にも湯気を上げる湯呑みが二つ並べられていた。
 彼女の手にも同じものがあり、かつて3人でよく飲んだ焙じ茶が注がれている。湯呑みに一口付け、置く。養父が逝ったのは去年、養母が逝ったのは養父の百ヶ日の法要が終わってすぐ。まるで役目を終えたかのようだった。
 ふと目を四隅にやる。勿論そこには誰も居らず、自分以外の誰もいる気配がない。今迄誰か居たはずのそこは、もう誰も居ない。その分だけ広くなった空間がその事実を静かに突きつける。
『ありがとう』
 両親が要に残した最期の言葉を思い出す。殺戮者である自分を隠していたとは言え、言い遺した言葉が感謝のそれだった。冷めつつある湯呑みの中のものを飲み干して、彼女は目の前の両親に畏敬を込めて礼をする。そして生者の瑞々しさを失いつつも、命が尽きるその日まで生きようと決める。

●2016年の日常
「……女将?」
「もう女将じゃないけれどね。……元気してる?」
 大学の構内を歩いていた更紗に芦夜・恋月(縛鎖の中で足掻く狗・b10866)が現れた。数年前までよく見た浴衣姿ではなく、スーツ姿でびしっと決めた姿だ。彼女は1枚の名刺を更紗に渡す。
「これは……」
「単刀直入に言えばまた手伝って欲しいわけ。去年に銀誓館学園に芸能化が出来た事、知ってるよね?」
「噂程度なら……」
「圧倒的に講師が不足している。何となく中心で動いているけど、信頼できる人が近くに欲しい。だから、卒業する2年後に貴方が欲しい」
「………」
 恋月の突然の申し出に更紗は黙って考えを巡らせている。そんな彼女に続けて恋月は言う。
「勿論、断ってもいいんだよ。本音は、一緒に来て欲しいけれどね」
 更紗はしばらく考えてから、静かに答えを返す。
「ごめんなさい、私は受けられません。……誰かを育てるよりもまだまだ自分を育てていきたいんです」
「そっか、じゃあ仕方ないね。……その分ちゃんと頑張るんだよ」
「はい」
 更紗は去っていく恋月の背に礼を一つした。

 とある大学近くの図書館にて。大木・夏美(ロードオブレディ・b20748)は更紗にお菓子作りのことについて聞いていた。
「このお紅茶とお菓子なんですけど……」
「え〜と……」
 更紗は言葉を選びながら夏美の問いかけに答えていく。更紗もまだ基礎的な勉強に入ったばかりで多くは語れないのであって。嘘にならないように頑張っている感じが。
「その紅茶は成分的には〜」
 などと話しつつ図書館を出る二人。そんな二人に優男が声をかける。なにせそれなりに二人とも美人の範疇に入る二人だから。
「そこの二人、よかったら一緒にお茶でもどう?」
 夏美がささっと更紗の背に隠れる、どうしたのと相手の問いに。
「彼女恥ずかしがり屋なんですよ、一緒にお茶をいただければきっと打ち解けますよ」
「セ、センパイ!?」
 驚く夏美に、更紗が小さく耳打ちする。「リビングデッド」と。それを聞いた夏美は逆に更紗の前に出る。
「さ、さあ行きましょう」
 恐怖心を抑えこんで夏美は言う。二人がリビングデッドを倒すまでそう時間はかからなかった。

●2016年の卒業式
 平・でこ(はセンセーが躾け中・b56332)の中学生の卒業式。中学生になっても身長は結局伸びず同級生から可愛がられるこのごろ。でも、それはそれで。
「これからも、みんな友達なのじゃ♪」
 キャンパスの中を移動するだけだし。河川敷の友達たちもいつもいてくれる。平家物語が源氏物語の話で盛り上がったり。きっと今までと変わらない。高校生の服はもう用意した、鏡の前で何度か着てみて皆に感想を聞くつもりだ。
「えへっ♪ 高校の制服も似合うかの」
 そう言える日を彼女は楽しみにしている。

●2017年の日常
「あ、来たのかな」
 更紗の部屋の扉がノックされる。大学に入り一人暮らしを始めて3年目というところ。色々慣れ始めてきた夏ごろ、海外に留学していた斎から休みに一時帰国すると聞いていた。
「おかえりなさい、ですよ。斎さん」
「ただいま、だね。更紗さん」
 お互いに卒業した時よりも少しだけ変わっていて、でも変わってない所も多くあって。齋の持ってきたビールとヴルストを肴に話に花を咲かせる。
「やっぱり翻訳を待たずに新しいゲームができるのが……」
「うちの所教授が面白い人で……」
「ニンジャとかやっぱり人気で……」
「忍者? なんで?」
 話とともにジョッキの中身が減っていく。ジョッキの底が見え始めても齋の喉の奥には何かが詰まっている。それを残ったビールで流し込んで彼女は意を決して口を開く。
「……昔、好きだった人に。思い切り振ってもらった人に、また会いたくなっているの、私」
 更紗が何も言わずに次の言葉を伺いつつ彼女のジョッキに注ぐ。その間も彼女は訥々と語る。横恋慕で片思い、そしてその二人は別のところに離れて暮らしている、男の側は死んだも同然の暮らしをしているとも。
「死者は何も望まない。死んだも同然の退場をした方に、発言権は認めません」
 斎はぐいとビールを煽る。すぐにふうとため息をついて続ける。
「……なーんて。きっと思い出に縋ってるだけなのでしょうね。あんなに幸せだった二人が本意でなく離れるなんて。引きずり出してくっつけるまで、幸福とか信じられなくなりそうで」
「今は幸福じゃないんですか?」
 今度は更紗が一飲みする。
「私は今幸せですよ。友達と話せておいしいご飯とお酒がある。それで充分です」
 腸詰をかじって彼女は言う。
「たぶん幸せって足りてるものを好きになるってことだと思います。……足りないことを好きになるのが不幸かどうかはわかりませんけれど」
 口の中の物を飲み込んで更紗は聞いた。
「斎さんは今、幸せですか?」

 ヨーロッパは人狼騎士の多くいる街に美原・月(闇に放つ月輝・b15609)はいた。彼女はイーゼルにメニューを書いた黒板を置いた。
「これでよし、と」
 日本のビストロで修行した後、彼女はこちらの街で店を開いた。主に能力者としての活動を支援する場として。
「新米能力者がきら〜くに話せる場所があったっていいよね〜」
 とは店を開いた時の月の言。日に日にゴーストが強くなっているというような噂話を聞きながらケルベロスの一狼と日々を過ごしている。待つと決めた相手を探しつつ……

 四神・巽(バスタード・b10193)は毎朝の恒例となっている『万屋』宛のメールボックスを開く。大体入ってるのはスパムばかりだが。海外に向けて発信してもまあそんなものである。そんな中でも海外の能力者達からの情報もそこそこに。それを元に能力者としての活動を行うこともある。
「やー、気侭な旅ってのはええもんやねぇ。ちょい金欠気味やけど……まぁ何とかなるなる!」
 南極にほど近い街に降り立った巽は体を伸ばす。
「今日も張り切って行ってみよー!」
 異国にて道を歩き始める巽、彼の助けを必要とする人の所を探し始めた。

「まさか船が遭難するとは思わなかった」
 春葵が目覚めると予定とは全く違う港町についていた。ここまで来る間の嵐に巻き込まれ、やっとのことでたどり着いたのがここ。読めない文字の看板と、意味の分からない言葉のやり取り。ただ活気のあることは分かる。
「っつーか、俺って悪運強いな」
 能力者である以上、そう簡単には死にはしないだろうけれど。そんなことを考えていると、すれ違う人間の中に明らかに生きていない存在が紛れていることに気付く。リビングデッドだ。これまでの旅の中でも何度かゴーストとやりあってきたけれど。
「この分だと、日本は結構凄いことになってそうだなー……」
 カードを取り出しながら彼はその背を追うのだった。彼が目的地のヨーロッパまで行くのはしばらくかかりそうだ。

●2018年の日常
 鈴の旅路、それはいつしか二人旅となっていた。ポルトガルから始まり、スペインで助けた少年が彼女と共にフランスに入ったのはしばらく前。フランスの北部を目指し、ドーバー海峡を渡ってたどり着いたのはイギリス。
「こんな所まで来たけど、次はどこに行くの?」
「ロンドンに行って皆に会ってもいいんだけど……。ウェールズの森へ」
「偏屈なヤドリギ使いとかいないだろうね?」
「古い残留思念が残ってるかも、何回も戦場になってるし」
「……命がいくつあっても足りないよ」
 そして実際にゴーストに遭遇する二人、少年は鈴を睨む。
「まあ、これも修行みたいなものだから。ま、頑張ろうか」
 二人は武器を構えてゴーストへと挑む。鈴の冒険はまだまだ続く。

 要はとある廃墟へと足を踏み入れた。歩を進める度に埃が舞い上がる、打ち捨てられてから誰もここには足を踏入れなかったのだろう。埃を吸い込まないように手で口を覆う。
 嘗て自分はここにいた事がある、構成員として。ここは『悪の結社』のその跡、能力者を超人と崇め、優生学かぶれの秘密結社。無論非合法の。
 8歳の頃、任務から帰って来た彼女が見たのは怪物達に蹂躙される構成員達だった。後からあれがゴーストだと理解した。誘拐、洗脳、人体実験、それらで生まれた残留思念にシルバーレインが注がれたのだろうと。
 彼女がここに来たのはそれより前、自分がどのような形でここに入れられたのかを知るため。もっとも手に取った資料は雨風や虫にやられて使い物にはなりそうにない。それでもと手当たり次第に取った資料の中に名簿らしきものを見つけ、自分の名前があるのを確認する。辛うじて読めるところだけ拾えば赤ん坊の頃からここに居たらしい、更に詳しい資料を探そうとしたところで突然衝撃とともに目の前が真っ暗になる。
 次に彼女が目覚めたのは数秒後、腕の痛みに導かれて。そちらの方を見遣れば怪物が腕を囓っていた。それを振り払い周りを見回せば、彼女をあの時の怪物が取り囲んでいた。要は武器を抜き応戦するが相手の数にあっという間に打ちのめされる。力尽き倒れ行く彼女の意識は先程よりもより深い所に落ちていく。
『十分生きたし相応しい死だ』
 落ちていく意識の中、そんな声が反響する。それは彼女自身を闇の奥へと誘き寄せる、そして、落ちて、落ちて。
 加速する世界の中、一欠片の映像が目に入る。同じ結社の、友の顔。一人、二人と増えていき彼女の意識は現実へと引き戻される。
「まだ足りない、会いたい……!」
 弓を引き絞るような声が出た。そして痛みも彼女を襲う、だがその痛みは生きていることの証。弱々しく蠢く黒燐蟲を叱咤し、傷を塞いでいく。蘇った彼女に怪物達は襲いかかる。相手の攻撃を受け、避け、防ぐ。彼女は泣き、そして笑う。友誼を求める己の欲深さに。
 そして要は――。

●2018年の卒業式
 卒業式を終えた雨音が更紗の前で不貞腐れている。なんだかよくわからないうちに一流大学に入ることが決まった彼女に不満があるのなら男のことだろう。理想が高すぎる。
「妾の美貌と抜群のスタイルでなびかぬとは、男共は見る目がないと思わぬかえ?」
 バンバンと机を叩き涙目ですねるが、レポートを書いている更紗はとりあえずスルーしていた。愚痴るのに疲れたのか、今度は妄言を吐き始める雨音。
「将来は女子アナで野球選手をゲット……。いやアイドルになって人気俳優も捨てがたい……」
「夢見るだけならただですよねー……」
「ん、なんか言ったかの?」
「いえ、別に」

●2020年の日常
「やっほー。更紗、久しぶり〜」
 大学を出た更紗の前に現れたのはロングの女性だった。ぶっちゃけ見覚えがない。
「元気してた?」
「いえ、突然そんな事言われましても」
「わたしよ、わたし。雨音。薄情ね、忘れないでよ〜」
「えーと雨音、雨音……ああ、思い出しました。最近会ってなかったですし、色々変わっていたものですから」
 更紗は雨音の顔を見てようやく頭の中の姿と照合する。
「髪型も口調も変わっていたので、すみません」
「うぐ、ほっといて」
「……ほっとくって口調ですか」
「うう、さすがにこの歳になってそれは恥ずかしいっていうか痛いって言うか……ゴメン忘れて」
「……それくらいの事、妾にとって造作も無い事じゃ。任せておけい」
 更紗が当時の雨音の口調を真似すると雨音が頭を抱える。そのまま転がっていきそうだ。周りがどんなに忘れても本人は中々忘れられないものである。

 ファンシーショップなつみ。それは夏美が大学卒業とともに開いたお店の名前。店の中には可愛らしい小物とぬいぐるみが並び、小さな机と椅子で軽くお茶会が出来るそんなお店。今日はオープン初日ということで、開店記念の葉書を受け取った彼女の知人たちが集まってきていた。
 そして店主の夏美は彼女らの応対に大わらわである。まあ始めたばかりなので仕方ないといえばそうなのだけれど。更紗もその客の中のひとりとして来ていた。彼女にお茶を出しつつ、軽く話す二人。更紗は出されたお菓子をつまむ。
「あ、そういえばこのお紅茶とお菓子なんですけど……」
「だいぶ昔にも同じ事話してたような」
「そうでしたか?」
 時が経ち、店主になっても夏美は夏美のままであった。

 高校3年生の時でこは進路にちょっと前まで悩んでいた。古文に行こうかとも思ったけれども、覚えてる時代がそのように扱われるのは時々酷く寂しくなる。
 結局彼女は料理短大に進み、その道を行く事とした。今日はケーキの実習、スポンジケーキを焼き上げ、クリームを塗り、しぼって飾り付けをしていく。
「でこ、鼻にクリームついてる♪」
「はわわ、くりーむ混ぜるので夢中で気が付かなかったのじゃ。えへっ♪」
 一欠片の寂しさを胸に秘めて彼女の日常は続いていく。

 深夜、道を歩く直人は駆け足で帰り道を進んでいた。
「やー、店の掃除してたら遅くなちゃったや。深緋ちゃん心配してないかなー……って、ん?」
 彼の行く道の真中に目を爛々と光らせた存在が一体。……リビングデッドだ。
「……ああ、野良ゴーストか。運がイマイチ悪いなー」
 頭をかきながら直人は呟く。対する相手は目の前の相手に襲いかかる隙を見定めようとしている。口からはくぐもった声しか出てこない。
「いや、なんつーか……君の運がね。以前の俺なら知らんぷりだったろうけど」
 じりじりと近づいてくるリビングデッドに直人は怯えの色すら見せない。
「ちょっと色々守りたい物が出来たからね。手を汚す覚悟を決めたんだ。ごめんな」
 いよいよ襲い掛かってくるリビングデッド、直人は落ち着いてカードを取り出す。
「誰かを泣かせることになるなら、俺はキミを放っておけない。せめて苦しまないようにしてみるから……起動ッ!」

 幼稚園の小さなグラウンドで子供たちが楽しそうに遊び回っている。その中心で気を配りながら遊んでいるのは舞華だ。彼女は日々子供たちと歌ったり、お絵かきしたり、たかられて押しつぶされたりする忙しい毎日を送っていた。連日の疲れはあるけれど、充実感もある毎日だ。
 そんな彼女のとある日、彼女は子供たちに問いかけた。
「みんなは大きくなったらなんになりたい?」
 ケーキ屋さんなどと言う職業から、犬とかなどのどうやってなれるのかわからないものまで子供たちは自由に答える。その中の子供たちの内の1人が聞いてくる。
「せんせいはー?」
「そうねぇ、先生はね……」

●2021年の日常
 ファンシーショップ夏美が開店して一年。趣味で始まった店はそれなりに固定客がついていた。店の意匠にちゃんと凝っているせいだろう。1年前から店内のぬいぐるみの顔ぶれは変わっていた。先日も更紗が一人引き取って行った。その際に彼女は更紗に聞いてみた。
「更紗センパイ、恋人さんできましたかー?」
「秘密です」
 その時はイタズラっぽい笑顔で切り返されて真相は闇の中。そんな事を思い出していると扉を開けてお客さんがやってくる。
「あ、いらっしゃいませ!」
 そのお客は珍しく男の人でいつも一人で来ていた。可愛いもの好きな珍しい男性だと夏美は思っているが、そんな訳はない。夏美が彼の真の意図を知るまでには今しばらく掛かりそうだ。だってわかっている常連さんなどは楽しんでいるから。
 春は、もうちょっと先。

「保育園のチラシかあ……」
「どうでしょう、知代子様」
 儀水・芽亜(夢何有郷・b36191)は知代子に保育園のチラシの企画を持ち込んでいた。
「正直、オススメしないかな。もちろんできなくは無いんだけれど」
「なぜでしょう?」
「保育園って営利目的の部分が全面に出るとむしろ母親からすれば預けたくないんじゃないかな。あの辺りって公共福祉の面も大きいから。数もそれなりのものになるし余計にそう見えると思うわよ」
 むしろ手作りのを掲示板に貼るなどの方がいいんじゃないかと。
「そういうわけでどうしても、って言うなら受けるけれど」
「わかりました、私もまだまだひよっこですわね」

●2022年の日常
 芽亜と更紗のティータイム。お互いに忙しい毎日の間を縫って話をしている。話題の始まりは銀誓館学園の同じ結社にいた頃の話。
「社会に出てから振り返ると、『結社』という概念のいかに不思議な事か」
「そうでしょうか?」
「ええ。年齢の違う学生が自由意志で集まっているのですからね。年齢ごとに組が違う保育園で働いていると、特にそう思うことが増えましたわ」
 自分の職場のことを思い出しながら芽亜は言う。
「……更紗様の所は実績が全てでしょうか?」
「そんな事はないですよ、実績も大切ですけど、それだけで全ての評価が出るわけじゃないですから」
 そんな風にお互いの職場の事について語る、とある日の午後であった。

 旅を終えて実家に戻った鈴は、その家督を継いで小さな能力者集団の長となっていた。まあその仕事の合間にも遊ぶことは欠かしてはいなかったのだけれど。
「……あー、楽しかったなTRPG同好会のオフ会。久しぶりにセッションもできたし」
 その時のGMの顔を思い出しニヤニヤと思い出し笑いをする。
「これからもたまにやりたいけどねぇ」
 その時、何かに撃たれたように彼女の脳裏に閃きが起こった。
「そうだ! 誰かいない?」
「はい?」
 たまたまそこにいた人物に買い物のメモを渡す。筆記用具とかお菓子とかサイコロとか。
「……こんなの何に使うんです?」
「まあ、新しい鍛錬、みたいなものだよ」
 不思議そうに買い出しに行く背を鈴は見送る。
「そう、そうだよ。外に出てやれないなら中でやればいい! ……ふふ、我ながら名案だね」
 胸を張る鈴、果たして目論見通りにサイコロは踊るのだろうか。

●2022年の同窓会
 葵はげんなりした。もう会うことは無いと思っていたのに。そして示し合わせたわけでもないのだが要するに暁雲と辰黄がいた。
「偶然とは恐ろしいものですねェ」
 こいつも変わらねえな、と辰黄は思いつつ適当に話をする。
「貴方に心配される謂われはありませんヨ」
「心配なんてしてねえよ」
 更に葵の眉間にシワが寄る。
「……暁雲のことが心配何でしょう?」
「『やめとけ』とは言ったがな」
 そして二人は更紗に無謀にもアタックする暁雲を見る。辰黄曰く空気に酔ってると言っていたが。
「結婚して下さい!」
「嫌です」
 その時間差0.3秒。そこそこの速度である。
「え? だって器量も要領も良くて碧眼と銀髪が綺麗で……え? だめ? なんで?」
「褒め言葉は受け取っておきますが、私あなたのこと殆ど知りませんから。ましてや勢いだけみたいですし」
「そろそろ恋愛経験しないと手遅れになっちゃ」
 ものすごい勢いで更紗に弁慶の泣き所を蹴られた暁雲は声にならない叫びを上げる。日頃の好感度は大切というお話。

 弁当屋【樹雨の虹】。銀誓館学園の結社の一つであり、長く続いている結社でもある。その建物にかつてここに所属していた能力者達が集まっていた。
「こういう風に大勢で集まるのは本当に久しぶりですよね」
 緋坂・燐(氷想華・b53619)がグラスを手に集まった面々を見回す。
「やっほー。みんな元気ー?」
「元気だよね、俺もすごい元気だよ!」
「こうやって集まるんはかなり久しぶりやなー。元気しとった?」
「皆元気そうで何よりだね」
 口々に集まった人間が互いの無事を確かめる。近いうちに世界結界が完全に崩れるのだ、そう言うやり取りがあるのもむべるかな。
「しかし皆さん相変わらずでほっと……しました?」
「え? キョドる癖はなくなったはずなんですけど……皆さんに会うと、まあ、あのときの口調がもどってきますね」
 幹事の蕪菜・鈴菜(三尺聖域・b81577)が昔に戻りつつ話す。
「かわってなーい♪」
 月が店内のあちこちをぺたぺた触って回っている。
「あの、乾杯を……」
 鈴菜が皆の前で乾杯の音頭を取る。すでに皆手に器を持っている。
「そ、それでは、皆様の前途とこれからの活躍をお祈りして……乾杯!」
「「「乾杯!」」」
 懐かしい顔ぶれとともに話し始める一同、その場には恋月の用意したおつまみ類が並んでおりそれぞれ適度に摘んでいる。料理を見て思いついたのか月が幹事の鈴菜に聞く。
「厨房借りて料理作っていいかな? 今はね欧州でビストロ経営してるんだよ、みんなにその味を味わってもらいたいな」
「あ、俺もやっとめでたく自分の店を銀誓館学園の近くに出せることになったんだよね!」
「あ、でもでも恋月先輩の料理久しぶりにたべたーい!」
「しょうがないなあ」
「え、スルー?」
「じゃあこの子見てて」
「え」
 残された面々の前に4歳ぐらいの子が一人。恋月の連れてきた碧という名らしい。
「……どうしましょう」
 子供相手に途方に暮れる更紗。明らかに慣れていない、そんな彼女の代わりに燐が碧の相手をし始める。打って変わってこちらは慣れている感じだ。
「……もしかして?」
「はい、今は姓も変わって子供も二人いますから」
 微笑みながら燐は言う。苗字が朱残になったそうだ。
「写真を何枚か持ってきたので、興味ある方は後でお見せしますね」
「じゃあ俺の子供も見せてあげよう! ほうらほうら!」
「可愛いですね」
「可愛いでしょ、だよねー!」
「きっと母親似なんでしょうね」
 直人の親馬鹿っぷりに更紗が冷水を浴びせる。本人は全く気にしていないが。
「結婚に……子供かぁ……。俺32何やけど……」
 横目で巽をちらりと春葵は見た、とりあえず色々黙っておくことにした。そんな騒がしいやり取りを遠くに聞きつつ恋月と月は料理をしながら話をしていた。
「薬指に指輪はついぞ、付けれなかったけどね」
 はにかんだ笑顔で恋月は言う、そのまま近況なんかを話しつつ皿を持って二人は会場へと戻ると話題はやはりそれぞれが今何してるいるかに移っていた。
「お、そういや更紗は今なにしとん?」
「え、それ聞きたい。更紗ちゃんの仕事はなになに?」
「えっと今は、食品添加物の研究とかそういうのをしてますね」
「弁当屋で過ごしたことが少しでも影響してる? る?」
「そうだと思いますよ、やっぱり」
 ここでの経験が色々生きてきているのは月としては嬉しいのだろう。
「ところでみなさんはどうなんですか?」
「俺はようやく一段落ってとこかなぁ……ま、歳も歳やし?」
「俺はぶらぶらぶらぶら海外を歩いてたよ。まだまだ行ってない所も沢山あるからね、このまま放浪を続けるよ」
「どこかに、腰は落ち着けないんですか?」
「四季光の家には一人子供を残してあるから、俺がやることはもうないからね」
「結婚してるんですか? 相手は?」
「……まあそれはいいじゃないか、うん。聞いても大して面白くない話だよ。どうでもいいしね」
 春葵はそれよりも他の人の話をと、話を振られたのは碧の相手を恋月と交代した燐。
「私は子供向けの話を創る仕事に就いていますよ。昔は早く自立したくて、能力者業に絞るつもりでしたが……」
「色々、変わりますよね」
「そうですね。あとは色々と重なって細々と本を出させてもらっています」
 昔の自分の焦りも、今から見れば大したことではないと彼女は語る。
「……今はここに来られてない人も結構います、よね」
 能力者としての戦いが続いていたころが多感な時期だったからなのかもしれない。そんな頃に一緒にいた人の顔を思い出しながら窓から鈴菜は空を見上げた。
「そっちの世界はどうですか? 楽しいですか? 私たちは結構、こっちを楽しんでいますよ」
 勝ち誇るように小さく空に向かって鈴菜は言った。視線をもとに戻して再び話に聞き入る。
「今さ、芸能科も色々あって大変なのさ。去年の卒業生で青田買いと思ったらブレイクしちゃってさ……」
「面白そうな食品があったら教えてね。なんか特殊な人達相手の料理を考えることが多くなったんだ」
 このまま話せばずっと長くなるだろう、鈴菜はここで手を叩いてお開きの時間が迫ってきた事を知らせる。
「はい、名残惜しいですがそろそろお開きです。……あ、二次会がご希望でしたら遊びに行きませんか? 今日は朝まで遊べますよ?
 まあその話は後でと言いつつ、片付け始める。その中でもやはり話は尽きず。
「最終的に結界のない世界ってのがグッドエンドやとは思わんかったなぁ。必死に壊さんよーにしてたもんな」
「でも壊れるまでに準備ができたから、壊れても大丈夫なんですよ」
「こうして皆と会えるのもそういうことかなぁ。身にしみて分かるわ。……ところで俺に告白してくれるような可愛い子とかは」
 いません。彼氏募集中の鈴菜ならいるけど。
「……あ、そうです」
 片付けがひと通り終わった後、燐がカメラを出した。
「折角なので皆で写真も取りませんか? 記念になりますし、またこうやって集まれますようにと願いを込めて」
 彼女の呼びかけにその場にいた全員が集まりシャッターが降りる。この時の写真撮影を追えそれぞれの生活に戻って行った。またいずれ会える時まで。


●2023年の日常
 アリスは駆けていた。今世界には銀誓館学園を中心とした能力者のネットワークができつつある。戦力も情報もあっという間に届くシステムだ。だがそれでも、どうしてもその網から抜け落ちる事例と言うのは存在しうる。彼女はそういうものを受け止めるため目の届きにくい場所を行く。
 無論その殆どが杞憂に終わる事が多い、けれども。
「そこまでデス!」
 醜悪な妖獣の前に飛び降りる、そして背にはたった今まで追われていた少年。黒き刃を抜いて後ろの彼に逃げるようにと諭す。
「ガアアゥ!!」
 目の前の妖獣は咆哮する、だが彼女の中の火は消えない。HEROという名の火は彼女だけではなく他の誰かの心にも灯るだろう。
「ハッ!!」
 彼女はそれが大きな炎となる日を夢見て、彼女なりの正義を貫き続ける。

●2023年の同窓会
 銀誓館学園の同窓会、最初の卒業生が出てから10年以上経ち所帯を持つ者も多い。芽亜もその中の1人で、体の中に新たな命を宿していた。
「上の子は夫が見てくれています。たまには父親らしいことをしていただかないと」
 出された椅子に腰掛けて芽亜は腹部を撫でる。
「もう、この子の世代では生まれた時から能力者ですのよね。そういう新しい常識私たちの方も慣れませんと」
 もう新しい時代はすぐそこまで来ている、芽亜の子はどんな世界に生まれ出るのだろうか。

●2024年の日常
 とある小さな木造の建物。扉の向こうからは甘い匂いが漂ってくる。その香りの元である厨房では冴兎が仕事をしていた。ここは彼が持った喫茶店、始めたばかりで最も大事な時期でとても忙しそうに動いている。カウンターには妻の明良が立っており、新しい店や香りに惹かれて来るお客を応対している。その中には懐かしい顔もあった。
「いらっしゃいませ……って、知代子じゃねーか! 久しぶりだなー。髪短くしたんだな」
「えっ……、もしかして静月先輩!?」
「いや、今は……」
「……ん、知代子……? すごく久しぶり……」
 冴兎が奥から出てきて知代子が二人を見てから合点が行ったというようように頷いた。
「そ、オレらの店なんだここ。まだ始めたばかりでキツいけど、なんとかやってるよ」
「……ご注文は……?」
「あ、そうね。とりあえずは……」
 知代子を席に案内しながら明良はよもやま話をする。
「知代子は……DTP? 電子出版か?」
「電子出版っていうか……デザイン、かな。レイアウトとか」
 楽しそうに話す明良を見、出すものの準備をする冴兎。
(「このしあわせ……守って行きたい……これからもずっと」)
 その願いを胸に彼は日々を続けていく。

 居酒屋『桜花』。ここは辰黄が営む店。粉雪が舞い散る頃、二人の客が訪れる。
「あんな稚拙な口約束をしっかり守りに来るとは、マメですね」
「うるさい」
「や、久しぶりだねぇ!」
「まぁ席は取っておきましたから、こちらへ」
 席に着くなり酒を頼み、それぞれの近況を語り合う3人。
「僕はいま銀誓館でね、詳しくは言えないんだけど、IMSに関連したプロジェクトに参加してるんだ」
「ここらへんで、まあ、仕事をしているな」
「二人ともあの頃とお変わりないようで」
 辰黄は内心思う、そういう自分は約束した半年前より変われたのかと。3人で語れば語るほど、それぞれがそれぞれの道を歩んでいると分かる。もう、大丈夫だ。
 酒も肴も尽きかけた頃、暁雲が何かをひらめいたように言う。
「そうだ連絡先を交換しよう」
 今度こそ。卒業以来何度か会っているのに。それぞれにやり取りをした後、3人は席を立つ。店先まで辰黄が二人を送る。
「……それじゃ、また来年」
 二人はそれぞれの帰途に、その背中を辰黄は見送る。
「良いお年を」

 学園前『平家はんばーぐしちゅー店』。銀誓館学園の近くにある長い歴史を持つこの店は、やはり生徒向けに開業している。昼頃になれば一気に盛況になる。
 そこの中心にいるのはでこ。前はサキュバスのせんせーに料理は任せていたけれど、今はでこ自身で切り盛りしている。
「いらっしゃいませなのじゃ♪ 今日は、なんの料理に致しますかなのじゃ♪」
 多くのお客さんが来るこの店では。今日も看板娘兼料理長兼店長は大忙しだった。

●2024年の同窓会
 鈴鹿・小春(万彩の剣・b62229)の手紙に呼び集められた元銀誓館学園の人間が大勢いた。彼らは時とともに色々変わり、小春もまた仕事に就き、妻子を得、日夜家族のためにはたらいている。
 それぞれの近況を聞き、最後に1枚の記念写真を撮る。それを一つの区切りとして、再びそれぞれの生活に戻るのであった。


マスター:西灰三 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:22人
作成日:2012/12/19
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冒険結果:成功!
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