<リプレイ>
●肉は焼けた、乾杯はまだか 容赦なく照りつける陽射しが地面を焼く。時折思い出したかのように吹く潮風も、熱を孕んで肌を焦がす。そんな猛暑にも関わらず、片瀬江ノ島海岸には沢山の人が集まっていた。海水浴、サーフィン、水遊び。一人で、あるいは気の置けない仲間達と。暑い暑いとぼやきながらも、各者各様の夏を満喫していた。 神凪・刹菜(高校生フリッカースペード・bn0010)達もまた、同様。刹菜の誕生日を祝うついでに一つ騒ごうと、宴席を開いているのだ。彼女らが陣取っているのは、海水浴場からやや離れた海岸沿いのスペース。側にはグリルに、飲料や食材を満載したクーラーボックス。まごう事なき、バーベキューの席である。 「悪いわね。準備、手伝って貰っちゃって」 「いえ。ただ祝ってもらうだけじゃ、申し訳ないですし」 「これくらいは当然のことかと存じます。さ、刹菜様」 「肉の焼け具合も良い感じだし。そろそろ頃合いだろ?」 労う刹菜に、ルシア(b28515)とグレイ(b28574)、緋呂(b00733)がそう返し、促した。あたりに漂うのは、焼けた脂と潮風の混じった、食欲をそそる香り。飲み物ももう、皆へと行き渡っている。ならば、することは一つに決まっている。主催者として、しなければいけないことをするのみだ。 「はい、みんな注目。馬鹿みたいに暑い中、よく集まってくれたわね。ありがと、感謝してる。脱水症状起こす前に……」 「や、感謝で肉は焼けないしねー」 「つーか飲んでるし、もう。しかも、飲んでも良いって言ったのは……」 「美味しく頂いていいのかしらん? って聞いたら、ねえ?」 「そこ、うっさい。解ってる癖に茶々入れない。挨拶の途中で人弄らない。さっき聞かれたときには美味しくなんて付いてなかった、というかイントネーションが何か変よ!? まあ、と・も・か・く!」 各方面からのやじをいなし、テンポ良くツッコミを返す。そのリズムに任せてコップを掲れば、トレードマークのツインテールが揺れて。 「ありがとう、おめでとう、これからもよろしく、乾杯っ!」 「「「かんぱーいっ!」」」 何だかんだで唱和してくれる皆の声を聞けば、自然と刹菜の目は弓なりにしなったのであった。 かくして、宴席はここに始まる。
●笑い声はある、歌はまだか 乾杯が終わればもう、彼らを留めるものは何もない。堰を切ったように皆、食べて飲んで駄弁って囲んで散って笑ってボケて突っ込んで歌ってとしたい放題であった。 主に囲まれたり突っ込まれたりしていたのは、案の定刹菜であった。道連れとばかりにカッツェ(b06075)やルシア、それに星司(b05146)を巻き込み、祝っているのか道連れにしているのか解らない状態に陥っていた。 けれど、人の輪の中で、刹菜は確かに笑っていた。いつものノースリーブの軽装に、日差し避けのサンバイザー。その上にサングラスを乗せ、トレードマークのツインテールを揺らしながら、満足げに笑んでいた。 「蹴りと見せかけて手!? デコピンはマジ勘弁、脳揺れるマジで揺れるマジ勘弁だって……ってぇ!?」 時折、少々過激なコミュニケーション手段も飛ばすくらいに、である。せっつん言うな水亀、などという声に混じって亀吉(b19642)に一撃。食べかけの串を紙皿にわざわざ置いて、両手打ちのデコピン。この刹菜、容赦なし。 そんな様子をしらけたように眺めるのは、この場の熱が許さない。陽射しともグリルの熱気とも違う、人の生み出す熱。それに当てられてしまえば、関わるしかないのだ。騒がしくも奏であう、音の群れに。 「ねえやん。いくらしたんだ、コレ。マジ美味いんだけど」 「値段は聞くなっつーの。バーベキューなんだし、喰え。ただ喰え、喰いまくれ」 「ほい、良ければこいつらも使ってくれ。一応幾つか混ぜて、ソースも作ってあるけど」 吠示へとそう返すのは肉の提供者であるキリヱ(b07703)と、各種調味料を用意した界音(b00488)。塩と胡椒で下味は付いているものの、調味料一つで肉の味は格段に代わるものだ。良い肉ならば尚更。 征人(b05621)の用意したおしぼりも、飛ぶように売れていた。何せ猛暑日である。汗を拭えて涼感を得られるものは、需要があって当たり前なのだ。 「足りるかな、飲み物。真名さんが用意してくれたペットボトル、凄い勢いで空になってるけど」 「僕が行こう。近くに確か、コンビニあったし」 予想以上の売れ行きに驚く雪那(b01253)にそう、弘一(b02947)が申し出る。何人か男手を募れば十分行けるはずだし、と。 このまま『ただの楽しいバーベキュー』で、終わる。そう、思っていた。少なくとも刹菜とルシアは、そう考えていた。だが、水面下で準備は進んでいたのだ。 持ってきた楽器を準備する者。何度も練習した曲を必死に思い出す者。恋人の誕生日を二度祝う界音に、驚き照れて怒る彩音(b05423)。一樹(b12424)が刹菜と誕生日が一緒だと教える真名(b09202)。ゼイム(b05718)のギターに乗せて歌う刹菜。 それら全てを伏線として、事は進んでいく。
●準備万端、宴を始めよう 「……え、え? 何、どうしたの?」 始まりは唐突。目を丸くする刹菜(と、事態の進行を与り知らぬルシア)へと、改めて説明する姿があった。グレイと、桜(b05505)。先程まで食材や飲料の補充、それに片付けに奔走していたはずの二人が、今は説明役として二人の前に立っていた。花束を手に。 「ですから、宴で御座います。刹菜様、貴女の……」 「誕生日をね、お祝いするんだ」 そう、確か夜宵が誰かに請われて、キーボードを演奏し始めた頃だ。流れが変わったのは。 「年に一度のこの日だからこそ、日頃の恩に報いるべく」 龍麻(b04047)が、 「誕生日と、結社企画の出来を祝ってもらったお返しをせねばなるまい、と」 カッツェが、 「私達Allegrettoと」 レン(b22012)が、 「Red Motelに」 聖音(b15023)が、 「オレ達クライムに」 ジングル(b06651)と尚志(b07598)が、 「この場の全員からのプレゼントっ!」 「今は君の為に届けよう、心からのHappyBirthdayを」 闇(b20433)と京(b03294)、それにフォークギターをかき鳴らす緋呂が。 皆の声が連なる。音も連なる。始まりを告げるために、熱気が連なる。キーボードのメロディラインにベースのラインが重なり、アコースティックギターやエレキギター、果てはリコーダーやボディパーカッションやハミングまで混じって、即興の一曲が捧げられる。他ならぬ彼女に、それぞれの想いを込めて。 「「「Happy Birthday Dear 刹菜(さん、様、ちゃん、お姉ちゃん、せっつん)!」」」 皆の声が響くころにはもう、とある執事の用意したレジャーシートに、促されるまでもなく座り込んでいた。 「……バッカじゃないの。黙ってこんなことしてもらわなくても、十分……っ」 微かな呟きは、涙声にも似て。手渡された花束を抱きしめたまま。 連なっていた音達は、それぞれ個別のパートへと進んでいく。
●音と歌と花束と。全ては真夏生まれのキミのため 「Buona sera Signorina〜♪ Tanti auguri a te !Tanti auguri a te 〜♪」 「笑ってよクールビューティ、上がったらルールもスルーで良い!」 「笑えないわよこんな気持ちじゃ、上がれないけどスルーはしないっ。歌えないから聞かせなさいよ、あなた達からのプレゼントっ!」 オレンジの薔薇を投げ渡すゼイムとともに亀吉が即興のライムで刹菜を促せば、涙声混じりに刹菜が返し。 「皆を巻き込め、Surprise Party♪ 愉快に騒ごう、Let's Party♪」 夜宵がキーボードを弾き、身体を左右に揺らしながら続く。軽快なポップサウンドで周囲を巻き込み、 「Happy Birthday Setsuna♪」 最後に、刹菜との会話中、話題に出ていた黒い水着を手渡した。 「年に一回、たった一回、君を祝えるバースディ♪」 彼女に続くのは闇。アコースティックギターをかき鳴らし、ストリートライブによくある、弾き語りスタイルで奏でるのはテンポの良いポップソング。どこかバラードにも似た切なさが混じるのは、演奏スタイル故か。 「18の時を重ね〜♪ 育まれた君の笑顔〜♪ 太陽の様な〜♪ その微笑みに〜♪ 心を奪われる〜♪」 バラード調に龍麻が後を継ぎ、最後にウィンクを一つ。後続の雪那へと道を譲った。 「考え巡らす事はない。心のままにあればいい。想いは繋がるから……」 落ち着いたメロディに乗ってしっとりと歌い上げる雪那。単独での参加故に危うく自前の演奏となるところであったのを、有志の協力を得て救われると言う一幕は、刹菜には隠し通したまま。 「分かち合う喜びの中、祝福を貴女に。Lalala……ハッピーバースデー♪」 雪那の次は、聖音。ともに一人だし、良ければ、と、雪那の曲にバックメンバーとして加わった彼(彼女?)が、そのままソロでオーバーラップして歌い上げるのもまた、しっとりとしたバラードだった。今しかないときに感謝を込めて贈るなら、この曲にしかならない、と。 「改めて、クライムからセンパイへと曲を贈ります。……バースデイ。ハイジ君、どうぞ」 聖音の余韻が消える前に、ジングルが続く。この場に生まれたのは、流れを断たず、間を空けすぎずに続くバースデーソングラッシュ。それを殺す意味は無い。活かして、自分のものにしてしまえばいい。それこそが『最強』を自称する所以。 「Let me send a word at least please」 京と尚志がコードを刻み、メロディラインを一樹が受け持つ。彼と背中合わせでベースラインを刻むのは、ジングルその人。ボーカルの吠示が詞を紡げば、それにキリヱがハモルというダブルボーカル仕様。微妙なずれもご愛敬、何せ『等身大』の曲なので。 「『Thank you for being born』」 サビのラスト、吠示が強い笑みを浮かべて一樹を見やれば、 「てめぇら……。べっ、別に嬉しくなんかねぇんだぜッ。けど、まあ――アリガトよ」 一樹がどこかのツンデレ風味になる、などと言う一幕を混ぜながら、鎌倉最強のライブハウス(自称)が後続に道を譲り渡す。最後まで、悪ガキとして。 「年に一度の誕生日、素晴らしい日をすごしましょう」 クライムの流れを受けて更に続くのは、グレイ。歌と言うよりも詩に近いそれは、次の歌、最後の一曲へと流れを繋げるための布石であった。その影でこっそりと征人のリコーダーがお決まりのバースデーソングを奏でていたのに、果たして刹菜は気付いたかどうか。 「ありがとうの言葉を胸に抱いて、さぁ歌を歌いましょう」 グレイの一言を受けて、レンのソプラノと手拍子が音を紡ぎ出す。その調べは、真夏の陽射しにも似たゴスペル。ラストナンバーとしては十分な清涼感と軽快さを持つ一曲であった。 レンの歌声に彩音と界音が加われば、音域の幅が大きく広がっていく。 「Merry merry especialday to you」 レンはメインボーカルとして。 「We always forget it is how wonderful」 界音と彩音はコーラスとして。 「Oh dear we will be happy today at least」 微かに響く波の音だって、聞きようによっては立派な手拍子。活かさない手はどこにもない。 「……刹菜さんお誕生日おめでとうございます……」 リズムに乗って歌い上げ、刹菜へと花束を手渡すレン。征人も、刹菜のリボンと同じ色の腹巻き(手編み)をこっそりと手渡し。 「先輩、誕生日おめでとうございます。そして、先輩が居たからこそ、この日の縁が生まれました事に感謝させて下さいな」 真名からの祝いの言葉を最後に、怒濤のバースデーソングラッシュは終わりを告げた。 最後まで泣き出さず、目を涙で潤ませながらも笑んでいられたのが、祝われる側としての刹菜の意地。プレゼントを両手で抱えて『ありがとう』と最後に告げる姿は、いつもの強気でツンツン跳ねた彼女とは僅かに違う、年相応の少女としての姿であった。 「……バッカじゃないの本当に!? 感動して損した、何が、す、透けて……!?」 なお、バーベキュー終了後の片付けの最中に、何故このような叫び声がこだましたのかは、当事者のみぞ知る、ということで。
|
|
参加者:26人
作成日:2007/08/31
得票数:楽しい13
|
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
|
|
あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
|
|
|
シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|
|
 |
| |