<リプレイ>
●2013年の穏やかな時間 それは、受験当日を数日後に控えたある日のこと。 いつものように図書室での勉強を終えた椎名・睦月(高校生真鋏角衆・b60382)は、久し振りに結社に顔を出した。 「紅樹さん、光さん、お久しぶりです」 「睦月お姉さん!」 柔らかな声と笑顔に、菊咲・紅樹(小学生真サンダーバード・b74567)が嬉しそうな表情で駆け寄ってくる。 そんな紅樹を、睦月は優しく受け止めるように抱きしめた。 「よ、待ってたぜ」 既に並べられているお菓子を食べながら、天明・光(光と闇・b55301)がひょいを片手を挙げる。 忙しい毎日、受験本番の差し迫った今、だからこそ、今日はこうして3人集まり、ゆっくりとした時間を過ごしたかった。 「思えば俺達、結構長い間一緒にいたよな」 すっかり自分達の色に染め上げられた部屋を、光が感慨深げにぐるりと見渡す。 銀誓館学園に通い始め、そしてこの結社で三人同じ時間を過ごすようになった。 「そうですね……こうして会いたくなったらすぐ会えるのも、もう少しの間だけなんですね」 3つ並んだティーカップにお茶を注ぎ入れながら、睦月が呟く。 そこにあるのは、結社の日常。 けれどこんな、他愛のない日常が、もうすぐ大きく変わってしまう。 「そういえば光さん、勉強の方はいかがですか?」 「ん? まぁぼちぼちかな」 光と睦月は、それぞれ別の大学を目指し、まだ小学生の紅樹は、これからも学園での日々を送ることになる。 それ故に、二人の言葉に、紅樹は微かならざる寂しさを感じずにはいられなかった。 (「二人ともお勉強とか忙しそうなのです」) それでも二人は、紅樹の前ではそんな様子を見せなかった。 だから紅樹も、優しい二人の気持ちに応えたかった。 「あ、あのっ!」 「どうした紅樹?」 不意の紅樹の声に、光は彼女に視線を向けて、緩やかに首を傾けた。 「お勉強、頑張ってくださいね!」 「紅樹さん?」 「いっぱいいっぱい、応援してますから!」 ぎゅっと、小さな握り拳をつくりながらのエール。 そんな、健気な紅樹の様子に、光は笑いながら彼女の頭に片手を伸ばした。 「心配すんな。離れてしまうのは寂しいけど、会えない訳じゃない」 「ええ。光さんの仰る通り、もう会えないわけではないですから」 そして睦月も、優しく笑んで、紅樹の手を包み込むよう柔らかく握る。 「依頼は受けるつもりだから学園には来るしさ」 「本当?」 その言葉に、何かを堪えていたかのような紅樹の表情が、ぱぁっと明るくなった。 「勿論! 今まで通りではないけどさ、これから先も、皆で一緒に過ごそうな」 「春休みになったら、また遊びに行きたいですね」 終わりではない。 これは、ただの節目。 「さ、お茶が冷めないうちに、いただきましょう?」 「はいっ!」 そんな、穏やかなある日の一頁。
桂木・京(ブラックウィドゥ・b43682)は鎌倉にある女子大の教育学部、レイラ・ミツルギ(魔剣士・b48060)は四国今治市の大学と、ふたりは、遠距離恋愛の真っ最中だった。 それでも、週末や長期休暇には互いに時間を作り、今治に行ったり鎌倉に来たり、相変わらずラブラブな日々を過ごしていた。 そしてこの週末は、京がレイラの元を訪れ、ふたりでレイラの車で今治観光をすることになった……のだが……。 「これほんとに走るの?」 そこにあったのは、予想外なボロ車で、京は思わず我が目を疑い、レイラに怪訝な表情を向けた。 「ちゃんと走りますよー!」 そんな京に、頬をぶーっと膨らませ、ぷんぷん抗議するレイラ。 そんな彼女が可愛くて、京は思わず笑いながら、レイラの頬を優しく包み込みつつ、ぷぅっとした膨らみを押し潰した。 そしてレイラの機嫌が直ったところで、ちゃんと走るポンコツカーに乗って観光に出発。 様々な名所を巡って写真を撮ったり、美味しい御飯やかき氷、名物のせんざんきを堪能したり。 「お土産って何がいいと思う?」 「やっぱりタオル?」 お揃いのタオルもイイねなんて話しながら、あちらこちらと巡っているうちに、空はすっかり、茜色に染まっていた。 「はわー、綺麗ですねー」 海沿いの道に車を止めて、レイラが感嘆の溜息をつく。 その横顔に、京の手が軽く触れた。 「京……?」 そして、夕陽をバックに、ゆっくり重なるシルエット。 「………今日は、うちに泊まっていくでしょ……?」 肩に凭れながらの、レイラの誘いに、京が「否」と言う筈などなかった。
●2013年の友情 今日は、銀誓館学園2013年の卒業式。 小6の頃から銀誓館学園に通っていた掛葉木・いちる(翔月六花・b17349)にとって、これは学園で三度目の、そして最後の卒業式。 (「……これで一区切り、付いた事になるんだろうか」) 胸に抱いた祝いの花と卒業証書を見つめ、ふと考える。 4月になれば、いちるは、大学生活と調理師学校の二足草鞋の生活をはじめることとなる。世界結界崩壊も併せ、寧ろここから先が、色々と忙しくなるのだろう。 けれど、自分で選んだ道だから。 あの日翔んだ大空を、脳裏に思い描きながら、いちるは再び、生徒達の名が読み上げられる壇上へと視線を向けた。
高校を卒業する者達は、これで、銀誓館学園とはお別れとなる。 (「何だか、すごく不思議な感じがするな」) けれど光は、まだ実感が沸かずにいた。 そして睦月もまた、自分が「送られる」側という感覚に、どこか不慣れなものを感じていた。 そんな二人を送る立場にある紅樹は、今、どんな気持ちでいるだろう。 (「もしかして、泣いてるんじゃないかなー」) ずっと気丈に、明るい笑顔で応援し続けてくれた紅樹。おかげで、志望の大学にも合格することができた。 きっと彼女なりに、ここまで色々と我慢し続けてくれていたに違いない。 (「式が終わったら、光さんと一緒に会いに行きましょう」) 会って、伝えなくてはいけない言葉が、山ほどあるのだから。
そして、式は恙なく終わる。 仲間達は、教室や渡り廊下、校門前と、至るところに集まって、これまでの想い出を語り、涙し、笑い合っていた。 「愛一朗ーーーっ!!」 「あっ、輝刃だ。おーーーいっ!!」 全力で、大きく手を振り駆け寄ってくる黒鋼・輝刃(牙鳴り散らす・b09479)を見つけた武田・愛一朗(はりけーん小狼・bn0070)は、こちらも負けじと、びょんびょん飛び跳ねながら手を振り返した。 「二人とも、卒業おめでとーだぞっ!」 「うん、ありがとう!」 「サンキューッ! 輝刃も相変わらず元気そうだよな!」 「まーな! そういえば、二人とも結局進路はどうなったんだぞ?」 「僕は進学。愛一朗は、札幌に帰る予定だって」 風祭・遊(ゆめうつつ適合者・bn0161)はそう言って、愛一朗に軽く視線を向けた。 「北海道旅行メインにしてる、小さな観光会社なんだけどな!」 そこから、皆に北海道の魅力を伝えられたらと、愛一朗が笑う。 「それにクーもいっからさ、やっぱこっちより、向こうの方が過ごし良いかなーって」 「だから、暫くは……ねぇ?」 「え?」 「あぁ……うんうん」 「えっ?」 「遠距離恋愛になるんだって」 「えっ……、それは、その……」 動揺で、視線が泳ぐ愛一朗。 「そ、それより輝刃は今なにやってんだ?!」 「おれか! おれはこれから外国に行って、野生動物保護の修行……じゃない、勉強してくるんだぞ。世界中の野生動物もだけど、無害な妖獣なんかも上手く保護してやれたらなーって思ってるんだぞ」 輝刃は、誇らしげに胸を張って答えた。 「へぇー! スゲーな輝刃!」 「そうだね、これからは妖獣も今よりもっと増えるだろうし」 そんな、感心しきりの二人の肩を、不意に誰かが強く叩く。 「遊くんとあいちろーくん、見―つけた!」 「あっかすみさん!」 突如現れた先輩の姿に、遊が驚きと喜びの混ざったような声をあげる。 「卒業おめでとね、遊くん」 「うん、アリガトウ」 「きつい依頼も一緒したことあったけど……あの時はほんと、ありがとね」 「僕の方こそ、色々心強かったよ!」 静内・かすみ(明日を描く夢色吹雪・b31968)と遊は、当時の想い出を懐かしく話しながら、手を握り合った。 「進学後の予定って、何か決まってるの?」 「うーん、まだちょっと曖昧だけど、一応……ね」 そう言って、少し恥ずかしそうに笑う遊。その肩を、かすみは勇気付けるよう強く叩いた。 「やりたい事、がっつり追い求めて頑張って、ね? 応援してるわよ!」 「うん。きっといつか、いい報告ができるように頑張るよ」 いつになるかは分からないけれど、必ずと、遊は強く頷いた。 そしてかすみは、いつの間にか自分の身長を抜かしていた少年へと向き直る。 「あいちろー君も、卒業おめでと!」 「わっは……かすみ先輩も、来てくれてサンキュー!」 「結社とかでお話したのがすっごい懐かしーわ」 「俺も。あっこいるとなんか地元にいるみたいでさー、楽しかった!」 そして二人、おそらくまだ雪に包まれているであろう、北の大地に想いを馳せる。 「北海道かー、また行ってみたいんだぞー」 「毎年、雪まつりとか楽しかったよね」 和気藹々、皆で思い出話に花を咲かせていると、その賑わいに気付いてか、いちるも、こちらへと近付いてきた。 「愛一朗、遊さん。卒業おめでとう」 「おうっ! まぁいちるも俺らと同じ卒業生だけどな!」 「アリガトウ! ……って、そういえばそうだよね」 軽い愛一朗のツッコミに、皆から自然と笑いが零れる。 「それじゃあ、みんな纏めておめでとー!」 「よしっ、みんなおめでとーだぞ!」 沢山の友情に支えられて。 どうか幸い満ちる日々になりますよう。 いちるは、胸の内でそっと願った。 「ところで……愛一朗」 「ん?」 「がんばれ、だぞ!」 「……!」 そして、輝刃に話題を蒸し返された愛一朗は、真っ赤な顔で思いっきり咳き込んだ。 そしてまた、こちらでも。 「おっ、いたいた紅樹!」 「紅樹さーん!」 人混みの中、光と睦月は紅樹の姿を見つけると、大きく手を振りながら、すぐさまそちらへ駆けていった。 「光お兄さん! 睦月お姉さん!」 同じくして、紅樹も二人の元へ駆け寄ってくる。 「卒業、おめでとうございます!」 零れそうな涙をグッと堪え、真っ直ぐに、笑顔でおめでとうを伝える紅樹。 睦月はそんな紅樹の手を、いつかと同じように、そっと優しく包み込んだ。 そして光も、ぽんと頭を軽く撫で、緩やかに引き寄せてやる。 「………」 伝えたい言葉は、次から次へと沸き出してくる。 けれど光と紅樹を前にすれば、それ以上に気持ちが溢れ、うまく言葉がまとまらない。 だから睦月は、たった一言に想いを込めた。 「私はお二人に出会えて幸せです」 「わたしも光お兄さんと睦月お姉さんに会えて幸せでした!」 その言葉に、紅樹が全力の笑顔で頷く。 「俺だって!」 当然だと言わんばかりに、親指を立ててみせる光。 「叶うなら、これからもどうぞよろしくお願いしますね」 「もちろんです!」 「ま、これからも依頼なんかで、かなり頻繁に銀誓館には来るからな! だからな、大丈夫だぜ!」 未来のために、やるべき事はまだまだある。 世界結界がなくなっても、絆がなくなるわけではない。 それはこの先も、きっと、ずっと。
●2014年のそれぞれの道 専門学校を卒業したイルト・フェズティ(不屈の闘志は笑みに隠す・b65683)は、小さな喫茶店で、アルバイトをはじめていた。 アルバイトといっても、その仕事内容は多岐にわたり、カウンターからキッチンのヘルプ、その他諸々、彼は、ほぼすべての仕事をこなしていた。 そして、時折訪れるこんな客とも……。 「いらっしゃいませ」 その客は、遠い地からここまで来たのであろう能力者だった。 イルトの淹れた、薫り高いコーヒーを飲みながら、客はぽつぽつと、出会ったゴーストのことを語り始める。 「おや。同業者さんですか。ここがひと時の安らぎの場となれば本望です」 世界結界が崩壊した昨今、こんなことも、少なくはない。
遊佐・霧雨(月と隕石・b13986)は、卒業後、退魔を生業としていた実家の跡を継ぐために、故郷である能登地方に帰郷していた。 世界結界消滅以降、この付近にも、多数のゴーストが出現するようになっていた。 霧雨は、表向きは地元高校の歴史の教師としながらも、日々、付近に出現するゴーストとの戦いに追われていた。 寒い地方ではあるのだが、相変わらずの薄着。胸元に手を寄せてしまう癖も、相変わらずである。
●2014年の海 卒業式が終わる。 保護者席から、ずっと愛しい人の晴れ姿を見守っていた葵・陽虎(厳し羆・b48150)は、式が終わると、すぐさま彼女の元へと向かった。 今日、この場で、どうしても伝えたいことがある。 そして、そんな彼の姿を探す、華奢な少女……海月・水母(悲しみのジェリーフィッシュ・b60460)。 卒業証書を胸に抱いた水母は、陽虎の姿を見つけると、幸せそうな笑みを浮かべ、彼の元へと駆け寄った。 ───不仲の両親からの虐待、離婚……その後も続いた、筆舌に尽くし難い日々。 それらは、銀誓館学園に保護されることで、漸く終わりを告げた。 けれどそれらの経験から、水母は、、愛される事や必要とされる事に渇望し、自分を愛してくれる陽虎に対し、一種病的といえる、強い依存心を抱いていた。 片時も離れたくない。彼女は、そう強く願い続けていたのだが、学生であり、寮暮らしであるということで、まだ同棲はできないと、彼からずっと諭され続けてきた。 そんな彼女を。 この日まで、ずっと、我慢して待っていてくれていた彼女の姿を知っているから。 陽虎は、駆け寄ってきた彼女の肩をそっと抱くと、促すように歩きながら、告げた。 「それでは、私たちの家に帰りましょうか」 「えっ……?」 少し驚いたような水母の肩を抱いたまま、陽虎が向かったのは、海の近くに建てられた、小さな一軒家だった。 かなり古ぼけていて、リフォームの苦労が伺える家ではあるが、窓からの見晴らしはとても良い。 「さぁ水母さん、ここから私たちの新しい生活が始まります」 それはつまり、同棲の承諾に他ならない。 「もう、これで離れなくても良い……?」 目の前の現実に、まだ思考が追いつかないのか、少し恐る恐る陽虎に訊ねる水母。 「ずっと一緒に居てくれる……?」 「死が二人を分かつまで一緒ですよ」 陽虎は、その身からは想像できぬほどの柔和な笑みを水母に向けると、改めて、彼女をまるで硝子細工でも扱うかのように、優しく両腕で抱きしめた。 「あの、あたし、いっぱいいっぱい愛してほしいなって……」 逞しい恋人の腕の中、包みこむような幸せに小さく身を震わせながら、水母が紡ぐ。 「寂しかった……ずっと寂しかったの……」 そして、繊細な指先で、きゅっと陽虎のシャツを握りしめる。 「水母さん……?」 じわり、彼女の瞳から溢れた涙が、シャツを濡らす。 けれどそれは、けして、悲しみからの涙ではないことを、陽虎は誰よりも強く感じていた。
●2015年の道標 大学を卒業した永遠月・光鈴(夜闇に輝く白銀の月・b47320)は、本当の世界の歴史を知るために、各地を渡り歩いていた。 「……これが、世界の本当の歴史……。興味深いわね」 世界結界によって今まで隠されていた真実を、ひとつ、またひとつと繙いて、歴史資料として纏めてゆく。 そして、この旅路の、もうひとつの目的……。 「その力。使い方と自分のあり方を知りたいならば、鎌倉の銀誓館学園に行きなさい。貴方たちの運命が待っているわ」 光鈴は、旅先で出会った能力者の卵達を、銀誓館学園へ導いていた。 この、新たな能力者達は、はたして、どんな歴史を紡いでゆくのだろうか……。
●2015年の絆 式を終えた手取川・菊姫(加賀の露・b67533)が校庭に向かうと、そこには、従姉妹であり姉分でもある霧雨の姿があった。 「……おめでとう、菊姫」 すっかり立派になった菊姫を見て、感極まり、涙を流す霧雨。 菊姫は、そんな霧雨にやれやれと小さく笑いながら、彼女に婚約祝いの言葉を返した。 「姉様こそ婚約おめでとうございます」 「え、あ……ありがとう……」 思わぬ祝いの言葉に、霧雨は、感謝の言葉を述べながら、また大粒の涙を零した。 「姉様……」 これまで、なにかと霧雨のことを頼りにしてきた菊姫。 けれど、この卒業、そして大学への入学を期に、いつまでも甘えてなどおらず、独り立ちしなくてはいけないと、心に強く誓っていた。 尤もそれは、霧雨と菊姫の仲が終わるわけではなくて。 仲睦まじい関係は、これからも、ずっと続いてゆくのだろうけれど。
そして卒業証書を持ったまま号泣する川嶋・菜々香(後方の青色・b62613)のもとには、去年卒業したばかりのリヒャルダ・エンデ(高校生真貴種ヴァンパイア・b47011)が駆けつけていた。 彼女は今、学園で、IGC関連の研究に携わっているらしい。 「菜々香さん卒業おめでとうございますー♪」 「リヒャルダ様、お祝いありがとうございます」 語り合い、思い起こすほどに、印象深い学園生活だった。 「結社で初めて出会ってから、今までお世話になりました。わたくしを従者にしてくれたのも、すごく嬉しかったです」 リヒャルダの従者としての日々は、菜々香にとって、とても充実したものだった。 「ふふーっ、菜々香さんはーこれから先もわたしの大事な従者ですよー」 そしてその関係は、これからも、ずっと続いてゆく。 「これからも一緒にー永い時を楽しんでいきましょうねー♪」 「はい、これからもどうぞよろしくお願い致しますわ♪」 おそらくは、学園で過ごした時間よりも、ずっとずっと永い刻を。 二人は、共に過ごしてゆくことになるのだろう。
卒業式が行われるのは、勿論、小学生も同じ。 「初めてお会いした時はまだ小学一年生でいらしたのに……」 「すっかり大きくなったよなー」 初めて出会った時と比べ、いつの間にか大人になった紅樹の晴れ姿を、睦月と光は、こっそり遠くから眺め見ていた。 「何だか、自分が銀誓館学園にやってきた時のことを思い出しますね」 「あぁ。それに、俺達の卒業式の日の事とかな」 式が終わり、紅樹が会場から出てくるのを待ちながら、二人は暫し思い出話に花を咲かせた。 そして漸く式が終わると、あの日のように、大きく手を振り合いながら駆け寄り合う。 「ご卒業おめでとうございます。紅樹さん、すっかりお姉さんになられましたね」 「身長も伸びたし、これからどんどん大きくなってくんだよな」 2年前に比べて随分と高くなった、紅樹の頭を撫でながら、光が笑う。 「あのっ、ありがとうございます! 光、先輩! 睦月先輩!」 「えっ?」 「先輩?」 今までの「お兄さん、お姉さん」から、少しだけ背伸びして。 「はいっ! 光先輩、睦月先輩、これからもどうぞよろしく!」 紅樹は明るい笑顔で、二人に言った。 「紅樹さんに先輩と呼ばれるのは、何だかくすぐったい気分ですね」 けれど、相変わらずの元気そうな姿に、睦月の表情に笑みが浮かぶ。 「卒業とか、就職とか、これから先も色々変わってくと思うけどさ……」 それでも、変わらないものだってある。 「これからも、皆で一緒にいられたらいいな」 「はいっ! これからもずっと仲良くしてね!」 感慨深げな表情を浮かべながら話す光に、紅樹が元気一杯に頷く。 「そうですね、皆さんこれからも、どうぞ宜しくお願いします」 そして、睦月も。 改めて絆を確認し合った彼ら。 まだ視ぬ未来は、きっと、輝かしいものに違いない。
●2016年の再会と永遠 御角・心流(フライガールイズム・b08087)映像制作のノウハウを武器に、フリーのダンサーとして活動し、忙しいながらも充実の日々をおくっていた。 そして久慈・久司(運命予報士・bn0090)もまた、大学卒業後、ユニセックスなルックスを活かし、モデルとしての活動を本格化させ、メディアに顔を出す事も増えていた。 互いに、多忙な毎日ではあるが、それでも時折連絡を取り合い、スケジュールの合間を縫って、久し振りに二人で会う機会をつくることができた。 「久慈ちゃーん、元気だったー?」 「やーん! 心流ちゃん久し振りィー♪」 とある地方都市にある、知る人ぞ知る隠れ家的ダイニングバーの一角で、キャッキャと手を取り合って、久々の再会を喜ぶ心流と久司。 「久慈ちゃん、最近あちこちで見かけるわよお♪ すっごい活躍じゃない!」 「やだァ、アタシなんてまだまだ新人。やっと雑誌たTVで取り上げてもらえるようになったばっかりよォ」 恥ずかしげに返しはするが、やはり、ここ最近の活躍を認めてもらえる事は、とても嬉しい。 「そういう心流ちゃんは? ダンスの方、頑張ってるんでしょぉ?」 「うん、実はね……今度、とあるメジャーアーティストメイン・バックダンサーを務める事になったんだ」 「ヤダッ! 何それスゴイじゃなァい!!」 「ちょっ……久慈ちゃん、声ッ! 声!」 驚きと喜びのあまり、つい大きな声を出して立ち上がってしまった久司に、他の客の視線が集まる。 「……キャ、やだっ……」 慌ててスツールに掛け直し、身を縮み込ませた久司は、改めて、心流にバックダンサーの件について訊ねた。 「でもホント、スゴイわぁ! ……で、その大物って、一体誰……?」 「それについては、まだ内緒。まだちょっと、不安だったりするから……」 そう言って、心流はぽつぽつと、胸の内に抱えていた不安を吐露しはじめた。 「……そうョね……アタシもソレ、分かる気がするわぁ……。けど心流ちゃんなら、アタシ、きっと出来ると思うの!」 久司は心流の手を強く握った。 「だからネ、頑張って!」 「うんっ、何だかちょっと自信ついた!」 心流の表情から、先程までの翳りが消える。そして、エールを贈り合うように、再び乾杯したあとは、最近のお気に入りのお店やファッション、食べ物から、いつの間にか恋バナへと。 乙女達の楽しい時間は、夜が更けるまで続いたそうな。
喫茶店でのアルバイトを続けていたイルトは、その手腕を買われ、前店主から店を引き継いでいた。 名を『銀のひかり』と改めて、営業も軌道に乗りだしたある日の事……。 「マスター、突然すまない!」 「おや、どうし……、!!」 そろそろ店を閉めようとしていた時だろうか、常連客のひとりが、深手を負った女性を抱え、店へと飛び込んできた。 「すぐに店の奥に!」 イルトは事情を聞くより先に、二人を店の奥へと促した。 そして、ソファーの上に下ろされた女性の顔を見て、かつてないほどに驚愕した。 そこにいたのは……かつて、いや、今も心密かに想い続けていた、光鈴だった。 彼女をここへ運んできた常連客は、すぐに仲間達の元へ戻らなくてはいけないからと、既に店を去っている。 「ぅ、ん……」 「……気付きましたか?」 看護の甲斐あり、程なく意識を取り戻した光鈴に、イルトは柔らかに微笑んだ。 そして、ぽつぽつと会話を交わしてゆく。 「これから先……実は、行くあてもないし、色々と未定なのよね」 「それなら、どうです? ここで働きませんか?」 「え、っ?」 突然のイルトの申し出に、光鈴は目を瞬かせた。 けれどイルトは言葉を続ける。 「もう、この運命の糸を断ち切らせるつもりはありません」 それは、告白の言葉。 「……あ」 今までずっと、彼の感情に気付けていなかった光鈴だが、実は彼女も、イルトに好意を寄せていた。 「僕は、貴方を……」 「…………」 俯いたまま、けれど確かに頷く光鈴。 再び巡り会った運命の糸が、もうけして切れぬようにと、触れ合った互いの指を絡ませながら。
今日は、水母の20歳の誕生日。 少し前に、MMAの選手としてアメリカでセレクションマッチを勝ち抜いて、メジャー団体との契約にこぎつけていた陽虎は、これを機に、水母との入籍を決意した。 しかし、『家族』というものに不信感しか抱いた事のない水母には、誰かの傍にいたいという願望は強くても、結婚願望というものは皆無だった。 それでも、陽虎にケジメだからと言われれば、黙って頷き、了承する。 陽虎の主戦場のアメリカであるため、日本で、彼の名を知る者は少ない。しかし「和製ヘヴィー級選手」として、専門誌ではそれなりの知名度を獲得できるまでになっていた。 生活力でいうならば、何ら不安はない。 けれど水母の心の中には、まだ癒えぬ、過去の傷がある。 浮気ばかりしていた実父の影が、彼女の瞳を翳らせる。 「陽ちゃん、あたし何でもするから……。だから絶対あたしを捨てないで……」 涙ながらに陽虎に抱きつき、身を震わせ、哀願する水母。 そんな彼女を陽虎はそっと抱きしめた。 「私は水母さんが何よりも大事なんです。絶対に離しませんよ」 いつまでも、必ず。 それは、永遠の誓い。
●2017年の人生の転機 リヒャルダは、IMSの為のIGC研究を続けていた。 「やっぱり研究は天職ですねー、楽しくてしかたありませんー♪」 そう言って笑う彼女の傍らには、当然のように菜々香がいる。 「ここをこうしてはいかがでしょうか?」 「ではー、早速組み込んでテストしましょー♪」 二人のチームワークは抜群で、ときに躓いたり、壁に突き当たったりしながらも、へこたれることなく、おかげで研究は少しずつではあるが確実に前進していた。 そしてもうひとつ。 彼女達は、忙しい研究の合間、目覚めたばかりの能力者達の保護やスカウトにも精を出していた。 「あ、あなたは誰……?」 「うふふ、初めましてー新しいお仲間さんー♪」 「もしよければ銀誓館学園に来ませんか?」 力の裏付けの有用性を説き、学園へと連れ帰れば、人助けにもなり、IMS実践研究のデータも取れる。 それに、新たな仲間も増えるとなれば、一石二……いや、三鳥か。 (「先輩としてちゃんと導いてあげませんと!」) 今日もまた、ひとりの少女を学園に招くことに成功した菜々香は、これからの事を考えて、キリリと表情を引き締めた。 「菜々香さんー♪ いつも感謝ですよー♪」 いつも一緒にいてくれて、どちらも頑張ってくれる菜々香に、リヒャルダが嬉しそうに感謝を述べる。 「わたくしの方こそ、こうやってリヒャルダ様と一緒に働けて、幸せです♪」 必死に勉強した甲斐がありましたと、菜々香もまた、嬉しそうに笑みを返す。 「さっ、それでは研究に戻りますよー♪」 「はいっ!」 二人の研究者は白衣を靡かせ、また今日も、研究室の奥へと消えていった。
氷上・綜多(風無き夜の雪影・b67455)は、この日もまた、水無瀬・葵(黒刃の屍狩者・b03253)にイグニッションありのタイマン勝負を挑んでいた。 これでもう、何度目の勝負となるだろう……両手両足の指を合わせても足りぬほど、何度も何度も負け続けてきた。 けれど……。 「……! 隙あり!」 「くっ……!」 幾度もの戦いの中で、漸く見つけ出す事の出来た、葵の癖。 綜多はそれを巧みに突いて、遂に、彼女から念願の勝利をもぎ取る事に成功した。 「ッはー……とうとう一本とられたな」 葵は地面に横たわったまま、暫し呼吸を整えた。そして、戦いの余韻が程良く落ち着いてきたところで、伸ばされた綜多の手をとり、起き上がる。 「なあ、葵さん」 「ん、どうした?」 どこか改まったような綜多の態度に、葵は背や足についた土埃を払いながら、緩く首を傾げた。 「……俺と、付き合ってもらえないか?」 「は?」 突然の告白に、葵の動きがぴたりと止まる。 正直なところ、葵に、その発想はなかった。 いや、もしかしたら、無意識に考えないようにしていただけなのかもしれない。 けれど彼女が何を思い、考えているのか、綜多には薄々察しがついていた。 だからこそ、彼女に勝つまでは口にすまいと、心に決めていた言葉ではあるのだが。 (「……要するに、私もなかなかしつこかったという事か」) 脳裏に一瞬、燕・十三の姿を見た葵は、小さく自嘲すると、今度は、綜多と暮らす己を思い描いてみた。 (「……ふむ。悪くはない、か?」) となれば、断る理由は特に存在しない。 「では今度の連休、私の実家にでも行くか」 「ああ、了解だ、今度の連休……って、えっ?」 それは、あまりにも突然な展開で。 喜びよりも驚きが勝ってしまったかのような表情で、綜多は暫し、固まっていた。
そして……。 約束の連休初日。 有言実行の葵に連れられ、綜多は、彼女の実家を訪れていた。 (「おかしい、何かを色々とすっ飛ばしたような……いや良いんだが」) 緊張した面持ちのまま、家の中へと通されると、そこで待っていたのは、葵の両親に加え、長兄次兄夫妻の計6名。 しかも皆が皆、若い頃はヤンチャをしていた武闘派……もとい体育会系だ。 (「殺気が痛い……」) びりびりと、異様なまでに張り詰めた空気は、男性陣から発せられているもの。 「やれやれ……男が出来たら連れて来いと昔約束したから、連れて来たというのに」 三人の男性の誰から「貴様のような男に娘(妹)はやらん!」の、こういう場での決まり文句が飛び出してきてもおかしくなさそうな状況に、葵は呆れ気味に溜息をついた。 尤もそんな言葉は、母とともにアッサリと黙らせてしまったが。 「不幸にしたら海に沈めれば良いじゃない」 「……」 「…………」 ただ、その後でサラリと言われた言葉は、葵はちょっと聞こえない事にしておきたかったのか、硬直する綜多を余所に、すっとさりげなく、茶菓子を取りに立ち上がっていた。
ピリピリとしていた場の空気も、女性陣が主導権を握ってからは、すっかり和やかなものになっていた。 「ところで葵」 「はい?」 「結婚式はいつー?」 「!!?」 突然の義姉達の攻撃に、茶を噴き出しそうになる葵。 更に追い打ちをかけるように、母が葵のアルバムを嬉々として持ってきて、綜多に見せようとし始めた。 「えっ、ちょ……止めろ、本気で止めろ!?」 葵は慌てて母の事を止めようとしたが、今度はそこに、父と兄達のコンボが決まる。 「葵はなぁ、小さい頃は、父さんの嫁になると言ってきかなくて……」 「父さんもなに勝手な嘘を言っている!」 「そうそう、父さんじゃなくて俺のだったな」 「いやいや俺だったろ?」 「涼兄も真兄も、これ以上記憶を改竄するな!!」 綜多は、ここまで動揺し、取り乱す葵を見るのは初めてだった。 「なんというか……」 故に、ついうっかり、口に出てしまった。 「ものすごく可愛くて……どうしよう……」 「!!!」 その瞬間、葵の拳が綜多の顔面目掛け飛んできた。 ある程度想定の範囲内であった為、どうにかガードは間に合ったが、それでも威力は半端なく、綜多の鼻は、真っ赤に染まってしまった。 けれど、その発言を讃えるように、男性陣から拍手が送られた。 「お前分かってるじゃねーか」 「え、あ、はい。どうも……?」 笑いながらバシバシと、痛いくらいに肩を叩いてくる父。兄達からも、交互に握手を求められる。 (「もしかして、認められたのだろうか……」) 綜多は、心密かにそう思った。 しかし……。 (「……納得出来ん……」) 葵は逆に、真っ赤になったまま、ぶすーっと黙りこくってしまった。 おそらくもう暫くすれば、母の再びのアルバム攻撃で、場は賑やかさを取り戻す……いや、更に賑わいを増すのだろうけれど。
●2018年の息吹 いちるが教師となって、早2年が過ぎようとしていた。 今年は3年生を受けもつ事となったのだが、元気の有り余っている子が一杯で、楽しいながらも、色々と試行錯誤の日々を送っていた。 そんな中、いちるは時折、教え子である双子の兄妹と、世間話を楽しんでいた。 ───実はいちるは、兄妹と、中3の頃に出会っていた。 彼らの両親からは時々近況報告を受けていたが、イグニッションカードを携えたふたりが、教師となった自分の前に現れた時には、流石に少し驚いた。 (「偶然なのか運命なのか分からない……けど」) けれど、これもまた運命。 そしておそらくは、これからも、様々な運命が彼らを取りまいてゆくのだろう。
京とレイラも、それぞれ、銀誓館学園の養護教諭と教職員になっていた。 そして京はいよいよ、学生の頃から考えていた、土蜘蛛組織復興を、実行に移そうとしていた。 まずは学園内の土蜘蛛達に呼びかけて、新組織の設立。 それから、現代まで適応してきた妖狐の手腕を参考として、葛城山周辺を本拠地にするべく、地元名士たちとの話し合い。 これには、大学時代、友人の組織設立の手伝いをした事があるというレイラの知識が、とても役に立った。 「はわー、毎日目が回りそうですねー」 「しかし、まだまだやるべき事は山積みだからな」 葛城山周辺の住民と軋轢が発生しないよう、各所を駆けずり回ったり、土蜘蛛と人間、それぞれの立場から意見を出し合ったり。そうして得た資料を纏めたり。 「武装組織を目指すのではない。一度は失った、大切な、故郷ともいえる場所を、私は再び蘇らせたいんだ……」 「そうですねー。新しい時代に、土蜘蛛がちゃんと一つの種として、他の種の友人として受け入れられるようになったら、とても素敵だと思います」 膝の上に頭を乗せて、ウトウトしながら話す京に、レイラは微笑み、頷いた。 「頑張りましょうね、京……」 そして、いつの間にか寝息をたてていた京の額に、そっと、唇を触れさせた。
赤ん坊が泣いている。 それは、陽虎と水母のあいだに生まれた、新しい命。 「あっ、あっ、あぅぅ……」 しかし、赤ん坊との接し方が分からない水母は、我が子が一体何を求めて泣いているのかが理解できず、パニックに陥り、赤ん坊に触れられぬまま、一緒にぽろぽろ泣き出してしまった。 「どうしたんですか水母さん」 「ぁぅ……陽ちゃんたすけて……」 けれどそんな時でも、傍に陽虎がいてくれる。 「だいじょうぶですよ。おなかが減っているだけですから」 陽虎はそう言って、片手で赤ん坊を抱き上げると、もう片手で水母の背を宥めるように撫でてやった。 「赤ん坊は泣くことで自己主張するんです。泣くのが当たり前だからそんなに心配することはないですよ」 「……ぁ、はぃ……」 赤ん坊の抱き上げ方ひとつままならない水母ではあったが、優しい夫の指導のもと、辿々しくも、どうにか授乳をこなそうと奮闘する。 それに応えよう、支えようとするように、陽虎もひとつひとつ丁寧に、子育ての仕方を教えてゆく。このあたり、妹達を実質的に育ててきた経験が活きたという事だろうか。 「授乳の後は、こうやって、げっぷをさせてあげてください」 「げっぷ……はい……」 基礎的なことから、ひとつひとつ。 慌ただしく、大変ではあるが、それはそれで幸せな日々。
●2019年のヒヨコ
●2019年の龍と狼
●2018年の新たなる夢 「やーんかすみちゃん! 元気だったぁ〜?」 「久司ちゃん久し振り! なんだかますます綺麗でかっこよくなった気がするわ!」 卒業後、多忙な日々を送っていたかすみと久司にとって、今日は初めての同窓会。 互いの元気そうな、そして一回り成長した姿を、手を取り合って喜び合う。 「かすみちゃん、今は何やってるのぉ?」 「今はねー、無事に病院研修も終えて、医者やってまっす!」 目指すところは精神科。 かすみは、能力者となったばかりの不安定な人々や、ゴースト事件で心に深い傷を負った人達のケア、そして、能力犯罪者の更正等、これから更に増えるであろう、能力関連の事象を専門に扱えるようになりたいと、久司にこれからの夢を語った。 「素敵だわぁ……。きっと、これからとっても必要になってくる事だと思うの!」 「そういえば久司ちゃんも、最近能力に目覚めたんだっけ?」 「そうなの、青龍拳士! ケドまだまだ技なんか未熟で……」 嬉しそうに、けれど、どこか不安を滲ませた表情で、久司が言う。 長らく能力者達と接してきていた事もあり、ある程度、自身の目覚めた力について把握できていたとはいえ、それを使いこなすのは、頭で考えるほど簡単なものではなかった。 「能力者って、ホント大変よねェ〜……」 「でも久司ちゃんの技、絶対絵になるわよね! 今度ぜひ見てみたいわ!」 「フフッ、アリガト♪ だったらアタシも、かすみちゃんに見せて恥ずかしくないくらい、頑張って能力の向上に努めなきゃっ!」 そして、絵になるといえば思い出すのは、かすみの長年の趣味のこと。 「ねェかすみちゃん、そういえば、漫画は今でも描いてるのぉ?」 グラスを傾けながらの久司の問いに、かすみは、勿論と満面の笑みで頷いた。 「同人活動は、今も現役続けてるわよ。昔は、漫画で生きていこうって思ったくらい」 しかしかすみは、漫画家ではなく、医者としての道を選んだ。 「でも今はね、誰かを助けるっていう仕事を、一生のものにしたいって思うようになったの。大人になるって、もしかしてこういう事なのかな?」 そう言って、クスッと小さく笑うかすみ。 「ま、でも漫画描くのもやめないけれどね!」 「フフッ! それじゃあアタシ、かすみちゃんの新作漫画、とっても楽しみに待っちゃうわァ♪」 新たな夢、新たな道を進む事を決めたかすみは、どんな物語を紡いでくれるのだろう。 久司は期待に胸膨らませながら、いつも依頼でしていたように、彼女の手をきゅっと握った。
●2019年のヒヨコ 六桐・匳(青藍水月・b66454)卒業後、能力者保護や犯罪組織の撲滅等の活動をするため、世界各地を渡り歩いていた。 そんな彼に、ある出会いが訪れたのは、とある活動先で人身売買組織の壊滅に携わった時のこと。 現場で保護した、まだ幼い能力者兄妹。彼らはどういうわけだか、途端に、匳に懐いてしまったのだった。 そして、以来ふたりは、どこへ行くにも、常に匳の後ろを付いて回るようになっていた。 「……あのな、お前ら。ヒヨコみたいにくっつくなっつーの」 そうは言ってはみるものの、己を慕ってくる幼い子達を無碍に扱うこともできず、かなり不慣れで不器用ではあるが、匳はどうにか、旅先での兄妹の世話をこなしていた。 「おい、勝手に変なところへ行くんじゃねーぞ」 彼ら三人での旅路は、まだまだ続きそうだ。
●2019年の龍と狼 この年の同窓会、久し振りに、ドイツからヘルムート・バイエルが訪れた。 「あっ、ヘルムん見―つけ!」 「ハァイ、ヘルムートちゃん。元気だったぁ?」 「あぁ。皆も健勝なようで何よりだ」 元々かなり大柄で、精悍な体つきをしていたヘルムートだったが、ここ数年で、また一回り二回りも体格が良くなったような気がする。 「ヘルムん、ますます男前になって……」 やはりオトコは二十代半ばに差し掛かってから。 心流は、腕を組んだままで立つヘルムートに近付いて、その肉体をまじまじ見つめ……。 「ん、どうした?」 「え? あ、あらーっ?」 気付けば、ついペタペタと、逞しい二の腕触っていた。 「ちょっとヤダッ、心流ちゃんってば!」 「え、ぃ、厭ねえ! あたしのこの手の話はアイサツよ。ア・イ・サ・ツ」 これでも身持ちは堅いんだからと、ヘルムートから離した手を、ヒラヒラと振ってみせる心流。 「そんなことより久慈ちゃん、青龍拳士の能力に目覚めたって聞いたわよ! おめでとう!」 「ウフッ、アリガトっ♪」 「そしたらあたし、先輩ね♪」 「そうねェ、大先輩ッ♪」 なにせ心流は、能力者となってこのかた青龍一筋。大ベテランなのである。 技のキレは勿論のこと、その「魅せ方」まで、しっかりと熟知している。 「だから、如何にカッコ良く龍尾脚を繰り出すかとか、何でも訊いて頂戴♪」 「ホント? じゃあアタシ、御角先生のコトとっても頼りにしちゃうッ!」 楽しげに、キャッキャとはしゃぎ合っているうちに、久司はもうひとつ、心流に会ったら聞こうと思っていたことを思いだした。 「そういえば心流ちゃん、最近、海外進出したんでしょぉ? そのお話も、アタシもっと詳しく聞きたいわァ〜♪」 「もっちろん! 朝までだって語っちゃうわよ!」 乙女達の姦しい時間は、まだまだ続きそうだ。
●2021年のビャオヴィエジャ ビャオヴィエジャの森、周囲の木々は血に染まり、剣戟と、怨嗟の声が混ざり合う。 若い人狼騎士達は、既に深手を負わされ、地に伏し、経験ある者達も、ひとり、またひとりと、倒されてゆく。 「くっ……まだまだ、倒れるわけには……!」 ヘルムートは、剣をよすがに身を支え、目前の強大なゴーストを睨み付けた。 満身創痍であるものの、罅の入った眼鏡の奥、鳶色の瞳に宿る闘士の炎は消えてはいない。 「人狼騎士ヘルムート・バイエル、この命、ただでは散らさん!!」 最後のフロストファングに望みを賭け、ヘルムートは剣を構えた。 その時……。 「〜〜……♪」 「なっ……この声は……!?」 どこからともなく聞こえてきた癒しの声が、ヘルムートの身を軽くする。 だがゴーストは、鋭い爪を、今まさにヘルムートの頭上に降りおろさんとしていた。 しかしそれを、突如飛び出してきた大柄な男が受け止め、すぐさま反撃に転じる。 「吼え猛れ、月牙天爪ッ!!」 そして更に、今度は後方からも……。 「水刃手裏剣に、ナイトメアランページだと……?」 突然の、思いもよらぬ続けざまの攻撃に、ゴーストの体勢が崩れる。 驚いたヘルムートが振り返ると、そこには、懐かしい姿がいくつもあった。 「いやはやー、間に合ったみたいですねー」 「ヘルムートさん!? 今、助太刀致しますわ!」 IMS実践テストのため、この地を訪れていたリヒャルダと菜々香。彼女達は、地元の人々から、この森に棲まう強大なゴーストについての話を聞いていた。 「では菜々香さんー、一緒に助太刀しましょーか♪」 「はいっ♪」 リヒャルダが、そう言いながら華麗なロンドを踊れば、菜々香がそれに併せるようにジャンクを仕掛ける。貴種と従属たる、彼女達の息はピッタリだ。 「お待たせしました! 詳しい話はまた後です。さぁっ!」 「さあ皆! 銀誓館の魂、見せる時よ!!」 普段は、喫茶店「銀のひかり」の、マスターと妻。 しかし今のイルトと光鈴は、若い能力者達を引き連れた、頼もしい仲間。 「……仲間は死なせやしねぇさ。今回も……これからもなぁ!」 「仲間……」 「あんたら人狼騎士団は銀誓館時代からの同志だ。これ以上の理由が要るかよ?」 言うが早いか、匳は立木を蹴って跳び上がると、宙に美しい軌跡を描き、ゴーストの身を切り裂いた。 常に彼の後ろを付いて回っていた幼い兄妹は、森の外へ預けてきたか、今は姿が見当たらない。 『グァ、ァ……!!』 「ヘルムんに何かあったら、あたしの大事な友人が悲しむのよ」 「ヘ、ヘルムん……」 微妙に引きつるヘルムートを軽く流しつつ、心流は、子育て中の二人の友の想いも乗せ、ゴーストの下顎目掛け、龍撃砲を繰り出した。 クリーンヒット! その、巨大な上体が揺らぐのを見るや否や、今度は輝刃がサンシャインドライブを炸裂させる。 「仲間がピンチだってんなら、おれ達はどこにだって、どこからだって駆けつけるんだぞ!」 「相手が何であろうと、僕たちは立ち向かいます」 「お前達……」 「ましてや、一度縁を結んだ方。救出に何を躊躇う理由がありましょう?」 「その通りです。……さあっ!」 イルトの放った雷の魔弾が弾ければ、そこに光鈴の漆黒の剣が綺麗に重なる。 『グブ、ォォ……、ォ……!』 形勢は、瞬く間に大逆転。 白燐蟲の力で癒しを得たヘルムートは、再び力強く剣を構えた。 傷付き、倒れていた人狼騎士達も、どうにか命は繋げそうだ。 「皆……感謝する……」 「うん、でもまずは、さっさと終わらせなくっちゃね」 噛み締めるように呟くヘルムートに、遊はナイトメアを奔らせながら微笑んだ。 「さあオイタが過ぎる仔はグソーに還りな!」 そして、心流の強い回転の加わった蹴り一閃。 「今です!」 「しっかり決めてくださいよ〜♪」 「ゥおぉおぉぉーーーーっ!!」 雄叫びとともに、ヘルムートが愛剣を強く突き下ろす。 それは、ゴーストの脳天深く突き刺さり……。 『ヴ、ァァ……、…………』 遂に決着。 「有難う。本当に……助かった……!」 精も根も尽き果てたか、それとも安堵で腰が抜けたか。ヘルムートは駆けつけてくれた銀誓館の仲間達に礼を述べると、その場にがくりとへたり込んだ。 「たくさんの仲間たちがいるって、素敵ですねー♪」 「はい。仲間がいれば……わたくしは主がいれば大丈夫ですわ♪」 仲睦まじげなリヒャルダと菜々香。 そして気付けば、イルトも光鈴の肩を抱いている。 (「そろそろ子どもなんかも欲しいのですけどね……」) けれどその話はまた帰ってからと、イルトは身を寄せてくる光鈴に、優しげな視線を向けた。 「そういえば、皆、今は何をしているの?」 「あたしはねー、今、ワールドツアーであちこちまわってんのよ」 「ワールドツアー?」 「知らない? 新世代のPOPクィーンなんて呼ばれてる……あの世界的歌手のツアーダンサーとして、ね」 流石にメインではいけれどと付け加えつつ、心流は華麗なポーズを決めて、ぱちりとウィンクしてみせる。 「さて、それじゃそろそろ行こうか。怪我人も運ばなくっちゃいけないしね」 「そうだな。……あいつらも、待っているだろうし」 「おうっ、それに腹も減ったんだぞ!」 同時に、グゥと大きな音を立てた輝刃の腹に、仲間達から笑いが起きる。 「銀誓館学園……私は、本当に、何物にも代え難いものを得たようだ」 ヘルムートは立ち上がると、再度、皆に礼を言った。 「有難う……。この恩は、一生忘れはしない」 「言ったろう、あんたら人狼騎士団は同志だと」 堅苦しい言葉は抜きだというように、匳がヘルムートの肩を叩く。 「あぁ……」 人狼騎士達が戦いはじめた時には、まだ薄闇に包まれていた、ビャウォヴィエジャの森。 けれど、彼らが森を抜ける頃には、きっと、眩しい朝日が迎えてくれることだろう。
●2022年の平穏 六年前、銀誓館学園とは無関係の、当時一般人だった年上男性と結婚した霧雨は、その二年後、元気な女児を出産していた。 一方菊姫はといえば、金沢市周辺のゴーストを退治する傍ら、大学、大学院で国文学を専攻。実家や近隣の神社に伝わる古文書を研究し、古代のゴーストとの戦い及び世界結界についての知識を高めていた。 そして、大学院を卒業する頃には、ともに戦った仲間達から『バズーカ巫女』の異名をとるようになっていた。 そんな二人の友情は、今でも健在。 霧雨は、妊娠を機に一線から退きはしたが、菊姫がひとりでは手に余るような敵と対峙した時などは、今でもともに戦っているし、霧雨の娘である清音は、とても菊姫に懐いていた。 「こんにちは、お邪魔します」 「いらっしゃい……あっ、清音!」 今日もまた、菊姫が霧雨宅を訪ねると、キャーッと嬉しそうな声をあげ、清音が抱っこをねだるように駆け寄ってきた。 困惑しつつも清音を抱き上げる菊姫の表情は、銀誓館学園にいた頃よりも、随分と柔和なものになり、笑うこともかなり多くなっていた。 そんな二人を微笑ましげに見つめながら、霧雨は、学園での日々を思い出していた。 まだ、能力者という存在が、世間に認知されていなかったあの頃。 強大なゴースとの戦い。来訪者との出会い。 それらを経て、今がある。 (「これからは、この子達のために……」) 目指すものは、より良い未来。 それを築き上げてゆくことを、霧雨は、胸に誓った。
●2023年の約束 この年、匳はあるひとつの決断をした。 4年前のあの日から、ずっと、ひよこのように自分について回っていた兄妹。彼らを、知人経由で銀誓館学園に預けることにしたのだ。 その理由はふたつ。 ひとつは、これ以上、幼いふたりを危険の伴う旅路に同行させるのは、好ましくないと判断したため。 そしてもうひとつは、ふたりが銀誓館学園に入学できる年齢に達したため、そこで経験を積ませるのも良いのではないかと考えたから。
───再び始まる、一人旅。 そんな中、胸にあるのは、兄妹と交わした約束。 『勘違いすんな、捨てるワケじゃねぇ。……あと一年経ったら俺も日本へ渡る。そしたらまた会いに来い』 その言葉に、兄妹は涙を堪え、しっかりと頷いた。 きっと再会を果たす頃には、一端の能力者となっていることだろう。 その日を夢見ながら、匳は、またひとり歩きはじめた。
●2024年の賑やかな北の大地 いちるは、慌ただしく過ぎてゆく日々の中、北海道で暮らす友へと、手紙をしたためていた。 内容は、夏頃に短期休暇をとってそちらを訪れたいということと、その際に、道内にオススメのスポットはあるかというお伺い。 「……できれば、二歳の双子がいても大丈夫そうなところがいいかな」 傍らの、双子の兄妹に愛おしげな視線を向けて。また、筆を走らせる。 双子の兄の方は、寧ろおとなしすぎるくらいなのだが、問題は妹の方。 (「……奥様似だな、完全に」) この双子を見た時、愛一朗は、はたしてどんな反応を示すだろうか。何と言うだろうか。 それを想像しただけで、いちるの口元には、自然と笑みが浮かんだ。
───そして手紙は、数日後、札幌市近郊の、自然豊かな地へと届けられた。 「ぱぱーおてまみー!」 緑色の髪をした、どことなく愛一朗と似た雰囲気のある少女……3歳になる娘、愛月が、封筒を手に懸命に駆けてくる。 「おーい、そんなに走っと転……っわ、と!」 言った矢先、愛月はこてんと躓いた。 けれどそのまま、ころりとでんぐり返しをすると、笑いながらまたすぐに走り出した。 「ほんっと、ママとおんなじな」 愛一朗は抱っこをせがむ娘の頭を撫でてやり、膝の上に乗せながら、手紙の差出人を見る。 「おっ、いちるからじゃねーか!」 わざわざ手紙なんか出さずに、電話かメールでも寄越せばいいのにと思いながらも、これもあの親友なりの気遣いなのだろうと、嬉しく思いながら便箋に綴られた文字を読んでいると、今度は玄関のベルが来客を告げた。 「ぱぱー! くまがきたーー!」 「はっ? 熊!?」 5歳になる、桃色の髪をしたやんちゃな長男、一樹の物言いに、一体何事かと、娘を抱き上げ急いで玄関へ向かう愛一朗。 「お邪魔しに来たんだぞー! あちこち飛び回ってたんで式に行けなくてごめんだぞ、でもっておめでとー!」 「……ぇ、あーーー!!」 そこにいたのは、たしかに熊と見まごうばかりの、もっさりと髭を生やした大男だった。 「輝刃ーーーー!!」 「ぱぱー、くまさんとおともだちー?」 「熊じゃないって。この人は、パパのおともだちのキバさんっていう人」 「おともだち!」 「そう、すごく仲のいい友達! ……っと、それより輝刃、入れって」 愛一朗は、キャッキャと楽しそうにはしゃぐ子ども達の頭を撫でながら、輝刃を室内へ招き入れた。 「よく来てくれたなー! 保護管の仕事、結構忙しいんじゃねーの?」 「忙しいぞ! 野生動物や妖獣を保護するのに、世界中駆け回ってるからな!」 それでも、妻とふたりの子宝に恵まれ、幸せな毎日を送っていると、輝刃は豪快に笑う。 外見は、すっかり逞しく……特に輝刃は……なったが、内面は、まだまだふたりとも少年のまま。 「なあ愛一朗、久々に狼変身で遊びたくなったんだぞ」 「おっ、いいなそれ!」 「ぱぱわんわんさんなるなら、まなのっかるー!」 「よーし、じゃあ愛月はパパの背中のっかれー! 一樹は……」 愛一朗は、いいよな、と問うように、輝刃へと笑顔を向けた。 「よっしゃ、だったらパパに負けないくらい速く走ってやるぞー!」 「はい! おねがいします!」 「ガゥーーッ!」 「クーもいっしょにはしりたいってー!」 「勿論、クーも一緒にな!」 そうと決まれば今すぐと、輝刃と愛一朗は狼に姿を変えた。 「ぱぱがんばれー!」 「きばおじちゃんまけんなー!」 子ども達を背に乗せて、家の裏手にある草原を、ケルベロスオメガを従えて走り回る、二頭の狼の姿。 仕事から帰ってきた愛一朗の妻がそれを見たら、一体、何と言うだろうか……。
そして、また別の日。 今日は京とレイラが愛一朗達の元を訪ねてくれた。 「二人とも、遠いところわざわざサンキューな!」 「さんきゅーな!」 「「ありがとうございます」っしょや!」 一樹が、早速愛一朗の真似をする。 最近はやんちゃっぷりに拍車がかかり、生樹に悪戯を仕掛けては、叱られてばかりいるようだ。 一方愛月の方はといえば、すっかり定位置な愛一朗の膝の上で、嬉しそうに両足をパタパタさせている。 海辺で、皆で無茶苦茶なサッカーをしたことや、結社の皆で紅葉狩りに行ったこと……思い出は、語り出せばきりがない。 「告白直前、本当にハラハラしてたんですよー」 「つーか俺は、そのあとで纏めて抱きしめられた方が驚いたよ!!」 「ふふふっ、特訓の成果が出て、本当に良かったですっ♪」 「……!」 「特訓?」 その言葉に、愛一朗が硬直し、生樹が興味津々にレイラを見る。 「そう、特訓です」 「実は、告白のための特訓を、夢の中でしたんだがな……」 「……ッ、うわぁぁぁ! それは、ッ……!!」 慌てふためき、京の話を中断させようとする愛一朗だが、膝の上に娘がいては、動けない。 「まぁまぁ、いいじゃないですか♪」 「生樹だって聞きたいよな?」 「うんっ、うん!」 3+α対1では、どうやっても勝目がない。 すっかり公開処刑となった愛一朗は、京とレイラの話が終わるまで、あまりの居たたまれなさに、娘を抱いたまま身を縮こまらせていた。 「……でもとにかく、二人とも、幸せそうで何よりです」 「…………ぇ、あ……まぁ、な」 散々ではあったが、勇気を出して告白までこぎ着けて、こうやって幸せな家庭を築けているのも、あの特訓があったからこそ。 「こんでも、感謝は、してんだ……うん」 「ふふっ、どういたしまして」 「……そういや、レイラ達の方はどうなんだ?」 当時から、仲睦まじかった彼女達、この先に何か参考になることはあるだろうかと、愛一朗はふと問いかけてみた。 「そうですね……お互いの想いのすれ違いとか、上手く行かなかったりした事も、何度もありましたよ」 「けれど、レイラがいたからここまでやってこられたんだよなぁ」 「はい、それでも「好き」という気持ちがあるから、乗り越えてこれたんですよね」 愛というものは偉大だ。 そう、しみじみ呟く京の肩に、レイラがこてりと頭を預ける。 「今まで一緒にいて、幸せでしたよ……これからも一緒に幸せになろうね」 「大丈夫だ、ここまでいろいろあったけど、きっとこれからも死ぬまで私たちは幸せだろう」 そして、目前でのキス。 「……!?」 「!!」 「あーっ、ちゅーしたー!」 「ぱぱー、おめめみえないよー」 突然のことに騒然とする武田家一同。 北の大地は今日も平和で、とても賑やかなようだ。
●2024年の同窓会 「ハァイ小春ちゃん、みんな、元気だったぁ〜?」 チャイナドレスを着た久司が、手を振りながら小走りにやってくる。 「ちゃーっす! やーもぅ元気元気ッつーか、チビどもの方が元気でさぁ!」 「愛一朗は、すっかりパパっぷりが板に付いてきたよね」 「おうっ。ま、まぁ……」 数年前、密かに渡英していた遊も、この日久し振りに帰国していた。当時より、また少し背が伸びたようで、並んだ愛一朗はちょっと微妙な表情を浮かべた。 「そういえば、小春も二児のパパになったんだよね」 招待状を送ってくれた鈴鹿・小春(万彩の剣・b62229)は、検察官としての仕事にも慣れた5年前に結婚、長女、長男にも恵まれていた。 「いいわねェ……結婚。アタシも、早く素敵な王子様見つけたいわぁ」 「やっぱり王子様なんだ……」 「何ヨッ、イイじゃないッ!」 「つーか遊は、そういうのねーのかよ」 「僕はね……まず、伝えることからはじめないといけないから」 クスッと、少し誤魔化すように笑う遊。 「はははっ! 皆さん、相変わらずなようで何よりです」 そして小春は、久し振りに出会った仲間達の話を、娘を抱き上げたまま、楽しそうに聞いていた。
思い出話、今の話、そして未来の話。 皆が集まれば、話題は尽きない。 「じゃあそろそろ、皆で写真を撮りましょうか」 そんな日々の一コマを、今ここに。 笑顔が、夢が、希望が───いつまでも、銀の輝きを持ち続けることを、願って。
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参加者:21人
作成日:2012/12/19
得票数:ハートフル9
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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