逆毛注意報〜金の逆毛と青い逆毛と黒い逆毛〜


<オープニング>


「じゃぁ俺も帰るわ、お疲れさん」
 男は仲間に挨拶を交わし、軽く手を挙げるとライブハウスの入り口をくぐる。
「おっと、入り口低いんだよな、ここは」
 くぐった際に逆立て固めた自慢の髪が入り口に引っかかって男は顔をしかめた。
「そう言えばこの先も……仕方ねぇ、遠回りして行っか」
 男は地下道の入り口の前で道を逸れる。髪が高さの低い地下道に擦るのを避けたのだろう。
「しっかし、地下道あるにしても本当に人気無いよな」
 男はブツブツと呟き、髪を揺らしながら細い道を行く。
「さっさと通りぬ……ぐぁ?!」
 突如背後から襲いかかってきた衝撃に男は突き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「許さない、俺より立派な物は」
 事切れる前、最期に男が目にしたのは髪を逆立て足に鎖を絡ませた見知らぬ男がギターを振り上げる姿だった。
 
「やっほー? 元気ですかー?」
 何故か逆毛のヅラをかぶってご機嫌の運命予報士は陽気に手を振りながら能力者達の前に現れた。
「地縛霊が出ました、逆毛の。この地縛霊はー、今じゃほとんど誰も通らなくなった細い道に自分より立派な逆毛の人が通ると現れて、襲いかかってくる様なんですよ」
 そのせいで、近い未来に犠牲者が出るのだと予報士は説明する。
「被害が出るのはー、もっと先ですからー」
 今のうちに倒してきて欲しいんですと予報士は言う。
 
「じゃ、詳しい説明に入りますねー?」
 予報士は首をかしげ、逆毛を揺らすと黒板の元に移動してチョークで地図を書き始める。
「まず、道ですけどー、上から見ると一本道じゃなくてカタカナの『ト』の字状になってます」
 使われなくなったせいで直線と交わった横道の先はふさがっていて、行き止まりになっているので更に人が通らなくなったと予報士は説明した。
「そのせいか、皆さんが戦ってる時には通行人は通りません。人目を気にせず戦えるのはグッドですねー」
 そして問題の地縛霊はちょうど横道が直線の道と交わる点に出現すると予報士は言った。
「道の狭さからするとー、横に並んで戦うのは2人が限界なので、前衛は最大3×2の6人ってとこですね」
 対して地縛霊は、リーダー格である金色の逆毛地縛霊の他に青と黒の逆毛地縛霊が現れ、三人で襲ってくるらしい。
「地縛霊はみんな元音楽系の人なのか、楽器や歌で攻撃してきます」
 その攻撃方法は、楽器による打撃や遠距離衝撃波の他にマヒさせる歌と追撃を伴って破壊をもたらす歌があると言う、勿論歌は広範囲に効果をもたらすものだ。
「更に味方全員の攻撃力を引き上げ体力を回復させる歌も歌うのでー、油断はできないでしょう」
 自身の言葉に頷きながら予報士はそう言った。 

「とにかく、侮って勝てるほど甘い相手ではないと思いますからー」
 気をつけて下さいねと言いつつ予報士は手を振った。

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参加者
弓張・輝夜(月光闘姫・b01487)
山内・連夜(弾願銃士・b02769)
森澤・泉美(宵闇のアルビレオ・b03656)
炎水・浮羅(夜桜が導く者へ・b05259)
真田・陸王(巨木・b06565)
壷居・馨(無敵なスマイル・b08122)
メグミ・ベネポーチット(舞刃・b09432)
神河・巽倶(グラスランナー・b09726)
耀夜・不二音(神無の音・b11244)
片瀬・美雪(純情女傑・b19815)
猶・ユエリ(暗闇も月の理・b21582)
八神・海音(高校生フリッカークラブ・b28336)



<リプレイ>

●細い道
「お昼ごはん後の、腹ごなし……ってとこかな?」
 一番高い所へ登った太陽の下、壷居・馨(無敵なスマイル・b08122)はぐっと伸びをしながら目の前にある細い道を眺めた。
「範囲攻撃を駆使する、かなり強力な地縛霊のようですが……」
「それ3体相手に、囲んで殴るでやんすか……無茶するでやんすね」
「場所も敵もいろいろと考えて行動しなくてはな」
 細い道へ一歩踏み出した弓張・輝夜(月光闘姫・b01487)が呟けば、メグミ・ベネポーチット(舞刃・b09432)は腕を組んで唸り、炎水・浮羅(夜桜が導く者へ・b05259)は二人の顔を眺めながら腕を組んで頷く。能力者達の前に伸びるこの細い道は、地縛霊が出没する場所へと続いているはずだ。
「髪の毛の高さを競ってる地縛霊ねぇ」
「高さとか、大きさとか立派だとか。そういうの気にする人に限って小物なのよね……」
 その道を進む片瀬・美雪(純情女傑・b19815)の呟きに猶・ユエリ(暗闇も月の理・b21582)は肩をすくめ、「男なら細かいこと気にしないでどんと胸張ってればいいのに」と言葉を続ける。
「自分より良い逆毛を妬むって……自分の個性を大事にするなら人の個性も大事にしないとねぇ」
「ネガティブだなぁ……髪が擦るのが悔しいなら伸ばせば良いだけだと思うんだけど」
「まったくよね。死んでからも小さいことに拘ってるからこんなことになるのよ」
「自分より、立派な髪の毛を持った人を襲う地縛霊ね〜。自分の身長、実際より大きく見せて何かいいことあるのかね?」
 同じように道を進む耀夜・不二音(神無の音・b11244)や森澤・泉美(宵闇のアルビレオ・b03656)が口にした言葉に傍を歩く仲間から同意の言葉が返り、真田・陸王(巨木・b06565)は「少なくとも俺は、額ぶつけたり、巨木と言われたりあんまりいいこと無いけどな」と続けながら不思議そうに首をかしげる。更に続けられた「身長が高いからってもてる訳じゃないし」と言う小声の言葉は誰の耳に留まることも無かった。
「しかし、何だな。あんななりしている割には出てくる条件は音楽ではなく逆毛なんだな。形から入ると言う言葉もあるが……」
「やっぱ、動物みたいに威嚇とかセックスアピールの意味があるのかな」
「でも、髪の毛を逆立てる事が条件ですと……性別関係無く誰でも良いのですよね?」
 山内・連夜(弾願銃士・b02769)のボソリとこぼした言葉に数人の仲間が疑問を口にすると、内1人が「人では無くても鬘を被れば出てくるのでしょうか?」と続け、同時に空想の翼を羽ばたかせる。
「…………かわいいかも……しれないです」
 その脳裏にでは逆立った髪の鬘を装着したモーラットが得意げに胸を反らしていたとか。

●囮逆毛出撃
「さて……俺達は行くな」
 地縛霊が出没する横道との合流地点が近づき、横道と反対側でそれぞれ待機する班の能力者達が道を歩いていた集団から離脱して先行する。
「被害者を出さない為にも、負ける訳には行かないですね」
「ああ、わずかながら力になれるように努めよう」 
 残った能力者の1人がその背にかけた言葉に立ち去ろうとする1人が手を挙げて応じた。
「うう、なんか頭がふらふらしますよ」
「……そう言えば、囮役は」
 待機場所に向けて立ち去る別班の能力者を眺めていた能力者の1人が振り向き、神河・巽倶(グラスランナー・b09726)の姿に絶句する。
「こんな髪の毛を逆立てて何が楽しいのでしょう?」
 ポニーテールに整髪料を使用して作成した自前の逆毛は、そこにあるだけでもの凄い存在感というか威圧感を放っている。
「剣山を見習って華でも活ければ少しは有意義ですかねぇ」
 動くたびにバサバサと揺れる逆毛を頭に、囮役の能力者はイグニッションカードを手にとった。
「起動!」
 詠唱兵器を身に纏い、歌を口ずさみながら作戦の要が動き出す。起動終え、後に続くのは彼と同じC班に所属する能力者達。逆毛を先頭にした行軍は分岐に差し掛かるまで続いた。
「!」
「……さない、俺より立派な物はぁ!」
 警戒していたおかげかふと何かの気配を感じ、身をかわした直後、すぐ横を衝撃波が通り過ぎて行く。現れたのは金色逆毛を中心とした三体の地縛霊。
「逆毛さんが出ましたよ……まぁ僕の逆毛には遠く及ばないミニ逆毛さんですがねぇ」
「ふむ、金に青に黒い逆毛。いろとりどりで面白いな。同じ音楽を志すもの同士倒すのは忍びないがいたしかたあるまいて」
 崩月を手に八神・海音(高校生フリッカークラブ・b28336)は囮の能力者と入れ替わる様に進み出、メグミぼやきながらも不敵な笑みを浮かべながら並ぶ様に前へと出る。金髪の地縛霊に三日月の軌跡を描いた蹴りが叩き込まれた。
「一匹でも逃すと後が面倒だからね」
「「起動」」
 ちょうどこのタイミングで残る2方に待機していた能力者達が動き出す。ある者は力ある風を纏い、ある者は仲間の詠唱兵器に白燐蟲を纏わせる。蟲を纏ったKING KNIGHTは淡い光を帯び、その銃口が青い逆毛地縛霊へと向けられる。
「バンドマンが全員逆毛だとは限らないんだぞーっ!」
「やぁっ!」
 だが、放たれた銃弾は地縛霊がかざしたギターに弾かれた。
「がっ……俺はっ!」
「符よ……彼の者に安らかなる眠りを……」
 その横にいた金髪逆毛を飛来した念動剣が切り裂き、それによって生じた僅かな隙を輝夜の放った符は見逃さず、符を貼り付けられた地縛霊は深い眠りの縁へと沈んで行く。
「俺達の相手も場所取りからいって黒い逆毛のあんたかな?」
 続けて獣のオーラを宿したチェンソー剣が別の一体に襲いかかるが、これも持っていたベースで受け止められる。だが、流石に威力を殺しきれず片手がベースから外れ、地縛霊は軽く顔をしかめた。少量ながらもダメージが通ったらしい。
「包囲した状況なら」
「何だかよく分からんが……とにかく片付けさせてもらおうか」
 起きている2体へ眠りをもたらす歌を届けるべく美雪が距離を詰め、別方向から飛来した水流の刃が黒い逆毛地縛霊へとタイミング良く突き刺さる。地縛霊の一体は未だ眠ったまま。青と黒、二対の逆毛地縛霊がそれぞれギターとベースを構えたのはその直後だった。

●シャウト
「ルゥァァッ!」
「明日へと」
 ギターの演奏と共に絶叫のような歌が放たれたが、これは失敗だったのだろう。追撃をもたらさなかったギターとは違い何処か優しげなフレーズを口ずさむ黒逆毛の歌声は地縛霊達の傷を消して行き、彼らの持つ楽器がうっすらと輝きを帯びる。
「攻撃が集中させられれば良いんですけどね」
 地縛霊の反撃とほぼ同時に、巽倶の放った光の槍は黒逆毛の地縛霊へと向かって飛び、同時に素早いフットワークから繰り出された蹴撃が同じ相手へと襲いかかった。
「これなら問題なさそうね」
 攻撃は命中したものの流石にこれだけで沈む程甘い相手ではない。ただし、歌声が追撃を産まなかったのは爪が甘かったと言うべきか。味方の損傷が軽微であったが為に、一部の回復役が攻撃手にまわり、一本の光の槍が、黒逆毛の地縛霊へと撃ち出された。
「ぐぁ」
 運の要素もあっただろうが一撃は完璧な形で決まり、胸を貫かれた地縛霊はその場へと膝をつく。おそらく先ほどの歌声だけではダメージを消しきれなかったのだろう。
「悪いが、畳み掛けさせて貰うな」
 魔法陣の力を得て強化された連夜の魔弾は容赦なく追い打ちをかける。儚の呼び寄せた土蜘蛛の魂が仲間の武器へと宿り、身体が炎上しながら傾ぐ中、挑発めいた言葉と共に馨から放たれた気の塊が直撃し、地面へ叩きつけられた地縛霊は手に持った楽器ごと光の粒と化して霧散した。
「うぬらの音楽と余の音楽。音を志すもの同士、対峙するのは音楽家としての喜びよ」
 続いて至近距離で奏でられる崩月の音色。
「しかし、音楽とは 音を楽しむ芸術ぞ。危害を加え自分たちだけが楽しむものは音楽とはいわぬ」
 旋律と共に語られる言葉は地縛霊達には届かなかったらしい。
「All heartsにも頑張ってもらわないと」
「ちょっとは明るくしてやるよ、根暗」
 優しく涼しげな歌声が響く中、ボソリと呟きながら放たれた泉美の魔弾が青逆毛の地縛霊を貫く。
「ぐぉ」
「こう言う時は、起きてる奴を集中砲火よね?」
「こんな事やっても意味がないんだよ。君がやってるのは、ただの逆恨みだよ」
 派手に炎を上げて炎上する身体へ、青龍の力を込めた拳の殴打と、獣を思わせる姿勢から放たれた衝撃波が襲う。
「がっ、ぐはっ」
 龍顎拳がヒットしよろめいたところに、エルの呼び寄せた土蜘蛛の魂が宿ったことで威力を引き上げられた衝撃波が完璧な形で炸裂する。
「犠牲になった人の分はちゃんと償うんだな」
 一撃に吹き飛ばされる体躯を追う様な形で放たれた水刃手裏剣がタイミング良く突き刺さり、地縛霊は身体を炎で包んだまま崩れ落ち、光の粒と化して霧散した。残されたのは未だ眠り続ける地縛霊のみ。能力者達の容赦ない集中攻撃が地縛霊へと降り注いだ。
「回復などさせぬぞ」
 炎を纏った魔弾が貫き、光の槍が突き立ち、渾身の力で武器を振り上げられた武器が叩きつけられ、地縛霊の身体へと傷を刻む。だが、この痛みによって眠りの縁から帰還した地縛霊は降り注ぐ攻撃の数々に痛手を受けながらも耐えきり、ギターをかき鳴らし始める。
「許さねぇぇっ!!」
「きゃぁ」
「うわっ」
 怨嗟を載せた様な叫び声が6回の余韻を伴い、鳴り響く。ただの一撃にもかかわらず、余韻に打ちのめされた能力者達が、身に纏った詠唱兵器をぼろぼろにして倒れ伏す。
「こ、こんなことで……」
 倒れた内何人かは気力を奮い立たせ即座に起き上がるが、それが倒れ伏した全ての能力者ではない。
「い、今、癒しの符を!」
「さすがに、こんな状況じゃ……回復役は忙しいわよね」
 治癒符が飛び、詠唱兵器が纏った白燐蟲が傷を癒し……複数の回復が能力者達を癒すが、流石に全快には至らない。
「この借りは返させてもらう」
 だが、辛い状況であるのは地縛霊も同じだった。他者の回復手段を持たない能力者達の反撃に、瀕死の地縛霊は耐えきることが出来なかった。
「俺の逆毛は……」
 炎を纏った魔弾と水流の刃、どちらがトドメとなったのかは分からないがそれでも決め手はそのどちらかだったのだろう。炎に包まれた腕を天に伸ばす様な形で、地縛霊は倒れ伏し、光の粒と化して霧散した。

●戦い終わって
「まさに辛勝でやんすね」
 地縛霊が倒され、能力者達は勝利した。とは言うもののかなりギリギリの戦いであったのは、当人達が一番実感しているところだろう。
「大丈夫ですか?」
 戦闘が終わっても癒えきらない傷を治すために回復役の能力者が仲間達の間を歩き回っている。
「うむ、なかなかに気合のこもった演奏であった。うぬらとセッションできないのが残念だが、次の人生でもまた音楽を志して欲しいと思う」
 海音は地縛霊が最後に放った絶叫とも思える歌を思い出しながら、地縛霊の消えた場所へ向かって語りかけた。
「もし次に生きるチャンスがあるなら外見よりも中身の大きさに拘ったほうがいいわよ?」
 ユエリもまたそれに倣ってか、地縛霊へと言葉を贈る。
「にしても、パンクロッカーってそんなに髪の毛が大事なのかね?」
 陸王は首をかしげながら呟いた。
「って言っても、どっちかって言うと俺ジャズ派なんだよね」
 人の趣味はそれぞれ、と言うことなのだろうか。「今日は、サックスを吹いてから寝ようかな」と口にしながらそのまま出口に向かって歩き出す。
「笑って過ごせる毎日を……」
 浮羅もまた呟きと共に踵を返す。集団行動は苦手であるらしい。
「あ、忘れてた」
 仲間が何人か帰路につき始める中、不二音は思い出した様に一眼レフを取り出すとファインダーを覗きながら、今作戦の功労者の1人へとカメラを向けた。
「記念写真とっておこう」
 シャッターが切られ、カシャッと言う音が響く。
「よし、撮れた撮れた」
 それで満足したのか、カメラをしまうと、他の能力者達と共にその場を後にする。普段から人通りのない道はまた元の寂しい道へと戻った。だがそれで良いのだろう。先ほどまで能力者達の髪や服を揺らしていた風が細い道を吹き抜けていった。


マスター:聖山葵 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:12人
作成日:2007/07/26
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
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