水夏の誕生日〜青空に響け! 水夏と青春応援団〜


<オープニング>


 七月八日。
 水無月明けて、日に日に空が夏の様相を帯びつつある、その日こそ。
 自称『みんなの応援団長』尾花沢・水夏(高校生運命予報士・bn0088)の誕生日である。

「小さい頃に一度だけ、大学野球を見に行ったことがあるのよ。そこでね、あたし、野球じゃなくて応援団に目を奪われちゃって」
 なびくハチマキに手袋は潔いまでの白。広い長ランの背中、体中に響く力強いエールと太鼓の音。小さな水夏が見上げた、威風堂々と風にはためく校旗――。
「当時のあたしの目には、すっごくカッコ良く映ったの。だから応援団に憧れて……」
 今、能力者達を応援することの出来る運命予報士としてこの場に居られることを、誇りに思う。
 そう言って、今はまだ『自称』の応援団長は、目を細めた。

 そんな彼女を、一日だけでも『本当の応援団長』にしてあげないか?
 間近に控えた水夏の誕生日の日、彼女を団長とした応援団を結成し、更に『応援してほしい人』を募り、思う存分彼女にエールを送らせようというのが今回の誕生会の趣旨である。
 午前中は、さしずめ応援団の結成式といったところ。即席応援団とはいえぶっつけ本番では流石に心配なため、空き教室を使って応援練習と衣装合わせを行う。
 衣装は普段の制服姿でも構わないが、長ランやチアリーダーなどの衣装を着ればきっと気分も盛り上がるはず。趣旨を逸脱したものでなければ、衣装の持ち込みもOK。
 午後からはいよいよ本番。学校の屋上を会場に、激励会を開催する。
 日々の生活の中での悩みや、ポンと背中を押してもらいたい事のある人は、彼らのエールで迷いを吹き飛ばしてもらうといいだろう。

 青空の下で腹から声を出すのは結構気持ちが良いもの。大声に自信のある人や応援団に興味のある人だけでなく、
 仲間達と青空に声を響かせたい、悩みを打ち払いたいという人達なら、参加を拒まれることは無い。
 もし君が、太陽の下が嫌いでないのなら

「あたしの応援団の規律は厳しいわよ! まず、時間はきっちり守ること! 遅刻だなんてもってのほかだからね! それから……で、……! …………!」

 なんだかんだ言いながらも、嬉しそうな表情を隠せない彼女の一日応援団の、団員になってみてはどうだろう。

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参加者
NPC:尾花沢・水夏(高校生運命予報士・bn0088)




<リプレイ>

●結成! 青春応援団!
 空き教室に集った人数、十四名。その面面を見渡し、尾花沢・水夏(高校生運命予報士・bn0088)は喜びの溢れ出しそうな笑みで一瞬まなじりを下げ、そしてすぐにキリッと眉を吊り上げて表情を引き締めた。
「押忍! みんな集まってるわね!」
 仁王立ちして号令をかける応援団長に、精鋭の団員達も押忍! と威勢良く返事をする。応援練習で声を揃える前からキビキビと潔い彼らの声に、満足げに顎を引く。
「それじゃ、午前は衣装合わせの後に応援練習、午後からは激励会の日程で行くから、よろしく頼むわよ!」
 団員達は既に学ランやチアガールのユニフォーム等、思い思いの応援スタイルでキメている。その中には美奈子がかき集めてきて提供したものもあり、準備のいい彼女に皆感謝した。
 水夏は長ランの裾と鉢巻をなびかせ教壇前から身を翻すと、団員達の衣装に目を遣る。
「着慣れてない服だけど水夏さんのために頑張らないとね」
 長ランに袖を通したリスティアが微笑みかければ、水夏も嬉しそうに「よろしくね!」と唇の端を引く。
 このために用意したのだという長ランと鉢巻は彼女にぴったりで、その可愛らしさをより引き上げている。
「応援団結成なんて運動会のときぐらいしかできないし、大きな声を出す機会もあまりないし。面白そうね」
 そう言って参加した摩那の衣装はチアガール。理知的な印象の彼女にアクティブなチア衣装はどこか新鮮で、よく似合っていた。
「みんなでひとつのことを目指すなんて、なんか青春って感じね」
「本当ですね。あたしも燃えてきました!」
 学生達を応援し、そして自分達も青春の一時を謳歌するというのも今日の趣旨である。興奮した様子の応援団長に、摩那は眼鏡の下の瞳を細めて笑う。
「いっぺん着てみたかったんだっ♪」
 結那は知人から強奪……譲り受けてきたという制服の裾を翻し、向日葵のような笑顔を浮かべる。
「結那さんもばっちりですね」
「んっ、気合入ってきたね〜!」
 きゅっと鉢巻を締め、意気揚々と言う結那。なんと頼もしいことだろう。
「レディも頑張りますデスの♪ 風紀局は水夏様を後援しますデスわ♪」
「ありがとうね、レディ。心強いわ! ……でも、その衣装ちょっと大き過ぎない?」
 レディの着ている衣装は、水夏と同じデザイン、同じサイズの長ラン。袖も裾も随分余っていて、捲くった分の布地がかさばっている。
「水夏様とご一緒デスの♪ えいえいおー♪」
 猫耳つきの鉢巻に猫の手の形をした手袋を嵌め、自分の周りをくるくると回るレディ。その微笑ましさに思わず口元を綻ばせた。
「よぉっし、こんなもんかなぁ?」
 きっちり学ランを着込んだ甍が、自分の衣装を見下ろしてチェックする。サラシに学ラン、しっかり決まっている。
 無責任に『がんばれ』という言葉を押し付けるだけの応援では、応援された側も奮わない。心から相手の勝利や成功を祈り送られた声援だからこそ、応援する側もされる側も力が沸いてくるというもの。
「水夏姐さんの応援はもちろん後者だからよ、気持ち良く応援できるってもんよ♪」
「……そうねっ、みんなで気合入れて応援しましょう!」
 掲げた拳を打ち合わせ、甍と水夏は笑みを交わした。
「応援団! いいなっ、燃えるな!」
 目にも眩い真っ白な長ランで決めた日明が声を上げれば、水夏はきらきら輝く眼差しでその姿を見つめる。
「日明さん、格好いいです! 白ランも素敵ですね」
 潔いまでの白が黒髪に映えて、まるで彼女のためにあつらえられたように格好いい。
 その反応に、日明も腕組みして満足げに笑った。
「尾花沢さんもかっこい〜い!」
「ありがと! でも、みんなの方がすごく決まってるわよ!」
 振り返った先には、ストリートバスケ同好会の仲間達。
「南さん、可愛いです! おぉう、藤枝さんのチア服色っぽーい♪」
 手を叩いてはしゃぐ秀元に、ユキは笑顔で褒め返し、蘭童は誇らしげに笑む。
 秀元の学ランの背には、煌びやかな金糸で雄雄しく睨み合う竜虎が刺繍されている。対するユキと蘭童は、女の子らしくかつどことなくセクシーなチアガールのユニフォーム。
 三人と共に参加した竜二は、いつもは前を開けている長ランをビシッと着込み、外見とあいまって誰よりも応援団らしい印象さえ感じる。
「さすが、長ランの着こなしも決まってるねっ!」
 元気良く声をかけるユキに、
「ダンサーの本領発揮だな。気合込めた演舞期待してるぜ、押忍!」
 と、竜二も快活な笑みを返す。
「オーエン団とかハジメテなんだけど、アタシも超頑張るから!」
「あたしも応援団初めてだけど、気合入れて行くよっ。チア、一緒に頑張ろうねっ!」
「チアは元気が一番だ。藤枝らしくて、いいと思うぜ。一緒に頑張ろうな、押忍!」
 気合い十分の四人の姿を見て、水夏は満足げにうんうんと頷く。だが、さあ次は、と振り返った瞬間、ぎょっとしてその表情を強張らせた。
「ま……鞠也、さん……?」
 彼女が呆然としたのも無理はない。
 鞠也の身につけたものが、白のチアガール衣装上下に、手にはピンクのポンポンという、あまりにもかわいいそれであったからだ。おまけにスカートから覗く脚はつるりと白く、完璧に処理されている。
 その姿に、周囲の団員達も呆然、あるいは肩を震わせて笑いを堪えていた。笑いを誘い場を盛り上げるのが彼の真意であることを考えれば、ある意味目的は達成されたと言ってもいいのだろうが。
 早く着替えたいのか、恥ずかしそうに目線を伏せる鞠也に、団長はしばしの間考えて――
「……鞠也さんがいいなら、その衣装でも構わないですけど……」
 とめてやれよ。
 何人の団員がそう思ったかは、定かではない。

「水夏団長、本日はよろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
 向き合って最敬礼し、顔を上げると、龍麻がポケットから何かを取り出していた。
「それから、誕生日おめでとうございます♪ これ使ってくださいス!」
 その手にあったのは、彼の手縫いの長鉢巻。 彼はこれだけでなく、夜なべして応援団旗までも自作して持ってきてくれていた。
 ありがたい心遣いに、胸がじわりと熱くなる。
 水夏は鉢巻を付け替え額にきつく結び付けると、ありがとうございます、と再び深く頭を下げた。

 そして、空き教室内での応援練習が開始される。
 黒板に隊列を書き、掛け声や太鼓のタイミングを確認、そして声出し。
「あ〜っ、結構複雑で混乱しちゃうな〜。チョーク貸して! 屋上に直接書いちゃえ!」
 屋上の床に隊列を直接書くという豪快な作戦に出る結那に水夏は目を丸くするが、雨で消えるはずだから大丈夫だと断言され、それもそうかと閉口した。消える前に屋上に訪れた人はビックリしそうだが、ともかく練習は続く。
「応援団は味方の士気を鼓舞して相手の士気をくじけさせる事が一番大切だけど、それだけじゃなくて興味のない人や中立の人を魅了して味方に引き込むことも大切よ!! だからそのための練習を忘れちゃダメなのっ!!」
「その通りよっ! 美奈子、いいこと言うわね!」
 熱く語る美奈子に、水夏も頷くが。
「ええ! ……あとは、長ランもチアも体操服も何でもその場に合わせたコスチュームを用意して対応しなくちゃ……」
「ちょ、ちょっと! 何か違わない!?」
 脱線して違う世界に行きそうになる美奈子だった。
 そのころ、別の部屋で練習していたチアリーディング隊(含む・鞠也)が教室に戻ってきた。
「一番大切なのは、気持ちを込めて思いっきり踊ること! 皆で気持ち良く応援できるように、踊りとか苦手な人でも楽しく踊れるような、簡単で見栄えのいい振り付けを作ってみたよ♪」
 チア隊の振り付けを考えてきて、皆を指導していたユキが、その練習の成果を団員達に見せる。
「それじゃ、水夏団長、よろしくお願いしま〜す! せ〜の、押忍っ!」
 動き自体に複雑さはないが、初心者のそれとは思えないほど息の合った演技は目を引くのに十分で、団長を初めとし全員が絶賛した。
「チアの方もばっちりね! それじゃ、屋上に移動するわよ! 何か意気込みとかある人はいる?」
 水夏の言葉に、短ランに太いボンタンズボンという姿の法眼が歩み寄り。
「意気込み、か……ま、一つだけ。水夏嬢ちゃんを、今日の激励会を盛大に盛り上げることじゃ」
 自分は補助に徹するから安心してやれと言う言葉。
 ぽんっ、と肩に置かれた手に勇気づけられ、水夏は瞳に明るい光を灯して頷き、前を向いた。

●迸れ! 青春の応援歌!
 屋上に上がった団員達を、突き抜けるような青空、という言葉の表す通りの晴天が出迎える。見上げれば、視界いっぱいに清々しいまでの青が広がっていた。
 激励会には、話を聞きつけた一般生徒の姿が主に見える。
 龍麻が自作の団旗を掲げ、対になる位置に甍も旗を持って立つ。ばさぁっ、と風に大きくなびき揺れるその様は、まさに威風堂々。
「どんな悩みでも遠慮なくぶつけて来い、全力で返してやる!」
 黒髪と白い鉢巻を風になびかせた日明の力強い言葉に鼓舞され、生徒達も「押忍!」の力強い声を返す。
「尾花沢、いや、団長。よろしく頼むぜ」
「ええ! こっちこそよろしく頼むわよ、竜二!」
 中央に立った団長と視線を交わし、竜二も持ち場に仁王立ちする。
「最高の誕生日にできるよう、小さな悩みも大きな悩みも、気合込めて応援していこうな! それじゃ、行くぜ!」
「尾花沢団長のため、気合入れてやらせて頂きます! せーのぉ!!」
 ――ドンッ!
 空を揺るがすように、力強い太鼓の音が響く。
「押忍っ! まず、ここに集った銀誓館学園の諸君に、エーーールを送るっ!」
「「「押忍っ!」」」
 応援団長の号令を合図に、激励会がスタートした。

 寄せられた悩みは、好きな人に告白する勇気がない、成績が落ちて……等々、学生らしいものが多くを占めた。
 だが、汗を迸らせ声を張り上げる団員達の心からの応援に、小さな悩みなどはすぐに吹き飛ばされてしまう。
 三三七拍子やリズムのとれた太鼓の音、屋上の端から端まで走ってのウェイブに、軽やかなチアリーディング隊の演技。全ての応援が終わった頃、その場にいる誰もが晴れやかな顔をしていた。
 どの生徒も勇気づけられたように団員達に感謝を述べる中、蘭童が水夏に駆け寄った。
「水夏ちん誕生日おめでっとー! 団長マジで渋かったよ!」
「ありがとう! 蘭童達のチアリーディングも、最高に決まってたわよ!」
 輝く笑顔で祝いの言葉を送ると、蘭童は団員達の顔を見渡して、自分はまだ銀誓館学園に入ったばかりだけど、皆とは仲良くしたいと思っているのだと、微かに照れ臭そうに告げる。
「だから今日は、一緒に遊んでくれて嬉しかった、アリガトね! んで、これからも宜しくっ」
 もちろんだと、皆が一様に、笑顔で頷いた。

 さて解散の前に一言、と思い振り向いた水夏は
「最後に! ……水夏応援団長様の、これからの応援を応援致しますデスの♪」
「えっ?」
 突然のレディの発言に目を見開いた。
 事前に打ち合わせておいたのよ、と言う摩那の言葉通り、団員達は素早く隊列を組み水夏に向き直る。
「あ、あたしを?」
 突然のことに戸惑う彼女の肩を、日明がぽんっと叩く。
「折角の誕生日だ、応援するだけじゃなくてこれからの一年がいい一年になるように応援も受けておけ!」
 その言葉と笑顔に
「……押忍っ!」
 水夏は、感無量の表情で頷いた。
「尾花沢さん、お誕生日おめでとうございます! 押忍!!」
「水夏、誕生日おめでとうだ! これから一年いい年になるように、私たちが全力で応援してやるからな!」
「皆様、さんはいっデスわ♪」
 号令と共に、打ち響く太鼓の音。
 憧れたあの頃と同じように体が震えて、魂からエネルギーが湧いてくる。
「フレーフレー水夏、がんばれがんばれ水夏! 誕生日おめでとう!」
 生まれてきたこと。銀誓館学園に入学し、この素晴らしい仲間達に出逢えたこと。そして彼らのために運命予報の能力で支えになれること。
 そのどれもが嬉しくて、これほど幸せな誕生日も初めてで。
 喋ったら泣いてしまいそうになって、震える唇を開くのに、少し時間がかかった。
 その間も注がれる、力強いエールに暖かい祝福の言葉。
 ようやく、それでも少し涙声で「みんな、ありが……」と言いかけた、次の瞬間。
「頑張れ頑張れス・イ・カ! 頑張れ頑張れス・イ・カ!!」
 ぴしり。
 水夏の表情が凍りつく。
「いやぁ〜、皆さん、お疲れさんでした! がんばったご褒美……ってほどでもねぇが、スイカを用意させて頂きやした!」
 ぴしぴしぴしり。
 凍結が全身に広がる。
 「で、いいよね? スイカ団長!?」「姐さん、どうかしやしたかい?」などと無邪気(?)な笑顔で見上げてくる二人に、氷解した水夏の肩がわなわなと震え出し、心なしか髪もうねって――

「あ……アンタ達ねぇぇぇっ!!」

 青空に怒鳴り声がこだまして、おちゃめな団員達は笑いながら逃げ出す。
 追いかける水夏の瞳を潤ませた涙は、怒ったのと嬉しいのが混ざり合って、きらりと煌いていた。


マスター:にしうり 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:14人
作成日:2007/07/17
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
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